(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-18
(45)【発行日】2022-10-26
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池用負極及び非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/134 20100101AFI20221019BHJP
H01M 4/133 20100101ALI20221019BHJP
H01M 4/583 20100101ALI20221019BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20221019BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20221019BHJP
【FI】
H01M4/134
H01M4/133
H01M4/583
H01M4/36 E
H01M4/38 Z
(21)【出願番号】P 2020509711
(86)(22)【出願日】2019-01-22
(86)【国際出願番号】 JP2019001801
(87)【国際公開番号】W WO2019187537
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2021-09-13
(31)【優先権主張番号】P 2018068723
(32)【優先日】2018-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニックホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000001889
【氏名又は名称】三洋電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】続木 康平
(72)【発明者】
【氏名】森川 有紀
(72)【発明者】
【氏名】和田 宏一
(72)【発明者】
【氏名】松尾 雄太
(72)【発明者】
【氏名】石川 香織
(72)【発明者】
【氏名】柳田 勝功
【審査官】立木 林
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-038862(JP,A)
【文献】特開2015-049965(JP,A)
【文献】特開2000-268824(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極集電体と、前記負極集電体上に設けられた負極合材層とを備える非水電解質二次電池用負極であって、
前記負極合材層は、前記負極集電体側から順に形成された第1層及び第2層を有し、
前記第1層は、10%耐力が3MPa以下の第1の炭素系活物質と、Siを含有するシリコン系活物質とを含み、
前記第2層は、10%耐力が5MPa以上の第2の炭素系活物質を含み、前記第1層よりも前記シリコン系活物質の含有率が低
く、
前記第2の炭素系活物質は、1~5%の空隙率を有する、非水電解質二次電池用負極。
【請求項2】
負極集電体と、前記負極集電体上に設けられた負極合材層とを備える非水電解質二次電池用負極であって、
前記負極合材層は、前記負極集電体側から順に形成された第1層及び第2層を有し、
前記第1層は、10%耐力が3MPa以下の第1の炭素系活物質と、Siを含有するシリコン系活物質とを含み、
前記第2層は、10%耐力が5MPa以上の第2の炭素系活物質を含み、前記第1層よりも前記シリコン系活物質の含有率が低く、
前記第2の炭素系活物質は、1~5質量%の非晶質成分を含有する、非水電解質二次電池用負極。
【請求項3】
負極集電体と、前記負極集電体上に設けられた負極合材層とを備える非水電解質二次電池用負極であって、
前記負極合材層は、前記負極集電体側から順に形成された第1層及び第2層を有し、
前記第1層は、10%耐力が3MPa以下の第1の炭素系活物質と、Siを含有するシリコン系活物質とを含み、
前記第2層は、10%耐力が5MPa以上の第2の炭素系活物質を含み、前記第1層よりも前記シリコン系活物質の含有率が低く、
前記第2層の厚みは、前記負極合材層の厚みの20~70%である、非水電解質二次電池用負極。
【請求項4】
前記第2層は、実質的に前記シリコン系活物質を含まない、請求項1
~3のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用負極。
【請求項5】
前記シリコン系活物質の体積基準のメジアン径は、前記第1の炭素系活物質の体積基準のメジアン径の0.5倍以下である、請求項1~
4のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用負極。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用負極と、
正極と、
セパレータと、
非水電解質と、
を備えた、非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、非水電解質二次電池用負極及び非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、SiOxで表されるシリコン酸化物などのSiを含有する化合物は、黒鉛などの炭素系活物質と比べて単位体積当りに多くのリチウムイオンを吸蔵できることが知られている。負極活物質として、Siを含有するシリコン系活物質を用いることにより、電池の高エネルギー密度化を図ることができる。また、非晶質成分を多く含む硬い黒鉛粒子を用いることで、電池の出力特性が向上することが知られている。特許文献1には、出力特性等の電池性能を改善すべく、負極合材層の集電体側領域と表面側領域とで粒子形状の異なる炭素系活物質を用いた非水電解質二次電池が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【0004】
近年、高エネルギー密度で、かつ出力特性に優れた非水電解質二次電池が求められているが、特許文献1の技術を含む従来の技術は未だ改良の余地が大きい。例えば、エネルギー密度及び出力特性を改善すべく、単純にシリコン系活物質と非晶質成分を多く含む硬い黒鉛粒子とを併用した場合、当該黒鉛粒子がシリコン系活物質の体積変化に追従できず、負極合材層内の導電パスが切断され、抵抗値が大幅に増加するという問題がある。
【0005】
本開示の一態様である非水電解質二次電池用負極は、負極集電体と、前記負極集電体上に設けられた負極合材層とを備える非水電解質二次電池用負極であって、前記負極合材層は、前記負極集電体側から順に形成された第1層及び第2層を有し、前記第1層は、10%耐力が3MPa以下の第1の炭素系活物質と、Siを含有するシリコン系活物質とを含み、前記第2層は、10%耐力が5MPa以上の第2の炭素系活物質を含み、前記第1層よりも前記シリコン系活物質の含有率(質量比)が低いことを特徴とする。
【0006】
本開示の一態様である非水電解質二次電池は、上記負極と、正極と、セパレータと、非水電解質とを備える。
【0007】
本開示の一態様によれば、高エネルギー密度で、かつ出力特性に優れた非水電解質二次電池を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態の一例である非水電解質二次電池の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
上述のように、非水電解質二次電池において、高いエネルギー密度と優れた出力特性を両立することは重要な課題である。本発明者らは、かかる課題を解決すべく鋭意検討した結果、上述の第1層及び第2層を含む負極合材層を用いることにより、高エネルギー密度で、かつ出力特性に優れた非水電解質二次電池を実現することに成功した。シリコン系活物質と10%耐力が小さな柔らかい炭素系活物質とを含む第1層、及び10%耐力が大きな硬い炭素系活物質を含む第2層を設けることで、充放電に伴うシリコン系活物質の大きな体積変化に起因して発生し得る導電パスの切断が抑制され、その結果、良好な出力特性が長期にわたって維持されると考えられる。
【0010】
炭素系活物質の硬さは、黒鉛化度、非晶質成分量、及び粒子内部の空隙量に依存する。一般的に、黒鉛化度が高くなるほど、また非晶質成分の割合が多くなるほど、炭素系活物質は硬くなり10%耐力は大きくなる。空隙量が多くなるほど出力特性には有利であるが、例えば黒鉛化度を上げるために活物質の焼成温度を上げると、空隙は減少する。詳しくは後述するが、本発明者らは、小粒径の核黒鉛を使用して、ピッチ材との混合方法、焼成温度を工夫することにより、硬さと高い空隙率を有する黒鉛を合成することに成功した。第2層には、当該黒鉛を用いることが好適である。以下、図面を参照しながら実施形態の一例について詳細に説明する。
【0011】
以下では、巻回型の電極体14が円筒形の電池ケースに収容された円筒形電池を例示するが、電極体は、巻回型に限定されず、複数の正極と複数の負極がセパレータを介して交互に積層されてなる積層型であってもよい。また、本開示に係る非水電解質二次電池は、角形の金属製ケースを備える角形電池、コイン形の金属製ケースを備えるコイン形電池等であってもよく、金属層及び樹脂層を含むラミネートシートで構成された外装体を備えるラミネート電池であってもよい。
【0012】
図1は、実施形態の一例である非水電解質二次電池10の断面図である。
図1に例示するように、非水電解質二次電池10は、電極体14と、非水電解質(図示せず)と、電極体14及び非水電解質を収容する電池ケース15とを備える。電極体14は、正極11と、負極12と、セパレータ13とを備え、正極11と負極12がセパレータ13を介して巻回された巻回構造を有する。電池ケース15は、有底円筒形状の外装缶16と、外装缶16の開口部を塞ぐ封口体17とで構成されている。
【0013】
非水電解質は、非水溶媒と、非水溶媒に溶解した電解質塩とを含む。非水溶媒には、例えばエステル類、エーテル類、ニトリル類、アミド類、およびこれらの2種以上の混合溶媒等を用いてもよい。非水溶媒は、これら溶媒の水素の少なくとも一部をフッ素等のハロゲン原子で置換したハロゲン置換体を含有していてもよい。なお、非水電解質は液体電解質に限定されず、ゲル状ポリマー等を用いた固体電解質であってもよい。電解質塩には、LiPF6等のリチウム塩が使用される。
【0014】
非水電解質二次電池10は、電極体14の上下にそれぞれ配置された絶縁板18,19を備える。
図1に示す例では、正極11に取り付けられた正極リード20が絶縁板18の貫通孔を通って封口体17側に延び、負極12に取り付けられた負極リード21が絶縁板19の外側を通って外装缶16の底部側に延びている。正極リード20は封口体17の底板であるフィルタ23の下面に溶接等で接続され、フィルタ23と電気的に接続された封口体17の天板であるキャップ27が正極端子となる。負極リード21は外装缶16の底部内面に溶接等で接続され、外装缶16が負極端子となる。
【0015】
外装缶16は、例えば有底円筒形状の金属製容器である。外装缶16と封口体17との間にはガスケット28が設けられ、電池内部の密閉性が確保されている。外装缶16には、例えば側面部の一部が内側に張り出した、封口体17を支持する張出部22が形成されている。張出部22は、外装缶16の周方向に沿って環状に形成されることが好ましく、その上面で封口体17を支持する。
【0016】
封口体17は、電極体14側から順に、フィルタ23、下弁体24、絶縁部材25、上弁体26、及びキャップ27が積層された構造を有する。封口体17を構成する各部材は、例えば円板形状又はリング形状を有し、絶縁部材25を除く各部材は互いに電気的に接続されている。下弁体24と上弁体26は各々の中央部で互いに接続され、各々の周縁部の間には絶縁部材25が介在している。異常発熱で電池の内圧が上昇すると、下弁体24が上弁体26をキャップ27側に押し上げるように変形して破断し、下弁体24と上弁体26の間の電流経路が遮断される。さらに内圧が上昇すると、上弁体26が破断し、キャップ27の開口部からガスが排出される。
【0017】
以下、電極体14の各構成要素について、特に負極12について詳説する。
【0018】
[正極]
正極11は、正極集電体30と、正極集電体30上に設けられた正極合材層31とを有する。正極集電体30には、アルミニウム、アルミニウム合金など正極11の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。正極合材層31は、正極活物質、アセチレンブラック等の導電材、及びポリフッ化ビニリデン(PVdF)等の結着材を含み、正極集電体30の両面に設けられることが好ましい。正極11は、正極集電体30上に正極活物質、導電材、及び結着材等を含む正極合材スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧縮して正極合材層31を正極集電体30の両面に形成することにより作製できる。
【0019】
正極活物質には、例えばリチウム金属複合酸化物が用いられる。リチウム金属複合酸化物に含有される金属元素としては、Ni、Co、Mn、Al、B、Mg、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Ga、Sr、Zr、Nb、In、Sn、Ta、W等が挙げられる。好適なリチウム金属複合酸化物の一例は、Ni、Co、Mnの少なくとも1種を含有するリチウム金属複合酸化物である。具体例としては、Ni、Co、Mnを含有するリチウム金属複合酸化物、Ni、Co、Alを含有するリチウム金属複合酸化物が挙げられる。なお、リチウム金属複合酸化物の粒子表面には、酸化タングステン、酸化アルミニウム、ランタノイド含有化合物等の無機物粒子などが固着していてもよい。
【0020】
[負極]
負極12は、負極集電体40と、負極集電体40上に設けられた負極合材層41とを有する。負極集電体40には、銅など負極12の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。負極合材層41は、負極活物質、及び結着材を含み、負極集電体40の両面に設けられることが好ましい。負極12は、例えば負極集電体40上に負極活物質、及び結着材等を含む負極合材スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧縮して負極合材層41を負極集電体40の両面に形成することにより作製できる。
【0021】
負極合材層41は、負極集電体40側から順に形成された第1層42及び第2層43を有する。第1層42は、10%耐力が3MPa以下の第1の炭素系活物質(以下、炭素系活物質Aとする)と、Siを含有するシリコン系活物質とを含む。第2層43は、10%耐力が5MPa以上の第2の炭素系活物質(以下、炭素系活物質Bとする)を含み、第1層42よりもシリコン系活物質の含有率(質量比)が低い。炭素系活物質A,Bは、炭素材料からなる負極活物質であって、黒鉛を主成分とすることが好ましい。黒鉛としては、鱗片状黒鉛、塊状黒鉛、土状黒鉛等の天然黒鉛、塊状人造黒鉛、黒鉛化メソフェーズカーボンマイクロビーズ等の人造黒鉛が例示できる。
【0022】
負極合材層41は、第3の層を有していてもよいが、好ましくは第1層42及び第2層43からなる2層構造を有する。当該2層構造は、負極集電体40の両側に形成されることが好ましい。なお、負極合材層41には、本開示の目的を損なわない範囲で、炭素系活物質A,B及びシリコン系活物質以外の負極活物質が含まれていてもよい。
【0023】
第1層42及び第2層43には、硬さの異なる炭素系活物質A,Bがそれぞれ添加される。第1層42の炭素系活物質Aは、第2層43の炭素系活物質Bよりも柔らかい。また、シリコン系活物質の含有率は第1層42>第2層43であり、第2層43は実質的にシリコン系活物質を含まないことが好ましい。各層のシリコン系活物質の含有率は、各層の総質量に対する、各層に含まれるシリコン系活物質の質量の比率である。負極合材層41を当該2層構造とすることで、高エネルギー密度で、かつ優れた出力特性が得られる。充放電に伴うシリコン系活物質の大きな体積変化を柔らかい炭素系活物質Aが緩和して導電パスの切断を抑制しつつ、硬い炭素系活物質Bにより良好な出力特性が確保されると考えられる。
【0024】
負極合材層41の厚みは、例えば負極集電体40の片側で20μm~120μmである。第1層42の厚みは、負極合材層41の厚みの30~80%が好ましく、50~70%がより好ましい。第2層43の厚みは、負極合材層41の厚みの20~70%が好ましく、30~50%がより好ましい。この場合、高いエネルギー密度と良好な出力特性を両立し易い。第2層43の厚みは、例えば第1層42の厚みより薄くてもよく、略同じであってもよい。
【0025】
シリコン系活物質は、上述のように、第1層42のみに含まれることが好ましい。シリコン系活物質は、Si又はSiを含有する化合物であって、好ましくはSiOx(0.5≦x≦1.6)で表されるシリコン酸化物である。SiOxで表されるシリコン酸化物は、非晶質のSiO2マトリックス中にSiの微粒子が分散した構造を有する。また、シリコン系活物質は、リチウムシリケート相中にSiの微粒子が分散した、Li2ySiO(2+y)(0<y<2)で表される化合物であってもよい。
【0026】
シリコン系活物質の粒子表面には、Si又はSiを含有する化合物よりも導電性の高い材料で構成される導電被膜が形成されていることが好ましい。導電被膜の構成材料としては、炭素材料、金属、及び金属化合物から選択される少なくとも1種が例示できる。中でも、非晶質炭素等の炭素材料が好ましい。炭素被膜は、例えばアセチレン、メタン等を用いたCVD法、石炭ピッチ、石油ピッチ、フェノール樹脂等をシリコン系活物質と混合し、熱処理を行う方法などで形成できる。また、カーボンブラック等の導電フィラーを結着材を用いてシリコン系活物質の粒子表面に固着させることで導電被膜を形成してもよい。
【0027】
第1層42におけるシリコン系活物質の含有量は、第1層42の総質量に対して、例えば4~20質量%であり、好ましくは6~12質量%である。炭素系活物質Aとシリコン系活物質との混合比率は、例えば質量比で1:99~20:80であり、好ましくは5:95~15:85である。シリコン系活物質の添加量が当該範囲内であれば、高いエネルギー密度と良好な出力特性、また良好なサイクル特性を並立し易い。
【0028】
SiOxで表されるシリコン酸等のシリコン系活物質の体積基準のメジアン径(以下、D50とする)は、炭素系活物質AのD50の0.5倍以下であることが好ましい。この場合、炭素系活物質Aによってシリコン系活物質の体積変化を緩和することが容易になる。シリコン系活物質のD50は、例えば0.5~20μmである。シリコン系活物質の粒径が小さい方が充放電に伴う体積変化が小さくなる傾向にある。炭素系活物質A,BのD50は、例えば5~30μmである。シリコン系活物質及び炭素系活物質A,BのD50は、例えばレーザー回折散乱式粒子径分布測定装置(HORIBA製、商品名「LA-920」)により測定される。
【0029】
上述のように、炭素系活物質Aは10%耐力が3MPa以下の柔らかい粒子である。他方、炭素系活物質Bは10%耐力が5MPa以上の硬い粒子である。炭素系活物質Aはシリコン系活物質の体積変化を緩和し、炭素系活物質Bは出力特性を向上させる。負極12の表面側に炭素系活物質Bを含む第2層43を、負極集電体40側にシリコン系活物質及び炭素系活物質Aを含む第1層42をそれぞれ設けることで、高出力と高エネルギー密度を効率良く実現でき、またサイクル特性も向上する。なお、本開示の目的を損なわない範囲で、第1層42に炭素系活物質Bが、第2層43に炭素系活物質Aが混在していてもよい。
【0030】
本明細書において、10%耐力とは、炭素系活物質A,Bの粒子が体積比率で10%圧縮された際の圧力を意味する。10%耐力は、炭素系活物質A,Bの粒子1個について、微小圧縮試験機(株式会社島津製作所製、MCT-211)等を用いて測定できる。当該測定には、炭素系活物質A,Bの各D50と同等の粒子径の粒子を用いる。
【0031】
炭素系活物質Aは粒子内に空隙を有していなくてもよいが、炭素系活物質Bは粒子内に空隙を有することが好ましい。具体的に、炭素系活物質Bは、1~5%の空隙率を有することが好適である。この場合、10%耐力が5MPa以上の硬さを確保しながら、出力特性を高めることが容易になる。炭素系活物質Aの空隙率は、例えば2~10である。炭素系活物質A,Bの空隙率は、イオンミリング装置を使用して活物質の断面を作成し、走査型電子顕微鏡(SEM)よって観察することで測定できる。
【0032】
炭素系活物質Aは非晶質成分(非晶質炭素)を実質的に含有していなくてもよいが、炭素系活物質Bは非晶質成分を含有することが好ましい。具体的に、炭素系活物質Bは、1~5質量%の非晶質成分を含有することが好適である。この場合、5MPa以上の10%耐力を確保することが容易になる。炭素系活物質Aの非晶質成分量は、例えば0.1~2質量%であり、炭素系活物質Bの非晶質成分量よりも少ない。
【0033】
炭素系活物質A,Bの非晶質成分量(非晶質炭素量)は、ラマン分光測定により定量できる。炭素系活物質A,Bのラマンスペクトルには、1590cm-1付近にグラファイト構造に由来するGバンド(G-band)のピークが、1350cm-1付近に欠陥に由来するDバンド(D-band)のピークがそれぞれ現れる。D-band/G-bandのピーク強度比は、非晶質炭素量の指標として使用でき、当該比率が高いほど非晶質炭素量が多いことを意味する。
【0034】
D-band/G-band比は、例えば第1層42及び第2層43の各断面をラマン分光測定することで求められる。第1層42に炭素系活物質として炭素系活物質Aのみが含まれる場合、第1層42のD-band/G-band比(R値)は炭素系活物質Aの当該比率となる(第2層43の炭素系活物質Bについても同様)。炭素系活物質AのD-band/G-band比は、0.05~0.2が好ましい。炭素系活物質BのD-band/G-band比は、0.1~2.0が好ましい。第1層42のラマン分光スペクトルのD-band/G-band比に対する、第2層43のラマン分光スペクトルのD-band/G-band比の比率は、2~10が好ましく、4~6がより好ましい。
【0035】
非晶質炭素は、グラファイト結晶構造が発達していない炭素であって、アモルファス又は微結晶で乱層構造な状態の炭素である。より具体的には、X線回折によるd(002)面間隔が0.342nm以上である成分を意味する。非晶質炭素の具体例としては、ハードカーボン(難黒鉛化炭素)、ソフトカーボン(易黒鉛化炭素)、カーボンブラック、カーボンファイバー、活性炭などが挙げられる。非晶質炭素は、例えば樹脂又は樹脂組成物を炭化処理することで得られる。非晶質炭素の原料には、フェノール系の熱硬化性樹脂、ポリアクリロニトリル等の熱可塑性樹脂、石油系又は石炭系のタール、ピッチなどを用いることができる。
【0036】
カーボンブラックは、例えば原料となる炭化水素を熱分解(熱分解法、不完全燃焼法)することにより得られる。熱分解法としては、サーマル法、アセチレン分解法等が挙げられる。不完全燃焼法としては、コンタクト法、ランプ・松煙法、ガスファーネス法、オイルファーネス法等が挙げられる。これらの製造方法により得られるカーボンブラックの具体例としては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、サーマルブラック、ファーネスブラック等が挙げられる。
【0037】
非晶質炭素は、黒鉛系炭素の表面に固着した状態で存在することが好ましい。ここで、固着しているとは、化学的及び/又は物理的に結合している状態であって、負極活物質を水や有機溶剤中で攪拌しても黒鉛系炭素の表面から非晶質炭素が遊離しないことを意味する。炭素系活物質の非晶質炭素の物性及び固着量は、例えば原料(石油系又は石炭系のタール、ピッチ等)の種類、量、炭化処理の温度、時間等により調整できる。
【0038】
第2層43に含まれる炭素系活物質Bは、上述のように、10%耐力が5MPa以上の硬さと、1~5%の空隙率を有することが好ましい。このような炭素系活物質Bは、例えば、空隙を有するコア部とコア部を覆うように配置されるシェル部からなる。コア部は、黒鉛及び非晶質炭素から構成され、内部に空隙を有する構造であることが望ましい。シェル部は、非晶質炭素から構成され、厚みは50nm以上が好ましい。コア部とシェル部の重量比率は99:1~95:5が望ましい。シェル部の空隙率は、コア部の空隙率より低いことが好ましい。コア部の空隙率は1~5%、シェル部分の空隙率は0.01~1%であることが望ましい。シェル部が一定以上の厚みを持ち、空隙率が少ない炭素系活物質Bは、10%耐力が向上する。炭素活物質Bを用いることで、負極12を圧縮する際に粒子が崩壊して、内部のコア部の空隙を維持することができなくなり、出力が低下することを抑制することができる。
【0039】
例えば、コア部は、黒鉛と、黒鉛化可能なバインダーを混合物し、不活性ガス雰囲気下、あるいは非酸化性雰囲気下で500~3000℃に加熱し、炭素化物質を粉砕、解砕、分級処理・球形化処理などの粉体加工により作成される。黒鉛は、天然黒鉛や人造黒鉛が例示される。人造黒鉛はニードルコークス、モザイクコークスなどのコークスから焼成される粉末を挙げることができる。黒鉛の平均粒子径は、10μm以下、より望ましくは5μm以下である。小さい粒子径の黒鉛を使用することで、粒子内部の空隙が発生しやすくなり、出力特性が向上するためである。
【0040】
上記黒鉛化可能なバインダーとしては、石炭系、石油系、人造系等のピッチ及びタール、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂などが挙げられる。また、空隙を形成するため、残炭率の小さな添加物を混合するとより好ましい。黒鉛とバインダーの混合の方法は特に限定されないが、圧縮せん断を印加できる機器で混合すると、より均一にバインダーが配置されることとなり、より固い粉末を形成することができるため、好ましい。これらの混合比率は限定されないが、バインダー成分の残留炭素分と黒鉛との比率は1:99~30:70とすることが好ましい。熱処理をする際の温度は特に限定されないが、1500℃以上であることが望ましく、2500℃以上で行ってもよい。
【0041】
例えば、シェル部は、アセチレン、メタン等を用いたCVD法、石炭ピッチ、石油ピッチ、フェノール樹脂等をコア部の炭素材料と混合し、熱処理を行う方法などで形成できる。上記のような作製方法を用いることで、炭素系活物質Bを得ることができる。
【0042】
負極合材層41に含まれる結着材には、正極11の場合と同様に、フッ素樹脂、PAN、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂等を用いることも可能であるが、好ましくはスチレンブタジエンゴム(SBR)が用いられる。負極合材層41は、さらに、CMC又はその塩、ポリアクリル酸(PAA)又はその塩、ポリビニルアルコールなどを含むことが好ましい。第1層42と第2層43とで、使用する結着材の種類及び量を変更してもよい。
【0043】
第1層42は、SBRとCMC又はその塩と共に、PAA又はその塩を含むことが好ましい。PAA又はその塩はシリコン系活物質に対する密着力が強く、これを用いることで、第1層42の強度を高めることができる。PAA又はその塩の含有量は、第1層42の総質量に対して、0.1~3質量%が好ましく、0.5~2質量%がより好ましい。PAA又はその塩の含有量は顕微ラマン分光法、SEM-EDX等により測定できる。
【0044】
[セパレータ]
セパレータ13には、イオン透過性及び絶縁性を有する多孔性シートが用いられる。多孔性シートの具体例としては、微多孔薄膜、織布、不織布等が挙げられる。セパレータ13の材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン樹脂、セルロースなどが好適である。セパレータ13は、単層構造、積層構造のいずれであってもよい。セパレータ13の表面には、耐熱層などが形成されていてもよい。
【実施例】
【0045】
以下、実施例により本開示をさらに説明するが、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0046】
<実施例1>
[正極の作製]
正極活物質として、Li1.0Ni0.5Co0.2Mn0.3O2で表されるリチウム含有遷移金属酸化物を用いた。当該正極活物質と、アセチレンブラックと、PVdFとを、94.8:4:1.2の質量比で混合し、N-メチル-2-ピロリドンを適量加えて、正極合材スラリーを調製した。当該正極合材スラリーをアルミニウム箔からなる正極集電体の両面に、リードが接続される部分を残して塗布し、塗膜を乾燥させた後、ローラーを用いて塗膜を圧延し、所定の電極サイズに切断して、正極集電体の両面に正極合材層が形成された正極を作製した。
【0047】
[第1負極合材スラリーの調製]
10%耐力が2.1MPaである黒鉛(炭素系活物質A)と、炭素被膜を有するSiOx(x=0.94)と、CMCのナトリウム塩と、SBRとを、88:9:1:1の質量比で混合し、水を適量加えて、第1層用の第1負極合材スラリーを調製した。
【0048】
[第2負極合材スラリーの調製]
10%耐力が5.7MPaである黒鉛(炭素系活物質B)と、PAAのリチウム塩と、CMCのナトリウム塩と、SBRとを、97:1:1:1の質量比で混合し、水を適量加えて、第2層用の第2負極合材スラリーを調製した。
【0049】
[負極の作製]
第1負極合材スラリーを銅箔からなる負極集電体の両面に、リードが接続される部分を残して塗布し、塗膜を乾燥させて第1層を形成した。次に、第2負極合材スラリーを第1層上に塗布し、塗膜を乾燥させて第2層を形成した。そして、ローラーを用いて塗膜(第1層及び第2層)を圧延し、所定の電極サイズに切断して、負極集電体の両面に第1層及び第2層を含む負極合材層が形成された負極を作製した。負極合材層の第1層及び第2層の厚みを測定した結果、第2層/第1層の厚み比は2.0であった。
【0050】
[非水電解質の調製]
エチレンカーボネート(EC)と、エチルメチルカーボネート(EMC)とを、3:7の体積比で混合した混合溶媒に、LiPF6を1.0モル/リットルの濃度になるように溶解した。さらに、ビニレンカーボネート(VC)を上記混合溶媒に対して2体積%の濃度で溶解させて、非水電解質を調製した。
【0051】
[試験セルの作製]
上記正極及び上記負極にリードをそれぞれ取り付け、ポリプロピレン製のセパレータを介して各電極を渦巻き状に巻回して巻回構造の電極体を作製した。当該電極体をアルミラミネートシートで構成される電池外装体内に収容し、上記非水電解質を注入した後、外装体を封止して、設計容量640mAhの試験セル(ラミネートセル)を作製した。
【0052】
実施例・比較例の負極活物質及び試験セルについて、以下の方法で評価を行った。評価結果は表1に示す。
【0053】
[炭素系活物質の10%耐力の測定]
島津製作所製、微小圧縮試験機(MCT-211)を用いて、各炭素系活物質のD50と同等の粒子径である粒子1個の体積が10%圧縮されたときの圧力を、10%耐力として測定した。
【0054】
[炭素系活物質の空隙率の測定]
試料電極又は観察対象の電極をエポキシ樹脂に埋め込んだ後、日本電子製、イオンミリング装置(クロスセクションポリッシャ)を用いて、断面作成を行った。その後、走査電子顕微鏡(SEM)にて断面を観察し、活物質の断面の面積とその中に含まれる空隙との面積を算出し、それらの比を空隙率とした。
【0055】
[炭素系活物質の非晶質成分量の測定]
負極合材層(第1層及び第2層)に含まれる炭素系活物質の非晶質成分量はラマン分光測定により評価した。炭素系活物質のラマンスペクトルにおけるD-band/G-bandのピーク強度比(R値)は、上述のように、非晶質炭素量の指標として使用でき、当該比率が高いほど非晶質炭素量が多いことを意味する。第1層及び第2層のラマン分光測定を行って各層のD-band/G-band比を求め、当該比率から非晶質成分量を算出した。
【0056】
[炭素系活物質のBET比表面積の測定]
micromeritics製、TriStarを用いて、炭素系活物質のBET比表面積を測定した。
【0057】
[サイクル試験後の抵抗増加率の評価]
試験セルを、25℃の温度環境下、0.5Itの定電流で初期容量の半分まで充電した後、充電を止めて15分間放置した。その後、0.1Itの定電流で10秒間充電をした時の電圧を測定した。10秒間の充電容量分を放電した後、電流値を変更して10秒間充電し、そのときの電圧を測定した後、10秒間の充電容量分を放電した。当該充放電及び電圧測定を、0.1Itから2Itまでの電流値で繰り返した。測定した電圧値と電流値の関係性から抵抗値を求め、サイクル試験前の抵抗値とした。
【0058】
下記の条件でサイクル試験を行い、200サイクル後の抵抗値を上記方法により求めて、サイクル試験前の抵抗値に対する200サイクル後の抵抗値の増加率を算出した。
【0059】
(サイクル試験)
試験セルを、25℃の温度環境下、0.5Itの定電流で電池電圧が4.2Vになるまで定電流充電を行い、4.2Vで電流値が1/50Itになるまで定電圧充電を行った。その後、0.5Itの定電流で電池電圧が2.5Vになるまで定電流放電を行った。この充放電サイクルを200サイクル繰り返した。
【0060】
<実施例2>
炭素系活物質Bとして、10%耐力が6.6MPa、空隙率が2%、非晶質成分量が1.5質量%、BET比表面積が4.4m2/gの黒鉛を用いたこと以外は、実施例1と同様にして負極及び試験セルを作製した。
【0061】
<実施例3>
炭素系活物質Bとして、10%耐力が27MPa、空隙率が3.1%、非晶質成分量が4.0質量%、BET比表面積が3.0m2/gの黒鉛を用いたこと以外は、実施例1と同様にして負極及び試験セルを作製した。
【0062】
<比較例1>
炭素系活物質Bとして、10%耐力が2.1MPa、空隙率が4.2%、非晶質成分量が0.6質量%、BET比表面積が4.0m2/gの黒鉛を用い、第2層にSiOx(x=0.94)を第1層と同じ含有率で添加したこと以外は、実施例1と同様にして負極及び試験セルを作製した。
【0063】
<比較例2>
第2層にSiOx(x=0.94)を添加しなかったこと以外は、比較例1と同様にして負極及び試験セルを作製した。
【0064】
<比較例3>
炭素系活物質Bとして、10%耐力が5.7MPa、空隙率が2.5%、非晶質成分量が1.5質量%、BET比表面積が4.4m2/gの黒鉛を用いたこと以外は、比較例1と同様にして負極及び試験セルを作製した。
【0065】
<比較例4>
炭素系活物質Bとして、10%耐力が44MPa、空隙率が0%、非晶質成分量が0.5質量%、BET比表面積が0.9m2/gの黒鉛を用いたこと以外は、比較例1と同様にして負極及び試験セルを作製した。
【0066】
【0067】
表1に示すように、実施例の試験セルはいずれも、比較例の試験セルと比べてサイクル試験後の抵抗増加率が低い値であった。特に、第2層に含まれる炭素系活物質Bの10%耐力が大きくなるほど、抵抗の抑制効果が高い。
【符号の説明】
【0068】
10 非水電解質二次電池
11 正極
12 負極
13 セパレータ
14 電極体
15 電池ケース
16 外装缶
17 封口体
18,19 絶縁板
20 正極リード
21 負極リード
22 張出部
23 フィルタ
24 下弁体
25 絶縁部材
26 上弁体
27 キャップ
28 ガスケット
30 正極集電体
31 正極合材層
40 負極集電体
41 負極合材層
42 第1層
43 第2層