(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-18
(45)【発行日】2022-10-26
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
H02M 7/12 20060101AFI20221019BHJP
H02M 3/155 20060101ALI20221019BHJP
【FI】
H02M7/12 Q
H02M3/155 K
(21)【出願番号】P 2019116784
(22)【出願日】2019-06-24
【審査請求日】2021-08-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【氏名又は名称】日野 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100125575
【氏名又は名称】松田 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100175134
【氏名又は名称】北 裕介
(72)【発明者】
【氏名】小林 尚斗
(72)【発明者】
【氏名】居安 誠二
(72)【発明者】
【氏名】半田 祐一
【審査官】栗栖 正和
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-068675(JP,A)
【文献】特開2013-198388(JP,A)
【文献】国際公開第2018/100782(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/12
H02M 3/155
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1リアクトル(13)、第1交流側端子(TA1)、第2交流側端子(TA2)、第1直流側端子(TD1)、第2直流側端子(TD1)、前記各交流側端子と前記第1リアクトルとの間に設けられたフルブリッジ回路(12)、及び前記各交流側端子から入力された交流電源(200)の交流電圧を直流電圧に変換して前記各直流側端子から出力する機能、及び前記各直流側端子から入力された直流電圧を交流電圧に変換して前記各交流側端子から出力する機能のうち、少なくとも一方の機能を有する制御部(30)を備える電力変換装置(100)において、
前記フルブリッジ回路は、第1スイッチ(SW1)及び第2スイッチ(SW2)の直列接続体、並びに第3スイッチ(SW3)及び第4スイッチ(SW4)の直列接続体を有し、前記各直列接続体が並列接続されて構成されており、
前記第1スイッチ、前記第2スイッチ、前記第3スイッチ及び前記第4スイッチそれぞれには、ダイオード(D1~D4)が逆並列に接続されており、
前記第1交流側端子には、前記第1スイッチと前記第2スイッチとの接続点が接続されており、
前記第2交流側端子には、前記第3スイッチと前記第4スイッチとの接続点が接続されており、
前記制御部は、電圧センサ(23)により検出された前記交流電源の電圧値である検出電圧に基づいて、前記交流電源の実際の電圧値が正極性であるか負極性であるかを判定し、前記交流電源の実際の電圧値の極性が切り替わると判定するたびに、前記第1スイッチ及び前記第4スイッチの組と、前記第2スイッチ及び前記第3スイッチの組とのうち、オン操作する組を交互に切り換え、
前記第1交流側端子と、前記第1スイッチ及び前記第2スイッチの接続点との間、及び第2交流側端子と、前記第3スイッチ及び前記第4スイッチの接続点との間の少なくとも一方に設けられた第2リアクトル(20)を備え
、
前記第2リアクトルは、前記第2リアクトルに流れる正側定格電流と前記第2リアクトルに流れる負側定格電流とで規定される第1電流範囲のうち、ゼロを中心とした一部の電流範囲である第2電流範囲において、他の電流範囲よりもインダクタンスが大きくされている電力変換装置。
【請求項2】
前記第2リアクトルは、前記第1電流範囲のうち、前記第2電流範囲以外の範囲において、前記第2リアクトルに流れる電流の絶対値が大きくなるほど、インダクタンスが小さくされている請求項
1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記第2リアクトルのインダクタンスは、前記第1電流範囲において、前記第1リアクトルのインダクタンスよりも小さくされている請求項
1又は2に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記第1電流範囲のうち、前記第2電流範囲以外の範囲において、前記第1リアクトルに流れる電流の絶対値の増加に伴う前記第1リアクトルのインダクタンスの低下割合よりも、前記第2リアクトルに流れる電流の絶対値の増加に伴う前記第2リアクトルのインダクタンスの低下割合が大きい請求項
1~3のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記第2電流範囲は、前記第1電流範囲の60%以下かつ30%以上の範囲である請求項
1~4のいずれか一項に記載の電力変換装置。
【請求項6】
第1リアクトル(13)、第1交流側端子(TA1)、第2交流側端子(TA2)、第1直流側端子(TD1)、第2直流側端子(TD1)、前記各交流側端子と前記第1リアクトルとの間に設けられたフルブリッジ回路(12)、及び前記各交流側端子から入力された交流電源(200)の交流電圧を直流電圧に変換して前記各直流側端子から出力する機能、及び前記各直流側端子から入力された直流電圧を交流電圧に変換して前記各交流側端子から出力する機能のうち、少なくとも一方の機能を有する制御部(30)を備える電力変換装置(100)において、
前記フルブリッジ回路は、第1スイッチ(SW1)及び第2スイッチ(SW2)の直列接続体、並びに第3スイッチ(SW3)及び第4スイッチ(SW4)の直列接続体を有し、前記各直列接続体が並列接続されて構成されており、
前記第1スイッチ、前記第2スイッチ、前記第3スイッチ及び前記第4スイッチそれぞれには、ダイオード(D1~D4)が逆並列に接続されており、
前記第1交流側端子には、前記第1スイッチと前記第2スイッチとの接続点が接続されており、
前記第2交流側端子には、前記第3スイッチと前記第4スイッチとの接続点が接続されており、
前記制御部は、電圧センサ(23)により検出された前記交流電源の電圧値である検出電圧に基づいて、前記交流電源の実際の電圧値が正極性であるか負極性であるかを判定し、前記交流電源の実際の電圧値の極性が切り替わると判定するたびに、前記第1スイッチ及び前記第4スイッチの組と、前記第2スイッチ及び前記第3スイッチの組とのうち、オン操作する組を交互に切り換え、
前記第1交流側端子と、前記第1スイッチ及び前記第2スイッチの接続点との間、及び第2交流側端子と、前記第3スイッチ及び前記第4スイッチの接続点との間の少なくとも一方に設けられた第2リアクトル(20)を備え、
前記制御部は、
前記第1リアクトルに流れるリアクトル電流を取得する第1電流取得部と、
前記検出電圧に基づいて生成される正弦波状の指令電流を算出する指令値算出部(31,32,33,34)と、
前記指令電流を電流補正値により補正する電流補正部(40)と、
前記リアクトル電流を、前記電流補正部により補正された指令電流に制御すべく、ピーク電流モード制御により駆動スイッチ(SW5,SW6)を操作する電流制御部(50)と、
前記第2リアクトルに流れる電流を取得する第2電流取得部と、を備え、
前記電流補正
部は、取得された前記第2リアクトルに流れる電流に基づいて、前記電流補正値を設定す
る電力変換装置。
【請求項7】
前記電流補正値は、下記式(1)により算出される請求項
6に記載の電力変換装置。
【数1】
ここで、Ihは電流補正値であり、Vrmsは前記交流電源の交流電圧の実効値であり、θは前記検出電圧の位相であり、Vdcは前記直流電圧であり、Tswは前記駆動スイッチの1スイッチング周期であり、L1は前記第1リアクトルのインダクタンスであり、L2は前記第2リアクトルのインダクタンスである。
【請求項8】
第1リアクトル(13)、第1交流側端子(TA1)、第2交流側端子(TA2)、第1直流側端子(TD1)、第2直流側端子(TD1)、前記各交流側端子と前記第1リアクトルとの間に設けられたフルブリッジ回路(12)、及び前記各交流側端子から入力された交流電源(200)の交流電圧を直流電圧に変換して前記各直流側端子から出力する機能、及び前記各直流側端子から入力された直流電圧を交流電圧に変換して前記各交流側端子から出力する機能のうち、少なくとも一方の機能を有する制御部(30)を備える電力変換装置(100)に
適用されるプログラムにおいて、
前記フルブリッジ回路は、第1スイッチ(SW1)及び第2スイッチ(SW2)の直列接続体、並びに第3スイッチ(SW3)及び第4スイッチ(SW4)の直列接続体を有し、前記各直列接続体が並列接続されて構成されており、
前記第1スイッチ、前記第2スイッチ、前記第3スイッチ及び前記第4スイッチそれぞれには、ダイオード(D1~D4)が逆並列に接続されており、
前記第1交流側端子には、前記第1スイッチと前記第2スイッチとの接続点が接続されており、
前記第2交流側端子には、前記第3スイッチと前記第4スイッチとの接続点が接続されており、
前記第1交流側端子と、前記第1スイッチ及び前記第2スイッチの接続点との間、及び第2交流側端子と、前記第3スイッチ及び前記第4スイッチの接続点との間の少なくとも一方に設けられた第2リアクトル(20)を備え、
前記第2リアクトルは、前記第2リアクトルに流れる正側定格電流と前記第2リアクトルに流れる負側定格電流とで規定される第1電流範囲のうち、ゼロを中心とした一部の電流範囲である第2電流範囲において、他の電流範囲よりもインダクタンスが大きくされており、
前記制御部
に、
電圧センサ(23)により検出された前記交流電源の電圧値である検出電圧に基づいて、前記交流電源の実際の電圧値が正極性であるか負極性であるかを判定
する処理と、
前記交流電源の実際の電圧値の極性が切り替わると判定するたびに、前記第1スイッチ及び前記第4スイッチの組と、前記第2スイッチ及び前記第3スイッチの組とのうち、オン操作する組を交互に切り換え
る処理と、を実行させるプログラム。
【請求項9】
第1リアクトル(13)、第1交流側端子(TA1)、第2交流側端子(TA2)、第1直流側端子(TD1)、第2直流側端子(TD1)、前記各交流側端子と前記第1リアクトルとの間に設けられたフルブリッジ回路(12)、及び前記各交流側端子から入力された交流電源(200)の交流電圧を直流電圧に変換して前記各直流側端子から出力する機能、及び前記各直流側端子から入力された直流電圧を交流電圧に変換して前記各交流側端子から出力する機能のうち、少なくとも一方の機能を有する制御部(30)を備える電力変換装置(100)に適用されるプログラムにおいて、
前記フルブリッジ回路は、第1スイッチ(SW1)及び第2スイッチ(SW2)の直列接続体、並びに第3スイッチ(SW3)及び第4スイッチ(SW4)の直列接続体を有し、前記各直列接続体が並列接続されて構成されており、
前記第1スイッチ、前記第2スイッチ、前記第3スイッチ及び前記第4スイッチそれぞれには、ダイオード(D1~D4)が逆並列に接続されており、
前記第1交流側端子には、前記第1スイッチと前記第2スイッチとの接続点が接続されており、
前記第2交流側端子には、前記第3スイッチと前記第4スイッチとの接続点が接続されており、
前記第1交流側端子と、前記第1スイッチ及び前記第2スイッチの接続点との間、及び第2交流側端子と、前記第3スイッチ及び前記第4スイッチの接続点との間の少なくとも一方に設けられた第2リアクトル(20)を備え、
前記制御部に、
電圧センサ(23)により検出された前記交流電源の電圧値である検出電圧に基づいて、前記交流電源の実際の電圧値が正極性であるか負極性であるかを判定する処理と、
前記交流電源の実際の電圧値の極性が切り替わると判定するたびに、前記第1スイッチ及び前記第4スイッチの組と、前記第2スイッチ及び前記第3スイッチの組とのうち、オン操作する組を交互に切り換える処理と、
前記第1リアクトルに流れるリアクトル電流を取得する処理と、
前記検出電圧に基づいて生成される正弦波状の指令電流を算出する処理と、
前記第2リアクトルに流れる電流を取得する処理と、
取得された前記第2リアクトルに流れる電流に基づい
て電流補正値を設定し、設定した前記電流補正値により前記指令電流を補正する処理と、
前記リアクトル電流を
、補正された
前記指令電流に制御すべく、ピーク電流モード制御により駆動スイッチ(SW5,SW6)を操作する処理と、を実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フルブリッジ回路を備える電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、AC・DC変換装置のリアクトルに流れるリアクトル電流を指令電流に制御すべく、周知のピーク電流モード制御により駆動スイッチを操作する制御装置が開示されている。この制御装置は、交流電源の電圧を検出電圧として取得し、取得した検出電圧の位相に応じて変化する電流補正値を指令電流に加算することで、出力電流の歪みを低減している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電力変換装置では、電圧センサにより検出された検出電圧により交流電源の実際の電圧である実電圧の極性が変化するタイミングを判定し、このタイミングに同期させて、フルブリッジ回路を構成するスイッチのうち、オン操作する組を交互に切り換える。ここで、実電圧に対して、検出電圧に位相ずれや上下のオフセットが生じることにより、オン操作されるスイッチの組とオフ操作されるスイッチの組との切り替えタイミングが、実電圧の極性が切り替わるタイミングからずれる場合がある。このことにより、フルブリッジ回路内において、オンしているスイッチの組と、オフしているスイッチの組に逆並列に接続されたダイオードとを含む短絡回路が形成され、この短絡回路に過電流が流れることが懸念される。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みたものであり、フルブリッジ回路を備える電力変換装置において、過電流が流れるのを抑制できる電力変換装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために本発明は、第1リアクトル、第1交流側端子、第2交流側端子、第1直流側端子、第2直流側端子、前記各交流側端子と前記第1リアクトルとの間に設けられたフルブリッジ回路、及び前記各交流側端子から入力された交流電源の交流電圧を直流電圧に変換して前記各直流側端子から出力する機能、及び前記各直流側端子から入力された直流電圧を交流電圧に変換して前記各交流側端子から出力する機能のうち、少なくとも一方の機能を有する制御部を備える電力変換装置に関する。前記フルブリッジ回路は、第1スイッチ及び第2スイッチの直列接続体、並びに第3スイッチ及び第4スイッチの直列接続体を有し、前記各直列接続体が並列接続されて構成されており、前記第1スイッチ、前記第2スイッチ、前記第3スイッチ及び前記第4スイッチそれぞれには、ダイオードが逆並列に接続されており、前記第1交流側端子には、前記第1スイッチと前記第2スイッチとの接続点が接続されており、前記第2交流側端子には、前記第3スイッチと前記第4スイッチとの接続点が接続されており、前記制御部は、電圧センサにより検出された前記交流電源の電圧値である検出電圧に基づいて、前記交流電源の実際の電圧値が正極性であるか負極性であるかを判定し、前記交流電源の実際の電圧値の極性が切り替わると判定するたびに、前記第1スイッチ及び前記第4スイッチの組と、前記第2スイッチ及び前記第3スイッチの組とのうち、オン操作する組を交互に切り換え、前記第1交流側端子と、前記第1スイッチ及び前記第2スイッチの接続点との間、及び第2交流側端子と、前記第3スイッチ及び前記第4スイッチの接続点との間の少なくとも一方に設けられた第2リアクトルを備える。
【0007】
上記構成では、第1交流側端子と第1スイッチ及び第2スイッチの接続点との間、及び第2交流側端子と第3スイッチ及び第4スイッチの接続点との間の少なくとも一方に第2リアクトルが設けられている。第2リアクトルが有するインダクタンスにより、第1,第2交流側端子に流れる電流の変化が抑制される。これにより、オン操作されるスイッチの組とオフ操作されるスイッチの組との切り替えタイミングが、交流電源における実際の電圧の極性が切り替わるタイミングからずれる場合であっても、過電流が流れるのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図5】電力変換装置の動作を説明するタイミングチャート。
【
図6】第1,第2交流側端子に流れる過電流の詳細を説明する図。
【
図7】第1,第2交流側端子に流れる過電流の詳細を説明する図。
【
図8】第2リアクトルのインピーダンスを説明する図。
【
図11】基準補正値マップの作成方法を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本実施形態に係る電力変換装置を具体化した一実施形態について説明する。本実施形態では、電力変換装置は、直流側端子を通じて直流電源から供給される直流電力を、交流電力へ変換して交流電源に供給する。
【0010】
図1に示す電力変換装置100の第1,第2直流側端子TD1,TD2には、不図示の直流電源が接続されており、第1,第2交流側端子TA1,TA2には、交流電源200が接続されている。交流電源200は、例えば商用電源であり、直流電源は、例えばバッテリやDC・DC変換回路である。
【0011】
電力変換装置100は、コンデンサ16と、ハーフブリッジ回路15と、中間コンデンサ14と、第1リアクトル13と、フルブリッジ回路12と、第1~第6配線LP1~LP6とを備えている。
【0012】
第1直流側端子TD1には、第1配線LP1の第1端が接続されており、第2直流側端子TD2には第2配線LP2の第1端が接続されている。第1配線LP1と第2配線LP2とは、コンデンサ16により接続されている。
【0013】
第1,第2配線LP1,LP2の第2端には、ハーフブリッジ回路15が接続されている。ハーフブリッジ回路15は、第5スイッチSW5と、第6スイッチSW6とを備えている。第5,第6スイッチSW5,SW6は、電圧駆動型のスイッチであり、本実施形態では、NチャネルMOSFETである。第5スイッチSW5のソースと、第6スイッチSW6のドレインとが接続されている。第5スイッチSW5のドレインが第1配線LP1に接続され、第6スイッチSW6のソースが第2配線LP2に接続されている。
【0014】
ハーフブリッジ回路15とフルブリッジ回路12とは、第3配線LP3及び第4配線LP4により接続されている。第3配線LP3の第1端は、第5スイッチSW5のソースと、第6スイッチSW6のドレインとの間の第1接続点K1に接続されている。第3配線LP3には、第1リアクトル13が設けられている。また、第4配線LP4の第1端は、第6スイッチSW6のソースに接続されている。第3,第4配線LP3,LP4それぞれの第2端は、フルブリッジ回路12に接続されている。第3配線LP3と第4配線LP4とは、中間コンデンサ14により接続されている。
【0015】
フルブリッジ回路12は、第1~第4スイッチSW1~SW4を備えている。第1~第4スイッチSW1~SW4は、電圧駆動型のスイッチであり、本実施形態では、NチャネルMOSFETである。第1スイッチSW1のソースと、第2スイッチSW2のドレインとが接続されている。第3スイッチSW3のソースと、第4スイッチSW4のドレインとが接続されている。第1,第3スイッチSW1,SW3の各ドレインが第3配線LP3に接続され、第2,第4スイッチSW2,SW4の各ソースが第4配線LP4に接続されている。第1~第4スイッチSW1~SW4それぞれは、逆並列接続された第1~第4ボディーダイオードD1~D4を備えている。
【0016】
第3スイッチSW3のソースと第4スイッチSW4のドレインとの間の第2接続点K2は、第6配線LP6の第1端に接続されており、第6配線LP6の第2端は第2交流側端子TA2に接続されている。第1スイッチSW1と第2スイッチSW2との第3接続点K3は、第5配線LP5の第1端に接続されており、第5配線LP5の第2端は第1交流側端子TA1に接続されている。
【0017】
電力変換装置100は、直流電圧センサ21と、リアクトル電流センサ22と、交流電圧センサ23とを備えている。直流電圧センサ21は、第1,第2配線LP1,LP2の間に接続されており、第1,第2直流側端子TD1,TD2を通じて入力される電圧を直流電圧Vdcとして検出する。リアクトル電流センサ22は、第4配線LP4に設けられており、第1リアクトル13に流れる電流をリアクトル電流ILrとして検出する。交流電圧センサ23は、第5,第6配線LP5,LP6の間に接続されており、交流電源200の電圧を検出電圧Vacとして検出する。
【0018】
交流電圧センサ23は、
図2に示すように、基準電圧生成部231と、ボルテージフォロア部232と、差動増幅部233とを備えている。基準電圧生成部231は、抵抗R1,R2の直列接続体と、低電圧源241とを備えており、低電圧源241から供給される電圧を抵抗R1,R2で分圧することにより基準電圧Vsを出力する。基準電圧Vsは、交流電圧センサ23の検出電圧Vacの基準となる電圧であり、具体的には、交流電源200の実際の電圧値である実電圧Vrが0になる場合の検出電圧Vacである。差動増幅部233が有するオペアンプ242の反転入力端子には、第5配線LP5を介して交流電源200が接続されており、非反転入力端子には、第6配線LP6を介して交流電源200が接続されている。オペアンプ242の反転入力端子と出力端子とは、ローパスフィルタ243で接続されている。基準電圧生成部231からの基準電圧Vsは、ボルテージフォロア部232を介して、オペアンプ242の非反転入力端子に入力される。オペアンプ242は、基準電圧Vsを中心として、交流電源200の実電圧Vrに応じた検出電圧Vacを出力する。
【0019】
本実施形態では、検出電圧Vacの極性を次のように定めている。第1交流側端子TA1の電圧が第2交流側端子TA2の電圧よりも大きい状態を、検出電圧Vacが正極性であるとし、第2交流側端子TA2の電圧が第1交流側端子TA1の電圧よりも大きい状態を、検出電圧Vacが負極性であるとする。
【0020】
図1の説明に戻り、電力変換装置100は、第1,第2交流側端子TA1,TA2に流れる電流を出力電流Iacとして検出する出力電流センサ24を備えている。本実施形態では、出力電流センサ24は、第5配線LP5に設けられている。第1交流側端子TA1から交流電源200を介して第2交流側端子TA2の向きに流れる出力電流Iacを正極性とし、第2交流側端子TA2から交流電源200を介して第1交流側端子TA1の向きに流れる出力電流Iacを負極性とする。各センサ21~24の検出値は、制御装置30に入力される。
【0021】
制御装置30は、第1~第6スイッチSW1~SW6をオンオフ操作する。なお、制御装置30が提供する各機能は、例えば、実体的なメモリ装置に記録されたソフトウェア及びそれを実行するコンピュータ、ハードウェア、又はそれらの組み合わせによって提供することができる。
【0022】
制御装置30は、取得したリアクトル電流ILrを、検出電圧Vacに基づいて算出した指令電流ILa*に制御すべく、ピーク電流モード制御により第5,第6スイッチSW5,SW6をオンオフ操作する。制御装置30は、第1,第4スイッチSW1,SW4の組と、第2,第3スイッチSW2,SW3の組とのうち、実電圧Vrが正極性となる期間では、第1,第4スイッチSW1,SW4の組をオン操作し、実電圧Vrが負極性となる期間では、第2,第3スイッチSW2,SW3の組をオン操作する。
【0023】
次に、
図3を用いて、制御装置30の機能を説明する。制御装置30は、位相推定部31、波形生成部32、乗算器33、絶対値算出部34、加算器35、電流補正部40及び電流制御部50を備えている。本実施形態では、制御装置30が、第1電流取得部に相当する。
【0024】
位相推定部31は、検出電圧Vacに基づいて、検出電圧Vacの位相θを推定する。この推定方法の一例について説明すると、位相推定部31は、検出電圧Vacの1周期(360°)をカウントし、カウントした値に基づいて位相θを推定する。本実施形態では、検出電圧Vacが基準電圧Vsを上回るタイミングをθ=0°とし、検出電圧Vacが基準電圧Vsを下回るタイミングをθ=180°とする。
【0025】
波形生成部32は、位相推定部31により推定された検出電圧Vacの位相θに基づいて、検出電圧Vacの基準波形sinθを生成する。基準波形sinθは、検出電圧Vacの半周期(T/2)における電圧変化を示す値であり、振幅が1であり、検出電圧Vacと同じ周期で変動する。本実施形態においては、基準波形sinθは、検出電圧Vacと同位相となる。
【0026】
乗算器33は、リアクトル電流ILrの振幅指令値Ia*と基準波形sinθとを乗算する。振幅指令値Ia*は、リアクトル電流ILrの振幅を定める指令値である。絶対値算出部34は、乗算器33からの出力値の絶対値を、補正前指令電流IL*として設定する。本実施形態では、位相推定部31と、波形生成部32と、乗算器33と、絶対値算出部34とが指令値算出部に相当する。
【0027】
電流補正部40は、出力電流Iacの歪みを抑制すべく、補正前指令電流IL*に対する補正に用いる電流補正値Icを設定する。本実施形態に係る電流補正部40の構成について
図4を用いて説明する。直流電圧を交流電圧に変換する場合、補正前指令電流IL*と、歪みが生じているリアクトル電流ILrの平均値Iaveとの差を示す乖離幅Δiは、実電圧Vrゼロクロスタイミング付近において最も小さな値となる。ここで、乖離幅Δiは、出力電流Iacの歪みの要因となる。乖離幅Δiは、補正前指令電流IL*からリアクトル電流ILrの平均値Iaveを引いた下記式(1)を用いて演算することができる。なお、下記式(1)の導出方法については後述する。
【0028】
【数1】
上記式(1)により、直流電圧を交流電圧に変換する場合、乖離幅Δiは、実電圧Vrのゼロクロスタイミングにおいて最小値を取り、実電圧Vrのピークタイミングにおいて最大値を取る。そのため、上記式(1)により算出される乖離幅Δiに応じて、電流補正値Icを算出することにより、出力電流Iacの歪みを抑制することができる。
【0029】
電流補正部40は、
図4に示すように、実効値算出部41と、上限値設定部42と、基準補正値算出部43と、最小値選択部44と、を備えている。実効値算出部41は、実電圧Vrの実効値Vrmsを算出する。
【0030】
上限値設定部42は、実効値Vrmsと、振幅指令値Ia*とに基づいて上限値Idcを設定する。振幅指令値Ia*が大きいほど、リアクトル電流ILrの増加分が大きくなるため、上限値設定部42は、振幅指令値Ia*が大きいほど、上限値Idcを大きな値に設定する。また、実効値Vrmsが大きいほど、第5スイッチSW5のオン期間のデューティ比が大きくなり、乖離幅が増加するため、上限値Idcを大きな値に設定する。
【0031】
本実施形態では、上限値設定部42は、実効値Vrms毎に、振幅指令値Ia*と、上限値Idcとの関係を示す直流成分マップを備えている。例えば、各実効値Vrmsは、各国の商用電源の実効値Vrmsに対応している。そのため、上限値設定部42は、実効値Vrms毎の直流成分マップを参照することで、振幅指令値Ia*に応じた上限値Idcを設定することができる。
【0032】
基準補正値算出部43は、実効値Vrmsに基づいて、基準補正値Ihを設定する。本実施形態では、基準補正値算出部43により設定される基準補正値Ihは、実電圧Vrのゼロクロスタイミング又はその付近において極小値を取り、ピークタイミングにおいて極大値を取る。具体的には、基準補正値Ihは、時間の推移とともに、その値が変化する。また、本実施形態では、基準補正値Ihは、実電圧Vrのゼロクロスタイミングにおいてゼロに定められているが、これに限定されず、実電圧Vrのゼロクロスタイミングにおいてゼロより大きい値に定められていてもよい。
【0033】
基準補正値算出部43は、実効値Vrms毎に、基準補正値Ihを記録した補正値マップを備えている。各補正値マップは、実効値Vrmsが大きいほど、基準補正値Ihが大きな値となるようにその値が定められている。
【0034】
最小値選択部44は、上限値設定部42により設定された上限値Idcと、基準補正値算出部43により設定された基準補正値Ihとのうち、小さい方の値を電流補正値Icに設定する。そのため、基準補正値Ihが上限値Idcより小さい値であれば、基準補正値Ihが電流補正値Icとして設定され、基準補正値Ihが上限値Idc以上の値であれば、上限値Idcが電流補正値Icとして設定される。
【0035】
図3の説明に戻り、加算器35は、補正前指令電流IL*に電流補正値Icを加算し、加算後の値を指令電流ILa*として設定する。
【0036】
電流制御部50は、リアクトル電流ILrと、指令電流ILa*とに基づいて、第5スイッチSW5を操作する第5ゲート信号GS5と、第6スイッチSW6を操作する第6ゲート信号GS6とを出力する。電流制御部50は、DA変換器351と、コンパレータ352と、加算器353と、RSフリップフロップ357と、スロープ補償部51と、を備えている。指令電流ILa*は、DA変換器351に入力される。DA変換器351は、入力された指令電流ILa*をデジタル値からアナログ値に変換する。アナログ値に変換された指令電流ILa*は、コンパレータ352の反転入力端子に入力される。加算器353は、リアクトル電流ILrとスロープ補償部51により設定されたスロープ補償信号Slopeとを加算し、補償したリアクトル電流ILrを出力する。加算器353からの出力は、コンパレータ352の非反転入力端子に入力される。なお、スロープ補償信号Slopeは、第1リアクトル13に流れる電流の変動に伴う発振を抑制するものである。
【0037】
コンパレータ352は、指令電流ILa*とリアクトル電流ILrとを比較し、リアクトル電流ILrが指令電流ILa*より小さい期間において、ロー状態の信号をRSフリップフロップ357のR端子に入力する。また、コンパレータ352は、リアクトル電流ILrが指令電流ILa*より大きい期間において、ハイ状態の信号をRSフリップフロップ357のR端子に入力する。更に、RSフリップフロップ357のS端子には、クロック信号が入力される。クロック信号の1周期が第5,第6スイッチSW5,SW6の1スイッチング周期Tswとなる。
【0038】
RSフリップフロップ357のQ端子は、第5スイッチSW5のゲートに接続されている。Q端子から第5スイッチSW5のゲートに出力される信号が、第5ゲート信号GS5となる。また、RSフリップフロップ357の出力端子は、反転器358を介して第6スイッチSW6のゲートに接続されている。Q端子から反転器358を介して第6スイッチSW6のゲートに出力される信号が、第6ゲート信号GS6となる。第6ゲート信号GS6は、第5ゲート信号GS5の論理を反転させた値となる。
【0039】
制御装置30は、検出電圧Vacに基づいて、実電圧Vrの極性を判定する極性判定部55を備えている。極性判定部55は、実電圧Vrの極性が正極性であると判定する期間においてハイ状態の極性判定信号PSを出力する。一方、極性判定部55は、実電圧Vrの極性が負極性であると判定する期間においてロー状態の極性判定信号PSを出力する。
【0040】
極性判定部55からの極性判定信号PSは、操作部56に入力される。操作部56は、極性判定信号PSを、その論理を維持したまま第1,第4スイッチSW1,SW4のゲートに供給する。そのため、操作部56から第1スイッチSW1のゲートに出力される極性判定信号PSが第1ゲート信号GS1となり、操作部56から第4スイッチSW4のゲートに出力される極性判定信号PSが第4ゲート信号GS4となる。極性判定部55からの極性判定信号PSは、操作部56が備える反転器359にも入力される。極性判定信号PSは、反転器359により論理が反転された状態で、第2,第3スイッチSW2,SW3のゲートに入力される。反転器359から第2スイッチSW2のゲートに出力される信号が第2ゲート信号GS2となり、反転器359から第3スイッチSW3のゲートに出力される信号が第3ゲート信号GS3となる。
【0041】
次に、
図5を用いて、電力変換装置100の動作を説明する。
図5(a)は、検出電圧Vac及び直流電圧Vdcの推移を示している。
図5(b)は、第1,第4ゲート信号GS1,GS4の推移を示し、
図5(c)は、第2,第3ゲート信号GS2,GS3の推移を示す。
図5(d)は、第5ゲート信号GS5と、第6ゲート信号GS6を反転させた信号との推移を示す。
図5(e)は、指令電流ILa*の推移を示し、
図5(f)は、リアクトル電流ILrの推移を示す。
図5(g)は、出力電流Iacの推移を示す。
【0042】
制御装置30により算出される指令電流ILa*は、正弦波の正の半波が周期T/2で繰り返される波形となっている。
図5では、指令電流ILa*は、検出電圧Vacの波形に応じて、その値が変化している。
【0043】
検出電圧Vacの1周期Tにおいて、検出電圧Vacが正となる第1期間P1(=T/2)では、第1,第4ゲート信号GS1,GS4がハイ状態となり、第2,第3ゲート信号GS2,GS3がロー状態となる。これにより、フルブリッジ回路12では、第1,第4スイッチSW1,SW4がオン状態となり、第2,第3スイッチSW2,SW3がオフ状態となる。この第1期間P1において、制御装置30は、ピーク電流モード制御によりリアクトル電流ILrを指令電流ILa*に制御するべく、第5,第6ゲート信号GS5,GS6の1スイッチング周期Tswでのオン期間の比を示すデューティ比(=Ton/Tsw)を変更する。このとき、1スイッチング周期Tswでのリアクトル電流ILrは、第5スイッチのデューティ比に応じた値となる。そのため、リアクトル電流ILrの平均値Iaveは、指令電流ILa*に近い値となる。
【0044】
検出電圧Vacが負となる第2期間P2(=T/2)では、第1,第4ゲート信号GS1,GS4がロー状態となり、第2,第3ゲート信号GS2,GS3がハイ状態となる。これにより、フルブリッジ回路12では、第1,第4スイッチSW1,SW4がオフ状態となり、第2,第3スイッチSW2,SW3がオン状態となる。この第2期間P2においても、制御装置30は、ピーク電流モード制御によりリアクトル電流ILrを指令電流ILa*に制御するべく、第5,第6ゲート信号GS5,GS6のデューティ比を変更する。
【0045】
ここで、実電圧Vrに対して検出電圧Vacに位相ずれが生じる場合がある。実電圧Vrに対する検出電圧Vacの位相ずれは、交流電圧センサ23を構成する素子の製造ばらつきや、温度特性によって生じる。また、実電圧Vrに対する検出電圧Vacの位相ずれは、交流電圧センサ23の差動増幅部233が備えるローパスフィルタ243が容量成分として作用することによっても生じる。
【0046】
実電圧Vrに対する検出電圧Vacの位相ずれにより、検出電圧Vacが基準電圧Vsになるタイミングが、実電圧Vrのゼロクロスタイミングからずれる。これにより、フルブリッジ回路12を構成する第1~第4スイッチSW1~SW4のオンオフ操作の切り替えタイミングが、実電圧Vrの極性が切り替わるタイミングからずれ、第1,第2交流側端子TA1,TA2に過電流が流れる場合がある。
【0047】
図6,
図7を用いて、第1,第2交流側端子TA1,TA2に流れる過電流の詳細を説明する。
図6(a)は、検出電圧Vac及び実電圧Vrの推移を示し、
図6(b)は、第1,第4ゲート信号GS1,GS4の推移を示す。
図6(c)は、第2,第3ゲート信号GS2,GS3の推移を示し、
図6(d)は、出力電流Iacの推移を示す。
図7(a)は、
図6の期間P11における、フルブリッジ回路12及び交流電源200に流れる電流の流通経路を示す図である。なお、
図6(a)では、説明を容易にするため、基準電圧Vsをゼロとした場合の検出電圧Vacと実電圧Vrとを示している。
図7(b)は、
図6の期間P12における、フルブリッジ回路12及び交流電源200に流れる電流を説明する図である。
【0048】
図6(a)に実線で示す検出電圧Vacは、破線で示す実電圧Vrよりも位相が遅れている。これにより、検出電圧Vacが正となる第1期間P1において、第1,第4ゲート信号GS1,GS4の立ち下がりタイミングが、実電圧VrのゼロクロスタイミングよりもΔεだけ遅延している。また、第2,第3ゲート信号GS2,GS3の立ち上がりタイミングが、実電圧VrのゼロクロスタイミングよりもΔεだけ遅延している。更に、期間P11では、実電圧Vrが負であるのに対して、交流電圧センサ23により検出された検出電圧Vacは0(基準電圧Vs)よりも高い値となっている。
【0049】
期間P11では、
図7(a)に示すように、第1,第2交流側端子TA1,TA2間に印加される負の実電圧Vrにより、第3スイッチSW3のボディーダイオードD3と、第1スイッチSW1のドレイン・ソース間とを含む閉回路に、第1交流側端子TA1から交流電源200を介して第2交流側端子TA2の向きに、第1電流I1が流れる。同様に、負の実電圧Vrにより、第4スイッチSW4のドレイン・ソース間と、第2スイッチSW2のボディーダイオードD2とを含む閉回路に、第1交流側端子TA1から交流電源200を介して第2交流側端子TA2の向きに第2電流I2が流れる。そのため、期間P11では、
図6(d)に示すように、第1電流I1と第2電流I2とが足し合わされることによりスパイク状の過電流が流れる。
【0050】
図6の説明に戻り、期間P12では、第1,第4ゲート信号GS1,GS4の立ち上がりタイミングが、実電圧VrのゼロクロスタイミングよりもΔεだけ遅延している。また、期間P12では、第2,第3ゲート信号GS2,GS3の立ち下がりタイミングが、実電圧VrのゼロクロスタイミングよりもΔεだけ遅延している。更に、期間P12では、実電圧Vrが正であるのに対して、交流電圧センサ23により検出された検出電圧Vacは0(基準電圧Vs)よりも低い負となっている。
【0051】
期間P12では、
図7(b)に示すように、第1,第2交流側端子TA1,TA2間に印加される正の実電圧Vrにより、第1スイッチSW1のボディーダイオードD1と、第3スイッチSW3のドレイン・ソース間とを含む閉回路に、第2交流側端子TA2から交流電源200を介して第1交流側端子TA1の向きに、第3電流I3が流れる。同様に、正の実電圧Vrにより、第2スイッチSW2のドレイン・ソース間と、第4スイッチSW4のボディーダイオードD4とを含む閉回路に、第2交流側端子TA2から交流電源200を介して第1交流側端子TA1の向きに第4電流I4が流れる。そのため、期間P12では、第3電流I3と第4電流I4とが足し合わされることによりスパイク状の過電流が流れる。
【0052】
本実施形態では、第5配線LP5に第2リアクトル20が設けられている。この第2リアクトル20が有するインダクタンスにより、第1,第2交流側端子TA1,TA2に過電流が流れることを抑制する。
【0053】
図8は、横軸を第2リアクトル20に流れる電流(つまり、出力電流Iac)とし、縦軸をインダクタンスとする第2リアクトル20の直流重畳特性を示す図である。横軸において、Apは、第2リアクトル20に流すことのできる正側定格電流であり、Anは、第2リアクトル20に流すことのできる負側定格電流である。負側定格電流Anから正側定格電流Apまでの範囲が、第2リアクトル20に流れる電流が取り得る範囲である第1電流範囲W1となっている。本実施形態では、「|Ap|=|An|」とされているが、「|Ap|≠|An|」であってもよい。
【0054】
実電圧Vrのゼロクロスタイミング付近において過電流が流れると、第1,第2交流側端子TA1,TA2に流れる出力電流Iacがゼロから大きく変化する。第2リアクトル20のインダクタンスL2は、第1電流範囲W1のうち、ゼロを中心として所定電流幅の第2電流範囲W2において最大値Lmとなっている。これは、出力電流Iacのゼロ付近において第2リアクトル20のインダクタンスL2が大きな値であれば、出力電流Iacの過剰な変化を抑制し、ひいては過電流を抑制することができるためである。なお、本実施形態では、第2電流範囲W2の中央値が0となっている。
【0055】
第2リアクトル20のインダクタンスL2は、第1電流範囲W1のうち、第2電流範囲W2以外の範囲である第3電流範囲W3において、第2電流範囲W2でのインダクタンスよりも低い値となっている。これは、第3電流範囲W3では、第2リアクトル20のインダクタンスが小さいほうが、ピーク電流モード制御における電流制御性の低下を抑制し、電力変換装置100における電力変換効率を低下させにくくできるためである。ピーク電流モード制御における電流制御性の低下は、第3電流範囲W3においてインダクタンスL2が小さいことにより、リアクトル電流ILrのピーク値の低下が抑制されることで実現できる。
【0056】
本実施形態では、電力変換装置100を、0.9から1の力率範囲で動作させることを想定しており、第2電流範囲W2は、第1電流範囲W1の60%の範囲とされている。これは、電力変換装置100を1よりも小さな力率で動作させる場合、実電圧Vrのゼロクロスタイミングにおいて、出力電流Iacはゼロからオフセットし、過電流の絶対値の最大値が大きくなるためである。一方、電力変換装置100を力率1で動作させる場合は、実電圧Vrのゼロクロスタイミングにおいて出力電流Iacは理想的にはゼロとなる。そのため、電力変換装置100を力率1で動作させる場合の第2電流範囲W2は、1よりも小さい力率で動作させる場合の第2範囲W2よりも狭くされていてもよい。この場合、例えば、第2電流範囲W2は、第1電流範囲W1の60%未満かつ30%以上の範囲であってもよく、具体的には第1電流範囲W1の30%の範囲であってもよい。
【0057】
第1電流範囲W1のうち、第3電流範囲W3では、出力電流Iacの絶対値が大きくなるほど、インダクタンスL2が小さくされている。本実施形態では、第1電流範囲W1において、第2リアクトル20のインダクタンスL2は、第1リアクトル13のインダクタンスL1よりも小さな値とされている。また、第3電流範囲W3において、第1リアクトル13に流れる電流の絶対値の増加に伴う第1リアクトル13のインダクタンスL1の低下割合よりも、第2リアクトル20に流れる電流の絶対値の増加に伴う第2リアクトル20のインダクタンスL2の低下割合が大きい。詳しくは、第3電流範囲W3において、第2リアクトル20に流れる電流の絶対値の増加量ΔI2に対する第2リアクトル20におけるインダクタンスL2の低下量ΔL2の傾き(=ΔL2/ΔI2)は、第1リアクトル13に流れる電流の絶対値の増加量ΔI1に対するインダクタンスL1の低下量(ΔL1)の傾き(=ΔL1/ΔI1)よりも大きくされている。
【0058】
なお、本実施形態では、第2リアクトル20のインダクタンスL2は、正側定格電流Ap及び負側定格電流Anにおいて0とされている。ただし、インダクタンスL2は、正側定格電流Ap及び負側定格電流Anにおいて0よりも大きい値にされていてもよい。
【0059】
第2リアクトル20は、第1電流範囲W1のうち、第2電流範囲W2においてインダクタンスL2をLmに維持し、第3電流範囲W3においてインダクタンスL2が急峻に低下するリアクトル(具体的には例えば、可飽和リアクトル)であればよく、例えば、鉄心入りリアクトルを用いることができる。鉄心入りリアクトルを用いることにより、コアを用いない空芯リアクトルと比べて、第2リアクトル20の体格を小さくすることができる。
【0060】
なお、第2リアクトル20のインダクタンスL2の最大値Lmは、正側定格電流Ap、負側定格電流An及び第2リアクトル20の体格を考慮して実験的に定められればよい。
【0061】
次に、
図9,
図10を用いて、本実施形態の作用効果について説明する。
図9(a)は交流電源200の1周期Tにおける実電圧Vrの推移を示し、
図9(b)は出力電流Iacの推移を示す。
図9(c)は第1ゲート信号GS1と第2ゲート信号GS2とを示す。なお、
図9(c)では、第2ゲート信号GS2を破線により示している。
【0062】
図9(a)において、実電圧Vrは、時刻t1から時刻t3の期間において負極性となっており、時刻t3から時刻t5の期間において正極性となっている。そのため、時刻t1,t5が実電圧Vrのゼロダウンクロスタイミングであり、時刻t3が実電圧Vrのゼロアップクロスタイミングである。実電圧Vrの各ゼロクロスタイミングt1,t3,t5において、実電圧Vrに対する検出電圧Vacの位相のずれが生じている。これにより、第1,第2ゲート信号GS1,GS2における立ち上がり及び立下りタイミングが各ゼロクロスタイミングから遅延している。
【0063】
時刻t1でのゼロダウンクロスタイミングから時刻t2までの期間において、第1,第2ゲート信号GS1,GS2の切り替わりタイミングのズレに伴い、出力電流Iacにスパイク状の過電流が発生している。本実施形態では、第5配線LP5に設けられた第2リアクトル20により、時刻t1から時刻t2の期間での出力電流Iacの振幅の増加が抑えられている。なお、時刻t3から時刻t4までの期間、及び時刻t5から時刻t6までの各期間においても、出力電流Iacにスパイク状の過電流が発生しているが、第2リアクトル20により出力電流Iacの振幅の増加が抑制されている。
【0064】
図10に示す比較例は、第5配線LP5に第2リアクトル20を設けない電力変換装置100における、実電圧Vr、出力電流及び第1,第2ゲート信号GS1,GS2を示している。
図10(a)~
図10(c)は、
図9(a)~
図9(c)に対応している。
図10で示す比較例においても、時刻t11,t15が、実電圧Vrのゼロダウンクロスタイミングであり、時刻t13が、実電圧Vrのゼロアップクロスタイミングである。
【0065】
比較例においても、実電圧Vrの各ゼロクロスタイミングt11,t13,t15を含む所定期間t11-t12,t13-t14,t15-16において、出力電流Iacにスパイク状の過電流が発生している。しかし、比較例では、第5配線LP5に第2リアクトル20が設けられていないため、各期間での出力電流Iacの振幅は、
図9に示す出力電流Iacの振幅よりも大きくなっている。
【0066】
続いて、
図11を用いて、先の
図3で説明した基準補正値マップの作成方法について説明する。
【0067】
本実施形態では、乖離幅Δiを、補正前指令電流IL*からリアクトル電流ILrの平均値Iaveを引いた値としている。なお、
図11において、Dは、第5スイッチSW5におけるオン期間のデューティ比を示す。
【0068】
図11より、乖離幅Δiは、オン期間(=D×Tsw)でのスロープ補償信号Slopeの最大増加分Δslopeに、リアクトル電流ILrの最大増加分ΔILの半分の値(ΔIL/2)を加えたものとみなすことができる。そのため、乖離幅Δiは、下記式(2)により算出される。
【0069】
Δi=IL*-Iave=Δslope+ΔIL/2 … (2)
また、リアクトル電流ILrの最大増加分ΔILは、第1リアクトル13の両端に生じる電圧、第1リアクトル13のインダクタンスL1及び第2リアクトル20のインダクタンスL2を用いて、下記式(3)により算出することができる。
【0070】
【数2】
制御装置30は、出力電流センサ24により検出された出力電流Iacに基づいて第2リアクトル20のインダクタンスL2を設定する。本実施形態では、制御装置30は、出力電流Iacと第2リアクトル20のインダクタンスL2との関係を定めるリアクトルマップを備えている。そのため、制御装置30は、このリアクトルマップを参照することで、出力電流Iacに応じた第2リアクトル20のインダクタンスL2を設定することができる。制御装置30は、第2電流取得部に相当する。
【0071】
また、スロープ補償信号Slopeの最大増加分Δslopeは、下記式(4)により算出することができる。
Δslope = ms×D×Tsw … (4)
例えば、乖離幅Δiを算出する際のスロープ補償信号Slopeの傾きmsは、傾きmsの平均値を用いればよい。
【0072】
第5スイッチSW5のオン期間のデューティ比Dは、検出電圧Vacの実効値Vrmsを用いて、下記式(5)により算出することができる。
【0073】
【数3】
上記式(2)~(5)により乖離幅Δiは上記式(1)として算出される。本実施形態では、上記式(1)で示される乖離幅Δiを用いて、基準補正値Ihを算出する。例えば、乖離幅Δiに算出係数αを乗算した値を、基準補正値Ihとして用いることができる。なお、算出係数αは、0より大きく、1以下の値とすることができる。そして、算出した各基準補正値Ihを、実効値Vrms毎に記録することで、基準補正値マップを作成することができる。
【0074】
以上説明した本実施形態では、以下の効果を奏することができる。
【0075】
・第1交流側端子TA1と、第1スイッチSW1及び第2スイッチSW2の第3接続点K3とを接続する第5配線LP5には、第2リアクトル20が設けられている。これにより、極性判定部55による極性判定の結果が、実電圧Vrの極性の切り替わりタイミングに対して遅れる場合においても、第5配線LP5に設けられた第2リアクトル20のインダクタンスL2により、過電流が抑制される。
【0076】
・第2リアクトル20のインダクタンスL2は、正側定格電流Apと負側定格電流Anとで規定される第1電流範囲W1のうち、第2電流範囲W2において、第3電流範囲W3よりも大きな値となっている。このため、第2電流範囲W2では、高いインダクタンスにより、出力電流Iacの絶対値の増加度合いが抑制され、過電流の発生が抑制される。一方、第3電流範囲W3では、第2電流範囲W2よりもインダクタンスが低くなることにより、ピーク電流モード制御での電流制御性の低下が抑制される。これにより、第3電流範囲W3において、電力変換装置100が実施する電力変換の変換効率の低下を抑制することができる。
【0077】
・第2リアクトル20は、第1電流範囲W1のうち、第3電流範囲W3において、出力電流Iacの絶対値が大きくなるほど、インダクタンスL2が小さくされている。これにより、出力電流Iacが大きい場面では、出力電流Iacが小さい場面よりも第2リアクトル20の影響が小さくなるため、高電力側における電力変換効率の低下を抑制することができる。
【0078】
・第1電流範囲W1において、第2リアクトル20のインダクタンスL2は、第1リアクトル13のインダクタンスL1よりも小さくされている。これにより、第1電流範囲W1において、ピーク電流モード制御における電流制御性の低下をいっそう抑制することができる。
【0079】
<その他の実施形態>
・第2リアクトル20は、第2交流側端子TA2と、第3スイッチSW3及び第4スイッチSW4の第2接続点K2とを接続する第6配線LP6に設けられていてもよい。また、第2リアクトル20は、第5配線LP5及び第6配線LP6のそれぞれに設けられていてもよい。この場合においても、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0080】
・第1電流範囲W1において、第2リアクトル20のインダクタンスL2は、第1リアクトル13のインダクタンスL1よりも高い値であってもよい。
【0081】
・第1~第4スイッチSW1~SW4は、IGBTであってもよい。この場合、第1~第4スイッチSW1~SW4には、ボディーダイオードに代えて、フリーホイールダイオードが逆並列接続されている。
【0082】
・電力変換装置100は、直流電圧を交流電圧に変換するもの以外にも、直流電圧と交流電圧とのうち、入力された一方の電圧を他方の電圧に変換する双方向型の電力変換装置であってもよい。電力変換装置100が交流電圧を直流電圧に変換する場合、第6スイッチSW6が駆動スイッチに相当する。
【0083】
・基準電圧生成部231は、基準電圧Vsを生成するものであればよく、抵抗を用いた分圧回路に限らず、スイッチング電源であってもよい。
【0084】
・制御装置30は、ピーク電流モード制御により、第5スイッチSW5を操作するための第5ゲート信号GS5を出力することに代えて、平均電流モード制御により、第5ゲート信号GS5を出力するものであってもよい。
【0085】
・本開示に記載の制御装置及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ以上の専用ハードウェア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと一つ以上のハードウェア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。
【符号の説明】
【0086】
12…フルブリッジ回路、13…第1リアクトル、20…第2リアクトル、30…制御装置、100…電力変換装置、200…交流電源、TA1,TA2…第1,第2交流側端子、TD1,TD2…第1,第2直流側端子