(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-19
(45)【発行日】2022-10-27
(54)【発明の名称】波形記録装置
(51)【国際特許分類】
G01R 13/20 20060101AFI20221020BHJP
【FI】
G01R13/20 N
G01R13/20 R
(21)【出願番号】P 2018184848
(22)【出願日】2018-09-28
【審査請求日】2021-08-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000227180
【氏名又は名称】日置電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083404
【氏名又は名称】大原 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100166752
【氏名又は名称】久保 典子
(72)【発明者】
【氏名】下平 誉
【審査官】田口 孝明
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-050830(JP,A)
【文献】特開2009-300112(JP,A)
【文献】特開2010-151843(JP,A)
【文献】特開平05-083615(JP,A)
【文献】特開2011-014608(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC G01R 13/00-13/42、
G01D 90/00-9/42、
15/00-15/34、
G01D 7/00-7/12、
G09G 5/00-5/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定対象物から測定されたアナログの被測定信号をA/D変換してデジタルの測定データとして取り込む入力部と、上記測定データを記憶する記憶部と、上記測定データによる測定波形を画面上に表示する表示部と、上記測定データを所定に処理するとともに、上記記憶部に対する上記測定データの書き込み・読み出しを制御する制御部と、上記制御部にトリガ信号を与えるトリガ検出部と、上記制御部に対して波形検索指示を含む所定の指示を与える操作部とを備えている波形記録装置において、
上記トリガ検出部は、上記操作部により指定された基準波形を記憶する基準波形メモリと、上記操作部により設定されるトリガ用のレベル設定値と上記測定データとを比較してトリガ条件が成立したときに同期トリガ信号を出力する比較器と、上記同期トリガ信号が出力された時点から上記測定データをラスター画像データに変換する第1画像変換器と、上記同期トリガ信号が出力された時点で上記基準波形をラスター画像データに変換する第2画像変換器と、上記第1画像変換器により変換された上記測定データのラスター画像データと上記第2画像変換器により変換された上記基準波形のラスター画像データとを比較して類似度を求める画像比較器とを備え、上記類似度の値に応じて上記制御部に異常波形の取り込みを指示するトリガ信号が出力されることを特徴とする波形記録装置。
【請求項2】
上記基準波形が正常波形であり、上記類似度の値が所定の閾値よりも小さいときに上記制御部に上記異常波形の取り込みを指示するトリガ信号が出力されることを特徴とする請求項1に記載の波形記録装置。
【請求項3】
上記基準波形が異常波形であり、上記類似度の値が所定の閾値よりも大きいときに上記制御部に上記異常波形の取り込みを指示するトリガ信号が出力されることを特徴とする請求項1に記載の波形記録装置。
【請求項4】
上記入力部は複数の入力チャンネルを有し、そのうちの特定入力チャンネルより入力される測定波形が上記基準波形として採用されることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の波形記録装置。
【請求項5】
上記基準波形は上記第2画像変換器により予めラスター画像データに変換されて上記基準波形メモリとは別のメモリに記憶され、上記同期トリガ信号が出力された時点で、上記別のメモリから上記基準波形のラスター画像データが上記画像比較器に与えられることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の波形記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波形記録装置に関し、さらに詳しく言えば、測定波形の異常箇所等を検索することができる波形検索機能を有する波形記録装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
波形記録装置は、その基本的な構成として、入力部、記憶部、表示部、制御部および操作部を備え、入力部より被測定対象物から測定されたアナログ信号をA/D変換してデジタルの測定データとして取り込み、操作部より設定された測定項目について、制御部にて所定の処理を行い、その測定データを逐次表示部に表示しながら、所定の時間軸長ごとに1波形ファイルとして記憶部に格納する。
【0003】
これによれば、波形ファイル名もしくは番号を指定して、記憶部から所望とする波形データを読み出して表示部に表示することができる。しかしながら、記憶部に格納される波形ファイル数が多くなると、その中から、所望とする波形(類似波形、非類似波形、異常波形等)を読み出すことは容易でない。
【0004】
そこで、特許文献1に記載された発明では、時間方向(横軸方向)と測定値方向(縦軸方向)に検索ゾーン(異常領域)を設定し、この検索ゾーン内にデータがあるかどうかで、例えば異常波形を検索するようにしている。
【0005】
また、特許文献2に記載された発明では、複数の波形ファィルの同じ位置(サンプリング位置)に属する波形データの平均値Xと、標準偏差σとを求め、各位置ごとにそれぞれX±K・σ(Kはユーザーによって設定される任意の係数)なる電圧範囲を設定し、この電圧範囲内における波形データの有無によって、同質もしくは異質の波形データを抽出(検索)するようにしている。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された発明を実施するには、あらかじめ検索ゾーンを設定するのに手間がかかるばかりでなく、波形ファィル内に保存されている波形をある程度認識していないと検索精度の高い検索ゾーンを設定することができない。
【0007】
また、特許文献2に記載された発明にしても、各波形ファィルの位置を順次ずらし、その各位置で平均値Xと、標準偏差σとを算出してX±K・σなる電圧範囲を設定するようにしているため、その演算に負担がかかる。
【0008】
そこで、本出願人は、特許文献3において、検索ゾーンや検索式等を含む検索条件を事前に設定することなく、測定波形同士を対比することにより、類似波形等を検索できるようにした波形記録装置を提案している。
【0009】
この特許文献3に記載の波形記録装置では、基本波形と、これと対比される測定波形の各A/D変換値よりヒストグラムを作成し、例えばヒストグラム交差法により、基本波形と測定波形との類似度を求めるようにしている。
【0010】
これによれば、検索ゾーンや検索式等を含む検索条件を事前に設定することなく、類似波形等を検索することができるが、ヒストグラム交差法を用いて判断するため、操作者が類似波形と意図していない波形を類似と判断してしまうことがあり、この点を改善する余地がある。例えば、周期的な波形で、位相が180度ずれた波形でも類似と判断してしまうことがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2000-292449号公報
【文献】特開2007-57303号公報
【文献】特開2016-50830号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで、本発明の課題は、人間が類似と判断する感覚と近い判断基準で、類似波形や異常波形等を検出することができるようにした波形記録装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明は、被測定対象物から測定されたアナログの被測定信号をA/D変換してデジタルの測定データとして取り込む入力部と、上記測定データを記憶する記憶部と、上記測定データによる測定波形を画面上に表示する表示部と、上記測定データを所定に処理するとともに、上記記憶部に対する上記測定データの書き込み・読み出しを制御する制御部と、上記制御部にトリガ信号を与えるトリガ検出部と、上記制御部に対して波形検索指示を含む所定の指示を与える操作部とを備えている波形記録装置において、
上記トリガ検出部は、上記操作部により指定された基準波形を記憶する基準波形メモリと、上記操作部により設定されるトリガ用のレベル設定値と上記測定データとを比較して所定のトリガ条件が成立したときに同期トリガ信号を出力する比較器と、上記同期トリガ信号が出力された時点から上記測定データをラスター画像データに変換する第1画像変換器と、上記同期トリガ信号が出力された時点から上記基準波形をラスター画像データに変換する第2画像変換器と、上記第1画像変換器により変換された上記測定データのラスター画像データと上記第2画像変換器により変換された上記基本波形のラスター画像データとを比較して類似度を求める画像比較器とを備え、上記類似度の値に応じて上記制御部に異常波形の取り込みを指示するトリガ信号が出力されることを特徴としている。
【0014】
本発明には、上記基準波形が正常波形であり、上記類似度の値が所定の閾値よりも小さいときに上記制御部に上記異常波形の取り込みを指示するトリガ信号が出力される態様が含まれる。
【0015】
また、上記基準波形が異常波形であり、上記類似度の値が所定の閾値よりも大きいときに上記制御部に上記異常波形の取り込みを指示するトリガ信号が出力される態様も本発明に含まれる。
【0016】
さらに、上記入力部は複数の入力チャンネルを有し、そのうちの特定入力チャンネルより入力される測定波形が上記基準波形として採用される態様も本発明に含まれる。
【0017】
別の態様として、上記基準波形は上記第2画像変換器により予めラスター画像データに変換されて上記基準波形メモリとは別のメモリに記憶され、上記同期トリガ信号が出力された時点で、上記別のメモリから上記基準波形のラスター画像データが上記画像比較器に与えられるようにしてもよく、このような態様も本発明に含まれる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ヒストグラム交差法等よりも正確な手法で、類似波形や異常波形等を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施形態に係る波形記録装置の構成を示す概略的なブロック図。
【
図2】上記波形記録装置が備えるトリガ検出部の構成を示す概略的なブロック図。
【
図3】測定データをラスター画像データに変換する画像変換部の動作説明図。
【
図4】対比の元になる基本波形の一例を示す画面図。
【
図5】上記基本波形と対比される測定波形の一例を示す画面図。
【
図6】類似度により異常波形を検出する第1の動作例を示すフローチャート。
【
図7】類似度により異常波形を検出する第2の動作例を示すフローチャート。
【
図8】事前に設定する判定エリアの一例を示す画面図。
【
図9】複数の測定波形を入力してそれらの類似度により波形判定する別の実施形態を説明する画面図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、
図1ないし
図9を参照して、本発明の実施形態を説明するが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。
【0021】
図1に示すように、この実施形態に係る波形記録装置1は、基本的な構成として、入力部10と、制御部20と、操作部30と、記憶部40と、表示部50と、トリガ検出部60とを備えている。
【0022】
入力部10は、A/D変換器を有し、図示しない被測定対象物からの被測定信号(アナログの電気信号)をデジタルの測定データ(波形データ)に変換する。
【0023】
入力部10に対する入力チャンネルCHは、1チャンネル、多チャンネルのいずれであってもよいが、多チャンネルの場合には、図示しないマルチプレクサ等により、1チャンネルずつ順次選択し入力部10に入力する構成とする。
【0024】
制御部20には、CPU(中央演算処理ユニット)もしくはマイクロコンピュータ等が用いられてよい。制御部20は、入力部10から送出される測定データを記憶部40に格納し、また、記憶部40から測定データを読み出して表示部50に送る。
【0025】
また、制御部20は、操作部30からの指示に基づいて測定データを所定に処理して、インピーダンス、電力、実効値等を求める演算機能や判定機能のほかに、測定データの圧縮機能やトリガ機能等も備えている。
【0026】
操作部30には、キーボードもしくはタッチパネル等が用いられる。操作部30は、制御部20に対して、各種の演算項目の指示やトリガ条件等の設定のほかに、後述する波形検索の指示を与える。
【0027】
記憶部40は、制御部20の動作プログラム等が格納されるROMやワークメモリ用のRAMのほかに、測定データを逐次記憶するストレージメモリ41と、所定のインターフェイスを介して接続されるHDD、USBメモリ、SDカード等の外部メモリ42とを備え、操作部30からの指示により、ストレージメモリ41内の測定データが外部メモリ42に保存される。
【0028】
表示部50は、液晶表示パネル等からなる画面を備えている。画面はモノクロ表示、カラー表示のいずれであってもよいが、カラー表示であれば、各入力チャンネルの測定波形を色分けして表示することができる。
【0029】
トリガ検出部60は、入力部10と制御部20との間において側路となるように接続される。
図2に示すように、トリガ検出部60は、比較器61と、基準波形メモリ62と、第1画像変換器63と、第2画像変換器64と、画像比較器65とを備えている。
【0030】
比較器61は、操作部30により設定されるトリガ用のレベル設定値Ltと、入力部10から送出される測定データMdとを比較し、例えば測定データMdがレベル設定値Ltを超えた時点(Lt<Md)で、同期トリガ信号を第1画像変換器63と第2画像変換器64とに出力する。
【0031】
基準波形メモリ62には、例えば
図4に示す基準波形Woが記憶される。この基準波形Woは、測定波形(被測定信号の波形)Wmの中から異常波形を検出するための比較対象の元になる波形で、デジタルデータとして基準波形メモリ62に記憶される。
【0032】
第1画像変換器63は、入力部10から送出される測定波形Wmの測定データMdを2値化ラスター画像データ(ビットマップデータ)に変換する。また、第2画像変換器64は、基準波形Woを同じく2値化ラスター画像データ(ビットマップデータ)に変換する。
【0033】
第1画像変換器63と第2画像変換器64は、比較器61から同期トリガ信号が出力された時点から画像変換(
図3参照)を開始する。
【0034】
画像比較器65は、第1画像変換器63により画像変換された測定波形Wmのラスター画像と、第2画像変換器64により画像変換された基準波形Woのラスター画像を画像処理し、基準波形と測定波形の類似度を算出する。
【0035】
類似度を算出する手法としては、例えばSSD(Sum of Squared Difference)を挙げることができる。この手法によれば、「画素値の差分の二乗和」で類似度を評価し、0に近い方が類似度が大きい(高い)と判断する。
【0036】
類似度が大きい(高い)場合が似ているの「類似」、類似度が小さい(低い)場合が似ていないの「非類似」として、この実施形態において、画像比較器65は、算出された類似度が操作部30より判定しきい値として予め設定された類似度よりも小さい場合(似ていない場合)に、異常波形有りとして制御部20にトリガ信号を出力する。
【0037】
制御部20は、画像比較器65からのトリガ信号を受けると、異常と目される測定データMdを例えばストレージメモリ41に格納する。また、操作部30からの指示により、その測定データMdによる波形(異常波形)を表示部50に表示する。
【0038】
次に、基準波形Woを正常波形として、測定波形Wmの中から異常波形を検出する例を
図6のフローチャートを参照して説明する。
【0039】
まず、測定を開始する前に、操作部30から次の4つの項目を設定する。
(1)比較器61に対してトリガ用のレベル設定値Ltを設定する。
(2)基準波形メモリ62に基準波形Woとして正常波形Wogを登録する。
(3)正常波形Wogと測定波形Wmとを比較する画像処理エリア(判定エリア)GAを設定する。この実施形態では、
図4および
図5に示すように表示部50の1画面を画像処理エリアGAとしている。
(4)画像比較器65に類似度の判定しきい値Thを設定する。
【0040】
測定が開始されると、比較器61でトリガ用のレベル設定値Ltと測定波形Wmの測定データMdとが比較され、例えば測定データMdがレベル設定値Ltを超えた時点(Lt<Md)で、比較器61から第1画像変換器63と第2画像変換器64とに同期トリガ信号が出力される。
【0041】
これにより、測定データMdが第1画像変換器63にて2値化ラスター画像データに変換されるとともに、正常波形Wogのデータが第2画像変換器64にて2値化ラスター画像データに変換される。
【0042】
これら測定波形Wmのラスター画像データと正常波形Wogのラスター画像データは画像比較器65で画像処理され、正常波形Wogに対する測定波形Wmの類似度Siが算出され、判定しきい値Thと比較される。
【0043】
その結果、例えば類似度Siが判定しきい値Th以下(Si≦Th(未満のSi<Thでもよい))の場合には、測定波形Wmが正常波形Wogと非類似の異常波形であるとして、画像比較器65から制御部20にトリガ信号が出力される。
【0044】
これにより、制御部20は、以後、異常波形と判定された測定波形Wmの測定データMdをストレージメモリ41に取り込むとともに、操作部30からの指示にしたがって測定波形(異常波形)を表示部50に表示する。
【0045】
これによれば、あらかじめ異常波形を想定してトリガを設定する必要がないため、意図していないような異常波形を簡単に捕捉することができる。
【0046】
また、
図8に示すように、画像処理エリア(判定エリア)GAを異常が発生しやすい小さなエリアに限定することにより、判定処理をより高速に行うことができる。
【0047】
なお、上記実施形態とは反対に、基準波形メモリ62に基準波形として異常波形を格納してもよい。この場合には、
図7のフローチャートに示すように、異常波形に対する測定波形の類似度Siが判定しきい値Th以上(Si≧Th(超のSi>Thでもよい))のときに、画像比較器65から制御部20にトリガ信号が出力されることになる。
【0048】
応用例として、
図9に示すように、複数の測定波形(例えば入力チャンネルCH1の測定波形と入力チャンネルCH2の測定波形)を入力して、それぞれラスター画像データに変換し、入力チャンネルCH1の測定波形と入力チャンネルCH2の測定波形同士の類似度を判定することもできる。この場合には、測定波形のラスター画像データを入力チャンネルCHごとに色分けし、重ね合わせて基準波形として基準波形メモリ62に格納される。
【0049】
また、測定時も基準波形の登録と同じように、測定波形のラスター画像データを入力チャンネルCHごとに色分けし、重ね合わせて測定波形を比較する。これにより、入力チャンネルCH1かCH2の、いずれか一方の波形が異常だった場合にトリガーをかける等、複数の入力チャンネルCHの組合せを元にトリガーをかけることが可能となる。
【0050】
なお、基準波形について、上記実施形態では、比較器61から同期トリガ信号が出力される都度、基準波形メモリ62内の基準波形を第2画像変換器64によりラスター画像データに変換するようにしているが、基準波形を予めラスター画像データに変換して図示しない別のメモリに記憶させておき、上記同期トリガ信号が出力された場合、その別のメモリから基準波形のラスター画像データを画像比較器65に与えることもできる。
【0051】
これによれば、同期トリガ信号が出力される都度、第2画像変換器64での変換処理が不要になるため、制御部20への負荷が軽減される。
【符号の説明】
【0052】
10 入力部
20 制御部
30 操作部
40 記憶部
41 ストレージメモリ
42 外部メモリ
50 表示部
60 トリガ検出部
61 比較器
62 基準波形メモリ
63 第1画像変換器
64 第2画像変換器
65 画像比較器