(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-19
(45)【発行日】2022-10-27
(54)【発明の名称】椅子の張地の取付構造及び樹脂コード並びに椅子
(51)【国際特許分類】
A47C 31/02 20060101AFI20221020BHJP
A47C 7/32 20060101ALI20221020BHJP
A47C 7/40 20060101ALI20221020BHJP
【FI】
A47C31/02 C
A47C7/32
A47C7/40
(21)【出願番号】P 2018197772
(22)【出願日】2018-10-19
【審査請求日】2021-07-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000108627
【氏名又は名称】タカノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087468
【氏名又は名称】村瀬 一美
(72)【発明者】
【氏名】塩澤 健太
(72)【発明者】
【氏名】金子 正
【審査官】黒田 正法
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-119438(JP,A)
【文献】実開昭59-118499(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47C 31/02
A47C 7/32
A47C 7/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
枠体の溝に挿入する硬めの挿入部と前記溝の外にはみ出て前記枠体と張地との間に挟まれるエラストマー部とを有する樹脂コードを、前記張地の周縁部に取付け、前記樹脂コードを前記枠体の溝に押し込むことで前記張地を前記枠体に取り付ける椅子の張地の取付構造において、
前記エラストマー部の前記枠体に沿って屈曲する部分に弾性力を減少させる部分が形成され
、
前記弾性力を減少させる部分は前記エラストマー部の前記枠体と当接する側の面に波形状に形成されている複数条の窪みである
ことを特徴とする椅子の張地の取付構造。
【請求項2】
請求項
1記載の前記樹脂コードは、押し出し成形で造られており、前記弾性力を減少させる部分は、屈曲する部分に長手方向に連続的に設けられていることを特徴とする椅子の張地の取付用樹脂コード。
【請求項3】
請求項
1記載の前記樹脂コードを利用して張地を取り付けた椅子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、椅子の張地の取付構造及び樹脂コード並びに椅子に関する。さらに詳述すると、本発明は、椅子の座や背凭れ等の椅子の構成部品を覆う張地を取り付ける構造及び樹脂コード並びに椅子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、椅子の背凭れなどにおいて、メッシュで構成された張地の周縁部にPPコード(ポリプロピレン製コード)を縫製し、該PPコードを背枠などの枠体に形成した溝に押し込むことでメッシュ張地を枠体に取り付ける張地の取付構造がある。
【0003】
この張地の取付構造の場合、硬い背枠とメッシュが当たる部分はメッシュが破れ易い。このため、背凭れ前面の机などの備品の鋭角な部分に繰り返しあるいは強くぶつかると、張地の破れが発生することが起こり得る。これに対応するため、PPコードを2色成形によって、背枠の溝に挿入する硬めの挿入部と溝の外にはみ出て硬い背枠とメッシュとの間に挟まれる柔らかいエラストマー部とに構成することで、エラストマー部が張地と背枠の前面との間に挟まれることで緩衝材として機能させるようにしている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、挿入部とエラストマー部とが同じ肉厚で連続的に一体に形成された平板帯状のPPコードは、背枠の溝の外で背枠の形状に沿って反り返るエラストマー部の弾性によって元に戻る力が働き、これが挿入部を背枠の溝から抜け出させようとする力として働いてしまう問題がある。
【0006】
本発明は、張地縁部が枠体の溝より抜け難く、枠体と張地が当たる部分の張地の破れ防止にも対応可能な椅子の張地の取付構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成するため、請求項1記載の発明は、枠体の溝に挿入する硬めの挿入部と溝の外にはみ出て背枠と張地との間に挟まれるエラストマー部とを有する樹脂コードを、張地の周縁部に取付け、樹脂コードを枠体の溝に押し込むことで張地を枠体に取り付ける椅子の張地の取付構造において、エラストマー部の枠体に沿って屈曲する部分に弾性力を減少させる部分が形成され、弾性力を減少させる部分はエラストマー部の枠体と当接する側の面に波形状に形成されている複数条の窪みであることを特徴とする。
【0009】
また、請求項1記載の樹脂コードは、押し出し成形で造られており、弾性力を減少させる部分は、屈曲する部分に長手方向に連続的に設けられていることを特徴とする。
【0010】
さらに、本発明の椅子は、請求項1記載の樹脂コードを利用して張地を取り付けるようにしている。
【発明の効果】
【0011】
請求項1記載の椅子の張地の取付構造によれば、張地と枠体との間に樹脂コードのエラストマー部を介在させることで張地に加わる衝撃をエラストマー部が吸収して張地に与えられるダメージを軽減することができるので、張地の破れを防止して椅子の耐久性を向上させて良好な外観と快適な使用とを長期に亘って継続することが可能になる。
【0012】
また、エラストマー部の枠体に沿って折れ曲がる箇所に弾性力を減少させる部分が形成されているので、枠体の溝の外側(張地が折り返される方向)の縁に沿って反り返るエラストマー部の元に戻ろうとする力が挿入部を溝から引き抜こうとする力に変換されるのを妨げ(つまり、変形したエラストマー部を元に戻す力を弱くし)、溝に入った挿入部が抜けやすくなることを抑制する。
【0013】
さらに、エラストマー部に弾性力を減少させる部分を設けることにより、挿入部を枠体の溝に嵌め込む作業の際に、弾性力を減少させる部分よりも先の樹脂コード部分(主に、挿入部とエラストマー部の一部)を容易に枠体の形状に沿って折れ曲がらせることができるので、張地の組み付けもし易くなる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の椅子の張地の取付構造に用いられる樹脂コードの一実施形態を示す平面図である。
【
図2】
図1の樹脂コードの端面図とその拡大図である。
【
図3】本発明の椅子の張地の取付構造の実施形態の一例を示す枠体の溝と樹脂コードとの関係を拡大して示す横断面図である。
【
図4】樹脂コードの他の実施形態を示す端面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の構成を図面に示す実施形態に基づいて詳細に説明する。なお、本明細書においては、椅子の座の座枠や背凭れの背枠などの張地を取り付けるフレーム部分を総称して枠体と呼ぶ。また、枠体に取り付けられた状態を基準に、張地の表面、裏面は定められる。
【0016】
図1及び
図2に、本発明の椅子の張地の取付構造に使用される樹脂コードの一実施形態を示す。この樹脂コード1は、張地2の周縁部に取付けられて枠体3の溝3aに押し込まれることで張地2を枠体3に取り付けるものであり、枠体3の溝3aに挿入する硬めの挿入部1aと、溝3aの外にはみ出て枠体3と張地2との間に挟まれる軟質のエラストマー部1bとから主に構成されている(
図3参照)。
【0017】
樹脂コード1は、係止部材としての挿入部1aと緩衝部材としてのエラストマー部1bとから成り、例えば2色押し出し成形により長手方向に並べて一体のものとして成形される。なお、樹脂コード1の成形は2色同時成形等による一体成形に限られない。すなわち、挿入部1aとエラストマー部1bとを別々に成形した後に接着、溶着等によって結合させるようにしても良い。
【0018】
樹脂コード1の挿入部1aとエラストマー部1bとの接合面1cは、単純に端面を突き合わせるようにしても良いが、接触面積を増加させて接合強度を増大させることが好ましい。そこで、本実施形態の場合、
図2に示すように、横断面形状が円弧にされて接触面積が増加させられている。勿論、この接合面1cの形状は、前述の円弧面に限定されず、楔形であったり、斜面であったりしても良い。
【0019】
挿入部1aは、枠体3の溝3aに挿入する際に押し込み易く且つ溝3aに嵌め込まれた状態から抜け出ないように簡単には折り曲がらない程度の硬さを有する合成樹脂、例えばポリプロピレンによって形成される。
【0020】
他方、エラストマー部1bは、張地2が枠体3に取り付けられた状態で張地2と枠体3との間に介在して外からの物体の衝突に対する緩衝部材として機能するもの、少なくとも枠体3よりも柔らかく弾力性を有する素材で形成される。例えばエラストマー素材、中でもオレフィン系熱可塑性エラストマーの使用が好ましい。
【0021】
樹脂コード1は、本実施形態の場合、挿入部1aとエラストマー部1bとが同じ肉厚で連続的に一体に形成された平板帯状に押し出し成形される。そして、エラストマー部1bの枠体3に沿って屈曲する部分4に、弾性力を減少させる部分5が形成されている。弾性力を減少させる部分5とは、エラストマー部1bの弾性力が挿入部1aを溝3aから引き抜こうとする力に変換されるのを妨げる部分であり、変形したエラストマー部1bを元に戻す力を弱くする部分である。
【0022】
本実施形態の場合、
図1及び
図2に示すように、エラストマー部1bの枠体3に沿って屈曲する部分4に弾性力を減少させる部分5として窪みが付けられている。窪みは、本実施形態の場合、挿入部1aとエラストマー部1bとの接合面1cから僅かに離れたエラストマー部1bの表面と裏面の双方に設けられて薄肉部・括れ5として形成されている。この薄肉部によって、エラストマー部1bは、挿入部1a側の部位と窪みよりも先端側の部位とに分断され、全体に1つのエラストマー材としての弾性を示さなくなってしまう。即ち、エラストマー部1bは括れよりも先側が撓むことによって変形し、その力は挿入部1a側の部位には伝わらない。
【0023】
ここで、弾性力を減少させる部分5を構成する上述の窪み即ち薄肉部は、樹脂コードの長手方向に連続した線条であり、連続的に形成される。つまり、弾性力を減少させる部分は、エラストマー部1bの先端部を除く他の領域部分と比較して薄肉部に形成されたものである。したがって、2色押し出し成形により樹脂コードを一体成形する際に容易に形成できる。
【0024】
エラストマー部1bが折れ曲がる箇所4とは、張地2の張力が作用する方向が転換される箇所であり、溝3aの外側(張地2が折り返される方向の)縁である。この折れ曲がる箇所4に弾性力を減少させる部分5を構成する上述の窪み即ち括れが設けられる。通常、樹脂コード1の挿入部1aの幅(溝深さ方向の長さ)並びにエラストマー部1bの窪みあるいは括れ5が設けられている位置は、押し出し成形によって形成される場合には、一定位置となり、予め定められることから、これに合わせて枠体3の溝3aの深さや溝の縁の幅などが設計される。
【0025】
弾性力を減少させる部分5は、本実施形態の場合、エラストマー部1bの両面に設けた窪みで構成される括れ(薄肉部)であるが、これに特に限られず、枠体3に当たる面に形成される波形の複数条の窪みであったり(
図4参照)、図示していないスリットであっても良い。
図4に示す波形の複数条の窪みから成る弾性力を減少させる部分5は、エラストマー部1bの枠体3に沿って折れ曲がる箇所4が予め明確に特定されていなくとも、エラストマー部1bの枠体3に沿って屈曲する部分4にいずれかの窪みが該当することとなる。即ち、波形の複数条の窪みが広範囲に形成されているので、エラストマー部1bが折れ曲がる箇所4がいずれかの窪みあるいはその近傍に位置することとなるので、枠体3の形状の変更に対応することが容易である。
【0026】
樹脂コード1は、張地2の周縁部に沿って挿入部が外側、エラストマー部1bが内側に配置されて、挿入部1aが張地2の裏面に縫合されることによって取付られている。なお、挿入部1aの張地2への取付方法は縫合に限られず、例えば接着や溶着等によって結合されても良い。
【0027】
樹脂コード1を周縁部に備える張地2は、枠体3を覆うと共に枠体3の溝3aに挿入部1aを嵌め込んで係止させることによって、張地2と枠体3との間にエラストマー部1bを介在させた状態で枠体3に取り付けられる。
【0028】
以上のように構成された本発明の椅子の張地の取付構造によれば、エラストマー部1bの折れ曲がる箇所5に弾性力を減少させる部分5例えば窪み(肉薄部)を設けることにより、エラストマー部1bの弾性力が挿入部1aを溝3aから引き抜こうとする力に変換されるのを妨げて、挿入部1aが引き抜かれることを防ぐことができる。即ち、枠体3の溝3aの外で枠体3の形状に沿って反り返るエラストマー部1bの弾性によって元に戻る力が働き、これが挿入部1aを枠体3の溝3aから抜け出させようとする力として働かない。
【0029】
また、エラストマー部1bに弾性力を減少させる部分5を設けることにより、挿入部1aを枠体3の溝3aに嵌め込む作業の際に、弾性力を減少させる部分5よりも先の樹脂コード部分(主に、挿入部1aとエラストマー部1bの一部)を枠体3の形状に沿って容易に折れ曲がらせることができるので、張地の組み付け作業性も良くなる。
【0030】
さらに、張地2と枠体3との間に樹脂コード1のエラストマー部1bを介在させるようにしているので、外からの物体が衝き当たった場合にはエラストマー部1bが衝撃を吸収して外からの物体と枠体3とに挟まれる張地2に与えられるダメージを軽減することができ、張地の破れを防止して椅子の耐久性を向上させて良好な外観と快適な使用とを長期に亘って継続することが可能になる。
【0031】
依って、張地縁部が枠体の溝より抜け難く、枠体と張地が当たる部分の張地の破れ防止にも対応可能となる。
【0032】
なお、本発明においては、椅子の使用状態において外からの物体と衝き当たる可能性のある部分については、少なくとも張地2と枠体3との間に樹脂コード1のエラストマー部1bを介在させるようにしていれば良い。したがって、少なくとも外からの物体と衝き当たる部分においてエラストマー部1bを介在させるようにすれば良いとの観点から、張地2の周縁に沿って帯状に取り付けられる樹脂コード1のうち、挿入部1aと共にエラストマー部1bを設けるようにする範囲を適宜設定したり、エラストマー部1bの長さ(即ち挿入部1aからの延出長)を適宜設定することも可能である。すなわち、張地2の周縁に沿って取り付けられる挿入部1aの全体に亘ってエラストマー部1bを設けることは本発明の必須の要件ではなく、また、本発明においてエラストマー部1bの長さが特定の長さに限定されるものではない。さらに、エラストマー部1bの厚みは、エラストマー部1bの素材を考慮して外からの物体の衝突による衝撃を適切に吸収することができる程度の厚さに適宜調整されれば良く、特定の厚さに限定されるものではない。
【0033】
しかしかながら、エラストマー部の存在は、単に外部からの衝撃を緩和する緩衝材としての機能だけでなく、着座者が座に座ったり背凭れに凭れたりすると張地に荷重がかかって張地と枠体との接触部には摩擦が発生することになるが、張地と枠体との間にエラストマー部が介在していることにより、当該エラストマー部が凹むことによって摩擦力が低減して張地の破れを防止することができるという観点からすると、樹脂コードを必要とする部位の全域において、エラストマー部を有することが好ましい。したがって、張地の全周縁部において、樹脂コードは、挿入部とエラストマー部とを有するものであることが好ましい。
【0034】
なお、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、上述の実施形態では、
図3に示す断面構造を有する枠体3を例に挙げて説明したが、本発明の椅子の張地の取付構造が適用され得る部品の断面はこれに限られるものではない。すなわち、枠体3の断面構造並びに溝3aの位置などが
図3に示す構成と違う場合でも、樹脂コード1の挿入部1aを嵌め込む溝3aを有すると共に張地2と枠体3との間にエラストマー部1bを介在させる張地2の取付構造であれば、本発明が適用できることは言うまでもない。
【0035】
また、上述の実施形態では、挿入部1aとエラストマー部1bとは、2色押し出し成形により同じ肉厚で段差なく一体成形されているが、これに特に限られるものではなく、例えばエラストマー部1bを挿入部1aよりも厚く成形したりすることも可能である。
【符号の説明】
【0036】
1 樹脂コード
1a 挿入部
1b エラストマー部
2 張地
3 枠体
3a 溝
4 エラストマー部の枠体に沿って屈曲する部分
5 弾性力を減少させる部分