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  • 特許-電解コンデンサ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-19
(45)【発行日】2022-10-27
(54)【発明の名称】電解コンデンサ
(51)【国際特許分類】
   H01G 9/028 20060101AFI20221020BHJP
   H01G 9/00 20060101ALI20221020BHJP
   H01G 9/032 20060101ALI20221020BHJP
   H01G 9/035 20060101ALI20221020BHJP
   H01G 9/055 20060101ALI20221020BHJP
   H01G 9/22 20130101ALI20221020BHJP
【FI】
H01G9/028 E
H01G9/00 290G
H01G9/032
H01G9/035
H01G9/055 103
H01G9/22
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2017194677
(22)【出願日】2017-10-04
(65)【公開番号】P2019068004
(43)【公開日】2019-04-25
【審査請求日】2020-10-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000228578
【氏名又は名称】日本ケミコン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115509
【弁理士】
【氏名又は名称】佐竹 和子
(72)【発明者】
【氏名】小関 良弥
(72)【発明者】
【氏名】長原 和宏
(72)【発明者】
【氏名】町田 健治
【審査官】田中 晃洋
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-112116(JP,A)
【文献】特開2006-352172(JP,A)
【文献】国際公開第2015/107894(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/129515(WO,A1)
【文献】特開2014-053387(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 9/028
H01G 9/00
H01G 9/032
H01G 9/035
H01G 9/055
H01G 9/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性基体と、該導電性基体の表面に設けられた導電性高分子層とを有する陰極と、
弁金属からなる基体と、該基体の表面に設けられた前記弁金属の酸化物からなる誘電体層とを有し、該誘電体層と前記陰極の導電性高分子層とが空間を開けて対向するように配置されている陽極と、
前記空間に充填されているイオン伝導性電解質と、
を備え、前記陽極と前記陰極との間に電圧を印加することにより、前記イオン伝導性電解質と接触している前記陰極の導電性高分子層がレドックス容量を発現する電解コンデンサであって、
前記陰極における導電性基体と導電性高分子層との接触抵抗が0.9Ωcm以下である
ことを特徴とする電解コンデンサ。
【請求項2】
前記陰極における導電性基体と導電性高分子層との接触抵抗が0.06Ωcm以下である、請求項1に記載の電解コンデンサ。
【請求項3】
前記導電性基体が、酸化アルミニウム皮膜を備えたアルミニウム箔と、前記酸化アルミニウム皮膜の表面に設けられた無機導電性材料を含む無機導電層と、を含み、
前記無機導電層と前記アルミニウム箔とが導通しており、
前記導電性高分子層が、前記無機導電層の表面に設けられている、請求項1又は2に記載の電解コンデンサ。
【請求項4】
前記無機導電性材料が、カーボン、チタン、窒化チタン、炭化チタン及びニッケルから成る群から選択された少なくとも1種の材料である、請求項3に記載の電解コンデンサ。
【請求項5】
電解コンデンサの製造方法であって、
導電性基体の表面に導電性高分子層を前記導電性基体と前記導電性高分子層との接触抵抗が0.9Ωcm以下になるように形成し、前記電解コンデンサのための陰極を得る、陰極形成工程、
弁金属からなる基体の表面を酸化して前記弁金属の酸化物からなる誘電体層を形成し、前記電解コンデンサのための陽極を得る、陽極形成工程、及び、
前記陰極の導電性高分子層と前記陽極の誘電体層とを空間を開けて対向させ、前記空間にイオン伝導性電解質を充填する、電解質充填工程
を含むことを特徴とする電解コンデンサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い容量を発現する陰極を備えた電解コンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
イオン伝導性電解質(電解液を含む。)を有する電解コンデンサは、一般的に、アルミニウム、タンタル、ニオブ等の弁金属箔の表面に誘電体層としての酸化皮膜が設けられている陽極と、弁金属箔等により構成された集電用の陰極(見かけの陰極)と、陽極と陰極との間に配置された真の陰極としてのイオン伝導性電解質を保持したセパレータとが密封ケース内に収容された構造を有しており、巻回型、積層型等の形状のものが広く使用されている。
【0003】
この電解コンデンサは、プラスチックコンデンサ、マイカコンデンサ等と比較して、小型で大容量を有するという利点を有し、陽極の酸化皮膜を厚くすることによりコンデンサの絶縁破壊電圧を向上させることができる。しかし、陽極の酸化皮膜を厚くすると電解コンデンサの容量が低下してしまい、小型大容量という利点の一部が失われてしまう。そこで、電解コンデンサの絶縁破壊電圧を低下させることなく容量を向上させることを目的として、陰極の容量を増加させる検討が行われている。
【0004】
例えば、陽極及び陰極を構成する弁金属箔に化学的或いは電気化学的なエッチング処理を施すための条件を制御することにより、これらの弁金属箔の表面積を効果的に増大させて、陽極ばかりでなく陰極の容量をも増加させる検討が行われている。また、特許文献1(特公平3-37293号公報)には、アルミニウム電解コンデンサにおいて、エッチングが過大になるとアルミニウム箔表面のエッチング液への溶解が同時に進行し、却って箔の表面積の増大が妨げられ、エッチングによる陰極の容量増大に限界があるという問題を解決する陰極材料として、適度に粗面化されたアルミニウム箔の表面をアルゴン、ヘリウム等の不活性雰囲気中で形成された平均粒子径0.02~1.0μmのチタン微粒子からなる厚さ0.2~5.0μmのチタン蒸着膜で被覆した陰極材料が開示されている。この陰極材料によると、チタン蒸着膜の表面が微細に粗面化されるため、陰極材料の表面積増大が達成され、ひいてはアルミニウム電解コンデンサの容量の増大が達成されている。また、チタン蒸着膜により、耐久性に優れた陰極材料が得られている。
【0005】
さらに、特許文献2(特開平3-112116号公報)は、アルミニウム箔の表面に設けられたチタン蒸着膜が特に高温での寿命試験において駆動用電解液と反応して表面に酸化物層が形成されるため、電解コンデンサの静電容量が大きく減少してしまうことを問題点として挙げ、単位体積当たりの静電容量を高め、しかも長寿命・高信頼性を得ることができる電解コンデンサとして、弁作用金属からなる陽極箔に引出端子を取着した陽極と、弁作用金属からなる陰極箔表面に化学酸化重合によりポリピロールを形成し引出端子を取着した陰極と、この陽極及び陰極間に介在させたスペーサとを巻回したコンデンサ素子、該コンデンサ素子に含浸した駆動用電解液、及び、該含浸済コンデンサ素子を収納し密封したケースを具備した電解コンデンサを提案している。化学酸化重合により陰極箔表面に設けられたポリピロール層が、弁作用金属の表面に酸化物層が形成されるのを抑えるため、静電容量の減少が抑えられ、また上記ポリピロール層は球状のものが集合して膜状となった層であるため、表面積の拡大に寄与すると共に、ポリピロール層の表面に酸化物膜などの絶縁膜が形成されないため、陰極の静電容量は電気二重層の容量となり、経時変化が少ないと説明されている。そして、アルミニウム箔表面を粗面化して表面積を拡大した後陽極酸化皮膜を生成した陽極と、粗面化して表面積を拡大した陰極箔表面に化学酸化重合によりポリピロール層を形成した陰極とをスペーサを介して巻回した素子に、電解液としてのγ-ブチロラクトン-フタル酸系ペーストを含浸させた定格4VDC-100μFの実施例の電解コンデンサが、上記陰極に代えてアルミニウム箔表面を粗面化して表面積を拡大した後表面にチタン蒸着膜を形成した陰極を備えた従来例の電解コンデンサと比較して、若干大きな静電容量を示し、105℃での寿命試験において改善された静電容量変化率を示したことを報告している。
【0006】
陰極の容量増大には関心が払われていないが、化学酸化重合によるポリピロール層とは異なる導電性高分子層を陰極に配置した電解コンデンサを開示した先行文献は存在する。特許文献3(特開平7-283086号公報)には、実施例9として、エッチドアルミニウム箔の表面にポリピロールの電解重合膜を形成した陰極箔を備えた電解コンデンサが記載されているが、電解重合膜による静電容量の増減については記載されていない。特許文献4(特開2000-269070号公報)には、実施の形態16,17として、エッチドアルミニウム箔の表面にポリエチレンジオキシチオフェン分散液を塗布して導電性高分子層を形成した電極箔(陰極)を備えた電解コンデンサが記載されている。これらの実施の形態について示された容量値は、電解液に代えてポリエチレンジオキシチオフェンから成る導電層を形成した実施の形態3の電解コンデンサのものと比較して増大していない(この文献の表1参照)。
【0007】
また、出願人は、現時点では未公開であるPCT/JP2017/013331において、導電性基体と該導電性基体の表面に設けられた導電性高分子層とを有する陰極と、弁金属からなる基体と該基体の表面に設けられた上記弁金属の酸化物からなる誘電体層とを有し、該誘電体層と上記陰極の導電性高分子層とが空間を開けて対向するように配置されている陽極と、上記空間に充填されているイオン伝導性電解質と、を備え、上記陽極と上記陰極との間に電圧を印加することにより、上記イオン伝導性電解質と接触している上記陰極の導電性高分子層がレドックス容量を発現することを特徴とする電解コンデンサを提案している。導電性高分子層が示すレドックス容量により陰極の容量が顕著に増大し、これに伴って電解コンデンサの容量も顕著に増大する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特公平3-37293号公報
【文献】特開平3-112116号公報
【文献】特開平7-283086号公報
【文献】特開2000-269070号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記PCT/JP2017/013331に示された電解コンデンサでは、陰極における導電性基体から導電性高分子層に対してレドックス反応を進行させるための電子が供給されてレドックス容量が発現するため、陰極の容量が顕著に増大し、したがって電解コンデンサの単位体積あたりの容量が顕著に増大する。特許文献2~4の電解コンデンサでは、導電性高分子層に対する電子の供給が、レドックス容量を発現させるためには不十分であったと推測される。しかしながら、上記PCT/JP2017/013331においても、レドックス容量を信頼性良く発現させるための条件の検討が十分になされていなかった。そこで、本発明の目的は、陰極の導電性高分子層によるレドックス容量を信頼性良く発現させることか可能な電解コンデンサを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者らは、上記PCT/JP2017/013331において開示した技術を基にして鋭意検討した結果、陰極における導電性基体と導電性高分子層との接触抵抗が1Ωcm以下であると、導電性基体から導電性高分子層に対してレドックス反応を進行させるために十分な量の電子が供給され、レドックス容量を信頼性良く発現させることができることを発見し、発明を完成させた。
【0011】
したがって、本発明は、
導電性基体と、該導電性基体の表面に設けられた導電性高分子層とを有する陰極と、
弁金属からなる基体と、該基体の表面に設けられた上記弁金属の酸化物からなる誘電体層とを有し、該誘電体層と上記陰極の導電性高分子層とが空間を開けて対向するように配置されている陽極と、
上記空間に充填されているイオン伝導性電解質と、
を備え、上記陽極と上記陰極との間に電圧を印加することにより、上記イオン伝導性電解質と接触している上記陰極の導電性高分子層がレドックス容量を発現する電解コンデンサであって、
上記陰極における導電性基体と導電性高分子層との接触抵抗が1Ωcm以下である
ことを特徴とする電解コンデンサに関する。
【0012】
陰極における導電性基体は、1層の導電層から成っていても良く、複数層の異なる導電層から成っていても良い。複数層から成っている場合には、導電層間に絶縁層が存在していても、絶縁層の一部が破壊されて導電層間が導通していれば、導電性基体として使用することができる。ここで、陰極における導電性基体と導電性高分子層との接触抵抗は、図1に示す方法により測定された値を意味する。図1(a)は、導電性基体が1層の導電層から成る場合の測定方法を示した図であり、図1(b)は、導電性基体が2層の導電層から成る場合の測定方法を示した図である。接触抵抗の測定の前にまず、導電性高分子層の表面にカーボンペースト(商品型式DY-200L-2、東洋紡株式会社製)を5~10μmの厚みで塗布し、150℃で20分乾燥させ、次いで、カーボン層の表面に銀ペースト(商品型式DW-250H-5、東洋紡株式会社製)を介して銅箔を固定し、150℃で20分乾燥させる。そして、図1(a)では、銅箔と導電性基体との間について、0.1Hz~100kHzの周波数の範囲で交流インピーダンス測定を行い、図1(b)では、銅箔と導電性基体のうち導電性高分子層と接触していない層(第1層)との間について、上述した交流インピーダンス測定を行う。得られたCole-Coleプロットの実数成分の値が、導電性基体と導電性高分子層との接触抵抗である。例えば、第1層がアルミニウム箔である場合には一般に表面に酸化アルミニウム皮膜が形成されているが、酸化アルミニウム皮膜の表面に第2層として導電層が形成されている場合には、図1(b)に示した測定方法が採用される。導電性基体が3層以上の導電層から成る場合には、導電性高分子層上に上述した方法によりカーボンペースト及び銀ペーストを介して接続された銅箔と導電性高分子層から最も離れた位置にある導電層との間について、上述した交流インピーダンス測定を行い、得られたCole-Coleプロットの実数成分の値が、陰極における導電性基体と導電性高分子層との接触抵抗である。
【0013】
本発明の電解コンデンサにおいて、イオン伝導性電解質と接触している陰極の導電性高分子層がレドックス容量を信頼性良く発現するため、陰極が顕著に増大した容量を示し、ひいては電解コンデンサの単位体積あたりの容量が顕著に増大する。なお、レドックス容量の発現のために、陰極の導電性高分子層はイオン伝導性電解質と直接接触している必要があるが、陽極の誘電体層はイオン伝導性電解質と直接接触していてもよく、他の導電性材料を介してイオン伝導性電解質と間接的に接続していても良い。
【0014】
陰極における導電性基体と導電性高分子層との接触抵抗は、0.06Ωcm以下であるのが好ましい。0.06Ωcm以下であると、高い周波数の条件下でも高い容量が得られ、広い周波数の範囲で高い容量を示す電解コンデンサが得られる。
【0015】
上記導電性基体が、酸化アルミニウム皮膜を備えたアルミニウム箔と、上記酸化アルミニウム皮膜の表面に設けられた無機導電性材料を含む無機導電層と、を含み、上記無機導電層と上記アルミニウム箔とが導通している基体であるのが好ましい。この場合には、上記導電性高分子層は、上記無機導電層の表面に設けられる。酸化アルミニウム皮膜は、自然酸化皮膜であっても良く、化成処理により形成した化成酸化皮膜であっても良い。アルミニウム箔は電解液に対して良好な耐腐食性を示すため好ましい。また、酸化アルミニウム皮膜の表面に無機導電層を設ける過程で、酸化アルミニウム皮膜の一部を破壊し、無機導電層とアルミニウム箔とを導通させることにより、陰極における導電性基体と導電性高分子層との接触抵抗を1Ωcm以下、好ましくは0.06Ωcm以下に調整することができ、陰極の導電性高分子層によるレドックス容量を信頼性良く発現させることができる。
【0016】
上記無機導電層を形成する無機導電性材料の種類及び無機導電層の形成方法には、陰極における導電性基体と導電性高分子層との接触抵抗を1Ωcm以下、好ましくは0.06Ωcm以下に調整することができれば、特別な限定がないが、上記無機導電性材料がカーボン、チタン、窒化チタン、炭化チタン及びニッケルから成る群から選択された少なくとも1種の材料であると、耐久性に優れた陰極が得られるため好ましい。
【0017】
本発明はまた、上述した本発明の電解コンデンサの製造方法であって、
導電性基体の表面に導電性高分子層を上記導電性基体と上記導電性高分子層との接触抵抗が1Ωcm以下になるように形成し、上記電解コンデンサのための陰極を得る、陰極形成工程、
弁金属からなる基体の表面を酸化して上記弁金属の酸化物からなる誘電体層を形成し、上記電解コンデンサのための陽極を得る、陽極形成工程、及び、
上記陰極の導電性高分子層と上記陽極の誘電体層とを空間を開けて対向させ、上記空間にイオン伝導性電解質を充填する、電解質充填工程
を含むことを特徴とする電解コンデンサの製造方法に関する。この方法により、陰極の導電性高分子層が信頼性良くレドックス容量を発現する電解コンデンサが得られる。
【発明の効果】
【0018】
陰極における導電性基体と導電性高分子層との接触抵抗が1Ωcm以下である本発明の電解コンデンサによると、陽極と陰極との間に電圧を印加することにより、イオン伝導性電解質と接触している陰極の導電性高分子層が信頼性良くレドックス容量を発現するため、陰極が顕著に増大した容量を示し、ひいては電解コンデンサの単位体積あたりの容量が顕著に増大する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】陰極における導電性基体と導電性高分子層との接触抵抗の測定方法を説明するための概略図であり、(a)は導電性基体が1層の導電層から成る場合の測定方法を示した図であり、(b)は導電性基体が2層の導電層から成る場合の測定方法を示した図である。
図2】陰極の容量に対する電解液に使用される対カチオンの種類及び溶質濃度の影響を調査した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の電解コンデンサは、導電性基体と該導電性基体の表面に設けられた導電性高分子層とを有する陰極と、弁金属からなる基体と該基体の表面に設けられた上記弁金属の酸化物からなる誘電体層とを有し、該誘電体層と上記陰極の導電性高分子層とが空間を開けて対向するように配置されている陽極と、上記空間に充填されているイオン伝導性電解質と、を備え、上記陽極と上記陰極との間に電圧を印加することにより、上記イオン伝導性電解質と接触している上記陰極の導電性高分子層がレドックス容量を発現するコンデンサである。但し、本発明では、上記レドックス容量を信頼性良く発現させるために、導電性基体と導電性高分子層との接触抵抗が1Ωcm以下である陰極が使用される。本発明の電解コンデンサは、以下に示す、陰極形成工程、陽極形成工程、及び電解質充填工程により製造することができる。以下、各工程について詳細に説明する。
【0021】
(1)陰極形成工程
本発明の電解コンデンサにおける陰極は、導電性基体と、該導電性基体の表面に設けられた導電性高分子層とを有する。導電性基体としては、導電性高分子層と導電性基体との接触抵抗を1Ωcm以下に設定することが可能であれば、集電体として機能する基体を特に限定なく使用することができる。このような導電性基体は、1層の導電層から成っていても良く、複数層の異なる導電層から成っていても良い。複数層から成っている場合には、導電層間に絶縁層が存在していても、絶縁層の一部が破壊されて導電層間が導通していれば、導電性基体として使用することができる。例えば、従来の電解コンデンサにおいて陰極のために使用されている、アルミニウム、タンタル、ニオブ、チタン、ジルコニウム等の弁金属の箔、或いは、これらの弁金属箔に化学的或いは電気化学的なエッチング処理を施すことにより表面積を増大させた箔を、導電性基体として使用することができ、アルミニウム-銅合金等の合金を導電性基体とすることもできる。弁金属箔の表面には、一般に自然酸化皮膜が存在しているが、これに加えて、ホウ酸アンモニウム水溶液、アジピン酸アンモニウム水溶液、リン酸アンモニウム水溶液等の化成液を使用した化成処理により形成した化成酸化皮膜が存在していても、酸化皮膜の表面に無機導電性材料を含む無機導電層を設ける過程で、酸化皮膜の一部を破壊し、導電層と弁金属箔とを導通させて、陰極における導電性基体と導電性高分子層との接触抵抗を1Ωcm以下に調整することにより、導電性基体として使用することができる。上記無機導電層を形成する無機導電性材料の種類及び無機導電層の形成方法には、陰極における導電性基体と導電性高分子層との接触抵抗を1Ωcm以下に調整することができれば、特別な限定がない。例えば、炭素、チタン、白金、金、銀、コバルト、ニッケル、鉄等の無機導電性材料を真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング、塗布、電解めっき、無電解めっき等の手段により酸化皮膜上に積層することにより無機導電層を設ける過程で、酸化皮膜の一部を破壊し、無機導電層と弁金属箔とを導通させることができる。
【0022】
弁金属箔としては、アルミニウム箔又は必要に応じてエッチング処理を施したアルミニウム箔が、電解液に対して良好な耐腐食性を示すため好ましい。アルミニウム箔を使用する場合には、一般に自然酸化皮膜或いは化成酸化皮膜が存在しているため、上述したように、酸化アルミニウム皮膜上に無機導電層を設け、この過程で酸化アルミニウム皮膜の一部を破壊し、無機導電層とアルミニウム箔とを導通させるのが好ましい。無機導電層としてチタン蒸着膜を使用する場合には、蒸着処理における周囲雰囲気中の原子を含ませることができ、例えば、窒素や炭素を含ませて窒化チタン蒸着膜及び炭化チタン蒸着膜とすることができる。上記無機導電層が、カーボン、チタン、窒化チタン、炭化チタン及びニッケルから成る群から選択された少なくとも1種の無機導電性材料を含む層であると、耐久性に優れた陰極が得られるため好ましい。また、中でも、炭化チタン蒸着膜やカーボン蒸着膜は、以下に示す電解重合において安定した特性を示す重合膜を与えるため好ましく、カーボン塗布層は生産性に優れるため好ましい。
【0023】
上記導電性基体の表面には、導電性高分子層が設けられる。上記無機導電層が設けられている場合には、無機導電層の表面に導電性高分子層が設けられる。この導電性高分子層は、電解重合膜であっても良く、化学重合膜であっても良く、導電性高分子の粒子と分散媒とを少なくとも含む分散液を用いて形成しても良い。
【0024】
電解重合膜の形成は、モノマーと支持電解質と溶媒とを少なくとも含む重合液に上記導電性基体と対極とを導入し、導電性基体と対極との間に電圧を印加することにより行われる。対極としては、白金、ニッケル、鋼等の板や網を用いることができる。電解重合の過程で、支持電解質から放出されるアニオンがドーパントとして導電性高分子層に含まれる。
【0025】
電解重合用重合液の溶媒としては、所望量のモノマー及び支持電解質を溶解することができ電解重合に悪影響を及ぼさない溶媒を特に限定なく使用することができる。例としては、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、エチレングリコール、アセトニトリル、ブチロニトリル、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、γ-ブチロラクトン、酢酸メチル、酢酸エチル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ニトロメタン、ニトロベンゼン、スルホラン、ジメチルスルホランが挙げられる。これらの溶媒は、単独で使用しても良く、2種以上を混合して使用しても良い。水を溶媒全体の80質量%以上の量で含む溶媒、特に水のみからなる溶媒を使用すると、緻密で安定な電解重合膜が得られるため好ましい。
【0026】
電解重合用重合液に含まれるモノマーとしては、従来導電性高分子の製造のために用いられているπ-共役二重結合を有するモノマーを特に限定なく使用することができる。以下に代表的なモノマーを例示する。これらのモノマーは、単独で使用しても良く、2種以上の混合物として使用しても良い。
【0027】
まず、チオフェン及びチオフェン誘導体、例えば、3-メチルチオフェン、3-エチルチオフェン等の3-アルキルチオフェン、3,4-ジメチルチオフェン、3,4-ジエチルチオフェン等の3,4-ジアルキルチオフェン、3-メトキシチオフェン、3-エトキシチオフェン等の3-アルコキシチオフェン、3,4-ジメトキシチオフェン、3,4-ジエトキシチオフェン等の3,4-ジアルコキシチオフェン、3,4-メチレンジオキシチオフェン、3,4-エチレンジオキシチオフェン、3,4-(1,2-プロピレンジオキシ)チオフェン等の3,4-アルキレンジオキシチオフェン、3,4-メチレンオキシチアチオフェン、3,4-エチレンオキシチアチオフェン、3,4-(1,2-プロピレンオキシチア)チオフェン等の3,4-アルキレンオキシチアチオフェン、3,4-メチレンジチアチオフェン、3,4-エチレンジチアチオフェン、3,4-(1,2-プロピレンジチア)チオフェン等の3,4-アルキレンジチアチオフェン、チエノ[3,4-b]チオフェン、イソプロピルチエノ[3,4-b]チオフェン、t-ブチル-チエノ[3,4-b]チオフェン等のアルキルチエノ[3,4-b]チオフェン、を挙げることができる。
【0028】
また、ピロール及びピロール誘導体、例えば、N-メチルピロール、N-エチルピロール等のN-アルキルピロール、3-メチルピロール、3-エチルピロール等の3-アルキルピロール、3-メトキシピロール、3-エトキシピロール等の3-アルコキシピロール、N-フェニルピロール、N-ナフチルピロール、3,4-ジメチルピロール、3,4-ジエチルピロール等の3,4-ジアルキルピロール、3,4-ジメトキシピロール、3,4-ジエトキシピロール等の3,4-ジアルコキシピロールを挙げることができる。さらに、アニリン及びアニリン誘導体、例えば、2,5-ジメチルアニリン、2-メチル-5-エチルアニリン等の2,5-ジアルキルアニリン、2,5-ジメトキシアニリン、2-メトキシ-5-エトキシアニリン等の2,5-ジアルコキシアニリン、2,3,5-トリメトキシアニリン、2,3,5-トリエトキシアニリン等の2,3,5-トリアルコキシアニリン、2,3,5,6-テトラメトキシアニリン、2,3,5,6-テトラエトキシアニリン等の2,3,5,6-テトラアルコキシアニリン、及び、フラン及びフラン誘導体、例えば、3-メチルフラン、3-エチルフラン等の3-アルキルフラン、3,4-ジメチルフラン、3,4-ジエチルフラン等の3,4-ジアルキルフラン、3-メトキシフラン、3-エトキシフラン等の3-アルコキシフラン、3,4-ジメトキシフラン、3,4-ジエトキシフラン等の3,4-ジアルコキシフラン、を挙げることができる。
【0029】
モノマーとしては、3位と4位に置換基を有するチオフェンからなる群から選択されたモノマーを使用するのが好ましい。チオフェン環の3位と4位の置換基は、3位と4位の炭素と共に環を形成していても良い。特に、3,4-(エチレンジオキシチオフェン)は、高いレドックス活性を示し、耐熱性にも優れた導電性高分子層を与えるため好ましい。
【0030】
電解重合用重合液に含まれる支持電解質としては、従来の導電性高分子に含まれるドーパントを放出する化合物を特に限定なく使用することができる。例えば、ホウ酸、硝酸、リン酸、タングストリン酸、モリブドリン酸等の無機酸、酢酸、シュウ酸、クエン酸、アスコット酸、酒石酸、スクアリン酸、ロジゾン酸、クロコン酸、サリチル酸等の有機酸に加えて、メタンスルホン酸、ドデシルスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、1,2-ジヒドロキシ-3,5-ベンゼンジスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、ナフタレンジスルホン酸、プロピルナフタレンスルホン酸、ブチルナフタレンスルホン酸等のスルホン酸及びこれらの塩が例示される。また、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリマレイン酸等のポリカルボン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸等のポリスルホン酸、及びこれらの塩も支持電解質として使用可能である。
【0031】
さらに、ボロジサリチル酸、ボロジ蓚酸、ボロジマロン酸、ボロジコハク酸、ボロジアジピン酸、ボロジマレイン酸、ボロジグリコール酸、ボロジ乳酸、ボロジヒドロキシイソ酪酸、ボロジリンゴ酸、ボロジ酒石酸、ボロジクエン酸、ボロジフタル酸、ボロジヒドロキシ安息香酸、ボロジマンデル酸、ボロジベンジル酸等のホウ素錯体、式(I)又は式(II)
【化1】
(式中、mが1~8の整数、好ましくは1~4の整数、特に好ましくは2を意味し、nが1~8の整数、好ましくは1~4の整数、特に好ましくは2を意味し、oが2又は3の整数を意味する)で表わされるスルホニルイミド酸、及びこれらの塩も支持電解質として使用可能である。
【0032】
塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、アンモニウム塩、エチルアンモニウム塩、ブチルアンモニウム塩等のアルキルアンモニウム塩、ジエチルアンモニウム塩、ジブチルアンモニウム塩等のジアルキルアンモニウム塩、トリエチルアンモニウム塩、トリブチルアンモニウム塩等のトリアルキルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、テトラブチルアンモニウム塩等のテトラアルキルアンモニウム塩が例示される。
【0033】
これらの支持電解質は、単独で使用しても良く、2種以上を混合して使用しても良く、支持電解質の種類に依存して、重合液に対する飽和溶解度以下の量で且つ電解重合のために充分な電流が得られる濃度、好ましくは水1リットルに対して10ミリモル以上の濃度で使用される。
【0034】
水を多く含む溶媒、好ましくは水を80質量%の量で含む溶媒、特に好ましくは水のみから成る溶媒に、支持電解質としてボロジサリチル酸及びその塩を溶解させた電解重合液を用いると、ボロジサリチル酸イオンをドーパントとして含む導電性高分子層により、コンデンサ容量の周波数依存性が改善され、高い周波数の条件下でも高い容量が得られるため好ましい。また、水を多く含む溶媒、好ましくは水を80質量%の量で含む溶媒、特に好ましくは水のみから成る溶媒に、支持電解質としてボロジサリチル酸及びその塩を溶解させ、さらに陰イオン界面活性剤を共存させて、該界面活性剤により上記モノマーを上記溶媒に可溶化又は乳化させた電解重合液を用いると、コンデンサ容量の周波数依存性がさらに改善されることが分かっている。使用可能な陰イオン界面活性剤を例示すると、脂肪酸塩型界面活性剤、例えば、ラウリン酸ナトリウム、パルミチン酸ナトリウム及びステアリン酸ナトリウム、アミノ酸型界面活性剤、例えば、ラウロイルグルタミン酸ナトリウム、ラウロイルアスパラギン酸ナトリウム及びラウロイルメチルアラニンナトリウム、硫酸エステル型界面活性剤、例えば、ドデシル硫酸ナトリウム及びミリスチル硫酸ナトリウムのようなアルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム及びポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウムのようなアルキルエーテル硫酸エステル塩、スルホン酸型界面活性剤、例えば、デカンスルホン酸ナトリウム及びドデカンスルホン酸ナトリウムのようなアルカンスルホン酸塩、オクチルベンゼンスルホン酸ナトリウム及びドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムのようなアルキルベンゼンスルホン酸塩、イソプロピルナフタレンスルホン酸ナトリウム及びブチルナフタレンスルホン酸ナトリウムのようなアルキルナフタレンスルホン酸塩、ポリスチレンスルホン酸ナトリウムのような高分子スルホン酸塩、テトラデセンスルホン酸ナトリウムのようなオレフィンスルホン酸塩、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウムのようなスルホ脂肪酸エステル塩、及び、アルキルリン酸エステル型界面活性剤、例えば、ラウリルリン酸ナトリウム、ミリスチルリン酸ナトリウム及びポリオキシエチレンラウリルリン酸ナトリウム、が挙げられる。上記陰イオン界面活性剤は、単独で使用しても良く、2種以上の混合物として使用しても良く、所望量のモノマーを可溶化或いは乳化させるのに十分な量で使用される。上記陰イオン界面活性剤がスルホン酸型界面活性剤及び/又は硫酸エステル型界面活性剤であると、特に周波数特性に優れた電解コンデンサが得られるため好ましい。
【0035】
電解重合は、定電位法、定電流法、電位掃引法のいずれかの方法により行われる。定電位法による場合には、モノマーの種類に依存するが、飽和カロメル電極に対して1.0~1.5Vの電位が好適であり、定電流法による場合には、モノマーの種類に依存するが、1~10000μA/cmの電流値が好適であり、電位掃引法による場合には、モノマーの種類に依存するが、飽和カロメル電極に対して0~1.5Vの範囲を5~200mV/秒の速度で掃引するのが好適である。重合温度には厳密な制限がないが、一般的には10~60℃の範囲である。重合時間にも厳密な制限はないが、一般的には1分~10時間の範囲である。
【0036】
化学重合膜の形成は、溶媒にモノマーと酸化剤の両方を溶解させた液を用意し、この液を刷毛塗り、滴下塗布、浸漬塗布、スプレー塗布等により上記導電性基体の表面に適用し、乾燥する方法、又は、溶媒にモノマーを溶解させた液と、溶媒に酸化剤を溶解させた液とを用意し、これらの液を交互に刷毛塗り、滴下塗布、浸漬塗布、スプレー塗布等により上記導電性基体の表面に適用し、乾燥する方法により行うことができる。溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、エチレングリコール、アセトニトリル、ブチロニトリル、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、γ-ブチロラクトン、酢酸メチル、酢酸エチル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ニトロメタン、ニトロベンゼン、スルホラン、ジメチルスルホランを使用することができる。これらの溶媒は、単独で使用しても良く、2種以上を混合して使用しても良い。モノマーとしては、π-共役二重結合を有するモノマー、例えば、電解重合のために例示したモノマーを使用することができる。これらのモノマーは、単独で使用しても良く、2種以上の混合物として使用しても良い。モノマーとしては、3位と4位に置換基を有するチオフェンから選択されたモノマーが好ましく、特に3,4-エチレンジオキシチオフェンが好ましい。酸化剤としては、p-トルエンスルホン酸鉄(III)、ナフタレンスルホン酸鉄(III)、アントラキノンスルホン酸鉄(III)等の三価の鉄塩、若しくは、ペルオキソ二硫酸アンモニウム、ペルオキソ二硫酸ナトリウム等の過硫酸塩等を使用することができ、単独の化合物を使用しても良く、2種以上の化合物を使用しても良い。重合温度には厳密な制限がないが、一般的には10~60℃の範囲である。重合時間にも厳密な制限はないが、一般的には1分~10時間の範囲である。
【0037】
さらに、導電性高分子の粒子と分散媒とを少なくとも含む分散液を上記導電性基体の表面に塗布、滴下等の手段により適用し、乾燥することにより、導電性高分子層を形成することもできる。上記分散液における分散媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、エチレングリコール、アセトニトリル、ブチロニトリル、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、γ-ブチロラクトン、酢酸メチル、酢酸エチル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ニトロメタン、ニトロベンゼン、スルホラン、ジメチルスルホランを使用することができるが、水を分散媒として使用するのが好ましい。上記分散液は、例えば、水に、モノマーと、ドーパントを放出する酸又はその塩と、酸化剤とを添加し、化学酸化重合が完了するまで攪拌し、次いで、限外濾過、陽イオン交換、及び陰イオン交換等の精製手段により酸化剤及び残留モノマーを除去した後、必要に応じて超音波分散処理、高速流体分散処理、高圧分散処理等の分散処理を施すことにより得ることができる。また、水に、モノマーと、ドーパントを放出する酸又はその塩を添加し、攪拌しながら電解酸化重合し、次いで、限外濾過、陽イオン交換、及び陰イオン交換等の精製手段により残留モノマーを除去した後、必要に応じて超音波分散処理、高速流体分散処理、高圧分散処理等の分散処理を施すことにより得ることができる。さらに、上述した化学酸化重合法又は電解重合法により得られた液をろ過して凝集体を分離し、十分に洗浄した後水に添加し、超音波分散処理、高速流体分散処理、高圧分散処理等の分散処理を施すことにより得ることができる。分散液中の導電性高分子の粒子の含有量は、一般的には1.0~3.0質量%の範囲であり、好ましくは1.5質量%~2.0質量%の範囲である。
【0038】
薄い導電性高分子層を備えた陰極の使用により、陰極のサイズを減少させることができ、ひいてはコンデンサの単位体積当たりの容量を向上させることができる。陰極の導電性高分子層の厚みは、200~2450nmの範囲であるのが好ましい。導電性高分子層の厚みが200nm未満であると、高温耐久性が低下する傾向が認められ、また、導電性高分子層の厚みが2450nmより厚いと、容量の温度依存性が大きくなる上に、電解コンデンサの小型化に寄与しにくくなる。
【0039】
陰極の導電性高分子層は、電解重合により形成するのが好ましい。電解重合により、上記導電性基体の表面に、少量のモノマーから機械的強度に優れた導電性高分子層を短時間で形成することができる。また、電解重合は薄く緻密で均一な導電性高分子層を与え、200~2450nmの範囲の厚みを有する好適な導電性高分子層を容易に得ることができる。一方、化学重合膜は、膜質が不均一である上に薄くても3μm程度の厚みを有するため、コンデンサの小型化に適さない。また、分散液を用いて200~2450nmの範囲の厚みを有する好適な導電性高分子層を得るためには、一般に上記導電性基体に対する分散液の適用及び乾燥の工程を繰り返し行わなければならず煩雑である。その上、現在のところ理由は明らかでないが、分散液から得られた導電性高分子層を有する陰極を備えた電解コンデンサは、同じ厚みを有する電解重合膜を有する陰極を備えた電解コンデンサと比較して、低い容量と高い等価直列抵抗とを有することが分かっている。
【0040】
上述した工程により導電性基体の表面に導電性高分子層を形成した後、図1を参照して説明した方法により、導電性基体と導電性高分子層との接触抵抗を測定する。測定された接触抵抗が1Ωcm以下であれば、得られた陰極を本発明の電解コンデンサのために使用することができる。導電性基体と導電性高分子層との接触抵抗は、0.06Ωcm以下であるのが好ましい。0.06Ωcm以下であると、高い周波数の条件下でも高い容量が得られ、広い周波数の範囲で高い容量を示す電解コンデンサが得られる。
【0041】
(2)陽極形成工程
本発明の電解コンデンサにおける陽極は、アルミニウム、タンタル、ニオブ、チタン、ジルコニウム等の弁金属からなる基体と、該基体の表面に設けられた上記弁金属の酸化物からなる誘電体層とを有する。陽極のための基体としては、弁金属の箔に公知の方法により化学的或いは電気化学的なエッチング処理を施すことにより表面積を増大させたものが好ましく、エッチング処理を施したアルミニウム箔が特に好ましい。基体の表面の誘電体層は、基体にホウ酸アンモニウム水溶液、アジピン酸アンモニウム水溶液、リン酸アンモニウム水溶液等の化成液を使用した化成処理を施す公知の方法により形成することができる。
【0042】
(3)電解質充填工程
この工程では、上記陰極形成工程において得られた、導電性基体と該導電性基体の表面に設けられた導電性高分子層とを有する陰極と、上記陽極形成工程において得られた、弁金属からなる基体と該基体の表面に設けられた上記弁金属の酸化物からなる誘電体層とを有する陽極とを、陰極の導電性高分子層と陽極の誘電体層とが空間を開けて対向するように配置して組み合わせた後、上記空間にイオン伝導性電解質を充填する。
【0043】
イオン伝導性電解質としては、電子伝導性を有していない公知のイオン伝導性電解質を特に限定なく使用することができる。まず、従来の電解コンデンサのために使用されている電解液、例えば、γ-ブチロラクトン、δ-バレロラクトン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、メチルセロソルブ、エチレングリコールモノメチルエーテル、スルホラン、プロピレンカーボネート、アセトニトリル、水等の溶媒に、安息香酸塩、酪酸塩、フタル酸塩、イソフタル酸塩、テレフタル酸塩、サリチル酸塩、酒石酸塩、シュウ酸塩、マロン酸塩、リンゴ酸塩、グルタル酸塩、アジピン酸塩、アゼライン酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、クエン酸塩、ピロメリット酸塩、トリメリット酸塩、1,6-デカンジカルボン酸塩、ギ酸塩、酢酸塩、グリコール酸塩、乳酸塩、1-ナフトエ酸塩、マンデル酸塩、シトラコン酸、2,4-ジヒドロキシ安息香酸塩、2,5-ジヒドロキシ安息香酸塩、2,6-ジヒドロキシ安息香酸塩、ボロジサリチル酸塩、ボロジ蓚酸塩、ボロジマロン酸塩等の溶質を溶解させた電解液を使用することができる。塩としては、アミジニウム塩、ホスホニウム塩、アンモニウム塩、アミン塩、アルカリ金属塩等が挙げられる。溶質としては、カルボン酸塩が好ましく、カルボン酸塩が多く含まれていると、陰極の導電性高分子層によるレドックス容量が増大する。電解液におけるカルボン酸塩の含有量は、少なくとも0.1Mの濃度であり、多くとも電解液における飽和溶解量であるのが好ましい。特に、アミジニウム塩は、陰極の導電性高分子層によるレドックス容量を顕著に増大させるため好ましい。アミジニウム塩を例示すると、1,3-ジメチルイミダゾリウム塩、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム塩、1-メチル-2,3-ジメチルイミダゾリウム塩等のイミダゾリウム塩;1,2,3,4-テトラメチルイミダゾリニウム塩、1,3-ジメチル-2,4-ジエチルイミダゾリニウム塩、1,2-ジメチル-3,4-ジエチルイミダゾリニウム塩等のイミダゾリニウム塩;1,3-ジメチル-1,4,5,6-テトラヒドロピリミジニウム塩、1,2,3-トリメチル-1,4,5,6-テトラヒドロピリミジニウム塩、1,3-ジメチル-1,4-ジヒドロピリミジニウム塩等のピリミジニウム塩;ホルムアミジニウム塩、アセトアミジニウム塩、ベンジルアミジニウム塩等の鎖状アミジニウム塩が挙げられる。電解液の溶媒は単一の化合物であっても2種以上の混合物であっても良く、溶質も単一の化合物であっても良く2種以上の混合物であっても良い。
【0044】
これらの電解液には、上述した溶媒及び溶質に加えて、公知の添加物が含まれていても良く、例えば、コンデンサの耐電圧性の向上を目的として、リン酸、リン酸エステル等のリン酸化合物、ホウ酸等のホウ酸化合物、マンニット等の糖アルコール、ホウ酸と糖アルコールとの錯化合物、ポリエチレングリコール、ポリグリセリン、ポリプロピレングリコール等のポリオキシアルキレンポリオール等が含まれていても良く、さらに、特に高温下で急激に発生する水素を吸収する目的で、ニトロフェノール、ニトロ安息香酸、ニトロアニソール、ニトロベンジルアルコール等のニトロ化合物が含まれていても良い。また、これらの電解液にはゲル化剤が含まれていても良い。さらに、常温溶融塩(イオン液体)をイオン伝導性電解質とすることができる。
【0045】
例えば、帯状の上記陰極と上記陽極とをセパレータを介して陰極の導電性高分子層と陽極の誘電体層とが対向するように積層した後これを巻回することにより形成したコンデンサ素子に上記電解液或いはイオン液体を含浸させることにより、この工程を実施することができる。また、所望形状の上記陰極と上記陽極とをセパレータを介して陰極の導電性高分子層と陽極の誘電体層とが対向するように積層することにより形成したコンデンサ素子に上記電解液或いはイオン液体を含浸させることにより、この工程を実施することができる。複数組の陰極と陽極とをセパレータを間に挟んで陰極の導電性高分子層と陽極の誘電体層とが対向するように交互に積層したコンデンサ素子に上記電解液或いはイオン液体を含浸させても良い。セパレータとしては、セルロース系繊維で構成された織布又は不織布、例えば、マニラ紙、クラフト紙、エスパルト紙、ヘンプ紙、コットン紙、レーヨン及びこれらの混抄紙や、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート及びこれらの誘導体などのポリエステル系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン系樹脂、ポリフッ化ビニリデン系樹脂、ビニロン系樹脂、脂肪族ポリアミド、半芳香族ポリアミド、全芳香族ポリアミド等のポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、トリメチルペンテン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、アクリル樹脂等で構成された織布又は不織布、ガラスペーパー、ガラスペーパーとマニラ紙、クラフト紙との混抄紙等を使用することができる。上記電解液或いはイオン液体の含浸は、開口部を有する外装ケース内に上記コンデンサ素子を収容した後に実施しても良い。ゲル化剤を含む電解液を使用すると、上記コンデンサ素子に電解液を含浸させた後加熱することにより、電解液をゲル状とすることができる。
【0046】
また、陰極の導電性高分子層と陽極の誘電体層とを絶縁性のスペーサを介して対向させることにより形成したコンデンサ素子の上記スペーサにより形成された空間にイオン伝導性電解質を充填することにより、この工程を実施しても良い。この形態の場合には、イオン伝導性電解質として、上記電解液或いはイオン液体に加えて、上記電解液をポリフッ化ビニリデン、ポリアクリロニトリル等に吸収させたゲル状電解質、或いは、上述した塩とポリエチレンオキサイド、ポリメタクリレート、ポリアクリレート等の高分子化合物との複合体からなる固体状電解質も使用可能である。陰極の導電性高分子層の上にゲル状又は固体状の電解質を積層し、次いでこの電解質上に陽極を誘電体層が接触するように積層しても良い。
【0047】
本発明では、陰極の導電性高分子層はイオン伝導性電解質と直接接触している必要があり、陰極の導電性高分子層は陽極と直接接触せずイオン伝導性電解質を介して陽極と接続(導通)しているが、陽極の誘電体層はイオン伝導性電解質と直接接触していてもよく、他の導電性材料を介してイオン伝導性電解質と間接的に接続していても良い。好適な他の導電性材料として導電性高分子層を挙げることができる。この導電性高分子層は、上記陽極形成工程において陽極を形成した後、陽極の誘電体層の表面に電解重合法又は化学重合法により形成することができ、また、導電性高分子の粒子と分散媒とを少なくとも含む分散液を陽極の誘電体層の表面に適用して乾燥することにより形成することもできる。この導電性高分子層については、上述した陰極の導電性高分子層の形成に関する説明がそのまま当てはまるため、これ以上の説明を省略する。陽極の誘電体層に隣接して導電性高分子層が設けられている場合には、この導電体層と陰極の導電性高分子層とが空間を開けて対向するように配置して組み合わせた後、上記空間にイオン伝導性電解質を充填すれば良い。
【0048】
外装ケース内に収容されて封止されたコンデンサ素子の陽極と陰極との間に電圧が印加されると、上記イオン伝導性電解質と接触している上記陰極の導電性高分子層によるレドックス容量が信頼性良く発現するため、陰極が顕著に増大した容量を示し、ひいては電解コンデンサの単位体積あたりの容量が顕著に増大する。レドックス容量発現の過程で、上記陰極の導電性高分子層にイオン伝導性電解質中のイオンが取り込まれる。
【実施例
【0049】
本発明を以下の実施例を用いて説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0050】
(1)導電性基体と導電性高分子層との接触抵抗の影響
a)自然酸化皮膜を備えたエッチドアルミニウム箔を導電性基体として使用
比較例1
エッチング処理を施したアルミニウム箔を投影面積2cmに打ち抜き、自然酸化アルミニウム皮膜を表面に有するアルミニウム箔(導電性基体A)を得た後、自然酸化アルミニウム皮膜の表面に、図1を参照して説明した方法と同様に、カーボンペースト及び銀ペーストを介して銅箔を固定し、銅箔とアルミニウム箔との間について交流インピーダンス測定を行った。Cole-Coleプロットの実数成分の値を導電性基体Aの抵抗として求めたところ、1.2×10-1Ωcmの値が得られた。
【0051】
50質量%の3,4-エチレンジオキシチオフェン(以下、3,4-エチレンジオキシチオフェンを「EDOT」と表し、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェンを「PEDOT」と表す。)を含むエタノール溶液と、酸化剤であるp-トルエンスルホン酸鉄(III)を60質量%の濃度で含むエタノール溶液と、を体積比で1:2の割合で混合して、化学重合用重合液を得た。次いで、導電性基体Aの自然酸化アルミニウム皮膜の表面に上記化学重合用重合液を塗布し、150℃で20分間乾燥して化学重合を進行させ、自然酸化アルミニウム皮膜上のPEDOT層の厚みが約5μmである陰極を得た。この陰極のPEDOT層の表面に、図1を参照して説明した方法に従い、カーボンペースト及び銀ペーストを介して銅箔を固定し、銅箔とアルミニウム箔との間について交流インピーダンス測定を行ったところ、導電性基体AとPEDOT層との接触抵抗は47.1Ωcmであった。
【0052】
エッチング処理を施して表面積を増大させたアルミニウム箔の表面に化成処理により酸化アルミニウム皮膜を形成した後、投影面積2cmに打ち抜き、陽極(容量:370μF/cm)を得た。次いで、上記陰極(PEDOT層と導電性基体Aとを有する陰極)と上記陽極とをセルロース系セパレータを介して積層したコンデンサ素子を作成し、この素子にフタル酸のアミジニウム塩をγ-ブチロラクトンに15質量%の濃度で溶解させた電解液を含浸させ、ラミネートパックした。次いで、110℃の温度で2.9Vの電圧を60分印加するエージング処理を行い、平板型の電解コンデンサを得た。このコンデンサについて、120Hz及び1kHzの条件下で容量を測定した。
【0053】
比較のために、従来例Aとして、上述したPEDOT層と導電性基体Aとを有する陰極に代えて導電性基体Aを陰極とし、同様の手順で平板型の電解コンデンサを得た。このコンデンサについて、120Hz及び1kHzの条件下で容量を測定した。
【0054】
b)化成酸化皮膜を備えたエッチドアルミニウム箔上に少量のカーボンを蒸着した基体を導電性基体として使用
比較例2
エッチング処理を施したアルミニウム箔の表面に、皮膜耐圧5Vの酸化アルミニウム皮膜を形成し、投影面積2cmに打ち抜き、酸化アルミニウム皮膜の表面に0.232gm-2の量のカーボンを蒸着して、導電性基体Bを得た。次いで、カーボン蒸着膜の表面に、図1を参照して説明した方法と同様に、カーボンペースト及び銀ペーストを介して銅箔を固定し、銅箔とアルミニウム箔との間について交流インピーダンス測定を行った。Cole-Coleプロットの実数成分の値を導電性基体Bの抵抗として求めたところ、26.0Ωcmの値が得られた。
【0055】
ガラス容器に蒸留水50mLを導入し、40℃に加熱した。この液に、0.030MのEDOTと0.04Mのボロジサリチル酸アンモニウムと0.04Mのブチルナフタレンスルホン酸ナトリウムとを添加して撹拌し、ブチルナフタレンスルホン酸ナトリウムによりEDOTを水に可溶化させた電解重合用重合液を得た。次いで、導電性基体B(作用極)と、10cmの面積を有するSUSメッシュの対極とを、上述した電解重合用重合液に導入し、500μA/cmの条件で定電流電解重合を2分間行った。重合後の作用極を水で洗浄した後、100℃で30分間乾燥し、カーボン蒸着膜上のPEDOT層の厚みが350nmである陰極を得た。なお、PEDOT層の厚みは、500μA/cmの条件での定電流電解重合を時間を変えて複数回実施し、各回の実験において得られたPEDOT層の厚みを原子間力顕微鏡或いは段差計を用いて測定し、PEDOT層の厚みと電荷量との関係式を導出した後、導出した関係式を用いて電解重合の電荷量をPEDOT層の厚みに換算して求めた値である。
【0056】
上記陰極のPEDOT層の表面に、図1を参照して説明した方法に従い、カーボンペースト及び銀ペーストを介して銅箔を固定し、銅箔とアルミニウム箔との間について交流インピーダンス測定を行ったところ、導電性基体BとPEDOT層との接触抵抗は3.1Ωcmであった。
【0057】
次いで、比較例1において使用した陽極と上記陰極(PEDOT層と導電性基体Bとを有する陰極)とをセルロース系セパレータを介して積層したコンデンサ素子を作成し、比較例1における手順と同様の手順で平板型の電解コンデンサを得た。このコンデンサについて、120Hz及び1kHzの条件下で容量を測定した。
【0058】
比較のために、従来例Bとして、上述したPEDOT層と導電性基体Bとを有する陰極に代えて導電性基体Bを陰極とし、同様の手順で平板型の電解コンデンサを得た。このコンデンサについて、120Hz及び1kHzの条件下で容量を測定した。
【0059】
c)化成酸化皮膜を備えたエッチドアルミニウム箔上のカーボン蒸着量を増加させた基体を導電性基体として使用
実施例1
エッチング処理を施したアルミニウム箔の表面に、皮膜耐圧5Vの酸化アルミニウム皮膜を形成し、投影面積2cmに打ち抜き、酸化アルミニウム皮膜の表面に0.431gm-2の量のカーボンを蒸着して、導電性基体Cを得た。次いで、カーボン蒸着膜の表面に、図1を参照して説明した方法と同様に、カーボンペースト及び銀ペーストを介して銅箔を固定し、銅箔とアルミニウム箔との間について交流インピーダンス測定を行った。Cole-Coleプロットの実数成分の値を導電性基体Cの抵抗として求めたところ、5.5Ωcmの値が得られた。
【0060】
次いで、導電性基体C(作用極)と、10cmの面積を有するSUSメッシュの対極とを、比較例2において使用した電解重合用の重合液に導入し、500μA/cmの条件で定電流電解重合を2分間行った。重合後の作用極を水で洗浄した後、100℃で30分間乾燥し、カーボン蒸着膜上のPEDOT層の厚みが350nmである陰極を得た。この陰極のPEDOT層の表面に、図1を参照して説明した方法に従い、カーボンペースト及び銀ペーストを介して銅箔を固定し、銅箔とアルミニウム箔との間について交流インピーダンス測定を行ったところ、導電性基体CとPEDOT層との接触抵抗は0.9Ωcmであった。
【0061】
次いで、比較例1において使用した陽極と上記陰極(PEDOT層と導電性基体Cとを有する陰極)とをセルロース系セパレータを介して積層したコンデンサ素子を作成し、比較例1における手順と同様の手順で平板型の電解コンデンサを得た。このコンデンサについて、120Hz及び1kHzの条件下で容量を測定した。
【0062】
比較のために、従来例Cとして、上述したPEDOT層と導電性基体Cとを有する陰極に代えて導電性基体Cを陰極とし、同様の手順で平板型の電解コンデンサを得た。このコンデンサについて、120Hz及び1kHzの条件下で容量を測定した。
【0063】
d)自然酸化皮膜を備えたプレーンアルミニウム箔上に炭化チタンを蒸着した基体を導電性基体として使用
実施例2
エッチング処理を施していないアルミニウム箔を、投影面積2cmに打ち抜き、自然酸化アルミニウム皮膜の表面に炭化チタン蒸着膜を形成して、導電性基体Dを得た。次いで、炭化チタン蒸着膜の表面に、図1を参照して説明した方法と同様に、カーボンペースト及び銀ペーストを介して銅箔を固定し、銅箔とアルミニウム箔との間について交流インピーダンス測定を行った。Cole-Coleプロットの実数成分の値を導電性基体Dの抵抗として求めたところ、2.4×10-1Ωcmの値が得られた。
【0064】
次いで、導電性基体D(作用極)と、10cmの面積を有するSUSメッシュの対極とを、比較例2において使用した電解重合用の重合液に導入し、500μA/cmの条件で定電流電解重合を2分間行った。重合後の作用極を水で洗浄した後、100℃で30分間乾燥し、炭化チタン蒸着膜上のPEDOT層の厚みが350nmである陰極を得た。この陰極のPEDOT層の表面に、図1を参照して説明した方法に従い、カーボンペースト及び銀ペーストを介して銅箔を固定し、銅箔とアルミニウム箔との間について交流インピーダンス測定を行ったところ、導電性基体DとPEDOT層との接触抵抗は5.5×10-2Ωcmであった。
【0065】
次いで、比較例1において使用した陽極と上記陰極(PEDOT層と導電性基体Dとを有する陰極)とをセルロース系セパレータを介して積層したコンデンサ素子を作成し、比較例1における手順と同様の手順で平板型の電解コンデンサを得た。このコンデンサについて、120Hz及び1kHzの条件下で容量を測定した。
【0066】
比較のために、従来例Dとして、上述したPEDOT層と導電性基体Dとを有する陰極に代えて導電性基体Dを陰極とし、同様の手順で平板型の電解コンデンサを得た。このコンデンサについて、120Hz及び1kHzの条件下で容量を測定した。
【0067】
e)自然酸化皮膜を備えたエッチドアルミニウム箔上にカーボンを塗布した基体を導電性基体として使用
実施例3
エッチング処理を施したアルミニウム箔を、投影面積2cmに打ち抜き、自然酸化アルミニウム皮膜の表面に、黒鉛、カーボンブラック及びバインダを含むスラリーを塗布して乾燥することによりカーボン塗布膜を形成して、導電性基体Eを得た。次いで、カーボン塗布膜の表面に、図1を参照して説明した方法と同様に、カーボンペースト及び銀ペーストを介して銅箔を固定し、銅箔とアルミニウム箔との間について交流インピーダンス測定を行った。Cole-Coleプロットの実数成分の値を導電性基体Eの抵抗として求めたところ、7.1×10-3Ωcmの値が得られた。
【0068】
次いで、導電性基体E(作用極)と、10cmの面積を有するSUSメッシュの対極とを、比較例2において使用した電解重合用の重合液に導入し、500μA/cmの条件で定電流電解重合を2分間行った。重合後の作用極を水で洗浄した後、100℃で30分間乾燥し、カーボン塗布膜上のPEDOT層の厚みが350nmである陰極を得た。この陰極のPEDOT層の表面に、図1を参照して説明した方法に従い、カーボンペースト及び銀ペーストを介して銅箔を固定し、銅箔とアルミニウム箔との間について交流インピーダンス測定を行ったところ、導電性基体EとPEDOT層との接触抵抗は6.5×10-3Ωcmであった。
【0069】
次いで、比較例1において使用した陽極と上記陰極(PEDOT層と導電性基体Eとを有する陰極)とをセルロース系セパレータを介して積層したコンデンサ素子を作成し、比較例1における手順と同様の手順で平板型の電解コンデンサを得た。このコンデンサについて、120Hz及び1kHzの条件下で容量を測定した。
【0070】
比較のために、従来例Eとして、上述したPEDOT層と導電性基体Eとを有する陰極に代えて導電性基体Eを陰極とし、同様の手順で平板型の電解コンデンサを得た。このコンデンサについて、120Hz及び1kHzの条件下で容量を測定した。
【0071】
f)化成酸化皮膜を備えたエッチドアルミニウム箔上に炭化チタンを蒸着した基体を導電性基体として使用
実施例4
エッチング処理を施したアルミニウム箔の表面に、皮膜耐圧5Vの酸化アルミニウム皮膜を形成し、投影面積2cmに打ち抜き、酸化アルミニウム皮膜の表面に炭化チタン蒸着膜を形成して、導電性基体Fを得た。次いで、炭化チタン蒸着膜の表面に、図1を参照して説明した方法と同様に、カーボンペースト及び銀ペーストを介して銅箔を固定し、銅箔とアルミニウム箔との間について交流インピーダンス測定を行った。Cole-Coleプロットの実数成分の値を導電性基体Fの抵抗として求めたところ、8.7×10-3Ωcmの値が得られた。
【0072】
次いで、導電性基体F(作用極)と、10cmの面積を有するSUSメッシュの対極とを、比較例2において使用した電解重合用の重合液に導入し、500μA/cmの条件で定電流電解重合を2分間行った。重合後の作用極を水で洗浄した後、100℃で30分間乾燥し、炭化チタン蒸着膜上のPEDOT層の厚みが350nmである陰極を得た。この陰極のPEDOT層の表面に、図1を参照して説明した方法に従い、カーボンペースト及び銀ペーストを介して銅箔を固定し、銅箔とアルミニウム箔との間について交流インピーダンス測定を行ったところ、導電性基体FとPEDOT層との接触抵抗は3.7×10-3Ωcmであった。
【0073】
次いで、比較例1において使用した陽極と上記陰極(電解重合PEDOT層と導電性基体Fとを有する陰極)とをセルロース系セパレータを介して積層したコンデンサ素子を作成し、比較例1における手順と同様の手順で平板型の電解コンデンサを得た。このコンデンサについて、120Hz及び1kHzの条件下で容量を測定した。
【0074】
比較のために、従来例Fとして、上述したPEDOT層と導電性基体Fとを有する陰極に代えて導電性基体Fを陰極とし、同様の手順で平板型の電解コンデンサを得た。このコンデンサについて、120Hz及び1kHzの条件下で容量を測定した。
【0075】
実施例5
実施例4において使用した導電性基体Fの炭化チタン蒸着膜の表面に、比較例1において使用した化学重合用重合液を塗布し、150℃で20分間乾燥して化学重合を進行させ、炭化チタン蒸着膜上のPEDOT層の厚みが約5μmである陰極を得た。この陰極のPEDOT層の表面に、図1を参照して説明した方法に従い、カーボンペースト及び銀ペーストを介して銅箔を固定し、銅箔とアルミニウム箔との間について交流インピーダンス測定を行ったところ、導電性基体FとPEDOT層との接触抵抗は6.4×10-3Ωcmであった。
【0076】
次いで、比較例1において使用した陽極と上記陰極(化学重合PEDOT層と導電性基体Fとを有する陰極)とをセルロース系セパレータを介して積層したコンデンサ素子を作成し、比較例1における手順と同様の手順で平板型の電解コンデンサを得た。このコンデンサについて、120Hz及び1kHzの条件下で容量を測定した。
【0077】
g)自然酸化皮膜を備えたエッチドアルミニウム箔上にカーボンを蒸着した基体を導電性基体として使用
実施例6
表層のみにエッチング処理を施したアルミニウム箔を、投影面積2cmに打ち抜き、自然酸化アルミニウム皮膜の表面にカーボン蒸着膜を形成して導電性基体Gを得た。次いで、カーボン蒸着膜の表面に、図1を参照して説明した方法と同様に、カーボンペースト及び銀ペーストを介して銅箔を固定し、銅箔とアルミニウム箔との間について交流インピーダンス測定を行った。Cole-Coleプロットの実数成分の値を導電性基体Gの抵抗として求めたところ、2.2×10-3Ωcmの値が得られた。
【0078】
次いで、導電性基体G(作用極)と、10cmの面積を有するSUSメッシュの対極とを、比較例2において使用した電解重合用の重合液に導入し、500μA/cmの条件で定電流電解重合を2分間行った。重合後の作用極を水で洗浄した後、100℃で30分間乾燥し、カーボン蒸着膜上のPEDOT層の厚みが350nmである陰極を得た。この陰極のPEDOT層の表面に、図1を参照して説明した方法に従い、カーボンペースト及び銀ペーストを介して銅箔を固定し、銅箔とアルミニウム箔との間について交流インピーダンス測定を行ったところ、導電性基体GとPEDOT層との接触抵抗は1.4×10-3Ωcmであった。
【0079】
次いで、比較例1において使用した陽極と上記陰極(PEDOT層と導電性基体Gとを有する陰極)とをセルロース系セパレータを介して積層したコンデンサ素子を作成し、比較例1における手順と同様の手順で平板型の電解コンデンサを得た。このコンデンサについて、120Hz及び1kHzの条件下で容量を測定した。
【0080】
比較のために、従来例Gとして、上述したPEDOT層と導電性基体Gとを有する陰極に代えて導電性基体Gを陰極とし、同様の手順で平板型の電解コンデンサを得た。このコンデンサについて、120Hz及び1kHzの条件下で容量を測定した。
【0081】
表1に、実施例1~6、比較例1,2及び従来例A~Gのコンデンサについての120Hz及び1kHzの条件下での容量を示す。
【表1】
【0082】
表1から、導電性基体Aから成る陰極を備えた従来例Aのコンデンサの容量と、導電性基体Aの表面に化学重合PEDOT層が形成された陰極を備えた比較例1のコンデンサの容量とを比較すると、比較例1のコンデンサの容量が従来例Aのコンデンサの容量よりわずかに小さくなっているが、導電性基体Bから成る陰極を備えた従来例Bのコンデンサの容量と、導電性基体Bの表面に電解重合PEDOT層が形成された陰極を備えた比較例2のコンデンサの容量とを比較すると、比較例2のコンデンサの容量が従来例Bのコンデンサの容量より大きくなっていることが分かる。これは、比較例2のコンデンサにおいて陰極における導電性基体とPEDOT層との接触抵抗が低下したため、PEDOT層のレドックス反応を進行させるために必要な電子が導電性基体からPEDOT層にわずかながら供給されるようになり、PEDOT層がレドックス容量をわずかながら発現するようになったことに対応している。比較例1のコンデンサにおけるPEDOT層は化学重合により形成され、比較例2のコンデンサにおけるPEDOT層は電解重合により形成されているが、電解重合PEDOT層を有する実施例4のコンデンサの容量と化学重合PEDOT層を有する実施例5のコンデンサの容量との比較から把握されるように、PEDOTの重合方法の相違はコンデンサ容量に影響を与えず、比較例1のコンデンサの容量と比較例2のコンデンサの容量との相違は、陰極における導電性基体とPEDOT層との接触抵抗の相違に起因している。
【0083】
また、表1より、導電性基体Cから成る陰極を備えた従来例Cのコンデンサの容量と、導電性基体Cの表面に電解重合PEDOT層が形成された陰極を備えた実施例1のコンデンサの容量とを比較すると、実施例1のコンデンサの容量が従来例Cのコンデンサの容量より特に120Hzの条件下において顕著に大きくなっていることがわかる。これは、実施例1のコンデンサの陰極における導電性基体とPEDOT層との接触抵抗が、比較例2のものに比較してさらに低下したため、PEDOT層のレドックス反応を進行させるために必要な電子が導電性基体からPEDOT層に十分に供給されるようになり、PEDOT層のレドックス容量の発現量が顕著に増大したことに対応している。さらに、表1より、導電性基体とPEDOT層との接触抵抗がさらに低下している陰極を備えた実施例2~6のコンデンサは、同じ導電性基体から成る陰極を備えた従来例D~Gのコンデンサと比較して、120Hzに加えて1kHzの条件下でも、顕著に増加した容量を示していることがわかる。
【0084】
表1から明らかなように、120kHzの条件下での実施例1~6のコンデンサの容量は、同じ導電性基体を備えた従来例C~Gのコンデンサの容量が大きく変化しているにもかかわらず、大きな相違が認められない。このことから、PEDOT層のレドックス反応を進行させるために必要な電子が導電性基体からPEDOT層に十分に供給されるようになると、陰極の容量がPEDOT層によるレドックス容量によって支配的に決定されること、及び、陰極におけるPEDOT層のレドックス容量を信頼性良く発現させるためには、陰極における導電性基体とPEDOT層との接触抵抗を1Ωcm以下にする必要があることがわかった。
【0085】
また、表1から明らかなように、1kHzの条件下での実施例2~6のコンデンサの容量は、同じ導電性基体を備えた従来例D~Gのコンデンサの容量が大きく変化しているにもかかわらず、やはり大きな相違が認められず、しかも120Hzの条件下での容量と接近した値である。このことから、高い周波数の条件下でも高い容量を示し、広い周波数の範囲で高い容量を示す電解コンデンサを得るためには、陰極における導電性基体とPEDOT層との接触抵抗を0.06Ωcm以下にする必要があることがわかった。
【0086】
(2)電解液における溶質の影響
上述したように、陰極におけるPEDOT層のレドックス容量を信頼性良く発現させるためには、陰極における導電性基体とPEDOT層との接触抵抗を1Ωcm以下に設定する必要があるが、レドックス容量の発現量は、電解液における溶質の種類及びその濃度によっても変化すると考えられる。そこで、以下の実験を行った。
【0087】
実施例7
γ-ブチロラクトンにジカルボン酸であるフタル酸と対カチオンを与える化合物としての1,2,3,4-テトラメチルイミダゾリニウム塩とを溶解させて電解液を調製した。フタル酸の濃度を0.1M~1.2Mの範囲で変更し、フタル酸と1,2,3,4-テトラメチルイミダゾリニウム塩の濃度を同一にした。得られた電解液に、実施例1で用いた陰極(PEDOT層と導電性基体Cとを有する陰極)を導入し、30℃の条件下で120Hzにおける陰極の容量を測定した。
【0088】
実施例8
対カチオンを与える化合物として、1,2,3,4-テトラメチルイミダゾリニウム塩に代えてエチルジメチルアミンを使用し、フタル酸の濃度を0.1M~1.3Mの範囲で変更し、フタル酸とエチルジメチルアミンの濃度を同一にした点を除いて、実施例7の手順を繰り返した。
【0089】
実施例9
対カチオンを与える化合物として、1,2,3,4-テトラメチルイミダゾリニウム塩に代えてトリエチルアミンを使用し、フタル酸の濃度を0.1M~1.3Mの範囲で変更し、フタル酸とトリエチルアミンの濃度を同一にした点を除いて、実施例7の手順を繰り返した。
【0090】
実施例10
対カチオンを与える化合物として、1,2,3,4-テトラメチルイミダゾリニウム塩に代えてジエチルアミンを使用し、フタル酸の濃度を0.1M~1.1Mの範囲で変更し、フタル酸とジエチルアミンの濃度を同一にした点を除いて、実施例7の手順を繰り返した。
【0091】
図2に、実施例7~10についての陰極の容量を示す。図2には、PEDOT層を備えていない導電性基体Cを実施例7で用いた電解液に導入し、30℃、120Hzの条件下で測定した容量も示されている。図2における導電性基体の容量と実施例7における陰極の容量との顕著な差は、PEDOT層によるレドックス容量の発現に起因している。図2より、アミジニウムカチオンの1種である1,2,3,4-テトラメチルイミダゾリニウムカチオンが、陰極のPEDOT層によるレドックス容量を顕著に増大させることが分かる。また、図2より、電解液中に、フタル酸アニオンと対カチオンとから成る溶質が0.1M~1.3Mの範囲、好ましくは0.3M~1.2Mの範囲で含まれていれば、十分に増大したレドックス容量が得られることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明により、小型で大容量を有する電解コンデンサが得られる。
図1
図2