(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-19
(45)【発行日】2022-10-27
(54)【発明の名称】オイルリフター、ポンプ装置およびオイルリフターの製造方法
(51)【国際特許分類】
F04D 29/12 20060101AFI20221020BHJP
F04D 29/70 20060101ALN20221020BHJP
【FI】
F04D29/12 B
F04D29/70 G
(21)【出願番号】P 2018133806
(22)【出願日】2018-07-17
【審査請求日】2021-06-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001298
【氏名又は名称】弁理士法人森本国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】桝谷 英俊
(72)【発明者】
【氏名】浦野 健司
(72)【発明者】
【氏名】荒木 慎一郎
【審査官】高吉 統久
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-044316(JP,A)
【文献】特開2001-227652(JP,A)
【文献】特開2001-221190(JP,A)
【文献】特開2012-207550(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0037861(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 29/046
F04D 29/12
F04D 29/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
立設された回転軸を備えたポンプ装置のオイル室内において、オイル室に挿通される回転軸を軸封する軸封部材の外周を囲繞するように配設されるオイルリフターであって、
内部に回転軸が挿通される筒状の本体部と、
本体部の下端から外方へ環状に張り出した下部フランジと、
本体部の下部において開口し、オイル室内のオイルを本体部内に流入させるオイル流入部と、
本体部の内周面に設けられ、回転軸の回転方向に対して上り勾配で傾斜して、オイル流入部から本体部内に流入したオイルを上方へ導くオイル案内部と、
本体部の下部の外方においてオイル流入部を取り囲む堰部とを有
し、
下部フランジはオイル室内の底部に接合可能であり、
下部フランジのオイル流入部に対応する箇所において、内周側から切り欠かれた切欠部を形成することにより、下部フランジを堰部として兼用することを特徴とするオイルリフター。
【請求項2】
立設された回転軸を備えたポンプ装置のオイル室内において、オイル室に挿通される回転軸を軸封する軸封部材の外周を囲繞するように配設されるオイルリフターであって、
内部に回転軸が挿通される筒状の本体部と、
本体部の下部において開口し、オイル室内のオイルを本体部内に流入させるオイル流入部と、
本体部の内周面に設けられ、回転軸の回転方向に対して上り勾配で傾斜して、オイル流入部から本体部内に流入したオイルを上方へ導くオイル案内部と、
本体部の下部の外方においてオイル流入部を取り囲む堰部と、
本体部の上部から外方へ環状に張り出した上部フランジとを有し、
径方向における上部フランジの外周縁が堰部の外周縁よりも外側又は堰部の外周縁と同位置にあることを特徴とするオイルリフター。
【請求項3】
上部フランジの外縁部が下方へ垂下又は傾斜していることを特徴とする請求項2記載のオイルリフター。
【請求項4】
堰部の上端の位置がオイル流入部の開口上端の位置以上の高さであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のオイルリフター。
【請求項5】
上記請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のオイルリフターを備えたポンプ装置であって、
立設された回転軸に沿って動力室とオイル室とポンプ室とがこの順序で配設され、
オイル室に挿通される回転軸を軸封する軸封部材がオイル室内に設けられ、
オイルリフターは、オイル室内の底部に固定されて、軸封部材の外周を囲繞することを特徴とするポンプ装置。
【請求項6】
上記請求項1に記載のオイルリフターの製造方法であって、
内周側から切り欠かれた切欠部を備えた下部フランジを、本体部の下端に接合する接合工程を有することを特徴とするオイルリフターの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポンプ装置の軸封部材を囲むように配設されるオイルリフター、オイルリフターを備えたポンプ装置、およびオイルリフターの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のオイルリフターとしては、例えば
図24,
図25に示すように、水中ポンプのオイル室101を上下方向に挿通するポンプ軸102の軸封部材103の外周を囲繞するように配設されたオイルリフター104がある。
【0003】
オイルリフター104は、円筒状の本体部105と、オイル室101内のオイル106を本体部105内に流入させるオイル流入部107と、本体部105の内周面に設けられたガイドベーン108と、本体部105内のオイル106を本体部105の上端から外部へ吐出するオイル吐出部109とを有している。
【0004】
オイル流入部107は本体部105の下端部に形成された開口溝である。また、ガイドベーン108は、ポンプ軸102の回転方向に対して上り勾配で傾斜し、オイル流入部107から本体部105内に流入したオイル106を掻き上げるものである。
【0005】
また、オイル室101内の底部には、下方に窪んだポケット110が円環状に形成されている。このポケット110はオイルリフター104の外周下端よりも径方向における外側に位置している。
【0006】
これによると、ポンプ軸102の回転に伴って軸封部材103の一部が回転し、オイルリフター104の本体部105内のオイル106が旋回しながらガイドベーン108の傾斜面に沿って押し上げられ、オイル室101内のオイル106がオイルリフター104の外部からオイル流入部107を通って本体部105内に流入するとともに、本体部105内のオイル106がオイル吐出部109からオイルリフター104の上端外部に吐出される。これにより、オイル室101内のオイル106の量が減った場合でも、軸封部材103の摺動部が潤滑および冷却される。
【0007】
また、オイル室101内に侵入した水やごみ、砂等の異物は沈下してポケット110内に蓄積される。
【0008】
尚、上記のようなオイルリフターを備えた水中ポンプは例えば下記特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記の従来形式では、オイル室101内の底面にポケット110を形成するための加工に手間を要するといった問題やオイル室101が上下方向において大きくなってしまうという問題があり、これらの問題を解消するため、ポケット110を形成せず、
図26に示すように、オイル室101内の底部111を平坦にし、この底部111にオイルリフター104を固定することが考えられる。
【0011】
しかしながら、
図26に示すような構成では、オイル室101内に侵入して底部111に沈下した異物112が、オイル106と共に、オイルリフター104の外部からオイル流入部107を通って本体部105内に入り込み、軸封部材103の摺動部に噛み込む等して、軸封部材103が損傷する虞がある。
【0012】
本発明は、オイル室内に侵入した異物がオイル流入部から本体部内に入り込むのを抑制することが可能なオイルリフター、ポンプ装置およびオイルリフターの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本第1発明は、立設された回転軸を備えたポンプ装置のオイル室内において、オイル室に挿通される回転軸を軸封する軸封部材の外周を囲繞するように配設されるオイルリフターであって、
内部に回転軸が挿通される筒状の本体部と、
本体部の下端から外方へ環状に張り出した下部フランジと、
本体部の下部において開口し、オイル室内のオイルを本体部内に流入させるオイル流入部と、
本体部の内周面に設けられ、回転軸の回転方向に対して上り勾配で傾斜して、オイル流入部から本体部内に流入したオイルを上方へ導くオイル案内部と、
本体部の下部の外方においてオイル流入部を取り囲む堰部とを有し、
下部フランジはオイル室内の底部に接合可能であり、
下部フランジのオイル流入部に対応する箇所において、内周側から切り欠かれた切欠部を形成することにより、下部フランジを堰部として兼用するものである。
【0014】
これによると、回転軸の回転に伴って軸封部材の一部が回転し、オイルリフターの本体部内のオイルが、回転軸の回転方向に旋回しながらオイル案内部に沿って上昇し、本体部の上部からオイルリフターの外部へ流出する。このようにしてオイルリフターの外部へ流出したオイルはオイル室内からオイル流入部を通って本体部内に流入する。これにより、オイル室内のオイルがオイルリフターの内外を循環し、軸封部材がオイルによって潤滑および冷却される。
【0015】
この際、オイル室内の沈降性の異物は、堰部が障壁となって堰き止められることにより、オイル流入部から本体部内に入り込むことを抑制される。これにより、異物が軸封部材の摺動部に噛み込むのを阻止し、軸封部材の損傷を防止することができる。
【0019】
また、下部フランジをオイル室内の底部に接合することにより、オイルリフターをオイル室内に容易に固定することができる。また、下部フランジを堰部として兼用しているため、下部フランジはオイルリフターを固定する機能と異物を堰き止める機能との両者を有することになり、オイルリフターを構成する部品を減らすことができる。
【0020】
本第2発明は、立設された回転軸を備えたポンプ装置のオイル室内において、オイル室に挿通される回転軸を軸封する軸封部材の外周を囲繞するように配設されるオイルリフターであって、
内部に回転軸が挿通される筒状の本体部と、
本体部の下部において開口し、オイル室内のオイルを本体部内に流入させるオイル流入部と、
本体部の内周面に設けられ、回転軸の回転方向に対して上り勾配で傾斜して、オイル流入部から本体部内に流入したオイルを上方へ導くオイル案内部と、
本体部の下部の外方においてオイル流入部を取り囲む堰部と、
本体部の上部から外方へ環状に張り出した上部フランジとを有し、
径方向における上部フランジの外周縁が堰部の外周縁よりも外側又は堰部の外周縁と同位置にあるものである。
【0021】
これによると、オイルリフターのオイル流入部から本体部内に流入したオイルは、本体部内をオイル案内部に沿って上昇し、その後、本体部内から上部フランジに沿ってオイルリフターの外部へ吐出される。
【0022】
この際、万一、オイル室内の異物が堰部を乗り越えてオイル流入部から本体部内に入り込んでも、異物は、オイルと共に上昇し、本体部内から上部フランジに沿ってオイルリフターの外部へ吐出され、上部フランジ上を上部フランジの外周縁まで移動して、上部フランジの外周縁から落下する。
【0023】
ここで、径方向における上部フランジの外周縁が堰部の外周縁よりも外側又は堰部の外周縁と同位置にあるため、上記のように上部フランジの外周縁から落下した異物は堰部の外側に落下する。これにより、オイルリフターの内部から外部に吐出された異物が堰部の内側に落下して再びオイルリフターの内部に入り込むといった不具合を防止することができる。
【0024】
本第3発明におけるオイルリフターは、上部フランジの外縁部が下方へ垂下又は傾斜しているものである。
【0025】
これによると、オイルリフターの内部から外部へ吐出された異物は、上部フランジ上を上部フランジの外周縁まで移動し、確実に、上部フランジの外周縁から堰部の外側に落下する。
【0026】
本第4発明におけるオイルリフターは、堰部の上端の位置がオイル流入部の開口上端の位置以上の高さであるものである。
これによると、オイル室内の異物がより確実に堰き止められるため、異物が本体部内に入り込むことを抑制される効果がさらに向上する。
本第5発明は、上記第1発明から第4発明のいずれか1項に記載のオイルリフターを備えたポンプ装置であって、
立設された回転軸に沿って動力室とオイル室とポンプ室とがこの順序で配設され、
オイル室に挿通される回転軸を軸封する軸封部材がオイル室内に設けられ、
オイルリフターは、オイル室内の底部に固定されて、軸封部材の外周を囲繞するものである。
【0027】
本第6発明は、上記第1発明に記載のオイルリフターの製造方法であって、
内周側から切り欠かれた切欠部を備えた下部フランジを、本体部の下端に接合する接合工程を有するものである。
【0028】
これによると、下部フランジを本体部の下端に接合することにより、異物の内部への侵入を抑制する機能を有するオイルリフターを容易に製造することができる。
【発明の効果】
【0029】
以上のように本発明によると、オイル室内の沈降性の異物は、オイルリフターの堰部が障壁となって堰き止められることにより、オイル流入部から本体部内に入り込むことを抑制される。これにより、異物が軸封部材に噛み込むのを阻止し、軸封部材の損傷を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明の第1の実施の形態における水中ポンプの図である。
【
図2】同、水中ポンプの軸封部分の拡大断面図である。
【
図3】同、水中ポンプ内に設けられるオイルリフターの斜視図である。
【
図6】同、オイルリフターの一部拡大断面図である。
【
図8】本発明の第2の実施の形態におけるオイルリフターの断面図である。
【
図10】同、オイルリフターの一部拡大断面図である。
【
図11】本発明の第3の実施の形態におけるオイルリフターの断面図である。
【
図13】同、オイルリフターの一部拡大断面図である。
【
図15】本発明の第4の実施の形態におけるオイルリフターの断面図である。
【
図16】同、オイルリフターの一部切欠き平面図である。
【
図17】同、オイルリフターの一部拡大断面図である。
【
図18】本発明の第5の実施の形態におけるオイルリフターの断面図である。
【
図20】本発明の第6の実施の形態におけるオイルリフターの断面図である。
【
図22】本発明の第7の実施の形態におけるオイルリフターの斜視図である。
【
図23】同、オイルリフターの一部拡大断面図である。
【
図24】従来の水中ポンプの軸封部分の拡大断面図である。
【
図25】同、水中ポンプの軸封部分に設けられるオイルリフターの斜視図である。
【
図26】同、水中ポンプの軸封部分の拡大断面図であり、ポケットを形成していない構成を示す。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明における実施の形態を、図面を参照して説明する。
【0032】
(第1の実施の形態)
図1に示すように、本発明の第1の実施の形態に係る水中ポンプ1(ポンプ装置の一例)は、上下方向に立設された回転軸2を有し、この回転軸2に沿って動力室3とオイル室4とポンプ室5とがこの順序で上から下に配設されている。
【0033】
回転軸2の下端には羽根車7が取り付けられ、羽根車7はポンプ室5内に収容されている。ポンプ室5には吸込口8と吐出口9とが設けられている。動力室3内には、回転軸2を回転駆動させるモータ10等が収容されている。
【0034】
回転軸2は動力室3内からオイル室4内に挿通されてポンプ室5内に達している。オイル室4内には、回転軸2を軸封する軸封部材14が設けられている。
【0035】
図2に示すように、軸封部材14は、回転軸2に外嵌されたメカニカルシールであり、上部の固定環15、上部の回転環16、下部の固定環17、下部の回転環18、およびコイルばね19等を有している。
【0036】
上部の固定環15は、回転軸2と分離され、オイル室4の天井部21に固定されている。また、下部の固定環17は、回転軸2と分離され、オイル室4の底部22に固定されている。
【0037】
上部の回転環16は、回転軸2と一体に回転可能であり、コイルばね19の付勢力によって下方から上部の固定環15に押圧され、上部の固定環15に対して周方向に摺動自在である。同様に、下部の回転環18は、回転軸2と一体に回転可能であり、コイルばね19の付勢力によって上方から下部の固定環17に押圧され、下部の固定環17に対して周方向に摺動自在である。
【0038】
このような構成により、上部の固定環15の下面と上部の回転環16の上面との接触部ならびに下部の固定環17の上面と下部の回転環18の下面との接触部が軸封部材14の摺動部を形成している。
【0039】
オイル室4内には、軸封部材14の外周を囲繞するオイルリフター25が設けられている。
【0040】
図2~
図7に示すように、オイルリフター25は、上下両端が開口した円筒状の本体部26と、オイル室4内のオイル27を本体部26内に流入させるオイル流入部28と、オイル流入部28から本体部26内に流入したオイル27を上方へ導くオイル案内部29と、本体部26の下端から外方へ円環状に張り出した下部フランジ30と、本体部26の下部の外方においてオイル流入部28を取り囲む堰部31と、本体部26内のオイル27を本体部26の上端から外部へ吐出するオイル吐出部32とを有している。
【0041】
本体部26内には回転軸2が挿通されている。
【0042】
オイル流入部28は、オイルリフター25の下端部に、周方向Aにおいて所定角度ごとに複数箇所(例えば120°ごとに3箇所)に形成され、本体部26の径方向Cにおける内外に開口している。
【0043】
オイル案内部29は、本体部26の内周面に凸設され、回転軸2の回転方向Dに対して上り勾配で傾斜する板状の部材(ガイドベーン)であり、周方向Aにおいて所定角度ごとに複数箇所(例えば120°ごとに3箇所)に設けられている。
【0044】
図2に示すように、オイル吐出部32は本体部26の上端とオイル室4の天井部21との間に形成された隙間である。
【0045】
下部フランジ30のオイル流入部28に対応する箇所には、下部フランジ30の内周側から切り欠かれた切欠部33が形成されている。各オイル流入部28は、本体部26の下端に形成され、径方向Cにおける各切欠部33の内周端に位置している。
【0046】
堰部31は、切欠部33の周縁から立ち上がるように下部フランジ30に形成されており、周方向Aにおいて所定角度ごとに複数箇所(例えば120°ごとに3箇所)に配設されている。堰部31の両端は本体部26の外周面に繋がっている。また、
図6に示すように、堰部31の上端の位置P1はオイル流入部28の開口上端の位置P2よりも高く設定されている。
【0047】
下部フランジ30には、上下方向に貫通する複数の取付孔34が形成されている。
図2に示すように、複数本のねじ35を取付孔34に挿通してオイル室4内の底部22に螺合することにより、下部フランジ30がオイル室4内の底部22に接合され、オイルリフター25がオイル室4内の底部22に固定される。
【0048】
以下、上記構成における作用を説明する。
【0049】
図1に示すように、水中ポンプ1を駆動すると、回転軸2の回転により羽根車7が回転し、水が吸込口8から吸い込まれて吐出口9から吐出される。
【0050】
この際、上部および下部の回転環16,18とコイルばね19とが回転軸2と共に回転し、オイルリフター25の本体部26内のオイル27が、回転軸2の回転方向Dに旋回しながらオイル案内部29に沿って上昇し、その後、本体部26内からオイル吐出部32を通ってオイルリフター25の上端外部へ吐出される。また、オイル室4内のオイル27が、オイルリフター25の外部から下部フランジ30の切欠部33を通り、オイル流入部28を経て、本体部26内に流入する。これにより、オイル室4内のオイル27の量が減少した場合にも、残ったオイル27がオイルリフター25の内外を循環し、軸封部材14の摺動部がオイル27によって潤滑および冷却される。
【0051】
この際、
図2,
図6に示すように、オイル室4内の沈降性の異物38は、オイルリフター25の堰部31が障壁になって堰き止められることにより、オイル流入部28から本体部26内に入り込むことを抑制される。これにより、異物38が軸封部材14の摺動部に噛み込むのを阻止し、軸封部材14の損傷を防止することができる。
【0052】
また、
図2に示すように、ねじ35を用いて下部フランジ30をオイル室4内の底部22に接合することにより、オイルリフター25をオイル室4内に容易に固定することができる。
【0053】
上記第1の実施の形態では、堰部31の上端の位置P1をオイル流入部28の開口上端の位置P2よりも高く設定しているが、上記位置P1と位置P2とを同じ高さにしてもよい。
【0054】
また、オイルリフター25の製造方法を以下に説明する。
【0055】
図7に示すように、先ず、円環状の下部フランジ30に、内周側から切り欠かれた切欠部33を形成する下部フランジ加工工程を行う。次に、堰部31を下部フランジ30に溶接等によって接合する。
【0056】
その後、この下部フランジ30を本体部26の下端に溶接等により接合する接合工程を行う。
【0057】
これによると、異物38の内部への侵入を抑制する機能を有するオイルリフター25を容易に製造することができる。
【0058】
(第2の実施の形態)
本発明の第2の実施の形態では、
図8~
図10に示すように、オイルリフター25の堰部45は、下部フランジ30の外周縁に全周にわたって立ち上がっており、オイル流入部28を取り囲んでいる。また、堰部45の上端の位置P1はオイル流入部28の開口上端の位置P2よりも高く設定されている。
【0059】
これによると、第1の実施の形態と同様の作用および効果が得られる。
【0060】
上記第2の実施の形態では、堰部45の上端の位置P1をオイル流入部28の開口上端の位置P2よりも高く設定しているが、上記位置P1と位置P2とを同じ高さにしてもよい。
【0061】
(第3の実施の形態)
本発明の第3の実施の形態では、上記第1および第2の実施の形態で示したような堰部31,45を設けず、
図11~
図14に示すように、下部フランジ30を堰部として兼用している。
【0062】
下部フランジ30(堰部)の上端の位置P3は、オイル流入部28の開口下端の位置P4よりも高く、且つ、オイル流入部28の開口上端の位置P2と同じ高さに設定されている。
【0063】
これによると、
図13に示すように、オイル室4内の沈降性の異物38は、オイルリフター25の下部フランジ30の厚み自体が障壁となって堰き止められることにより、オイル流入部28から本体部26内に入り込むことを抑制される。これにより、異物38が軸封部材14の摺動部に噛み込むのを阻止し、軸封部材14の損傷を防止することができる。
【0064】
また、ねじ35を用いて下部フランジ30をオイル室4内の底部22に接合することにより、オイルリフター25をオイル室4内に容易に固定することができる。
【0065】
このように、下部フランジ30を堰部として兼用しているため、下部フランジ30はオイルリフター25を固定する機能と異物38を堰き止める機能との両者を有することになり、オイルリフター25を構成する部品を減らすことができる。
【0066】
また、オイルリフター25の製造方法を以下に説明する。
【0067】
図14に示すように、先ず、円環状の下部フランジ30に、内周側から切り欠かれた切欠部33を形成する下部フランジ加工工程を行う。その後、この下部フランジ30を本体部26の下端に溶接等により接合する接合工程を行う。
【0068】
これによると、異物38の内部への侵入を抑制する機能を有するオイルリフター25を容易に製造することができる。
【0069】
(第4の実施の形態)
本発明の第4の実施の形態では、上記第1~第3の実施の形態で示したような下部フランジ30を設けず、
図15~
図17に示すように、オイル流入部28は、オイルリフター25の本体部26の下端部に、周方向Aにおいて所定角度ごとに複数箇所(例えば120°ごとに3箇所)に形成され、本体部26の径方向Cにおける内外に開口している。
【0070】
堰部31は、平面視コの字状の部材であり、本体部26の外周面に取付けられて、周方向Aにおいて所定角度ごとに複数箇所(例えば120°ごとに3箇所)に配設され、本体部26の下部の外方においてオイル流入部28を取り囲んでいる。
【0071】
水中ポンプ1を駆動すると、オイル室4内のオイル27がオイルリフター25の内外を循環し、軸封部材14の摺動部がオイル27によって潤滑および冷却される。この際、
図17に示すように、オイル室4内の沈降性の異物38は、オイルリフター25の堰部31が障壁となって堰き止められることにより、オイル流入部28から本体部26内に入り込むことを抑制される。
【0072】
(第5の実施の形態)
本発明の第5の実施の形態では、
図18,
図19に示すように、第1の実施の形態のオイルリフター25の本体部26の上端部に、上部フランジ50が備えられている。上部フランジ50は本体部26の上端部から外方へ円環状に張り出しており、上部フランジ50の位置がオイル吐出部32の位置と同じ高さに設定されている。
【0073】
上部フランジ50は、外周縁部に、下方へ垂下された垂下部51を全周にわたり有している。上部フランジ50の外径Eは下部フランジ30の外径Fよりも大きく、これにより、径方向Cにおける上部フランジ50の外周縁が堰部31の外周縁よりも外側にある。
【0074】
これによると、万一、オイル室4内の沈降性の異物38が堰部31を乗り越えてオイル流入部28から本体部26内に入り込んでも、異物38は、本体部26内をオイル27と共に上昇し、
図18に示すように、本体部26内の上端からオイル吐出部32を通ってオイルリフター25の上端外部へ吐出され、上部フランジ50上を外周縁まで移動して、上部フランジ50の外周縁からオイル27と共に落下する。
【0075】
ここで、上部フランジ50の外周縁が堰部31の外周縁よりも外側にあるため、上記のように上部フランジ50の外周縁から落下した異物38は堰部31の外側に落下する。これにより、オイルリフター25の内部から外部に吐出された異物38が堰部31の内側に落下して再びオイルリフター25の内部に入り込むといった不具合を防止することができる。
【0076】
尚、上部フランジ50は外周縁部に垂下部51を有しているため、異物38を確実に上部フランジ50の外周縁から堰部31の外側に落下させることができる。
【0077】
上記第5の実施の形態では、上記第1の実施の形態のオイルリフター25に上部フランジ50を備えているが、上記第2~第4の実施の形態のオイルリフター25に上部フランジ50を備えてもよい。
【0078】
上記第5の実施の形態では、上部フランジ50は外周縁部に垂下部51を備えているが、垂下部51を備えていない上部フランジ50であってもよい。
【0079】
(第6の実施の形態)
本発明の第6の実施の形態では、
図20,
図21に示すように、第1の実施の形態のオイルリフター25の本体部26の上端部に、円環状の上部フランジ50が備えられている。上部フランジ50は、外周縁部が下位になるように、下向きに傾斜している。上部フランジ50の外径Eは下部フランジ30の外径Fよりも大きく、これにより、径方向Cにおける上部フランジ50の外周縁が堰部31の外周縁よりも外側にある。
【0080】
これによると、上記第5の実施の形態と同様の作用および効果が得られる。尚、上部フランジ50は下向きに傾斜しているため、異物38を確実に上部フランジ50の外周縁から堰部31の外側に落下させることができる。
【0081】
上記第6の実施の形態では、上記第1の実施の形態のオイルリフター25に上部フランジ50を備えているが、上記第2~第4の実施の形態のオイルリフター25に上部フランジ50を備えてもよい。
【0082】
上記第6の実施の形態では、上部フランジ50の全体を下向きに傾斜しているが、上部フランジ50の外周縁部のみを下向きに傾斜してもよい。
【0083】
上記第5および第6の実施の形態では、上部フランジ50の位置をオイル吐出部32の位置と同じ高さにしているが、上部フランジ50の位置をオイル吐出部32の位置よりも下にしてもよい。
【0084】
上記第5および第6の実施の形態では、径方向Cにおける上部フランジ50の外周縁を堰部31の外周縁よりも外側位置にしているが、上部フランジ50の外周縁を堰部31の外周縁と同位置にしてもよい。
【0085】
上記第5および第6の実施の形態では、上部フランジ50に、円形フランジを用いているが、円形に限定されるものではなく、多角形の角形フランジを用いてもよい。
【0086】
(第7の実施の形態)
上記第1~第6の実施の形態では、オイル案内部29は、本体部26の内周面に凸設され、回転軸2の回転方向Dに対して上り勾配で傾斜する板状の部材(ガイドベーン)であるが、このような形態のみに限定されるものではなく、例えば、第7の実施の形態では、
図22,
図23に示すように、オイル案内部54は、本体部26の内周面に凹設され、回転軸2の回転方向Dに対して上り勾配で傾斜する溝(ガイド溝)である。尚、オイル案内部54は、周方向Aにおいて所定角度ごとに複数箇所(例えば120°ごとに3箇所)に設けられており、下端部から回転軸2の回転方向Dとは逆方向へ延設された溝状の導入部54aを有している。
【0087】
また、オイル流入部28は本体部26の径方向Cにおける内外に開口しており、オイル流入部28を介して切欠部33と導入部54aとが連通している。
【0088】
これによると、水中ポンプ1を駆動すると、オイルリフター25の本体部26内のオイル27が、回転軸2の回転方向Dに旋回しながらオイル案内部54内を上昇し、その後、オイル吐出部32を通ってオイルリフター25の上端から外部へ吐出される。また、オイル室4内のオイル27が、オイルリフター25の外部から下部フランジ30の切欠部33を通り、オイル流入部28を経て本体部26内に流入し、導入部54aからオイル案内部54内を上昇する。これにより、オイル室4内のオイル27がオイルリフター25の内外を循環し、軸封部材14の摺動部がオイル27によって潤滑および冷却される。
【0089】
上記第7の実施の形態では、上記第1の実施の形態のオイルリフター25のオイル案内部54を溝にしているが、残りの上記第2~第6の実施の形態のオイルリフター25のオイル案内部54を溝にしてもよい。
【0090】
上記第1の実施の形態では、オイル流入部28とオイル案内部29と堰部31と切欠部33とをそれぞれ120°ごとに3箇所に配置しているが、これらの配置角度や配置箇所の数に限定されるものではなく、例えば1箇所のみの配置や3箇所以外の複数箇所に配置してもよい。また、残りの上記第2~第7の実施の形態においても同様である。
【0091】
上記各実施の形態では、ポンプ装置の一例として水中ポンプ1を挙げたが、水中ポンプ1以外のポンプであってもよい。
【0092】
上記各実施の形態では、堰部31の上端の位置P1は、オイル流入部28の開口上端の位置P2以上に設定されているが、オイル流入部28の開口上端の位置P2未満に設定されてもよく、オイル室4内の沈降性の異物38がオイル流入部28から本体部26内に入り込むことを抑制するのに十分な高さを備えていればよい。
【0093】
上記各実施の形態では、オイルリフター25の本体部26を円筒形状にしているが、円筒形状に限定されるものではなく、例えば多角形の角筒形状にしてもよい。
【0094】
上記各実施の形態では、オイルリフター25の材質を限定していないが、ステンレス等の金属製或いは樹脂製であってもよい。
【0095】
上記各実施の形態では、複数の部材を接合することでオイルリフター25を作成しているが、射出成形や3Dプリンター、削り出しによってオイルリフター25を作成してもよい。
【符号の説明】
【0096】
1 水中ポンプ(ポンプ装置)
2 回転軸
3 動力室
4 オイル室
5 ポンプ室
14 軸封部材
22 底部
25 オイルリフター
26 本体部
27 オイル
28 オイル流入部
29,54 オイル案内部
30 下部フランジ
31,45 堰部
32 オイル吐出部
33 切欠部
50 上部フランジ
C 径方向
D 回転方向
P1 堰部の上端の位置
P2 オイル流入部の開口上端の位置
P3 下部フランジの上端の位置
P4 オイル流入部の開口下端の位置