IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ エフ ホフマン−ラ ロッシュ アクチェン ゲゼルシャフトの特許一覧

特許7161595液体クロマトグラフィー単流の較正による流れの等価性
<>
  • 特許-液体クロマトグラフィー単流の較正による流れの等価性 図1A
  • 特許-液体クロマトグラフィー単流の較正による流れの等価性 図1B
  • 特許-液体クロマトグラフィー単流の較正による流れの等価性 図1C
  • 特許-液体クロマトグラフィー単流の較正による流れの等価性 図2
  • 特許-液体クロマトグラフィー単流の較正による流れの等価性 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-18
(45)【発行日】2022-10-26
(54)【発明の名称】液体クロマトグラフィー単流の較正による流れの等価性
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/62 20210101AFI20221019BHJP
   G01N 30/72 20060101ALI20221019BHJP
   G01N 30/46 20060101ALI20221019BHJP
【FI】
G01N27/62 X
G01N30/72 C
G01N30/46 E
【請求項の数】 15
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021175913
(22)【出願日】2021-10-27
(65)【公開番号】P2022071865
(43)【公開日】2022-05-16
【審査請求日】2021-10-27
(31)【優先権主張番号】20204420.2
(32)【優先日】2020-10-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】501205108
【氏名又は名称】エフ ホフマン-ラ ロッシュ アクチェン ゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ステファン クイント
(72)【発明者】
【氏名】フロリアン シュヴァインベルガー
(72)【発明者】
【氏名】ベンジャミン ティマン
【審査官】吉田 将志
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2010/0072748(US,A1)
【文献】国際公開第2020/105624(WO,A1)
【文献】特開2020-094817(JP,A)
【文献】特開2006-064562(JP,A)
【文献】特表2004-524518(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/60 - G01N 27/70
G01N 27/92
G01N 30/00 - G01N 30/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量分析計(50)に連結されたイオン化源(51)と、
前記イオン化源(51)に連結された液体クロマトグラフ(LC)システム(10)と
を含む液体クロマトグラフィー質量分析(LC-MS)装置(100)であって、
前記LCシステムが、前記イオン化源に交互に接続可能な複数の流体流(11、12、13)を含み、それによって、前記イオン化源(51)に接続されたときに検出時間窓を前記複数の流体流(11、12、13)由来の各流体流(11、12、13)に割り当て、
装置(100)が、
前記複数の流体流(11、12、13)に対する前記イオン化源(51)のイオン化電流を監視する(72)工程と、
監視されたイオン化電流に基づいて前記複数の流体流(11、12、13)間の流動状態における差を特定する工程と、
特定された差に応答して前記複数の流体流(11、12、13)のうちの1つまたは複数の流体流の検出条件を調整し、それによって各流体流(11、12、13)由来の対象の溶出液を、それぞれの検出時間窓で前記質量分析計(50)によって検出できるようにする工程と、
を実施するように構成されているコントローラー(60)をさらに含む、装置。
【請求項2】
前記LCシステム(10)が、一定のペースで前記複数の流体流(11、12、13)間を切り換えることによって前記イオン化源(51)への交互の接続を提供するように構成され、それによって、前記イオン化源(51)に接続されたときに固定持続時間の検出時間窓を前記複数の流体流(11、12、13)由来の各流体流に割り当てる、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記流動状態における差を特定することが、前記複数の流体流(11、12、13)のうちの1つまたは複数の流体流における試料注入プロファイルを、それぞれの流れについての前記監視されたイオン化電流(90)のプロファイルと比較することを含む、請求項1または2に記載の装置(100)。
【請求項4】
前記流動状態における差を特定することが、前記複数の流体流(11、12、13)のうちの1つまたは複数の流体流の前記監視されたイオン化電流のプロファイルを、イオン化電流の基準プロファイルと比較することを含む、請求項1または2に記載の装置。
【請求項5】
前記流動状態における差を特定することが、前記監視されたイオン化電流のプロファイルのシフトまたはプロファイルの変化を評価することを含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の装置。
【請求項6】
前記監視されたイオン化電流に基づいて前記流動状態における差を特定することが、より大きなもしくはより小さな死容積によって、またはより大きなもしくはより小さな全容積によって生じる、他の1つまたは複数の流体流と比較したときの前記複数の流体流のうちの1つまたは複数の流体流のいずれかにおける系統的流動遅延に関連する差を特定することを含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の装置。
【請求項7】
前記監視されたイオン化電流に基づいて前記流動状態における差を特定することが、バルブの状態、例えば、バルブの摩耗またはバルブの不具合によって生じる、他の1つまたは複数の流体流と比較したときの前記複数の流体流のうちの1つまたは複数の流体流のいずれかにおける系統的流動遅延に関連する差を特定することを含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の装置。
【請求項8】
前記監視されたイオン化電流に基づいて前記流動状態における差を特定することが、LCカラムの状態、例えば、LCカラムの老化もしくはLCカラムの不具合もしくはLCカラムの詰まりによって、または1つもしくは複数のLCカラムの不適切な取り付けによって生じる、他の1つまたは複数の流体流と比較したときの前記複数の流体流のうちの1つまたは複数の流体流のいずれかにおける系統的流動遅延に関連する差を特定することを含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の装置。
【請求項9】
前記監視されたイオン化電流に基づいて前記流動状態における差を特定することが、漏れによって生じる、他の1つまたは複数の流体流と比較したときの前記複数の流体流のうちの1つまたは複数の流体流のいずれかにおける系統的流動遅延に関連する差を特定することを含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の装置。
【請求項10】
前記監視されたイオン化電流に基づいて前記流動状態における差を特定することが、前記LCシステムの1つまたは複数の構成要素における製造公差によってもたらされる、他の1つまたは複数の流体流と比較したときの前記複数の流体流のうちの1つまたは複数の流体流のいずれかにおける系統的流動遅延に関連する流動状態における差を特定することを含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の装置。
【請求項11】
前記検出条件を調整することが、前記複数の流体流のうちの1つまたは複数の流体流の試料注入時間をマッチングすること、または
溶媒もしくはLC勾配プロファイルにおける変化によって溶離条件を調整すること
を含む、請求項1から10のいずれか一項に記載の装置。
【請求項12】
前記複数の流体流のうちの1つまたは複数の流体流のいずれかの前記検出条件を調整することが、所定の試料注入時間に対して遅延または迅速化された試料注入を含む、請求項1から11のいずれか一項に記載の装置。
【請求項13】
前記コントローラーが、前記特定された差に基づいて、前記複数の流体流のうちの1つまたは複数の流体流の前記検出条件を自動的に調整するように構成されている、請求項11または12に記載の装置。
【請求項14】
前記イオン化源が、エレクトロスプレーイオン化(ESI)源(51)である、請求項1から13のいずれか一項に記載の装置。
【請求項15】
液体クロマトグラフィー質量分析(LC-MS)装置(70)における化学分析のための方法であって、
複数の流体流(11、12、13)を液体クロマトグラフィー(LC)システム(10)から前記LCシステムに連結されたイオン化源(51)に交互に接続し(71)、それによって、前記イオン化源に接続されたときに検出時間窓を前記複数の流体流由来の各流体流に割り当てることと、
前記複数の流体流に対する前記イオン化源のイオン化電流を監視する(72)ことと、
監視されたイオン化電流に基づいて前記複数の流体流間の流動状態における差を特定する(73)ことと、
特定された差に応答して前記複数の流体流のうちの1つまたは複数の流体流の検出条件を調整し(74)、それによって各流体流由来の対象の溶出液を、それぞれの検出時間窓で、前記イオン化源に連結された質量分析計(50)によって検出できるようにすることと、
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、複数の流体流がイオン化源に交互に接続可能な、液体クロマトグラフィー(LC)システムおよびイオン化源を含む液体クロマトグラフィー質量分析(LC-MS)装置に関する。本開示はまた、LC-MS装置における化学分析のための方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
臨床検査室および他の検査室の環境における質量分析、より具体的には質量分析と連結している液体クロマトグラフィー(LC)の実行への関心が高まっている。これらの環境では、可能であればランダムアクセス法を用いて(すなわち、分析器は、特定のアッセイを必要とする多量の試料をバッチで処理するシステム、または1回もしくは2回のみのアッセイを長期間にわたって処理するシステムと比較して随時、複数のアッセイのうちのいずれか1つを実行することができる)、さまざまな異なるアッセイを大部分が自動化された形態で処理する必要がよくある。したがって、一般的に使用される単流のみを含むLC-MSデバイスの代わりに複数の流体流をベースとする液体クロマトグラフィー質量分析(LC-MS)装置は、近年、後続する試料間の逐次注入(injection-to-injection)サイクルタイムの最小化および装置のハイスループットの実現との関係において注目を集めている。
【0003】
しかしながら、多流LC-MSシステムの流れは変動することがある。例えば、LCカラム、キャピラリー寸法、バルブなどは流れによって異なる可能性があり、最終的には、例えば、全容積および死容積に影響し得る。他の原因としては、流体流の流路に沿った種々の要素中の詰まり、キャピラリー寸法または装置の他の構成要素における製造公差、ならびに他の多くの原因を挙げることができる。そのような誤差のため、先行技術の複数の流体流を含むLC-MSシステムの一部は、異なる流体流で非等価性流れ条件を有する傾向がある。種々の流体流間の非等価性は、複数の流体流由来の各流体流中、単一の予め与えられたLC勾配プロファイルと同じ被分析物および溶媒が注入される場合でも、保持時間のシフトおよびMSによって測定されたクロマトグラム中のピークの広がりをもたらす。
【0004】
そのような保持時間のシフトおよびそれらの広がりは、ひいては、MS検出窓サイズの低減および分析の質の劣化につながる。エラーを検出するために、一部の先行技術システムにおいては、目下、LC-MSシステムの詳しい技術の理解を要する関連の計器データを点検する必要がある。多くの場合、専門家のみが問題を見つけて解決できるが、専門家でも、かなり複雑かつ時間がかかる仕事であり得る。したがって、上記の問題を解決できる新規の効率的な技術を開発する必要がある。
【発明の概要】
【0005】
一般的な一態様において、本開示は、液体クロマトグラフィー質量分析装置に関する。LC-MS装置は、質量分析計に連結されたイオン化源と、イオン化源に連結された液体クロマトグラフ(LC)システムとを含む。LCシステムは、イオン化源に交互に接続可能な複数の流体流を含み、それによって、イオン化源に接続されたときに検出時間窓を複数の流体流由来の各流体流に割り当てる。LC-MS装置は、複数の流体流に対するイオン化源のイオン化電流を監視する工程と、監視されるイオン化電流に基づいて複数の流体流間の流動状態における差を特定する工程と、を実施するように構成されているコントローラーをさらに含む。さらに、コントローラーは、特定された差に応答して複数の流体流のうちの1つまたは複数の流体流の検出条件を調整し、それによって各流体流由来の対象の溶出液を、それぞれの検出時間窓で質量分析計によって検出できるようにするように構成されている。
【0006】
一般的な第2の態様において、本開示は、第1の一般的な態様のLC-MS装置における化学分析のための方法に関する。
【0007】
第1および第2の一般的態様の技術は、有利な技術的効果を有し得る。
【0008】
第一に、本開示の技術は、追加の読み出し機器としてイオン化電流を使用して、LC-MS装置の複数の流体流間の流動状態における可能性のある偏差を捉える力を得ることができる。イオン化電流それ自体の測定は当該技術分野における一部のシステムで公知であるが、第1および第2の態様の技術は、複数の流体流のイオン化電流のプロファイル(例えば、ピーク位置およびその高さ、測定された一プロファイルから他方などへ移るときのプロファイルの変化またはシフト)についての知識を活用して、例えば、前および後LCカラム死容積、バルブの不具合、さまざまな要素における製造公差ならびにその他の多くなどのLC-MS装置における特有のエラーを特定することができる。加えて、本技術における特定のエラーの特定は、測定時間または測定結果に影響を与えずに、複数の流体流由来の各流体流で実施することができる。
【0009】
第二に、この知識を用いて、本開示の技術は、流体流の非等価性の問題の解決を助けることもできる。流体流は個別に較正し直すことができ、そのため、一部の例では、その等価性を回復することができる。このやり方で、本技術は、各流体流からの対象の溶出液をそれぞれの検出時間窓でMSによって検出できるようにすることができる。
【0010】
第三に、イオン化スプレーを使用して、電流には、測定に追加の機器を必要としなくてよく、毎回のメンテナンス活動の後に実施でき、操作者側が必要とする労力がごく僅かで済むという追加の利点がある。これは、LC-MSシステムの機械扱い時間の短縮につながり得、可能性のあるトラブルシューティングに関与する操作者または技術者に必要とされる訓練水準を下げることができる。
【0011】
用語「液体クロマトグラフィーまたはLC」は、本明細書中で使用される場合、試料用注入器によって注入された試料をLCカラムに通してクロマトグラフ分離に供し、例えば、対象の被分析物を互いに分離し、したがって、例えば、質量分析検出法によって個別の検出を可能にする、あらゆる種類の分析方法を指し得る。他の例では、前記分析方法は、基質成分、例えば、後続の検出に依然として干渉し得る試料の調製後に残留する基質成分から対象の被分析物を分離することも目的とする。一部の例では、そのような形態の液体クロマトグラフィーは、圧力下で実行される液体クロマトグラフィー、例えば、「高速液体クロマトグラフィー」またはHPLC、「超高速液体クロマトグラフィー」またはUHPLC、「ミクロ液体クロマトグラフィー」またはμLCおよび「スモールボア液体クロマトグラフィー」またはスモールボアLCとして使用される。
【0012】
用語「液体クロマトグラフシステムまたはLCシステム」は、本開示で使用される場合、分析装置または液体クロマトグラフィーを実施するための分析装置中のモジュールもしくはユニットである。LCシステムは、平行かつ/または直列に配置される1つまたは複数のLCカラムを含み得る単一チャンネルまたは多重チャンネルシステムとして具現化されたものでよい。LCシステムは、試料用注入器、バルブ、液体源、流体接続部および部品(例えば、液体の混合、液体の脱気、液体の焼き戻しなどのため)、1つまたは複数のセンサ(圧力センサおよび温度センサなど)、ならびに特に少なくとも1つのLCポンプなどの要素も含んでよい。この列挙は徹底的なものではない。
【0013】
用語「試料」は、1つまたは複数の対象の被分析物を含有するとされる生体物質を指し、その定性的および/または定量的検出は、特定の状態(例えば、臨床状態)と関連し得る。試料は、血液、唾液、接眼レンズ液、脳脊髄液、汗、尿、乳、腹水、粘液、滑液、腹腔液、羊水、組織、細胞などを含めた生理液などの任意の生物学的供給源に由来し得る。試料を使用前に前処理(血液からの血漿の準備、粘性流体の希釈、溶解など)してもよく、処理方法は、濾過、遠心分離、蒸留、濃縮、妨害成分の不活性化、および試薬の添加を要し得る。試料は、場合によっては供給源から直接入手して使用してもよいが、あるいは、例えば、1回もしくは複数回のin vitro診断検査を実施できるように、または対象の被分析物を富化(抽出/分離/濃縮)するために、かつ/または対象の被分析物の検出を潜在的に妨害する基質成分を除去するために、例えば、内標準を添加した後、別の溶液で希釈した後、または試薬と混合させた後、前処理および/または試料調製ワークフローを行って試料の特性を修飾してもよい。対象の被分析物の例としては、一般に、ビタミンD、依存性薬物、治療薬、ホルモン、および代謝産物がある。しかしながら、この列挙は徹底的なものではない。
【0014】
一部の例によれば、検出器は、イオン化源に接続された質量分析計(MS)である。ひいては、イオン化源は、LCシステムと接続されてもよい。一部の例では、質量分析計は、イオン化源を介してバルブから検出器までの導管に接続され得る。一部の例では、イオン化源は、バルブから検出器までの導管を介してLCシステムに接続され得る。一部の例では、LCシステムは、特に質量分析計による検出の前に対象の被分析物を分離するために、質量分析用に試料を調製し、かつ/または調製した試料を質量分析計へ移すように設計された分析モジュールとして構成され得る。特に、典型的には、LC操業中、質量分析計は、特定の質量範囲を走査するように設定され得る。LC/MSデータは、個々の質量の走査中にイオン電流を加算し、時間に対する強度点として「合計した」イオン電流をグラフ化することによって表すことができる。
【0015】
用語「質量分析計(MS)」は、被分析物をさらに分離し、かつ/または質量と電荷との比に基づいて検出するように設計された質量分析器を含む分析モジュールを指し得る。一部の例では、質量分析計は、高速走査質量分析計である。しかしながら、他の例では、質量分析計は、親分子イオンを選択でき、衝突誘起断片化によって断片を発生でき、質量と電荷(m/z)との比に従って断片または娘イオンを分離できるタンデム質量分析計である。さらに他の例では、質量分析計は、当該技術分野において公知のトリプル四重極型質量分析計である。四重極型以外にも、飛行時間、イオントラップまたはこれらの組み合わせを含めた他のタイプの質量分析器も使用してよい。
【0016】
用語LC流体流から出る「LC溶出液」は、本明細書中では、少なくとも1つの対象の被分析物を含む溶出液の画分を示すために用いられる。
【0017】
用語「イオン化源」は、本明細書中で用いられる場合、荷電被分析物分子(分子イオン)を発生し、荷電被分析物分子を液体から気相へ移すように構成された、LCとMSを繋ぐ接触面を指す。特定の実施形態によれば、イオン化源は、エレクトロスプレーイオン化(ESI)源である。他の実施形態では、イオン化源は、イオン化のプロセスが電気的にトリガーされる任意のイオン化源であってもよい。LC/MS接触面は、二重イオン化源も含んでよい。イオン化源、例えば、エレクトロスプレーイオン化(ESI)源の典型的な部品は、噴霧器およびサンプリングキャピラリーであってよく、これらは典型的には、互いに対して直角にまたは同軸上に配置される。LC流体流から出るLC溶出液は、噴霧器の針またはキャピラリーを含むプローブを通って誘導される。このやり方で、LC溶出液は、イオン化が行われる噴霧器キャピラリーの下流の容積で霧状になり、こうして得られた荷電被分析物分子は気相になる。サンプリング素子(例えば、サンプリングキャピラリーまたはオリフィス)は、気相中のイオンを収集し、該イオンを質量分析計へ誘導するために設けられる。イオン化源は、背景イオン(例えば、溶媒クラスター)のMSへの侵入を低減する、カウンターガス(例えば、N2)としても知られるカーテンガスを供給するためのアセンブリをさらに含んでよい。アセンブリは、カウンタープレートおよびカーテンガスを供給するためのオリフィスアセンブリを有し得る。一部の例では、イオン化源は、バルブから検出器までの導管の一部を形成する噴霧器キャピラリーを含む。したがって、LC溶出液を含む流体流由来の液体は、流れ選択用バルブに流体的に接続された噴霧器キャピラリーを通って交互に流れ得る。
【0018】
イオン化源は、ヒーターガスとしても知られる補助ガスを供給するためにアセンブリをさらに含んでもよい。イオン化条件を最適化するために、イオン化源の目前に修復用流れを加えてpH、塩、緩衝剤または有機含有物を調整することによって溶媒組成を調整することも可能である。そのようなイオン化源は、当該技術分野において公知であり、ここではさらに説明することはしない。
【0019】
用語「流体流」は、液体が通って流れることができる、特に試料注入点からの試料が通ってクロマトグラフのプロセスを経ることができ、最終的には検出器、例えば、質量分析計に移送され得る流路を指すことができる。一部の例では、流体流の異なる部分を通る流体接続は、不連続であり得る。これは、流体流が、交互接続を築き、流体流の異なる部分の間の流体流をそれぞれ別の時間で制御できる切り替えバルブなどの素子を含み得ることが理由である。流体流は、少なくとも1つのキャピラリー管および/または試料のタイプおよび対象の被分析物に応じて選択される固定相を含むLCカラムを含み得、これを通して移動相が注入され、例えば、当業者に一般に知られるように、極性またはlog P値、サイズまたは親和性に応じて選択された条件下で対象の被分析物を捕捉および/または分離および溶出および/または移送する。少なくとも1つのLCカラムは交換可能である。特に、LCシステムは、流体流より多くのLCカラムを含み得、複数のLCカラムが選択可能であり、例えば、同じ流体流に同じように連結できる。LCカラムをバイパスするためにキャピラリー管も使用してよい、またはキャピラリー管は、溶出時間窓を微調整するために死容積の調整を可能にすることができる。流体流は、複数の副流を含んでもよい。特に、一部の例におけるLCシステムは、一流体流からの流れを一度に質量分析計に誘導するための流れ選択用バルブに接続された複数の流体流を含んでもよい。
【0020】
「LCカラム」は、クロマトグラフの性質の分離を実行するためのカラム、カートリッジ、キャピラリーなどのいずれかを指し得る。カラムは、典型的には、固定相で充填または装填され、これを通して移動相が注入され、一般に知られるように、例えば、その極性またはlog P値、サイズまたは親和性に応じて選択された条件下で、対象の被分析物を捕捉および/または分離および溶出および/または移送する。この固定相は、粒状またはビーズ様または多孔質モノリスであってもよい。しかしながら、用語「LCカラム」は、固定相で充填または装填されていないキャピラリーまたはチャンネルも指すことがあるが、分離を実現するためのキャピラリー内壁または幾何構造の表面積に依存する。ある例は、固体シリコンウエハから間隙容量をエッチングして除去し、ピラーアレイを残すことによって分離床が形成されるピラーアレイクロマトグラフィーによって実現される。床部分を、ピーク分散を制限する最適化された流れ分配器と連結することによって、結果として得られたチャンネルを小さな実装面積に折り畳むことができる。これは、再現可能な秩序パターンでまとめられた固定相支持構造物を作り出す。LCカラムは、種々の長さ(例えば、5mm以上、20mm以上、50mm以上)および内径(例えば、0.1mm以上、1mm以上、5mm以上)を有し得る。
【0021】
「液体クロマトグラフィーポンプまたはLCポンプ」は、耐圧強度が変動し得るが、LCチャンネルを通して一定かつ再現可能な体積流量を得ることができる高圧ポンプである。HPLC中の圧力は、典型的には60MPaまたは約600気圧の高さに達し得るが、UHPLCおよびμ-LCシステムは、さらに高い圧力、例えば、最大140MPaまたは約1400気圧で働くように開発されており、したがって、LCカラム中でより小さな粒径(2μm未満)を使用できる。他の実施形態において、LCカラム中で使用される粒子は、異なる(所望の)サイズ、例えば、2μm以上、または50μm以上を有し得る。LCポンプは、例えば、最大4種の溶出溶媒間の比を漸進的に変動させることによる溶出勾配の使用を要する条件の場合の、バイナリポンプまたはさらにはクオータナリポンプとして構成され得る。
【0022】
一実施形態によれば、LCポンプは、60MPa~140MPa、典型的には75MPa~100MPa、より典型的には80MPaの圧力を生むことができる。一実施形態によれば、LCポンプは、1μl/min~500μl/min以上、典型的には最大1500μl/minの流量、より典型的には100μl/min~300μl/minの流量および例えば約±5%以下の精度で操作するように構成され得る。
【0023】
LCポンプは、複数のポンプヘッドを含み得る。例えば、バイナリポンプは、2つのポンプヘッドを含み、各ポンプヘッドは典型的には、ポンプヘッド内部の液体圧をほぼ一定に維持しながら液体を注入するために互いに協働する一次ポンプヘッドおよび二次ポンプヘッドを含む。特に、一次ポンプヘッドおよび二次ポンプヘッドはそれぞれ、典型的には内壁面およびシリンダー筐体を通って平行移動できるプランジャーを有する注射器様シリンダー筐体を含むシリンジ様ポンプであり、プランジャーがシリンダー筐体を通って平行移動するとき、内壁面とプランジャーとの間に隙間を残す。
【0024】
移動相の組成、すなわち、移動相を構成し、LCカラムの固定相を通しての試料の搬送を目指す溶媒または溶媒混合物の濃度は、経時的に変化する関数であってよい。そのようなクロマトグラフ分離法は、勾配溶離と呼ぶことができる。勾配溶離中にLCカラムに入る組成物の所望の時間依存性は、一部の例において、予めプログラム化することができる。
【0025】
流体流に関連する用語「液体」は、例えば、使用される溶媒または溶媒混合物としての、例えば、移動相または溶出剤(溶出溶媒)としての、および当該技術分野において公知の、液体クロマトグラフィーで使用される液体を指す。
【0026】
用語「死容積」は、本明細書中では、LCカラムの容積が除外される注入点とイオン化源への入口との間のLCシステムの容積として定義される。したがって、「死容積」は、キャピラリーおよび/または導管を繋ぐ種々の前後カラム、バルブの容積、末端金具などを含んでもよい。
【0027】
用語「流体流の全容積」は、本明細書中では、キャピラリー、取り付け金具、バルブ溝のすべての容積および流体流のLCカラム容積を指す。流体流の合計容積は、滞留容量および/またはポンプシステムに関連する勾配遅延容量も含み得る。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1A】複数の流体流由来の一流体流がエレクトロスプレーイオン化源に接続されるときの液体クロマトグラフィー質量分析(LC-MS)装置を概略的に示す。
図1B】複数の流体流由来の別の流体流がESI源に接続されるときの図1Aに例示するLC-MS装置である。
図1C】複数の流体流由来の第3の流体流がESI源に接続されるときの図1Aに例示するLC-MS装置である。
図2】本開示のLC-MS装置中の化学分析のための方法を例示する流れ図である。
図3】LC勾配対時間を示す実験例ならびに対応するESI電流対時間tの測定された応答である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
第一に、本開示の技術の概要は、図1A~1Cに関連して提供される。後続して、本開示のLC-MS技術の態様を、図2に示すフローチャートにまとめる。最後に、本明細書で開示するLC-MS技術との関係における一部の典型的な測定結果を、図3と関連付けて実証する。
【0030】
図1A~1Cは、本開示によるLC-MS装置100の概略例を含む。LC-MS装置は、質量分析計(MS)50に連結されたイオン化源51およびイオン化源51に連結された液体クロマトグラフ(LC)システム10を含む。本発明の例では、エレクトロスプレーイオン化(ESI)源(51)をイオン化源とする。LCシステムは、ひいては、イオン化源51に交互に接続可能な複数の流体流11、12、13(例えば、2つ以上または3つ以上の流体流)を含むことができ、それによって、イオン化源51に接続されたときに検出時間窓を複数の流体流由来の各流体流に割り当てられる。一部の例では、LCシステム10からイオン化源への複数の流体流11、12、13の交互接続は、ランダムに実施することができ、すなわち、LC-MS装置100の動作中に複数の流体流がイオン化源51に接続される順序は維持されない。例えば、このシナリオは、LC-MS装置(例えば、分析器)がランダムアクセスモードで動作する場合に行われ得る。他の例では、複数の流体流の交互接続は、所定の順序で実施することができる。一部の例では、所定の順序は、LC-MS装置の操作の全期間に対して設定することができる。他の例では、所定の順序は、一定期間の後、異なる所定の順序に再設定することができる。
【0031】
図1A~1Cに示す一部の例では、LC-MS装置は、流れ選択用バルブ20を介して複数の流体流11、12、13を交互に接続して、LC溶出液をバルブから検出器までの導管30に通してESI源51へ流すように構成されている、流れ選択用バルブ20(例えば、回転バルブ)と、バルブから検出器までの導管30と、をさらに含むことができる。LC-MS装置は、複数の流体流11、12、13をESI源51に接続するために異なる装置も含むことができる。例えば、LC-MS装置は、(回転)バルブとは別の流れ選択用素子を含むことができる。加えて、または別法として、LC-MS装置は、複数の流れ選択用素子(例えば、流れ選択用バルブ)を含むことができる。加えて、LC-MSは、複数のグループの流体流を含むことができ、各グループはESI源に接続可能な2つ以上の流体流を含む。
【0032】
本発明の例において、エレクトロスプレーイオン化(ESI)源51は、一部の例において、バルブから検出器までの導管30の一部を形成することができ、したがってMSがESI源51を介してバルブから検出器までの導管30に接続される、噴霧器の針またはキャピラリー52を含む。他の例では、噴霧器キャピラリーは、必ずしもバルブから検出器までの導管30の一部でなくてもよく、当該技術分野において公知の様式で該導管に接続される。
【0033】
図1A~1Cに描かれている例では、流れ選択用バルブ20は、バルブから検出器までの導管30を用いたLCシステムの複数の流体流11、12、13由来のそれぞれの流体流を交互に接続して、LC溶出液15をそれぞれの流体流からESI源に入るように流して供給するように構成された、複数の流体流ポート21、22、23を含む。一部の例では、これらの図面に示すように、流れ選択用バルブ20は、追加で、バルブから検出器までの導管30に接続されたバルブから検出器までの導管ポート25を備えていてもよい。例において、流れ選択用バルブ20は、廃棄40につながる複数の流体流由来の各流体流11、12、13のための複数の廃棄ポート21’、22’、23’を追加で含むことができる。他の例では、LC-MS装置は、例えば、2つの連続する流体流11、12;12、13;13、11が切り替わる間などの適当な時にバルブから検出器までの導管30と接続し、後続する流体流由来の液体がバルブから検出器までの導管30に入る前に、バルブから検出器までの導管30から出た先の流体流由来の微量の最終試料を洗浄するように構成されている追加の洗浄ポンプを含んでもよい。図1A~1Cに挙げた実施形態は、単なる例であり、多数のポートおよび接続部は、多くの異なる方法で、特に多数の流体流に応じて適合してもよいことを理解されたい。
【0034】
LC-MS装置100は、一部の実施形態において、流れ選択用バルブ20の切り替えを制御することによって流体流接続時間(すなわち、各流体流11、12、13とバルブから検出器までの導管30との間の接続時間)を制御するように構成され得るコントローラー60をさらに含むことができる。この方法で、LC-MS装置100は、イオン化源に接続されたときに検出時間窓を複数の流体流由来の各流体流に最終的に割り当てることができる。コントローラーはまた、流れ選択用バルブ20とは別の流れ選択用素子を用いたとき、それに応じてそれぞれの流れ選択用素子を制御することによって検出時間窓を割り当てることもできる。
【0035】
流体流11、12、13から出た後、LC溶出液はESI源へ誘導される。一部の例では、LC溶出液は、バルブから検出器までの導管30を通過してESI源に入ることができ、したがって噴霧器の針またはキャピラリー52の下流の容積で霧状にされ、そこでイオン化が生じ、結果として気相の荷電被分析物分子が生成される(図1A~1C、右下を参照)。コントローラー60は、複数の流体流に対する源のイオン化電流(例えば、ESI源のエレクトロスプレーイオン化電流)を監視するように構成されていてもよい。ある例において、イオン化源のイオン化電流は、それぞれの検出時間窓の範囲内でイオン化源に接続された複数の流体流由来の対応する流体流に対するイオン化電流を測定することによって監視することができる。他の例では、対応する流体流に対するイオン化電流は、例えば、それぞれの検出時間窓より短い時間間隔をとり、それぞれの検出時間窓とは異なる時間間隔の間に監視することができる。イオン化電流は、イオン化源に含まれるまたはイオン化源に取り付けられた電流測定装置を使用して測定することができる。一部の例では、高電圧源を、イオン化源の噴霧器の針またはキャピラリー52に供給することができる。噴霧器の針またはキャピラリー52の下流の容積で質量分析計50の入口に向かって流れる、霧状にされ、後続してイオン化された粒子の結果として得られたイオン化電流は、例えば、噴霧器の針またはキャピラリーと質量分析計のカウンタープレートとの間で測定され得る。一部の例では、イオン化電流は、当該技術分野において公知の電気回路を噴霧器の針またはキャピラリーおよびカウンタープレートに適切に接続することによって測定することができる。
【0036】
さらなる工程において、コントローラー60は、監視されたイオン化電流に基づいて、複数の流体流間の質量分析計の流動状態における差を特定することができる。一部の例では、複数の流体流は、同等になるように設定することができ、すなわち、同じ流動状態(すなわち、所定の精度の範囲内)を特徴とすることができる。この等価性は、初期にまたはLC-MS装置の動作中に与えられたものではない(すなわち、それぞれの流体流は同等でなく、すなわち、不等である)。例えば、種々の流体流に使用される構成要素(LCカラム、キャピラリー、チャンネル、および/またはバルブ)は、公称の特性から逸脱した特性を有し得る。この差は、製造差異(例えば、2つの名目上同一の構成要素は、異なる特性を有する)によって生じ得る。他の例では、流体流は、誤って構成され得、または誤った構成要素を備え得(すなわち、仕様に従わない)、流動状態に差をもたらし得る。他の例では(または追加として一部の例では)、流動状態における差は、LC-MS装置の動作中に生じる流動状態における変化によって起こり得る(例えば、構成要素の摩耗に起因する)。上記の複数の流れの非等価性は、種々の流体流に流れるLC溶出液によって示される流路における変動につながり得る。そのような差は、例えば、監視されたイオン化電流の測定された形状および/または監視されたイオン化電流のプロファイルの1つまたは複数の特性フィーチャの時間の位置に反映され得る。これらの差は、コントローラー60によって特定することができる。
【0037】
次の工程において、コントローラー60は、特定された差に応答して、複数の流体流11、12、13のうちの1つまたは複数の流体流の検出条件を調整するように構成され得る。このやり方で、コントローラー60は、各流体流から流れる対象のLC溶出液をそれぞれの検出時間窓で質量分析計によって検出できるようにする。この調整工程は、保持時間のシフトおよびLC-MS装置によって得られたクロマトグラム中のピークの広がりを結果として低減することができるが、ただし単一の所与のLC勾配プロファイルが、複数の流体流の各流れに使用されることを条件とする。
【0038】
図2(引き続き図1A~1Cを参照する)に概略的に示す液体クロマトグラフィー質量分析(LC-MS)装置における化学分析のための方法であって、複数の流体流11、12、13を液体クロマトグラフィー(LC)システム10からLCシステムに連結されたイオン化源51まで交互に接続し(71)、それによって、イオン化源に接続されたときに検出時間窓を複数の流体流由来の各流体流に割り当てることを含む方法をさらに開示し、提案する。本開示の技術は、複数の流体流に対するイオン化源のイオン化電流を監視する(72)ことと、監視されたイオン化電流に基づいて複数の流体流間の質量分析計の流動状態における差を特定する(73)ことと、をさらに含む。方法の次の工程は、特定された差に応答して複数の流体流のうちの1つまたは複数の流体流の検出条件を調整し(74)、それによって各流体流由来の対象の溶出液を、それぞれの検出時間窓で、イオン化源に連結された質量分析計(MS)50によって検出できるようにすることを含む。
【0039】
特に、図1Aは、LCシステムの複数の流体流(例えば、第1の流体流)11のうちの1つだけがESI源51に接続されるときの状況を示す。この例では、流れ選択用バルブ20が回転し、したがって第1の流体流11が、流体流ポート23およびバルブから検出器までの導管ポート25を介してバルブから検出器までの導管30に接続され、第1の流体流11とESI源51との所望の接続を設ける。本実施形態では、図1Aに示すように、第1の流体流11の前記検出時間窓の間、他の流体流12、13は廃棄ポート22’、23’に接続され得る。このやり方では、検出時間窓は、第1の流体流11のみに割り当てられることができ、この場合、第1の流体流11から出るLC溶出液は、ESI源に誘導され、その中でイオン化され、最終的にはMS50によって検出される。第1の流体流11についてのESI電流の後続する監視工程は、上記に従って実施することができる。一部の例では、図1Bおよび1Cに示すように、複数の流体流の他の流体流に対して、例えば、2つの残りの流体流12、13に対して、同じ方法の工程を繰り返してもよい。次に、監視されたイオン化電流に基づいて、複数の流体流間の質量分析計の流動状態における差を特定する(73)ことができ、調整工程は上記に従って実施することができる。
【0040】
一例において、複数の流体流(またはその一部)の割り当てられた検出時間窓は、(所定の期間にわたって)同一の長さおよび/または固定された長さであってもよい。例えば、LCシステム10は、一定のペースで複数の流体流11、12、13間を切り換えることによってイオン化源51に交互に接続するように構成され得、それによって、イオン化源に接続されたときに固定持続時間の検出時間窓を複数の流体流由来の各流体流に割り当てる。他の例では、複数の流体流の少なくとも1つの流体流に割り当てられた検出時間窓は、複数の流体流の他の流体流に割り当てられた検出時間窓とは異なり得る。
【0041】
一部の例では、本開示における技術の流動状態における差を特定することは、複数の流体流のうちの1つまたは複数の流体流における試料注入プロファイル(例えば、試料注入プロファイルの時系列)を、それぞれの流れについての監視されたイオン化電流90のプロファイル(例えば、監視されたイオン化電流90の時系列)と比較することを要し得る。例えば、注入法は、LCの複数の流体流11、12、13の1つのLCカラムに試料を注入することを含むことができる。注入法は、注入アセンブリ(図1A~1Cでは図示せず)に接続された1つまたは複数のLCポンプ、例えば、試料をLC流体流のカラムに注入するためのLC-MS装置の溶出ポンプによって実現され得る。一例において、1つまたは複数のLCポンプによって供給されるシステム圧力は、時間内に変動し得、結果としてLCカラムの入口で時間に依存する試料注入プロファイルがよく制御される。一例において、試料注入プロファイルは、LCカラムに注入される試料の濃度の時系列で表すことができる。他の例において、試料注入プロファイルは、LCカラムに注入される試料の体積流量の時系列により得ることができる。
【0042】
一例において、比較工程において使用される試料注入プロファイルは、各時点の有機含有物および無機添加物(両方とも、例えば移動相の構成要素であり得る)を決定するLC勾配プロファイルを含み得る。一部の例において、LC勾配プロファイルは、各時点で、LCカラムの入口で測定できる。他の例では、LC勾配は、各時点で、LC-MS装置のいくつかの他の部分で測定できる。一例において、LC勾配プロファイルは、単純直線LC勾配であってもよい。一部の他の例では、LC勾配プロファイルは、異なるスロープを持つ線形関数のセットによって記載され得る。さらに他の例では、LC勾配プロファイルは、時間内の非線形関数または段階的関数であってもよい。例としては、図3は、本開示の技術を用いて得られるLC勾配80の典型的なプロファイルを開示する。
【0043】
他の例では、各流体流のLC勾配プロファイル80は、複数の流体流11、12、13からの他の任意の流体流に使用されるLC勾配プロファイルと異なり得るように選択されてよい。一例において、これは、試料の注入時点からLCカラムまで経時的に溶媒の有機または無機含有量を変化させることによって達成することができる。他の例では、LCポンプによって供給される体積流量を変動させることによってLC勾配を修正することができる。さらに他の例では、比較工程のために、単一の所与のLC勾配プロファイルを複数の流体流に最初に使用することができる。
【0044】
一部の例では、比較工程は、LC溶出液(すなわち、少なくとも1種の対象の被分析物および溶媒または溶媒混合物を含むことができるLCカラムから出る液体)を、さらにイオン化し、後続してMSで検出するためにイオン化源に流すことを含むことができる。この場合、LC溶出液を霧状にし、後続してイオン化源の噴霧器の針またはキャピラリーの下流の容積でイオン化することができる。結果として得られるイオン化粒子のイオン化電流を測定して、それぞれの流れについての監視されたイオン化電流90の前記プロファイルを得ることができる。
【0045】
一例において、比較工程は、LC流のカラムへの試料の注入プロセスの少なくとも一部(例えば、注入プロセスの継続時間の20%超もしくは50%超、または注入プロセスの継続時間の最大20%もしくは最大50%の窓)に及ぶ、監視されたイオン化電流90の時系列を必要とし得る。他の例では、時系列は、LC流のカラムへの試料の注入プロセスの全体にまたがり得る。さらに他の例では、ある一定の推定される期間の後、イオン化電流を測定することによってイオン化電流を監視することができる。これは、LCカラムに注入された試料がクロマトグラフ分離を経て、LCカラムから結果として得られる溶出剤が出てイオン化源に到達するまでにかかる時間を考慮することができる。
【0046】
一部の例では、複数の流体流のうちの1つまたは複数の流体流における試料の注入プロファイル80を、それぞれの流れについての監視されたイオン化電流90のプロファイルと比較する前述の工程は、試料注入プロファイル(例えば、試料注入プロファイルの時系列)および監視されたイオン化電流のプロファイル(例えば、監視されたイオン化電流90の時系列)の1つまたは複数の特性点またはフィーチャの相対位置を評価することをさらに含むことができる。本開示の技術は、試料注入プロファイルと監視されたイオン化電流のプロファイルの類似点を評価することも含むことができる。
【0047】
図3を参照して、LC勾配プロファイル80対時間tを、対応する監視されたESI電流90の時系列と共に示し、後者は、霧状にされ、後続してイオン化された溶出液の測定された電流の形態の、この特定の形状80の適用されたLC勾配プロファイルへの応答として解釈することができる。
【0048】
本開示の技術は、試料注入の出発点81と、監視されたESI電流の時系列中の対応するフィーチャ、任意選択によりピーク91との間の遅延に少なくとも部分的に基づいて、複数の流体流のうちの1つまたは複数の流体流のいずれかの死容積を検出することを目的とすることができる。図3に描かれた例において、溶媒中の有機含有量が増加した試料の注入に起因して、ESI電流の時系列中の応答ピーク91(約8秒で出現)は、注入された試料が、例えば、それぞれの流体流の注入点(またはループ)からESI先端(例えば、噴霧器の針またはキャピラリー)まで通過するのに要した時間に遡ることができる。したがって、結果として得られた時間遅延は、想定されている流体流の死容積に関連し得る。
【0049】
他の一部の例において、複数の流体流のうちの1つまたは複数の流体流の全容積は、試料注入プロファイル中の、注入された試料の有機含有物または無機添加物が変化する点82と、監視されたESI電流の時系列中のそれぞれのフィーチャ92との間の遅延に少なくとも部分的に基づいて検出することができる。図3に挙げた例において、LC勾配中の高い値の有機含有物は急落し(82)(約110秒の瞬間時に)、最低値の有機含有物を有する初期値まで戻る(いわゆるフラッシュバックモード)。この図から、対応するESI電流の平坦域は、いくらかの期間の間、実質的に不変のままであり、その期間は、この例では約12秒であり、この後に初めて、ESI電流は、この有機含有物が急減する事象に応答し、その値は経時的に減少し始めることが見られる。この例では、結果として得られた時間遅延は、想定されている流体流の全容積に起因し得る。
【0050】
図3に示すLC勾配遅延プロファイルおよび応答するESI電流は、LC勾配遅延のいくつもの異なるプロファイル、有機または無機溶媒もまた、本開示によって検討され得るため、実現可能なプロトコールを1つだけ実証する。
【0051】
加えて、または別法として、本技術の流動状態における差を特定することは、複数の流体流のうちの1つまたは複数の流体流の監視されたイオン化電流のプロファイル(例えば、監視されたイオン化電流のプロファイルの時系列)を、イオン化電流の基準プロファイル(例えば、イオン化電流の基準プロファイルの時系列)と比較することを含んでもよい。イオン化電流の基準時系列は、例えば、特定の点で測定されたものでよい(例えば、LCシステム10のセットアップまたはメンテナンスの後)。他の例では、イオン化電流の基準時系列は、特定のLC-MS装置で使用中に推定および/または算出され得る(例えば、LC-MS装置の構成に関する情報および/またはLC-MS装置で測定されたデータに基づいて)。イオン化電流の基準時系列は、データベース中に保存することができ、コントローラー60によってデータベースから検索して取り出すことができる。例えば、複数の流体流のうちの1つまたは複数の流体流で測定された、監視されたESI電流の時系列は、図3に示すプロファイル90を有し得る。このプロファイルを、ESI電流の基準時系列と比較することができる。
【0052】
一部の他の例では、流動状態における差を特定することは、監視されたイオン化電流のプロファイルのシフトまたはプロファイルの変化を評価することを要し得る。一例では、評価工程は、複数の流体流のうちの1つの流体流の監視されたイオン化電流のプロファイルのシフトまたはプロファイルの変化を、この流れとイオン化源との先の接続中に測定した同じ流れの監視されたイオン化電流の時系列に対して比較することを含んでもよい。一部の他の例では、評価工程は、複数の流体流のうちの1つの流体流の監視されたイオン化電流のプロファイルのシフトまたはプロファイルの変化を、他の1つまたは複数の流れのイオン化電流に対して比較することを含んでもよい。一部の例では、図3に示すような単一の所与のLC勾配プロファイル80を、評価工程を実行するときに、複数の流体流に使用することができる。複数の流体流間の等価性の場合のみ、複数の流体流由来の各流体流で測定した、結果として得られる監視されたイオン化電流の形状が互いに一致する。
【0053】
本開示の技術は、他の1つまたは複数の流体流と比較したときの複数の流体流11、12、13のうちのいずれかの1つまたは複数の流体流における系統的流動遅延に関連する、複数の流体流間の流動状態における差を、監視されたイオン化電流に基づいて特定することを含むことができる。上述するように、これらの差には複数の原因があり得る。一例において、流体流のうちの1つは、他の1つまたは複数の流体流より大きなまたは小さな死容積を有し得る。加えて、または別法として、流体流のうちの1つは、他の1つまたは複数の流体流より大きなまたは小さな全容積を有し得る。一例において、死容積および/または全容積は、図3と併せて、上記に開示したものと同様の様式で、複数の流体流11、12、13由来の各流体流で検出することができる。複数の流体流間の死容積または全容積におけるいくらかの差は、それぞれ、対応するピークの推定位置におけるタイムシフトまたは監視されたイオン化電流の時系列におけるプロファイルシフトにつながり得る。一例において、これらのシフトは、複数の流体流間の流動状態における差を特定するために使用することができる。他の例では、LS-MS装置は、図3に示すものとは別の測定を実施して、該差を特定することができる。
【0054】
一部の他の例では、本技術は、バルブの状態、例えば、バルブの摩耗またはバルブの不具合によって生じる、他の1つまたは複数の流体流と比較したときの複数の流体流のうちの1つまたは複数の流体流のいずれかにおける系統的流動遅延に関連する流動状態における差を特定することを含むことができる。さらに他の例では、LCカラムの状態、例えば、LCカラムの老化またはLCカラムの不具合によって生じる、他の1つまたは複数の流体流と比較したときの複数の流体流のうちの1つまたは複数の流体流のいずれかにおける系統的流動遅延に関連する流動状態における差を特定することができる。本技術の他の例では、監視されたイオン化電流に基づいて流動状態における差を特定することは、詰まり、例えば、LCカラムの詰まりまたはバルブの詰まりによって生じる、他の1つまたは複数の流体流と比較したときの複数の流体流のうちの1つまたは複数の流体流のいずれかにおける系統的流動遅延に関連する差を特定することを含むことができる。さらに他の例では、流動状態における差を特定することは、漏れ(例えば、緩く接続されたLCカラムもしくはキャピラリーによって生じる漏れ、LCカラムもしくはキャピラリーにおける漏れおよび/またはバルブもしくは他の接続要素における漏れ)によって生じる、他の1つまたは複数の流体流と比較したときの複数の流体流のうちの1つまたは複数の流体流のいずれかにおける系統的流動遅延に関連する差を特定することを要し得る。他の例では、監視されたイオン化電流に基づいて特定された流動状態における差は、1つまたは複数のLCカラムの不適切な取り付けによって生じる、他の1つまたは複数の流体流と比較したときの複数の流体流のうちの1つまたは複数の流体流のいずれかにおける系統的流動遅延に関連する差を特定することを含むことができる。さらに他の例では、監視されたイオン化電流に基づいて特定された流動状態における差は、LCシステムの1つまたは複数の構成要素における製造公差によってもたらされる、他の1つまたは複数の流体流と比較したときの複数の流体流のうちの1つまたは複数の流体流のいずれかにおける系統的流動遅延に関連する流動状態における差を特定することを含むことができる。一部の例では、上記の特定された差はそれぞれ、監視されたイオン化電流の時系列の中で対応して特定され得る。例えば、図3の例に戻って参照すると、この図面中に挙げる例と比較して、新しいピーク、プロファイルのシフトまたはプロファイルの変化、既存ピークの広がりなどが、監視されたESI電流の時系列の形状中に追加的に出現し得る。
【0055】
さらなる工程において、本開示の技術は、特定された差に応答して、複数の流体流のうちの1つまたは複数の流体流の検出条件を調整することを含み得る。これは、それぞれの流れからの対象の溶出液が、それぞれの検出時間窓(例えば、流れが一定のペースで切り換えられる場合、固定持続時間の検出時間窓)で到達するための1つまたは複数の流体流の修正を要し得る。言い換えれば、(例えば、上記の原因によって生じる)推定された到達時間と実際の到達時間との間のいくらかの不一致を低減またはさらには解消することができる。
【0056】
一例において、検出条件を調整することは、複数の流体流のうちの1つまたは複数の流体流の試料注入時間を変えることを要し得る。加えて、または別法として、検出条件を調整することは、複数の流体流のうちの1つまたは複数の流体流の試料注入時間のマッチングを要し得る。例えば、そのような差は、LC-MS装置の操作中にそれぞれの検出時間窓内でESI源51に接続されている、図1Aの第1の流体流11と比較して特定することができる。一例において、この流体流11の検出条件は、後続する第1の流体流11とESI源との接続時に試料注入時間をマッチングすることによって、特定された差に応答して調整することができる。同様の方法において、本技術の調整工程を、LC-MS装置の操作中に、図1Bおよび1Cに示す他の流体流12、13でも実施することができる。
【0057】
一部の他の例では、複数の流体流のうちの1つまたは複数の流体流(例えば、図1A~1Cに関連して開示される3つの流体流11、12、13)のいずれかの検出条件を調整することは、所定の試料注入時間に対する遅延または迅速化される試料注入を含むことができる。さらに他の例では、試料注入時間を、流動状態を調整するために1つまたは複数の流体流に対して更新することができる。
【0058】
さらに他の例では、本技術の調整工程は、LCポンプのポンプパラメータを変化させることによって溶離プロファイルを変化させることを含み得る。これは、所定のLCポンプアクションと比較して遅延または迅速化されたLCポンプアクションによる1回もしくは複数回の遅延または迅速化された溶出を要し得る。加えて、または別法として、LCポンプのポンプパラメータの変化は、LCポンプ圧力または速度の1回または複数回の変化を含み得る。他の例では、調整工程は、溶媒またはLC勾配プロファイルにおける変化によって溶離条件を調整することを要し得る。また、これらの対策を組み合わせることもできる。
【0059】
本開示において、複数の流体流のうちの1つまたは複数の流体流のいずれかの検出条件を調整することは、複数の流体流のうちの1つまたは複数の流体流それぞれに対して個別に実施することができる。本開示の技術は、特定された差に基づいて、複数の流体流のうちの1つまたは複数の流体流の検出条件を自動的に調整するように構成されているコントローラーを含むことができる。したがって、上記の例に関連する本開示の調整工程は、複数の流体流の等価性を回復することができる。
【0060】
さらなる態様
【0061】
複数の流体流がイオン化源に交互に接続可能な、液体クロマトグラフィーシステムおよびイオン化源を含めた液体クロマトグラフィー質量分析装置に関連する技術の多数の態様は、前の項で考察してきた。加えて、本開示の技術は、以下の態様に従って実施することもできる:
【0062】
1. 質量分析計(50)に連結されたイオン化源(51)と、
イオン化源(51)に連結された液体クロマトグラフ(LC)システム(10)と
を含む液体クロマトグラフィー質量分析(LC-MS)装置(100)であって、
LCシステムが、イオン化源に交互に接続可能な複数の流体流(11、12、13)を含み、それによって、イオン化源に接続されたときに検出時間窓を複数の流体流由来の各流体流に割り当て、
装置が、
複数の流体流に対するイオン化源のイオン化電流を監視する(72)工程と、
監視されたイオン化電流に基づいて複数の流体流間の流動状態における差を特定する工程と、
特定された差に応答して複数の流体流のうちの1つまたは複数の流体流の検出条件を調整し、それによって各流体流由来の対象の溶出液をそれぞれの検出時間窓で質量分析計によって検出できるようにする工程と、
を実施するように構成されているコントローラー(60)をさらに含む、装置。
【0063】
2. LCシステムが、一定のペースで複数の流体流間を切り換えることによってイオン化源への交互の接続を提供するように構成され、それによって、イオン化源に接続されたときに固定持続時間の検出時間窓を複数の流体流由来の各流体流に割り当てる、態様1の装置。
【0064】
3. 流動状態における差を特定することが、複数の流体流のうちの1つまたは複数の流体流における試料注入プロファイルを、それぞれの流れについての監視されたイオン化電流(90)のプロファイルと比較することを含む、態様1または2の装置。
【0065】
4. 試料注入プロファイルが、各時点における有機含有物または無機添加物を決定するLC勾配プロファイル(80)を含む、態様3の装置。
【0066】
5. 比較することが、試料注入プロファイルおよび監視されたイオン化電流のプロファイルにおける1つまたは複数の特性点またはフィーチャの相対位置を評価することを含む、態様3または4の装置。
【0067】
6. 比較することが、試料注入プロファイル(80)と監視されたイオン化電流のプロファイル(90)の類似点を評価することを含む、態様3から5のいずれか1つの装置。
【0068】
7. 試料注入の出発点(81)と、監視されたイオン化電流のプロファイル中の対応するフィーチャ、任意選択によりピーク(91)との間の遅延に少なくとも部分的に基づいて、複数の流体流のうちの1つまたは複数の流体流のいずれかの死容積が検出される、態様3から6のいずれか1つの装置。
【0069】
8. 複数の流体流のうちの1つまたは複数の流体流の全容積が、試料注入プロファイル中の、注入された試料の有機含有物または無機添加物が変化する点(82)と、監視されたイオン化電流のプロファイル中のそれぞれのフィーチャ(92)との間の遅延に少なくとも部分的に基づいて検出される、態様4から7のいずれか1つの装置。
【0070】
9. 流動状態における差を特定することが、複数の流体流のうちの1つまたは複数の流体流の監視されたイオン化電流のプロファイルを、イオン化電流の基準プロファイルと比較することを含む、態様1または2の装置。
【0071】
10. 流動状態における差を特定することが、監視されたイオン化電流のプロファイルのシフトまたはプロファイルの変化を評価することを含む、態様1から9のいずれか1つの装置。
【0072】
11. 監視されたイオン化電流に基づいて流動状態における差を特定することが、より大きなもしくはより小さな死容積によって、またはより大きなもしくはより小さな全容積によって生じる、他の1つまたは複数の流体流と比較したときの複数の流体流のうちの1つまたは複数の流体流のいずれかにおける系統的流動遅延に関連する差を特定することを含む、態様1から10のいずれか1つの装置。
【0073】
12. 監視されたイオン化電流に基づいて流動状態における差を特定することが、バルブの状態、例えば、バルブの摩耗またはバルブの不具合によって生じる、他の1つまたは複数の流体流と比較したときの複数の流体流のうちの1つまたは複数の流体流のいずれかにおける系統的流動遅延に関連する差を特定することを含む、態様1から11のいずれか1つの装置。
【0074】
13. 監視されたイオン化電流に基づいて流動状態における差を特定することが、LCカラムの状態、例えば、LCカラムの老化またはLCカラムの不具合によって生じる、他の1つまたは複数の流体流と比較したときの複数の流体流のうちの1つまたは複数の流体流のいずれかにおける系統的流動遅延に関連する差を特定することを含む、態様1から12のいずれか1つの装置。
【0075】
14. 監視されたイオン化電流に基づいて流動状態における差を特定することが、詰まり、例えば、LCカラムの詰まりまたはバルブの詰まりによって生じる、他の1つまたは複数の流体流と比較したときの複数の流体流のうちの1つまたは複数の流体流のいずれかにおける系統的流動遅延に関連する差を特定することを含む、態様1から13のいずれか1つの装置。
【0076】
15. 監視されたイオン化電流に基づいて流動状態における差を特定することが、漏れによって生じる、他の1つまたは複数の流体流と比較したときの複数の流体流のうちの1つまたは複数の流体流のいずれかにおける系統的流動遅延に関連する差を特定することを含む、態様1から14のいずれか1つの装置。
【0077】
16. 監視されたイオン化電流に基づいて流動状態における差を特定することが、1つまたは複数のLCカラムの不適切な取り付けによって生じる、他の1つまたは複数の流体流と比較したときの複数の流体流のうちの1つまたは複数の流体流のいずれかにおける系統的流動遅延に関連する差を特定することを含む、態様1から15のいずれか1つの装置。
【0078】
17. 監視されたイオン化電流に基づいて流動状態における差を特定することが、LCシステムの1つまたは複数の構成要素における製造公差によってもたらされる、他の1つまたは複数の流体流と比較したときの複数の流体流のうちの1つまたは複数の流体流のいずれかにおける系統的流動遅延に関連する流動状態における差を特定することを含む、態様1から16のいずれか1つの装置。
【0079】
18. 検出条件を調整することが、複数の流体流のうちの1つまたは複数の流体流の試料注入時間をマッチングすることを含む、態様1から17のいずれか1つの装置。
【0080】
19. 複数の流体流のうちの1つまたは複数の流体流のいずれかの検出条件を調整することが、所定の試料注入時間に対して遅延または迅速化された試料注入を含む、態様1から18のいずれか1つの装置。
【0081】
20. 複数の流体流のうちの1つまたは複数の流体流のいずれかの検出条件を調整することが、所定のLCポンプアクションに対して遅延もしくは迅速化されたLCポンプアクションによる、またはLCポンプパラメータ、例えば、LCポンプ圧力もしくは速度の変化による遅延または迅速化された溶出を含む、態様1から19のいずれか1つの装置。
【0082】
21. 複数の流体流のうちの1つまたは複数の流体流のいずれかの検出条件を調整することが、溶媒またはLC勾配プロファイルにおける変化によって溶離条件を調整することを含む、態様1から20のいずれか1つの装置。
【0083】
22. 複数の流体流のうちの1つまたは複数の流体流のいずれかの検出条件を調整することが、複数の流体流のうちの1つまたは複数の流体流それぞれに対して個別に実施される、態様1から21のいずれか1つの装置。
【0084】
23. コントローラーが、特定された差に基づいて、複数の流体流のうちの1つまたは複数の流体流の検出条件を自動的に調整するように構成されている、態様18から22のいずれか1つの装置。
【0085】
24. イオン化源が、エレクトロスプレーイオン化(ESI)源(51)である、態様1から23のいずれか1つの装置。25. 液体クロマトグラフィー質量分析(LC-MS)装置(70)における化学分析のための方法であって、
複数の流体流(11、12、13)を液体クロマトグラフィー(LC)システム(10)からLCシステムに連結されたイオン化源(51)に交互に接続し(71)、それによって、イオン化源に接続されたときに検出時間窓を複数の流体流由来の各流体流に割り当てることと、
複数の流体流に対するイオン化源のイオン化電流を監視する(72)ことと、
監視されたイオン化電流に基づいて複数の流体流間の流動状態における差を特定する(73)ことと、
特定された差に応答して複数の流体流のうちの1つまたは複数の流体流の検出条件を調整し(74)、それによって各流体流由来の対象の溶出液を、それぞれの検出時間窓で、イオン化源に連結された質量分析計(50)によって検出できるようにすることと、を含む、方法。
【0086】
25. イオン化源への交互接続が、一定のペースで複数の流体流間を切り換え、それによって、イオン化源に接続されたときに固定持続時間の検出時間窓を複数の流体流由来の各流体流に割り当てることを含む、態様24の方法。
【0087】
コンピューターによる実現
【0088】
本開示のコントローラーは、任意の好適な形態で(例えば、任意の好適なハードウェアまたはソフトウェアを使用して)具体化され得る。一部の例では、コントローラーは、独立型コンピューター装置であってもよい。他の例では、コントローラーは、本開示の技術工程の実施とは別の目的でも機能するコンピューター装置またはシステム内に組み込まれていてもよい。コントローラーは、LC-MSシステムが置かれている場所に(好適なネットワークにより)ローカルでまたは遠隔で接続されていてもよい。
【0089】
プログラムをコンピューターまたはコンピューターネットワーク上で実行するとき、本明細書に同封される1つまたは複数の実施形態における本開示による方法を実行するためのコンピューター実行可能命令を含むコンピュータープログラムをさらに開示および提案する。具体的には、コンピュータープログラムは、コンピューター可読データ媒体に保存され得る。したがって、具体的には、本明細書で開示される1つ、複数、またはさらにはすべての方法の工程を、コンピューターまたはコンピューターネットワークを使用することによって、好ましくはコンピュータープログラムを使用することによって実施することができる。
【0090】
プログラムをコンピューターまたはコンピューターネットワーク上で実行するとき、本明細書に同封される1つまたは複数の実施形態における本開示による方法を実行するために、プログラムコードを有するコンピュータープログラム製品をさらに開示および提案する。具体的には、プログラムコードは、コンピューター可読データ媒体に保存され得る。
【0091】
コンピューターまたはコンピューターネットワーク中に、例えばコンピューターまたはコンピューターネットワークのワーキングメモリまたはメインメモリ中に読み込んだ後、本明細書で開示される1つまたは複数の実施形態による方法を実行できる、データ構造が保存されて含まれるデータ媒体をさらに開示および提案する。
【0092】
プログラムをコンピューターまたはコンピューターネットワーク上で実行するとき、本明細書で開示される1つまたは複数の実施形態による方法を実施するために、プログラムコードが機械可読媒体に保存されているコンピュータープログラム製品をさらに開示および提案する。本明細書中で用いられる場合、コンピュータープログラム製品は、交易可能な製品としてのプログラムを指す。製品は、一般に、紙フォーマットなどの任意フォーマットで、またはコンピューター可読データ媒体上に存在し得る。具体的には、コンピュータープログラム製品は、データネットワーク上で配信されていてよい。
【0093】
本明細書で開示される1つまたは複数の実施形態による方法を実施するための、コンピューターシステムまたはコンピューターネットワークによって可読な指示書を含む変調されたデータ信号をさらに開示および提案する。
【0094】
本開示のコンピューターによって実現される態様を参照して、本明細書で開示される1つまたは複数の実施形態による方法の1つまたは複数の工程またはさらにはすべての工程は、コンピューターまたはコンピューターネットワークを使用することによって実施され得る。したがって、一般に、データの用意および/または操作を含む工程のいずれかは、コンピューターまたはコンピューターネットワークを使用することによって実施することができる。一般に、これらの工程は、典型的には試料の生成および/またはある種の測定の実行面などの手仕事を要する工程を除外したすべての工程を含み得る。
【0095】
少なくとも1つのプロセッサを含むコンピューターまたはコンピューターネットワークをさらに開示および提案するが、ここで、プロセッサは、この説明に記載される実施形態の1つによる方法を実施するように適合される。
【0096】
データ構造がコンピューター上で実行される間、この説明に記載される実施形態の1つによる方法を実施するように適合されるコンピューターロード可能なデータ構造をさらに開示および提案する。
【0097】
データ構造が記憶媒体上に保存され、データ構造が、コンピューターまたはコンピューターネットワークの主記憶および/または作業用記憶装置に読み込まれた後、この説明に記載される実施形態の1つによる方法を実施するように適合される、記憶媒体をさらに開示および提案する。
図1A
図1B
図1C
図2
図3