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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-18
(45)【発行日】2022-10-26
(54)【発明の名称】建設機械の油圧回路
(51)【国際特許分類】
   E02F 9/22 20060101AFI20221019BHJP
【FI】
E02F9/22 Q
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019220489
(22)【出願日】2019-12-05
(65)【公開番号】P2021088896
(43)【公開日】2021-06-10
【審査請求日】2021-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090022
【弁理士】
【氏名又は名称】長門 侃二
(72)【発明者】
【氏名】伊東 英明
【審査官】吉田 英一
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-106304(JP,A)
【文献】特開2015-4378(JP,A)
【文献】特開2002-212979(JP,A)
【文献】特開2002-349505(JP,A)
【文献】特開2005-221026(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02F 9/22
F15B 11/00
F15B 11/02
F15B 11/044
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多関節型の作業装置を構成する複数の構造体の何れかに連結され、前記構造体を昇降する油圧シリンダと、
操作部材の操作に対応して油圧ポンプからの作動油を前記油圧シリンダのヘッド室及びロッド室に給排して、前記油圧シリンダに前記構造体を昇降させるコントロール弁と、
前記コントロール弁により前記油圧シリンダのヘッド室から作動油が排出され前記ロッド室に作動油が供給される前記構造体の下げ操作の際に、前記ヘッド室からの作動油の排出速度を調整するメータアウト制御弁と、
前記構造体の下げ操作の際に、前記ヘッド室から排出される作動油の一部を前記ロッド室に供給して再生する再生弁と、
前記コントロール弁、メータアウト制御弁及び再生弁を駆動制御する制御部と
を備えた建設機械の油圧回路において、
前記メータアウト制御弁は、最小開口面積に相当する位置と全開に相当する位置との間で開度調整され、
前記構造体の下げ操作の際に、前記操作部材の操作量が小の第1の操作領域では、前記メータアウト制御弁が最小開口面積に相当する位置に保持され、前記操作部材の操作量に対応して増減する前記コントロール弁のメータアウト開口面積に基づき前記油圧シリンダのヘッド室からの作動油の排出が制御されると共に、前記操作部材の操作量に対応して増減する前記コントロール弁のメータイン開口面積に基づき前記ロッド室への作動油の供給が制御され、一方、前記操作部材の操作量が大の第2の操作領域では、前記コントロール弁のメータアウト開口面積及びメータイン開口面積がそれぞれ前記第1の操作領域における値からステップ的に増加され、前記操作部材の操作量に対応して増減する前記メータアウト制御弁の開口面積に基づき前記油圧シリンダのヘッド室からの作動油の排出が制御されると共に、前記操作部材の操作量に対応して増減する前記油圧ポンプの吐出流量に基づき前記ロッド室への作動油の供給が制御されるように構成されている
ことを特徴とする建設機械の油圧回路。
【請求項2】
前記作業装置は、前記構造体としてブーム、アーム及び作業具を連結してなる作業フロントであり、
前記油圧シリンダは、前記ブームを昇降するブームシリンダであり、
前記ブームの下げ操作により前記作業具を接地させて車体をジャッキアップした状態を判定するジャッキアップ判定部をさらに備え、
前記制御部は、前記ジャッキアップ判定部によりジャッキアップ状態が判定されたときに前記メータアウト制御弁を全開にするように構成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の建設機械の油圧回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建設機械の油圧回路に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の建設機械、例えば油圧ショベルは、クローラを備えた下部走行体上に旋回装置を介して上部旋回体が設けられ、上部旋回体には多関節型の作業フロントが備えられている。作業フロントを構成するブーム、アーム及びバケットはそれぞれ油圧シリンダにより駆動され、これらの油圧シリンダを作動させるための油圧回路には、エンジンにより駆動されるメイン油圧ポンプ及びパイロット油圧ポンプが備えられている。オペレータの操作に応じて電磁比例弁が切り換えられ、それに応じてパイロット油圧ポンプからの作動油の圧力がパイロット圧としてコントロール弁に入力され、コントロール弁によりメイン油圧ポンプからの作動油が切り換えられて油圧アクチュエータが作動する。
【0003】
コントロール弁のスプール特性を如何に設定するかは非常に重要な事項であり、例えばブームの微操作を容易にするためにコントロール弁のメータアウト開口面積の最小値を小さく設定すると、大流量時に絞り過ぎの状態になってエネルギ損失が増えてしまう。また、逆にメータアウト開口面積の最小値を大きく設定した場合には、ブーム下げ操作の際に問題が生じる。即ち、ブームの下げ操作時には、重力によりブームシリンダを縮小させてヘッド室内の作動油をコントロール弁のメータアウト開口部を経てタンク側に排出しており、このときにメータアウト開口部で生じる絞り作用によりブームを所期の下げ速度に制御している。しかしながら、コントロール弁のヘッド室内の作動油は掘削物やブームを含めた作業フロントの重量を受けて圧力上昇しているため、メータアウトの開口面積の最小値を大きく設定すると十分な絞り作用が得られなくなり、下げ速度を制御できずに所謂油圧シリンダの失速状態に陥ってしまう。
【0004】
この問題を鑑みて特許文献1では、油圧シリンダのヘッド室とコントロール弁との間にメータアウト制御弁を設け、ブーム下げ操作時には、コントロール弁をオン・オフ的に駆動してブームシリンダの作動方向のみを制御している。そして、メータイン制御は油圧ポンプの吐出流量制御で行うことにより、過剰な絞りに起因するエネルギ損失の増加を防止し、メータアウト制御はメータアウト制御弁で行うことにより、油圧シリンダの失速を防止している。
【0005】
一方、特許文献2には、ブームの下げ操作時に発生するキャビテーション対策が開示されている。超大型ショベルでは、ブームの下げ操作時にブームシリンダのヘッド側から排出される流量が過大であるため、コントロール弁のメータアウト絞りでキャビテーションが発生してエロージョン(壊食)を起こす場合がある。その対策として、ブームシリンダのヘッド側からの作動油をスローリターン弁の絞りを経てコントロール弁に戻すことにより、メータアウト絞りを直列多段化してキャビテーションを防止している。
また、ブームシリンダのヘッド側からの作動油を再生弁を経てロッド側に供給しており、これによりブームの自重落下エネルギの一部を再生してエネルギ効率を高めている。ロッド側への供給分だけコントロール弁のメータアウト開口部の通過流量が減少するため、キャビテーション防止にも貢献する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第4106892号明細書
【文献】特開2015-4378号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1では、再生弁を備えていないためエネルギ効率が悪い上に、ヘッド側から排出される全ての作動油がメータアウト制御弁及びコントロール弁のメータアウト開口部を通過するため、キャビテーションの発生リスクが高いという問題がある。また、メータアウト制御弁が作動していない閉弁時にはヘッド側の圧力の逃げ場がないことから、ブームシリンダに縮小方向の外力が作用したときに、過大な圧力によりシリンダや配管・ホース等の油圧機器が破損する虞がある。
【0008】
特許文献2では、キャビテーション防止のためにコントロール弁のメータアウト開口面積を縮小すると、メータインの開口面積も縮小してしまう。従って、油圧ポンプからコントロール弁のメータイン開口部を経てブームシリンダのロッド側に作動油を供給する際にメータイン損失が発生し、エネルギ効率の点で改良の余地があった。
【0009】
本発明はこのような問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、良好なエネルギ効率を達成した上で、重力を受けて油圧シリンダが縮小方向に作動する状況下での失速状態及びキャビテーションに起因するエロージョンを回避できると共に、油圧シリンダに縮小方向の外力が作用したときの油圧機器の破損を防止することができる建設機械の油圧回路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するため、本発明の建設機械の油圧回路は、多関節型の作業装置を構成する複数の構造体の何れかに連結され、前記構造体を昇降する油圧シリンダと、操作部材の操作に対応して油圧ポンプからの作動油を前記油圧シリンダのヘッド室及びロッド室に給排して、前記油圧シリンダに前記構造体を昇降させるコントロール弁と、前記コントロール弁により前記油圧シリンダのヘッド室から作動油が排出され前記ロッド室に作動油が供給される前記構造体の下げ操作の際に、前記ヘッド室からの作動油の排出速度を調整するメータアウト制御弁と、前記構造体の下げ操作の際に、前記ヘッド室から排出される作動油の一部を前記ロッド室に供給して再生する再生弁と、前記コントロール弁、メータアウト制御弁及び再生弁を駆動制御する制御部とを備えた建設機械の油圧回路において、前記メータアウト制御弁は、最小開口面積に相当する位置と全開に相当する位置との間で開度調整され、前記構造体の下げ操作の際に、前記操作部材の操作量が小の第1の操作領域では、前記メータアウト制御弁が最小開口面積に相当する位置に保持され、前記操作部材の操作量に対応して増減する前記コントロール弁のメータアウト開口面積に基づき前記油圧シリンダのヘッド室からの作動油の排出が制御されると共に、前記操作部材の操作量に対応して増減する前記コントロール弁のメータイン開口面積に基づき前記ロッド室への作動油の供給が制御され、一方、前記操作部材の操作量が大の第2の操作領域では、前記コントロール弁のメータアウト開口面積及びメータイン開口面積がそれぞれ前記第1の操作領域における値からステップ的に増加され、前記操作部材の操作量に対応して増減する前記メータアウト制御弁の開口面積に基づき前記油圧シリンダのヘッド室からの作動油の排出が制御されると共に、前記操作部材の操作量に対応して増減する前記油圧ポンプの吐出流量に基づき前記ロッド室への作動油の供給が制御されるように構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の建設機械の油圧回路によれば、良好なエネルギ効率を達成した上で、重力を受けて油圧シリンダが縮小方向に作動する状況下での失速状態及びキャビテーションに起因するエロージョンを回避できると共に、油圧シリンダに縮小方向の外力が作用したときの油圧機器の破損を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施形態の油圧ショベルを示す側面図である。
図2】油圧ショベルに搭載された第1,2ブームシリンダを駆動するための油圧回路を示す図である。
図3】第1,2ブームシリンダを縮小させるときの第1~3コントロール弁及び第1,2メータアウト制御弁のスプール特性を示す図である。
図4】第1,2ブームシリンダを縮小させるときの第1~3コントロール弁及び第1,2メータアウト制御弁のメインスプールの受圧特性を示す図である。
図5】第1,2ブームシリンダを縮小させるときの第1~3メイン油圧ポンプの吐出流量特性を示す図である。
図6】ジャッキアップ時の油圧ショベルを示す側面図である。
図7】コントローラにより実行されるジャッキアップ判定ルーチンを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を鉱山等で稼働する超大型油圧ショベルの油圧回路に具体化した一実施形態を説明する。
図1は本実施形態の油圧ショベルを示す側面図である。
油圧ショベル1の下部走行体2にはクローラ3が備えられ、クローラ3は図示しない走行用油圧モータにより駆動されて油圧ショベル1を走行させる。下部走行体2上には旋回装置4を介して上部旋回体5が設けられ、旋回装置4の図示しない旋回用油圧モータにより駆動されて上部旋回体5が旋回する。上部旋回体5の旋回フレーム6上の前部にはオペレータが搭乗する運転室7が設けられ、運転室7の後側には建屋8が設けられ、建屋8の後部にはカウンタウエイト9が固定されている。
【0014】
上部旋回体5の運転室7の右側には多関節型の作業フロント10(本発明の作業装置に相当)が前方に向けて取り付けられ、作業フロント10はブーム11(本発明の構造体に相当)、アーム12(本発明の構造体に相当)及びバケット13(本発明の構造体、作業具に相当)から構成されている。ブーム11には左右一対の第1,2ブームシリンダ14,15(本発明の油圧シリンダに相当)が連結され、アーム12にはアームシリンダ16が連結され、バケット13にはバケットシリンダ17が連結され、それぞれ対応する油圧シリンダ14~17により角度変更される。
【0015】
後述するように建屋8内には、エンジンにより駆動される油圧ポンプ等の油圧回路を構成する各種油圧機器が搭載され、運転室7内には、各種操作装置(代表として図2に電気レバー93を示す)が設けられている。操作装置がオペレータにより操作されると、油圧ポンプから吐出された作動油の流路や流量が切り換えられて走行用及び旋回用油圧モータや各油圧シリンダ14~17等に供給され、これらの油圧アクチュエータが作動する。
【0016】
図2は油圧ショベル1に搭載された第1,2ブームシリンダ14,15を駆動するための油圧回路18を示す図である。以下、同図に基づき油圧回路18の構成を説明するが、アームシリンダ16或いはバケットシリンダ17についても同様の油圧回路が適用される。
【0017】
油圧回路18には、第1,2ブームシリンダ14,15への作動油の給排を制御する第1~3コントロールユニット19~21が設けられている。コントロールユニット19~21には、図示しないエンジンにより駆動される可変容量型の第1~3メイン油圧ポンプ22~24が設けられ、各メイン油圧ポンプ22~24はレギュレータ25~27によりそれぞれの傾転角、ひいては作動油の吐出量が調整される。第1~3メインポンプ22~24の吐出側にはそれぞれポンプ管路28~30を介して第1~3コントロール弁31~33が接続され、各コントロール弁31~33はブリードオフ管路34~36及びリターン管路37~39を介してそれぞれ作動油タンク40に接続されている。
【0018】
第1,2ブームシリンダ14,15のヘッド室14a,15aはヘッド室接続管路42を介して互いに接続され、ロッド室14b,15bはロッド室接続管路43を介して互いに接続されている。第1~3コントロール弁31~33にはそれぞれヘッド側管路44~46の一端が接続され、第1,3コントロール弁31,33のヘッド側管路44,46の他端がヘッド室接続管路42に接続されると共に、これらのヘッド側管路44,46を互いに接続する第1連通管路47に第2コントロール弁32のヘッド側管路45の他端が接続されている。また、第2,3コントロール弁32,33にはそれぞれロッド側管路48,49の一端が接続され、各ロッド側管路48,49の他端はロッド室接続管路43にそれぞれ接続されている。
【0019】
各ヘッド側管路44~46はそれぞれリリーフ管路50~52を介して作動油タンク40に接続され、各リリーフ管路50~52にはリリーフ弁53~55及び逆止弁56~58が介装されている。各ロッド側管路48,49はそれぞれリリーフ管路59,60を介して作動油タンク40に接続され、各リリーフ管路59,60にはリリーフ弁61,62及び逆止弁63,64が介装されている。
【0020】
ヘッド室接続管路42と第1連通管路47との間の箇所において、第1,3コントロール弁31,33から延設されたヘッド側管路44,46は第2連通管路65を介して互いに接続されている。ヘッド室接続管路42と第2連通管路65とは逆止弁66を介して接続され、この逆止弁66は、第2連通管路65からヘッド室接続管路42への作動油の流通を許容し、逆の流通を阻止するようになっている。そして各ヘッド側管路44,46には、逆止弁66に対して並列関係になるように第1,2メータアウト制御弁67,68がそれぞれ介装されている。また、第2連通管路65とロッド室接続管路43とは再生管路69を介して接続され、再生管路69には再生弁70及び逆止弁71が介装されている。この逆止弁71は、第2連通管路65からロッド室接続管路43への作動油の流通を許容し、逆の流通を阻止するようになっている。
【0021】
第1,2メータアウト制御弁67,68の受圧室67a,68aには後述するメータアウト制御用電磁比例弁81からパイロット圧が入力され、それに応じて各メータアウト制御弁67,68の開度が調整される。本実施形態のメータアウト制御弁67,68は全閉には切り換えられず、最小開口面積に相当するX位置と、全開に相当するY位置との間で開度調整される。再生弁70の受圧室70aには後述する再生制御用電磁比例弁82からパイロット圧が入力され、それに応じて再生弁70が全閉に相当するX位置と全開に相当するY位置との間で切り換えられる。第1~3コントロール弁31~33の一対の受圧室31a,31b~33a,33bには後述する第1~3ブーム制御用電磁比例弁75~80からそれぞれパイロット圧が入力され、それに応じて各コントロール弁31~33がN位置、X位置、Y位置の間で切り換えられる。これらメータアウト制御弁67,68、再生弁70及びコントロール弁31~33の作動状態については後述する。
【0022】
複数の電磁比例弁により構成される電磁比例弁ユニット73には、図示しないエンジンにより駆動されるパイロット油圧ポンプ74が設けられている。電磁比例弁ユニット73は、第1~3ブーム制御用電磁比例弁75~80、メータアウト制御用電磁比例弁81、及び再生制御用電磁比例弁82からなる。各電磁比例弁75~82は、ポンプ管路113を介してパイロット油圧ポンプ74の吐出側にそれぞれ接続されると共に、リターン管路114を介して作動油タンク40とそれぞれ接続され、ポンプ管路113とリターン管路114との間にはリリーフ弁115が介装されている。
【0023】
第1~3ブーム制御用電磁比例弁75~80は、パイロット管路83~88を介して第1~3コントロール弁31~33の一対の受圧室31a,31b~33a,33bにそれぞれ接続されている。メータアウト制御用電磁比例弁81は、パイロット管路90を介して第1,2メータアウト制御弁67,68の受圧室67a,68aにそれぞれ接続され、再生制御用電磁比例弁82は、パイロット管路91を介して再生弁70の受圧室70aに接続されている。
【0024】
非励磁時の各電磁比例弁75~82は図示されているX位置に保持され、パイロット油圧ポンプ74からの作動油を遮断している。何れかの電磁比例弁75~82のソレノイド75a~82aに後述するコントローラ92から駆動信号が入力されると、その電磁比例弁75~82が図示とは逆のY位置に切り換えられて作動油を通過させる。これにより、切り換えられた電磁比例弁75~82に接続されているコントロール弁31~33、メータアウト制御弁67,68、或いは再生弁70の受圧室31a,31b~33a,33b, 67a,68a,70aにパイロット圧が入力される。
【0025】
油圧回路18を制御するコントローラ92(本発明の制御部に相当)は、図示しない入出力装置、記憶装置(ROM、RAM、不揮発性RAM等)、中央処理装置(CPU)、タイマカウンタ等により構成されている。
【0026】
コントローラ92の入力側には、ブーム11を昇降操作するための電気レバー93(本発明の操作部材に相当)、第1,2ブームシリンダ14,15のストロークを検出するストロークセンサ94,95、第1~3メイン油圧ポンプ22~24の傾転角を検出する角度センサ97~99、各メイン油圧ポンプ22~24の吐出圧力をそれぞれ検出するポンプ吐出圧力センサ100~102、ヘッド側管路46内の作動油の圧力(ヘッド室の圧力でもある)を検出するヘッド側圧力センサ103、ロッド側管路49内の作動油の圧力を検出するロッド側圧力センサ104、各電磁比例弁75~82からのパイロット圧を検出するパイロット圧力センサ105~112等の各種センサ・スイッチ類が接続され、コントローラ92に電気レバー93の操作状況やセンサ検出情報等が入力される。
【0027】
また、コントローラ92の出力側には、第1~3メイン油圧ポンプ22~24の傾転角を調整するレギュレータ25~27、第1~3ブーム制御用電磁比例弁75~80、メータアウト制御用電磁比例弁81及び再生制御用電磁比例弁82の各ソレノイド75a~82a等の各種デバイス類が接続され、コントローラ92からの駆動信号に基づき作動する。なお、図2では、各センサからコントローラ92への信号線を省略している。
【0028】
油圧ショベル1の稼働中には、コントローラ92の制御に基づき第1~3メイン油圧ポンプ22~24及びパイロット油圧ポンプ74が作動して作動油を吐出している。電気レバー93が非操作状態のときにはコントローラ92からは駆動信号が出力されず、各電磁比例弁75~82がX位置に保持される。結果として各受圧室31a,31b~33a,33b,67a,68a,70aにパイロット圧が入力されず、第1~3コントロール弁31~33はN位置に保持され、第1,2メータアウト制御弁67,68は最小開口面積に相当するX位置に保持され、再生弁70は全閉に相当するX位置に保持される。
【0029】
第1~3メイン油圧ポンプ22~24からの作動油は、第1~3コントロール弁31~33のブリードオフ開口部を経てブリードオフ管路34~36から作動油タンク40に戻され、第1,2ブームシリンダ14,15のヘッド室14a,15a及びロッド室14b,15bが遮断されてブーム11が現在の位置に保持される。
【0030】
電気レバー93がブーム上げ方向に操作されると、コントローラ92からの駆動信号が電磁比例弁75,77,79のソレノイド75a,77a,79aに入力されて、各電磁比例弁75,77,79がY位置に切り換えられる。第1~3コントロール弁31~33の受圧室31a,32a,33aにはパイロット圧が入力され、各コントロール弁31~33がX位置に切り換えられる。第1~3メイン油圧ポンプ22~24からの作動油は、対応するコントロール弁31~33のメータイン開口部からヘッド側管路44~46、第2連通管路65、逆止弁66、及びヘッド室接続管路42を経て第1,2ブームシリンダ14,15のヘッド室14a,15aに供給される。
【0031】
これと並行してロッド室14b,15bの作動油がロッド室接続管路43、ロッド側管路48,49、第2,3コントロール弁32,33のメータアウト開口部、及びリターン管路38,39を経て作動油タンク40に戻される。このため、第1,2ブームシリンダ14,15が伸張してブーム11を上昇させる。
【0032】
電気レバー93がブーム下げ方向に操作されると、コントローラ92からの駆動信号が電磁比例弁76,78,80,81,82のソレノイド76a,78a,80a,81a,82aに入力されて、各電磁比例弁76,78,80,81,82がY位置に切り換えられる。これにより、第1~3コントロール弁31~33の受圧室31b,32b,33b、第1,2メータアウト制御弁67,68の受圧室67a,68a、再生弁70の受圧室70aにそれぞれパイロット圧が入力される。
【0033】
各コントロール弁31~33はY位置に切り換えられ、第2,3メイン油圧ポンプ23,24からの作動油が第2,3コントロール弁32,33のメータイン開口部からロッド側管路48,49及びロッド室接続管路43を経て第1,2ブームシリンダ14,15のロッド室14b,15bに供給される。これと並行して第1,2メータアウト制御弁67,68の開度が増加方向(Y位置側)に調整され、第1,2ブームシリンダ14,15のヘッド室14a,15aの作動油が各メータアウト制御弁67,68からヘッド側管路44~46、第1~3コントロール弁31~33のメータアウト開口部及びリターン管路37~39を経て作動油タンク40に戻される。このため、第1,2ブームシリンダ14,15が縮小してブーム11を下降させる。
【0034】
また、再生弁70が全開に相当するY位置に切り換えられ、第1,2メータアウト制御弁67,68を通過した作動油の一部が逆止弁71、再生弁70及びロッド室接続管路43を経て第1,2ブームシリンダ14,15のロッド室14b,15bに供給される。これにより、ブームの自重落下エネルギの一部が再生される。
【0035】
図3は第1,2ブームシリンダ14,15を縮小させるときの第1~3コントロール弁31~33及び第1,2メータアウト制御弁67,68のスプール特性を示す図であり、横軸はスプール変位量を示し、縦軸は開口面積を示している。
図3に破線で示すように第1,2メータアウト制御弁67,68の開口面積は、スプール変位量が0からポイントaまでの領域で最小開口面積に保たれ、ポイントaを超えると一定の変化率で増加してポイントpで最大値に達する特性になっている。以下、ポイントaを境界としてスプール変化量が小の領域を微操作域(本発明の第1の操作領域に相当)と称し、大の領域をハーフ~フル操作域(本発明の第2の操作領域に相当)と称する。
【0036】
第1~3コントロール弁31~33は、ブリードオフ開口部、メータイン開口部及びメータアウト開口部を有する。図3に実線で示すようにブリードオフ開口面積は、スプール変位量が0から増加すると最大値から一定の変化率で低下し、微操作域内のポイントbで変化率を縮小させてより緩やかに低下し、ハーフ~フル操作域内のポイントcで0まで低下する。メータアウト開口面積は、微操作域内のスプール変位量が0からポイントdまでの領域で0に保たれ、ポイントdを超えると一定の変化率で増加してポイントmで最大値に達する。メータイン開口面積は、メータアウト開口面積と同じくポイントdまでは0に保たれ、ポイントdを超えると一定の変化率で増加し、ハーフ~フル操作域内のポイントeで変化率を拡大させ、メータアウト開口面積よりも急激に増加してポイントoで最大値に達する。
【0037】
図4は第1,2ブームシリンダ14,15を縮小させるときの第1~3コントロール弁31~33及び第1,2メータアウト制御弁67,68のメインスプールの受圧特性を示す図であり、横軸は電気レバーの操作角度(以下、レバー角度と称する)を示し、縦軸はメインスプールの変位量を示している。メインスプールの変位量は、ブーム制御用電磁比例弁75~80のソレノイド75a~80aに流される電流値でもある。
【0038】
図4に破線で示すように第1,2メータアウト制御弁67,68のスプール変位量は、レバー角度が0からポイントfまでは0に保たれ、このスプール変位量=0の領域が微操作域に相当する。ハーフ~フル操作域では、スプール変位量が一定の変化率で増加した後にポイントgでステップ的に最大値まで増加し、その後はレバー角度に関わらず最大値に保たれる。
【0039】
図4に実線で示すように第1~3コントロール弁31~33のスプール変位量は、レバー角度が0からポイントhまでは所定値に保たれ、微操作域内のポイントhを超えると一定の変化率で増加する。レバー角度がハーフ~フル操作域との境界のポイントiに達すると、スプール変位量はステップ的に最大値まで増加し、その後はレバー角度に関わらず最大値に保たれる。
【0040】
図5は第1,2ブームシリンダ14,15を縮小させるときの第1~3メイン油圧ポンプ22~24の吐出流量特性を示す図であり、横軸のレバー角度は図4と対応し、縦軸はポンプ吐出流量を示している。
図5に示すように第1~3メイン油圧ポンプの吐出流量は、微操作域内では所定値に保たれ、レバー角度がハーフ~フル操作域との境界のポイントjに達すると、一定の変化率で増加してポイントkで最大値に達し、その後はレバー角度に関わらず最大値に保たれる。
【0041】
以上のようなコントロール弁31~33、メータアウト制御弁67,68及びメイン油圧ポンプ22~24の特性に基づき、電気レバー93がブーム下げ方向に操作されたときには、以下のようにブームシリンダ14,15が駆動制御される。
【0042】
まず微操作域内での制御状況を説明する。レバー角度が0から増加すると、図4に示すように第1~3コントロール弁31~33のスプール変位量はポイントhに相当する値までステップ的に増加し、ポイントhを超えるとレバー角度の増加と共に増加してポイントiに達する。このため、図3において第1~3コントロール弁31~33のブリードオフ開口面積は、最大値からポイントhに相当するスプール変位量までステップ的に急減し、メータアウト開口面積及びメータイン開口面積は、ポイントdを超えた時点から一定の変化率で増加する。
【0043】
図3に示すように微操作域内では、レバー角度に関わらず第1,2メータアウト制御弁67,68が最小開口面積に保たれ、図5に示すように、第1~3メイン油圧ポンプ22~24の吐出流量が所定値に保たれている。このため、第1,2ブームシリンダ14,15のロッド室14b,15bへの作動油の供給及びヘッド室14a,15aからの作動油の排出は、メータアウト開口面積及びメータイン開口面積の増減に応じて行われる。それぞれの開口面積は小さくて十分な絞り作用を奏し、且つ開口面積の変化率(図3中の特性線の傾斜)が小であるため、ロッド室14b,15bやヘッド室14a,15aへの作動油の給排、ひいてはブーム11を下降させるときの電気レバー93による微操作を容易に行うことができる。
【0044】
また、メータアウト開口面積及びメータイン開口面積が十分な絞り作用を奏することは、ブーム11の下げ速度を確実に制御できることにもつながり、この微操作域におけるブームシリンダ14,15の失速状態を回避することができる。
【0045】
一方、第1,2メータアウト制御弁67,68が最小開口面積に保たれている状態は、第1,2ブームシリンダ14,15のヘッド室14a,15a内が第1,2メータアウト制御弁67,68の僅かな開口箇所を介して作動油タンク40側と連通していることを意味する。従って、下降中のブームシリンダ14,15に縮小方向の外力が作用した場合には、ヘッド室14a,15a内の作動油が各メータアウト制御弁67,68を経て作動油タンク40に逃がされることから、過大な圧力によりブームシリンダ14,15や配管・ホース等の油圧機器が破損する事態を未然に防止することができる。
【0046】
次いで、ハーフ~フル操作域内での制御状況を説明する。図4に示すようにハーフ~フル操作域に移行したポイントiの時点で、第1~3コントロール弁31~33のスプール変位量がステップ的に最大値まで増加する。このため図3においてメータアウト開口面積は、ポイントlから最大値のポイントmまでステップ的に増加し、メータイン開口面積はポイントnから最大値のポイントoまでステップ的に増加するため、結果としてハーフ~フル操作域内ではそれぞれ最大値に保たれる。従って、メータアウト開口面積及びメータイン開口面積は、微操作域とハーフ~フル操作域との間でオン・オフ的に駆動されることになる。
【0047】
一方、図5に示すように第1~3メイン油圧ポンプ31~33の吐出流量は、レバー角度の増加と共に増加してポイントkに達する。また図4に示すように、レバー角度の増加と共に第1,2メータアウト制御弁67,68のスプール変位量が増加し、図3に示すように、スプール変位量の増加と共に開口面積が増加して最大値のポイントpに達する。
【0048】
結果としてハーフ~フル操作域内において、第1,2ブームシリンダ14,15のヘッド室14a,15aからの作動油の排出は、レバー角度に応じて増減する第1,2メータアウト制御弁67,68の開口面積により制御される。より詳しく述べると、第1~3コントロール弁31~33のメータアウト開口面積を最大値に保ちながら、レバー角度に応じて第1,2メータアウト制御弁67,68の開口面積を増減することにより、ヘッド室14a,15aからの作動油の排出速度を調整している。
【0049】
このため第1,2ブームシリンダ14,15の作動速度、ひいてはブームの下げ速度を適切に制御でき、このハーフ~フル操作域内においてもブームシリンダ14,15の失速状態を回避することができる。また、結果として各コントロール弁31~33と各メータアウト制御弁67,68とでそれぞれ絞り作用が得られ、油圧回路18全体でのメータアウト絞りが直列多段化されるため、キャビテーションに起因するエロージョンを回避することができる。
【0050】
また、第1,2ブームシリンダ14,15のロッド室14b,15bへの作動油の供給は、各コントロール弁31~33のメータイン開口面積を最大値に保った状態で、レバー角度に応じて増減するメイン油圧ポンプ22~24の吐出流量により制御される。各コントロール弁31~33のメータイン開口面積を最大値に保つことにより、メータイン損失は最小限に抑制され、良好なエネルギ効率を実現することができる。
【0051】
一方、ブーム下げ操作中の再生弁70は、微小操作域からハーフ~フル操作域までの全ての領域で全開に相当するY位置に保持される。これにより、第1,2メータアウト制御弁67,68を通過した作動油の一部が第1,2ブームシリンダ14,15のロッド室14b,15bに供給される。従って、ブーム11の自重落下エネルギの一部を再生してエネルギ効率をより向上できると共に、ロッド側への供給分だけコントロール弁31~33のメータアウト絞りの通過流量が減少するため、キャビテーション防止にも貢献する。
【0052】
ところで、油圧ショベル1の下部走行体2やクローラ3等の点検には、図6に示すように、作業フロント10のバケット13を接地させて車体をジャッキアップさせた状態で実施される場合がある。このときにもブーム11は下げ操作され、バケット13の接地後にもブーム11の下げ操作が継続されて車体を目的の高さまでジャッキアップするが、バケット13が接地した後はブームシリンダ14,15のヘッド室とロッド室との油圧が逆転する。即ち、接地前には、掘削物やブーム11を含めた作業フロント10の重量を受けてヘッド室が圧力上昇し、第1,2メータアウト制御弁67,68によりヘッド室14a,15aからの作動油の排出速度を調整することで適切なブーム下げ速度を実現している。
【0053】
これに対して接地後には、接地前よりもヘッド室の圧力は低下するが、車体の重量に抗して第2,3メイン油圧ポンプ23,24からの作動油がロッド室に供給されることから、ロッド室の圧力が上昇する。この状態においてヘッド室からの作動油の排出速度をメータアウト制御弁67,68で調整することは、ロッド室への作動油の供給の妨げになり、ジャッキアップ完了までの所要時間が長引くと共に、第2,3メイン油圧ポンプ23,24の駆動ロスの要因にもなる。そこで、このような不具合の対策を別例として以下に説明する。
【0054】
図7はコントローラ92により実行されるジャッキアップ判定ルーチンを示すフローチャートであり、当該ルーチンを実行するときのコントローラ92が本発明のジャッキアップ判定部として機能する。
まずステップ1で、油圧ショベル1のジャッキアップを示すジャッキアップフラグがONされているか否かを判定し、ジャッキアップ中でないことを示すOFFのときにはNo(否定)の判定を下してステップ2に移行する。ステップ2ではブームの下げ操作が行われているか否かを判定し、Noのときには一旦ルーチンを終了する。ステップ2の判定がYes(肯定)になると、ステップ3に移行して予め設定されたジャッキアップ条件が成立しているか否かを判定する。
【0055】
この別例では、ヘッド側圧力センサ103により1MPa以下のヘッド室の圧力が0.5sec継続して検出されることがジャッキアップ条件として設定されている。なおジャッキアップ条件は、これに限るものではなく、例えばロッド室の圧力が所定値を超えた状態が所定時間継続した状態としてもよい。
【0056】
ステップ3の判定がNoのとき、即ちブーム下げ操作中であるが、未だバケット13が接地せずにジャッキアップしていない状態では、一旦ルーチンを終了する。ジャッキアップ条件の成立によりステップ3でYesの判定を下した場合には、ステップ4でジャッキアップフラグをONした後に、一旦ルーチンを終了する。なお、ジャッキアップまで至らない通常のブーム11の下げ操作では、ジャッキアップ条件が成立せず、ジャッキアップフラグがOFF状態に保たれる。
【0057】
一方、このようにしてジャッキアップフラグがONされた後には、ステップ1の判定がYesになるためステップ5に移行してブーム11の下げ操作が行われているか否かを判定し、ブームの下げ操作が継続中のときには、Yesの判定を下してルーチンを終了する。そして、ブーム11の下げ操作が終了してステップ5の判定がNoになると、ステップ6に移行してジャッキアップフラグをOFFする。
【0058】
以上の処理により、油圧ショベル1のジャッキアップ中にジャッキアップフラグがONされ、このときに限ってコントローラ92は、図4の特性とは関係なく第1,2メータアウト制御弁67,68を全開に制御する。従って、ブーム下げ操作によりバケット13が接地すると、各メータアウト制御弁67,68が全開にされてブームシリンダ14,15のヘッド室の圧力が低下し、第2,3メイン油圧ポンプ23,24からの作動油がロッド室に円滑に供給される。これにより迅速にジャッキアップを完了できると共に、メイン油圧ポンプ23,24の駆動ロスを低減することができる。
【0059】
以上で実施形態の説明を終えるが、本発明の態様はこの実施形態に限定されるものではない。例えば上記実施形態では、第1,2ブームシリンダ14,15を駆動するための油圧回路18として具体化したが、アームシリンダ16やバケットシリンダ17の油圧回路に適用してもよい。
【符号の説明】
【0060】
1 油圧ショベル(建設機械)
10 作業フロント(作業装置)
11 ブーム(構造体)
12 アーム(構造体)
13 バケット(構造体、作業具)
14,15 ブームシリンダ(油圧シリンダ)
22 第1メイン油圧ポンプ
23 第2メイン油圧ポンプ
24 第3メイン油圧ポンプ
31 第1コントロール弁
32 第2コントロール弁
33 第3コントロール弁
67 第1メータアウト制御弁
68 第2メータアウト制御弁
70 再生弁
92 コントローラ(制御部、ジャッキアップ判定部)
93 電気レバー(操作部材)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7