(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-18
(45)【発行日】2022-10-26
(54)【発明の名称】金属系コート剤、表面処理金属及び表面処理方法
(51)【国際特許分類】
C09D 1/00 20060101AFI20221019BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20221019BHJP
C09D 5/02 20060101ALI20221019BHJP
C09D 5/10 20060101ALI20221019BHJP
C23C 26/00 20060101ALI20221019BHJP
【FI】
C09D1/00
C09D7/63
C09D5/02
C09D5/10
C23C26/00
(21)【出願番号】P 2022548416
(86)(22)【出願日】2022-03-18
(86)【国際出願番号】 JP2022012580
【審査請求日】2022-08-09
(31)【優先権主張番号】P 2021056611
(32)【優先日】2021-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】315006377
【氏名又は名称】日本ペイント・サーフケミカルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】伊場 美咲
(72)【発明者】
【氏名】秋山 雅子
(72)【発明者】
【氏名】松川 真彦
【審査官】上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-41987(JP,A)
【文献】特開2006-28372(JP,A)
【文献】特開2008-143946(JP,A)
【文献】特開平10-46058(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D,C23C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛粒子(A)と、アルミニウム粒子及びアルミニウム化合物粒子のうち少なくとも何れかであるAl粒子(B)と、シランカップリング剤(C)と、溶剤(D)と、水(E)と、を含む金属系コート剤であり、
前記亜鉛粒子(A)と前記Al粒子(B)との合計である、(A)+(B)が前記金属系コート剤の全質量に対して10~51質量%であり、
前記Al粒子(B)に対する前記亜鉛粒子(A)の質量割合である、(A)/(B)が0.9~9.0であり、
前記(A)+(B)に対する前記シランカップリング剤(C)の割合である、(C)/((A)+(B))が10~50質量%であり、
前記溶剤(D)は、液体から気体への体積膨張率が500倍以下であり、
前記溶剤(D)と前記水(E)との合計に対する前記溶剤(D)の割合である、(D)/((D)+(E))が20~80質量%であり、
水溶性樹脂、水性樹脂エマルション、セルロース系樹脂、及び多糖類からなる群より選択される水性樹脂の含有量の合計が全質量に対して0.15質量%以下であ
り、
前記亜鉛粒子(A)は球状であり、平均粒子径は1~15μmである、
金属系コート剤。
【請求項2】
前記Al粒子(B)がアルミニウム粒子およびアルミニウム化合物粒子を含む、請求項
1に記載の金属系コート剤。
【請求項3】
前記シランカップリング剤(C)がエポキシ基を有するシランカップリング剤である、請求項1
又は2に記載の金属系コート剤。
【請求項4】
前記溶剤(D)が、ジプロピレングリコール、N-メチルピロリドン、エチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、イソプロピルアルコール、のうち少なくともいずれかである、請求項1~
3のいずれかに記載の金属系コート剤。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれかに記載の金属系コート剤により被塗物である金属基材の表面に皮膜が形成されてなり、
前記皮膜における亜鉛の含有量は、亜鉛原子換算で4g/m
2以上である、表面処理金属。
【請求項6】
被塗物の表面に請求項1~
4のいずれかに記載の金属系コート剤を塗装する塗装工程と、焼付工程と、を有する、表面処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属系コート剤、表面処理金属及び表面処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、犠牲防食効果を発揮する亜鉛等の金属粉末を防錆顔料として含む、金属系コート剤が知られている。金属系コート剤として、環境負荷低減等の観点から好ましい、水系の金属系コート剤が広く用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された技術は、金属系コート剤中に結合剤として水性樹脂エマルジョンを含むことで、形成される皮膜と基材との密着性を向上させることができるとされている。しかし、金属系コート剤中に樹脂成分が含まれることで、十分な犠牲防食効果が得られない課題がある。また、製造時において基材が高温である場合に樹脂が焼き付き、ヤニの発生や基材に焦げ色が発生するという課題もある。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、塗装時に基材が高温である場合であっても好ましい耐食性及び密着性を基材に付与でき、かつ高温焼き付け時の皮膜の焦げを抑制できる金属系コート剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1) 本発明は、亜鉛粒子(A)と、アルミニウム粒子及びアルミニウム化合物粒子のうち少なくとも何れかであるAl粒子(B)と、シランカップリング剤(C)と、溶剤(D)と、水(E)と、を含む金属系コート剤であり、前記亜鉛粒子(A)と前記Al粒子(B)との合計である、(A)+(B)が前記金属系コート剤の全質量に対して10~51質量%であり、前記Al粒子(B)に対する前記亜鉛粒子(A)の質量割合である、(A)/(B)が0.9~9.0であり、前記(A)+(B)に対する前記シランカップリング剤(C)の割合である、(C)/((A)+(B))が10~50質量%であり、前記溶剤(D)は、液体から気体への体積膨張率が500倍以下であり、前記溶剤(D)と前記水(E)との合計に対する前記溶剤(D)の割合である、(D)/((D)+(E))が20~80質量%であり、水溶性樹脂、水性樹脂エマルション、セルロース系樹脂、及び多糖類からなる群より選択される水性樹脂の含有量の合計が全質量に対して0.15質量%以下である、金属系コート剤に関する。
【0007】
(2) 前記亜鉛粒子(A)は球状であり、平均粒子径は1~15μmである、(1)に記載の金属系コート剤。
【0008】
(3) 前記Al粒子(B)がアルミニウム粒子およびアルミニウム化合物粒子を含む、(1)又は(2)に記載の金属系コート剤。
【0009】
(4) 前記シランカップリング剤(C)がエポキシ基を有するシランカップリング剤である、(1)~(3)のいずれかに記載の金属系コート剤。
【0010】
(5) 前記溶剤(D)が、ジプロピレングリコール、N-メチルピロリドン、エチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、イソプロピルアルコール、のうち少なくともいずれかである、(1)~(4)のいずれかに記載の金属系コート剤。
【0011】
(6) (1)~(5)のいずれかに記載の金属系コート剤により被塗物である金属基材の表面に皮膜が形成されてなり、前記皮膜における亜鉛の含有量は、亜鉛原子換算で4g/m2以上である、表面処理金属。
【0012】
(7) 被塗物の表面に(1)~(5)のいずれかに記載の金属系コート剤を塗装する、塗装工程と、焼付工程と、を有する、表面処理方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、塗装時に基材が高温である場合であっても好ましい耐食性及び密着性を基材に付与でき、かつ高温焼き付け時の皮膜の焦げを抑制できる金属系コート剤を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について説明する。本発明は以下の実施形態の記載に限定されない。
【0015】
<金属系コート剤>
本実施形態に係る金属系コート剤は、鉄等の基材表面上に皮膜を形成することで、基材に対して好ましい耐食性を付与できる。本実施形態に係る金属系コート剤は、水系コート剤であり、亜鉛粒子(A)と、アルミニウム粒子及びアルミニウム化合物粒子のうち少なくとも何れかであるAl粒子(B)と、シランカップリング剤(C)と、溶剤(D)と、水(E)と、を含む。
【0016】
(亜鉛粒子(A))
亜鉛粒子(A)は、防錆顔料成分であり、被塗物である基材に対してイオン化傾向が大きいことで基材よりも先に酸化し、犠牲防食効果を発揮する。亜鉛粒子(A)は、亜鉛を含む粒子であり、本明細書における亜鉛粒子(A)は、亜鉛単体、亜鉛を主成分とする亜鉛合金、又は酸化亜鉛を主として含む(即ち、亜鉛単体、上記亜鉛合金、及び酸化亜鉛の総量が50質量%以上である)金属粒子を意味する。亜鉛粒子(A)の形状は球状であることが好ましい。亜鉛粒子が球状であることで、金属系コート剤により形成される皮膜中で亜鉛粒子が密になりやすく、好ましい犠牲防食効果が得られる。上記の観点から、球状の亜鉛粒子の概念には、真球であるもの以外に、真球を変形させた楕円球状のものも含まれる。球状の亜鉛粒子は、その平均アスペクト比(平均長径/平均厚み)が2以下であることが好ましい。
【0017】
亜鉛粒子(A)の平均粒子径は、1μm~15μmであることが好ましい。亜鉛粒子(A)の平均粒子径が1μm未満である場合、金属系コート剤の調製時における作業性及び液安定性が低下する。また、形成される皮膜の密着性及び耐食性が低下する。亜鉛粒子(A)の平均粒子径が15μmを超える場合、亜鉛粒子(A)の単位質量当たりの表面積が低下するため、好ましい犠牲防食効果が得られない。上記の観点から、亜鉛粒子(A)の平均粒子径は、3μm~5μmであることがより好ましい。なお、上記平均粒子径は、体積基準の平均粒子径を意味し、レーザー回折・散乱法による粒子径分布測定装置にて測定することができる。亜鉛粒子(A)としては、市販品を用いることができ、具体的には、日本ペイント防食コーティングス株式会社製の亜鉛末シリーズ等を挙げることができる。
【0018】
(Al粒子(B))
Al粒子(B)は、アルミニウム粒子及びアルミニウム化合物粒子のうち少なくとも何れかである。Al粒子は、防錆顔料成分であり、Al粒子(B)が金属系コート剤に含有されることで、亜鉛粒子(A)と同様の犠牲防食効果が得られる。また、アルミニウム又はアルミニウム化合物が形成する酸化皮膜が基材を被覆することで、基材に含まれる鉄等や皮膜中の亜鉛の溶出が抑制されると考えられ、亜鉛粒子(A)の犠牲防食効果と上記被覆効果が相まって、より好ましい耐食性を基材に付与できる。また、基材に対して好ましい美観を付与できる。アルミニウム粒子を構成するアルミニウムとしては特に限定されず、アルミニウム単体であってもよいし、アルミニウム合金であってもよい。なお、本明細書におけるAl粒子(B)は、上記アルミニウム又はアルミニウム化合物を主として含む(即ち、上記アルミニウム又はアルミニウム化合物の総量が50質量%以上である)合金や金属粒子、アルミニウム化合物粒子を意味する。アルミニウム化合物粒子を構成するアルミニウム化合物としては特に限定されず、例えば、トリポリリン酸二水素アルミニウム、ポリリン酸亜鉛アルミニウム水和物、縮合リン酸アルミニウム等が挙げられる。アルミニウム化合物として、構造中にリン酸系化合物を含む上記リン酸アルミニウム系化合物を用いることで、リン酸系化合物と、基材に含まれる鉄又は皮膜に含まれる亜鉛とが不働態皮膜を形成するため、更に好ましい耐食性を基材に付与できる。Al粒子(B)は、パウダー状又はペースト状として市販されているものを用いることができる。
【0019】
防錆顔料成分である、亜鉛粒子(A)とAl粒子(B)との合計である(A)+(B)は、金属系コート剤の全質量に対して10~51質量%含有される。これにより、金属系コート剤により形成される皮膜は、基材に対して好ましい耐食性を付与できる。(A)+(B)が10質量%未満である場合、防錆顔料成分による犠牲防食効果が不十分となる。また、(A)+(B)が51質量%を超える場合、均一に皮膜が形成されず、密着性低下による耐食性低下が起こり、皮膜の十分な耐食性が得られない。上記の観点から、(A)+(B)は25~45質量%であることが好ましく、30~40質量%であることがより好ましい。
【0020】
Al粒子(B)に対する亜鉛粒子(A)の質量割合である、(A)/(B)は0.9~9.0である。(A)/(B)が0.9未満である場合、金属系コート剤に分離等が発生することによる液安定性低下が起こり、作業性が低下し、形成される皮膜の耐食性が低下する。(A)/(B)が9.0を超える場合、特に湿潤環境下において皮膜から亜鉛の溶出が進みやすくなり、亜鉛切れを起こすことで皮膜の耐食性が低下する。上記の観点から、(A)/(B)は2.0~7.5であることが好ましく、2.5~6.5であることがより好ましい。
【0021】
(シランカップリング剤(C))
シランカップリング剤(C)は、基材と防錆顔料成分、又は防錆顔料成分同士の架橋剤として機能し、金属系コート剤により形成される皮膜と基材との密着性を向上させる。また、シランカップリング剤(C)は、上記に加えて、金属系コート剤中に含まれる亜鉛粒子(A)を安定化させる効果を有する。従来の金属系コート剤中には、亜鉛粒子を安定化させるために、ホウ酸、モリブデン酸等の酸性成分が含まれる場合がある。しかし、本実施形態に係る金属コート剤は、シランカップリング剤(C)により亜鉛粒子(A)を安定化できるため、ホウ酸、モリブデン酸等の酸性成分を含まずに金属系コート剤を構成できる。シランカップリング剤(C)の種類は特に限定されないが、例えば、ビニルメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、N-(1,3-ジメチルブチリデン)-3-(トリエトキシシリル)-1-プロパンアミン、N,N’-ビス〔3-(トリメトキシシリル)プロピル〕エチレンジアミン、N-(β-アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、N-〔2-(ビニルベンジルアミノ)エチル〕-3-アミノプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。また、シランカップリング剤(C)としては、上記以外にアルコキシシリル基と、エポキシ基、アクリル基等の反応性官能基と、を共に有するシリコーン化合物を用いてもよい。中でも、好ましい液安定性を有することから、エポキシ基を含有するシランカップリング剤を用いることが好ましい。
【0022】
シランカップリング剤(C)としては、オリゴマータイプのシランカップリング剤を用いてもよい。オリゴマータイプのシランカップリング剤とは、有機性官能基とアルコキシシリル基を併せ持つ、例えば2~20量体からなる比較的低分子の多量体である。上記オリゴマータイプのシランカップリング剤は、公知の方法により製造してもよいし、市販品として入手してもよい。市販品としては、例えば、「KR-516」、「KR-517」、(上記いずれも商品名:信越化学工業株式会社製)等が挙げられる。なお、本明細書において、「樹脂」の概念には上記のシランカップリング剤(C)は含まれないものとする。上記シランカップリング剤(C)は、単独で用いてもよいし、複数を併用して用いてもよい。
【0023】
シランカップリング剤(C)の含有量は、防錆顔料成分である、亜鉛粒子(A)とAl粒子(B)との合計である(A)+(B)に対して10~50質量%である。シランカップリング剤(C)の上記含有量が10質量%未満である場合、形成される皮膜と基材との十分な密着性が得られない。上記含有量が50質量%を超える場合、シランカップリング剤(C)が上記防錆顔料成分による犠牲防食効果を阻害するため、形成される皮膜の十分な耐食性が得られない。上記の観点から、シランカップリング剤(C)の上記含有量は15~40質量%であることが好ましく、18~30質量%であることがより好ましい。
【0024】
シランカップリング剤(C)の含有量は、防錆顔料成分である、亜鉛粒子(A)の含有量に対して15~45質量%であることが好ましく、20~35質量%であることがより好ましい。これにより、金属コート剤中で亜鉛粒子(A)をシランカップリング剤(C)により安定化できる。
【0025】
(溶剤(D))
溶剤(D)は、水(E)と共に、亜鉛系コート材の各成分を溶解又は分散させる溶媒として機能する。溶剤(D)は、金属系コート剤に含有されることで、液安定性に寄与する。また、金属系コート剤により形成される皮膜の造膜性を向上させ、より均一で平滑な皮膜を形成させる。また、塗装時に基材が高温である場合に、ライデンフロスト現象により金属系コート剤が基材からはじかれることを抑制する。溶剤(D)は、水溶性の有機化合物であり、液体から気体への体積膨張率が500倍以下である。これにより、溶媒としての水が気化した際の体積膨張を低減し、ライデンフロスト現象の影響を低減できる。
【0026】
上記体積膨張率は、理想気体の状態方程式(PV=nRT)を用い、液体状態の溶剤(D)1gに対する、気体状態の溶剤(D)の沸点時の体積V1(P=1atm)を求め、V1に対する液体状態の溶剤(D)の体積V2に対する比(V1/V2)として算出される。なお、V2は溶剤(D)の密度(20℃)より算出される。溶剤(D)としては、上記条件を満たすものであれば特に限定されないが、例えば、ジプロピレングリコール(体積膨張率316倍)、N-メチルピロリドン(体積膨張率406倍)、エチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル(体積膨張率192倍)、イソプロピルアルコール(体積膨張率382倍)等が挙げられる。溶剤(D)としては、ジプロピレングリコールを用いることが好ましい。これらは単独で、又は複数を併用して用いることができる。溶剤(D)として複数の溶剤を併用する場合、溶剤(D)は、ジプロピレングリコールを含む複数の溶剤(D)であることが好ましい。即ち、溶剤(D)は、少なくともジプロピレングリコールを含む1種以上の溶剤であることが好ましい。
【0027】
溶剤(D)の含有量は、溶剤(D)と水(E)との合計に対する割合である(D)/((D)+(E))が20~80質量%である。(D)/((D)+(E))が20質量%未満である場合、ライデンフロスト現象を低減する効果が十分に得られず、塗装性が低下する。(D)/((D)+(E))が80質量%を超える場合、皮膜中に溶剤が残存し、密着性及び耐食性が低下する。上記の観点から、(D)/((D)+(E))は30~70質量%であることが好ましく、40~65質量%であることがより好ましい。
【0028】
(その他の成分)
金属系コート剤には、必要に応じて上記以外の成分が含まれていてもよい。例えば、防錆顔料成分として、亜鉛及びアルミニウム以外のマグネシウム等の金属が含まれていてもよい。また、公知の防錆顔料としてシリカ系防錆顔料等が含まれていてもよい。また、必要に応じて体質顔料、着色顔料、染料等の公知の塗料用添加剤を添加してもよい。なお、本実施形態に係る金属系コート剤は、好ましい液安定性を有するため、ホウ酸、モリブデン酸等の酸性成分が含まれていなくてもよいが、含まれていてもよい。
【0029】
金属系コート剤は、必要に応じて、上記溶剤(D)以外の溶剤を含んでもよい。但し溶剤(D)以外の溶剤を含む場合の含有量は、本発明の効果を損なわない範囲であることを条件とする。
【0030】
また、本実施形態に係る金属系コート剤は、実質的に樹脂を含有しないことが好ましい。なお、実質的に樹脂を含有しない、とは、本明細書中において、水溶性樹脂、水性樹脂エマルション、セルロース系樹脂、及び多糖類からなる群より選択される水性樹脂の含有量の合計が全質量に対して0.15質量%以下であることを意味する。上記水性樹脂の含有量の合計は、0.10質量%以下であることが好ましく、0.05質量%以下であることが更に好ましい。
【0031】
なお、上記セルロース系樹脂、とは、セルロースを含む樹脂であり、例えば、アルキル基含有セルロース、ヒドロキシ基含有セルロース、カルボキシ基含有セルロース、及びこれらの誘導体が挙げられる。上記セルロース系樹脂の具体例としては、例えば、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、メチルヒドロキシプロピルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、メチルエチルセルロース、酢酸セルロース、硝酸セルロース、リン酸セルロース等の無機酸エステル、アセチル化ヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロースエーテルエステル等が挙げられる。上記多糖類とは、上記セルロース系樹脂以外の多糖類及びその誘導体を意味する。
【0032】
上記金属系コート剤の調製方法としては、特に制限されず、例えば前述の成分を配合し混合する公知の方法を用いることができる。
【0033】
<表面処理金属>
本実施形態に係る金属系コート剤により、被塗物である金属基材の表面に皮膜が形成されることで、表面処理金属が生成される。上記金属基材としては、特に限定されないが、例えば、鉄系基材が挙げられる。上記鉄系基材としては、特に限定されないが、例えば、冷延鋼板、軟鋼板、高張力鋼板等が挙げられる。
【0034】
本実施形態に係る表面処理金属に形成される皮膜は、皮膜中における亜鉛の含有量が、亜鉛原子換算で4g/m2以上であることが好ましい。これにより、被塗物である金属基材に対し、好ましい耐食性を付与できる。上記亜鉛の含有量は、7g/m2以上であることがより好ましい。
【0035】
<表面処理方法>
本実施形態に係る金属系コート剤を用いて、金属基材を処理する表面処理方法は、塗装工程と、焼付工程と、を含む。
【0036】
(塗装工程)
塗装工程は、上記金属基材の表面に本実施形態に係る金属系コート剤を塗装する工程である。塗装方法としては、特に限定されず公知の方法を用いることができ、例えば、エアスプレー、エアレススプレー、静電スプレー、刷毛塗り、バーコーター、ロールコーター、カーテンフローコーター等の方法が挙げられる。塗装工程において、被塗物が250℃~450℃に加熱された状態で金属系コート剤の塗装が行われてもよい。本実施形態に係る金属系コート剤は、ライデンフロスト現象の影響を低減できるため、被塗物が250℃~450℃の高温状態であっても好ましく塗装を行うことができる。
【0037】
(焼付工程)
焼付工程は、塗装工程により金属系コート剤を金属基材の表面に塗布した後、被塗物を加熱して皮膜を形成する工程である。焼付温度(被塗物である金属基材の最高温度)は、例えば250℃~450℃とすることができる。従来の金属系コート剤の焼付温度は250℃未満であることが多いが、本実施形態に係る金属系コート剤は、被塗物が高温である場合においても好ましく防食性に優れた被膜を形成できる。このように高温になる被塗物としては、例えば、他の表面に溶融亜鉛メッキ等のメッキ処理がされる鋼板等が挙げられる。焼付時間は、例えば8秒~300秒とすることができる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例に基づいて本発明の内容を更に詳細に説明する。本発明の内容は以下の実施例の記載に限定されない。
【0039】
(実施例1)
表1に示すように、亜鉛粒子(A)として以下に示すZN-Aを用い、アルミニウム粒子(B)-1として以下に示すAL-Aを用い、アルミニウム化合物粒子(B)-2として以下に示すALX-Aを用い、シランカップリング剤(C)として以下に示すSI-Aを用い、溶剤(D)として以下に示すS-Aを用いた。各成分を混合させて実施例1の金属系コート剤を調製した。配合量は表1に示す通りである。なお、表1及び表2に示す各成分の配合量は質量部を意味する。
【0040】
(実施例2~27、29~37、参考例28、比較例1~10)
各成分の配合量を表1及び表2に示すものとし、実施例1と同様に上記実施例、参考例、及び比較例の金属系コート剤を調製した。表1及び表2に記号で示す各成分の種類について以下に示す。
【0041】
(亜鉛粒子(A))
ZN-A:微粒子亜鉛末LS-4(平均粒子径4.0μm、日本ペイント防食コーティングス株式会社製)
ZN-B:微粒子亜鉛末LS-5(平均粒子径5.0μm、日本ペイント防食コーティングス株式会社製)
ZN-C:亜鉛末F-500(平均粒子径7.0μm、本荘ケミカル株式会社製)
ZN-D:微粒子亜鉛末LS-10(平均粒子径10.0μm、日本ペイント防食コーティングス株式会社製)
ZN-E:亜鉛末F-2000(平均粒子径4.0μm、本荘ケミカル株式会社製)
ZN-F:微粒子亜鉛末MCS(平均粒子径8.0μm、日本ペイント防食コーティングス株式会社製)
ZN-G:酸化亜鉛2種(平均粒子径0.6μm、堺化学株式会社製)
【0042】
(アルミニウム粒子(B)-1)
AL-A:WM-2025(アルミニウム粒子、東洋アルミニウム株式会社製)
AL-B:WL-Z465(アルミニウム粒子、東洋アルミニウム株式会社製)
AL-C:6320NS(アルミニウム粒子、東洋アルミニウム株式会社製)
AL-D:EMR-D7670(アルミニウム粒子、東洋アルミニウム株式会社製)
【0043】
(アルミニウム化合物粒子(B)-2)
ALX-A:Heucophos(登録商標) ZAPP(ポリリン酸亜鉛アルミニウム水和物、ホイバッハジャパン株式会社製)
ALX-B:K-WHITE#82(縮合リン酸アルミニウム、テイカ株式会社製)
ALX-C:K-WHITE G105(縮合リン酸アルミニウム、テイカ株式会社製)
ALX-D:NP-1102(亜リン酸アルミニウム、東邦顔料工業株式会社製)
ALX-E:NP-1162(亜リン酸アルミニウム、東邦顔料工業株式会社製)
【0044】
(シランカップリング剤(C))
SI-A:KBM-403(3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、信越化学工業株式会社製)
SI-B:KBE-403(3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、信越化学工業株式会社製)
SI-C:KR-516(エポキシ基含有シリコーンアルコキシオリゴマー、信越化学工業株式会社製)
SI-D:KBM-603(N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、信越化学工業株式会社製)
SI-E:KBM-903(3-アミノプロピルトリメトキシシラン、信越化学工業株式会社製)
【0045】
(溶剤(D)
S-A:ジプロピレングリコール(AGC株式会社製、体積膨張率316倍)
S-B:N-メチルピロリドン(三菱ケミカル株式会社製、体積膨張率406倍)
S-C:ブチセロ(エチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、KHネオケム株式会社製、体積膨張率192倍)
S-D:イソプロピルアルコール(昭栄化学工業株式会社製、体積膨張率382倍)
S-E:エチレングリコール(三菱ケミカル株式会社製、体積膨張率694倍)
【0046】
(樹脂)
セロゲンBSH-6(セルロース系樹脂、第一工業製薬社製)
【0047】
上記実施例、参考例、及び比較例の金属系コート剤を用いて、冷延鋼板を被塗物として、バーコーターで塗装を行った。被塗物である基材の温度は室温とした。その後、表3及び表4に示す焼付温度で60秒、焼付を行い、実施例、参考例、及び比較例の表面処理金属の試験板を作成した。なお、表3及び表4における皮膜Zn量は、皮膜中における亜鉛原子換算の亜鉛の含有量を、単位面積当たりの質量である、g/m2で示した数値である。実施例24は、基材温度を350℃とし、エアレススプレーで塗装を行った。
【0048】
【0049】
【0050】
[ハジキ評価]
上記により得られた各実施例、参考例、及び比較例の金属系コート剤を用いて、ハジキ評価を行った。評価は350℃に熱した冷延鋼板に各実施例、参考例、及び比較例の金属系コート剤をエアレススプレーにより皮膜における亜鉛の含有量が亜鉛原子換算で8g/m2となるように塗装し、ハジキ(ライデンフロスト現象により塗装した金属系コート剤の液滴が基材表面に間欠的にしか触れられず、塗着しない状態)の有無を目視観察することで行った。以下の基準により評価を行い、2を合格とした。結果を表3及び表4に示す。
2:金属系コート剤のハジキが目視で観察されない
1:金属系コート剤のハジキが目視で観察された
【0051】
[密着性評価]
上記により得られた各実施例、参考例、及び比較例の表面処理金属の試験板を用いて、密着性評価を行った。評価はテープ剥離試験により、JIS K 5600 5-6に準拠して行った。以下の基準により評価を行い、2以上を合格とした。結果を表3及び表4に示す。
3:剥離無し
2:基材と皮膜との界面からの剥離無し
1:基材と皮膜との界面からの剥離有り
【0052】
[耐食性評価]
上記により得られた各実施例、参考例、及び比較例の表面処理金属の試験板を用いて、JIS H 8502に規定される複合サイクル試験(CCT)を30サイクル実施した。その後、以下の基準により評価を行い、3以上を合格とした。結果を表3及び表4に示す。
4:CCT30サイクル後に、赤錆発生が観察されない
3:赤錆発生までCCT15サイクル以上、CCT30サイクル未満
2:赤錆発生までCCT9サイクル以上、CCT15サイクル未満
1:赤錆発生までCCT9サイクル未満
【0053】
[焦げ性]
以下の方法により焦げ性の評価を行った。各実施例、参考例、及び比較例の金属系コート剤を、室温状態の冷延鋼板を被塗物としてバーコーター(No.28)で塗装し、350℃で60秒間加熱して焼付を行った。その際の皮膜の状態を、目視観察により、以下の基準に基づいて評価した。評価2を合格とした。結果を表3及び表4に示す。
2:焦げ無し
1:焦げあり
【0054】
【0055】
【0056】
表3及び表4の結果から、各実施例に係る金属系コート剤は、比較例に係る金属系コート剤と比較して、焼付温度が高温である場合においても、金属系コート剤のハジキが発生せず、好ましい塗装性が得られ、かつ、金属基材に好ましい密着性及び耐食性を付与できることが確認された。また、各実施例に係る金属系コート剤は、高温焼き付け時の皮膜の焦げを抑制できることが確認された。
【要約】
基材が高温である場合であっても好ましい耐食性及び密着性を基材に付与できる金属系コート剤を提供すること。
亜鉛粒子(A)とAl粒子(B)との合計である、(A)+(B)が金属系コート剤の全質量に対して10~51質量%であり、Al粒子(B)に対する亜鉛粒子(A)の質量割合である、(A)/(B)が0.9~9.0であり、(A)+(B)に対するシランカップリング剤(C)の割合である、(C)/((A)+(B))が10~50質量%であり、溶剤(D)は、液体から気体への体積膨張率が500倍以下であり、溶剤(D)と水(E)との合計に対する溶剤(D)の割合である、(D)/((D)+(E))が20~80質量%であり、水溶性樹脂、水性樹脂エマルション、セルロース系樹脂、及び多糖類からなる群より選択される水性樹脂の含有量の合計が全質量に対して0.15質量%以下である、金属系コート剤。