(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-18
(45)【発行日】2022-10-26
(54)【発明の名称】改質シリカ微粒子分散液の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 33/149 20060101AFI20221019BHJP
【FI】
C01B33/149
(21)【出願番号】P 2019046702
(22)【出願日】2019-03-14
【審査請求日】2021-08-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000190024
【氏名又は名称】日揮触媒化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】特許業務法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 純
(72)【発明者】
【氏名】中山 和洋
【審査官】須藤 英輝
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-527104(JP,A)
【文献】国際公開第2018/061656(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/170660(WO,A1)
【文献】特開平10-059708(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00-33/193
C08G 77/00-77/62
H01L 21/304
C09K 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程1および下記工程2を備える、改質シリカ微粒子分散液の製造方法。
(工程1)
比表面積換算粒子径が3nm以上1000nm以下の範囲のシリカ微粒子を、分散媒に分散してなる、pHが7以上14以下のシリカ微粒子分散液に、アミノ基を有するシラン化合物を添加して、下記数式(F1a)から下記数式(F1c)の全てを満たす第1改質シリカ微粒子分散液を得る工程
7≦pH
1≦14・・・(F1a)
4≦T
1≦11・・・(F1b)
Z
1≦-10mV・・・(F1c)
第1改質シリカ微粒子分散液のpH:pH
1
第1改質シリカ微粒子分散液の等電点:T
1
第1改質シリカ微粒子分散液のゼータ電位:Z
1
(工程2)
前記第1改質シリカ微粒子分散液と、酸性溶液とを混合して、下記数式(F2a)から下記数式(F2c)の全てを満たす第2改質シリカ微粒子分散液を得る工程
0.5≦pH
2≦8・・・(F2a)
T
1≦T
2・・・(F2b)
10mV≦Z
2≦80mV・・・(F2c)
第2改質シリカ微粒子分散液のpH:pH
2
第2改質シリカ微粒子分散液の等電点:T
2
第2改質シリカ微粒子分散液のゼータ電位:Z
2
【請求項2】
下記工程1および下記工程2を備える、改質シリカ微粒子分散液の製造方法。
(工程1)
比表面積換算粒子径が3nm以上1000nm以下の範囲のシリカ微粒子を、分散媒に分散してなる、pHが7以上14以下のシリカ微粒子分散液に、
レイノルズ数が3,000以上で、かつ単位容量あたりの攪拌動力が30W/m
3
以上の条件で撹拌しつつ、アミノ基を有するシラン化合物を添加して、下記数式(F1a)から下記数式(F1c)の全てを満たす第1改質シリカ微粒子分散液を得る工程
7≦pH
1≦14・・・(F1a)
4≦T
1≦11・・・(F1b)
Z
1≦-10mV・・・(F1c)
第1改質シリカ微粒子分散液のpH:pH
1
第1改質シリカ微粒子分散液の等電点:T
1
第1改質シリカ微粒子分散液のゼータ電位:Z
1
(工程2)
前記第1改質シリカ微粒子分散液と、酸性溶液とを混合して、下記数式(F2a)から下記数式(F2c)の全てを満たす第2改質シリカ微粒子分散液を得る工程
0.5≦pH
2≦8・・・(F2a)
T
1≦T
2・・・(F2b)
10mV≦Z
2≦80mV・・・(F2c)
第2改質シリカ微粒子分散液のpH:pH
2
第2改質シリカ微粒子分散液の等電点:T
2
第2改質シリカ微粒子分散液のゼータ電位:Z
2
【請求項3】
下記工程3をさらに備える、請求項1
または請求項2に記載の改質シリカ微粒子分散液の製造方法。
(工程3)
前記第2改質シリカ微粒子分散液に、pHが0.5以上7以下の条件下で、温度40℃以上100℃以下にて1時間以上のエージング処理を施して、下記数式(F3a)から下記数式(F3c)の全てを満たす第3改質シリカ微粒子分散液を得る工程
0.5≦pH
3≦7・・・(F3a)
T
1≦T
3・・・(F3b)
10mV≦Z
3≦80mV・・・(F3c)
第3改質シリカ微粒子分散液のpH:pH
3
第3改質シリカ微粒子分散液の等電点:T
3
第3改質シリカ微粒子分散液のゼータ電位:Z
3
【請求項4】
前記工程1では、温度が100℃以下の条件で撹拌する、請求項1から請求項
3のいずれか1項に記載の改質シリカ微粒子分散液の製造方法。
【請求項5】
前記工程2では、(i)第1改質シリカ微粒子分散液を酸性溶液に対して添加して混合する方法、または、(ii)第1改質シリカ微粒子分散液と酸性溶液とを逐次添加して混合する方法、により混合する、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の改質シリカ微粒子分散液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改質シリカ微粒子分散液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリカ微粒子分散液(コロイダルシリカ)は、ハードコート塗料および研磨材などの各種用途に利用されている。しかしながら、通常のシリカ微粒子分散液は、アニオン性であり、強酸性下または多価カチオンの存在下で、分散状態を保つことは難しく、その利用に制限があった。
そこで、表面改質により、カチオン性のシリカ微粒子分散液を作製する方法が提案されている(特許文献1および2参照)。しかしながら、これらの方法によっては、カチオン性のシリカ微粒子分散液作成の際に凝集が生じて粒子径の増大が生じたり、強酸性下での安定性が低いなどの課題がある。そして、酸性下またはカチオンの存在下においても、分散性および分散安定性が十分に高いシリカ微粒子分散液を作製することは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平10-59708号公報
【文献】特開2011-42546号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、酸性下またはカチオンの存在下においても、分散安定性が十分に高い改質シリカ微粒子分散液を、効率よくかつ経済的に、作製できる改質シリカ微粒子分散液の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決すべく、本発明は、以下のような改質シリカ微粒子分散液の製造方法を提供するものである。
本発明の改質シリカ微粒子分散液の製造方法は、下記工程1および下記工程2を備える方法である。
(工程1)
比表面積換算粒子径が3nm以上1000nm以下の範囲のシリカ微粒子を、分散媒に分散してなる、pHが7以上14以下のシリカ微粒子分散液に、アミノ基を有するシラン化合物を添加して、下記数式(F1a)から下記数式(F1c)の全てを満たす第1改質シリカ微粒子分散液を得る工程
7≦pH1≦14・・・(F1a)
4≦T1≦11・・・(F1b)
Z1≦-10mV・・・(F1c)
第1改質シリカ微粒子分散液のpH:pH1
第1改質シリカ微粒子分散液の等電点:T1
第1改質シリカ微粒子分散液のゼータ電位:Z1
(工程2)
前記第1改質シリカ微粒子分散液と、酸性溶液とを混合して、下記数式(F2a)から下記数式(F2c)の全てを満たす第2改質シリカ微粒子分散液を得る工程
0.5≦pH2≦8・・・(F2a)
T1≦T2・・・(F2b)
10mV≦Z2≦80mV・・・(F2c)
第2改質シリカ微粒子分散液のpH:pH2
第2改質シリカ微粒子分散液の等電点:T2
第2改質シリカ微粒子分散液のゼータ電位:Z2
【0006】
本発明の改質シリカ微粒子分散液の製造方法においては、下記工程3をさらに備えることが好ましい。
(工程3)
前記第2改質シリカ微粒子分散液に、pHが0.5以上7以下の条件下で、温度40℃以上100℃以下にて1時間以上のエージング処理を施して、下記数式(F3a)から下記数式(F3c)の全てを満たす第3改質シリカ微粒子分散液を得る工程
0.5≦pH3≦7・・・(F3a)
T1≦T3・・・(F3b)
10mV≦Z3≦80mV・・・(F3c)
第3改質シリカ微粒子分散液のpH:pH3
第3改質シリカ微粒子分散液の等電点:T3
第3改質シリカ微粒子分散液のゼータ電位:Z3
本発明の改質シリカ微粒子分散液の製造方法においては、前記工程1では、レイノルズ数が3,000以上の条件で攪拌することが好ましい。また、単位容量当たりの攪拌動力が30W/m3以上の条件で攪拌することが好ましい。
本発明の改質シリカ微粒子分散液の製造方法においては、前記工程1では、温度が100℃以下の条件で撹拌することが可能である。
本発明の改質シリカ微粒子分散液の製造方法においては、前記工程2では、(i)第1改質シリカ微粒子分散液を酸性溶液に対して添加して混合する方法、または、(ii)第1改質シリカ微粒子分散液と酸性溶液とを逐次添加して混合する方法、により混合することが好ましい。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、凝集などを生じさせることなくシリカ粒子表面にアミノ基を導入することで、酸性下またはカチオンの存在下においても、分散安定性が十分に高い改質シリカ微粒子分散液を、効率よくかつ経済的に、作製できる改質シリカ微粒子分散液の製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本実施形態における改質シリカ微粒子分散液の製造方法(以下、「本製造方法」ともいう。)は、以下説明する工程1および工程2を備える方法である。
【0009】
(工程1)
工程1においては、まず、シリカ微粒子を、分散媒に分散してなる、シリカ微粒子分散液を準備する。
本製造方法において、対象とするシリカ粒子の比表面積換算粒子径は、特に制限されない。ただし、シリカ微粒子の比表面積換算粒子径が3nm未満のものは一般に得られにくい。また、粒子径が小さいものは一般に高濃度下での安定性が低い。仮に3nm未満が得られたとしても、本製造方法による場合であっても、3nm以下の粒子の安定性は上がるものの、高濃度化は増粘のため難しく、実用上の課題が生じる場合がある。他方、シリカ微粒子の比表面積換算粒子径が1000nmを超える場合には、シリカ微粒子の沈降性が顕著となってくる。また、シリカ微粒子の比表面積換算粒子径は、上記と同様の観点から、3nm以上1000nm以下であり、5nm以上300nm以下であることが好ましく、8nm以上100nm以下であることがより好ましい。
本明細書において、シリカ微粒子などの比表面積換算粒子径は、シリカ粒子の一次粒子径を意味し、窒素吸着法または滴定法により測定された比表面積から換算された値を指す。他方、単に粒子径または平均粒子径と表現する場合は、動的光散乱法を測定原理とする方法で測定された凝集状態や水和層を含めた分散媒中での二次粒子径を指す。具体的な測定法については後述の通りである。
【0010】
シリカ微粒子分散液のpH(pH0)は、7以上14以下である。pH0が7未満の場合には、表面改質後のシリカ微粒子のゼータ電位が0に近づき、或いは電荷が反転し、凝集するおそれがある。他方、pH0が14を超える場合には、このpHを実現するためのカチオン種が分散液や分散液使用時の安定性低下の要因となるため好ましくない。また、pH0は、上記と同様の観点から、8以上13以下であることが好ましく、9以上12以下であることがより好ましい。
本明細書において、pHは、pHメーター(HORIBA社製、「F-52」)およびpH電極(HORIBA社製、「9615S」)を用いて、液温25℃にて測定した。なお、ゲル化した試料については、水で10倍に希釈し、そのpHを測定することで、pHを測定した。
シリカ微粒子分散液の分散媒は、水であることが好ましいが、水以外の分散媒を含有していてもよい。
【0011】
シリカ微粒子の濃度は、シリカ微粒子分散液全量に対して、1質量%以上60質量%以下であることが好ましい。シリカ微粒子の濃度の範囲が前記範囲内であれば、適切な表面処理ができる。また、シリカ微粒子の濃度が1質量%未満である場合は、分散安定性の観点では好ましいが、改質シリカ微粒子の生産性の観点で望ましくない。他方、シリカ微粒子の濃度が60質量%を超えると、粘度が高くなり、改質剤を短時間で均一に分散させることが難しくなるため、シリカ粒子の改質を均一に進めることが難しくなる傾向にある。
【0012】
工程1においては、次に、アミノ基を有するシラン化合物(以下、アミノシラン化合物ともいう)を準備する。
アミノシラン化合物としては、第1級アミノシラン、第2級アミノシラン、第3級アミノシラン、および第4級アミノシランが挙げられる。また、具体的なアミノシラン化合物としては、アミノプロピルトリアルコキシシラン(アミノプロピルトリメトキシシランおよびアミノプロピルトリエトキシシランなど)、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリアルコキシシラン、(N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、ビス(2-ヒドロキシエチル)-3-アミノプロピルトリアルコキシシラン、ジエチルアミノメチルトリアルコキシシラン、(N,N-ジエチル-3-アミノプロピル)トリアルコキシシラン)、3-(N-スチリルメチル-2-アミノエチルアミノプロピルトリアルコキシシラン、(2-N-ベンジルアミノエチル)-3-アミノプロピルトリアルコキシシラン)、トリアルコキシシリルプロピル-N,N,N-トリメチルアンモニウムクロライド、N-(トリアルコキシシリルエチル)ベンジル-N、N、N-トリメチルアンモニウムクロライド、(ビス(メチルジアルコキシシリルプロピル)-N-メチルアミン、ビス(トリアルコキシシリルプロピル)尿素、ビス(3-(トリアルコキシシリル)プロピル)-エチレンジアミン、およびビス(トリアルコキシシリルプロピル)アミンなどが挙げられる。
【0013】
工程1においては、次いで、準備したシリカ微粒子分散液に、アミノシラン化合物を添加して、下記数式(F1a)から下記数式(F1c)の全てを満たす第1改質シリカ微粒子分散液を得る。
7≦pH1≦14・・・(F1a)
4≦T1≦11・・・(F1b)
Z1≦-10mV・・・(F1c)
第1改質シリカ微粒子分散液のpH:pH1
第1改質シリカ微粒子分散液の等電点:T1
第1改質シリカ微粒子分散液のゼータ電位:Z1
【0014】
第1改質シリカ微粒子分散液のpH(pH1)が7未満の場合には、表面改質後のシリカ微粒子のゼータ電位が0に近づき、或いは電荷が反転し、凝集が起こるおそれがある。他方、pH1が14を超える場合には、このpHを実現するためのカチオン種が分散液や分散液使用時の安定性低下の要因となるため好ましくない。また、pH1は、上記と同様の観点から、8以上13以下であることが好ましく、9以上13以下であることがより好ましい。
【0015】
第1改質シリカ微粒子分散液の等電点(T1)が4未満の場合には、アミノシラン処理が十分でないため、酸性下での安定性が十分付与できない場合がある。他方、T1が11を超える場合には、表面改質処理後のpHでのゼータ電位を、前記数式(F1c)の範囲内とすることが難しく(ゼータ電位が0に近づき、或いは電荷が反転し)、この工程1において、凝集または増粘などが起こるおそれがある。また、T1は、上記と同様の観点から、5以上11以下であることが好ましく、6以上11以下であることがより好ましい。
本明細書において、等電点は、次の方法により測定した。すなわち、ゼータ電位測定機(Malvern社製、「ZETASIZER Nano-ZS」)を用いて、pH1以内の間隔でpH調整を行って各pHにおけるゼータ電位測定を行い、ゼータ電位±0mVを挟む2点を直線で結んだ際に、±0mVとなるpHをもって特定した。この際、測定するシリカ微粒子の濃度は、0.45質量%とし、希釈には純水を用いた。また、pH調整には、自動滴定装置(Malvern社製、「MPT-2」)を用い、pHを上げる場合には、0.1Mの水酸化ナトリウム水溶液、pHを下げる場合には、0.1MのHCl水溶液を用いた。
【0016】
第1改質シリカ微粒子分散液のゼータ電位(Z1)が-10mVを超える場合には、拡散電気二重層が薄く、凝集または増粘などが起こるおそれがある。他方、第1改質シリカ微粒子分散液のゼータ電位(Z1)が、-10mV以下の場合、ゼータ電位(Z1)の値が低いほど拡散電気二重層が厚く、第1改質シリカ微粒子の分散安定性が向上する。一般的なシリカ微粒子の分散液の系においては、ゼータ電位(Z1)の値が-100mVを下回る例は多くない。また、ゼータ電位(Z1)は、上記と同様の観点から、-100mV以上-15mV以下であることが好ましく、-80mV以上-20mV以下であることがより好ましく、-70mV以上-20mV以下であることが特に好ましい。
本明細書において、ゼータ電位は、ゼータ電位測定装置(Malvern社製、「ZETASIZER Nano-ZS」)を用いて測定した。この際、測定するシリカ微粒子の濃度は、質量0.45%とし、希釈には純水を用いた。
【0017】
第1改質シリカ微粒子分散液のpH、等電点およびゼータ電位を調整する方法としては、公知の方法を採用できる。
例えば、pHは、アルカリ性溶液や酸性溶液を配合することで、適宜調整できる。また、イオン交換や限外ろ過洗浄などで脱塩を行うことでもpHを調整できる。これらの方法は非経済的ではあるが、塩濃度が下がるため、分散安定性が向上し、好ましい場合がある。
等電点またはゼータ電位は、表面処理量、または、表面処理を行うアミノシラン化合物の種類を変更すること、或いは、攪拌の条件(攪拌時の温度および時間など)を変更することなどで調整できる。例えば、表面処理量を多くすれば、等電点がアルカリ側にシフトし、ゼータ電位が0に近づくか、或いは正の値となる。また、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリアルコキシシランなど、1分子中に2個以上のアミノ基を有するシラン化合物は、1個のアミノ基を有するシラン化合物よりも、1分子でより大きく等電点をシフトさせることができる傾向にある。
【0018】
工程1においては、レイノルズ数が3,000以上の条件で攪拌することが好ましく、5,000以上100,000以下の条件で攪拌することがより好ましく、さらには10,000以上100,000以下の条件で攪拌することがより好ましい。また、単位容量あたりの攪拌動力が30W/m3以上の条件で攪拌することが好ましく、50W/m3以上5,000W/m3以下の条件で攪拌することがより好ましく、さらには100W/m3以上5,000W/m3以下の条件で攪拌することがより好ましい。レイノルズ数または単位容量あたりの攪拌動力が上記いずれかの範囲にあれば、滴下した表面処理材を反応速度に対して十分早く拡散させることができるため、表面処理が均一に進み、白濁や増粘が発生する現象を十分に抑制できる傾向にある。他方、レイノルズ数や単位容量あたりの攪拌動力が大きすぎる場合、パドル、タービンまたはプロペラ等を用いての攪拌において空気を巻き込んで液中に気液界面が生じ、凝集物生成の要因となることがあり、前記上限以下であることが好ましい。
【0019】
工程1においては、温度が100℃以下の条件で攪拌することが可能であるが、温度が40℃以下の条件で撹拌することがより好ましい。また、温度は、3℃以上40℃以下であることがより好ましい。温度は、凍結しない範囲であれば低温である方が、表面処理がより均一に進むため好ましいものの、前記下限未満の場合、生産性の観点で望ましくない。他方、温度が前記上限を超える場合、アルカリ性すなわち水酸化物イオン濃度が高い条件での反応が加速され、アルコキシ基の加水分解反応が進みやすくなる。このことは、アミノシランが有するアルコキシ基の分解反応によって生じるアルコール種の定量や29Si-NMRなどで確認される。この状況においては、アミノシラン化合物同士の重合反応が進みやすくなり、シリカ粒子表面への表面修飾に寄与するアミノシラン化合物が減少するため、或いは処理したアミノシランが外れて、さらに外れたアミノシラン同士での重合が起こるためか、同一量の表面処理を行った場合における等電点が低くなる。すなわち、工程2以降を経たシリカ微粒子がカチオン性粒子として安定に存在できるpH領域が狭くなるため、好ましくない。
【0020】
工程1において、第1改質シリカ微粒子の濃度は、第1改質シリカ微粒子分散液全量に対して、1質量%以上60質量%以下であることが好ましい。第1改質シリカ微粒子の濃度の範囲が前記範囲内であれば、適切な表面処理ができる。
アミノシラン化合物の添加量は、第1改質シリカ微粒子分散液の等電点を前記数式(F1b)の範囲内に調整するという観点から、改質前のシリカ微粒子の表面1m2あたりに対して、10μg以上3,000μg以下であることが好ましい。この工程1において、ゼータ電位は、改質途中も含めて-10mV以下であることが好ましく、pHは、改質途中も含めて7以上14以下であることが好ましい。すなわち、pH調整は、アミノ基を有するシラン化合物の添加前に行うことが好ましい。
【0021】
(工程2)
工程2においては、まず、酸性溶液を準備する。
酸性溶液としては、無機酸の溶液でも、有機酸の溶液でもよい。また、酸性溶液の溶媒は、水であることが好ましいが、水以外の溶媒を含有していてもよい。
無機酸としては、塩酸、硝酸、リン酸、および硫酸などが挙げられる。これらの中でも、1価の無機酸(塩酸および硝酸など)が好ましい。
有機酸としては、カルボン酸およびヒドロキシカルボン酸(1分子内にカルボキシ基とアルコール性水酸基の両方を有する化合物)などが挙げられる。カルボン酸としては、モノカルボン酸(蟻酸、酢酸およびアクリル酸など)および多価カルボン酸(シュウ酸、マロン酸、コハク酸およびマレイン酸など)などが挙げられる。ヒドロキシカルボン酸としては、乳酸、酒石酸、リンゴ酸、グリセリン酸およびクエン酸などが挙げられる。
酸性溶液が希薄である場合、pH調整に用いる酸性溶液の量が多くなり、改質シリカ微粒子分散液が強く希釈されることになる。そのため、酸性溶液のpHは、4以下であることが好ましく、3以下であることがより好ましい。
【0022】
工程2においては、次に、工程1で得られた第1改質シリカ微粒子分散液と、酸性溶液とを混合して、下記数式(F2a)から下記数式(F2c)の全てを満たす第2改質シリカ微粒子分散液を得る。
0.5≦pH2≦8・・・(F2a)
T1≦T2・・・(F2b)
10mV≦Z2≦80mV・・・(F2c)
第2改質シリカ微粒子分散液のpH:pH2
第2改質シリカ微粒子分散液の等電点:T2
第2改質シリカ微粒子分散液のゼータ電位:Z2
【0023】
第2改質シリカ微粒子分散液のpH(pH2)が0.5未満の場合には、そのpHを実現するために必要な塩の濃度が高くなり、これにより分散安定性が損なわれることがある。他方、pH2が8を超える場合には、T2との差が小さくなり、10mV≦Z2≦80mVを満たすことが難しくなる。また、pH2は、上記と同様の観点から、0.5以上7以下であることが好ましく、0.5以上6以下であることがより好ましい。
【0024】
第2改質シリカ微粒子分散液の等電点(T2)がT1未満の場合には、その後の工程でさらに等電点が低下し、安定な酸性ゾルが得られないことがある。また、T2は、4以上11以下であることが好ましく、5以上11以下であることがより好ましい。
【0025】
第2改質シリカ微粒子分散液のゼータ電位(Z2)が10mV未満の場合には、凝集または増粘などが起こるおそれがある。他方、Z2が80mVを超える場合には、過剰な、粒子修飾以外の形で系内に存在するアミノ基を有するシラン加工物が残存し、経時での粘度の増加が見られる等、不安定となることがある。また、Z2は、上記と同様の観点から、15mV以上80mV以下であることが好ましく、20mV以上80mV以下であることがより好ましい。
【0026】
第2改質シリカ微粒子分散液のpH、等電点およびゼータ電位を調整する方法としては、公知の方法を採用できる。
例えば、pHは、アルカリ性溶液や酸性溶液と混合することで、適宜調整できる。
等電点またはゼータ電位は、pHを変更することなどで調整できる。例えば、pHを下げることで、ゼータ電位は大きくなる傾向がある。
【0027】
工程2においては、(i)第1改質シリカ微粒子分散液を酸性溶液に対して添加して混合する方法、または、(ii)第1改質シリカ微粒子分散液と酸性溶液とを逐次添加して混合する方法、により混合することが好ましい。このような方法によれば、混合時に、分散液全体のpHを均一かつ短時間で下げることができる。そのため、一部の粒子のみpHが下がることで、アニオン性粒子とカチオン性粒子が同時に存在することが抑制され、凝集や増粘が発生する現象を十分に抑制できる傾向にある。また、系全体のpHが凝集や増粘が起こりやすい等電点付近にあるのを極めて短時間とすることができるため、分散した改質シリカ微粒子が得られるようになる。
第1改質シリカ微粒子分散液に対する酸性溶液との質量比(酸性溶液/第1改質シリカ微粒子分散液)は、0.001以上10以下であることが好ましい。この質量比が0.001未満の場合、酸性溶液と第1改質シリカ微粒子を短時間で均一に混ぜることが困難となり、凝集やゲル化が起こりやすくなる傾向にある。また、この質量比が10を超える場合、シリカ微粒子の濃度が大きく下がるため、生産性の観点で好ましくない。
【0028】
(工程3)
本製造方法は、工程3をさらに備えていてもよい。この工程3を行うことで、等電点を上げることができ、カチオン性の改質シリカ微粒子分散液として、安定して存在できるpH領域を広げることができる。
工程3においては、工程2で得られた第2改質シリカ微粒子分散液に、pHが0.5以上7以下の条件下で、温度40℃以上100℃以下にて1時間以上のエージング処理を施して、下記数式(F3a)から下記数式(F3c)の全てを満たす第3改質シリカ微粒子分散液を得る。
0.5≦pH3≦7・・・(F3a)
T1<T3・・・(F3b)
10mV≦Z3≦80mV・・・(F3c)
第3改質シリカ微粒子分散液のpH:pH3
第3改質シリカ微粒子分散液の等電点:T3
第3改質シリカ微粒子分散液のゼータ電位:Z3
【0029】
エージング処理におけるpHが0.5以上7以下であれば、等電点を上げることができ、カチオン性の改質シリカ微粒子分散液として、安定して存在できるpH領域を広げることができる。
エージング処理における温度が前記範囲内であれば、第2改質シリカ微粒子分散液中に未反応物が残存する場合に、未反応物の反応を進めることができる。
エージング処理の時間が前記下限以上であれば、第2改質シリカ微粒子分散液中に未反応物が残存する場合に、未反応物の反応を進めることができる。
【0030】
第3改質シリカ微粒子分散液のpH(pH3)が0.5未満の場合には、pH調整に用いた酸が多量に存在することになり、ハードコート塗料や研磨材などに実際に使用する際に、問題となる場合がある。他方、pH3が7を超える場合には、エージング処理により、水酸化物イオン濃度が高い条件での反応が加速され、アルコキシ基の加水分解反応が進むことで、アミノシラン化合物同士の重合反応が進みやすくなり、シリカ粒子表面への表面修飾に寄与するアミノシラン化合物が減少するため、或いは処理したアミノシランが外れて、さらに外れたアミノシラン同士での重合が起こるためか、等電点がエージング処理前よりも下がってしまう傾向にある。また、pH3は、上記と同様の観点から、1以上6以下であることが好ましく、1以上5以下であることがより好ましい。
【0031】
第3改質シリカ微粒子分散液の等電点(T3)がT1以下であることは、カチオンゾルとして安定に存在できるpH範囲が狭くなっていることを示し、好ましくない。また、その後の経時によりさらに等電点が下がり、酸性ゾルとしての安定性が低いことがある。また、T3は、4以上11以下であることが好ましく、5以上11以下であることがより好ましい。
【0032】
第3改質シリカ微粒子分散液のゼータ電位(Z3)が10mV未満の場合には、凝集または増粘などが起こりやすい傾向にある。他方、Z3が80mVを超える場合には、過剰な、粒子修飾以外の形で系内に存在するアミノ基を有するシラン加工物が残存し、経時での粘度の増加が見られる等、不安定となることがある。また、Z3は、上記と同様の観点から、15mV以上80mV以下であることが好ましく、20mV以上80mV以下であることがより好ましい。
【0033】
第3改質シリカ微粒子分散液のpH、等電点およびゼータ電位を調整する方法としては、公知の方法を採用できる。
例えば、pHは、アルカリ性溶液や酸性溶液を配合することで、適宜調整できる。また、イオン交換や限外ろ過洗浄などで脱塩を行うことでもpHを調整できる。これらの方法は非経済的ではあるが、塩濃度が下がるため、分散安定性が向上し、好ましい場合がある。
等電点またはゼータ電位は、第2改質シリカ微粒子分散液の等電点、ゼータ電位またはpHを変更することなどで調整できる。
等電点またはゼータ電位は、表面処理量、または、表面処理を行うアミノシラン化合物の種類を変更すること、或いは、攪拌時の条件(温度など)を変更することなどで調整できる。例えば、表面処理量を多くすれば、等電点がアルカリ側にシフトし、同一pHでのゼータ電位の値が大きくなる傾向にある。一方、pHは低いほどゼータ電位の値は大きくなる傾向にある。また、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリアルコキシシランなど、1分子中に2個以上のアミノ基を有するシラン化合物は、1個のアミノ基を有するシラン化合物よりも、1分子でより大きく等電点をシフトさせることができる傾向にある。
【0034】
以上説明した本製造方法により、酸性下またはカチオンの存在下においても、分散安定性が十分に高い改質シリカ微粒子分散液を、効率よくかつ経済的に、作製できる。
得られた改質シリカ微粒子分散液は、ハードコート塗料および研磨材などの各種用途に利用できる。
【実施例】
【0035】
以下、実施例および比較例を示して本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
また、実施例および比較例で使用した測定方法および評価方法を以下に示す。
(1)pH
pHメーター(HORIBA社製、「F-52」)およびpH電極(HORIBA社製、「9615S」)を用いて、液温25℃にて測定した。
(2)平均粒子径
粒径測定システム(大塚電子社製、「ELSZ-1000」)を用いてシリカ固形分濃度1%にて測定したキュムラント径を平均粒子径とした。シリカ固形分濃度の調整には純水を用いた。
(3)比表面積および比表面積換算粒子径
比表面積が80m2/g以上の場合はNaOH滴定法で、未満の場合はBET法で測定した。
・NaOH滴定による比表面積および比表面積換算粒子径測定
1)SiO2固形分として1.5gに相当する試料(粒子連結型シリカ微粒子を含む分散液)をビーカーに採取してから、恒温反応槽(25℃)に移し、純水を加えて液量を90mlにする。(以下の操作は、25℃に保持した恒温反応槽中にて行った。)
2)pH3.6になるように陽イオン交換又は0.1モル/L塩酸水溶液を加える。
3)塩化ナトリウムを30g加え、純水で150mlに希釈し、10分間攪拌する。
4)pH電極をセットし、攪拌しながら0.1モル/L水酸化ナトリウム溶液を滴下して、pH4.0に調整する。
5)pH4.0に調整した試料を0.1モル/L水酸化ナトリウム溶液で滴定し、pH8.7~9.3の範囲での滴定量とpH値を4点以上記録して、0.1モル/L水酸化ナトリウム溶液の滴定量をX、その時のpH値をYとして、検量線を作る。
6)次の式(2)からSiO21.5g当たりのpH4.0~9.0までに要する0.1モル/L水酸化ナトリウム溶液の消費量V(mL)を求め、下記式(3)に従って比表面積[m2/g]を求める。
また、比表面積換算粒子径(nm)は、式(4)から求める。
V=(A×f×100×1.5)/(W×C) ・・・ (2)
SA=29.0V-28 ・・・ (3)
比表面積換算粒子径=6000/(ρ×SA) ・・・ (4)
(ここで、ρは粒子の密度(g/cm3)を表す。シリカの場合は2.2を代入する。)
但し、上記式(2)における記号の意味は次の通りである。
A:SiO21.5g当たりpH4.0~9.0までに要する0.1モル/L水酸化ナトリウム溶液の滴定量(mL)
f:0.1モル/L水酸化ナトリウム溶液の力価
C:試料のSiO2濃度(%)
W:試料採取量(g)
・BETによる比表面積および比表面積換算粒子径測定
シリカゾル50mlをHNO3でpH3.5に調整し、1-プロパノールを40mL加え、110℃で16時間乾燥した試料について、乳鉢で粉砕後、マッフル炉にて500℃、1時間焼成して測定用試料とした。そして比表面積測定装置(Mountech製、Macsorb)を用いて窒素吸着法(BET法)を用いて、窒素の吸着量から、BET1点法により比表面積を算出した。
比表面積測定装置では、焼成後の試料0.5gを測定セルに取り、混合ガス(窒素30体積%/ヘリウム70体積%)気流中、300℃で20分間脱ガス処理を行い、その後に試料を上記混合ガス気流中で液体窒素温度に保ち、窒素を試料に平衡吸着させた。次いで、上記混合ガスを流しながら試料温度を徐々に室温まで上昇させ、その間に脱離した窒素の量を検出し、比表面積(SA)(m2/g)を算出した。算出した比表面積(SA)から下記式にて比表面積換算粒子径(nm)を求めた。
比表面積換算粒子径(nm)=6000/(ρ×SA)
(ここで、ρは粒子の密度(g/cm3)を表す。シリカの場合は2.2を代入する。)
(4)比重
密度比重計(京都電子製、DA-640B)を用いて25℃下で測定した。
(5)粘度
粘度計(柴田科学製、キャノン・フェンスケ)を用いて25℃下で測定した。
(6)等電点
ゼータ電位測定機(Malvern社製、「ZETASIZER Nano-ZS」)を用いて、pH1以内の間隔でpH調整を行って、各pHにおけるゼータ電位測定を行い、ゼータ電位±0mVを挟む2点を直線で結んだ際に、±0mVとなるpHをもって特定した。この際、測定するシリカ微粒子の濃度は、0.45質量%とし、希釈には純水を用いた。また、pH調整には自動滴定装置(Malvern社製、「MPT-2」)を用い、pHを上げる場合には0.1Mの水酸化ナトリウム水溶液、pHを下げる場合には0.1MのHCl水溶液を用いた。
(7)ゼータ電位
ゼータ電位測定装置(Malvern社製:ZETASIZER Nano-ZS)を用いて測定した。この際、測定するシリカ微粒子の濃度は0.45%とし、希釈には純水を用いた。
(8)分散安定性
改質シリカ微粒子分散液を、温度25℃にて7日間、保管した後の外観を目視にて観察し、以下の基準に従って、分散安定性を評価した。
○:改質シリカ微粒子分散液に凝集、増粘は見られない。
△:改質シリカ微粒子分散液に凝集(白化)または増粘が見られる。
×:改質シリカ微粒子分散液が凝集(沈降)またはゲル化した。
(9)カチオン成分安定性
改質シリカ微粒子分散液5gにポリ塩化アルミ(黒崎化学工業社製:ポリ塩化アルミニウム、Al2O3濃度10質量%)を一滴滴下し、その外観を目視にて観察し、以下の基準に従って、カチオン成分安定性を評価した。
○:カチオン成分添加で、改質シリカ微粒子分散液に凝集、増粘は見られない。
△:カチオン成分添加で、改質シリカ微粒子分散液に凝集(白化)または増粘が見られる。
△~×:カチオン成分添加で、改質シリカ微粒子分散液に凝集(白化)または増粘が見られ、僅かに、凝集沈降またはゲル化が見られる。
×:カチオン成分添加で、改質シリカ微粒子分散液に凝集沈降またはゲル化が見られる。
(10)レイノルズ数および単位容量あたりの攪拌動力
使用した容器、攪拌機および液性状から計算により求めた。
【0036】
(実施例1)
シリカ微粒子分散液(日揮触媒化成社製、「カタロイドSI-40」、SiO2濃度40.5質量%、Na2O濃度0.40質量%、Cl濃度0.08質量%、pH9.0、平均粒子径24nm、比表面積156m2/g、等電点2.5未満、比重1.300、粘度7mPa・s)5000gを直径17.5cmのステンレス容器に入れ、これに、アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業社製、「KBM-903」)60.75g(SiO2分100質量部に対して3質量部相当)を25℃、攪拌下で30分かけて添加した。この際に攪拌羽は直径12cm、幅2.5cmの2枚羽で、羽が攪拌方向に対し垂直なものを用い、230rpmにて攪拌し、pH10.5の表面改質シリカ微粒子を含むアルカリ性改質シリカ微粒子分散液(第1改質シリカ系微粒子分散液)を得た(工程1)。得られたアルカリ性改質シリカ微粒子分散液において、等電点は6.6であり、ゼータ電位は-42mVであり、平均粒子径は24nmであった。
次に、塩酸(関東化学社製、「鹿特級」)を純水で希釈して1質量%とした酸性溶液320gに、得られたアルカリ性改質シリカ微粒子分散液678gを攪拌下で20分かけて添加、混合して、pH2.7の酸性改質シリカ微粒子分散液(第2改質シリカ系微粒子分散液)を得た(工程2)。得られた酸性改質シリカ微粒子分散液において、等電点は6.6であり、ゼータ電位は+35mVであり、平均粒子径は23nmであった。
次いで、このpH2.7の酸性改質シリカ系微粒子分散液に、温度80℃で16時間のエージング処理を施して、エージング処理後の酸性改質シリカ微粒子分散液(第3改質シリカ系微粒子分散液)を得た(工程3)。得られたエージング処理後の酸性改質シリカ微粒子分散液に純水を加えてSiO2濃度20.5質量%に調整したところ、等電点は7.0であり、pHは5.0であり、ゼータ電位は+25mVであり、平均粒子径は24nmであった。
【0037】
(実施例2)
実施例1の工程1と同様にして得られたアルカリ性改質シリカ微粒子分散液(第1改質シリカ系微粒子分散液)に対し、実施例1の工程2で酸性溶液とアルカリ性改質シリカ微粒子分散液の比を変えて、それぞれ320gと594gとした以外は実施例1と同様にして、pH2.0、等電点6.7、ゼータ電位+45mV、平均粒子径23nmの酸性改質シリカ微粒子分散液(第2改質シリカ系微粒子分散液)を得た。これに、温度80℃で16時間のエージング処理を施した後に純水を加えて、SiO2濃度20.5質量%に調整して、エージング処理後の酸性改質シリカ微粒子分散液(第3改質シリカ系微粒子分散液)を得た。得られたエージング処理後の酸性改質シリカ微粒子分散液において、等電点は7.1であり、pHは3.5であり、ゼータ電位は+40mVであり、平均粒子径は24nmであった。
【0038】
(実施例3)
実施例1と同様に工程1と工程2を行い、続いて工程3のエージング条件を温度80℃で2時間とする以外は実施例1と同様にして、エージング処理後の酸性改質シリカ微粒子分散液(第3改質シリカ系微粒子分散液)を得た。得られたエージング処理後の酸性改質シリカ微粒子分散液において、等電点は6.8であり、pHは4.4であり、ゼータ電位は+30mVであり、平均粒子径は24nmであった。
【0039】
(実施例4)
実施例1と同様に工程1と工程2を行い、続いて工程3のエージング条件を温度25℃で96時間とする以外は実施例1と同様にして、エージング処理後の酸性改質シリカ微粒子分散液(第3改質シリカ系微粒子分散液)を得た。得られたエージング処理後の酸性改質シリカ微粒子分散液において、等電点は6.7であり、pHは3.3であり、ゼータ電位は+28mVであり、平均粒子径は24nmであった。
【0040】
(実施例5)
実施例1の工程1および工程2と同様にして、酸性改質シリカ微粒子分散液(第2改質シリカ系微粒子分散液)を得た。得られた酸性改質シリカ微粒子分散液において、等電点は6.6であり、ゼータ電位は+35mVであり、平均粒子径は23nmであった。
【0041】
(実施例6)
実施例1の工程1と同様にして得られたアルカリ性改質シリカ微粒子分散液について、pH調整無しで、80℃で16時間のエージング処理を行い、pH10.1、等電点は5.9、ゼータ電位は-48mVであり、平均粒子径は25nmのアルカリ性改質シリカ微粒子分散液(第1改質シリカ系微粒子分散液)を得た。
次に、塩酸(関東化学社製、「鹿特級」)を純水で希釈して1質量%とした酸性溶液に、得られたアルカリ性改質シリカ微粒子分散液を攪拌下で添加、混合して、pH2.7の酸性改質シリカ微粒子分散液(第2改質シリカ系微粒子分散液)を得た。得られた酸性改質シリカ微粒子分散液において、等電点は5.9であり、ゼータ電位は+28mVであり、平均粒子径は23nmであった。
【0042】
(実施例7)
実施例1の工程1におけるアミノプロピルトリメトキシシランの添加量を20.25g(SiO2分100質量部に対して1質量部相当)とし、アミノシランの添加時間を10分とした以外は実施例1の工程1と同様にして、pH9.3、等電点6.1、ゼータ電位-45mV、平均粒子径24nmのアルカリ性改質シリカ微粒子分散液(第1改質シリカ系微粒子分散液)を得た。
次に、塩酸(関東化学社製、「鹿特級」)を純水で希釈して1質量%とした酸性溶液320gに、得られたアルカリ性改質シリカ微粒子分散液930gを攪拌下で30分かけて添加、混合して、pH2.7の酸性改質シリカ微粒子分散液(第2改質シリカ系微粒子分散液)を得た。得られた酸性改質シリカ微粒子分散液において、等電点は6.1であり、ゼータ電位は+30mVであり、平均粒子径は23nmであった。
【0043】
(実施例8)
実施例1の工程1におけるアミノプロピルトリメトキシシランの添加量を202.5g(SiO2分100質量部に対して10質量部相当)とし、アミノシランの添加時間を100分とした以外は実施例1の工程1と同様にして、pH11.4、等電点9.2、ゼータ電位-27mV、平均粒子径72nmのアルカリ性改質シリカ微粒子分散液(第1改質シリカ系微粒子分散液)を得た。
次に、塩酸(関東化学社製、「鹿特級」)を純水で希釈して1質量%とした酸性溶液320gに、得られたアルカリ性改質シリカ微粒子分散液330gを攪拌下で30分かけて添加、混合して、pH2.7の酸性改質シリカ微粒子分散液(第2改質シリカ系微粒子分散液)を得た。得られた酸性改質シリカ微粒子分散液において、等電点は9.2であり、ゼータ電位は+55mVであり、平均粒子径は30nmであった。
【0044】
(実施例9)
シリカ微粒子分散液(日揮触媒化成社製、「PPS-45PKH」、SiO2濃度40.4質量%、pH10.2、K2O濃度0.68質量%、Cl濃度0.02質量%、平均粒子径63nm、比表面積63m2/g、等電点2.5未満、比重1.300、粘度4mPa・s)5000gを直径17.5cmのステンレス容器に入れ、これに、アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業社製、「KBM-903」)20.25g(SiO2分100質量部に対して1質量部相当)を攪拌下で添加した。この際に攪拌羽は直径12cm、幅2.5cmの2枚羽で、羽が攪拌方向に対し垂直なものを用い、230rpmにて攪拌し、pH10.6の表面改質シリカ微粒子を含むアルカリ性改質シリカ微粒子分散液(第1改質シリカ系微粒子分散液)を得た(工程1)。得られたアルカリ性改質シリカ微粒子分散液において、等電点は6.6であり、ゼータ電位は-50mVであり、平均粒子径は62nmであった。
次に、塩酸(関東化学社製、「鹿特級」)を純水で希釈して1質量%とした酸性溶液320gに、得られたアルカリ性改質シリカ微粒子分散液を純水でSiO2濃度25%に希釈した液を1858g添加し、混合して、pH2.0の酸性改質シリカ微粒子分散液(第2改質シリカ系微粒子分散液)を得た(工程2)。得られた酸性改質シリカ微粒子分散液において、等電点は6.6であり、ゼータ電位は+62mVであり、平均粒子径は61nmであった。
【0045】
(実施例10)
実施例9の工程1と同様にして得られたアルカリ性改質シリカ微粒子分散液(第1改質シリカ系微粒子分散液)を1質量%の塩酸に加えてpH1.8として、等電点6.6、ゼータ電位+60mV、平均粒子径63nmの酸性改質シリカ微粒子分散液(第2改質シリカ系微粒子分散液)を得た。このpH1.8の酸性改質シリカ微粒子分散液に対し、温度80℃で16時間のエージング処理を施した後に純水を加えてSiO2濃度を20.5質量%に調整して、エージング処理後の酸性改質シリカ微粒子分散液(第3改質シリカ系微粒子分散液)を得た(工程3)。得られたエージング処理後の酸性改質シリカ微粒子分散液において、等電点は7.2であり、pHは2.0であり、ゼータ電位は+62mVであり、平均粒子径は62nmであった。
【0046】
(実施例11)
シリカ微粒子分散液(日揮触媒化成社製、「PPS-45PKH」、SiO2濃度40.4質量%、pH10.2、K2O濃度0.68質量%、Cl濃度0.02質量%、平均粒子径63nm、比表面積63m2/g、等電点2.5未満、比重1.300、粘度4mPa・s)3500gと5質量%の水酸化カリウム水溶液1500gを直径17.5cmのステンレス容器に入れ、これに、アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業社製、「KBM-903」)303.75g(SiO2分100質量部に対して15質量部相当)を攪拌下で150分かけて添加した。この際に攪拌羽は直径12cm、幅2.5cmの2枚羽で、羽が攪拌方向に対し垂直なものを用い、230rpmにて攪拌し、pH12.3、等電点9.5、ゼータ電位-30mV、平均粒子径64nmのアルカリ性改質シリカ微粒子分散液(第1改質シリカ系微粒子分散液)を得た。
次に、塩酸(関東化学社製、「鹿特級」)を純水で希釈して1質量%とした酸性溶液に、得られたアルカリ性改質シリカ微粒子分散液を攪拌下で30分かけて添加、混合して、pH2.7の酸性改質シリカ微粒子分散液(第2改質シリカ系微粒子分散液)を得た。得られた酸性改質シリカ微粒子分散液において、等電点は9.5であり、ゼータ電位は+55mVであり、平均粒子径は64nmであった。
【0047】
(比較例1)
実施例1の工程1と同様にして得られたアルカリ性改質シリカ微粒子分散液(第1改質シリカ系微粒子分散液)に対し、温度80℃で16時間のエージング処理を施して、エージング処理後のアルカリ性の改質シリカ微粒子分散液を得た。得られたエージング処理後のアルカリ性の改質シリカ微粒子分散液において、等電点は5.9であり、pHは10.0であり、ゼータ電位は-50mVであり、平均粒子径は24nmであった。
【0048】
(比較例2)
実施例1の工程1と同様にして得られたアルカリ性改質シリカ微粒子分散液(第1改質シリカ系微粒子分散液)に対し、温度25℃で96時間のエージング処理を施して、エージング処理後のアルカリ性の改質シリカ微粒子分散液を得た。得られたエージング処理後のアルカリ性の改質シリカ微粒子分散液において、等電点は6.6であり、pHは10.2であり、ゼータ電位は-38mVであり、平均粒子径は24nmであった。
【0049】
(比較例3)
シリカ微粒子分散液(日揮触媒化成社製、「カタロイドSN」、SiO2濃度20.5質量%、pH2.3、平均粒子径17nm、比表面積255m2/g、等電点2.5未満、比重1.117、粘度1.5mPa・s)5000gを直径17.5cmのステンレス容器に入れ、これに、アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業社製、「KBM-903」)60.75g(SiO2分100質量部に対して3質量部相当)を攪拌下(攪拌羽は直径12cm、幅2.5cmの2枚羽で、羽が攪拌方向に対し垂直なものを用い、回転速度は230rpm)で添加したところ、ゲル化した。このゲル化物を純水で10倍希釈して測定したpHは6.9であり、ゼータ電位は+2mVであり、平均粒子径は500nm超であった。
【0050】
(比較例4)
まず、アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業社製、「KBM-903」)60.75g(SiO2分100質量部に対して3質量部相当)と、7.7質量%の塩酸267gを混合して、酸性混合液327.75gを得た。そして、シリカ微粒子分散液(日揮触媒化成社製、「カタロイドSI-40」、SiO2濃度40.5質量%、pH9.0、平均粒子径24nm)5000gに対して、得られた酸性混合液327.75gを攪拌下で添加し、pH5.5の表面改質シリカ微粒子を含む酸性の改質シリカ微粒子分散液を得た。得られた酸性の改質シリカ微粒子分散液は、ゲル化していた。また、得られた酸性の改質シリカ微粒子分散液において、等電点は6.8であり、ゼータ電位は+5mVであり、平均粒子径は500nm超であった。
【0051】
(比較例5)
アミノプロピルトリメトキシシランの添加量を607.5g(SiO2分100質量部に対して30質量部相当)とし、アミノシランの添加時間を300分とした以外は実施例1の工程1と同様にしたところ、シリカ微粒子分散液はゲル化した。このゲル化物を純水で10倍希釈したもののpHは10.7、ゼータ電位は-2mV、平均粒子径は500nm超であった。
【0052】
(比較例6)
アミノプロピルトリメトキシシランの添加量を1.01g(SiO2分100質量部に対して0.05質量部相当)とし、アミノシランの添加時間を0.5分とした以外は実施例1の工程1と同様にして、pH9.0、等電点2.5未満、ゼータ電位-45mV、平均粒子径24nmのアルカリ性の改質シリカ微粒子分散液を得た。
次に、塩酸(関東化学社製、「鹿特級」)を純水で希釈して1質量%とした酸性溶液320gに、得られたアルカリ性改質シリカ微粒子分散液1150gを攪拌下で30分かけて添加、混合して、pH2.7の酸性改質シリカ微粒子分散液を得た。得られた酸性改質シリカ微粒子分散液において、等電点は2.5未満であり、ゼータ電位は-10mVであり、平均粒子径は24nmであった。
【0053】
<改質シリカ微粒子分散液の評価>
実施例および比較例にて最終的に得られた改質シリカ微粒子分散液(第1改質シリカ系微粒子分散液、第2改質シリカ系微粒子分散液または第3改質シリカ系微粒子分散液)の評価(分散安定性、カチオン成分安定性)を上記のような方法で行った。実施例について得られた結果を表1に示し、比較例にについて得られた結果を表2に示す。また、実施例および比較例におけるシリカ微粒子分散液、および、改質シリカ微粒子分散液(第1改質シリカ系微粒子分散液、第2改質シリカ系微粒子分散液または第3改質シリカ系微粒子分散液)についての測定結果(平均粒子径、pH、等電点、ゼータ電位)を、それぞれ、表1および表2に示す。さらに、実施例および比較例における各工程の条件(攪拌処理時の温度、レイノルズ数、容量当たりの動力など)を、それぞれ、表1および表2に示す。
【0054】
【0055】
【0056】
表1に示す結果からも明らかな通り、実施例1~11で得られた改質シリカ微粒子分散液は、酸性下における分散安定性およびカチオン成分安定性が十分に高いことが確認された。