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  • 特許-回転制動装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-19
(45)【発行日】2022-10-27
(54)【発明の名称】回転制動装置
(51)【国際特許分類】
   F16D 63/00 20060101AFI20221020BHJP
   F16F 15/03 20060101ALI20221020BHJP
   F16F 9/12 20060101ALI20221020BHJP
   F16F 9/53 20060101ALI20221020BHJP
   F16D 41/06 20060101ALI20221020BHJP
【FI】
F16D63/00 R
F16F15/03 F
F16F9/12
F16F9/53
F16D63/00 P
F16D41/06 F
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2017154151
(22)【出願日】2017-08-09
(65)【公開番号】P2019032050
(43)【公開日】2019-02-28
【審査請求日】2020-05-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000142595
【氏名又は名称】株式会社栗本鐵工所
(74)【代理人】
【識別番号】100149870
【弁理士】
【氏名又は名称】芦北 智晴
(72)【発明者】
【氏名】赤岩 修一
【審査官】山本 健晴
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-291482(JP,A)
【文献】特開2014-021058(JP,A)
【文献】米国特許第05993358(US,A)
【文献】特表平10-506175(JP,A)
【文献】特開2002-145030(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 63/00
F16F 15/03
F16F 9/12
F16F 9/53
F16D 41/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータまたは油圧モータによって回転駆動される回転制動対象物に対して制動力を付与する回転制動装置であって、
内部に封入された磁気粘性流体に磁場を付与する電磁石を内部に含み、前記磁気粘性流体に付与する磁場の強さを変えることで回転自在に支持された制動力出力部の制動力を変化させる制動装置本体と、
前記制動力出力部と前記回転制動対象物との間に、前記回転制動対象物の一方向の回転力を前記制動力出力部に伝達し、前記回転制動対象物の他方向の回転力を前記制動力出力部に伝達しないように、設けられたワンウェイクラッチと、
を備えることを特徴とする回転制動装置。
【請求項2】
電動モータまたは油圧モータによって回転駆動される回転制動対象物に対して制動力を付与する回転制動装置であって、
内部に封入された磁気粘性流体に付与する磁場の強さを変えることで制動力出力部の制動力を変化させる制動装置本体と、
前記制動力出力部と前記回転制動対象物との間に設けられたワンウェイクラッチと、
を備え、
前記制動装置本体は、
前記磁気粘性流体および前記制動力出力部の他に、
ヨークとして機能するケーシングと、
前記ケーシングの内部に配置され前記制動力出力部に固定された円板と、
コイルと、
を含み、
前記制動力出力部は、前記ケーシングに回転自在に支持され、
前記コイルおよび前記ケーシングは、前記磁気粘性流体に付与する前記磁場を形成する電磁石として機能する、
ことを特徴とする回転制動装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の回転制動装置において、
前記制動力出力部と前記回転制動対象物との間に、前記ワンウェイクラッチと減速機とが直列的に設けられたことを特徴とする回転制動装置。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の回転制動装置において、
前記制動力出力部と前記ワンウェイクラッチとの間に減速機が設けられたことを特徴とする回転制動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転制動対象物に対して制動力を付与する回転制動装置に関し、特に、内部に封入された磁気粘性流体に印加する磁場の強さを変えることで回転制動対象物に対する制動力を変化させる回転制動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、内部に封入された磁気粘性流体に印加する磁場の強さを変えることで回転制動対象物に付与する制動力を変化させる回転制動装置が知られている。このような装置は、例えば特許文献1~3に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-181778号公報
【文献】特開2013-170640号公報
【文献】特開2011-202746号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の回転制動装置では、磁気粘性流体に積極的に磁場を印加しなくても(電磁石への給電をOFFにしても)、磁気粘性流体の粘性、シール材の摺動抵抗、ベアリングの摩擦抵抗などによってシャフトに一定の回転抵抗(以下「基底トルク」という。)が生じる。更に、回転制動装置の磁気回路上の磁性体が残留磁気を帯びた場合、残留磁気によって磁気粘性流体に弱い磁場が付与され、基底トルクが大きくなってしまうという問題がある。基底トルクが大きくなると、制動力をゼロ近傍にすることが困難となるとともに、制動力の可変範囲が狭くなってしまう。
【0005】
また、回転制動対象物が、モータによって駆動され、上記従来の回転制動装置によって制動されるものである場合、回転制動対象物がモータによって回転駆動されている時に、回転制動装置による制動をOFFにしても(電磁石への給電をOFFにしても)、モータには基底トルク分の負荷が余分に掛かり、余分な電力を消費してしまう。さらに、回転制動装置の制動力を増幅させるために、回転制動対象物と回転制動装置との間に減速機を設けた場合は、制動力の増幅率と同じ割合で基底トルクも増幅されてしまい、さらにモータに負荷が掛かってしまう。
【0006】
ところで、回転制動対象物には、一方向の回転制動のみを必要とし、他方向の回転制動を必要としないものがある。この種の回転制動対象物に従来の回転制動装置を適用した場合、他方向の回転制動を必要としないにもかかわらず、回転制動対象物がモータにより他方向に回転駆動されている時に、回転制動装置による制動をOFFにしても(電磁石への給電をOFFにしても)、前述したように、モータには基底トルク分の負荷が余分に掛かり、余分な電力を消費してしまう。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みて創案されたものであり、何れか片方向への回転力が回転制動対象物から入力される時に、その回転力に抗する基底トルクを極めて小さくすることのできる回転制動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る回転制動装置は、内部に封入された磁気粘性流体に付与する磁場の強さを変えることで制動力出力部の制動力を変化させる制動装置本体と、前記制動力出力部と回転制動対象物との間に設けられたワンウェイクラッチと、を備えることを特徴としている。
【0009】
かかる構成を備える回転制動装置によれば、回転制動対象物の何れか片方向の回転力はワンウェイクラッチから回転制動装置本体側に伝達されないため、その回転力に抗する回転制動装置全体での基底トルクを極めて小さくすることができる。
【0010】
前記回転制動装置において、前記制動力出力部と回転制動対象物との間に、前記ワンウェイクラッチと減速機とが直列的に設けられたものとしてもよい。
【0011】
より好ましくは、前記制動力出力部と前記ワンウェイクラッチとの間に減速機が設けられたものとするのがよい。
【0012】
かかる構成を備える回転制動装置によれば、何れか片方向の回転力が回転制動対象物から入力される時の基底トルクは、減速機の有無に関わらず極めて小さくなり、もう片方向の回転力が回転制動対象物から入力される時の最大制動力のみを減速機によって増幅させることができる。このため、回転制動対象物が片方向に回転するときの最小制動力(基底トルク)と、もう片方向に回転するときの最大制動力との差(制動力の可変範囲)を大きくすることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る回転制動装置によれば、何れか片方向への回転力が回転制動対象物から入力される時に、その回転力に抗する基底トルクを極めて小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施の形態に係る回転制動装置、回転制動対象物、電動モータ等を示す概略図である。
図2】制動装置本体の一例を示す断面図である。
図3】他の実施の形態に係る回転制動装置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態に係る回転制動装置について、図面を参照しつつ説明する。図1に示すように、本発明の実施の形態に係る回転制動装置1は、制動装置本体2、減速機3、ワンウェイクラッチ4等で構成されている。
【0016】
制動装置本体2は、内部に封入された磁気粘性流体に付与する磁場の強さを変えることで制動力出力部(シャフト6)の制動力を変化させる。この制動装置本体2の一例を図2に示す。
【0017】
図2に示す制動装置本体2は、回転部7、ケーシング8、コイル9、磁気粘性流体10等で構成されている。
【0018】
回転部7は、制動力出力部であるシャフト6と、中心にシャフト6の基端部が固定された円板12とを備えている。シャフト6は、ケーシング8に形成された軸穴に回転自在に支持されている。
【0019】
ケーシング8は、上記円板12を回転自在に収容している。ケーシング8内には、円板12の他に、シャフト6と同心状に巻かれたコイル9が設けられている。本実施形態では、ケーシング8が回転しないように固定され、シャフト6のみが回転するようにして使用される。但し、使用形態がこれに限定される訳ではない。なお、ケーシング8は磁性体で構成され、電磁石のヨークとしても機能する。
【0020】
コイル9は、電源線13を介して外部から電流値制御可能に電流が供給される。コイル9に電流が印加されると、図2の矢印Pが示す方向に沿って、ケーシング8、円板12およびこれらの隙間に介在する磁気粘性流体10上に磁路が形成される。
【0021】
磁気粘性流体10は、ケーシング8内の封入空間17に封入されている。図2では、灰色に塗り潰した領域が封入空間17を表す。この磁気粘性流体5は、円板12とケーシング8との隙間に介在し、円板12とケーシング8との間で、印加される磁場の強さに応じたトルク伝達を行い、当該磁場の強さに応じてシャフト6から回転制動対象物14に伝達される制動力が大きくなる。
【0022】
減速機3は、制動装置本体2のシャフト6と回転制動対象物14との間において、ワンウェイクラッチ5とともに、直列的に設けられている(連結されている)。より詳しくは、図1に示すように、減速機3の入力側(低回転速度側)に制動装置本体2のシャフト6が連結され、減速機3の出力側(高回転速度側)にワンウェイクラッチ4の一方が連結されている。
【0023】
ワンウェイクラッチ4は、制動装置本体2のシャフト6に一方が連結され、回転制動対象物14に他方が連結されている。ワンウェイクラッチ4は、回転制動対象物14の一方向の回転力を制動装置本体2側に伝達し、回転制動対象物14の他方向の回転力を制動装置本体2側に伝達しない。
【0024】
回転制動対象物14は、好ましくは、一方向の回転の制動のみを必要とし、他方向の回転の制動を必要としないものである。
【0025】
本実施形態では、回転制動対象物14を回転駆動させる回転駆動装置として、電動モータ15が設置されている。なお、電動モータ15は、回転制動対象物14を回転駆動させる回転駆動装置の一例であり、電動モータ15に代えて、他の種類の回転駆動装置(例えば油圧モータ等)を用いることもできる。
【0026】
以上の構成を備える回転制動装置1では、回転制動対象物14の一方向の回転力は、ワンウェイクラッチ4および減速機3を介して回転制動装置本体2のシャフト6に伝達される。このとき、回転制動装置本体2内の磁気粘性流体10に印加される磁場の強さに応じた制動力が回転制動装置本体2のシャフト6から減速機3を介して回転制動対象物14に伝達される。
【0027】
一方、回転制動対象物14の他方向の回転力はワンウェイクラッチ4から回転制動装置本体2側に伝達されない。このため、回転制動対象物14が他方向に回転するときは、ワンウェイクラッチ4を含んでなる回転制動装置1の回転制動対象物14と接続される部分(本実施形態ではワンウェイクラッチ4の他方の軸4a)を回転させるのに必要な最低トルク(基底トルク)は殆どゼロとなる。
【0028】
このように、本発明の実施の形態に係る回転制動装置1によれば、回転制動対象物14から他方向への回転力が入力される時に、その回転力に抗する基底トルクが極めて小さくなる。また、そのことによって、回転制動対象物14から他方向への回転力が入力される時の基底トルクと、回転制動対象物14から一方向への回転力が入力される時に回転制動装置1が発揮する最大制動力との差(制動力の可変範囲)が大きくなる。特に、本実施形態に係る回転制動装置1は、減速機3を備えていることから、制動力の可変範囲は更に広くなる。なお、制動力の可変範囲は、回転制動装置の性能を評価する上で重要なポイントの一つであり、制動力の可変範囲は広いほど、回転制動装置の用途範囲が広まり、優れた回転制動装置として評価される。
【0029】
また、図1に示す例では、回転制動対象物14が電動モータ15によって他方向に回転駆動される際に、回転制動装置1の基底トルクが殆どゼロとなることから、その分、電動モータ15の消費電力が少なくて済む。
【0030】
<他の実施形態>
既述した実施形態においては、回転制動装置1の減速機3は、制動装置本体2のシャフト6とワンウェイクラッチ4との間に設けられていたが、図3に示すように、減速機3を回転制動対象物14とワンウェイクラッチ4との間に設けた回転制動装置1Aとしても一定の作用効果が得られる。但し、他方向に回転する時の回転制動装置1Aの基底トルクは、減速機3の回転抵抗の分だけ、回転制動装置1の基底トルクよりも大きくなってしまうため、基底トルクを小さくするという点では回転制動装置1Aより回転制動装置1の方が有利である。
【0031】
また、既述した実施形態においては、回転制動装置1は、大きな制動力を発揮するために、減速機3を含んだ構成となっていたが、大きな制動力を必要としない場合は、回転制動装置1において減速機3を省略したものとしてもよい。
【0032】
また、既述した実施形態においては、制動装置本体2は、電磁石に供給する電流値を変えることで内部に封入された磁気粘性流体10に印加する磁場の強さを変えるものであるが、磁気粘性流体に付与する磁場の強さを変えることで制動力出力部(シャフト6)の制動力を変化させるものであれば、電磁石を用いない制動装置本体であってもよい。例えば、永久磁石を用いて磁気粘性流体に磁場を印加し、当該永久磁石の位置を変えることにより、磁気粘性流体に印加する磁場の強さを変えることで制動力出力部の制動力を変化させるものを回転制動装置の制動装置本体として採用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、例えば、外部に制動力を付与する回転制動装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0034】
1 回転制動装置
2 制動装置本体
3 減速機
4 ワンウェイクラッチ
6 シャフト(制動力出力部)
10 磁気粘性流体
14 回転制動対象物
図1
図2
図3