IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ セレクティビティー・エセアエセの特許一覧

<>
  • 特許-運動細胞を分離する装置および方法 図1
  • 特許-運動細胞を分離する装置および方法 図2
  • 特許-運動細胞を分離する装置および方法 図3
  • 特許-運動細胞を分離する装置および方法 図4
  • 特許-運動細胞を分離する装置および方法 図5
  • 特許-運動細胞を分離する装置および方法 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-18
(45)【発行日】2022-10-26
(54)【発明の名称】運動細胞を分離する装置および方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/26 20060101AFI20221019BHJP
   C12N 5/076 20100101ALI20221019BHJP
【FI】
C12M1/26
C12N5/076
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2019567400
(86)(22)【出願日】2018-02-22
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-03-19
(86)【国際出願番号】 ES2018070135
(87)【国際公開番号】W WO2018154169
(87)【国際公開日】2018-08-30
【審査請求日】2021-01-28
(31)【優先権主張番号】P20170100483
(32)【優先日】2017-02-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AR
(73)【特許権者】
【識別番号】519307160
【氏名又は名称】セレクティビティー・エセアエセ
【氏名又は名称原語表記】SELECTIVITY SAS
(74)【代理人】
【識別番号】100081053
【弁理士】
【氏名又は名称】三俣 弘文
(72)【発明者】
【氏名】レペット,エルベルト・エルネスト・エクトル
【審査官】松原 寛子
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-500031(JP,A)
【文献】国際公開第2014/136464(WO,A1)
【文献】特表2015-512629(JP,A)
【文献】国際公開第2013/040428(WO,A1)
【文献】J. Micromech. Microeng.,2015年,Vol.25,doi:10.1088/0960-1317/25/10/105007
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/26
C12N 5/076
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞集団から精子を分離する装置において、
第一のリザーバと、第二のリザーバと、前記第一のリザーバに第1の面で接触し前記第二のリザーバに第1の面とは反対側の第2の面で接触する膜とを含み、
前記膜は膜の面に直交貫通する流路を有し、前記流路はその内側に向かつて径が減少する端を有し、前記流路の前記第1の面における第一の外径は50~200μmであり、その内径は8~15μmであり、その長さは50~600μmである
ことを特徴とする細胞集団から精子を分離する装置。
【請求項2】
前記流路の少なくとも一つの端は円すい、放物面および双曲面形状からなる群から選択される形状を有する
ことを特徴とする請求項1記載の装置。
【請求項3】
前記膜が複数の流格を含む、
ことを特徴とする請求項1記載の装置。
【請求項4】
前記流路の両端は、円すい、放物面および双曲面形状からなる群から選択される形状を有する
ことを特徴とする請求項1記載の装置。
【請求項5】
前記膜は複数の流路を含み、前記膜の一方の側で精子の分離を可能とし、他方の側に精子ではない粒子が残る
ことを特徴とする請求項1記載の装置。
【請求項6】
前記流路の第1の面における第一の外径は50~200μmであり、前記流路の第2の面における第二の外径は10~50μmであり、その内径は8~15μmである
ことを特徴とする請求項1記載の装置。
【請求項7】
前記膜は、1平方cm当たり、1000-20000個の流路を含む
ことを特徴とする請求項1記載の装置。
【請求項8】
前記第一のリザーバの容積が1-5mlであり、第二のリザーバの容積が0.5-1.5mlである
ことを特徴とする請求項1記載の装置。
【請求項9】
前記第一のリザーバの容積が1-5mlであり、第二のリザーバの容積が0.5-1.5mlであり、前記第二のリザーバが前記第一のリザーバよりもより高い液位を含む
ことを特徴とする請求項1記載の装置。
【請求項10】
前記第二のリザーバが培養培地で満たされ、前記第一のリザーバに向かう流れを培養培地の中に生成する
ことを特徴とする請求項1記載の装置。
【請求項11】
前記膜が、ガラス、PET、金属、セラミックス、ポリマー、炭素繊維およびそれらの混交または組み合わせを含む群から選択される材料で作成される
ことを特徴とする請求項1記載の装置。
【請求項12】
前記第二のリザーバに得られた損傷したDNAを持つ精子は、生の検体と比較すると少なくとも3倍低減する
ことを特徴とする請求項1記載の装置。
【請求項13】
細胞集団から精子を分離する方法において、
(X)第一のリザーバと第二のリザーバとそれらの間に膜を用意する工程と、
(A)培養培地を配置し第二のリザーバを浸す工程と、
(B)第一のリザーバ内の細胞集団を膜に接触させ、前記第一のリザーバの液位を前記第二のリザーバのそれより低くなるよう配置する工程と、
前記膜は膜の面に直交する流路を有し、前記流路はその内側に向かつて径が減少する端を有し、
精子が前記培養培地を通過し前記第一のリザーバに達し最初の逆流効果を発生させ、
(C)培養する工程と、
(D)前記第二のリザーバから正常形態の精子を取得する工程と
を含むことを特徴とする細胞集団から精子を分離する方法。
【請求項14】
前記工程(B)は、精子の通過に関連して上流へ流動する培養培地の流れを含み、流れが圧力差により生成される
ことを特徴とする請求項13記載の方法。
【請求項15】
前記圧力差は前記膜の両端に位置する第一と第二のリザーバ間の液位差により生成される
ことを特徴とする請求項14記載の方法。
【請求項16】
前記工程(C)は35~37℃で1~90分間培養する
ことを特徴とする請求項13記載の方法。
【請求項17】
前記工程(C)は35~37℃で10~90分間培養する
ことを特徴とする請求項13記載の方法。
【請求項18】
請求項1記載の装置の使用を含む
ことを特徴とする請求項13記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の技術分野
本発明は、細胞集団から運動性細胞を分離する装置および分離方法を記載する。それは、特に、他の装置の必要なくそれらの運動性、形態およびDNA完全性(1)に対して質および数の精子が取得されることを要する生殖補助技術(ART)のための精子取得技術の中に設定される。
【0002】
現在の技術水準
現在の技術水準において、細胞分離のためのたくさんの方法および装置がある。そのような方法および装置は、精子のような運動性細胞の特性、例えば、中でも走流性(4)に基づく。現在の技術水準における分離のための装置および方法は、中でも、ろ過膜、密度勾配、細胞の通過を阻む有孔膜を使用する。
【0003】
米国特許第6129214(A)号および米国特許第6357596B1号は、膜に侵入する精子が好適な培地に保たれ得る、膜を使用して最良の精子を分離する方法および装置を記載する。説明に述べられていることによると、この装置は、運動性精子を、それらが5~8μm細孔の多孔質膜を通る際、分離する。この装置は、走流性によって精子を分離するのではなく、非運動性精子をろ過する。
【0004】
米国特許出願第2008311653(A1)号は、精液の最適な流動を調整し、運動性精子を分離する方法および装置を記載する。装置は、円筒形状容器、細孔(10~150μm径の穴)で構成された膜および第一の円筒容器と共に組み立てられる第二の円筒容器からなる。分離方法は、上流へ泳ぐ(遡上する)精子の能力に基づく。方法は、走流性を誘発する流れの機構を使用するが、本発明の装置が要することのない一定の特殊化および装置をそれが必要とするため、その具現化は複雑になる。この方法によって必要とされる培地の数は、より多数であり、それは、オーブンを使用せずに進めることができない。出願国際公開公報第2008104042A1号は、2~3ミクロン細孔ろ過膜による精子細胞分離プロセスを記載する。前記膜は、様々な材料、例えば、PES、PVDF、MCE、PTFE、ナイロン、ポリカーボネートなどであり得る。このタイプの装置は、運動性細胞の通過を許さず、それらを膜細孔内に留める。
【0005】
米国特許第5575914A号は、低運動性精子を高運動性のそれらから分離する圧縮ガラスウールろ過材料を有する、精子ろ過トラップを記載する。それは、走流性に基づいておらず、それは、非運動性精子をろ過する。
【0006】
カナダ特許出願第2834007A1号は、精子をリザーバからもう一つのリザーバへと導くように配置された放射状の一連のマイクロ流路を使用する、精子を分離する装置を記載する。前記マイクロ流路は、幅50~300ミクロン、高さ100~200ミクロンおよび長さ6~9mmである。マイクロ流路は、円筒形状である。この装置は、設計および製造において複雑である。精子は、上流へ泳がず、それ故に、装置は、「壁面泳ぎ」の定義の下それらを導く、すなわち、流路の形状が精子を導き直す。加えて、この装置は、ストーブを要する。逆に、本発明は、精子が置かれる部位に向かって装置の中に最初の水流が生成されるため、精子の侵入し上流へ泳ぐ能力を利用して自己選択を達成する。また、本発明の流路形状は、追加的装置を必要とすることなく、並外れた収量を達成する。
【0007】
米国出願第2016017273号は、遡上技術を適用して精子を分離する方法および装置を開示する。
【0008】
現在の技術水準において存在する装置および方法は、分離のために使用される培地が詰まり得るため、本発明と比較して、技術的不都合を有し、それらは、実験室用機器の取り扱いに比較的熟練した人による操作を必要とし、それ故に、制御された環境における取り扱いも必要であり、その場または診察室でのそれらの使用を不可能にする。他方で、それらのほとんどは、追加のろ過および/または遠心分離作業を必要とし、増加した検体操作時間または遠心分離中の回転によって引き起こされる圧力のどちらかを起因として、検体汚染、材料損失、DNA変化などの可能性に有利に働く。
【0009】
本発明は、ろ過および/または遠心分離の作業を必要とせず、その操作が簡単であり、損傷したDNAを持つ運動性細胞の分離を包含する、細胞集団からのそれら運動性細胞の分離の優れた結果を達成する、運動性細胞の分離のための装置および方法を提供する。本発明の卓越したフィーチャは、それが運動性細胞分離を実施するためにオーブンを必要としないことである。これは、このタイプの技術に関連する通常の設備の必要なく、基本条件下で人ならびに動物の人工授精のための必要な措置を取ることを可能にする。本発明の装置は、その場の人工授精さえも可能にする。
【0010】
発明の簡単な説明
細胞集団からの運動性細胞、好ましくは、精子の分離のための本発明の装置は、第一のリザーバと、少なくとも膜によって接続された第二のリザーバとを含み、前記流路の内側に向かってその径の減少を示す少なくとも一つの端を持つ少なくとも一つの流路を含む前記膜を特徴とする。前記膜は、好ましくは、ガラス、PET、金属、ポリマー、炭素繊維およびそれらの混交または組み合わせを含む群から選択される材料で作成される。前記流路は、好ましくは、その端の少なくとも一つにおいて、円すいおよび双曲面形状で構成された群から選択される形状を含み、前記膜は、好ましい態様では、複数の流路を含む。好ましい態様では、前記膜は、有孔板である。
【0011】
加えて、前記流路は、もう一つの好ましい態様では、円すい、放物面および双曲面形状で構成された群から選択される形状の両端を含む。
【0012】
他の態様では、前記膜は、前記膜の一方の側で運動性精子の分離および膜の他方の側に残る要素または非運動性細胞の分離を可能にする複数の流路を含む。
【0013】
好ましくは、本発明の前記運動性細胞分離装置は、50~200μmの第一の外径、8~15μmの内径および50~600μmの長さを含む流路を有し、より好ましくは、それらは、50~200μmの第一の外径、10~50μmの第二の外径、8~15μmの内径および50~350μmの長さを含む。
【0014】
また、本発明の運動性細胞分離装置は、好ましくは、1,000~20,000流路/cm2を持つ前記膜を提示し、好ましくは、前記第一のリザーバの容積は、1~5mlであり、前記第二のリザーバの容積は、0.5~1.5mlであり、前記第二のリザーバが前記第一のリザーバよりもより高い液位を含む。また、前記第二のリザーバは、培養培地で満たされ、前記第一のリザーバに向かう流れを前記培養培地の中に生成する。
【0015】
前記膜は、ガラス、PET、金属、セラミックス、ポリマー、炭素繊維およびそれらの混交または組み合わせを含む群から選択される材料で作成される。
【0016】
いくつかの態様では、本発明の運動性細胞分離装置は、生の精液の検体に関連して前記第二のリザーバ内の損傷したDNAを持つ精子の低減を達成することを可能にする。本発明は、直接方法と比較してTUNEL試験(DNA損傷)の値を9倍まで減少させることに成功する。とりわけ、PETで具現化された発明の場合、少なくとも3倍(検体Dの場合、35%から10%に、表1)およびガラス製の発明の場合、9倍(同検体Dの場合、35%から4%に)までの低減が観測される。加えて、本発明の装置は、正常形態を持つ精子の数を少なくとも80%(検体Dの場合の形態値)増加させる。
【0017】
本発明のもう一つの目的は、細胞集団から運動性細胞を分離する方法であって、以下の工程:
a)リザーバ2および流路を浸すために、培養培地を置く工程と;
b)それをリザーバ培地2の液位よりもより低くさせて、それが培地をリザーバ1に通し続け、したがって、最初の逆流効果を発生させることを可能にする、前記流路に向かってその径の減少を有する少なくとも一つの端を持つ少なくとも一つの流路を含む膜の面にリザーバ1の細胞集団を接触させる工程と、
c)培養する工程と;
d)前記膜の他方の面のより高いパーセンテージの正常形態を持つ運動性細胞を取得する工程とを含む。
【0018】
工程「b」における細胞集団からの運動性細胞の前記分離方法は、前記運動性細胞の通過と反対方向に流動する培養培地内の逆流を含み、前記流れが圧力差または毛細管現象によって生成され、好ましくは、前記圧力差が前記膜の両側に位置するリザーバ間の液位の差によって引き起こされる。加えて、前記工程「c」は、35~37℃の範囲の温度で1~90分の期間培養することを含む。好ましくは、10~90分である。好ましくは、本発明の方法は、本発明の装置を使用する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】膜(101)を示す断面正面図であり、拡大図が膜流路(102)を呈示する。
図2】第一のリザーバ(201)、膜(203)および第二のリザーバ(202)を示す、装置の側断面である。それは、膜流路のタイプの好ましい形状の拡大図も示す。
図3】第一のリザーバ(201)、膜(203)および第二のリザーバ(202)を示す本発明の装置の可能な全体スキームである。
図4】卵細胞質内精子注入法(ICSI)技術に適応された装置を表す。
図5】本発明の膜流路が採用し得る形状のいくつかの概略図を示す。
図6】本発明の装置の代替態様を示す。
【0020】
発明を実施するための形態
本発明によると、細胞集団は、培養培地、中でも運動器官能力を持つ細胞、以後運動性細胞と呼ぶ、がある多種多様な細胞を持つ体液であり得る流体を含む。本発明の実施例は、精子タイプの運動性細胞の分離を含むが、しかし、装置および方法は、他のタイプの運動性細胞、例えば、微生物または寄生虫にも適用する。
【0021】
本発明によると、膜は、膜の一方の面から他方に通り、本発明の装置の両リザーバをつなぐ少なくとも一つの流路を含有することを特徴とする任意の材料を意味する。
【0022】
本発明は、遡上またはほとんどの他の機構によって使用されるものを前提に基づいておらず、二つの実施態様1)流路形状によって容易になる、配偶子または細胞ごとの入る場所の無作為な探索および2)精子それら自身によって生成され、走流性によって続くものを導くことに行き着くマイクロ流(最初に圧力差によって誘発され、後に狭窄流路を通る通過によって自己誘発される)に基づく、運動性細胞、好ましくは、精子細胞の分離のための装置および方法を記載する。
【0023】
本発明の装置は、その所期の使用によって実施するためにいかなる他の実験室用要素も必要としない、すなわち、追加的チューブまたは遠心分離機も、ストーブも必要としない。それは、電気も必要とせず、受精補助界を広く拡大する際には、それを基本かつ革新的なツールにし、医療従事者および獣医が彼ら自身で、例として、実験室から遠い地方で使用されるツールにアクセスできるようにする。本発明の方法によって必要とされる培養は、大人の握った拳の中に装置を保ってまたは人体と接触させて、実行され得る。
【0024】
本発明の装置は、そこから精子が分離される精液検体が置かれる第一のリザーバ(201)と、そこへ精子または運動性細胞が移動し、回収される第二のリザーバ(202)とを含み、両リザーバが膜(203)によって接続された。前記膜は、そこを通じて運動性細胞が移動する流路となる一つまたは複数の穿孔を含む。流路と呼ばれる前記穿孔は、計測された部分によって、すなわち、第一のリザーバに接続された部分、第二のリザーバに接続された部分および既に述べた二つの部分(両方とも外側部分と呼ばれる)の間に位置する部分、以後中間部分と呼ぶ、を考慮して、同じまたは異なる径であり得る。
【0025】
本発明の好ましい実施態様では、膜の流路は、前記流路のすべての部分において同じ径である。
【0026】
本発明のもう一つの実施態様では、流路の径は、中間部分に関連してリザーバに接続された部分で異なる。本発明の好ましい態様では、前記流路の前記外側部分は、前記流路の中間部分の径よりもより大きい径である。
【0027】
本発明のもう一つの実施態様では、前記流路外側部分は、幾何学的、例えば、円すい、双曲線または放物線形状である。
【0028】
本発明の装置は、ろ過または電磁気もしくは静電流もしくは免疫学的標識方法の適用の非存在で作動する。本発明の装置は、精子をインビボでするであろうと同じように泳がせ、リザーバから膜を通って他方のリザーバに向かって群で移動させ、残骸、主に損傷したDNAを持つ精子および非運動性細胞を残す。走流性-界面に侵入する配偶子の設計および自然挙動を有する特性-が利用される。前記挙動は、損傷していないDNAを持つ精子においてより大きい程度まで観測される。装置は、第二のリザーバ(運動性精子が取得される)のより高い最初の液位に起因してそのように達成する、それらが前記毛細管現象の流れの原動力としても関与するにもかかわらず、両方の圧力の均衡が取れるまで持続する二つのリザーバ間の圧力の差および両リザーバにおいて可能性のある濃度の差によって生成される、精子の走流性の特性を使用する。流れによって引き起こされる現象を超えて、健康な精子が上流へ泳ぐための勢いを生成する、第二のリザーバから第一のそれに向かう流体流れがあることは、事実である。その瞬間まで、各流路を通じて誘発された培養培地を通じて全精液回収のための前記第一のリザーバに向かう流れは、そのような特性を損なわずに保持する精子の走流性に有利に働き、その瞬間(均衡が取れた圧力またはゼロ流速流動)から、膜を通り続ける精子の群によって今度は、誘発されたマイクロ流によって、機構は、自己持続する。
【0029】
本発明の膜を通るほとんどの適切な精子のこの条件は、正常形態のパーセンテージの有意な増加および損傷したDNAのパーセンテージの極めて有意な低減という結果に合致する。本発明の特性は、予想どおりに、増加した正常形態のパーセンテージおよび変化のないDNAのより高いパーセンテージに合致し、速い直線運動性の配偶子の中からの自己選択を可能にする。
【0030】
本発明の装置では、精子は、取得培地の区画と精液区画との間の流動によって引き起こされるマイクロ流に続いており、続くそれらによって後に自己持続する。換言すると、一つが入口を見つけた後、他は、第一の鞭毛によって引き起こされ、次に続く鞭毛のマイクロ流が追加するマイクロ流によって有利に働くそれらの道筋を見出し、したがって、流れ、それ故に、走流性効果を高める。このように、精子は、それら自身によって精漿を残し、授精培養培地にアクセスし、精子ではないすべてのタイプの要素またはその他非運動性精子(細胞、残骸、不動精子および走流性能力のない精子も)を精漿に残す、なぜならそれらは、このタイプのオリフィスに侵入する精子の能力を示さないからである。
【0031】
本発明の装置は、図5に見てとれるように、流路の端の少なくとも一つで広がることを可能にする他の多くの中でも以下の一つ:円すい、双曲線、回転の放物面から選択される形状の一つまたは複数の流路を持つ少なくとも一つの膜を含む。流路の数、質およびタイプは、プレートを製造するために使用される材料によって変動する。精液検体のためのリザーバの大きさも、他の要因の中でも処理される容積によって変動し得る。製造方法は、現在の技術水準において公知であり、他の穿孔メカニズムの中でもレーザーによって実施され得る。
【0032】
本発明の好ましい態様では、膜は、膜cm2につき1,000~20,000の流路密度を含む。
【0033】
本発明のもう一つの実施態様では、本発明の膜の穿孔または流路は、100~600μmの長さを含む。
【0034】
先に述べたように、本発明の流路は、異なる径;前記第一のリザーバ(精液が置かれる)に接続された第一の外径、内径および膜を前記第二のリザーバ(運動性細胞がその目的のために供される培養培地に回収される)と接続する第二の外径の、三つの部分を含む。したがって、前記第一の外径は、50~200μmを含み、前記内径は、8~15μmを含み、前記第二の外径は、10~50μmを含む。
【0035】
本発明のもう一つの実施態様では、膜の穿孔は、異なる幾何学的形状、例えば、円筒、円すい、放物線、双曲線、回転の双曲面を含む。好ましくは、幾何学的流入口および流出口穿孔形状は、直線であり得る回転の曲線(円すいを生成する)またはその他曲線、放物線または双曲線形状のタイプであり、内径(204)よりもより大きい外径を持つ回転の図をもたらす。
【0036】
驚くべきことに、前記膜の流路を源とする前記穿孔について記載された形状が、流入口で広げられたとき、より高い濃度の生存運動性細胞を得るための本発明の装置の効率を有意に増加させる機器構成に有利に働くことが発見された。
【0037】
本発明の装置のリザーバは、様々な要因、中でも、処理される検体の容積、膜の寸法に依存する容積を含む。好ましい態様では、1x3cmの膜のために使用されるリザーバは、0.5~4.0mlで変動する。運動性細胞、好ましくは、精子がそれらの分離のために上流へ泳ぐそれらの能力を使用するように、本発明の装置が流体または培養培地に流れを生成することを強調することが極めて重要である。前記流れは、リザーバ内の圧力差によって引き起こされる。圧力差を生成するために、第二のリザーバは、より高い液位を含有し、したがって、膜を通じて第一のリザーバに向かう流れを生成する。好ましい態様では、本発明の装置内で、分離される検体は、前記第一のリザーバに置かれ、流体または培養培地は、前記膜を通るそれらの通過の際に残りの集団から分離された運動性細胞を取得するために、前記第二のリザーバに装填される。圧力の差を生成し、それ故に、第一のリザーバへ流動する流れを引き起こすために、まず第二のリザーバは、前記第一のリザーバと同じ液位またはより高い液位まで満たされる必要があり、その次に、第一のリザーバは、分離される細胞の集団検体で満たされる。
【0038】
本発明の装置は、1~90分の期間内、運動性精子を分離する。好ましくは、10~90分である。
【0039】
本発明のもう一つの実施態様では、それは、オペレータ彼ら自身によって放出される温もりによって加熱されるときでさえも働くため、ストーブの非存在で同じことが実施され得る。
【0040】
本発明の態様のもう一つの実施態様では、装置は、卵細胞質内精子注入法(ICSI)技術に適応される。卵母細胞への精液顕微注入によって受精させるために、同じ注入膜上で優秀な精子を分離することは、役立ち得る。それは、本発明の代替態様に基づくが、ICSIプロセスに好適な寸法を持つ。図4に示される一つのみの流路を持つ本発明の好ましい代替態様は、両リザーバをつなぐ漏斗状の流入口(404)を持つ流路によって接続された、マイクロキュベット(402および403)とも呼ばれる前記二つのリザーバを含む。両リザーバは、カバーガラス(401)によって覆われ、したがって、10μ流路ができるようにする。この機構は、その場での質の高い精子の取得を可能にする。この代替態様では、膜は、一つのみの流路を有する。
【0041】
本発明のもう一つの代替態様では、本発明は、図6に示されるように円筒形状を含み、カバー(601)、前記チューブの開口に近い穴(602)、第一のリザーバ(604)および第二のリザーバ(603)を含み、第二のリザーバ、流出口および選択された精子のための回収リザーバの液位は、分離される精子を持つ精液検体が装填される第一のリザーバの液位よりもより高いことが見てとれる。図6は、それに沿って精子が流動する流路(606)を持つ膜(605)を呈示する部分の拡大を示す。
【0042】
適用の実施例
実施例1
ガラス膜による装置試験D、EおよびF
ガラス膜上で、本発明の運動性細胞分離装置(MXM)は、およそ1mmのガラス幅の長さ、15μmの第一の径(流入口)および8μmの第二の径(流出口)を有する円すい流路を持つ130±40μm厚ガラス膜プレートによって分離された二つのリザーバプレートを含む。まず第一に、HEPES入りハムF10取得培地1Xが置かれ、SSSが追加され、ペニシリン/ストレプトマイシンが取得リザーバ(第二のリザーバ)に置かれ、その後、精液検体D、EおよびFは、WHO2010プロトコルによって処理された後、残りのリザーバ(第一のリザーバ)に置かれた。
【0043】
この実施例では、膜は、1cmx2cmであり、6600穿孔/cm2の密度を持つ。処理される検体が置かれる第一のリザーバは、3mLの最大容積を有し、第二のリザーバは、1mLの最大容積を含む。
【0044】
実施例2
PET膜による装置試験A、B、CおよびD
PETで作成された膜は、各々長さ200μmの2500個の流路で作成された。円すい流路は、15μmの第一の(流入口)径および10μmの第二の(流出口)径を含む。PET膜は、1cmx2cmである。リザーバは、実施例1でガラス膜のために使用されたのと同じものである。まず第一に、HEPES入りハムF10取得培地1Xが置かれ、SSSが追加され、ペニシリン/ストレプトマイシンが取得リザーバ(第二のリザーバ)に置かれ、その後、精液検体A、B、CおよびDは、WHO2010プロトコルによって処理された後、残りのリザーバ(第一のリザーバ)に置かれた。
【0045】
両方の実施例に対して、本発明の装置を使用する手順は、以下のとおりである:
【0046】
工程1-HEPES(0.6~0.7ミリリットル)入りハムF10培地1Xは、第二のリザーバの液位まで置かれる。HEPES入りハムF101Xは、キュベットを入れることができるようにするためにストローチップ・パスツールピペットで装填され、それが満たされるとき、膜は、精液側の内表面および直接表面を浸すハム培地で満たされる。
【0047】
工程2-以後すぐに、精液検体は、第一のリザーバに置かれる。膜は、処理される検体によって完全に覆われ、前記膜の表面は、最大まで使用されなければならない。
【0048】
工程3-培養は、オーブン内で実施され得るものの、体と接触させて1時間(20分~60分の範囲であり得る)続く。
【0049】
工程4-装置は、培養状態から(オーブンからまたは体との接触から)取り出され、実施例2には36℃のオーブン、実施例1には拳が使用された。処理された検体は、取得培地、すなわち、注射器およびツベルクリン針を使用して第二のリザーバから取得される。この処理された検体は、すぐにでも人工授精に使用されることができる。
【0050】
取得前後の精液評価については、WHO2010ガイドラインが順守された。DNAを評価するために、フローサイトメーターまたは蛍光顕微鏡を使用してTUNEL(末端転移酵素dUTPニック末端標識)試験が適用された。
【0051】
結果
機器の結果は、選定の材料としてガラスに本発明の方法(MXM)を適用することは、未処理の精液に関連して正常形状(厳密な形態)のパーセンテージを正常形状の直接方法(検体D、E、Fの平均)の13.3%から本発明の装置による27.0%(n:3)に倍増させることを示す。本発明のMXM(ガラス)を比較すると、遡上により、本発明は、選択された精子の形態で50%の改善(検体D、E、F)を達成する。(表1)
【0052】
選定された材料としてPETを使用する本発明のケースでは、正常に形成された精子のパーセンテージは、直接方法と比較して、各試験で得られた結果の平均値が10.3%から36.0%に(検体A、B、C、Dの場合)増加して3倍になった。一方で、遡上のケースでは、本発明の方法を適用して、正常形状が11.3%から18.0%というほぼ2倍の値の正常形状精子に到達した。遠心分離がDNA変化につながり得ることと共に暴露時間および操作といった不都合を持つ高または低複雑度の人工授精を考えると、遡上が精子取得のための一般的な基本技術であることは、述べるに値する。
【0053】
他方で、形態は、WHOのクルーガーの判定基準を適用して評価される。そのDNA完全性のためのTunel試験(2)が35%(基準の値は20%を下回らなければならないため、病理学的)の値を生み出した検体は、遡上およびPETおよびガラスによるMXMについて同じ研究を実施するために同じ検体(検体D)から取られた。得られた値は、以下の表に見てとれるように、PET上でMXMを使用するとき有意な改善を示し、当初の値は、卓越して有意な値である、3分の1に(35から10に)低減する。他方で、検体Dに対する遡上ならびに本発明のガラス上のMXMの方法の場合のTunel試験の値は、前記値の増加を示し、ほぼ9倍の減少した。
【0054】
遡上により検体DがDNA損傷精子の低減を達成することが観測され、それはMXMの場合に発見されたものと等しいにもかかわらず、本発明の後者の方法は、前記検体に対して3倍より良い形態の精子を持つ検体を生み出す。
【0055】
【表1】

【表2】
図1
図2
図3
図4
図5
図6