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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-18
(45)【発行日】2022-10-26
(54)【発明の名称】レーザ光線放出用の複屈折レンズ
(51)【国際特許分類】
   A61F 9/008 20060101AFI20221019BHJP
【FI】
A61F9/008 151
A61F9/008 120F
A61F9/008 120A
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019565435
(86)(22)【出願日】2018-06-08
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-08-06
(86)【国際出願番号】 IB2018054154
(87)【国際公開番号】W WO2018229616
(87)【国際公開日】2018-12-20
【審査請求日】2021-05-25
(31)【優先権主張番号】62/520,061
(32)【優先日】2017-06-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】319008904
【氏名又は名称】アルコン インコーポレイティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【弁理士】
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【弁理士】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(72)【発明者】
【氏名】ツォルト ボル
(72)【発明者】
【氏名】ミハイル オフチンニコフ
【審査官】小林 睦
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-500135(JP,A)
【文献】特表2014-522284(JP,A)
【文献】特表2013-520848(JP,A)
【文献】特開2007-000931(JP,A)
【文献】国際公開第2005/084874(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 9/008
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェムト秒レーザパルスの光線を生成するように構成されたレーザエンジンと、
走査パターンに従って3次元で前記光線の各レーザパルスを走査するように構成されたレーザスキャナと、
ガラスレンズ及び少なくとも1つの複屈折レンズを含む複合レンズであって、前記複合レンズが、前記走査された光線を受信するように配置され、且つ前記走査された光線の各レーザパルスを通常パルス及び異常パルスに分割するように構成され、それによって、通常パルスを含む通常光線、及び異常パルスを含む異常光線を生成するように構成され、
特定のレーザパルスから分割された特定の通常パルス及び特定の異常パルスが、5μm以上の距離だけ、前記複合レンズの光学軸に沿って深さにおいて空間的に分離され、且つ前記フェムト秒レーザパルスのパルス幅以上の時間遅延だけ時間的に分離される複合レンズと、
眼科標的内で前記通常光線及び前記異常光線を合焦させるように構成された対物レンズと、
を含む眼科レーザシステム。
【請求項2】
前記走査パターンが、螺旋走査パターンを含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記複屈折レンズが、複屈折結晶を含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記複屈折レンズに結合された回転レンズ取り付け台を更に含み、
前記複屈折レンズが、前記通常光線及び前記異常光線の相対エネルギ容量を調整するように回転可能である、請求項3に記載のシステム。
【請求項5】
前記複屈折レンズが、
第1の位置への前記複屈折レンズの回転が、前記通常光線と前記異常光線との間で前記相対エネルギ容量を等しく配分させ、且つ
第2の位置への前記複屈折レンズの回転が、前記相対エネルギ容量の少なくとも95%を前記通常光線に配分させ、前記相対エネルギ容量のわずか5%を前記異常光線に配分させるように構成される、請求項4に記載のシステム。
【請求項6】
前記スキャナ及び前記複屈折レンズの前に配置された半波長板に結合された回転取り付け台を更に含み、
前記半波長板が、前記走査される光線の偏光の向きを変化させ、それによって前記通常光線及び前記異常光線の対エネルギ容量を調整するように回転可能である、請求項3に記載のシステム。
【請求項7】
前記半波長板が、
第1の位置への前記半波長板の回転が、前記通常光線と前記異常光線との間で前記相対エネルギ容量を等しく配分させ、且つ
第2の位置への前記半波長板の回転が、前記相対エネルギ容量の少なくとも95%を前記通常光線に配分させ、前記相対エネルギ容量のわずか5%を前記異常光線に配分させるように構成される、請求項6に記載のシステム。
【請求項8】
前記光学軸に沿った前記通常及び異常パルスの深さにおける前記空間的分離が、5~100μmの範囲であり、且つ
前記通常及び異常パルスを時間的に分離する前記遅延が、100~10,000フェムト秒の範囲である、請求項3に記載のシステム。
【請求項9】
前記複屈折レンズの回転位置に基づいて走査パターンを生成するように、
且つ前記生成された走査パターンに従って前記光線を走査するために前記スキャナを制御するように構成されたレーザコントローラを更に含む、請求項4に記載のシステム。
【請求項10】
前記レーザエンジンが、前記通常光線及び前記異常光線の焦点スポットにおいて、眼科標的における光切断を引き起こすのに十分なパルスエネルギを備えたフェムト秒レーザパルスの前記光線を生成するように構成される、請求項3に記載のシステム。
【請求項11】
前記特定の通常パルスと前記特定の異常パルスとの間の前記空間的及び時間的分離が、前記眼科標的における第2の深さにおいて光切断を引き起こす前に、前記眼科標的における第1の深さにおいて光切断を引き起こすのに十分であるように、前記複合レンズが構成され、前記第1の深さが、前記眼科標的の外面に対して前記第2の深さより大きい、請求項10に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この本開示は、一般にフェムト秒レーザシステムに関し、特に眼科手術処置用のフェムト秒レーザシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
フェムト秒眼科レーザを用いた手術は、パルスレーザ光線を生成することと、眼科組織の標的部位において、走査パターンに沿った一連の焦点スポットに、合焦光学系を通して走査放出システムによってレーザパルスを放出することと、を伴う。各レーザパルスは、光線強度又はエネルギ密度が、プラズマ又は光切断閾値を超えた場合に、レーザ光線の焦点スポットにおける標的組織にプラズマ又はキャビテーション気泡を生成することができる。手術中に、レーザ光線の焦点スポットは、3次元走査パターンに沿って走査され、肉眼的な手術の切開部又は光切断される領域を形成するために、これらの一連の気泡を生成する。
【0003】
レーザ支援白内障手術(LACS)は、典型的には数百万のレーザパルスの印加を必要とする。Alcon(登録商標)によって製造されるLenSx(登録商標)フェムト秒レーザシステムは、約1分で嚢切開及び水晶体断片化を含む典型的なLACS処置を完了することができる。かかる処置中に、目が、患者インターフェースによって動けなくされている間、患者は、レーザシステムの下でうつ伏せに横たわる。LACSの正確さ、精密さ、及び患者経験は、処置時間を短縮することによって改善することができる。従って、レーザ支援眼科手術の処置回数を低減する単純で、安く、信頼できる技術の必要性が存在する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
一般に、本開示は、フェムト秒レーザシステム用の多焦点レーザ光線放出システムに関する。或る実施形態は、フェムト秒レーザパルスの光線を生成するように構成されたレーザエンジンと、走査パターンに従って3次元で光線の各レーザパルスを走査するように構成されたレーザスキャナと、ガラスレンズ及び少なくとも1つの複屈折レンズを含む複合レンズ(例えばダブレットレンズ、トリプレットレンズ等)と、を含むレーザシステムを提供する。複合レンズは、走査された光線を受信するように配置され、且つ走査された光線の各レーザパルスを通常パルス及び異常パルスに分割するように構成され、それによって、通常パルスを含む通常光線、及び異常パルスを含む異常光線を生成する。特定のレーザパルスから分割された特定の通常パルス及び特定の異常パルスは、5μm以上の距離だけ、複合レンズの光学軸に沿って深さにおいて空間的に分離され、且つフェムト秒レーザパルスのパルス幅以上の時間遅延だけ時間的に分離される。システムは、眼科標的内で通常光線及び異常光線を合焦させるように構成された対物レンズを含む。
【0005】
開示されるシステムの変形において、走査パターンは、螺旋又はラスタ走査パターンであってもよく、複屈折レンズは、複屈折結晶を含んでもよい。実施形態は、複屈折レンズが、通常光線及び異常光線の相対エネルギ容量を調整するために回転可能であるように、複屈折レンズに結合された回転レンズ取り付け台を含んでもよい。第1の位置への複屈折レンズの回転が、通常光線及び異常光線間で相対エネルギ容量を等しく配分させ、且つ第2の位置への複屈折レンズの回転が、相対エネルギの少なくとも95%、98%又は99%を通常光線に配分させ、相対エネルギのわずか5%、2%又は1%を異常光線に配分させるように、複屈折レンズは構成されてもよい。
【0006】
実施形態は、半波長板が、走査される光線の偏光を回転させ、それによって通常光線及び異常光線の相対エネルギ容量を調整するために回転可能であるように、スキャナと複屈折レンズとの間に配置された半波長板に結合された回転取り付け台を含んでもよい。第1の位置への半波長板の回転が、通常光線及び異常光線間で相対エネルギ容量を等しく配分させ、且つ第2の位置への半波長板の回転が、相対エネルギの少なくとも95%、98%又は99%を通常光線に配分させ、相対エネルギのわずか%、2%又は1%を異常光線に配分させるように、半波長板は構成されてもよい。
【0007】
開示されるシステムの幾つかの変形において、光学軸に沿った通常及び異常パルスの深さにおける空間的分離は、5~100μmの範囲であり、通常及び異常パルスを時間的に分離する遅延は、100~1000フェムト秒の範囲である。
【0008】
或る実施形態において、システムは、複屈折レンズ又は半波長板の回転位置に基づいて走査パターンを生成するように、且つ生成された走査パターンに従って光線を走査するためにスキャナを制御するように構成されたレーザコントローラを含む。走査パターンは、3次元螺旋走査パターン又はラスタ走査パターンであってもよい。
【0009】
或る実施形態において、レーザエンジンは、通常光線及び異常光線の焦点スポットにおいて、眼科標的における光切断を引き起こすのに十分なパルスエネルギを備えたフェムト秒レーザパルスの光線を生成するように構成される。特定の通常パルスと特定の異常パルスとの間の空間的及び時間的分離が、眼科標的における第2の深さにおいて光切断を引き起こす前に、眼科標的における第1の深さにおいて光切断を引き起こすのに十分であるように、複合レンズは構成されてもよく、第1の深さは、眼科標的の外面に対して第2の深さより大きい。
【0010】
開示されるシステムの変形において、複屈折レンズは、方解石(CaCO)、オルトバナジン酸イットリウム(YVO)、ニオブ酸リチウム(LiNbO)、バリウムホウ酸塩(BaB)、又は他の複屈折結晶材料から作られもよい。
【0011】
本開示の実施形態は、1つ又は複数の利点及び利益を提供する。例えば、本明細書で説明されるz倍化技術は、実際の走査レートを増加させずに、パルスレーザの周波数を効果的に2倍だけ増加させるために用いることができる。従って、実施形態は、レーザエンジン又は光線スキャナを修正せずに、走査速度を増加させるための単純で信頼できる光学アプローチを提供する(従来の手段によって繰り返し率を2倍にすることに付随する潜在的な検流計速度問題、ポッケルスセル問題等を除去する)。それは、最小の修正で既存のマシンにおいて適用しテストすることができる。
【0012】
加えて、実施形態は、2倍を超えるだけ水晶体断片化効率を改善するために十分に近くに(例えば≒25μm)2つのレーザスポットを合焦させるように構成される。更に一層、複屈折レンズのz倍化効果は、レンズに入射する光線の偏光面を回転させること、又は複屈折レンズ自体を回転させることによって、「オン」又は「オフ」にすることができる。従って、通常及び異常焦点の相対エネルギ容量は、複屈折レンズ又は半波長板を回転レンズ取り付け台に取り付けることによって、容易に制御することができる。これは、相異なる処置(例えば白内障処置及び屈折矯正手術)用のマシンの単純な再構成を可能にし、且つz倍化が用いられる場合に、ユーザが、眼科処置中の排出ガスの伝搬方向を制御できるようにする。
【0013】
更に、浅い焦点スポットが、より深い焦点スポットに対して時間において遅延されるので、プラズマ発生によって引き起こされるシャドウイング効果は、本明細書で説明されるz倍化技術を用いる処置を妨げない。
【0014】
これらや他の利益は、図面及び本明細書を考慮すれば当業者には明らかになろう。
【0015】
本開示及びその利点のより完全な理解のために、ここで、添付の図面に関連して書かれた以下の説明が参照される。図面において、同様の参照数字は、同様の要素を示す。
【0016】
当業者は、以下で説明される図面が、実例の目的のためだけであることを理解されよう。図面は、請求項又は本開示の範囲を限定するようには意図されていない。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】或る実施形態による、レーザシステムのブロック図である。
図2】或る実施形態による、レーザシステムにおける放出光学系のコンポーネントの概略図である。
図3A】焦点スポットによって引き起こされるシャドウイングの影響を示す図である。
図3B】焦点スポットによって引き起こされるシャドウイングの影響を示す図である。
図4】或る実施形態に従って方法を表現する。
図5】或る実施形態による、レーザシステムにおける放出光学系のコンポーネントの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下の説明は、当業者が、本明細書で開示される本発明を作成し使用できるようにするために提示され、且つ特定の用途及びその要件の文脈において一般に提供される。開示される実施形態に対する様々な修正が、当業者には明らかになろう。本明細書で明らかにされる一般原理が、本開示の趣旨及び範囲から逸脱せずに、他の実施形態及び用途に適用され得ることが理解される。一実施形態に関連して説明されるシステム、装置、コンポーネント、及び方法が、他の実施形態に関連して説明される特徴、コンポーネント、及び/又はステップと組み合わされてもよいことが更に理解される。しかしながら、簡潔にするために、これらの組み合わせの非常に多くの繰り返しは、別々には説明されない。従って、本開示の範囲は、説明される実施形態には制限されず、特許請求の範囲と一致する最も広い範囲を与えられるべきである。
【0019】
一般に、本開示は、フェムト秒レーザシステム用の改善された多焦点レーザ光線放出システムに関する。或る実施形態において、少なくとも1つの複屈折レンズを含む複合レンズ(例えばダブレット又はトリプレットレンズ)が、フェムト秒レーザの放出光学系に含まれる。各光線のレーザスポットが、標的(治療される眼科組織など)に破壊空洞を形成するように、複合レンズは、レーザエンジンによって生成されたレーザエネルギを(レーザシステムの光学軸に沿って深さ方向において分離される)互いの「下に」合焦され得る通常及び異常光線に分割することができる。これは、「z倍化」と呼ばれてもよい。このように、有効なレーザ繰り返し率は、レーザエンジンの繰り返し率を増加させずに2倍にされ、それによって、レーザ源の繰り返し率を2倍にすることに伴う技術的難題を回避することができる。加えて、複合レンズは、通常及び異常光線が時間的に分離されるように、遅延を与え、標的における第2のより浅い深さで破壊空洞を形成する前に、第1の深さで破壊空洞を形成してもよい。このように、第2の深さにおける光学破壊に起因するどんな歪み及びシャドウイングも、第1の深さにおける光学破壊に干渉しない。かかる遅延なしでは、第2の(より浅い)深さで発生されたプラズマは、第1の(より深い)深さにおける焦点に干渉するシャドウを投じ、第1の深さにおける破壊空洞の形成を妨害する可能性がある。従って、実施形態は、フェムト秒レーザシステムの有効な繰り返し率を増加させるための単純で信頼できる解決法を提供する。
【0020】
図1は、例示的な眼科手術レーザシステム100のブロック図である。システムは、パルスレーザ源110、スキャナ120、放出光学系130、患者インターフェース140、撮像装置150、及びレーザコントローラ160を含む。当業者は、システム100が、簡潔にするために示されていない追加のコンポーネントを含んでもよいことを認識されよう。
【0021】
パルスレーザ源110(レーザエンジン110とも呼ばれる)は、フェムト秒レーザパルスの光線101を生成できるレーザエンジンを含んでもよい。或る変形において、レーザエンジン110は、フェムト秒種パルスを生成するための発振器を含むチャープパルス増幅(CPA)レーザと、種パルスをピコ秒範囲へと10~1000倍だけ引き伸ばすストレッチャと、パルスを増幅する増幅器と、増幅されたパルスの長さを逆にフェムト秒範囲に圧縮するコンプレッサと、を含む。或る例において、レーザエンジン110は、発振器、ストレッチャ-コンプレッサ、及び光増幅器を含むキャビティダンプ再生増幅器レーザであってもよい。レーザエンジン110は、或る変形において、バルクレーザ、ファイバレーザ、又はハイブリッドレーザ設計を含んでもよい。或る変形において、レーザエンジン110によって生成されるレーザパルスは、100~10,000フェムト秒、600~5000フェムト秒、又は600~1000フェムト秒の範囲におけるパルス幅と、0.1~100μJの範囲におけるパルス毎のエネルギと、1kHz~1MHz範囲における繰り返し周波数と、を有してもよい。様々な例において、生成されたレーザパルスは、10fs~10psの一連のパルス幅など、これらの範囲制限の組み合わせ内に入るレーザパルスパラメータを有してもよい。特定の処置用の特有のレーザパラメータは、患者特有及び/又は処置特有のデータに基づいて、かかる範囲内で選択されてもよい。白内障処置などの処置用にパルスを分割する(例えばz倍化)場合に、各生成されるレーザパルスは、標的組織の光切断閾値の少なくとも2倍(2×)である合計エネルギを有し、その結果、複合レンズ200によって生成される各通常及び異常パルスは、通常及び異常焦点スポットにおいて光切断を独立して誘発するための十分なエネルギを有する。
【0022】
スキャナ120は、標的組織において3次元手術走査パターンで一連のポイントに焦点スポットを向けるように光線101を走査するx-yスキャナ及びzスキャナ(ステアリングミラー、検流計、レンズ、サーボモータ等を含んでもよい)の任意の適切な組み合わせを含む。各レーザパルスは、強度又はエネルギ密度が、プラズマ又は光切断閾値を超える場合に、光線101の焦点102において、眼科標的103にプラズマ又はキャビテーション気泡を生成することができる。従って、スキャナ120は、標的のどこで光切断が行われるかを制御し、且つ手術プランを実行するために、標的103内において3次元で焦点スポット102を走査する。x-yスキャナは、レーザシステム100の光学軸に垂直なx-y平面において、光線101の焦点スポット102を走査し、一方でzスキャナは、レーザシステム100の光学軸に沿って、標的103における特定の深さへとz方向において光線101の焦点スポット102を走査する。様々な実施形態が、パルスレーザ100とx-yスキャナとの間、x-yスキャナと放出光学系130との間、又は両方の間に配置された1つ又は複数のzスキャナを含んでもよい。幾つかの実施形態において、zスキャナは、追加又は代替として、放出光学系130内に位置してもよい。スキャナ120は、螺旋パターン、ラスタパターン、楕円パターン、円形パターン、スパイダーパターン等を含む任意の適切な手術パターンで光線101を走査するように構成されてもよい。走査パターンは、患者及び処置特有のデータに基づいて、自動的に且つ/又は手動で、レーザコントローラ160のプロセッサによって生成され、且つ制御信号106を介してスキャナ120を転送されてもよい。
【0023】
放出光学系130は、患者インターフェース140を通して標的103における焦点スポット102に、走査された光線101を導き、視準し、調整し、且つ/又は合焦させるために、合焦対物レンズ、光線エキスパンダ、複屈折レンズ(以下で更に説明される)、及び他のレンズを含んでもよい。放出光学系130のコンポーネントは、対物レンズ及び他の光学コンポーネントの重量が、患者インターフェース140及び標的103上に印加される力を制限するために平衡を保たれるように、ベース上に摺動可能に又は移動可能に取り付けられてもよい。患者インターフェース140は、例えば、放出光学系130上の取り付け台に装着されたワンピース又はツーピースの透明圧平レンズを含んでもよい。取り付け台は、患者インターフェースと放出光学系130との間に安定した接続を提供することができる。患者インターフェース140は、レーザ処置中に目などの標的に付着し、それを動けなくしてもよい。
【0024】
システム100は、1つ又は複数の撮像装置150を追加として含んでもよい。或る実施形態において、システム100は、手術用顕微鏡、ビデオ顕微鏡、デジタル顕微鏡、検眼鏡、及び/又は処置中に標的103の表面の撮像光104を受信し、且つ生画像を生成するカメラを含む。システム100はまた、レーザ手術を誘導する際に支援するために高度撮像装置を含んでもよい。一例において、撮像装置150は、水晶体の位置、本来の位置及び曲率と、前嚢及び後嚢と、角膜となど、標的103の内部構造の深さ分解画像を生成するために、光干渉トモグラフィ(OCT)撮像システムを含む。撮像装置150は、静的な又は生のAスキャン、Bスキャン、又は3D OCT画像を生成するための任意の適切なSS-OCT、SD-OCT、又はTD-OCTシステムを含んでもよい。撮像装置150は、標的103(図示せず)に撮像光線を走査するために、x-y及びzスキャナを含んでもよい。
【0025】
撮像装置150によって生成された画像データ105は、レーザコントローラ160に提供されてもよい。レーザコントローラ160は、パルスレーザ源110、スキャナ120、放出光学系130、及び/又は撮像装置150を制御するために、プロセッサ(「P」)によって実行可能な命令を格納するメモリ(「M」)を含む。典型的には、レーザコントローラ160のプロセッサは、1つ又は複数のCPU(Intel、AMD、及びその他によって製造されたものなど)、マイクロプロセッサ、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)、特定用途向け集積回路(ASIC)、デジタル信号プロセッサ(DSP)、又はメモリに通信可能に結合されたシステムオンチップ(SoC)プロセッサを含む。メモリは、非一時的なコンピュータ可読媒体を含んでもよく、且つ磁気媒体、光媒体、ランダムアクセスメモリ(RAM)、読み取り専用メモリ(ROM)、着脱可能媒体、又は類似のコンポーネントを含む揮発性又は不揮発性媒体を含んでもよい。メモリは、パルスレーザ源110、スキャナ120、放出光学系130、及び撮像装置150の動作を制御する制御信号106を生成するために、プロセッサによって実行可能なソフトウェア命令を格納してもよい。
【0026】
例えば、レーザコントローラ160は、繰り返し率、パルス長、及びパルスエネルギなど、パルスレーザ源110によって生成される光線101のパラメータを制御する信号106を生成してもよい。レーザコントローラ160はまた、手術走査パターンに従って焦点スポット102を導くために、スキャナ120の個別コンポーネントを作動させる信号106を生成してもよい。かかる走査パターンは、螺旋、ラスタ、円形、楕円、円筒、又はスパイダーパターンを含む任意の適切な2D又は3Dの形状又はパターンであってもよい。例えば、走査パターンは、円筒内の様々なz深さの螺旋シーケンスにおけるx-y平面において、レーザ光線が、特定のスポットに合焦される3次元螺旋走査パターンであってもよい。或る例において、レーザコントローラ160は、標的103の前嚢において嚢切開の切り口を生成し、且つ抽出に先立って標的103の水晶体を断片化するために、走査パターンを生成する。レーザコントローラ160は、手術処置中に取得された画像データ105(例えばOCT画像)に基づいて、制御信号を生成してもよい。このように、システム100は、リアルタイムフィードバックに基づいて、画像誘導眼科手術を実行することができる。
【0027】
以下の特許請求の範囲で用いられる程度まで、「プロセッサ」及び「メモリ」という用語が、当業者に周知のように、フェムト秒レーザシステム用の特に構成された構造を指し、それらの用語が、ミーンズプラスファンクション要素として解剖又は解釈されるべきでないことが注目される。
【0028】
図2は、或る実施形態に従って、放出光学系130の態様を示す。放出光学系130は、レンズ210及び少なくとも1つの複屈折レンズ220を含む複合レンズ200と、光線エキスパンダ230と、対物レンズ240と、を含んでもよい。図示の例において、複合レンズ200は、ダブレットレンズを含む。他の実施形態において、複合レンズ200は、トリプレットレンズを含むか、又は付加レンズを含んでもよい。レーザ源110によって生成される、且つスキャナ120によって走査されるパルス光線101は、光学軸250に沿って複合レンズ200に伝搬し、複合レンズ200は、相異なる波面曲率及び時間遅延を有する通常光線101o及び異常光線101eに光線を分割する。
【0029】
様々な実施形態において、放出光学系130における光学素子の配置が、変化してもよいことが注目される。例えば、複合レンズ200は、或る変形において光線エキスパンダ230と対物レンズ240との間、又は光線エキスパンダ230の複数のレンズ間に配置することが可能である。
【0030】
通常及び異常光線101o及び101eは、光線エキスパンダ230に到達し、光線エキスパンダ230は、光線101o及び101eの直径を増加させる1つ又は複数のレンズを含む。光線エキスパンダ230は、レンズの可動又は固定ブロックであってもよく、且つ幾つかの実施形態において、zスキャナを含んでもよい。或る実施形態において、光線エキスパンダ230内の相異なる位置における位置決めレンズ200は、図5に関連して以下で説明されるように、通常及び異常焦点スポット250o及び250eの相対的な分離を、それらの間の時間遅延に影響せずに決定することができる。
【0031】
拡大された光線101o及び101eは、対物レンズ240に到達する。対物レンズ240は、合計焦点距離Fを有する1つ又は複数のレンズを備えた合焦対物レンズを含んでもよい。対物レンズ240は、光学軸250に沿って深さにおいて距離Δだけ空間的に分離される、且つ遅延時間だけ時間的に分離される焦点スポット250o及び250eに光線101o及び101eを合焦させる。対物レンズ240は、拡大されたレーザ光線を高開口数(高NA)合焦光線に合焦させ、且つそれを患者インターフェース(PI)140を通して標的部位に放出することができる。高NA光線の生成は、通常及び異常光線が、意図したz深さ又は経度(x-y)座標においてのみ光切断を引き起こすことを保証し、それによって、標的部位に対して後又は前の付随的損傷を回避することができる。幾つかの実施形態において、NAは、0.10~0.45の範囲とすることができる。幾つかの他の実施形態において、NAは、0.25~0.35の範囲とすることができる。
【0032】
上記で言及したように、複合レンズ200は、補足レンズ210及び少なくとも1つの複屈折レンズ220を含む。或る例において、レンズ210は、Schott BK7などのガラスを含む。他の例において、レンズ210は、適切な光学的及び機械的特性を備えた別の材料を含んでもよい。複屈折レンズ220は、通常屈折率n及び異常屈折率nを有する複屈折結晶を含んでもよい。複屈折レンズ220の変形は、方解石(CaCO)、オルトバナジン酸イットリウム(YVO)、ニオブ酸リチウム(LiNbO)、及びバリウムホウ酸塩(BaB)、又は他の複屈折材料から作製されてもよい。
【0033】
上記で言及したように、或る実施形態において、複合レンズ200は、放出光学系内に異なって配置されてもよい。一例において、光線エキスパンダ230は、図5に示されているように、少なくとも2つのレンズ230a及び230bを含んでもよく、複合レンズ200は、レンズ230aと230bとの間に調整可能に配置されてもよい。このように、通常及び異常焦点スポット250o及び250e間のz分離(距離)は、連続的に変えることができる。相異なる配置において、z分離(図2に示されているΔ)の大きさ及び符号(正又は負)は、このように制御することができる。例えば、複合レンズ200が、光線エキスパンダ230の焦点ポイント500に(例えばアクチュエータによって)移動される場合に、通常及び異常焦点スポット250oと250eとの間のz分離(図2に示されているΔ)は、ゼロになる。複合レンズ200が、(図示のように、図5に示されている焦点スポット500の左へ)ポイント500からレーザ光線源の方へ(例えばアクチュエータによって)移動される場合に、通常スポット250oは、異常スポット250eの光学的な上流に(図5において左に)位置する。焦点スポット500の反対側へのレンズ200の移動は、この配置を逆にする。従って、複合レンズ200が、レーザ光線源から離れて(図5において焦点スポット500の右に)ポイント500から(例えばアクチュエータによって)移動される場合に、異常スポット250eは、通常スポット250oの光学的な上流に(図5において左に)位置する。スポット250oと250eとの間の時間遅延は、光線エキスパンダ230内のレンズ200の位置によって影響されない。
【0034】
図2に示されている例において、レンズ210は、負パワーを有し、複屈折レンズ220は、正パワーを有する。本開示は、図示の配置に制限されないが(複合レンズ210又は220は、特定の設計目標に従って、正か負であっても、又はどちらでなくてもよい)、レンズ210及び複屈折レンズ220の設計は、特定の特性を備えた通常光線101o及び異常光線101eに光線101を分割するように最適化されてもよい。例えば、レンズ210及び複屈折レンズ220の焦点距離及び屈折率は、特定の波面曲率及び時間遅延を通常及び/又は異常光線に与えるように選択されてもよい。或る変形において、レンズ210は、比較的低い屈折率及び低い散乱を備えた材料を含んでもよく、且つ光学軸250に沿って深さにおいて空間的に分離され、遅延だけ時間的に分離される通常及び異常光線101o及び101eに光線101を分割するために、複屈折レンズ220の屈折率no、及び負パワーを補足する正パワーで製造されてもよい。
【0035】
図2に示されている通常光線スポット250o及び異常光線焦点スポット250eの深さΔにおける相対的な空間的分離は、次のように近似されてもよい。
Δ=[(n-n)/(n-1)]/(M/f
この式で、
は、複屈折レンズ220の通常屈折率であり、
は、複屈折レンズ220の異常屈折率であり、
Fは、対物レンズ240の焦点距離であり、
Mは、光線エキスパンダ230の倍率であり、
は、レンズ210の焦点距離である。
【0036】
従って、様々な実施形態において、図2に示されているコンポーネントの光学特性は、例えば20μm、25μm又は30μmの距離だけ焦点スポット250e及び250oを分離するように最適化されてもよい。他の変形は、10~40μm、15~35μm、20~30μmの範囲、又は他の範囲における距離だけ焦点スポット250e及び250oを分離してもよい。
【0037】
光学軸250に沿った深さにおける分離に加えて、「シャドウイング」から生じ得る問題を除去するために、焦点スポット間に時間的分離を与えることが有益になり得る。図3Aは、「浅い」深さにおける通常スポット250oに合焦することに起因する「シャドウイング」が、光学軸250に沿ったより大きな深さにおける異常スポット250eに合焦することにどのように干渉し得るかを示す。
【0038】
一般的に言って、光切断は、レーザパルスが、焦点スポットのエリアにプラズマを形成するために十分なエネルギで眼科組織に合焦された場合に、行われる。プラズマの急速な膨張には、衝撃波の放射及びキャビテーション気泡の形成が続く。結果として、焦点体積内の組織は、破壊される。走査パターンにおいて適用される複数の焦点は、眼科組織に正確な切開部を生成するために用いることができる。しかしながら、焦点スポットにおいて形成されたプラズマは、透明ではない。結果として、通常光線101o及び異常光線101eが、図3Aに示されているように、スポット250o及び250eに同時に合焦される場合に、シャドウイング300は、スポット250oによって生成されたプラズマが、異常光線101eの一部をブロックするときに結果として生じ、且つ焦点スポット250eにおける光切断を妨げるか又は邪魔をする。
【0039】
かかるシャドウイング効果は、上記で論じられた深さにおける空間的分離に加えて、通常及び異常光線間に時間遅延を導入するために、複屈折レンズ220を構成することによって回避することができる。或る例において、複屈折レンズ220は、少なくともパルスレーザ源110によって生成された各パルスの期間だけ、通常又は異常光線の一方又は他方のパルスを遅延させるように設計される。結果として、プラズマは、図3Bに示されているように、より大きな深さのスポット(例えばスポット250e)が放出された後でのみ、より浅い深さのスポット(例えばスポット250o)で発達する。このように、焦点スポット250oにおいてプラズマによって引き起こされるシャドウイングは、焦点スポット250eにおける光切断に影響しない。複屈折レンズ220の変形は、少なくとも300、500、800、1000、1200、1500、又は2000フェムト秒の、又は100~10,000フェムト秒の範囲における通常及び異常光線パルス間の相対遅延を誘導するように設計されてもよい。
【0040】
図2に戻ると、パルス光線101の各パルスは、通常波面201o及び通常光線焦点スポット250oを有する通常光線101oと、異常波面201e及び異常光線焦点スポット250e(フレネル反射を無視する)を有する異常光線101eと、を生成するように複合レンズ200によって分割される。通常及び異常焦点250o及び250eの相対エネルギ容量は、次のように説明され得る。
=Ecos(φ)
=Esin(φ)
この式で、
は、異常光線101eのエネルギであり、
は、通常光線101oのエネルギであり、
φは、複屈折材料の光学軸に対する光線101の偏光角であり、
Eは、光線101が複合レンズ200に到達する前の、光線101の合計エネルギである。
【0041】
従って、通常及び異常光線101o及び101eの相対エネルギ容量は、光線101の偏光角を回転させることによって制御することができる。例えば、光線101が複合レンズ200に到達した場合に、通常光線101o及び異常光線101eが、それぞれ光線101の合計エネルギの約50%を有するように、光線101の偏光面が、φ=45°に回転された場合に、分割によって生成された通常及び異常焦点の相対エネルギ容量は等しくなる。同様に、光線101の偏光面が、φ=0°に回転された場合に、通常又は異常焦点の相対エネルギ容量は、100%対0%の分割に近づき、複屈折の多重化効果を効果的に除去する(通常又は異常焦点スポットの1つだけが、光切断を引き起こすために十分なパルスエネルギを有する)。
【0042】
偏光角φは、様々な方式で調整され得る。例えば、複屈折レンズ220を独立して、又は取り付け台内のユニットとして複合レンズ200を回転させることが、光線101の偏光角を変化させるように、複屈折レンズ220又は複合レンズ200は、回転レンズ取り付け台に取り付けられてもよい。追加又は代替として、光線101の偏光角は、光線101が複屈折レンズ220に当たる前に、光線101の経路に配置された半(λ/2)波長板(図2には示されていない)を含むことによって、複屈折レンズ220から独立して回転されてもよい。例えば、半波結晶石英波長板は、スキャナ120と複合レンズ220との間に配置された回転レンズ取り付け台に結合されてもよく、その結果、波長板の回転は、光線101が複合レンズ220によって受信される前に、光線101の偏光角を変化させる。
【0043】
偏光角φの調整は、前眼部(例えば白内障)及び角膜(例えば屈折)手術の両方のための眼科レーザシステムなど、相異なるオペレーションを実行できる多目的レーザシステムに特に有用であり得る。白内障処置(例えば嚢切開又は断片化)において、レーザ切開部は、目の前面に対して4~12mmの深さで水晶体に且つそのまわりに作成される。対照的に、屈折矯正手術(例えば、弁切断、角膜片除去等)は、目の前面に対して0.01~1mmの比較的浅い深さで角膜にレーザ切開部を生成することを伴う。従って、かかる白内障処置に備えて、光線101の偏光角は、レーザシステムの光学軸(z軸)に沿った深さにおいて空間的に分離された通常及び異常光線間で等しくパルス光線のエネルギを分割するために、φ=45°に調整されてもよい。これは、深さにおいてレーザの繰り返し率を効果的に2倍にし、レーザエンジンの実際の繰り返し率を増加させずに白内障処置回数を低減する。屈折矯正手術に先立って、パルス光線のエネルギが、(特定の実装形態に依存して)通常及び異常光線のどちらかにほとんど又はまったく分割されないように、光線101の偏光角は、φ=0°に調整されてもよい。相異なる位置への回転は、ユーザコマンドに応じて、又はシステム100用の自動構成シーケンスの一部として、システムオペレータによって手動で又はレーザコントローラ160により送信された信号によって実行されてもよい。従って、システム100の実施形態は、白内障処置に先立って較正中に白内障位置(φ=45°)に、及び代替として屈折矯正手術に先立って較正中に屈折位置(φ=0°)に、(複屈折レンズ220又は半波長板を回転させることによって)光線101の偏光角を自動的に設定してもよい。
【0044】
通常及び異常光線の相対エネルギ容量の調整が、スポット250o及び250eによって引き起こされる複数の接近した光切断誘導キャビテーション気泡の相互作用に影響を及ぼすために有用であることが更に注目される。一般に、2つのキャビテーション気泡が、相互作用するほど空間及び時間において十分に接近している場合に、気泡の強いジェットが、(光学軸250に沿って)垂直方向に形成される。ジェット伝搬の方向(即ち光学軸250に沿った方向)は、通常及び異常焦点スポット250oと250eとの間の相対エネルギによって正確に制御することができる。キャビテーション気泡相互作用の物理学は、ジェットが、より小さな気泡の方へ形成されるようになる。従って、図2に表現されている異常焦点スポット250e用により少ないエネルギを配分すると、ジェットは、光線101の源から離れるように導かれる。この方式で、入射レーザパルス250o、250eとジェットの望ましくない相互作用は、除去することができる。従って、光線101の偏光角は、水晶体断片化又は嚢切開などの処置中に、キャビテーション気泡の相互作用を制御するために、説明された方式で回転されてもよい。
【0045】
図2に戻ると、例示的な実施形態において、レンズ210は、BK7を含み、且つ焦点距離f=1425.6mmを有する。複屈折レンズ220は、通常屈折率n=1.658、異常屈折率n=1.486、及び1.744mmの中央厚さを備えた方解石で作られる。レンズ210及び複屈折レンズ220は、複合レンズ200が、異常光線101e用のゼロ光学パワー、及び通常光線101o用の+0.25ジオプターパワーを有するように設計される。かかる構成において、レンズ210がBK7であり、且つ複屈折レンズ220が方解石である複合レンズ200を通る通過光線101は、4メートルの曲率半径を備えた湾曲波面を有する通常光線101oと、平面波面を有する異常光線101eと、に光線を分割する。更に、湾曲通常波面201oは、平面異常波面201eに対して時間的に遅延される。n<nの方解石において、通常光線101oは、異常光線101eに対して、約1000フェムト秒だけ遅延される。光線101o及び101eは、通常光線波面201oの曲率半径を4メートルから100メートルに増加させる5×光線エキスパンダ230に伝搬し、一方で異常光線波面201eの曲率半径は、横ばいである。次に、光線101o及び101eは、焦点距離F=50mmを有する対物レンズ250によって合焦される。従って、通常光線焦点スポット250o及び異常光線焦点スポット250eは、距離Δだけ分離される。
Δ=[(n-n)/(n-1)]/(M/f):
Δ=(0.172/0.486)50/(5/1415.6)=25μm
【0046】
この例において、通常光線101oの放出は、異常光線波面101eに対して約1000フェムト秒だけ遅延される。従って、この例において、異常パルスは、特定のz深さで、通常パルスの前に所与のx-y位置に放出される。即ち、通常パルスは、異常パルスとほぼ同じx-y位置だか、しかし標的の前面に25μm更に近いz深さで、且つ異常パルスの放出の約1000フェムト秒後に合焦される。結果として、プラズマは、異常光線焦点スポット250eが放出された後にだけ、通常光線焦点スポット250oにおいて発達し、シャドウイングの悪影響を回避する。通常及び異常破壊間の時間遅延もまた、適切な厚さの適切に向けられた複屈折スラブを複合レンズ200の前で光線に挿入することによって、達成することができる。
【0047】
かかる構成(また同様の変形)は、近い距離(例えば20~30μm内)で連続して(例えば5000フェムト秒内で)生成される光切断誘導キャビテーション気泡が、互いに相互作用して光学組織における切断効率を増加させることが知られているように、眼科用途によく適合し得る。特に、5000フェムト秒未満で眼科組織において2つの焦点スポットを約25μm離して配置することは、時間又は距離において更に離して印加される匹敵するエネルギの2つのスポットの効果を超える切断効果をもたらし得る。従って、図2に表現されたコンポーネントは、通常光線焦点スポット250o及び異常光線焦点スポット250eを生成するために最適化され得、これらの焦点スポット250o及び250eは、約25μmの又は20~30μmの範囲における距離だけ、光学軸250に沿って深さにおいて空間的に分離され、且つフェムト秒レーザパルスのパルス幅以上の遅延(例えば100~10,000フェムト秒)だけ時間的に分離される。
【0048】
上記の例で示されたパラメータが、特定の実施形態を示すために提供され、且つ開示の範囲を限定しないことが注目される。当業者は、様々な他の構成(材料の組み合わせ、レンズパワー等)が、特定の用途のために性能を最適化するのに適切になるであろうことを認識されよう。水晶体断片化及び嚢切開などの適用眼科処置が詳細に説明されるが、実施形態が、角膜処置、硝子体-網膜処置、又は他の処置を含む他の眼科処置に有用になり得ることが考えられる。実施形態はまた、光学軸に沿って深さにおいて空間的に分離された、且つ遅延だけ時間的に分離された2つの焦点スポットを生成するようにフェムト秒レーザを構成するために、眼科の文脈の外部で有用になり得る。
【0049】
図4は、或る実施形態に従い、レーザシステム100を用いて手術処置を実行する方法400を表現する。ステップ402において、通常及び異常光線間の相対エネルギ配分は、白内障設定に設定されてもよい。図2に関連して上記で説明したように、光線101の偏光角は、レーザシステムの光学軸(z軸)に沿って深さにおいて空間的に分離された通常及び異常光線間で、パルス光線のエネルギを等しく分割するために、(複屈折レンズ220又は半波長板を回転させることによって)φ=45°に調整されてもよい。これは、深さにおけるレーザの繰り返し率を効果的に2倍にし、レーザエンジンの実際の繰り返し率を増加させずに、白内障処置回数を低減する。Z倍化技術を用いることによって、レーザスキャナはまた、類似の手術結果を達成するために別の状況では要求される速度の半分で動作することができる。代替として、相対エネルギ配分は、通常及び異常焦点の1つだけが、光切断を引き起こす十分なエネルギを有するように、角膜設定に設定されてもよい。これは、切開部の深さが比較的小さい処置に有用である。エネルギ配分設定は、ユーザインタフェースを介してシステムオペレータによって入力される処置識別及び明細に基づいてもよい。
【0050】
或る実施形態において、システムオペレータは、光線101の偏光角を所望の設定に自動的に設定するために、システム100用のシステム較正又は構成プロセスを開始してもよい。例えば、レーザコントローラ160は、白内障処置(例えば嚢切開、水晶体断片化等)又は角膜処置(弁、角膜片、トンネル、リング等)が実行されることになることを示す信号を受信し、且つ今度は複屈折レンズ220又は半波長板を必要な位置に回転させるように構成されたアクチュエータに信号を送信してもよい。
【0051】
ステップ404において、レーザコントローラ160は、ステップ402で選択された設定と一致する走査パターンを生成する。或る例において、レーザコントローラ160は、生体データ、標的のOCT画像、又は他の情報を解析し、且つ情報及び選択された設定に基づいて、通常及び異常焦点スポットの光切断効果に対応する手術処置用の走査パターンを生成してもよい。例えば、走査パターンは、水晶体断片化処置、嚢切開、LASIK切開、水晶体切開等のための走査パターンであってもよい。幾つかの例において、走査パターンは、螺旋パターン、スパイダーパターン、楕円パターン、又は任意の他の適切なパターンであってもよい。
【0052】
ステップ406において、フェムト秒レーザパルスの光線は、レーザエンジン110によって生成される。各レーザパルスは、標的眼科組織の少なくとも2×光切断閾値である合計エネルギを有してもよく、その結果、ステップ410で生成された各通常及び異常パルスは、光切断を独立して誘発する十分なエネルギを有する。
【0053】
ステップ408において、生成されたパルスは、生成された走査パターンに従って、レーザスキャナ120によって3次元で走査される。ステップ410において、生成されたレーザ光線の各パルスは、ほぼ等しいエネルギ(例えば50/50エネルギ分割±3%)を備えた通常及び異常パルスに分割される。レンズ120及び複屈折レンズ220を含む複合(例えばダブレット、トリプレット等)レンズ200が、図2、3A及び3Bに関連して説明されたように用いられてもよい。結果として、複合レンズ200は、通常パルスを含む通常光線、及び異常パルスを含む異常光線を生成する。特定のレーザパルスの分割に起因する特定の通常パルス及び特定の異常パルスは、5μm以上(例えば15~35μm)の距離だけ、複合レンズ200の光学軸に沿って深さにおいて空間的に分離されてもよく、且つレーザパルスのパルス幅以上(例えば100~10,000フェムト秒)の遅延だけ時間的に分離されてもよい。
【0054】
ステップ412において、通常及び異常光線は、白内障処置を実行するために標的に放出される。放出は、図2に示されているように、光線エキスパンダ230及び対物レンズ240を通して光線を通過させることを伴ってもよい。パルスエネルギ、空間的分離、及び時間的分離の結果として、(異常光線の)異常パルスは、(通常光線の)通常パルスが、標的組織(深さは、眼科標的の外面に対してである)において第2の一層大きな深さで光切断を引き起こす前に、標的組織における第1の深さで光切断を引き起こす。白内障処置は、例えば、水晶体断片化及び/又は嚢切開処置であってもよい。
【0055】
ステップ414において、通常及び異常光線間の相対エネルギ配分は、屈折設定に設定されてもよい。図2に関連して上記で説明したように、光線101の偏光角は、通常及び異常光線間のエネルギの分割を最小化又は除去するために、(複屈折レンズ220又は半波長板を回転させることによって)φ=0°に調整されてもよい。或る実施形態において、φ=0°の偏光位置は、通常又は異常光線のどちらかに相対エネルギの少なくとも95%、98%又は99%を放出する。
【0056】
或る実施形態において、システムオペレータは、屈折設定又は任意の他の適切な処置設定に光線101の偏光角を自動的に設定するために、システム100用のシステム較正又は構成プロセスを開始してもよい。例えば、レーザコントローラ160は、屈折矯正手術が実行されることになることを示す信号を受信し、且つ今度は角膜処置用の必要な位置に複屈折レンズ220又は半波長板を回転させるように構成されたアクチュエータに信号を送信してもよい。
【0057】
ステップ416において、レーザコントローラ160は、上で選択された屈折設定に基づいて走査パターンを生成する。この点について、レーザコントローラ160は、2重焦点スポットの光切断効果を利用しない屈折走査パターンを生成してもよい。走査パターンは、例えば、角膜弁、角膜片、トンネル等を画定するように構成されてもよい。ステップ418-422において、フェムト秒レーザパルスの光線が、レーザ支援屈折矯正手術を実行するために、走査され、生成され、且つ角膜に放出される。
【0058】
当業者は、方法400の様々なステップが、任意選択であってもよく、且つ相異なる順序で実行されてもよいことを認識されよう。例えば、ステップ402-412は、ステップ414-422なしに実行されてもよい。同様に、ステップ414-422は、ステップ402-412なしに実行されてもよい。
【0059】
従って、本開示の実施形態は、フェムト秒レーザ光パルスのエネルギを通常及び異常光線に分割するために、他の光学素子と一緒に複屈折レンズコンポーネントを備えた複合レンズを利用し、通常及び異常光線のそれぞれは、眼科組織において光切断を誘発するのに十分なエネルギを備える。その2つの光線は、数十マイクロメートルの範囲における空間的分離、及び光線のパルス長と釣り合った時間遅延で、標的において互いの下に合焦されてもよい。従って、各レーザスポットは、治療下の組織において破壊空洞を形成することができる。このように、レーザシステムの効果的なレーザ繰り返し率は、レーザエンジンの繰り返し率を増加させずに2倍にすることができる。
【0060】
本開示の技術及び方法は、このように非常に多数の利点及び利益を提供する。例えば、複合レンズ200などの複屈折二重レンズは、比較的低コストで、既存のレーザエンジン及びスキャナで実現することができる。更に、実施形態は、レーザエンジンの実際の繰り返し率のどんな増加もなしに、レーザ源の効率を効果的に2倍にし、それによって、繰り返し率(レーザ源及びスキャナの両方における)の100%の増加に関連する技術的な難題を回避することが可能である。結果として、本開示の実施形態は、比較的低コストで、既存のレーザ装置を用いて、眼科処置の処置回数を50%以上潜在的に低減できる安価で信頼できる光学的改善を提供する。
【0061】
更に、実施形態が、深さにおいて分離された通常及び異常パルスに光線を分割するように構成されるので、それらは、(光学軸に垂直な)x-y次元におけるラインに沿って、(光学軸に沿った)様々なz深さにおける切断を伴う走査パターン(例えば螺旋、円形、又は楕円円筒パターン)を用いるプロセスにおける使用に適している。対照的に、先の多重化解決法は、x-y平面における相異なるポイントだか、同じz深さの2つのスポットに光線を分割し、従ってLenSx(登録商標)を含む市販の眼科レーザシステムによって用いられる螺旋走査パターンには適さない。
【0062】
加えて、本開示の実施形態は、光学コンポーネント(例えば複屈折レンズ又は半波長板)を手動で回転させることによって、又はレーザコントローラの制御下のアクチュエータによって自動的に、光線分割機能が、選択的にイネーブル又はディスエーブルにされ得るようにする。従って、様々な実施形態は、通常及び異常光線への光線の分割をイネーブル又はディスエーブルにする、白内障モード及び屈折モードなどの相異なるモードに容易に素早く構成することができる。これらや他の利益は、明細書、図、及び請求項を考慮すれば、当業者には明らかになろう。
【0063】
上記の例の幾つかは、白内障手術、嚢切開、又は角膜処置などの眼科用途の点から説明されているが、システム100の実装形態は、非常に広い範囲の用途で用いることができ、それらの用途は、網膜及び角膜手術などの多様な眼科処置と同様に、皮膚科学及び歯科用途、相異なる手術用途、及びレーザ光切断又は幾つかの他のレーザ支援プロセスを用いて材料片を成形する様々な機械加工用途を含む。
【0064】
従って、様々な実施形態の前述の説明は、実例及び説明の目的用に提示された。それらは、包括的であるようにも本発明を開示された変形に限定するようにも意図されていない。修正及び変更が、当業者には明らかになるであろう。本開示は、かかる修正及び変更を包含するように意図されている。
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5