(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-18
(45)【発行日】2022-10-26
(54)【発明の名称】画像処理装置、及び、それを含む磁気共鳴イメージング装置及び磁気共鳴イメージングシステム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/055 20060101AFI20221019BHJP
【FI】
A61B5/055 380
A61B5/055 311
(21)【出願番号】P 2018208813
(22)【出願日】2018-11-06
【審査請求日】2021-06-15
(73)【特許権者】
【識別番号】320011683
【氏名又は名称】富士フイルムヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000888
【氏名又は名称】特許業務法人 山王坂特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷口 陽
(72)【発明者】
【氏名】金澤 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】小野 順玄
【審査官】櫃本 研太郎
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-539706(JP,A)
【文献】特開2018-078959(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0345149(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0039708(US,A1)
【文献】特開2011-024926(JP,A)
【文献】GANZETTI M., et al.,Whole brain myelin mapping using T1- and T2-weighted MR imaging data,Frontiers in Human Neuroscience,2014年,vol.8,Article 671,pp.1-14
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/055
G01R 33/28-33/64
Wiley Online Library
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体の定量値の分布を取得する定量値分布取得部と、
前記定量値の分布から得られる縦緩和速度又は縦緩和時間、及び、横緩和速度又は横緩和時間を変数とする関数に従ってミエリン画像を得る画像生成部と、を備え
、
前記定量値分布取得部は、磁気共鳴撮像により得た被検体の再構成画像から、当該再構成画像の信号値と被検体の定量値との関係を定めた信号関数を用いて、前記被検体の定量値分布を取得し、
前記画像生成部の前記関数は、縦緩和速度と横緩和速度との積を含む関数、又は、前記縦緩和速度から算出したT1強調像の画素値を前記横緩和速度から算出したT2強調像の画素値で除算する式を含む関数である画像処理装置。
【請求項2】
請求項1記載の画像処理装置であって、
予め定めた撮影シーケンスに従って、静磁場の中に置かれた被検体に高周波磁場および傾斜磁場を印加して前記被検体から発生するエコー信号を計測して得られた再構成画像を取得する再構成画像取得部をさらに備え、
前記定量値分布取得部が、前記再構成画像取得部が取得した前記再構成画像を用いて、前記被検体の定量値の分布を取得し、ミエリン画像を得る画像処理装置。
【請求項3】
請求項1記載の画像処理装置であって、
前記横緩和速度は、見かけの横緩和速度を含むか又は見かけの横緩和速度を用いて算出した横緩和速度を含む画像処理装置。
【請求項4】
請求項1記載の画像処理装置であって、
前記信号関数は、複数の異なる撮影パラメータ及び被検体パラメータの組み合わせそれぞれについて、数値シミュレーションを実行して得られた結果を補間することにより生成される画像処理装置。
【請求項5】
請求項1に記載の画像処理装置を含み、
予め定めた撮影シーケンスに従って、静磁場の中に置かれた被検体に高周波磁場および傾斜磁場を印加して、前記被検体から発生するエコー信号を計測する計測部と、
前記エコー信号から再構成画像を得る画像再構成部と、を備え、
前記定量値分布取得部は、前記再構成画像から前記被検体の定量値の分布を取得することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項6】
請求項
5に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記撮影シーケンスの撮影条件を異ならせた複数種類の撮影によって、それぞれ得られた複数の前記再構成画像、及び、前記被検体の定量値と前記再構成画像の信号値との関係を定めた信号関数を用いて、前記被検体の定量値の分布を推定するパラメータ推定部をさらに備え、前記パラメータ推定部は、前記定量値として縦緩和速度又は縦緩和時間及び横緩和速度又は横緩和時間を推定し、
前記定量値分布取得部は、前記パラメータ推定部が推定した前記被検体の定量値の分布を取得することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項7】
予め定めた撮影シーケンスに従って、静磁場の中に置かれた被検体に高周波磁場および傾斜磁場を印加して、前記被検体から発生するエコー信号を計測する計測部、及び、前記エコー信号から再構成画像を得る画像再構成部を備えた磁気共鳴イメージング装置と、
請求項
1記載の画像処理装置と、を備えた磁気共鳴イメージングシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気共鳴イメージング装置、画像処理装置及び磁気共鳴イメージングシステムに関し、特に、演算によりミエリン画像を生成する磁気共鳴イメージング装置、画像処理装置及び磁気共鳴イメージングシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
磁気共鳴イメージング(MRI)装置は、被検体の組織に含まれる特定の原子核、典型的には水素の原子核、に核磁気共鳴を起こさせ、発生する核磁気共鳴信号(エコー信号)を受信し、受信した核磁気共鳴信号から画像再構成することで被検体の画像を得る医用画像診断装置である。
【0003】
MRI装置で得られる核磁気共鳴信号の強度は、組織における水素原子核のスピン密度に大きく依存するが、その他、装置的な条件、撮影に用いるパルスシーケンスや撮影パラメータなどの撮影条件、及び、被検体組織の特性などの被検体側の要因によっても変動する。
装置的な条件は、磁場強度、受信感度分布などであり、これらをまとめて装置パラメータという。また、撮影パラメータには、繰り返し時間や高周波磁場の設定強度、高周波磁場の位相などがある。被検体側の要因には、スピン密度の他に、縦緩和時間、横緩和時間、共鳴周波数、拡散係数、高周波磁場の照射強度分布などが含まれ、上述したスピン密度を含め、これらを総称して被検体パラメータという。
【0004】
このように核磁気共鳴信号の強度を決定する複数のパラメータのうち、特定のパラメータの値を、パラメータ値と信号強度との関係を示す信号関数を用いて画像間の計算で求め、パラメータの値を画素値とする手法がある(特許文献1)。この手法で得られる画像は計算画像或いは定量値画像などと呼ばれる。
【0005】
ところで、近年、MRIにてミエリン量に応じたコントラストのミエリン画像を取得する方法が注目されている。ミエリンは、神経細胞の軸索の周りに存在するリン脂質の層であり、ミエリンがあることにより、軸索を流れる信号の速度が二桁速くなると言われている。また、脳の発達とともにミエリンが増えることが知られている。このミエリンが破壊される疾患を脱髄疾患といい、その代表は多発性硬化症である。ミエリン画像はこうした疾患の診断や、ミエリンを再生させる治療薬の評価に有用である。
【0006】
ミエリン画像を、T1強調像とT2強調像との比を計算することにより生成する手法が知られている。この手法は簡便にミエリン画像を得られる利点がある一方で、T1強調像とT2強調像の画素値は撮影条件によって様々に変化することから、ミエリン画像のコントラストが一定しないという問題がある。そこで、非特許文献1では、ヒストグラムを利用してT1強調像とT2強調像のコントラストを一定に調整する方法を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【非特許文献】
【0008】
【文献】Ganzetti M, Wenderoth N, Mantini D, Whole brain myelin mapping using T1- and T2-weighted MR imaging data, Frontiers in Human Neuroscience, 2014, 671.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述のようにT1強調像又はT2強調像の各画素の画素値は、撮像シーケンスが同一であってもTEやTR等の撮影条件に依存して変動する。つまり、T1強調像及びT2強調像の各画素値はパラメータによって定まる。このため、非特許文献1に記載された手法のように単にコントラストを調整するのみでは、撮影条件の異なるT1強調像及びT2強調像から生成するミエリン画像は必ずしも同一にはならない場合がある。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、撮影条件にかかわらず安定したコントラストでミエリン画像を生成することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明の一態様は、予め定めた撮影シーケンスに従って、静磁場の中に置かれた被検体に高周波磁場および傾斜磁場を印加して、前記被検体から発生するエコー信号を計測する計測部と、前記エコー信号から再構成画像を得る画像再構成部と、前記撮影シーケンスの撮影条件を異ならせた複数種類の撮影によって、それぞれ得られた複数の前記再構成画像、及び、前記被検体の定量値と前記再構成画像の信号値との関係を定めた信号関数を用いて、前記被検体の定量値の分布を推定するパラメータ推定部と、前記定量値の分布から任意の画像を生成する画像生成部と、を備え、前記パラメータ推定部は、前記定量値として縦緩和速度又は縦緩和時間及び横緩和速度又は横緩和時間を推定し、前記画像生成部は、縦緩和速度又は縦緩和時間及び横緩和速度又は横緩和時間を変数とする関数に従ってミエリン画像を生成する磁気共鳴イメージング装置を提供する。
【0012】
本発明の他の態様は、被検体の定量値の分布を取得する定量値分布取得部と、
前記定量値の分布から得られる縦緩和速度又は縦緩和時間及び横緩和速度又は横緩和時間を変数とする関数に従ってミエリン画像を得る画像生成部と、を備える画像処理装置を提供する。
【0013】
本発明のさらに他の態様は、予め定めた撮影シーケンスに従って、静磁場の中に置かれた被検体に高周波磁場および傾斜磁場を印加して、前記被検体から発生するエコー信号を計測する計測部、及び、前記エコー信号から再構成画像を得る画像再構成部を備えた磁気共鳴イメージング装置と、上記画像処理装置を備えた磁気共鳴イメージングシステムを提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、撮影条件にかかわらず安定したコントラストでミエリン画像を生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置の概略構成を示すブロック図である。
【
図2】
図1の磁気共鳴イメージング装置における計算機の概略構成を示す説明図である。
【
図3】グラディエントエコー(撮像シーケンス)の一例を示すタイミングチャートである。
【
図5】パラメータ値の推定に用いるパラメータセットの一例である。
【
図6】
図6は
、定量値の分布及び定量値の分布から得られる画像の一例を示す参考図であり、具体的には、(A)はT1マップ、(B)はT2マップ、(C)は本実施形態のMRI装置によって生成されるミエリン画像(R1×R2)、(D)は従来のミエリン画像(T1W/T2W)の一例を示す参考図である。
【
図7】本発明の実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置においてミエリン画像を生成する処理の流れを示すフローチャートである。
【
図8】本発明の変形例に係る磁気共鳴イメージングシステムの概略構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(第1の実施形態)
以下、本発明の実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置(以下、単に「MRI装置」という)について、図面を参照して説明する。
図1に本実施形態に係るMRI装置の概略構成を示す。MRI装置100は、予め定めた撮影シーケンスに従って、静磁場の中に置かれた被検体に高周波磁場および傾斜磁場を印加して、前記被検体から発生するエコー信号を計測する計測部150と、計測部150によって計測したエコー信号に各種演算処理を行う演算部160とを備えている。
【0017】
計測部150は、静磁場を発生するマグネット101、傾斜磁場を発生する傾斜磁場コイル102、シーケンサ104、傾斜磁場電源105、高周波磁場発生器106、高周波磁場を照射すると共に核磁気共鳴信号を検出する送受信コイル107、及び受信器108を備えている。送受信コイル107は、
図1に示す例では単一のものを示しているが送信コイルと受信コイルとを別個に備えていてもよい。
演算部160は、計算機109、ディスプレイ110、及び記憶媒体111を備えている。
【0018】
被検体103は、マグネット101が発生させる静磁場空間内の寝台(テーブル)に載置される。また、シーケンサ104は、傾斜磁場電源105と高周波磁場発生器106に命令を送り、それぞれ傾斜磁場および高周波磁場を発生させる。高周波磁場は、送受信コイル107を通じて被検体103に印加される。
【0019】
被検体103から発生した核磁気共鳴信号(エコー信号)は、送受信コイル107によって受波され、受信器108で検波が行われる。検波の基準とする核磁気共鳴周波数(検波基準周波数f0)は、シーケンサ104によりセットされる。検波された信号は、計算機109に送られ、画像再構成などの信号処理が行われる。その結果は、ディスプレイ110に表示される。必要に応じて、記憶媒体111に検波された信号や測定条件を記憶させることもできる。
【0020】
シーケンサ104は、通常、予めプログラムされたタイミング、強度で各装置が動作するように制御を行う。プログラムのうち、特に、高周波磁場、傾斜磁場、信号受信のタイミングや強度を記述したものをパルスシーケンス(撮影シーケンス)という。撮像シーケンスについては後述する。
【0021】
計算機109は、中央処理装置119及びメモリ120を備え、MRI装置100全体を制御する。すなわち、計算機109は、パルスシーケンスに従って計測部150の各部を動作させ、撮影によって得られたエコー信号に対し各種の信号処理を施して所望の画像を得る演算装置として機能する。計算機109は、本実施形態においては、撮影シーケンスの撮影条件を異ならせた複数種類の撮影によって得られた複数の再構成画像に基づいて被検体の定量値の分布を推定し、定量値の分布からミエリン画像を生成する。
【0022】
このため、
図2に示すように、計算機109の中央処理装置119は、計測部150が計測したエコー信号から再構成画像を得る画像再構成部220、画像再構成部220が作成した再構成画像を用いて所望の画像を生成する画像処理部230と、画像再構成部220及び画像処理部230並びに計測部150を含むMRI装置100全体の制御を行う制御部210として機能する。また、画像処理部230は、被検体の定量値の分布を推定するパラメータ推定部232と、定量値の分布からミエリン画像を生成するミエリン画像生成部233として機能する。
【0023】
これらの中央処理装置119が実現する制御部210、画像再構成部220及び画像処理装置230の各機能は、中央処理装置119が記憶媒体111等のメモリに格納されたプログラムをメモリ120に読み込んで実行することによりソフトウエアとして実現することができる。
【0024】
また、中央処理装置119に含まれる各部が実行する動作の一部又は全部を、PLC(programmable logic device)、ASIC(application specific integrated circuit)やFPGA(field-programmable gate array)等のハードウェアにより実現することもできる。
【0025】
なお、パラメータ推定部232及び画像生成部233は、MRI装置100とは独立に設けられ、MRI装置100の計算機109とデータの送受信が可能な画像処理装置等の計算機において実現することもできる。また、計算機109はユーザによる撮影条件の設定などを受け付けるためのマウス、トラックパッドなどの入力装置を備えることができる(不図示)。
【0026】
以下、画像処理部230が有する、被検体の定量値の分布を推定するパラメータ推定部232と、定量値の分布からミエリン画像を生成するミエリン画像生成部233とについて詳細に説明する。
パラメータ推定部232は、定量値の分布として、例えば、T1マップ又はR1マップとT2マップ又はR2マップを取得する。具体的には、パラメータ推定部232は、例えば、画像再構成部220で得られた再構成画像と、再構成画像を取得する際に用いられた撮影シーケンスによって定まる信号関数とを用いて、縦緩和時間T1又は縦緩和速度R1=1/T1と横緩和時間T2又は横緩和速度R2=1/T2を定量値として推定し、定量値の分布としてT1マップ又はR1マップとT2マップ又はR2マップを推定する。
【0027】
ここで定量値とは、信号値を決定するパラメータのうち、被検体に依存するパラメータ(被検体パラメータ)、及び、装置固有のパラメータ(装置パラメータ)の少なくとも一つのパラメータであり、T1及びT2は被検体パラメータである。
被検体パラメータとしては、T1、T2の他にスピン密度(ρ)、共鳴周波数差(Δf0)、拡散係数(D)などがある。共鳴周波数差Δf0は、各画素の共鳴周波数と基準周波数f0との差である。また、装置パラメータには、静磁場強度(B0)、高周波磁場の照射強度分布(B1)、受信コイルの感度分布(Sc)などがある。なお、照射強度分布B1と感度分布Scは装置だけでなく被検体にも依存するパラメータである。
【0028】
再構成画像の各信号値(画素値)を決定するパラメータには、上述した被検体パラメータ及び装置パラメータの他に、ユーザが任意に設定可能なパラメータとして撮影パラメータがある。撮影パラメータには、例えば、繰り返し時間(TR)、エコー時間(TE)、高周波磁場の設定強度(フリップ角(Flip Angle:FA))、高周波磁場の位相(θ)などがある。
【0029】
信号関数は、これらパラメータと信号値との関係を表した関数であり、撮影シーケンスが決まれば、解析的に求めることができる。また、解析的に求められないシーケンスについては、特許文献1に開示されるように、数値シミュレーションによって求めることが可能である。本実施形態では、パラメータ推定部232が、数値シミュレーションによって求めた信号関数を用いて、定量値としてT1、T2を推定する。
【0030】
つまり、パラメータ推定部232は、予め数値シミュレーションによって撮影シーケンス毎に生成され、メモリ120やその他の記憶装置に記憶させておいた信号関数を用いて、画素毎の定量値として被検体パラメータ値であるT1,T2を推定し、T1マップ及びT2マップを定量値の分布として推定する。
【0031】
(信号関数の生成)
ここで、パラメータ推定部232が用いる信号関数について説明する。
上述のように、パラメータ値を推定する際にパラメータ推定部232が用いる信号関数は、予め数値シミュレーションによって生成し、記憶媒体111又はメモリ120等に記憶させておくことができる。信号関数は、計算機109が生成してもよく、他の演算装置等によって生成してもよい。信号関数は、例えば、特許文献1に開示される手法により生成することができる。
【0032】
具体的には、まず、数値シミュレーションによって以下の式(1)に示す信号関数を作成しておく。撮影パラメータとして、FA(フリップ角)、TR(繰り返し時間)、TE(エコー時間)、θ(RF位相増分値)が与えられているとすると、各画素の信号強度を表す信号関数fsは以下のように表される。
【0033】
【0034】
式(1)において、T1は縦緩和時間、T2は横緩和時間、ρはスピン密度、B1はRFの照射強度、Scは受信コイルの感度である。
【0035】
なお、撮影で得られるエコー信号が、
図3に示すグラディエントエコー(詳細は後述)である場合には、横緩和時間T2はみかけの横緩和時間T2*となる。T2とT2*のどちらが得られるかは撮影シーケンスに依存し、パラメータ推定方法が影響されることはないため、以下、横緩和時間とみかけの横緩和時間を区別せずT2と表記する。
【0036】
ここで、信号関数fsにおいて、B1は撮影時にはFAの係数となるため、FAとの積の形に変換しておく。また、ρとScは比例係数として信号強度に対して作用するため関数の外側に出し、TEも指数関数の形で信号強度にかかるため同様に関数の外側に出す。
【0037】
被検体パラメータのT1、T2の任意の値に対して撮影パラメータFA、TR、θを網羅的に変化させて数値シミュレーションにて信号を作成し、補間により信号関数を作成する。撮影対象のスピン密度ρとB1、Scは一定とし(例えば1とする)。
【0038】
撮影パラメータと被検体パラメータを網羅的に変化させる範囲には、それぞれ、実際の撮影に用いる撮影パラメータの範囲と、被検体のT1、T2の範囲が含まれるようにする。変化させるパラメータの範囲と値の一例を以下に示す。
【0039】
TR 4個[ms]:10, 20, 30, 40
FA 10個[度]:5, 10, 15, 20, 25, 30, 35, 40, 50, 60
θ 17個[度]:0, 1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8, 9, 10, 12, 14, 16, 18, 20, 22
T2 17個[s]:0.01, 0.02, 0.03, 0.04, 0.05, 0.07, 0.1, 0.14, 0.19, 0.27, 0.38, 0.53, 0.74, 1.0, 1.4, 2.0, 2.8
T1 15個[s]:0.05, 0.07, 0.1, 0.14, 0.19, 0.27, 0.38, 0.53, 0.74, 1.0, 1.5, 2.0, 2.8, 4.0, 5.6
【0040】
以上の例では、撮影パラメータと被検体パラメータのすべての組み合わせから173400個の撮影パラメータセットが構成される。この撮影パラメータセットについて、それぞれの信号値を計算機シミュレーションによって算出する。
【0041】
数値シミュレーションは、格子点上にスピンを配置した被検体モデルと撮影シーケンス、撮影パラメータ、装置パラメータを入力とし、磁気共鳴現象の基礎方程式であるBlochの式を解いて磁気共鳴信号を出力する。被検体モデルはスピンの空間分布(γ,M0,T1,T2)として与えられる。ここで、γは磁気回転比、M0は熱平衡磁化(スピン密度)である。磁気共鳴信号を画像再構成することにより、与えられた条件での画像を得ることができる。
【0042】
Blochの式は1階線形常微分方程式であり、次の式(2)で表される。
【数2】
【0043】
ここで、(x,y,z)は3次元の直交座標系を表し、zは静磁場(強度がB0)の向きに等しい。また、(Mx,My,Mz)はスピン、Gx,Gy,Gzはそれぞれ添字方向の傾斜磁場強度、H1は高周波磁場強度、Δf0は回転座標系の周波数である。
【0044】
計算機シミュレーションによって得られた信号値から、補間により信号関数fsを構成する。補間には1次から3次程度の線形補間やスプライン補間を用いることが可能である。
上述のようにして作成した信号関数の強度の一部を
図4に示す。
図4では、T1=900ms、T2=100ms、θ=5度の場合について、横軸と縦軸をそれぞれFA、TRとして表示した。
【0045】
(パラメータ値の推定)
次に、パラメータ推定部232は、上述の信号関数fsと、撮影条件を異ならせた複数種類の撮影によって、得られた複数の再構成画像を用いて、被検体パラメータ及び装置パラメータの少なくとも一つを推定する。すなわち、複数の撮影パラメータのうち少なくとも一つを異ならせた複数のパラメータセットで撮影された再構成画像と、数値シミュレーションで算出した信号関数fsを用いて、T1、T2を推定する。
【0046】
図5に、パラメータセットの一例を示す。
図5に示すP1からP6までの撮影パラメータセットは、それぞれFAが10度と40度、位相増分θが2度、5度、7度、8度、22度、繰り返し時間TRが10ms、30ms、40msの組み合わせからなる。また、撮像シーケンスはグラディエントエコー場合のTEは全て2msである。撮影シーケンスは、
図3に示すRF-spoiled GEシーケンスである。
【0047】
なお、パラメータセットの数は、未知数である推定すべき被検体パラメータ及び装置パラメータの値の数より多ければよく、上記例に限定されない。パラメータセット数(画像数)を多くすればするほど推定精度が向上する。但し、その分撮影時間が長くなる。
【0048】
具体的には、複数の再構成画像における画素毎の信号値Iを、式(1)を変形した次式(3)関数fに対してフィッティングし、上記パラメータ値の推定を行う。
【0049】
【0050】
関数フィッ
ティングは、次式(4)で表される最小二乗法により行うことができる。
【数4】
【0051】
ここで、Iは所定のパラメータセット(FA、θ、TR、TE)における画像の画素値である。画素ごとの信号値(画素値)に対し上記推定を行うことで、それぞれのパラメータについて、パラメータマップ(パラメータ画像)が得られる。ミエリン画像は、縦緩和時間T1の逆数と横緩和時間T2の逆数の積として生成される。従って、本実施形態では、T1マップ及びT2マップを得る。
【0052】
ミエリン画像生成部233は、パラメータ推定部232によって推定されたT1マップ及びT2マップに基づいて、ミエリン量に応じた値を画素値とする画像を取得する。
具体的には、ミエリン画像生成部233は、T1マップ及びT2マップの各画素値を次の式(5)に代入してミエリン画像を生成する。
【0053】
【0054】
式(5)がミエリン量を反映した画像コントラストを持つ理由は以下のとおりである。
非特許文献1には、T1強調像(T1W)とT2強調像(T2W)の除算T1W/T2Wによってミエリン画像が求められている。T1Wの輝度値はT1が長いほど小さくなり、T2Wの輝度値はT2が長いほど大きくなる。
すなわち、T1Wの画像コントラストは1/T1と近く、T2WはT2に近い。このことから以下の近似式(6)から式5が成り立つことを見出した。
【0055】
【0056】
このように、ミエリン画像は、T1とT2の逆数の積を求める関数f1(T1,T2)によって生成することができる。
【0057】
なお、T2の代わりに見かけの横緩和時間であるT2*を用いても同様のコントラストでミエリン画像を得ることが可能である。また、プロトン密度とT1、T2*から予めT2を求めるための多項式を生成しておき、この多項式を用いてT2を合成してもよい。
T1とT2の逆数はそれぞれ縦緩和速度R1と横緩和速度R2である。従って、式5は式7に変形することもできる。
【0058】
【0059】
すなわち、縦緩和速度と横緩和速度の積を求める関数f2(R1,R2)によってミエリン画像を生成することができる。なお、R2の代わりに見かけの横緩和速度であるR2*を用いても同様のコントラストでミエリン画像を得ることが可能である。
【0060】
図6(A)にT1マップ、(B)にT2マップ、(C)に本実施形態のMRI装置によって生成されるミエリン画像(R1×R2)、(D)に従来のミエリン画像(T1W/T2W)の一例を示す。
図6(C)のミエリン画像(R1×R2画像)から、白質の輝度が大きくなっており、従来と同様、ミエリン量を反映した画像コントラストが得られていることがわかる。また、白質と灰白質のコントラストが
図6(D)に示す従来のミエリン画像よりも強くなっていることから、本実施形態に係るMRI装置によって生成されるミエリン画像は、ミエリン量をより大きく反映した画像であることがわかる。
【0061】
以下、本実施形態に係るMRI装置において、T1マップ、T2マップを推定しミエリン画像を得る撮影の流れを、
図7のフローチャートを参照して説明する。
ステップS301において、制御部210は、図示しない入力装置等を介してユーザによる撮影シーケンスの選択や撮影条件の設定を受け付けると、設定された撮影シーケンス及び撮影条件に従った指令をシーケンサ104に送る。
【0062】
本実施形態では、パラメータ値の分布を得るために、例えば
図5に示すような複数の撮影パラメータのうち少なくとも一つを異ならせた複数組のパラメータセットが設定される。パラメータセットは、複数の組み合わせをプリセットしておいてもよいし、ユーザが任意に変更或いは選択可能にしてもよい。
【0063】
続いて、ステップS302において、シーケンサ104は、設定された撮影条件(パラメータセット)で撮影が行われるように計測部150の各部を制御し、計測部150は、設定された撮影シーケンスに従ってエコー信号を計測し、計測されたエコー信号をk空間に配置する。
【0064】
ここで、パラメータ値の分布の取得に用いる撮影シーケンスの一例を
図5に示す。
図5中、RF、A/D、Gs、Gp、Grはそれぞれ、高周波磁場、信号受信、スライス傾斜磁場、位相エンコード傾斜磁場、リードアウト傾斜磁場を表す。この撮影シーケンスは、RF-spoiled GEシーケンスで、この撮影シーケンスによって得られる画像の画素値は、主に被検体パラメータT1、T2*(みかけの横緩和時間)、ρと装置パラメータB1、Scに依存する。
【0065】
このパルスシーケンスでは、まず、スライス傾斜磁場パルス501の印加とともに高周波磁場(RF)パルス502を照射し、対象物体内のあるスライスの磁化を励起する。次いでスライス方向の位置情報付与とリフェーズをするためのスライスエンコード傾斜磁場パルス503と磁化の位相に位相エンコード方向の位置情報を付与するための位相エンコード傾斜磁場パルス504、ディフェーズ用リードアウト傾斜磁場505を印加した後、リードアウト方向の位置情報を付与するためのリードアウト傾斜磁場パルス506を印加しながら、信号受信時間507の間、磁気共鳴信号(グラディエントエコー)を計測する。そして最後にディフェーズ用位相エンコード傾斜磁場パルス508とディフェーズ用スライス傾斜磁場パルス509を印加する。
【0066】
計測部150は、以上の手順を繰り返し時間TRで繰り返し、エコーを複数回計測する。繰り返しごとに位相エンコード傾斜磁場パルス(504、508)の強度(位相エンコード量kp)とスライスエンコード傾斜磁場パルス(503、509)の強度(スライスエンコード量ks)を変化させるとともにRFパルスの位相の増分値をθ0ずつ変化させる(n番目のRFパルスの位相はθ(n)= (n-1)+θ0×nとなる)。各エコーは3次元k空間上に配置される。
【0067】
計測部150は、パラメータセットを変えながら、予定したパラメータセット数の計測が終了するまで、上述したエコー信号の計測を繰り返し、パラメータセット数と同数のk空間データを取得する(ステップS303)。
【0068】
ステップS304において、画像再構成部220は、収集されたk空間データを3次元逆フーリエ変換することによって画像を再構成する。ここでは、パラメータセットの数と同数の再構成画像が得られる。
次のステップS305において、パラメータ推定部232は、予め記憶された信号関数と、画像再構成部220が作成した複数の画像とを用いて、被検体パラメータ値を推定する。すなわち、パラメータ推定部232は、被検体パラメータであるT1、T2の値を画素毎に算出し、T1、T2マップを生成する。ステップS306において、ミエリン画像生成部233が、T1マップ及びT2マップからミエリン画像を生成し、ディスプレイ110に表示する。
【0069】
このように本実施形態によれば、定量値であるT1とT2あるいはR1とR2を用いてミエリン画像を合成するため、撮影条件によらず安定した画像コントラストが得られる。なお、本実施形態においては、パラメータ推定部232が、定量値を推定して定量値の分布を生成する例について説明したが、定量値の分布の取得方法はこれに限られず、既に生成された定量値の分布の入力を受け付けることにより取得してもよい。
【0070】
(第2の実施形態)
上述した第1の実施形態では、信号関数が解析的に求められない場合に数値シミュレーションを利用してT1、T2などの定量値を求める方法について示した。ここでは、信号関数が解析的に求められる、より一般的な場合の例を挙げる。
【0071】
グラディエントエコー系シーケンスの一つであるFLASHの画素値(横磁化強度Mxy)は、以下の式(8)で表されることが知られている。
【0072】
【0073】
ここで、TRとαは撮影パラメータであり、それぞれ繰り返し時間とフリップ角である。また、T1は被検体パラメータの縦緩和時間である。
【0074】
また、スピンエコー(SE)法では、TRがT1より十分に長い場合に以下の式(9)で表される。
【0075】
【0076】
ここで、TEは撮影パラメータのエコー時間、T2は被検体パラメータの縦緩和時間である。
【0077】
これらの式を用いれば、a1、a2、T1及びT2を推定することが可能である。
式(8)のFLASHを用いて被検体パラメータのT1を求める場合には、以下のようにする。FLASHでTRを100ms、FAを30°と60°として、それぞれ画像A、Bの2枚の画像を撮影する。画素ごとに画像Aの値と画像Bの値を式(8)に最小二乗法などを用いてフィッティングし、a1とT1を求める。
【0078】
式(9)のSEを用いて被検体パラメータのT2を求める場合には、以下のようにする。TRがT1より十分に長いSEでTEを20msと40msとして、それぞれ画像A、Bの2枚の画像を撮影する。画素ごとに画像Aの値と画像Bの値を式(9)に最小二乗法などを用いてフィッティングし、a2とT2を求める。
【0079】
ミエリン画像は、非特許文献1によるとT1W/T2Wである。T1WとT2Wは、上述の方法で算出したa、T1及びT2を式(8)や式(9)に適宜代入してそれぞれ合成することが可能である。すなわち、以下の式(10)及び式(11)が成り立つ。
【0080】
【0081】
【0082】
ここで、TR、FA、TEはそれぞれ定数であって、例えば300ms、90度、100msなどとすればよい。よって、ミエリン画像は次の式(12)に従って求めることもできる。
【0083】
【0084】
(変形例)
以上の説明では、パラメータ値の推定からミエリン画像の生成までをMRI装置の画像処理部230において行う例について説明した。この画像処理部230の機能を、MRI装置100とは別の画像処理装置300において実現し、MRI装置100と画像処理装置300とによって磁気共鳴イメージングシステムを構成することもできる。
【0085】
例えば、
図8に示すように、画像処理装置300が、画像取得部231、パラメータ推定部232及びミエリン画像生成部233を備え、画像取得部231が、MRI装置から再構成画像を取得し、これに基づいてパラメータ推定部232がT1マップ及びT2マップを推定し、推定したT1マップ及びT2マップからミエリン画像生成部233によりミエリン画像を生成する構成とすることもできる。
【0086】
なお、画像処理装置300が予め生成されたT1マップ及びT2マップを取得して、T1マップ及びT2マップを推定せずに、取得したT1マップ及びT2マップからミエリン画像生成部233によりミエリン画像を生成する構成とすることもできる。
この磁気共鳴イメージングシステムにおいて、MRI装置100と画像処理装置300とのデータのやりとりは、有線或いは無線によるデータ送受信手段、或いは可搬媒体など公知の手段を採用することができる。また、画像処理装置300はクラウド等に構築されたものであってもよいし、複数のCPUから構成されるものであってもよい。このように所定の演算機能をMRI装置とは別のモダリティで実現することにより、ユーザの自由度が増し、またMRI装置内の計算機の負荷を軽減することができる。
【符号の説明】
【0087】
100・・・MRI装置、101・・・マグネット、102・・・傾斜磁場コイル、103・・・被検体、104・・・シーケンサ、105・・・傾斜磁場電源、106・・・高周波磁場発生器、107・・・送受信コイル、108・・・受信器、109・・・計算機、110・・・ディスプレイ、111・・・記憶媒体、150・・・計測部、106・・・演算部、119・・・中央処理装置、120・・・メモリ、210・・・制御部、220・・・画像再構成部、230・・・画像処理部、231・・・画像取得部、232・・・パラメータ推定部、233・・・ミエリン画像生成部