(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-18
(45)【発行日】2022-10-26
(54)【発明の名称】摩擦クラッチのプレッシャープレート装置
(51)【国際特許分類】
F16D 13/70 20060101AFI20221019BHJP
F16D 13/52 20060101ALI20221019BHJP
【FI】
F16D13/70 A
F16D13/52 D
(21)【出願番号】P 2021543367
(86)(22)【出願日】2020-09-25
(86)【国際出願番号】 JP2020036262
(87)【国際公開番号】W WO2022064635
(87)【国際公開日】2022-03-31
【審査請求日】2022-01-24
(73)【特許権者】
【識別番号】518281513
【氏名又は名称】有限会社T.P.P.
(74)【代理人】
【識別番号】100142217
【氏名又は名称】小笠原 宜紀
(72)【発明者】
【氏名】重松 健
【審査官】日下部 由泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-187476(JP,A)
【文献】特開2009-180350(JP,A)
【文献】実開昭64-11433(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 13/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
摩擦クラッチのクラッチディスク部と該クラッチディスク部に付与する弾力的な押圧力の発生源となるばね装置との間に設けられるプレッシャープレート装置であって、
前記ばね装置側に配置される輪状の一次押し板と、
前記一次押し板の軸線上に同心かつ該軸線方向に移動可能に設けられた、前記クラッチディスク部側に配置される輪状の二次押し板と、
前記一次押し板及び前記二次押し板の対向する側面の間に、前記軸線を中心とする一定の回転角度毎に配置され、前記軸線を中心とする放射方向にスライドすることができる複数の錘板とを備え、
前記一次押し板は、当該一次押し板の前記錘板側に形成された、前記二次押し板に近づくにつれ前記軸線から離れる方向に傾斜した内壁面を持つ第一の外周壁を備え、
前記二次押し板は、当該二次押し板の前記錘板側に形成された、直立した内壁面を持つ第二の外周壁を備え、
前記錘板は、前記第二の外周壁の直立した内壁面に当接可能な先端部係合面と、前記第一の外周壁の傾斜した内壁面に当接可能な先端部傾斜面とを備えることを特徴とする、摩擦クラッチのプレッシャープレート装置。
【請求項2】
摩擦クラッチのクラッチディスク部と該クラッチディスク部に付与する弾力的な押圧力の発生源となるばね装置との間に設けられるプレッシャープレート装置であって、
前記ばね装置側に配置される輪状の一次押し板と、
前記一次押し板の軸線上に同心かつ該軸線方向に移動可能に設けられた、前記クラッチディスク部側に配置される輪状の二次押し板と、
前記一次押し板及び前記二次押し板の対向する側面の間に、前記軸線を中心とする一定の回転角度毎に配置され、前記軸線を中心とする放射方向にスライドすることができる複数の錘板とを備え、
前記一次押し板は、当該一次押し板の前記錘板側に形成された、前記二次押し板に近づくにつれ前記軸線から離れる方向に傾斜した内壁面を持つ第一の外周壁を備え、
前記二次押し板は、当該二次押し板の前記錘板側に形成された第二の外周壁を備え、
前記錘板は、前記第一の外周壁の傾斜した内壁面に当接可能な先端部傾斜面を備え、
前記第一の外周壁が持つ内壁面は、前記軸線に平行する方向に対する傾斜角度が互いに異なると共に、前記傾斜角度が大きい順に前記一次押し板から前記二次押し板に向かって並ぶ複数の壁面部分からなり、
前記錘板の先端部傾斜面は、前記複数の壁面部分に対応する複数の斜面部分からなり、
前記複数の斜面部分は、前記軸線に平行する方向に対する傾斜角度が、前記複数の壁面部分のうちの対応する壁面部分の前記傾斜角度と同じであり、
前記複数の斜面部分の幅は、前記二次押し板に最も近い前記斜面部分を除いて前記対応する壁面部分の幅より狭いことを特徴とする、摩擦クラッチのプレッシャープレート装置。
【請求項3】
請求項2に記載の摩擦クラッチのプレッシャープレート装置であって、
前記第一の外周壁が持つ内壁面を構成する複数の壁面のうちの、前記一次押し板の側面から最も遠い壁面の前記傾斜角度は摩擦角度より小さいことを特徴とする摩擦クラッチのプレッシャープレート装置。
【請求項4】
摩擦クラッチのクラッチディスク部と該クラッチディスク部に付与する弾力的な押圧力の発生源となるばね装置との間に設けられるプレッシャープレート装置であって、
前記ばね装置側に配置される輪状の一次押し板と、
前記一次押し板の軸線上に同心かつ該軸線方向に移動可能に設けられた、前記クラッチディスク部側に配置される輪状の二次押し板と、
前記一次押し板及び前記二次押し板の対向する側面の間に、前記軸線を中心とする一定の回転角度毎に配置され、前記軸線を中心とする放射方向にスライドすることができる複数の錘板とを備え、
前記一次押し板は、当該一次押し板の前記錘板側に形成された、前記二次押し板に近づくにつれ前記軸線から離れる方向に傾斜した内壁面を持つ第一の外周壁を備え、
前記錘板は、前記第一の外周壁の傾斜した内壁面に当接可能な先端部傾斜面を備え、
前記第一の外周壁が持つ内壁面は、凹状に湾曲しており、
前記錘板の先端部傾斜面は、前記第一の外周壁が持つ内壁面の湾曲の曲率より大きい曲率で
凸状に湾曲している
ことを特徴とする、摩擦クラッチのプレッシャープレート装置。
【請求項5】
請求項1~請求項4のいずれか一に記載の摩擦クラッチのプレッシャープレート装置であって、
前記一次押し板は、前記軸線を中心とする所定の回転角度毎に配置された複数の第一の仕切り壁を備え、
前記二次押し板は、前記第二の外周壁と前記内周壁との間に前記複数の第一仕切り壁に対向するように配置された複数の第二の仕切り壁を備え、
前記錘板は、当該錘板を正面から見た形状が前記第一の外周壁に沿って伸長した円弧状の先端と前記第一の仕切り壁並びに前記第二の仕切り壁に沿って伸びた直線状の側縁とを有する扇形になるように形成され、前記先端部傾斜面は円錐面状に形成される、摩擦クラッチのプレッシャープレート装置。
【請求項6】
請求項1~請求項5のいずれか一に記載の摩擦クラッチのプレッシャープレート装置であって、
前記一次押し板は、前記第一の仕切り壁と前記第一の外周壁との間に第一の空所を有し、
前記二次押し板は、前記第二の仕切り壁と前記第二の外周壁との間に第二の空所を有し
前記錘板は、前記第一の空所並びに第二の空所に入る拡張部を有する、摩擦クラッチのプレッシャープレート装置。
【請求項7】
請求項1~請求項6のいずれか一に記載の摩擦クラッチのプレッシャープレート装置であって、
前記錘板は、前記クラッチディスク部と、前記ばね装置の前記クラッチディスク部側と反対側に配置したリテーナとを結合するための結合棒を通すための切欠き又は穴を有する、摩擦クラッチのプレッシャープレート装置。
【請求項8】
請求項1~請求項7のいずれか一に記載の摩擦クラッチのプレッシャープレート装置において、
前記一次押し板が前記ばね装置側に配置され、前記二次押し板が前記クラッチディスク部側に配置される代わりに、前記二次押し板が前記ばね装置側に配置され、前記一次押し板が前記クラッチディスク部側に配置される、摩擦クラッチのプレッシャープレート装置。
【請求項9】
請求項1~請求項8のいずれか一に記載の摩擦クラッチのプレッシャープレート装置であって、
当該プレッシャープレート装置は前記クラッチディスク部に対し該クラッチディスクの軸線方向における外側に配置され、
前記ばね装置は、ダイヤフラムスプリングからなり、当該プレッシャープレート装置に対して前記クラッチディスクの軸線方向における外側に配置される
摩擦クラッチのプレッシャープレート装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動二輪車等に適用される摩擦クラッチのプレッシャープレート装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、原軸と従軸の結合を断続するための摩擦クラッチには、クラッチディスク部と該クラッチディスク部に付与する弾力的な押圧力の発生源となるばね装置との間に、輪状の単一部材の板からなるプレッシャープレート装置が設けられている。このプレッシャープレート装置は、原軸から従軸へ動力を伝達するとき、ばね装置から弾力的な押圧力を受けてクラッチディスク部を押圧し、原軸から従軸への動力の伝達を遮断するとき、バネ装置からの弾力的な押圧力に抗する押し戻し力を結合解除部から受けてクラッチディスク部に対する押圧を停止する。ばね装置のプレッシャープレート装置側の反対側にはリテーナが設けられている。リテーナは、ばね装置を当該リテーナとプレッシャープレート装置との間に挟んで圧縮することで、プレッシャープレート装置に対して弾力的な押圧力を発生させる。
【0003】
例えば自動二輪車に適用された摩擦クラッチでは、エンジンの出力軸が原軸となり、クラッチディスク部に結合した、後輪に動力を伝達するためのスプロケットが従軸となり、結合解除部はクラッチレバーとワイヤーで連結してあり、原軸と従軸の結合の断続操作は、自動二輪車の運転者がクラッチレバーを手で握って、そのクラッチレバーを傾動させることで行うのが普通である。近年の自動二輪車は出力の大きいエンジンを備えたものが多く、その自動二輪車に設けるクラッチも、エンジンの最大トルクを伝達可能なものでなければならないが、摩擦クラッチが伝達し得るトルクを大きくすると、クラッチレバーを傾動させるために必要な握力が増大する。そしてエンジンの出力回転数が小さい領域においては、例えば自動二輪車の発進時等には、クラッチディスク部に滑りを生じさせながら原軸から従軸に伝達されるトルクが次第に大きくなるようにクラッチレバーを微妙に操作することが必要である。しかしクラッチレバーを傾動操作するために大きな握力を要する場合、クラッチレバーの微妙な操作を、自動二輪車の長時間にわたる運転中に安定して行うことは、握力の弱い者にとっては難しい。
【0004】
そこで、従来の摩擦クラッチには、例えば特許文献1に開示されているように、ダイヤフラムスプリングからなるばね装置に当接する環状部と、該環状部を貫通する複数のV字型フィンガーとを有するリテーナを備えることにより、エンジンの出力回転数が小さい領域でクラッチレバーを傾動させるために必要な握力を低減するようにしたものがある。この摩擦クラッチでは、V字型フィンガーは、環状部にピンにより揺動可能に装着されており、V字型フィンガーの一側はプレッシャープレート装置に当接し、V字型フィンガーの他側には円筒状の錘が装着されている。そしてリテーナがエンジンの出力軸と一緒に回転し、そのリテーナの回転により錘に遠心力が働き、その遠心力がV字型フィンガーにピンを中心とする回転力として作用し、その回転力によりV字型フィンガーの一側がプレッシャープレート装置を、錘に働く遠心力に応じた押圧力で押圧するようになっている。そして原軸から従軸への動力の伝達中には、ばね装置からの弾力的な押圧力だけでなく、錘に働く遠心力によって生じる押圧力がプレッシャープレート装置を通じてクラッチディスク部に加わる。つまりクラッチレバーの操作必要な握力を低減するために、ばね装置による弾力的な押圧力を小さくし、その小さくした分を錘に働く遠心力による押圧力が補い、原軸から従軸に動力が適正に伝達できるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、上述の複数のV字型フィンガーを有するリテーナを備えた摩擦クラッチは、リテーナの占有空間がクラッチディスク部の中心軸線方向に大きくなるので、リテーナ部分が外側へ大きく張り出したものとなる。そして、その摩擦クラッチを備えた自動二輪車等は、その車幅が大きくなってしまう。
【0007】
またV字型フィンガーを有さないリテーナを備えた摩擦クラッチでは、クラッチレバーを小さい握力で操作できるようにするために、そのV字型フィンガーを有さない既存のリテーナを、上述の複数のV字型フィンガーを有するリテーナに交換するとよいが、その複数のV字型フィンガーを有するリテーナの占有空間が中心軸線方向に大きくなるため、クラッチカバーを取り付けられなくなる場合が多い。そして、その場合には、V字型フィンガーを有さないリテーナから上述の複数のV字型フィンガーを有するリテーナへの交換は断念せざるを得ない。
【0008】
また複数のV字フィンガーを有するリテーナは構造が複雑であり高価なものとなる。しかも占有空間及び機械的強度の面から錘を大きくすることができず、錘に働く遠心力を大きくすることができない。そのため、ばね装置による押圧力の低減分を補うために必要な、錘に働く遠心力によって生じるクラッチディスク部への押圧力も小さく抑えられるので、ばね装置による押圧力を十分に低減することができない。
【0009】
またV字フィンガーの一側とプレッシャープレート装置は摺動接触し、その接触面積は小さいので、その両者の接触面が摩耗し易い。そして、これがリテーナの耐久性を大きくすることができない原因となっている。
【0010】
更にリテーナはエンジンの出力軸に連動して回転するので、錘に働く遠心力はエンジンの回転数に応じて大きくなり、エンジンの回転数が高速になると、錘に働く遠心力によって生じる押圧力が過大になる。そして原軸と従軸の結合を断つには、ばね装置による押圧力と、錘の遠心力によって生じる過大な押圧力に抗してプレッシャープレート装置をクラッチディスク部から後退させる必要があり、そのための押し戻し力をクラッチレバーからプレッシャープレート装置に作用させなければならない。それゆえ、エンジンの高速回転数にはクラッチレバーの操作に必要な握力が増大してしまう。
【0011】
本発明は、従来のこのような問題点に鑑みてなされたものである。本発明の主な目的は原軸の低速域から高速域まで全域における原軸と従軸との結合を断続するための操作に要する力を、従来に比べて大幅に低減することができ、構造が簡素で故障しにくく耐久性があり、しかも押圧方向の占有空間が小さい、安価な摩擦クラッチのプレッシャープレート装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0012】
本発明の第1の側面に係る摩擦クラッチのプレッシャープレート装置によれば、摩擦クラッチのクラッチディスク部と該クラッチディスク部に付与する弾力的な押圧力の発生源となるばね装置との間に設けられるプレッシャープレート装置であって、前記ばね装置側に配置される輪状の一次押し板と、前記一次押し板の軸線上に同心かつ該軸線方向に移動可能に設けられた、前記クラッチディスク部側に配置される輪状の二次押し板と、前記一次押し板及び前記二次押し板の対向する側面の間に、前記軸線を中心とする一定の回転角度毎に配置され、前記軸線を中心とする放射方向にスライドすることができる複数の錘板とを備え、前記一次押し板は、当該一次押し板の前記錘板側に形成された、前記二次押し板に近づくにつれ前記軸線から離れる方向に傾斜した内壁面を持つ第一の外周壁を備え、前記二次押し板は、当該二次押し板の前記錘板側に形成された、直立した内壁面を持つ第二の外周壁を備え、前記錘板は、前記第二の外周壁の直立した内壁面に当接可能な先端部係合面と、前記第一の外周壁の傾斜した内壁面に当接可能な先端部傾斜面とを備えるよう構成できる。
【0013】
前記構成により、錘板をスライド可能に収容している空間の容積に対する錘板の体積の割合を大きくすることができ、限られた空間で質量の大きい錘板を得ることができ、錘板の厚みを小さくしても錘板に働く遠心力を大きくすることができる。また第二の外周壁の直立した内壁面に錘板の先端部係合面を当接させることで確実に錘板の移動を阻止することができる。そのため、錘板に働く遠心力によって生じるクラッチディスク部への押圧力を一定値以下に制限することができ、高速回転時に原軸から従軸への動力の伝達を断つために、ばね装置からの押圧力に抗して当該プレッシャープレート装置を押し戻すための操作に必要な力が過大になることを防ぐことができる。また低速回転時に、ばね装置からの押圧力に抗して当該プレッシャープレート装置を押し戻すための操作に必要な力を、従来に比べて大幅に低減することができる。そして構造が簡素で故障しにくく耐久性があり、しかも軸線方向の占有空間が小さい、安価な摩擦クラッチのプレッシャープレート装置を得ることができる。更にまた、前記構成によれば、プレッシャープレート装置の占有空間を単一部材からなる既存のものと同程度に小さくすることができるので、様々なメーカーの多用な機種の自動二輪車等について、その摩擦クラッチの既設のプレッシャープレート装置を、本発明に係るプレッシャープレート装置と比較的簡単に交換することが可能になり、それによって自動二輪車等のクラッチレバーの操作性を容易に改善することができるようになる。
【0014】
本発明の第2の側面に係る摩擦クラッチのプレッシャープレート装置によれば、摩擦クラッチのクラッチディスク部と該クラッチディスク部に付与する弾力的な押圧力の発生源となるばね装置との間に設けられるプレッシャープレート装置であって、前記ばね装置側に配置される輪状の一次押し板と、前記一次押し板の軸線上に同心かつ該軸線方向に移動可能に設けられた、前記クラッチディスク部側に配置される輪状の二次押し板と、前記一次押し板及び前記二次押し板の対向する側面の間に、前記軸線を中心とする一定の回転角度毎に配置され、前記軸線を中心とする放射方向にスライドすることができる複数の錘板とを備え、前記一次押し板は、当該一次押し板の前記錘板側に形成された、前記二次押し板に近づくにつれ前記軸線から離れる方向に傾斜した内壁面を持つ第一の外周壁を備え、前記二次押し板は、当該二次押し板の前記錘板側に形成された第二の外周壁を備え、前記錘板は、前記第一の外周壁の傾斜した内壁面に当接可能な先端部傾斜面を備え、前記第一の外周壁が持つ内壁面は、前記軸線に平行する方向に対する傾斜角度が互いに異なると共に、前記傾斜角度が大きい順に前記一次押し板から前記二次押し板に向かって並ぶ複数の壁面部分からなり、前記錘板の先端部傾斜面は、前記複数の壁面部分に対応する複数の斜面部分からなり、前記複数の斜面部分は、前記軸線に平行する方向に対する傾斜角度が、前記複数の壁面部分のうちの対応する壁面部分の前記傾斜角度と同じであり、前記複数の斜面部分の幅は、前記二次押し板に最も近い前記斜面部分を除いて前記対応する壁面部分の幅より狭いよう構成できる。
【0015】
前記構成により、錘板に働く遠心力に対する、その遠心力によって一次押し板に生じる前記クラッチディスク部への押圧力の割合を、原軸の回転数に増大に応じて段階的に小さくすることができるので、高速回転時に摩擦クラッチの操作に必要な力が過剰になるのを防ぐことができる。
【0016】
本発明の第3の側面に係る摩擦クラッチのプレッシャープレート装置によれば、前記第一の外周壁が持つ内壁面を構成する複数の壁面のうちの、前記一次押し板の側面から最も遠い壁面の前記傾斜角度は摩擦角度より小さいように構成することができる。
【0017】
本発明の第4の側面に係る摩擦クラッチのプレッシャープレート装置によれば、摩擦クラッチのクラッチディスク部と該クラッチディスク部に付与する弾力的な押圧力の発生源となるばね装置との間に設けられるプレッシャープレート装置であって、前記ばね装置側に配置される輪状の一次押し板と、前記一次押し板の軸線上に同心かつ該軸線方向に移動可能に設けられた、前記クラッチディスク部側に配置される輪状の二次押し板と、前記一次押し板及び前記二次押し板の対向する側面の間に、前記軸線を中心とする一定の回転角度毎に配置され、前記軸線を中心とする放射方向にスライドすることができる複数の錘板とを備え、前記一次押し板は、当該一次押し板の前記錘板側に形成された、前記二次押し板に近づくにつれ前記軸線から離れる方向に傾斜した内壁面を持つ第一の外周壁を備え、前記錘板は、前記第一の外周壁の傾斜した内壁面に当接可能な先端部傾斜面を備え、前記第一の外周壁が持つ内壁面は、凹状に湾曲しており、前記錘板の先端部傾斜面は、前記第一の外周壁が持つ内壁面の湾曲の曲率より大きい曲率で凸状に湾曲しているよう構成できる。
【0018】
前記構成により、錘板に働く遠心力に対する、その遠心力によって一次押し板に生じる前記クラッチディスク部への押圧力の割合を、原軸の回転数に増大に応じて連続的に小さくすることができるので、高速回転時に摩擦クラッチの操作に必要な力が過剰になるのを防ぐことができる。
【0019】
本発明の第5の側面に係る摩擦クラッチのプレッシャープレート装置によれば、前記一次押し板は、前記軸線を中心とする所定の回転角度毎に配置された複数の第一の仕切り壁を備え、前記二次押し板は、前記第二の外周壁と前記内周壁との間に前記複数の第一仕切り壁に対向するように配置された複数の第二の仕切り壁を備え、前記錘板は、当該錘板を正面から見た形状が前記第一の外周壁に沿って伸長した円弧状の先端と前記第一の仕切り壁並びに前記第二の仕切り壁に沿って伸びた直線状の側縁とを有する扇形になるように形成され、前記先端部傾斜面は円錐面状に形成されるよう構成できる。
【0020】
前記構成により、前記錘板の先端部傾斜面の面積及び第一の外周壁の傾斜した内壁面の面積を広くすることができるので、両者の摺動による摩耗部分を分散することができ、長期間使用しても両者の摩耗を比較的少なく抑えることができる。
【0021】
本発明の第6の側面に係る摩擦クラッチのプレッシャープレート装置によれば、前記一次押し板は、前記第一の仕切り壁と前記第一の外周壁との間に第一の空所を有し、前記二次押し板は、前記第二の仕切り壁と前記第二の外周壁との間に第二の空所を有し、前記錘板は、前記第一の空所並びに第二の空所に入る拡張部を有するよう構成できる。
【0022】
前記構成により、錘板の質量を、前記第一の空所及び第二の空所に入る拡張部の分だけ増大させ、錘板に働く遠心力を更に大きくすることができる。また前記一の空所及び前記第二の空所を設けることにより、一次押し板の収容室の直立内壁面や二次押し板の収容室の傾斜内壁面を旋削等により形成することができるので、直立内壁面及び傾斜内壁面を形成する加工が容易になる。
【0023】
本発明の第7の側面に係る摩擦クラッチのプレッシャープレート装置によれば、前記錘板は、前記ばね装置の前記クラッチディスク部側と反対側に配置したリテーナと前記クラッチディスク部とを結合するための結合棒を通すための切欠き又は穴を有するよう構成できる。
【0024】
前記構成により、前記結合棒を備える摩擦クラッチにも本発明による摩擦クラッチのプレッシャープレート装置を適用することが可能になる。
【0025】
本発明の第8の側面に係る摩擦クラッチのプレッシャープレート装置によれば、前記一次押し板が前記ばね装置側に配置され、前記二次押し板が前記クラッチディスク部側に配置される代わりに、前記二次押し板が前記ばね装置側に配置され、前記一次押し板が前記クラッチディスク部側に配置されるよう構成できる。
【0026】
本発明の第9の側面に係る摩擦クラッチのプレッシャープレート装置によれば、当該プレッシャープレート装置は前記クラッチディスク部に対し該クラッチディスクの軸線方向における外側に配置され、前記ばね装置は、ダイヤフラムスプリングからなり、当該プレッシャープレート装置に対して前記クラッチディスクの軸線方向における外側に配置されるよう構成できる。
【0027】
前記構成により、既存のプレッシャープレート装置を本発明に係るプレッシャープレート装置に交換する場合には、その交換作業を容易に短時間で行うことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明の一実施形態に係るプレッシャープレート装置を適用した摩擦クラッチの一例を示す正面図である。
【
図2】
図1に示す摩擦クラッチの切断線A-Aに沿う断面を矢印の方向に見た断面図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係るプレッシャープレート装置の正面図である。
【
図4】
図3示すプレッシャープレート装置の切断線B-Bに沿う断面を矢印の方向に見た断面図である。
【
図8】プレッシャープレート装置の外周付近を拡大して示した断面図である。
【
図9】ばね装置のたわみと、ばね装置のたわみにより生じる押圧力並びに回転数との関係を模式的に示した線図である。
【
図10】本発明のプレッシャープレート装置を備えた摩擦クラッチの実施例に係るデータを示す線図である。
【
図11】従来の複数のV字型フィンガーを有するリテーナを備えた摩擦クラッチのデータを示す線図である。
【
図12】本発明の他の実施形態に係るプレッシャープレート装置の外周付近を拡大して示した断面図である。
【
図13】第一の壁面部分と第二の壁面部分との関係を説明するための拡大断面図である。
【
図14】本発明の更に他の実施形態に係るプレッシャープレート装置の外周付近を拡大して示した断面図である。
【
図15】本発明のプレッシャープレート装置の変更態様を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。ただし、以下に示す実施の形態は、本発明の技術思想を具体化するための摩擦クラッチのプレッシャープレート装置を例示するものであって、本発明はそれらを以下のものに特定しない。また、本明細書は特許請求の範囲に示される部材を、実施の形態の部材に特定するものでは決してない。特に実施の形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、本発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。なお、各図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため誇張していることがある。さらに以下の説明において、同一の名称、符号については同一もしくは同質の部材を示しており、詳細説明を適宜省略する。さらに、本発明を構成する各要素は、複数の要素を同一の部材で構成して一の部材で複数の要素を兼用する態様としてもよいし、逆に一の部材の機能を複数の部材で分担して実現することもできる。
【0030】
図1及び
図2に示す摩擦クラッチ1は、本発明の一実施形態に係るプレッシャープレート装置11を備えており、例えば自動二輪車に装着されたものである。この摩擦クラッチ1は、原軸となるエンジンの出力スプロケット2と、従軸となるトランスミッション入力軸3との結合を断続するために、クラッチディスク部4と、クラッチディスク部4に押圧力を付与する押圧部5と、押圧部5によるクラッチディスク部4の押圧力を断つための結合解除部6とを備えている。この摩擦クラッチ1は例えば自動二輪車に適用されており、エンジンの出力スプロケット2とトランスミッション入力軸3を結合すると、出力スプロケット2の動力はトランスミッション入力軸3から、図示しない後輪へ伝達されるようになっている。
【0031】
クラッチディスク部4は、出力スプロケット2と一緒に回転する原軸側ハブ9に、軸線Xの方向にスライド可能、かつ原軸側ハブ9に装着された原軸側摩擦板10と、トランスミッション入力軸3と一緒に回転する従軸側ハブ7に装着された従軸側摩擦板8とを備え、押圧部5から付与される押圧力により原軸側摩擦板10と従軸側摩擦板8の間に摩擦力を生じさせることで原軸側摩擦板10と従軸側摩擦板8とを結合し、それによってトランスミッション入力軸3とエンジンの出力スプロケット2とを結合することができる。
【0032】
押圧部5は、プレッシャープレート装置11とばね装置12とリテーナ13とで構成されており、これらはクラッチディスク部4の軸線X上に外側に向かって順番に並んでいる。つまりプレッシャープレート装置11は、クラッチディスク部4と、ばね装置12との間に配置されており、リテーナ13はばね装置12の外側に配置されている。リテーナ13は従軸側ハブ7に固設した結合棒14の先端にボルト14aで固着されており、プレッシャープレート装置11及びばね装置12は結合棒14によって貫通されている。したがって押圧部5はトランスミッション入力軸3と一緒に回転することができる。そして押圧部5は、ばね装置12をリテーナ13とプレッシャープレート装置11との間に挟んで圧縮方向に変形させることでばね装置12にプレッシャープレート装置11対する弾力的な押圧力を発生させることができる。
【0033】
結合解除部6は、プレッシャープレート装置11をばね装置12からの弾力的な押圧力に抗して軸線X方向の外側へ押し戻すための押し棒15と、エンジン停止時のばね装置12に起因する押圧力を設定するための調整ねじ16と、この調整ねじ16に螺合した係合体17とを備えている。押し棒15は、図示しないクラッチレバーと連結されており、このクラッチレバーを操作することにより、押し棒15の軸線X方向の外側へ移動することができる。
【0034】
プレッシャープレート装置11は、エンジン出力スプロケット2からトランスミッション入力軸3に動力を伝達するとき、ばね装置12から押圧力を受けてクラッチディスク部4を押圧し、出力スプロケット2からトランスミッション入力軸3への動力を遮断するとき、ばね装置12から加えられる押圧力に抗する押し戻し力を結合解除部6から受けてクラッチディスク部4に対する押圧を解くことができる。
【0035】
本発明の一実施例係るプレッシャープレート装置11は、ばね装置12に係合する第一の係合部18を有する輪状の一次押し板19と、クラッチディスク部4側に配置され、クラッチディスク部4に係合する第二の係合部20と結合解除部6に係合する第三の係合部21とを有する二次押し板22とを備えている。
【0036】
図2に示す摩擦クラッチ1では、ばね装置12は一つのダイヤフラムスプリングからなり、リテーナ13は、ダイヤフラムスプリング12の内周部付近に係合してダイヤフラムスプリング12の内周部付近が外側方向に後退しないように保持している。第一の係合部18は、ダイヤフラムスプリング12の外周端部つまりばね装置12の軸線X方向の内側の先端部に係合することができる。第二の係合部20は、一次側摩擦板8に当接することができる。第三の係合部21は、二次押し板22の内周部に設けられており、係合体17を二次押し板22に対して軸線X方向に移動しないように保持している。
【0037】
図3に示すように、一次押し板19及び二次押し板22は夫々輪状に形成された部材からなる。
図4において、プレッシャープレート装置11の左側がばね装置側であり、その反対側がクラッチディスク部側である。一次押し板19は、ばね装置側に配置され、二次押し板22は、一次押し板19の軸線X上に同心かつ軸線X方向に移動可能に、一次押し板19の第一の係合部18と反対側つまりクラッチディスク部4側に設けられている。一次押し板19及び二次押し板22の対向する側面19a、22aの間には、軸線Xを中心とする一定の回転角度毎に、対向する側面19a、22aに沿って軸線Xを中心とする放射方向にスライド可能に配置された複数の錘板23が備えられている。
【0038】
一次押し板19は、夫々当該一次押し板19の錘板23側に形成された、傾斜した内壁面24を持つ第一の外周壁25と、軸線Xを中心とする所定の回転角度毎に配置された複数の第一の仕切り壁26とを備えている。内壁面24は、二次押し板22に近づくにつれ軸線Xから離れる方向に傾斜している。
【0039】
二次押し板22は、夫々当該二次押し板22の錘板23側に形成された、直立した内壁面27を持つ第二の外周壁28と、第二の外周壁28の内側に配置された内周壁29と、第二の外周壁28と内周壁29との間に複数の第一の仕切り壁26に対向するように配置された複数の第二の仕切り壁30とを備えている。
【0040】
錘板23は、複数の第一の仕切り壁26のうちの隣り合う第一の仕切り壁26並びに隣り合う第一の仕切り壁26に対向すると共に隣り合う第二の仕切り壁30と、第一の外周壁25並びに第二の外周壁28と、内周壁29とによって囲まれており、第二の外周壁28の直立した内壁面27に当接可能な先端部係合面31と、第一の外周壁25の傾斜した内壁面24に当接可能かつ該内周壁29に適合する先端部傾斜面32とを備えている。
【0041】
図5に示すように、一次押し板19は、第一の仕切り壁26と第一の外周壁25との間に第一の空所33を有しており、
図6に示すように、二次押し板22は、第二の仕切り壁30と第二の外周壁28との間に第二の空所34を有しており、
図7に示すように、錘板23は、第一の空所33並びに第二の空所34に入る拡張部35を有する。また錘板23は、当該錘板23を正面から見た輪郭の形状が第一の外周壁25に沿って伸長した円弧状の先端と第一の仕切り壁26並びに第二の仕切り壁30に沿って伸びた直線状の側縁とを有する扇形になるように形成され、先端部傾斜面32は円錐面状に形成されている。先端部係合面31は、第二の外周壁28の直立した内壁面27に適合する円柱面状に形成されている。なお、先端部係合面31や直立した内壁面27は、錘板23の移動を阻止することができれば、必ずしも円柱面である必要はない。また錘板23は、
図2に示す結合棒14を通すための切欠き36を有する。この切欠き36は、錘板23のスライド量が小さいので穴に替えてもよい。
【0042】
二次押し板22は、第二の外周壁28の外側に形成された第三の外周壁37を備えている。この第三の外周壁37は、その内壁面で、一次押し板19の第一の外周壁25の外壁面を軸線Xの方向に案内することができる。
【0043】
プレッシャープレート装置11を組み立てるには、錘板23を
図6に二点鎖線で示すように二次押し板22の側面22a上に配置した後、第一の仕切り壁26を第二の仕切り壁30に対向させて一次押し板19の第一の外周壁25を二次押し板22の第三の外周壁37の内周側に嵌め合わせる。この実施形態の場合、更に、一次押し板19が二次押し板22から脱落しないようにするために、
図4に示すように、頭付き案内ピン38の先端部を、二次押し板22に形成されている穴39に通して、その頭付き案内ピン38の先端部を一次押し板19に固着する。この状態で一次押し板19と二次押し板22とは、案内ピンの頭38aと座ぐり面40との隙間分だけ互いに接近離反可能である。
【0044】
次に、プレッシャープレート装置11の動作を説明する。
図8は、プレッシャープレート装置11の外周付近を拡大して示した断面図であり、
図9は、プレッシャープレート装置11におけるばね装置12のたわみδと、第二の係合部20からクラッチディスク部4に作用する押圧力F並びに出力軸2の回転数Nとの関係を示す線図である。
図9の線図において、実線で示す
曲線は、摩擦クラッチ1の既設のばね装置12の特性曲線の一例を示
し、Fnは、クラッチディスク部4においてスリップが生じないために必要なクラッチディスク部4への押圧力、δnは、このときのばね装置12のたわみ、Fsは、出力軸2の回転数が零のときのばね装置12によって生じるクラッチディスク部4への押圧力、δsは、このときのばね装置12のたわみ、Fcは、錘板23に働く遠心力に起因するクラッチディスク部4への押圧力、δcは、Fcによって生じるばね装置12のたわみ、Fmは、第二の
外周壁28の直立した内壁面27に錘板23の先端部係合面31が当接したときに生じるクラッチディスク部4への押圧力、δmは、このときのばね装置12のたわみ、Fpは、ばね装置12の比例限度内で生じるクラッチディスク部4への押圧力、δpは、このときのばね装置のたわみである。ここで、Fnを所要荷重、Fsを初期設定荷重、Fcを遠心荷重、Fmを最大荷重、Fpを限界荷重、δnを所要荷重時のたわみ
、δsを初期たわみ、δmを最大たわみ、δpを限界たわみと呼ぶこととする。
【0045】
図2において、プレッシャープレート装置11の一次押し板19は、エンジンの出力プロケット2が回転しておらず、プレッシャープレート装置11が結合解除部6により押し戻されていないとき、
図8に二点鎖線で示すように、ばね装置12から押圧力つまり初期設定荷重Fsを受けて二次押し板22に押し付けられており、第一の外周壁25の端面と第二の外周壁28の端面が当接している。また、このとき、錘板23は、二点鎖線で示すように二次押し板22の第二の外周壁28から後退しており、錘板23の先端部傾斜面32は、一次押し板19の傾斜した内周壁29に接触又は離反している。また、このとき
図9においてクラッチディスク部4に作用する押圧力FはFsである。
【0046】
図2に示すエンジンの出力プロケット2が回転すると(エンジンが始動されると)、錘板23に遠心力が働き、それによって錘板23は、軸線Xを中心とする放射方向に、
図8では上向きに移動すると共に、その先端部傾斜面32を一次押し板19の第一の外周壁25の傾斜した内壁面24に係合させて、その傾斜した内壁面24を上向きに押圧する。そうすると、先端部傾斜面32と傾斜した内壁面24との働きで錘板23の上向きの押圧力は軸線Xの外側方向の押圧力に変わり、一次押し板19は軸線Xの外側方向に押圧される。つまり錘板23に軸線Xを中心とする放射方向の遠心力によって、一次押し板19には、軸線Xの外側方向の押圧力が、
図8では左向きの押圧力が生じる。この錘板23に働く遠心力によって生じる軸線Xの外側方向の押圧力から機械損失を差し引いた押圧力つまり遠心荷重Fcが二次押し板22から第二の係合部20を通じてクラッチディスク部4に働くと共に、その押圧力の反力として一次押し板19からばね装置12に、その圧縮方向の力が働く。そして出力軸2の回転数の増加に応じて、錘板23に働く遠心力が増大し、それによって錘板23の先端が第二の外周壁28に達すると、錘板23の先端部係合面31が第二の外周壁28の直立した内壁面27に当接し、錘板23の移動は第二の外周壁28によって阻まれる。
【0047】
錘板23が
図8に二点鎖線で示す位置から実線で示す位置に移動する間に、一次押し板19は、
図8に実線で示す作動位置に移動する。この実施形態では錘板23の先端部傾斜面32の鉛直方向に対する傾斜角度は45度になっており、傾斜した内壁面24の角度も同様であるので、錘板23の先端部傾斜面32が、傾斜した内壁面24に接触を開始してから、錘板23の先端部係合面31が、直立した内壁面27に当接するまでの移動量δwと、その間の一次押板19の移動量
δcとは等しい。錘板23及び一次押し板19の動作を安定させるためには、錘板23の移動量δw、一次押し板19の移動量δcが小さい方が望ましく、この実施形態では、錘板23の移動量δw及び一次押し板19の移動量δcは夫々0.5ミリメートルである。
【0048】
図8において、一次押し板19が二点鎖線で示す位置にあるとき、
図9において、ばね装置12のたわみはδsになり、
図8において一次押し板19が実線で示す位置にあるとき、つまり一次押し板19の移動量がδcになったとき、
図9において、ばね装置12に生じるたわみは最大たわみδmになる。一次押し板19の移動量がδcとなったときのばね装置12のたわみδmと初期たわみδsとの差が、遠心荷重Fcによってばね装置12に生じるたわみの増加分つまり遠心たわみδcとなり、この遠心たわみδcは、
図8に示す一次押し板19の移動量δcに等しい。
【0049】
本実施形態に係るプレッシャープレート装置11を、既存の摩擦クラッチに設けられている従来のプレッシャープレート装置と交換可能なものにするには、例えば、プレッシャープレート装置11の占有空間を既設のものと同じ又はほぼ同じにする必要があるため、まず、錘板23の厚み、一次押し板の移動量δc、一次押し板19、二次押し板22の外径や厚み等を定める。次に、最大荷重Fmを所要荷重Fnより大きく限界荷重Fpより小さくなるように定めると共に最大荷重Fmのときのエンジンの出力軸の回転数Nを定める。そして初期設定荷重Fsを例えば最大荷重Fmの半分と定め、その初期設定荷重Fsを最大荷重Fmから差し引いて必要な遠心荷重Fcを求め、その遠心荷重Fcと、既存の摩擦クラッチのばね装置のばね定数と一次押し板の移動量δcから必要な遠心荷重Fcが得られるか否かを判断し、必要な遠心荷重Fcが得られる場合は、必要な遠心荷重Fcと回転数Nと軸線Xから錘板23の重心までの距離とに基づき必要な錘板23の質量を求める。必要な遠心荷重Fcが得られない場合は、ばね装置を必要なばね定数のものに交換することとし、その交換するばね装置のばね定数を用いて、上述の場合と同様に必要な錘板23の質量を求める。そして、この必要な錘板23の質量と、錘板の厚みと錘板の比重とに基づき錘板23の正面の面積を算出し、この算出した錘板23の正面の面積に基づき、錘板23の正面の形状を決める。錘板23は板状であるので、例えばボール盤等を用いて、その錘板23の厚み方向に穴や切欠きを形成することで、その質量を比較的容易に調節することができる。
【0050】
図9において、ばね装置12に生じる最大たわみδmは、ばね装置12の限界たわみδpより小さく、所要荷重Fnが生じるときのばね装置12のたわみδnより大きいので、本実施形態に係るプレッシャープレート装置11を既設のものと交換したとき、既設のばね装置12をそのまま使用することができる。通常、ばね装置12の限界時のたわみδpは、押圧力Fが所要荷重Fnであるのときの所要荷重時のたわみδnより十分大きいので、ばね装置12又は錘板23を交換しなくて済む場合が多い。また
図2に示す摩擦クラッチ1のように、プレッシャープレート装置11がクラッチディスク部4に対し軸線上の外側方向に配置されている場合は、普通、クラッチカバーを取外せば押圧部5が露出するので、プレッシャープレート装置11を既設のものと交換するのに都合がよい。また、ばね装置12が、一つのダイヤフラムスプリングからなる場合には、その交換作業は比較的容易である。また、ダイヤフラムスプリング12とリテーナ13との係合位置を、ダイヤフラムスプリング12の穴から離れるよう変更することで、ダイヤフラムスプリングのばね定数を大きくすることができるので、既設のダイヤフラムスプリング12をばね定数の大きいものに交換する代わりに、必要なばね定数が得られる位置でダイヤフラムスプリング12に係合することができるようにダイヤフラムスプリング12との係合部分を配置したリテーナ13を準備して、その準備したリテーナ13を既設のものと交換するようにしてもよい。
【実施例1】
【0051】
上述の本発明の一実施形態に係るプレッシャープレート装置11を備えるプレッシャープレート式押圧部5を、1580ccの自動二輪車の摩擦クラッチの、既設の複数のV字フィンガーを有するリテーナを備えるリテーナ式押圧部と交換して、クラッチレバーの操作性を比較した。
図10は、押圧部交換後の摩擦クラッチにおける回転数Nに対する押圧力Fの特性を示す線図である。
図11は、押圧部交換前の摩擦クラッチにおける回転数Nに対する押圧力Fの特性を示す線図である。
図10及び
図11において、曲線Cnは所要荷重Fn、曲線Csは初期設定荷重Fs、曲線Ccは遠心荷重Fc、曲線Cは押圧力Fの変化を示す。この実施例では、自動二輪車のメーカーにより設定された所要荷重Fnは280ポンドであり、プレッシャープレート装置11では、初期設定荷重Fsは170ポンドであり、従来の複数のV字フィンガーを有するリテーナ式の摩擦クラッチでは初期設定荷重Fsは220ポンドである。押圧部交換前のリテーナのV字フィンガーに装着されている遠心おもりの重量は合計166gであり、押圧部交換後のプレッシャープレート装置11の錘板23の重量の合計は494gであった。
図10において押圧力Fは、初期設定荷重Fsと遠心荷重Fcとの和であり、回転数Nが2200rpmで所要荷重Fnに達し、約2800rpmで錘板23の移動が阻止されて遠心荷重Fcが増加しなくなっている。またリテーナ式押圧部を適用したものでは、回転数Nが2000~3000rpmの回転域での遠心力がプレッシャープレート式押圧部を適用したものに比べて錘の質量が約3分の1と少ないため、大パワーエンジンの場合、ばね定数の大きいばね装置が必要になるが、プレッシャープレート式押圧部を適用した摩擦クラッチだと大パワーエンジンでもばね定数の小さいばね装置を使用できる。この実施例のプレッシャープレート装置11を備えた摩擦クラッチは、エンジンの低速域から高速域まで確実に動力の伝達を行うことができ、かつクラッチ操作に要する握力を従来に比べて大幅に軽減することができた。
【0052】
図12及び
図13を参照して本発明の他の実施形態について説明する。
図12は、
図4に示す断面図と同様に一次押し板19の軸線Xを含む平面によって切断した断面を拡大して示している。この実施形態は、次の点が前述の実施形態と相違している。即ち、第一の外周壁25が持つ内壁面24は、軸線Xに平行する方向に対する傾斜角度が互いに異なると共に、傾斜角度が大きい順に一次押し板19から二次押し板22に向かって並ぶ複数の壁面部分24a、24b、24cとからなり、錘板23の先端部傾斜面32は、複数の壁面部分24a、24b、24cに対応する複数の斜面部分32a、32b、32cからなり、斜面部分32a、32b、
32cは、一次押し板19の軸線Xに平行する方向に対する傾斜角度θb1、θb2、θb3が、壁面部分24a、24b、24cの傾斜角度θa1、θa2、θa3と同じであり、二次押し板22に最も近い斜面部分32cの幅b3はそれに対応する壁面部分24cの幅a3より広くなっているが、その斜面部分32cを除く斜面部分32a、32bの幅b1、b2は、対応する壁面部分24a、24bの幅a1、a2より狭くなっている。一次押し板19の軸線Xに平行する方向に対する傾斜角度θb1、θb2、θb3は、
図3においては45度、24度、15度である。
【0053】
図12において、錘板23が遠心力を受けて上昇すると、一次押し板19と、錘板23とは、順次、壁面部分24aと斜面部分32aと、壁面部分24bと斜面部分32bと、壁面部分24cと斜面部分32cとで接触し、その都度、錘板23に働く遠心力によって生じる遠心荷重が減少するようになっている。必要に応じて、二次押し板22に最も近い壁面部分24cの傾斜角度θa3並びに斜面部分32cの傾斜角度θb3を摩擦角より小さくするとよい。そのようにした場合、錘板23の先端部傾斜面32の斜面部分32cが一次押し板19の第一の外周壁25の内壁面の壁面部分24cに当接することで、錘板23及び一次押し板19の移動が阻止されるようになる。
【0054】
図14は、本発明の更に他の実施形態を示し、この実施形態では、第一の外周壁25が持つ内壁面24は、凹状に湾曲しており、錘板23の先端部傾斜面32は、第一の外周壁25が持つ内壁面24の湾曲の曲率より大きい曲率で
凸状に湾曲している点が、
図8に示す実施形態と相違する。
【0055】
本発明では、
図4に示すプレッシャープレート装置11において、一次押し板19が第一の係合部18を有し、二次押し板22が第二の係合部20及び第三の係合部21を有する代わりに、
図15に示すように、二次押し板22が第一の係合部18を有し、一次押し板19が第二の係合部20及び第三の係合部21を有するように構成してもよい。また本発明のプレッシャープレート装置は、ばね装置が1個又は複数個のコイルスプリングからなるものをであっても、そのばね装置を備える摩擦クラッチに適用することができる。
【符号の説明】
【0056】
1…摩擦クラッチ
2…エンジンの出力スプロケット
3…トランスミッション入力軸
4…クラッチディスク部
5…押圧部
6…結合解除部
7…従軸側ハブ
8…従軸側摩擦板
9…原軸側ハブ
10…原軸側摩擦板
11…プレッシャープレート装置
12…ばね装置(ダイヤフラムスプリング)
13…リテーナ
14…結合棒
15…押し棒
16…調整ねじ
17…係合体
18…第一の係合部
19…一次押し板
20…第二の係合部
21…第三の係合部
22…二次押し板
23…錘板
24…傾斜した内壁面
24a、24b、24c…壁面部分
25…第一の外周壁
26…第一の仕切り壁
27…直立した内壁面
28…第二の外周壁
29…内周壁
30…第二の仕切り壁
31…先端部係合面
32…先端部傾斜面
32a、32b、32c…斜面部分
33…第一の空所
34…第二の空所
35…拡張部
36…切欠き
37…第三の外周壁
38…頭付き案内ピン
39…穴
40…座ぐり面
F…クラッチディスク部への押圧力
Fc…遠心荷重
Fs…初期設定荷重
Fn…所要荷重
Fm…最大荷重
Fp…限界荷重
δ…ばね装置のたわみ
δw…錘板の移動量
δc…一次押し板の移動量(遠心たわみ)
δp…限界たわみ
δs…初期たわみ
δn…所要荷重時のたわみ
δm…最大たわみ
a1、a2、a3…壁面部分の幅
b1、b2、b3…斜面部分の幅
θa1、θa2、θa3…壁面部分の傾斜角度
θb1、θb2、θb3…斜面部分の傾斜角度