(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-18
(45)【発行日】2022-10-26
(54)【発明の名称】エレベーターの安全管理システム
(51)【国際特許分類】
B66B 5/00 20060101AFI20221019BHJP
B66B 3/00 20060101ALI20221019BHJP
【FI】
B66B5/00 G
B66B3/00 R
(21)【出願番号】P 2019215126
(22)【出願日】2019-11-28
【審査請求日】2022-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000232955
【氏名又は名称】株式会社日立ビルシステム
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】土井 裕介
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 悠太
【審査官】吉川 直也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/123563(WO,A1)
【文献】特開2018-145005(JP,A)
【文献】特開2018-008774(JP,A)
【文献】特開2012-041116(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0255762(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 3/00- 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗りかごに設置された加速度センサ、計測処理装置、及び保守員が保持する保守端末を備えるエレベーターの安全管理システムにおいて、
前記乗りかごの上部に設置され、前記計測処理装置及び前記保守端末と通信可能な通信装置を備え、
前記加速度センサは、前記乗りかごが移動するときの加速度と、前記乗りかごの振動を検知し、
前記計測処理装置は、判定部を備え、
前記保守端末は、出力部を備え、
前記判定部は、
前記加速度センサから前記加速度についての情報を受け取り、前記乗りかごがドアゾーン以外の位置に止まったことを検出するかご位置判定部と、
前記加速度センサから前記振動についての情報を受け取ったときに、前記保守員が前記乗りかごの上
部に乗ったと
判断する振動判定部と、
前記加速度から求められた前記乗りかごの移動速度を用いて、前記乗りかごが予め定められた規定値以上の速度で走行したか否かを判定する速度判定部と、
前記かご位置判定部が前記乗りかごがドアゾーン以外の位置に止まったことを検出し、前記振動判定部が前記保守員が前記乗りかごの上
部に乗ったと
判断し、前記速度判定部が前記乗りかごが前
記規定値以上の速度で走行したと判定したときに、前記保守端末にアラートを出力するアラート出力部と、
を備え
、
前記判定部は、前記乗りかごがドアゾーン以外の位置に停止した後に、前記加速度センサが前記振動を検出し、かつ前記通信装置と前記保守端末との間の接続状態に切断から接続への変化があれば、前記保守員が前記乗りかごの上部に乗ったと判断するように構成されており、
前記判定部は、前記保守員が前記乗りかごの上部に乗ったと判断した場合には、前記乗りかごが前記規定値以上の速度で走行しているか否かを判定するように構成されており、
前記保守端末は、前記乗りかごが前記規定値以上の速度で走行している場合には、前記出力部がアラートを出力する、
ことを特徴とする、エレベーターの安全管理システム。
【請求項2】
請求項
1に記載のエレベーターの安全管理システムにおいて、
前記通信装置は、遠隔監視センタと通信可能であり、
前記通信装置は、前記乗りかごが前記規定値以上の速度で走行している場合には、前記遠隔監視センタに通知を送信する、エレベーターの安全管理システム。
【請求項3】
請求項
1に記載のエレベーターの安全管理システムにおいて、
前記保守端末は、前記出力部が画面を備え、
前記アラートは、前記保守端末の前記画面に表示されたメッセージである、エレベーターの安全管理システム。
【請求項4】
請求項
1に記載のエレベーターの安全管理システムにおいて、
前記通信装置は、前記エレベーターの通信制御が可能な遠隔監視センタと通信可能であり、
前記計測処理装置の前記判定部が、前記保守員が前記乗りかごの上部に乗ったと判断した場合には、前記通信装置は、前記乗りかごが
前記規定値以上の速度で走行するのを禁止する指令を前記遠隔監視センタに送信する、エレベーターの安全管理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレベーター保守員の保守作業に用いられる安全管理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
エレベーターには、乗客を運搬するための高速走行と、エレベーター機器の保守作業時に用いる低速走行という2つの運転方式が設けられている。エレベーター保守員(Field Engineer、以下「FE」とも称する。)は、エレベーターのピット内や乗りかごの上などの危険を伴う場所で保守作業を行う場合には、エレベーターが高速走行をしないように、スイッチ等によりエレベーターの運転方式を低速走行に切り替えた後に作業を行う。しかし、保守員が作業中に誤って運転方式を高速走行に切り替えてしまうと、保守員がかご上(乗りかごの上部)やピット内にいるときには、エレベーターが急に高速で走行するため、非常に危険である。
【0003】
特許文献1には、保守員が誤って運転方式を高速運転に切替えても、乗りかごが起動しないようにする運転装置が記載されている。特許文献1に記載の運転装置は、乗りかご上に人体検出用センサ(例えば、赤外線センサ)を備え、人体検出用センサが人体を検出すると、高速運転回路を無効とし、乗りかごを起動させない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
エレベーターには、遠隔監視センタと通信し、遠隔監視センタから遠隔操作できるものがある。このような通信制御が可能なエレベーターでは、エレベーター保守員(FE)がかご上での作業中に運転方式を高速走行に切り替えたときには、FEの安全のために、遠隔操作でエレベーターを低速走行に切り替えることができる。しかし、FEが他社製のエレベーターや古いエレベーターなどの通信制御ができないエレベーターで作業を行っている場合には、エレベーターを遠隔操作できず、FEは、危険な状態でかご上で作業を実施することになる。
【0006】
また、通信制御ができないエレベーターでは、FEに危険が発生したことを遠隔監視センタや保守作業の管理者に通知することが困難である。例えば、特許文献1に記載の運転装置を備えたエレベーターでFEがかご上で作業を実施している場合には、この運転装置が高速運転回路を無効としたことを、自動的に遠隔監視センタや保守作業の管理者に通知することは困難である。
【0007】
本発明の目的は、エレベーターが通信制御が可能であるか否かによらず、保守員がかご上で作業するときの安全性を向上させることができる、エレベーターの安全管理システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によるエレベーターの安全管理システムは、乗りかごに設置された加速度センサ、計測処理装置、及び保守員が保持する保守端末を備える。前記加速度センサは、前記乗りかごが移動するときの加速度と、前記乗りかごの振動を検知する。前記計測処理装置は、判定部を備える。前記判定部は、前記加速度センサから前記加速度についての情報を受け取り、前記乗りかごがドアゾーン以外の位置に止まったことを検出するかご位置判定部と、前記加速度センサから前記振動についての情報を受け取ったときに、前記保守員が前記乗りかごの上に乗ったと判定する振動判定部と、前記加速度から求められた前記乗りかごの移動速度を用いて、前記乗りかごが予め定められた規定値以上の速度で走行したか否かを判定する速度判定部と、前記かご位置判定部が前記乗りかごがドアゾーン以外の位置に止まったことを検出し、前記振動判定部が前記保守員が前記乗りかごの上に乗ったと判定し、前記速度判定部が前記乗りかごが前記予め定められた規定値以上の速度で走行したと判定したときに、前記保守端末にアラートを出力するアラート出力部とを備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、エレベーターが通信制御が可能であるか否かによらず、保守員がかご上で作業するときの安全性を向上させることができる、エレベーターの安全管理システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施例1による安全管理システムが設置されたエレベーターの構成を示す模式図である。
【
図2】本発明の実施例1による安全管理システムの構成を示す模式図である。
【
図3】本発明の実施例1による安全管理システムが実行する処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図4】本発明の実施例1による安全管理システムが実行する、高速走行監視処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図5A】保守員がかご上に乗るときの手順を示す図であり、保守端末を持った保守員が、乗りかごが位置する階と異なる階に待機している状態を示す図である。
【
図5B】保守員がかご上に乗るときの手順を示す図であり、エレベーターが低速走行している状態を示す図である。
【
図5C】保守員がかご上に乗るときの手順を示す図であり、エレベーターが低速走行を終了し、乗りかごが停止している状態を示す図である。
【
図5D】保守員がかご上に乗るときの手順を示す図であり、保守員がかご上に乗った状態を示す図である。
【
図6A】保守端末の出力部が出力するアラートの一例を示す図である。
【
図6B】保守員がボタンを操作したときに、保守端末の画面に表示されるメッセージの一例を示す図である。
【
図7】本発明の実施例2による安全管理システムの構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明によるエレベーターの安全管理システムは、エレベーターの乗りかごに設けられた加速度センサと、かご上(乗りかご4の上部)に設けられた通信装置を備え、エレベーター保守員(FE)のかご上乗降を検出する。通信装置とFEの持つ保守端末との通信状態とともに、乗りかごの振動も検知することで、FEのかご上乗降を確実に検出することができる。
【0012】
本発明によるエレベーターの安全管理システムは、FEがかご上で作業中にエレベーターが高速走行をした場合には、FEの持つ保守端末にアラートを出して注意喚起を行うことができ、また、遠隔監視センタなどのエレベーターの外部へ通知することができる。
【0013】
本発明によるエレベーターの安全管理システムは、エレベーターが、遠隔監視センタによる通信制御が可能か否かによらず、FEのかご上乗降を検出することが可能である。FEがかご上で作業中にエレベーターが高速走行をした場合には、FEの持つ保守端末にアラートを出力し、FEに危険作業を行っていることを通知するので、FEの危険作業を抑止し、FEがかご上で作業するときの安全性を向上させることができる。また、通信装置と保守端末との通信履歴を外部(例えば、遠隔監視センタや保守作業の管理者)へ送信し、FEの作業管理や危険作業の防止に役立てることで、FEがかご上で作業するときの安全性をさらに向上させることができる。
【0014】
以下、本発明の実施例によるエレベーターの安全管理システムを、図面を用いて説明する。なお、高速走行とは、乗客を運搬する通常運転時の速度で乗りかごが走行することであり、予め定められた規定値以上の速度で乗りかごが走行することである。低速走行とは、保守作業時に用いられる、高速走行よりも遅い速度で乗りかごが走行することであり、予め定められた規定値未満の速度で乗りかごが走行することである。
【実施例1】
【0015】
図1は、本発明の実施例1による安全管理システムが設置されたエレベーターの構成を示す模式図である。
【0016】
エレベーターは、乗りかご4と、釣合錘8と、制御装置6と、巻上機5を備える。乗りかご4と釣合錘8は、主ロープ7で連結されており、昇降路内を移動する。制御装置6は、エレベーターを制御する。巻上機5は、制御装置6からの制御信号に基づいて回転数が増減して主ロープ7を駆動させることで、乗りかご4と釣合錘8を昇降させたり停止させたりする。巻上機5と制御装置6は、機械室11に設置されている。
【0017】
本実施例による安全管理システムは、エレベーターに設置され、加速度センサ1と、計測処理装置2と、通信装置3と、保守端末9を備える。
【0018】
加速度センサ1は、乗りかご4に設置され、乗りかご4の移動方向の加速度Aを常時計測する。加速度センサ1は、乗りかご4の振動を検知できる。
【0019】
計測処理装置2は、乗りかご4または機械室11に設置され、加速度センサ1の計測値を受信可能である。
図1の例では、計測処理装置2は、乗りかご4に設置されている。
【0020】
通信装置3は、乗りかご4の上部(かご上)に設置される。
【0021】
保守端末9は、エレベーターの保守作業に使用される端末であり、かご上で保守作業を行うエレベーター保守員(FE)が持つ。保守端末9は、保守プログラムがインストールされており、通信装置3との近距離無線通信や、遠隔監視センタ10との無線通信が可能である。
【0022】
エレベーターは、遠隔監視センタ10からの通信制御が可能でもよく、遠隔監視センタ10からの通信制御が不可能でもよい。
【0023】
遠隔監視センタ10は、エレベーターの外部に設置されており、本実施例による安全管理システムと、具体的には通信装置3と保守端末9と通信可能である。また、遠隔監視センタ10は、エレベーターの通信制御が可能であれば、エレベーターと通信し、遠隔操作でエレベーターを制御することができる。
【0024】
図2は、本実施例による安全管理システムの構成を示す模式図である。上述したように、本実施例による安全管理システムは、加速度センサ1と、計測処理装置2と、通信装置3と、FEが持つ保守端末9を備える。
【0025】
計測処理装置2は、計測値格納部21と、計測値処理部22と、判定部23と、通信制御部24を備える。計測処理装置2は、加速度センサ1と通信装置3と通信可能である。
【0026】
計測値格納部21は、加速度センサ1が計測した乗りかご4の移動方向の加速度Aと、乗りかご4の移動時間を格納する。
【0027】
計測値処理部22は、計測値格納部21が格納した加速度Aと移動時間に数学的処理を施し、乗りかご4の移動速度Vと、乗りかご4の移動距離Lを算出する。
【0028】
判定部23は、計測値格納部21が格納した加速度Aと、計測値処理部22が算出した移動速度Vと、通信装置3と保守端末9との接続についての情報などを用い、エレベーターが低速走行をしているか否かの判定や、かご上乗降が行われたか否かなどの判定を行う。かご上乗降とは、FEがかご上に乗ることと、FEがかご上から降りることである。
【0029】
通信制御部24は、通信装置3と保守端末9との間の通信、及び通信装置3と遠隔監視センタ10との間の通信を制御する。例えば、通信制御部24は、判定部23が、通信装置3と保守端末9との間で接続状態(通信状態)に変化があったか否かの検出が必要であると判定したら、通信装置3に保守端末9との間で接続状態に変化があったか否かを検出するように指令を送る。また、通信制御部24は、遠隔監視センタ10に信号を送信するように、通信装置3に指令を出すこともできる。
【0030】
通信装置3は、近距離通信部31と、通信部32を備える。通信装置3は、計測処理装置2、保守端末9、及び遠隔監視センタ10と通信可能である。通信装置3は、計測処理装置2と保守端末9との間、及び計測処理装置2と遠隔監視センタ10との間の通信処理を行う。
【0031】
近距離通信部31は、通信装置3と保守端末9との通信を実行する。また、近距離通信部31は、例えば、通信制御部24から指令を受けたら、通信装置3と保守端末9との間で接続状態(通信状態)に変化があったか否かを検出し、検出結果を通信制御部24に送信する。
【0032】
通信部32は、通信装置3と遠隔監視センタ10との通信を実行する。例えば、通信部32は、通信制御部24から指令を受けたら遠隔監視センタ10に信号を送信したり、遠隔監視センタ10からの指令を受信して計測処理装置2に信号を送信したりする。
【0033】
なお、加速度センサ1、計測処理装置2、及び通信装置3の間で行われる通信は、有線通信でも無線通信でもよい。
【0034】
保守端末9は、アラートを出力する出力部19を備える。出力部19は、例えば、スピーカー、バイブレーター、及び画面のうち1つまたは複数を備えることができる。
【0035】
本実施例による安全管理システムは、以上のような構成を備え、加速度センサ1と通信装置3と保守端末9を用いてかご上乗降を検出し、FEがかご上で作業するときの安全性を向上させる。
【0036】
ここで、FEが現場作業時にかご上乗降を行うときの、一般的な手順を簡単に説明する。以下では、一例として、FEがかご上に乗るときの手順を説明する。
【0037】
図5A~
図5Dは、FEが現場作業時にかご上に乗るときの、一般的な手順を示す図である。
【0038】
図5Aは、保守端末9を持ったFEが、乗りかご4が位置する階と異なる階に待機している状態を示す図である。FEは、かご上乗降を行うために、乗りかご4が到着するのを待っている。なお、乗りかご4には、もう一人のFEが乗っている。
【0039】
図5Bは、エレベーターが低速走行している状態を示す図である。乗りかご4は、低速で動き、FEが待機している階に向かっている。
【0040】
図5Cは、エレベーターが低速走行を終了し、乗りかご4が停止している状態を示す図である。乗りかご4は、かご上にFEが乗り込めるような位置(ドアゾーン以外の位置)まで来たら、移動を停止する。
【0041】
図5Dは、FEがかご上に乗った状態を示す図である。FEは、乗りかご4が停止した後、乗場のドアを開け、かご上に乗る。
【0042】
図3は、本実施例による安全管理システムが実行する処理の流れの一例を示すフローチャートである。以下、
図3のフローチャートに従い、本実施例による安全管理システムが実行する処理を説明する。
【0043】
S1で、計測処理装置2の判定部23は、エレベーターが低速走行をしているか否かを、乗りかご4の移動速度Vを用いて判定する。判定部23は、乗りかご4の移動速度Vが0(ゼロ)ではなく、かつ予め定められた規定値未満である場合には、エレベーターが低速走行をしていると判断する。
【0044】
S2で、判定部23は、エレベーターが低速走行を終了して乗りかご4が停止した後、乗りかご4がドアゾーン以外の位置に停止しているか否かを、加速度センサ1から受け取った乗りかご4の加速度Aについての情報と、乗りかご4の位置を検出するセンサからの情報とを用いて判定する。ドアゾーンとは、通常の走行時に乗りかご4が停止する位置であり、乗りかご4のドアの位置と乗場のドアの位置が互いに一致する範囲である。
【0045】
S3で、判定部23は、加速度センサ1が乗りかご4の振動を検出したか否かを判定する。判定部23は、乗りかご4の停止中に、加速度センサ1が乗りかご4の振動を検出した場合には、かご上乗降が行われたと判断する。
【0046】
S4で、判定部23は、かご上乗降が行われたと判断したので、通信装置3と保守端末9との間で接続状態(通信状態)に変化があったか否かを検出する必要があると判断する。通信制御部24は、通信装置3に保守端末9との間で接続状態に変化があったか否かを検出するように指令を送る。通信装置3は、保守端末9との間の接続状態に変化があったか否かを検出し、検出結果を計測処理装置2に送信する。
【0047】
通信装置3と保守端末9との間の接続状態の変化には、通信装置3と保守端末9が切断している状態から接続している状態への変化と、通信装置3と保守端末9が接続している状態から切断している状態への変化がある。また、通信装置3と保守端末9との間の接続状態が変化せず、通信装置3と保守端末9が切断している状態のままであることや、通信装置3と保守端末9が接続している状態のままであることもある。
【0048】
S5で、判定部23は、FEがかご上に乗ったか否かを判定する。判定部23は、通信装置3と保守端末9との間の接続状態に、切断から接続への変化があれば、FEがかご上に乗ったと判断する。切断から接続への変化がある場合は、S6に進む。
【0049】
S6で、判定部23は、保守端末9のGPS情報または保守端末9が持つ位置情報と、遠隔監視センタ10に登録されているFEの作業予定とを照合し、FEが実施する(または実施している)作業が予定されているものか否かを判定する。FEの作業予定は、通信装置3の通信部32が遠隔監視センタ10から受信し、計測処理装置2に送信する。FEが実施する作業が予定されていないものであれば、S7に進む。FEが実施する作業が予定されているものであれば、S8に進む。
【0050】
S7で、通信制御部24は、遠隔監視センタ10に信号を送るように、通信部32に指示する。遠隔監視センタ10は、通信装置3からこの信号を受信したら、FEが予定外の作業を実施していることを保守作業の管理者に通知する。
【0051】
S8で、判定部23は、遠隔監視センタ10が、FEが作業を実施するエレベーター(本実施例による安全管理システムが設置されているエレベーター)の通信制御が可能か否かを判定する。遠隔監視センタ10がエレベーターの通信制御が可能か否かは、事前に計測処理装置2に入力しておく。遠隔監視センタ10がエレベーターの通信制御が不可能であれば、S9に進み、可能であれば、S10に進む。
【0052】
S9で、計測処理装置2は、高速走行監視処理を実施する。高速走行監視処理については、
図4を用いて説明する。
【0053】
図4は、本実施例による安全管理システムが実行する、高速走行監視処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【0054】
S41で、計測処理装置2の判定部23は、エレベーターが高速走行をしているか否かを、乗りかご4の移動速度Vを用いて判定する。判定部23は、乗りかご4が、予め定められた規定値以上の速度で走行している場合には、エレベーターが高速走行をしていると判断し、通信装置3を介して保守端末9に注意喚起のアラートを出力させる(S42)。
【0055】
S42は、エレベーターが高速走行をしていると判断した場合の処理である。かご上で作業中のFEが持つ保守端末9は、エレベーターが高速走行をしているという注意喚起のアラートを出力部19が出力する。通信装置3も、この注意喚起のアラートを出力してもよい。このアラートは、例えば、音、振動、及びメッセージのうち1つまたは複数として出力することができる。
【0056】
図6Aは、保守端末9の出力部19が出力するアラートの一例を示す図である。
図6Aに示す例では、出力部19は、スピーカー、バイブレーター、及び画面を備え、アラートは、保守端末9の画面に表示されたメッセージと、保守端末9が発する音と振動である。音と振動は、メッセージが表示されている間は止まらないようにしてもよい。メッセージは、危険な作業の内容41(本実施例では、FEがかご上で作業をしているときのエレベーターの高速走行)と、判定部23がエレベーターが高速走行をしていると判断したときの乗りかご4の移動速度42である。
【0057】
また、保守端末9は、FEがアラートを確認したときに操作するボタン43を画面に表示することもできる。保守端末9は、FEがボタン43を下にスライドしたりタップしたりして操作すると、
図6Bに示すようなメッセージを画面に表示することもできる。
【0058】
図6Bは、FEがボタン43を操作したときに、保守端末9の画面に表示されるメッセージの一例を示す図である。保守端末9の出力部19である画面には、例えば、危険な作業に関連する事故事例または注意文言44が表示される。保守端末9が保守作業の管理者が持つ端末と通信できれば、保守端末9は、管理者と通話するためのボタン45を画面に表示することもできる。ボタン45とともに、管理者の名前を表示してもよい。保守端末9は、FEがボタン45を操作すると、管理者が持つ端末と通信する。なお、アラートの音と振動は、保守端末9が管理者の端末と通信すると、止まるようにしてもよい。
【0059】
S43で、通信装置3の通信部32は、FEがかご上で作業中にエレベーターが高速走行をしているという危険作業が発生したことを知らせる通知を、遠隔監視センタ10に送信する。遠隔監視センタ10は、このような危険作業が発生したことを、保守作業の管理者に通知する。
【0060】
以上で
図4に示した高速走行監視処理の説明を終了し、
図3の説明に戻る。
【0061】
S10は、遠隔監視センタ10がエレベーターの通信制御が可能な場合の処理である。通信装置3の通信部32は、遠隔監視センタ10に、エレベーターの高速走行を禁止する指令を送信する。遠隔監視センタ10は、この指令を受信したら、エレベーターに高速走行を禁止する制御を行い、エレベーターが低速走行しかできないように制御する。また、遠隔監視センタ10は、通信装置3に信号を送信し、エレベーターに高速走行を禁止したことを計測処理装置2に通知する。
【0062】
S11で、計測処理装置2は、通信装置3を介して、かご上で作業中のFEが持つ保守端末9に、エレベーターが高速走行を禁止されていることを通知する。エレベーターが高速走行を禁止されていることは、遠隔監視センタ10が保守端末9に通知してもよい。保守端末9は、この通知を受信したことを、例えば、音、振動、及びメッセージのうち1つまたは複数として出力部19が出力する。
【0063】
S12は、S5で、通信装置3と保守端末9との間の接続状態に、切断から接続への変化がなかった場合の処理である。通信装置3は、保守端末9との間の接続状態に変化があったか否かを検出し続け、検出結果を計測処理装置2に送信する。通信装置3と保守端末9との間の接続状態に、接続から切断への変化があれば、S13に進む。通信装置3と保守端末9との間の接続状態に、接続から切断への変化がなければ、S18に進む。
【0064】
S13で、判定部23は、S12の処理から十分な時間が経過しても、通信装置3と保守端末9との間の接続が切断されていれば、FEがかご上から降りたと判断する。この十分な時間は、予め任意に定めることができる。
【0065】
S14で、判定部23は、遠隔監視センタ10が、本実施例による安全管理システムが設置されているエレベーターの通信制御が可能か否かを判定する。遠隔監視センタ10がエレベーターの通信制御が不可能であれば、S15に進み、可能であれば、S16に進む。
【0066】
S15で、計測処理装置2は、前述の高速走行監視処理(
図4)を終了する。
【0067】
S16は、遠隔監視センタ10がエレベーターの通信制御が可能な場合の処理である。通信装置3の通信部32は、遠隔監視センタ10に、エレベーターの高速走行を許可する指令を送信する。遠隔監視センタ10は、この指令を受信したら、エレベーターに高速走行を許可する制御を行い、エレベーターが高速走行をできるように制御する。また、遠隔監視センタ10は、通信装置3に信号を送信し、エレベーターに高速走行を許可したことを計測処理装置2に通知する。
【0068】
S17で、計測処理装置2は、通信装置3を介して、かご上で作業中のFEが持つ保守端末9に、エレベーターが高速走行をできることを通知する。エレベーターが高速走行をできることは、遠隔監視センタ10が保守端末9に通知してもよい。保守端末9は、この通知を受信したことを、例えば、音、振動、及びメッセージのうち1つまたは複数として出力部19が出力する。
【0069】
S18は、S12で、通信装置3と保守端末9との間の接続状態に、接続から切断への変化がない場合の処理である。この場合は、S5とS12で通信装置3と保守端末9との間の接続状態に何も変化が起きなかったので、判定部23は、かご上乗降が起きなかったと判断する。
【0070】
図3と
図4に示した処理の流れは、本実施例による安全管理システムが実行する処理の流れの一例である。この例では、判定部23がエレベーターの高速走行を検出した際に、かご上で作業中のFEが持つ保守端末9が、注意喚起のアラートを出力する(
図4のS42)。一般的に保守作業は、
図5A~
図5Dに示したように、かご上にいるFEとかご内にいるFEで作業を行う。そこで、判定部23は、
図4のS41において、乗りかご4が、予め定められた規定値以上の速度で走行している場合には、通信装置3を介して、かご内にいるFEが持つ保守端末9にも注意喚起のアラートを出力させて、かご上にいるFEが危険であることをかご内にいるFEに知らせる。すると、S42で、かご内にいるFEが持つ保守端末9は、かご上にいるFEが危険であるという注意喚起のアラートを出力する。かご内にいるFEは、かご上にいるFEよりも緊急停止等の危険回避のための操作がしやすいので、保守端末9に注意喚起のアラートが出力されたら、危険回避のための操作を直ちに実行することができる。
【0071】
本実施例による安全管理システムは、以上のような構成を備え、FEがかご上で作業をしていることを検知し、エレベーターが高速走行をしているときには、アラートを出力したり保守作業の管理者や遠隔監視センタ10に通知したりすることで、またはエレベーターに高速走行を禁止することで、FEがかご上で作業するときの安全性を向上させることができる。
【実施例2】
【0072】
本発明の実施例2によるエレベーターの安全管理システムについて説明する。以下では、本実施例による安全管理システムについて、実施例1による安全管理システムと異なる構成について主に説明する。
【0073】
図7は、本実施例による安全管理システムの構成を示す模式図である。本実施例による安全管理システムは、実施例1による安全管理システムと同様の構成を備えるが、計測処理装置2の判定部23が、かご位置判定部51と、振動判定部52と、速度判定部53と、アラート出力部54を備える点が、実施例1による安全管理システムと異なる。
【0074】
実施例1で説明したように、乗りかご4に設置された加速度センサ1は、乗りかご4が移動するときの加速度と、乗りかご4の振動を検知する。保守端末9は、FEに保持される。
【0075】
かご位置判定部51は、
図3のS2に示した処理、すなわち、乗りかご4がドアゾーン以外の位置に停止しているか否かを、加速度センサ1から受け取った乗りかご4の加速度Aについての情報と、乗りかご4の位置を検出するセンサからの情報とを用いて判定する処理を実行する。かご位置判定部51は、この処理を実行することにより、乗りかご4がドアゾーン以外の位置に止まったことを検出する。
【0076】
振動判定部52は、加速度センサ1から乗りかご4の振動についての情報を受け取ったときに、FEが乗りかご4の上に乗ったと判定する。より詳細には、振動判定部52は、FEが乗りかご4の上に乗ったときに生じる振動として予め定められた振動が発生したという情報を加速度センサ1から受け取ったときに、FEが乗りかご4の上に乗ったと判定する。
【0077】
速度判定部53は、計測処理装置2の計測値処理部22が求めた乗りかご4の移動速度Vを用いて、乗りかご4が予め定められた規定値以上の速度で走行したか否かを判定する。速度判定部53は、乗りかご4が予め定められた規定値以上の速度で走行している場合には、エレベーターが高速走行をしていると判断する。
【0078】
アラート出力部54は、FEが保持する保守端末9に、エレベーターが高速走行をしているという注意喚起のアラートを出力する。また、アラート出力部54は、遠隔監視センタ10に、危険作業の発生を知らせる通知を送信することもできる。
【0079】
本実施例による安全管理システムでは、かご位置判定部51が乗りかご4がドアゾーン以外の位置に止まったことを検出し、振動判定部52がFEが乗りかご4の上に乗ったと判定し、速度判定部53が乗りかご4が予め定められた速度を超えて移動したと判定したときに、アラート出力部54は、FEがかご上で作業中にエレベーターが高速走行をしているので、保守端末9にアラートを出力する。計測処理装置2は、アラートの出力により、かご上で作業をしているFEにエレベーターが高速走行をしているという危険が発生したことを知らせることができる。
【0080】
また、アラート出力部54は、遠隔監視センタ10に、FEがかご上で作業中にエレベーターが高速走行をしているという危険作業が発生したことを知らせる通知を送信することもできる。遠隔監視センタ10は、この通知を受信したら、危険作業が発生したことを保守作業の管理者に通知する。
【0081】
本実施例による安全管理システムは、FEがかご上で作業をしていることを検知し、エレベーターが高速走行をしているときには、アラートを出力したり保守作業の管理者や遠隔監視センタ10に通知したりすることで、FEがかご上で作業するときの安全性を向上させることができる。
【0082】
なお、本発明は、上記の実施例に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。例えば、上記の実施例は、本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、本発明は、必ずしも説明した全ての構成を備える態様に限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能である。また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、削除したり、他の構成を追加・置換したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0083】
1…加速度センサ、2…計測処理装置、3…通信装置、4…乗りかご、5…巻上機、6…制御装置、7…主ロープ、8…釣合錘、9…保守端末、10…遠隔監視センタ、11…機械室、19…出力部、21…計測値格納部、22…計測値処理部、23…判定部、24…通信制御部、31…近距離通信部、32…通信部、41…危険な作業の内容、42…乗りかごの移動速度、43…ボタン、44…事故事例または注意文言、45…ボタン、51…かご位置判定部、52…振動判定部、53…速度判定部、54…アラート出力部。