(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-18
(45)【発行日】2022-10-26
(54)【発明の名称】測量方法、設置方法、及び対空標識
(51)【国際特許分類】
G01S 7/03 20060101AFI20221019BHJP
【FI】
G01S7/03 200
(21)【出願番号】P 2021082947
(22)【出願日】2021-05-17
【審査請求日】2021-06-14
(73)【特許権者】
【識別番号】591130319
【氏名又は名称】東京パワーテクノロジー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000135771
【氏名又は名称】株式会社パスコ
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100182305
【氏名又は名称】廣田 鉄平
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100221958
【氏名又は名称】篠田 真希恵
(74)【代理人】
【識別番号】100192441
【氏名又は名称】渡辺 仁
(72)【発明者】
【氏名】宮本 法秀
(72)【発明者】
【氏名】石岡 義則
(72)【発明者】
【氏名】桑島 宣司
(72)【発明者】
【氏名】古恵良 拓哉
(72)【発明者】
【氏名】清水 祥
【審査官】今浦 陽恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-048163(JP,A)
【文献】中国実用新案第212723311(CN,U)
【文献】国際公開第2021/083853(WO,A1)
【文献】中国実用新案第212515013(CN,U)
【文献】中国実用新案第212275961(CN,U)
【文献】中国特許出願公開第112285661(CN,A)
【文献】特開平09-189762(JP,A)
【文献】特開2021-114275(JP,A)
【文献】中国実用新案第201654225(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00 - 7/42
G01S 13/00 - 13/95
G01C 15/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面部と、当該平面部に略垂直となるように、前記平面部に連結される柱部と、所定の角度調整機構とを備えた、合成開口レーダーにより検知可能な対空標識の変位を測量する測量方法であって、
所定の設置面に前記平面部を設置する設置ステップと、
前記平面部に、前記柱部を連結する連結ステップと、
所定の衛星測位方式を用いて、前記対空標識の位置を測位する測位ステップと、
前記測位した結果から、前記対空標識の相対変位を算出する算出ステップと
を含み、
前記角度調整機構は、
前記所定の設置面に対する前記平面部の角度を調整する第1の角度調整機構と、
前記平面部に対する前記柱部の角度を調整する第2の角度調整機構と
を備え、
前記対空標識を交換する必要がある場合に、前記対空標識の交換前後において、
前記第1の角度調整機構を用いて前記所定の設置面に対する前記平面部の角度を同じ角度に調整し、かつ、前記第2の角度調整機構を用いて前記平面部に対する前記柱部の角度を同じ角度に調整して、前記対空標識を交換することを特徴とする測量方法。
【請求項2】
平面部と、当該平面部に略垂直となるように、前記平面部に連結される柱部と、所定の角度調整機構とを備えた、合成開口レーダーにより検知可能な対空標識の設置方法であって、
所定の設置面に前記平面部を設置する設置ステップと、
前記平面部に、前記柱部を連結する連結ステップと
を含み、
前記角度調整機構は、
前記所定の設置面に対する前記平面部の角度を調整する第1の角度調整機構と、
前記平面部に対する前記柱部の角度を調整する第2の角度調整機構と
を備え、
前記対空標識を交換する必要がある場合に、前記対空標識の交換前後において、
前記第1の角度調整機構を用いて前記所定の設置面に対する前記平面部の角度を同じ角度に調整し、かつ、前記第2の角度調整機構を用いて前記平面部に対する前記柱部の角度を同じ角度に調整して、前記対空標識を交換することを特徴とする設置方法。
【請求項3】
前記対空標識の劣化の度合い又は破損状況の少なくともいずれか一方に応じて、前記対空標識を交換する必要があるか否かを判定する判定ステップをさらに含むことを特徴とする請求項2に記載の設置方法。
【請求項4】
前記判定ステップにおいて、前記対空標識に外部的な変化が認められる場合、撮影したデータから反射強度画像を生成し、その反射強度が所定の閾値以下となった場合の少なくともいずれかの場合に、前記対空標識が劣化したものと見做して、前記対空標識を交換する必要があると判定することを特徴とする請求項3に記載の設置方法。
【請求項5】
合成開口レーダーにより検知可能な対空標識であって、
所定の設置面に設置される平面部と、
当該平面部に略垂直となるように、前記平面部に連結される柱部と
、
前記所定の設置面に対する前記平面部の角度を調整する第1の角度調整機構
と、
前記平面部に対する前記柱部の角度を調整する第2の角度調整機構と
を備えることを特徴とする対空標識。
【請求項6】
前記第1の角度調整機構が、中心が前記平面部の中心と同じ位置に位置する、複数の正三角形で形成される星型の頂点に設けられたレベル出しボルト用の穴、又は、中心が前記平面部の中心と同じ位置に位置する、正多角形の頂点に設けられたレベル出しボルト用の穴に、レベル出しボルトを螺入し、その螺入量を調整することで実現されることを特徴とする請求項5に記載の対空標識。
【請求項7】
前記第2の角度調整機構が、前記柱部の下端部に溶接されたL字板の底部固定面に設けられたレベル出しボルト用の穴と、前記平面部に設けられた固定ベースのレベル出しボルト用の穴を位置合わせし、その位置合わせしたレベル出しボルト用の穴に、レベル出しボルトを螺入し、その螺入量を調整することで実現されることを特徴とする請求項
5又は6に記載の対空標識。
【請求項8】
前記柱部が円柱形状、又は十字柱形状であることを特徴とする請求項5から
7のいずれかに記載の対空標識。
【請求項9】
港湾施設、橋梁施設、発電施設、廃棄物処理施設、貯水施設、防災施設、プラント施設、仮設設備、又は貯蔵施設の少なくともいずれかに設置するための請求項5から
8のいずれかに記載の対空標識。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対空標識、対空標識を用いた測量方法、並びに対空標識の設置方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発電所や港湾施設の護岸設備や防波堤等においては、地震や波浪、背面土圧や水圧、上載荷重等の影響により、構造物や地盤等に変位、隆起、沈下が生じ、それに伴って、護岸性能、遮水性能を損なう恐れがある。そのため、それらの挙動(変動)を監視する必要があるが、広範囲に天災が及ぶと、人的に測量を実施することは、多大な労力や時間を要することとなり、極めて困難なものとなる。
【0003】
また、大規模な地下工事等、その工事が中長期に及ぶ場合であって、かつ、地域住民及び工事業者の安全のために、地上部の地盤の変動を監視する必要がある場合にも、同様に、人的に測量を実施することは、測量に時間を要するとともに危険が伴い、極めて困難なものとなる。
【0004】
そこで、現地に留まって測量する以外に、現地の立ち入りを最小限とした上で、確実かつ継続的な測量が可能な、SAR(Synthetic Aperture Radar:合成開口レーダー)衛星を用いて測量することが行われている。
【0005】
このSAR衛星を用いた測量では、SAR衛星から地表に照射された電磁波をSAR衛星に反射させてSAR衛星が反射した電磁波を受信する。これを異なる時期に観測した電磁波と比較し、地盤等の変動を把握することができる。また従来、ある対象点に注目し、変動を監視する場合は、コーナーキューブリフレクタを用いることが知られている。コーナーキューブリフレクタを設置すると、SAR衛星から地表に照射された電磁波が、コーナーキューブリフレクタ内で複数回反射するので反射強度が強くなり、観測対象の変動を精度よく観測することができる。
【0006】
但し、SAR衛星に強い強度で電磁波を反射させるには、コーナーキューブリフレクタの開口面を電磁波の到来方向に向けて、コーナーキューブリフレクタを設置する必要がある。そのため、コーナーキューブリフレクタの開口面を、電磁波の到来方向と異なる方向に誤って設置してしまうと、開口面の向く方向から電磁波を照射するSAR衛星が存在しないことになり、その場合、SAR衛星はコーナーキューブリフレクタを検知できないことになる(即ち、SAR衛星が照射する電磁波の到来方向とコーナーキューブリフレクタの開口面が異なる場合には、測量を行うことができなくなる)。
【0007】
この問題に対応するため、SAR衛星の軌道(即ち、電磁波の到来方向)を考慮せずに、略全方位からの電磁波の到来に対して、反射波を好適に返すことが可能なリフレクタが開示されている(特許文献1)。この特許文献1のリフレクタは、SAR衛星が発信する電磁波を反射する材料からなる柱部及び平面部を備え、地表に立設される柱部が柱部の周囲の地表に敷設される平面部に垂直に立設され、SAR衛星から到来する電磁波を柱部の側面と平面部の上面とで反射して到来方向に返すものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このように、特許文献1のリフレクタでは、反射波を好適に返せる電磁波の到来方向の範囲が広いので、SAR衛星の軌道を考慮せずに略全方位からの電磁波の到来に対して設置することができる。しかしながら、大規模な地下工事等、工事による変動を長期間にわたり監視する必要がある場合、また、気象条件が厳しい環境や湾岸周辺等にリフレクタを設置する場合等には、リフレクタが劣化及び/又は破損することから、リフレクタを交換しなければならない。
【0010】
そして、その場合、特許文献1のリフレクタの構造では、リフレクタの交換前後においてリフレクタの傾きを調整することができず(即ち、リフレクタの傾きを同じ傾きで設置することができず)、リフレクタの交換前と交換後では、SAR衛星に受信される電磁波も異なるので、継続して測量する上で測量に誤差が生じることになり、同一地点の変動を正確に把握することができないという課題がある。
【0011】
本発明は、上記従来の課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、衛星を用いた中長期的な変動の測量において、その測量の誤差を低減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の測量方法は、平面部と、当該平面部に略垂直となるように、前記平面部に連結される柱部と、所定の角度調整機構とを備えた、合成開口レーダーにより検知可能な対空標識の変位を測量する測量方法であって、所定の設置面に前記平面部を設置する設置ステップと、前記平面部に、前記柱部を連結する連結ステップと、所定の衛星測位方式を用いて、前記対空標識の位置を測位する測位ステップと、前記測位した結果から、前記対空標識の相対変位を算出する算出ステップとを含み、前記対空標識を交換する必要がある場合に、前記対空標識の交換前後において、前記角度調整機構を用いて前記対空標識の角度を同じ角度に調整して、前記対空標識を交換することを特徴とする。
【0013】
また、本発明の設置方法は、平面部と、当該平面部に略垂直となるように、前記平面部に連結される柱部と、所定の角度調整機構とを備えた、合成開口レーダーにより検知可能な対空標識の設置方法であって、所定の設置面に前記平面部を設置する設置ステップと、前記平面部に、前記柱部を連結する連結ステップとを含み、前記対空標識を交換する必要がある場合に、前記対空標識の交換前後において、前記角度調整機構を用いて前記対空標識の角度を同じ角度に調整して、前記対空標識を交換することを特徴とする。
【0014】
さらに、本発明の対空標識は、合成開口レーダーにより検知可能な対空標識であって、所定の設置面に設置される平面部と、当該平面部に略垂直となるように、前記平面部に連結される柱部とを備え、前記平面部は、前記所定の設置面に対する前記平面部の角度を調整する第1の角度調整機構を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、衛星を用いた中長期的な変動の測量において、その測量の誤差を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図3】対空標識がSAR衛星からの照射波を反射する様子を示す模式図である。
【
図4】対空標識の変位を測量する手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下の実施形態は、本発明を限定するものではなく、本実施形態で説明されている特徴の組み合わせの全てが本発明の解決手段に必須のものとは限らない。その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲の様々な形態も本発明に含まれ、また、以下の実施形態の一部を適宜組み合わせることもできる。
【0018】
図1は、地表30に設置された対空標識10、並びに上空を通過するSAR衛星21(21a,21b)を示す概要図である。
図1(A)に示されるように、2つのSAR衛星21a,21bは、対空標識10から見て互いに異なる方位に位置し、また、互いに異なる入射角でマイクロ波帯の電磁波25(25a,25b)を対空標識10に照射する。なお、以降の記載において、対空標識10のことを、リフレクタ10として記載する。また、リフレクタ10の設置面としては、地盤が中長期的にあまり変動しないような場所であって、例えば、アスファルトやコンクリートの地面、防波堤、護岸、メガフロート、又は係船岸等の港湾施設、橋脚や橋梁等の橋梁施設、発電施設、廃棄物処理施設(盛土堤を構築して管理型等の施設)、貯水池等の貯水施設、防災施設(河川築堤)等の盛土堤や堤体、ガス、鉄鋼プラント等のプラント施設、土留め材等の仮設設備、貯蔵タンク等の貯蔵施設、ビル等の建屋の屋上等が想定されるが、ここでは、地表30として説明する。
【0019】
SAR衛星21は、地球を上昇軌道と下降軌道で周回し、衛星の進行方向に対して直角の方向の右下方、若しくは左下方に向けて電磁波を照射するため、20°~45°程度の入射角を持って撮影する。
【0020】
図1(B)は、SAR衛星21aを用いた変位情報の取得について説明するための図であり、
図1(B)において、リフレクタは、リフレクタ10からリフレクタ10´に変位している。SAR衛星21aは、同軌道から得られた複数時期のレーダー衛星データを干渉処理し、位相情報を利用することで、リフレクタ10の変位情報を取得する。
図1(B)において、例えば、SAR衛星21aから照射される電磁波の波長が3cmである場合であって、かつ位相情報(位相差)が45度である場合、変位情報(即ち、リフレクタ10からリフレクタ10´の変位であるΔd)を7.5mmとして取得する。
【0021】
次に、リフレクタ10の構造と、リフレクタ10における電磁波の反射態様について説明する。先ず、リフレクタ10は、後述のように、柱部と平面部を備え、ここでは、柱部が円柱形状であるリフレクタについて説明する。
【0022】
図2は、一実施形態に係るリフレクタ10の概略図である。
図2のうち、
図2(A)はリフレクタ10の斜視図として示され、
図2(B)はリフレクタ10の上面図として示される。
図2(A)に示されるように、リフレクタ10は、柱部12と平面部16を備える。なお、リフレクタ10に関して、SAR衛星21が発信する電磁波を反射することができるように、少なくとも柱部12の表面及び平面部16の平坦な上面となる部分は、ステンレス等の金属で作製される。また、平面部16の平坦な上面は、上空からの可視光撮影によりリフレクタ10が検知されるように、白色又は黄色に設定されてもよい。
【0023】
柱部12は、平面部16に対して略垂直に立設される柱形状であり、また、その柱部12の断面形状(柱部の軸に垂直な断面形状)は円、又は円に比較的近い等方性を有する回転対称な形状である。
【0024】
図2(A)及び
図2(B)に示されるように、柱部12の下端部には、L字板13が溶接されており、このL字板13を用いて、リフレクタ10の平面部16に対する柱部12の角度を調整した上で、柱部12が平面部16に固定される。具体的には、L字板13の底部固定面には、固定ロックナット用の穴14が設けられており、この固定ロックナット用の穴14を、平面部16に備えられた固定ベース19の固定ロックナット用の穴14´に位置合わせして、固定ロックナットを螺入し、締め付けることにより柱部12を平面部16に仮固定する(仮止めする)。
【0025】
また、L字板13の底部固定面には、レベル出しボルト用の穴15が設けられており、このレベル出しボルト用の穴15を、平面部16に備えられた固定ベース19のレベル出しボルト用の穴15´に位置合わせして、レベル出しボルトを螺入し、螺入量を調整することで、平面部16に対する柱部12の角度(傾き)を調整する。
図2(A)及び
図2(B)では、柱部12に対して、L字板13が3箇所で溶接されており、各々のL字板13で、レベル出しボルトにより、平面部16に対する柱部12の角度を調整している。なお、平面部16に対する柱部12の角度を調整すると、仮固定していた固定ロックナットをさらに締め付けることで、柱部12を平面部16に本固定(連結)する。
【0026】
平面部16は、基本的に平坦な上面を形成し、また、その平面形状を略正方形としている。
図2(B)に示されるように、平面部16には、その中心(即ち、重心)が平面部16の中心と同じ位置に位置する、2つの正三角形で形成される星型の頂点にレベル出しボルト用の穴17が6つ、備えられている。また、平面部16の頂点内側と、星型の各頂点を円周上に含む円の円周上であって、平面部16を形成する略正方形の各辺の中点内側にアンカー取付用の穴18が8つ、備えられている。さらに、柱部12の設置面(柱部12の底基準面)に、その一辺が隣接するように設置される固定ベース19が3つ、備えられている。
【0027】
ここで、レベル出しボルト用の穴17は、地表30に対する平面部16の角度を調整するために用いられ、アンカー取付用の穴18は、地面等、設置対象とする接地面(地表30)に平面部16を固定するために用いられる。また、固定ベース19は、柱部12を固定ロックナットで平面部16に連結(固定)するために用いられるものであり、平面部16を薄くしても柱部12の荷重に耐えられる強度を有するように設計される。
【0028】
このように、平面部16に柱部12を連結させる構造(組み立てる構造)とすることで、地表30に対するリフレクタ10の平面部16の角度、また、リフレクタ10の平面部16に対する柱部12の角度を、個別に調整することができる。また、SAR衛星21を用いて変位情報を取得する上で、リフレクタ10の重量として、約70kg程度の重量(平面部16の重量が約30kg、柱部(円柱)16の重量が約40kg)が必要となり、平面部16と柱部12を一体型とすると人力での運搬及び設置が困難になるが、平面部16と柱部12を分離させる構造とすることで人力での運搬及び設置が可能となる。補足として、
図2(B)に示されるように、柱部12の上部底面には、取手が設置されており、これにより人力での運搬を容易になっており、運搬の安全性の向上にもつながっている。
【0029】
なお、
図2では、柱部12の断面形状を、円、又は円に比較的近い等方性を有する回転対称な形状として説明したが、柱部12の断面形状を十字形状とすることもできる(即ち、
図2では、柱部12を円柱形状として説明したが、柱部12を十字柱形状とすることもできる)。このように柱部12を十字形状とすることで、平板でリフレクタ10を構成させることができるため、嵩張ることなく、運搬、また保管することができる。柱部12を十字柱形状とした場合、リフレクタ10の構成は、柱部12を円柱形状とした場合とおおよそ同様の構成となるが、柱部12に溶接されるL字板13の位置、及び平面部16に設置される固定ベース19の位置は少なくとも異なる。
【0030】
柱部12を十字柱形状とする場合、柱部12を円柱形状とした場合と同じようにはL字板13を溶接できず、そのため、十字柱形状を形成するプレートに、L字板13を溶接する上で必要十分な厚みを持たせ、その厚み部分にL字板13を溶接する。また、この場合、固定ベース19は、連結時に、固定ベースの位置が柱部12に溶接されたL字板13の位置に対応するように、平面部16に設置される。
【0031】
その他、
図2では、平面部16の平面形状を略正方形として説明したが、平面部16の平面形状は必ずしも略正方形等、角形に限定されず、略円形とすることもできる。また、平面部16のレベル出しボルト用の穴17を、2つの正三角形で形成される星型の頂点に設定して説明したが、ここでの、正三角形の数を複数にして、複数の正三角形で形成される星型の頂点に設定したり、その中心(即ち、重心)が平面部16の中心と同じ位置に位置する、正多角形の頂点に設定したりしてもよい。さらに、反射強度を高め、対空標識として明瞭に識別する上で、平面部16の中心から外縁部までの長さを、柱部12の高さの2倍の長さとすることが好ましい。
【0032】
次に、リフレクタ10における電磁波の反射態様について説明する。
図3は、リフレクタ10が、SAR衛星21a、21bからの照射波25a、25bを反射し、SAR衛星21a、21bに反射波を返す様子を示す模式図である。なお、ここでは、リフレクタ10として、上述の柱部12が円柱形状であるリフレクタを用いて説明する。また、リフレクタ10において、柱部12の側面と平面部16の平坦な上面とはどの方位に対しても直角をなしている。
【0033】
図3に示されるように、SAR衛星21aから柱部12の軸に向かう方位に送信された照射波25aが平面部16の平坦な上面に入射すると、照射波25aは平面部16の平坦な上面で反射し、その反射波25aは柱部12の側面に入射する。そして、柱部12の側面のうち、照射波25aの到来した方位に略直交する領域に入射した反射波27aは、照射波25aの到来した方位に、さらに反射される(即ち、反射波29aを生じる)。このとき、反射波29aは照射波25aと同一の鉛直面上にある。
【0034】
さらに、上述のように、反射波27aを生じる平面部16の平坦な上面と反射波29aを生じる柱部12の側面とは略垂直としていることから(略直交していることから)、反射波29aは当該鉛直面上にて照射波25aと平行で逆向きに進行する。よって、反射波29aはSAR衛星21aに到達し、その受信信号に基づいてリフレクタ10が検知される。なお、上述の略垂直とは、平面部16の平坦な上面と柱部12の側面の成す角度が必ずしも90度である必要はなく、平面部16の平坦な上面に入射し、平面部16の平坦な上面で反射された反射波が、さらに、柱部12の側面で反射され、SAR衛星21aに返され得るように設定される、平面部16の平坦な上面と柱部12の側面の成す角度として示される。
【0035】
以上、ここでは、照射波25aの反射について説明したが、方位や入射角が異なる照射波25bについても同様であり、照射波25bに対するリフレクタ10の反射波29bはSAR衛星21bに到達し、リフレクタ10が検知される。また、照射波25a、25bが柱部12の側面に入射した場合は、電磁波は上述した経路を逆の順序に従ってSAR衛星21a、21bに戻ることから、この場合も同様にリフレクタ10は検知される。
【0036】
次に、上述の
図2で説明したリフレクタ10の構造を踏まえ、(1)リフレクタ10の初期設置と(2)リフレクタ10の交換時における設置について、順に説明する。
【0037】
(1)リフレクタ10の初期設置
リフレクタ10の初期設置(即ち、計測を開始する前の初期設置)では、地表30に対して、リフレクタ10の平面部16が水平となるように設置する。リフレクタ10の初期設置において、先ず、地表30に対して、リフレクタの平面部16の頂点内側に設けられたアンカー取付用の4つの穴18の各々にアンカーボルトを螺入し、締め付け、さらに、アンカー取付用の残りの4つの穴18の各々にアンカーボルトを螺入し、締め付けることで、地表30にリフレクタの平面部16を仮固定(仮止め)する。
【0038】
リフレクタ10の平面部16を地表30に仮固定すると、2つの正三角形で形成される星型の頂点に設けられたレベル出しボルト用の6つの穴17の各々にレベル出しボルトを螺入し、さらに、その螺入量を調整することで、リフレクタの平面部16を地表30に対して水平にする。その後、仮固定していたアンカーボルトをさらに締め付けることで本固定する。
【0039】
そして、リフレクタ10の平面部16が地表30に対して水平に調整されると、リフレクタ10の柱部12に溶接されたL字板13の底部固定面に設けられた固定ロックナット用の穴14と、リフレクタ10の平面部16に備えられた固定ベース19の固定ロックナット用の穴14´の位置が各々、一致するように、リフレクタ10の柱部12を位置合わせし、さらに、固定ロックナットを各々、螺入し、締め付けることで、柱部12を平面部16に仮固定する。
【0040】
柱部12を平面部16に仮固定すると、L字板13の底部固定面に設けられたレベル出しボルト用の穴15と、平面部16に備えられた固定ベース19のレベル出しボルト用の穴15´の位置が各々、一致するように、リフレクタ10の柱部12を位置合わせし、さらに、レベル出しボルトを各々、螺入し、螺入量を調整することで、リフレクタ10の平面部16に対してリフレクタ10の柱部12が略垂直となるように調整する。その後、仮固定していた固定ロックナットをさらに締め付けることで本固定する。
【0041】
(2)リフレクタ10の交換時における設置
リフレクタ10の交換時における設置では、リフレクタ10の交換前後において、地表30に対するリフレクタ10の平面部16の角度、及びリフレクタ10の平面部16に対する柱部12の角度が同じ角度になるように設置する。先ず、リフレクタ10の交換前において、角度計を用いて、地表30に対するリフレクタ10の平面部16の角度、及びリフレクタ10の平面部16に対する柱部12の角度を各々、計測する。なお、角度計としては、市販のデジタル角度計、傾斜計等、公知の手段を用いることができる。
【0042】
次に、劣化及び/又は破損したリフレクタ10を交換する上で、L字板13の底部固定面に螺入された固定ロックナットを緩めることで、リフレクタ10の柱部12と平面部16の連結を解除し、さらに、リフレクタ10の平面部16に螺入されたアンカーボルトを緩めることで、リフレクタ10の平面部16を地表30から取り外す。
【0043】
そして、劣化及び/又は破損したリフレクタ10を地表30から取り外すと、リフレクタ10の平面部16の頂点内側に設けられたアンカー取付用の4つの穴18とアンカー取付用の残りの4つの穴18の位置が各々、リフレクタ10の平面部16の初期設置時において、地表30に形成された穴の位置に一致するように、リフレクタ10の平面部16を位置合わせして、アンカーボルトを螺入し、締め付けることによりリフレクタ10の平面部16を地表30に仮固定する。
【0044】
リフレクタ10の平面部16を地表30に固定すると、2つの正三角形で形成される星型の頂点に設けられたレベル出しボルト用の6つの穴17の各々にレベル出しボルトを螺入し、さらに、地表30に対するリフレクタ10の平面部16の角度が取り外し前に計測した角度に一致するように、6つのレベル出しボルトのうち、調整するレベル出しボルトを選択し、また、その螺入量を調整する。なお、このように、レベル出しボルト用の穴17に、レベル出しボルトを螺入し、その螺入量を調整することで、リフレクタ10の平面部16は、アジャスタ(角度調整機構)を備えることになる。その後、仮固定していたアンカーボルトをさらに締め付けることで本固定する。
【0045】
続いて、リフレクタ10の平面部16の角度が調整されると、リフレクタ10の柱部12に溶接されたL字板13の底部固定面に設けられた固定ロックナット用の穴14と、リフレクタ10の平面部16に備えられた固定ベース19の固定ロックナット用の穴14´の位置が各々、一致するように、リフレクタ10の柱部12を位置合わせし、さらに、固定ロックナットを各々、螺入し、締め付けることで、リフレクタ10の平面部16にリフレクタ10の柱部12を仮固定する。さらに、L字板13の底部固定面に設けられたレベル出しボルト用の穴15にレベル出しボルトを螺入し、リフレクタ10の平面部16に対する柱部12の角度が取り外し前に計測した角度に一致するように、3つのL字板13のうち、調整するL字板13(レベル出しボルト)を選択し、また、その螺入量を調整する。その後、仮固定していた固定ロックナットをさらに締め付けることで本固定する。
【0046】
これにより、リフレクタ10の交換前後において、地表30に対するリフレクタ10の平面部16の角度、及びリフレクタ10の平面部16に対する柱部12の角度が同じ角度になるように、リフレクタ10が設置される。なお、リフレクタ10の柱部12のみ破損した場合には、リフレクタ10の平面部16に対する柱部12の角度が交換前後において同じになるようにして、リフレクタ10の柱部12のみを交換してもよい。
【0047】
次に、
図4のフローチャートを用いて、リフレクタ10の変位を測量する手順について説明する。初期設置として、変位を計測したい箇所の地表30に、リフレクタ10の平面部16を地表30に対して水平になるように設置し、さらに、そのリフレクタ10の平面部16に柱部12を連結させる(ステップS11)。そして、リフレクタ10を設置すると、リフレクタ10の位置(初期値)を測量する(ステップS12)。
【0048】
その後、リフレクタ10が初期設置状態からどのように変位するかを2方向からSAR衛星21により測量し、相対変位を算出する(ステップS13)。なお、ここでの相対変位は、2.5次元解析で算出される。ここで、2.5次元解析とは、2つの異なる方向からのSAR画像を各々、1次元解析し、さらに、その結果をベクトルとして統合し、疑似立体的に解析する技術である。補足として、ここでの処理には、例えば、各種データを受信する受信部、各種データを解析する解析部、解析結果を表示装置に表示制御させる制御部等を備えた、所定の計算機(コンピュータ)が用いられる。
【0049】
続いて、予定している測量対象期間が満了しているか否かを判定する(S14)。測量対象期間が満了していない場合、リフレクタ10の劣化度合い及び/又は破損状況を確認し、リフレクタ10を交換する必要があるか否かを判定する(ステップS15)。なお、リフレクタ10の相対変位を求める処理とリフレクタ10を交換する必要があるか否かを判定する処理は、各々、規定した周期に従って、又は、適当な時機(不定期)に実行してもよい。
【0050】
ステップS15において、リフレクタ10を交換する必要があると判定されると、リフレクタ10を交換する(ステップS16)。上述のように、リフレクタ10の交換時においてリフレクタ10の交換前と同じ状態でリフレクタ10を設置するため、リフレクタ10の交換前に、地表30に対するリフレクタ10の平面部16の角度、及びリフレクタ10の平面部16に対する柱部12の角度を計測し、これらの角度が同じ角度になるように、リフレクタ10を交換(設置)する。なお、リフレクタ10を交換すると、処理をステップS13に返す。また、測量を繰り返し実施し(相対変位を繰り返し算出し)、S14において、予定している測量対象期間が満了したものと判定されると、測量を終了する。なお、リフレクタ10を交換するタイミング(時機)に関して、ここでは、予定している測量対象期間の満了時としているが、リフレクタ10を交換する必要がないと判定(判断)した時点等、適当なタイミングで測量を終了してもよい。
【0051】
最後に、本実施形態に係る測量方法を適用して測量した場合と、本実施形態に係る測量方法を適用しないで測量した場合の測量結果について、簡単に触れる。上述のように、本実施形態に係る測量方法を適用して変位を測量すると、リフレクタ10の交換前後において、地表30に対するリフレクタ10の平面部16の角度、及びリフレクタ10の平面部16に対する柱部12の角度が同じ角度になるように調整することから、30年間、40年間と監視(解析)した場合であっても、地盤変動による変位のみを確認することができる。
【0052】
他方、本実施形態に係る測量方法を適用しないで測量すると、交換前後において、地表30に対するリフレクタ10の平面部16の角度、及びリフレクタ10の平面部16に対する柱部12の角度が同じ角度に調整されることなく、リフレクタ10を設置することになるため、地盤変動以外の角度に起因した変位(誤差)も測量されることになる。また、SAR衛星21を用いた測量において、測量(解析)可能な変位は、SAR衛星21によって異なるが、数mm~数cmであり、そのため、角度に起因した誤差の寄与分が大きくなり、リフレクタ10の変位を確認する上で、リフレクタ10の交換後のデータを使用することができなくなる。さらに複数回、リフレクタ10を交換した場合、その誤差が、基本的には回数に応じて累積することになる。
【0053】
以上、説明したように、本発明の測量方法によれば、衛星を用いた中長期的な変動の測量において、その測量の誤差を低減することができる。なお、リフレクタに関して、定期検査でサビや形状の変形等の外部的な変化が認められる場合、また、撮影したデータから反射強度画像を生成し、急激な反射の低下が確認された場合(反射強度が所定の閾値以下となった場合)等に劣化したものと見做し、リフレクタを交換するタイミングとする。また、リフレクタの設置場所にも依るが、沿岸部等、気象条件が厳しいところでは、3年から5年で劣化し、リフレクタを交換する必要があることから、1ヶ月単位でリフレクタの劣化度合いを検査(確認)する。
【0054】
また、上述の実施形態では、地表に対するリフレクタの平面部の角度を調整する角度調整機構と、リフレクタの平面部に対する柱部の角度を調整する角度調整機構の2つの角度調整機構を備える構成として説明したが、地表に対するリフレクタの平面部の角度を調整する角度調整機構のみを備える構成としてもよい。
【符号の説明】
【0055】
12 柱部
13 L字板
14 固定ロックナット用の穴
15 レベル出しボルト用の穴
16 平面部
17 レベル出しボルト用の穴
18 アンカー取付用の穴
19 固定ベース
【要約】
【課題】衛星を用いた中長期的な変動の測量において、その測量の誤差を低減する。
【解決手段】平面部と、平面部に略垂直となるように、平面部に連結される柱部と、所定の角度調整機構とを備えた、合成開口レーダーにより検知可能な対空標識の変位を測量する測量方法であって、所定の設置面に平面部を設置する設置ステップと、平面部に、柱部を連結する連結ステップと、所定の衛星測位方式を用いて、対空標識の位置を測位する測位ステップと、測位した結果から、対空標識の相対変位を算出する算出ステップとを含み、対空標識を交換する必要がある場合に、対空標識の交換前後において、角度調整機構を用いて対空標識の角度を同じ角度に調整して、対空標識を交換する。
【選択図】
図2