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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-19
(45)【発行日】2022-10-27
(54)【発明の名称】トレーニング支援システム
(51)【国際特許分類】
   A63B 69/00 20060101AFI20221020BHJP
   A63B 71/06 20060101ALI20221020BHJP
   A61B 5/11 20060101ALI20221020BHJP
   G01P 15/18 20130101ALI20221020BHJP
【FI】
A63B69/00 C
A63B71/06 K
A61B5/11 200
G01P15/18
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018238103
(22)【出願日】2018-12-20
(65)【公開番号】P2020099413
(43)【公開日】2020-07-02
【審査請求日】2021-10-15
(73)【特許権者】
【識別番号】513326428
【氏名又は名称】合同会社キンビシャス
(74)【代理人】
【識別番号】100103872
【弁理士】
【氏名又は名称】粕川 敏夫
(74)【代理人】
【識別番号】100088856
【弁理士】
【氏名又は名称】石橋 佳之夫
(74)【代理人】
【識別番号】100149456
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 喜幹
(74)【代理人】
【識別番号】100194238
【弁理士】
【氏名又は名称】狩生 咲
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 大次郎
(72)【発明者】
【氏名】瀧本 修
【審査官】岸 智史
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-271893(JP,A)
【文献】特開2005-034364(JP,A)
【文献】特開2015-058096(JP,A)
【文献】特開2011-087794(JP,A)
【文献】特開2015-150130(JP,A)
【文献】特開2003-323502(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B 69/00-69/40
A63B 71/00-71/16
A61B 5/11
G01P 15/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の体幹に装着することができ、前記被験者の左右方向をX軸方向、前記体幹の前後方向をZ軸方向とするとき、X軸方向とZ軸方向への加速度を検出することができる加速度センサと、
前記加速度センサの出力信号からX軸方向とZ軸方向の加速度データを生成する制御部と、
前記X軸方向とZ軸方向の加速度データを解析し、X軸の加速度が最大になるタイミングにおけるX軸の加速度とZ軸の加速度の和を求め、複数回の試行によって得られる前記加速度の和の最大値によって被験者の運動能力を評価する評価部と、を有するトレーニング支援システム。
【請求項2】
被験者の体幹に装着することができ、前記被験者の左右方向をX軸方向、前記体幹の前後方向をZ軸方向とするとき、X軸方向とZ軸方向への加速度を検出することができる加速度センサと、
前記加速度センサの出力信号からX軸方向とZ軸方向の加速度データを生成する制御部と、
前記X軸方向とZ軸方向の加速度データを解析してX軸とZ軸の加速タイミングの同期度合いおよびX軸とZ軸の加速度データの和を求め、複数回の試行によって得られる前記同期度合いと前記加速度データの和の最大値によって被験者の運動能力を評価する評価部と、を有するトレーニング支援システム。
【請求項3】
前記X軸方向とZ軸方向の加速度センサは、加速方向を正、減速方向を負の信号として出力し、前記評価部は、前記加速度センサの出力の正負を加味した前記最大値によって被験者の運動能力を評価する請求項1または2記載のトレーニング支援システム。
【請求項4】
前記加速度センサは、X軸とZ軸に、被験者の上下方向であるY軸方向を加えた3軸加速度センサであり、前記評価部は、X軸とZ軸の加速度データの和に、Y軸方向の加速度センサ出力の絶対値をマイナス要因として加味して被験者の運動能力を評価する請求項1,2または3記載のトレーニング支援システム。
【請求項5】
所定の運動フォームを所定回数繰り返して1クールとし、クールごとの前記評価部による評価値の最大値をその被験者の記録として残す請求項1乃至4のいずれかに記載のトレーニング支援システム。
【請求項6】
前記制御部は、運動の種類に応じた所定のタイミングで音声信号を生成することができ、前記音声信号を再生するスピーカーを有する請求項1乃至5のいずれかに記載のトレーニング支援システム。
【請求項7】
被験者の運動音を収音することができるマイクロホンを有し、前記制御部は、前記マイクロホンにより収音した運動音を前記評価部に入力して被験者の運動能力の評価に供する請求項6記載のトレーニング支援システム。
【請求項8】
前記評価部は、前記音声信号に基づく前記スピーカーでの再生音と、前記マイクロホンで収音される運動音とのタイミングのずれを被験者の運動能力の評価に供する請求項7記載のトレーニング支援システム。
【請求項9】
前記評価部は、前記再生音と運動音とのタイミングのずれを前記制御部にフィードバックし、前記制御部は、前記タイミングのずれに対応したタイミングで前記スピーカーを駆動する請求項8記載のトレーニング支援システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運動能力を向上させるためのトレーニング支援システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
運動競技を行う者は、運動能力を向上させるためのトレーニングに励んでいる。また、病後のリハビリや、高齢者の体力維持乃至は向上のためにトレーニングが行われている。このようなトレーニングを効果的に行うために、トレーニング評価装置やトレーニング支援装置などが提案されている。
【0003】
特許文献1記載の運動評価装置はその一つで、被験者の手首の加速度を検出する加速度センサと、被験者の手首を動かす筋肉の収縮膨張を検出する歪みセンサを有する。上記運動評価装置は、加速度センサの出力波形のピーク間時間差と、歪みセンサの出力波形のピーク間差に基づいて、被験者の疲労、体調などを示す身体状態評価値を算出するようになっている。
【0004】
特許文献2には、X,Y,Zの3軸方向の加速度を計測する計測部を腕に装着し、歩行や走行のフォームを解析するトレーニング支援装置が記載されている。このトレーニング支援装置は、足の着地時におけるX軸の加速度成分とY軸の加速度成分のバランスの変化を検出することにより、腕の振りと足の着地のタイミングバランスを解析することを特徴としている。
【0005】
特許文献3には、被験者の身体の部位の姿勢変化を予め設定された判定基準と比較して評価するスイング評価装置が記載されている。このスイング評価装置は、加速度センサとインパクト音を検出するマイクロホンを有する。マイクロホンがインパクト音を検出した時から予め設定された時間まで遡った所定時間における加速度センサの検出情報を記憶し、記憶した検出情報と判定基準情報とを比較してスイングを評価する。
【0006】
特許文献4には、被験者の運動フォームのリズムを示す第1から第3の案内音をスピーカーから発音させ、案内音に合わせて被験者が運動を行う間の加速度を加速度センサで検出して運動評価を行う運動評価装置が記載されている。この運動評価装置は、加速度の時間波形の特徴点の取得時刻と、打撃の瞬間の波形の取得時刻との間の時間間隔を求め、この時間間隔と理想値パラメータが示す模範の時間間隔とのずれ量によって運動を評価するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2016-146987号公報
【文献】特許第5888309号公報
【文献】特開2009-279126号公報
【文献】特開2009-247529号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1,2に記載されている発明によれば、被験者の現状の運動能力を評価することができる。しかし、将来の運動能力の向上を視野に入れた前向きの評価ではないから、被験者自身が常に自己ベストを目指そうとする意欲の向上効果は期待できない。
【0009】
特許文献3,4に記載されている発明によれば、判定基準または理想値パラメータを到達目標としてトレーニングすることができる。しかし、判定基準または理想値パラメータを超えるトレーニング効果を期待することはできないから、被験者自身が常に自己ベストを目指そうとする意欲の向上効果は期待できない。
【0010】
本発明は、被験者が運動能力の向上に高い意欲をもって取り組むことができるトレーニング支援システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るトレーニング支援システムは、
被験者の体幹に装着することができ、前記被験者の左右方向をX軸方向、前記体幹の前後方向をZ軸方向とするとき、X軸方向とZ軸方向への加速度を検出することができる加速度センサと、
前記加速度センサの出力信号からX軸方向とZ軸方向の加速度データを生成する制御部と、
前記X軸方向とZ軸方向の加速度データを解析し、X軸の加速度が最大になるタイミングにおけるX軸の加速度とZ軸の加速度の和を求め、複数回の試行によって得られる前記加速度の和の最大値によって被験者の運動能力を評価する評価部と、を有することを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るトレーニング支援システムによれば、複数回の試行によって得られる加速度データの和の最大値によって被験者の運動能力を評価するため、被験者は運動能力の向上に高い意欲をもって取り組むことができる。また、Z軸の加速度よりも重要なX軸の加速度が最大になるタイミングでのZ軸の加速度と前記X軸の最大加速度の和の最大値によって評価するため、より望ましい運動能力評価が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に係るトレーニング支援システムの実施例を示すブロック図である。
図2】本発明に適用される加速度センサの検出軸を説明するための模式図である。
図3】前記加速度センサの例を示す正面図である。
図4】前記加速度センサの側面図である。
図5】前記実施例の制御部におけるディスプレイの表示画面の例を示す図である。
図6】前記加速度センサによる検出出力波形図であって、(a)はX,Y,Z軸の出力を合わせて示す波形図、(b)はX軸の出力波形図、(c)はZ軸の出力波形図、(d)はZ軸の出力波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係るトレーニング支援システムの実施例について図面を参照しながら説明する。
【実施例
【0015】
[実施例の全体構成]
まず、本発明に係るトレーニング支援システムの実施例全体の構成について、図1を参照しながら説明する。本トレーニング支援システムは、大きく分けてハードウェア1と、ソフトウェア2と、評価サーバー3で構成されている。ソフトウェア2は、トレーニング支援システム全体の制御部として機能する。
【0016】
ハードウェア1は、スピーカー11、加速度センサ12、カメラ13、マイクロホン14、フィードバック再生部15を有する。加速度センサ12を除く他のスピーカー11、カメラ13、マイクロホン14、フィードバック再生部15がそれぞれ分担する機能はスマートホン(以下「スマホ」という)が備えている。したがって、ハードウェア1は、加速度センサ12を除きスマホを利用することができる。
【0017】
スピーカー11は、音源データあるいは音声信号が入力されることにより、音源データあるいは音声信号に対応して駆動され、音源データあるいは音声信号に対応する音声を発する。
【0018】
加速度センサ12は、トレーニングを行う運動選手などの被検者に装着されて被検者の運動に伴う加速度を検出する。加速度センサ12は、被験者が運動を開始するのに伴って、互いに直交するX軸,Y軸,Z軸の3軸方向の加速度を検出する。加速度センサ12の構成については後で具体的に説明する。
【0019】
カメラ13は、被験者の運動シーンを撮影して録画し、録画した映像データを出力することができる。マイクロホン14は、運動音を収録し、収録した音データを出力することができる。上記運動音には、スピーカー11で再生される音声とともに、被験者がトレーニングすることによって生成される風切り音などの動作結果音が含まれる。
【0020】
フィードバック再生部15は、制御部としてのソフトウェア2から送信されるフィードバック信号に基づいてフィードバック再生を行う。フィードバック再生には、HTMLデータあるいはPDFデータに基づくディスプレイでの画像再生、スピーカー11による音声再生を含む。
【0021】
前記ソフトウェア2は、前記の例ようにハードウェア1としてスマホを使用する場合、スマホのアプリケーションソフト(以下「アプリ」という)としてインストールされる。ソフトウェア2は、機能ブロックとして、音源データ記憶部21、加速度データ記憶部22、映像データ記憶部23、音データ記憶部24、フィードバック受信部25を有している。
【0022】
音源データ記憶部21は、基準となるトレーニング音が記憶されていて、その再生データが前記スピーカー11に入力され、スピーカー11からを再生データに対応した音声が発せられる。
【0023】
加速度データ記憶部22は、前記加速度センサ12から、例えばブルートゥース(登録商標)などの適宜の無線通信方式を介して入力される加速度データを記憶する。加速度データ記憶部22はまた、加速度データをCSVデータに変換して評価サーバー3に伝送する。
【0024】
映像データ記憶部23は、前記カメラ13から入力される映像データを記憶し、記憶した映像データを必要に応じて読み出すことができる。音データ記憶部24は、マイクロホン14から入力される音データを記憶し、記憶した音データを必要に応じて読み出すことができる。音データには、前述の通り、基準となるトレーニング音と被験者の動作結果音が含まれる。
【0025】
フィードバック受信部25は、評価サーバー3のフィードバック送信部33から入力されるフィードバック信号を受信し、この受信信号を、ハードウェア1のフィードバック再生部15に向けて送信する。
【0026】
前記評価サーバー3は、評価部31、レポートデータ生成部32、フィードバック送信部33を有する。
【0027】
評価部31には、制御部としての前記ソフトウェア2の加速度データ記憶部22、映像データ記憶部23、音データ記憶部24から、加速度データ、映像データ、音データが入力される。評価部31は、これらの加速度データ、映像データ、音データに基づいて被験者の運動能力を評価し評価データを出力する。評価方法については後で説明する。
【0028】
レポートデータ生成部32は、評価部31から入力される評価データからレポードデータを生成する。レポードデータは適宜のデータ形式で良く、例えば、HTNL形式、PDF形式などでも良い。レポードデータはフィードバック送信部33に入力され、フィードバック送信部33からソフトウェア2のフィードバック受信部25に向けて送信される。
【0029】
図1の左端の大きなブロックには、ハードウェア1の前記各機能部に対応した選手側すなわち被験者の動きを示すいくつかの小さなブロックが記載されている。各ブロックには、各機能ブロックを識別する「3-1」「3-2」・・・のような符号が、付されている。
【0030】
被験者は、例えばスピーカー11で再生されるトレーニング音を契機に運動を開始する(3-1)。運動開始に伴い加速度センサ12が作動し(4-1)、その検出信号が無線通信により制御部の加速度データ記憶部22に入力される(5-1)。被験者はまた、制御部のフィードバック再生部15によって駆動されるスピーカー11からのフィードバック再生音、あるいはディスプレイに表示されるフィードバック画像を確認し(11-1)、動作を開始することもできる(3-1)。フィードバック再生に基づく被験者の運動開始に伴う加速度センサ12の検出信号も加速度データ記憶部22に入力される(5-1)。
【0031】
上記被験者の運動シーン(3-2)はカメラ13によって撮影される(4-2)。また、被験者が運動することによって生じる運動音、例えば、バットスイングによる風切音およびスピーカー11で再生されるトレーニング音はマイクロホン14によって収録される(4-1)。
【0032】
[加速度センサの構成と使用例]
図3図4は加速度センサ12の例を示す。加速度センサ12は、互いに直交するX,Y,Zの各軸方向の加速度を検出することができる3軸加速度センサである。加速度センサ12を正面側から見て左右方向をX軸方向とし、右側への加速度をX+,左側への加速度をX-とする。加速度センサ12を正面側から見て上下方向をY軸方向とし、上側への加速度をY+,下側への加速度をY-とする。
【0033】
図4に示すように、加速度センサ12を側面側から見て左右方向、すなわち加速度センサ12の前後方向をZ軸方向とし、前側(図4において左側)への加速度をZ+、後側(図4において右側)への加速度をZ-とする。加速度センサ12は、被験者に装着するための適宜の装着具が組み込まれている。図示の例では、加速度センサ12の背面側にクリップ121が組み込まれていて、クリップ121を用いて被験者のベルトなどに装着できるようになっている。
【0034】
図2は、加速度センサ12を被験者に装着することによって検出することができる検出軸の例を示す。被験者の例えば腰回りのベルトを利用して、背中側に、Z軸を背骨に沿わせかつ背骨に最も近い位置に装着する。被験者がバットスイングなどの運動をするとき、体幹を中心に回転し、加速度センサ12から3軸の加速度信号が出力される。左右方向への加速度はX軸方向の加速度信号として出力される。前後方向への加速度はZ軸方向の加速度信号として出力される。上下方向への加速度はY軸方向の加速度信号として出力される。
【0035】
被験者が野球のバットスイングを行うことを想定すると、体幹の中心を回転中心として身体が回転する。加速度センサ12は回転中心よりも外側に装着されているため、身体が回転するとき、X軸方向の加速度成分をX軸方向のセンサが検出し、Z軸方向の加速度成分をZ軸方向のセンサが検出する。バットスイングが鋭いスイングであれば、X軸方向の加速度検出信号とZ軸方向の加速度検出信号が大きく、また、X軸方向とZ軸方向の加速度検出信号のピーク相互間の時間間隔のずれが小さい。
【0036】
Y軸方向すなわち上下方向の加速度検出信号が大きいとすれば、バットスイング中の上下動が大きいことになり、ボールへのジャストミートの確率が低下する要因になる。よって、Y軸方向の加速度は、+方向と-方向のいずれにおいてもできるだけ小さいことが望ましい。しかしながら、Y軸方向の加速度を小さくすることに意識が向くと、X軸とZ軸方向の加速度を上げようとする意識が低下してスイングが小さくまとまる可能性がある。したがって、スイング能力があるレベルまで向上するまでは、X軸方向とZ軸方向の加速度で評価し、Y軸方向は無視することも有効である。
【0037】
[トレーニング支援の具体例]
以上、本発明に係るトレーニング支援システムの実施例の大枠を説明してきた。次に、上記実施例の動作を説明しながら、上記実施例をさらに詳細に説明する。ここでは、野球のバットスイングの能力を向上させるためのトレーニング支援を例にして説明する。
【0038】
図5は、ハードウェア1のディスプレイに表示される画面の一例を示す。図5に示すように、ディスプレイの上側の約半分は、カメラ13で撮影したバットスイングなどの画像表示部131になっている。図5の画像は右バッターによるスイングの例である。画像表示部131による表示画像は、1回のスイング時の静止画や一定時間間隔の分解画像でも良いが、動画が望ましい。
【0039】
所定の運動フォームを所定回数繰り返してこれを1クールとすると、図示されている具体例では、5回のバットスイングを繰り返して1クールとしている。画像表示部131に表示する画像は、1クール内の最後の画像であってもよいし、1クール内の最大運動能力であると評価された画像であってもよい。運動能力の評価については後で説明する。画像表示部131に表示する画像は、記憶されている画像データの中から任意に選択した運動フォームであってもよい。
【0040】
前記ディスプレイの下側の約半分は、加速度センサ12から出力される加速度波形の表示部132になっている。表示部132に表示される加速度波形は、1クール分の、図示の具体例では5回のバットスイングによる加速度波形が時間軸に沿って順に表示される。図5に示す例では、加速度波形の表示順を(1)~(5)で表しており、X軸の波形と、Y軸の波形と、Z軸の波形が、同じ時間軸上に重ねて表示されている。
【0041】
前記ディスプレイには、本発明におけるハードウェアとして必要な機能を全うさせ、あるいは補完するための各種操作部、表示部が設置されている。自撮りモードボタン、通信ボタン、波形モード選択ボタン、音圧表示ボタン、CSVエクスポートボタン、データ通信時間の表示欄などがその例である。
【0042】
図6は、上記表示部132に表示される前記3軸分の加速度波形を重ねた波形と、この波形を構成するX,Y,Zの各軸方向の加速度波形を分けて示している。図6(a)はX,Y,Zの各軸方向の加速度波形を合わせて表示しており、図5の表示部132に表示される加速度波形に相当する。図6(b)はX軸方向の加速度波形、図6(c)はY軸方向の加速度波形、図6(d)はZ軸方向の加速度波形をそれぞれ共通の時間軸上で示している。
【0043】
これらの加速度波形からわかるように、それぞれのバットスイングの試行回によって、各軸の加速度波形が異なる。より詳細に観察すると、各軸方向の加速度のピーク値は略同期しているように見えるが、厳密に観察すると、ピークが表れるタイミングすなわち時間軸上の位置が微妙に異なる。
【0044】
前記評価部31では、各バットスイング回のX,Y,Z3軸の加速度データから、各軸の加速度の最高値を記録する。右バッターの場合、各バットスイング回のX軸方向+のピーク値とZ軸方向+のピーク値の和を求める。左バッターの場合は、X軸方向の加速度の符号が右バッターの場合と逆に出力されるので、X軸方向の加速度の符号を逆転させて用いる。さらに、1クールをなす複数回の試行によって得られる上記ピーク値の和が最大のものを求め、この最大値によって被験者の運動能力を評価する。
【0045】
このように、X軸とZ軸の加速度の最大値で運動能力を評価するのは、バットスイング時のいわゆる「タメ」や下半身を使った動作が良くできているほど、X軸とZ軸の加速度が大きくなるからである。すなわち、X軸とZ軸の加速度が大きくなるほど、身体の回転乃至はねじりが鋭く行われることになり、長打を打つことができる能力とパワーが身についてきたと評価することができるからである。
【0046】
運動するときの加速度は体幹の中心を基準にした左右方向すなわちX軸方向の加速度が重要である。そこで、X軸の加速度が最大になるタイミングにおけるX軸の加速度とそのときのZ軸の加速度の和を求め、この和の値で運動能力を評価する。また、1クール内の複数回の試行ごとに上記加速度の和を求め、この和の値が最大のものを被験者の記録として残す。こうすることによって、適切かつ信頼性の高い評価を行うことができる。
【0047】
上記の評価においては、X軸方向とZ軸方向における加速度が最大になるタイミングのずれは考慮しない。しかし、X軸とZ軸の加速度のピーク値の和の最大値で運動能力を評価する際に、X軸とZ軸の加速度のピーク値が表れるタイミングのずれ、すなわち上記ピーク位置の時間間隔を評価の要素とするとなおよい。仮に、X軸とZ軸の加速度のピーク値の和が最大になったとしても、ピーク位置の時間間隔に大きなずれがあると、X軸とZ軸の加速度の相乗効果が得られないからである。バットスイングの場合、体幹を活かすことなく、いわゆる手打ちになっている場合などには、ピーク位置の時間間隔に大きなずれがみられる。
【0048】
そこで、評価部31では、X軸方向とZ軸方向の加速度データを解析してX軸とZ軸の加速タイミングの同期度合いおよびX軸とZ軸の加速度データの和を求める。そして、試行によって得られる上記加速度データの最大値の和に、上記同期度合いを加味することによって被験者の運動能力を評価する。上記同期度合いは、XおよびZ軸のピーク値の時間間隔のずれに応じた係数を設定し、この係数を上記加速度データの和の最大値に掛けるなどの手段によって加味することができる。1クール内の複数回の試行ごとに上記同期度合いを加味した運動能力の評価を行い、評価値の最大値を抜き出して記憶しておく。
【0049】
上記の評価では、Y軸の加速度を無視している。Y軸の加速度が検出されるということはバットスイング時に上下動が生じていることになる。上下動が生じると、目線が上下に変動し、ボールを打ち損なう確率が大きくなる。そこで、X軸とZ軸の加速度の和の最大値に、Y軸の加速度の最大値をマイナス要因として加味するとよい。この場合も、Y軸の加速度の大きさに応じた係数を設定し、この係数を上記加速度データの和の最大値に掛けるなどの手段によって加味することができる。上下動は、+方向と-方向のいずれでも評価のマイナス要因になるため、Y軸方向の加速度センサ出力の絶対値をマイナス要因として加味する。
【0050】
ただし、パワフルで鋭いスイングができる優れたバッターは、上下動も大きい。また、上下動を意識すると、X軸とZ軸の加速度が向上せず、スイングが小さくまとまってしまう傾向がある。そこで、意図的にY軸方向の加速度データを無視し、X軸とZ軸の加速度にのみ着目して、X軸とZ軸の加速度を向上させることに専念することも有効なトレーニング法である。このような意図から、評価部31による評価モードを、X軸とZ軸の加速度評価モードに切り換えることができるようにしておくとよい。
【0051】
スイング能力があるレベル以上に向上してくると、X軸とZ軸の加速度評価にY軸方向の加速度をマイナス要因として加味するとよい。Y軸方向の加速度が大きいと、X軸とZ軸の加速度評価のマイナス要因となるため、被験者はY軸方向の加速度を押えながらX軸とZ軸の加速度を高めるように、工夫しながらトレーニングに取り組むことができる。
【0052】
加速度の評価は、バットスイングを1回行うごとに行うことができる。1クールのスイングが5回とすれば、5回の評価結果を得ることができる。この例の場合評価部31は、1クール5回のスイングで、最大値を得たスイングの評価値を被験者の運動能力として評価する。この場合の評価は、以下のような計算式を設定することによって自動的に行うことができる。
for(var i=0;i<5;i++)
{if(X>Z&topX<X){topXZ=X+Z;topX=X;}}
【0053】
上の式において、XはX軸方向の最大加速度値、ZはZ軸方向の最大加速度値である。X軸方向の加速度が、Z軸方向の加速度よりも高く評価される。そこで、X軸の加速度が最大となったタイミングで、Z軸の加速度を加算し、このときのX+Zの値を記録する。1クールで5回のスイングを行うとすると、5回のスイングのうちX+Zの値が最大になるものを、X+Z=トップ加速度値として評価する。
【0054】
X軸、Z軸ともに、加速方向を正、減速方向を負の信号として出力し、評価部31は、前記加速度センサの出力の正負を加味した前記最大値によって被験者の運動能力を評価する。また、右バッターと左バッターでは、スイング時のX軸の加速方向が逆になり、加速度センサ出力信号の符号が+-逆になる。そこで、最大加速度信号の符号が逆になる場合は、最大加速度信号のデータに-1を掛けて正しい値に直して評価に供する。
【0055】
図1に戻って、評価サーバー3内の評価部31は、ここまで説明してきた加速度データによる評価を行い(6-1)、その評価データを生成して保存し、必要に応じて出力する。評価部31はまた、前記映像データ記憶部23からの映像データ(5-2)および前記音データ記憶部からの音データ(5-3)を受けて、それぞれのデータを出力する。評価部31から出力される評価データ、映像データ、音データはレポートデータ生成部32に入力され(7-1)、上記各データがレポートデータとして生成される。
【0056】
上記レポートデータはフィードバック送信部33から出力され(8-1)、フィードバック受信部25を経てハードウェア1のフィードバック再生部15に入力される。フィードバック再生部15は、画像信号を図5で説明したハードウェア1のディスプレイの画像表示部131に入力し、画像表示部131で被験者のスイング画像を表示する。
【0057】
フィードバック再生部15は、スイング画像の再生とともにマイクロホン14で収音した音声信号でスピーカー11を駆動し、スイング画像と同期させてスピーカー11から上記音声信号を再生する。スピーカー11が音源データ記憶部21に記憶されているトレーニング音を再生し、被験者がこの再生音に合わせてスイングする場合、上記トレーニング音と被験者のスイング時の風切音などの動作音が記録される。
【0058】
被験者は上記二つの音を同時に再生し、二つの音のタイミングのずれを確認することができる。被験者は、上記二つの音のずれが小さくなるようにトレーニングすることにより、運動能力(本例の場合はバットスイング能力)を高めることができる。
【0059】
フィードバック再生部15はまた、被験者がスイングするたびに得られる加速度データに基づいて前記表示部132に加速度波形を表示することができる。被験者は、加速度波形を観察することにより、自己の運動能力および運動能力の推移を、視覚を通してイメージすることができる。
【0060】
本発明は、バットスイングのトレーニングに限らず、あらゆる種類の運動のトレーニングに使用することができ、それぞれの運動能力の向上に資することができる。例えば、ゴルフのスイング、野球のピッチング、テニスなど、身体の全体または一部を回転乃至は捩じる運動のトレーニングに使用することができる。
【0061】
ゴルフのスイングでは、セットアップから、バックスイングの開始⇒バックスイング⇒トップ位置からダウンスイングへの切り返し⇒ダウンスイング⇒インパクト⇒フォロー⇒フィニッシュの一連の動作によって実行される。ゴルフの場合、テンポとリズム、タイミングが重要であり、これらの要素がX軸、Z軸の加速度にも影響する。また、Y軸の加速度はなるべく小さいことが望ましい。したがって、ゴルフのトレーニングの場合も、これまで説明してきた各軸の加速度による評価方法を適用することができる。
【0062】
なお、ゴルフのスイングは、クラブの種類すなわちウッドとアイアン、アイアンでもショートアイアンとロングアイアンによって、テンポとリズム、タイミングが微妙に異なる。そこで、図1に示す音源データ記憶部21に、それぞれのクラブのスイングに適したテンポとリズムの音源を保存しておき、これをスピーカー11で再生し、再生される音のテンポとリズムに合わせてスイングの練習をするとよい。
【0063】
ゴルフのビギナーは、スイング時の体の動かし方がわからず、各軸の加速度が小さく、各軸の加速度のピーク位置のずれが大きい。各軸の加速度、それらのピーク位置は、ディスプレイに表示される波形図を参照することによって、被験者は自己のフォームの問題点を直感的に認識することができる。本発明に係るシステムを使用することにより、ビギナーは自己の上達の足跡を認識することができ、上級者は各軸の加速度とそのタイミングを確認することによりフォームの乱れなどをチェックすることができる。
【0064】
本発明に係るシステムを例えば野球のピッチングのトレーニングに使用する場合、投げる球種が異なっても、常に同じフォーム、同じテンポ、同じタイミングで投げることができるようにトレーニングすることができる。このようなトレーニングは、投げる球種をバッターに悟られることをなくすのに役立つ。
【0065】
[本発明の実施例の効果]
本発明に係るトレーニング支援システムの実施例によれば、以下のような効果を得ることができる。
【0066】
運動するときの加速度は体幹の中心を基準にした左右方向すなわちX軸方向の加速度が重要であるため、X軸の加速度が最大になるタイミングにおけるX軸の加速度とZ軸の加速度の和を求めて運動能力を評価する。よって、適切かつ信頼性の高い評価を行うことができる。
【0067】
X軸の最大加速度とZ軸すなわち前後方向の最大加速度のタイミングとの間にずれが少ないほど、上記2軸の加速度の相乗効果が大きくなる。そこで、X軸とZ軸の加速度の最大値の和に、双方の加速タイミングのずれを加味して運動能力を評価し、適切かつ信頼性の高い評価を可能にしている。
【0068】
バットスイングなどを複数回試行して各回の試行ごとにX軸とZ軸の加速度データの和を求め、この加速度データの和の最大値によって運動能力を評価するため、被験者は最大値を超えることを目指してトレーニングに取り組むことができる。よって、被験者は常に自己ベストを更新することをモチベーションにして、トレーニング効果を高めることができる。
【0069】
[その他]
以上説明した実施例は、本発明を実施する場合の一例を示したものにすぎず、各請求項に記載した発明の技術的範囲を逸脱しない範囲で任意に変形して差し支えない。
【符号の説明】
【0070】
1 ハードウェア
2 ソフトウェア(制御部)
11 スピーカー
12 加速度センサ
14 マイクロホン
31 評価部
図1
図2
図3
図4
図5
図6