(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-18
(45)【発行日】2022-10-26
(54)【発明の名称】作業機械
(51)【国際特許分類】
E02F 9/20 20060101AFI20221019BHJP
【FI】
E02F9/20 C
(21)【出願番号】P 2021046381
(22)【出願日】2021-03-19
【審査請求日】2022-01-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】伊東 勝道
(72)【発明者】
【氏名】塩飽 晃司
(72)【発明者】
【氏名】笠井 慎也
【審査官】荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-227019(JP,A)
【文献】特開2016-166511(JP,A)
【文献】特開2019-065657(JP,A)
【文献】特開2020-002709(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第111827386(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02F 9/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロント作業装置を備えた作業機械において、
前記フロント作業装置の動作状態に係る状態量を検出する状態量検出装置と、
遠隔操縦装置から無線通信を介して送信される操作信号に基づいて前記作業機械の動作を制御する制御装置とを備え、
前記状態量検出装置は、前記作業機械の姿勢に係る情報である姿勢情報を検出する姿勢検出装置と、前記作業機械のフロント作業装置の負荷に係る情報である負荷情報を検出する負荷検出装置とを有し、
前記制御装置は、
前記無線通信の通信状況を評価し、評価結果に応じて作業機械の動作を制限する際に、前記状態量検出装置の検出結果
である前記姿勢情報に応じた前記動作の制限の緩和と、前記負荷情報に応じた前記動作の制限の緩和のうち、緩和の度合いが多きい方に従って前記作業機械の動作の制限を緩和することを特徴とする作業機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業機械に関する。
【背景技術】
【0002】
作業機械の遠隔操作に係る技術として、例えば、特許文献1には、作業対象が写る画像を撮像する撮像装置と、前記撮像装置が撮像した画像を制御装置に送信する画像送信部と、前記制御装置から操作信号を受信する操作信号受信部と、前記画像の伝送状況に応じて前記操作信号を制限する動作制御部とを備える作業車両が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来技術においては、例えば、通信遅延時間が急に大きくなると、通信状況に応じて作業機械の操作信号を制限する場合に作業機械が急停止することになる。したがって、例えば、バケットに土砂を積んでいるときに急停止した場合には、積荷である土砂を飛散させてしまうおそれがある。また、作業姿勢によっては、急停止によって車体の安定性が著しく低下するおそれもある。すなわち、上記従来技術においては、急停止による積荷の飛散や作業機械の安定性の低下による作業性の悪化が懸念される。
【0005】
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、作業性の悪化を抑制しつつ、通信状況に応じて適切に動作を制限することができる作業機械を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願は上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、フロント作業装置を備えた作業機械において、前記フロント作業装置の動作状態に係る状態量を検出する状態量検出装置と、遠隔操縦装置から無線通信を介して送信される操作信号に基づいて前記作業機械の動作を制御する制御装置とを備え、前記状態量検出装置は、前記作業機械の姿勢に係る情報である姿勢情報を検出する姿勢検出装置と、前記作業機械のフロント作業装置の負荷に係る情報である負荷情報を検出する負荷検出装置とを有し、前記制御装置は、前記無線通信の通信状況を評価し、評価結果に応じて作業機械の動作を制限する際に、前記状態量検出装置の検出結果である前記姿勢情報に応じた前記動作の制限の緩和と、前記負荷情報に応じた前記動作の制限の緩和のうち、緩和の度合いが多きい方に従って前記作業機械の動作の制限を緩和するものとする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、作業性の悪化を抑制しつつ、通信状況に応じて適切に動作を制限することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】作業機械の一例である油圧ショベルの外観を遠隔操縦装置とともに模式的に示す図である。
【
図2】油圧ショベルの油圧回路システムをコントローラ(制御装置)などの周辺構成とともに抜き出して示す図である。
【
図3】電磁弁ユニットの詳細を示す図であり、ブームシリンダ、アームシリンダおよびバケットシリンダに係る構成を抜き出して示す図である。
【
図4】電磁弁ユニットの詳細を示す図であり、走行油圧モータおよび旋回油圧モータに係る構成を抜き出して示す図である。
【
図6】制御コントローラの処理機能を示す機能ブロック図である。
【
図7】ショベル座標系について説明する側面図である。
【
図8】ショベル座標系について説明する上面図である。
【
図9】緩減速判定部の緩減速判定処理を示すフローチャートである。
【
図10】目標動作演算部の目標アクチュエータ速度演算補正処理を示すフローチャートである。
【
図11】操作信号とアクチュエータ目標速度の関係を示す図である。
【
図12】通信遅延時間と減速係数の関係を示す図である。
【
図13】通信遅延時間の時間経過による変化の一例を示す図である。
【
図14】減速係数Kの時間経過による変化の一例を示す図である。
【
図15】アクチュエータ目標速度の時間経過による変化の一例を示す図である。
【
図16】通信遅延時間と減速係数との関係を定めたテーブルの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。なお、以下の説明においては、作業機械の一例として、フロント作業装置を備える油圧ショベルを例示して説明するが、油圧ショベル以外の他の作業機械においても本発明を適用することが可能である。
【0010】
また、以下の説明においては、同一の構成要素が複数存在する場合、符号(数字)の末尾にアルファベットを付すことがあるが、当該アルファベットを省略して当該複数の構成要素をまとめて表記することがある。すなわち、例えば、2つの油圧ポンプ2a,2bが存在するとき、これらをまとめてポンプ2と表記することがある。
【0011】
<第1の実施の形態>
本発明の第1の実施の形態を
図1~
図15を参照しつつ説明する。
【0012】
<基本構成>
図1は、本実施の形態に係る作業機械の一例である油圧ショベルの外観を遠隔操縦装置とともに模式的に示す図である。また、
図2は、油圧ショベルの油圧回路システムをコントローラ(制御装置)などの周辺構成とともに抜き出して示す図である。
【0013】
図1において、油圧ショベル100は、多関節型のフロント作業装置1Aと、車体1Bで構成されている。油圧ショベル100の車体1Bは、左右の走行油圧モータ3a,3bにより走行する下部走行体11と、下部走行体11の上に取り付けられ、旋回油圧モータ4により旋回する上部旋回体12とからなる。なお、
図1においては走行左油圧モータ3bのみを図示し、走行右油圧モータ3aについては
図2にのみ図示している。
【0014】
フロント作業装置1Aは、垂直方向にそれぞれ回動する複数の被駆動部材(ブーム8、アーム9、及び、バケット10)を連結して構成されている。ブーム8の基端は上部旋回体12の前部においてブームピンを介して回動可能に支持されている。ブーム8の先端にはアームピンを介してアーム9が回動可能に連結されており、アーム9の先端にはバケットピンを介してバケット10が回動可能に連結されている。ブーム8はブームシリンダ5によって駆動され、アーム9はアームシリンダ6によって駆動され、バケット10はバケットシリンダ7によって駆動される。なお、以降の説明において、ブームシリンダ5、アームシリンダ6、及び、バケットシリンダ7をまとめて油圧シリンダ5~7、或いは、油圧アクチュエータ5~7と称することがある。
【0015】
ここで、油圧ショベルに設定される油圧ショベル座標系について説明する。
図7及び
図8は、ショベル座標系について説明する図であり、
図7は側面図を、
図8は上面図をそれぞれ示している。
【0016】
図7及び
図8に示すように、本実施の形態においては、油圧ショベル100に対して、ショベル座標系(ローカル座標系)を定義する。ショベル座標系は,下部走行体11に対して固定のXYZ座標系であり,上部旋回体12の旋回中心軸に沿う方向に旋回中心点を通って上方を正とするZ軸と,下部走行体11に対して上部旋回体12が正面を向いた姿勢のときに,フロント作業装置1Aの稼働する平面に沿う方向であってZ軸に垂直にブームの基端を通って前方を正とするX軸と,Z軸とX軸の交点を通り,右手座標系となるように
図7紙面手前方向を正とするY軸とを有する車体座標系を設定する。
【0017】
また,X軸とZ軸の交点(原点O)からブーム基端までの距離をL0,ブーム8の長さ(両端の連結部の間の直線距離)をL1、アーム9の長さ(両端の連結部の間の直線距離)をL2、バケット10の長さ(アームとの連結部と爪先の間の直線距離)をL3とし、ブーム8とXY平面との成す角(長さ方向の直線とXY平面との相対角度)を回動角度α、アーム9とブーム8との成す角(長さ方向の直線の相対角度)を回動角度β、バケット10とアーム9との成す角(長さ方向の直線の相対角度)を回動角度γ,下部走行体11と上部旋回体12の成す角(Z軸上方からXY平面を俯瞰したときのフロント装置1Aの中心線とX軸との相対角度,
図8参照)を回動角度θと定義する。これにより、ショベル座標系におけるバケット爪先位置の座標およびフロント作業装置1Aの姿勢はL0,L1,L2,L3,α,β,γ,θで表現することができる。
さらに、油圧ショベル100の車体1Bの水平面に対する前後方向の傾きを角度θとする。
【0018】
図1に戻り、フロント作業装置1Aには、ブーム8、アーム9、バケット10の回動角度α,β,γを測定する姿勢検出装置として、ブームピンにブーム角度センサ30、アームピンにアーム角度センサ31、バケットリンク13にバケット角度センサ32がそれぞれ取付けられている。なお、本実施の形態では、角度センサ30,31,32として、複数の被駆動部材8,9,10の連結部における相対角度を検出する角度センサを例示して説明しているが、これに限られず、例えば、複数の被駆動部材8,9,10のそれぞれの基準面(例えば水平面)に対する相対角度を検出可能な慣性計測装置(IMU: Inertial Measurement Unit)に代替可能である。
【0019】
上部旋回体12には、基準面(例えば水平面)に対する上部旋回体12(油圧ショベル100の車体1B)の傾斜角φを検出する車体傾斜角センサ33が取付けられている。車体傾斜角センサ33には、例えば、液封入静電容量方式の傾斜角センサや、慣性計測装置などを用いることができる。
【0020】
下部走行体11に対する上部旋回体12の旋回中心軸には、上部旋回体12と下部走行体11の相対角度θを検出する旋回角度センサ34が取り付けられている。
【0021】
これら、角度センサ30、31、32、車体傾斜角センサ33および旋回角度センサ34により姿勢検出装置を構成する。
【0022】
図1及び
図2に示すように、上部旋回体12に設けられた運転室内には、下部走行体11の走行右油圧モータ3aを操作するための操作装置23aと、下部走行体11の走行左油圧モータ3bを操作するための操作装置23bと、ブーム8を駆動するブームシリンダ5及びバケット10を駆動するバケットシリンダ7を操作するための操作装置1aと、アーム9のアームシリンダ6及び上部旋回体12の旋回油圧モータ4を操作するための操作装置1b と、油圧ショベル100に搭載された原動機であるエンジン18(後述)の回転数を設定するためのエンジン回転数設定装置480とが設置されている。エンジン回転数設定装置480は、例えば、オペレータの回転操作に応じてエンジン回転数を設定するエンジンコントロールダイヤルなどである。以下では、走行右レバー23a、走行左レバー23b、操作右レバー1a、及び、操作左レバー1bを操作装置1,23と総称することがある。
【0023】
また、
図1に示すように、例えば、現場事務所等には、油圧ショベル100を遠隔で操縦するための遠隔操縦装置800が設けられている。遠隔操縦装置800には、油圧ショベル100の運転室内と同様の構成が設けられており、油圧ショベル100の操作装置1,23に相当する操作信号を生成する操作装置801a,801b,823a,823bと、油圧ショベル100のエンジン回転数設定装置480に相当するエンジン回転数設定装置880と、油圧ショベル100のフロント作業装置1Aによる作業位置の映像を遠隔操縦装置800を操作するオペレータに提示する表示装置810とを備えている。表示装置810は、1つ又は複数のモニタやスクリーン(プロジェクタを含む)などであり、例えば、油圧ショベル100の運転室の前方上部に設けられた撮像装置(図示せず)で撮像された映像を表示することで、油圧ショベル100の運転室内に着座した場合のオペレータの視点に相当する映像を遠隔操縦装置800を操作するオペレータに提示する。
【0024】
操作装置801,823から出力された操作信号と、エンジン回転数設定装置880から出力された信号とは、遠隔操縦装置800の通信装置850と油圧ショベル100の通信装置650(後の
図5及び
図6参照)とを介して油圧ショベル100の制御コントローラ40に伝送される。
【0025】
油圧ショベル100は、油圧ショベル100の操作状態を搭乗操作状態と遠隔操作状態とで切り換える遠隔搭乗選択装置670(後の
図5参照)を備えており、搭乗操作状態が選択されている場合には油圧ショベル100は操作装置1,23からの信号に基づいて動作し、遠隔操作状態が選択されている場合には油圧ショベル100は遠隔操縦装置800の操作装置801,823からの信号に基づいて油圧ショベル100を動作する。
【0026】
図2に示すように、上部旋回体12に搭載された原動機であるエンジン18は、油圧ポンプ2a,2bとパイロットポンプ48を駆動する。油圧ポンプ2a,2bはレギュレータ2aa,2baによって容量が制御される可変容量型ポンプであり、パイロットポンプ48は固定容量型ポンプである。油圧ポンプ2およびパイロットポンプ48は作動油タンクより作動油を吸引する。レギュレータ2aa,2baの詳細構成は省略するが、レギュレータ2aa,2baには制御コントローラ40から出力された制御信号が入力され、制御信号に応じて油圧ポンプ2a,2bの吐出流量が制御される。
【0027】
操作装置1,23は、電気レバー方式であり、オペレータによる操作量と操作方向とに応じた電気信号を生成して制御コントローラ40に送信する。制御コントローラ40は、操作装置1,23に入力された操作に応じて電磁弁54a~59a,54b~59b(後述の
図3及び
図4参照)を駆動させる電気信号を電磁弁ユニット160に出力する。電磁弁54~59は、制御コントローラ40から入力された電気信号に応じて対応する流量制御弁15a~15fを駆動する制御信号(パイロット圧)をパイロットポンプ48の吐出圧から生成し、流量制御弁15a~15fの油圧駆動部150a~155a,150b~155bにパイロットライン144a~149a,144b~149bを介して送出する。
【0028】
油圧ポンプ2から吐出された圧油は、流量制御弁15a~15fを介して走行右油圧モータ3a、走行左油圧モータ3b、旋回油圧モータ4、ブームシリンダ5、アームシリンダ6、及び、バケットシリンダ7に供給される。油圧ポンプ2から供給された圧油によってブームシリンダ5、アームシリンダ6、バケットシリンダ7が伸縮することで、ブーム8、アーム9、バケット10がそれぞれ回動し、バケット10の位置及び姿勢が変化する。また、油圧ポンプ2から供給された圧油によって旋回油圧モータ4が回転することで、下部走行体11に対して上部旋回体12が旋回する。また、油圧ポンプ2から供給された圧油によって走行右油圧モータ3a、走行左油圧モータ3bが回転することで、下部走行体11が走行する。
【0029】
ブームシリンダ5、アームシリンダ6、バケットシリンダ7には、シリンダ圧を検出する負荷検出装置16a~16fが備えられている。負荷検出装置16は、例えば、圧力センサであり、ブームシリンダ5、アームシリンダ6、バケットシリンダ7のそれぞれのボトム側とロッド側に設けられ、圧力を検出して電気信号として制御コントローラ40へ出力する。なお、
図2においては、負荷検出装置16a~16fから制御コントローラ40へ電気信号を送る接続線は図示を省略する。
【0030】
エンジン18は、エンジン回転数を検出するための回転センサであるエンジン回転数検出装置490を備えている。
【0031】
パイロットポンプ48の吐出配管であるポンプライン148aは、ロック弁39を介して電磁弁ユニット160内の各電磁弁54~59に接続されている。ロック弁39は、例えば、電磁切換弁であり、電磁駆動部が運転室に配置されたゲートロックレバー(図示せず)の位置検出器と電気的に接続されている。すなわち、ゲートロックレバーのポジションが位置検出器で検出され、位置検出器からロック弁39に対してゲートロックレバーのポジションに応じた信号が入力されることで、ロック弁39が通流状態と遮断状態とで切り換えられる。例えば、ゲートロックレバーのポジションがロック位置にある場合には、ロック弁39が閉じてポンプライン148aが遮断され、パイロットポンプ48から電磁弁ユニット160の電磁弁54~59へのパイロット圧の供給が遮断れることで、操作装置1,23(又は、操作装置801,823)による操作が無効化されて、油圧ショベル100の走行、旋回、掘削などの動作が禁止される。また、ゲートロックレバーがロック解除位置にある場合には、ロック弁39が開いてポンプライン148aが開通し、パイロットポンプ48から電磁弁ユニット160の電磁弁54~59へのパイロット圧の供給が許容されることで、操作装置1,23(又は、操作装置801,823)による操作が有効化されて、走行、旋回、掘削等の動作が可能となる。
【0032】
<電磁弁ユニット160>
図3及び
図4は、電磁弁ユニットの詳細を示す図であり、
図3はブームシリンダ、アームシリンダおよびバケットシリンダに係る構成を、
図4は、走行油圧モータおよび旋回油圧モータに係る構成をそれぞれ抜き出して示す図である。
【0033】
図3及び
図4に示すように、フロント制御用の電磁弁ユニット160は、一次ポート側がポンプライン148aを介してパイロットポンプ48に接続されパイロットポンプ48からのパイロット圧を減圧してパイロットライン144a~149bに出力する電磁比例弁54a~59bを備えている。
【0034】
電磁比例弁54a~59a,54b~59bは、非通電時には開度が最小であり、制御コントローラ40からの制御信号である電流を増大させるほど開度は大きくなる。このように、各電磁比例弁54a~59a,54b~59bの開度は制御コントローラ40からの制御信号に応じたものとなる。電磁弁ユニット160において、制御コントローラ40から制御信号を出力して電磁比例弁54a~59bを駆動することにより、対応する操作装置1,23(又は、操作装置801,823)のオペレータ操作が無い場合にもパイロット圧を発生できるので、各油圧アクチュエータ3~7の動作を強制的に発生することができる。
【0035】
<制御コントローラ40>
図5は、コントローラのハードウェア構成図である。
【0036】
図5において、制御コントローラ40は、入力インタフェース91と、プロセッサである中央処理装置(CPU)92と、記憶装置であるリードオンリーメモリ(ROM)93及びランダムアクセスメモリ(RAM)94と、出力インタフェース95とを有している。入力インタフェース91は、操作装置1,23からの操作量を示す信号と、姿勢検出装置であるブーム角度センサ30、アーム角度センサ31、バケット角度センサ32、車体傾斜角センサ33および旋回角度センサ34からの信号と、エンジン回転数設定装置480からの信号と、通信装置650を介して入力される信号と、負荷検出装置16a~16fからの信号と、遠隔搭乗選択装置670からの信号とを入力し、CPU92による演算が可能な形式への変換(例えば、A/D変換)を行う。ROM93は、後述するフローチャートを実行するための制御プログラムと、当該フローチャートの実行に必要な各種情報等が記憶された記録媒体であり、CPU92は、ROM93に記憶された制御プログラムに従って入力インタフェース91及びメモリ93、94から取り入れた信号に対して所定の演算処理を行う。出力インタフェース95は、CPU92での演算結果に応じた出力用の信号を作成し、その信号をエンジン制御コントローラ470や電磁弁ユニット160の電磁比例弁54~59に出力することで、エンジン18や油圧アクチュエータ3~7を駆動・制御する。なお、
図5に示す制御コントローラ40では、記憶装置としてROM93及びRAM94という半導体メモリを備えている場合を例示しているが、記憶機能を有する装置であれば代替可能であり、例えばハードディスクドライブ等の磁気記憶装置を備える構成としても良い。
【0037】
図6は、制御コントローラの処理機能を示す機能ブロック図である。
【0038】
図6に示すように、制御コントローラ40は、電磁比例弁制御部44と、目標動作演算部700と、通信状況判定部710と、緩減速判定部720と、操作信号選択部730と、エンジン回転数設定信号選択部740とを備えている。
【0039】
操作信号選択部730は、遠隔搭乗選択装置670によって搭乗操作状態が選択されているときには、操作装置1,23からの信号を選択して目標動作演算部700に出力し、遠隔搭乗選択装置670によって遠隔操作状態が選択されているときには、通信装置650で受信される信号のうち操作信号に相当する信号(すなわち、操作装置801,823からの信号)を選択して目標動作演算部700に出力する。
【0040】
エンジン回転数設定信号選択部740は、遠隔搭乗選択装置670によって搭乗操作状態が選択されているときには、エンジン回転数設定装置480からの信号を選択して目標動作演算部700及びエンジン制御コントローラ470に出力し、遠隔搭乗選択装置670によって遠隔操作状態が選択されているときには、通信装置650で受信される信号のうちエンジン回転数設定信号に相当する信号(すなわち、エンジン回転数設定装置880からの信号)を選択して目標動作演算部700及びエンジン制御コントローラ470に出力する。
【0041】
通信状況判定部710は、通信装置650で受信される信号から遠隔操縦装置800が当該信号を送信した時刻に関する情報(時刻情報)を抽出し、通信装置650が当該信号を受信した時刻との差を通信遅延時間Tcとして算出し、通信遅延時間Tcが予め定めた閾値Tc0より大きい場合には通信遅延状態であると判定するとともに、判定結果と通信遅延時間Tcを目標動作演算部700に出力する。また、通信状況判定部710は、通信遅延時間Tcが予め定めた閾値Tc0以下である場合には通信正常状態であると判定するとともに、判定結果と通信遅延時間Tcを目標動作演算部700に出力する。
【0042】
緩減速判定部720は、姿勢検出装置である各センサ30~34と負荷検出装置である圧力センサ16a~16fの信号に応じて緩減速を行うか否かを判定し、判定結果(緩減速フラグ)と緩減速を行う際の減速加速度とを出力する(緩減速判定処理)。緩減速判定処理の詳細は後述する。
【0043】
目標動作演算部700は、操作信号選択部730で選択されて出力された操作信号とエンジン回転数設定信号選択部740で選択されて出力された信号とに基づいて、操作装置1,23(又は、操作装置801,823)の操作に対応する油圧アクチュエータの目標アクチュエータ速度を演算するとともに、通信状況判定部710および緩減速判定部720の判定結果に基づいて目標アクチュエータ速度を補正し、補正した目標アクチュエータ速度を電磁比例弁制御部44に出力する(目標アクチュエータ速度演算補正処理)。目標アクチュエータ速度演算補正処理の詳細は後述する。
【0044】
電磁比例弁制御部44は、目標動作演算部700から出力された目標アクチュエータ速度に応じた制御信号(制御指令値)を生成し、対応する電磁比例弁54~59に出力する。
【0045】
<緩減速判定処理(緩減速判定部720)>
図9は、緩減速判定部の緩減速判定処理を示すフローチャートである。
【0046】
緩減速判定部720は、まず、姿勢検出装置30~34から検出した信号に基づいて緩減速を実施するか否かを判定し(ステップS400)、続いて、姿勢情報に応じた減速加速度αpを算出する(ステップS410)。
【0047】
また、ステップS400,S410の処理と並行して、負荷検出装置16a~16fから検出した信号に基づいて、緩減速を実施するか否かを判定し(ステップS401)、続いて、負荷情報に応じた減速加速度αlを算出する(ステップS411)。
【0048】
ステップS410,S411の処理が終了すると、続いて、減速加速度αpと減速加速度αlのうち、絶対値が小さい方を出力する(ステップS420)。
【0049】
また、ステップS400,S401の判定結果において、少なくとも何れか一方の判定結果が緩減速を実施するという判定結果であるか否かを判定し(ステップS430)、判定結果がYESの場合、すなわち、緩減速を実施するという判定結果がある場合には、緩減速フラグ=1を出力する(ステップS440)。また、ステップS430での判定結果がNOの場合、すなわち、緩減速を実施するという判定結果が無い場合には、緩減速フラグ=0(ゼロ)を出力する(ステップS441)。
【0050】
ここで、ステップS400,S401の緩減速の実施判定方法としては、例えば、ZMP(Zero Moment Point)方程式を用いて行う方法がある。ZMP方式を用いる場合には、油圧ショベル100の動作が急停止すると仮定した場合の減速加速度から安定性を評価し、評価の結果から緩減速を実施するかどうかを判定する。なお、緩減速の実施判定は上記方法に限られず、例えば、事前のシミュレーションや実機試験から固定値を求めたり、所定の姿勢について予め定めた判定閾値に基づいて判定したりしてもよい。
【0051】
<目標アクチュエータ速度演算補正処理(目標動作演算部700)>
図10は、目標動作演算部の目標アクチュエータ速度演算補正処理を示すフローチャートである。
【0052】
目標動作演算部700は、まず、操作信号選択部730で出力される操作信号とエンジン回転数設定信号選択部740から出力されるエンジン回転数設定信号とに基づいて、予め定めたテーブル(
図11参照)に基づいてアクチュエータの目標速度を算出する(ステップS500)。
【0053】
続いて、通信状況判定部710で出力された判定結果に基づいて、動作制限を行うか否かを判定する(ステップS510)。通信状況判定部710での判定結果が通信遅延状態である場合には動作制限を行い、通信通常状態である場合には動作制限を行わない。
【0054】
ステップS510での判定結果がYESの場合、すなわち、通信状況判定部710での判定結果が通信遅延状態である場合には、予め定めたテーブル(
図12参照)を用い、通信遅延時間Tcに基づいて減速係数Kを算出し、ステップS500で求めたアクチュエータの目標速度に減速係数Kを乗算して制限された目標速度を算出する(ステップS520)。
【0055】
続いて、緩減速判定部720の判定結果が、緩減速を実施するとなっているか否か判定し(ステップS530)、判定結果がYESの場合には、減速加速度αでS520で算出したアクチュエータの目標速度に到達するようなアクチュエータの目標速度を出力する(ステップS540)。
【0056】
また、ステップS510での判定結果がNOの場合、すなわち、通信正常状態であって動作制限を行わない場合、又は、ステップS530での判定結果がNOの場合、すなわち、緩減速を実施しない場合には、ステップS500又はステップS520で求めたアクチュエータの目標速度を最終値として出力する。
【0057】
以上のように構成した本実施の形態における作用効果について説明する。
【0058】
図13は通信遅延時間の時間経過による変化の一例を、
図14は減速係数Kの時間経過による変化の一例を、
図15はアクチュエータ目標速度の時間経過による変化の一例をそれぞれ示す図である。
【0059】
図13に示すように、時刻T0のときに通信遅延時間TcがTce0からTce1になった場合について例示する。なお、油圧ショベル100はバケット10に十分な土砂を積んでおり、緩減速が必要と判断された状況とする。
【0060】
(1)時刻T0以前について
時刻T0以前において、通信遅延時間TcはTce0であり閾値Tc0以下のため、通信状況判定部710で動作制限不要と判定される。このため,目標動作演算部700では通信状況による動作制限はONとならないため(
図10のS510参照)、アクチュエータの目標速度Vt(
図10のS500参照)がそのまま出力される(
図15参照)。
【0061】
(2)時刻T0~T1について
図13に示すように、時刻T0以降は通信遅延時間TcがTce1となる。通信状況判定部710は、Tce1が閾値Tc0よりも大きいため、動作制限が必要と判定する。このとき、目標動作演算部700では動作制限ONとなり(
図10のS510参照)、制限された目標速度が算出される(
図10のS520参照)。
【0062】
図14に示すように、通信遅延時間TcがTce1のときの減速係数はKeであるため、アクチュエータの目標速度Vt(
図10のS500参照)に対してKeを乗算したVt×Keをアクチュエータの目標速度として出力する(
図10のS520)。
【0063】
また、バケットの積荷の状況から緩減速判定部720にて緩減速を行うと判定され(
図10のS530参照)、このときの減速加速度αと出力する。このとき、
図15のT0からT1の区間のように減速加速度がα(傾きがα)となるようにアクチュエータの目標速度を出力する。
【0064】
(3)時刻T1以降について
時刻T1以降では、緩減速を行うと判定されているものの(
図10のS530参照)、減速は完了しているので、Vt×Keをアクチュエータの目標速度として出力する。
【0065】
(4)通信遅延時間TcがTc1以上の場合
上記の(1)~(3)では、通信遅延時間TcがTce0からTce1になった場合を例示したが、
図14においてはさらに、通信遅延時間Tcが予め定めたTc1以上の場合に減速係数K=0(すなわち、Ke=0)となるよう設定している。この場合、通信遅延時間がTc1以上になると、
図15に例示したアクチュエータ速度Vt×Keが0(ゼロ)となるので、アクチュエータの動作を確実に停止することができる。
【0066】
以上のように構成した本実施の形態においては、急停止による積荷の飛散や作業機械の安定性の低下による作業性の悪化を抑制しつつ、通信状況に応じて適切に動作を制限することができる。
【0067】
<第2の実施の形態>
本発明の第2の実施の形態を
図16を参照しつつ説明する。
【0068】
本実施の形態は、第1の実施の形態における制限されたアクチュエータ目標速度の演算(
図10のS520参照)において、異なるテーブルを用いる場合を例示するものである。
【0069】
図16は、通信遅延時間と減速係数との関係を定めたテーブルの一例を示す図である。図中、第1の実施の形態と同様の事項には同じ符号を用い、説明を省略する。
【0070】
図16に示すように、本実施の形態においては、目標動作演算部700において制限されたアクチュエータ目標速度を演算する際に(
図10のS520参照)、アクチュエータ目標速度を0(ゼロ)とする。
【0071】
この場合は、
図15のVt×Keを0(ゼロ)に置き換えることになり、油圧ショベル100の動作が最終的に停止することになるが、緩減速を行うため、第1の実施の形態と同様に作業効率の悪化を防止することができる。
【0072】
<付記>
なお、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内の様々な変形例や組み合わせが含まれる。また、本発明は、上記の実施の形態で説明した全ての構成を備えるものに限定されず、その構成の一部を削除したものも含まれる。
【0073】
例えば、本発明の実施の形態においては、ブーム8,アーム9,バケット10の角度を検出する角度センサを用いたが、角度センサではなくシリンダストロークセンサによりショベルの姿勢情報を算出するとしても良い。また、電気レバー式のショベルを例として説明したが、油圧パイロット式のショベルであれば油圧パイロットから生成される指令パイロット圧を制御するような構成としても良い。
【0074】
また、本発明の実施の形態においては、油圧ショベルを例示して説明したが、これに限られず、例えば、ホイールローダやクレーンといった他の作業機械に適用してもよい。
【0075】
また、本発明の実施の形態においては、すべての機能を油圧ショベル100の制御コントローラ40に備えている場合を例示したが、機能の一部を遠隔操縦装置800や通信を行う際に経由するサーバなどへ配置する構成としても良い。
【0076】
また、本発明の実施の形態においては、アクチュエータの目標速度を制限するように構成したが、入力信号である操作信号を制限したり、エンジン回転数を低減させたりするように構成しても良い。
【0077】
また、本発明の実施の形態においては、通信遅延時間Tcを遠隔操縦装置800の送信時刻と通信装置650の受信時刻との差で演算したが、通信装置650が遠隔操縦装置800に信号を送信し、その信号を遠隔操縦装置800がそのまま通信装置650に返送し、その往復の時間から通信遅延時間Tcを算出してもよい。
【0078】
また、本発明の実施の形態においては、通信遅延時間Tcを演算する演算部を油圧ショベル100の制御コントローラ40に設けたが、これに限られず、遠隔操縦装置800や遠隔操縦装置800と通信装置650間で通信を経由するサーバなどに設けて通信遅延時間Tcを通信装置650へ送信する構成としてもよい。
また、上記の各構成、機能等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等により実現してもよい。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。
【符号の説明】
【0079】
1…操作装置、1a…操作右レバー、1A…フロント作業装置、1b…操作左レバー、1B…車体、2…油圧ポンプ、2aa,2ba…レギュレータ、3a,3b…走行油圧モータ、4…旋回油圧モータ、5…ブームシリンダ、6…アームシリンダ、7…バケットシリンダ、8…ブーム、9…アーム、10…バケット、11…下部走行体、12…上部旋回体、13…バケットリンク、15a~15f…流量制御弁、16a~16f…圧力センサ、18…エンジン、23…操作装置、30~32…角度センサ、33…車体傾斜角センサ、34…旋回角度センサ、39…ロック弁、40…制御コントローラ、44…電磁比例弁制御部、48…パイロットポンプ、54…電磁比例弁、91…入力インタフェース、92…CPU、93…ROM、94…RAM、95…出力インタフェース、100…油圧ショベル、160…電磁弁ユニット、470…エンジン制御コントローラ、480…エンジン回転数設定装置、490…エンジン回転数検出装置、650…通信装置、670…遠隔搭乗選択装置、700…目標動作演算部、710…通信状況判定部、720…緩減速判定部、730…操作信号選択部、740…エンジン回転数設定信号選択部、800…遠隔操縦装置、801…操作装置、801a…操作装置、801b…操作装置、810…表示装置、823…操作装置、823a…操作装置、823b…操作装置、850…通信装置、880…エンジン回転数設定装置