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特許7161376空気二次電池用の空気極及び空気二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-18
(45)【発行日】2022-10-26
(54)【発明の名称】空気二次電池用の空気極及び空気二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/90 20060101AFI20221019BHJP
   B01J 23/656 20060101ALI20221019BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20221019BHJP
   H01M 8/083 20160101ALI20221019BHJP
   H01M 8/18 20060101ALI20221019BHJP
   H01M 12/08 20060101ALI20221019BHJP
【FI】
H01M4/90 B
B01J23/656 M
H01M4/38 A
H01M4/90 M
H01M4/90 X
H01M8/083
H01M8/18
H01M12/08 K
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018208245
(22)【出願日】2018-11-05
(65)【公開番号】P2020077469
(43)【公開日】2020-05-21
【審査請求日】2021-08-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000237721
【氏名又は名称】FDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090022
【弁理士】
【氏名又は名称】長門 侃二
(72)【発明者】
【氏名】梶原 剛史
(72)【発明者】
【氏名】夘野木 昇平
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 賢大
【審査官】高木 康晴
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-529945(JP,A)
【文献】特開2017-063020(JP,A)
【文献】国際公開第2013/145468(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86-4/98
H01M 12/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パイロクロア型複合酸化物と、マンガン酸化物と、を含む空気極合剤を含んでおり、
前記パイロクロア型複合酸化物は、一般式:A2-x2-y7-z(ただし、x、y、zは、それぞれ0以上1以下の数値を表し、Aは、Bi、Pb、Tb、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Mn、Y、Zn及びAlから選ばれる少なくとも1種の元素を表し、Bは、Ru、Ir、Si、Ge、Ta、Sn、Hf、Zr、Ti、Nb、V、Sb、Rh、Cr、Re、Sc、Co、Cu、In、Ga、Cd、Fe、Ni、W及びMoから選ばれる少なくとも1種の元素を表している。)で表される組成を有しており、
前記マンガン酸化物の質量比率をQとし、前記パイロクロア型複合酸化物の質量比率をRとした場合に、Q+R=100%、5%≦Q≦50%、50%≦R≦95%の関係を満たしている、空気二次電池用の空気極。
【請求項2】
前記Q及び前記Rは、Q+R=100%、10%≦Q≦20%、80%≦R≦90%の関係を満たしている、請求項に記載の空気二次電池用の空気極。
【請求項3】
前記空気極合剤は、60質量%以上のニッケル粉末を含んでいる、請求項1又は2に記載の空気二次電池用の空気極。
【請求項4】
前記マンガン酸化物は、MnO、Mn及びMnのうちの少なくとも1種である、請求項1~の何れかに記載の空気二次電池用の空気極。
【請求項5】
前記MnOは、α-MnO、β-MnO、γ-MnO、λ-MnO及びδ-MnOのうちの少なくとも1種を含み、前記Mnは、α-Mn及びγ-Mnのうちの少なくとも1種を含む、請求項に記載の空気二次電池用の空気極。
【請求項6】
セパレータを介して重ね合わされた空気極及び負極を含む電極群と、
前記電極群をアルカリ電解液とともに収容している容器と、を備え、
前記空気極は、請求項1~の何れかに記載の空気二次電池用の空気極を含んでいる、空気二次電池。
【請求項7】
前記負極は、水素吸蔵合金を含んでいる、請求項に記載の空気二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気二次電池用の空気極及び空気二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大気中の酸素を正極活物質とする空気電池は、エネルギー密度が高く、小型、軽量化が容易であることから注目を集めている。
【0003】
このような空気電池においては、亜鉛空気一次電池が補聴器用の電源として実用化されている。
【0004】
更に、充電が可能な空気電池として、負極用金属に、Li、Zn、Al、Mgなどを用いる空気二次電池の研究がなされており、このような空気二次電池は、リチウムイオン二次電池のエネルギー密度を超える新しい二次電池として開発が期待されている。
【0005】
しかしながら、上記したような負極用金属を用いる空気二次電池は、電池における充放電の際の化学反応(以下、電池反応という)にともない当該負極用金属の溶解析出反応が繰り返され、負極用金属が樹枝状に析出するいわゆるデンドライト成長をするため、内部短絡を引き起こすという問題があり、未だ実用化には至っていない。
【0006】
ところで、空気二次電池の一種として、電解液としてアルカリ性水溶液(アルカリ電解液)を用い、負極活物質に水素を用いる空気水素二次電池の研究がなされている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に代表されるような空気水素二次電池は、負極用金属として水素吸蔵合金を用いているものの、負極活物質はこの水素吸蔵合金に吸蔵放出される水素であるので、電池反応にともない水素吸蔵合金自体の溶解析出反応は起こらず、上記したようなデンドライト成長による内部短絡の問題は起こらない。
【0007】
上記の空気水素二次電池のようにアルカリ電解液を用いる空気二次電池では、正極(以下、空気極という)において以下に示すような充放電反応が起こる。
【0008】
充電(酸素発生反応):4OH→O+2HO+4e・・・(I)
放電(酸素還元反応):O+2HO+4e→4OH・・・(II)
空気二次電池の空気極は、充電時には反応式(I)で表されるように酸素と水を生成し、放電時には反応式(II)で表されるように酸素を還元して水酸化物イオンを生成する。空気極で発生した酸素は、空気極における大気に開放されている部分から大気中に放出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許第4568124号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、上記した空気二次電池においては、エネルギー効率は未だ十分な値とはなっておらず、また、高出力化も未だ十分には図られていない。このため、空気二次電池の実用化を図るためには、更なるエネルギー効率の向上や高出力化が求められている。
【0011】
上記したようなエネルギー効率の向上や高出力化を妨げている要因の一つとしては、空気極における放電反応すなわち酸素還元反応の過電圧が大きいことが挙げられる。
【0012】
本発明は、上記の事情に基づいてなされたものであり、その目的とするところは、放電反応における過電圧を低減することができる空気二次電池用の空気極、及び、この空気極を備え、エネルギー効率の向上と高出力化が図れる空気二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明によれば、パイロクロア型複合酸化物と、マンガン酸化物と、を含む空気極合剤を含んでおり、前記パイロクロア型複合酸化物は、一般式:A2-x2-y7-z(ただし、x、y、zは、それぞれ0以上1以下の数値を表し、Aは、Bi、Pb、Tb、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Mn、Y、Zn及びAlから選ばれる少なくとも1種の元素を表し、Bは、Ru、Ir、Si、Ge、Ta、Sn、Hf、Zr、Ti、Nb、V、Sb、Rh、Cr、Re、Sc、Co、Cu、In、Ga、Cd、Fe、Ni、W及びMoから選ばれる少なくとも1種の元素を表している。)で表される組成を有している、空気二次電池用の空気極が提供される。
【0014】
前記マンガン酸化物の質量比率をQとし、前記パイロクロア型複合酸化物の質量比率をRとした場合に、Q+R=100%、5%≦Q≦50%、50%≦R≦95%の関係を満たしている構成とすることが好ましい。
【0015】
前記Q及び前記Rは、Q+R=100%、10%≦Q≦20%、80%≦R≦90%の関係を満たしている構成とすることがより好ましい。
【0016】
前記空気極合剤は、60質量%以上のニッケル粉末を含んでいる構成とすることが好ましい。
【0017】
前記マンガン酸化物は、MnO、Mn及びMnのうちの少なくとも1種である構成とすることが好ましい。
【0018】
前記MnOは、α-MnO、β-MnO、γ-MnO、λ-MnO及びδ-MnOのうちの少なくとも1種を含み、前記Mnは、α-Mn及びγ-Mnのうちの少なくとも1種を含む構成とすることが好ましい。
【0019】
また、本発明によれば、セパレータを介して重ね合わされた空気極及び負極を含む電極群と、前記電極群をアルカリ電解液とともに収容している容器と、を備え、前記空気極は、上記した何れかの空気二次電池用の空気極を含んでいる、空気二次電池が提供される。
【0020】
前記負極は、水素吸蔵合金を含んでいる構成とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る空気二次電池用の空気極は、パイロクロア型複合酸化物と、マンガン酸化物と、を含む空気極合剤を含んでおり、前記パイロクロア型複合酸化物は、一般式:A2-x2-y7-z(ただし、x、y、zは、それぞれ0以上1以下の数値を表し、Aは、Bi、Pb、Tb、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Mn、Y、Zn及びAlから選ばれる少なくとも1種の元素を表し、Bは、Ru、Ir、Si、Ge、Ta、Sn、Hf、Zr、Ti、Nb、V、Sb、Rh、Cr、Re、Sc、Co、Cu、In、Ga、Cd、Fe、Ni、W及びMoから選ばれる少なくとも1種の元素を表している。)で表される組成を有していることから、放電反応における過電圧を低減することができる。よって、斯かる空気極を含む空気二次電池は、エネルギー効率が向上し、出力も高くなる。このため、本発明によれば、放電反応における過電圧を低減することができる空気二次電池用の空気極、及び、この空気極を備え、エネルギー効率の向上と高出力化が図れる空気二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の実施形態に係る空気水素二次電池を概略的に示した平面図である。
図2図1中のII‐II線に沿う断面を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係る空気二次電池用の空気極を組み込んだ空気水素二次電池1(以下、電池1という)について図面を参照して説明する。
【0024】
電池1は、図1に示すように、容器としての電池ケース10を備えている。この電池ケース10は、図2に示すように、空気極側ケース半体12と負極側ケース半体14とを含んでおり、これら空気極側ケース半体12と負極側ケース半体14とが組み合わされて、全体として箱形状の電池ケース10が形成されている。この電池ケース10は、例えば、アクリル樹脂により形成されている。
【0025】
空気極側ケース半体12は、空気極23に対向する空気極対向壁16と、この空気極対向壁16の周縁部に設けられ、空気極23を囲む空気極側外周壁18とを含んでいる。
【0026】
負極側ケース半体14は、負極21と接する負極側対向壁26と、この負極側対向壁26の周縁部に設けられ、負極21を囲む負極側外周壁28とを含んでいる。
【0027】
電池ケース10の内部には、アルカリ電解液32とともに電極群20が収容されている。
電極群20は、空気極(正極)23と、負極21とがセパレータ22を介して重ね合わされて形成されている。
【0028】
負極21は、多孔質構造をなし多数の空孔を有する導電性の負極基材と、前記した空孔内及び負極基材の表面に担持された負極合剤とを含んでいる。上記したような負極基材としては、例えば発泡ニッケルを用いることができる。
【0029】
負極合剤は、負極活物質としての水素を吸蔵及び放出可能な水素吸蔵合金粒子の集合体である水素吸蔵合金粉末、導電材及び結着剤を含む。ここで、導電材としては、黒鉛、カーボンブラック等を用いることができる。
【0030】
水素吸蔵合金粒子を構成する水素吸蔵合金としては、特に限定されるものではないが、希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金が用いられる。この希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金の組成は自由に選択できるが、例えば、一般式:
Ln1-aMgNib-c-dAl・・・(III)
で表されるものを用いるのが好ましい。
【0031】
ただし、一般式(III)中、Lnは、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Sc、Y、Zr及びTiよりなる群から選ばれた少なくとも1種の元素を表し、Mは、V、Nb、Ta、Cr、Mo、Mn、Fe、Co、Ga、Zn、Sn、In、Cu、Si、P及びBよりなる群から選ばれた少なくとも1種の元素を表し、添字a、b、c、dは、それぞれ0.01≦a≦0.30、2.8≦b≦3.9、0.05≦c≦0.30、0≦d≦0.50、を満たす数を表す。
【0032】
ここで、水素吸蔵合金粒子は、例えば以下のようにして得られる。
まず、所定の組成となるように金属原材料を計量して混合し、この混合物を不活性ガス雰囲気下にて、例えば、高周波誘導溶解炉で溶解してインゴットにする。得られたインゴットは、不活性ガス雰囲気下にて900~1200℃に加熱され、その温度で5~24時間保持する熱処理が施され均質化される。この後、インゴットを粉砕し、篩分けを行うことにより所望粒径の水素吸蔵合金粒子の集合体である水素吸蔵合金粉末を得る。
【0033】
結着剤としては、例えば、ポリアクリル酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース、スチレンブタジエンゴム等が用いられる。
【0034】
ここで、負極21は、例えば以下のようにして作製することができる。
まず、水素吸蔵合金粒子の集合体である水素吸蔵合金粉末、導電材、結着剤及び水を混練して負極合剤ペーストを調製する。得られた負極合剤ペーストは負極基材に充填され、乾燥させられる。乾燥後、水素吸蔵合金粒子等が付着した負極基材はロール圧延されて、体積当たりの合金量を高められ、その後、裁断がなされ、これにより負極21が作製される。この負極21は、全体として板状をなしている。
【0035】
次に、空気極23は、多孔質構造をなし多数の空孔を有する導電性の空気極基材と、前記した空孔内及び空気極基材の表面に担持された空気極合剤(正極合剤)とを含んでいる。上記したような空気極基材としては、例えば、発泡ニッケルやニッケルメッシュを用いることができる。
【0036】
空気極合剤は、空気二次電池用触媒、マンガン酸化物、導電材及び結着剤を含む。
空気二次電池用触媒としては、パイロクロア型複合酸化物が用いられる。ここで、パイロクロア型複合酸化物としては、一般式:A2-x2-y7-z(ただし、x、y、zは、それぞれ0以上1以下の数値を表し、Aは、Bi、Pb、Tb、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Mn、Y、Zn及びAlから選ばれる少なくとも1種の元素を表し、Bは、Ru、Ir、Si、Ge、Ta、Sn、Hf、Zr、Ti、Nb、V、Sb、Rh、Cr、Re、Sc、Co、Cu、In、Ga、Cd、Fe、Ni、W及びMoから選ばれる少なくとも1種の元素を表している。)で表される組成を有しているパイロクロア型複合酸化物を用いることが好ましい。より好ましくはビスマスルテニウム酸化物が用いられる。このビスマスルテニウム酸化物は、パイロクロア型複合酸化物の一つであり、酸素発生と酸素還元の二元機能を有する触媒である。このような二元機能を有する触媒は、充電過程でも、放電過程でも電池の過電圧を低減させることに寄与する。
【0037】
空気二次電池用触媒の製造方法に関し、パイロクロア型のビスマスルテニウム酸化物を例に挙げて具体的に以下に説明する。
【0038】
Bi(NO・5HO及びRuCl・3HOを同じ濃度となるように蒸留水の中に投入し、撹拌してBi(NO・5HO及びRuCl・3HOの混合水溶液を調製する。このとき蒸留水の温度は、60℃以上、90℃以下とする。そして、この混合水溶液に、1mol/L以上、3mol/L以下のNaOH水溶液を加える。この際の浴温度は60℃以上、90℃以下に保持し、酸素バブリングを行いながら撹拌する。この操作によって生じた沈殿物を含む溶液を80℃以上、100℃以下に保持して水分の一部を蒸発させてペーストを形成する。このペーストを蒸発皿に移し、100℃以上、150℃以下に加熱し、その状態で10時間以上、20時間以下保持して乾燥させ、ペーストの乾燥物を得る。そして、この乾燥物を乳鉢で粉砕した後、空気雰囲気下で500℃以上、700℃以下の温度に加熱し、0.5時間以上、24時間以下保持することにより焼成し、焼成物を得る。得られた焼成物を60℃以上、90℃以下の蒸留水を用いて水洗した後乾燥させる。これにより、パイロクロア型のビスマスルテニウム酸化物が得られる。
【0039】
次に、調製されたビスマスルテニウム酸化物に酸処理として硝酸水溶液に浸漬させる酸処理を施す。具体的には、以下の通りである。
【0040】
まず、硝酸水溶液を準備する。ここで、硝酸水溶液の濃度は、1mol/L以上、3mol/L以下とすることが好ましく、硝酸水溶液の量は、ビスマスルテニウム酸化物1gに対して20mLの割合となる量を準備することが好ましく、硝酸水溶液の温度は、20℃以上、25℃以下に設定することが好ましい。
【0041】
そして、準備された硝酸水溶液の中に、ビスマスルテニウム酸化物を浸漬し、0.5時間以上、2時間以下撹拌する。所定時間経過後、硝酸水溶液中からビスマスルテニウム酸化物を吸引濾過する。濾別されたビスマスルテニウム酸化物は、60℃以上、80℃以下に設定されたイオン交換水に投入され洗浄される。
【0042】
洗浄されたビスマスルテニウム酸化物は、100℃以上、120℃以下の環境下で1時間以上、2時間以下保持され、乾燥させられる。
【0043】
以上のようにして、酸処理が施されたビスマスルテニウム酸化物を得る。このように酸処理を施すことにより、ビスマスルテニウム酸化物(パイロクロア型複合酸化物)の製造過程で生じる副生成物を除去することができる。なお、酸処理に用いられる酸性水溶液は、硝酸水溶液に限定されるものではなく、硝酸水溶液の他に塩酸水溶液、硫酸水溶液を用いることができる。これら、塩酸水溶液及び硫酸水溶液においても、硝酸水溶液と同様に副生成物を除去できるという効果が得られる。
【0044】
次に、マンガン酸化物に関して説明する。本発明者は、空気極合剤にパイロクロア型複合酸化物とマンガン酸化物との両方を含ませることにより、得られる空気二次電池に関しては、放電過電圧が低下し、特に、高出力化が図れるとの知見を得た。この知見を基に空気極合剤にマンガン酸化物を含有させることとした。
【0045】
ここで、アルカリ電解液中での酸素の電気化学的還元機構は、上記した(II)式で示されるような直接4電子還元経路の他に、以下の(IV)式で示されるような、2電子還元経路が存在する。この2電子還元経路は、主にカーボンの表面で進行し、中間体として過酸化水素イオン(HO )を生じることが知られている。
+HO+2e→HO +OH・・・(IV)
【0046】
HO は、空気極中にカーボンが存在する場合、当該カーボンを腐食し、また、電極表面に吸着して反応を阻害し、電池反応に悪影響を及ぼし、電池の過電圧の上昇の原因となる。
【0047】
本発明者は、導電材にカーボンを使用せず、HO が発生しない態様をとることにより、放電過電圧の低減を試みた。しかし、十分な放電過電圧の低減効果は得られなかった。これは、パイロクロア型複合酸化物触媒においては、特に高率放電時に触媒層中の反応点で酸素や水が十分に供給されない拡散律速状態にあることと関係し、カーボンが存在しない状態でもHO が発生している可能性があると考えられた。そこで、HO を分解できるマンガン酸化物を空気極合剤に添加したところ、放電過電圧が低下し、高出力化も図れた。
【0048】
つまり、マンガン酸化物は、HO を分解する触媒として機能していると考えられ、以下の(V)式の反応を進行させていると考えられる。
2HO →2OH+O・・・(V)
上記した(IV)式及び(V)式から全反応は、(II)式と同様となる。
【0049】
本発明では、パイロクロア型複合酸化物は、酸素発生と酸素還元の二元機能を有する触媒として機能し、マンガン酸化物は、放電時の中間生成物であるHO の分解にのみ寄与する触媒として機能する。これらの機能を効率よく発揮するために、空気極合剤中における、マンガン酸化物とパイロクロア型複合酸化物との質量比率を以下の関係とすることが好ましい。
【0050】
すなわち、マンガン酸化物の質量比率をQとし、パイロクロア型複合酸化物の質量比率をRとした場合に、Q+R=100%、5%≦Q≦50%、50%≦R≦95%の関係を満たすようにすることが好ましい。より好ましくは、前記Q及び前記Rは、Q+R=100%、10%≦Q≦20%、80%≦R≦90%の関係を満たすようにする。
【0051】
上記したマンガン酸化物については、結晶構造や価数などに関し特に限定されるものではなく、例えば、MnO、Mn及びMnが挙げられる。ここで、上記したMnOとしては、α型、β型、γ型、λ型、δ型などの結晶形態を有するα-MnO、β-MnO、γ-MnO、λ-MnO及びδ-MnOのうちの少なくとも1種を好ましいものとして挙げられる。また、上記したMnとしては、α型、γ型などの結晶形態を有するα-Mn及びγ-Mnのうちの少なくとも1種を好ましいものとして挙げられる。
【0052】
上記したマンガン酸化物の合成方法は、電解法と化学法の2種類が用いられるが、どちらかに特に限定されるものではない。ただし、マンガン酸化物は、空気極合剤中に均一に分散し、反応表面積を広くすることが望ましい。そのため、高比表面積の微細な粒子を合成できる電解法により得られたγ-MnO、及び、このγ-MnOを焼成することにより得られるβ-MnO、α-Mn、Mnなどが好適なものとして用いられる。
【0053】
なお、空気極合剤中に添加するマンガン酸化物は、上記したマンガン酸化物のうちの少なくとも1種を添加することが好ましい。
【0054】
次に、導電材について説明する。この導電材は、空気二次電池の高出力化を図るべく内部抵抗を低下させるため、及び、上記した触媒の担体として用いられる。なお、本発明では、放電反応における中間生成物であるHO によるカーボンの腐食や充電時の電解酸化によるカーボンの腐食を懸念し、空気極の導電材としてカーボンを使用することは避けている。このため、本発明では、導電材として、例えば、ニッケル粒子の集合体であるニッケル粉末を用いることが好ましい。当該ニッケル粉末としては、フィラメント状のニッケル粒子により形成されたニッケル粉末を用いることが好ましい。ここで、フィラメント状とは、細かい糸状の構造を指す。上記したニッケル粒子としては、例えば、平均粒径が0.1μm~10μmの粒子を用いることが好ましい。ここで、本発明においては、平均粒径といった場合、対象となる粒子の集合体である粉末について、レーザー回折・散乱式粒径分布測定装置を用いて体積基準で粒径分布を測定して得られた体積平均粒径を指すものとする。
【0055】
上記したニッケル粉末は、空気極合剤中において、60質量%以上含有させることが好ましい。このニッケル粉末の含有量の上限は、空気極合剤における他の構成材料との関係から80質量%以下とすることが好ましい。
【0056】
また、導電材としては、上記したニッケル粉末に限定されるものではなく、コア材料に金属材料を被覆した金属被覆導電フィラーを用いることもできる。この金属被覆導電フィラーは、全体が金属で形成されている金属粒子よりも軽く、空気極全体としての軽量化に貢献する。上記したコア材料としては、特に限定されるものではなく、例えば、シリカの粒子が挙げられる。そして、金属被覆層としては、ニッケルを採用することが好ましい。このような金属被覆導電フィラーの集合体である金属被覆導電フィラー粉末は、空気極合剤に対し、30質量%以上含有させることが好ましい。
【0057】
結着剤は、空気極合剤の構成材料を結着させるとともに空気極23に適切な撥水性を付与する働きをする。ここで、結着剤としては、特に限定されるものではなく、例えば、フッ素樹脂が用いられる。なお、好ましいフッ素樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が用いられる。
【0058】
空気極23は、例えば、以下のようにして作製することができる。
まず、ビスマスルテニウム酸化物、マンガン酸化物、導電材、結着剤及び水を含む空気極合剤ペーストを調製する。
【0059】
得られた空気極合剤ペーストは、シート状に成形され、その後、ニッケルメッシュ(空気極基材)にプレス圧着される。これにより、空気極の中間製品が得られる。
【0060】
次いで、得られた中間製品は、焼成炉に投入され焼成処理が行われる。この焼成処理は、不活性ガス雰囲気中で行われる。この不活性ガスとしては、例えば、窒素ガスやアルゴンガスが用いられる。焼成処理の条件としては、300℃以上、400℃以下の温度に加熱し、この状態で、10分以上、20分以下の間保持する。その後、中間製品を焼成炉内で自然冷却し、中間製品の温度が150℃以下になったところで大気中に取り出す。これにより、焼成処理が施された中間製品が得られる。この焼成処理後の中間製品を所定形状に裁断することにより、空気極23を得る。
【0061】
以上のようにして得られた空気極23及び負極21は、セパレータ22を介して積層され、これにより電極群20が形成される。このセパレータ22は、空気極23及び負極21の間の短絡を避けるために配設され、電気絶縁性の材料が採用される。このセパレータ22に採用される材料としては、例えば、ポリアミド繊維製不織布に親水性官能基を付与したもの、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン繊維製不織布に親水性官能基を付与したもの等を用いることができる。ここで、セパレータ22は、全体として矩形状をなしている。そして、セパレータ22の平面視形状は、上記した空気極23の平面視形状及び負極21の平面視形状よりも大きくすることが好ましい。
【0062】
電極群20を形成する際、セパレータ22の四方の端部は、空気極23及び負極21の四方の端部よりも突出するようにして電極群20を組み立てる。
【0063】
得られた電極群20には、更に、空気極23の上に撥水通気部材50を載置することが好ましい。この撥水通気部材50は、空気は透過し、アルカリ電解液の透過は防止する機能を有しているものであれば特に限定されるものではない。このような撥水通気部材50としては、例えば、フッ素樹脂多孔膜を用いることが好ましい。より好ましくは、PTFE多孔膜を用いる。更に、撥水通気部材50として、フッ素樹脂多孔膜に不織布拡散紙を重ね合わせた複合体を用いることが好ましい。
【0064】
撥水通気部材50が載置された電極群20は、電池ケース10内に配設される。詳しくは、図2に示すように、撥水通気部材50が載置された電極群20は、空気極側ケース半体12の空気極対向壁16と、負極側ケース半体14の負極側対向壁26との間に挟み込まれるとともに、セパレータ22の四方の端部が、空気極側ケース半体12の空気極側外周壁18の先端部19と、負極側ケース半体14の負極側外周壁28の先端部29とによって挟み込まれて固定される。これによって、電池1が形成される。
【0065】
ここで、空気極側ケース半体12の空気極側外周壁18の先端部19と、負極側ケース半体14の負極側外周壁28の先端部29との間は、セパレータ22の端部から外部にアルカリ電解液32が漏出しないようパッキン34で封止されている。
【0066】
負極側ケース半体14は、図1及び図2に示すように、負極側外周壁28の一部に連結部40を介して取り付けられた電解液貯蔵部30を含んでいる。電解液貯蔵部30は、アルカリ電解液32を収容する容器である。連結部40は、電池ケース10の内部と電解液貯蔵部30との間を連通するアルカリ電解液32の流路である。このように、電池ケース10の内部と電解液貯蔵部30とは連通しているため、アルカリ電解液32は、電池ケース10の内部と電解液貯蔵部30との間を移動することができる。このため、充電時に空気極23が水を生成することによりアルカリ電解液32の量が増加した場合には、電池ケース10の内部の過剰なアルカリ電解液32は、電解液貯蔵部30へ移動して貯蔵される。また、放電時に空気極23が水を分解することによりアルカリ電解液32が減少した場合には、電解液貯蔵部30に貯蔵されたアルカリ電解液32が電池ケース10の内部へ移動して空気極23におけるアルカリ電解液32の不足を補うことができる。このように、電解液貯蔵部30を有することで、アルカリ電解液32の漏出及び枯渇を抑制することができる。
【0067】
なお、上記したアルカリ電解液32としては、アルカリ二次電池に用いられる一般的なアルカリ電解液が好適に用いられ、具体的には、NaOH、KOH及びLiOHのうち、少なくとも1種を溶質として含む水溶液が用いられる。
【0068】
また、空気極側ケース半体12は、通気路60を有している。通気路60は、放電時に空気極23へ空気中の酸素を供給するとともに、充電時に空気極23から生じた酸素を外部へ排出する。通気路60の形状としては、特に限定されるものではない。好ましい通気路60の形状としては、例えば、図1及び図2に示したような形状が挙げられる。すなわち、通気路60は、空気極対向壁16における空気極側の内壁面17に設けられた空気極開口部としての凹溝63と、凹溝63の一方端に設けられた第1通気口61と、凹溝63の他方端に設けられた第2通気口62とを含んでいる。
【0069】
凹溝63は、図1から明らかなように、平面視形状が全体として1本のサーペンタイン形状をなしており、図2から明らかなように、断面形状が、矩形状をなし、空気極23の側(撥水通気部材50の側)に向かって開口している。なお、サーペンタイン形状の折り返す数は特に限定されるものではない。
【0070】
第1通気口61は、凹溝63の一方端の部分にて、空気極対向壁16の内部から外部へ貫かれた貫通孔である。そして、第1通気口61の内周面の一部は、凹溝63と連通している。
【0071】
第2通気口62は、凹溝63の他方端の部分にて、空気極対向壁16の内部から外部へ貫かれた貫通孔である。そして、第2通気口62の内周面の一部は、凹溝63と連通している。
【0072】
上記した撥水通気部材50は、空気極対向壁16と空気極23との間に介在し、空気極対向壁16及び空気極23の両方に密着している。この撥水通気部材50は、凹溝63、第1通気口61及び第2通気口62の全体をカバーする大きさを有している。
【0073】
以上のような態様の電池1においては、通気路60を通じて空気が流れる。通気路60を流れる空気は、通気路60の凹溝63に面する撥水通気部材50の内部に拡散する。そして、撥水通気部材50は、内部に拡散した空気を直下にて接する空気極23に透過させる。つまり、撥水通気部材50はガス拡散層として機能する。また、撥水通気部材50は、空気極23から発生する酸素を凹溝63へ透過させる。凹溝63へ到達した酸素は、通気口を通じて電池ケース10の外部の大気中に放出される。
【0074】
また、電池ケース10の内部のアルカリ電解液32は、撥水通気部材50によって通気路60への透過が妨げられる。このため、電池ケース10の内部のアルカリ電解液32の圧力が上昇した場合に、通気口を介してアルカリ電解液32が外部へ漏出することを抑制することができる。
【0075】
ここで、本発明に係る電池1においては、第1通気口61に、配管部材72を介して圧送装置としての圧送ポンプ74が取り付けられている。この圧送ポンプ74を駆動させることにより、第1通気口61から凹溝63に空気を送り込むことができる。
【0076】
なお、本実施形態においては、図示することは省略したが、空気極23には空気極リードが、負極21には負極リードが、それぞれ電気的に接続されており、これら空気極リード及び負極リードは、電池ケース10の気密性及び水密性を保持した状態で電池ケース10の内側から外側へ適切に延びている。また、空気極リードの先端には空気極端子が取り付けられており、負極リードの先端には負極端子が取り付けられている。したがって、電池1においては、これら空気極端子及び負極端子を利用して充放電の際の電流の入力及び出力が行われる。
また、図1においては、圧送ポンプ74の図示を省略している。
【0077】
ここで、電池1においては、空気極側ケース半体12の凹溝63は撥水通気部材50に相対している。撥水通気部材50は、気体は通すが水分は遮断するので、空気極23は撥水通気部材50、凹溝63、第1通気口61及び第2通気口62を介して大気に開放されることになる。つまり、空気極23は、撥水通気部材50を通じて大気と接することになる。
【0078】
以上のような空気二次電池用の空気極触媒は、放電反応における過電圧を低減することに貢献することができるので、斯かる空気極触媒を含む空気二次電池は、放電反応における過電圧を低減することができ、それによりエネルギー効率の向上と高出力化を図ることができる。
【0079】
[実施例]
1.電池の製造
(実施例1)
(1)触媒合成
第1ステップとして、Bi(NO・5HO及びRuCl・3HOを所定量準備し、これらBi(NO・5HO及びRuCl・3HOが同じ濃度となるように75℃の蒸留水中に投入し、撹拌してBi(NO・5HO及びRuCl・3HOの混合水溶液を調製した。そして、この混合水溶液に、2mol/LのNaOH水溶液を加えた。この際の浴温度は75℃とし、酸素バブリングを行いながら撹拌した。この操作によって生じた沈殿物を含む溶液を85℃に保持して水分の一部を蒸発させてペーストを形成した。このペーストを蒸発皿に移し、120℃に加熱し、その状態で12時間保持して乾燥させ、ペーストの乾燥物(前駆体)を得た。そして、第2ステップとして、この乾燥物を乳鉢で粉砕した後、空気雰囲気下で600℃に加熱し、1時間保持することにより焼成し、焼成物を得た。得られた焼成物を70℃の蒸留水を用いて水洗した後、吸引濾過し、120℃で乾燥させた。これにより、パイロクロア型のビスマスルテニウム酸化物(BiRu)を得た。
【0080】
得られたビスマスルテニウム酸化物を、乳鉢を用いて粉砕することにより所定粒子径の粒子の集合体であるビスマスルテニウム酸化物の粉末を得た。このビスマスルテニウム酸化物の粉末に関し、走査型電子顕微鏡による二次電子像を観察した結果、ビスマスルテニウム酸化物の粒子径は0.1μm以下であった。
【0081】
次いで、第3ステップとして、ビスマスルテニウム酸化物の粉末2gを40mLの硝酸水溶液とともにスターラーの撹拌槽に入れ、当該硝酸水溶液の温度を25℃に保持したまま6時間撹拌した。ここで、硝酸水溶液の濃度は2mol/Lとした。
【0082】
撹拌が終了した後、硝酸水溶液中からビスマスルテニウム酸化物の粉末を吸引濾過することにより取り出した。取り出されたビスマスルテニウム酸化物の粉末は、70℃に加熱したイオン交換水1リットルで洗浄した。洗浄後、ビスマスルテニウム酸化物の粉末を、25℃の室温下で減圧容器に入れ、減圧環境下で12時間保持することにより乾燥を行った。
【0083】
以上のようにして、硝酸処理されたビスマスルテニウム酸化物の粉末、すなわち、空気二次電池用触媒を得た。
【0084】
(2)空気極の製造
電解法で製造した二酸化マンガン(γ-MnO)の粉末を準備した。このγ-MnOの平均粒径は、40μmであった。
【0085】
また、ニッケルの粒子の集合体であるニッケル粉末を準備した。このニッケルの粒子は、フィラメント状をなしており、その平均粒径は、2~3μmであった。
【0086】
更に、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)ディスパージョン及びイオン交換水を準備した。
【0087】
上記のようにして得られたビスマスルテニウム酸化物の粉末に、準備されたγ-MnOの粉末、ニッケル粉末、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)ディスパージョン及びイオン交換水を混合した。このとき、ビスマスルテニウム酸化物の粉末は19質量部、γ-MnOの粉末は1質量部、ニッケル粉末は70質量部、PTFEディスパージョンは10質量部、イオン交換水は30質量部の割合で均一に混合して空気極合剤のペーストを作製した。
【0088】
得られた空気極合剤のペーストをシート状に成形し、このシート状の空気極合剤のペーストをメッシュ数60、線径0.08mm、開口率60%のニッケルメッシュにプレス圧着させた。
【0089】
ニッケルメッシュに圧着された空気極合剤のペーストを窒素ガス雰囲気下で340℃に加熱し、この温度で13分間保持し、焼成した。焼成された空気極合剤のシートは、縦40mm、横40mmに裁断され、これにより、空気極23を得た。この空気極23の厚さは0.30mmであった。なお、得られた空気極23において、ビスマスルテニウム酸化物の粉末(パイロクロア型複合酸化物触媒)の量は0.34gであった。
【0090】
(3)負極の製造
Nd、Mg、Ni、Alの各金属材料を所定のモル比となるように混合した後、高周波誘導溶解炉に投入しアルゴンガス雰囲気下にて溶解させ、得られた溶湯を鋳型に流し込み、25℃の室温まで冷却してインゴットを作製した。
【0091】
ついで、このインゴットに対し、温度1000℃のアルゴンガス雰囲気下にて10時間保持する熱処理を施した後、アルゴンガス雰囲気下で機械的に粉砕して、希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金粉末を得た。得られた希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金粉末について、レーザー回折・散乱式粒径分布測定装置により体積平均粒径(MV)を測定した。その結果、体積平均粒径(MV)は60μmであった。
【0092】
この水素吸蔵合金粉末の組成を高周波プラズマ分光分析法(ICP)によって分析したところ、組成は、Nd0.89Mg0.11Ni3.33Al0.17であった。
【0093】
得られた水素吸蔵合金の粉末100質量部に対し、ポリアクリル酸ナトリウムの粉末0.2質量部、カルボキシメチルセルロースの粉末0.04質量部、スチレンブタジエンゴムのディスパージョン3.0質量部、カーボンブラックの粉末0.5質量部、水22.4質量部を添加して25℃の環境下において混練し、負極合剤ペーストを調製した。
【0094】
この負極合剤ペーストを面密度(目付)が約250g/m、厚みが約0.6mmの発泡ニッケルのシートに充填し、これを乾燥させ、負極合剤が充填された発泡ニッケルのシートを得た。得られたシートは圧延され、体積当たりの合金量を高めた後、縦40mm、横40mmに切断して負極21を得た。なお、負極21の厚さは、0.25mmであった。
【0095】
次に、得られた負極21に、活性化処理を施した。この活性化処理の手順を以下に示す。
まず、一般的な焼結式の水酸化ニッケル正極を準備した。なお、この水酸化ニッケル正極としては、その正極容量が負極21の負極容量よりも十分大きいものを準備した。そして、この水酸化ニッケル正極と、得られた負極21とを、これらの間にポリエチレンの不織布で形成されたセパレータを介在させた状態で重ね合わせて、活性化処理用電極群を形成した。この活性化処理用電極群を所定量のアルカリ電解液とともにアクリル樹脂製の容器に収容した。これにより、ニッケル水素二次電池の単極セルを形成した。
【0096】
この単極セルに対し、初回の充放電操作として、温度25℃の環境下にて、5時間静置後、0.1Itで14時間の充電を行った後、0.5Itで電池電圧が0.70Vになるまで放電させた。次いで、2回目の充放電操作として、温度25℃の環境下にて、0.5Itで2.8時間の充電を行った後に、0.5Itで電池電圧が0.70Vになるまで放電させる操作を行った。2回目以降は、上記した2回目の充放電操作を1サイクルとする充放電サイクルを複数回行うことにより負極21の活性化処理を行った。また、各充放電サイクルにおいては単極セルの容量を求めた。そして、得られた容量の最大値を負極の容量とした。なお、負極の容量は640mAhであった。
【0097】
その後、0.5Itで2.8時間の充電を行った後、単極セルから負極21を取り外した。このようにして、活性化処理及び充電が済んだ負極21を得た。
【0098】
(4)空気水素二次電池の製造
得られた空気極23及び負極21を、これらの間にセパレータ22を挟んだ状態で重ね合わせ、電極群20を作製した。この電極群20の作製に使用したセパレータ22はスルホン基を有するポリプロピレン繊維製不織布により形成されており、その厚みは0.1mm(目付量53g/m)であった。
【0099】
一方、撥水通気部材50として、PTFE多孔膜の上に不織布拡散紙を重ね合わせて形成した複合体を準備した。ここで、PTFE多孔膜の寸法は、縦が45mm、横が45mm、厚みが0.1mmであった。また、不織布拡散紙の寸法は、縦が40mm、横が40mm、厚みが0.2mmであった。
【0100】
上記した電極群20における空気極23の上に上記した撥水通気部材50としての複合体を載置し、電池ケース10内に収容した。詳しくは、撥水通気部材50としての複合体が載置された電極群20を、空気極側ケース半体12の空気極対向壁16と、負極側ケース半体14の負極側対向壁26との間に挟み込むとともに、セパレータ22の四方の端部を、空気極側ケース半体12の空気極側外周壁18の先端部19と、負極側ケース半体14の負極側外周壁28の先端部29とによって挟み込み固定した。ここで、空気極側ケース半体12の空気極側外周壁18の先端部19と、負極側ケース半体14の負極側外周壁28の先端部29との間は、セパレータ22の端部から外部にアルカリ電解液32が漏出しないようパッキン34で封止した。
【0101】
ここで、空気極側ケース半体12の空気極対向壁16には、凹溝63として、幅1mm、深さ1mm、山幅1mmのサーペンタイン形状の凹溝63が設けられている。この凹溝63の全長は720mmである。そして、この凹溝63の一方の端部に第1通気口61が設けられており、他方の端部に第2通気口62が設けられている。この凹溝63は、撥水通気部材50側が開放されている。更に、上記した第1通気口61には、配管部材72を介して圧送ポンプ74を取り付けた。
【0102】
また、負極側ケース半体14には、負極側外周壁28の一部に連結部40を介して電解液貯蔵部30が取り付けられている。この電解液貯蔵部30にアルカリ電解液32として5mol/LのKOH水溶液を注入した。なお、このとき注入したKOH水溶液の量は50mLであった。
【0103】
以上のようにして、図1及び図2に示すような電池1を製造した。得られた電池1は、25℃の環境下で1時間静置し、電極群20にアルカリ電解液を浸透させた。
【0104】
なお、空気極23には空気極リード(図示せず)が、負極21には負極リード(図示せず)が、それぞれ電気的に接続されており、これら空気極リード及び負極リードは、電池ケース10の気密性及び水密性を保持した状態で電池ケース10の内側から外側へ適切に延びている。また、空気極リードの先端には空気極端子(図示せず)が取り付けられており、負極リードの先端には負極端子(図示せず)が取り付けられている。
【0105】
(実施例2)
ビスマスルテニウム酸化物の粉末を18質量部、γ-MnOの粉末を2質量部としたことを除いて、実施例1と同様にして空気水素二次電池を製造した。実施例2においては、ビスマスルテニウム酸化物の粉末(パイロクロア型複合酸化物触媒)の量は0.31gであった。
【0106】
(実施例3)
ビスマスルテニウム酸化物の粉末を16質量部、γ-MnOの粉末を4質量部としたことを除いて、実施例1と同様にして空気水素二次電池を製造した。実施例3においては、ビスマスルテニウム酸化物の粉末(パイロクロア型複合酸化物触媒)の量は0.27gであった。
【0107】
(実施例4)
ビスマスルテニウム酸化物の粉末を10質量部、γ-MnOの粉末を10質量部としたことを除いて、実施例1と同様にして空気水素二次電池を製造した。実施例4においては、ビスマスルテニウム酸化物の粉末(パイロクロア型複合酸化物触媒)の量は0.16gであった。
【0108】
(実施例5)
電解法で製造した上記γ-MnOを、空気中で450℃に加熱し、この温度のまま7時間保持して焼成することにより得られたβ-MnOをγ-MnOの代わりに用いたこと、このβ-MnOの粉末の添加量を1質量部としたことを除いて、実施例1と同様にして空気水素二次電池を製造した。実施例5においては、ビスマスルテニウム酸化物の粉末(パイロクロア型複合酸化物触媒)の量は0.34gであった。
【0109】
(実施例6)
化学合成法により製造したMnを上記したγ-MnOの代わりに用いたこと、このMnの粉末の添加量を1質量部としたことを除いて、実施例1と同様にして空気水素二次電池を製造した。実施例6においては、ビスマスルテニウム酸化物の粉末(パイロクロア型複合酸化物触媒)の量は0.34gであった。
【0110】
(比較例1)
二酸化マンガンの粉末を添加しなかったこと、ビスマスルテニウム酸化物の粉末を20質量部としたことを除いて、実施例1と同様にして空気水素二次電池を製造した。比較例1においては、ビスマスルテニウム酸化物の粉末(パイロクロア型複合酸化物触媒)の量は0.35gであった。
【0111】
(比較例2)
ビスマスルテニウム酸化物の粉末を添加しなかったこと、γ-MnOの粉末を20質量部としたことを除いて、実施例1と同様にして空気水素二次電池を製造した。比較例2においては、ビスマスルテニウム酸化物の粉末(パイロクロア型複合酸化物触媒)の量は0gである。
【0112】
2.空気水素二次電池の評価
(1)放電中間電圧の測定
実施例1~6、比較例1、2の空気水素二次電池については、空気極端子及び負極端子を介して、0.5Itで1.2時間充電し、0.5Itで電池電圧が0.4Vになるまで放電することを1サイクルとし、斯かる充放電を10サイクル繰り返した。このとき、充放電に関わらず、圧送ポンプ74により第1通気口61から空気を送り、通気路60には、53mL/分の割合で常に空気を供給し続けた。なお、負極容量(640mAh)を1Itとした。
【0113】
そして、各サイクルにおいて、放電容量を測定しておき、斯かる放電容量の値が全放電容量の半分の値になった時の電池電圧を中間電圧として測定した。得られた中間電圧のうち10サイクル目の時の値を放電中間電圧として表1に示した。
【0114】
【表1】
【0115】
(2)考察
(i)空気極合剤中にマンガン酸化物を含んでいない比較例1の空気水素二次電池は、放電中間電圧が0.774Vであった。
これに対し、空気極合剤中にマンガン酸化物及びBiRuの両方が含まれている実施例1~6の空気水素二次電池は、放電中間電圧が0.810~0.838Vであった。
【0116】
このことから、実施例1~6の空気水素二次電池は、比較例1の空気水素二次電池に比べ放電中間電圧が上昇しており、放電時の過電圧が低下していることがわかる。つまり、マンガン酸化物を添加すると放電時の過電圧を低下させる効果が得られるといえる。
【0117】
これは、マンガン酸化物が、放電反応における中間生成物であるHO の分解を行うためであると考えられる。詳しくは、空気極中にカーボンを含んでいなくても、パイロクロア型複合酸化物触媒においてHO が発生してしまう。特に高率放電時にはその傾向が顕著となる。しかしながら、空気極合剤中にパイロクロア型複合酸化物とともにマンガン酸化物を分散させておけば、HO が発生してもマンガン酸化物が斯かるHO を分解できるので、HO の発生にともなう過電圧の上昇を抑えることができるためと考えられる。
【0118】
(ii)また、実施例2及び3の空気水素二次電池は、放電中間電圧が0.837V及び0.838Vであり、特に過電圧が低下している。このことから、マンガン酸化物とBiRuとの比を10:90から20:80とすることが好ましいといえる。
【0119】
(iii)実施例1、実施例5、実施例6の結果より、マンガン酸化物の種類に関して、電解法により製造したγ-MnOとこれを焼成して得られたβ-MnOとでは、過電圧を低下させる効果に大きな差はなく、特性的には同等であるといえる。一方、化学合成法により得られたMnは、やや特性が劣るといえる。
【0120】
このことから、マンガン酸化物としては、電解法により製造されるγ-MnOや、その焼成により得られるマンガン酸化物、例えばβ-MnOを選択することがより好ましいといえる。
【0121】
(iv)また、BiRuを含んでいない比較例2の空気水素二次電池は、放電が全くできなかった。
このことから、パイロクロア型複合酸化物(BiRu)は必須であるといえる。
【0122】
なお、本発明は上記した実施形態及び実施例に限定されるものではなく、空気二次電池用触媒としては、ビスマスルテニウム酸化物の他に、上記したパイロクロア型複合酸化物の組成を表す一般式において挙げた選択可能元素の酸化物が挙げられる。また、本発明は、空気水素二次電池に限定されるものではなく、負極に用いる金属として、Zn、Al、Mg、Liなどを用いた他の空気二次電池であっても構わず、これら他の空気二次電池も上記した空気水素二次電池と同様の効果が得られる。
【0123】
<本発明の態様>
【0124】
本発明の第1の態様は、パイロクロア型複合酸化物と、マンガン酸化物と、を含む空気極合剤を含んでおり、前記パイロクロア型複合酸化物は、一般式:A2-x2-y7-z(ただし、x、y、zは、それぞれ0以上1以下の数値を表し、Aは、Bi、Pb、Tb、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Mn、Y、Zn及びAlから選ばれる少なくとも1種の元素を表し、Bは、Ru、Ir、Si、Ge、Ta、Sn、Hf、Zr、Ti、Nb、V、Sb、Rh、Cr、Re、Sc、Co、Cu、In、Ga、Cd、Fe、Ni、W及びMoから選ばれる少なくとも1種の元素を表している。)で表される組成を有している、空気二次電池用の空気極である。
【0125】
本発明の第2の態様は、上記した本発明の第1の態様において、前記マンガン酸化物の質量比率をQとし、前記パイロクロア型複合酸化物の質量比率をRとした場合に、Q+R=100%、5%≦Q≦50%、50%≦R≦95%の関係を満たしている、空気二次電池用の空気極である。
【0126】
本発明の第3の態様は、上記した本発明の第2の態様において、前記Q及び前記Rは、Q+R=100%、10%≦Q≦20%、80%≦R≦90%の関係を満たしている、空気二次電池用の空気極である。
【0127】
本発明の第4の態様は、上記した本発明の第1の態様~第3の態様の何れかにおいて、前記空気極合剤は、60質量%以上のニッケル粉末を含んでいる、空気二次電池用の空気極である。
【0128】
本発明の第5の態様は、上記した本発明の第1の態様~第4の態様の何れかにおいて、前記マンガン酸化物は、MnO、Mn及びMnのうちの少なくとも1種である、空気二次電池用の空気極である。
【0129】
本発明の第6の態様は、上記した本発明の第5の態様において、前記MnOは、α-MnO、β-MnO、γ-MnO、λ-MnO及びδ-MnOのうちの少なくとも1種を含み、前記Mnは、α-Mn及びγ-Mnのうちの少なくとも1種を含む、空気二次電池用の空気極である。
【0130】
本発明の第7の態様は、セパレータを介して重ね合わされた空気極及び負極を含む電極群と、前記電極群をアルカリ電解液とともに収容している容器と、を備え、前記空気極は、上記した本発明の第1の態様~第6の態様の何れかの空気二次電池用の空気極を含んでいる、空気二次電池である。
【0131】
本発明の第8の態様は、上記した本発明の第7の態様において、前記負極は、水素吸蔵合金を含んでいる、空気二次電池である。
【符号の説明】
【0132】
1 空気二次電池(空気水素二次電池)
10 電池ケース
20 電極群
21 負極
22 セパレータ
23 空気極
30 電解液貯蔵部
50 撥水通気部材
60 通気路
61 第1通気口
62 第2通気口
63 凹溝
74 圧送ポンプ
図1
図2