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特許7161401アミロスフェロイド(ASPD)様構造体及び医薬組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-18
(45)【発行日】2022-10-26
(54)【発明の名称】アミロスフェロイド(ASPD)様構造体及び医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   C12P 21/02 20060101AFI20221019BHJP
   A61K 38/16 20060101ALI20221019BHJP
   A61K 39/00 20060101ALI20221019BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20221019BHJP
   C07K 14/47 20060101ALI20221019BHJP
   C07K 16/18 20060101ALI20221019BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20221019BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20221019BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20221019BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20221019BHJP
【FI】
C12P21/02 C
A61K38/16
A61K39/00 B
A61K39/00 H
A61P25/28
C07K14/47
C07K16/18 ZNA
G01N33/15 Z
G01N33/50 Z
G01N33/53 D
C12N15/12
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2018512059
(86)(22)【出願日】2017-04-13
(86)【国際出願番号】 JP2017015089
(87)【国際公開番号】W WO2017179646
(87)【国際公開日】2017-10-19
【審査請求日】2020-04-10
(31)【優先権主張番号】P 2016081030
(32)【優先日】2016-04-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】300061835
【氏名又は名称】公益財団法人神戸医療産業都市推進機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】星 美奈子
(72)【発明者】
【氏名】荒井 由江
【審査官】木原 啓一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-267748(JP,A)
【文献】特表2006-505272(JP,A)
【文献】特開2008-291025(JP,A)
【文献】国際公開第2013/094614(WO,A1)
【文献】欧州特許出願公開第02404612(EP,A1)
【文献】日本分子生物学会年会プログラム・要旨集,2013年,Vol.36,p.1P-0914,全文
【文献】Nature,2002年,Vol.416, No.6880,pp.535-539,Abstract,p.538
【文献】J. Biol. Chem.,2009年,Vol.284, No.47,pp.32895-32905,Figure2,p.32896,32898
【文献】J. Phys. Chem. B,2011年,Vol.115, No.5,pp.1282-1288,ABSTRACT
【文献】J. Neurosci.,2008年,Vol.28, No.46,pp.11950-11958,ABSTRACT、Figure1,3,4
【文献】Ann. Neurol.,2010年,Vol.68, No.2,pp.220-230,Abstract
【文献】J. Biol. Chem.,1995年,Vol.270, No.16,pp.9564-9570,Abstract
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞分泌型アミロスフェロイド(ASPD)様構造体の製造方法であって、
アミロイド前駆体タンパク質(APP)又はアミロイドβタンパク質(Aβ)配列を含むその一部を発現する細胞を培養液中で培養し、該培養液中に細胞分泌型ASPD様構造体を得る工程、及び
前記培養液中から細胞分泌型ASPD様構造体を回収する工程を含む、製造方法。
【請求項2】
前記細胞分泌型ASPD様構造体は、分子量が100kDa以上である、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記細胞が、APP又はAβ配列を含むその一部の発現系が導入された細胞である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記APPは、野生型、又は、1若しくは複数のアミノ酸変異を有する前記野生型の変異体である、請求項1から3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記APPは、Aβアミノ酸配列のGXXXGモチーフにおけるグリシンにアミノ酸変異を有する変異体のAPPである、請求項1から4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の製造方法により製造される、ASPDに特異的な抗体に対して抗原性を示、細胞分泌型ASPD様構造体。
【請求項7】
請求項6に記載の細胞分泌型ASPD様構造体を有効成分とする医薬組成物。
【請求項8】
請求項6に記載の細胞分泌型ASPD様構造体を含むワクチン。
【請求項9】
請求項6に記載の細胞分泌型ASPD様構造体、及び、抗ASPD抗体を含むキット。
【請求項10】
ワクチン製造における請求項6に記載の細胞分泌型ASPD様構造体の使用。
【請求項11】
請求項6に記載の細胞分泌型ASPD様構造体の、ASPD測定における標準物質としての使用。
【請求項12】
請求項6に記載の細胞分泌型ASPD様構造体と、薬学的に許容される腑形剤とを組み合わせることを含む、医薬組成物又はワクチンの製造方法。
【請求項13】
請求項6に記載の細胞分泌型ASPD様構造体と、抗ASPD抗体とを組み合わせることを含む、キットの製造方法。
【請求項14】
アミロイド前駆体タンパク質(APP)又はアミロイドβタンパク質(Aβ)配列を含むその一部を発現する細胞を培養する培養液にテスト化合物を添加すること、及び、
ASPD特異的抗体に対して抗原性を示す構造体の形成効率を指標とし、前記テスト化合物を添加した場合と添加しない場合とで前記形成効率を比較することを含む、ASPDの形成に影響を与える物質のスクリーニング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、アミロスフェロイド(ASPD)様構造体、その製造方法及びその使用、医薬組成物、その製造方法及びその使用、並びに、スクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アミロスフェロイド(amylospheroids(ASPD))は、アミロイドβタンパク質(Aβ)が約30個集まった直径約10nmの球状のAβ集合体であって、アルツハイマー病が発症する不可逆的段階において重要な役割を果たすと考えられる構造体である。
【0003】
ASPDは、強い神経毒性を示すin vitroで合成されたAβ集合体(すなわち、合成ASPD)として単離された(非特許文献1)。この合成ASPDに対する特異的な抗体が作製され(特許文献1及び2)、この抗体を用い、アルツハイマー病のヒト患者の脳から、実際に、生体内で形成されたASPD(すなわち、ネイティブASPD)が単離された(非特許文献1)。
【0004】
ネイティブASPD及び合成ASPDは、同様に、成熟神経細胞に対して選択的に細胞死を誘発する。この神経細胞死におけるASPDのターゲットが、神経の生存と機能に極めて重要な役割を果たしているシナプスタンパク質「Na+,K+-ATPaseポンプのα3サブユニット(以下、NAKα3)」であることが発見され、ASPDの結合によりNAKα3の機能が低下し、神経細胞が過剰に興奮することで神経細胞が死に至ることが明らかにされた(特許文献3、非特許文献2)。
【0005】
アルツハイマー病における臨床症状と最も相関するのが神経細胞の脱落である。神経細胞脱落が認められるアルツハイマー病患者の大脳皮質におけるネイティブASPD量は、アルツハイマー病の重症度に相関して増加し、そして、神経細胞脱落があまり認められないアルツハイマー病患者の小脳におけるネイティブASPD量は微量しか存在しないことが明らかとなった(非特許文献3)。したがってアミロスフェロイドは、アルツハイマー病が発症する不可逆的段階において重要な役割を果たすと考えられる。さらに、ネイティブASPDは、レビー小体型認知症患者の脳からも検出されており(非特許文献3)、レビー小体型認知症においてもASPDはその発症において重要な役割を果たすと考えられる。
【0006】
ネイティブASPDと等価であると考えられる合成ASPDは、Aβを含む液体をゆっくり撹拌することにより製造されうる(非特許文献1、特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】WO2006/016644
【文献】WO2009/057664
【文献】WO2013/099806
【文献】WO2013/094614
【非特許文献】
【0008】
【文献】Hoshi et al., Spherical aggregates of β-amyloid (amylospheroid) show high neurotoxicity and activate tau protein kinase I/glycogen synthase kinase-3β, PNAS May 27, 2003 vol. 100 no. 11 6370-6375
【文献】Ohinishi et al., Na, K-ATPase α3 is a death target of Alzheimer patient amyloid-β assembly, PNAS August 11, 2015 vol. 112 no. 32 E4465-E4474
【文献】Noguchi et al., Isolation and characterization of patient-derived, toxic, high mass amyloid beta-protein (Abeta) assembly from Alzheimer disease brains, J Biol Chem. 2009 Nov 20;284(47):32895-905
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述のとおり、アミロスフェロイド(ASPD)はアルツハイマー病やレビー小体型認知症において重要な役割を果たす。現時点では、ネイティブASPDを患者脳から精製して治療薬などの開発に使うことは非常に困難である。よって、患者脳に存在するネイティブASPDと等価若しくは部分的に等価なASPD様構造体が製造し易くなれば、アルツハイマー病やレビー小体型認知症の研究、並びに、これらの疾病に対する予防方法及び予防薬、及び、治療方法及び予防・治療薬の開発に大きく寄与するものと考えられる。
【0010】
アミロイドβタンパク質(Aβ)を含む液体をゆっくり撹拌することで、ネイティブASPDとほぼ等価である合成ASPDをin vitroで製造できる(非特許文献1及び特許文献4)。そして、合成ASPDは、アジュバントなしでウサギに免疫を誘導できること、老齢サルで一定のワクチン効果があり安全であることが見出された。一方で、合成ASPDは、製造ロットごとにASPD量がある程度上下すること、製造されたASPDの長期保管が難しいこと、製造量のスケールアップが困難であること等の問題も見出された。
【0011】
そこで、本開示は、一態様において、ASPD様構造体及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本開示は、一態様において、細胞分泌型ASPD様構造体の製造方法であって、APP又はAβ配列を含むその一部を発現する細胞を培養液中で培養し、該培養液中に細胞分泌型ASPD様構造体を得る工程を含む製造方法に関する。
【0013】
本開示は、その他の態様において、APP又はAβ配列を含むその一部を発現する発現系が導入された細胞を培養した培養液中に得られる構造体であって、ASPDに特異的な抗体に対して抗原性を示す、細胞分泌型ASPD様構造体に関する。
【0014】
本開示は、その他の態様において、細胞分泌型ASPD様構造体を有効成分とする医薬組成物する。
本開示は、その他の態様において、細胞分泌型ASPD様構造体を含むワクチンに関する。
本開示は、その他の態様において、細胞分泌型ASPD様構造体の能動ワクチンとしての使用に関する。
本開示は、その他の態様において、ワクチン製造における細胞分泌型ASPD様構造体の使用に関する。
本開示は、その他の態様において、細胞分泌型ASPD様構造体の、ASPD測定における標準物質としての使用に関する。
【0015】
本開示は、その他の態様において、ASPDが起因となる疾病の予防、改善、及び/又は治療の方法であって、細胞分泌型ASPD様構造体、前記医薬組成物、又は、前記ワクチンを対象に投与することを含む方法に関する。
本開示は、その他の態様において、ASPD、ASPDに起因する疾病、又は、アルツハイマー病及び/又はレビー小体型認知症に対する免疫を対象に獲得させる方法であって、細胞分泌型ASPD様構造体、前記医薬組成物、又は、前記ワクチンを対象に投与することを含む方法に関する。
本開示は、その他の態様において、細胞分泌型ASPD様構造体と、薬学的に許容される腑形剤とを組み合わせることを含む、医薬組成物又はワクチンの製造方法に関する。
【0016】
本開示は、その他の態様において、細胞分泌型ASPD様構造体、及び、抗ASPD抗体を含むキットに関する。
本開示は、その他の態様において、細胞分泌型ASPD様構造体と、抗ASPD抗体とを組み合わせることを含む、キットの製造方法に関する。
本開示は、その他の態様において、APP又はAβ配列を含むその一部を発現する発現系が導入された細胞を有する非ヒト動物に関する。
【0017】
本開示は、その他の態様において、APP又はAβ配列を含むその一部を発現する発現系が導入された細胞を培養した培養液中に形成される、ASPDに特異的な抗体に対して抗原性を示す構造体の形成効率を指標とすることを含む、ASPDの形成に影響を与える物質のスクリーニング方法に関する。
本開示は、APP又はAβ配列を含むその一部を発現する発現系が導入された細胞を培養した培養液中に分泌される、Aβ40、Aβ41、Aβ42、Aβ43及びこれらの組合せからなる群から選択される少なくとも1つを指標とする、AβのC末端切断に影響を与える物質のスクリーニング方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、発現させたAPPのバリアント及びそれらの変異体の変異箇所を説明する概略図である。
図2図2は、試験例1~14のAPPの発現系で過剰発現させた細胞の培養液中のASPD濃度の測定結果を示すグラフである。
図3図3は、試験例1~14のAPPの発現系で過剰発現させた細胞の培養液中のAβ1-40濃度の測定結果を示すグラフである。
図4図4は、試験例1~14のAPPの発現系で過剰発現させた細胞の培養液中のAβ1-42濃度の測定結果を示すグラフである。
図5図5は、hAPP695sw-G33Xを過剰発現させた細胞の培養液中のASPD濃度の測定結果を示すグラフである。
図6図6は、hAPP695sw-G33Xを過剰発現させた細胞の培養液中のAβ1-40濃度の測定結果を示すグラフである。
図7図7は、hAPP695sw-G33Xを過剰発現させた細胞の培養液中のAβ1-42濃度の測定結果を示すグラフである。
図8図8は、合成ASPDの免疫原性を評価した結果の一例を示すグラフである。
図9図9は、合成ASPD(野生型)及び合成ASPD(G33L型)の神経細胞毒性を確認した結果の一例を示すグラフである。
図10図10は、試験例15~36のAPPの発現系で過剰発現させた細胞の培養液中のASPD濃度の測定結果を示すグラフである。
図11図11は、試験例15~36のAPPの発現系で過剰発現させた細胞の培養液中のAβ1-40濃度の測定結果を示すグラフである。
図12図12は、試験例15~36のAPPの発現系で過剰発現させた細胞の培養液中のAβ1-42濃度の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本開示は、一又は複数の実施形態において、アミロイド前駆体タンパク質(APP)を発現する細胞を培養した培養液中にASPD様構造体の存在が確認されたことに基づく。
本開示は、一又は複数の実施形態において、簡便でスケールアップ可能な、細胞分泌型ASPD様構造体の提供に関する。
本開示における細胞分泌型ASPD様構造体は、一又は複数の実施形態において、保存安定性に優れる。
本開示における細胞分泌型ASPD様構造体は、一又は複数の実施形態において、Aβモノマーの含有率を極めて低く製造することもできるため、限外ろ過によるAβモノマーの除去が簡単となり、ワクチン等の製造効率の向上が可能となる。
また、本開示における細胞分泌型ASPD様構造体は、一又は複数の実施形態において、Aβモノマーの含有率を低減できるから、生体に投与した場合の安全性を、例えば、ネイティブASPDや合成ASPDよりも、向上しうる。
【0020】
[アミロスフェロイド(ASPD)様構造体]
本開示において、ASPD様構造体とは、ASPDに特異的な抗体が抗原抗体反応する構造体、言い換えれば、ASPDに特異的な抗体に対して抗原性を示す構造体をいう。
なお、本開示において、単にアミロスフェロイド(ASPD)という場合には、ネイティブASPD及び合成ASPDを含みうる。
【0021】
ASPDに特異的な抗体としては、一又は複数の実施形態において、WO2006/016644及びWO2009/057664に開示されるポリクローナル抗ASPD抗体及びモノクローナル抗ASPD抗体が挙げられ、さらなる一又は複数の実施形態において、ウサギポリクローナル抗ASPD抗体(rpASD1、rpASD2及びrpASD3)、マウスモノクローナル抗ASPD抗体(MASD1、MASD2及びMASD3)、ハムスターモノクローナル抗ASPD抗体(haASD1、haASD2、haASD3、haASD4及びhaASD5)、並びに、ヒト化モノクローナル抗ASPD抗体(huASD2)等が挙げられる。
【0022】
[細胞分泌型ASPD様構造体]
本開示において、細胞分泌型ASPD様構造体は、本開示にかかる製造方法によって製造されるASPD様構造体をいう。一又は複数の実施形態において、APP又はAβ配列を含むその一部の発現系が導入された細胞の培養液中に見出されたASPD様構造体をいう。本開示に係る細胞分泌型ASPD様構造体は、APP又はAβ配列を含むその一部を発現する細胞の培養液中に得られるものであるから、細胞分泌型であるといえる。
【0023】
したがって、本開示は一態様において、APP又はAβ配列を含むその一部を発現する発現系が導入された細胞を培養した培養液中に得られる構造体であって、ASPDに特異的な抗体に対して抗原性を示す、細胞分泌型ASPD様構造体に関する。
【0024】
本開示に係る細胞分泌型ASPD様構造体は、一又は複数の実施形態において、ASPDと等価なものであってもよく、その他の一又は複数の実施形態において、ASPDと部分的に等価なものであってもよい。部分的に等価とは、少なくとも、ASPDに特異的な抗体が抗原抗体反応する構造体、言い換えれば、ASPDに特異的な抗体に対して抗原性を示す構造体であることをいう。
【0025】
本開示に係る細胞分泌型ASPD様構造体は、一又は複数の実施形態において、Aβ集合体である。本開示において、単にAβというときは、Aβ40(Aβ1-40)、Aβ41(Aβ1-41)、Aβ42(Aβ1-42)、Aβ43(Aβ1-43)、又はこれらの全部若しくは一部を指し得る。
【0026】
本開示に係る細胞分泌型ASPD様構造体は、一又は複数の実施形態において、ASPDと同様の分子量であってもよく、その他の一又は複数の実施形態において、100kDa以上、又は、100~700kDaである。
【0027】
本開示に係る細胞分泌型ASPD様構造体は、ASPD様構造体は、一又は複数の実施形態において、ASPDの細胞毒性、すなわち、機能的に成熟した神経細胞に選択的に細胞死を誘発する特性が、ASPDと同等であってもよく、或いは、ASPDよりも弱毒性であってもよく、或いは、細胞毒性を有していなくてもよく、或いは、ASPDと比べて毒性が高くてもよい。
【0028】
本開示に係る細胞分泌型ASPD様構造体は、一又は複数の実施形態において、ASPDと同様な形状であってもよく、異なる形状であってもよい。本開示に係る細胞分泌型ASPD様構造体は、さらなる一又は複数の実施形態において、電子顕微鏡観察において直径10~15nmの球状であってもよく、該形状とは異なる形状であってもよい。
【0029】
[細胞分泌型ASPD様構造体の製造方法]
本開示に係る細胞分泌型ASPD様構造体は、一又は複数の実施形態において、アミロイド前駆体タンパク質(APP)又はアミロイドβタンパク質(Aβ)配列を含むその一部を発現する細胞を培養液中で培養することで、その培養液中に得ることができる。
したがって、本開示は一態様において、APP又はAβ配列を含むその一部を発現する細胞を培養液中で培養し、該培養液中に細胞分泌型ASPD様構造体を得る工程を含む、細胞分泌型ASPD様構造体の製造方法に関する。以下、前記製造方法を単に「本開示に係る製造方法」ともいう。
【0030】
本開示に係る製造方法において、培養される細胞内で発現するAPPは、一又は複数の実施形態において、ヒトAPPであってもよく、ヒト以外の動物のAPPであってもよい。ヒトAPPは、hAPP770、hAPP751、及びhAPP695のいずれのスプライシングバリアントであってもよい。APP及びAβの配列は公知のデータベースからえることができる。例えば、hAPP770のNCBIのアクセッション番号は、NP_000475(VERSION NP_000475.1 GI:4502167)である。スプライシングバリアントの配列は例えばUniProtKB-P05067(Modified: November 1, 1991 -v3)を参照できる。
【0031】
また、本開示に係る製造方法の一又は複数の実施形態において、培養する細胞内で発現させるAPPは、細胞分泌型ASPD様構造体の形成量を向上させる点から、前記細胞に導入されたAPPの発現系から発現させることが好ましく、かつ/あるいは、前記細胞における過剰発現であることが好ましい。本開示に係る製造方法の一又は複数の実施形態において、培養する細胞内で発現させるAPPは、細胞分泌型ASPD様構造体の形成量を向上させる点から、APPのシグナル配列を有することが好ましい。
【0032】
本開示に係る製造方法の一又は複数の実施形態において、培養する細胞内で発現させるAPPは、野生型であってもよく、あるいは、変異型のAPPであってもよい。変異型APPとしては、家族性アルツハイマー病に連鎖する変異が挙げられ、例えば、Swedish変異、Italian変異、Leuven変異、Icelandic変異、London変異、Iranian変異、Austrian変異、German変異、French変異、Florida変異、Iberian変異、Australian変異、Belgian変異、Flemish変異、Icelandic変異、British変異、Tottori変異、Italian変異、Arctic変異、Osaka変異、Iowa変異、Dutch変異などが挙げられる。これらのなかでも、細胞分泌型ASPD様構造体の形成量を向上させる点からはSwedish変異を含むことが好ましい。
【0033】
さらに、本開示に係る製造方法の一又は複数の実施形態において、培養する細胞内で発現させるAPPは、細胞分泌型ASPD様構造体の形成効率を向上させる点から、Aβの25~37番目のアミノ酸配列におけるGXXXGモチーフのグリシンに1又は複数の置換変異を有することが好ましい。すなわち、Aβの25番目、29番目、33番目、及び37番目に相当するグリシンからなる群から選択される1又は複数のグリシンの置換変異を有することが好ましく、少なくとも33番目のグリシンの置換変異を有することが好ましい。置換変異としては、細胞分泌型ASPD様構造体の形成効率を向上する点、及び、培養液中のAβ量を低減する点から、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、バリン、メチオニン、チロシン、又はシステインへの置換変異が好ましい。本開示において、1又は複数とは、1、2、3若しくは4、又は、1、2若しくは3、又は、1若しくは2である。
その他の一又は複数の実施形態において、培養する細胞内で発現させるAPPは、細胞分泌型ASPD様構造体の形成効率を向上させる点から、Aβの33番目及び37番目のグリシンの置換変異を有することが好ましい。本実施形態において、置換変異としては、細胞分泌型ASPD様構造体の形成効率を向上する点、及び、培養液中のAβ量を低減する点から、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、バリン、メチオニン、チロシン、又はシステインへの置換変異が好ましく、33番目及び37番目の少なくとも一方が、イソロイシンへの置換変異であることがより好ましい。
【0034】
本開示に係る製造方法の一又は複数の実施形態において、培養する細胞内で発現されるAPPは、細胞分泌型ASPD様構造体の形成効率を向上させる点から、Swedish変異並びにAβの25番目、29番目、33番目、及び37番目に相当するグリシンからなる群から選択される1又は複数のグリシンの置換変異を有するものが挙げられる。その他の一又は複数の実施形態において、本開示におけるAPPは、hAPP770又はhAPP695においてSwedish変異並びにAβの25番目、29番目、33番目、及び37番目に相当するグリシンからなる群から選択される1又は複数のグリシンの置換変異を有するものが挙げられる。さらにその他の一又は複数の実施形態において、本開示におけるAPPは、hAPP770又はhAPP695においてSwedish変異並びにAβの33番目に相当するグリシンの置換変異を有するものが挙げられる。さらにその他の一又は複数の実施形態において、本開示におけるAPPは、hAPP770又はhAPP695においてSwedish変異並びにAβの33番目及び37番目に相当するグリシンの置換変異(好ましくは少なくとも一方がイソロイシンへの置換変異)を有するものが挙げられる。本開示に係る製造方法の一又は複数の実施形態において、培養する細胞内で発現させるAPPは、ASPD様構造体の形成を著しく妨げない範囲でその他の変異を有してもよい。その他の変異としては、修飾アミノ酸、非天然アミノ酸、D-アミノ酸等への変異を含みうる。修飾アミノ酸としては、一又は複数の実施形態において、アミノ基修飾、カルボキシル基修飾、チオール基修飾、水酸基修飾、糖化修飾、PEG化修飾等が挙げられる。
【0035】
本開示に係る製造方法の一又は複数の実施形態において、培養する細胞内で発現させるAPPは、APPの一部であってアミロイドβタンパク質(Aβ)配列を含む部分ペプチドであってもよい(該部分ペプチドを、以下では単に「APPの一部」ともいう)。ASPDは、APPから切り出されるAβの集合体の一形態だからである。
本開示に係る製造方法の一又は複数の実施形態において、培養する細胞内で発現させるAPPの一部は、N末端が切断された形態であってもよく、さらなる一又は複数の実施形態において、N末端がβシクレターゼの切断部位で切断された形態であってもよい。
本開示に係る製造方法の一又は複数の実施形態において、培養する細胞内で発現させるAPPの一部は、Aβの1~43番目、1~42番目又は1~40番目を含む部分であることが挙げられ、さらなる一又は複数の実施形態において、Aβの1~43番目、1~42番目又は1~40番目を含む部分、及び、APPのシグナル配列を有することが挙げられる。
【0036】
培養する細胞内におけるAPP又はその一部の発現は、APP又はその一部を発現可能な発現系を導入した細胞で行うことができる。APP又はその一部の発現は、一過性発現系によるものでもよく、安定発現細胞株によるものであってもよい。APP又はその一部の発現は、ASPD様構造体の形成を妨げない範囲で、高発現又は過剰発現であることがASPD様構造体の形成量向上の点から好ましい。APP又はその一部の発現系は、制御可能なものであってもよい。
【0037】
APP又はその一部を発現可能な発現系は、一又は複数の実施形態において、APP又はその一部をコードする配列に、導入する宿主細胞に応じた発現調節配列が作動的に連結されている核酸を有する発現カセットが挙げられる。発現調節配列としては、プロモーター、エンハンサー、転写ターミネーター等が挙げられ、その他には、開始コドン、イントロンのスプライシングシグナル、及び停止コドンなどが挙げられる。
【0038】
APP又はその一部の発現系は、一又は複数の実施形態において、発現させたい細胞(宿主)に応じた発現ベクターを適宜選択して導入することができる。該発現ベクターは、一又は複数の実施形態において、上述の発現カセットを有するベクターが挙げられる。発現ベクターとしては、一又は複数の実施形態において、プラスミド、コスミド、YACS、ウイルス(例えば、アデノウイルス、レトロウイルス、エピソームEBVなど)ベクター及びファージベクターが挙げられる。
【0039】
本開示に係る製造方法において培養する細胞は、APP又はその一部を発現する細胞である。本開示に係る製造方法において培養する細胞は、細胞分泌型ASPD様構造体の形成量向上の点から、APP又はその一部を発現可能な発現系が導入された細胞であることが好ましく、APP又はその一部を高発現若しくは過剰発現する又はすることが可能な細胞であることがより好ましい。本開示に係る製造方法のその他の実施形態において、APP又はその一部を発現する細胞は、遺伝子導入若しくはゲノム編集によりゲノムAPP遺伝子が過剰発現するようになった細胞であってもよい。
【0040】
また、本開示に係る製造方法において培養される細胞は、一又は複数の実施形態において、Aβを産生可能な細胞が好ましく、γシクレターゼとβシクレターゼの双方が発現している細胞であることがより好ましい。
【0041】
APP又はその一部の発現系が導入される宿主細胞は、一又は複数の実施形態において、動物細胞、植物細胞、昆虫細胞、微生物等、及びそれらの細胞株が挙げられる。動物細胞としては、哺乳類細胞、ヒト細胞、ヒト以外の哺乳類細胞が挙げられる。
APP又はその一部の発現系が導入される宿主細胞は、一又は複数の実施形態において、取扱性の点から、細胞株が好ましい。限定されない具体的な細胞株としては、CHO細胞、HEK293細胞、Neuro2a細胞などが挙げられる。
【0042】
本開示に係る製造方法におけるAPP又はその一部を発現する細胞の培養条件は、該細胞の種類、該細胞に導入されている発現系の種類、及び、その発現系の導入形態(一過性導入か安定導入か)などに応じて、当業者であれば、発現系に組み込まれたAPP又はその一部が発現(好ましくは過剰発現)するように、培地、温度、CO2濃度などを適宜設定できる。
【0043】
一又は複数の実施形態において、一過性のAPP発現系を用いる場合の培養としては、増殖培地で培養・形質導入し、その後、無血清培地に交換して24時間~48時間培養することが挙げられる。そして、前記培養の後に培地中に細胞分泌型ASPD様構造体が得られる。
【0044】
細胞が動物細胞である場合、培地としては、Medium199培地、Eagle’s Minimum Essential Medium (EMEM)培地、αMEM培地、Dulbecco’s modified Eagle’s Medium (DMEM)培地、Ham’s F12培地、RPMI 1640培地、Fischer's培地、およびこれらの混合培地などが挙げられる。これらの培地には、血清又は血清代替物が含有されていてもよいし、あるいは無血清でもよい。必要に応じて、培地は、脂質、アミノ酸、非必須アミノ酸、ビタミン、増殖因子、低分子化合物、抗生物質、抗酸化剤、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類などの1つ以上の物質も含有し得る。
【0045】
本開示に係る製造方法は、一又は複数の実施形態において、さらに、前記培養液中から細胞分泌型ASPD様構造体を回収することを含む。
培養液中の細胞分泌型ASPD様構造体の回収は、一又は複数の実施形態において、孔径0.22μmフィルターのろ液を50kDa又は100kDaの限外ろ過をした保持液を回収する工程により行うことができる。但し、ASPDの回収方法はこの方法に限定されなくてもよい。
【0046】
本開示に係る製造方法であれば、細胞分泌型ASPD様構造体の製造が容易になるため、一又は複数の実施形態において、細胞分泌型ASPD様構造体そのものを抗原とした能動ワクチン療法の開発や、能動ワクチンとして機能する医薬組成物の開発、神経細胞死阻止薬の開発が容易になる。
【0047】
[ワクチン]
ASPDを構成するAβそのものを生体内に導入して免疫を付与する試みの結果、Aβの配列の一部(16~33番目の残基)がT細胞を活性化し炎症性反応を引き起こすことが報告された(Monsonego, A. et al. J. Clin. Invest. 112:415-422 (2003), Monsonego, A. et al. PNAS 103:5048-5053 (2006))。したがって、Aβそのものをワクチンとして用いることは難しい。
一方、ASPDは、T細胞を活性化するAβの配列(16~33番目の残基)が球状構造の内部に折り畳まれてほぼ隠され(Ohnishi et al. PNAS 112:E4465-E4474 (2015))、Aβワクチンで問題となる炎症性T細胞応答を惹起しないというデータが得られている。
そして、合成ASPDについては、アジュバントなしでウサギに免疫がつくこと、その免疫量は通常のペプチド抗原の1/5~1/10と少量で充分であることが見出された。さらに、ASPDを用いて老齢カニクイザルの皮下投与で免疫すると、脳の糖代謝(神経活動)が高まることも見出された。
これらの知見から、ASPDは、安全性が高い能動ワクチンとして使用できるといえる。そして、本開示にかかる細胞分泌型ASPD様構造体も、能動ワクチンとして使用でき、また、ワクチンの製造に使用できる。
したがって、本開示は、一態様において、ASPDを有効成分とする医薬組成物に関し、或いは、ASPDを含むワクチンに関する。
【0048】
合成ASPDを用いて、例えばワクチン等のような医薬組成物を製造しようとする場合、以下の問題点が見出された。すなわち、合成ASPDの従来の製造法では、製造ロットごとにASPD量がある程度上下し、また、製造されたASPDの長期保管が難しく、そして、製造量のスケールアップが困難であり、さらに、合成ASPDを製造した後に残存するAβの除去が必要であり、製造効率が下がる等の問題が見出された。
本開示に係る細胞分泌型ASPD様構造体を用いたワクチン等の医薬組成物であれば、一又は複数の実施形態において、これらの問題の1つ若しくは一部又はそれ以上を解消しうる。
【0049】
よって、本開示は、一態様において、細胞分泌型ASPD様構造体を有効成分とする医薬組成物に関する。本開示に係る医薬組成物の一又は複数の実施形態として、細胞分泌型ASPD様構造体を含むワクチンが挙げられる。本開示に係る医薬組成物及びワクチンは、薬学的に許容される腑形剤及び/又はアジュバントを含んでもよい。
【0050】
本開示に係る医薬組成物及びワクチンは、一又は複数の実施形態において、ASPDに起因する疾病の予防、改善、及び/又は治療のために使用されうる。本開示に係る医薬組成物及びワクチンは、一又は複数の実施形態において、アルツハイマー病及び/又はレビー小体型認知症の予防、改善、及び/又は治療のために使用されうる。
本開示に係る医薬組成物及びワクチンは、一又は複数の実施形態において、ASPDに起因する疾病を罹患するおそれのある対象、罹患したおそれのある対象、又は、罹患した対象に投与されうる。本開示に係る医薬組成物は、一又は複数の実施形態において、アルツハイマー病及び/又はレビー小体型認知症を罹患するおそれのある対象、罹患したおそれのある対象、又は、罹患した対象に投与されうる。該対象としては、哺乳類、ヒト、ヒト以外の哺乳類が挙げられる。
【0051】
本開示に係る医薬組成物及びワクチンをASPD、ASPDに起因する疾病、又は、アルツハイマー病及び/又はレビー小体型認知症に対する免疫を対象に獲得させる一又は複数の実施形態について説明する。本開示に係る医薬組成物及びワクチンの投与法は、一又は複数の実施形態において、筋内、腹腔内、皮内若しくは皮下への注射、又は、口道、消化管、気道、尿生殖路への経粘膜投与が含まれうる。本開示に係る医薬組成物及びワクチンにおける細胞分泌型ASPD様構造体の投与量としては、投与対象に著しい副作用を及ぼすことなく免疫防御応答を誘発する量が挙げられる。本開示に係る医薬組成物及びワクチンの投与量は、一又は複数の実施形態において、細胞分泌型ASPD様構造体を0.01μg~10mg、0.1~1000μg、1~100μg、5~50μg、又は5~25μgの範囲で含むことになると量と見込まれる。初期投与に続いて、十分な間を置いて1回又は数回のブースター投与をしてもよい。
【0052】
したがって、本開示は一態様において、ASPDに起因する疾病(例えば、アルツハイマー病及び/又はレビー小体型認知症)の予防、改善、及び/又は治療の方法であって、細胞分泌型ASPD様構造体又は本開示に係る医薬組成物若しくはワクチンを対象に投与することを含む方法に関する。
本開示は、その他の態様において、ASPD、ASPDに起因する疾病、又は、アルツハイマー病及び/又はレビー小体型認知症に対する免疫を対象に獲得させる方法であって、細胞分泌型ASPD様構造体又は本開示に係る医薬組成物若しくはワクチンを対象に投与することを含む方法に関する。
【0053】
また、本開示は、一態様において、細胞分泌型ASPD様構造体と、腑形剤及び/又はアジュバントとを組合せることを含む、医薬組成物又はワクチンの製造方法に関する。
本開示は、その他の態様において、細胞分泌型ASPD様構造体を有効成分とする医薬組成物、又は、細胞分泌型ASPD様構造体を有するワクチンの製造方法であって、本開示に係る製造方法により細胞分泌型ASPD様構造体を製造する工程を含む製造方法に関する。
【0054】
本開示は、その他の態様において、本開示に係る製造方法に用いるキットであって、APP又はその一部の発現系が導入された細胞株を含むキットに関する。本開示にかかるキットによれば、細胞分泌型ASPD様構造体の製造が容易になる。本開示にかかるキットには、さらに、培養容器、培地、及び説明書の少なくとも1つが含まれてもよい。本開示に係る製造方法に用いるキットは、一又は複数の実施形態において、APP又はその一部の発現系が導入された細胞株に替えて、APP又はその一部の発現系を有するベクターであってもよい。
【0055】
[モデル動物]
本開示は、その他の態様において、APP又はAβ配列を含むその一部を発現する発現系が導入された細胞を有する非ヒト動物に関する。前記細胞は、細胞分泌型ASPD様構造体を分泌するから、前記非ヒト動物は、ASPDに起因する疾病、例えば、アルツハイマー病及び/又はレビー小体型認知症のモデル動物となり得る。前記細胞としては、該モデル動物とする観点から、脳の細胞が好ましく、或いは、神経細胞が好ましい。前記発現系の導入方法は、特に制限されないが、遺伝子導入技術を用いる方法、ゲノム編集技術を用いる方法などが挙げられる。非ヒト動物としては、ヒト以外の哺乳類、ヒト以外の霊長類が挙げられる。本態様の一又は複数の実施形態は、APP又はAβ配列を含むその一部を発現するように遺伝子改変された細胞を有する遺伝子改変動物である。
本態様のモデル動物において、遺伝子改変された細胞内で発現されるAPPは、例えば、本開示で開示されるような、APPの変異体又はAβの変異体であってもよい。すなわち、前記細胞で発現されるAPPは、上述と同様に、Aβの25番目、29番目、33番目、及び37番目に相当するグリシンからなる群から選択される1又は複数のグリシンの置換変異を有することが好ましく、少なくとも33番目のグリシンの置換変異を有することが好ましい。置換変異としては、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、バリン、メチオニン、チロシン、又はシステインへの置換変異が好ましい。
その他の一又は複数の実施形態において、前記細胞で発現されるAPPは、Aβの33番目及び37番目のグリシンの置換変異を有することが好ましい。本実施形態において、置換変異としては、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、バリン、メチオニン、チロシン、又はシステインへの置換変異が好ましく、33番目及び37番目の少なくとも一方が、イソロイシンへの置換変異であることがより好ましい。
【0056】
[標準物質]
細胞分泌型ASPD様構造体は、一又は複数の実施形態において、ASPD測定におけるASPDの標準物質として使用できる。その他の一又は複数の実施形態において、細胞分泌型ASPD様構造体は、ASPDを測定するキットに使用できる。すなわち、本開示は、一態様において、細胞分泌型ASPD様構造体と抗ASPD抗体を含むキットに関する。抗ASPD抗体としては、上述のASPDに特異的な抗体が挙げられる。また、本開示は、一態様において、細胞分泌型ASPD様構造体と、抗ASPD抗体とを組み合わせることを含む、キットの製造方法に関する。これらのキットは、例えば、ASPDの測定に使用できる。
【0057】
[スクリーニング方法1]
本開示は、一態様において、ASPDの形成に影響を与える物質のスクリーニング方法であって、APP又はAβ配列を含むその一部を発現する発現系が導入された細胞を培養した培養液中に形成される、ASPDに特異的な抗体に対して抗原性を示す構造体(すなわち、細胞分泌型ASPD様構造体)の形成効率を指標とすることを含むスクリーニング方法に関する。
前記指標は、一又は複数の実施形態において、細胞分泌型ASPD様構造体の形成量であってもよく、Aβ40、Aβ41、Aβ42、Aβ43又はこれらの合計量に対する相対量であってもよい。この形態のスクリーニング方法は、テスト物質を培養液に添加した場合と添加しない場合とにおける細胞分泌型ASPD様構造体の形成効率を比較して、ASPDの形成に影響を与える物質であるか否かを判断すること含んでもよい。例えば、テスト物質を培養液に添加した場合に該形成効率が低下すれば、該物質がASPDの形成を阻害する影響があると判断できる。また、例えば、テスト物質を培養液に添加した場合に該形成効率が亢進すれば、該物質がASPDの形成を促進する影響があると判断できる。
本態様のスクリーニング方法において、培養する細胞内で発現されるAPPは、例えば、本開示で開示されるような、APPの変異体又はAβの変異体であってもよい。
【0058】
[スクリーニング方法2]
本開示は、一態様において、AβのC末端切断に影響を与える物質のスクリーニング方法であって、APP又はAβ配列を含むその一部を発現する発現系が導入された細胞を培養した培養液中に形成される、Aβ40、Aβ41、Aβ42、Aβ43及びこれらの組合せからなる群から選択される少なくとも1つのAβを指標とすることを含むスクリーニング方法に関する。
前記指標は、一又は複数の実施形態において、Aβ40、Aβ41、Aβ42、Aβ43及びこれらの組合せの分泌量若しくは培養液中の濃度であってもよく、或いは、例えば、Aβ40に対するAβ42の割合(Aβ42/Aβ40)といった相対量であってもよい。この形態のスクリーニング方法は、テスト物質を培養液に添加した場合と添加しない場合とにおける前記指標を比較して、AβのC末端切断に影響を与える物質であるか否か、或いは、γセクレターゼに対する影響を与える物質であるか否かを判断すること含んでもよい。例えば、テスト物質を培養液に添加した場合に「Aβ42/Aβ40」が低下すれば、該物質がAβ42の産生を抑制する影響があると判断できる。
本態様のスクリーニング方法において、培養する細胞内で発現されるAPPは、例えば、本開示で開示されるような、APPの変異体又はAβの変異体であってもよい。
【0059】
[変異型合成ASPD]
本開示は、さらにその他の態様において、変異型合成ASPDに関する。本開示において、変異型合成ASPDは、変異型のAβを用いて、合成ASPDの製造方法と同様の製法で合成される合成ASPD様構造体をいう。すなわち、本開示において、変異型合成ASPDは、Aβの25~37番目のアミノ酸配列におけるGXXXGモチーフのグリシンに1又は複数の置換変異を有する変異型Aβを含む液体を撹拌することで形成される合成ASPD様構造体をいう。前記液体には、変異型合成ASPDの形成効率向上の観点から、例えば、フタル酸エステルなどの可塑剤が含まれていてもよい。一又は複数の実施形態において、変異型合成ASPDは、前記変異型Aβを、前記可塑剤を含む有機溶媒に溶解すること、前記変異型Aβの溶液を水性溶液で希釈すること、及び、前記希釈後の溶液を撹拌することを含む製造方法で合成できる。
前記変異型Aβとしては、Aβの25番目、29番目、33番目、及び37番目に相当するグリシンからなる群から選択される1又は複数のグリシンの置換変異を有することが好ましく、少なくとも33番目のグリシンの置換変異を有することが好ましい。置換変異としては、合成ASPDの形成効率向上の観点から、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、バリン、メチオニン、チロシン、システインへの置換変異が好ましい。
前記変異型Aβとしては、その他の一又は複数の実施形態において、Aβの33番目及び37番目のグリシンの置換変異を有することが好ましい。本実施形態において、置換変異としては、合成ASPDの形成効率向上の観点から、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、バリン、メチオニン、チロシン、又はシステインへの置換変異が好ましく、33番目及び37番目の少なくとも一方が、イソロイシンへの置換変異であることがより好ましい。
本開示に係る変異型ASPDは、一又は複数の実施形態において、ASPD特異的抗体に対して抗原性を示す。また、本開示に係る変異型ASPDは、その他の一又は複数の実施形態において、成熟神経細胞に対して細胞毒性を示す。
【0060】
本開示は、一又は複数の実施形態において、以下に関しうる;
[1] 細胞分泌型アミロスフェロイド(ASPD)様構造体の製造方法であって、アミロイド前駆体タンパク質(APP)又はアミロイドβタンパク質(Aβ)配列を含むその一部を発現する細胞を培養液中で培養し、該培養液中に細胞分泌型ASPD様構造体を得る工程を含む、製造方法。
[2] さらに、前記培養液中から細胞分泌型ASPD様構造体を回収することを含む、[1]記載の製造方法。
[3] 前記細胞が、APP又はAβ配列を含むその一部の発現系が導入された細胞である、[1]又は[2]に記載の製造方法。
[4] 前記APPは、野生型、又は、1若しくは複数のアミノ酸変異を有する前記野生型の変異体である、[1]から[3]のいずれかに記載の製造方法。
[5] 前記APPは、Aβアミノ酸配列のGXXXGモチーフにおけるグリシンにアミノ酸変異を有する野生型又は変異体のAPPである、[1]から[4]のいずれかに記載の製造方法。
[6] APP又はAβ配列を含むその一部を発現する発現系が導入された細胞を培養した培養液中に得られる構造体であって、ASPDに特異的な抗体に対して抗原性を示す、細胞分泌型ASPD様構造体。
[7] [6]に記載の細胞分泌型ASPD様構造体を有効成分とする医薬組成物。
[8] [6]に記載の細胞分泌型ASPD様構造体を含むワクチン。
[9] [6]に記載の細胞分泌型ASPD様構造体、及び、抗ASPD抗体を含むキット。
[10] [6]に記載の細胞分泌型ASPD様構造体の能動ワクチンとしての使用。
[11] ワクチン製造における[6]に記載の細胞分泌型ASPD様構造体の使用。
[12] [6]に記載の細胞分泌型ASPD様構造体の、ASPD測定における標準物質としての使用。
[13] ASPDが起因となる疾病の予防、改善、及び/又は治療の方法であって、[6]に記載の細胞分泌型ASPD様構造体、[7]に記載の医薬組成物、又は、[8]に記載のワクチンを対象に投与することを含む、方法。
[14] ASPDが起因となる疾病が、アルツハイマー病及び/又はレビー小体型認知症である、[13]に記載の方法。
[15] ASPD、ASPDに起因する疾病、又は、アルツハイマー病及び/又はレビー小体型認知症に対する免疫を対象に獲得させる方法であって、[6]に記載の細胞分泌型ASPD様構造体、[7]に記載の医薬組成物、又は、[8]に記載のワクチンを対象に投与することを含む、方法。
[16] [6]に記載の細胞分泌型ASPD様構造体と、薬学的に許容される腑形剤とを組み合わせることを含む、医薬組成物又はワクチンの製造方法。
[17] [6]に記載の細胞分泌型ASPD様構造体と、抗ASPD抗体とを組み合わせることを含む、キットの製造方法。
[18] APP又はAβ配列を含むその一部を発現する発現系が導入された細胞を有する、非ヒト動物。
[19] APP又はAβ配列を含むその一部を発現する発現系が導入された細胞を培養した培養液中に形成される構造体であって、ASPDに特異的な抗体に対して抗原性を示す構造体の形成効率を指標とすることを含む、ASPDの形成に影響を与える物質のスクリーニング方法。
[20] APP又はAβ配列を含むその一部を発現する発現系が導入された細胞を培養した培養液中に分泌される、Aβ40、Aβ41、Aβ42、Aβ43及びこれらの組合せからなる群から選択される少なくとも1つを指標とする、AβのC末端切断に影響を与える物質のスクリーニング方法。
[21] Aβの25~37番目のアミノ酸配列におけるGXXXGモチーフのグリシンに1又は複数の置換変異を有する変異型Aβを含む液体を撹拌することで形成される合成ASPD様構造体。
【0061】
以下に、実施例を用いて本発明の一又は複数の実施形態をさらに説明する。
【実施例
【0062】
1.hAPPを発現する培養細胞のコンストラクション
(1-1)ヒトアミロイド前駆体タンパク質(hAPP)
発現させるアミロイド前駆体タンパク質(APP)として、下記表1及び図1に示す試験例1~14のAPPを用いた。図1の配列(配列番号1)は、ヒトのAβを含むhAPPの部分アミノ酸配列である。
試験例1~7のAPPは、hAPP770野生型、hAPP770Swedish変異型、及びGXXXGモチーフの1又は2個のグリシンが変異したhAPP770Swedish型である。
試験例8~14のAPPは、hAPP695野生型、hAPP695Swedish変異型、及びGXXXGモチーフの1又は2個のグリシンが変異したhAPP695Swedish型である。
【0063】
【表1】
【0064】
(1-2)hAPPを過剰発現する培養細胞
上記試験例1~14のhAPPを過剰発現するCHO細胞を以下のように作製した。
CHO/K1細胞を増殖培地にて2.5x104cells/cm2の密度で12ウェルプレートに播種し、37℃、5%CO2で維持した。24時間後、遺伝子導入試薬(FuGENE HD)を用いて発現ベクターをCHO/K1細胞に導入した。導入方法は、1ウェルあたりOpti-MEM 25μL及びプラスミドDNA 0.5μgを混合し、さらに1.5μLのFuGENE HDを加え、室温で10分間反応させた。その間に0.5mL増殖培地を交換しておき反応終了後、反応液を25μL添加した。24時間後、新しい1mL増殖培地に交換してさらに培養した。
増殖培地:10%FBS含有Ham’s F-12培地に、100ユニット/mL penicillin、及び、100μg/mL streptomycinを加えたもの
【0065】
2.ASPDの形成と回収
(2-1)hAPPを過剰発現する培養細胞の培養と上清の回収
遺伝子導入から48時間後、細胞を1xPBS(-)にて2回洗浄したのち1mL無血清培地に交換した。無血清培地に交換24時間後、0.22μmフィルターでろ過した培養上清を回収し、直ちに液体窒素で凍結させて-80℃にて保存した。
無血清培地:DMEM/F-12に1xITS-Xを加えたもの
【0066】
(2-2)分析
APP過剰発現細胞を培養した培養液を回収し、培養液中のASPD,Aβ1-40、及びAβ1-42の含有量を下記条件のELISA法で確認した。その結果を図2~4に示す。
[ASPD ELISA]
回収した培養上清について、抗ASPD抗体2種類(rpASD1、MASD3)を用いたサンドイッチELISAで定量した。
詳細には、測定前日に白色96ウェルプレートに抗ASPDポリクローナル抗体(rpASD1)を500ng/ウェルとなるように分注し、4℃で一晩固相化した。翌日、ウェルをPBS-Tで3回洗浄した後、3%BSAにて30分間ブロッキングを行い、再度3回洗浄した。各ウェルに100μLの標準液またはサンプルを分注し、1時間室温でインキュベーション後、3回洗浄し、100ng/ウェルとなるように抗ASPDモノクローナル抗体(MASD3)を添加し、さらに1時間室温でインキュベーションした。再度3回洗浄を行い、1/10,000希釈した二次抗体(抗マウスIgG-HRP)を100μL/ウェルで分注し、1時間室温でインキュベーションした。3回洗浄した後、100μLの発光基質を添加して1分遮光で反応させ、ルミノメーターで発光を検出した。
[Aβ ELISA]
回収した培養上清について、市販で入手可能なAβ monomer ELISA kitを用いて測定した。使用したKitは、以下の通り。測定は、Kit添付の説明書通り行った。
Aβ1-40:ヒトβアミロイド(1-40)ELISAキットワコー(Wako#292-62301)
Aβ1-42:ヒトβアミロイド(1-42)ELISAキットワコー高感度品(Wako#296-64401)
【0067】
図2~4に示すとおり、試験例1~14のAPPを過剰発現させたいずれの場合も培養液中にASPDの形成が認められた。
hAPP770とhAPP695を比較した場合、変異による大きな差は見られなかったが、若干hAPP695の方が、培養上清中のASPD濃度が高い傾向があった。また、変異の場所と数については、2カ所でも1カ所でもG704又はG629のG/L変異がASPD形成には重要であると考えられた。さらに、野生型(wt)に比べ、Swedish(sw)変異ではアミロイドがより多く分泌されるが、さらにGXXXGモチーフに変異を入れることによって、ほとんどのアミロイドがASPDの構成要素として使用されることが示唆された。
【0068】
3.hAPP695sw-G33Xの過剰発現
hAPP695Swedish変異型の629位(Aβの33位)のグリシンを19種のアミノ酸に変異させたAPPを過剰発現する細胞を上記(1-2)と同様に作製し、上記2.と同様に培養してその培養液中に培養液中のASPD,Aβ1-40、及びAβ1-42の含有量を確認した。その結果を表2及び図5~7に示す。
【0069】
【表2】
【0070】
表2及び図5~7に示すとおり、hAPP695Swedish変異型の629位(Aβの33位)のグリシンを所定のアミノ酸、例えば、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、メチオニン、バリン、チロシン、システインへの置換をすることにより、培養液中のAβ量を著しく低減するとともに、細胞分泌型ASPD様構造体の形成量を向上できることが確認された。一方、プロリン(又はスレオニン)への置換をすることにより、Aβ1-40、Aβ1-42及びASPD様構造体のいずれについても培養液中濃度の低下が確認された。この結果から、これらのアミノ酸による629位(Aβの33位)の変異によっては、APPからのAβの切り出しが阻害され、且つASPD様構造体の形成が抑制されることが示唆された。以上のことから、アミロイドβ産生およびASPD形成の双方に対する阻害剤スクリーニングへの変異体の利用も可能と考えられた。
【0071】
3.他の宿主細胞を用いた細胞分泌型ASPD様構造体の製造
CHOの他に、HEK293及びNeuro2aの細胞株においても、APP又はAβ配列を含むその一部の発現系が導入された細胞とすることで、細胞内でASPD様構造体が形成されることが認められた。
【0072】
4.細胞分泌型ASPD様構造体の安定性確認:-80℃の保存安定性
試験例14のhAPP695-sw-G33Iを発現させて得られた細胞分泌型ASPD構造体を0ヶ月、3ヶ月及び6ヶ月間-80℃保存したサンプルを、2種類のASPD特異的抗体(中和抗体)を用いたサンドイッチELISAで測定して検量線を作成した。
その結果、その検量線の一次回帰直線の傾きは、3つのサンプルでほぼ一定の値を示した。したがって、サンドイッチELISAに使用している中和抗体2種類に対する反応性が安定しており、保存による劣化はないと考えられた。
一方、従来の方法で製造された合成ASPDは、-80℃の保存後では一次回帰直線における傾きのバラツキが大きく、ASPD濃度に対しるシグナルの大きさもバラツキが大きく、保存安定性が低いと考えられる。
【0073】
5.合成ASPDの免疫原性
ニュージーランドホワイト(各条件3羽)に、フロイントアジュバント、水酸化アルミニウムアジュバント、アジュバントなしで、合成ASPDによる100μg免疫を6回行い、その後、全採血を行い、血清中の合成ASPDに対する反応性をドットブロットで評価を行った。その結果の一例を図8に示す。全てのウサギでアジュバントなしでも充分な反応性が得られることがわかった。
【0074】
6.合成ASPD及び変異型合成ASPD(G33L)の神経細胞毒性
野生型Aβ1-42を用いて製造した合成ASPDの神経細胞毒性と、G33L変異型Aβ1-42を用いて製造した変異型合成ASPD(G33L)の神経細胞毒性とを比較した。
具体的には、一定濃度の合成ASPD(0.58μM)及び変異型合成ASPD(0.53μM)をそれぞれ成熟ラット海馬由来初代培養神経細胞に投与し一晩置いた後、蛍光試薬(Thermo Fisher社製CyQUANT)を添加し、共焦点イメージサイトメーターCQ1を用いて細胞生存率を確認した。その結果を図9の右に示す。同図に示す通り、変異型合成ASPD(G33L型)は、合成ASPD(野生型)と同様に、成熟神経細胞に対して同程度の細胞毒性を示した。
【0075】
7.変異型合成ASPDとrpASD1抗体との解離定数
合成ASPDまたは変異型合成ASPD(G33L)をリガンドとしてセンサーチップ上に固相化し、アナライトとして抗ASPDポリクローナル抗体(rpASD1)を流して表面プラズモン共鳴(SPR)により解離定数(KD)を求めた。その結果、抗ASPDポリクローナル抗体(rpASD1)に対する反応性は、合成ASPDと変異型合成ASPD(G33L)とで同等であった。
【0076】
8.hAPP695swの1及び2アミノ酸変異体の過剰発現
発現させるアミロイド前駆体タンパク質(APP)として、下記表3及び図1に示す試験例15~36のAPPを用いた。上記1及び2の記載と同様にして、APP過剰発現細胞を培養した培養液を回収し、培養液中のASPD,Aβ1-40、及びAβ1-42の含有量を下記条件のELISA法で確認した。その結果を図10~12に示す。
【0077】
【表3】
【0078】
図10~12に示すとおり、試験例15~36のAPPを過剰発現させたいずれの場合も培養液中にASPDの形成が認められた。
ロイシンへの1アミノ酸又は2アミノ酸置換変異と、イソロイシンのそれらとで、上清中のASPD,Aβ1-40、及びAβ1-42の含有量に大きな差は見られなかった。しかし、Aβの33番目及び37番目のグリシンが二つともイソロイシンに変異したAPP(試験例30)のASPD形成量は、Aβの33番目及び37番目のグリシンが二つともロイシンに変異したAPP(試験例23)と比べて、著しく増加していた。
また、2か所をロイシンとイソロイシンに変異させたAPP(試験例31-36)では、Aβの33番目及び37番目のグリシンをロイシンとイソロイシンに変異させたAPP(試験例35-36)のASPDの形成量が、Aβの33番目及び37番目のグリシンが二つともイソロイシンに変異したAPP(試験例30)と同程度に増加した。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
【配列表】
0007161401000001.app