(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-18
(45)【発行日】2022-10-26
(54)【発明の名称】タイヤ接地特性計測方法、タイヤ接地特性計測装置およびタイヤ接地特性計測システム
(51)【国際特許分類】
G01M 17/02 20060101AFI20221019BHJP
B60C 19/00 20060101ALI20221019BHJP
【FI】
G01M17/02
B60C19/00 H
B60C19/00 B
(21)【出願番号】P 2018227656
(22)【出願日】2018-12-04
【審査請求日】2021-07-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100140718
【氏名又は名称】仁内 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】神藏 貴久
【審査官】奥野 尭也
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-004596(JP,A)
【文献】特開2014-145785(JP,A)
【文献】特開2009-180715(JP,A)
【文献】特開2017-026468(JP,A)
【文献】特開2002-356106(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2017-0142432(KR,A)
【文献】特開2003-294585(JP,A)
【文献】特開2007-078453(JP,A)
【文献】特開平08-035915(JP,A)
【文献】特開平05-052711(JP,A)
【文献】特開2008-195341(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 17/007-17/06
G01M 99/00
B60C 19/00-19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
実車の走行時のタイヤ姿勢の過渡的な変化をタイヤに再現する再現ステップと、
回転可能な回転ドラム上に埋設された応力測定手段が、回転駆動される前記回転ドラムに当接する前記タイヤにかかる応力を測定する応力測定ステップと、
前記応力測定手段によって測定された応力に基づいて、前記タイヤのトレッド表面のうちの前記回転ドラムに接触する接地領域における特性
の分布であるタイヤ接地特性を算出する算出ステップとを含み、
前記算出ステップにおいて算出されるタイヤ接地特性は、前記過渡的な変化が発生している期間中の各時点における実車のタイヤ姿勢に対応する前記タイヤのタイヤ接地特性である、
タイヤ接地特性計測方法。
【請求項2】
前記応力測定ステップでは、
前記回転ドラムの回転速度が、ドラム用駆動手段によって調整され、
前記回転ドラムに対する前記タイヤの位置が、タイヤ位置制御手段によって前記回転ドラムの回転軸方向および/または径方向に調整され、
前記タイヤの回転速度が、タイヤ用駆動手段によって調整され、
前記タイヤのキャンバ角、スリップ角および/または接地力が、タイヤ角制御手段によって調整される、
請求項1に記載のタイヤ接地特性計測方法。
【請求項3】
前記応力測定ステップでは、前記応力測定手段としての3分力センサが、前記タイヤにかかる接地力と幅方向せん断応力と周方向せん断応力とを測定する、
請求項1~2のいずれかに記載のタイヤ接地特性計測方法。
【請求項4】
ドラム用駆動手段が前記回転ドラムを回転駆動すると共に、タイヤ用駆動手段が前記タイヤを回転駆動することによって、前記応力測定手段を、前記タイヤの前記トレッド表面の周方向の複数箇所に接触させ、
前記応力測定手段が、前記複数箇所において前記タイヤにかかる応力を測定し、
タイヤ側回転位置検出手段が、前記複数箇所のそれぞれに対応する前記タイヤの回転位置を検出し、
タイヤ位置制御手段が前記回転ドラムに対する前記タイヤの位置を前記回転ドラムの回転軸方向に変化させながら、前記応力測定手段が、前記タイヤにかかる応力を繰り返し測定すると共に、前記タイヤ側回転位置検出手段が、前記タイヤの回転位置を繰り返し検出することによって、処理装置が、前記接地領域における接地力分布と幅方向せん断応力分布と周方向せん断応力分布とを算出し、
前記処理装置は、前記接地領域内の各箇所おける接地力分布、幅方向せん断応力分布および/または周方向せん断応力分布を合成することによって、前記過渡的な変化が発生している期間中の各時点における前記タイヤ接地特性を算出する、
請求項1~3のいずれかに記載のタイヤ接地特性計測方法。
【請求項5】
前記過渡的な変化を前記タイヤに再現する前記再現ステップでは、
車両特性計測装置の架台装置の支持部が、前記車両特性計測装置に備えられている試験用車両の車体と車輪とを独立に変位させ、
前記架台装置の計測器が、前記車体の変位量および/または作用力と、前記車輪の変位量および/または作用力とを計測し、
前記車両特性計測装置に備えられている制御器が、前記支持部によって前記車体に付与される変位量と、前記支持部によって前記車輪に付与される変位量とを制御し、
処理装置は、
前記計測器の計測データを用いることによって実車の走行時の運動状態を予測し、
予測された前記運動状態に基づいて、タイヤ姿勢の前記過渡的な変化を前記タイヤに再現する、
請求項1~4のいずれかに記載のタイヤ接地特性計測方法。
【請求項6】
車両特性計測装置が、予測された車両特性を試験用車両に反映し、
計測器は、前記車両特性が反映された前記試験用車両の車体および車輪の変位量および/または作用力を計測し、
前記車両特性が反映された前記計測器の計測データに基づいて、ドラム用駆動手段による前記回転ドラムの回転速度の変更、タイヤ位置制御手段による前記回転ドラムに対する前記タイヤの位置の変更、タイヤ用駆動手段による前記タイヤの回転速度の変更、および、タイヤ角制御手段による前記タイヤの角度の変更の少なくともいずれかが行われる、 請求項1~5のいずれかに記載のタイヤ接地特性計測方法。
【請求項7】
前記試験用車両の電子制御ユニットに対して、予測された前記車両特性に基づく指令を送信することにより前記試験用車両の電子制御ユニットに走行状態を認識させる、
請求項6に記載のタイヤ接地特性計測方法。
【請求項8】
回転可能な回転ドラムと、
前記回転ドラムを回転駆動するドラム用駆動手段と、
前記回転ドラム上に埋設され、前記回転ドラムに当接するタイヤにかかる応力を測定する応力測定手段と、
前記回転ドラムに対する前記タイヤの位置を制御するタイヤ位置制御手段と、
前記タイヤを回転駆動するタイヤ用駆動手段と、
前記回転ドラムに対する前記タイヤの角度を制御するタイヤ角制御手段と、
前記応力測定手段によって測定された応力に基づいて、前記タイヤのトレッド表面のうちの前記回転ドラムに接触する接地領域における特性
の分布であるタイヤ接地特性を算出する処理装置とを備え、
実車の走行時のタイヤ姿勢の過渡的な変化を前記タイヤに再現するように、前記ドラム用駆動手段と、前記タイヤ位置制御手段と、前記タイヤ用駆動手段と、前記タイヤ角制御手段とが動作し、
前記処理装置は、前記過渡的な変化が発生している期間中の各時点における実車のタイヤ姿勢に対応する前記タイヤ接地特性を算出する、
タイヤ接地特性計測装置。
【請求項9】
前記ドラム用駆動手段は、前記回転ドラムの回転速度を調整可能であり、
前記タイヤ位置制御手段は、前記回転ドラムに対する前記タイヤの位置を前記回転ドラムの回転軸方向および/または径方向に調整可能であり、
前記タイヤ用駆動手段は、前記タイヤの回転速度を調整可能であり、
前記タイヤ角制御手段は、前記タイヤのキャンバ角、スリップ角および/または接地力を調整可能である、
請求項8に記載のタイヤ接地特性計測装置。
【請求項10】
前記応力測定手段は、前記タイヤにかかる接地力と幅方向せん断応力と周方向せん断応力とを測定可能な3分力センサである、
請求項8~9のいずれかに記載のタイヤ接地特性計測装置。
【請求項11】
前記タイヤの回転位置を検出するタイヤ側回転位置検出手段を更に備え、
前記ドラム用駆動手段が前記回転ドラムを回転駆動すると共に、前記タイヤ用駆動手段が前記タイヤを回転駆動することによって、前記応力測定手段を、前記タイヤの前記トレッド表面の周方向の複数箇所に接触させ、
前記応力測定手段は、前記複数箇所において前記タイヤにかかる応力を測定し、
前記タイヤ側回転位置検出手段は、前記複数箇所のそれぞれに対応する前記タイヤの回転位置を検出し、
前記タイヤ位置制御手段が前記回転ドラムに対する前記タイヤの位置を前記回転ドラムの回転軸方向に変化させながら、前記応力測定手段が、前記タイヤにかかる応力を繰り返し測定すると共に、前記タイヤ側回転位置検出手段が、前記タイヤの回転位置を繰り返し検出することによって、前記処理装置は、前記接地領域における接地力分布と幅方向せん断応力分布と周方向せん断応力分布とを算出し、
前記処理装置は、前記接地領域内の各箇所おける接地力分布、幅方向せん断応力分布および/または周方向せん断応力分布を合成することによって、前記過渡的な変化が発生している期間中の各時点における前記タイヤ接地特性を算出する、
請求項8~10のいずれかに記載のタイヤ接地特性計測装置。
【請求項12】
請求項8~11のいずれかに記載のタイヤ接地特性計測装置と、
車両特性計測装置と、実車挙動のシミュレータとを備えるタイヤ接地特性計測システムであって、
前記車両特性計測装置は、車体と車輪とを有する試験用車両と、架台装置と、制御器とを備え、
前記架台装置は、前記試験用車両が載置される支持部と、計測器とを備え、
前記支持部は、前記車体と前記車輪とを独立に変位させることが可能であり、
前記計測器は、前記車体の変位量および/または作用力と、前記車輪の変位量および/または作用力とを計測し、
前記制御器は、前記支持部によって前記車体に付与される変位量と、前記支持部によって前記車輪に付与される変位量とを制御し、
前記処理装置は、
前記計測器の計測データを用いることによって実車の走行時の運動状態を予測し、
予測された前記運動状態に基づいて、タイヤ姿勢の前記過渡的な変化を前記タイヤに再現する、
タイヤ接地特性計測システム。
【請求項13】
前記車両特性計測装置は、前記処理装置によって算出される前記タイヤ接地特性から予測される車両特性を前記試験用車両に反映し、
前記計測器は、前記車両特性が反映された前記試験用車両の前記車体および前記車輪の変位量および/または作用力を計測し、
前記車両特性が反映された前記計測器の計測データに基づいて、前記ドラム用駆動手段による前記回転ドラムの回転速度の変更、前記タイヤ位置制御手段による前記回転ドラムに対する前記タイヤの位置の変更、前記タイヤ用駆動手段による前記タイヤの回転速度の変更、および、前記タイヤ角制御手段による前記タイヤの角度の変更の少なくともいずれかが行われる、
請求項12に記載のタイヤ接地特性計測システム。
【請求項14】
前記試験用車両の電子制御ユニットに対して、予測された前記車両特性に基づく指令を送信することにより前記試験用車両の電子制御ユニットに走行状態を認識させる、
請求項13に記載のタイヤ接地特性計測システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はタイヤ接地特性計測方法、タイヤ接地特性計測装置およびタイヤ接地特性計測システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、タイヤのトレッド表面の各部位の接地特性を得るタイヤの接地特性の測定方法および測定装置が記載されている。特許文献1に記載された技術では、タイヤの接地圧、幅方向せん断応力および周方向せん断応力を測定可能な3分力センサが埋設された、回転駆動可能な回転ドラムに、所要のキャンバ角およびスリップ角を付与した測定対象としてのタイヤが当接させられる。また、回転ドラムおよびタイヤが共に回転させられ、タイヤが、3分力センサ上を複数回通過させられ、3分力センサが、タイヤの接地圧、幅方向せん断応力および周方向せん断応力を複数回測定する。また、各々の測定点のタイヤ周方向位置が特定される。更に、タイヤを回転ドラムの回転軸方向に変位させながら、タイヤの接地圧、幅方向せん断応力および周方向せん断応力の測定と、測定点のタイヤ周方向位置の特定とが、繰り返される。その結果、タイヤが回転ドラムに接触している領域である接触領域における接地圧分布、幅方向せん断応力分布および周方向せん断応力分布を得られる。
ところで、特許文献1に記載された技術では、所定の時点のタイヤの接地圧、幅方向せん断応力および周方向せん断応力を得るための測定が、開始されてから終了するまでの間、付与されるキャンバ角およびスリップ角が一定値に維持される。そのため、特許文献1に記載された技術によっては、実車の走行時のタイヤ姿勢の過渡的な変化が発生している期間中(例えばレーンチェンジの開始時から終了時までの期間中)の各時点における実車のタイヤ姿勢に対応するタイヤ接地特性(接地力分布、幅方向せん断応力分布および周方向せん断応力分布)を得ることができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した問題点に鑑み、本発明は、実車の走行時のタイヤ姿勢の過渡的な変化が発生している期間中の各時点における実車のタイヤ姿勢に対応するタイヤ接地特性を得ることができるタイヤ接地特性計測方法、タイヤ接地特性計測装置およびタイヤ接地特性計測システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様のタイヤ接地特性計測方法は、実車の走行時のタイヤ姿勢の過渡的な変化をタイヤに再現する再現ステップと、回転可能な回転ドラム上に埋設された応力測定手段が、回転駆動される前記回転ドラムに当接する前記タイヤにかかる応力を測定する応力測定ステップと、前記応力測定手段によって測定された応力に基づいて、前記タイヤのトレッド表面のうちの前記回転ドラムに接触する接地領域における特性であるタイヤ接地特性を算出する算出ステップとを含み、前記算出ステップにおいて算出されるタイヤ接地特性は、前記過渡的な変化が発生している期間中の各時点における実車のタイヤ姿勢に対応する前記タイヤのタイヤ接地特性を計測する方法に関する。
【0006】
つまり、本発明の一態様のタイヤ接地特性計測方法では、実車の走行時のタイヤ姿勢の過渡的な変化が発生している期間中の各時点における実車のタイヤ姿勢に対応するタイヤのタイヤ接地特性が、算出ステップにおいて算出される。
そのため、本発明の一態様のタイヤ接地特性計測方法によれば、実車の走行時のタイヤ姿勢の過渡的な変化が発生している期間中の各時点における実車のタイヤ姿勢に対応するタイヤ接地特性を得ることができる。
【0007】
本発明の一態様のタイヤ接地特性計測方法における、前記応力測定ステップでは、前記回転ドラムの回転速度が、ドラム用駆動手段によって調整され、前記回転ドラムに対する前記タイヤの位置が、タイヤ位置制御手段によって前記回転ドラムの回転軸方向および/または径方向に調整され、前記タイヤの回転速度が、タイヤ用駆動手段によって調整され、前記タイヤのキャンバ角、スリップ角および/または接地力が、タイヤ角制御手段によって調整されてもよい。
応力測定ステップにおいてそのようなことが行われる場合には、応力測定ステップにおいてそのようなことが行われない場合よりも正確に、実車の走行時のタイヤ姿勢の過渡的な変化をタイヤに再現することができる。
【0008】
本発明の一態様のタイヤ接地特性計測方法における、前記応力測定ステップでは、前記応力測定手段としての3分力センサが、前記タイヤにかかる接地力と幅方向せん断応力と周方向せん断応力とを測定してもよい。
応力測定ステップにおいて、3分力センサが、タイヤにかかる接地力と幅方向せん断応力と周方向せん断応力とを測定する場合には、タイヤ接地特性として接地力分布と幅方向せん断応力分布と周方向せん断応力分布とを算出することができる。
【0009】
本発明の一態様のタイヤ接地特性計測方法における、ドラム用駆動手段が前記回転ドラムを回転駆動すると共に、タイヤ用駆動手段が前記タイヤを回転駆動することによって、前記応力測定手段を、前記タイヤの前記トレッド表面の周方向の複数箇所に接触させ、前記応力測定手段が、前記複数箇所において前記タイヤにかかる応力を測定し、タイヤ側回転位置検出手段が、前記複数箇所のそれぞれに対応する前記タイヤの回転位置を検出し、タイヤ位置制御手段が前記回転ドラムに対する前記タイヤの位置を前記回転ドラムの回転軸方向に変化させながら、前記応力測定手段が、前記タイヤにかかる応力を繰り返し測定すると共に、前記タイヤ側回転位置検出手段が、前記タイヤの回転位置を繰り返し検出することによって、処理装置が、前記接地領域における接地力分布と幅方向せん断応力分布と周方向せん断応力分布とを算出し、前記処理装置は、前記接地領域内の各箇所おける接地力分布、幅方向せん断応力分布および/または周方向せん断応力分布を合成することによって、前記過渡的な変化が発生している期間中の各時点における前記タイヤ接地特性を算出してもよい。
そのように応力測定手段がタイヤのトレッド表面の周方向の複数箇所に接触させられ、応力測定手段がタイヤにかかる応力を繰り返し測定し、処理装置が接地領域における接地力分布と幅方向せん断応力分布と周方向せん断応力分布とを算出し、処理装置が接地領域内の各箇所おける接地力分布、幅方向せん断応力分布および/または周方向せん断応力分布を合成する場合には、タイヤのトレッド表面の周方向の複数箇所における接地力分布、幅方向せん断応力分布および/または周方向せん断応力分布を得ることができる。
【0010】
本発明の一態様のタイヤ接地特性計測方法における、前記過渡的な変化を前記タイヤに再現する前記再現ステップでは、車両特性計測装置の架台装置の支持部が、前記車両特性計測装置に備えられている試験用車両の車体と車輪とを独立に変位させ、前記架台装置の計測器が、前記車体の変位量および/または作用力と、前記車輪の変位量および/または作用力とを計測し、前記車両特性計測装置に備えられている制御器が、前記支持部によって前記車体に付与される変位量と、前記支持部によって前記車輪に付与される変位量とを制御し、処理装置は、前記計測器の計測データを用いることによって実車の走行時の運動状態を予測し、予測された前記運動状態に基づいて、タイヤ姿勢の前記過渡的な変化を前記タイヤに再現してもよい。
処理装置が計測器の計測データを用いることによって実車の走行時の運動状態を予測し、その運動状態に基づいて、タイヤ姿勢の過渡的な変化をタイヤに再現する場合には、計測器の計測データが用いられない場合とは異なり、例えばサスペンションなどの車両特性を反映させたタイヤ接地特性を得ることができるため、より実車に近い条件でタイヤの接地特性を計測することができる。
【0011】
本発明の一態様のタイヤ接地特性計測方法では、計測された応力および接地荷重を実車の挙動をシミュレーションする車両モデルに反映させることにより、タイヤの軸力などの車両特性を予測することができる。車両特性計測装置が、予測されたタイヤの軸力などの車両特性を試験用車両に反映し、計測器は、前記車両特性が反映された前記試験用車両の車体および車輪の変位量および/または作用力を計測し、車両特性が反映された前記計測器の計測データに基づいて、前記ドラム用駆動手段による前記回転ドラムの回転速度の変更、タイヤ位置制御手段による前記回転ドラムに対する前記タイヤの位置の変更、タイヤ用駆動手段による前記タイヤの回転速度の変更、および、タイヤ角制御手段による前記タイヤの角度の変更の少なくともいずれかが行われてもよい。
前記実車挙動シミュレータによって予測されるタイヤの軸力などの車両特性が試験用車両に反映される場合には、車両特性が試験用車両に反映されない場合よりも高精度な車両特性を車両特性計測装置が計測することができる。
【0012】
本発明の一態様のタイヤ接地特性計測方法では、前記試験用車両の電子制御ユニットに対して、予測された前記車両特性に基づく指令を送信することにより前記試験用車両の電子制御ユニットに走行状態を認識させてもよい。
試験用車両の電子制御ユニットに対して、予測された車両特性に基づく指令を送信することにより試験用車両の電子制御ユニットに走行状態を認識させる場合には、試験用車両の電子制御ユニットに走行状態を認識させない場合よりも高精度なタイヤ接地特性を得ることができる。
【0013】
本発明の一態様のタイヤ接地特性計測装置は、回転可能な回転ドラムと、前記回転ドラムを回転駆動するドラム用駆動手段と、前記回転ドラム上に埋設され、前記回転ドラムに当接するタイヤにかかる応力を測定する応力測定手段と、前記回転ドラムに対する前記タイヤの位置を制御するタイヤ位置制御手段と、前記タイヤを回転駆動するタイヤ用駆動手段と、前記回転ドラムに対する前記タイヤの角度を制御するタイヤ角制御手段と、前記応力測定手段によって測定された応力に基づいて、前記タイヤのトレッド表面のうちの前記回転ドラムに接触する接地領域における特性であるタイヤ接地特性を算出する処理装置とを備え、実車の走行時のタイヤ姿勢の過渡的な変化を前記タイヤに再現するように、前記ドラム用駆動手段と、前記タイヤ位置制御手段と、前記タイヤ用駆動手段と、前記タイヤ角制御手段とが動作し、前記処理装置は、前記過渡的な変化が発生している期間中の各時点における実車のタイヤ姿勢に対応する前記タイヤ接地特性を算出する。
【0014】
つまり、本発明の一態様のタイヤ接地特性計測装置では、実車の走行時のタイヤ姿勢の過渡的な変化が発生している期間中の各時点における実車のタイヤ姿勢に対応するタイヤのタイヤ接地特性が、処理装置によって算出される。
そのため、本発明の一態様のタイヤ接地特性計測装置によれば、実車の走行時のタイヤ姿勢の過渡的な変化が発生している期間中の各時点における実車のタイヤ姿勢に対応するタイヤ接地特性を得ることができる。
【0015】
本発明の一態様のタイヤ接地特性計測装置では、前記ドラム用駆動手段は、前記回転ドラムの回転速度を調整可能であり、前記タイヤ位置制御手段は、前記回転ドラムに対する前記タイヤの位置を前記回転ドラムの回転軸方向および/または径方向に調整可能であり、前記タイヤ用駆動手段は、前記タイヤの回転速度を調整可能であり、前記タイヤ角制御手段は、前記タイヤのキャンバ角、スリップ角および/または接地力を調整可能であってもよい。
回転ドラムの回転速度が調整可能であり、回転ドラムに対するタイヤの位置が回転ドラムの回転軸方向および/または径方向に調整可能であり、タイヤの回転速度が調整可能であり、タイヤのキャンバ角、スリップ角および/または接地力が調整可能である場合には、それらのいずれかが調整できない場合よりも正確に、実車の走行時のタイヤ姿勢の過渡的な変化をタイヤに再現することができる。
【0016】
本発明の一態様のタイヤ接地特性計測装置では、前記応力測定手段は、前記タイヤにかかる接地力と幅方向せん断応力と周方向せん断応力とを測定可能な3分力センサであってもよい。
応力測定手段が3分力センサである場合には、処理装置が、タイヤ接地特性として接地力分布と幅方向せん断応力分布と周方向せん断応力分布とを算出することができる。
【0017】
本発明の一態様のタイヤ接地特性計測装置は、前記タイヤの回転位置を検出するタイヤ側回転位置検出手段を更に備え、前記ドラム用駆動手段が前記回転ドラムを回転駆動すると共に、前記タイヤ用駆動手段が前記タイヤを回転駆動することによって、前記応力測定手段を、前記タイヤの前記トレッド表面の周方向の複数箇所に接触させ、前記応力測定手段は、前記複数箇所において前記タイヤにかかる応力を測定し、前記タイヤ側回転位置検出手段は、前記複数箇所のそれぞれに対応する前記タイヤの回転位置を検出し、前記タイヤ位置制御手段が前記回転ドラムに対する前記タイヤの位置を前記回転ドラムの回転軸方向に変化させながら、前記応力測定手段が、前記タイヤにかかる応力を繰り返し測定すると共に、前記タイヤ側回転位置検出手段が、前記タイヤの回転位置を繰り返し検出することによって、前記処理装置は、前記接地領域における接地力分布と幅方向せん断応力分布と周方向せん断応力分布とを算出し、前記処理装置は、前記接地領域内の各箇所おける接地力分布、幅方向せん断応力分布および/または周方向せん断応力分布を合成することによって、前記過渡的な変化が発生している期間中の各時点における前記タイヤ接地特性を算出してもよい。
そのように応力測定手段がタイヤのトレッド表面の周方向の複数箇所に接触させられ、応力測定手段がタイヤにかかる応力を繰り返し測定し、処理装置が接地領域における接地力分布と幅方向せん断応力分布と周方向せん断応力分布とを算出し、処理装置が接地領域内の各箇所おける接地力分布、幅方向せん断応力分布および/または周方向せん断応力分布を合成する場合には、タイヤのトレッド表面の周方向の複数箇所における接地力分布、幅方向せん断応力分布および/または周方向せん断応力分布を得ることができる。
【0018】
本発明の一態様のタイヤ接地特性計測システムは、前記タイヤ接地特性計測装置と、車両特性計測装置と、実車挙動のシミュレータとを備えるタイヤ接地特性計測システムであって、前記車両特性計測装置は、車体と車輪とを有する試験用車両と、架台装置と、制御器とを備え、前記架台装置は、前記試験用車両が載置される支持部と、計測器とを備え、前記支持部は、前記車体と前記車輪とを独立に変位させることが可能であり、前記計測器は、前記車体の変位量および/または作用力と、前記車輪の変位量および/または作用力とを計測し、前記制御器は、前記支持部によって前記車体に付与される変位量と、前記支持部によって前記車輪に付与される変位量とを制御し、前記処理装置は、前記計測器の計測データを用いることによって実車の走行時の運動状態を予測し、予測された前記運動状態に基づいて、タイヤ姿勢の前記過渡的な変化を前記タイヤに再現する。
つまり、本発明の一態様のタイヤ接地特性計測システムでは、処理装置が計測器の計測データを用いることによって実車の走行時の運動状態を予測し、その運動状態に基づいて、タイヤ姿勢の過渡的な変化をタイヤに再現する。
そのため、本発明の一態様のタイヤ接地特性計測システムによれば、計測器の計測データが用いられない場合とは異なり、例えばサスペンションなどの車両特性を反映させたタイヤ接地特性を得ることができる。
【0019】
本発明の一態様のタイヤ接地特性計測システムにおける、前記車両特性計測装置は、前記処理装置によって算出される前記タイヤ接地特性から予測される車両特性を前記試験用車両に反映し、前記計測器は、前記車両特性が反映された前記試験用車両の前記車体および前記車輪の変位量および/または作用力を計測し、前記車両特性が反映された前記計測器の計測データに基づいて、前記ドラム用駆動手段による前記回転ドラムの回転速度の変更、前記タイヤ位置制御手段による前記回転ドラムに対する前記タイヤの位置の変更、前記タイヤ用駆動手段による前記タイヤの回転速度の変更、および、前記タイヤ角制御手段による前記タイヤの角度の変更の少なくともいずれかが行われてもよい。
処理装置によって算出されるタイヤ接地特性から予測される車両特性が試験用車両に反映される場合には、処理装置によって算出されるタイヤ接地特性から予測される車両特性が試験用車両に反映されない場合よりも高精度な車両特性を車両特性計測装置が計測することができる。
【0020】
本発明の一態様のタイヤ接地特性計測システムでは、前記試験用車両の電子制御ユニットに対して、予測された前記車両特性に基づく指令を送信することにより前記試験用車両の電子制御ユニットに走行状態を認識させてもよい。
試験用車両の電子制御ユニットに対して、予測された車両特性に基づく指令を送信することにより試験用車両の電子制御ユニットに走行状態を認識させる場合には、試験用車両の電子制御ユニットに走行状態を認識させない場合よりも高精度なタイヤ接地特性を得ることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、実車の走行時のタイヤ姿勢の過渡的な変化が発生している期間中の各時点における実車のタイヤ姿勢に対応するタイヤ接地特性を得ることができるタイヤ接地特性計測方法、タイヤ接地特性計測装置およびタイヤ接地特性計測システムを提供することができる。
【0022】
本願においてタイヤの接地特性とは、上記センサから得られる計測値および計測値から算出される各種応力および摩耗エネルギーやすべり量等をいい、接地力分布、各種応力分布、すべり分布等を含むものをいう。
前記運動状態および車両特性には、車両位置、操舵角、ピッチ軸、ロール軸、ヨー軸まわりのモーメント、車両速度、車両の慣性パラメータ、接地力、タイヤの軸力等に代表される各種パラメータを含むことができ、タイヤの軸力としてはタイヤの回転軸に作用する6分力を少なくとも含むものことができる。6分力とはタイヤの固定軸に作用するX軸、Y軸、Z軸方向に沿う力と、X軸周りに作用するモーメント、Y軸周りに作用するモーメント、Z軸周りに作用するモーメントを指す。
また、前記電子制御ユニットに対して送信される予測された車両特性にもとづく指令には、ホイールスピード、ヨーレート、車両加速度、タイヤの軸上の加速度、前方レーダおよびカメラ等の各種車載されるセンサに代わる模擬信号を含むものとする。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】第1実施形態のタイヤ接地特性計測装置の一例の構成図である。
【
図2】タイヤに付与されるキャンバ角などを説明するための図である。
【
図3】タイヤのトレッド表面のうちの回転ドラムに接触する接地領域などを説明するための図である。
【
図4】第2実施形態のタイヤ接地特性計測装置の処理装置によって算出されたタイヤ接地特性の一例を説明するための図である。
【
図5】第2実施形態のタイヤ接地特性計測装置の処理装置によって
図4に示すようなタイヤ接地特性が算出される手法の一例を説明するための図である。
【
図6】第2実施形態のタイヤ接地特性計測装置によってタイヤに再現される実車の走行時のタイヤ姿勢の過渡的な変化の一例などを説明するための図である。
【
図7】
図6に示す例に測定開始時の回転ドラム位置を180°ずらして計測位置を追加した図である。
【
図8】
図7に示す例に更に計測点を追加した時の図である。
【
図9】第2実施形態のタイヤ接地特性計測装置のタイヤ角制御手段がタイヤに付与する接地力Fz[N]、キャンバ角CA[deg]およびスリップ角SA[deg]の時間変化を示す図である。
【
図10】第1実施形態のタイヤ接地特性計測装置の処理装置によって算出された幅方向せん断応力分布と、比較例としての従来のタイヤ接地特性計測装置によって算出された幅方向せん断応力分布との違いを示す図である。
【
図11】第1実施形態のタイヤ接地特性計測装置の処理装置によって算出された接地力分布と、比較例としての従来のタイヤ接地特性計測装置によって算出された接地力分布との違いを示す図である。
【
図12】第1実施形態のタイヤ接地特性計測装置100において実行される処理の一例を説明するためのフローチャートである。
【
図13】第3実施形態のタイヤ接地特性計測システムの一例の構成図である。
【
図14】第2実施形態のタイヤ接地特性計測システムにおいて実行される処理の一例を説明するためのシーケンス図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照し、本発明のタイヤ接地特性計測方法、タイヤ接地特性計測装置およびタイヤ接地特性計測システムの実施形態について説明する。
【0025】
[第1実施形態]
図1は第1実施形態のタイヤ接地特性計測装置100の一例の構成図である。
図2はタイヤTに付与されるキャンバ角CAなどを説明するための図である。
図3はタイヤTのトレッド表面T1のうちの回転ドラム1に接触する接地領域T1Aなどを説明するための図である。
【0026】
図1~
図3に示す例では、第1実施形態のタイヤ接地特性計測装置100が、タイヤTの接地特性の計測を行う。タイヤ接地特性計測装置100は、回転ドラム1と、ドラム用駆動手段2と、応力測定手段3と、処理装置4と、タイヤ位置制御手段5と、タイヤ用駆動手段6と、タイヤ角制御手段7と、タイヤ空気圧変更手段10とを備えている。
回転ドラム1は、回転可能に構成された概略円柱形状のドラムである。
図2および
図3に示すように、回転ドラム1の外周面には、タイヤTのトレッド表面T1が当接させられる。
ドラム用駆動手段2は、回転ドラム1を回転駆動する例えばモータなどである。ドラム用駆動手段2はドラム軸2Aを備えている。ドラム軸2Aは回転ドラム1に連結されている。ドラム用駆動手段2は、回転ドラム1を正逆いずれの向きにも回転駆動することができ、また、回転ドラム1の回転速度を調整することができる。
図1~
図3に示す例では、回転ドラム1がアウトサイドドラム型であるが、他の例では、回転ドラム1がインサイドドラム型であってもよい。
【0027】
図1~
図3に示す例では、応力測定手段3が、回転ドラム1上に埋設され、回転ドラム1に当接するタイヤTにかかる応力を測定する。応力測定手段3は、例えばタイヤTにかかる接地力と幅方向せん断応力と周方向せん断応力とを測定可能な3分力センサである。
図1~
図3に示す例では、応力測定手段3が3分力センサであるが、他の例では、応力測定手段3が、接地力を測定するセンサと、幅方向せん断応力と周方向せん断応力とを測定する2軸センサとを組み合わせたものであってもよい。
【0028】
図1~
図3に示す例では、処理装置4が、応力測定手段3によって測定された応力に基づいて、タイヤTのトレッド表面T1のうちの回転ドラム1に接触する接地領域T1A(
図3参照)における特性であるタイヤ接地特性を算出する。詳細には、処理装置4が、タイヤ接地特性として、接地領域T1Aにおける接地力分布、幅方向せん断応力分布、周方向せん断応力分布などを算出する。
処理装置4は、例えば、CPU(中央演算処理装置)、メモリ等を備えたマイクロコンピュータである。処理装置4のメモリには、測定結果を解析するための、データ解析プログラムが格納される。データ解析プログラムとしては、例えば、汎用数値解析プログラムを用いることができる。
処理装置4は、算出された接地領域T1Aにおける接地力分布、幅方向せん断応力分布、周方向せん断応力分布などを可視化処理してモニタ(図示せず)に表示することができ、タイヤの接地特性を車両モデルに反映させることにより、車両挙動をシミュレーションすることができる。
図1~
図3に示す例では、処理装置4が、上述したデータ解析プログラムを備えているが、他の例では、処理装置4が、上述したデータ解析プログラムとは異なるデータ解析プログラムを備えていてもよい。
【0029】
図1~
図3に示す例では、タイヤ位置制御手段5が、回転ドラム1に対するタイヤTの位置を制御する。詳細には、タイヤ位置制御手段5は、回転ドラム1に対するタイヤTの位置を回転ドラム1の回転軸方向および/または径方向に調整可能である。
図1~
図3に示す例では、タイヤ位置制御手段5が、回転ドラム1に対するタイヤTの位置を調整するが、他の例では、タイヤTに対する回転ドラム1の位置が調整されてもよい。
【0030】
図1~
図3に示す例では、タイヤ位置制御手段5が、タイヤTに連結されたスピンドル軸5Aと、タイヤ用駆動手段6と、タイヤ角制御手段7とを備えている。
タイヤ用駆動手段6は、タイヤTを回転駆動する例えばモータなどである。タイヤ用駆動手段6は、タイヤTを正逆いずれの向きにも回転駆動することができ、また、タイヤTの回転速度を調整することができる。
タイヤ角制御手段7は、回転ドラム1に対するタイヤTの角度を制御する。詳細には、タイヤ角制御手段7は、タイヤTにキャンバ角CAを付与することができる。また、タイヤ角制御手段7は、タイヤTにスリップ角SAを付与することができる。また、タイヤ角制御手段7は、回転ドラム1にタイヤTを当接させることによって、タイヤTに接地力を付与することができる。つまり、タイヤ角制御手段7は、タイヤTのキャンバ角CA、スリップ角SAおよび/または接地力を調整することによって、実車のコーナリング時などのタイヤ姿勢をタイヤTに再現することができる。
タイヤTに付与されるキャンバ角CAおよびスリップ角SAのいずれか一方または両方を0°に調整することもできる。タイヤTに付与されるキャンバ角CAおよびスリップ角SAの両方が0°に調整される場合には、実車の直進時のタイヤ姿勢がタイヤTに再現される。
【0031】
上記において得られたタイヤの接地特性をシミュレータ(例えば
図13に示す車両挙動シミュレーション装置300)に反映させることにより実車の挙動をより正確に再現することが可能となる。
【0032】
本発明者は、鋭意研究において、第1実施形態のタイヤ接地特性計測装置100によって、
図6(B)に示すレーンチェンジが
図9に示す期間中に実行される場合における実車のタイヤ姿勢の過渡的な変化を、
図1~
図3に示すタイヤTに再現した。
【0033】
本発明者は、鋭意研究において、第1実施形態のタイヤ接地特性計測装置100の処理装置4によって算出される時刻A、B、C、D、E(
図9参照)におけるタイヤ接地特性と、従来のタイヤ接地特性計測装置によって算出される時刻A、B、C、D、Eにおけるタイヤ接地特性とが異なることを見い出した。
【0034】
図10は第1実施形態のタイヤ接地特性計測装置100の処理装置4によって算出された幅方向せん断応力分布と、比較例としての従来のタイヤ接地特性計測装置によって算出された幅方向せん断応力分布との違いを示す図である。
詳細には、
図10(A)の上側は、従来のタイヤ接地特性計測装置によって算出された時刻Aにおける幅方向せん断応力分布を示しており、
図10(A)の下側は、第1実施形態のタイヤ接地特性計測装置100の処理装置4によって算出された時刻Aにおける幅方向せん断応力分布を示している。
第1実施形態のタイヤ接地特性計測装置100では、
図6(B)に示すレーンチェンジ中における実車のタイヤ姿勢の過渡的な変化をタイヤTに再現するために、時刻t10から時刻t70までの期間中、ドラム用駆動手段2と、タイヤ位置制御手段5と、タイヤ用駆動手段6と、タイヤ角制御手段7とが動作した。更に、処理装置4は、過渡的な変化が発生している期間(時刻t10~時刻t70)中の時刻Aにおける実車の挙動を再現した過渡的なタイヤ姿勢に対応する幅方向せん断応力分布を算出した。
一方、比較例としての従来のタイヤ接地特性計測装置では、タイヤ角制御手段7がタイヤTに付与する接地力Fz[N]、キャンバ角CA[deg]およびスリップ角SA[deg]が、時刻Aの時点の値に維持されている状態で、処理装置4が時刻Aにおける幅方向せん断応力分布を算出した。
同様に時刻B、C、D、Eについても実車挙動を再現した過渡的なタイヤ姿勢に対応する幅方向せん断応力分布(第1実施形態)および各時刻のタイヤ姿勢に固定した幅方向せん断応力分布(比較例)を算出した。
図10に示すように、第1実施形態のタイヤ接地特性計測装置100の処理装置4が算出した時刻A、B、C、D、Eの幅方向せん断応力分布は、比較例としての従来のタイヤ接地特性計測装置が算出した時刻A、B、C、D、Eの幅方向せん断応力分布とは異なるものになった。
【0035】
図11は第1実施形態のタイヤ接地特性計測装置100の処理装置4によって算出された接地力分布と、比較例としての従来のタイヤ接地特性計測装置によって算出された接地力分布との違いを示す図である。
詳細には、
図11(A)の上側は、従来のタイヤ接地特性計測装置によって算出された時刻Aにおける接地力分布を示しており、
図11(A)の下側は、第1実施形態のタイヤ接地特性計測装置100の処理装置4によって算出された時刻Aにおける接地力分布を示している。
上述した幅方向のせん断応力分布と同様に、時刻B、C、D、Eについても実車挙動を再現した過渡的なタイヤ姿勢に対応する接地力分布(第1実施形態)および各時刻のタイヤ姿勢に固定して接地力分布(比較例)を算出した。
図11に示すように、第1実施形態のタイヤ接地特性計測装置100の処理装置4が算出した各時刻の接地力分布(接地面積)は、比較例としての従来のタイヤ接地特性計測装置が算出した時刻の接地力分布(接地面積)とは異なるものになった。
【0036】
図12は第1実施形態のタイヤ接地特性計測装置100において実行される処理の一例を説明するためのフローチャートである。
図12に示す例では、ステップS11において、処理装置4が、実車の走行時のタイヤ姿勢の過渡的な変化をタイヤTに再現する。タイヤ姿勢の過渡的な変化は実車をモデル化したドライビングシミュレータ(例えば
図13に示す車両挙動シミュレーション装置300)から入力するものであって良く、前記ドライビングシミュレータにタイヤ接地特性を反映させることにより、ドライビングシミュレータにおいて実車に近い挙動を再現することができるものとすることにより、より正確なタイヤ姿勢を得ることができるものとしてもよい。
詳細には、ステップS11では、回転ドラム1の回転速度が、ドラム用駆動手段2によって調整される。また、回転ドラム1に対するタイヤTの位置が、タイヤ位置制御手段5によって回転ドラム1の回転軸方向および/または径方向に調整される。また、タイヤTの回転速度が、タイヤ用駆動手段6によって調整される。また、タイヤTのキャンバ角、スリップ角および/または接地力が、タイヤ角制御手段7によって調整される。また、タイヤTの空気圧がタイヤ空気圧変更手段10によって調整される。
【0037】
次いで、ステップS12において、応力測定手段3が、回転ドラム1に当接するタイヤTにかかる応力を測定する。詳細には、応力測定手段3が、タイヤTにかかる接地力、幅方向せん断応力、周方向せん断応力等を測定する。
詳細には、ステップS12では、ドラム用駆動手段2が回転ドラム1を回転駆動すると共に、タイヤ用駆動手段6がタイヤTを回転駆動することによって、応力測定手段3を、タイヤTのトレッド表面T1の周方向の複数箇所に接触させる。応力測定手段3は、タイヤTのトレッド表面T1の周方向の複数箇所においてタイヤTにかかる応力を測定する。
【0038】
次いで、ステップS13において、処理装置4は、応力測定手段3によって測定された応力に基づいて、タイヤTのトレッド表面T1のうちの回転ドラム1に接触する接地領域T1Aにおける特性であるタイヤ接地特性を算出する。
ステップS13において算出されるタイヤ接地特性は、実車の走行時のタイヤ姿勢の過渡的な変化が発生している期間中の各時点(例えば時刻A、Bなど)における実車のタイヤ姿勢に対応するタイヤTのタイヤ接地特性である。
【0039】
換言すれば、実車試験では路面の状態や温度、気温、気圧等の環境条件の変化を制御することは困難であると共に、コストおよび労力と時間を必要とするが、第1実施形態におけるステップS11~S13を繰り返し行うことにより、タイヤ接地特性計測装置100では、従来のドラム試験において計測することができなかった過渡的なタイヤ力を、タイヤの姿勢角を過渡的に変動させることによって、計測することができる。そのため、第1実施形態のタイヤ接地特性計測装置100では、実車走行時のタイヤ評価を動的(過渡的)に行うことができる。
第1実施形態のタイヤ接地特性計測装置100の処理装置4は、応力測定手段3による測定結果を相互に関連させることにより、タイヤTの接地領域T1Aの任意の位置における摩擦係数μ等を算出し、タイヤTの接地領域T1A内の摩擦係数μの分布つまり滑り分布を得ることもできる。
また、第1実施形態のタイヤ接地特性計測装置100では、例えば、測定の際に、応力測定手段3がタイヤTの接地領域T1Aの同一位置に対向することにより、タイヤTの同一位置について複数の測定結果が得られた場合には、それらの測定結果を平均したものが測定結果として用いられる。
【0040】
[第2の実施形態]
第1実施形態のタイヤ接地特性計測装置100にタイヤ角制御手段7と、ドラム側回転位置検出手段8が追加されたものであり、タイヤTのトレッド表面T1における特定の接地領域T1Aにおけるタイヤの接地特性を計測することができるものとすることができる。第1の実施形態とは異なりトレッドパターンを詳細に反映したタイヤの接地特性を計測することができるものである。
図1~
図3に示す例では、ドラム側回転位置検出手段8が、回転ドラム1の回転位置を検出する。詳細には、ドラム側回転位置検出手段8は、回転ドラム1上に埋設された応力測定手段3の回転位置を検出する。
図1~
図3に示す例では、回転ドラム1とタイヤTとが接触する荷重直下位置が、基準位置B(
図3参照)に設定されている。ドラム側回転位置検出手段8は、基準位置Bに対する応力測定手段3の回転位置を検出する。
ドラム側回転位置検出手段8は、例えばドラム用駆動手段2のドラム軸2Aに配置されたロータリーエンコーダなどである。
【0041】
図1~
図3に示す例では、タイヤ側回転位置検出手段9が、タイヤTの回転位置を検出する。詳細には、タイヤ側回転位置検出手段は、基準位置Bに対するタイヤTの回転位置を検出する。タイヤ側回転位置検出手段は、例えばタイヤ位置制御手段5のスピンドル軸5Aに配置されたロータリーエンコーダなどである。
ドラム側回転位置検出手段8によって検出された基準位置Bに対する応力測定手段3の回転位置と、タイヤ側回転位置検出手段9によって検出された基準位置Bに対するタイヤTの回転位置とは、処理装置4に入力される。処理装置4は、基準位置Bに対する応力測定手段3の回転位置と、基準位置Bに対するタイヤTの回転位置とに基づいて、応力測定手段3が当接するタイヤTの周方向位置を算出する。
【0042】
図1~
図3に示す例では、タイヤ空気圧変更手段10は、例えばタイヤ角制御手段7がタイヤTのキャンバ角、スリップ角および/または接地力を変更している期間中などにタイヤTの空気圧を変更する機能を有し、いわゆるパンク発生時の挙動等を把握することができる。
【0043】
図4は第2実施形態のタイヤ接地特性計測装置100の処理装置4によって算出されたタイヤ接地特性(タイヤTのトレッド表面T1のうちの回転ドラム1に接触する接地領域T1Aにおける特性)の一例を説明するための図である。詳細には、
図4は処理装置4によって算出されて可視化処理されたタイヤ接地特性の一例を説明するための図である。
図4(A)および
図4(B)の横軸はタイヤTの幅方向を示しており、
図4(A)および
図4(B)の縦軸はタイヤTの周方向を示している。
図4(A)および
図4(B)の上側はタイヤTの蹴り側を示しており、
図4(A)および
図4(B)の下側はタイヤTの踏み側を示している。
図4(A)に示す例では、タイヤ角制御手段7によって実車の直進時のタイヤ姿勢がタイヤTに再現され、その時の接地領域T1A内における接地力分布が示されている。
図4(A)に示す例では、実車の車速が60[kph]に設定され、スリップ角SAが0[°]に設定されている。
図4(A)に示す例では、接地領域T1Aのうちの回転ドラム1とタイヤTとが接触する荷重直下位置における接地力が、他の位置における接地力よりも大きくなっている。
図4(B)に示す例では、タイヤ角制御手段7によって実車のコーナリング時のタイヤ姿勢がタイヤTに再現され、その時の接地領域T1A内における接地力分布が示されている。
図4(B)に示す例では、実車の車速が60[kph]に設定され、スリップ角SAが6[°]に設定されている。
図4(B)に示す例では、接地領域T1Aのうちのコーナリング外側(
図4(B)の左側)における接地力が、コーナリング内側(
図4(B)の右側)における接地力よりも大きくなっている。
【0044】
図5は第2実施形態のタイヤ接地特性計測装置100の処理装置4によって
図4に示すようなタイヤ接地特性が算出される手法の一例を説明するための図である。
詳細には、
図5(A)はタイヤTのトレッド表面T1の接地領域T1Aの踏み側端部(Leading edge)と、蹴り側端部(Trailing edge)とを説明するための図である。
図5(B)はタイヤTのトレッド表面T1の周方向の「5deg」位置が応力測定手段3に当接した場合に、応力測定手段3によって測定される「5deg」位置の応力を概念的に説明するための図である。
図5(C)はタイヤTのトレッド表面T1の周方向の「-5deg」位置が応力測定手段3に当接した場合に、応力測定手段3によって測定される「-5deg」位置の応力を概念的に説明するための図である。
図5(D)は応力測定手段3によって測定されたタイヤTのトレッド表面T1の周方向の複数の位置の応力データを合成する処理を概念的に説明するための図である。
図5(E)は処理装置4によって可視化された接地領域T1Aの接地力分布の一例を示す図である。
【0045】
図5に示す例では、処理装置4が、タイヤTのトレッド表面T1のうちの応力測定手段3を踏んだ位置(応力測定手段3に当接した周方向位置)を記録する。応力測定手段3は、基準位置B(荷重直下位置)においてタイヤTのトレッド表面T1に当接するのみならず、基準位置B以外の位置においてもタイヤTのトレッド表面T1に当接する。つまり、応力測定手段3は、接地領域T1Aの踏み側端部(Leading edge)に当接してから、接地領域T1Aの蹴り側端部(Trailing edge)に当接するまでの期間中、タイヤTのトレッド表面T1に当接し続ける。そのため、応力測定手段3は、踏み側端部から蹴り側端部までの間の応力の変化を取得することができる。
詳細には、「Tire Angle=0deg」(
図5(A)参照)の位置の応力が応力測定手段3によって測定されるのみならず、
図5(A)中の「5deg」の位置に相当する「Tire Posi=5deg」(
図5(B)参照)の位置の応力も応力測定手段3によって測定される。また、
図5(A)中の「-5deg」の位置に相当する「Tire Posi=-5deg」(
図5(C)参照)の位置の応力も応力測定手段3によって測定される。
更に、タイヤTのトレッド表面T1の周方向のすべての位置の応力が応力測定手段3によって測定される。処理装置4は、一連の走行挙動中におけるタイヤTのトレッド表面T1の周方向のすべての位置が応力測定手段3に当接するまで記録を続ける。
詳細には、回転ドラムの全周上をカバーできるように応力測定手段を配置することも可能であるが、過渡的な変化が発生している期間中におけるタイヤTのトレッド表面T1のすべての接地位置を、応力測定手段3に当接させるために、例えば制動力をタイヤTに対して付与することもできる。それにより、タイヤTの周速度と回転ドラム1の周速度とを異ならせることができ、タイヤTのトレッド表面T1の周方向のすべての位置を、応力測定手段3に対向させることもできる。いずれの方法により計測するにせよドラムの接地個所の複数個所でドラムの幅方向に応力測定手段を配置したほうがより効率的に測定を行うことができる。なお、幅方向に一列に複数個設置されるセンサを複数列互い違いになるように設置することによって、計測時間を短縮できるほか、応力分布等の解像度を向上させることができる。また、応力測定手段の配置位置を少なくすることにより測定装置自体を簡素化することができる。
【0046】
図6は第2実施形態のタイヤ接地特性計測装置100によってタイヤTに再現される実車の走行時のタイヤ姿勢の過渡的な変化の一例などを説明するための図である。
詳細には、
図6(A)は第2実施形態のタイヤ接地特性計測装置100のタイヤ角制御手段7がタイヤTに付与する接地力Fz[N]、キャンバ角CA[deg]およびスリップ角SA[deg]の時間変化を示す図である。
図6(A)において横軸は時間(時刻)[sec]を示しており、縦軸は接地力Fz[N]、キャンバ角CA[deg]およびスリップ角SA[deg]を示している。
図6(B)は
図6(A)に示す接地力Fz[N]、キャンバ角CA[deg]およびスリップ角SA[deg]の時間変化に相当する実車の走行状態を示す。
図6に示す例では、
図6(A)の横軸に示す0[sec](時刻t10)から5[sec](時刻t70)までの5秒間に、実車が、
図6(B)の左側車線から右側車線へのレーンチェンジを実行する。
つまり、
図6に示す例では、
図6(B)に示すレーンチェンジ中における実車のタイヤ姿勢の過渡的な変化をタイヤTに再現するために、
図6(A)に示すように、タイヤ角制御手段7が、タイヤTに付与される接地力Fz[N]、キャンバ角CA[deg]およびスリップ角SA[deg]を、時間の経過に応じて変更する。すなわち、タイヤ角制御手段7がタイヤTのキャンバ角CA[deg]、スリップ角SA[deg]および/または接地力Fz[N]を変更することによって、実車の走行時のタイヤ姿勢の過渡的な変化を再現する。
詳細には、
図6に示す例では、回転ドラム1の周上表面の幅方向に応力測定手段を一つ配置した場合の測定方法を例示する。時刻t10、時刻t30、時刻t50および時刻t70におけるタイヤTのトレッド表面T1の応力を応力測定手段3によって測定するために、時刻t10に、応力測定手段3が、基準位置B(荷重直下位置)に配置される。次いで、回転ドラム1が1回転し、時刻t30に、応力測定手段3が、基準位置Bに位置する。次いで、回転ドラム1が1回転し、時刻t50に、応力測定手段3が、基準位置Bに位置する。次いで、回転ドラム1が1回転し、時刻t70に、応力測定手段3が、基準位置Bに位置する。その結果、時刻t10、時刻t30、時刻t50および時刻t70におけるタイヤTのトレッド表面T1の応力を応力測定手段3によって測定することができる。
【0047】
図7は
図6に示す例に測定開始時の回転ドラム位置を180°ずらして計測位置を追加した図である。詳細には、
図7(A)は、
図6(A)と同様に、第1実施形態のタイヤ接地特性計測装置100のタイヤ角制御手段7がタイヤTに付与する接地力Fz[N]、キャンバ角CA[deg]およびスリップ角SA[deg]の時間変化を示している。
図7(B)は、
図6(B)と同様に、
図7(A)に示す接地力Fz[N]、キャンバ角CA[deg]およびスリップ角SA[deg]の時間変化に相当する実車の走行状態を示す。
図7において、時刻t20は、回転ドラム1が時刻t10の状態から180°回転した時刻である。時刻t40は、回転ドラム1が時刻t30の状態から180°回転した時刻である。時刻t60は、回転ドラム1が時刻t50の状態から180°回転した時刻である。
図7に示す例では、時刻t20、時刻t40および時刻t60におけるタイヤTのトレッド表面T1の応力を応力測定手段3によって測定するために、時刻t10に、応力測定手段3が、回転ドラム1の中心を隔てて基準位置B(荷重直下位置)の反対側に配置される。次いで、回転ドラム1が0.5回転し、時刻t20に、応力測定手段3が、基準位置Bに位置する。次いで、回転ドラム1が1回転し、時刻t40に、応力測定手段3が、基準位置Bに位置する。次いで、回転ドラム1が1回転し、時刻t60に、応力測定手段3が、基準位置Bに位置する。その結果、時刻t20、時刻t40および時刻t60におけるタイヤTのトレッド表面T1の応力を応力測定手段3によって測定することができる。
【0048】
図8は
図7に示す例に更に計測点を追加した時の図である。詳細には、
図8(A)は、
図6(A)および
図7(A)と同様に、第1実施形態のタイヤ接地特性計測装置100のタイヤ角制御手段7がタイヤTに付与する接地力Fz[N]、キャンバ角CA[deg]およびスリップ角SA[deg]の時間変化を示している。
図8(B)は、
図6(B)および
図7(B)と同様に、
図8(A)に示す接地力Fz[N]、キャンバ角CA[deg]およびスリップ角SA[deg]の時間変化に相当する実車の走行状態を示す。
【0049】
上述の如く過渡的な変化を伴うすべての接地位置におけるタイヤの接地特性を測定したうえで、
図5に示す例では、
図5(D)に示すように、応力測定手段3によって測定されたタイヤTのトレッド表面T1の周方向の複数の位置の応力データが、処理装置4によって合成される。次いで、
図5(E)に示すように、処理装置4は、可視化された接地領域T1Aの例えば接地力分布を生成することができる。また、第2実施形態のタイヤ接地特性計測装置100では、ドラム側回転位置検出手段8およびタイヤ側回転位置検出手段9によって回転ドラム1の回転位置とタイヤTの回転位置とを同期させて計測することにより、パタン付きタイヤフットプリント計測(ラグ溝などを含む接地領域T1Aのタイヤ接地特性の算出)を実現することができる。
【0050】
図9は第2実施形態のタイヤ接地特性計測装置100のタイヤ角制御手段7がタイヤTに付与する接地力Fz[N]、キャンバ角CA[deg]およびスリップ角SA[deg]の時間変化を示す図である。
図9において、時刻Aは、
図8に示す時刻t23に相当する。時刻Bは、
図6~
図8に示す時刻t30に相当する。時刻Cは、
図8に示す時刻t32に相当する。時刻Dは、
図8に示す時刻t36に相当する。時刻Eは、
図8に示す時刻t44に相当する。
【0051】
本発明者の鋭意研究では、
図6(B)に示すレーンチェンジ中における実車のタイヤ姿勢の過渡的な変化をタイヤTに再現するために、第2実施形態のタイヤ接地特性計測装置100のタイヤ角制御手段7が、
図9に示すように、接地力Fz[N]、キャンバ角CA[deg]およびスリップ角SA[deg]を変化させて、タイヤTに付与した。
本発明者は、鋭意研究において、第2実施形態のタイヤ接地特性計測装置100の処理装置4によって算出される時刻A、B、C、D、Eにおけるタイヤ接地特性も、従来のタイヤ接地特性計測装置によって算出される時刻A、B、C、D、Eにおけるタイヤ接地特性とは異なることを見い出した。
【0052】
第2実施形態のタイヤ接地特性計測装置100においては、第1実施形態のタイヤ接地特性計測装置100と同様に、
図12に示す処理が実行されるが、タイヤ姿勢の過渡的な変化を再現する前提条件として、各々の計測点にドラムの回転位置およびタイヤの回転位置を駆動手段、制動手段等を用いることにより計測すべき基準位置Bと応力測定手段が合致するように調整される。
【0053】
[第3実施形態]
以下、本発明のタイヤ接地特性計測装置100の第3実施形態について説明する。
第3実施形態のタイヤ接地特性計測システム400が備えるタイヤ接地特性計測装置100は、後述する点を除き、上述した第1実施形態または第2実施形態のタイヤ接地特性計測装置100と同様に構成されている。従って、第3実施形態のタイヤ接地特性計測システム400によれば、後述する点を除き、上述した第1の実施形態または第2実施形態のタイヤ接地特性計測装置100と同様の効果を奏することができる。
【0054】
図13は第3実施形態のタイヤ接地特性計測システム400の一例の構成図である。
図13に示す例では、タイヤ接地特性計測システム400が、タイヤ接地特性計測装置100と、車両特性計測装置200と、車両挙動シミュレーション装置300とを備えている。
上述したように、
図13に示すタイヤ接地特性計測装置100は、第2実施形態のタイヤ接地特性計測装置100と同様に構成されている。
車両特性計測装置200は、車体203と車輪202とステアリングホイール205とを有する試験用車両201と、架台装置(サスペンション特性計測装置)210と、制御器(コンピュータ)220とを備えている。
架台装置210は、試験用車両201が載置される支持部214と、計測器215とを備えている。
支持部214は、車体203と車輪202とを独立に変位させることが可能である。詳細には、支持部214は、車体203と、車輪202とを、試験用車両201の前後方向、左右方向、上下方向、ピッチ方向およびロール方向に独立に変位させることができる。車両の走行中にタイヤに発生し得る前後力、横力、コーナリングフォース、スリップ率、スリップ角の発生が実現できるように、支持部214が車輪202に対して摺動可能であってよい。
計測器215は、車体203の変位量および/または作用力と、車輪202の変位量および/または作用力とを計測する。詳細には、計測器215は、支持部214に作用する作用力を計測する。また、計測器215は、車輪202のキャンバ角、トー角、舵角などを計測する。また、計測器215は、車軸(図示せず)に作用する力またはトルクを計測する。また、計測器215は、サスペンションのストローク、作用力を計測する。
制御器220は、支持部214によって車体203に付与される変位量と、支持部214によって車輪202に付与される変位量とを制御する。
図13に示す例では、ステアリングホイール205を駆動して車輪202の舵角を制御する機構が設けられているが、他の例では、ステアリングホイール205が備えられていなくてもよい。
【0055】
図13に示す例では、車両挙動シミュレーション装置300が、タイヤ接地特性計測装置100の処理装置4によって算出されたタイヤ接地特性と、車両特性計測装置200の計測器215によって計測された車体203の変位量および/または作用力、および、車輪202の変位量および/または作用力とに基づいて、実車の走行時の挙動を予測する。
車両挙動シミュレーション装置300は、実車の走行時の挙動をシミュレーションするコンピュータであり、演算処理手段としてのCPU、記憶手段としてのROM、RAMおよびHDD、通信手段としてのインターフェイスを含み、記憶手段に格納されたプログラムに基づいて動作する。また、車両挙動シミュレーション装置300には、キーボードやマウス等の入力手段やモニタ等の表示手段が含まれる。入力手段は、ハンドルおよびアクセル、ブレーキ等からなる運転状態を再現することもできる。作業者によって操作され、実車の走行時の挙動の予測に必要なパラメータ等が入力される。表示手段には、推定された実車の走行時の挙動などが表示される。
【0056】
図13に示す例では、車両挙動シミュレーション装置300が、計測器215の計測データを用いることによって実車の走行時の運動状態を予測する。タイヤ接地特性計測装置100の処理装置4およびタイヤ角制御手段7は、予測された運動状態に基づいて、タイヤ姿勢の過渡的な変化をタイヤTに再現する。
【0057】
更に、
図13に示す例では、車両特性計測装置200が、タイヤ接地特性計測装置100の処理装置4によって算出されたタイヤ接地特性から予測される車両特性を試験用車両201に反映することもできる。具体的には車両挙動シミュレーション装置300に各時点におけるタイヤ接地特性を入力することにより、車両挙動をより忠実に再現することが可能となる。計測器215は、処理装置4によって算出されたタイヤ接地特性が反映された試験用車両201の車体203および車輪202の変位量および/または作用力を計測する。
また、タイヤ接地特性計測装置100では、処理装置4によって算出されたタイヤ接地特性から予測される車両特性が反映された計測器215の計測データに基づいて、ドラム用駆動手段2による回転ドラム1の回転速度の変更、タイヤ位置制御手段5による回転ドラム1に対するタイヤTの位置の変更、タイヤ用駆動手段6によるタイヤTの回転速度の変更、および、タイヤ角制御手段7によるタイヤTの角度の変更の少なくともいずれかが行われる。
【0058】
また、
図13に示す例では、ドラム用駆動手段2による回転ドラム1の回転速度の変更、タイヤ位置制御手段5による回転ドラム1に対するタイヤTの位置の変更、タイヤ用駆動手段6によるタイヤTの回転速度の変更、および、タイヤ角制御手段7によるタイヤTの角度の変更の少なくともいずれかが行われた後に処理装置4によって算出されたタイヤ接地特性から予測される車両特性を反映させて、車両特性計測装置200の制御器220が、支持部214によって車体203に付与される変位量と、支持部214によって車輪202に付与される変位量とを制御することができる。
【0059】
図14は第3実施形態のタイヤ接地特性計測システム400において実行される処理の一例を説明するためのシーケンス図である。
図14に示す例では、ステップS51において、車両挙動シミュレーション装置300が、シミュレーションの前処理を開始する。
次いで、ステップS52において、タイヤ接地特性計測装置100が、待機位置に移動する。
また、ステップS53において、車両特性計測装置200が、待機位置に移動する。
次いで、ステップS54において、タイヤ接地特性計測装置100が、移動完了フラグを車両挙動シミュレーション装置300に送信する。
また、ステップS55において、車両特性計測装置200が、移動完了フラグを車両挙動シミュレーション装置300に送信する。
次いで、ステップS56において、車両挙動シミュレーション装置300が、タイヤ接地特性計測装置100から送信された移動完了フラグと、車両特性計測装置200から送信された移動完了フラグとを確認する。
【0060】
次いで、ステップS57において、車両挙動シミュレーション装置300が、シミュレーションの車両状態をリセットする。
次いで、ステップS58において、車両挙動シミュレーション装置300が、シミュレーションの車両の安定を確認する。
次いで、ステップS59において、車両挙動シミュレーション装置300が、シミュレーションを初期状態で待機する。
次いで、ステップS60において、車両挙動シミュレーション装置300が、タイヤ接地特性計測装置100に対して初期状態への移動指示を送信すると共に、車両特性計測装置200に対して初期状態への移動指示を送信する。
次いで、ステップS61において、タイヤ接地特性計測装置100が、車両挙動シミュレーション装置300からの指示に応じて移動する。
また、ステップS62において、車両特性計測装置200が、車両挙動シミュレーション装置300からの指示に応じて移動する。
【0061】
次いで、ステップS63において、タイヤ接地特性計測装置100が、車両挙動シミュレーション装置300と同期して動作するシミュレーション同期モードに移行する。
また、ステップS64において、車両特性計測装置200が、車両挙動シミュレーション装置300と同期して動作するシミュレーション同期モードに移行する。
次いで、ステップS65において、タイヤ接地特性計測装置100が、シミュレーション同期モードへの移行完了を示す移行完了フラグを車両挙動シミュレーション装置300に送信する。
また、ステップS66において、車両特性計測装置200が、シミュレーション同期モードへの移行完了を示す移行完了フラグを車両挙動シミュレーション装置300に送信する。
次いで、ステップS67において、車両挙動シミュレーション装置300が、タイヤ接地特性計測装置100から送信された移行完了フラグと、車両特性計測装置200から送信された移行完了フラグとを確認し、シミュレーションを開始する。
【0062】
次いで、ステップS67Aにおいて、車両挙動シミュレーション装置300が、シミュレーションの車両運動を計算する。
【0063】
次いで、ステップS68において、車両挙動シミュレーション装置300が、タイヤ接地特性計測装置100と、車両特性計測装置200の制御器220に指令値をおくる。同様にECU(電子制御ユニット)(図示せず)とに指令値を送信することが可能である。ECUは車両特性計測装置200の試験用車両201に搭載されているものを用いることができる。通常、車両の走行状態を把握するための各種センサからECUへ入力される信号に代わる模擬信号として、予測された前記車両特性に基づく指令値を用いることができる。
車両モデルからECUへ送信される指令値としては、ホイールスピード、ヨーレート、車両加速度、タイヤの軸上の加速度、前方レーダおよびカメラ等の各種センサに対して車両特性を補足する情報が含まれる。これらの情報をECUへ反映し、走行状態を試験用車両に認識させることより走行状態を精密に再現したシミュレーションを行うことができる。
また、ステップS69において、タイヤ接地特性計測装置100が、車両挙動シミュレーション装置300から送信された指令値に応じて(つまり、車両挙動シミュレーション装置300と同期して)動作する。詳細には、タイヤ接地特性計測装置100が、車両挙動シミュレーション装置300から得られる車両特性(特にタイヤの軸力)を反映して動作する。また、タイヤ接地特性計測装置100は、タイヤ接地特性のデータを車両挙動シミュレーション装置300に送信する。
また、ステップS70において、車両特性計測装置200が、車両挙動シミュレーション装置300から送信された指令値に応じて(つまり、車両挙動シミュレーション装置300と同期して)動作する。詳細には、車両特性計測装置200が、車両挙動シミュレーション装置300から得られる車両特性(特にタイヤの軸力)を反映して動作する。また、車両挙動シミュレーション装置300から送信された指令値を、試験用車両201に搭載されたECUに入力する。また、車両特性計測装置200は、計測データを車両挙動シミュレーション装置300に送信する。
つまり、ステップS68、S69、S70が並行して実行され、タイヤ接地特性計測装置100と車両特性計測装置200と車両挙動シミュレーション装置300とが同期して動作する。
次いで、ステップS70Aにおいて、車両挙動シミュレーション装置300が、タイヤ接地特性計測装置100と車両特性計測装置200とからデータ(タイヤ接地特性のデータおよび計測データ)を受信する。
次いで、ステップS70Bにおいて、車両挙動シミュレーション装置300は、シミュレーションの終了時間であるか否か、および、シミュレーションの車両の走行距離が走行予定距離に到達したか否かを判定する。
シミュレーションの終了時間でない場合、または、シミュレーションの車両の走行距離が走行予定距離に到達していない場合には、ステップS71に進む。一方、シミュレーションの終了時間である場合、かつ、シミュレーションの車両の走行距離が走行予定距離に到達した場合には、ステップS67Aに戻る。
【0064】
ステップS71において、車両挙動シミュレーション装置300は、シミュレーションを終了する。
それに伴って、ステップS72において、タイヤ接地特性計測装置100の動作が、内部指令に応じた動作に切り替わる。
また、ステップS73において、車両特性計測装置200の動作が、内部指令に応じた動作に切り替わる。
次いで、ステップS74において、タイヤ接地特性計測装置100が、待機位置に移動する。
また、ステップS75において、車両特性計測装置200が、待機位置に移動する。
【0065】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上記した実施形態や各例を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0066】
1…回転ドラム
2…ドラム用駆動手段
2A…ドラム軸
3…応力測定手段
4…処理装置
5…タイヤ位置制御手段
5A…スピンドル軸
6…タイヤ用駆動手段
7…タイヤ角制御手段
8…ドラム側回転位置検出手段
9…タイヤ側回転位置検出手段
10…タイヤ空気圧変更手段
100…タイヤ接地特性計測装置
200…車両特性計測装置
201…試験用車両
202…車輪
203…車体
205…ステアリングホイール
210…架台装置
214…支持部
215…計測器
220…制御器
300…車両挙動シミュレーション装置
T…タイヤ
T1…トレッド表面
T1A…接地領域