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特許7161796角度センサの較正方法、建設機械の制御方法、建設機械の制御システムおよび建設機械の制御プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-19
(45)【発行日】2022-10-27
(54)【発明の名称】角度センサの較正方法、建設機械の制御方法、建設機械の制御システムおよび建設機械の制御プログラム
(51)【国際特許分類】
   E02F 9/26 20060101AFI20221020BHJP
   E02F 3/43 20060101ALI20221020BHJP
   G01C 19/00 20130101ALI20221020BHJP
【FI】
E02F9/26 B
E02F3/43 A
G01C19/00 Z
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021162575
(22)【出願日】2021-10-01
【審査請求日】2022-03-31
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】518239994
【氏名又は名称】TOTALMASTERS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100161034
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 知洋
(74)【代理人】
【識別番号】100187632
【弁理士】
【氏名又は名称】橘高 英郎
(72)【発明者】
【氏名】玉里 芳直
【審査官】五十幡 直子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-155027(JP,A)
【文献】特開2020-197402(JP,A)
【文献】特開2019-200123(JP,A)
【文献】特開2009-150655(JP,A)
【文献】特開2021-055302(JP,A)
【文献】特開2020-020631(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02F 3/42- 3/43
E02F 3/84- 3/85
E02F 9/00- 9/28
G01C 1/00-25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建設機械の可動部に装着されて用いられる角度センサの較正方法であって、
前記可動部を動作させて得られる前記角度センサの検出結果である当該角度センサの検出座標空間における各軸の回転角について、当該可動部が回転する際の回転平面に垂直な回転軸を基準としたときの当該回転軸まわりの回転として表現するものを、当該角度センサについての較正情報として特定し、
前記較正情報を特定しておくことによって前記建設機械の稼動時に得られる前記角度センサの検出結果である前記各軸の回転角を前記基準となる前記回転軸まわりの回転角に換算可能にする
角度センサの較正方法。
【請求項2】
前記建設機械に複数の前記角度センサが装着される場合に、各角度センサが装着される複数の前記可動部を一つずつ動作させて、前記各角度センサのそれぞれについて個別に前記較正情報を特定する
請求項1に記載の角度センサの較正方法。
【請求項3】
前記角度センサを装着するための台座部が当該角度センサと前記可動部との間に介在する場合に、当該角度センサについての前記較正情報を当該台座部と対応付けて管理する
請求項1または2に記載の角度センサの較正方法。
【請求項4】
前記台座部には、前記較正情報に関する識別情報が付される
請求項3に記載の角度センサの較正方法。
【請求項5】
前記台座部に設けられた案内ガイド部を利用して、当該台座部に前記角度センサが取り付けられる
請求項3または4に記載の角度センサの較正方法。
【請求項6】
前記較正情報が特定されている参照用の前記角度センサと装着対象の前記角度センサとの回転角差に関する情報を計測し、装着対象の前記角度センサが装着された場合に前記較正情報の内容を前記回転角差に関する情報に基づいて補正する
請求項1から5のいずれか1項に記載の角度センサの較正方法。
【請求項7】
前記可動部が交換可能な可動作業具である場合に、
前記可動作業具に装着された前記角度センサについての前記較正情報と、前記可動作業具と連係して動作する非交換部材に装着された前記角度センサについての前記較正情報との相関関係を、予めに認識しておき、
交換後の前記可動作業具について、前記相関関係と前記非交換部材に装着された前記角度センサの検出結果とから、当該可動作業具の回転角を導き出す
請求項1から6のいずれか1項に記載の角度センサの較正方法。
【請求項8】
前記角度センサの検出結果から前記可動作業具の回転半径を求める
請求項7に記載の角度センサの較正方法。
【請求項9】
建設機械が有する複数の可動部のそれぞれに装着される角度センサの較正方法であって、
一つの可動部のみを動作させたときの当該可動部に装着された前記角度センサの検出結果である当該角度センサの検出座標空間における各軸の回転角について、当該可動部が回転する際の回転平面に垂直な回転軸を基準としたときの当該回転軸まわりの回転として表現するものを、当該角度センサについての較正情報として特定し、
前記較正情報の特定を、前記複数の可動部のそれぞれに装着される各角度センサについて、当該複数の可動部を一つずつ動作させて、個別に行う
角度センサの較正方法。
【請求項10】
建設機械の可動部に角度センサを装着し、
前記可動部を動作させて得られる前記角度センサの検出結果である当該角度センサの検出座標空間における各軸の回転角について、前記可動部が回転する際の回転平面に垂直な回転軸を基準としたときの当該回転軸まわりの回転として表現するものを、当該角度センサについての較正情報として特定しておき、
前記建設機械の稼動時に得られる前記角度センサの検出結果である前記各軸の回転角を、前記較正情報によって前記基準となる前記回転軸まわりの回転角に換算して、当該回転角から前記建設機械の稼動時における前記可動部の動作状態を認識する
建設機械の制御方法。
【請求項11】
建設機械の可動部に装着される角度センサと接続する接続部と、
前記接続部を介して得られる前記角度センサの検出結果を処理する制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記可動部を動作させて得られる前記角度センサの検出結果である当該角度センサの検出座標空間における各軸の回転角について、前記可動部が回転する際の回転平面に垂直な回転軸を基準としたときの当該回転軸まわりの回転として表現するものを、当該角度センサについての較正情報として特定する較正処理部と、
前記建設機械の稼動時に得られる前記角度センサの検出結果である前記各軸の回転角を、前記較正情報によって前記基準となる前記回転軸まわりの回転角に換算して、当該回転角から前記建設機械の稼動時における前記可動部の動作状態を認識する計測処理部と、
を有する建設機械の制御システム。
【請求項12】
建設機械の可動部に装着される角度センサと接続するコンピュータを、
前記可動部を動作させて得られる前記角度センサの検出結果である当該角度センサの検出座標空間における各軸の回転角について、前記可動部が回転する際の回転平面に垂直な回転軸を基準としたときの当該回転軸まわりの回転として表現するものを、当該角度センサについての較正情報として特定する較正処理部と、
前記建設機械の稼動時に得られる前記角度センサの検出結果である前記各軸の回転角を、前記較正情報によって前記基準となる前記回転軸まわりの回転角に換算して、当該回転角から前記建設機械の稼動時における前記可動部の動作状態を認識する計測処理部と、
として機能させる建設機械の制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、角度センサの較正方法、建設機械の制御方法、建設機械の制御システムおよび建設機械の制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
建設施工現場で用いられる油圧ショベルやブルドーザ等の建設機械については、例えば、ブーム、アーム、バケット等の可動部に角度センサを装着して当該可動部の姿勢等を計測することで、その建設機械による施工箇所に関する制御(例えば、マシンガイダンス)を可能にする、といったことが行われている。その場合に、角度センサについては、可動部への装着に際して較正処理を行っておくことが、可動部の姿勢等を精度良く計測するために必要である。角度センサの較正処理は、例えば、建設機械とは別にトータルステーション等の測量装置を用意し、その測量装置による測量結果を基準にしてセンサ出力に対する補正量を取得することで行われる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-146408号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
角度センサは、建設機械の可動部に装着したままにしておくのではなく、必要な場合にのみ可動部に装着して利用可能にすることが望ましい。通常の建設施工現場では、角度センサを用いた制御を必要とする場面が限られるからである。また、角度センサについては、故障や仕様変更等の理由により交換(別の新たな角度センサの装着)が必要になることも想定される。これらの場合において、角度センサを装着する度に測量装置を用いて較正処理を行うのでは、その較正処理を簡便に行えるとは言えず、建設施工現場での作業効率の低下を招くおそれがある。
【0005】
本発明は、角度センサの較正処理が必要な場合に、その較正処理を簡便に行うことを可能にする技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によれば、
建設機械の可動部に装着されて用いられる角度センサの較正方法であって、
前記可動部を動作させて得られる前記角度センサの検出結果から前記可動部が回転する際の回転平面に垂直な回転軸を基準とする較正情報を特定し、前記較正情報を特定しておくことによって前記建設機械の稼動時に得られる前記角度センサの検出結果を前記回転軸まわりの回転角に換算可能にする
角度センサの較正方法が提供される。
【0007】
また、本発明の他の一態様によれば、
建設機械の可動部に角度センサを装着し、
前記可動部を動作させて得られる前記角度センサの検出結果から前記可動部が回転する際の回転平面に垂直な回転軸を基準とする較正情報を特定しておき、
前記建設機械の稼動時に得られる前記角度センサの検出結果を前記較正情報によって前記回転軸まわりの回転角に換算して、当該回転角から前記建設機械の稼動時における前記可動部の動作状態を認識する
建設機械の制御方法が提供される。
【0008】
また、本発明のさらに他の一態様によれば、
建設機械の可動部に装着される角度センサと接続する接続部と、
前記接続部を介して得られる前記角度センサの検出結果を処理する制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記可動部を動作させて得られる前記角度センサの検出結果から前記可動部が回転する際の回転平面に垂直な回転軸を基準とする較正情報を特定する較正処理部と、
前記建設機械の稼動時に得られる前記角度センサの検出結果を前記較正情報によって前記回転軸まわりの回転角に換算して、当該回転角から前記建設機械の稼動時における前記可動部の動作状態を認識する計測処理部と、
を有する建設機械の制御システムが提供される。
【0009】
また、本発明のさらに他の一態様によれば、
建設機械の可動部に装着される角度センサと接続するコンピュータを、
前記可動部を動作させて得られる前記角度センサの検出結果から前記可動部が回転する際の回転平面に垂直な回転軸を基準とする較正情報を特定する較正処理部と、
前記建設機械の稼動時に得られる前記角度センサの検出結果を前記較正情報によって前記回転軸まわりの回転角に換算して、当該回転角から前記建設機械の稼動時における前記可動部の動作状態を認識する計測処理部と、
として機能させる建設機械の制御プログラムが提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、建設機械の可動部に装着される角度センサの較正処理が必要な場合に、その較正処理を簡便に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の第一実施形態において制御対象となる建設機械の一例であるバックホーの概略構成例を模式的に示す説明図である。
図2】本発明の第一実施形態に係る建設機械の制御システムの構成例を模式的に示すブロック図である。
図3】本発明の第一実施形態に係る角度センサの較正方法の手順の一例を示すフロー図である。
図4】本発明の第一実施形態において実行する角度センサの較正処理において、当該角度センサにより得られる各軸の回転角θx,θy,θzの概念を示す説明図である。
図5】本発明の第一実施形態において実行する較正情報を利用した計測処理において、角度センサにより得られる各軸の回転角θ´x,θ´y,θ´zの概念を示す説明図である。
図6】本発明の第二実施形態に係る建設機械の制御システムの要部を示す説明図であり、(a)は要部構成例の斜視図、(b)は要部構成例の平面図である。
図7】本発明の第二実施形態において実行可能であるセンサ誤差縮小処理の概念を示す説明図である。
図8】本発明の第三実施形態に係る建設機械の制御システムの要部を示す説明図である。
図9】本発明の第三実施形態に係る角度センサの較正方法の手順の一例を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0013】
<第一実施形態>
まず、本発明の第一実施形態について説明する。
【0014】
(建設機械)
ここで、本実施形態において制御対象となる建設機械について説明する。建設機械は、建設施工現場で用いられるもので、代表的な例として油圧ショベルやブルドーザ等といった土木用途の建設機械が挙げられる。ただし、建設機械がこれらに限定されることはなく、トラックやローダ等の運搬機械、クレーン等の荷役機械、基礎工事用機械、せん孔機械、トンネル工事用機械、圧砕機等のコンクリート機械、舗装機械、道路維持用機械等といった他の種類のものであっても構わない。
【0015】
以下の説明では、建設機械がバックホーとも呼ばれる油圧ショベルである場合を例に挙げる。
図1は、バックホーの概略構成例を模式的に示す説明図である。
【0016】
図例のように、バックホー1は、操縦席10を含む上部回旋体(機体本体)11と、駆動作業具であるブーム12、アーム13およびバケット14と、走行装置としての下部移動体15と、を備えている。このような構成のバックホー1は、下部移動体15を備えることで、建設施工現場において移動(自走)することが可能である。そして、上部回旋体11、ブーム12、アーム13およびバケット14をそれぞれ動作させることで、建設施工現場の地表面に対して掘削等の施工を行うようになっている。したがって、バックホー1において、上部回旋体11、ブーム12、アーム13およびバケット14は、それぞれが個別に動作し得る「可動部」として機能することになる。また、これらのうち、特にバケット14は、建設施工現場の地表面に対する施工を直接的に行う「可動作業具」として機能することになる。その場合に、バケット14の剣先位置が、そのバケット14による施工箇所に相当することになる。
【0017】
上部回旋体11の背部には、全球測位衛星システム(Global Navigation Satellite System、以下「GNSS」と略す。)の受信機(アンテナ)16が取り付けられており、これによりバックホー1の位置を測位し得るようになっている。
【0018】
また、上部回旋体11の操縦席10には、操縦者が操作するコントローラ(ただし不図示)や、操縦者に対する情報出力を行うモニタ(ただし不図示)等、が設けられている。
【0019】
このような構成のバックホー1において、可動部である上部回旋体11、ブーム12、アーム13およびバケット14のそれぞれには、角度センサ21,22,23,24が装着されている。ただし、バケット用の角度センサ24は、より具体的には、バケット14を間接的に駆動させるアイドラアーム14cに装着されていることが好ましい。バケット14の剣先近傍に角度センサ24が装着されていると、建設施工現場の地表面に対する施工の際に角度センサ24が邪魔になったり、当該角度センサ24の破損を招いたりするおそれがあるからである。
【0020】
角度センサ21,22,23,24は、例えば、三軸加速度センサと三軸ジャイロセンサからなる慣性計測装置(Inertial Measurement Unit、以下「IMU」と略す。)の角度センサとしての機能を利用したものであり、少なくとも三次元空間内で各可動部が動作したときの角度(すなわち動作角度)を検出し得るように構成されたものである。なお、角度センサ21,22,23,24は、各可動部の動作角度を検出可能であれば、必ずしもIMUである必要はなく、他の種類のセンサを用いて構成されていてもよい。
【0021】
このような構成のバックホー1においては、上部回旋体11にGNSS受信機16が取り付けられているので、これにより建設施工現場でのバックホー1の位置を計測することができる。さらに、可動部である上部回旋体11、ブーム12、アーム13およびバケット14のそれぞれに角度センサ21,22,23,24が装着されているので、各可動部の大きさ(サイズデータ)を特定することで、そのサイズデータと各角度センサ21,22,23,24の検出結果とから、上部回旋体11に対するバケット14の剣先位置を計測することができる。
【0022】
したがって、これらの計測結果から建設施工現場内におけるバケット14の剣先位置をモニタリングすることができるので、そのモニタリング結果に基づいて、稼働中のバックホー1に対する制御を行うことが可能となる。具体的には、例えば、バケット14の剣先位置のモニタリング結果と、建設施工現場の施工目標データ(設計データ)とを、操縦席10の表示パネルにて出力し、バックホー1の操縦者に必要な施工量(掘削量等)をガイダンス(いわゆるマシンガイダンス)することが実現可能となる。
【0023】
(システム構成)
次に、以上のようなバックホー1に対する制御を可能にする制御システムの構成例について説明する。
図2は、本実施形態に係る制御システムの構成例を模式的に示すブロック図である。
【0024】
図例のように、制御システムは、マシンガイダンス等の制御を可能にするために、バックホー1の各可動部に装着されたIMU(角度センサ)21,22,23,24と接続するCAN(Controller Area Network)インタフェース(以下、インタフェースを「IF」と略す。)31と、そのCAN IF31およびバックホー1の上部回旋体11に装着されたGNSS受信機16と接続するパーソナルコンピュータ(以下「PC」と略す。)32と、そのPC32と接続するモニタ33と、を備えている。
【0025】
CAN IF31は、各角度センサ21,22,23,24と接続する「接続部」として機能するものであり、各角度センサ21,22,23,24における検出結果を取得可能にするものである。このようなインタフェースとしては、CAN IFに限定されることはなく、例えば、RS-232CやRS-485等のシリアル通信プロトコルに準拠したものや、USB(Universal Serial Bus)に準拠したもの等によって構成されていてもよい。
【0026】
PC32は、コンピュータとしてのハードウエア資源を備えており、所定プログラムを実行することで、そのプログラム(ソフトウエア)とハードウエア資源とが協働して、各種の機能や処理動作等を実現するように構成されている。PC32が実現する機能や処理動作等としては種々のものがあるが、その一例として、CAN IF31を介して得られる各角度センサ21,22,23,24の検出結果を処理する機能がある。つまり、PC32は、各角度センサ21,22,23,24の検出結果を処理する「制御部」として機能するようになっている。なお、PC32は、一般的な構成の汎用PCを用いることが考えられるが、これに限定されることは無く、例えば、いわゆるシングルボードコンピュータを用いて構成されていてもよい。また、PC32は、バックホー1に搭載されて用いられるものであることが考えられるが、これに限定されることは無く、例えば、CAN IF31およびGNSS受信機16と無線通信を介して接続する場合であれば、バックホー1とは遠隔配置されたものであってもよい。
【0027】
モニタ33は、例えば液晶表示パネルによって構成されたもので、PC32からに指示に従いつつ、バックホー1の操縦者等に対して各種の情報出力を行うためのものである。このようなモニタ33は、バックホー1の操縦席10にて利用されるものであるが、これに限定されることは無く、バックホー1から離れた箇所で利用可能なものものであっても構わない。また、モニタ33については、各種の情報出力を行うのみならず、例えばタッチパネル等によって各種の情報入力にも対応し得ることが好ましい。
【0028】
(PC機能構成)
次に、上述したPC32において実現される機能構成について説明する。ここでは、主として各角度センサ21,22,23,24の検出結果を処理する機能について説明し、他の機能については説明を省略する。
【0029】
PC32は、各角度センサ21,22,23,24の検出結果を処理する機能の一つとして、計測処理部32aを有している。計測処理部32aは、バックホー1の稼動時に得られる各角度センサ21,22,23,24の検出結果と、GNSS受信機16で得られる位置検出結果とに基づいて、各角度センサ21,22,23,24が装着された可動部(すなわち、上部回旋体11、ブーム12、アーム13およびバケット14のそれぞれ)の動作状態を認識する機能である。可動部の動作状態とは、バックホー1の稼動時における各可動部の位置または姿勢の少なくとも一方の状態のことをいう。このような動作状態を計測処理部32aが認識することで、PC32では、その認識結果に基づいて建設施工現場内におけるバケット14の剣先位置をモニタリングできるようになる。
【0030】
計測処理部32aは、可動部動作状態の認識(すなわち、可動部の姿勢等の認識)を、各角度センサ21,22,23,24の検出結果に基づいて行う。そのため、可動部動作状態の認識を精度良く行うためには、各角度センサ21,22,23,24について、可動部への装着に際して較正処理を行っておくことが必要である。
ただし、通常の建設施工現場では各角度センサ21,22,23,24を用いた制御を必要とする場面が限られることから、各角度センサ21,22,23,24については、バックホー1に装着したままにしておくのではなく、必要な場合にのみ装着して利用可能にすることが望ましい。また、各角度センサ21,22,23,24については、故障や仕様変更等の理由により交換(別の新たな角度センサの装着)が必要になることも想定される。
これらの場合において、各角度センサ21,22,23,24の較正処理を簡便に行えないと、建設施工現場での作業効率の低下を招くおそれがある。
【0031】
そこで、本実施形態において、PC32は、各角度センサ21,22,23,24の検出結果を処理する機能の他の一つとして、較正処理部32bを有している。較正処理部32bは、各角度センサ21,22,23,24の較正処理を行う機能である。なお、較正処理部32bが行う較正処理については、その詳細を後述する。
【0032】
以上に説明した計測処理部32aおよび較正処理部32bとしての機能は、PC32が所定プログラムを実行することによって実現される。つまり、これらの機能を実現する所定プログラムは、本実施形態に係る「建設機械の制御プログラム」の一実施形態に相当する。その場合に、各機能を実現する所定プログラムは、PC32にインストール可能なものであれば、当該PC32で読み取り可能な記録媒体(例えば、磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、半導体メモリ等)に格納されて提供されるものであってもよいし、インターネットや専用回線等のネットワークを通じて外部から提供されるものであってもよい。
【0033】
(較正処理の手順)
次に、上述した構成の制御システムにおいて、PC32における較正処理部32bが各角度センサ21,22,23,24の較正処理を行う場合の手順、すなわち本実施形態に係る角度センサ較正方法の手順について説明する。
図3は、本実施形態に係る較正方法の手順の一例を示すフロー図である。
【0034】
角度センサ21,22,23,24の較正処理は、当該角度センサ21,22,23,24のバックホー1への装着から当該バックホー1の建設施工現場での稼働開始までのいずれかの時点で行う。
【0035】
バックホー1は、建設施工現場での稼働を開始すると、当該バックホー1が有する複数の可動部(すなわち、上部回旋体11、ブーム12、アーム13およびバケット14)が同時並行的に動作し得ることになる。そのため、バックホー1の稼動時において、各角度センサ21,22,23,24のそれぞれによる検出結果は、複数の可動部の動作成分が混在したものとなる可能性がある。このような場合であっても、各角度センサ21,22,23,24の検出結果を処理する計測処理部32aは、各可動部のそれぞれの動作状態を個別に認識する必要がある。これを実現可能にすべく、較正処理部32bは、以下のような手順で、角度センサ21,22,23,24の較正処理を行う。
【0036】
まず、図3に示すように、複数の可動部のうち、上部回旋体11のみを回転方向に動作させて、上部回旋体11に装着されたIMU(以下「上部回旋体IMU」ともいう。)の角度センサ21による検出結果から、角度センサ21の回転軸の設定を行う(S101)。
【0037】
さらに詳しくは、かかるステップ(S101)では、上部回旋体IMUが装着された上部回旋体11のみを回転方向に動作させ、他の可動部であるブーム12、アーム13およびバケット14については静止状態のままとする。そして、そのときの上部回旋体IMUの角度センサ21から、当該角度センサ21の検出結果として、当該角度センサ21における三次元の検出座標空間における各軸の回転角θx,θy,θzを取得する。回転角θx,θy,θzは、上部回旋体IMUから得た角速度を積算して回転角としてもよいし、または、単位時間の回転角としての各速度をそのまま使ってもよい。
【0038】
図4は、角度センサの較正処理において、当該角度センサにより得られる各軸の回転角θx,θy,θzの概念を示す説明図である。図例は、角度センサ21の検出結果として、回転角θx,θy,θzが得られた場合のイメージを示している。
【0039】
このような回転角θx,θy,θzを得る際には、上部回旋体11のみを回転方向に動作させている。そのため、上部回旋体11は、仮想的な対象回転面(図中における可動部回転面)に沿って回転するとともに、その対象回転面に垂直な回転軸nを中心にして当該回転軸nまわりに回転することになる。つまり、角度センサ21から回転角θx,θy,θzを得た際の回転は、回転軸n(図1中における回転軸n1)まわりの回転に相当する。
【0040】
その一方で、三次元座標空間において、回転軸n(nx,ny,nz)のまわりに角度θだけ回転させたときの、その回転を表現するものとして、クォータニオン(四元数)による表現を用いることが知られている。したがって、角度センサ21で得られた回転角θx,θy,θzの回転は、回転軸nまわりの回転として、クォータニオン表現によって表すことが可能である。
【0041】
各軸の回転角θx,θy,θzが与えられたときの回転軸nまわりの回転のクォータニオン表現は、以下の(1)式によって与えられる。なお、Tは、行列、ベクトル等の転置を表す。
【0042】
【数1】
【0043】
ここで、上記(1)式における角度θは、以下の(2)式によって与えられる。
【0044】
【数2】
【0045】
また、上記(1)式における係数nx,ny,nzは、以下の(3)式によって与えられる。
【0046】
【数3】
【0047】
つまり、較正処理部32bは、角度センサ21の検出結果として回転角θx,θy,θzが与えられると、上記の(1)~(3)式を用いて、クォータニオン表現により回転軸nまわりの回転として表す。そして、そのクォータニオン表現を、上部回旋体11に装着された角度センサ21についての較正情報(すなわち、較正値に相当する情報または較正値を含む情報)として特定する。
【0048】
このように、較正処理部32bは、角度センサ21の回転軸設定を行うステップ(S101)において、上部回旋体11を動作させて得られる角度センサ21の検出結果から、上部回旋体11が回転する際の回転平面に垂直な回転軸nを基準とし、その回転軸nまわりの回転角とで表されるクォータニオン表現を求め、そのクォータニオン表現を角度センサ21についての較正情報として特定するのである。この較正情報は、計測処理部32aがアクセス可能なPC32内のメモリ領域に保存しておく。なお、PC32が外部ネットワークと接続している場合であれば、計測処理部32aがアクセス可能なネットワーク上のメモリ領域に保存するようにしてもよい。
【0049】
角度センサ21についての較正情報を特定した後は、次いで、図3に示すように、複数の可動部のうち、バケット14のみを回転方向に動作させて、バケット14に装着されたIMU(以下「バケットIMU」ともいう。)の角度センサ24による検出結果から、角度センサ24の回転軸の設定を行う(S102)。
【0050】
さらに詳しくは、かかるステップ(S102)においても、上述したステップ(S101)の場合と同様の手法により、バケット14を動作させて得られる角度センサ24の検出結果から、バケット14が回転する際の回転平面に垂直な回転軸n(図1中における回転軸n4)を基準とし、その回転軸nまわりの回転角とで表されるクォータニオン表現を求め、そのクォータニオン表現を角度センサ24についての較正情報として特定する。この較正情報は、計測処理部32aがアクセス可能なPC32内のメモリ領域またはPC32と接続するネットワーク上のメモリ領域に保存しておく。
【0051】
角度センサ24についての較正情報を特定した後は、次いで、複数の可動部のうち、アーム13のみを回転方向に動作させて、アーム13に装着されたIMU(以下「アームIMU」ともいう。)の角度センサ23による検出結果から、角度センサ23の回転軸の設定を行う(S103)。
【0052】
さらに詳しくは、かかるステップ(S103)においても、上述した各ステップ(S101,S102)の場合と同様の手法により、アーム13を動作させて得られる角度センサ23の検出結果から、アーム13が回転する際の回転平面に垂直な回転軸n(図1中における回転軸n3)を基準とし、その回転軸nまわりの回転角とで表されるクォータニオン表現を求め、そのクォータニオン表現を角度センサ23についての較正情報として特定する。この較正情報は、計測処理部32aがアクセス可能なPC32内のメモリ領域またはPC32と接続するネットワーク上のメモリ領域に保存しておく。
【0053】
角度センサ23についての較正情報を特定した後は、次いで、複数の可動部のうち、ブーム12のみを回転方向に動作させて、ブーム12に装着されたIMU(以下「ブームIMU」ともいう。)の角度センサ22による検出結果から、角度センサ22の回転軸の設定を行う(S104)。
【0054】
さらに詳しくは、かかるステップ(S104)においても、上述した各ステップ(S101~S103)の場合と同様の手法により、ブーム12を動作させて得られる角度センサ22の検出結果から、ブーム12が回転する際の回転平面に垂直な回転軸n(図1中における回転軸n2)を基準とし、その回転軸nまわりの回転角とで表されるクォータニオン表現を求め、そのクォータニオン表現を角度センサ22についての較正情報として特定する。この較正情報は、計測処理部32aがアクセス可能なPC32内のメモリ領域またはPC32と接続するネットワーク上のメモリ領域に保存しておく。
【0055】
以上のように、較正処理部32bは、バックホー1に複数の角度センサ21,22,23,24が装着される場合において、各角度センサ21,22,23,24が装着された上部回旋体11、ブーム12、アーム13およびバケット14をそれぞれ個別に動作させる。そして、各角度センサ21,22,23,24のそれぞれについて個別に較正情報を特定することで、各角度センサ21,22,23,24についての較正処理を行うのである。
【0056】
つまり、本実施形態においては、バックホー1が有する複数の可動部(すなわち、上部回旋体11、ブーム12、アーム13およびバケット14)のそれぞれに角度センサ21,22,23,24が装着される場合において、一つの可動部のみを動作させたときの当該可動部に装着された角度センサ21,22,23,24の検出結果から、当該可動部が回転する際の回転平面に垂直な回転軸nを基準とするクォータニオンに関する情報を特定して、当該角度センサ21,22,23,24についての較正情報とする。そして、その較正情報の特定を、複数の可動部のそれぞれに装着される各角度センサ21,22,23,24について個別に行う。
【0057】
したがって、本実施形態によれば、各角度センサ21,22,23,24について、トータルステーション等の測量装置との組み合わせを要することなく、各角度センサ21,22,23,24の検出結果を利用して(すなわち、各角度センサ21,22,23,24が単体の状態で)、その較正処理を行うことが可能となる。これにより、各角度センサ21,22,23,24を必要な場合にのみバックホー1に装着して利用可能にする場合や、故障や仕様変更等の理由により角度センサ21,22,23,24の交換が必要な場合等であっても、角度センサ21,22,23,24の較正処理を簡便に行うことができ、その結果として建設施工現場での作業効率低下を抑制することが可能となる。
【0058】
(較正情報を利用した計測処理)
次に、上述した構成の制御システムにおいて、角度センサ21,22,23,24についての較正情報を利用しつつ、PC32における計測処理部32aが可動部動作状態の認識を行う場合の手順、すなわち本実施形態に係る建設機械制御方法の手順について説明する。
図5は、較正情報を利用した計測処理において、角度センサにより得られる各軸の回転角θ´x,θ´y,θ´zの概念を示す説明図である。
【0059】
上述した角度センサ21,22,23,24の較正処理を完了した後、バックホー1は、稼動可能な状態になる。つまり、バックホー1を用いて、建設施工現場の地表面に対して掘削等の施工を行うことが可能になる。
【0060】
バックホー1の稼動時には、各角度センサ21,22,23,24が実際に回転する際の回転軸が、それぞれの対象回転面(可動部回転面)に垂直なものとはならない。複数の可動部の動作成分が混在したものとなるからである。例えば、上部回旋体11が回転しながら、アーム13が回転されるとき、それらが合成された回転となる。
【0061】
このような場合において、各角度センサ21,22,23,24の実際の回転は、それぞれが、上述した較正処理の場合と同様に、クォータニオン表現により回転軸n´まわりの回転として表すことが可能である。以下、回転軸n´まわりのクォータニオン表現のことを「クォータニオンn´」ともいう。また、較正情報として特定される回転軸nまわりのクォータニオン表現のことを「クォータニオンn」ともいう。
【0062】
ここで、較正情報として特定されるクォータニオンnと、実際の回転として得られるクォータニオンn´とは、以下の(4)式によって与えられる関係となる。
【0063】
【数4】
【0064】
したがって、実際の回転での回転角がθ´であった場合に、クォータニオンの定義式から、対象回転面における回転角θについては、以下の(5)式によって求めることが可能となる。
【0065】
【数5】
【0066】
つまり、各角度センサ21,22,23,24のそれぞれについて較正情報としてのクォータニオンnを予め用意しておくことによって、バックホー1の稼動時に得られる各角度センサ21,22,23,24の検出結果である回転角θ´を、基準となる回転軸nまわりの回転角θに換算することが可能になる。
【0067】
このように、バックホー1の稼動時にPC32の計測処理部32aが行う計測処理においては、バックホー1の稼動時に得られる角度センサ21,22,23,24の検出結果を較正情報によって回転軸nまわりの回転角θに換算する。そして、その回転角θを基に、バックホー1の稼動時における可動部(すなわち、上部回旋体11、ブーム12、アーム13およびバケット14のそれぞれ)の動作状態を認識するのである。
【0068】
したがって、本実施形態においては、バックホー1の稼動時であっても、上部回旋体11、ブーム12、アーム13およびバケット14のそれぞれの動作状態を精度良く認識することができ、その結果として稼働中のバックホー1に対する制御を適切に行うことが可能となる。
【0069】
なお、上述した較正処理または計測処理において、本実施形態で説明しなかった事項については、公知技術を適宜利用して行えばよい。例えば、回転角の積算にあたっては、積算を開始する基準値が必要であるが、例えば、バックホー1の場合であれば、ブーム12、アーム13、バケット14を所定の位置に設定し、そこに設定された設定値から積算を開始するようにすればよい。
【0070】
(作用効果)
以上に説明した第一実施形態によれば、可動部を動作させて得られる各角度センサ21,22,23,24の検出結果から、当該可動部が回転する際の回転平面に垂直な回転軸nを基準とする各角度センサ21,22,23,24の較正情報を特定する。つまり、角度センサ21,22,23,24の較正処理にあたり、トータルステーション等の測量装置を要することなく、可動部を動作させつつその結果得られるセンサ検出結果を処理(演算処理)するだけで、その較正処理を行うことができる。したがって、角度センサ21,22,23,24の較正処理が必要な場合に、その較正処理を簡便に行うことができ、これにより建設施工現場での作業効率の低下を抑制することができる。
【0071】
また、第一実施形態によれば、角度センサ21,22,23,24の較正処理を簡便に行えるので、当該角度センサ21,22,23,24の装着や交換等にも容易に対応し得るようになる。つまり、バックホー1の可動部に角度センサ21,22,23,24を装着したままにしておくのではなく、必要な場合にのみ可動部に装着して利用可能にする、といったことに容易に対応し得るようになる。また、故障や仕様変更等の理由により角度センサ21,22,23,24の交換(別の新たな角度センサの装着)が必要になった場合に、その交換にも容易に対応し得るようになる。したがって、例えば測位(マシンガイダンス)を行うときのみに角度センサ21,22,23,24を設置するといったことが可能となり、制御システムの柔軟な運用や効率的な使用等を実現することができる。
【0072】
また、第一実施形態によれば、角度センサ21,22,23,24の較正処理にあたり、一つの可動部のみを動作させたときの当該可動部に装着された角度センサの検出結果から、当該角度センサについての較正情報を特定し、これを複数の可動部のそれぞれに装着される各角度センサ21,22,23,24について個別に行う。したがって、バックホー1に複数の角度センサ21,22,23,24が装着される場合であっても、各角度センサ21,22,23,24のそれぞれについて適切に較正情報を特定することができる。そして、各角度センサ21,22,23,24の較正情報を適切に特定することで、バックホー1の稼動時(すなわち、複数の可動部の動作成分が混在したものを各角度センサ21,22,23,24が検出する場合)であっても、上部回旋体11、ブーム12、アーム13およびバケット14のそれぞれの動作状態を精度良く認識することができ、その結果として稼働中のバックホー1に対する制御を適切に行うことが可能となる。
【0073】
<第二実施形態>
次に、本発明の第二実施形態について説明する。ここでは、主として、上述した第一実施形態の場合との相違点について説明する。
【0074】
図6は、本実施形態に係る建設機械の制御システムの要部を示す説明図である。
【0075】
本実施形態においては、図6(a)に示すように、角度センサ21,22,23,24を装着するための台座部25が、当該角度センサ21,22,23,24とバックホー1の可動部との間に介在している。台座部25としては、例えば、金属材料によって形成されたものを用いることが考えられるが、これに限定されることはなく、樹脂材料等によって形成されたものであってもよい。また、台座部25の可動部への装着は、例えば、取り付けネジ等の締結具を利用して行うことが考えられるが、これに限定されることはなく、溶接等の他の手法によるものであってもよい。
【0076】
台座部25には、案内ガイド部26が設けられており、その案内ガイド部26を利用して当該台座部25に角度センサ21,22,23,24が取り付けられるようになっている。案内ガイド部26は、例えば、角度センサ21,22,23,24の構成片が当接する二つのガイド面によって構成されている。このような構成の案内ガイド部26であれば、二つのガイド面によって規制される方向に寄せて角度センサ21,22,23,24を設置することで、その角度センサ21,22,23,24の取り付けを、再現性を有しつつ所定の精度で行うことができる。ただし、案内ガイド部26は、角度センサ21,22,23,24の再現性を有した位置決めが可能であれば、二つのガイド面によるものに限定されることはなく、例えば位置決めピンのような他の構成によるものであってもよい。
【0077】
また、台座部25には、図6(b)に示すように、較正情報に関する識別情報27が付されている。識別情報27は、台座部25に装着される角度センサ21,22,23,24の較正情報を特定するためのもので、例えば二次元コードによって表されたものである。ただし、識別情報27が二次元コードに限定されることはなく、較正情報の特定が可能であれば、他の態様によって表されたものであってもよい。
【0078】
識別情報27は、その識別情報27が付される台座部25に固有のものであるが、以下のような手順で特定されるものとする。すなわち、識別情報27の特定に際しては、まず、基準となる角度センサ(以下「参照用角度センサ」という。)を、台座部25を介して、バックホー1の可動部に装着する。そして、第一実施形態で説明したように、その可動部のみを動作させて、参照用角度センサの較正処理を行い、その参照用角度センサについての較正情報(例えば、図6(a)中に示すクォータニオンP)を特定する。このようにして特定された較正情報は、計測処理部32aがアクセス可能なPC32内のメモリ領域またはPC32と接続するネットワーク上のメモリ領域に保存される。そこで、本実施形態においては、その較正情報の保存先を特定する情報を、参照用角度センサを用いた場合における台座部25に固有の較正情報に関する識別情報27として、当該台座部25に付しておくのである。
【0079】
つまり、本実施形態においては、角度センサについての較正情報を、台座部25に固有のものとして当該台座部25と対応付けて管理するようになっており、その管理のために台座部25に付された識別情報27を利用するようになっている。
【0080】
このように、識別情報27を台座部25に付し、これにより台座部25に固有の較正情報を当該台座部25と対応付けて管理すれば、その台座部25に角度センサを再装着する場合の較正処理が不要となる。つまり、何らかの理由により台座部25に新たな角度センサを装着する場合において、その台座部25に付された識別情報27を利用することで、その台座部25に角度センサを装着した場合の当該角度センサについての較正情報の特定(具体的には、保存先のメモリ領域からの読み出し)が可能となるので、角度センサを再装着する場合の較正処理が不要となる。したがって、角度センサを再装着する場合の処理が非常に簡便化する。しかも、識別情報27を各台座部25に固有のものとして管理することで、各台座部25毎に個別に角度センサの較正処理を行ったのと同じことになり、バックホー1が複数の可動部を有する場合であっても、各可動部についての動作状態の検出精度を担保し得るようになる。
【0081】
また、台座部25に案内ガイド部26が設けられていれば、その案内ガイド部26によって台座部25への角度センサの取り付け精度が保証されるようになる。そのため、台座部25と対応付けて較正情報を管理することで、角度センサを再装着する場合の処理を簡便化させる上で非常に好ましいものとなる。
【0082】
なお、上述の説明では、参照用角度センサについての較正情報を用いているため、それとは別の個体である角度センサを再装着して使用する場合に、当該角度センサの仕様等によっては、参照用角度センサの(IMU内)座標軸と別の固体の角度センサの(IMU内)座標軸との差が誤差となる可能性がある。その誤差は、現実には0.1°未満程度なので実用上は問題ないが、以下のような処理を経ることで、縮小化が可能である。
【0083】
図7は、センサ誤差縮小処理の概念を示す説明図である。
具体的には、参照用角度センサと、台座部25に装着されることになる角度センサ(以下「較正対象角度センサ」という。)とについて、これらのそれぞれを同一条件で回転させて、第一実施形態で説明した手法で回転軸を表すクォータニオンを求める。そして、参照用角度センサと較正対象角度センサとの回転差を表すクォータニオンrを求め、そのクォータニオンrを較正対象角度センサの座標軸回転較正値とする。
【0084】
台座部25に較正対象角度センサが装着された場合には、参照用角度センサによって特定された較正情報(例えば、図6(a)中に示すクォータニオンP)に対して、較正対象角度センサの座標軸回転較正値(例えば、図7中に示すクォータニオンr)の分だけ補正し、その補正後の較正情報を較正対象角度センサについての較正情報Rとする。この場合の較正情報Rは、以下の(6)式で与えられる。なお、rは、rの共役クォータニオンで、rの第2~第4項の符号を反転させたものである。
【0085】
【数6】
【0086】
このように、予め較正情報が特定されている参照用角度センサと装着対象となる較正対象角度センサとの回転角差に関する情報を計測して、それぞれの座標軸の相対関係を求めておき、台座部25に較正対象角度センサが装着された場合に、参照用角度センサの較正情報を較正対象角度センサの回転角差に関する情報に基づいて補正することで、それぞれの間の誤差の縮小化が実現可能となる。したがって、より精度の高い回転角測定を実現して、各可動部についての動作状態の検出精度を担保し得るようになる。
【0087】
<第三実施形態>
次に、本発明の第三実施形態について説明する。ここでも、主として、上述した第一実施形態および第二実施形態の場合との相違点について説明する。
【0088】
図8は、本実施形態に係る建設機械の制御システムの要部を示す説明図である。
【0089】
例えば、バックホー1は、建設施工現場において、可動作業具であるバケット14を作業用途に応じて適宜交換することがあり得る。バケット14の交換は、通常、バケットピン14aおよびバケットリンクピン14bのところから剣先側を取り替えることによって行われる。ただし、アイドラアーム14cは、バケット14と連係して動作するが、プッシュリンク14d、アイドラアーム14c等の長さの影響で、その回転動作がバケット14の回転動作と必ずしも同じになるとは限らない。このため、バケット14の回転動作をアイドラアーム14cの回転動作から直接求めるためには、バケット14の交換時において、トータルステーション等の測量装置によって予めプッシュリンク14d、アイドラアーム14c等の長さを計測する必要が生じてしまうおそれがある。
【0090】
そこで、本実施形態においては、バケット14の交換が想定される場合に、測量装置による計測等を不要にすべく、アイドラアーム14cに装着される角度センサ24bについて、その利用に先立ち、以下のような処理を行うことが考えられる。
【0091】
具体的には、アイドラアーム14cには恒久的な角度センサ24bを装着しておく一方で、その角度センサ24bについての較正情報と、バケット14の剣先近傍に角度センサ24aを装着した場合の当該角度センサ24aについての較正情報との相関関係を、予めに認識しておく。さらに詳しくは、角度センサ24a,24bについて、それぞれの回転軸の周りの回転角の相関関係を認識しておく。そして、認識した相関関係に基づいて、角度センサ24bで検出されるアイドラアーム14cの回転角から、角度センサ24aが装着されていれば検出されるであろうバケット14の回転角を導き出せるようにする。
【0092】
相関関係の認識は、例えば、以下のような手順で行う。
図9は、本実施形態に係る較正方法の手順の一例を示すフロー図である。
まず、アイドラアーム14cに恒久的な角度センサ24bとしてのIMU(以下「アイドラアームIMU」ともいう。)を装着するとともに、バケット14の剣先近傍にも角度センサ24aとしてのIMU(以下「バケットIMU」ともいう。)を装着する。バケットIMUは、較正用に用いるものなので、磁石やクリップ等を利用した暫定的な装着で構わない。そして、これらのIMUを装着した状態で、第一実施形態で説明した手法により、バケット14のみを動作させて、角度センサ24aの検出結果からバケットIMUの回転軸を設定する(S201)。
【0093】
また、これと同様に、角度センサ24bの検出結果からアイドラアームIMUの回転軸を設定する。そして、それぞれの回転軸の周りの回転角を認識し、それぞれの観測角度として記録する(S202)。
【0094】
その後、それぞれの観測角度の列から、例えば最小二乗法により、アイドラアームIMUとバケットIMUとの各回転の変換式である多項式近似式を求める(S203)。この多項式近似式を用いることで、実際の計測時に、アイドラアーム14cの回転角からバケット14の回転角を導き出せるようになる。
【0095】
したがって、このような多項式近似式を相関関係として認識しておくことで、実際の計測時には、バケット14の剣先近傍に角度センサ24aを装着せずに、アイドラアーム14cに角度センサ24bを装着した状態であっても、その角度センサ24bの検出結果からバケット14の剣先位置をモニタリングすることができる。つまり、バケット14が交換され得る場合であっても、一旦相関関係を認識した後はバケット14の側へのセンサ装着が不要であり、その交換に容易かつ適切に対応し得るようになる。
【0096】
また、これと併せて、バケットIMUにおける角度センサ24aによる回転接線方向の加速度を積算してバケット14の回転時の速度を求め、さらにその速度を積算してバケット14の剣先の接線方向の移動距離を求めるようにしてもよい。このようにすれば、その移動距離から、その半径であるバケット長を導き出すことが可能となる。つまり、角度センサ24aの検出結果であるバケットIMUの加速度と回転角から、バケット14の回転支点から剣先までの回転半径をバケット長として求めることができる(S204)。
【0097】
このようにして求めたバケット長は、バケット14の剣先位置をモニタリングする際に必要となるサイズデータとして用いられる。したがって、交換後のバケット14のバケット長が不明であっても、実際の角度センサ24aによる検出結果からバケット長として求めることができるので、バケット14の交換に容易かつ適切に対応し得るようになり、バケット14の剣先位置をモニタリングを効率的に行う上で好ましいものとなる。なお、バケット14のバケット長は、測定誤差が他に波及しないので、人手で測った実測データを用いるようにしてもよい。
【0098】
以上のように、本実施形態においては、可動作業具であるバケット14が交換され得る場合であっても、特段の測量装置を使うことなく、バケット14の回転角を測定するための較正処理を実現することが可能である。つまり、バケット14が交換され得る場合であっても、その交換に容易かつ適切に対応することができる。
【0099】
<他の実施形態>
以上に、本発明の第一実施形態~第三実施形態を具体的に説明したが、本発明の技術的範囲は上述の各実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0100】
例えば、上述の各実施形態では、建設機械がバックホー1である場合を例に挙げて説明したが、本発明がこれに限定されることはなく、ブルドーザ等の他の土木用途の建設機械にも全く同様に適用することが可能である。さらには、土木用途の建設機械に限定されることはなく、運搬機械、荷役機械、基礎工事用機械、せん孔機械、トンネル工事用機械、圧砕機等のコンクリート機械、舗装機械、道路維持用機械等といった他の種類のものに対しても、全く同様に適用することが可能である。
【0101】
また、例えば、上述の各実施形態では、較正情報をクォータニオン表現によって表す場合を例に挙げて説明したが、本発明がこれに限定されることはなく、回転平面に垂直な回転軸とその回転軸まわりの回転角を特定可能であれば、他の態様で較正情報が表現されていてもよい。
【符号の説明】
【0102】
1…バックホー(建設機械)、11…上部回旋体(可動部)、12…ブーム(可動部)、13…アーム(可動部)、14…バケット(可動部、可動作業具)、14a…バケットピン、14b…バケットリンクピン、14c…アイドラアーム、14d…プッシュリンク、15…下部移動体、16…GNSS受信機、21,22,23,24,24a,24b…角度センサ、25…台座部、26…案内ガイド部、27…識別情報、31…CAN IF、32…PC、32a…計測処理部、32b…較正処理部、33…モニタ
【要約】
【課題】建設機械の可動部に装着される角度センサの較正処理が必要な場合に、その較正処理を簡便に行うことを可能にする。
【解決手段】建設機械1の可動部11,12,13,14に装着されて用いられる角度センサ21,22,23,24の較正方法であって、前記可動部11,12,13,14を動作させて得られる前記角度センサ21,22,23,24の検出結果から前記可動部11,12,13,14が回転する際の回転平面に垂直な回転軸を基準とする較正情報を特定し、前記較正情報を特定しておくことによって前記建設機械1の稼動時に得られる前記角度センサ21,22,23,24の検出結果を前記回転軸まわりの回転角に換算可能にする。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9