(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-18
(45)【発行日】2022-10-26
(54)【発明の名称】ファスナーテープ、その識別方法、及びその製造方法、並びにスライドファスナーのセット
(51)【国際特許分類】
A44B 19/34 20060101AFI20221019BHJP
【FI】
A44B19/34
(21)【出願番号】P 2021528670
(86)(22)【出願日】2019-06-24
(86)【国際出願番号】 JP2019025015
(87)【国際公開番号】W WO2020261348
(87)【国際公開日】2020-12-30
【審査請求日】2021-08-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000006828
【氏名又は名称】YKK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 祐一
(72)【発明者】
【氏名】高橋 成人
(72)【発明者】
【氏名】青島 弘美
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 久記
【審査官】須賀 仁美
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-211913(JP,A)
【文献】特開2011-048710(JP,A)
【文献】特開2009-161884(JP,A)
【文献】特開平09-251506(JP,A)
【文献】国際公開第2017/057090(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/189918(WO,A1)
【文献】特開2012-011235(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A44B 19/00-19/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主属性を有する糸である緯糸(8)及び経糸(9)から織成されるファスナーテープ(10)であって、
ファスナーテープ幅(W10)を画定するべく前記ファスナーテープの長手方向に沿って延びる第1及び第2側縁(11,12)と、
前記第1及び第2側縁(11,12)の間に設けられるテープ主体部(13)を備え、
前記テープ主体部(13)は、複数の前記経糸(9)と前記緯糸(8)の交差により織成された識別領域(S15,S16)にして、前記ファスナーテープ幅(W10)の全幅の一部を占める幅であり、かつ前記複数の経糸(9)の本数に応じた幅の識別領域幅を有する識別領域(S15,S16)を含み、
前記識別領域(S15,S16)は、前記ファスナーテープ(10)の幅方向において前記ファスナーテープ(10)が複数の領域に区分される時に含まれる1つの領域であり、かつ前記ファスナーテープの長手方向に長尺に延びる領域であり、
前記識別領域(S15,S16)の組織は、前記緯糸(8)及び経糸(9)が前記主属性を有することの識別を可能とするように構成され、及び/又は、前記主属性が細区分されたサブ属性の識別を可能とするように構成される、ファスナーテープ。
【請求項2】
前記識別領域(S15)の完全組織又は織パターンは、前記主属性が細区分されたサブ属性の識別を可能とするように構成される、請求項1に記載のファスナーテープ。
【請求項3】
前記主属性が環境配慮特性に関する、請求項1又は2に記載のファスナーテープ。
【請求項4】
前記環境配慮特性は、リサイクル材料の使用、生分解性材料の使用又は植物由来材料の使用のいずれか又はこれらの組み合わせに関する、請求項3に記載のファスナーテープ。
【請求項5】
前記主属性が細区分されたサブ属性の識別を可能とするように構成された前記識別領域(S15)の組織は、非経畝組織である、請求項1乃至4のいずれか一項に記載のファスナーテープ。
【請求項6】
前記緯糸(8)及び経糸(9)が前記主属性を有することの識別を可能とするように構成された前記識別領域(S16)の組織は、経畝組織である、請求項1乃至5のいずれか一項に記載のファスナーテープ。
【請求項7】
前記識別領域(S15,S16)は、前記緯糸(8)及び経糸(9)が前記主属性を有することの識別を可能とするように織成された第1識別領域(S16)と、前記主属性が細区分されたサブ属性の識別を可能とするように織成された第2識別領域(S15)を含む、請求項1乃至6のいずれか一項に記載のファスナーテープ。
【請求項8】
前記第1識別領域(S16)と前記第2識別領域(S15)は緯方向で隣接している、請求項7に記載のファスナーテープ。
【請求項9】
前記ファスナーテープ(10)の第1側縁(11)よりもファスナーテープ外方に係合頭部(23)が位置付けられるようにファスナーエレメント(20)が設けられ、
前記識別領域(S15,S16)は、前記ファスナーテープ(10)の第1側縁(11)と比べて第2側縁(12)の近くに設けられる、請求項1乃至8のいずれか一項に記載のファスナーテープ。
【請求項10】
前記テープ主体部(13)において、前記ファスナーテープ(10)の第1側縁(11)から前記識別領域(S15,S16)に向かって、エレメント取付領域(S19)と、前記エレメント取付領域(S19)と前記識別領域(S15,S16)の間に設けられた中間領域(S17)が設けられ、
前記識別領域幅は、同方向における前記中間領域(S17)の幅よりも小さい、請求項1乃至9のいずれか一項に記載のファスナーテープ。
【請求項11】
前記テープ主体部(13)において、前記ファスナーテープ(10)の第1側縁(11)から前記第2側縁(12)に向かって、中間領域(S17)及び前記識別領域(S16)が隣接して設けられ、
前記中間領域(S17)及び前記識別領域(S16)の両方において、各経糸は、経方向に隣接した2つの緯糸部分ペアを跨ぐことを繰り返す、請求項1乃至10いずれか一項に記載のファスナーテープ。
【請求項12】
緯糸(8)及び経糸(9)から織成されるファスナーテープ(10)の識別方法であって、
前記ファスナーテープ(10)に含まれる1以上の識別領域(S15,S16)を特定する工程にして、前記識別領域(S15,S16)は、複数の経糸(9)と前記緯糸(8)の交差により織成される、工程と、
前記特定された識別領域(S16)に基づいて前記緯糸(8)及び経糸(9)が主属性を有することを特定する工程と、
前記緯糸(8)及び経糸(9)が主属性を有することを特定する工程の追加又は代替として、前記主属性が細区分されたサブ属性の中で前記特定された識別領域(S15)の組織に予め関連付けられたサブ属性を特定する工程を含
み、
前記識別領域(S15,S16)は、前記ファスナーテープ(10)の幅方向において前記ファスナーテープ(10)が複数の領域に区分される時に含まれる1つの領域であり、かつ前記ファスナーテープの長手方向に長尺に延びる領域である、ファスナーテープの識別方法。
【請求項13】
前記主属性が環境配慮特性に関する、請求項12に記載のファスナーテープの識別方法。
【請求項14】
前記サブ属性と前記識別領域(S15,S16)の完全組織又は織パターンの対応表の参照に基づいて前記サブ属性が特定される、請求項12又は13に記載のファスナーテープの識別方法。
【請求項15】
互いに識別されるべきスライドファスナーのセットであって、
主属性を有する糸である緯糸(8)及び経糸(9)から織成される一対の第1ファスナーテープを有する第1スライドファスナーと、
前記主属性を有する糸である緯糸(8)及び経糸(9)から織成される一対の第2ファスナーテープを有する第2スライドファスナーを含み、
前記第1及び第2ファスナーテープそれぞれは、
ファスナーテープ幅(W10)を画定するべく前記ファスナーテープの長手方向に沿って延びる第1及び第2側縁(11,12)と、
前記第1及び第2側縁(11,12)の間に設けられるテープ主体部(13)を含み、
前記テープ主体部(13)は、隣接配置された複数の経糸(9)と前記緯糸(8)の交差により織成された識別領域(S15,S16)を含み、
前記識別領域(S15,S16)は、前記ファスナーテープ幅(W10)の全幅の一部を占める幅であり、かつ前記隣接配置された前記経糸(9)の本数に応じた幅の識別領域幅を有し、
前記識別領域(S15,S16)は、前記ファスナーテープ(10)の幅方向において前記ファスナーテープ(10)が複数の領域に区分される時に含まれる1つの領域であり、かつ前記ファスナーテープの長手方向に長尺に延びる領域であり、
前記第1ファスナーテープの前記識別領域(S15,S16)の組織は、前記緯糸(8)及び経糸(9)が前記主属性を有することを示すように構成され、及び/又は、前記主属性が細区分されたサブ属性に含まれる第1サブ属性に関連付けられ、
前記第2ファスナーテープの前記識別領域(S15,S16)の組織は、前記緯糸(8)及び経糸(9)が前記主属性を有することを示すように構成され、及び/又は、前記主属性が細区分されたサブ属性に含まれる第2サブ属性に関連付けられる、スライドファスナーのセット。
【請求項16】
前記第1ファスナーテープの前記識別領域(S15)の完全組織又は織パターンは、前記主属性が細区分されたサブ属性に含まれる第1サブ属性に関連付けられ、
前記第2ファスナーテープの前記識別領域(S15,S16)の完全組織又は織パターンは、前記主属性が細区分されたサブ属性に含まれる第2サブ属性に関連付けられる、請求項15に記載のスライドファスナーのセット。
【請求項17】
主属性を有する糸から織成されるファスナーテープ(10)の製造方法であって、
前記主属性を有する第1糸を第1設定の自動織機に供給して第1ファスナーテープを織成する工程にして、前記第1設定に応じた第1識別領域が前記第1ファスナーテープに形成され
、前記第1識別領域は、前記第1ファスナーテープの幅方向において前記第1ファスナーテープが複数の領域に区分される時に含まれる1つの領域であり、かつ前記第1ファスナーテープの長手方向に長尺に延びる領域である、工程と、
前記主属性を有する第2糸を第2設定の自動織機に供給して第2ファスナーテープを織成する工程にして、前記第2設定に応じた第2識別領域が前記第2ファスナーテープに形成され
、前記第2識別領域は、前記第2ファスナーテープの幅方向において前記第2ファスナーテープが複数の領域に区分される時に含まれる1つの領域であり、かつ前記第2ファスナーテープの長手方向に長尺に延びる領域である、工程を含み、
前記第1識別領域の組織は、前記第1糸が前記主属性を有することを示すように構成され、及び/又は、前記主属性が細区分されたサブ属性に含まれる第1サブ属性に関連付けられ、
前記第2識別領域は、前記第2糸が前記主属性を有することを示すように構成され、及び/又は、前記主属性が細区分されたサブ属性に含まれる第2サブ属性に関連付けられる、ファスナーテープの製造方法。
【請求項18】
前記主属性が細区分されたサブ属性とファスナーテープ(10)の識別領域(S15)の組織の対応関係を表わす対応表に基づいて、前記第1識別領域の組織から前記第1サブ属性を特定可能であり、
前記対応表に基づいて、前記第2識別領域の組織から前記第2サブ属性を特定可能である、請求項17に記載のファスナーテープの製造方法。
【請求項19】
前記自動織機の第1及び第2設定は、前記自動織機における第1及び第2カムパターンに対応する、請求項17又は18に記載のファスナーテープの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ファスナーテープ、その識別方法、及びその製造方法、並びにスライドファスナーのセットに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1,2に開示のようにリサイクル可能なスライドファスナーを提供することが望まれる場合がある。特許文献1の段落0021には、「リサイクル製品とそうでない製品との分別回収を容易にするために、適当な識別手段をリサイクル製品に付することができる。例えば、文字、記号、バーコード等の視覚的に識別できる表示をスライダーや開離嵌挿具に刻印したり、ファスナーテープ、又はスライドファスナーを装着する製品に印刷したりすることができる。」と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平10-243805号公報
【文献】国際公開第2017/168731号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、自然環境に配慮した原料で紡糸された糸で織成されたファスナーテープ、いわば環境配慮型ファスナーテープを用いたスライドファスナーの需要が高まっている。これに関して、糸に関する情報(例えば、環境配慮特性を有する原料の使用の有無、環境配慮特性を有する原料の種類、糸の供給元、トレーサビリティ、認証の有無、認証の種類、認証機関など)をスライドファスナーの顧客及び消費者に開示・提供することが望まれる場合がある。
【0005】
具体例を挙げれば、現在、リサイクル原料を使用した糸であることを認証する複数の認証機関が存在する。しかしながら、複数の認証機関のうち何れの認証機関の認証を受けた糸から織成されたものであるかをファスナーテープの目視により識別することは容易ではない。ファスナーテープの糸の原料(例えば、生分解性原料、植物由来原料、又は再利用原料)についても同様である。糸を分析する(例えば、分光分析する)としても、認証の有無の判別や、バージン原料と再生原料の区別は容易ではない。従って、スライドファスナーの製造段階、及びスライドファスナーの出荷後においてファスナーテープの糸に関する情報を追跡管理することは容易ではない。
【0006】
上述の説明から理解されるように、本願発明者は、ファスナーテープの糸の主属性(例えば、環境配慮特性を有する糸の使用)の有無、又は主属性が細区分されたサブ属性(例えば、認証、製造社、又は原料)の識別を可能とするファスナーテープを提供する意義を新たに見出した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様に係るファスナーテープは、主属性を有する糸である緯糸及び経糸から織成されるファスナーテープである。ファスナーテープは、ファスナーテープ幅を画定するべくファスナーテープの長手方向に沿って延びる第1及び第2側縁と、第1及び第2側縁の間に設けられるテープ主体部を含む。テープ主体部は、複数の経糸と緯糸の交差により織成された識別領域を含む。識別領域は、ファスナーテープ幅の全幅の一部を占める幅であり、かつ複数の経糸の本数に応じた幅の識別領域幅を有する。識別領域の組織は、緯糸及び経糸が主属性を有することの識別を可能とするように構成され、及び/又は、主属性が細区分されたサブ属性の識別を可能とするように構成される。
【0008】
幾つかの形態では、識別領域の完全組織は、主属性が細区分されたサブ属性の識別を可能とするように構成される。幾つかの形態では、識別領域の織パターンは、主属性が細区分されたサブ属性の識別を可能とするように構成され得る。
【0009】
幾つかの形態では、主属性が環境配慮特性に関する。環境配慮特性は、リサイクル材料の使用、生分解性材料の使用又は植物由来材料の使用のいずれか又はこれらの組み合わせに関し得る。
【0010】
幾つかの形態では、主属性が細区分されたサブ属性の識別を可能とするように構成された識別領域の組織は、非経畝組織である。幾つかの形態では、緯糸及び経糸が主属性を有することの識別を可能とするように構成された識別領域の組織は、経畝組織である。幾つかの形態では、識別領域は、緯糸及び経糸が主属性を有することの識別を可能とするように織成された第1識別領域と、主属性が細区分されたサブ属性の識別を可能とするように織成された第2識別領域を含む。第1識別領域と第2識別領域は緯方向で隣接して配置され得る。
【0011】
幾つかの形態では、ファスナーテープの第1側縁よりもファスナーテープ外方に係合頭部が位置付けられるようにファスナーエレメントが設けられ、識別領域は、ファスナーテープの第1側縁と比べて第2側縁の近くに設けられる。幾つかの形態では、テープ主体部において、ファスナーテープの第1側縁から識別領域に向かって、エレメント取付領域と、エレメント取付領域と識別領域の間に設けられた中間領域が設けられる。識別領域幅は、同方向における中間領域の幅よりも小さい。幾つかの形態では、テープ主体部において、ファスナーテープの第1側縁から第2側縁に向かって、中間領域及び識別領域が隣接して設けられる。中間領域及び識別領域の両方において、各経糸は、経方向に隣接した2つの緯糸部分ペアを跨ぐことを繰り返す。
【0012】
本開示の一態様に係るファスナーテープの識別方法は、緯糸及び経糸から織成されるファスナーテープの識別方法である。この識別方法は、ファスナーテープに含まれる1以上の識別領域を特定する工程にして、識別領域は、複数の経糸と緯糸の交差により織成される、工程と、特定された識別領域に基づいて緯糸及び経糸が主属性を有することを特定する工程と、緯糸及び経糸が主属性を有することを特定する工程の追加又は代替として、主属性が細区分されたサブ属性の中で特定された識別領域の組織に予め関連付けられたサブ属性を特定する工程を含む。ファスナーテープの識別に基づいてスライドファスナーを識別することもできる。つまり、第1スライドファスナーの第1ファスナーテープについて識別方法を実施し、第2スライドファスナーの第2ファスナーテープについて識別方法を実施し、これらの識別方法の実施に基づいて第1及び第2スライドファスナーを識別することができる。ファスナーテープに関する個々の特徴は、本識別方法にも通用する。
【0013】
幾つかの形態では、サブ属性と識別領域の完全組織又は織パターンの対応表の参照に基づいてサブ属性が特定される。
【0014】
本開示の一態様に係るスライドファスナーのセットは、互いに識別されるべきスライドファスナーのセットである。このセットは、主属性を有する糸である緯糸及び経糸から織成される一対の第1ファスナーテープを有する第1スライドファスナーと、主属性を有する糸である緯糸及び経糸から織成される一対の第2ファスナーテープを有する第2スライドファスナーを含む。第1及び第2ファスナーテープそれぞれは、ファスナーテープ幅を画定するべくファスナーテープの長手方向に沿って延びる第1及び第2側縁と、第1及び第2側縁の間に設けられるテープ主体部を含む。テープ主体部は、隣接配置された複数の経糸と緯糸の交差により織成された識別領域を含む。識別領域は、ファスナーテープ幅の全幅の一部を占める幅であり、かつ隣接配置された経糸の本数に応じた幅の識別領域幅を有する。第1ファスナーテープの識別領域の組織は、緯糸及び経糸が主属性を有することを示すように構成され、及び/又は、主属性が細区分されたサブ属性に含まれる第1サブ属性に関連付けられる。第2ファスナーテープの識別領域の組織は、緯糸及び経糸が主属性を有することを示すように構成され、及び/又は、主属性が細区分されたサブ属性に含まれる第2サブ属性に関連付けられる。
【0015】
幾つかの形態では、第1ファスナーテープの識別領域の完全組織又は織パターンは、主属性が細区分されたサブ属性に含まれる第1サブ属性に関連付けられる。第2ファスナーテープの識別領域の完全組織又は織パターンは、主属性が細区分されたサブ属性に含まれる第2サブ属性に関連付けられる。
【0016】
本開示の一態様に係るファスナーテープの製造方法は、主属性を有する糸から織成されるファスナーテープの製造方法に関する。この方法は、主属性を有する第1糸を第1設定の自動織機に供給して第1ファスナーテープを織成する工程にして、第1設定に応じた第1識別領域が第1ファスナーテープに形成される、工程と、主属性を有する第2糸を第2設定の自動織機に供給して第2ファスナーテープを織成する工程にして、第2設定に応じた第2識別領域が第2ファスナーテープに形成される、工程を含む。第1識別領域の組織は、第1糸が主属性を有することを示すように構成され、及び/又は、主属性が細区分されたサブ属性に含まれる第1サブ属性に関連付けられる。第2識別領域は、第2糸が主属性を有することを示すように構成され、及び/又は、主属性が細区分されたサブ属性に含まれる第2サブ属性に関連付けられる。
【0017】
幾つかの形態では、主属性が細区分されたサブ属性とファスナーテープの識別領域の組織の対応関係を表わす対応表に基づいて、第1識別領域の組織から第1サブ属性を特定可能であり、対応表に基づいて、第2識別領域の組織から第2サブ属性を特定可能である。幾つかの形態では、自動織機の第1及び第2設定は、自動織機における第1及び第2カムパターンに対応する。
【発明の効果】
【0018】
本開示の一態様によれば、ファスナーテープの糸の主属性(例えば、環境配慮特性を有する糸の使用)の有無、又は主属性が細区分されたサブ属性(例えば、認証、製造社、又は原料)の識別を可能とするファスナーテープを提供することが促進される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本開示の一態様に係るスライドファスナーの概略的な上面図である。
【
図2】スライダー内で結合した左右のファスナーエレメントを示す概略的な模式図である。
【
図3】ファスナーテープが複数の組織領域に区分されることを示す概略的な模式図である。
【
図4】経糸と緯糸が主属性を有することを示す識別領域と、第1の実施例に係る認証に関連付けられた完全組織を有する識別領域が設けられたファスナーテープのテープ主体部の組織図である。
【
図5】第1の実施例に係る認証に関連付けられた完全組織を示す組織図である。
【
図6】識別領域及びその左右両側の組織領域を示すファスナーテープの部分図である。
【
図7】経糸と緯糸が主属性を有することを示す識別領域と、第2の実施例に係る認証に関連付けられた完全組織を有する識別領域が設けられたファスナーテープのテープ主体部の組織図である。
【
図8】
図8(a)は、第2の実施例に係る認証に関連付けられた完全組織を示す組織図である。
図8(b)は、完全組織が
図5に示した完全組織からの誘導組織であることを示す模式図である。
【
図9】経糸と緯糸が主属性を有することを示す識別領域と、第3の実施例に係る認証に関連付けられた完全組織を有する識別領域が設けられたファスナーテープのテープ主体部の組織図である。
【
図10】第3の実施例に係る認証に関連付けられた完全組織を示す組織図である。
【
図11】識別領域の完全組織のバリエーションを示す。
【
図12】識別領域の完全組織のバリエーションを示す。
【
図13】識別領域の完全組織のバリエーションを示す。
【
図14】ファスナーテープの製造方法を示す概略的なフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、
図1乃至
図14を参照しつつ、様々な実施形態及び特徴について説明する。当業者は、過剰説明を要せず、各実施形態及び/又は各特徴を組み合わせることができ、この組み合わせによる相乗効果も理解可能である。実施形態間の重複説明は、原則的に省略する。参照図面は、発明の記述を主たる目的とするものであり、作図の便宜のために簡略化されている。各特徴は、本願に開示されたファスナーテープ、その識別方法、及びその製造方法にのみ有効であるものではなく、本明細書に開示されていない他の様々なファスナーテープ、その識別方法、及びその製造方法にも通用する普遍的な特徴として理解される。
【0021】
以下、前後方向がスライダーの移動方向に即して理解され、スライダーの前進によりスライドファスナーが閉じられ、スライダーの後進によりスライドファスナーが開けられる。左右方向及び上下方向は、前後方向に直交する。左右方向は、ファスナーテープのテープ面に平行な方向である。上下方向は、ファスナーテープのテープ面に垂直な方向である。これらの方向を示す用語は、後続の記述に照らして、再定義可能であるものとする。
【0022】
スライドファスナー1は、左右一対のファスナーストリンガー30と、左右一対のファスナーストリンガー30を開閉するためのスライダー40を有する。スライドファスナー1は、衣類、靴、鞄、寝具、アウトドア用品、ウェットスーツといった様々な用途に用いられる。図示しないものの、スライドファスナー1が隠しスライドファスナーである形態も想定され、後述の特徴がそのまま通用する。
【0023】
各ファスナーストリンガー30は、ファスナーテープ10とファスナーエレメント20を有する。ファスナーテープ10は、柔軟性のある布地であり、主属性を有する糸である緯糸8及び経糸9(
図6参照)から織成される。ファスナーテープ10は、左右方向の長さであるファスナーテープ幅W10を画定するべくファスナーテープの長手方向(前後方向)に沿って延びる第1及び第2側縁11,12と、第1及び第2側縁11,12の間に設けられるテープ主体部13を含む。
【0024】
ファスナーエレメント20は、ファスナーテープ10の長手方向に沿ってモノフィラメントがらせん状に延びたコイル状エレメントであり、ファスナーテープ10のテープ上面に縫い糸により縫い付けられる。ファスナーエレメント20がファスナーテープ10の組織領域に組み込まれる形態も想定される。更には、ファスナーエレメント20が、ファスナーテープ10の長手方向に沿って一定間隔で設けられる金属又は樹脂エレメントである形態も想定される。
【0025】
ファスナーエレメント20は、下脚部21、上脚部22、係合頭部23および反転部24の連続により構築される。下脚部21がファスナーテープ10の上面に載置され、上脚部22がファスナーテープ10の上面から離間して位置付けられる。係合頭部23は、ファスナーテープ10の上面外、すなわち、ファスナーテープ10の第1側縁11よりもファスナーテープ外方に位置付けられる。なお、ファスナーテープ外方は、ファスナーテープの上面又は下面上の位置又は点からファスナーテープの上面又は下面外の位置又は点に向かう方向である。ファスナーテープ内方は、ファスナーテープ外方の反対側に向かう方向である。
【0026】
係合頭部23は、上下方向に延びて下脚部21と上脚部22の各端部(ファスナーテープ外方の端部)を連結する。係合頭部23は、下脚部21及び上脚部22と比較して、モノフィラメントの幅(前後方向の幅)が拡大された部分である。反転部24は、モノフィラメントがらせん状に構築されるように下脚部21と上脚部22の各端部(ファスナーテープ内方の端部)を連結する。反転部24は、係合頭部23のように前後幅が拡大されていない。オプションとして、ファスナーテープ10の長手方向に沿って延びる芯紐29がモノフィラメントのらせん体の内部に設けられる。
【0027】
スライダー40は、下翼板41、上翼板42、連結柱(不図示)、引手取り付け柱43、及び引手44を有する。スライダー40は、連結柱により分岐されたY字状のエレメント通路を有する。連結柱を挟むように左右の前口が設けられ、また、前後方向において前口の反対側に一つの後口が設けられる。スライダー40が後進する時、左右の結合したファスナーエレメント20がスライダー40内にその後口を介して進入する。続いて、左右の結合したファスナーエレメント20が連結柱により分割され、左右のファスナーエレメント20が左右の前口を介してスライダー40外に出る。スライダー40は、樹脂製又は金属製であり得る。
【0028】
図3に示すように、ファスナーテープ10は、左右方向において複数の領域に区分される。例えば、ファスナーテープ10は、平織領域S14、識別領域S15、識別領域S16、中間領域S17、平織組織S18、及びエレメント配置領域S19に区分される。平織領域S14、識別領域S15、識別領域S16、中間領域S17、平織組織S18、及びエレメント配置領域S19は、主属性を有する糸である緯糸8及び経糸9から構成される。平織領域S14が省略され、識別領域S15の側縁がファスナーテープ10の第2側縁12に一致する形態も想定される。識別領域S15,S16の区別のため、識別領域S16を主識別領域と呼ぶ、識別領域S15をサブ識別領域と呼ぶこともできる。
【0029】
糸の主属性は、ヒトの視覚では認知が容易ではない又は現実的に不可能な属性であり、必ずしもこの限りではないが、環境配慮特性が例示できる。環境配慮特性は、(i)糸が、リサイクル材料で紡糸されたものである、(ii)糸が、生分解性を有する材料で紡糸されたものである、(iii)糸が、植物由来の原料で紡糸されたものである、といった特性のいずれか1つ又はこれらの任意の組み合わせに関する。環境配慮特性は、糸に関する認証、糸の供給元、糸の原料といったサブ属性に細区分可能である。糸の認証としてGRS(Global Recycle Standard)が例示される。糸の材料として、ナイロン、ポリアミド、ポリエステル、ポリウレタンといった合成繊維や、綿、羊毛、絹といった天然繊維が例示される。
【0030】
本実施形態においては、識別領域S16の組織は、緯糸8及び経糸9が主属性を有することの識別を可能とするように構成される。緯糸8及び経糸9が主属性を有することを示す指標として識別領域S16の組織が用いられる。緯糸8及び経糸9が主属性を有することと識別領域S16の組織は、予め関連づけられている。緯糸8及び経糸9が主属性を有することと識別領域S16の組織の事前の対応関係に基づいて、識別領域S16の組織は、緯糸8及び経糸9が主属性を有することを示すとも言える。
【0031】
識別領域S16の組織は、緯糸8及び経糸9が主属性を有することを示す指標であって、幾つかの場合、ヒトの視覚又は触覚でファスナーテープ10上の特徴部として認識可能である。例えば、識別領域S16の組織が経畝組織である場合、ヒトは、ファスナーテープ10の第1側縁11と第2側縁12の間において経方向に延びる畝を容易に視覚又は触覚で認識できる。これによって、ファスナーテープ10が織成された後、又は、スライドファスナー1として販売された後、ファスナーテープ10の識別領域S16の存在に基づいてファスナーテープ10の経糸及び/又は緯糸として用いられた糸が主属性(例えば、環境配慮特性)を有することを特定することができる。ファスナーテープ10に識別領域S16が設けられていなければ、そのファスナーテープ10は、主属性(例えば、環境配慮特性)を有しないものと特定することができる。複数の識別領域S16を設ける形態も想定される。例えば、経方向に平行に延びる2以上の畝が識別領域S16として用いられ得る。
【0032】
緯糸8及び経糸9が主属性を有することの識別を可能とするように識別領域S16の組織が構成されるという上述の特徴の追加又は代替として、識別領域S15の組織は、主属性が細区分されたサブ属性の識別を可能とするように構成される。換言すれば、サブ属性の指標として識別領域S15が用いられる。識別領域S15の組織は、主属性が細区分されたサブ属性に予め関連付けられた組織である。サブ属性と識別領域S15の組織の事前の対応関係に基づいて、識別領域S15の組織からこれに予め関連づけられたサブ属性を特定することができる。
【0033】
必ずしもこの限りではないが、主属性が細区分されたサブ属性に識別領域S15の「完全組織(weave repeat)」が予め関連付けられる。例えば、第1ファスナーテープの識別領域S15の完全組織は、主属性が細区分されたサブ属性に含まれる第1サブ属性に関連付けられ、第2ファスナーテープの識別領域S15の完全組織は、主属性が細区分されたサブ属性に含まれる第2サブ属性に関連付けられる。これによって、ファスナーテープ10が織成された後、又は、スライドファスナー1として販売された後、ファスナーテープ10の識別領域S15の完全組織を特定することによってファスナーテープ10の経糸及び/又は緯糸として用いられた糸のサブ属性を特定することができる。
【0034】
サブ属性と識別領域S15の組織(例えば、完全組織)の対応表を参照することが有利である。典型的な場合、主属性が細区分されたサブ属性に対して一対一の関係で識別領域S15の完全組織が関連付けられる。なお、識別領域S15の完全組織は、拡大光学系、例えば、顕微鏡や撮像装置を介してヒト又は画像認識装置により観察され得る。本分野にて知られているように、完全組織は、テープ組織における織パターンの最小の繰り返し単位を意味する。完全組織の経及び/又は緯方向の繰り返しによりテープ組織が構成される。なお、識別領域S15は、必ずしも完全組織の繰り返しに限られるものではなく、他の領域とは異なる織パターンに基づいて特定の属性と関連づけられるものであれば良い。
【0035】
既知の主属性及びサブ属性を有する糸を自動織機に供給してファスナーテープが織成される。自動織機の設定は、自動織機に供給される糸の主属性及びサブ属性に基づいて決定される。例えば、自動織機の第1設定に応じて第1ファスナーテープに第1識別領域が形成され、自動織機の第2設定に応じて第2ファスナーテープに第2識別領域が形成される。ここで、第1識別領域の組織は、緯糸8及び経糸9が主属性を有することを示すように構成され、及び/又は、主属性が細区分されたサブ属性に含まれる第1サブ属性に関連付けられる。第2識別領域の組織は、緯糸8及び経糸9が主属性を有することを示すように構成され、及び/又は、主属性が細区分されたサブ属性に含まれる第2サブ属性に関連付けられる。識別領域に基づいて、ファスナーテープが主属性を有することを特定し、及び/又は、識別領域に関連づけられたサブ属性を特定することができる。必ずしもこの限りではないが、第1ファスナーテープの識別領域の完全組織は、主属性が細区分されたサブ属性に含まれる第1サブ属性に関連付けられる。第2ファスナーテープの識別領域の完全組織は、主属性が細区分されたサブ属性に含まれる第2サブ属性に関連付けられる。ファスナーテープ10の識別領域の完全組織の特定に基づいて、この完全組織に予め関連付けられたサブ属性を特定することができる。
【0036】
限定の意図なく述べれば、主属性が環境配慮特性に関する場合、環境配慮特性は、認証機関が発行する認証毎に細区分することができる。識別領域S15の完全組織を特定することにより、この特定された完全組織に予め関連付けられた認証を特定することができる。環境配慮特性が、材料毎に細区分される場合も同様に理解することができる。ファスナーテープ10の識別領域S15の完全組織は、識別表示の刻印や印刷とは異なり、剥離や劣化によって特定不能にならないことが見込まれる。刻印や印刷といった方法で識別表示を付与する場合、識別表示の剥離や劣化によって識別不能になるおそれを排除できない。また、識別表示が目立ってしまい、商品の美感が損なわれるというデメリットがある。
【0037】
上述の特徴について、
図4乃至
図10を参照して、より具体的に説明する。
図4は、経糸と緯糸が主属性を有することを示す識別領域と、第1の実施例に係る認証に関連付けられた完全組織を有する識別領域が設けられたファスナーテープのテープ主体部の組織図である。
図5は、第1の実施例に係る認証に関連付けられた完全組織を示す組織図である。
図6は、識別領域及びその左右両側の領域を示すファスナーテープの部分図である。
図7は、経糸と緯糸が主属性を有することを示す識別領域と、第2の実施例に係る認証に関連付けられた完全組織を有する識別領域が設けられたファスナーテープのテープ主体部の組織図である。
図8(a)は、第2の実施例に係る認証に関連付けられた完全組織を示す組織図である。
図8(b)は、完全組織が
図5に示した完全組織からの誘導組織であることを示す模式図である。
図9は、経糸と緯糸が主属性を有することを示す識別領域と、第3の実施例に係る認証に関連付けられた完全組織を有する識別領域が設けられたファスナーテープのテープ主体部の組織図である。
図10は、第3の実施例に係る認証に関連付けられた完全組織を示す組織図である。
【0038】
第1の認証が付与された糸を自動織機に供給すると、自動織機の第1設定(第1カムパターン)に応じて
図4に示すようなファスナーテープ10の組織が構築される(
図4は、ファスナーテープ10の全幅における完全組織を示す)。識別領域S16は、合計4本の経糸に対応する畝幅を有する経畝組織であり、経糸と緯糸が主属性を有することを示す。識別領域S15の完全組織は、
図5に示す通りの綾織組織の誘導組織であり、ファスナーテープ10が第1の認証が付与された糸で織成されたものであることを示す。
図5に示す綾織組織の誘導組織において、各経糸は、経方向に隣接した2つの緯糸部分ペアを跨ぐことを繰り返す。
【0039】
図4及び
図5に関して補足すれば、本分野で周知のように、組織図における塗潰セルは、経糸が緯糸の上方を跨ぐ、いわば、緯糸に対して縦糸が「浮いた」状態を示す。組織図における空白セルは、経糸が緯糸の下方を跨ぐ、いわば、緯糸に対して縦糸が「沈んだ」状態を示す。この点は、
図4及び
図6の比較からより具体的に理解される。
図6から理解できるように、各経糸は、経方向(前後方向)に隣接した緯糸部分のペアの上方又は下方を跨ぐ。経方向(前後方向)に隣接した緯糸部分のペアが、経糸により跨がれる緯糸の単位であるが、必ずしもこの限りではない。緯糸は、緯方向(左右方向)におけるシャトルの往復運動に応じて構築される。従って、各経糸が、緯方向に延びる一つの緯糸部分の上方又は下方を跨ぐ形態も想定される。
【0040】
識別領域S15は、識別領域S15の完全組織が経方向に連続配置されたものであり、緯方向に連続配置されたものではなく、識別領域S15における完全組織の特定が容易である。識別領域S15の完全組織に含まれる経糸及び緯糸の本数が増加すれば、その完全組織のバリエーションの数が増加する。しかしながら、識別領域S15の完全組織が広すぎると、その認識が容易ではなくなる場合もある。幾つかの場合、識別領域S15の完全組織に含まれる経糸9の本数は、3本以上であり、また10本以下である。好適には、識別領域S15の完全組織に含まれる経糸9の本数は、9本以下、又は8本以下、又は7本以下、又は6本以下である。このような経糸の本数において、識別領域S15の完全組織は、必要十分数のバリエーションを持つことができる。換言すれば、識別領域S15の完全組織は、必要十分数の2次元コードを表わすことができる。
【0041】
識別領域S15又はその完全組織の特定の促進のため、識別領域S15は、それに隣接する一方又は両方の領域とは見た目で異なる組織により構成される。
図4に示すように、識別領域S15の左右両側には、平織領域S14と、経畝領域として構成された識別領域S16が存在し、識別領域S15の範囲を肉眼又は顕微鏡で容易に観察することができる。識別領域S16の経畝組織は、平織組織の誘導組織である。平織領域では、経糸は、1ペアの緯糸部分を跨ぐが、経畝領域では、経糸は、2ペアの緯糸部分を跨ぐ。縦畝領域は、肉眼では経方向(前後方向)に延びる畝に見える。上述のように、幾つかの場合、縦畝領域は、ファスナーテープ10の経糸及び緯糸が主属性(例えば、環境配慮特性)を有するか否かを識別するために意図的に設けられる。
【0042】
図4に示すように、識別領域S15は、ファスナーテープ10の第1側縁11と比べて第2側縁12の近くに設けられる。好適には、第2側縁12と識別領域S15の間に平織領域S14が設けられ、平織領域S14の一側縁が、ファスナーテープ10の第2側縁12に一致する。これにより、エレメント配置領域S19から識別領域S15を離間して配置することができ、スライドファスナーの開閉動作に対して識別領域S15が与える影響を僅かなものにすることができる。
【0043】
図4に示すように、識別領域S15,S16が緯方向(左右方向)で隣接して配置されるが、これに限られるべきではない。
図4に図示のものとは異なり、左右方向において識別領域S15,S16が反対に設けられる形態も想定される。すなわち、識別領域S16が識別領域S15よりもファスナーテープ10の第2側縁12の近くに配置され、識別領域S15が識別領域S16よりもファスナーテープ10の第1側縁11の近くに配置され得る。識別領域S16と識別領域S15の間に、識別領域S16が識別領域S15の各組織とは異なる組織の中間領域が設けられる形態も想定される。
【0044】
中間領域S17、平織組織S18、及びエレメント配置領域S19の各組織は、当業者によって適切に構成される。
図4に示す場合、中間領域S17は、3つの綾織領域で構築される。平織組織S18は、3本の経糸に応じた狭幅領域であり、スライダーのフランジとの接触に耐えるべく設けられる。エレメント配置領域S19は、平織組織の誘導組織である。なお、当業者には明らかであるが、第1側縁11や第2側縁12において緯糸の反転部が連続的に形成されている。緯方向(左右方向)において識別領域S15の幅は、中間領域S17の幅よりも狭い。このため、ファスナーテープ10の全体の美観に影響を与えず、簡便に識別ができる。好ましくは、第1の実施例では、テープ主体部13は、経畝領域S16を有し、ファスナーテープ10の第1側縁11から第2側縁12に向かって、中間領域S17、経畝領域S16、及び識別領域S15が連続して設けられる。識別領域S15、経畝領域S16、及び中間領域S17において、各領域に含まれる各経糸は、経方向に隣接した2つの緯糸部分ペアを跨ぐことを繰り返す。これによって、織機のカムパターンが無駄に増加し、その管理負担ないしは製造コストが増加してしまうことを抑制することができる。
【0045】
第2の実施例では、第2の認証が付与された糸を自動織機に供給すると、自動織機の第2設定(第2カムパターン)に応じて
図7に示すようなファスナーテープ10の組織が構築される(
図7は、ファスナーテープ10の全幅における完全組織を示す)。識別領域S16は、合計4本の経糸に対応する畝幅を有する経畝組織であり、経糸と緯糸が主属性を有することを示す。
図7のファスナーテープ10は、
図4のものと比較して、識別領域S15の組織が異なる。
図7のファスナーテープ10の識別領域S15の完全組織は、
図5に示した完全組織からの誘導組織(同じく綾織組織の誘導組織)であり、ファスナーテープ10が第2の認証が付与された糸で織成されたものであることを示す。
【0046】
図8(b)から理解されるように、行R1-R8、列C1-C6の完全組織において、座標(R2,C3)のセルの代替として座標(R4,C3)のセルが塗潰され、座標(R6,C3)のセルの代替として座標(R8,C3)のセルが塗潰され、座標(R4,C4)のセルの代替として座標(R2,C4)のセルが塗潰され、座標(R8,C4)のセルの代替として座標(R6,C4)のセルが塗潰される。
図8(a)の完全組織は、
図5の完全組織と比較して、4つの塗潰セルの位置が変更された誘導組織、言わば亜種である。幾つかの場合、塗潰セルの位置変更の代替又は追加として、塗潰セルの追加、削除が行われる。このような塗潰セルの操作の代替又は追加として、空白セルに対する操作も可能である。必ずしもこの限りではないが、幾つかの場合、セル操作の前後において塗潰セルの個数に変化がなく、組織の一定の強靱さや柔軟性の確保が促進される。
【0047】
第3の実施例では、第3の認証が付与された糸を自動織機に供給すると、自動織機の第3設定(第3カムパターン)に応じて
図9に示すようなファスナーテープ10の組織が構築される(
図9は、ファスナーテープ10の全幅における完全組織を示す)。識別領域S16は、合計4本の経糸に対応する畝幅を有する経畝組織であり、経糸と緯糸が主属性を有することを示す。
図9のファスナーテープ10は、
図4及び
図7のものと比較して、識別領域S15の組織が異なる。
図9に示すファスナーテープ10の識別領域S15の完全組織は、
図5に示した完全組織からの誘導組織(同じく綾織組織の誘導組織)であり、ファスナーテープ10が第3の認証が付与された糸で織成されたものであることを示す。
図10から解るように、識別領域S15の完全組織は、列C3と列C4の境界にて
図5の完全組織が左右反転したものに等しい。
【0048】
繰り返すが、本実施形態では、識別領域S15の完全組織は、主属性が細区分されたサブ属性の識別を可能とする。例えば、拡大光学系を介してファスナーテープ10に含まれる識別領域S15の完全組織を観察してその完全組織を特定することができる。特定された識別領域が、
図5、
図8(a)、
図10のいずれのパターンを有するかを調べることによって、あるファスナーテープ10の経糸及び/又は緯糸として用いられた糸が、第1乃至第3のいずれの認証を受けたものか把握することができる。糸の原料や糸の供給元の識別についても同様に可能である。上述のように、予め、識別領域の完全組織とサブ属性が関連付けられ、その対応表、言わば、ルックアップテーブルが用意されている。
【0049】
スライドファスナーの製造に際して、また、スライドファスナーが出荷された後であっても、識別領域S15,S16に基づいて、そこに用いられた糸の主属性及び/又はサブ属性を特定可能である。ファスナーテープ10は、自動織機によって織成された後、様々な工程を経ることが予定されている。例えば、ファスナーエレメントが縫い付けられ、又は、染色工程に供給され、又は、スライドファスナーの組み立て機に供給される。多種のファスナーテープ10が同一の装置(例えば、スライドファスナーの組み立て機)で取り扱われることもある。したがって、スライドファスナーを出荷する時点において、製造したスライドファスナーがどの認証を受けたものであるのか特定可能とすることは製造管理上、有利である。特には、環境配慮特性の有無といった二分類ではなく、環境配慮特性に関する認証種の多分類が望まれる場合、二次元コードとして機能する識別領域の完全組織に基づく識別・追跡が有利である。
【0050】
二次元コードとして機能する完全組織は、平織組織又は平織組織からの誘導組織、綾織組織又は綾織組織からの誘導組織、朱子組織又は朱子組織からの誘導組織といった様々な形態を取ることができ、現在のサブ属性の数に拘束されず、将来のサブ属性の追加にも対応可能である。また、識別領域S15は、ファスナーテープ10の他の領域と同様の見た目を有し、識別印の刻印や印刷のようにファスナーテープ10の外観に変化を与えない。有利には、完全組織は、非経畝及び非緯畝組織であり、これにより限られた面積において二次元コードのバリエーションを確保することができる。
【0051】
環境配慮特性の細区分に応じたサブ属性例として、認識機関ごとの区分、糸の原料ごとの区分、糸の供給元ごとの区分を示したが、これに限定されない。型番、製造時期、製造工場の所在地等の情報を区分することもできる。また、糸が生分解性であるという主属性に関して、第1サブ属性が、5年以内の分解を保証し、第2サブ属性が、5年~10年の分解を保証し、第3サブ属性が、10年を超える期間での分解を保証する形態も想定される。
【0052】
なお、識別領域S15は、それに隣接する一方又は両方の領域とは見た目で異なる組織により構成されていればよい。例えば、隣接領域の完全組織が、平織組織又は平織組織からの誘導組織を含む時、識別領域の完全組織は、綾織組織又は綾織組織からの誘導組織、若しくは朱子組織又は朱子組織からの誘導組織を含んでいてもよい。隣接領域の完全組織が、綾織組織又は綾織組織からの誘導組織を含む時、識別領域の完全組織は、平織組織又は平織組織からの誘導組織、若しくは朱子組織又は朱子組織からの誘導組織を含んでいてもよい。隣接領域の完全組織が、朱子組織又は朱子組織からの誘導組織を含む時、識別領域の完全組織は、平織組織又は平織組織からの誘導組織、若しくは綾織組織又は綾織組織からの誘導組織を含んでいてもよい。
【0053】
図11乃至
図13は、識別領域の完全組織のバリエーションを示す。
図11において、
図11(a)は、3行3列の完全組織が平織組織であることを示し、
図11(b)は、3行3列の完全組織が平織組織からの誘導組織であることを示し、
図11(c)は、3行3列の完全組織が平織組織からの誘導組織であることを示す。主属性が2つのサブ属性に細区分される場合、
図11(a)-(c)から選択される2つの完全組織が用いられ、
図11(a)の純粋な平織組織の使用は必須ではない。
【0054】
図12において、
図12(a)は、3行3列の完全組織が緯方向に延びる畝(行R1)とドット(R1,C1)の組み合わせから構成されることを示し、
図12(b)は、3行3列の完全組織が経方向に延びる畝(列C1)とドット(R3,C3)の組み合わせから構成されることを示し、
図12(c)は、3行3列の完全組織が緯方向に延びる畝(行R1)とドット(R2,C2)の組み合わせから構成されることを示す。畝とドットの組み合わせによっても複数種のパターンを得ることができる。
【0055】
図13は、完全組織を2つの領域に区分し、第1領域に第1の織種(例えば、平織組織又はこの誘導組織)を割り当て、第2領域に第2の織種(例えば、綾織組織又はこの誘導組織)を割り当てる形態を示す。完全組織の区分の仕方は様々であり、図示のような上下に二分割する態様に限定されない。3つ以上の領域に分割し、各領域に異なる組織を割り当てることもできる。このような方法によって識別領域S15の種類を増やし、識別可能なサブ属性数を増やすことができる。
【0056】
上述の説明から解るように、誘導化は、塗潰セルの追加、塗潰セルの削除、鏡像反転、異種組織との組み合わせといった様々な方法によって達成可能であり、当業者は、これらの開示を踏まえ、多数のバリエーションを理解できる。
【0057】
最後に、
図14を参照してファスナーテープ10の製造方法について説明する。まず、主属性が細区分されたサブ属性とファスナーテープ10の識別領域S15の完全組織の対応関係を表わす対応表(表1の対応表の例参照)を作成する(S101)。対応表は、次のように極シンプルなものである。対応表は、コンピューターにルックアップテーブルとして格納されることが想定される。ヒト又は画像認識装置は、このルックアップテーブルの参照に基づいて、完全組織から糸のサブ属性、例えば、認証を特定することができる。
【表1】
【0058】
次に、対応表に基づいて、自動織機をあるカムパターンに設定し、また、自動織機に糸(例えば、糸A)を供給する(S102)。自動織機の作動によって第1ファスナーテープが織成される(S103)。あるカムパターンに応じた第1識別領域(例えば、
図4に図示の識別領域S15及び/又はS16)が第1ファスナーテープに形成される。
【0059】
次に、対応表に基づいて、自動織機を別のカムパターンに設定し、また、自動織機に糸(例えば、糸B)を供給する(S104)。自動織機の作動によって第2ファスナーテープが織成される(S105)。別のカムパターンに応じた第2識別領域(例えば、
図7に図示の識別領域S15及び/又はS16)が第2ファスナーテープに形成される。第1ファスナーテープの織成と第2ファスナーテープの織成の順番は問わない。同一の自動織機が用いられる場合、第1ファスナーテープの織成と第2ファスナーテープの織成の間で自動織機の設定変更が行われる。有利には、ファスナーテープの識別領域S16に基づいてファスナーテープの糸が主属性(例えば、環境配慮特性)を有することを特定できる。追加又は代替として、対応表に基づいて、第1識別領域の完全組織(例えば、
図5)から第1糸のサブ属性(例えば、認証D)を特定可能である。同様に、対応表に基づいて、第2識別領域の完全組織(例えば、
図8(a))から第2糸のサブ属性(例えば、認証E)を特定可能である。これらの点は、上述の説明から明らかであり、重複説明は、省略する。第3識別領域の完全組織(例えば、
図10)から第3糸のサブ属性(例えば、認証F)を特定することもできる。
【0060】
緯糸8及び経糸9から織成されるファスナーテープ10の識別方法も本明細書には実質的に開示されている。本識別方法は、ファスナーテープ10に含まれる1以上の識別領域S15,S16を特定する工程と、特定された識別領域S15,S16に基づいて緯糸8及び経糸9が主属性を有することを特定する工程を含む。本方法は、緯糸8及び経糸9が主属性を有することを特定する工程の追加又は代替として、主属性が細区分されたサブ属性の中で特定された識別領域S15の組織に予め関連付けられたサブ属性を特定する工程を含むことができる。
【0061】
上述の教示を踏まえ、当業者は、各実施形態に対して様々な変更を加えることができる。請求の範囲に盛り込まれた符号は、参考のためであり、請求の範囲を限定解釈する目的で参照されるべきものではない。識別領域の完全組織が、経畝組織であり、経畝本数がサブ属性に関連付けられる形態も想定される。識別領域の完全組織が、緯畝組織であり、緯畝本数がサブ属性に関連付けられる形態も想定される。
【符号の説明】
【0062】
8 緯糸
9 経糸
10 ファスナーテープ
11 第1側縁
12 第2側縁
13 テープ主体部
14 識別領域