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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-19
(45)【発行日】2022-10-27
(54)【発明の名称】防振装置
(51)【国際特許分類】
   F16F 13/10 20060101AFI20221020BHJP
   B60K 5/12 20060101ALI20221020BHJP
【FI】
F16F13/10 K
F16F13/10 J
B60K5/12 H
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2017098940
(22)【出願日】2017-05-18
(65)【公開番号】P2018194100
(43)【公開日】2018-12-06
【審査請求日】2019-12-20
【審判番号】
【審判請求日】2021-09-22
(73)【特許権者】
【識別番号】522297236
【氏名又は名称】株式会社プロスパイラ
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(72)【発明者】
【氏名】植木 哲
(72)【発明者】
【氏名】長島 康寿之
(72)【発明者】
【氏名】佐竹 勇樹
【合議体】
【審判長】平瀬 知明
【審判官】岡本 健太郎
【審判官】尾崎 和寛
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-176509(JP,A)
【文献】特開2009-275910(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 13/10
B60K 5/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動発生部および振動受部のうちのいずれか一方に連結される筒状の第1取付部材、および他方に連結される第2取付部材と、
これら両取付部材を弾性的に連結する弾性体と、
液体が封入された前記第1取付部材内の液室を第1液室と第2液室とに区画する仕切部材と、を備えるとともに、
前記仕切部材に、前記第1液室と前記第2液室とを連通する制限通路が形成された液体封入型の防振装置であって、
前記制限通路は、前記第1液室に開口する第1連通部、前記第2液室に開口する第2連通部、および前記第1連通部と前記第2連通部とを連通する本体流路を備え、
前記第1連通部および前記第2連通部のうちの少なくとも一方は、前記第1液室または前記第2液室に面する表面を有し、かつ前記本体流路を画成した障壁を貫通する複数の細孔を備え、
前記障壁の表面における前記細孔の開口周縁部には、前記第1液室または前記第2液室に向けて突出する突起部が形成され、
前記細孔の中心軸線に沿う孔軸方向から見た平面視で、前記突起部の内周面は、前記細孔の内周面と相似形状をなすことを特徴とする防振装置。
【請求項2】
前記突起部は、前記障壁の表面における前記細孔の開口周縁部に全周にわたって形成されていることを特徴とする請求項1に記載の防振装置。
【請求項3】
前記突起部の頂部は、前記孔軸方向に沿う前記細孔の外側に向かうに従い漸次、前記平面視で、前記孔軸方向に直交する孔径方向の厚さが薄くなる鋭角状または曲面状に形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の防振装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車や産業機械等に適用され、エンジン等の振動発生部の振動を吸収および減衰する防振装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の防振装置として、従来から、振動発生部および振動受部のうちのいずれか一方に連結される筒状の第1取付部材、および他方に連結される第2取付部材と、これら両取付部材を弾性的に連結する弾性体と、液体が封入された第1取付部材内の液室を第1液室と第2液室とに区画する仕切部材と、を備えるとともに、仕切部材に、第1液室と第2液室とを連通する制限通路が形成された液体封入型の防振装置が知られている。
この防振装置では、振動入力時に、両取付部材が弾性体を弾性変形させながら相対的に変位し、第1液室および第2液室のうちの少なくとも一方の液圧を変動させて制限通路に液体を流通させることで、振動を吸収および減衰している。
【0003】
ところで、この防振装置では、例えば路面の凹凸等から大きな荷重(振動)が入力され、例えば第1液室の液圧が急激に上昇した後、弾性体のリバウンド等によって逆方向に荷重が入力されたときに、第1液室が急激に負圧化されることがある。すると、この急激な負圧化により液中に多数の気泡が生成されるキャビテーションが発生し、さらに生成した気泡が崩壊するキャビテーション崩壊に起因して、異音が生じることがある。
そこで、例えば下記特許文献1に示される防振装置のように、制限通路内に弁体を設けることで、大きな振幅の振動が入力されたときであっても、第1液室の負圧化を抑制する構成が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-172832号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記従来の防振装置では、弁体が設けられることで構造が複雑になり、弁体のチューニングも必要となるため、製造コストが増加するといった課題がある。また、弁体を設けることで設計自由度が低下し、結果として防振特性が低下するおそれがあった。
【0006】
本発明は前記事情に鑑みてなされたもので、簡易な構造で防振特性を低下させることなく、キャビテーション崩壊に起因する異音の発生を抑えることができる防振装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明の防振装置は、振動発生部および振動受部のうちのいずれか一方に連結される筒状の第1取付部材、および他方に連結される第2取付部材と、これら両取付部材を弾性的に連結する弾性体と、液体が封入された前記第1取付部材内の液室を第1液室と第2液室とに区画する仕切部材と、を備えるとともに、前記仕切部材に、前記第1液室と前記第2液室とを連通する制限通路が形成された液体封入型の防振装置であって、前記制限通路は、前記第1液室に開口する第1連通部、前記第2液室に開口する第2連通部、および前記第1連通部と前記第2連通部とを連通する本体流路を備え、前記第1連通部および前記第2連通部のうちの少なくとも一方は、前記第1液室または前記第2液室に面する表面を有し、かつ前記本体流路を画成した障壁を貫通する複数の細孔を備え、前記障壁の表面における前記細孔の開口周縁部には、前記第1液室または前記第2液室に向けて突出する突起部が形成され、前記細孔の中心軸線に沿う孔軸方向から見た平面視で、前記突起部の内周面は、前記細孔の内周面と相似形状をなすことを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、振動入力時に、両取付部材が、弾性体を弾性変形させながら相対的に変位して、第1液室および第2液室のうちの少なくとも一方の液圧が変動することで、液体が制限通路を通って第1液室と第2液室との間を流通しようとする。このとき液体は、第1連通部および第2連通部のうちの一方を通して制限通路に流入し、本体流路内を通過した後、第1連通部および第2連通部のうちの他方を通して制限通路から流出する。
ここで、液体は、複数の細孔を通して本体流路から第1液室または第2液室に流入する際に、これらの細孔が形成された障壁により圧力損失させられながら各細孔を流通するため、第1液室または第2液室に流入する液体の流速を抑えることができる。
【0009】
しかも、液体が、単一の細孔ではなく複数の細孔を流通するので、液体を複数に分岐させて流通させることが可能になり、個々の細孔を通過した液体の流速を低減させることができる。これにより、仮に防振装置に大きな荷重(振動)が入力されたとしても、細孔を通過して第1液室または第2液室に流入した液体と、第1液室内または第2液室内の液体と、の間で生じる流速差を小さく抑えることが可能になり、流速差に起因する渦の発生、およびこの渦に起因する気泡の発生を抑えることができる。
また、仮に気泡が第1液室や第2液室ではなく本体流路で発生しても、液体を、複数の細孔を通過させることで、発生した気泡同士を、第1液室内または第2液室内で離間させることが可能になり、気泡が合流して成長するのを抑えて気泡を細かく分散させた状態に維持しやすくすることができる。
【0010】
また、障壁の表面における細孔の開口周縁部に、内周面が、前記平面視で細孔の内周面と相似形状をなし、第1液室または第2液室に向けて突出する突起部が形成されている。このため、液体を突起部の内周面に沿わせながら、細孔から第1液室または第2液室に流入させることができ、障壁の表面における細孔の開口周縁部で、液体の流れの剥離が生ずるのを抑えることができるとともに、細孔から第1液室または第2液室に流入する液体の速度を抑えることができる。
以上のように、気泡の発生そのものを抑えることができる上、たとえ気泡が発生したとしても、気泡を細かく分散させた状態に維持しやすくすることができるので、気泡が崩壊するキャビテーション崩壊が生じても、発生する異音を小さく抑えることができる。
【0011】
また、前記突起部は、前記障壁の表面における前記細孔の開口周縁部に全周にわたって形成されてもよい。
この場合には、突起部が前記障壁の表面における前記細孔の開口周縁部に全周にわたって形成されているので、細孔の開口周縁部において、周方向の位置によらず全周にわたって、液体の流れの剥離が生ずるのを抑えることができるとともに、細孔から第1液室または第2液室に流入する液体の速度を抑えることができる。
【0012】
また、前記突起部の頂部は、前記孔軸方向に沿う前記細孔の外側に向かうに従い漸次、前記平面視で、前記孔軸方向に直交する孔径方向の厚さが薄くなる鋭角状または曲面状に形成されてもよい。
この場合には、突起部の頂部が、鋭角状または曲面状に形成されているので、この頂部に第1液室または第2液室を向く頂面が形成されることがないため、細孔を通過した液体と突起部の頂部との間で渦流が生ずるのを抑えることが可能になり、気泡の発生を効果的に抑えることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、簡易な構造で防振特性を低下させることなく、キャビテーション崩壊に起因する異音の発生を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の第1実施形態に係る防振装置の縦断面図である。
図2図1に示す防振装置の仕切部材の平面図である。
図3図1に示す第1障壁の一部拡大斜視図である。
図4図1に示す細孔の縦断面図である。
図5】本発明の第2実施形態に係る仕切部材の一部拡大平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(第1実施形態)
以下、本発明に係る防振装置の実施の形態について、図面に基づいて説明する。
図1に示すように、防振装置10は、振動発生部および振動受部のいずれか一方に連結される筒状の第1取付部材11と、振動発生部および振動受部のいずれか他方に連結される第2取付部材12と、第1取付部材11および第2取付部材12を互いに弾性的に連結する弾性体13と、第1取付部材11内を後述する主液室(第1液室)14と副液室(第2液室)15とに区画する仕切部材16と、を備える液体封入型の防振装置である。
【0016】
以下、第1取付部材11の中心軸線O1に沿う方向を軸方向(孔軸方向)という。また、軸方向に沿う第2取付部材12側を上側、仕切部材16側を下側という。また、防振装置10を軸方向から見た平面視において、中心軸線O1に直交する方向を径方向といい、中心軸線O1周りに周回する方向を周方向という。
なお、第1取付部材11、第2取付部材12、および弾性体13はそれぞれ、平面視した状態で円形状若しくは円環状に形成されるとともに、中心軸線O1と同軸に配置されている。
【0017】
この防振装置10が例えば自動車に装着される場合、第2取付部材12が振動発生部としてのエンジンに連結され、第1取付部材11が振動受部としての車体に連結される。これにより、エンジンの振動が車体に伝達することが抑えられる。
【0018】
第2取付部材12は、軸方向に延在する柱状部材であり、下端部が下方に向けて膨出する半球面状に形成されるとともに、この半球面状の下端部より上方に鍔部12aを有している。第2取付部材12には、その上端面から下方に向かって延びるねじ孔12bが穿設され、このねじ孔12bにエンジン側の取付け具となるボルト(図示せず)が螺合される。第2取付部材12は、弾性体13を介して、第1取付部材11の上端開口部に配置されている。
【0019】
弾性体13は、第1取付部材11の上端開口部と第2取付部材12の下部の外周面とにそれぞれ加硫接着されて、これらの間に介在させられたゴム体であって、第1取付部材11の上端開口部を上側から閉塞している。弾性体13は、その上端部が第2取付部材12の鍔部12aに当接することで、第2取付部材12に充分に密着し、第2取付部材12の変位により良好に追従するようになっている。弾性体13の下端部には、第1取付部材11における内周面と下端開口縁の内周部とを液密に被覆するゴム膜17が一体に形成されている。なお、弾性体13としては、ゴム以外にも合成樹脂等からなる弾性体を用いることも可能である。
【0020】
第1取付部材11は、下端部にフランジ18を有する円筒状に形成され、フランジ18を介して振動受部としての車体等に連結される。第1取付部材11の内部のうち、弾性体13より下方に位置する部分が、液室19となっている。本実施形態では、第1取付部材11の下端部に仕切部材16が設けられ、さらにこの仕切部材16の下方にダイヤフラム20が設けられている。仕切部材16の外周部22の上面は、第1取付部材11の下端開口縁に当接している。
【0021】
ダイヤフラム20は、ゴムや軟質樹脂等の弾性材料からなり、有底円筒状に形成されている。ダイヤフラム20の上端部は、仕切部材16の外周部22の下面と、仕切部材16より下方に位置するリング状の保持具21と、によって軸方向に挟まれている。仕切部材16の外周部22の上面に、ゴム膜17の下端部が液密に当接している。
【0022】
このような構成のもとに、第1取付部材11の下端開口縁に、仕切部材16の外周部22、および保持具21が下方に向けてこの順に配置されるとともに、ねじ23によって一体に固定されることにより、ダイヤフラム20は、仕切部材16を介して第1取付部材11の下端開口部に取り付けられている。なお図示の例では、ダイヤフラム20の底部が、外周側で深く中央部で浅い形状になっている。ただし、ダイヤフラム20の形状としては、このような形状以外にも、従来公知の種々の形状を採用することができる。
【0023】
そして、このように第1取付部材11に仕切部材16を介してダイヤフラム20が取り付けられたことにより、前記したように第1取付部材11内に液室19が形成されている。液室19は、第1取付部材11内、すなわち平面視して第1取付部材11の内側に配設され、弾性体13とダイヤフラム20とにより液密に封止された密閉空間となっている。そして、この液室19に液体Lが封入(充填)されている。
【0024】
液室19は、仕切部材16によって主液室14と副液室15とに区画されている。主液室14は、弾性体13の下面13aを壁面の一部として形成されたもので、この弾性体13と第1取付部材11の内周面を液密に覆うゴム膜17と仕切部材16とによって囲まれた空間であり、弾性体13の変形によって内容積が変化する。副液室15は、ダイヤフラム20と仕切部材16とによって囲まれた空間であり、ダイヤフラム20の変形によって内容積が変化する。このような構成からなる防振装置10は、主液室14が鉛直方向上側に位置し、副液室15が鉛直方向下側に位置するように取り付けられて用いられる、圧縮式の装置である。
【0025】
仕切部材16における副液室15側を向く下面のうち、外周部22と径方向の内側に隣り合う部分には、上方に向けて窪む第1保持溝16aが形成されている。第1保持溝16a内にダイヤフラム20の上端部が密に当接することで、ダイヤフラム20と仕切部材16との間が閉塞されている。
また、仕切部材16における主液室14側を向く上面のうち、外周部22と径方向の内側に隣り合う部分には、下方に向けて窪む第2保持溝16bが形成されている。第2保持溝16b内にゴム膜17の下端部が密に当接することで、ゴム膜17と仕切部材16との間が閉塞されている。
【0026】
仕切部材16には、主液室14と副液室15とを連通する制限通路24が形成されている。図1および図2に示すように、制限通路24は、主液室14に開口する第1連通部26、副液室15に開口する第2連通部27、および第1連通部26と第2連通部27とを連通する本体流路25を備えている。
【0027】
本体流路25は、仕切部材16内で周方向に沿って延びていて、本体流路25の流路方向と周方向とは同等の方向になっている。本体流路25は、中心軸線O1と同軸に配置された円弧状に形成され、中心軸線O1を中心とする中心角が180°を超える範囲にわたって延びている。本体流路25は、仕切部材16のうち、主液室14に面する第1障壁28、および副液室15に面する第2障壁29により画成されている。
【0028】
第1障壁28および第2障壁29はいずれも、表裏面が軸方向を向く板状に形成されている。第1障壁28は、本体流路25と主液室14とにより軸方向に挟まれ、本体流路25と主液室14との間に位置している。第2障壁29は、本体流路25と副液室15とにより軸方向に挟まれ、本体流路25と副液室15との間に位置している。
第2連通部27は、第2障壁29を軸方向に貫通する1つの開口部32を備えている。開口部32は、第2障壁29のうち、本体流路25の周方向に沿う一方の端部を形成する部分に配置されている。
【0029】
そして、本実施形態では、第1連通部26は、第1障壁28を軸方向に貫通し、周方向に沿って配置された複数の細孔31を備えている。複数の細孔31は、第1障壁28のうち、本体流路25の周方向に沿う他方の端部を形成する部分に配置されている。複数の細孔31の少なくとも一部は、中心軸線O1を中心とする同心円上に、周方向に間隔をあけて配置された孔列をなしている。
以下では、周方向に沿って、本体流路25の前記一方の端部側を一方側といい、前記他方の端部側を他方側という。また、前記平面視において、細孔31の中心軸線O2(図3参照)に直交する方向を孔径方向、中心軸線O2回りに周回する方向を孔周方向という。中心軸線O2は、軸方向に沿って延びている。
【0030】
複数の細孔31はいずれも、本体流路25の流路断面積より小さく、平面視において第1障壁28および本体流路25の各内側に配置されている。図示の例では、複数の細孔31の長さは、互いに同等になっている。複数の細孔31の内径は、互いに同等になっている。なお、複数の細孔31の長さおよび内径をそれぞれ互いに異ならせてもよい。
細孔31は、第1障壁28に径方向に間隔をあけて複数形成されている。すなわち、前記孔列が、第1障壁28に径方向に間隔をあけて複数配置されている。図示の例では、細孔31は、第1障壁28に径方向に間隔をあけて2つ形成されている。径方向で互いに隣り合う細孔31は、周方向の位置が互いにずらされて配置されている。なお、複数の細孔31は、第1障壁28に、周方向に沿う同等の位置に径方向に間隔をあけて配置してもよい。
【0031】
細孔31の横断面積は、例えば25mm以下、好ましくは2mm以上8mm以下としてもよい。
なお、複数の細孔31それぞれの横断面積を複数の細孔31全てについて合計した、第1連通部26全体の流路断面積は、本体流路25における流路断面積の最小値の例えば1.8倍以上4.0倍以下としてもよい。
【0032】
また本実施形態では、図2および図3に示すように、第1障壁28のうち、主液室14に面する表面28aにおける細孔31の開口周縁部に、主液室14に向けて突出する突起部40が全周にわたって形成されている。図示の例では、突起部40は全周にわたって連続して形成されている。突起部40は、第1障壁28の表面28aにおける全ての細孔31の開口周縁部に形成されている。なお、突起部40は、第2障壁29のうち、副液室15に面する表面29aに形成されてもよい。
突起部40の軸方向の大きさは、細孔31の内径よりも小さくなっている。これにより、細孔31および突起部40全体の軸方向の大きさが大きくなるのを抑え、細孔31から主液室14に流入する液体の流速が増加するのを抑えることができる。突起部40の軸方向の大きさは、突起部40の内周面と外周面との間における孔径方向の大きさと同等となっている。複数の突起部40は、互いに同形同大をなしている。なお、複数の突起部40は、互いに異なる形状、異なる大きさに形成されてもよい。
【0033】
また突起部40は、第1障壁28の表面28aにおける複数の細孔31のうち、少なくとも、流路方向に沿って第1連通部26および第2連通部27のうちのいずれか他方から最も離間して位置する細孔31の開口周縁部に形成されている。図示の例では、第1障壁28の表面28aにおける複数の細孔31のうち、少なくとも、流路方向に沿って第2連通部27から最も離間して位置する細孔31の開口周縁部に形成されている。
【0034】
これにより、本体流路25を流れる液体Lの慣性によって流量が多くなる細孔31の、前記表面28aにおける開口周縁部に突起部40が形成されることとなり、流路方向に沿って第2連通部27に最も接近して位置する細孔31の、前記表面28aにおける開口周縁部にのみ形成されている構成と比較して、後述する突起部40による作用効果を顕著に奏功させることができる。なお、突起部40は、第1障壁28の表面28aにおける複数の細孔31のうち、少なくとも、流路方向に沿って第2連通部27に最も近接して位置する細孔31の開口周縁部に形成されてもよい。
【0035】
また本実施形態では、細孔31の軸方向から見た平面視で、突起部40の内周面は、細孔31の内周面と相似形状をなしている。図示の例では、図4に示すように、突起部40の内周面は、細孔31の内周面と孔径方向に段差なく連なっている。なお、突起部40の内周面および細孔31の内周面を互いに、孔径方向に離間させてもよい。
【0036】
図4に示すように、突起部40の頂部40aは、上方に向かうに従い漸次、前記平面視で、孔径方向に沿う厚さが薄くなる鋭角状または曲面状に形成されている。図示の例では、頂部40aは、上方に向けて突の曲面状に形成され、突起部40の内周面と外周面との間における孔径方向の中央部に位置している。
【0037】
このような構成からなる防振装置10では、振動入力時に、両取付部材11、12が弾性体13を弾性変形させながら相対的に変位する。すると、主液室14の液圧が変動し、主液室14内の液体Lが制限通路24を通って副液室15に流入し、また、副液室15内の液体Lが制限通路24を通って主液室14に流入する。
【0038】
そして本実施形態に係る防振装置10によれば、液体Lが、複数の細孔31を通して本体流路25から主液室14に流入する際に、これらの細孔31が形成された第1障壁28により圧力損失させられながら各細孔31を流通するため、主液室14に流入する液体Lの流速を抑えることができる。
【0039】
しかも、液体Lが、単一の細孔31ではなく複数の細孔31を流通するので、液体Lを複数に分岐させて流通させることが可能になり、個々の細孔31を通過した液体Lの流速を低減させることができる。これにより、仮に防振装置10に大きな荷重(振動)が入力されたとしても、細孔31を通過して主液室14に流入した液体Lと、主液室14内の液体Lと、の間で生じる流速差を小さく抑えることが可能になり、流速差に起因する渦の発生、およびこの渦に起因する気泡の発生を抑えることができる。
また、仮に気泡が主液室14ではなく本体流路25で発生しても、液体Lを、複数の細孔31を通過させることで、発生した気泡同士を、主液室14内で離間させることが可能になり、気泡が合流して成長するのを抑えて気泡を細かく分散させた状態に維持しやすくすることができる。
【0040】
また、第1障壁28の表面28aにおける細孔31の開口周縁部に、内周面が、前記平面視で細孔31の内周面と相似形状をなし、主液室14に向けて突出する突起部40が全周にわたって形成されている。このため、液体Lを突起部40の内周面に沿わせながら、細孔31から主液室14に流入させることができ、第1障壁28の表面28aにおける細孔31の開口周縁部で、液体Lの流れの剥離が生ずるのを抑えることができるとともに、細孔31から主液室14に流入する液体Lの速度を抑えることができる。
以上のように、気泡の発生そのものを抑えることができる上、たとえ気泡が発生したとしても、気泡を細かく分散させた状態に維持しやすくすることができるので、気泡が崩壊するキャビテーション崩壊が生じても、発生する異音を小さく抑えることができる。
【0041】
また、突起部40が、第1障壁28の表面28aにおける細孔31の開口周縁部に全周にわたって形成されているので、細孔31の開口周縁部において、周方向の位置によらず全周にわたって、液体の流れの剥離が生ずるのを抑えることができるとともに、細孔31から主液室14または副液室15に流入する液体の速度を抑えることができる。
【0042】
また、突起部40の頂部40aが、曲面状に形成されているので、この頂部40aに主液室14を向く頂面が形成されることがないため、細孔31を通過した液体Lと突起部40の頂部との間で渦流が生ずるのを抑えることが可能になり、気泡の発生を効果的に抑えることができる。
【0043】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態に係る防振装置について説明する。なお、第1実施形態と同様の構成には同一の符号を付してその説明は省略し、異なる点についてのみ説明する。また、同様の作用についてもその説明を省略する。
【0044】
図5に示すように、本実施形態に係る防振装置では、突起部40Bは、第1障壁28のうち、主液室14に面する表面28aにおける細孔31の開口周縁部に、全周にわたって断続的に形成されている。すなわち突起部40Bには、孔周方向に間隔をあけて複数の間欠部41が形成されている。図示の例では、突起部40Bには、孔周方向に等間隔をあけて5つの間欠部が形成されている。複数の間欠部41の周長の総和は、細孔31の開口周縁部の周長の2割以下であることが望ましい。
【0045】
複数の間欠部41は、表面28aにおける細孔31の開口周縁部において、中心軸線O2を孔径方向に挟む各位置を回避した部分に形成されている。すなわち、間欠部41は突起部40Bの内周面と孔径方向に対向している。
このように、間欠部41が突起部40Bの内周面と孔径方向に対向していることから、液体が細孔31を通して本体流路25から主液室14に流入する際に、複数の間欠部41で仮に気泡が発生したとしても、これらの気泡が主液室14内を流通するときに、細孔31から主液室14に流入する液体の流れに乗って、互いに合流するのを抑制することができる。
【0046】
なお、本発明の技術的範囲は前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、前記実施形態においては、突起部40、40Bの頂部40aが、鋭角状または曲面状に形成されている構成を示したが、このような態様に限られない。頂部40aは、平坦面上に形成されてもよい。
【0047】
また、前記実施形態では、細孔31を、第1障壁28に形成したが、第2障壁29に形成してもよいし、第1障壁28および第2障壁29の双方に形成してもよい。
また、前記実施形態では細孔31を、円柱状(真っ直ぐな円孔形状)に形成したが、漸次縮径する円錐台状に形成してもよい。
【0048】
また、前記実施形態では、複数の細孔31を、横断面視円形状に形成したが、本発明はこれに限られない。例えば、複数の細孔31を、横断面視角形状に形成する等適宜変更してもよい。
また、前記実施形態では、第1連通部26が複数の細孔31を備えているが、例えば細孔31より大径の開口、および細孔31の双方を有する構成等を採用してもよい。また、第2連通部27が、周方向(本体流路25の流路方向)に沿って配置された複数の開口部32を備えていてもよい。
【0049】
また、前記実施形態では、仕切部材16を第1取付部材11の下端部に配置し、仕切部材16の外周部22を第1取付部材11の下端開口縁に当接させているが、例えば仕切部材16を第1取付部材11の下端開口縁より充分上方に配置し、この仕切部材16の下側、すなわち第1取付部材11の下端部にダイヤフラム20を配設することで、第1取付部材11の下端部からダイヤフラム20の底面にかけて副液室15を形成するようにしてもよい。
【0050】
また、前記実施形態では、支持荷重が作用することで主液室14に正圧が作用する圧縮式の防振装置10について説明したが、主液室14が鉛直方向下側に位置し、かつ副液室15が鉛直方向上側に位置するように取り付けられ、支持荷重が作用することで主液室14に負圧が作用する吊り下げ式の防振装置にも適用可能である。
また、前記実施形態では、仕切部材16が、第1取付部材11内の液室19を、弾性体13を壁面の一部に有する主液室14、および副液室15に仕切るものとしたが、これに限られるものではない。例えば、ダイヤフラム20を設けるのに代えて弾性体13を設け、副液室15を設けるのに代えて、弾性体13を壁面の一部に有する受圧液室を設けてもよい。例えば、仕切部材16が、液体Lが封入される第1取付部材11内の液室19を、主液室14および副液室15に仕切り、主液室14および副液室15のうちの少なくとも1つが、弾性体13を壁面の一部に有する他の構成に適宜変更することが可能である。
また、本発明に係る防振装置10は、車両のエンジンマウントに限定されるものではなく、エンジンマウント以外に適用することも可能である。例えば、建設機械に搭載された発電機のマウントにも適用することも可能であり、或いは、工場等に設置される機械のマウントに適用することも可能である。
【0051】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上記した実施形態や変形例を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0052】
10 防振装置
11 第1取付部材
12 第2取付部材
13 弾性体
14 主液室(第1液室)
15 副液室(第2液室)
16 仕切部材
19 液室
24 制限通路
25 本体流路
26 第1連通部
27 第2連通部
28 第1障壁
28a 表面
29 第2障壁
31 細孔
40、40B 突起部
40a 頂部

図1
図2
図3
図4
図5