(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-19
(45)【発行日】2022-10-27
(54)【発明の名称】トイレ装置
(51)【国際特許分類】
E03D 11/02 20060101AFI20221020BHJP
E03D 5/10 20060101ALI20221020BHJP
【FI】
E03D11/02 Z
E03D5/10
(21)【出願番号】P 2018199352
(22)【出願日】2018-10-23
【審査請求日】2021-09-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000010087
【氏名又は名称】TOTO株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108062
【氏名又は名称】日向寺 雅彦
(74)【代理人】
【識別番号】100168332
【氏名又は名称】小崎 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100146592
【氏名又は名称】市川 浩
(72)【発明者】
【氏名】立木 翔一
(72)【発明者】
【氏名】小林 基紀
(72)【発明者】
【氏名】正平 裕也
(72)【発明者】
【氏名】轟木 健太郎
【審査官】広瀬 杏奈
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-072221(JP,A)
【文献】特開2003-056046(JP,A)
【文献】特開2018-162649(JP,A)
【文献】特開2014-163203(JP,A)
【文献】特開2010-007262(JP,A)
【文献】特開2004-257058(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E03D 11/00-13/00
E03D 1/00- 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
大便器内の表面の溢れ面より低く且つ封水面より高い位置に水があるか否かを検知する検知部と、
前記検知部の検知結果に基づいて、前記大便器の詰まり状態を判定する詰まり判定部と、
前記詰まり判定部の判定結果に基づいて、前記大便器への洗浄水供給を禁止するか否かを判定する制御部と、
を備え、
前記詰まり判定部は、前記大便器への洗浄水供給中における前記検知部の第1検知結果と、前記大便器への洗浄水供給が終了した後における前記検知部の第2検知結果とを比較することで、前記大便器の詰まり状態を判定するトイレ装置。
【請求項2】
前記詰まり判定部は、前記第1検知結果と前記第2検知結果の差が所定値未満であれば前記大便器に詰まりが有ると判定し、前記第1検知結果と前記第2検知結果の差が前記所定値以上であれば前記大便器に詰まりが無いと判定する請求項1記載のトイレ装置。
【請求項3】
前記第1検知結果は、前記大便器への洗浄水供給が行われる度に、前記検知部によって取得される請求項2記載のトイレ装置。
【請求項4】
前記大便器への洗浄水供給が開始されてから所定時間経過後における前記検知部の検知結果が、前記第1検知結果として設定される請求項1~3のいずれか1つに記載のトイレ装置。
【請求項5】
前記大便器への洗浄水供給中における前記検知部の検知結果の最大値が、前記第1検知結果として設定される請求項1~3のいずれか1つに記載のトイレ装置。
【請求項6】
前記大便器と、前記大便器に洗浄水を供給する洗浄水供給手段と、は前記大便器への洗浄水供給中において、前記検知部の検知可能領域となる前記大便器内の表面全体に水流を形成する請求項4又は5に記載のトイレ装置。
【請求項7】
前記大便器内の表面は、親水性を有する請求項6記載のトイレ装置。
【請求項8】
前記検知部は、前記大便器の内部に設けられた電波センサであり、
前記検知部は、前記大便器内の表面を透過するよう電波を送信し、前記大便器の表面に水がある場合、当該水によって反射した反射波を受信可能である請求項1~7のいずれか1つに記載のトイレ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の態様は、一般的に、トイレ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、便器洗浄後の大便器内の水位状態を検知する事で、大便器の詰まりを判定するトイレ装置が開示されている。大便器の水位状態を検知する手段として、例えば、マイクロ波のような電波を用いた電波センサを使用することが考えられる。電波センサは、樹脂や陶器を透過するため、センサを大便器の裏側に隠蔽でき、デザイン性に優れるといったメリットがある。具体的な検知方法としては、例えば、便器洗浄後に、大便器内の表面の溢れ面より低く且つ封水面より高い表面に水が有るか否かを検知して、大便器の詰まりを検知する。より具体的には、便器洗浄前の電波センサの検知結果を基準値とし、この基準値と便器洗浄後の電波センサの検知結果を比較して、大便器の詰まりを判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5605765号公報
【文献】特許第5029930号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、近年、特許文献2のように、大便器内表面における便付着抑制や除菌のために、大便器の使用前や使用後に除菌水や水道水を霧状に噴出する機能がトイレ装置に設けられることがある。この機能が実行されると、大便器内の表面に多数の水滴が付着する。また、大便器内の表面には、濡れたトイレットペーパーが付着する場合もある。これらの場合、表面に水滴やトイレットペーパーが無い場合と比べて、検知結果が変化する。すなわち、上述した詰まり判定において、基準値がばらつき、大便器の詰まり状態を正確に判定できない可能性が高くなる。
【0005】
本発明は、上述した課題に鑑み、大便器表面に水が有るか否かを検知するセンサを用いた場合であっても、大便器に付帯される機能や大便器の使用態様などに拘わらず、大便器の詰まり状態をより正確に判定できるトイレ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、大便器内の表面の溢れ面より低く且つ封水面より高い位置に水が有るか否かを検知する検知部と、前記検知部の検知結果に基づいて、前記大便器の詰まり状態を判定する詰まり判定部と、前記詰まり判定部の判定結果に基づいて、前記大便器への洗浄水供給を禁止するか否かを判定する制御部と、を備え、前記詰まり判定部は、前記大便器への洗浄水供給中における前記検知部の第1検知結果と、前記大便器への洗浄水供給が終了した後における前記検知部の第2検知結果とを比較することで、前記大便器の詰まり状態を判定するトイレ装置である。
【0007】
大便器へ洗浄水が供給されると、大便器内の表面が洗浄水で洗い流され、大便器内の表面が水で覆われた状態となる。このため、大便器に付帯される機能や、大便器の使用態様などに拘わらず、大便器の詰まり状態の判定で基準値として用いられる第1検知結果をより安定させることができる。従って、このトイレ装置によれば、大便器の詰まり状態をより精度良く判定することが可能となる。
【0008】
第2の発明は、第1の発明において、前記詰まり判定部は、前記第1検知結果と前記第2検知結果の差が所定値未満であれば前記大便器に詰まりが有ると判定し、前記第1検知結果と前記第2検知結果の差が前記所定値以上であれば前記大便器に詰まりが無いと判定するトイレ装置である。
【0009】
このトイレ装置によれば、大便器の詰まり状態を精度良く判定することが可能となる。
【0010】
第3の発明は、第2の発明において、前記第1検知結果は、前記大便器への洗浄水供給が行われる度に、前記検知部によって取得されるトイレ装置である。
【0011】
検知部による検知結果は、大便器内の表面の状態が同じ場合でも、大便器の温度などの周囲の環境に応じて変化する可能性がある。このトイレ装置によれば、第1検知結果は、大便器への洗浄水供給が行われる度に、検知部により取得される。このため、検知部の周囲の環境が判定結果に及ぼす影響を低減し、詰まり状態の判定の精度をさらに向上させることができる。
【0012】
第4の発明は、第1~第3のいずれか1つの発明において、前記大便器への洗浄水供給が開始されてから所定時間経過後における前記検知部の検知結果が、前記第1検知結果として設定されるトイレ装置である。
【0013】
このトイレ装置によれば、第1検知結果のばらつきを小さくでき、詰まり状態の判定の精度をさらに向上させることができる。
【0014】
第5の発明は、第1~第3のいずれか1つの発明において、前記大便器への洗浄水供給中における前記検知部の検知結果の最大値が、前記第1検知結果として設定されるトイレ装置である。
【0015】
このトイレ装置によれば、第1検知結果のばらつきを小さくでき、詰まり状態の判定の精度をさらに向上させることができる。
【0016】
第6の発明は、第4又は第5の発明において、前記大便器と、前記大便器に洗浄水を供給する洗浄水供給手段と、は前記大便器への洗浄水供給中において、前記検知部の検知可能領域となる前記大便器内の表面全体に水流を形成するトイレ装置である。
【0017】
このトイレ装置によれば、洗浄中に取得される第1検知結果をより安定させ、詰まり状態の判定の精度をさらに向上させることができる。
【0018】
第7の発明は、第6の発明において、前記大便器内の表面は、親水性を有するトイレ装置である。
【0019】
このトイレ装置によれば、洗浄後において、大便器内の表面に水の膜が形成され易くなる。表面に水膜が形成されると、洗浄後の検知部による検知結果が安定し、大便器の詰まり状態の判定の精度を向上させることができる。
【0020】
第8の発明は、第1~第7のいずれか1つの発明において、前記検知部は、前記大便器の内部に設けられた電波センサであり、前記検知部は、前記大便器内の表面を透過するよう電波を送信し、前記大便器の表面に水がある場合、当該水によって反射した反射波を受信可能であるトイレ装置である。
【0021】
このトイレ装置によれば、大便器の詰まり状態を精度良く判定することが可能となる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の態様によれば、大便器表面に水が有るか否かを検知するセンサを用いた場合であっても、大便器に付帯される機能や大便器の使用態様などに拘わらず、大便器の詰まり状態をより正確に判定できるトイレ装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】実施形態に係るトイレ装置の構成を表す模式図である。
【
図2】実施形態に係るトイレ装置の一部を表す模式的断面図である。
【
図3】(a)は検知部による検知結果を例示するグラフであり、(b)~(d)は大便器の状態を表す模式図である。
【
図4】(a)は検知部による検知結果を例示するグラフであり、(b)~(d)は大便器の状態を表す模式図である。
【
図5】実施形態に係るトイレ装置の検知部による検知結果を例示するグラフである。
【
図6】実施形態に係るトイレ装置の検知部による検知結果を例示するグラフである。
【
図7】実施形態に係るトイレ装置の検知部による検知結果を例示するグラフである。
【
図8】大便器の検知部近傍を表す模式的断面図である。
【
図9】実施形態に係るトイレ装置の検知部の構造を表す模式図である。
【
図10】実施形態に係るトイレ装置の検知部による検知結果を例示するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、各図面中、同様の構成要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
図1は、実施形態に係るトイレ装置の構成を表す模式図である。
図1に表したように、実施形態に係るトイレ装置1は、検知部10、詰まり判定部12、制御部14、及び報知手段16を備える。トイレ装置1は、大便器20及び洗浄水供給部22と組み合わせて用いられる。又は、トイレ装置1が、大便器20及び洗浄水供給部22を備えていても良い。
【0025】
本願明細書においては、大便器20に着座した使用者からみて上方を「上方」とし、その反対方向を「下方」とする。また、大便器20に着座した使用者からみて前方を「前方」とし、その反対方向を「後方」とする。
【0026】
図2は、実施形態に係るトイレ装置の一部を表す模式的断面図である。
検知部10は、大便器20の内部に設けられる。検知部10は、大便器20内の表面の、溢れ面S1より低く且つ封水面S2より高い位置に水が有るか否かを検知する。検知部10の位置は、任意である。
図2に表した例では、検知部10は、大便器20内に設けられたボウル後方の裏側に取り付けられており、ボウル後方の表面20aに水が有るか否かを検知する。
【0027】
図2(a)に表したように、大便器20に詰まり等が無い通常の状態では、大便器20内の水(封水)の表面は、封水面S2に位置する。例えば
図2(b)に表したように、大便器20内に異物Eが詰まると、大便器20内の水面の位置が封水面S2よりも高くなる。溢れ面S1は、封水面S2よりも高い位置にある。溢れ面S1の位置は、任意である。例えば、溢れ面S1の位置は、次に大便を洗い流すための洗浄水が大便器20に供給されたとしても、大便器20から水が溢れ出ない上限の位置に設定される。すなわち、大便器20内の水面が溢れ面S1よりも高い位置にあると、大便器20に洗浄水が供給されたときに大便器20から水が溢れる可能性がある。
【0028】
検知部10は、表面20aの状態に応じた信号を検知する。例えば、検知部10は、表面20aに水が有る状態と、表面20aに水が無い状態と、で異なる信号を取得する。検知部10は、例えば、電波センサ又は静電容量センサである。
【0029】
検知部10として静電容量センサが用いられる場合、検知部10は、検知部10と表面20aの間の静電容量を検知する。表面20aに水が有ると、表面20aに水が無い場合に比べて、静電容量が大きくなる。検知部10は、検知された静電容量を、検知結果として詰まり判定部12へ送信する。
【0030】
検知部10として電波センサが用いられる場合、検知部10は、表面20aに向けて電波を放射する。放射される電波は、ミリ波又はマイクロ波であり、樹脂や陶器などを透過する。検知部10は、放射された電波の反射波の強度を検知する。表面20aに水が有ると、表面20aに水が無い場合に比べて、反射波の強度が大きくなる。検知部10は、反射波強度の検知結果を、詰まり判定部12へ送信する。
【0031】
図2では、検知部10が電波センサであり、電波11を放射している様子が表されている。以降では、検知部10が電波センサである場合について説明する。
【0032】
詰まり判定部12は、検知部10の検知結果に基づいて、大便器20の詰まり状態を判定する。詰まり判定部12は、その判定結果を制御部14へ送信する。詰まり判定部12による具体的な判定方法は、後述する。
【0033】
制御部14は、詰まり判定部12の判定結果に基づいて、非常モードを実行するか否かを判定する。非常モードでは、制御部14は、大便器20への洗浄水供給の禁止と、報知と、の少なくともいずれかを行う。
【0034】
例えば、制御部14は、詰まり判定部12により大便器20に詰まりが有ると判定されると、大便器20への洗浄水供給を禁止する。又は、制御部14は、詰まり判定部12により大便器20に詰まりが有ると判定されると、報知手段16に信号を送信する。報知手段16は、信号を受信すると、光、音、又は振動などを発して、大便器20の使用者又は管理者に大便器20に詰まりが有る事を報知する。報知手段16は、大便器20に詰まりが有ることを示す通知を、大便器20から離れた場所に送信する送信手段であっても良い。例えば、報知手段16は、管理者の端末に向けて無線信号を送信しても良い。報知手段16は、ネットワーク又はLANに接続されており、これらを介して管理者の端末やサーバに向けて情報を送信しても良い。
【0035】
詰まり判定部12及び制御部14は、例えば、それぞれ処理装置(マイコン)を有する。又は、1つの処理装置が詰まり判定部12及び制御部14として機能しても良い。あるいは、検知部10が処理装置を備え、詰まり判定部12の機能、又は詰まり判定部12と制御部14の両方の機能を検知部10が備えていても良い。
【0036】
洗浄水供給部22は、バルブ(例えばソレノイドバルブ)又はモータ等を有し、上水道や貯水タンクなどの給水源と接続される。バルブ又はモータが動作することで、給水源から大便器20へ洗浄水が供給される状態と、洗浄水が供給されない状態と、が切り替わる。洗浄水供給部22は、この他に、水を貯留するタンクや、水を圧送するポンプなどを適宜有していても良い。
【0037】
使用者が不図示のリモコンなどにより大便器20を洗浄するための洗浄操作を行うと、制御部14は、その洗浄操作に応じた信号を洗浄水供給部22へ送信する。制御部14から送信された信号に基づいて洗浄水供給部22のバルブ又はモータが動作することで、大便器20へ洗浄水が供給される。
【0038】
例えば、制御部14は、大便器20への洗浄水供給を禁止すると判定すると、リモコンが操作されても、大便器20へ洗浄水を供給するための信号を洗浄水供給部22に送信しない。
【0039】
図3及び
図4を参照して、詰まり判定部12による判定方法について説明する。
図3(a)及び
図4(a)は、検知部による検知結果を例示するグラフである。
図3(b)~
図3(d)及び
図4(b)~
図4(d)は、大便器の状態を表す模式図である。
図3(a)及び
図4(a)において、横軸は時間を表し、縦軸は検知部10による検知結果を表す。この例では、検知部10が電波センサであり、縦軸は検知部10により検知された反射波の強度を表している。なお、反射波の強度が増した場合、定在波の影響により、縦軸の値は上下両方に変動する可能性がある。後述の実施例では、大便器20に詰まりが有る時に上方向に変動するグラフで示しているが、下方向に変動する場合も含んでよい。
【0040】
図3(a)は、大便器20に詰まりが無い場合の検知結果を例示している。
図3(a)において、期間P1は、洗浄水供給前の状態を表す。期間P2は、洗浄水供給中の状態を表す。期間P3は、洗浄水供給が終了した後の状態を表す。以降では、期間P1における大便器20の状態を「洗浄前」という。また、期間P2における大便器20の状態を「洗浄中」といい、期間P3における大便器20の状態を「洗浄後」という。以下で、これらの期間における大便器20の状態を具体的に説明する。
【0041】
図3(a)の時刻T0では、大便器20内の水面は、封水面S2にあるとする。時刻T0では、
図3(b)に表したように、大便器20内の表面20aには水が無い。このため、検知結果は、比較的小さな値で安定している。
【0042】
その後、時刻T1で大便器20への洗浄水供給が開始されると、期間P1が終了して期間P2が始まる。時刻T1では、換言すると、制御部14から洗浄水供給部22に対して、大便器20へ洗浄水を供給させる信号が送信される。
【0043】
例えば、時刻T1~T2の間は、洗浄水の供給が開始された直後であり、表面20aにおける水流が安定していないため、検知結果の値が大きく変動する。その後、時刻T2から時刻T3までの間は、
図3(c)に表したように、大便器20内に多量の洗浄水が供給される。この間、表面20aの全体が水に覆われるため、検知結果が比較的大きな値で安定する。
【0044】
時刻T3で洗浄水の供給が停止されると、期間P2が終了して期間P3が始まる。時刻T3では、換言すると、制御部14から洗浄水供給部22に対して、大便器20への洗浄水供給を停止させる信号が送信される。
【0045】
その後、時刻T3から時刻T4にかけて洗浄水が流れ切るまでの間、表面20aにおける水の流れが変化し、検知結果の値が大きく変動する。時刻T4以降では、供給された洗浄水が流れ切り、
図3(d)に表したように、表面20aに水が無い状態となる。このため、検知結果は、期間P1と同様に、比較的小さな値で安定する。なお、洗浄水供給部22からの洗浄水供給を停止する時刻と、表面20aにおける水の流れが変化する時刻と、は必ずしも一致しない。例えば、洗浄水供給部22から表面20aに到達するまでの流路が長い場合などである。この場合、洗浄水供給部22からの供給を停止直後、すなわち時刻T3直後は、まだ表面20aの全体が水に覆われているため、検知結果が比較的大きな値で安定している。つまり期間P3は、洗浄水供給を停止してから、表面20aにおける水の流れが変化し始める直前までの時間も含まれている。
【0046】
図4(a)は、大便器20に詰まりが有る場合の検知結果を例示している。
図4(a)において、期間P1~P3は、それぞれ
図3(a)と同様に、洗浄前、洗浄中、及び洗浄後の状態を表す。
【0047】
期間P1及びP2における検知部10による検知結果は、
図3(a)に表した例と実質的に同一である。すなわち、期間P1では、
図4(b)に表したように表面20aには水が無く、期間P2では、
図4(c)に表したように大便器20内を洗浄水が流れ、表面20aが水で覆われる。
【0048】
大便器20に詰まりが有ると、期間P2で供給された洗浄水が大便器20から排水されず、
図4(c)に表したように大便器20内に溜まる。この場合、表面20aが水で覆われるため、時刻T3で洗浄水の供給が終了した後も、検知結果は比較的大きな値を示す。
【0049】
詰まり判定部12は、上述した一連の流れにおいて、洗浄中の期間P2における検知部10の第1検知結果と、洗浄後の期間P3における検知部10の第2検知結果と、を比較する。詰まり判定部12は、その比較結果に基づいて、大便器20の詰まり状態を判定する。
【0050】
具体的には、詰まり判定部12は、第1検知結果と第2検知結果の差を算出する。詰まり判定部12は、差が所定値以上であれば、大便器20の詰まりは無いと判定する。詰まり判定部12は、差が所定値未満であれば、大便器20に詰まりが有ると判定する。例えば、所定値との比較には、当該差の絶対値が用いられる。所定値は、予め詰まり判定部12に設定されている。又は、所定値は、予めトイレ装置1の管理者により設定される。又は、所定値は、検知部10による過去の検知結果などに基づいて設定されても良い。
【0051】
実施形態の効果を説明する。
大便器20の詰まり状態を検知部10による検知結果に基づいて判定する場合、洗浄前の期間P1及び洗浄後の期間P3で取得された検知結果を用いる方法も考えられる。この方法を用いる場合、期間P1における検知結果と期間P3における検知結果との差が閾値未満のとき、大便器20に詰まりが無いと判定され、当該差が閾値以上のとき、大便器20に詰まりが有ると判定される。
【0052】
しかし、期間P1では、大便器20に付帯される機能や、大便器20の使用態様などにより、表面20aの状態が変化しうる。例えば、洗浄前において大便器20内の表面に水(除菌水又は水道水)を噴霧する装置が、大便器20に設けられる場合がある。大便器20内の表面に水が噴霧されると、表面20aに多数の水滴が付着し、検知結果が大きくなる。又は、表面20aに濡れたトイレットペーパーが付着する場合もある。この場合、表面20aに何も付着していない場合に比べて、検知結果が大きくなる。これらの結果、期間P1における検知結果と期間P3における検知結果との差が閾値以上となり、大便器20に詰まりが無いにも拘わらず、大便器20に詰まりが有ると判定される可能性がある。
【0053】
本実施形態では、この課題に鑑み、大便器20の詰まり状態の判定に、期間P2の第1検知結果と期間P3の第2検知結果を用いる。期間P2では、大便器20に洗浄水が供給され、表面20aが水で覆われた状態となる。また、洗浄前に表面20aにトイレットペーパー等が付着していた場合でも、それらを洗浄水で洗い流すことができる。このため、大便器20に付帯される機能や、大便器20の使用態様などに拘わらず、大便器20の詰まり状態の判定で基準値として用いられる第1検知結果をより安定させることができる。この結果、大便器20の詰まり状態をより精度良く判定することが可能となる。
【0054】
例えば、
図3(a)に表した例において、期間P2のタイミングt1で検知部10により第1検知結果が取得され、期間P3のタイミングt2で検知部10により第2検知結果が取得される。詰まり判定部12は、第1検知結果の値V1と第2検知結果の値V2との差を、所定値PVと比較する。差V1-V2の絶対値は、所定値PV以上であるため、大便器20に詰まりは無いと判定される。
【0055】
図4(a)に表した例では、期間P2のタイミングt1で取得された第1検知結果の値V1は、期間P3のタイミングt2で取得された第2検知結果の値V2と同じである。従って、差V1-V2の絶対値は、所定値PV未満であるため、大便器20に詰まりが有ると判定される。
【0056】
図5(a)、
図5(b)、
図6(a)、
図6(b)、及び
図7は、実施形態に係るトイレ装置の検知部による他の検知結果を例示するグラフである。
これらの図において、横軸は時間を表し、縦軸は検知部10による検知結果を表す。
【0057】
図5(a)及び
図5(b)は、洗浄前の大便器20内の表面に水を噴霧する場合の検知結果を表している。また、
図5(a)は、大便器20に詰まりが無いときの検知結果を表し、
図5(b)は、大便器20に詰まりが有るときの検知結果を表している。
【0058】
図5(a)に表した例では、洗浄前の期間P1において、時刻T01から時刻T02の間に、大便器20内の表面に水が噴霧される。時刻T02以降では、表面20aに水滴が付着しているため、検知結果が時刻T01以前よりも大きくなる。その後、時刻T1で大便器20への洗浄水供給が開始されると、期間P2中のタイミングt1において、第1検知結果が取得される。その後、期間P3中のタイミングt2において、第2検知結果が取得される。第1検知結果V1と第2検知結果V2の差は、所定値PV以上であるため、大便器20には詰まりが無いと判定される。
【0059】
図5(b)に表した例においても同様に、期間P1において大便器20内の表面に水が噴霧され、期間P2中のタイミングt1で第1検知結果が取得される。その後、期間P3中のタイミングt2で第2検知結果が取得される。第1検知結果V1と第2検知結果V2は同じ値であり、これらの差は所定値PV未満であるため、大便器20に詰まりが有ると判定される。
【0060】
図3(a)及び
図4(a)と、
図5(a)及び
図5(b)と、の比較から分かるように、洗浄前の期間P1における検知結果は、洗浄中の期間P2における検知結果に影響しない。従って、本実施形態によれば、大便器20内の表面に水が噴霧される場合でも、大便器20の詰まり状態を正確に判定することが可能となる。
【0061】
なお、洗浄水供給の開始直後は、表面20aにおける水流が安定せず、
図3(a)の時刻T1と時刻T2の間のように、検知結果が大きく変動する。値が瞬間的に小さくなったときの検知結果が第1検知結果として設定されると、詰まり状態を正確に判定できない可能性がある。一方、時刻T2以降では、水流が安定して、検知結果の変動が小さくなる。また、表面20aの全体が水に覆われ、表面20aの状態が大便器20に詰まりが生じたときに近い状態となる。このため、期間P2の開始後に所定時間が経過した時刻T2以降の検知結果が、第1検知結果として設定されることが望ましい。こうすることで、第1検知結果のばらつきを小さくできる。これにより、詰まり状態の判定の精度をさらに向上させることができる。
【0062】
所定時間としては、期間P2よりも短く、時刻T1と時刻T2の差より長い時間が設定される。所定時間は、大便器20へ供給される洗浄水の量や勢い、大便器20における洗浄水の流れ方などに応じて、適宜設定される。一例として、一般的な便器において、当該所定時間は、1秒以上4秒以下に設定される。
【0063】
同様に、時刻T3で洗浄水供給が終了した直後は、表面20aを流れる水量が徐々に減少していくため、
図3(a)の時刻T3と時刻T4の間のように、検知結果が大きく変動する。一方、時刻T4以降では、水流が安定して、検知結果の変動が小さくなる。このため、期間P3の開始後に所定時間が経過した時刻T4以降の検知結果が第2検知結果として設定されることで、第2検知結果のばらつきを小さくできる。これにより、詰まり状態の判定の精度をさらに向上させることができる。一例として、一般的な便器において、当該所定時間は、3秒以上15秒以下に設定される。
【0064】
又は、期間P2における検知結果の最大値が第1検知結果として用いられても良い。
図6に表した例では、期間P2中のタイミングt1において検知結果が最大となっている。詰まり判定部12は、タイミングt1で取得された検知結果を第1検知結果として設定し、第2検知結果との差を算出する。検知結果が最大となるときは、表面20aの全体が水に覆われ、表面20aの状態が大便器20に詰まりが生じたときに近い状態となる。従って、この方法においても、第1検知結果をより安定させ、詰まり状態の判定の精度をさらに向上させることが可能である。
【0065】
図7は、詰まりが無い大便器20において、洗浄前の期間P1から洗浄後の期間P3までの一連の動作が繰り返されたときの検知結果を表している。
図7では、洗浄前から洗浄後までの一連の動作を含むサイクルC1及びサイクルC2が行われたときの様子を表している。
【0066】
詰まり状態の判定において、第1検知結果を一度設定すると、以降はその第1検知結果を第2検知結果との差の算出に繰り返し用いる方法も考えられる。この方法でも、洗浄前の大便器20の状態に拘わらず、大便器20の詰まり状態を比較的精度良く判定できる。例えば、
図7に表した例において、サイクルC1の洗浄中のタイミングt1で第1検知結果を取得した後、サイクルC1の洗浄後のタイミングt2で第2検知結果を取得し、サイクルC1における大便器20の詰まり状態を判定する。そして、サイクルC2では、洗浄中に第1検知結果を取得せず、洗浄後のタイミングt4で第2検知結果を取得する。そして、サイクルC1で取得した第1検知結果と、サイクルC2で取得した第2検知結果と、を用いて大便器20の詰まり状態を判定しても良い。
【0067】
ただし、検知部10による検知結果は、表面20aの状態が同じ場合でも、
図7に表したように、大便器20の温度などの周囲の環境に応じて変化する可能性がある。以前に取得された第1検知結果を判定に利用する場合、以前に第1検知結果が取得されたときの環境と、新たに第2検知結果が取得されたときの環境と、の違いにより、大便器20の詰まり状態を正確に判定できない可能性がある。従って、第1検知結果は、大便器20への洗浄水供給が行われる度に、検知部10により取得されることが望ましい。
図7に表した例では、サイクルC2における大便器20の詰まり状態の判定には、タイミングt3及びt4でそれぞれ取得された第1検知結果及び第2検知結果が用いられることが望ましい。これにより、検知部10の周囲の環境が判定結果に及ぼす影響を低減し、詰まり状態の判定の精度をさらに向上させることができる。
【0068】
本実施形態に係るトイレ装置1が適用される大便器20及び洗浄水供給部22の構造は、任意である。望ましくは、大便器20及び洗浄水供給部22は、洗浄中において、大便器20内の表面のうち、検知部10が検知可能な領域である表面20aの全体に水流を形成する。表面20aの全体に水流が形成されることで、洗浄中に取得される第1検知結果をより安定させ、且つ大便器20に詰まりが有る状態の結果により近づけることができる。このため、大便器20に詰まりが有るときは、第1検知結果と第2検知結果の差がより小さくなり、大便器20に詰まりが無いときは、第1検知結果と第2検知結果の差がより大きくなる。これにより、詰まり状態の判定の精度をさらに向上させることができる。
【0069】
図8は、大便器の検知部近傍を表す模式的断面図である。
大便器20内の表面は、親水性を有することが望ましい。大便器20内の表面が親水性を有さない(例えば撥水性である)と、洗浄後において、
図8(a)に表したように、水Wが滴となって表面20aに付着し易くなる。表面20aに水滴が付着すると、水滴の数や大きさなどのばらつきにより、検知部10による検知結果が不安定となる。大便器20内の表面が親水性を有すると、
図8(b)に表したように、水Wの膜が表面20aに形成され易い。水膜が形成されると、洗浄後の検知部10による検知結果が安定し、大便器20の詰まり状態の判定の精度を向上させることができる。
【0070】
大便器20内の表面が親水性を有するか否かは、表面に存在する水滴の接触角に基づいて判定される。接触角は、例えば以下の方法で算出される。まず、大便器20内の表面の所定領域が水平面に沿うように、大便器20を保持する。続いて、その所定領域に少量の水を滴下する。次に、所定領域内に存在する水滴を、無作為に10個抽出する。それらの10個の水滴の接触角を測定し、その平均値を親水性を判定するための接触角とする。接触角が30度未満であれば、大便器20内の表面が親水性を有すると判定される。接触角は、25度以下、さらには20度以下であることが望ましい。
【0071】
図9は、実施形態に係るトイレ装置の検知部の構造を表す模式図である。
図10(a)及び
図10(b)は、実施形態に係るトイレ装置の検知部による検知結果を例示するグラフである。
【0072】
検知部10が電波センサである場合、互いに位相の異なる複数の電波の検知結果を、大便器20の詰まり状態の判定に用いても良い。検知部10は、例えば
図9に表したように、発振器10aと、送信部10b(アンテナ)と、受信部10c(アンテナ)と、ミキサ部10d、ミキサ部10eと、位相シフト手段10fと、を有する。
【0073】
発振器10aに接続された送信部10bから、マイクロ波またはミリ波などの10kHz~100GHzの周波数帯の電波が放射される。例えば、10.50~10.55GHzまたは24.05~24.25GHzの周波数を有する送信波TWが、大便器20内の表面に向けて放射される。受信部10cは、表面20aの水などで反射された反射波RWを受信する。
【0074】
送信波の一部(信号Sig1)及び受信波の一部(信号Sig2)は、ミキサ部10dに入力されて合成される。これにより、例えばドップラー効果が反映された信号Sig3(Ich信号)が出力される。
【0075】
また、受信波の一部は、位相シフト手段10fに入力される。受信波の一部は、位相シフト手段10fによって位相がずらされて、信号Sig4となる。位相シフト手段10fの一例としては、受信波の情報をミキサ部10eへ伝える配線の長さや配置を変更する方法が挙げられる。この例では、位相シフト手段10fは、90°(π/2、4分の1波長)だけ位相をずらす。送信波の一部(信号Sig5)及び信号Sig4は、ミキサ部10eに入力されて合成される。これにより、例えばドップラー効果が反映された信号Sig6(Qch信号)が出力される。
【0076】
なお、この例では、送信部10b及び受信部10cとして別々のアンテナを設けているが、1つの共通のアンテナを送信部10b及び受信部10cとして用いても良い。
【0077】
検知部10と検知対象との間には、送信波と、表面20aの水等によって反射された反射波と、が互いに干渉することによって定在波が生じている。このため、信号Sig3及びSig6には、定在波に関する情報(定在波信号)が含まれる。
【0078】
検知部10と表面20aの水との間の距離、検知部10から送信される電波の波長などによっては、受信部10cが設けられた位置において、送信波TWと反射波RWが打ち消し合って相殺されることがある。送信波TWと反射波RWが相殺されると、表面20aの状態が検知結果に反映されず、大便器20の詰まり状態を正確に判定できない可能性がある。
【0079】
この課題を解決するために、トイレ装置1では、互いに位相の異なる複数の信号(Ich信号及びQch信号)を用いて大便器20の詰まり状態を判定することが望ましい。
図10(a)は、Ich信号に基づく検知結果を表し、
図10(b)は、Qch信号に基づく検知結果を表す。
【0080】
図10(a)に表したように、送信波TWと反射波RWの関係によっては、大便器20の洗浄中である期間P2でも、検知結果の値が小さくなることがある。この場合、洗浄中のタイミングt1で取得された第1検知結果と、洗浄後のタイミングt2で取得された第2検知結果と、を用いて大便器20の詰まり状態を判定すると、誤った判定結果が出力される。
【0081】
しかし、このような場合でも、Ich信号とは位相が異なるQch信号を用いることで、
図10(b)に表したように、洗浄中に正常な検知結果を取得できる。従って、Ich信号から得られた検知結果に基づく判定が誤りであったとしても、Qch信号から得られた検知結果に基づいて正しく判定できる。
【0082】
詰まり判定部12は、例えば、互いに位相の異なる複数の信号に基づいてそれぞれ複数の判定を行う。詰まり判定部12は、いずれかの判定結果において大便器20に詰まりが無いと判定されれば、大便器20に詰まりが無いとする最終的な判定結果を制御部14に送信する。制御部14は、この判定結果に基づいて、非常モード(洗浄水供給の禁止又は報知)を実行するか否かを判定する。
【0083】
以上、本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明はこれらの記述に限定されるものではない。前述の実施の形態に関して、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。例えば、トイレ装置1が備える各要素の形状、寸法、材質、配置、設置形態などは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。
また、前述した各実施の形態が備える各要素は、技術的に可能な限りにおいて組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。
【符号の説明】
【0084】
1 トイレ装置、 10 検知部、 10a 発振器、 10b 送信部、 10c 受信部、 10d、10e ミキサ部、 10f 位相シフト手段、 11 電波、 12 詰まり判定部、 14 制御部、 16 報知手段、 20 大便器、 20a 表面、 22 洗浄水供給部、 C1、C2 サイクル、 E 異物、 P1~P3 期間、 PV 所定値、 RW 反射波、 S1 溢れ面、 S2 封水面、 Sig1~Sig6 信号、 T0、T01、T02、T1~T4 時刻、 TW 送信波、 V1 第1検知結果値、 V2 第2検知結果、 W 水、 t1~t4 タイミング