(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-18
(45)【発行日】2022-10-26
(54)【発明の名称】ブラシレス永久磁石モータを制御する方法
(51)【国際特許分類】
H02P 6/15 20160101AFI20221019BHJP
【FI】
H02P6/15
(21)【出願番号】P 2021501291
(86)(22)【出願日】2019-05-17
(86)【国際出願番号】 GB2019051375
(87)【国際公開番号】W WO2020016548
(87)【国際公開日】2020-01-23
【審査請求日】2021-01-14
(32)【優先日】2018-07-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】500024469
【氏名又は名称】ダイソン・テクノロジー・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(72)【発明者】
【氏名】トンプソン ジャック マイケル
(72)【発明者】
【氏名】ヒンチリフ サムエル ウェスリー
【審査官】安池 一貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-229388(JP,A)
【文献】特開2015-002674(JP,A)
【文献】特開2011-229385(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 6/15
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブラシレス永久磁石モータを制御する方法であって、
モータの幹線電源電圧を測定することと、
幹線電源電圧が、第1の国の幹線電源を表す第1の範囲内にあるか、第2の国の幹線電源を表す第2の範囲内にあるかを決定することと、
幹線電源電圧が
前記第2の範囲内の電圧より低い前記第1の範囲内にあるところでは、モータの巻線の整流を、巻線における逆起電力のゼロ交差に対して前進させることと、
幹線電源電圧が
前記第1の範囲内の電圧より高い前記第2の範囲内にあるところでは、巻線の整流を、巻線における逆起電力のゼロ交差に対して遅延させることと、を含む方法。
【請求項2】
更に、電気サイクルの各半部を、少なくとも1つの励起期間と少なくとも1つの非励起期間とに分割することを含み、
幹線電源電圧が前記第2の範囲内にあるところでは、前記励起期間は、単一の励起期間を含み、前記非励起期間は、単一の非励起期間を含み、前記非励起期間は、前記励起期間の後に起こる、請求項
1に記載の方法。
【請求項3】
更に、電気半サイクルの各半部を、少なくとも1つの励起期間と少なくとも1つの非励起期間とに分割することを含み、
幹線電源電圧が前記第1の範囲内にあるところでは、電気サイクルの各半部は、第1の励起期間と、第1の非励起期間と、第2の励起期間と、第2の非励起期間とに分割され、第1の非励起期間は、第1の励起期間かと第2の励起期間の間に起こり、第2の非励起期間は、第2の励起期間の後に起こる、請求項1
又は2に記載の方法。
【請求項4】
ブラシレス永久磁石モータのコントローラの1又は2以上のプロセッサの作動のための機械読取り可能な指示を含むデータキャリアであって、かかる指示は、
ブラシレス永久磁石モータの幹線電源電圧を測定することと、
幹線電源電圧が、第1の国の幹線電源を表す第1の範囲内にあるか、第2の国の幹線電源を表す第2の範囲内にあるかを決定することと、
幹線電源電圧が
前記第2の範囲内の電圧より低い前記第1の範囲内にあるところでは、ブラシレス永久磁石モータの巻線の整流を、巻線における逆起電力のゼロ交差に対して前進させることと、
幹線電源電圧が
前記第1の範囲内の電圧より高い前記第2の範囲内にあるところでは、巻線の整流を、巻線における逆起電力のゼロ交差に対して遅延させることと、を含む、データキャリア。
【請求項5】
ブラシレス永久磁石モータであって、
巻線と、コントローラと、を含み、
前記コントローラは、
ブラシレス永久磁石モータの幹線電源電圧を測定し、
幹線電源電圧が、第1の国の幹線電源を表す第1の範囲内にあるか、第2の国の幹線電源を表す第2の範囲内にあるかを決定し、
幹線電源電圧が
前記第2の範囲内の電圧より低い前記第1の範囲内にあるところでは、巻線の整流を、巻線における逆起電力のゼロ交差に対して前進させ、
幹線電源電圧が
前記第1の範囲内の電圧より高い前記第2の範囲内にあるところでは、巻線の整流を、巻線における逆起電力のゼロ交差に対して遅延させる、ブラシレス永久磁石モータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブラシレス永久磁石モータを制御する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
異なる国では、幹線電源電圧が異なり、例えば、英国では、230Vの幹線電源電圧であり、アメリカ合衆国では、120Vの幹線電源電圧である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
異なる幹線電源電圧の観点から、異なる国で作動させることが可能なブラシレス永久磁石モータを提供することは困難である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によれば、ブラシレス永久磁石モータを制御する方法が提供され、かかる方法は、モータの幹線電源電圧を測定することと、幹線電源電圧が、第1の国の幹線電源を表す第1の範囲内にあるか、第2の国の幹線電源を表す第2の範囲内にあるかを決定することと、幹線電源電圧が第1の範囲内にあるところでは、モータの巻線の整流を、逆起電力のゼロ交差に対して前進させることと、幹線電源電圧が第2の範囲内にあるところでは、モータの巻線の整流を、巻線における逆起電力のゼロ交差に対して遅延させることを含む。
【0006】
本発明による方法は、有益であり、その主な理由は、かかる方法が、幹線電源電圧が、第1の国の幹線電源を表す第1の範囲内にあるか、第2の国の幹線電源を表す第2の範囲内にあるかを決定することと、幹線電源電圧が第1の範囲内にあるところでは、モータの巻線の整流を、巻線における逆起電力のゼロ交差に対して前進させることと、幹線電源電圧が第2の範囲内にあるところでは、モータの巻線の整流を、巻線における逆起電力のゼロ交差に対して遅延させることを含むからである。
【0007】
特に、幹線電源電圧が比較的低い、例えば、第1の範囲内にあるところにおいて、巻線内に駆動される相電流のレベルは、低速で上昇し、所望の出力電力を生じさせるために必要なトルクを達成するのに十分な相電流を電気半サイクルにわたって巻線内に駆動することを確保することは困難である。高い回転速度、例えば、60krpmを超える速度において、巻線内に誘導される逆起電力は比較的高く、逆起電力はまた、所望の出力電力を達成するのに十分な相電流を巻線内に駆動する能力に影響を及ぼす。
【0008】
巻線の整流を、巻線における逆起電力のゼロ交差に対して前進させることは、より多くの相電流を電気半サイクルの経過にわたって巻線内に駆動することを可能にし、かくして、モータが所望の出力電力で作動することを可能にする。更に、永久磁石モータにおいて、相電流の波形が逆起電力の波形と一致するとき、電流に対するトルクの比が最大になる。巻線の整流を、巻線における逆起電力のゼロ交差に対して前進させることによって、巻線内に駆動される相電流の波形は、巻線内に誘導される逆起電力の波形により近接して追従するように制御される。
【0009】
幹線電源電圧が比較的高い、例えば、第2の範囲内にあるところにおいて、巻線内に駆動される相電流のレベルは、比較的低い幹線電源電圧によって供給される速度よりも高速で上昇する。本願の発明者は、巻線内に誘導される相電流のレベルが比較的高い幹線電源電圧のために比較的低い幹線電源電圧によって供給される速度よりも高速で上昇するとき、巻線の整流を、巻線における逆起電力のゼロ交差に対して遅延させた場合であっても、所望の出力電力を達成するのに十分なレベルの電流が電気半サイクル内に巻線内に駆動されることを見出した。
【0010】
比較的高い電圧のところで、巻線の整流を、巻線における逆起電力のゼロ交差に対して前進させたとすれば、相電流の波形は、巻線内に誘導される逆起電力の波形に近接して追従しないであろうし、相電流は、逆起電力を迅速に先導し、かくして、モータ性能をそれほど効率的にしない。幹線電源電圧が比較的高いところで、巻線の整流を遅延させることによって、巻線内に駆動される相電流のレベルが、必要とされる電力要求を発生させるのに十分に大きい速度で上昇し、巻線内に駆動される相電流は、巻線内に誘導される逆起電力とより近接して整列する。
【0011】
かくして、本発明による方法は、モータの作動を行う国の幹線電源電圧のレベルに応じて、モータの巻線の整流を、巻線における逆起電力のゼロ交差に対して前進させたり遅延させたりすることによって、幹線電源電圧が異なる国におけるモータの効率的な作動を可能にする。
【0012】
第1の範囲の電圧は、第2の範囲の電圧よりも低い。第1の範囲の電圧は、85~140Vである。第2の範囲の電圧は、180~265Vである。関連する電圧範囲を、モータのスタートアップの前に決定する。例えば、プロセッサが、関連する電圧範囲をモータのスタートアップの前に決定する。幹線電源は、交流幹線電源であるのがよい。
【0013】
本発明による方法は、定常状態のブラシレス永久磁石モータを制御する方法を含む。本発明による方法は、60~120krpmの作動速度範囲内のブラシレス永久磁石モータを制御する方法を含む。
【0014】
本発明による方法は、電気サイクルの各半部を、少なくとも1つの励起期間と少なくとも1つの非励起期間に分割することを含む。巻線は、少なくとも1つの励起期間の間、励起される。例えば、電流が、少なくとも1つの励起期間の間、相巻線内に駆動される。非励起期間の間、電流は、相巻線をそのままにしておくことを可能にする。例えば、相巻線は、非励起期間の間、フリーホイールされ、及び/又は、モータのインバータが、非励起期間の間、オフに切替えられる。非励起期間は、フリーホイール期間を含む。非励起期間は、励起期間の後にあってもよいし、励起期間の前にあってもよい。
【0015】
幹線電源電圧が第2の範囲内にあるところでは、励起期間は、単一の励起期間を含み、非励起期間は、単一の非励起期間を含み、励起期間の後に生じる。このことが有利である理由は、幹線電源電圧が第2の範囲内にあるところでは、巻線の整流を、巻線における逆起電力のゼロ交差に対して遅延させ、巻線内の相電流のレベルは、比較的速い速度で増大するからである。かくして、相電流は、最初、巻線内に誘導される逆起電力に追従し、その後、励起期間の間、比較的迅速に上昇し、非励起期間の間、減少する。単一の励起期間と単一の非励起期間だけを使用することによって、スイッチングロスを、例えば、複数の励起期間及び非励起期間を各電気半サイクルに含む方法よりも減少させる。
【0016】
幹線電源電圧が第2の範囲内にあるところでは、単一の励起期間と単一の非励起期間を含む電気半サイクルが、例えば、複数の励起期間及び/又は非励起期間を含む電気半サイクルよりも逆起電力に近接して追従する相電流を供給し、したがって、作動を更に効率的にすることが見出された。
【0017】
それにもかかわらず、幹線電源電圧が第2の範囲内にあるところで、電気半サイクルが、第1の励起期間と、第1の非励起期間と、第2の励起期間と、第2の非励起期間とに分割され、第1の非励起期間が、第1の励起期間と第2の励起期間の間に起こり、第2の非励起期間が、第2の励起期間の後に起こることも考えられる。それにより、第1の非励起期間は、巻線内の相電流の上昇を阻止し、その結果、相電流は、巻線内に誘導される逆起電力に更に近接して追従する。
【0018】
幹線電源電圧が第1の範囲内にあるところでは、電気半サイクルは、第1の励起期間と、第1の非励起期間と、第2の励起期間と、第2の非励起期間に分割され、第1の非励起期間は、第1の励起期間と第2の励起期間の間に生じ、第2の非励起期間は、第2の励起期間の後に生じる。幹線電源電圧が第1の範囲内にあるところでは、巻線内の相電流のレベルは、比較的遅い速度で増大する。それにもかかわらず、幹線電源電圧が第1の範囲内にあるところでは、巻線の整流を、巻線における逆起電力のゼロ交差に対して前進させるので、相電流は、巻線内に誘導される逆起電力を迅速に先導する。第1の非励起期間は、巻線内の相電流の上昇を阻止し、その結果、相電流は、巻線内に誘導される逆起電力に更に近接して追従し、それにより、モータの作動を更に効率的にする。
【0019】
モータの幹線電源電圧を測定することは、モータの幹線電源電圧を間接的に測定することを含んでいてもよく、間接的な測定は、例えば、モータの直流リンク電圧を測定し、測定した直流リンク電圧を使用してモータの幹線電源電圧を決定することによって行ってもよい。幹線電源電圧を測定することは、モータの幹線電源電圧を直接的に測定することを含んでいてもよい。
【0020】
本発明に更なる側面によれば、ブラシレス永久磁石モータのコントローラの1又は2以上のプロセッサの作動のための機械読取り可能な指示を含むデータキャリアを提供し、かかる指示は、ブラシレス永久磁石モータの幹線電源電圧を測定することと、幹線電源電圧が、第1の国の幹線電源を表す第1の範囲内にあるか、第2の国の幹線電源を表す第2の範囲内にあるかを決定することと、幹線電源電圧が第1の範囲内にあるところでは、ブラシレス永久磁石モータの巻線の整流を、巻線における逆起電力のゼロ交差に対して前進させることと、幹線電源電圧が第2の範囲内にあるところでは、巻線の整流を、巻線における逆起電力のゼロ交差に対して遅延させることと、を含む。
【0021】
本発明の更なる側面によれば、ブラシレス永久磁石モータを提供し、かかるブラシレス永久磁石モータは、巻線と、コントローラと、を含み、コントローラは、ブラシレス永久磁石モータの幹線電源電圧を測定し、幹線電源電圧が、第1の国の幹線電源を表す第1の範囲内にあるか、第2の国の幹線電源を表す第2の範囲内にあるかを決定し、幹線電源電圧が第1の範囲内にあるところでは、巻線の整流を、巻線における逆起電力のゼロ交差に対して前進させ、幹線電源電圧が第2の範囲内にあるところでは、巻線の整流を、巻線における逆起電力のゼロ交差に対して遅延させるように構成される。
【0022】
本発明の上記側面の好ましい特徴は、適当であれば、本発明の他の側面に等しく適用可能である。
【0023】
本発明を更によく理解するために、及び、本発明をどのように有効にするのかを示すために、以下、添付図面を参照して、本発明を例示として説明する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明によるモータシステムのブロック図である。
【
図3】
図1のモータシステムのコントローラにが発した制御信号に応答するときの
図1のモータシステムのインバータの可能な状態の詳細を示す。
【
図4】
図1のモータシステムに使用される逆起電力センサの概略図である。
【
図5】比較的低い幹線電圧を定常状態モードで使用して作動しているときの
図1のモータシステムの種々の波形の図である。
【
図6】比較的高い幹線電圧を定常状態モードで使用して作動しているときの
図1のモータシステムの種々の波形の図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1及び
図2のモータシステム10は、交流幹線電源12によって電力が供給され、ブラシレスモータ14と、制御システム16を含む。
【0026】
ブラシレスモータ14は、4極ステータ20に対して回転する4極永久磁石ロータ18を含む。複数の導線がステータ20の周りに巻かれ、単一の相巻線22を形成するように(例えば、直列に又は並列に)互いに結合される。
【0027】
制御システム16は、整流器24と、直流リンクフィルタ26と、インバータ28と、ゲートドライバモジュール30と、幹線電源電圧センサ32と、電流センサ34と、逆起電力センサ36と、コントローラ38を含む。
【0028】
整流器24は、全波ブリッジD1~D4であり、交流幹線電源12の出力を整流して、直流リンク電圧を供給する。
【0029】
直流リンクフィルタ26は、コンデンサC1を含み、コンデンサC1は、インバータ28のスイッチングによって生じる比較的高い周波数のリップルを滑らかにする。
【0030】
インバータ28は、直流リンク電圧を相巻線22に接続する4つの電力スイッチQ1~Q4のフルブリッジを含む。スイッチQ1~Q4の各々は、フリーホイールダイオードを含む。
【0031】
ゲートドライバモジュール30は、コントローラ38から受信した制御信号に応答して、スイッチQ1~Q4の開閉を駆動する。
【0032】
幹線電源電圧センサ32は、信号VDCをコントローラ38に出力し、コントローラ38は、後で詳細に説明するように、定常状態モードのモータシステム10の作動条件を決定する。
【0033】
電流センサ34は、1対の感知抵抗R1、R2と、マルチプレクサ50を含む。抵抗R1、R2の各々は、インバータ28の低側のレッグに配置され、一方の抵抗R2は、左から右に励起されるときに相電流の測定を行い、他方の抵抗R1は、右から左に励起されるときに相電流の測定を行う。マルチプレクサ50は、感知抵抗R1、R2による2つの信号出力の一方を選択する。電流センサ34の前後の電圧は、逆起電力センサ36とコントローラ38に電流感知信号I_SENSEとして出力される。
【0034】
逆起電力センサ36は、コントローラ38に出力されるデジタル信号BEMFを発生させる。逆起電力センサ36の更なる詳細な説明を後で行う。
【0035】
コントローラ38は、プロセッサを含むマイクロコントローラと、メモリ装置と、複数の周辺機器(例えば、ADC、比較器、タイマー等)を含む。メモリ装置は、プロセッサによって実行される指示及び制御パラメータ(例えば、電流限界、上昇時間閾値、速度閾値、フリーホイール期間、前進期間、遅延期間、励起期間等)を、プロセッサが使用するために記憶する。コントローラ38は、モータシステム10の作動を制御する役割を有し、3つの制御信号DIR1、DIR2、FW♯を発生させる。これらの制御信号は、ゲートドライバモジュール30に出力され、それに応答して、ゲートドライバモジュール30は、インバータ28のスイッチQ1~Q4の開閉を駆動する。
【0036】
制御信号DIR1、DIR2は、インバータ28の中を流れる電流、かくして、相巻線22の中を流れる電流の方向を制御する。制御信号DIR1が論理的高に引かれ、制御信号DIR2が論理的低に引かれるとき、ゲートドライバモジュール30は、スイッチQ1、Q4を閉じ、スイッチQ2、Q3を開き、かくして、電流が相巻線22の中を左から右に駆動される。これとは逆に、制御信号DIR2が論理的高に引かれ、制御信号DIR1が論理的低に引かれるとき、ゲートドライバモジュール30は、スイッチQ2、Q3を閉じ、スイッチQ1、Q4を開き、かくして、電流が相巻線22の中を右から左に駆動される。したがって、制御信号DIR1、DIR2を逆にすることによって、相巻線22内の電流を整流させる。もしも制御信号DIR1、DIR2が両方とも論理的低に引かれたら、ゲートドライバモジュール30は、全てのスイッチQ1~Q4を開く。
【0037】
制御信号FW♯は、巻線22と直流リンク電圧との接続を切って、相巻線22内の電流をインバータ28の低側のループ内で回るようにフリーホイールさせるのに使用される。したがって、論理的低に引かれる制御信号FW♯に応答して、ゲートドライバモジュール30は、高側の両方のスイッチQ1、Q3を開く。しかしながら、フリーホイールを、スイッチの種々の組合せを使用することによって、例えば、1又は2以上のスイッチを開くことによって、達成してもよいことを認識すべきである。変形例として相巻線の非励起を、インバータ28を完全にオフにすることによって達成してもよいことを認識すべきである。
【0038】
電力スイッチQ1~Q4の各々は、単一の方向だけに導通する。結果として、電流は、低側のスイッチQ2、Q4のうちの一方のフリーホイールダイオードと、低側のスイッチQ2、Q4の他方のフリーホイールダイオードの中を通ってフリーホイールする。幾つかの種類の電力スイッチ(例えば、MOSFET)は、両方向に導通することが可能である。従って、フリーホイールダイオードの中を通るフリーホイールではなく、低側のスイッチQ2、Q4を両方とも閉じて、電流が、低側のスイッチQ2、Q4の両方の中を通るようにフリーホイールしてもよく、即ち、論理的低の制御信号FW♯に応答して、高側のスイッチQ1、Q3の両方を開くことに加えて、低側のスイッチQ2、Q4を両方とも閉じてもよい。
【0039】
図3は、コントローラ38の制御信号に応答したスイッチQ1~Q4の可能な状態の概要を示す。以下、用語「セット」及び「クリア」をそれぞれ、信号が論理的高及び論理的低に引かれることを指示するのに使用する。
【0040】
コントローラ38は、ロータ18の速度に応じて、3つのモードのうちの1つで作動する。ロータ18が静止しているとき、コントローラ38は、スタートアップモードで作動し、スタートアップモードは、ロータ18を前進方向に単に移動させ始めるのに採用される。いったんロータ18が前進方向に移動したら、コントローラ38は、加速モードに切替わる。コントローラ38は、ロータ18の速度が速度閾値を越えるまで、加速モードで作動し、その後、コントローラ38は、定常状態モードに切替わる。各作動モード内において、コントローラ38は、異なる構想を採用して、専用のロータセンサを必要とすることなしに、モータ14を制御する。
【0041】
コントローラ38のスタートアップモードと加速モードの詳細は、本発明に関係せず、したがって、簡潔さのために本明細書に含まれていない。コントローラ38の適当なスタートアップモード及び加速モードの詳細は、出願人のPCT出願の国際公開である特許文献1で見ることができる。
【0042】
定常状態モードで作動するとき、コントローラ38は、逆起電力センサ36を使用して、ロータ18の位置を決定する。ここで説明するように、逆起電力センサ36は、デジタル信号を出力し、その幾つかのエッジは、ロータ18の整列位置に一致する。
【0043】
任意の著しい飽和又はサリエンシー(ロータの位置によるモータのインダクタンスの変化)がなければ、相巻線22の電圧方程式は、
Vph=iphRph+Lphо×diph/dt+Eph
のように表され、ここで、Vphは、相巻線22の前後の電圧であり、iphは、相巻線22内の電流であり、Rphは、相巻線22の抵抗であり、Lphоは、相巻線22のインダクタンスであり、Ephは、ロータ18によって相巻線22内に誘導された逆起電力である。
【0044】
ロータ18が整列位置にあるとき、相巻線22内に誘導される逆起電力はゼロである。逆起電力の各ゼロ交差において、電圧方程式は、
Vph=iphRph+Lphо×diph/dt
のようになり、iphRphの項は、逆起電力のゼロ交差付近では無視できる。その結果、ロータ18の各整列位置において、電圧方程式は、
Vph=Lphо×diph/dt
のように簡略化される。逆起電力センサ36は、この方程式を利用して、ロータ18の整列位置に一致するエッジを有する出力信号を発生させる。
【0045】
図4に示すように、逆起電力センサ36は、電圧センサ40と、増幅器42と、微分器44と、ローパスフィルタ46と、比較器48を含む。逆起電力センサ36は、電流感知信号I_SENSEを電流センサ34から受信する。
【0046】
電流センサ34は、1対の感知抵抗R1、R2と、マルチプレクサ50を含む。抵抗R1、R2の各々は、インバータ28の低側のレッグに配置され、一方の抵抗R2は、左から右に励起させたときの相電流の測定を行い、他方の抵抗R1は、右から左に励起させたときの相電流の測定を行う。マルチプレクサ50は、感知抵抗R1、R2による2つの信号出力の一方を選択する。
【0047】
電圧センサ40は、1対の電位分割器R5、R6及びR7、R8と、1対の差動増幅器52、54と、マルチプレクサ56を含む。電位分割器R5、R6及びR7、R8は、相巻線22の両側に配置され、電位分割器R5、R6、R7、R8の出力は、両方の差動増幅器52、54に供給される。一方の差動増幅器52による信号出力は、左から右に励起させたときの相電圧の測定を行い、他方の差動増幅器54による信号出力は、右から左に励起させたときの相電圧の測定を行う。マルチプレクサ56は、差動増幅器52、54による2つの信号出力のうちの一方を選択する。電圧センサ40は、直流リンク電圧VDCに比例する電圧を有する第1の信号を出力する。相巻線22を励起させたとき、相巻線の前後の電圧Vphは、直流リンク電圧VDCから電力スイッチQ1~Q4の前後の電圧降下を引き算した電圧に一致する。その結果、電圧センサ40による第1の信号出力は、励起の間、相巻線の前後の電圧Vphと比例した電圧を有する。
【0048】
コントローラ38による信号出力DIR1は、両方のマルチプレクサ50、56のためのセレクタ入力として使用される。したがって、マルチプレクサ50、56は、相巻線22の中を流れる電流の方向に従って、差動増幅器52、54の一方と、感知抵抗R1、R2の一方を選択する。電位分割器R5、R6、R7、R8を相巻線22の両側に配置することによって、及び、感知抵抗R1、R2をインバータ28の両側のレッグに配置することによって、相電流を、フリーホイールの間及び励起の間感知することができる。
【0049】
増幅器42は、電流センサ34による信号出力I_SENSEに作用する。次いで、微分器44は、増幅器42の信号出力に作用し、ローパスフィルタ46は、微分器44による信号出力に作用する。電流センサ34は、相巻線22内の電流に比例する電圧を有する第2の信号を出力すると言える。次いで、微分器44は、それに応答して、第2の信号を微分し、相巻線内の電流の変化速度diph/dtに比例した電圧を有する第3の信号を発生させる。相巻線22のインダクタンスが一定であると仮定すると(これは、モータのサリエンシーがなく又は少ししかなく且つ飽和効果が最小であるときに有効である。)、第3の信号の電圧は、Lphо×diph/dtに比例する。
【0050】
ローパスフィルタ46は、微分器44による第3の信号に導入されてしまうことがある任意のノイズを単に抑制するために採用される。もしもノイズを問題なしとみなすならば、ローパスフィルタ46を省略してもよい。
図4では、ローパスフィルタ46及び微分器44を2つの別の構成要素として示している。変形例として、ローパスフィルタ46は、微分器44の一部分として実施され、かくして、追加の作動増幅器の必要を回避してもよい。
【0051】
増幅器42は、相巻線22内に誘導される逆起電力がゼロであるとき、即ち、Vph=Lphо×diph/dtであるときに、第1の信号及び第3の信号の電圧が一致するように、これら2つの信号の電圧が適当にスケール合せされることを確保する。
【0052】
比較器48は、第1の信号の電圧と第3の信号の電圧を比較し、比較に応じて、デジタル出力信号を発生させる。出力信号は、第1の信号の電圧が第3の信号の電圧よりも高いとき(Vph>Lphо×diph/dt)、論理的に高く(又は、変形例として、論理的に低く)、第1の信号の電圧が第3の信号の電圧よりも低いとき(Vph<Lphо×diph/dt)、論理的に高い(又は、変形例として、論理的に高い)。したがって、2つの信号の電圧が一致するとき、即ち、Vph=Lphо×diph/dtであるときはいつでも、エッジを出力信号内に発生させる。この条件を満たすのは、相巻線22内に誘導される逆起電力がゼロのときである。その結果、ロータ18が整列位置にあるとき、エッジを出力信号内に発生させる。
【0053】
信号BEMF内の下降エッジに応答して、コントローラ38は、電気半サイクルの期間T_HCから相の期間T_PHASEを引き算して、整流期間T_COMを得る。
T_COM=T_HC-T_PHASE
次いで、コントローラ38は、下降エッジの後の時間T_COMのところで、相巻線22を整流する。結果として、コントローラ38は、次のロータ整列位置に対して相期間T_PHASEだけ相巻線22を整流する。もしも相期間が正であれば、整流は、ロータ整列位置の前に起こる(前進させた整流)。もしも相期間がゼロであれば、整流は、ロータ整列位置のとこで起こる(同期している整流)。そして、もしも相期間が負であれば、整流は、ロータ整列位置の後に起こる(遅延させた整流)。
【0054】
定常状態モードでは、相巻線22の整流は、モータ14に使用される交流幹線電源12の電圧に応じて、ロータ整列位置の前に起こったり(前進させた整流)、ロータ整列位置の後に起こったりする(遅延させた整流)。
【0055】
上述したように、幹線電源電圧センサ32は、信号VDCをコントローラ38に出力する。スタートアップの前、コントローラ38は、信号VDCを使用して、モータに供給される交流幹線電源電圧を決定し、決定した交流幹線電源電圧を、記憶されている予め決められた電圧範囲と比較し、かかる電圧範囲は、異なる国の交流幹線電源の電圧を包含する電圧に一致する。例えば、コントローラ38は、決定した交流幹線電源電圧を、予め決められた第1の電圧範囲85V~140V及び予め決められた第2の電圧範囲180V~265Vと比較する。決定した交流幹線電源電圧(VDCに基づく)が予め決められた第1の電圧範囲内にあるとき、コントローラ38は、定常状態作動の間、前進させた整流を行うように作用すると共に、決定した交流幹線電源電圧(VDCに基づく)が予め決められた第2の電圧範囲内にあるとき、コントローラ38は、定常状態作動の間、遅延させた整流を行うように作用し、その理由を後で説明する。かくして、コントローラ38は、モータに使用すべき交流幹線電源電圧及びモータを使用すべき国に関わらず、モータ14の効率的な作動を達成するように作用することができる。
【0056】
交流幹線電源電圧が、前進させた整流又は遅延させた整流のための許容可能な電圧範囲のいずれにもない場合、モータは、始動せず、システムは、指定されたスタンバイモードに入る。
【0057】
比較的低い交流幹線電源電圧が交流幹線電源12によって供給されるところでは、定常状態モードにおいて、前進させた整流を行う。特に、幹線電源電圧が比較的低いところでは、相巻線22の中に駆動される相電流のレベルは、低速で上昇し、所望の出力を達成するのに十分な相電流を電気半サイクルにわたって巻線22内に駆動するのを確保することは難しい。高回転速度、例えば、60krpmを超える速度では、巻線内に誘導される逆起電力は、比較的高く、また、所望の出力を達成するのに十分な相電流を相巻線22内に駆動する性能に影響を及ぼす。
【0058】
相巻線22の整流を、相巻線22における逆起電力のゼロ交差に対して前進させることにより、更に多くの相電流を電気半サイクルの経過にわたって相巻線22内に駆動することを可能にし、かくして、モータが所望の出力で作動することを可能にする。更に、永久磁石モータについて、電流に対するトルクの比は、相電流の波形が逆起電力の波形に一致するときに最大になる。巻線22の整流を、巻線22における逆起電力のゼロ交差に対して前進させることによって、巻線内に駆動される相電流の波形は、巻線内に誘導される逆起電力の波形により近接して追従するように制御される。
【0059】
比較的低い幹線電源電圧のところで、前進させた整流の間の相電流80、逆起電力82、及び印加電圧84の例示の波形を、
図5に見ることができる。
【0060】
交流幹線電源12によって供給される交流幹線電源電圧が比較的高いところでは、定常状態モードにおいて、遅延させた整流を行う。特に、幹線電源電圧が比較的高いところでは、線の中に駆動される相電流のレベルは、比較的低い幹線電源電圧によって供給される速度よりも速い速度で上昇する。かかる比較的高い電圧のところで、相巻線22の整流を、巻線22における逆起電力のゼロ交差に対して前進させると、相電流の波形は、巻線内に誘導される逆起電力の波形22に近接するように追従せず、相電流は、逆起電力を迅速に先導し、かくして、モータの性能の効率は低くなる。
【0061】
本願の発明者が見出したことは、比較的高い幹線電源電圧では、相巻線に誘導される相電流のレベルは、比較的低い幹線電源電圧によって供給される速度よりも速い速度で増大するので、巻線の整流22を、巻線22における逆起電力のゼロ交差に対して遅延させたとしても、所望の出力電力を達成するのに十分なレベルの電流が、電気半サイクル内に巻線22内に駆動される。更に、幹線電源電圧が比較的高いところでは、巻線の整流22を遅延させることによって、巻線内に駆動される相電流22のレベルが比較的速い速度で上昇し、巻線内に駆動される相電流は、巻線内に誘導される逆起電力22に更に近接して追従するように制御される。
【0062】
比較的高い幹線電圧のところで遅延させた整流の間における相電流80、逆起電力82、及び印加電圧84の例示の波形を
図6に見ることができる。
【0063】
かくして、コントローラ38は、異なる幹線電源電圧を有する国において、モータ14の作動が行われる国の幹線電源電圧のレベルに応じて、モータの相巻線22の整流を、相巻線22における逆起電力のゼロ交差に対して前進させたり遅延させたりすることによって、モータ14の効率的な作動を可能にする。
【0064】
モータ14を制御する方法100を
図7に概略的に示し、かかる方法100は、モータ14の幹線電源電圧を測定すること102と、幹線電源電圧が、第1の国の幹線電源を表す第1の範囲内にあるか、第2の国の幹線電源を表す第2の範囲内にあるかを決定すること104と、幹線電源電圧が第1の範囲内にあるところでは、モータ14の巻線の整流を、巻線における逆起電力のゼロ交差に対して前進させること106と、幹線電源電圧が第2の範囲内にあるところでは、巻線の整流を、巻線における逆起電力のゼロ交差に対して遅延させること108と、を含む。
【0065】
上述したように、永久磁石モータにおいて、電流に対するトルクの比は、相電流の波形が逆起電力の波形に一致するときに最大になる。コントローラ38はまた、励起期間、即ち、相電流を相巻線22内に駆動する期間及び、非励起期間、即ち、電流が相巻線22をそのままにしておくことを可能にする期間の持続期間及び形態を制御することができ、それにより、効率を改善するために、巻線22における相電流の波形を逆起電力の波形に最もよく一致させることを試みる。
【0066】
図5から分かるように、
図5では、コントローラ38は、逆起電力のゼロ交差に対して前進させた整流を使用して作動し、即ち、交流の幹線電源電圧は比較的低く、電気サイクルの各半部を第1の励起期間62と、第1の非励起期間64と、第2の励起期間66と、第2の非励起期間60に分割する。ここで、非励起期間64、60は、フリーホイール期間であり、それに従ってそのように参照することがある。第1のフリーホイール期間64は、第1の励起期間62と第2の励起期間66の間に起こり、第2のフリーホイール期間60は、第2の励起期間66の後に起こる。
【0067】
幹線電源電圧が比較的低いところでは、相巻線22における相電流のレベルは比較的低速で増大する。それにもかかわらず、巻線22の整流を、巻線22における逆起電力のゼロ交差に対して前進させるので、相電流は、巻線内に誘導される逆起電力22を迅速に先導する。第1のフリーホイール期間64は、巻線22内の相電流の上昇を阻止し、その結果、相電流は、巻線内に誘導される逆起電力22により近接して追従し、それにより、モータの作動を更に効率的にする。第2のフリーホイール期間60は、所定のレベルの電流に対してより小さいトルクしか達成できない逆起電力低下領域で起こる。したがって、この領域内でのフリーホイールによって、更に効率的なモータを実現することができる。
【0068】
図6から分かるように、
図6では、コントローラ38は、逆起電力のゼロ交差に対して遅延させた整流を使用して作動し、即ち、交流の幹線電源電圧は比較的高く、電気サイクルの各半部を単一の励起期間68と、それに続く単一の非励起期間70に分割する。ここで、単一の非励起期間70は、単一のフリーホイール期間であり、それに従って今後そのように参照する。単一のフリーホイール期間70は、単一の励起期間68の後に起こる。
【0069】
幹線電源電圧が比較的高いところでは、相巻線22における相電流のレベルは、比較的高速で増大する。比較的高い電圧で整流を遅延させている間、最初、相電流は、巻線内に誘導される逆起電力22の後を追い、その後、励起期間の間比較的高速で上昇し、非励起期間の間減少する。単一の励起期間68と単一のフリーホイール期間70だけを使用することによって、スイッチングロスを、例えば、多数の励起期間及びフリーホイール期間を各電気半サイクルに含む方法よりも減少させる。幹線電源電圧が比較的高いところでは、単一の励起期間68と単一のフリーホイール期間70を含む電気半サイクルが、例えば、多数の励起期間及び/又はフリーホイール期間を含む電気半サイクルよりも逆起電力に近接して追従する相電流を供給し、したがって、更に効率的な作動を提供することが見出された。
【0070】
しかしながら、比較的低い電圧のときに前進させた整流を使用する作動に関連して上述したように、幹線電源電圧が比較的高いところでは、電気半サイクルを異なる励起期間及び非励起期間に分割することも考えられる。