(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-19
(45)【発行日】2022-10-27
(54)【発明の名称】耐欠損性にすぐれたWC基超硬合金製切削工具および表面被覆WC基超硬合金製切削工具
(51)【国際特許分類】
C22C 29/08 20060101AFI20221020BHJP
B22F 7/00 20060101ALI20221020BHJP
B23B 27/14 20060101ALI20221020BHJP
B23C 5/16 20060101ALI20221020BHJP
C22C 1/05 20060101ALI20221020BHJP
【FI】
C22C29/08
B22F7/00 G
B23B27/14 A
B23B27/14 B
B23C5/16
C22C1/05 G
(21)【出願番号】P 2019026945
(22)【出願日】2019-02-18
【審査請求日】2021-09-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100139240
【氏名又は名称】影山 秀一
(74)【代理人】
【識別番号】100113826
【氏名又は名称】倉地 保幸
(74)【代理人】
【識別番号】100204526
【氏名又は名称】山田 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100208568
【氏名又は名称】木村 孔一
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 誠
(72)【発明者】
【氏名】河原 佳祐
(72)【発明者】
【氏名】市川 龍
(72)【発明者】
【氏名】岡田 一樹
【審査官】松村 駿一
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-020541(JP,A)
【文献】特開2009-172697(JP,A)
【文献】特開平10-110233(JP,A)
【文献】特開2009-035810(JP,A)
【文献】特開2009-024214(JP,A)
【文献】米国特許第04923512(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 29/08
B22F 7/00
B23B 27/14
B23C 5/16
C22C 1/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
WC基超硬合金を基体とするWC基超硬合金製切削工具において、
前記WC基超硬合金の成分組成は、結合相形成成分としてのCoを6~14質量%とCr
3C
2を0.1~1.4質量%含有し、残部はWC及び不可避不純物からなり、前記WC基超硬合金の断面について測定した結合相粒子の個数積算10%粒度における粒子面積をA10としたとき、A10以下の面積を有する微細結合相粒子の平均真円度が0.3~0.6の範囲内であることを特徴とするWC基超硬合金製切削工具。
【請求項2】
前記WC基超硬合金は、TaC、NbC、TiC、ZrCおよびVCのうちから選ばれる少なくとも1種以上を合計量で4質量%以下、さらに含有することを特徴とする請求項1に記載のWC基超硬合金製切削工具。
【請求項3】
請求項1または2に記載のWC基超硬合金製切削工具の少なくとも切れ刃には、硬質被覆層が形成されていることを特徴とする表面被覆WC基超硬合金製切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合金鋼等の断続切削加工において、すぐれた耐欠損性を示すWC基超硬合金製切削工具(「WC基超硬工具」ともいう)および表面被覆WC基超硬合金製切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
WC基超硬合金は硬さが高く、また、靱性を備えることから、これを基体とするWC基超硬工具は、すぐれた耐摩耗性を発揮し、また、長期の使用にわたって長寿命を有する切削工具として知られている。
しかし、近年、被削材の種類、切削加工条件等に応じて、WC基超硬工具の切削性能、工具寿命をより一段と向上させるべく、各種の提案がなされている。
【0003】
例えば、特許文献1では、炭化タングステンを主成分とする硬質相と、鉄族元素(コバルトを含み、コバルトの含有量は超硬合金中において8質量%以上であることが好ましい)を主成分とする結合相とを備える超硬合金において、炭化タングステンの粒子数をA、他の炭化タングステン粒子との接触点の点数が1点以下の炭化タングステン粒子の粒子数をBとするとき、B/A≦0.05を満たすようにすることで、超硬合金の耐塑性変形性を向上させ、その結果として、炭素鋼、ステンレス鋼の湿式連続切削加工において、WC基超硬工具の長寿命化を図ることが提案されている。
【0004】
特許文献2では、Co量が10~13質量%、Co量に対するCr量の比が2~8%、TaCとNbCの少なくとも1種をTaCとNbCの総量が0.2~0.5質量%となる範囲で含有し、残部がWCから成り、硬さが88.6HRA~89.5HRAであるWC基超硬工具において、研磨面上の面積比におけるWC積算粒度80%径D80と積算粒度20%径D20の比D80/D20を2.0≦D80/D20≦4.0の範囲とし、また、D80を4.0~7.0μmの範囲とし、かつWC接着度cを0.36≦c≦0.43とすることにより、ステンレス鋼に代表される難削材の切削加工において、被削材の凝着を防止し耐欠損性を向上させることが提案されている。
【0005】
特許文献3では、WC基超硬工具において、WC基超硬合金の成分組成を、WC-x質量%Co-y質量%Cr3C2-z質量%VCで表したとき、6≦x≦14、0.4≦y≦0.8、0≦z≦0.6、(y+z)≦0.1xを満足し、また、WC基超硬合金のWC接着度Cを、C=1-Vb
α・exp(0.391・L)で表したとき、この式におけるWC基超硬合金の結合相体積率の値Vbは0.11≦Vb≦0.25、また、(WC粒子の粒度分布の標準偏差)/(平均WC粒度)の値Lは0.3≦L≦0.7の範囲内であって、さらに、係数αが0.3≦α≦0.55の値を満足するWC接着度Cを有するWC基超硬合金とすることにより、Al合金、炭素鋼等の切削加工において、硬さと剛性を低下させることなく靱性を向上させ、耐欠損性を高めたWC基超硬工具が提案されている。
【0006】
特許文献4では、WC基超硬工具において、WC-WC接着界面長さをL1とし、WC-Co接着界面長さをL2とした時、
R>(0.82-0.086×D)×(10/V)
の式を満足させることにより、Ni基耐熱合金の切削加工において、WC基超硬工具の耐熱塑性変形性と靱性を向上させることが提案されている。
なお、R=(L1)/((L1)+(L2))
D:WC面積平均粒径(μm)であって、0.6≦D≦1.7の範囲である。
ここで、前記Dは、WCの面積率が50%となるときのWCの粒径をいう。
V:結合相体積(vol%)であって、9≦V≦14の範囲である。
【0007】
特許文献5では、重量%で、Crまたは/およびCr化合物:0~4%(Cr換算で)、Vまたは/およびV化合物:0~4%(V換算で)、TaC:0~2%、TiC:0~2%、
Nまたは/およびN化合物:0~1%(N換算で)、Co:0.1~10%、WCおよび不可避不純物:残からなる組成を有し、かつ、0.06~30ナノメータのCo平均厚み(CFP)を有し、焼結に際し、昇温途中900度C~1600度Cの温度範囲の1部または全範囲において、気体を圧力媒体として3気圧~200気圧の圧力を負荷して高密度化を図った切削加工工具用WC-Co系超硬部品が提案されており、このWC-Co系超硬部品、望ましくは、WCの平均粒径が1μm以下、CFPが0.06~30nmの範囲の超微粒低Co超硬合金部品の靱性を高めることができるとされている。
ただし、CFPは、Co平均厚み(nm)であって、
CFP=0.58*A/(100-A)*R
から算出した値であり、A:Co(%),2R:WC平均粒径(nm)である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第6256415号公報
【文献】特開2017-88999号公報
【文献】特開2017-148895号公報
【文献】特開2017-179433号公報
【文献】特開平7-305136号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前記特許文献1~5で提案されている従来のWC基超硬工具によれば、WC-WC粒子相互の接触点数、WCの粒度、WC接着度あるいは製造条件等をコントロールすることによって、WC基超硬工具の切削性能、工具特性の向上を図っている。
しかし、前記従来の工具では、合金鋼のエンドミル加工のような断続切削加工においては、WC-WC粒子の界面でのクラック伸展、あるいは、結合相への応力集中による亀裂の発生等により、欠損の発生を十分に抑制することができず、そのため、工具寿命は短命であった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、合金鋼のエンドミル加工のような断続切削加工において、すぐれた耐欠損性を発揮するWC基超硬工具を開発すべく、WC基超硬合金の結合相の形態に着目し、鋭意研究を進めたところ、次のような知見を得た。
【0011】
前記特許文献1~4に示されるWC基超硬工具においては、主として、WC粒子に着目した改善がなされ、また、前記特許文献5に示されるWC基超硬工具においては、主として、CFPに着目した改善がなされていたが、本発明者らは、従来の技術とは視点を変えて、結合相の形態に着目して研究を重ねたところ、WC基超硬合金の微細結合相粒子(主体は、Co粒子である)について、焼結条件を調整することによって、その真円度が0.3~0.6の範囲内となるようにした場合には、WC基超硬合金の焼結時に結合相粒子がWC粒子の周囲に回り込み、WC基超硬合金中において結合相が均一に存在するようになりWC基超硬合金の靱性が向上し、切削加工時の負荷による亀裂の発生、あるいは、発生した亀裂がWC基超硬合金中を伝播・進展することが抑制されるため、欠損の発生が抑制されること、また、WC基超硬合金中においてWC粒子の凝集体が少なくなることから、これを起点とする欠損発生が低減することを見出した。
つまり、WC基超硬合金の結合相のうちの微細結合相粒子について、その真円度を0.3~0.6の範囲内に定めたWC基超硬工具を、合金鋼等の断続切削加工に供した場合には、靱性の向上、耐欠損性の向上によって、工具の長寿命化が図られることを見出したのである。
【0012】
本発明は、上記知見に基づいてなされたものであって、
「(1)WC基超硬合金を基体とするWC基超硬合金製切削工具において、
前記WC基超硬合金の成分組成は、結合相形成成分としてのCoを6~14質量%とCr3C2を0.1~1.4質量%含有し、残部はWC及び不可避不純物からなり、前記WC基超硬合金の断面について測定した結合相粒子の個数積算10%粒度における粒子面積をA10としたとき、A10以下の面積を有する微細結合相粒子の平均真円度が0.3~0.6の範囲内であることを特徴とするWC基超硬合金製切削工具。
(2)前記WC基超硬合金は、TaC、NbC、TiC、ZrC及びVCのうちから選ばれる少なくとも1種以上を合計量で4質量%以下、さらに含有することを特徴とする(1)に記載のWC基超硬合金製切削工具。
(3)(1)または(2)に記載のWC基超硬合金製切削工具の少なくとも切れ刃には、硬質被覆層が形成されていることを特徴とする表面被覆WC基超硬合金製切削工具。」
を特徴とするものである。
なお、前記(1)、(2)におけるCr3C2、TaC、NbC、TiC、ZrC、VCの含有量は、WC基超硬合金の断面について測定したCr量、Ta量、Nb量、Ti量、Zr量、V量を、いずれも炭化物換算した数値である。
【発明の効果】
【0013】
本発明のWC基超硬工具および表面被覆WC基超硬合金製切削工具は、その基体を構成するWC基超硬合金の成分であるCo、Cr3C2、あるいはさらに、TaC、NbC、TiC、ZrC、VCが特定の組成範囲を有し、また、WC基超硬合金における結合相粒子の個数積算10%粒度における粒子面積をA10としたとき、A10以下の面積を有する微細結合相粒子の平均真円度が0.3~0.6の範囲であることから、WC基超硬合金中のWC粒子の周囲には結合相粒子が回り込み、結合相が均一に存在するようになることから、WC基超硬合金の靱性の向上が図られ、その結果、切削加工時の負荷による亀裂の発生、あるいは、発生した亀裂がWC基超硬合金中を伝播・進展することが抑制されるため、耐欠損性が向上する。
また、WC基超硬合金中においてWC粒子の凝集体が少なくなることから、これを起点とする欠損発生も低減される。
したがって、本発明のWC基超硬工具および表面被覆WC基超硬合金製切削工具は、合金鋼のエンドミル加工等の断続切削加工において、靱性の向上、耐欠損性の向上により、工具の長寿命化が図られる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0015】
Co:
Coは、WC基超硬合金の主たる結合相形成成分として含有させるが、Co含有量が6質量%未満では十分な靱性を保持することはできず、一方、Co含有量が14質量%を超えると急激に軟化し、切削工具として必要とされる所望の硬さが得られず、変形および摩耗進行が顕著になることから、WC基超硬合金中のCo含有量を6~14質量%と定めた。
【0016】
Cr3C2:
Cr3C2は、主たる結合相を形成するCo中にCrが固溶し、硬質相を形成するWC相の成長を抑制して、WC相の粒径を微細化させ、WC基超硬合金を微粒・均粒組織とし、靱性を高める。しかし、この作用は、Cr3C2含有量が、0.1質量%未満では不充分であり、一方、その含有量がCoの含有量に対し10%を超えると、CrとWの複合炭化物を析出し、靱性が低下し、また、欠損発生の起点となる。
本発明においてはCo含有量上限が14質量%であるため、Cr3C2の上限はCo含有量上限の10%である1.4質量%である。
したがって、WC基超硬合金中のCr3C2含有量は、0.1~1.4質量%と定めた。
【0017】
TaC、NbC、TiC、ZrC、VC:
本発明のWC基超硬合金は、その成分として、さらに、TaC、NbC、TiC、ZrC及びVCのうちから選ばれる少なくとも1種以上を合計量で4質量%以下、さらに含有することができる。
Ta、Nb、Ti、Zr、Vはいずれも、主たる結合相を形成するCo中に固溶して硬さを高める効果を有するが、それらを炭化物換算した合計含有量が4質量%を超えると、炭化物析出により靱性を低下させ、欠損発生の起点となる。
したがって、WC基超硬合金中の成分としてTaC、NbC、TiC、ZrC及びVCのうちから選ばれる少なくとも1種以上を含有させる場合には、その合計含有量は、4質量%以下とすることが望ましい。
なお、前記したCr3C2、TaC、NbC、TiC、ZrC、VCの含有量は、WC基超硬合金についてEPMAによって測定したCr量、Ta量、Nb量、Ti量、Zr量、V量を、いずれも炭化物換算した数値である。
【0018】
微細結合相粒子の平均真円度(Circularity):
本発明でいうWC基超硬合金の微細結合相粒子の平均真円度とは、WC基超硬合金の断面について、走査型電子顕微鏡(SEM)を使用した観察によって特定した個々の微細結合相粒子の真円度を求め、求めた真円度を平均した値をいう。
ここで、微細結合相粒子とは、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、倍率3000~4000倍でWC基超硬合金の断面を観察して、結合相(Coを主成分とする相)のコントラストが他の相のコントラストから明確に分離可能なSEM像を取得し、これを画像処理して個々の結合相粒子の面積と個数を求め、結合相粒子の面積を横軸とし、また、結合相粒子の個数を縦軸とし、結合相面積の小さい粒子から個数を積み上げた累積分布を作成し、個数積算10%における粒子面積をA10とした場合に、A10以下の面積を有する結合相粒子を微細結合相粒子いう。
そして、微細結合相粒子の真円度については、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、倍率3000~4000倍でWC基超硬合金の断面を観察してSEM像を取得し、該SEM像における微細結合相粒子を特定して抽出し、画像解析ソフトImageJを用いて測定することにより、個々の微細結合相粒子の真円度を求めることができる。
【0019】
より具体的に説明すれば、次のとおり。
WC基超硬合金の断面の1つの観察視野においてn個の微細結合相粒子が特定された場合、個々の微細結合相粒子に番号1からnを付与し、番号1~nの微細結合相粒子の面積をそれぞれA1~Anとし、また、番号1~nの微細結合相粒子の周長をL1~Lnとした時、番号mの微細結合相粒子の真円度Cmは、
Cm=4π×Am/Lm
2
で定義される。
そして、m=1~nとしてC1~Cnの値を求め、さらに、これらC1~Cnの平均値C1~nを求め、このC1~nが前記1つの観察視野における微細結合相粒子の真円度となる。
そして、複数の観察視野(例えば、10ヶ所の観察視野)で、それぞれの観察視野における微細結合相粒子の真円度を求め、これらを平均した値を、本発明でいうWC基超硬合金の断面の微細結合相粒子の平均真円度とする。
真円度の定義からも明らかなように、真円度あるいは平均真円度の値が1に近いほど、WC基超硬合金の微細結合相粒子の形状は真円に近づき、一方、この値が0に近づくにつれ、微細結合相粒子の形状は円ではなく細長形状になっていくので、真円度あるいは平均真円度の値は、WC基超硬合金中における微細結合相粒子の形状の指標であるといえる。
【0020】
本発明においては、微細結合相粒子の平均真円度を0.3~0.6の範囲内としているが、これは次の理由による。
WC基超硬合金中における微細結合相粒子の平均真円度が0.3未満では、WC粒子の周囲への微細結合相粒子の回り込みは多くなるが、その一方で、WC-WC粒子同士の接触界面長さが短くなるとともに、微細結合相粒子の先端部での応力集中の発生により、耐塑性変形性が低下し、さらに、微細結合相粒子の先端部に空隙が形成されやすくなり、この空隙は、WC基超硬工具の変形、破壊の起点となるため、靱性、耐欠損性等が低下する。
一方、微細結合相粒子の平均真円度が0.6を超えると、WC粒子の周囲への微細結合相粒子の回り込みが不十分となるため、靱性が低下し、欠損等の異常損傷が発生しやすくなる。
したがって、本発明においては、微粒結合相粒子の平均真円度は0.3~0.6の範囲内とする。
そして、これによって、合金鋼のエンドミル加工等の断続切削加工において、靱性が向上することで、欠損の発生が抑制され、切削工具の長寿命化を図ることができる。
【0021】
本発明のWC基超硬工具は、例えば、以下の工程によって作製することができる。
まず、所定の平均粒径のWC粉末、Co粉末、Cr3C2粉末からなる原料粉末、あるいは、必要に応じて、さらに、TaC粉末、NbC粉末、TiC粉末、ZrC粉末、VC粉末のうちの1種以上の粉末を含有する原料粉末を、所定の組成になるように配合・混合して、混合粉末を作製する。
ついで、前記混合粉末を成形して圧粉成形体を作製し、この圧粉成形体を、真空雰囲気中で、結合相の液相出現温度(圧粉成形体の組成等に依存するが、概ね1300~1360℃)を挟んで、昇温及び降温を約10~30回程度繰り返す工程(以下、サイクル工程と称す)を行い、次いで1360~1500℃の温度で所定時間保持することにより焼結を行い、WC基超硬合金を作製する。
結合相の液相出現温度を挟んで昇温と降温を繰り返す条件のサイクル工程を行うことにより、WC粒子間に平均真円度が0.3~0.6のCoを主成分とする微細結合相粒子が形成される。
ついで、前記WC基超硬合金を、機械加工、研削加工し、所望サイズ・形状のWC基超硬工具を作製することができる。
【0022】
前記の工程で作製されたWC基超硬工具においては、WC基超硬合金の微細結合相粒子の平均真円度が0.3~0.6の範囲となり、WC粒子の周囲に結合相が回り込んで、WC基超硬合金中において結合相が均一に存在するようになる。
その結果、WC基超硬合金の靱性が向上し、切削加工時の負荷による亀裂の発生、あるいは、発生した亀裂がWC基超硬合金中を伝播・進展することが抑制されるため、耐折損性が向上する。
さらに、WC粒子の凝集体が少なくなることから、これを起点とする欠損発生が低減される。
【0023】
また、前記WC基超硬工具の少なくとも切れ刃に、Ti-Al系、Al-Cr系等の炭化物、窒化物、炭窒化物あるいはAl2O3等の硬質皮膜を、PVD、CVD等の成膜法により被覆形成することにより、表面被覆WC基超硬合金製切削工具を作製することができる。
なお、表面被覆WC基超硬合金製切削工具の作製にあたり、硬質皮膜の種類、成膜法は、当業者に既によく知られている膜種、成膜手法を採用すればよく、特に、制限するものではない。
【0024】
本発明のWC基超硬工具および表面被覆WC基超硬工具について、実施例により具体的に説明する。
【実施例】
【0025】
≪本発明のWC基超硬工具≫
(a)まず、焼結用の粉末として、表1に示す平均粒径(d50)0.8~4.0μmのWC粉末、同じく表1に示す平均粒径(d50)1.0~3.0μmのCo粉末、Cr3C2粉末、TaC粉末、NbC粉末、TiC粉末、ZrC粉末、VC粉末を用意する。
これらの粉末を、表1に示す配合組成となるように配合して、焼結用粉末を作製した。
表1には、各種粉末の配合組成(質量%)を示す。
【0026】
(b)表1に示す配合組成に配合した焼結用粉末を、ボールミルで72時間湿式混合し、乾燥した後、100MPaの圧力でプレス成形して、所定の形状を有する圧粉成形体を作製した。
【0027】
(c)ついで、炉内を101Pa以下の真空雰囲気とし、表2に示す条件、即ち、結合相の液相出現温度(圧粉成形体の組成等に依存するが、概ね1300~1360℃)を挟んで、10~30回昇温降温を繰り返し行う条件でサイクル工程を実施した。
【0028】
(d)続けて、101Pa以下の真空雰囲気で表3に示す条件、すなわち1360~1500℃に昇温し、同温度で所定時間保持し焼結することにより、WC基超硬合金を作製した。
【0029】
(e)ついで、前記WC基超硬合金を、機械加工、研削加工し、AOMT123608PEERのインサート形状を持ったWC基超硬工具1~10(以下、本発明工具1~10と言う)及びXDGX175008PDERのインサート形状を持ったWC基超硬工具11、12(以下、本発明工具11、12という)を作製した。本発明工具の作製条件及び組成を表4に示す
【0030】
≪比較例のWC基超硬工具≫
比較のために、比較例のWC基超硬工具1~12(以下、比較例工具1~12という)を製造した。
その製造工程は、前記本発明工具1~5及び11の製造工程において、前記(c)のサイクル工程を行わず、通常条件での焼結を行ったもの、また、前記本発明工具6~10及び12の製造工程において、前記(c)のサイクル工程で本発明の推奨条件外での処理を行ったものである。
【0031】
つまり、表5に示す比較例工具1~5及び11は、表1に示す配合組成に配合した焼結用粉末を、ボールミルで72時間湿式混合し、乾燥した後、100MPaの圧力でプレス成形して圧粉成形体を作製し、加熱温度:1360℃以上1500℃以下、かつ、加熱保持時間:30~120分、真空雰囲気という通常の条件で焼結して、WC基超硬合金焼結体を作製し、これを機械加工、研削加工し、比較例工具1~5はAOMT123608PEERのインサート形状、比較例工具11はXDGX175008PDERのインサート形状としたものである。
また、表5に示す比較例工具6~10及び12は、表1に示す配合組成に配合した焼結用粉末を、ボールミルで72時間湿式混合し、乾燥した後、100MPaの圧力でプレス成形して丸棒圧粉成形体を作製した後、表2に示す条件で前記(c)工程を行った後、加熱温度:1360℃以上1500℃以下、かつ、加熱保持時間:30~120分、真空雰囲気という通常の条件で焼結して、WC基超硬合金焼結体を作製し、これを機械加工、研削加工し、比較例工具6~10はAOMT123608PEERのインサート形状、比較例工具12はXDGX175008PDERのインサート形状としたものである。
【0032】
本発明工具1~12及び比較例工具1~12のWC基超硬合金の断面について、EPMAにより、その成分であるCo、Cr、Ta、Nb、Ti、Zr、Vの含有量を10点測定し、その平均値を各成分の含有量とした。
なお、Cr、Ta、Nb、Ti、Zr、Vは、それぞれの炭化物に換算して含有量を算出した。
表4、表5に、それぞれの平均含有量を示す。
【0033】
つぎに、本発明工具1~12及び比較例工具1~12のWC基超硬合金の断面について、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、倍率3000~4000倍でWC基超硬合金の断面を観察して、画像サイズ120×96mm、pixel数1280×1024pixelでSEM像を取得し、これを画像処理し、一つの観察視野内の個々の結合相粒子の面積と個数を求め、結合相粒子の面積を横軸とし、また、結合相粒子の個数を縦軸とする結合相粒子の累積分布を作成し、個数積算10%における粒子面積をA10とし、A10以下の面積を有する微細結合相粒子について、画像解析ソフトImageJを用いて個々の微細結合相粒子の真円度を測定し、前記一つの観察視野における個々の微細結合相粒子の真円度の平均値を求めた。
なお、前記観察倍率とpixel数の関係から、3000倍観察では最小結合相面積は977nm2であり、4000倍観察では549nm2である。また、観察視野倍率は視野内に150~400個の結合相粒子が含まれるように倍率を選定した。本発明においては、WC粒子によって分断された個々の結合相を各々一つの結晶粒と見なしている。
そして、10箇所の観察視野で求めたそれぞれの真円度の平均値をさらに平均することにより、WC基超硬合金の断面における微細結合相粒子の平均真円度を算出した。
表4、表5に、A10の値と平均真円度の値を示す。
【0034】
【0035】
【0036】
【0037】
【0038】
【0039】
つぎに、前記本発明工具1~10、比較例工具1~10の切れ刃表面に、表6に示す平均層厚の硬質被覆層をPVD法で被覆形成し、本発明表面被覆WC基超硬合金製切削工具(以下、「本発明被覆工具」という)1~10、比較例表面被覆WC基超硬合金製切削工具(以下、「比較例被覆工具」という)1~10を作製した。
上記の各被覆工具をいずれもカッタ径25mmの工具鋼製カッタ先端部に固定治具にてクランプし、以下に示す、合金鋼の高送り断続切削の一種である乾式肩削り切削加工試験を実施した。
【0040】
カッタ径: 25 mm、
被削材: JIS・SCM440、幅100mm、長さ400mmのブロック材、
切削速度: 200 m/min、
径方向切り込み: 5 mm、
軸方向切り込み: 3 mm、
一刃送り量: 0.3 mm/刃、
上記切削加工試験において、逃げ面摩耗幅が0.2mmに達するまでの切削長を測定し、また、切削加工試験後の切れ刃の損耗状態を観察した。
表7に、この試験結果を示す。
【0041】
【0042】
【0043】
また、本発明工具11、12及び比較例工具11、12をいずれもカッタ径40mmの工具鋼製カッタ先端部に固定治具にてクランプし、以下に示す、アルミニウム合金の高送り断続切削の一種である湿式肩削り切削加工試験を実施した。切れ刃の逃げ面摩耗幅を測定するとともに、切れ刃の損耗状態を観察した。
カッタ径: 40 mm、
被削材: JIS・A7075、幅100mm、長さ400mmのブロック材、
切削速度: 500 m/min、
径方向切り込み: 6 mm、
軸方向切り込み: 30 mm、
一刃送り量: 0.15 mm/刃、
上記切削加工試験において、逃げ面摩耗幅が0.2mmに達するまでの切削長を測定し、また、切削加工試験後の切れ刃の損耗状態を観察した。
表8に、切削試験の結果を示す。
【0044】
【0045】
表7及び表8に示される試験結果によれば、本発明工具および本発明被覆工具は、欠損を発生することもなく、すぐれた耐摩耗性を発揮するのに対して、比較例工具および比較例被覆工具は、欠損の発生により工具寿命が短命であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
以上のとおり、本発明工具および本発明被覆工具は、合金鋼等の断続切削加工に供した場合、すぐれた耐欠損性を発揮するが、他の被削材、切削条件に適用した場合にも、長期の使用にわたってすぐれた切削性能を発揮し、工具の長寿命化が図られることが期待される。