(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-18
(45)【発行日】2022-10-26
(54)【発明の名称】移動ロボット及び当該移動ロボットを制御するための方法
(51)【国際特許分類】
A47L 9/28 20060101AFI20221019BHJP
G05D 1/02 20200101ALI20221019BHJP
【FI】
A47L9/28 E
G05D1/02 J
(21)【出願番号】P 2021505736
(86)(22)【出願日】2019-06-12
(86)【国際出願番号】 GB2019051630
(87)【国際公開番号】W WO2020030884
(87)【国際公開日】2020-02-13
【審査請求日】2021-02-01
(32)【優先日】2018-08-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】500024469
【氏名又は名称】ダイソン・テクノロジー・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(72)【発明者】
【氏名】クリストファー・オード
(72)【発明者】
【氏名】ジェームズ・カースウェル
(72)【発明者】
【氏名】ジャイルズ・アシュビー
【審査官】高橋 祐介
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-025501(JP,A)
【文献】特開2018-013833(JP,A)
【文献】特開2018-077685(JP,A)
【文献】特開2006-239844(JP,A)
【文献】特開2010-282443(JP,A)
【文献】国際公開第2011/064821(WO,A1)
【文献】特表2017-502372(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47L 9/28
G05D 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の環境内で動作可能とされる移動ロボットを制御するための方法において、
環境マップをメモリに格納するステップであって、前記環境マップが、前記移動ロボットに前記環境を巡回させるためのデータを含んでいる、前記ステップと、
以前の動作の際に前記移動ロボットが遭遇した1つ以上の危険領域に対応しているデータを前記メモリに格納するステップと、
前記環境内で動作している際に、前記移動ロボットの現在の傾斜を計測するステップと、
前記現在の傾斜が傾斜閾値を超える場合に、危険が前記移動ロボットに発生していると判定するステップと、
前記移動ロボットが、以前に遭遇した危険領域に対応している前記環境の領域内を巡回している場合に、前記移動ロボットの傾斜閾値を低減させるステップと、
を備えて
おり、
1つ以上の前記危険領域に対応しているデータが、前記危険領域それぞれに関連する確率ファクタを備えており、
前記方法が、前記移動ロボットがさらなる危険に遭遇することなく特定の危険領域を通過して巡回する場合に、前記特定の危険領域についての前記確率ファクタを低減させるステップを備えており、
前記確率ファクタは、前記移動ロボットが危険に晒される確率であり、
前記移動ロボットが、所定の閾値を超える確率ファクタを有している以前に遭遇した危険領域に対応している前記環境の領域内を巡回している場合に、前記移動ロボットの前記傾斜閾値のみが低減される、
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
1つ以上の前記危険領域に対応しているデータが、
危険領域の1つ以上の位置に対応している配置データであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
1つ以上の前記危険領域に対応しているデータが、前記環境マップの上にレイヤーとして格納されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
危険領域が、危険イベントが前記移動ロボットに発生する領域であることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記危険イベントが、前記移動ロボットが引っ掛かっていることであることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記危険イベントが、過剰傾斜閾値イベントが前記移動ロボットに発生していることであ
り、前記過剰傾斜閾値イベントは、エラーを発生させそうな状況にあることを、前記エラーが前記移動ロボットに実際には発生していない場合であっても示すことを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記メモリが、前記移動ロボットに搭載されているオンボードメモリであることを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
危険領域が、所定の大きさの領域とされ、
前記危険領域の中心が、危険に遭遇した位置であることを特徴とする請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記所定の大きさの領域が、0.1m~0.5mの半径を有する円であることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記方法が、動作の際に前記移動ロボットが新しい危険に遭遇した場合に、1つ以上の前記危険領域に対応しているデータを更新するステップを備えていることを特徴とする請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記方法が、ジャイロ、慣性計測装置、及び加速度計
のうちの1つ以
上を利用することによって、前記移動ロボットが環境で動作している際に前記移動ロボットの傾斜を計測するステップを備えていることを特徴とする請求項1~
10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
所定の環境内で動作可能とされる移動ロボットであって、
環境マップを格納するための記憶装置と、
以前の動作の際に前記移動ロボットが遭遇した1つ以上の危険
領域に対応しているデータを格納するための記憶装置と、
前記環境内で動作している際に前記移動ロボットを制御するための制御システムと、
を備えている前記移動ロボットにおいて、
前記制御システムが、前記環境内で動作している際に前記移動ロボットの現在の傾斜を計測することと、前記現在の傾斜が傾斜閾値を超える場合に、危険が前記移動ロボットに発生していると判定することと、を実行するように構成されており、
前記制御システムが、通常動作モードで前記移動ロボットを制御する場合に第1の傾斜閾値を利用するように構成されており、前記移動ロボットが危険領域内を巡回している際に慎重動作モードで前記移動ロボットを制御する場合に第2の傾斜閾値を利用するように構成され
ており、
前記第2の傾斜閾値が、前記第1の傾斜閾値より小さいことを特徴とし、
前記危険領域に対応しているデータが、前記危険領域それぞれに関連する確率ファクタを備えており、
前記制御システムが、前記移動ロボットがさらなる危険に遭遇することなく特定の危険領域を通過して巡回する場合に、前記特定の危険領域についての前記確率ファクタを低減させるように構成されており、
前記確率ファクタは、前記移動ロボットが危険に晒される確率であり、
前記移動ロボットが、所定の閾値より大きい確率ファクタを有している以前に遭遇した危険領域に対応している前記環境の領域内を巡回している場合に、前記制御システムが、前記第2の傾斜閾値のみを利用するように構成されている、
ことを特徴とする移動ロボット。
【請求項13】
前記危険領域に対応しているデータが、前記環境マップの上にレイヤーとして格納されることを特徴とする請求項
12に記載の移動ロボット。
【請求項14】
前記制御システムが、前記移動ロボットが前記環境内で動作する際に前記移動ロボットが新しい危険に遭遇した場合に、危険領域に対応しているデータを更新するように構成されていることを特徴とする請求項
12又は13に記載の移動ロボット。
【請求項15】
前記移動ロボットが、前記移動ロボットの現在の傾斜に対応している傾斜計測値を前記制御システムに提供するために、ジャイロ、慣性計測装置、及び加速度計のうち1つ以上を備えていることを特徴とする請求項
12~
14のいずれか一項に記載の移動ロボット。
【請求項16】
危険領域の前記確率ファクタが閾値レベルより下である場合、前記確率ファクタに対応している前記危険領域は、1つ以上の前記危険領域に対応しているデータから消去される、又は1つ以上の前記危険領域に対応しているデータが履歴データを保持する場合において無視されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に危険回避するように移動ロボットを制御するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
移動ロボットは、徐々に一般的になってきており、例えば宇宙探査、テレプレゼンス、在宅支援、芝刈り、及び床清掃のような様々な分野で利用されている。近年、家庭用ロボットの分野において急速に発展してきており、家庭用ロボットの第1の目的は、人間の利用者からの支援をほとんど必要としないで、好ましくは全く必要としないで、利用者の家庭を自律して巡回し、例えば吸引や清掃のような操作を目立たぬように実行することである。
【0003】
例えば作業を実行する際に、移動ロボットは、自律的に巡回し、自身の環境内において障害物を迂回することができなければならない。移動ロボットが、当該移動ロボットに期待されるすべての作業を可能な限り最高水準で実行可能となるためには、当該移動ロボットは、当該移動ロボットが配置された環境内で利用可能な空間を隈なく巡回可能とされることが重要である。このことは、カバー範囲(coverage)と呼称される場合がある。例えばロボット真空掃除機の場合には、カバー範囲は、自律的に清掃される床表面の最大面積を確保するために重要である。
【0004】
カバー範囲を最大化するためには、小さい障害物を乗り越える移動ロボットの操縦性を高めることが望ましい。例えば硬質の床表面からカーペットやラグへの移行領域において床表面の高さに僅かな差が存在する場合であっても、両方の床領域を清掃可能とするために、移動ロボットが当該移行領域を乗り越えるように操縦可能とされることが有益である。しかしながら、障害物を乗り越える移動ロボットの操縦性を高める場合に、このことは、移動ロボットが例えば障害物を乗り越えようとする場合に当該障害物に引っ掛かったり、移動ロボットが脱出不能な領域に巡回されるような問題に直面する可能性を高めることになる。このようなタイプの問題の発生は、移動ロボットにとって危険であると考えられる。この種の危険は、特に移動ロボットの利用者及び所有者に不満を抱かせるものである。移動ロボットは、清掃を続行するために、人間の介入により復帰される必要があるからである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、移動ロボットが環境を巡回する際に危険に遭遇する危険性を最小限度に抑えつつ、移動ロボットのカバー範囲を最大化する手助けとなる移動ロボットの改善が必要とされる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、所定の環境内で動作可能とされる移動ロボットを制御するための方法であって、環境マップをメモリに格納するステップであって、環境マップが、移動ロボットに環境を巡回させるためのデータを含んでいる、ステップと、以前の動作の際に移動ロボットが遭遇した1つ以上の危険領域に対応しているデータをメモリに格納するステップと、移動ロボットが、以前に遭遇した危険領域に対応している環境の所定の領域内を巡回している場合に、移動ロボットの傾斜閾値を低減させるステップと、を備えている方法を提供する。
【0007】
その結果として、移動ロボットは、当該移動ロボットが自身の操縦可能性を押し上げるように制御されるので、移動ロボットのカバー範囲が最大化される。しかしながら、移動ロボットが以前危険に晒されたことがある領域では、傾斜閾値を低減させることによって、移動ロボットはより慎重に運転され、当該移動ロボットが再び危険に晒される可能性を小さくする。特に、低減された傾斜閾値は、移動ロボットが危険であると決定した環境マップの領域のみに適用されるので、カバー範囲は、移動ロボットが危険に晒される危険性を低減させつつ最大化される。
【0008】
1つ以上の危険領域に対応しているデータが、配置データである。1つ以上の危険領域に対応しているデータが、環境マップの上にレイヤーとして格納されている。その結果として、危険領域の配置は、危険領域についての第2の完全なマップを必要とすることなく、環境マップ内に容易にマッピング可能とされる。このことは、格納する必要があるデータ量を低減すると共に、移動ロボットの制御システムから要求される処理量をも低減させる。
【0009】
危険領域が、危険イベントが移動ロボットに発生する領域である。危険イベントが、移動ロボットが引っ掛かっていることであるか、又は危険イベントが、過剰傾斜閾値イベントが移動ロボットに発生していることである。その結果として、移動ロボットは、移動ロボットが以前に引っ掛かるか又は過剰に傾斜したことがある領域における傾斜閾値を低減させ、動作中に当該領域を巡回する場合に一層慎重に当該領域を巡回するようになる。
【0010】
メモリが、移動ロボットに搭載されているオンボードメモリである。その結果として、例えば移動ロボットが無線ネットワークが届かない環境の領域を巡回している場合に、移動ロボットがネットワークとの接続を喪失しても、移動ロボットは、環境を巡回し、上述の優位な方法で制御され続けることができる。
【0011】
危険領域が、所定の大きさの領域とされ、危険領域の中心が、危険に遭遇した位置である。その結果として、移動ロボットは、危険を囲んでいる領域において自身の運転をより慎重に調整する。これにより、移動ロボットの位置特定の誤差について、又は環境内の問題となる障害物の僅かな移動について幾らかの余裕が生まれる。例えば、移動ロボットを困難な状態にする原因となる湾曲したベースを具備するバースツールを、使用する度に正確に同じ位置に戻す必要が無くなる。
【0012】
所定の大きさの領域が、0.1m~0.5mの半径を有する円である。当該大きさの領域は、カバー範囲の拡張をバランスさせ、移動ロボットが危険に晒される危険性を低減させるのに特に優位である。
【0013】
当該方法は、動作の際に移動ロボットが新しい危険に遭遇した場合に、1つ以上の危険領域に対応しているデータを更新するステップを備えている。その結果として、将来の動作のために、環境内の新しい危険、例えば環境内に新しい障害物が導入されることによって生み出された危険を考慮することができる。
【0014】
1つ以上の危険領域に対応しているデータが、危険領域それぞれに関連する確率ファクタを備えており、方法が、移動ロボットがさらなる危険に遭遇することなく特定の危険領域を通過して巡回する場合に、特定の危険領域についての確率ファクタを低減させるステップを備えている。その結果として、例えば家具を撤去することによって、危険が環境から除去された場合であっても、対応する危険領域に対応するデータは経時的に除去可能とされる。このことは、危険が除去された領域において移動ロボットが慎重に運転される必要が無いことを意味する。このことは、移動ロボットのカバー範囲を改善することに貢献する。
【0015】
移動ロボットが、所定の閾値を超える確率ファクタを有している以前に遭遇した危険領域に対応している環境の領域内を巡回している場合に、移動ロボットの傾斜閾値のみが低減される。その結果として、危険が除去される場合に、当該危険は、1つ以上の危険領域に対応するデータから経時的に除去可能とされ、移動ロボットは、もはや危険を含まない過去の危険領域を無視することができる。
【0016】
方法が、ジャイロ、慣性計測装置、及び加速度計を備えている1つ以上のリストを利用することによって、移動ロボットが動作している際に、移動ロボットの傾斜を計測するステップを備えている。その結果として、オンボード部品は、正確な傾斜計測値を移動ロボットの制御システムに提供することができる。このことは、人間の介入を必要としないで自身で問題を解決する最良の機会を得るために、移動ロボットが危険に遭遇した場合に当該移動ロボットを迅速に識別することに貢献する。
【0017】
本発明は、所定の環境内で動作可能とされる移動ロボットであって、環境マップを格納するための記憶装置と、以前の動作の際に移動ロボットが遭遇した1つ以上の危険に対応しているデータを格納するための記憶装置と、環境内で動作している際に移動ロボットを制御するための制御システムと、を備えている移動ロボットにおいて、制御システムが、通常動作モードで移動ロボットを制御する場合に第1の傾斜閾値を利用するように構成されており、移動ロボットが危険領域内を巡回している際に慎重動作モードで移動ロボットを制御する場合に第2の傾斜閾値を利用するように構成されていることを特徴とする移動ロボットを提供する。
【0018】
その結果として、移動ロボットの操縦能力は、可能な限り押し上げ可能となり、移動ロボットのカバー範囲が最大化される。しかしながら、移動ロボットが以前に危険に晒されたことがある領域では、移動ロボットは、傾斜閾値を低減させることによって一層慎重に運転され、移動ロボットが再び危険に晒される可能性が小さくなる。特に、低減された傾斜閾値は、移動ロボットが危険状態にあると当該移動ロボットが決定した環境マップの領域のみに適用されるので、カバー範囲は、移動ロボットが危険に晒される危険性を低減しつつ最大化される。
【0019】
第2の傾斜閾値が、第1の傾斜閾値より小さい。その結果として、移動ロボットは、移動ロボットの傾斜が変化するイベントに対して一層迅速に反応することができる。これにより、環境内における以前の動作の際に移動ロボットが危険に晒されたことがある領域において一層慎重に運転可能とされる。
【0020】
危険領域に対応しているデータが、環境マップの上にレイヤーとして格納される。その結果として、危険領域についての別のマップが必要でなくなるので、このことは、格納する必要があるデータ量を低減し、移動ロボットが実行する必要がある処理量をも低減する。
【0021】
制御システムが、移動ロボットが環境内で動作する際に移動ロボットが新しい危険に遭遇した場合に、危険領域に対応しているデータを更新するように構成されている。その結果として、移動ロボットは、当該移動ロボットが環境内で動作する次回には、新しい危険の周囲で慎重に運転可能とされる。新しい危険は、例えば新しい障害物を当該環境に導入することによって生成される危険であり、将来の動作のために考慮に入れるべきものである。
【0022】
危険領域に対応しているデータが、危険領域それぞれに関連する確率ファクタを備えており、制御システムが、移動ロボットがさらなる危険に遭遇することなく特定の危険領域を通過して巡回する場合に、特定の危険領域についての確率ファクタを低減させる。その結果として、例えば家具を撤去することによって危険が環境から除去された場合に、対応する危険領域に対応しているデータが経時的に除去可能とされる。このことは、危険が除去された領域において移動ロボットが慎重な運転を継続する必要が無くなったことを意味する。このことは、移動ロボットのカバー範囲を改善することに貢献する。
【0023】
移動ロボットが、移動ロボットの現在の傾斜に対応している傾斜計測値を制御システムに提供するために、ジャイロ、慣性計測装置、及び加速度計のうち1つ以上を備えている。その結果として、移動ロボットのオンボード部品は、正確な傾斜計測値を移動ロボットの制御システムに即座に提供することができ、このことは、移動ロボットが危険に遭遇した時を迅速に識別することに貢献するので、人間の介入を必要とすることなく自身で問題を解決するための最良の機会を得ることができる。
【0024】
本発明の理解を一層容易にするために、本発明の実施例について、添付図面を参照しつつ例示的に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図2】
図1に表わす移動ロボットのメモリの概略図である。
【
図7】(a)において、
図6に表わす危険領域を通過する移動ロボットの経路を表わす。(b)において、移動ロボットが(a)に表わす経路に沿って移動する際に、当該移動ロボットによって傾斜閾値が利用されることを表わすグラフである。
【
図9】
図8に表わす環境マップと、環境内の基地の危険領域を示すマップレイヤーとを表わす。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図1に概略的に表わす移動ロボット1は、制御システム2と、タスク実行システム3と、駆動システム4と、メモリ5と、傾斜計測モジュール6とを有している。制御システム2は、プロセッサ20とナビゲーションユニット21とを備えている。
【0027】
当該システムにおけるタスク実行システム3は、移動ロボットに割り当てられたタスク又は作業を実行するために、移動ロボットに設けられている。例えば、移動ロボット1は、一例としてタスク実行システム3が芝生を切断及び/又は収集するためのシステムである、ロボット芝刈り機とされる。さらなる例では、移動ロボット1はロボット床清掃機とされ、タスク実行システム3は床清掃システムとされる。
図3は、このような床清掃システム30を概略的に表わす。床清掃システム30は、掃除機ヘッド32と分離システム33と真空モータ34とを備えている。床清掃システム30のこれら特徴は、床清掃システムの一般的な特徴であるので、本明細書において、これらシステムについては説明しない。タスク実行システムの他の例は挙げるまでもない。
【0028】
ナビゲーションユニット21及び駆動システム4によって、移動ロボットは操縦可能とされ、当該移動ロボットが作業を実行しなければならない環境を巡回可能とされる。
図4は、駆動システムの概略図である。駆動システム4は、駆動アクチュエータ40と複数のナビゲーションセンサ42A~42Eとを備えている。駆動アクチュエータ40は、例えば駆動ホイール又は戦車の履帯とされ、移動ロボット1の制御システム2に走行距離の計測値を提供することができる。当該走行距離の計測値は、制御システム2によって、特にナビゲーションユニット21によって、移動ロボット1の進行距離及び進行経路を見積もるために利用可能とされる。ナビゲーションセンサ42A~42Eは、移動ロボット1の周囲環境についての情報を制御システム2に提供することができる。例えば、ナビゲーションセンサ42Aは、視覚カメラとされ、ナビゲーションセンサ42B,42Cは、例えば飛行時間(TOF)センサのような近接センサとされ、ナビゲーションセンサ42D,42Eは、高低差センサ(drop sensor)又は段差センサ(cliff sensor)とされる。これらセンサに加えて、又はこれらセンサの代替として、他のナビゲーションセンサも利用可能とされる。例えば、移動ロボット1はレーザ式距離計を備えている。代替的な実施例では、ナビゲーションセンサ42A~42Eは、移動ロボット1のナビゲーションユニット21の一部を形成している。一般に、移動ロボット1は、より良好に環境を自律的に巡回するために、複数の異なるタイプのナビゲーションセンサを利用している。ナビゲーションセンサ42A~42Eは、移動ロボット1によって利用可能とされる巡回するための環境マップを構築するために、移動ロボット1の周囲環境に関する情報を制御システム2に提供する。当該環境マップは、移動ロボット1のメモリ5に格納されている。メモリ5は、図示の如く環境カップ22を含んでいる。危険領域データ24もメモリ5に格納されている。危険領域データ24は、移動ロボットが環境の内部で以前の作業を実行した際に遭遇した危険を含む環境マップの内部領域に対応するデータである。危険は、例えば移動ロボットが障害物に引っ掛かったか、又は過剰傾斜閾値イベントが移動ロボットに発生した場所である。
【0029】
移動ロボット1は、傾斜計測モジュールを有している。傾斜計測モジュールは、移動ロボット1の現在の傾斜の計測値を制御システム2に提供する。制御システム2は、移動ロボットの傾斜が著しく変化した場合に、危険又は問題が移動ロボットに発生しているか否か判定する。例えば、移動ロボット1が、移動ロボット1が引っ掛かる可能性がある障害物を乗り越えようとするならば、移動ロボット1が障害物を乗り越えるように操縦開始される場合に、傾斜計測モジュールは、移動ロボット1の傾斜の変化を記録する。傾斜計測モジュールに内蔵された複数の構成部品のうち1つ以上の構成部品によって、傾斜が計測される。これら構成部品は、ジャイロメータ、ジャイロスコープ(ジャイロ)、慣性計測装置(INU)、及び加速度計のうち1つ以上の計測装置とされる。傾斜閾値は、移動ロボットの傾斜が傾斜閾値を超過するように移動ロボットの姿勢が変化した場合に、移動ロボット自身で解決することができないエラーを危険が発生させることを回避するためのアクションが生じるように、設定されている。移動ロボットの傾斜を監視することによって、制御システムは、危険の発生に反応することができ、問題解決のために人間の介入を必要とする危険の発生を回避することができる。例えば、傾斜閾値を超過したと判定された場合に、制御システム2は、移動ロボット1を停止及び逆進させることによって移動ロボット1がこれ以上危険領域に侵入し続けないように、駆動システムを制御する。
【0030】
危険領域データ24は、環境マップ22の内部のどこに危険領域が存在するのか、及び移動ロボット1が危険領域に侵入しているか否かについて、制御システム2のナビゲーションユニット21に判定させるための位置データである。制御システムは、再び危険に晒されることを回避するために、移動ロボットの運転を調整するように構成されている。危険領域を完全に回避することができるが、このことは、移動ロボットのカバー範囲に対して悪影響を及ぼす。その代わりに、移動ロボット1が危険領域内に位置する際に移動ロボット1の傾斜閾値を小さくすることによって、移動ロボットの運転は調整可能とされる。このことは、移動ロボット1をより慎重に運転させるのに効果的である。従って、比較的小さい傾斜閾値を利用することは、慎重動作モード(cautious operation mode)で移動ロボットを動作させることであると考えられる。このことについては、
図7(B)に関連して詳細に後述する。
【0031】
図5は、移動ロボットの一例を表わす。移動ロボットは、ロボット真空掃除機50であって、サイクロン式分離システム52と掃除機ヘッド54とを具備する床清掃システムを有している。ロボット真空掃除機50の本体に内蔵されている真空モータ(図示しない)は、空気流から汚染粒子を取り除くためのサイクロン式分離器52を通じて、掃除機ヘッド54から汚染空気を引き込み、その後に移動ロボットの後部に設けられた通気口(図示しない)を通じて、清浄空気を排出する。ロボット真空掃除機50は、戦車の履帯56の形態をした駆動アクチュエータを有している。駆動アクチュエータは、ロボット真空掃除機50が位置する環境の周辺においてロボット真空掃除機50を移動させるように駆動される。ロボット真空掃除機50は、魚眼レンズカメラ58を具備するナビゲーションセンサを有しており、魚眼レンズカメラ58は、ロボット真空掃除機50の周囲領域の画像をキャプチャーすることができる。移動ロボットの制御システムは、環境マップを構築するために、及び、当該環境マップにおける移動ロボットの位置を特定するために、魚眼レンズカメラ58によってキャプチャーされた画像に対して、同時位置決め地図作成(SLAM)手法を利用する。制御システムによって実行されるSLAM手法は、従動する戦車の履帯から提供される走行距離の計測値と、サイクロン式分離器52の両側に位置決めされているセンサハウジング59に配置された、例えば近接センサのような他のセンサから提供される情報とを利用する。
【0032】
図6は、危険領域60を表わす。危険領域60の中心には、十字マーク62によって示される地点が位置している。当該地点は、移動ロボットが危険に晒される正確な位置である。危険に晒されることは、環境内に配置された障害物又は類する物によって生じるエラーに直面することを意味する。例えばエラーとしては、移動ロボットの駆動アクチュエータが床表面と効果的に接触することができないように、移動ロボットが自身を障害物に向かって操縦することが挙げられる。このことは、障害物に“打ち上げられた(beached)”と呼称される場合がある。このようなエラーは、当該エラーを解決し、移動ロボットの動作を継続させるために人間の介入を必要とする。しかしながら、危険に晒されることは、このようにエラーを必ずしも発生させる訳ではなく、移動ロボットが通常動作を再開させることの困難性の原因となる状況にあることを当該移動ロボットが検出することである場合もある。例えば、過剰傾斜閾値イベントが移動ロボットに発生するならば、このことは、エラーが移動ロボットに実際には発生していない場合であってもエラーを発生させそうな状況にあることを示している。従って、将来、移動ロボットは、環境の当該領域における巡回時に、より慎重になるだろう。
【0033】
図6に表わす危険領域60は、所定の半径Rを有する円領域を描くことによって決定される。当該円領域の中心は、移動ロボットが危険に晒された正確な位置である。
図6に表わす実施例では、危険領域60は、所定の半径を有する円である。しかしながら、別の形状であっても良いことに留意すべきである。0.1m~0.5mの半径が、危険領域にとって特に有益であることが判明している。移動ロボットが環境マップの所望の領域において慎重に運転可能であり、移動ロボットの巡回システムは僅かながらエラーを許容することができるからである。上述の例は、危険領域の半径が一定且つ所定の半径とされる実施例である。しかしながら、危険領域の大きさが一定でない場合や他の要因に依存する場合があることに留意すべきである。
【0034】
図7(A)は、危険領域60を通過する経路70上を進行している移動ロボット50を表わす。
図7(B)は、移動ロボットが進行経路70に沿って進行する場合における、移動ロボットの制御システムによって採用されている傾斜閾値を示すグラフである。移動ロボット50は、点Sにおいて危険領域60に侵入する。
図7(A)と
図7(B)との間に延在している一点鎖線は、
図7(A)の進行経路と
図7(B)のグラフとの間における対応する点を示している。点Sの前に、移動ロボット50の制御システムは、移動ロボット50を制御しつつ第1の傾斜閾値T1を利用する通常動作モードにおいて、制御システムによって制御される。移動ロボット50が点Sにおいて危険領域に侵入すると、移動ロボット50の制御システムは、より低い傾斜閾値T2を採用する。より低い傾斜閾値T2は、移動ロボットが危険領域60を通過して巡回する際に利用される。このことは、より低い傾斜閾値T2を採用することによって、移動ロボット50が慎重動作モードを採用することを意味する。慎重動作モードでは、移動ロボットが危険に晒されている場合に移動ロボットは一層急速に反応し、危険がエラーを発生させる可能性が著しく低減される。移動ロボット50が、点Tにおいて危険領域60の反対側の境界に到達した場合に、傾斜閾値は、より高い傾斜閾値T1に戻り、移動ロボット50は、通常動作モードに復帰する。
【0035】
上述のように、移動ロボットは、環境マップを生成し、当該環境マップを当該移動ロボットのメモリに格納する。移動ロボットは、環境マップ内における当該移動ロボットの位置を三角測量することができるので、当該環境マップの周囲における巡回を補助するために、環境マップを利用することができる。
図8は、環境マップ80の一例を表わす。環境マップ80には、複数の分割領域82,84,86,88が示されており、複数の分割領域82,84,86,88は例えば家の部屋を表わす。しかしながら、環境マップ80が、例えば家具の配置、戸口の配置、床表面のタイプについて情報等のような、環境の他の態様に関連するデータを含んでいる場合があることに留意すべきである。
【0036】
図9は、環境内で発見された危険領域の配置を表わすマップを重ね合わせて適用された付加的なマップレイヤーを具備する、
図8に表わす環境マップ80を表わす。これら危険領域は、点線で描かれた円H1~H6として表わされている。危険の性質は、環境マップを見ても明らかとはならない。しかしながら、移動ロボットに危険のタイプを決定させるためのさらなるデータが格納されている場合がある。当該データは、例えば参照テーブル又は類するものに格納可能とされるか、又は移動ロボットのメモリに格納された危険領域データに関連するメタデータとして格納可能とされる。部屋82は、部屋82のコーナーに配置された一の危険領域H1を有している。部屋84は、一の危険領域H2を有している。部屋86は、部屋86に関連する危険領域を有していない。そして、部屋88は、部屋88に関連する4つの危険領域H3,H4,H5,H6を有している。危険領域H3,H4,H5,H6は、重なり合わされた状態で図示されており、
例えば一連の椅子に対応している。椅子は、当該椅子の脚部又は座面の周りを巡回する場合に移動ロボットを困難な状態にする原因となる。
【0037】
危険領域データは、
図9において、マップレイヤーとして重ね合わされている。しかしながら、危険領域データは、[表1]に表わす参照テーブルのような他の態様で格納される場合がある。
【0038】
【0039】
[表1]において、
図9に表わす危険領域それぞれが、表の項目として示されており、危険領域の項目それぞれが、対応する配置データ[LOC1]~[LOC6]を有している。これにより、移動ロボットは、当該移動ロボットが危険領域を通過して巡回するタイミングを決定することができる。
【0040】
また、[表1]は、危険領域それぞれに関連している確率ファクタを表わす。確率ファクタは、対応する危険が環境から除去された場合に、危険領域を危険領域データから効果的に除去することができる。このような除去を実現するための複数の方法が存在することに留意すべきである。そのうちの一の方法について説明する。上述のように、ロボットが環境を巡回する場合に当該ロボットによって識別される危険それぞれが、危険領域に割り当てられる。また、確率ファクタは、新しい危険領域それぞれに関連し、新規に識別された危険領域については、100%に設定される。移動ロボットが、当該危険領域を次に巡回する場合に、当該移動ロボットが、再び危険に晒されることなく既知の危険領域を通過するならば、当該危険領域についての対応する確率ファクタが、所定量、例えば5%減少する。一の実施例では、危険領域の確率ファクタが閾値レベルより下に、例えば10%落ちると、当該危険領域は、危険領域データから消去される。代替的には、危険領域データを削除するのではなく、履歴データを保持することが望ましく、移動ロボットの制御システムは、所定のレベルより低い対応する確率ファクタを有している危険領域を無視するように構成されている。危険領域それぞれの内部における、移動ロボットによって採用された傾斜閾値は、危険領域それぞれに関連する確率ファクタに関連する場合がある。
【0041】
このことは、動的な危険領域データ、及び経時的に更新可能とされる動的な危険領域マップを実現することができる。詳細に上述したパラメータは、データの動的の程度、及び当該データの変化の迅速さの程度を変化させるために調整可能とされる。
【0042】
特定の例示及び実施例について説明してきたが、特許請求の範囲に定義される技術的範囲から逸脱することなく、様々な変化例を実施可能であることに留意すべきである。様々な変化例のうち幾つかの例については、上述通りである。
【符号の説明】
【0043】
1 移動ロボット
2 制御システム
3 タスク実行システム
4 駆動システム
5 メモリ
6 傾斜計測モジュール
20 プロセッサ
21 ナビゲーションユニット
22 環境マップ
30 床清掃システム
32 掃除機ヘッド
33 分離システム
34 真空モータ
42A ナビゲーションセンサ
42B ナビゲーションセンサ
42C ナビゲーションセンサ
42D ナビゲーションセンサ
42E ナビゲーションセンサ
50 ロボット真空掃除機(移動ロボット)
52 サイクロン式分離システム
54 掃除機ヘッド
59 センサハウジング
60 危険領域
70 経路
80 環境マップ
82 分割領域
84 分割領域
86 分割領域
88 分割領域
T1 より高い傾斜閾値
T2 より低い傾斜閾値