(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-18
(45)【発行日】2022-10-26
(54)【発明の名称】転圧機械
(51)【国際特許分類】
E01C 19/26 20060101AFI20221019BHJP
E01C 19/27 20060101ALI20221019BHJP
E01C 19/28 20060101ALI20221019BHJP
G08B 21/02 20060101ALI20221019BHJP
【FI】
E01C19/26
E01C19/27
E01C19/28
G08B21/02
(21)【出願番号】P 2019094424
(22)【出願日】2019-05-20
【審査請求日】2021-07-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090022
【氏名又は名称】長門 侃二
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 鉄朗
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 正和
(72)【発明者】
【氏名】竹田 奈美
【審査官】荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-012394(JP,A)
【文献】特開2015-191592(JP,A)
【文献】特開2019-026066(JP,A)
【文献】特開2000-135957(JP,A)
【文献】特開平09-240323(JP,A)
【文献】特開昭63-130453(JP,A)
【文献】特開2005-256478(JP,A)
【文献】実開平01-098208(JP,U)
【文献】特開2019-049115(JP,A)
【文献】特開2018-197491(JP,A)
【文献】特開2018-040753(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01C 19/26
E01C 19/27
E01C 19/28
G08B 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
路面を締め固める転圧ローラと、
前記転圧ローラを減速することで機体を減速する減速装置と、を備えた転圧機械において、
障害物と前記機体との距離である障害物距離を検出する測距センサと、
前記減速装置を制御するコントローラと、を有し、
前記コントローラは、
前記機体が前記障害物に接触する前に該機体を停止させるために必要な区間である停止区間及び前記機体と前記障害物とが前記停止区間以上に離間する区間であって前記機体の速度を制限する速度制限区間を判定する区間判定部と、
前記減速装置を制御して機体を減速する減速制御を実行する減速制御部と、を含み、
前記区間判定部は、前記測距センサによって検出される前記障害物距離に基づいて前記速度制限区間及び前記停止区間を判定し、
前記減速制御部は、
前記区間判定部により前記障害物が前記速度制限区間に位置する
と判定された場合、前記減速装置を制御して前記機体を規定速度まで減速したあと
、前記障害物が前記停止区間に移るまでの間、
前記規定速度を維持し
て前記機体を走行させ、
前記区間判定部により前記障害物が前記停止区間に位置する
と判定された場合、前記機体を停止
させることを特徴とする転圧機械。
【請求項2】
前記機体の速度を検出する速度センサを有し、
前記区間判定部は、前記速度センサによって検出される前記機体の速度に応じて前記速度制限区間及び前記停止区間を設定する、
ことを特徴とする、請求項1に記載の転圧機械。
【請求項3】
前記機体を操作するオペレータまたは前記機体の周囲に位置する作業者に警告をする警告装置を有し、
前記コントローラは、前記警告装置を制御する警告制御を実行する警告制御部を含み、
前記区間判定部は、前記速度制限区間よりも前記機体と前記障害物とが離間する区間である警告区間を判定しており、
前記警告制御部は、前記障害物が少なくとも前記警告区間に位置する間、前記警告装置を作動する、
ことを特徴とする、請求項1に記載の転圧機械。
【請求項4】
前記転圧ローラの回転を減速及び停止させる油圧制動装置と、
前記転圧ローラの回転を停止させて前記機体を駐機状態にする駐機ブレーキ装置と、を備え、
前記減速制御部は、前記障害物が前記停止区間に位置する際、前記油圧制動装置を制御して前記機体の減速を開始してから一定時間が経過したあと、前記駐機ブレーキ装置を作動して前記機体を停止する、
ことを特徴とする、請求項1に記載の転圧機械。
【請求項5】
前記転圧ローラの回転を停止させて前記機体を駐機状態にする駐機ブレーキ装置を備え、
前記区間判定部は、前記機体が前記障害物に接触する前に該機体を最大減速度で停止させるために必要な区間である急停止区間を判定しており、
前記減速制御部は、前記障害物が前記急停止区間に位置する際、前記駐機ブレーキ装置を作動する、
ことを特徴とする、請求項1に記載の転圧機械。
【請求項6】
オペレータが前記機体を加速操作する加速操作装置を備え、
前記コントローラは、前記減速制御部が実行する前記減速制御を解除する減速制御解除部を含み、
前記減速制御解除部は、前記障害物が前記速度制限区間に位置したあと、前記速度制限区間よりも前記機体と前記障害物とが離間し、かつ、前記加速操作装置の加速操作がされていないとき、前記減速制御を解除する、
ことを特徴とする、請求項1に記載の転圧機械。
【請求項7】
前記コントローラは、前記警告制御部が実行する前記警告制御を解除する警告制御解除部を含み、
前記警告制御解除部は、前記障害物が前記警告区間に位置したあと、前記警告区間よりも前記機体と前記障害物とが離間したとき、前記警告制御を解除する、
ことを特徴とする、請求項3に記載の転圧機械。
【請求項8】
前記駐機ブレーキ装置を作動及び解除する駐機スイッチと、
前記機体の進行方向を切り替える前後進レバーと、を備え、
前記前後進レバーは、前記機体の前進及び後進を禁止し、前記機体を減速及び停止させる中立位置を有し、
前記コントローラは、前記減速制御部が実行する前記減速制御を解除する減速制御解除部を含み、
前記減速制御解除部は、前記駐機ブレーキ装置が作動して前記機体が停止している場合、前記駐機スイッチが駐機位置であり、かつ、前記前後進レバーが前記中立位置に位置しているとき、前記減速制御を解除する、
ことを特徴とする、請求項4に記載の転圧機械。
【請求項9】
前記機体を操作するオペレータまたは前記機体の周囲に位置する作業者に警告をする警告装置を有し、
前記警告装置は、
前記機体に配設された取付部と、
前記取付部に着脱可能な警告灯と、を含み、
前記減速制御部は、前記警告灯が前記取付部から取り外されているとき、前記減速制御の実行を停止する、
ことを特徴とする、請求項1に記載の転圧機械。
【請求項10】
前記機体を操作するオペレータが該オペレータを拘束するシートベルト装置を装着しているか否かを検出するシートベルトスイッチを有し、
前記減速制御部は、前記シートベルトスイッチにより前記オペレータが前記シートベルト装置を装着していないことを検出するとき、前記減速制御の実行を停止する、
ことを特徴とする、請求項1に記載の転圧機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は転圧機械に係り、特に転圧作業の安全性を向上させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤローラ等の転圧機械には、路面の舗装工事等で舗装材を締め固めるために機体の前部及び後部に車輪を兼ねた転圧ローラ(例えば転圧タイヤや鉄輪)が備えられている。このような転圧機械は、アスファルト混合物等の舗装材を敷きつめた路面を一定速度(例えば4km/h)で走行しながら、転圧ローラによって舗装材を締め固めることで転圧作業を行う。
【0003】
このような路面の舗装工事においては、転圧機械を操縦する操縦者以外にも路面の完成度のチェックをする作業者や近隣を歩行する歩行者、該歩行者が施工範囲に入らないように歩行者に案内する案内員など(以下、作業者等という)、複数の作業者等が転圧機械の近くで作業をしている。
【0004】
したがって、転圧機械の進行方向に作業者等が立入ることにより、転圧機械を急制動するようなことが考えられる。このように、転圧機械を急制動することは、路面の平面度を低下させることとなり、好ましいことではない。
【0005】
そこで、障害物を検出するセンサを用い、障害物を検出すると緩やかに転圧機械を停止させる技術が開発されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、例えば障害物が機体の周囲で作業をする作業者である場合、機体を操作するオペレータや作業者は、機体と作業者との距離が近いことを視覚や聴覚から判断するため、機体が作業者に一定速度で接近するとわかりづらいことがある。
【0008】
また、機体が障害物に接近していることを知ってから機体が障害物に接触することを防止するべく機体を停止させるまでの期間が長ければ、機体を停止しなくても障害物を移動させることや、障害物としての作業者が移動すればよい場合も少なくない。
【0009】
ここで、上記特許文献1に開示される技術では、機体が障害物に接触することを防止すべく減速するときから機体が停止するまでの期間に障害物の移動等をしなければならず、機体が障害物に接近していることを知ったときには障害物を移動することが間に合わず、機体が停止する可能性が高いという問題がある。
【0010】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、機体と障害物とが接触することを防止しつつ機体が停止することを抑制することができる転圧機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するため、本発明の転圧機械は、路面を締め固める転圧ローラと、前記転圧ローラを減速することで機体を減速する減速装置と、を備えた転圧機械において、障害物と前記機体との距離である障害物距離を検出する測距センサと、前記減速装置を制御するコントローラと、を有し、前記コントローラは、前記機体が前記障害物に接触する前に該機体を停止させるために必要な区間である停止区間及び前記機体と前記障害物とが前記停止区間以上に離間する区間であって前記機体の速度を制限する速度制限区間を判定する区間判定部と、前記減速装置を制御して機体を減速する減速制御を実行する減速制御部と、を含み、前記区間判定部は、前記測距センサによって検出される前記障害物距離に基づいて前記速度制限区間及び前記停止区間を判定し、前記減速制御部は、前記区間判定部により前記障害物が前記速度制限区間に位置すると判定された場合、前記減速装置を制御して前記機体を規定速度まで減速したあと、前記障害物が前記停止区間に移るまでの間、前記規定速度を維持して前記機体を走行させ、前記区間判定部により前記障害物が前記停止区間に位置すると判定された場合、前記機体を停止させることを特徴とする。
【0012】
これにより、機体が速度制限区間に位置すると、減速装置を制御して機体を規定速度まで減速したあと、障害物が停止区間に移るまでの間規定速度を維持して機体を走行させ、障害物が停止区間に位置すると、機体を停止することで、機体が減速を開始してから障害物に接触することを回避するべく停止するまでの期間を長くすることが可能とされる。
【0013】
その他の態様として、前記機体の速度を検出する速度センサを有し、前記区間判定部は、前記速度センサによって検出される前記機体の速度に応じて前記速度制限区間及び前記停止区間を設定するのが好ましい。
【0014】
これにより、機体の速度に応じて速度制限区間及び停止区間を設定することで、機体の速度に応じて減速装置を制御して機体を規定速度まで減速する時期や機体を停止する時期を変更することが可能とされる。
【0015】
その他の態様として、前記機体を操作するオペレータまたは前記機体の周囲に位置する作業者に警告をする警告装置を有し、前記コントローラは、前記警告装置を制御する警告制御を実行する警告制御部を含み、前記区間判定部は、前記速度制限区間よりも前記機体と前記障害物とが離間する区間である警告区間を判定しており、前記警告制御部は、前記障害物が少なくとも前記警告区間に位置する間、前記警告装置を作動するのが好ましい。
【0016】
これにより、障害物が少なくとも速度制限区間よりも機体と障害物とが離間する区間である警告区間に位置する間、警告装置を作動することで、機体の進行方向に障害物が位置することを早期に警告して障害物の移動等の対策を促し、機体が減速することを抑制することが可能とされる。
【0017】
その他の態様として、前記転圧ローラの回転を減速及び停止させる油圧制動装置と、前記転圧ローラの回転を停止させて前記機体を駐機状態にする駐機ブレーキ装置と、を備え、前記減速制御部は、前記障害物が前記停止区間に位置する際、前記油圧制動装置を制御して前記機体の減速を開始してから一定時間が経過したあと、前記駐機ブレーキ装置を作動して前記機体を停止するのが好ましい。
【0018】
これにより、油圧制動装置を制御して機体の減速を開始してから一定時間が経過したあと、駐機ブレーキ装置を作動して機体を停止することで、駐機ブレーキ装置の劣化を抑制しつつ機体を確実に停止させることが可能とされる。
その他の態様として、前記転圧ローラの回転を停止させて前記機体を駐機状態にする駐機ブレーキ装置を備え、前記区間判定部は、前記機体が前記障害物に接触する前に該機体を最大減速度で停止させるために必要な区間である急停止区間を判定しており、前記減速制御部は、前記障害物が前記急停止区間に位置する際、前記駐機ブレーキ装置を作動するのが好ましい。
【0019】
これにより、障害物が急停止区間に位置する際、駐機ブレーキ装置を作動することで、機体の急制動によって路面が荒れることを抑制するよりも転圧作業の安全性の向上を優先して機体を停止することが可能とされる。
【0020】
その他の態様として、オペレータが前記機体を加速操作する加速操作装置を備え、前記コントローラは、前記減速制御部が実行する前記減速制御を解除する減速制御解除部を含み、前記減速制御解除部は、前記障害物が前記速度制限区間に位置したあと、前記速度制限区間よりも前記機体と前記障害物とが離間し、かつ、前記加速操作装置の加速操作がされていないとき、前記減速制御を解除するのが好ましい。
【0021】
これにより、障害物が速度制限区間に位置したあと、速度制限区間よりも機体と障害物とが離間し、かつ、加速操作装置の加速操作がされていないとき、減速制御を解除することで、オペレータが減速制御を解除する際の解除操作の手間を軽減することが可能とされる。
【0022】
その他の態様として、前記コントローラは、前記警告制御部が実行する前記警告制御を解除する警告制御解除部を含み、前記警告制御解除部は、前記障害物が前記警告区間に位置したあと、前記警告区間よりも前記機体と前記障害物とが離間したとき、前記警告制御を解除するのが好ましい。
【0023】
これにより、障害物が警告区間に位置したあと、警告区間よりも機体と障害物とが離間したとき、警告制御を解除することで、オペレータが警告制御を解除する際の解除操作の手間を軽減することが可能とされる。
【0024】
その他の態様として、前記駐機ブレーキ装置を作動及び解除する駐機スイッチと、前記機体の進行方向を切り替える前後進レバーと、を備え、前記前後進レバーは、前記機体の前進及び後進を禁止し、前記機体を減速及び停止させる中立位置を有し、前記コントローラは、前記減速制御部が実行する前記減速制御を解除する減速制御解除部を含み、前記減速制御解除部は、前記駐機ブレーキ装置が作動して前記機体が停止している場合、前記駐機スイッチが駐機位置であり、かつ、前記前後進レバーが前記中立位置に位置しているとき、前記減速制御を解除するのが好ましい。
【0025】
これにより、駐機ブレーキ装置が作動して機体が停止している場合、駐機スイッチが駐機位置であり、かつ、前後進レバーが中立位置に位置しているとき、減速制御を解除することで、減速制御が解除されると同時に機体が急加速するような誤操作を防止することが可能とされる。
【0026】
その他の態様として、前記機体を操作するオペレータまたは前記機体の周囲に位置する作業者に警告をする警告装置を有し、前記警告装置は、前記機体に配設された取付部と、前記取付部に着脱可能な警告灯と、を含み、前記減速制御部は、前記警告灯が前記取付部から取り外されているとき、前記減速制御の実行を停止するのが好ましい。
【0027】
これにより、警告灯が取付部から取り外されているとき、減速制御の実行を停止することで、例えば機体が公道を走行するような警告灯を取付部から取り外す場合に、減速制御部によって減速制御が実行されることを防止することが可能とされる。
【0028】
その他の態様として、前記機体を操作するオペレータが該オペレータを拘束するシートベルト装置を装着しているか否かを検出するシートベルトスイッチを有し、前記減速制御部は、前記シートベルトスイッチにより前記オペレータが前記シートベルト装置を装着していないことを検出するとき、前記減速制御の実行を停止するのが好ましい。
【0029】
これにより、オペレータがシートベルト装置を装着していないとき、減速制御の実行を停止することで、オペレータが減速制御による機体の減速に備えられない虞がある場合には、減速制御を実行しないようにすることが可能とされる。
【発明の効果】
【0030】
本発明の転圧機械によれば、障害物が速度制限区間に位置すると、減速装置を制御して機体を規定速度まで減速したあと、障害物が停止区間に移るまでの間規定速度を維持して機体を走行させ、機体が停止区間に位置すると、機体を停止するようにしたので、機体が減速を開始してから障害物に接触することを回避するべく停止するまでの期間を長くすることができる。
【0031】
これにより、機体と障害物とが接触することを防止しつつ機体が停止することを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図3】本発明の転圧機械の制御に係るコントローラの接続構成を示すブロック図である。
【
図4】コントローラが実行する、本発明に係る転圧機械の制御ルーチンを示すフローチャートである。
【
図5】警告減速実行部が実行する、警告減速実行制御の制御ルーチンを示すフローチャートである。
【
図6】機体と障害物との位置関係及びゾーンを説明する説明図である。
【
図7】ゾーンと警告減速実行制御との関係性並びに機体と障害物との距離及び機体の速度の関係性を説明する説明図である。
【
図8】減速制御部の動力制限部が実行する、動力制限制御の制御ルーチンを示すフローチャートである。
【
図9】減速制御部のHST制動部が実行する、HST制動制御の制御ルーチンを示すフローチャートである。
【
図10】警告減速実行制御による機体の速度の変化と時間との関係性を示すグラフである。
【
図11】警告減速制御解除部が実行する、警告減速解除制御の制御ルーチンを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、図面に基づき本発明の一実施形態について説明する。
図1を参照すると、本発明に係る転圧機械の後方斜視図が示されている。機体(転圧機械)1は、前輪及び後輪に転圧ローラ3が配設されたタイヤローラである。この機体1は、エンジン(減速装置)5、HST(減速装置、油圧制動装置)7、摩擦ブレーキ装置(減速装置、駐機ブレーキ装置)4、運転席9を備えており、オペレータが運転席9に搭乗してエンジン5及びHST7を操作することで、転圧ローラ3を回転させて機体1を前後進させつつ、路面を転圧することが可能である。
【0034】
エンジン5は、機体1の前側に配設され、図示しない燃料タンクに貯留される軽油を燃焼することで稼働して駆動力を発生させるディーゼルエンジンである。このエンジン5は、後述するアクセルペダル(加速操作装置)15の踏圧量(加速操作)に応じて回転数を変動させることが可能である。
【0035】
HST7は、エンジン5が稼働することで生じる駆動力を利用して作動油を流動させ、該作動油を利用して転圧ローラ3を駆動させ、または減速させる油圧変速機(Hydraulic Static Transmission)である。このHST7は、後述するアクセルペダル15を操作することで、機体1の加速、減速及び停止を行うことが可能である。
【0036】
摩擦ブレーキ装置4は、例えば転圧ローラ3と連動して回転するディスクプレートをブレーキパッドで挟むことで転圧ローラ3の回転を制動する装置である。この摩擦ブレーキ装置4は、駐機ブレーキスイッチ(駐機スイッチ)25を操作することで転圧ローラ3をロックして機体1を駐機状態にすることが可能である。
【0037】
運転席9は、操縦者が座席9aに着座して機体1を操作する席である。この運転席9には、座席9aの前方に操作装置11、アクセルペダル15及びブレーキペダル17が配設されている。
【0038】
図2を参照すると、操作装置11の後方斜視図が示されている。操作装置11には、前後進レバー13、ハンドル19、モニタ(警告装置)21、スピーカ(警告装置)23、警告灯(警告装置)24、駐機ブレーキスイッチ25及びシートベルトスイッチ27が備えられている。
【0039】
前後進レバー13は、機体1の進行方向を切り替えるレバーであり、前進位置、後進位置及び中立位置の3つの位置に切り替えることが可能である。前進位置は機体1の進行方向を前方に設定し、後進位置は機体1の進行方向を後方に設定する位置である。そして、中立位置は、機体1の前進及び後進を禁止し、機体1を減速及び停止させる位置である。
【0040】
アクセルペダル15は、操作装置11の下側に配設され、オペレータによって踏圧可能なペダルである。このアクセルペダル15は、踏圧量を調整することでエンジン5の回転数やHST7の変速度合いを調整して機体1の加減速度合いを変更することが可能である。
【0041】
したがって、オペレータは、前後進レバー13を操作することで機体1の進行方向を設定し、アクセルペダル15の踏圧量を増加することで機体1を前進または後進し、アクセルペダル15の踏圧量を減少させることで機体1を減速することが可能である。さらに、オペレータは、前後進レバー13を中立位置にすることで、HST7により機体1を減速及び停止することや、例えばオペレータが誤ってアクセルペダル15を踏圧して機体1が加速することを防止することができる。
【0042】
ブレーキペダル17は、アクセルペダル15と同様に操作装置11の下側に配設され、オペレータによって踏圧可能なペダルである。このブレーキペダル17は、踏圧量を調整することで機体1の制動を調整することが可能である。
【0043】
ハンドル19は、機体1の進行方向を左右に切り替えるステアリングホイールである。タイヤローラである機体1においては、ハンドル19を回動させると機体1前側の転圧ローラ3が左右に回動することで進行方向が切り替わる。
【0044】
モニタ21は、操作装置11の上側に設けられた液晶パネルである。このモニタ21には、機体1の速度やエンジン5の回転数等の機体1に関する情報が表示される。スピーカ23は、オペレータや機体1の外部に向けて警告音等の音を発することが可能である。
【0045】
警告灯(警告装置)24は、例えば上から赤、黄、青、緑の色を発する複数のランプを含んでおり、制御することでそれぞれのランプを選択して点灯させることが可能である。この警告灯24は、運転席9の上方に設けられたルーフ8の後端に配設されるソケット(取付部)24aに、例えばラッチ部材によって着脱可能に取り付けられている。これにより、機体1を公道で走行させるような場合に警告灯24を容易に取り外すことができる。
【0046】
駐機ブレーキスイッチ25は、オペレータが操作することで、摩擦ブレーキ装置4の状態を、転圧ローラ3をロックする駐機ブレーキ状態(駐機位置)と該駐機ブレーキ状態を解除する解除状態(駐機解除位置)とに切り替えることが可能なスイッチである。シートベルトスイッチ27は、オペレータを拘束するシートベルト装置27aのバックルに取り付けられたスイッチであり、オペレータがシートベルト装置27aを装着しているか否かを検出することが可能である(後述する
図3参照)。
【0047】
図1に戻り、機体1には、速度センサ31、赤外線センサ(測距センサ)33及びコントローラ40が備えられている。速度センサ31は、転圧ローラ3に設けられた所謂回転パルス検出センサであり、転圧ローラ3の回転数から機体1の速度を検出することが可能である。赤外線センサ33は、赤外線を機体1の後方に照射し、機体1の後方に位置する障害物100に当たって跳ね返った該赤外線を受光することで障害物100の有無や障害物100との距離(障害物距離)を測距するセンサである。
【0048】
図3を参照すると、本発明に係る転圧機械の制御に係るコントローラ40の接続構成がブロック図で示されている。コントローラ40は、エンジン5の運転制御をはじめとして総合的な制御を行うための制御装置であり、入出力装置、記憶装置(ROM、RAM、不揮発性RAM等)、中央処理装置(CPU)等を含んで構成されている。
【0049】
このコントローラ40の入力側には、前後進レバー13、アクセルペダル15、駐機ブレーキスイッチ25、シートベルトスイッチ27、速度センサ31及び赤外線センサ33(以下、各検出装置ともいう)が電気的に接続されている。
【0050】
これにより、前後進レバー13からはオペレータによる前後進操作に関する情報が入力され、アクセルペダル15からはオペレータによる機体1の加減速操作に関する情報が入力され、駐機ブレーキスイッチ25からはオペレータによる駐機ブレーキ状態または解除状態の切替操作に関する情報が入力され、シートベルトスイッチ27からはオペレータがシートベルト装置27aを装着しているか否かに関する情報が入力され、速度センサ31からは機体1の速度に関する情報が入力され、赤外線センサ33からは機体1の後方における障害物100の有無や障害物100との距離に関する情報が入力される。
【0051】
また、コントローラ40の出力側には、摩擦ブレーキ装置4、エンジン5、HST7、モニタ21、スピーカ23及び警告灯24が電気的に接続されており、摩擦ブレーキ装置4を制御することで転圧ローラ3をロックし、エンジン5を制御することでエンジン5の回転数を変更し、HST7を制御することで機体1の加減速を変更し、モニタ21を制御することで例えば機体1の後方に障害物100が位置することを警告表示し、スピーカ23を制御することで警告音を吹鳴し、警告灯24を制御することで各色を発するランプを適宜点灯及び点滅させることができる。
【0052】
ここで、コントローラ40には、警告減速制御解除部(減速制御解除部、警告制御解除部)51、障害物判定部52、警告減速実行部53、ゾーン判定部(区間判定部)54、減速制御部55及び警告制御部57が設けられている。警告減速制御解除部51は、前後進レバー13、アクセルペダル15、駐機ブレーキスイッチ25及びシートベルトスイッチ27から入力される各情報に基づき、後述する警告減速解除制御を実行する制御部である。
【0053】
障害物判定部52は、赤外線センサ33が検出した機体1の後方における障害物100の有無に関する情報を基に、障害物100が機体1の後方に位置するか否かを判定する判定部である。警告減速実行部53は、速度センサ31、赤外線センサ33及び障害物判定部52から入力される各情報に基づき、後述する警告減速実行制御を実行する制御部である。
【0054】
ゾーン判定部54は、警告減速実行部53を介して速度センサ31及び赤外線センサ33から入力される機体1の速度及び障害物100との距離に関する情報に基づき、後述するゾーン(区間)を判定する判定部である。
【0055】
減速制御部55は、動力制限部61、HST制動部63及び駐機ブレーキ部65を備えており、警告減速制御解除部51及びゾーン判定部54から入力される制御情報に基づき、動力制限部61、HST制動部63及び駐機ブレーキ部65によってエンジン5、HST7及び摩擦ブレーキ装置4を制御(減速制御)する制御部である。動力制限部61は、後述する動力制限制御及び該制御の解除をし、HST制動部63は、後述するHST制動制御及び該制御の解除をし、駐機ブレーキ部65は、後述する駐機ブレーキ制御及び該制御の解除をする制御部である。
【0056】
警告制御部57は、警告減速制御解除部51及びゾーン判定部54の制御情報に基づき、モニタ21、スピーカ23及び警告灯24を制御して操作者に第1~第4警告制御(以下総じて警告制御ともいう)を実行することができる。
【0057】
ここで、警告減速制御解除部51、障害物判定部52及び警告減速実行部53の入力側には、ソケット24aが配設されている。このソケット24aは、警告灯24が装着されるとき、赤外線センサ33と障害物判定部52及び警告減速実行部53の入力側とを電気的に接続する回路を通電可能にし、警告灯24が取り外されると、該回路を遮断する。
【0058】
これにより、機体1を公道で走行させるような場合であって警告灯24が取り外されたときは、赤外線センサ33からコントローラ40に入力される情報を遮断することで、後述する各制御の実行を停止するようにして、オペレータの意図しない機体1の減速を防止することができる。なお、警告灯24がソケット24aから取り外されているときに警告減速実行部53による警告減速実行制御の実行を停止すればよく、コントローラ40にて警告灯24がソケット24aから取り外されているか否かを判別するようにしてもよい。
【0059】
図4を参照すると、コントローラ40が実行する、本発明に係る転圧機械の制御手順を示すルーチンがフローチャートで示されており、以下、同フローチャートに沿い説明する。ステップS5では、シートベルトスイッチ27により、オペレータが図示しないシートベルト装置27aを装着しているか否かを判別する。ステップS5の判別結果が真(Yes)でオペレータがシートベルト装置27aを装着しているときは、ステップS10に移行する。一方、ステップS5の判別結果が偽(No)でオペレータがシートベルト装置27aを装着していないときは、ステップS30に移行して警告減速制御解除部51による警告減速解除制御を実行する。
【0060】
ここで、警告減速制御解除部51による警告減速解除制御は、詳しくは後述するが、機体1の減速や警告を解除する制御である。換言すると、警告灯24がソケット24aから取り外されているときと同様に警告減速実行部53による警告減速実行制御の実行を停止する制御である。これにより、オペレータがシートベルト装置27aを装着しておらず、機体1の減速に備えられない虞がある場合には、警告減速実行部53による警告減速実行制御を実行しないようにすることができる。なお、警告制御部57による警告制御については機体1を加減速させることがないため、実行するようにしてもよい。
【0061】
ステップS10では、障害物判定部52により、機体1の後方に障害物100があるか否かを判定する。ステップS10の判定結果が真(Yes)で機体1の後方に障害物100があると判定すると、ステップS20に移行して警告減速実行部53による警告減速実行制御を実行する。
【0062】
図5を参照すると、警告減速実行部53が実行する、警告減速実行制御の制御手順を示すルーチンがフローチャートで示されている。ステップS110~S140では、ゾーン判定部54により、機体1と障害物100との距離や機体1の速度から、機体1がゾーン1~4のどのゾーンに位置するか、あるいは機体1がゾーン1~4のどのゾーンにも位置しないことを判定する。
【0063】
図6を参照すると、機体1と障害物100との位置関係及びゾーンを説明する説明図が示されている。また、
図7を参照すると、ゾーンと警告減速実行制御との関係性並びに機体1と障害物100との距離(横軸)及び機体1の速度(縦軸)の関係性を説明する説明図が示されている。この
図6、7によると、障害物100における機体1側の位置を地点Pnとし、機体1と地点Pnとでなす直線上に地点P1~P5の地点を推定する。詳しくは、当該直線上で視て機体1の障害物100側の端部の地点を地点P5とすると、地点P5から障害物100に向かう(機体1から離間する)につれて地点P4、P3、P2及びP1を推定する。
【0064】
そして、ゾーン判定部54は、速度センサ31によって検出される機体1の速度及び赤外線センサ33によって検出される障害物100と機体1との距離に基づいて、地点P1~P2の区間をゾーン1(警告区間)、地点P2~P3の区間をゾーン2(速度制限区間)、地点P3~P4の区間をゾーン3(停止区間)、地点P4~P5の区間をゾーン4(急停止区間)とそれぞれ判定する。このゾーンの判定には、例えば機体1が4km/hで走行しているとしたときのゾーン1~4を予め設定し、速度センサ31によって検出される機体1の速度が4km/hより高い場合には機体1の速度に応じて各ゾーンを延ばす(設定する)ように変更する。
【0065】
このように、機体1の速度に応じて各ゾーンを変更することで、後述する動力制限制御やHST制動制御の時期を変更することができる。
【0066】
ここで、ゾーン1とは、まだ機体1を減速しなくても機体1と障害物100とが接触する虞がないが、オペレータに障害物100が位置していることを警告して、障害物100の移動を促す等の対応が必要な時期を示す区間である。
【0067】
また、ゾーン2とは、機体1を急減速しなくても機体1と障害物100とが接触することを避けることができる区間ではあるが、急制動によって路面が荒れること等を加味して早めに制動した方がよい時期を示す区間である。またさらに、ゾーン3とは、機体1の制動を強めなければ機体1と障害物100とが接触する虞が高い時期を示す区間である。そして、ゾーン4とは、機体1をすぐさま停止しなければ機体1と障害物100とが接触する虞が極めて高い時期を示す区間である。
【0068】
このように、ゾーン判定部54は、警告減速実行部53を介して速度センサ31及び赤外線センサ33から入力される機体1の速度及び障害物100との距離に関する情報に基づき、地点Pnがどのゾーンに位置するかを判定し、機体1と障害物100との位置関係を、各時期を示す区間に分けて判定することができる。
【0069】
図5に戻り、ステップS110では、地点Pnがゾーン1に位置するか否かを判定する。ステップS110の判定結果が真(Yes)で地点Pnがゾーン1に位置すると判定すると、ステップS151に移行して警告制御部57による第1警告制御を実行する。この第1警告制御では、例えばモニタ21に「障害物100がゾーン1に位置している」ことを表示し、スピーカ23からは間欠的に(例えば1秒につき1回)ブザー音を吹鳴し、警告灯24の黄色に光るランプを点滅させることで、オペレータや周囲の作業者に警告をすることができる。このようにステップS151で第1警告制御を実行したあとは、警告減速実行制御を終了する。
一方、ステップS110の判定結果が偽(No)で地点Pnがゾーン1に位置しないと判定すると、ステップS120に移行する。
【0070】
ステップS120では、地点Pnがゾーン2に位置するか否かを判定する。ステップS120の判定結果が真(Yes)で地点Pnがゾーン2に位置すると判定すると、ステップS152に移行して警告制御部57による第2警告制御を実行する。この第2警告制御では、例えばモニタ21に「障害物100がゾーン2に位置しているため減速する」ことを表示し、スピーカ23からは間欠的に(例えば0.5秒につき1回)ブザー音を吹鳴し、警告灯24の赤色に光るランプを点滅させることで、オペレータや周囲の作業者に第1警告制御より認識されやすい警告をすることができる。このようにステップS152で第2警告制御を実行したあと、ステップS160に移行して減速制御部55の動力制限部61による動力制限制御を実行する。
【0071】
図8を参照すると、減速制御部55の動力制限部61が実行する、動力制限制御の制御手順を示すルーチンがフローチャートで示されている。ステップS210では、機体1の速度が例えば2km/h(規定速度)以下か否かを判別する。ステップS210の判別結果が偽(No)で機体1の速度が2km/hより高いときは、ステップS220に移行してエンジン5の回転数を低減して動力制限制御を終了し本ルーチンを終了後、再び本ルーチンを繰り返す。
【0072】
一方、ステップS210の判別結果が真(Yes)で機体1の速度が2km/h以下のときは、ステップS230に移行してエンジン5の回転数を調整するなどして機体1の速度を維持し、動力制限制御を終了する。なお、HST7を併せて制御して減速度合や機体1の速度を調整するようにしてもよい。
【0073】
これにより、減速制御部55の動力制限部61による動力制限制御では、機体1の速度を2km/hまで減速させ(ステップS220)、または機体1の速度を2km/hで維持(ステップS230)することができる。このように動力制限制御を実行して終了したあと、
図5の警告減速実行制御に戻り、警告減速実行制御を終了する。
一方、ステップS120の判定結果が偽(No)で地点Pnがゾーン2に位置しないと判定すると、ステップS130に移行する。
【0074】
ステップS130では、地点Pnがゾーン3に位置するか否かを判定する。ステップS130の判定結果が真(Yes)で地点Pnがゾーン3に位置すると判定すると、ステップS153に移行して警告制御部57による第3警告制御を実行する。この第3警告制御では、例えばモニタ21に「障害物100がゾーン3に位置しているため減速する」ことを表示し、スピーカ23からは連続的にブザー音を吹鳴し、警告灯24の赤色に光るランプを連続的に点灯させることで、オペレータや周囲の作業者に第2警告制御よりさらに認識されやすい警告をすることができる。このようにステップS153で第3警告制御を実行したあと、ステップS170に移行して減速制御部55のHST制動部63によるHST制動制御を実行する。
【0075】
図9を参照すると、減速制御部55のHST制動部63が実行する、HST制動制御の制御手順を示すルーチンがフローチャートで示されている。ステップS310では、HST7を中立状態にしてステップS315に移行する。このようにHST7を中立状態にすることで、オペレータが前後進レバー13を中立位置に操作したときと同様に機体1の前進及び後進を禁止し、機体1を減速及び停止することができる。
【0076】
ステップS315では、地点Pnがゾーン4に位置するか否かを判定する。ステップS315の判定結果が真(Yes)で地点Pnがゾーン4に位置すると判定すると、HST制動制御を終了する。また、ステップS315の判定結果が偽(No)で地点Pnがゾーン4に位置しないと判定すると、ステップS320に移行する。
【0077】
ステップS320では、速度センサ31によって検出される機体1の速度が0km/hの状態でHST7の中立状態が一定時間経過したか否かを判定する。ステップS320の判定結果が偽(No)で機体1の速度が0km/hの状態でHST7の中立状態が一定時間以内であると判定すると、ステップS315に戻り、ステップS320の判定結果が真(Yes)で機体1の速度が0km/hの状態でHST7の中立状態が一定時間(例えば2秒)経過したと判定すると、HST制動制御を終了する。
【0078】
ここで、速度センサ31は、本実施形態では回転パルス検出センサを用いているため、転圧ローラ3の回転数が低下すると回転数の検出精度が低下し、これに伴い、機体1の速度の検出精度もまた低下する虞がある。そこで、速度センサ31によって検出される機体1の速度が0km/hの状態でHST7の中立状態が一定時間経過したか否かを判定することで、機体1が停止したか否かを的確に判定することができる。
【0079】
このように、減速制御部55のHST制動部63が実行するHST制動制御では、HST7を中立状態にして機体1の減速を開始し(ステップS310)、HST7の中立状態が一定時間経過したと判定、すなわち機体1が停止したと判定すると(ステップS320でYes)、終了することで、機体1をHST7によって減速させ、さらには機体1が停止したことを判定することができる。
【0080】
また、速度センサ31によって検出される機体1の速度が0km/hの状態でHST7の中立状態が一定時間経過したと判定するまでの間に(ステップS320でNo)地点Pnがゾーン4に位置すると(ステップS315でYes)、HST7の中立状態が一定時間経過するまで待たずにHST制動制御を終了することで、後述するステップS180に移行し、駐機ブレーキ制御を実行して機体1を最大減速度で制動し、機体1が障害物100に接触することを確実に防止することができる。
【0081】
図5に戻り、ステップS170でHST制動制御を実行したあと、ステップS180に移行して駐機ブレーキ制御を実行して本ルーチンを終了後、再び本ルーチンを繰り返す。この駐機ブレーキ制御では、摩擦ブレーキ装置4の状態を、転圧ローラ3をロックして機体1を最大減速度で制動し駐機状態にする制御である。これにより、転圧ローラ3の回転を的確にロックして機体1を駐機状態にし、障害物100に接触することを確実に防止することができる。
一方、ステップS130の判定結果が偽(No)で地点Pnがゾーン3に位置しないと判定すると、ステップS140に移行する。
【0082】
ステップS140では、地点Pnがゾーン4に位置するか否かを判定する。ステップS140の判定結果が真(Yes)で地点Pnがゾーン4に位置すると判定すると、ステップS154に移行して警告制御部57による第4警告制御を実行する。この第4警告制御では、例えば「ゾーン4に障害物100が突然侵入したため、急減速する」ことを表示し、スピーカ23からは連続的にブザー音を吹鳴し、警告灯24の赤色に光るランプを連続的に点灯させる。
【0083】
これにより、オペレータや周囲の作業者に第3警告制御と同等の警告をするとともに、モニタ21に表示されるゾーン4に障害物100が突然位置したことの表示により、障害物100が突然ゾーン4に侵入してきたことを警告することができる。このようにステップS154で第4警告制御を実行したあと、ステップS180に移行して上記した駐機ブレーキ制御を実行して本ルーチンを終了する。
【0084】
そして、ステップS140の判定結果が偽(No)で地点Pnがゾーン4に位置しない、すなわち、ステップS110~ステップS140の判定結果がすべて偽(No)で、地点Pnがゾーン1~4のどの位置にも位置しておらず、障害物100は機体1から地点P1より離れていると判定すると、警告制御や制動制御を実行せずに警告減速実行制御を終了する。
【0085】
このように警告減速実行制御を実行することで、地点Pnがゾーン1に位置するときは(ステップS110でYes)第1警告制御による警告のみを実行し(ステップS151)、ゾーン2に位置するときは(ステップS120でYes)第1警告制御よりオペレータや周囲の作業者に認識されやすい第2警告制御で警告(ステップS152)し、動力制限制御により機体1の速度を減速して速度(例えば2km/h)を維持することができる(ステップS160)。
【0086】
また、地点Pnがゾーン3に位置するときは(ステップS130でYes)第2警告制御よりさらにオペレータや周囲の作業者に認識されやすい第3警告制御で警告(ステップS153)し、HST制動制御により機体1の速度を減速及び停止し(ステップS170)、さらには転圧ローラ3をロックして機体1の走行を確実に停止させることができる(ステップS180)。
【0087】
図10を参照すると、警告減速実行制御による機体1の速度の変化(縦軸)と時間(横軸)との関係性がグラフで示されている。地点Pnがゾーン2に位置するとき(ステップS120でYes)、警告減速実行制御では、動力制限制御により機体1の速度を減速して2km/hまで低下させたあと機体1の速度を地点Pnがゾーン3に位置するまで維持する(
図10中の「所定期間」参照)。
【0088】
一方、仮に動力制限制御のようなゾーン2の間に機体1を減速及び機体1の速度の維持をする制御を用いない場合、換言すると、警告減速実行制御におけるステップS160がない場合(
図7中の「参考」参照)、減速制御部55による減速を開始してから機体1が停止するまでの時間が本実施形態における時間と比較して短くなる(
図10中の「参考」及び「差異」参照)。
【0089】
したがって、警告減速実行制御において、地点Pnがゾーン2に位置するときに動力制限制御を実行することで、地点Pnが地点P2から地点P5に位置するまでの時間、すなわち機体1が減速を開始してから障害物100に接触する直前で停止するまでの時間を長くすることができる。
【0090】
これにより、オペレータが障害物100を認識して減速等の対応をすることや、障害物100が作業者であれば移動をすることに係る時間を長くとることができる。ゆえに、オペレータや障害物100としての作業者にとっては、機体1と障害物100とが接触することや逃げ遅れること等の恐怖感を軽減することができる。さらに、所定期間(例えば1秒~2秒程度)、2km/hで走行しているため、HST制動制御や駐機ブレーキ制御による機体1の制動の精度を高めることができる。
【0091】
ここで、ゾーン2は、例えばオペレータが障害物100を認識して減速等の対応をし、または障害物100が作業者であれば移動をするのに必要な期間である所定期間を確保するための区間である。すなわち、ゾーン2は、障害物100が移動せず停止し続けると仮定したときに、所定期間継続するように始期及び終期が設定されている。
【0092】
ところで、
図5~7によると、機体1の後方に位置する障害物100に機体1が徐々に接近する場合は、地点Pnがゾーン1、ゾーン2及びゾーン3の順に位置し、ゾーン3に位置するときHST制動制御及び駐機ブレーキ制御によって機体1を停止させるので、ステップS140で地点Pnがゾーン4に位置するか否かを判定することはない。一方、地点Pnがゾーン4に位置する場合とは(ステップS140でYes)、例えば機体1が前進している状態から、折り返して後進を開始するときに、機体1がまだ前進を続けると誤認した機体1の周囲の作業者が機体1の後方に立ち入るような場合が考えられる。
【0093】
したがって、このようなゾーン4に障害物100が位置する場合(ステップS140でYes)においては、急制動によって路面が荒れないように減速することよりも機体1の緊急停止を優先すべく、すぐさま駐機ブレーキ制御を実行する(ステップS180)。これにより、路面の転圧精度を向上させつつ、転圧作業の安全性の向上を優先することができる。
【0094】
図4に戻り、ステップS10では、判定結果が偽(No)で機体1の後方に障害物100がないと判定すると、ステップS30に移行して警告減速制御解除部51による警告減速解除制御を実行する。なお、機体1の後方に障害物100がないと判定するときとは、例えば赤外線センサ33で機体1の後方に位置する障害物100を検出できないほどに機体1と障害物100とが離間しているような場合も含むものとする。
【0095】
図11を参照すると、警告減速制御解除部51が実行する、警告減速解除制御の制御手順を示すルーチンがフローチャートで示されている。ステップS410では、機体1が駐機ブレーキ状態か否かを判別する。ステップS410の判別結果が真(Yes)で機体1が駐機ブレーキ状態であると判別すると、ステップS420に移行して駐機ブレーキスイッチ(駐機ブレーキSW)25が駐機位置か否か、すなわち、摩擦ブレーキ装置4の状態が駐機ブレーキ状態か解除状態かを判別する。
【0096】
ステップS420の判別結果が真(Yes)で、駐機ブレーキスイッチ25が駐機位置であると判別すると、ステップS430に移行する。ステップS430では、前後進レバー13が中立位置に位置しているか否かを判別する。ステップS430の判別結果が真(Yes)で、前後進レバー13が中立位置に位置していると判別すると、ステップS460に移行し、警告減速実行制御による警告制御や減速制御を解除して警告減速解除制御を終了し、本ルーチンを終了する。
【0097】
一方、ステップS420またはステップS430の少なくともいずれか一方の判別結果が偽(No)で、駐機ブレーキスイッチ25が駐機解除位置であり、または前後進レバー13が中立位置に位置していないと判別するときは、ステップS420、S430を繰り返し実行する。これにより、機体1が駐機ブレーキ状態であるとき(ステップS410でYes)、その後も駐機ブレーキ状態が維持され(ステップS420でYes)かつ前後進レバー13が中立位置に位置するまで(ステップS430でYes)警告減速実行制御による警告制御や減速制御を維持することで、警告制御や減速制御が解除されると同時に機体1が急加速するような誤操作を防止することができる。
【0098】
一方、ステップS410の判別結果が偽(No)で駐機ブレーキ状態を解除している解除状態であると判別すると、ステップS440に移行する。ステップS440では、機体1が動力制限部61による動力制限状態であるか否かを判別する。
【0099】
ステップS440の判別結果が偽(No)、すなわち、地点Pnがゾーン1に位置していた場合や、機体1と障害物100とが地点P1より離間していた場合は、ステップS460に移行し、警告減速実行制御による警告制御を解除して警告減速解除制御を終了し、本ルーチンを終了する。なお、上記説明ではステップS460では警告減速実行制御による警告制御や減速制御を解除する、としたが、警告制御及び減速制御のうち、実行している制御があれば当該制御を解除し、いずれの制御も実行していないときは、何も解除せずに終了する。
【0100】
これにより、警告制御等の機体1の減速や停止に関わらない制御の場合には、機体1の後方に障害物100がないと判定されると(ステップS10でNo)、警告制御を解除することで、減速制御を解除するオペレータの手間を軽減することができる。
【0101】
一方、ステップS440の判別結果が真(Yes)であると判別する場合として、例えば地点Pnがゾーン2に位置していたため、警告減速実行制御により動力制限部61による動力制限制御を実行して機体1の減速及び速度の維持を行っていたところ、障害物100が移動し、または転舵操作により障害物100が機体1の進行方向上から外れた場合には、ステップS450に移行する。
【0102】
ステップS450では、アクセルペダル15が踏圧されていない(OFF)か否かを判別する。ステップS450の判別結果が偽(No)でアクセルペダル15が踏圧されていると判別すると、警告減速解除制御を終了し、本ルーチンを終了する。一方、ステップS450の判別結果が真(Yes)でアクセルペダル15が踏圧されていないと判別すると、ステップS460に移行し、警告減速実行制御による警告制御や減速制御を解除して警告減速解除制御を終了し、本ルーチンを終了する。
【0103】
これにより、機体1の後方に障害物100がないと判定された場合であっても(ステップS10でNo)、アクセルペダル15が踏圧されたままの状態で減速制御を解除して(ステップS460)、機体1が急加速することを抑制することができる。
【0104】
以上説明したように、本発明に係る転圧機械では、路面を締め固める転圧ローラ3と、転圧ローラ3を減速することで機体1を減速するエンジン5及びHST7と、を備えた転圧機械において、機体1の進行方向に障害物100が位置すること及び障害物100と機体1との距離を検出する赤外線センサ33と、エンジン5及びHST7を制御するコントローラ40と、を有している。
【0105】
このコントローラ40は、機体1が障害物100に接触する前に機体1を停止させるために必要な区間であるゾーン3及び機体1と障害物100とがゾーン3以上、すなわち地点P3以上に地点Pnと地点P5とが離間する区間であって機体1の速度を制限するゾーン2を判定するゾーン判定部54と、エンジン5及びHST7を制御して機体1を減速する減速制御を実行する減速制御部55と、を含み、ゾーン判定部54は、赤外線センサ33によって検出される障害物100と機体1との距離に基づいてゾーン2及びゾーン3を判定し、減速制御部55は、機体1がゾーン2に位置する際、エンジン5を制御して機体1を2km/hまで減速したあと所定期間維持し(ステップS160の動力制限制御)、機体1がゾーン3に位置する際、HST7を制御して機体1を停止する(ステップS170のHST制動制御)。
【0106】
従って、機体1がゾーン2に位置する際、エンジン5を制御して機体1を2km/hまで減速したあと機体1の速度を2km/hで所定期間維持し、機体1がゾーン3に位置する際、機体1を停止するようにしたので、機体1が減速を開始してから障害物100に接触することを回避するべく停止するまでの期間を長くすることができる(
図10中の「差異」)。
【0107】
そして、機体1の速度を検出する速度センサ31を有し、ゾーン判定部54は、速度センサ31によって検出される機体1の速度に応じて各ゾーンを設定するようにしたので、機体1の速度に応じて動力制限制御やHST制動制御の時期を変更することができる。
【0108】
そして、機体1を操作するオペレータまたは機体1の周囲に位置する作業者に警告をするモニタ21、スピーカ23及び警告灯24を有し、コントローラ40は、モニタ21、スピーカ23及び警告灯24を制御する警告制御を実行する警告制御部57を含み、ゾーン判定部54は、ゾーン3よりも機体1と障害物100とが離間する区間、すなわち地点P2よりも地点Pnと地点P5とが離間する区間であるゾーン1を判定しており、警告制御部57は、地点Pnがゾーン1を含むゾーン1~4の区間の間、モニタ21、スピーカ23及び警告灯24を作動するようにしたので、機体1の進行方向に障害物100が位置することをオペレータや作業者に早期に警告して障害物100の移動等の対策を促し、機体1が減速することを抑制することができる。
このように機体1が減速することを抑制することで、転圧作業に係る作業効率の低下を抑制することができる。
【0109】
そして、転圧ローラ3の回転を減速及び停止させるHST7と、転圧ローラ3の回転を停止させて機体1を駐機状態にする摩擦ブレーキ装置4を備え、減速制御部55は、機体1がゾーン3に位置する際、HST7を制御して機体1の減速を開始してから一定時間が経過したあと、摩擦ブレーキ装置4を作動して機体1を停止するようにしたので、摩擦ブレーキ装置4の劣化を抑制しつつ機体1を確実に停止させることができる。
【0110】
そして、ゾーン判定部54は、機体1が障害物100に接触する前に機体1を最大減速度で停止させるために必要な区間であるゾーン4を判定しており、減速制御部55は、機体1がゾーン4に位置する際、摩擦ブレーキ装置4を作動するようにしたので、機体1の急制動によって路面が荒れることを抑制するよりも転圧作業の安全性の向上を優先して機体1を停止することができる。
【0111】
そして、オペレータが機体1を加速操作するアクセルペダル15を備え、コントローラ40は、減速制御部55が実行する減速制御を解除する警告減速制御解除部51を含み、警告減速制御解除部51は、機体1がゾーン2に位置したあと、ゾーン2よりも機体1と障害物100とが離間しているときである、機体1の後方に障害物100がないとき(ステップS10でNo)であって、かつ、アクセルペダル15の加速操作がされていないとき、減速制御を解除する。
【0112】
また、警告減速制御解除部51は、機体1がゾーン1に位置したあと、ゾーン1よりも機体1と障害物100とが離間しているときである、機体1の後方に障害物100がないとき(ステップS10でNo)、警告制御を解除する。
これにより、オペレータが減速制御を解除する際の解除操作の手間を軽減することができる。
【0113】
そして、摩擦ブレーキ装置4を作動及び解除する駐機ブレーキスイッチ25と、機体1の進行方向を切り替える前後進レバー13と、を備え、前後進レバー13は、機体1の前進及び後進を禁止し、機体1を減速及び停止させる中立位置を有し、コントローラ40は、減速制御部55が実行する減速制御を解除する警告減速制御解除部51を含み、警告減速制御解除部51は、摩擦ブレーキ装置4が作動して機体1が停止している場合、駐機ブレーキスイッチ25が駐機位置であり、かつ、前後進レバー13が中立位置に位置しているとき、減速制御を解除するようにしたので、減速制御が解除されると同時に機体1が急加速するような誤操作を防止することができる。
【0114】
そして、減速制御部55は、警告灯24がソケット24aから取り外されているとき、減速制御の実行を停止するので、例えば機体1が公道を走行するような警告灯24をソケット24aから取り外す場合に、減速制御部55によって減速制御が実行されることを防止することができる。
【0115】
そして、機体1を操作するオペレータが該オペレータを拘束するシートベルト装置27aを装着しているか否かを検出するシートベルトスイッチ27を有し、減速制御部55は、シートベルトスイッチ27によりオペレータがシートベルト装置27aを装着していないことを検出するとき、減速制御の実行を停止するようにしたので、オペレータが減速制御による機体1の減速に備えられない虞がある場合には、減速制御を実行しないようにすることができる。
【0116】
以上で本発明に係る転圧機械の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限られるものではなく、発明の主旨を逸脱しない範囲で変更可能である。
例えば、本実施形態では、機体1としてタイヤローラを用いて説明したが、振動ローラやマカダムローラ等の転圧機械であってもよい。
【0117】
また、本実施形態では、各フローを用いてコントローラが実行する、本発明に係る転圧機械の制御手順を説明したが、各ステップの順序は一例であり、適宜順序を変更してもよい。
【0118】
また、本実施形態では、動力制限制御ではエンジン5を用いて機体1を減速するよう説明したが、HST7を制御して機体1を減速するようにしてもよい。
【0119】
また、本実施形態では、赤外線センサ33を機体1の後側に配設し、機体1が後進する場合について説明したが、機体1の前側にも同様の赤外線センサを配設し、機体1が前進するときにも同様の制御を実行するようにしてもよい。
【0120】
また、本実施形態では、警告減速制御解除部51は、機体1がゾーン2に位置したあと、機体1の後方に障害物100がないとき(ステップS10でNo)であって、かつ、アクセルペダル15の加速操作がされていないときに減速制御を解除するようにしたが、ゾーン2よりも機体1と障害物100とが離間しているとき、すなわちゾーン1に障害物100が位置しているときであって、かつ、アクセルペダル15の加速操作がされていないときに減速制御を解除するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0121】
1 機体
3 転圧ローラ
4 摩擦ブレーキ装置(減速装置、駐機ブレーキ装置)
5 エンジン(減速装置)
7 HST(減速装置、油圧制動装置)
13 前後進レバー
15 アクセルペダル(加速操作装置)
21 モニタ(警告装置)
23 スピーカ(警告装置)
24 警告灯(警告装置)
24a ソケット(取付部)
25 駐機ブレーキスイッチ(駐機スイッチ)
27 シートベルトスイッチ
27a シートベルト装置
31 速度センサ
33 赤外線センサ(測距センサ)
40 コントローラ
51 警告減速制御解除部(減速制御解除部、警告制御解除部)
54 ゾーン判定部(区間判定部)
55 減速制御部
57 警告制御部
100 障害物