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特許7161536引張強度及び低温衝撃靭性に優れた圧力容器用鋼板及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-18
(45)【発行日】2022-10-26
(54)【発明の名称】引張強度及び低温衝撃靭性に優れた圧力容器用鋼板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20221019BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20221019BHJP
   C21D 8/02 20060101ALI20221019BHJP
   C21D 9/00 20060101ALI20221019BHJP
   C21D 9/50 20060101ALI20221019BHJP
【FI】
C22C38/00 301A
C22C38/58
C21D8/02 B
C21D9/00 L
C21D9/50 101B
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020532603
(86)(22)【出願日】2018-12-06
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-02-22
(86)【国際出願番号】 KR2018015424
(87)【国際公開番号】W WO2019117536
(87)【国際公開日】2019-06-20
【審査請求日】2020-07-20
(31)【優先権主張番号】10-2017-0173648
(32)【優先日】2017-12-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコ
【氏名又は名称原語表記】POSCO
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ホン,スン-テク
【審査官】宮脇 直也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/099408(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/111416(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第102912228(CN,A)
【文献】韓国公開特許第10-2011-0060449(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00 - 38/60
C21D 8/02
C21D 9/00
C21D 9/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、C:0.12~0.20%、Si:0.30~0.40%、Mn:1.50
~1.70%、Mo:0.03~0.10%、Cu:0.05~0.30%、V:0.0
3~0.10%、Ni:0.03~0.25%、Cr:0.03~0.25%、Al:0
.005~0.06%、Ca:0.0005~0.0030%、P:0.025%以下、
S:0.025%以下を含み、さらに、Ti:0.003~0.015%、Nb:0.0
05~0.025%、及びTa:0.002~0.050%からなる群より選択された2種以上を含み、残部はFe及びその他の不可避不純物からなり、
鋼板の厚さ方向の全体領域での微細組織は、フェライト、焼戻しベイナイト、パーライト、及びジジェネレーテッドパーライトのうち1種又は2種を含む混合組織からなり、
前記焼戻しベイナイトの分率は5~50面積%であり、
鋼板の厚さ方向の全体領域はサイズが5~80nmであるMX[(M=Ti、Nb、Ta)、[X=N、C]]型析出物を0.003~0.15体積%含むことを特徴とする引張強度及び低温衝撃靭性に優れた圧力容器用鋼板。
【請求項2】
前記圧力容器用鋼板は、580~630℃の温度範囲で10時間の溶接後熱処理(Post Weld Heat Treatment、PWHT)後にも引張強度が590MPa以上であり、-50℃におけるシャルピー衝撃エネルギー値が150J以上であることを特徴とする請求項1に記載の引張強度及び低温衝撃靭性に優れた圧力容器用鋼板。
【請求項3】
請求項1または2に記載された圧力容器用鋼板を製造するための方法であって、
重量%で、C:0.12~0.20%、Si:0.30~0.40%、Mn:1.50~1.70%、Mo:0.03~0.10%、Cu:0.05~0.30%、V:0.03~0.10%、Ni:0.03~0.25%、Cr:0.03~0.25%、Al:0.005~0.06%、Ca:0.0005~0.0030%、P:0.025%以下、S:0.025%以下を含み、さらに、Ti:0.003~0.015%、Nb:0.005~0.025%、及びTa:0.002~0.050%からなる群より選択された2種以上を含み、残部はFe及びその他の不可避不純物からなる鋼スラブを950~1200℃で再加熱する段階と、
前記再加熱された鋼スラブをパス当たりの圧下率2.5~30%で熱間圧延して熱延鋼板を得る段階と、
前記熱延鋼板を820~930℃で1.3×t+(10~30分)(但し、tは鋼板の厚さ(mm)である)の間焼きならし熱処理する段階と、
前記焼きならし熱処理された熱延鋼板を焼きならし温度範囲から450℃までの温度区間で(1/4)t(但し、tは鋼板の厚さ(mm)である)を基準に0.5~30℃/sの冷却速度で冷却する段階と、
前記冷却された熱延鋼板を550~680℃で1.6×t+(10~30分)(但し、tは鋼板の厚さ(mm)である)の間焼戻し熱処理する段階と、を含むことを特徴とする引張強度及び低温衝撃靭性に優れた圧力容器用鋼板の製造方法。






【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、引張強度及び低温衝撃靭性に優れた圧力容器用鋼板及びその製造方法に係り、より詳しくは、CO貯蔵タンク及び圧力容器などの素材として好ましく適用することができる引張強度及び低温衝撃靭性に優れた圧力容器用鋼板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、地球環境政策に伴う温室効果ガスの主犯である炭素ガスを貯蔵及び運搬するCO2貯蔵タンク及び圧力容器に対する需要が増大しつつある。かかる鋼材に対する高強度化及び低温靭性の確保が重要な課題となっている。
【0003】
上記のような鋼材の高強度化及び低温靭性の確保に加えて、鋼材を溶接した場合、溶接後の構造物の変形を防止し、且つ形状及び寸法を安定させるための目的として、溶接時に発生した応力を除去すべく、溶接後熱処理(PWHT、Post Weld Heat Treatment)を行うようになる。但し、長時間のPWHT工程を行った鋼板には、その組織の粗大化により鋼板の引張強度が低下するという問題がある。
【0004】
すなわち、長時間のPWHT後には、基地組織(Matrix)及び結晶粒界の軟化、結晶粒成長、炭化物の粗大化などにより、強度及び靭性がともに低下する現象をもたらすようになる。
【0005】
従来、非特許文献1のASTM A612鋼のように、重量%で、C:0.25%以下、Si:0.15~0.50%、Mn:1.00~1.50%、Mo及びV:0.08%以下、Cu:0.3%以下、Ni:0.25%以下、Cr:0.25%以下、P:0.025%以下、S:0.025%以下で構成された鋼板材を活用して、As rolled又は焼きならし或いは焼きならし+SR(Stress Relief)熱処理パターンを適用して製造した。このように製造された鋼を用いるとき、構造物製作のために必須の溶接を行うようになる。ここで、溶接後の構造物の変形を防止し、且つ形状及び寸法を安定させるために、溶接時に発生した応力を除去すべく、溶接後熱処理(PWHT、Post Weld Heat Treatment)を行うようになる。しかし、長時間のPWHT工程を行った鋼板には、その組織の粗大化により鋼板の引張強度及び低温衝撃靭性が大きく低下するという問題がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】A612/A612M-12:Standard Specification for Pressure Vessel Plates、Carbon Steel、High Strength、for Moderate and Lower Temperature Service
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、PWHT熱処理後にも、引張強度及び低温衝撃靭性に優れた圧力容器用鋼板及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施形態は、重量%で、C:0.12~0.20%、Si:0.30~0.40%、Mn:1.50~1.70%、Mo:0.03~0.10%、Cu:0.05~0.30%、V:0.03~0.10%、Ni:0.03~0.25%、Cr:0.03~0.25%、Al:0.005~0.06%、Ca:0.0005~0.0030%、P:0.025%以下、S:0.025%以下を含み、追加的に、Ti:0.003~0.015%、Nb:0.005~0.025%、及びTa:0.002~0.050%からなる群より選択された2種以上を含み、残部はFe及びその他の不可避不純物からなり、微細組織は、フェライト、焼戻しベイナイト、パーライト、及びジジェネレーテッドパーライトのうち1種又は2種を含む混合組織からなり、上記焼戻しベイナイトの分率は5~50面積%である引張強度及び低温衝撃靭性に優れた圧力容器用鋼板を提供する。
【0009】
本発明の他の実施形態は、重量%で、C:0.12~0.20%、Si:0.30~0.40%、Mn:1.50~1.70%、Mo:0.03~0.10%、Cu:0.05~0.30%、V:0.03~0.10%、Ni:0.03~0.25%、Cr:0.03~0.25%、Al:0.005~0.06%、Ca:0.0005~0.0030%、P:0.025%以下、S:0.025%以下を含み、追加的に、Ti:0.003~0.015%、Nb:0.005~0.025%、及びTa:0.002~0.050%からなる群より選択された2種以上を含み、残部はFe及びその他の不可避不純物からなる鋼スラブを950~1200℃で再加熱する段階と、上記再加熱された鋼スラブをパス当たりの圧下率2.5~30%で熱間圧延して熱延鋼板を得る段階と、上記熱延鋼板を820~930℃で1.3×t+(10~30分)(但し、tは鋼板の厚さ(mm)である)の間焼きならし熱処理する段階と、上記焼きならし熱処理された前記熱延鋼板を焼きならし温度範囲から450℃までの温度区間で(1/4)t(但し、tは鋼板の厚さ(mm)である)を基準に0.5~30℃/sの冷却速度で冷却する段階と、上記冷却された熱延鋼板を550~680℃で1.6×t+(10~30分)(但し、tは鋼板の厚さ(mm)である)の間焼戻し熱処理する段階と、を含む引張強度及び低温衝撃靭性に優れた圧力容器用鋼板の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の実施によると、PWHT熱処理後にも引張強度及び低温衝撃靭性に優れた圧力容器用鋼板及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。先ず、本発明の合金組成について説明する。但し、下記説明する合金組成は、特別な記載がない限り重量%を意味する。
【0012】
C:0.12~0.20%
Cは、強度を向上させる元素であって、その含有量が0.12%未満の場合には、基地相自体の強度が低下し、0.20%を超えると、過度な強度の増大によって靭性及び溶接性が低下するという問題がある。
【0013】
Si:0.30~0.40%
Siは、脱酸及び固溶強化に効果的な元素であり、衝撃遷移温度の上昇を伴う元素である。目標強度を達成するために0.30%以上添加される必要があるが、0.40%を超えて添加される場合には、溶接性が低下し、衝撃靭性が劣化する。
【0014】
Mn:1.50~1.70%
Mnは、鋼の強度及び低温靭性に重要な影響を与える合金元素である。Mnの含有量が低すぎる場合には、強度及び靭性が劣化する可能性があるため、1.50%以上添加することが好ましい。但し、その含有量が高すぎる場合には、溶接性が低下し、鋼の製造原価が上昇するおそれがあるため、その上限は1.70%に限定することが好ましい。
【0015】
Mo:0.03~0.10%
Moは、鋼の焼入性を向上させ、硫化物クラックを防止するだけでなく、焼入れ-焼戻し後の微細炭化物の析出による鋼の強度向上に有効な元素である。本発明では、かかる効果を得るために、0.03%以上添加することが好ましい。但し、その含有量が高すぎる場合には、鋼の製造原価が上昇するおそれがあるため、その上限は0.10%に限定することが好ましい。
【0016】
Cu:0.05~0.30%
Cuは、強度の増大に効果的な元素であり、0.05%以上添加しなければ上記効果を得ることができない。但し、高価であるため、その上限は0.30%に限定することが好ましい。
【0017】
V:0.03~0.10%
Vは、微細な炭化物及び窒化物を容易に形成することができる元素であって、0.03%以上添加しなければ上記効果を得ることができない。但し、高価であるため、その上限は0.10%に限定することが好ましい。
【0018】
Ni:0.03~0.25%
Niは、低温靭性の向上に最も効果的な元素であり、その含有量が0.03%以上添加しなければ上記効果を得ることができない。但し、高価な元素であるため、製造コストの上昇をもたらすため、0.25%以下添加することが好ましい。
【0019】
Cr:0.03~0.25%
Crは、強度を増加させる元素である。本発明では、強度増加の効果のために0.03%以上添加する必要がある。但し、高価な元素であるため、0.25%を超えて添加する場合には、製造コストの上昇をもたらす。
【0020】
Al:0.005~0.06%
Alは、Siとともに製鋼工程における強力な脱酸剤のうち1つである。その含有量が0.005%未満の場合には脱酸効果がわずかであり、0.06%を超えて添加される場合には、脱酸効果が飽和し、製造原価が上昇するという問題がある。
【0021】
Ca:0.0005~0.0030%
Caは、CaSとして生成され、MnSの非金属介在物を抑制する役割を果たすため、5ppm以上添加する。しかし、その添加量が過多であると、鋼中に含有されたOと反応して非金属介在物であるCaOを生成して物性によくないため、その上限値を30ppmに限定する。
【0022】
P:0.025%以下
Pは、鋼中不可避に添加される不純物であって、低温靭性を低下させるとともに、焼戻し脆化感受性を増大させる元素である。したがって、その含有量をできるだけ低く制御することが好ましく、本発明では、Pの含有量を0.025%以下に管理する。
【0023】
S:0.025%以下
Sも、鋼中不可避に含有される不純物であって、低温靭性を低下させ、MnS介在物を形成して鋼の靭性を阻害する元素である。したがって、その含有量をできるだけ低く制御することが好ましく、本発明では、Sの含有量を0.025%以下に管理する。
【0024】
本発明の鋼板は、上述した合金組成に加えて、追加的に、Ti:0.003~0.015%、Nb:0.005~0.025%、及びTa:0.002~0.050%からなる群より選択された2種以上を含むことが好ましい。
【0025】
Ti:0.003~0.015%
Tiは、微細炭化物又は窒化物を形成して基地組織の軟化を防止するのに効果的な元素である。本発明では、かかる効果を得るために、0.003%以上添加する必要があるが、高価な元素であるため、その上限を0.015%に限定することが好ましい。
【0026】
Nb:0.005~0.025%
Nbは、微細炭化物又は窒化物を形成して基地組織の軟化を防止するのに効果的な元素である。本発明では、かかる効果を得るために、0.005%以上添加する必要があるが、高価な元素であるため、その上限を0.025%に限定することが好ましい。
【0027】
Ta:0.002~0.050%
Taは、微細炭化物又は窒化物を形成して基地組織の軟化を防止するのに効果的な元素である。本発明では、かかる効果を得るために、0.002%以上添加する必要があるが、高価な元素であるため、その上限を0.050%に限定することが好ましい。
【0028】
本発明の残りの成分は鉄(Fe)である。但し、通常の製造過程では、原料又は周囲の環境から意図しない不純物が不可避に混入されることがあるため、これを排除することはできない。かかる不純物は、通常の製造過程における技術者であれば誰でも分かるものであるため、そのすべての内容を具体的に本明細書に記載しない。
【0029】
本発明の圧力容器用鋼板は、その微細組織が、フェライト、焼戻しベイナイト、パーライト、及びジジェネレーテッドパーライトのうち1種又は2種を含む混合組織からなり、このような微細組織を確保することでPWHT後にも優れた強度及び低温衝撃靭性を確保することができる。
【0030】
このとき、上記焼戻しベイナイトの分率は5~50面積%であることが好ましい。上記混合組織のうち焼戻しベイナイトを5面積%以上確保することにより、PWHT抵抗性を向上させることができる。但し、50面積%を超えると、強度が上昇しすぎるという問題があり得る。したがって、上記焼戻しベイナイトの分率は、5~50面積%の範囲を有することがより好ましい。
【0031】
また、本発明の鋼板は、結晶粒内部に平均サイズが5~80nmであるMX[(M=Ti、Nb、Ta)、[X=N、C]]型析出物を体積分率で0.003~0.15%含むことが好ましい。上記のような析出物の制御を介してPWHT抵抗性をより向上させることができる。上記析出物のサイズが5nm未満の場合には、目標とする強度を確保することが難しくなる可能性がある。これに対し、80nmを超えると、衝撃靭性が低下する欠点があるおそれがある。また、上記析出物の分率が0.003体積%未満の場合には、強度向上の効果が十分でない可能性があり、0.15体積%を超えると、衝撃靭性が低下する欠点があるおそれがある。
【0032】
一方、上記析出物のサイズとは、鋼板の厚さ方向の断面を観察して検出した粒子の円相当直径(equivalent circular diameter)を意味する。
【0033】
上述した本発明の圧力容器用鋼板は様々な方法で製造することができ、その製造方法は特に制限されない。但し、好ましい一例として、次のような方法を適用することができる。
【0034】
以下、本発明の圧力容器用鋼板の製造方法の一実施形態について説明する。
【0035】
先ず、上述した合金組成を有する鋼スラブを950~1200℃で再加熱する。上記再加熱温度が950℃未満の場合には溶質原子の固溶が難しい。これに対し、1200℃を超えると、オーステナイト結晶粒サイズが過度に粗大となって鋼板の性質を阻害する可能性がある。
【0036】
上記再加熱された鋼スラブをパス当たりの圧下率2.5~30%で熱間圧延して熱延鋼板を得る。上記パス当たりの圧下率が2.5%未満の場合には、圧下量が不足して内部欠陥が発生する可能性があり、30%を超えると、設備の圧下能力を超えるおそれがある。
【0037】
上記熱延鋼板を820~930℃で1.3×t+(10~30分)(但し、tは鋼板の厚さ(mm)である)の間焼きならし熱処理する。上記焼きならし熱処理温度が820℃未満の場合には固溶溶質元素の再固溶が難しくなって、強度の確保が難しくなる。これに対し、930℃を超えると、結晶粒の成長が起こり、低温靭性を阻害するようになる。また、上記維持時間が1.3×t+10分)未満の場合には、組織の均質化が十分でない可能性があり、1.3×t+30分を超えると、生産性を阻害するおそれがある。
【0038】
上記焼きならし熱処理した熱延鋼板を焼きならし温度範囲から450℃までの温度区間で(1/4)t(但し、tは鋼板の厚さ(mm)である)を基準に、0.5~30℃/sの冷却速度で冷却する。上記冷却速度が0.5℃/s未満の場合には、適正なベイナイト変態が難しくなって、強度の確保が難しくなる。これに対し、30℃/sを超えると、過度なベイナイト分率を有する微細組織が得られるため、過度な引張強度が得られる。また、低温靭性も低下するおそれがある。
【0039】
上記冷却された熱延鋼板を550~680℃で1.6×t+(10~30分)(但し、tは鋼板の厚さ(mm)である)の間焼戻し熱処理する。上記焼戻し熱処理温度が550℃未満の場合には、微細析出物の析出が難しくなって、強度の確保が難しくなる。これに対し、680℃を超えると、析出物の成長が起こり、強度及び低温靭性を阻害する。また、上記焼戻し熱処理時における維持時間が1.6×t+10分未満の場合には、組織の均質化が十分でない可能性があり、1.6×t+30分を超えると、生産性を阻害するおそれがある。
【0040】
一方、上記熱処理工程を介して製造された本発明の圧力容器用鋼板は、圧力容器の製作時に付加される溶接工程により、残留応力の除去などのためのPWHT処理が必要となる。一般に、長時間のPWHT熱処理後には強度及び靭性が劣化する。これに対し、本発明によって製造された鋼板は、通常のPWHT条件である580~650℃の温度範囲で熱処理した後にも、強度及び靭性が大きく低下することなく溶接施工が可能であるという長所がある。一例として、本発明の圧力容器用鋼板は、580~650℃の温度範囲で10時間の溶接後熱処理(Post Weld Heat Treatment、PWHT)にも引張強度が590MPa以上であり、-50℃におけるシャルピー衝撃エネルギー値が150J以上であることができる。
【実施例
【0041】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。但し、下記実施例は、本発明を例示して、より詳細に説明するためのものにすぎず、本発明の権利範囲を限定するためのものではない点に留意する必要がある。本発明の権利範囲は、特許請求の範囲に記載された事項と、それから合理的に類推される事項によって決定されるものであるためである。
【0042】
(実施例)
下記表1に記載した合金組成を有する鋼スラブを1140℃で300分間再加熱し、パス当たりの圧下率10~15%の条件で再結晶領域において熱間圧延して熱延鋼板を得た後、上記熱延鋼板を890℃で1.3×t+20分(但し、tは鋼板の厚さ(mm)である)の間焼きならし熱処理する。次に、上記焼きならし熱処理した熱延鋼板を上記焼きならし温度範囲から450℃までの温度区間で(1/4)t(但し、tは鋼板の厚さ(mm)である)を基準に下記表2の条件で冷却した後、650℃で1.6×t+20分(但し、tは鋼板の厚さ(mm)である)の間焼戻し熱処理して圧力容器用鋼板を製造した。
【0043】
上記製造された鋼板に対して微細組織を観察し、PWHT熱処理を行った後、降伏強度、引張強度、伸び率、及び低温衝撃靭性を測定してその結果を下記表2に示した。参考として、下記表2における焼戻しベイナイト以外の残部微細組織は、フェライト及びパーライトである。また、析出物の分率とは、フェライト、パーライト、及び焼戻しベイナイトの混合組織の結晶粒内部に位置する平均サイズが5~80nmであるMX[(M=Ti、Nb、Ta)、[X=N、C]]型析出物の体積分率を意味する。尚、低温衝撃靭性とは、-50℃でVノッチを有する試験片をシャルピー衝撃試験を行って得られたシャルピー衝撃エネルギー値である。
【0044】
【表1】
【0045】
【表2】
【0046】
上記表1及び2に示すように、本発明の合金組成及び製造条件を満たす発明鋼1~3の場合には、PWHT時間が10時間に達しても、引張強度及び低温衝撃靭性などの機械的物性に優れたレベルであることが分かる。
【0047】
これに対し、本発明の合金組成を満たさない比較鋼1の場合には、本発明の製造条件を満たしても、発明鋼1~3に比べて引張強度は約70MPa、低温衝撃靭性は約150J以上低いレベルであることが分かる。