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特許7161746耕耘爪の交換の要否の判定方法及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-19
(45)【発行日】2022-10-27
(54)【発明の名称】耕耘爪の交換の要否の判定方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   A01B 33/10 20060101AFI20221020BHJP
   A01B 33/12 20060101ALI20221020BHJP
   A01B 63/114 20060101ALI20221020BHJP
【FI】
A01B33/10 Z
A01B33/12 B
A01B33/12 Z
A01B63/114
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018131801
(22)【出願日】2018-07-11
(65)【公開番号】P2020005601
(43)【公開日】2020-01-16
【審査請求日】2021-06-07
(73)【特許権者】
【識別番号】390010836
【氏名又は名称】小橋工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】弁理士法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】橋本 健志
【審査官】小島 洋志
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-195745(JP,A)
【文献】特開平11-243704(JP,A)
【文献】特開平09-084412(JP,A)
【文献】特開2001-095308(JP,A)
【文献】米国特許第04802536(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01B 33/10
A01B 33/12
A01B 63/114
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
農作業機の耕耘ロータが有する耕耘爪の交換要否の判定方法であって、
前記農作業機の耕耘作業時における、前記耕耘ロータの前方の耕深及び後方の耕深を取得し、
前記前方の耕深と前記後方の耕深との差分が所定の閾値を超えている場合は、前記耕耘爪の交換は不要と判定し、前記差分が前記所定の閾値以下となった場合は、前記耕耘爪の交換が必要と判定する、判定方法。
【請求項2】
前記差分は、前記耕耘ロータの前方に配置された第1距離センサから圃場までの距離H1と、前記耕耘ロータの後方に配置された第2距離センサから前記圃場までの距離H2とに基づいて算出される、請求項1に記載の判定方法。
【請求項3】
前記農作業機は、前記耕耘ロータの上方に配置されたカバー部材と、該カバー部材に対して接続部を介して回転可能に接続され、前記耕耘ロータの後方に配置された整地部材と、を備え、
前記差分は、前記耕耘ロータの前方に配置された距離センサから圃場までの距離H1と、前記整地部材の長さLと、前記カバー部材に対する前記整地部材の角度θとに基づいて算出される、請求項1に記載の判定方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の判定方法をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農作業機の耕耘ロータが有する耕耘爪の交換の要否の判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、圃場の耕耘作業を行う農作業機としてロータリ作業機が広く普及している。ロータリ作業機は、トラクタ等の走行機体の後部に装着される農作業機であり、複数の耕耘爪を有する耕耘ロータを備える。ロータリ作業機を用いた耕耘作業においては、走行機体で圃場を牽引しつつ耕耘ロータを回転させることにより、複数の耕耘爪で土壌を掘り起こしたり、藁や堆肥を土壌にすき込んだりすることが可能となる。
【0003】
耕耘作業を長く継続するに伴い、耕耘爪の刃部が土壌との接触により徐々に摩耗し、本来の性能を果たせなくなる場合がある。したがって、耕耘爪の摩耗が進行すると、あるタイミングで耕耘爪を交換する必要がある。例えば、特許文献1には、横刃部の湾曲部近傍から横刃部先端に亘る切欠きによる段部4を設け、その段部4の段差t2を耕耘爪の交換タイミングの目安として用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-109787号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された技術では、作業者が耕耘爪における上述の段部4の段差t2を見て摩耗量を判断することが前提となっている。この場合、段部4が設けられた横刃部以外の部分が摩耗した場合には対応できないという問題がある。また、作業者が耕耘爪の視認を怠った場合には耕耘爪の交換タイミングを見逃してしまう虞がある。
【0006】
さらに、特許文献1に記載された技術では、段部4の段差t2の量によって交換タイミングの到来を判断することになるが、土質等の圃場の状態や車速等の耕耘条件によってロータリ作業機の耕耘性能は変化すると考えられる。つまり、仮に段部4の段差t2の量が同じ耕耘爪を用いた場合であっても、圃場の状態や耕耘条件等により、適切に耕耘することが出来たり出来なかったりする場合が考えられる。したがって、特許文献1に記載された技術では、まだ使用可能な耕耘爪であっても、段部4の段差t2の量が所定値に達すれば交換することとなり、経済的な無駄を生じる虞もある。
【0007】
本発明の課題の一つは、農作業機が有する耕耘爪の交換の要否を適切に判定することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施形態は、農作業機の耕耘ロータが有する耕耘爪の交換要否の判定方法であって、前記農作業機の作業時における、前記耕耘ロータの前方の耕深及び後方の耕深を取得し、前記前方の耕深と前記後方の耕深との差分に基づいて、前記耕耘爪の交換の要否を判定する、判定方法である。
【0009】
前記差分は、前記耕耘ロータの前方に配置された第1距離センサから圃場までの距離H1と、前記耕耘ロータの後方に配置された第2距離センサから前記圃場までの距離H2とに基づいて算出されてもよい。
【0010】
前記農作業機は、前記耕耘ロータの上方に配置されたカバー部材と、該カバー部材に対して接続部を介して回転可能に接続され、前記耕耘ロータの後方に配置された整地部材と、を備えてもよい。この場合、前記差分は、前記耕耘ロータの前方に配置された距離センサから圃場までの距離H1と、前記整地部材の長さLと、前記カバー部材に対する前記整地部材の角度θとに基づいて算出されてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、農作業機が有する耕耘爪の交換タイミングを適切に判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】第1実施形態のロータリ作業機の構成を示す図である。
図2】第1実施形態のロータリ作業機による耕耘作業の様子を示す図である。
図3】第1実施形態の耕耘爪の交換要否の判定方法を説明するための図である。
図4】第2実施形態の耕耘爪の交換要否の判定方法を説明するための図である。
図5】第3実施形態の耕耘爪の交換要否の判定方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の判定方法の実施形態について説明する。但し、本発明の判定方法は多くの異なる態様で実施することが可能であり、以下に示す例の記載内容に限定して解釈されるものではない。なお、本実施の形態で参照する図面において、同一部分または同様な機能を有する部分には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0014】
また、説明の便宜上、「上」又は「下」という語句を用いる場合があるが、「上」は圃場から垂直に遠ざかる方向を示し、「下」は圃場に向かって垂直に近づく方向を指す。同様に、「前」、「後」、「右」又は「左」という語句を用いる場合があるが、「前」は作業機を基準として走行機体が位置する方向、つまり作業機が進行する方向を指し、「後」は「前」とは逆の方向を指す。また、「右」及び「左」は、それぞれ、作業機を基準として「前」を向いたときの右側の方向及び左側の方向を指す。
【0015】
〈第1実施形態〉
[ロータリ作業機の構成]
図1は、第1実施形態のロータリ作業機100の構成を示す図である。具体的には、図1(A)は、ロータリ作業機100を上方から見た構成を示す平面図であり、図1(B)は、ロータリ作業機100を左側方から見た構成を示す側面図である。本実施形態のロータリ作業機100は、トップマスト110、ロアリンク連結部115、メインフレーム120、ギヤボックス130、耕耘ロータ140、シールドカバー150、エプロン160、リアヒッチ170、制御装置180を含む。なお、図2及び図3において、トップマスト110及びロアリンク連結部115に対して、オートヒッチフレーム105が連結されている。
【0016】
トップマスト110及びロアリンク連結部115は、トラクタ等の走行機体(図示せず)にロータリ作業機100を装着するための装着部として機能する。本実施形態のロータリ作業機100において、トップマスト110及びロアリンク連結部115をまとめてフロントヒッチと呼ぶ場合がある。フロントヒッチは、トップマスト110の頂部に設けられた支持部と、ロアリンク連結部115の左右両サイドに設けられた2つの支持部とで走行機体と接続される。
【0017】
トップマスト110及びロアリンク連結部115は、図示しない走行機体のトップリンク及び左右二箇所に設けられたロアリンク(すなわち、3点リンクヒッチ機構)にそれぞれ連結され、ロータリ作業機100は走行機体の後部に昇降可能に装着される。なお、本実施形態では、ロータリ作業機100と走行機体との連結は、前述のオートヒッチフレーム105を介して行われる。
【0018】
入力軸124は、PIC(Power Input Connection)軸とも呼ばれ、ロータリ作業機100の前方中央部に設けられたギヤボックス130に設けられる。入力軸124は、走行機体(図示せず)から伝達された動力をロータリ作業機100に入力する役割を果たす。入力軸124は走行機体のPTO(Power Take Off)軸とユニバーサルジョイント等で連結され、ユニバーサルジョイント等を介して伝達された動力をギヤボックス130に入力する。
【0019】
メインフレーム120は、ロータリ作業機100の骨格となるフレームであり、ギヤボックス130の左右両側に向かって、走行機体の進行方向に対して略直交する方向(左右方向)に延設されている。ギヤボックス130とチェーンケース122との間に配置されたメインフレーム120の内部には、伝動シャフト(図示せず)が内装されている。この伝動シャフトにより、ギヤボックス130からチェーンケース122内のチェーンに対して耕耘ロータ140を回転させるための動力が伝達される。なお、本実施形態では、メインフレーム120に固定された支持部材121により、後述するフロント側距離センサ191を支持している。
【0020】
耕耘ロータ140は、回転自在に軸支された爪軸(図示せず)と、爪軸に対して装着手段(フランジやホルダ等)を用いて装着された複数の耕耘爪140aとを有する。入力軸124から入力された動力は、ギヤボックス130内で変速され、メインフレーム120内の伝動シャフト、チェーンケース122内のチェーン等を経由して爪軸に伝達され、耕耘ロータ140の回転運動へと変換される。これにより、爪軸の回転に伴って爪軸の周囲に配置された複数の耕耘爪140aが一斉に回転し、圃場の土を砕土及び反転させることができる。
【0021】
シールドカバー150は、メインフレーム120に沿って設けられ、耕耘ロータ140の上方を覆うように配置される。シールドカバー150は、耕耘ロータ140によって跳ね上げられた土の上方への飛散を防止する役割を有する。シールドカバー150は、カバー部材とも呼ばれる。
【0022】
エプロン160は、耕耘ロータ140の後方に配置され、接続部155を介してシールドカバー150に対して回動可能に接続されている。エプロン160は、耕耘ロータ140によって跳ね上げられた土の後方への飛散を防止する役割を有するとともに、圃場の整地作業を行う役割も有する。エプロン160は、整地部材とも呼ばれる。
【0023】
リアヒッチ170は、ロータリ作業機100の後方に、さらに他の作業機等を連結する際に使用される装着部である。具体的には、リアヒッチ170は、ツールバー171、ネジロッド172及びハンドル173を含み、ハンドル173を回転させることにより、ツールバー171の高さを調整することが可能である。本実施形態では、後述するリア側距離センサ192の取付け部としてリアヒッチ170を利用する例を示す。
【0024】
制御装置180は、ロータリ作業機100の制御を行うためのコントローラであり、図示しないリモコン装置から信号を受信して、作業者によるリモコン装置への操作指示に従った制御を実行する。また、本実施形態の制御装置180は、後述する第1距離センサであるフロント側距離センサ191もしくは第2距離センサであるリア側距離センサ192により取得した信号、又は、シールドカバー150に対するエプロン160の角度を測定するためのポテンシオメータ185により取得した信号を受信して、これらの信号に基づく所定の信号処理を行う。所定の信号処理の内容については、以下に説明する。
【0025】
[耕耘爪の交換要否の判定方法]
図2は、第1実施形態のロータリ作業機100による耕耘作業の様子を示す図である。ロータリ作業機100は、走行機体により矢印10の方向に牽引されて圃場300を走行する。その際、ロータリ作業機100の耕耘ロータ140が回転することにより、複数の耕耘爪140aによって圃場300が耕耘される。このとき、圃場300が耕耘される深さを「耕深」と呼ぶ。つまり、耕深は、耕耘ロータ140が圃場300の表面からどの程度の深さまで耕しているかを意味する。
【0026】
ここで、本実施形態では、耕耘ロータ140における、回転する複数の耕耘爪140aにより形成される空間を回転空間140bで表す。耕耘ロータ140の回転空間140bは、複数の耕耘爪140aの回転軌跡の最外縁より内側の空間とも言える。前述の耕深は、回転空間140bの最下端から圃場300の表面までの距離に相当する。なお、本実施形態では、回転空間140bよりも前方における耕深を「前耕深」と呼び、後方における耕深を「後耕深」と呼ぶ。
【0027】
図2に示されるように、ロータリ作業機100によって耕耘された圃場300は、その土壌が耕起される。具体的には、耕耘ロータ140の前方に位置する土壌310aが、耕耘ロータ140の通過に伴い、複数の耕耘爪140aにより砕土、反転される。土壌310aの耕起によって耕耘ロータ140の後方に堆積した土塊は、整地部材160によって均平化される。このとき、耕耘ロータ140の後方に位置する反転した土壌310bは、細かく砕かれることにより、土塊と土塊との間に空隙が生まれることになるため、反転前の土壌310aよりも体積が増加する。
【0028】
以上のことから、ロータリ作業機100によって圃場300が正常に耕耘された場合、前耕深に比べて後耕深の方が深くなる。このとき、前耕深と後耕深との間に十分な差分が無い場合は、圃場300が正常に耕耘されていない状態、すなわち、ロータリ作業機100が正常に耕耘作業を行えていない状態と判定することができる。
【0029】
本実施形態では、図2に示されるように、耕耘ロータ140の前方側の圃場300における耕耘前の土壌310aの表面からフロント側距離センサ191までの距離と、耕耘ロータ140の後方側の圃場300における耕耘後の土壌310bの表面からリア側距離センサ192までの距離を測定する。回転空間140bの最下端40からフロント側距離センサ191及びリア側距離センサ192までの距離は既知であるため、これらのパラメータを用いて前耕深と後耕深の差分を算出することが可能である。なお、図2に示されるように、フロント側距離センサ191は、耕耘ロータ140の前方に配置され、リア側距離センサ192は、耕耘ロータ140の後方に配置される。
【0030】
フロント側距離センサ191及びリア側距離センサ192としては、例えば、公知の超音波センサを用いることができる。勿論、距離を測定するセンサとして用いることが可能であれば、レーザー距離センサ、赤外線距離センサ等の他のセンサを用いてもよい。本実施形態では、フロント側距離センサ191を、支持部材121aを介してメインフレーム120に固定し、リア側距離センサ192を、支持部材121bを介してリアヒッチ170のツールバー171に固定している。さらに、本実施形態のフロント側距離センサ191及びリア側距離センサ192は、耕耘前の圃場300の表面から略等しい距離(高さ)に配置されている。ただし、フロント側距離センサ191及びリア側距離センサ192の配置方法や位置は、これに限られるものではない。
【0031】
次に、フロント側距離センサ191及びリア側距離センサ192を用いて、前耕深と後耕深の差分を算出する例について図3を用いて説明する。
【0032】
図3は、第1実施形態の耕耘爪140aの交換要否の判定方法を説明するための図である。図3(A)は、フロント側距離センサ191とリア側距離センサ192が、回転空間140bの最下端40に接する仮想水平面42から等しい距離にある場合を例示している。すなわち、フロント側距離センサ191から仮想水平面42までの距離C1と、リア側距離センサ192から仮想水平面42までの距離C2は等しい。なお、前述のとおり、この構成は、図2に示した構成に対応する。ただし、図3は、あくまで本実施形態における判定方法の概念を説明するための模式図にすぎない。例えば、図3では、回転空間140より後方に位置する土壌310bの表面は、平坦面のように表現されているが、実際には、図2に示されるように、回転空間140bの直後(具体的には、回転空間140bと整地部材160との間)には、耕耘作業により盛られた土塊が存在する。この点については、後述する図4及び図5についても同様である。
【0033】
ここで、図3(A)において、フロント側距離センサ191から耕耘前の土壌310aの表面までの距離をH1とし、リア側距離センサ192から耕耘後の土壌310bの表面までの距離をH2とする。このとき、仮想水平面42から耕耘前の土壌310aの表面までの距離D1(=C1-H1)が前耕深に相当する。また、仮想水平面42から耕耘後の土壌310bの表面までの距離D2(=C2-H2)が後耕深に相当する。
【0034】
本実施形態では、距離D1(前耕深)と距離D2(後耕深)との差分に基づいて耕耘爪140aの交換の要否を判定する。具体的には、図3(A)において、距離D2(後耕深)から距離D1(前耕深)を差し引いた差分Xを評価することにより、耕耘爪140aの交換の要否を判定する。このとき、前述の差分X1が所定の閾値を超えている場合は、耕耘ロータ140による土壌の耕耘が正常に行われていると判定される。この場合、各耕耘爪140aが土壌に対して正常に作用していると考えられるため、交換の必要はないと判定される。逆に、差分X1が所定の閾値以下となった場合は、耕耘ロータ140による土壌の耕耘が正常に行われていないと判定される。この場合、例えば摩耗、破損等の理由により、各耕耘爪140aが土壌に対して正常に作用していないと考えられるため、交換が必要と判定される。
【0035】
前述の距離C1及びC2は、予め求めておくことができる。すなわち、フロント側距離センサ191及びリア側距離センサ192と耕耘ロータ140との位置関係は変わらないため、距離C1及びC2は定数である。なお、爪の回転径方向に摩耗が生じるが、その摩耗量は距離C1及びC2から見ればごくわずかと言える。したがって、ロータリ作業機100が備える制御装置180(具体的には、制御装置180が備えるメモリ等の記憶装置)に、距離C1及びC2と前述の所定の閾値とを格納しておけば、フロント側距離センサ191及びリア側距離センサ192の出力(検出値)を用いて、制御装置180にて前述の差分X1を算出することができる。すなわち、差分Xは、フロント側距離センサ191から耕耘前の土壌310aの表面までの距離H1と、リア側距離センサ192から耕耘後の土壌310bの表面までの距離H2とに基づいて算出することができる。
【0036】
図3(A)の場合、仮想水平面42からフロント側距離センサ191までの距離C1と仮想水平面42からリア側距離センサ192までの距離C2とが略等距離であるため、差分X1は、距離H1から距離H2を差し引いた値として算出することができる。このように、仮想水平面42からフロント側距離センサ191及びリア側距離センサ192までの距離を等しくすることにより、前耕深及び後耕深を算出することなく、各距離センサの検出値を用いるだけで耕耘爪140aの交換の要否を容易に判定することができる。
【0037】
勿論、図3(A)の構成であっても、距離D1(前耕深)と距離D2(後耕深)を算出することは有効である。これらの前耕深と後耕深は、耕耘爪140aの交換の要否の判定以外の処理の用に供することも可能である。
【0038】
また、図3(A)では、仮想水平面42からフロント側距離センサ191までの距離C1と仮想水平面42からリア側距離センサ192までの距離C2とが等しい場合を例示したが、距離C1と距離C2が異なる場合もある。図3(B)は、そのような場合について例示している。
【0039】
図3(B)は、仮想水平面42からフロント側距離センサ191までの距離C1と仮想水平面42からリア側距離センサ192までの距離C2が異なる場合を例示している。この場合、距離C1から距離H1を差し引いて前耕深として距離D1を求め、距離C2から距離H2を差し引いて後耕深として距離D2を求めた後、差分Xを距離D2から距離D1を差し引いて算出すればよい。
【0040】
以上説明した耕耘爪140aの交換の要否の判定において、所定の閾値は、実験データ等に基づいて予め決めておいてもよい。具体的には、様々な圃場条件で、正常な耕耘爪(摩耗や破損のない耕耘爪)による前耕深と後耕深の差分を実験的に求めておき、その実験的に求めた差分に基づいて所定の閾値を決定してもよい。例えば、実験的に求めた差分の50%に相当する差分を所定の閾値として制御装置180に格納しておき、測定により求めた差分が所定の閾値以下となった場合(換言すれば、実験的に求めた差分からの減少率が50%を超えたとき)に交換が必要と判定してもよい。
【0041】
また、上述した実験的に求めた差分を基準とする方法に代えて、実際の圃場で得た初期値を基準とする方法を採用してもよい。具体的には、正常な耕耘爪(摩耗、破損していない耕耘爪)を装着した状態において、実際に作業者の圃場で耕耘作業を行い、そのときの測定値を初期値として、当該初期値に基づいて所定の閾値を決定してもよい。この方法によれば、実際に作業者が耕耘作業を行う圃場の土質等を加味して所定の閾値を決定することができるため、精度の高い判定が可能となるという効果が得られる。
【0042】
なお、耕耘爪140aの摩耗の速さについては、圃場300の土質以外にも様々なパラメータが影響する。このようなパラメータと後耕深との関係を一般的傾向の例として表1に示す。
【0043】
【表1】
【0044】
表1に示されるように、例えば水分量が多い圃場では、後耕深が深くなる(すなわち、耕耘後の土の盛り上がり量が大きくなる)傾向にあり、水分量が少ない圃場では、後耕深が浅くなる傾向にある。また、ロータリ作業機100の走行速度が速いと後耕深が深くなる傾向にあり、走行速度が遅いと浅くなる傾向にある。さらに、表1には示していないが、例えば、未耕地を作業する秋耕耘(荒起こし)では後耕深が深くなる傾向にあり、田植え前の春耕耘(仕上げ耕)では後耕深が比較的浅くなる傾向にある。したがって、前述の所定の閾値の決定にあたっては、ここで例示した各種パラメータを考慮に入れて、圃場300の状態にあった適切な閾値を選択することが望ましい。
【0045】
以上のように、本実施形態では、耕耘ロータ140の前方に配置したフロント側距離センサ191の検出値と、耕耘ロータ140の後方に配置したリア側距離センサ192の検出値とを用いて、前耕深と後耕深との差分を算出し、その算出結果を用いて耕耘爪140aの交換の要否を判定することができる。これにより、圃場300の耕耘作業を行いながら耕耘爪140aの摩耗又は破損の状態を把握することができ、耕耘爪140aの交換の要否を適切に判定することができる。
【0046】
なお、本実施形態では、耕耘爪140aの交換の要否を制御装置180で判定する例を示したが、これに限られるものではない。すなわち、制御装置180以外の演算装置、例えば、ネットワークを介してロータリ作業機100に接続されたサーバ、又は情報端末(走行機体に配置された情報端末、ユーザが保持するモバイル端末等)で判定処理を行うことも可能である。例えば、各距離センサの検出値をいったん制御装置180に入力し、これらの検出値を有線又は無線のネットワークを介して外部のサーバ又は情報端末に転送し、転送先のサーバや情報端末で前述の所定の閾値等と比較を行えばよい。
【0047】
このように、本実施形態の判定処理は、例えばスマートフォン等のモバイル端末上で実行することも可能である。つまり、ロータリ作業機100が将来的に自動運転で制御され、管理者が圃場300から離れた位置に居たとしても、適切に耕耘爪140aの交換の要否を把握することができる。
【0048】
また、本実施形態は、前耕深と後耕深の差分に基づいて圃場300の耕耘作業の成否を判定する処理としても活用することもできる。例えば、前耕深と後耕深の差分に基づいて反転作業、砕土作業、すき込み作業といった耕耘作業の成否を判定することが可能である。つまり、前耕深と後耕深の差分が所定の閾値以下となった場合に、耕耘作業が正常に行われていないと判定し、その判定結果に応じて、耕耘作業を中断したり、耕耘作業をやり直したりするといった制御を行うことも可能である。特に、このような制御は、作業者が近くに居ない場面、すなわち、ロータリ作業機100が自動運転で制御されているような場面で有効である。
【0049】
〈第2実施形態〉
第1実施形態では、2つの距離センサを用いて耕耘爪の交換の要否を判定する例について説明したが、本実施形態では、1つの距離センサとエプロンの角度に基づいて耕耘爪の交換の要否を判定する例について説明する。なお、図面上、第1実施形態と同様の構成については、第1実施形態と同じ符号及び記号を用いることにより詳細な説明を省略する。
【0050】
図4(A)は、第2実施形態の耕耘爪140aの交換要否の判定方法を説明するための図である。図4(A)は、フロント側距離センサ191と、シールドカバー150とエプロン160とを接続する接続部155とが、回転空間140bの最下端40に接する仮想水平面42から等しい距離にある場合を例示している。すなわち、フロント側距離センサ191から仮想水平面42までの距離C1と、接続部155から仮想水平面42までの距離C2は等しい。
【0051】
図3(A)と同様に、図4(A)において、フロント側距離センサ191から耕耘前の土壌310aの表面までの距離をH1とすると、仮想水平面42から耕耘前の土壌310aの表面までの距離D1(=C1-H1)が前耕深に相当する。
【0052】
ここで、本実施形態では、後耕深の算出にシールドカバー150に対するエプロン160の角度θを用いる。角度θは、図1(B)に示したポテンシオメータ185により検出することができる。すなわち、シールドカバー150とエプロン160との間にリンク部材を掛け渡し、そのリンク部材の一端をシールドカバー150に固定されたポテンシオメータ185に連結し、他端をエプロン160に固定することにより、角度θを容易に測定することが可能である。ただし、これに限らず、他の公知の代替手段によりシールドカバー150に対するエプロン160の角度θを検出してもよい。
【0053】
図4(A)に示されるように、耕耘作業の際、エプロン160の下端160aは、耕耘後の土壌310bの表面に接しながら土壌310bを均平化する。このとき、エプロン160の下端160aから接続部155までの垂直方向の距離H2は、H2=Lsinθで表される。なお、Lは、側面視におけるエプロン160の長さであり、例えば、接続部155とエプロン160の下端160aとを直線で結んだ線分の長さを近似的にエプロン160の長さとして用いることができる。
【0054】
したがって、本実施形態の場合、接続部155から耕耘後の土壌310bの表面までの距離H2がLsinθであるため、仮想水平面42から耕耘後の土壌310bの表面までの距離D2(=C2-Lsinθ)が後耕深に相当する。このように、本実施形態では、リア側に距離センサを設けなくても、シールドカバー150に対するエプロン160の角度θを測定するだけで後耕深を算出することができる。
【0055】
以上のように前耕深及び後耕深を求めたら、その差分X(=D2-D1)に基づいて、耕耘爪140aの交換の要否を判定することができる。差分Xを求めた後の耕耘爪の交換要否の判定処理については、第1実施形態と同様であるため、ここでの詳細な説明は省略する。
【0056】
図4(A)の場合、図3(A)と同様に、距離C1及びC2を定数として予め求めておくことができる。すなわち、フロント側距離センサ191と耕耘ロータ140の間の位置関係だけでなく、接続部155と耕耘ロータ140の間の位置関係も変わらないため、差分Xは、距離H1から距離H2を差し引いた値として算出することができる。すなわち、図4(A)では、差分X=H1-Lsinθが成り立つ。このように、仮想水平面42からフロント側距離センサ191及び接続部155までの距離を略等距離とすることにより、前耕深及び後耕深を算出することなく、フロント側距離センサ191の検出値とポテンシオメータ185の検出値を用いるだけで耕耘爪140aの交換の要否を容易に判定することができる。
【0057】
他方、図4(B)のように、仮想水平面42からフロント側距離センサ191までの距離C1と仮想水平面42から接続部155までの距離C2とが異なる場合、距離C1から距離H1を差し引いて前耕深として距離D1を求め、距離C2から距離H2を差し引いて後耕深として距離D2を求めた後、差分Xを距離D2から距離D1を差し引いて算出すればよい。
【0058】
〈第3実施形態〉
第2実施形態では、1つの距離センサとエプロンの角度に基づいて耕耘爪の交換の要否を判定する例について説明したが、本実施形態では、ロータリ作業機が自動耕深装置(オート装置ともいう)を備える場合の例について説明する。自動耕深装置とは、エプロンの傾きに応じて自動的にロータリ作業機の耕深を変化させ、エプロンの傾きを一定に保つ機能を有する装置をいう。
【0059】
図5は、第3実施形態の耕耘爪140aの交換要否の判定方法を説明するための図である。なお、図5では、説明の便宜上、自動耕深装置が働く前の状態を点線で示し、働いた後の状態を実線で示している。なお、図面上、第1実施形態と同様の構成については、第1実施形態と同じ符号を用いることにより詳細な説明を省略する。
【0060】
本実施形態の自動耕深装置について説明する。図5において、例えば、耕耘ロータ140の回転空間140bの後方の土量が減少すると、エプロン160の下端160aが下がり、角度θが大きくなる。この場合、回転空間140bを下げる(すなわち、耕深を深くする)ことによって、エプロン160の下端160aを持ち上げ、角度θを元の値に戻す制御が行われる。逆に、回転空間140bの後方の土量が増加すると、回転空間140bを上げる(すなわち、耕深を浅くする)ことによって、角度θを元の値に戻す制御が行われる。このように、自動耕深装置は、角度θの変化を検出し、その変化を打ち消すように耕深を自動的に調整することにより、角度θを一定に保つ。
【0061】
図5において、図4(A)と同様に、フロント側距離センサ191から仮想水平面42までの距離をC1とし、接続部155から仮想水平面42までの距離をC2とする。ここで、フロント側距離センサ191から耕耘前の土壌310aの表面までの距離をH1とすると、仮想水平面42から耕耘前の土壌310aの表面までの距離D1(=C1-H1)が前耕深に相当する。
【0062】
また、第2実施形態で説明したように、接続部155から耕耘後の土壌310bの表面までの距離H2がLsinθであるため、仮想水平面42から耕耘後の土壌310bの表面までの距離D2(=C2-Lsinθ)が後耕深に相当する。したがって、距離D2から距離D1を差し引くことにより、前耕深と後耕深の差分Xを算出することができ、その算出結果に基づいて、耕耘爪140aの交換の要否を判定することができる。差分Xを求めた後の耕耘爪の交換要否の判定処理については、第1実施形態と同様であるため、ここでの詳細な説明は省略する。
【0063】
ところで、前述のとおり、本実施形態では、自動耕深装置を用いるため、シールドカバー150とエプロン160とがなす角度θは一定に保たれる。すなわち、本実施形態の場合、角度θは定数(固定値)と見做すことができる。したがって、上述のD2=C2-Lsinθにおいて、距離C2、角度θ及びエプロンの長さLはいずれも定数として扱えるため、結果的に後耕深(距離D2)も定数となる。したがって、フロント側距離センサ191の検出値に基づいて前耕深(距離D1)が求まれば、差分Xは、距離D2から距離D1を差し引いて簡単に算出することができる。
【0064】
また、角度θが一定である場合、フロント側距離センサ191とエプロン160の下端160aの位置関係は変わらない。すなわち、図5に示されるように、エプロン160の下端160a(耕耘後の土壌310bの表面)からフロント側距離センサ191までの高さ方向(圃場に対して垂直な方向)の距離Aは定数である。したがって、フロント側距離センサ191の検出値である距離H1から距離Aを差し引いて簡単に差分Xを求めることも可能である。
【0065】
なお、前述のとおり、本実施形態において、接続部155から仮想水平面42までの距離C2及び後耕深(距離D2)は定数である。このとき、図5に示されるように、前述の距離Aは、A=C1-D2の関係が成り立っている。すなわち、前述の固定値(距離A)は、仮想水平面42からフロント側距離センサ191までの距離C1と仮想水平面42からエプロン160の下端160aまでの距離D2との差分とも言える。
【0066】
さらに、図5に示されるように、回転空間140bの上下動により、回転空間140bだけでなく、フロント側距離センサ191、シールドカバー150及び接続部155が、一体的に距離dで上下動する。したがって、正常な耕耘爪(摩耗や破損のない耕耘爪)で耕耘作業が行われたときの前耕深と後耕深の差分を初期値X0として制御装置180等に記憶しておけば、その初期値X0から距離dを差し引くことにより、現時点における前耕深と後耕深の差分Xを算出することができる。
【0067】
以上のように、本実施形態では、ロータリ作業機の自動耕深装置の機能を利用して、パラメータとしてフロント側距離センサ191の検出値を用いるだけで、容易に前耕深と後耕深の差分Xを算出することができる。
【0068】
以上、本発明について図面を参照しながら説明したが、本発明は上記の実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0069】
100…ロータリ作業機、105…オートヒッチフレーム、110…トップマスト、115…ロアリンク連結部、120…メインフレーム、121、121a、121b…支持部材、122…チェーンケース、124…入力軸、130…ギヤボックス、140…耕耘ロータ、140a…耕耘爪、140b…回転空間、150…シールドカバー、155…接続部、160…エプロン、170…リアヒッチ、171…ツールバー、172…ネジロッド、173…ハンドル、180…制御装置、185…ポテンシオメータ、191…フロント側距離センサ、192…リア側距離センサ、300…圃場、310a、310b…土壌
図1
図2
図3
図4
図5