(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-19
(45)【発行日】2022-10-27
(54)【発明の名称】蒸着装置
(51)【国際特許分類】
C23C 14/30 20060101AFI20221020BHJP
【FI】
C23C14/30
(21)【出願番号】P 2022508695
(86)(22)【出願日】2020-03-18
(86)【国際出願番号】 JP2020011904
(87)【国際公開番号】W WO2021186604
(87)【国際公開日】2021-09-23
【審査請求日】2022-08-10
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】321005928
【氏名又は名称】株式会社Thermalytica
(74)【代理人】
【識別番号】100169591
【氏名又は名称】小島 浩嗣
(72)【発明者】
【氏名】松本 一秀
(72)【発明者】
【氏名】王 興財
【審査官】今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-331447(JP,A)
【文献】特開2015-063723(JP,A)
【文献】特開2010-095745(JP,A)
【文献】特開2008-240105(JP,A)
【文献】特開2005-187114(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C14/30
H01L21/67
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材にセラミック被膜を形成するための蒸着装置であって、蒸着室と準備室と基材支持機構と水平移動機構と反転機構とを有し、
前記蒸着室と前記準備室は、それぞれが真空排気装置に接続されるとともに、開口部で左右方向に相互に接続され、
前記蒸着室内に、セラミック原料を支持する原料保持部と、前記セラミック原料に電子線を照射する電子銃とを備え、
前記基材支持機構は、左面隔壁と右面隔壁とを有し、前記左面隔壁の左側に複数の基材を取り付け可能な左面基材支持盤と、前記右面隔壁の右側に複数の基材を取り付け可能な右面基材支持盤とをさらに有し、前記左面基材支持盤を前記左面隔壁に平行な面内で回転させ取り付けた複数の基材を取り付け部を中心に回転させ、前記右面基材支持盤を前記右面隔壁に平行な面内で回転させることができ、
前記水平移動機構は、前記基材支持機構を、前記左面または右面の一方の隔壁を
前記準備室内に残し他方の隔壁を当該準備室側から前記開口部の周囲の壁面に密着させる蒸着位置と、
当該準備室内の反転位置との間で前記左右方向に水平移動させることができ、
前記反転機構は、前記反転位置において前記基材支持機構の左右を反転させることができる、
蒸着装置。
【請求項2】
請求項1において、前記準備室はさらに、スパッタ源、クリーニング装置、酸化装置のうちの少なくとも1つを備える、
蒸着装置。
【請求項3】
請求項1において、前記蒸着室はさらに、酸素プラズマ発生装置を備える、
蒸着装置。
【請求項4】
請求項1において、前記蒸着室はさらに、前記原料保持部に保持される前記セラミック原料に前記電子線が照射される位置を走査する走査機構を備える、
蒸着装置。
【請求項5】
請求項1において、前記基材支持機構は、前記左面及び右面基材支持盤の回転速度と、前記複数の基材の回転速度との比を規定する歯車を有する、
蒸着装置。
【請求項6】
請求項1において、前記原料保持部は、複数のセラミックインゴットを保持可能であり、前記複数のセラミックインゴットを順次前記電子線が照射される位置に移動させる機構を備える、
蒸着装置。
【請求項7】
請求項1において、前記蒸着室を中心とする対称な位置に、前記準備室と前記基材支持機構と前記水平移動機構と前記反転機構とを、複数組備える、
蒸着装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸着装置に関し、特に金属基材の表面にセラミックを蒸着するために好適に利用できるものである。
【背景技術】
【0002】
ガスタービンの動翼・静翼、燃焼器やジェットエンジンのブレードなど、運転時に高温になる金属基材には、セラミックによる遮熱被膜を施す必要がある。このとき、基材に加わる温度サイクルに伴い、基材の金属と被覆したセラミックの熱膨張率の違いによって、被覆のヒビ割れや剥離が発生し、耐久性を低下させる恐れがある。このような耐久性の低下を抑えるために、種々の技術が提案されている。
【0003】
特許文献1には、金属基材上にボンド層と遮熱用セラミック被膜を積層する技術が開示されている。ボンド層は金属基材に耐食性と耐酸化性を与え、金属基材とセラミック被膜の接着性を向上し、さらに金属基材とセラミック被膜の熱膨張の差を吸収して熱応力を緩和するとされる。また、同文献には、金属基材を回転自在に保持する機材駆動装置を備えた電子線蒸着装置が開示されている。電子線蒸着によれば、特に強固な柱状晶結晶が緻密に形成されるとされる(同文献第0038段落)。ここで電子線蒸着とは、坩堝の中に配置したセラミック原料を、電子線を照射することによって加熱,溶融して蒸発させ、その蒸気を金属基材に堆積させる、物理蒸着の一種である。
【0004】
特許文献2には、熱処理と蒸着を同一チャンバー内で連続的に行うことができる熱処理・蒸着複合装置が開示されている。基材を自転と公転の2軸で回転させることができる回転治具を備え、回転治具の軸を中空として熱電対を挿入することができる構成とすることにより、基材の温度を精密に制御することができる。
【0005】
特許文献3には、一度に多数のワークに蒸着を行うことができる蒸着装置用ワーク移動機構が開示されている。ターゲットからの蒸着位置を含む一定の公転経路に沿って、複数のワークを自転させながら移動させる。なお、蒸着の対象物を、ワークまたはワークピースと呼ぶ場合があるが、本明細書で「基材」という語を用いることとする。意味するところは同義である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2003-313652号公報
【文献】特開2006-299378号公報
【文献】特開2012-224878号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者は、特許文献1及び2に開示されるような、セラミックの金属基材への遮熱コーティングにおいて、量産性を高める蒸着装置の研究開発に取り組んだ。量産性を高めるには、複数の基材を対象として一度に多数の基材に対する蒸着を可能とすることにより達成される。このとき特許文献3に開示される技術を組み合わせることができればよい。
【0008】
しかしながら本発明者は、特許文献3に開示される技術は、セラミックの金属基材への遮熱コーティングには適用することができないことに気付いた。同文献に示されるワーク移動機構は、左右に立てられた2つの長方形のターゲットの間に配置され、各ターゲットには励起用の電源が接続されている(同文献第0014段落及び
図1,
図2参照)。一方、セラミックの金属基材への遮熱コーティングにおいては、遮熱用のセラミック被膜を強固で緻密な柱状晶結晶とするために電子線蒸着が好適であるため、ワークである金属基材は、電子線で加熱溶融されるセラミック原料が入った坩堝の上方に配置される必要がある。特許文献3に開示される蒸着装置において、ターゲットに代えて電子ビームが照射される坩堝を配置した場合には、坩堝に近い部分と遠い部分でワークに形成される被膜の膜厚が大幅に異なることとなり、実用上採用することができない。
【0009】
本発明の目的は、電子線蒸着においても、複数の基材に対して膜厚ばらつきを抑えることができ、量産性の高い蒸着装置を提供することである。
【0010】
このような課題を解決するための手段を以下に説明するが、その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述及び添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一実施の形態によれば、下記の通りである。
すなわち、基材にセラミック被膜を形成する蒸着装置であって、蒸着室と準備室と基材支持機構と水平移動機構と反転機構とを有し、以下のように構成される。
【0012】
蒸着室と準備室は、それぞれが真空排気装置に接続されるとともに開口部で相互に接続され、蒸着室内には、保持されるセラミック原料に電子線を照射する電子銃が備えられている。基材支持機構は、左右に隔壁を有し、左の隔壁の左側と右の隔壁の右側のそれぞれに、基材を取り付けるための複数の基材取り付け部を有する左と右の基材支持盤をさらに備える。左と右の基材支持盤は左右それぞれの隔壁に平行な面内で公転し、複数の基材取り付け部はそれぞれ自転することができるように構成される。水平移動機構は、基材支持機構を、一方の隔壁を開口部周囲の壁面に密着させる蒸着位置と、基材支持機構の左右を反転させる反転位置との間で、左右方向に水平移動させることができる。
【発明の効果】
【0013】
前記一実施の形態によって得られる効果を簡単に説明すれば下記のとおりである。
すなわち、複数の基材に対するセラミックの電子線蒸着においても、複数の基材に対して膜厚ばらつきを抑えることができ、量産性の高い蒸着装置を提供することができる。上述の形態によればセラミックの蒸発源の上方に基材を配置した状態で蒸着を行うことができるので、電子線蒸着を採用することができる。また、複数の基材は左右の基材支持盤に保持されて自公転するので、膜厚を均一に制御することが容易で、さらに準備室で左右を反転することができるため、真空を破ることなく蒸着対象の基材を交代させることができ、量産性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る蒸着装置の構成例を示す平面図である。
【
図2】
図2は、蒸発源の構成例を示す説明図である。
【
図3】
図3は、基材支持機構の構成例を示す模式図である。
【
図4】
図4は、基材水平移動機構の構成例を示す模式図である。
【
図5】
図5は、基材支持機構を反転位置まで移動させたときの装置の正面図である。
【
図6】
図6は、反転位置における装置の上面図である。
【
図7】
図7は、蒸着室の一構成例を示す側面図である。
【
図8】
図8は、基材取り付け部15に熱電対8を取り付けた基材支持機構10の断面図である。
【
図9】
図9は、基材支持盤14に1個の基材4を取り付けた例を模式的に示す斜視図である。
【
図10】
図10は、基材支持盤14に3個の基材4を取り付けた例を模式的に示す斜視図である。
【
図12】
図12は、準備室の前処理と蒸着室の蒸着処理を連続して行う場合のタイムチャートである。
【
図13】
図13は、セラミック原料であるインゴットの連続供給機構の構成例を示す斜視図である。
【
図14】
図14は、
図13の連続供給機構において、使用済みのインゴットを電子線照射点から移動させる様子を描いた説明図である。
【
図15】
図15は、
図13の連続供給機構において、未使用インゴットを電子線照射点へ移動させる様子を描いた説明図である。
【
図16】
図16は、インゴット再利用機構の構成例を示す模式的な斜視図(使用済みインゴット待避)である。
【
図17】
図17は、インゴット再利用機構の構成例を示す模式的な斜視図(未使用インゴット供給)である。
【
図18】
図18は、インゴット再利用機構の構成例を示す模式的な斜視図(未使用インゴット待避)である。
【
図19】
図19は、インゴット再利用機構の構成例を示す模式的な斜視図(使用済みインゴット載置)である。
【
図20】
図20は、準備室の数を1個とした蒸着装置の構成例である。
【
図21】
図21は、準備室の数を4個とした蒸着装置の構成例である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
1.実施の形態の概要
先ず、本願において開示される代表的な実施の形態について概要を説明する。代表的な実施の形態についての概要説明で括弧を付して参照する図面中の参照符号はそれが付された構成要素の概念に含まれるものを例示するに過ぎない。なお、参照符号の枝番(例えばハイフン付きの番号や「L」「R」)は、同じ構造物が複数あって、区別するために付与されている。区別する必要がない場合は、枝番なしの参照符号が総称として用いられる。
【0016】
〔1〕<複数の基材を自公転可能に支持する支持盤を2組備えて反転可能とした基材支持機構を有するセラミック被膜蒸着装置>
本発明の代表的な実施の形態は、基材(4)にセラミック被膜を形成するための蒸着装置であって、蒸着室(100)と準備室(110-1,110-2)と基材支持機構(10)と水平移動機構(20)と反転機構(22)とを有し、以下のように構成される(
図1)。
【0017】
前記蒸着室と前記準備室は、それぞれが真空排気装置に接続されるとともに、開口部で左右方向に相互に接続される。
【0018】
前記蒸着室内に、セラミック原料(3)を支持する原料保持部と、前記セラミック原料に電子線を照射する電子銃(31)とを備える(
図2,
図1の1-1,1-2)。
【0019】
前記基材支持機構(
図3及び
図1の10-1,10-2参照)は、左面隔壁(13L,
図1の13)と右面隔壁(13R,
図1の13)とを有し、前記左面隔壁の左側に複数の基材(
図1の4)を取り付け可能な左面基材支持盤(14L)と、前記右面隔壁の右側に複数の基材を取り付け可能な右面基材支持盤(14R)とをさらに有する。前記基材支持機構は、前記左面基材支持盤を前記左面隔壁に平行な面内で回転(公転)させ取り付けた複数の基材を取り付け部(15L)を中心に回転(自転)させ、前記右面基材支持盤を前記右面隔壁に平行な面内で回転させることができる。
【0020】
前記水平移動機構(
図4及び
図1の20-1,20-2参照)は、前記基材支持機構を、前記左面または右面の一方の隔壁(13)を前記開口部の周囲の壁面に密着させる蒸着位置(
図1)と、反転位置との間で前記左右方向に水平移動させることができ、前記反転機構は、前記反転位置において前記基材支持機構の左右を反転させることができる(
図5,
図6)。
【0021】
これにより、複数の基材に対するセラミックの電子線蒸着においても、複数の基材に対して膜厚ばらつきを抑えることができ、量産性の高い蒸着装置を提供することができる。上述の形態によればセラミックの蒸発源の上方に基材を配置した状態で蒸着を行うことができるので、電子線蒸着を採用することができる。また、複数の基材は左右の基材支持盤に取り付けられて自公転するので、膜厚を均一に制御することが容易で、さらに準備室で左右を反転することができるため、真空を破ることなく蒸着対象の基材を交代させることができ、量産性が向上する。
【0022】
〔2〕<準備室における前処理>
〔1〕項の蒸着装置において、前記準備室はさらに、スパッタ源(6)、クリーニング装置(7)、酸化装置(不図示)のうちの少なくとも1つを備える(
図11)。
【0023】
これにより、準備室において種々の前処理を行うことができる。例えば、基材表面をクリーニングし、薄く酸化し、または、ボンド層をスパッタによって形成することができる。
【0024】
〔3〕<蒸発源に対する酸素の補償>
〔1〕項の蒸着装置において、前記蒸着室はさらに、酸素プラズマ発生装置(2)を備える(
図1)。
【0025】
これにより、電子銃により発生した蒸気から失われる酸素を補うことができる。セラミック原料は酸化物であるところ、発生した蒸気は高エネルギー熱電子と衝突したときに、その衝撃により一部の酸化物から酸素が分離する現象が発生する。その結果、堆積するセラミック被膜における元素比率が、セラミック本来の組成比から外れる問題が発生する。セラミック蒸発源(1)の近傍で酸素プラズマを発生させることにより、失われた酸素を補い、被膜をセラミック本来の組成比に戻すことができる。
【0026】
〔4〕<電子線走査型電子銃>
〔1〕項の蒸着装置において、前記蒸着室はさらに、前記原料保持部に保持される前記セラミック原料に前記電子線が照射される位置を走査する走査機構(32,35)を備える(
図2)。
【0027】
これにより、電子線が照射される位置が点から面に広がり、セラミック原料(3)消費の面内での偏りを減らすことができる。なお、これに代えて、またはこれと合わせて、セラミック原料であるインゴットを回転させるなどにより、電子線が照射される位置を移動させることにより、セラミック原料(3)消費の面内での均一化に寄与することができる。
【0028】
〔5〕<基材自公転機構>
〔1〕項の蒸着装置において、前記基材支持機構は、前記左面及び右面基材支持盤の回転速度と、前記複数の基材の回転速度との比を規定する歯車(18a、18b)を有する(
図3)。
【0029】
歯車(18a、18b)を交換することにより、自転と公転の回転速度の比を自由に調整することができる。なお、基材自公転機構(12)に、ギア比を変更できるような変速機構を採用することもできる。
【0030】
〔6〕<インゴット供給機構>
〔1〕項の蒸着装置において、前記原料保持部は、複数のセラミックインゴット(3-1~3-4)を保持可能であり、前記複数のセラミックインゴットを順次前記電子線が照射される位置に移動させる機構を備える(
図13,
図14,
図15)。
【0031】
これにより、セラミック原料としてのインゴットの補給/交換のために蒸着を中断することなく連続して行うことができる。また、セラミック原料としてのインゴットの無駄を抑えることができる。
【0032】
〔7〕<複数の基材支持機構と準備室>
〔1〕項の蒸着装置において、前記蒸着室を中心とする対称な位置に、前記準備室と前記基材支持機構と前記水平移動機構と前記反転機構とを、複数組備える(
図1,
図21)。
【0033】
これにより、一度に蒸着することができる基材の数を倍加させることができ、量産性がより高まる。
【0034】
2.実施の形態の詳細
実施の形態について更に詳述する。
【0035】
〔実施形態1〕
図1は、本発明の一実施形態に係る蒸着装置の構成例を示す平面図である。上側が上面図、下側が正面図であり、いずれも装置の内部構造を示すために装置中央部の断面図として描かれているが、発明の理解を助けるために、一部の構造は図示を省略、簡略化、または配置を正確な位置から移動して描かれている。
【0036】
特に限定されるものではないが、基材、セラミック原料、ボンド層について一例を示す。基材は、例えば、Ni基合金、Co基合金、Fe基合金などの耐熱超合金である。セラミック原料、セラミック被膜の材料は、例えば、酸化ジルコニウム(「ジルコニア」;ZrO2)、酸化ハフニウム(「ハフニア」;HfO2)を主成分とし、安定化剤としてY2O3,MgO,CaO,TiO2,ランタノイド酸化物等が添加されても良い。なお、セラミック原料はインゴットの状態で供給されるのが一般的であり、以下単に「インゴット」と記載してあっても、セラミック原料としてのインゴットを意味する。ボンド層は、例えば、白金(Pt)族金属、またはNi基合金、Co基合金、Ni-Co合金のいずれかから構成され、一般式M-Cr-Al-Y(但し、MはNi,CoまたはFe)で表される耐熱合金である。
【0037】
本実施形態1の蒸着装置は、蒸着室100と、左右の準備室110-1,110-2と、複数の基材4が取り付けられる左右の基材支持機構10-1,10-2と、水平移動機構20-1,20-2と、反転機構22-1,22-2とを備える。蒸着室100と左右の準備室110-1,110-2とは、それぞれが真空排気装置に接続されるとともに、開口部で相互に接続されている。真空排気装置は、拡散ポンプ、クライオポンプ、ターボ分子ポンプ、メカニカルポンプ、ロータリーポンプ等を適宜組み合わせて構成される。
【0038】
蒸着室100内には、左右の蒸発源1-1,1-2とヒーター5が配置されている。左右の蒸発源1-1,1-2はそれぞれ、セラミック原料3を支持する原料保持部と、セラミック原料3に電子線を照射する電子銃31とを備える。ヒーター5は、基材4を加熱するヒーターであり、図示が省略されている電源ケーブルによって電力が供給されている。
【0039】
図2は、蒸発源の構成例を示す説明図である。図示が省略された原料保持部に保持されたセラミック原料3としてのインゴットに、電子線を照射することによってセラミック原料3を加熱、溶融して蒸気を発生させ、基材4の表面に堆積させる。電子銃31には、熱電子を発生させる電源33と、発生した熱電子を加速する直流高圧電源34とが接続されている。なお、各電源は図示が省略されているケーブルにより蒸着室100の外部から導入されている。
【0040】
蒸発源1にはさらに、電子線が照射される位置を走査する走査機構を備えるとより好適である。走査機構は、例えば、セラミック原料3の上方に配置された2個の電極とこの2個の電極間の電位差を変化させる交流電源35とを用いて構成することができる。熱電子に与える加速エネルギーは、中心値が電源34の電圧で規定され、交流電源35によって2つの電極間に生じる横方向の電界によって、2個の電極間を走査される。これにより、電子線が照射される位置が点から面に広がり、セラミック原料3が消費される領域の偏りを減らすことができる。また、電子線の走査に代えて、セラミック原料3を移動させることによって、原料が消費される領域の偏りを減らすことができる。例えば、セラミック原料3であるインゴットを回転させる。電子線の走査とインゴットの回転を併用することにより、セラミック原料3の面内での消費をさらに均一にすることができる。なお、電子線の走査にさらに多くの電極と電源を用いて、2次元に走査するように構成することもできる。
【0041】
図1を参照する説明に戻る。蒸着室100はさらに、酸素プラズマ発生装置2を備えるとより好適である。セラミック原料は酸化物であるところ、発生した蒸気は高エネルギー熱電子との衝突したときに、その衝撃により一部の酸化物から酸素が分離する現象が発生する。その結果、堆積するセラミック被膜を組成する元素比率が、セラミック本来の組成比から外れる問題が発生する。例えば、セラミック原料が酸化ジルコニウムZrO2のときその一部から酸素が分離してZrOとなり、堆積されるセラミックではジルコニウムZr=1に対する酸素Oの比率が本来の値である2よりも小さくなる。酸素プラズマ発生装置2を蒸発源1の近傍に備えて酸素プラズマを発生させることにより、失われた酸素を補うことができる。酸素プラズマ発生装置2は、例えば、外部から酸素ガスと高周波電力が供給され、導入された酸素を高周波によって励起することによって酸素プラズマを発生させる。酸素が分離した蒸気にプラズマ中の酸素イオンが結合して元の元素比に戻る。導入する酸素は例えば、バックグラウンドの真空度を10-3Pa(10-5Torr)としたとき1~10Pa(10-2~10-1Torr)が好適である。
【0042】
基材支持機構10について説明する。
図1には、左右に2個の基材支持機構10-1と10-2とを備える構成例が示されている。基材支持機構10は左右両面のそれぞれに、複数の基材4を取り付けることができ、基材4を自転させるとともに複数の基材4をそれぞれの面で公転させることができるように構成されている。自公転のための駆動力は、例えば、基材自公転駆動機構23-1,23-2によって準備室110-1,110-2の外側から供給される。一方の面の基材4が蒸着室100に入ると、他方の面の基材4は準備室110-1,110-2に残る。蒸着が終わると左右の面を入れ替えるために、基材支持機構10を反転させる。基材支持機構10を反転させるために、基材水平移動機構20-1,20-2によって蒸着室100との境界の壁面から距離を離し、基材反転駆動機構22-1,22-2から供給される駆動力によって反転させる。基材水平移動機構20-1,20-2への駆動力は、基材水平移動駆動機構21-1,21-2から供給される。以下、さらに詳しく説明する。
【0043】
図3は、基材支持機構10の構成例を示す模式図である。理解を助けるために、構成物の間隔が左右方向に広げて示されている。基材支持機構10は、中央に基材回転動力伝達機構11を備え、その外側に順次、左右の隔壁13Lと13R、基材自公転機構12Lと12R、基材支持盤14Lと14Rを備え、基材支持盤14Lと14R上に、それぞれ複数の基材取り付け部15Lと15Rが設けられている。
【0044】
基材回転動力伝達機構11は、基材自公転駆動機構23から供給される自公転のための駆動力を、かさ歯車16a,16b,16cによって、基材自公転機構12Lと12Rへ伝達する。基材自公転機構12Lと12Rは、基材支持盤14Lと14Rを回転(公転)させ、歯車18aと18bを使って駆動力を基材取り付け部15Lと15Rへ伝達して自転させる。歯車18bは、複数の基材取り付け部15Lにそれぞれ1個ずつ設けられているが、
図3では1個のみが示され他は図示が省略されている。
【0045】
左右の隔壁13Lと13Rは、蒸着を行うときに蒸着室100との間の壁に密着する。蒸着室100と準備室の間の開口部を真空封止するために接触面にはOリング17Lと17Rが付けられている。基材支持盤14L,14Rと基材自公転機構12L,12Rは開口部よりも小さく、Oリング17L,17Rは開口部よりも大きく蒸着室100との間の壁に密着することができる位置に配置される。
【0046】
図1を参照する説明に戻る。左右の基材支持機構10-1と10-2は、水平移動機構20-1と20-2によって、左右に水平移動することができるように構成されている。蒸着を行うときには、蒸着室100側に移動して、左右の隔壁13を蒸着室100との間の壁に密着させ、開口部を真空封止する。蒸着中は、通常、準備室110-1と110-2も真空排気されているので、蒸着室100との間に圧力差はなく、厳密な真空封止は求められないが、蒸着中にも準備室110-1,110-2を大気に解放できるように構成しておけば、汎用性が高まる。蒸着中は、基材自公転駆動機構23-1と23-2が、基材支持機構10-1と10-2の基材回転動力伝達機構11にそれぞれ結合されて、基材を自公転させるための駆動力を、蒸着室100の外側から供給する。基材自公転駆動機構23-1と基材回転動力伝達機構11との結合は、例えば、一方を2本の円柱(棒)、他方を円柱よりも径の大きい2つの孔として、嵌合できるように構成すれば良い。
【0047】
蒸着の終わった基材を取り出し、準備室110-1,110-2側にあった基材を蒸着室100に入れるには、基材支持機構10-1と10-2を左右反転させる。そのためには、左右の隔壁13を蒸着室100との間の壁から離し、反転させるための空間を確保する必要があるので、基材支持機構10-1と10-2を基材水平移動機構20-1,20-2によって準備室110-1,110-2の中央付近まで移動させる。
【0048】
図4は、基材水平移動機構20の構成例を示す模式図である。基材水平移動機構20は、基材水平移動駆動機構21によって準備室110-1,110-2の外側から供給される駆動力を使って基材支持機構10を水平方向に移動させる機構である。基材水平移動機構20は、例えば、台座40の2辺に沿って固定された6個の固定ブロック44によって支えられた2本のガイドレール42と1本のネジ棒43、それらの中間部分を支え基材支持機構10と接続される3個の移動ブロック45、及び、ネジ棒43と基材水平移動駆動機構21にそれぞれ結合された2個のかさ歯車41a、41bによって構成される。図示は省略されているが、3個の移動ブロック45と基材支持機構10とは、基材支持機構10が左右反転できるような回転可能な状態で接続されている。2本のガイドレール42は、両端で2個の固定ブロック44に固定されており、中間の移動ブロック45は貫通するだけで固定されておらず、スライドすることができる。ネジ棒43は、両端の固定ブロック44には回転可能な状態で支持され、中間の移動ブロック45にはネジ棒43のネジ山と噛み合うネジが形成されており、ネジ棒43の回転に伴って水平方向に移動できるように構成されている。基材水平移動駆動機構21によって回転力として供給された駆動力は、2個のかさ歯車41b、41aによってネジ棒43の回転に伝達され、ネジ棒43の中間に位置する移動ブロック45を水平移動させる力に変換される。この移動ブロック45は、ガイドレール42を支える他の2個の移動ブロック45とともに基材支持機構10に結合され、基材支持機構10を左右方向に水平移動させる。ガイドレール42と移動ブロック45が接触する部分や、固定ブロック44のネジ棒43を回転可能な状態で支える部分には、摩擦を減らすために例えばテフロン樹脂のパッキンを挟むとよい。このような基材水平移動機構20を搭載することにより、基材支持機構10-1,10-2を、左面または右面の一方の隔壁13を蒸着室100と準備室110-1,110-2の間の開口部に密着させる蒸着位置と、基材支持機構10-1,10-2を左右反転させる反転位置との間で左右方向に水平移動させることができる。
【0049】
図5は基材支持機構10-1,10-2を反転位置まで移動させたときの装置の正面図であり、
図6は反転位置における装置の上面図である。
図1は基材支持機構10-1,10-2が蒸着位置にある状態を示し、
図1下の正面図に示すように、基材自公転駆動機構23-1と23-2が、基材支持機構10-1と10-2にそれぞれ結合されて、基材を自公転させるための駆動力を、蒸着室100の外側から供給する。一方、反転位置では、基材反転駆動機構22-1と22-2が、基材支持機構10-1と10-2にそれぞれ結合されて、基材支持機構10-1と10-2の左右を反転させる。
図6は、左側の準備室110-1内で基材支持機構10-1が左右反転する様子を描いたもので、右側は反転前または反転後を示している。実動作では左右同時に反転させることができる。これにより、蒸着された基材4が蒸着室100から準備室110-1、110-2へ移動し、代わってまだ蒸着されていない基材4が蒸着室100側に移動する。
【0050】
準備室110-1,110-2の蒸着室100と反対側の面に、それぞれ扉を設けて、基材4の取り付け、交換などの作業ができるように構成するとより好適である。このとき、基材水平移動機構20は、基材支持機構10を、反転位置を過ぎてより扉に近い側まで移動できるように構成するとよい。
【0051】
以上のような構成により、複数の基材に対するセラミックの電子線蒸着においても、複数の基材に対して膜厚ばらつきを抑えることができ、量産性の高い蒸着装置を提供することができる。上述の形態によればセラミックの蒸発源の上方に基材を配置した状態で蒸着を行うことができるので、電子線蒸着を採用することができる。また、複数の基材は左右の基材支持盤に保持されて自公転するので、膜厚を均一に制御することが容易で、さらに準備室で左右を反転することができるため、真空を破ることなく蒸着対象の基材を交代させることができ、量産性が向上する。
【0052】
装置の構成をさらに詳しく説明する。
【0053】
〔基材の配置と温度制御、蒸着膜厚制御〕
図7は、一構成例を示す蒸着室の側面図である。ヒーター5は、基材支持機構10に支持される複数の基材4を囲むように、蒸着室100の上面の他、前面と背面にも設置されるとよい。基材温度と蒸着膜厚を、蒸着処理中にモニターできるように構成するとさらに好適である。
【0054】
まず膜厚測定について説明する。例えば、蒸着室100の壁面から基材4にレーザー光を照射する照射器9Tと基材4で反射した反射光を受信する受光器9Rで構成される膜厚測定器9を備える。このとき基材4に代えて、測定用試料を基材支持機構10以外に固定してもよい。または、蒸着中ではなく、準備室または外部に基材4を測定してもよい。
【0055】
次に基材温度の測定と制御について説明する。例えば、熱電対8を蒸着室100の上面から導入して、ヒーター5の温度を測定することができるように構成する。基材4の温度とヒーター5の温度の相関を予め実験的に求めておく。予め求めた相関から、基材4を所望の温度にするために目標とすべきヒーター5の温度を特定し、ヒーター5がその温度になるように、ヒーター5に供給する電力を制御する。
【0056】
熱電対8はヒーター5に取り付ける代わりに、またはさらに、基材支持機構10の基材4に近い部分の温度を測定する別の熱電対8を設けても良い。
図8は、基材取り付け部15に熱電対8を取り付けた基材支持機構10の断面図である。基材回転動力伝達機構11のかさ歯車16bは、隔壁13Lを貫通して、基材自公転機構12Lの歯車18aと基材支持盤14に接続されている。接続する公転軸は、隔壁13Lを貫通する箇所で、例えばテフロンパッキンとOリングを組み合わせる等により回転できるように真空封止されている。基材保持部15に熱電対8を取り付け、公転軸を中空として、中空部分を貫通して配線し、基材回転動力伝達機構11側に回転式ジョイントを設けて、準備室110-1,110-2の外側の温度測定器24まで配線する。熱電対8は基材支持盤14に取り付けてもよい。または、赤外線センサ(サーモグラフィ)などにより、非接触で基材4の温度を測定することができるように構成してもよい。
【0057】
図7には、基材支持盤14に7個の基材4を取り付けた例が示されるが、取り付ける基材4の個数は任意である。基材4が大きい場合などには、基材支持盤14上の基材保持部15の数が決まっていても、一部にのみ基材4を取り付けて蒸着すればよい。または、基材保持部15の数を変えた基材支持盤14を準備して取り替えられるようにしてもよい。
【0058】
図9は、基材支持盤14に1個の基材4を取り付けた例を模式的に示す斜視図である。基材支持盤14の公転がそのまま基材4の自転となり、基材自公転機構12は省略される。それ以外の構成と動作は
図7を引用して説明したとおりなので、詳しい説明を省略する。基材4が、例えば、ガスタービン第一段動翼のように、大型である場合に採用される。
【0059】
図10は、基材支持盤14に3個の基材4を取り付けた例を模式的に示す斜視図である。基材自公転機構12は、基材支持盤14に接続されて公転する歯車18aと、3個の基材保持部15に接続されて自転させる3個の歯車18bを組み合わせて構成される。それ以外の構成と動作は
図7を引用して説明したとおりなので、詳しい説明を省略する。基材が、中規模である場合に採用される。
【0060】
〔準備室の構成例と前処理〕
図11は、準備室110の一構成例を示す側面図である。準備室110には、スパッタ源6とプラズマクリーナ7が設けられるとより好適である。基材支持機構10は左右対称であるので、蒸着室100内で基材4を自公転させると、準備室110においても同様に自公転させることができる。蒸着室100で蒸着を行うのと並行して、準備室110において基材4のクリーニング処理やスパッタ処理を行うことができる。一般に金属に遮熱コーティングを施す場合、金属の基材表面にボンド層を形成した上で、遮熱用のセラミック被膜をコーティングする。プラズマクリーナ7を使って基材4の金属をクリーニングした後、スパッタ源6を使ってボンド層の材料を金属基材4の表面に堆積させ、その後、真空を破らずに蒸着室100へ移動させ、遮熱コーティングを施すことができる。スパッタ源6としては,例えばマグネトロンスパッタが好適である。
【0061】
図12は、準備室110の前処理と蒸着室100の蒸着処理を連続して行う場合のタイムチャートである。横軸を時間経過とし、準備室110と蒸着室100それぞれでの処理が示されている。時刻t1より前に、準備室110において基材4を基材支持機構10に取り付ける。このとき、基材支持機構10を準備室110内で反転することにより、両面に基材4を取り付ける。次に全体を真空排気する。排気が完了した後、時刻t1から時刻t2の期間にプラズマクリーナ7を動作させて基材のクリーニングを行う。そのまま連続して時刻t2から時刻t3の期間にスパッタ源6を動作させて、基材4の表面にボンド層を堆積する。次に、基材支持機構10を準備室110内に戻して反転させた後、蒸着室100に密着させることにより、ボンド層が形成された基材4が蒸着室100内に送られる。このとき、準備室110と蒸着室100の密閉は解除されるが、どちらも真空が保たれる。その後、準備室110と蒸着室100を所定の真空度(例えば10-3Pa,10-5Torr)になるまで排気し、時刻t4から時刻t6の期間に蒸着室100では遮熱用セラミック被膜の蒸着処理を行う。これと並行して準備室110では、時刻t4から時刻t5の期間に基材のクリーニングが、時刻t5から時刻t6の期間にスパッタによるボンド層の堆積が行われる。次に再度、基材支持機構10を準備室110内に戻して反転させた後、蒸着室100に密着させることにより、ボンド層の形成された基材4が蒸着室100内に送られる。次に準備室110と蒸着室100を所定の真空度になるまで排気し、時刻t7から時刻t8の期間に蒸着室100で遮熱用セラミック被膜の蒸着処理を行う。
【0062】
以上のように、基材のクリーニングとボンド層の堆積、遮熱用セラミック被膜の蒸着を、真空を破ることなく連続して行うことができるため、界面の汚染等を最小限に抑えることができる。また、クリーニング及びスパッタリングと蒸着処理とを並行して行うことができるため、単位時間あたりの処理量を向上することができ、量産性をさらに向上させることができる。
【0063】
また、上述した一連のシーケンスは、人手による準備が終わり、冷却水の導入が確認され、主電源が投入された後、遠隔操作または自動運転によって、進行させることができる。即ち、蒸着室100と準備室110を含む全体を真空排気し、蒸着室100をベーキングし、バックグラウンドの真空度が所定の値以下になったことを確認する。その後、酸素プラズマ発生装置2に酸素を導入して酸素プラズマを発生させ、電子銃31を動作させて蒸着を行う。さらにインゴットの状態を観察しながら蒸着膜厚を測定し、所定の膜厚に達したときに蒸着を完了する。これと並行してまたは準備段階として、準備室110において基材のクリーニングとボンド層を形成するためのスパッタを行っても良い。
【0064】
〔インゴットの連続供給〕
図2には蒸着のセラミック原料であるインゴットは、1個のみが描かれているが、連続供給することができる機構を備えるとより好適である。
【0065】
図13は、セラミック原料であるインゴットの連続供給機構の構成例を示す斜視図である。インゴット保持ステージ50上に、4個のインゴット3-1~3-4が1列に並んで置かれている。先頭のインゴット3-1は、電子銃31によって電子線が照射される位置に配置されている。図示は省略されているが、先頭以外のインゴットは、両脇に設けられたガイド板に沿って並べられるとよい。先頭のインゴットは、使用後にインゴット排除レバー52によって排除され、列をなすインゴットがインゴット送出レバー53によって押されて、次のインゴットが先頭の電子線照射位置に送られる。
【0066】
電子線照射位置にあるインゴットは、インゴット制御棒51によって、上下方向に移動することができるように構成されている。蒸着中にインゴットが消費されるのに応じて、電子線が照射され溶融している部分の高さを一定に保つように制御される。インゴット制御棒51はさらに回転可能とされ、使用されているインゴットはこのインゴット制御棒51の回転に伴って回転するように構成するとさらに好適である。
図2を参照した蒸発源1の説明で上述したように、インゴット表面における電子線の照射位置の偏りを抑え、均一に消費されるように制御することができる。
【0067】
図14は、
図13の連続供給機構において、使用済みのインゴットを電子線照射点から移動させる様子、
図15は、
図13の連続供給機構において、未使用インゴットを電子線照射点へ移動させる様子を描いた説明図である。
図14に示すように、インゴット制御棒51を下げることにより、使用済みのインゴット3-1の下端をインゴット保持ステージ50の表面と同じ高さにし、インゴット排除レバー52を回転させることによって電子線照射位置から排除する。その後、
図15に示すように、インゴット送出レバー53によって列をなすインゴット3-2~3-4が押し込まれ、先頭のインゴット3-2が電子線照射位置に送られる。
【0068】
以上のようにインゴットの連続供給機構を設けることにより、蒸着の途中でインゴットを交換することができる。このため、複数のインゴットを要するような厚い膜厚の被覆も、途中で真空を破ることなく連続して蒸着することができる。
【0069】
〔インゴットの再利用〕
上述した、インゴットを連続して供給することができる機構を改良して、使用済みのインゴットを再利用することができる構成とすると、さらに好適である。
【0070】
図16~
図19は、使用済みのインゴットを再利用することが可能なインゴット供給機構の構成例を示す、模式的な斜視図である。インゴットは、ある程度未使用の部分を残して使用を終える必要がある。照射する電子線を走査するなどして、上面からできる限り一様に蒸発するように制御しても、完全に使い切るとインゴット制御棒51が露出して電子線が照射されてしまうからである。そこで、使用済みのインゴットを未使用のインゴットの上に乗せて、再利用することができる構成を採用する。
【0071】
図13~
図15のインゴット排除レバー52に代えて、インゴットを一旦電子線照射位置から待避させた後に、元の電子線照射位置へ戻すことができるような、インゴット移動レバー54を備える。インゴット移動レバー54は、例えば図示されるように二股とすることができる。
図16に示すように、使用済みのインゴット3-1を一旦待避させ、次に使用される未使用のインゴット3-2を電子線照射位置に、インゴット送出レバー53によって押し込む。次に、
図17に示すように、インゴット制御棒51を下げることにより、未使用のインゴット3-2の上面がインゴット保持ステージ50の表面と同じ高さになるまで引き下げる。次に
図18に示すように、インゴット移動レバー54を用いて、待避していた、使用済みのインゴット3-1を電子線照射位置に戻す。このとき、電子線照射位置では、未使用のインゴット3-2の上面がインゴット保持ステージ50の表面と同じ高さなっているので、使用済みのインゴット3-1が未使用のインゴット3-2の上に乗ることとなる。次に、
図19に示すように、インゴット制御棒51を下げることにより、使用済みのインゴット3-1の上面が、未使用のインゴット3-3、3-4の上面と同じ高さになるまで引きあげる。これにより、使用済みのインゴット3-1の上面が、電子線が照射される位置まで引き上げられて、次の蒸着で使用されることとなる。蒸着ではインゴット3-1の上面から順次セラミック材料が消費されていき、それに応じてインゴット制御棒51を引き上げていく。このとき、インゴット制御棒51は未使用のインゴット3-2を押し上げ、その上に置かれたインゴット3-1を押し上げる。インゴット3-1がなくなるとそのまま下の未使用のインゴット3-2に電子線が照射され、蒸着に使用される。これにより、一旦使用済みとなったインゴットが再利用されることとなる。
【0072】
ここで示した、使用済みのインゴットを再利用することが可能なインゴット供給機構の構成例は一例に過ぎず、種々変更することができる。
【0073】
〔実施形態2〕
実施形態1では、蒸着室100の両側の対称な位置に、2つの準備室110-1,110-2を備える蒸着装置を示したが、備える準備室の数は任意である。
【0074】
図20は、準備室の数を1個とした蒸着装置の構成例である。
図1と同様に上面図と正面図を示す。構成と動作は,実施形態1で説明したものと同様であるので、詳しい説明を省略する。
【0075】
図21は、準備室の数を4個とした蒸着装置の構成例である。上面図のみを示す。1個の蒸着室100を4方向に4個の準備室110-1~110-4が設けられており、それぞれに基材支持機構10-1~10-4を備える。個々の構成と動作は,実施形態1で説明したものと同様であるので、詳しい説明を省略する。
【0076】
準備室の数を1個とした例では、基材加熱用ヒーター5を右側面にも配置することができ、基材の温度制御が容易となる。一方、準備室と基材支持機構の数を増やすことにより、同時に並行して蒸着することができる基材の数を増やすことができ、量産性を高めることができる。
【0077】
以上本発明者によってなされた発明を実施形態に基づいて具体的に説明したが、本発明はそれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々変更可能であることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明は、金属基材の表面にセラミックを蒸着する蒸着装置に好適に適用することができる。
【符号の説明】
【0079】
1 蒸発源(電子銃+セラミックインゴット)
2 プラズマ発生器
3 セラミック原料(インゴット)
4 基材
5 基材加熱用ヒーター
6 スパッタ源(Sputtering Source)
7 プラズマクリーナ
8 熱電対
9 膜厚測定器
9T レーザー照射器
9R 受光器
10 基材支持機構
11 基材回転動力伝達機構
12 基材自公転機構
13 隔壁
14 支持盤
15 基材保持部
16a,16b,16c かさ歯車
17 Oリング
18a,18b 歯車
19 回転式ジョイント
20 基材水平移動機構
21 基材水平移動駆動機構
22 基材反転駆動機構
23 基材自公転駆動機構
24 温度測定器
31 電子銃
32 走査電極
33 熱電子発生用電源
34 熱電子加速用電源
35 電子線走査用電源
40 台座
41a,41b かさ歯車
42 ガイドレール
43 ネジ棒
44 固定ブロック
45 移動ブロック
50 インゴット保持ステージ
51 インゴット制御棒
52 インゴット排除レバー
53 インゴット送出レバー
54 インゴット移動レバー
100 蒸着室
110-1,110-2 準備室