(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-18
(45)【発行日】2022-10-26
(54)【発明の名称】清掃用ホルダ
(51)【国際特許分類】
B23Q 11/00 20060101AFI20221019BHJP
B23Q 3/155 20060101ALN20221019BHJP
【FI】
B23Q11/00 N
B23Q3/155 G
B23Q3/155 H
(21)【出願番号】P 2021031976
(22)【出願日】2021-03-01
【審査請求日】2021-03-01
(73)【特許権者】
【識別番号】591028072
【氏名又は名称】株式会社日研工作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001586
【氏名又は名称】弁理士法人アイミー国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中井 英策
【審査官】増山 慎也
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-254271(JP,A)
【文献】実開昭59-082640(JP,U)
【文献】独国特許出願公開第102010002874(DE,A1)
【文献】特開2000-015540(JP,A)
【文献】特開昭60-034245(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 11/00
B23Q 3/155
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作機械の主軸の先端面から後退するように延びるテーパ穴の内周面を清掃するための掃除用ホルダにおいて、
前記テーパ穴の穴奥に着脱可能に嵌合する後端テーパ部と、
前記後端テーパ部から先端側へ延びる軸部と、
前記テーパ穴の中にあって前記軸部に回転自在に支持され
、前記テーパ穴の内周面に対面する領域から前記主軸の先端面まで延びるテーパ形状の回転部材と、
前記軸部に内設される通路であって、前記軸部の外周面に流体を供給する、第1流体供給通路と、
前記回転部材の後端部内周に形成されて前記軸部の前記外周面から流体を取り込む後端側取込口と、
前記回転部材の後端部外周のうち前記後端側取込口の周方向位置とは異なる周方向位置に配置される後端側噴出口と、
前記回転部材に形成される通路であって、前記後端側取込口から前記後端側噴出口まで斜め半径方向に延びる後端側噴出路とを備え
、
前記後端側噴出路は、前記後端テーパ部の先端面と前記回転部材の後端面との間に形成され、
前記回転部材の先端部内周に形成されて前記軸部の先端側外周面から流体を取り込む先端側取込口と、
前記回転部材の先端部外周のうち前記先端側取込口の周方向位置とは異なる周方向位置に配置される先端側噴出口と、
前記回転部材に形成される通路であって、前記先端側取込口から前記先端側噴出口まで斜め半径方向に延び、前記後端側噴出路の傾斜と同じ向きで傾斜している先端側噴出路とをさらに備える、清掃用ホルダ。
【請求項2】
前記回転部材の外周面に形成されて後端側から先端側へ斜めに延び
、前記後端側噴出路の傾斜と同じ向きで傾斜している傾斜溝をさらに備える、請求項1に記載の清掃用ホルダ。
【請求項3】
前記回転部材の先端部あるいは前記軸部の先端部分に設けられ、前記回転部材の内周面と前記軸部の外周面の間の環状空間を封止するシール構造をさらに備える、請求項1または2に記載の清掃用ホルダ。
【請求項4】
前記先端側噴出路は、清掃用ホルダの軸線に対して傾斜している、請求項
1~3のいずれかに記載の清掃用ホルダ。
【請求項5】
前記軸部の先端部分に設けられて前記主軸の先端面と対向するフランジ部と、
前記フランジ部に着脱可能に設けられて前記先端面と前記フランジ部の間隔を調整するスペーサとをさらに備える、請求項
1~4のいずれかに記載の清掃用ホルダ。
【請求項6】
前記軸部の先端部分に設けられて前記主軸の先端面と対向するフランジ部と、
前記フランジ部の先端側に設けられるホルダ先端部と、
前記ホルダ先端部に内設されて前記第1流体供給通路と接続する第2流体供給通路と、
前記ホルダ先端部に相対回転自在に接続されるアダプタと、
前記アダプタに設けられて前記第2流体供給通路と接続する第3流体供給通路とをさらに備える、請求項
1~5のいずれかに記載の清掃用ホルダ。
【請求項7】
前記フランジ部に立設されて後端側へ突出し、前記テーパ穴のテーパ角に対応するテーパ外周面を有するテーパ延設部と、
前記テーパ外周面に形成されて先端側から後端側へ延び、周方向に間隔を空けて複数配置される溝と、
周方向に間隔を空けて複数配置されて当該周方向に長い長孔であって、前記テーパ外周面から内径側へ延びて前記テーパ延設部を貫通し、前記先端側噴出口と接続する窓部と、
周方向で隣り合う前記窓部間に配置される貫通孔であって前記テーパ外周面から内径側へ延びて前記テーパ延設部を貫通し、前記先端側噴出口と接続する通路とをさらに備える、請求項
5または6に記載の清掃用ホルダ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械の主軸先端部に形成される工具ホルダ嵌合用テーパ穴に差し込まれて固定され、当該テーパ穴および主軸先端面を清掃する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械の主軸先端部を清掃する装置として、従来、特開平10-043990号公報(特許文献1)に記載の技術が知られている。特許文献1記載の技術では、テーパ形状の固定側部材を工具ホルダ嵌合用テーパ穴に差し込み固定し、固定側部材に設けられた噴出口からクーラント液を噴出させ、クーラント液がテーパ穴と固定側部材の隙間を流れることにより、テーパ穴の内周面に付着した異物を吹き飛ばすというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記従来の装置にあっては、さらに改善すべき点があることを本発明者は見いだした。つまりテーパ形状の固定側部材は、接続部材を介して、クーラント液・空気供給ブロックに固定されていることから、固定側部材自身が回転することはない。そうすると工作機械の主軸を回転させない限り、クーラント液がテーパ穴の全周に行き亘ることがない。
【0005】
本発明は、上述の実情に鑑み、主軸の工具ホルダ嵌合用テーパ穴を清掃することができる、従来よりも改良された装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的のため本発明による清掃用ホルダは、工作機械の主軸の先端面に設けられるテーパ穴の穴奥に着脱可能に嵌合する後端テーパ部と、後端テーパ部から先端側へ延びる軸部と、テーパ穴の中にあって軸部に回転自在に支持されるテーパ形状の回転部材と、軸部に内設される通路であって軸部の外周面に流体を供給する第1流体供給通路と、回転部材の後端部内周に形成されて軸部の外周面から流体を取り込む後端側取込口と、回転部材の後端部外周のうち後端側取込口の周方向位置とは異なる周方向位置に配置される後端側噴出口と、回転部材に形成される通路であって後端側取込口から後端側噴出口まで斜め半径方向に延びる後端側噴出路とを備える。
【0007】
かかる本発明によれば、高圧エア等の流体を第1流体供給通路に送り込むことにより、次に流体が後端側噴出路を流れて回転部材に周方向の推力を付与して、回転部材が回転するとともに、次に後端側噴出口からテーパ穴へ流体が噴出する。したがって流体がテーパ穴の内周面に万遍なく吹き付けられてテーパ穴の内周面を清掃する。本発明によれば主軸を回転させなくてもテーパ穴を清掃することができる。また本発明によれば、回転する主軸においてもテーパ穴を清掃可能である。後端側噴出路は、回転部材の後端面に刻設される溝であってもよいし、あるいは回転部材を貫通する孔であってもよい。
【0008】
本発明の一局面として、回転部材の外周面に形成されて後端側から先端側へ斜めに延びる傾斜溝をさらに備える。かかる局面によれば、回転部材にさらなる回転力を付与するとともに、テーパ穴の内周面に付着した異物を円滑に排出することができる。好ましくは、傾斜溝の後端が、後端側噴出口と接続する。
【0009】
本発明のさらに好ましい局面として、回転部材の先端部あるいは軸部の先端部に設けられ、回転部材の内周面と軸部の外周面の間の環状空間を封止するシール構造をさらに備える。かかる局面によれば、テーパ穴の内周面に噴出されるエア等の流体が、噴出口へ流れる途中で漏れないようにすることができる。
【0010】
本発明の好ましい局面として、第1流体供給通路は軸部の後端側外周面および先端側外周面までそれぞれ延び、回転部材の先端部内周に形成されて軸部の先端側外周面から流体を取り込む先端側取込口と、回転部材の先端部外周のうち先端側取込口の周方向位置とは異なる周方向位置に配置される先端側噴出口と、回転部材に形成される通路であって、先端側取込口から先端側噴出口まで斜め半径方向に延びる先端側噴出路とをさらに備える。かかる局面によれば、主軸の先端部を効果的に清掃することができる。なお好ましくは、先端側噴出口が主軸の先端面と一致する。また先端側噴出路は、清掃用ホルダの軸線に対して傾斜していてもよい。これにより先端側噴出口から噴出するエアが主軸の先端面へ衝突し、主軸の先端面を効率よく清掃することができる。
【0011】
本発明の一局面として、軸部の先端部に設けられて主軸の先端面と対向するフランジ部と、フランジ部に着脱可能に設けられて主軸の先端面とフランジ部の間隔を調整するスペーサとをさらに備える。かかる局面によれば、主軸の先端面とフランジ部の間隔が適切に調整されることから、主軸の先端部を効率よく清掃することができる。他の局面として、スペーサは設けられなくてもよい。
【0012】
本発明の清掃用ホルダは、主軸に内設される流体供給通路からエア等の流体を供給されることができる。あるいは本発明の一局面として、軸部の先端部分に設けられて主軸の先端面と対向するフランジ部と、フランジ部の先端側に設けられるホルダ先端部と、ホルダ先端部に内設されて第1流体供給通路と接続する第2流体供給通路と、ホルダ先端部に相対回転自在に接続されるアダプタと、アダプタに設けられて第2流体供給通路と接続する第3流体供給通路とをさらに備える。かかる局面によれば、主軸が流体供給通路を有しない場合であっても、主軸のテーパ穴を清掃することができる。また主軸が不用意に回転しても、ホルダ先端部が回転するにすぎず、アダプタは供回りすることがない。したがって清掃用ホルダの破損が防止される。
【0013】
本発明の一局面として清掃用ホルダは、フランジ部に立設されて後端側へ突出しテーパ穴のテーパ角に対応するテーパ外周面を有するテーパ延設部と、テーパ外周面に形成されて先端側から後端側へ延び、周方向に間隔を空けて複数配置される溝と、周方向に間隔を空けて複数配置されて当該周方向に長い長孔であってテーパ外周面から内径側へ延びてテーパ延設部を貫通し先端側噴出口と接続する窓部と、周方向で隣り合う窓部間に配置される貫通孔であってテーパ外周面から内径側へ延びてテーパ延設部を貫通し先端側噴出口と接続する通路とをさらに備える。かかる局面によれば、ATC(Automatic Tool Changer)の待機ポットに、清掃用ホルダを正しい姿勢で真っ直ぐに保持することができる。
【発明の効果】
【0014】
このように本発明によれば、主軸を回転することなく、工具ホルダ嵌合用テーパ穴を清掃することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態になる清掃用ホルダを示す縦断面図である。
【
図5】本発明の変形例になる清掃用ホルダを示す縦断面図である。
【
図6A】本発明の第1変形例になる先端側噴出路を示す縦断面図である。
【
図6B】本発明の第2変形例になる先端側噴出路を示す縦断面図である。
【
図7】本発明の他の実施形態になる清掃用ホルダを示す縦断面図である。
【
図8】
図7中、VIII―VIIIにおける断面を示す横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を、図面に基づき詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態になる清掃用ホルダを示す縦断面図である。
図2は、同実施形態を示す側面図である。
図3は、
図1中、回転部材の後端部を通る断面III-IIIにおける横断面図である。
図4は、
図1中、回転部材の先端部を通る断面IV-IVにおける横断面図である。本実施形態の清掃用ホルダ10は、後端テーパ部11と、軸部12と、回転部材21と、フランジ部31を備え、軸線Oを中心とし、工作機械の主軸100に設けられる工具ホルダ嵌合用のテーパ穴101に差し込まれて取付固定され、テーパ穴101の内周面を清掃する。
【0017】
テーパ穴101は周知のものであって、主軸100の先端面102から後退するように延び、穴奥に向かって内径が小さくなる。本明細書では先端面102からみて穴奥側を後端側といい、穴奥からみて先端面102側を先端側という。
【0018】
後端テーパ部11は、テーパ穴101の穴奥内径に対応するテーパ外周面を有し、かかるテーパ外周面がテーパ穴101の内周面に嵌合する状態で、テーパ穴101の穴奥に着脱可能に取付固定される。かかる取付固定は、例えば後端テーパ部11の中心孔の内周に形成される雌ねじ13に、図示しないプルスタッドを螺合させ、このプルスタッドを主軸100に連結することにより行う。
【0019】
軸部12は、後端テーパ部11よりも小さな外径を有し、後端テーパ部11と同軸に配置され、後端テーパ部11から先端側へ延びる。後端テーパ部11の先端面のうち軸部12が立設される中心領域を除いた外径部分は、環状先端面17を構成する。軸部12は、回転部材21の中心孔22に通される。本実施形態では、後端テーパ部11および軸部12が一部材とされるが、図示しない変形例では別部材を互いに連結するものであってもよい。
【0020】
回転部材21は、後端テーパ部11と同じテーパ角度の外周面を有し、先端側へ向かって大径とされる。ただし回転部材21の外周面は、後端テーパ部11の外周面からわずかに後退するため、これらのテーパ面は一致しない。回転部材21は、後端テーパ部11の後端側に隣接配置され、テーパ穴101の中に差し込まれる。回転部材21の中心孔22と、軸部12の外周面によって、僅かな隙間G1が区画される。隙間G1の軸線O方向位置は、回転部材21のテーパ状の外周面の軸線O方向位置と重なる。
【0021】
フランジ部31は回転部材21よりも外径側へ突出する。フランジ部31の外周には環状のV字溝32と、このV字溝32と接続して周方向に180°離れて配置される切欠部33が形成される。
【0022】
フランジ部31の先端側には、フランジ部31よりも小径のホルダ先端部34が同軸に配置される。またホルダ先端部34はフランジ部31の内径部分と一体結合する。フランジ部31の中心には空洞が設けられ、かかる空洞には、軸部12の先端部分に形成されてさらに先端側へ延びる先端軸部14が通され、先端軸部14はホルダ先端部34に取付固定される。かかる取付固定は例えば、先端軸部14の外周に雄ねじ15を形成し、ホルダ先端部34の中心に雌ねじ穴35を形成し、雌ねじ穴35を雄ねじ15に螺合することによって実現する。
【0023】
図1に示すように後端テーパ部11がテーパ穴101の穴奥に差し込まれて取付固定された状態で、回転部材21の外周面は、テーパ穴101の内周面と、隙間G2を介して対面する。またフランジ部31は、主軸100の端面102と、隙間G3を介して対面する。
【0024】
フランジ部31の後端面38には、隙間G3の隙間量を調整するスペーサ36が任意で取り付けられてもよい。本実施形態のスペーサ36は、例えば軸線Oを包囲する平坦な環状の薄板であり、周方向に間隔をあけて複数配設される皿ねじによって、フランジ部31にねじ止め固定される。スペーサ36によって、隙間G3は、先端面102とフランジ部31との間隔よりも狭くされる。なおスペーサ36は、先端面102とフランジ部31との間隔よりも薄いため、スペーサ36と先端面102の間には必ず隙間G3が生じる。
【0025】
本実施形態の先端軸部14は、軸部12よりも小径に形成される。回転部材21の先端部は、中心孔22の内径よりも大きな内径を有する先端円筒部23とされる。外径側の先端円筒部23と内径側の先端軸部14との間にはベアリング24が介在する。ベアリングは例えば、転がり軸受であり、インナレース、アウタレース、およびこれらレースの間に配置される複数の玉(転動体)を有する。これにより回転部材21は、先端軸部14に安定して支持される。
【0026】
中心孔22の内周面と軸部12の外周面との間には環状のシール部材25が配置される。シール部材25は、ベアリング24の後端側に隣接配置され、シール部材25の後端側に区画される軸部12と回転部材21の環状の隙間G1を封止する。これにより環状の隙間G1を流れる流体がベアリング24へ侵入しない。
【0027】
次にテーパ穴101の内周面を清掃するための構造について説明する。
【0028】
後端テーパ部11および軸部12には、第1流体供給通路16が穿設される。第1流体供給通路16は、後端テーパ部11および軸部12の中心孔を構成し、後端テーパ部11の後端まで延びて、主軸100に内設される流体供給通路に接続される。また第1流体供給通路16は、軸部12の内部で複数分岐してさらに外径側へ延びる。分岐通路16bは、軸部12の後端部に配置される。
【0029】
図3に示すように本実施形態の分岐通路16bは、周方向等間隔に配置され、例えば90°間隔で4本設けられる。また
図1に示すように分岐通路16bは、第1流体供給通路16に接続する内径端を先端側とし、軸部12の外周面と接続する外径端を後端側として、清掃用ホルダ10の軸線Oに対して斜めに延びる。分岐通路16bの外径端は、回転部材21の内周面(中心孔22)と対向する。
【0030】
回転部材21の後端部には、取込口26b、後端側噴出路26c、噴出口26dが設けられる。取込口26bは回転部材21の内周面に設けられる。噴出口26dは回転部材21の外周面に設けられる。
図3に示すように、後端側噴出路26cは取込口26bから噴出口26dまで延びる。取込口26bの周方向位置と噴出口26dの周方向位置が異なり、後端側噴出路26cは回転部材21の半径に対して斜めに延びる。本実施形態の後端側噴出路26cは、回転部材21の後端面27に刻設される溝である。後端側噴出路26cは1または複数設けられ、本実施形態では周方向等間隔に4本設けられる。取込口26bおよび噴出口26dについても同様である。
【0031】
ここで附言すると、後端面27は、軸線Oに直角な平面ではなく、略平坦なテーパ面であって、具体的には所定のテーパ角度を持った先細のテーパ形状にされる。後端面27と隙間を介して対面する後端テーパ部11の環状先端面17も、後端面27のテーパ角度に対応するテーパ角度を持ったテーパ穴に形成される。そして
図2に示すように後端面27が環状先端面17に進入する。軸線O方向位置に関し、取込口26bは、分岐通路16bの外径端よりも後端側に位置する。
【0032】
次に回転部材21および後端側噴出路26cの作用につき説明する。
【0033】
主軸100からテーパ穴101の穴奥に高圧のエア、あるいはクーラント等の流体が供給されると、エアはまず第1流体供給通路16に沿って流れ、次に分岐通路16bに沿って流れ、回転部材21と軸部12の隙間G1の後端部へ、後端向きの斜め外径方向に噴出される。これにより環状の隙間G1がエアで満たされ、回転部材21は、軸部12から浮いた状態になる。
【0034】
続いてエアは、後端側へ移動し、取込口26bに取り込まれ、後端側噴出路26cを進み、噴出口26dから噴出される。噴出されたエアは、回転部材21とテーパ穴101との隙間G2を通り、テーパ穴101の内周面を清掃する。また高圧のエアは、後端側噴出路26cを進む際に、後端側噴出路26cから回転部材21に周方向の推力を付与する。これにより回転部材21は回転し、エアがテーパ穴101の全周に万遍なく吹き付けられる。その後エアは、先端面102とフランジ部31の隙間G3を通り、主軸100の先端面102を清掃しながら、外径方向へ流出する。
【0035】
本実施形態によれば、主軸100を回転させることなく、テーパ穴101の内周面を全周に亘って清掃することができる。また本実施形態によれば、主軸100から供給される流体を用いて、テーパ穴101の内周面に付着した異物を除去することができる。
【0036】
また回転部材21の後端面27がテーパ面とされ、噴出路26cが軸線Oに対して傾斜して延び、外径側へ向かうほど先端側に傾斜していることから、テーパ穴101の内周面に倣うようにエアを流すことができ、テーパ穴101の内周面を効果的に清掃することができる。
【0037】
またスペーサ36を設けることによって、隙間G3が狭くされる。そうすると、隙間G1~G3を流れる流体の内圧が高くなり、主軸の先端部を効果的に清掃することができる。
【0038】
図2に示すように回転部材21のテーパ状の外周面には、傾斜溝51がさらに刻設されていてもよい。傾斜溝51は、その後端と先端が異なる周方向位置にされ、軸線Oに対して傾斜する。かかる傾斜は、後端側噴出路26cの傾斜と同じ向きである(時計回り・反時計回り)。本実施形態の傾斜溝51は、後端で噴出口26dと接続する。傾斜溝51をさらに設けることにより、回転部材21は更なる回転力が付与され、異物の円滑な除去が実現する。
【0039】
次に主軸100の先端面102を清掃するために特に設けられる構造について説明する。
【0040】
第1流体供給通路16は、軸部12の先端部内部で複数分岐する。かかる分岐通路16cは軸線Oから外径側へ延びる。
【0041】
図4に示すように本実施形態の分岐通路16cは、周方向等間隔に配置され、例えば90°間隔で4本設けられる。また
図1に示すように分岐通路16cは、内径端を入口とし、外径端を出口として、清掃用ホルダ10の軸線Oに対して直交方向に延びる。分岐通路16cの外径端は、環状溝28と接続する。
【0042】
環状溝28は、軸部12と回転部材21の環状隙間に沿って設けられる。本実施形態の環状溝28は回転部材21の内周面に形成されるが、図示しない変形例として環状溝は軸部12の外周面に形成されてもよい。
【0043】
回転部材21には、環状溝28から外径方向に延びて回転部材21を貫通し、回転部材21の外径面と接続する先端側噴出路29cが穿設される。先端側噴出路29cの内径端を取込口29bといい、先端側噴出路29cの外径端を噴出口29dという。これら取込口29b、先端側噴出路29c、噴出口29dは回転部材21の先端部に設けられる。
【0044】
図4に示すように、取込口29bの周方向位置と噴出口29dの周方向位置が異なり、先端側噴出路29cは回転部材21の半径に対して斜めに延びる。かかる傾斜は軸線O方向にみて、時計回りあるいは反時計回りの向きであり、後端側噴出路26cの傾斜と同じ向きである。本実施形態の先端側噴出路29cは、1または複数の孔であり、本実施形態では周方向等間隔に4本設けられる。取込口29bおよび噴出口26dについても同様である。
【0045】
軸線Oに対し、各先端側噴出路29cは
図1に一点鎖線の丸囲みで示すように直角であってもよいし、あるいは
図6Aに示す第1変形例や、あるいは
図6Bに示す第2変形例のように、各先端側噴出路29cは傾斜して延びていてもよい。
図6Aに示す変形例では、外径側へ向かうにつれて29cが後端側へ傾斜する。あるいは
図6Bに示す変形例では、外径側へ向かうにつれて29cが先端側へ傾斜する。
【0046】
具体的には例えば周方向で隣り合う先端側噴出路29c,29d同士が、先端側と、後端側と、互い違いに傾斜してもよい。
【0047】
図1に示すように後端テーパ部11がテーパ穴101の穴奥に差し込まれて取付固定された状態で、噴出口29dの軸線O方向位置は、主軸100の先端面102とフランジ部31との隙間G3に一致する。
【0048】
次に回転部材21および先端側噴出路29cの作用につき説明する。
【0049】
主軸100に内設される流体供給通路からテーパ穴101の穴奥に高圧のエア、あるいはクーラント等の流体が供給されると、エアはまず第1流体供給通路16に沿って流れ、次に分岐通路16cに沿って流れ、環状溝28へ流入する。なお環状溝28よりも先端側にはシール部材25が配置される。これにより環状溝28のエアが先端側へ漏れ難くされる。
【0050】
続いてエアは、環状溝28から取込口29bに取り込まれ、先端側噴出路29cを進み、噴出口29dから外径方向へ噴出される。噴出されたエアは、先端面102とフランジ部31との隙間G3を通り、主軸100の先端面102を清掃する。また高圧のエアは、先端側噴出路29cを進む際に、回転部材21に周方向の力を付与する。これにより回転部材21は回転し、エアが先端面102の全周に万遍なく吹き付けられる。先端面102を清掃したエアはフランジ部31を越えて外径方向へ流出する。
【0051】
本実施形態によれば、主軸100を回転させることなく、主軸100の先端面102を全周に亘って清掃することができる。また
図6Aおよび
図6Bに示すように後端側および/または先端側へ傾斜する噴出路29cによれば、主軸100の先端面102を十分に清掃することができる。
【0052】
次に本発明の変形例を説明する。
図5は本発明の変形例を示す縦断面図である。この変形例につき、前述した実施形態と共通する構成については同一の符号を付して説明を省略し、異なる構成について以下に説明する。変形例の清掃用ホルダ20では、上述したホルダ先端部34の外周に筒状のアダプタ41が設けられる。アダプタ41の内周面とホルダ先端部34の外周面との間には、ベアリング42が介在する。これによりホルダ先端部34、フランジ部31、軸部12、および後端テーパ部11は、アダプタ41に対して回転自在とされる。本実施形態では、ベアリング42が軸線O方向に間隔をあけて、アダプタ41の後端および先端にそれぞれ設けられる。
【0053】
アダプタ41の周方向1か所には、コネクタ44を抜き差しされるソケット状の接続部43が設けられる。そして接続部43からアダプタ41の内周面まで第3流体供給通路45が内設される。コネクタ44は中心に流体供給通路を有し、図示しない流体供給装置とホース等で接続し、流体供給装置からエアやクーラント液等の流体を供給される。
【0054】
接続部43は第3流体供給通路45を開閉する開閉弁を内蔵し、コネクタ44が接続部43に差込固定されることによって第3流体供給通路45は接続部43で開とされ、コネクタ44に設けられる流体供給通路と第3流体供給通路45が連通する。あるいはコネクタ44が接続部43から引き抜かれることによって第3流体供給通路45は接続部43で閉とされる。
【0055】
第3流体供給通路45は、アダプタ41の内周面まで延び、当該内周面あるいはホルダ先端部34の外周面に形成された環状溝46と接続する。一方で、軸部12から先端軸部14まで延びる第1流体供給通路16は、ホルダ先端部34に内設される第2流体供給通路37と接続する。第2流体供給通路37は、軸線O方向に延びて一端が先端軸部14で第1流体供給通路16と接続し、途中で向きを変えて軸線Oと直角方向に延びて他端がホルダ先端部34の外周面に設けられ、当該他端で環状溝46と接続する。本実施形態の環状溝46は、アダプタ41の軸線O方向中央部に配置される。環状溝46よりも後端側および先端側にはシール部材47,47がそれぞれ設けられる。各シール部材47は、環状溝46からベアリング42への流体漏れを封止する。
【0056】
【0057】
まず高圧エア等の流体が、コネクタ44から接続部43へ供給され、第3流体供給通路45と、環状溝46と、第2流体供給通路37と、第1流体供給通路16を通り、分岐通路16b,16cへ流入する。その後は上述したとおりである。
【0058】
図5に示す変形例によれば、主軸100を回転させることなく、主軸100の先端面102を全周に亘って清掃することができることは勿論、主軸100が流体供給通路を有しない場合、特に有益である。またアダプタ41はホルダ先端部34に回転自在に取り付けられることから、清掃作業を実行する操作者の錯誤により主軸100が回転しても、清掃用ホルダ20は破損しない。
【0059】
次に本発明の他の実施形態を説明する。
図7は本発明の他の実施形態を示す縦断面図であり、
図8は、
図7中VIII―VIIIにおける断面を示す横断面図である。他の実施形態につき、前述した実施形態と共通する構成については同一の符号を付して説明を省略し、異なる構成について以下に説明する。他の実施形態の清掃用ホルダ30は、テーパ延設部52と、溝53と、窓部54と、通路55をさらに備える。
【0060】
テーパ延設部52は、フランジ部31の後端面38に立設されて後端側へ突出し、テーパ穴201に嵌合するテーパ外周面56を有する。テーパ外周面56は後端側へ先細になる所定のテーパ角度とされ、所定のテーパ角度は、テーパ穴201のテーパ角度および前述した主軸のテーパ穴101のテーパ角度に等しい。本実施形態のテーパ延設部52は、軸線Oと同軸のリング状であり、フランジ部31と一体結合する。そしてテーパ延設部52は、回転部材21の先端部を包囲する。
【0061】
溝53はテーパ外周面56に形成されて、テーパ延設部52の後端からフランジ部32の後端面33まで延び、あるいは後述する窓部54または通路55と接続する。本実施形態の溝53は、周方向に間隔を空けて複数配置される。
【0062】
窓部54は、周方向に間隔を空けて複数配列されて当該周方向に長い長孔であって、テーパ外周面56から内径側へ延びてテーパ延設部52を貫通し、回転部材21の先端側噴出口29dと接続することができる。また前述した
図1に示すようにテーパ穴101に差し込まれた状態で、窓部54は隙間G2および隙間G3と接続する。
【0063】
通路55は、周方向で隣り合う窓部54,54間に配置される貫通孔であって、テーパ外周面56から内径側へ延びてテーパ延設部52を貫通し、回転部材21の先端側噴出口29dと接続することができる。本実施形態の通路55は、先端側噴出口29dと同じく、90°等間隔に配列される。
【0064】
図7に示すように清掃用ホルダ30が、ATC(Automatic Tool Changer)の待機ポット200のテーパ穴201に保持された状態で、後端テーパ部11は、テーパ穴201から後端側へ突出し、テーパ穴201と嵌合しない場合がある。しかしながらテーパ延設部52がテーパ穴201と嵌合することから、清掃用ホルダ30は、テーパ穴201内で正しい姿勢に保持される。
【0065】
したがって本実施形態の清掃用ホルダ30は、
図7に示すようにATC(Automatic Tool Changer)のアーム300に正しく把握され、主軸100のテーパ穴に正しく自動装着・自動交換される。
【0066】
以上、図面を参照して本発明の実施の形態を説明したが、本発明は、図示した実施の形態のものに限定されない。図示した実施の形態に対して、本発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。例えば上述した1の実施形態から一部の構成を抜き出し、上述した他の実施形態から他の一部の構成を抜き出し、これら抜き出された構成を組み合わせてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、工作機械において有利に利用される。
【符号の説明】
【0068】
10 清掃用ホルダ、 11 後端テーパ部、 12 軸部、
14 先端軸部(先端部分)、 16 第1流体供給通路、
16b,16c 後端側および先端側の分岐通路、
17 環状先端面、 21 回転部材、 22 中心孔、
25 シール部材、 26b,29b 後端側および先端側の取込口、
26c 後端側噴出路、 26d,29d 後端側および先端側の噴出口、
27 回転部材の後端面、 28 環状溝、 29c 先端側噴出路、
31 フランジ部、 34 ホルダ先端部、 36 スペーサ、
37 第2流体供給通路、 41 アダプタ、 43 接続部、
44 コネクタ、 45 第3流体供給通路、 51 傾斜溝、
52 テーパ延設部、 53 溝、 54 窓部、
100 主軸、 101 テーパ穴、 102 先端面、
G1,G2,G3 隙間、 O 軸線。