(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-19
(45)【発行日】2022-10-27
(54)【発明の名称】溶接装置および溶接方法
(51)【国際特許分類】
B23K 9/095 20060101AFI20221020BHJP
B23K 9/073 20060101ALI20221020BHJP
【FI】
B23K9/095 505B
B23K9/095 501B
B23K9/095 501F
B23K9/073 525
(21)【出願番号】P 2018184658
(22)【出願日】2018-09-28
【審査請求日】2021-08-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000001236
【氏名又は名称】株式会社小松製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】屋嘉比 圭太
(72)【発明者】
【氏名】山中 伸好
(72)【発明者】
【氏名】森 浩樹
(72)【発明者】
【氏名】鮫島 泰郎
(72)【発明者】
【氏名】蘭 韋明
(72)【発明者】
【氏名】野村 聡一郎
【審査官】山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-263820(JP,A)
【文献】特開2007-105748(JP,A)
【文献】特開2009-006383(JP,A)
【文献】特開平09-253853(JP,A)
【文献】特開平06-039547(JP,A)
【文献】特開平08-215840(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/00、9/06 - 9/133、10/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接条件に基づいて、ウィービング動作による溶接処理を実行する溶接トーチと、
前記ウィービング動作中の溶接電流を検出する検出部と、
前記検出部によって検出された溶接電流の変化に基づいて入熱量を補正するために前記溶接条件を変更する補正部とを備え
、
前記補正部は、前記検出部で検出された溶接電流に基づいて溶接対象物の開先に対する前記溶接トーチの位置を補正するアークセンサの目標電流を変更する、溶接装置。
【請求項2】
前記補正部は、前記検出部によって検出された溶接電流の波形の振幅変化に基づいて入熱量を補正するために前記溶接条件を変更する、請求項1記載の溶接装置。
【請求項3】
前記補正部は、前記検出部によって検出された溶接電流の波形の振幅変化の相違量に基づいて前記入熱量を小さくするために前記溶接条件を変更する、請求項2記載の溶接装置。
【請求項4】
前記溶接条件の補正量を算出するための補正テーブルを有するメモリをさらに備え、
前記補正部は、前記検出部によって検出された溶接電流の波形の振幅変化量と前記補正テーブルとに基づいて入熱量を補正するための補正量を算出する、請求項2記載の溶接装置。
【請求項5】
前記補正部は、前記溶接条件として前記溶接電流または前記溶接トーチに印加される溶接電圧を変更する、請求項1記載の溶接装置。
【請求項6】
前記補正部は、前記溶接電流を変更するために前記溶接トーチに送給するワイヤの送給速度を変更する、請求項5記載の溶接装置。
【請求項7】
前記補正部は、前記ワイヤの送給速度を規定する指令電流の電流量を変更する、請求項6記載の溶接装置。
【請求項8】
前記補正部は、
前記溶接トーチの前記ウィービング動作の進行方向に対する速度を変更する、請求項1記載の溶接装置。
【請求項9】
前記溶接トーチの進行方向に対して直交する第1方向および前記進行方向および前記第1方向に対して直交する第2方向にウィービング動作させる駆動部をさらに備える、請求項1記載の溶接装置。
【請求項10】
溶接条件に従って溶接トーチをウィービング動作させるステップと、
前記ウィービング動作中の溶接電流を検出するステップと、
検出された溶接電流の変化に基づいて入熱量を補正するために前記溶接条件を変更するステップとを備え、
前記溶接条件を変更するステップは、検出された溶接電流に基づいて溶接対象物の開先に対する前記溶接トーチの位置を補正するアークセンサの目標電流を変更するステップを含む、溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、溶接強度を決定する指標の一つに溶け込みがある。この点で、溶接品質の安定には、溶け込みを安定化させることが重要である。しかしながら、溶接を行う部材精度に起因して、溶接を行う部材間に隙間ができる場合があり、部材間の隙間の大きさに比例して溶け込みが深くなる。したがって、部材間の隙間の有無および隙間の大きさによって、溶け込みがばらついてしまうため溶接品質が悪化する恐れがある。さらに、溶け込みが深くなりすぎると、溶接金属が部材の裏側まで到達し、穴があいてしまう「溶け落ち」という溶接欠陥が発生する可能性がある。
【0003】
この点で、特開2013-121617号公報においては、溶接を行う際に部材の裏側に溶け落ちを抑制する裏当部材を設ける方式が開示されている。
【0004】
しかしながら、溶接を行う際に裏当部材を接触させることはコストが掛かるとともに溶接作業が煩雑化する。
【0005】
一方、特開2009-6383号公報においては、溶け落ちを防止する方式として、裏当部材を設けることなく、レーザセンサを用いて溶接ビードの余盛高さを計測し、計測結果に基づいて入熱を調整する方式が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2013-121617号公報
【文献】特開2009-6383号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、レーザセンサを用いて溶接ビードの余盛高さを計測することは新たなセンサを用いるためコストが掛かるとともに溶接処理の工程が複雑化する。
【0008】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、簡易な方式で精度の高い溶接が可能な溶接装置および溶接方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の溶接装置は、溶接条件に基づいて、ウィービング動作による溶接処理を実行する溶接トーチと、ウィービング動作中の溶接電流を検出する検出部と、検出部によって検出された溶接電流の変化に基づいて入熱量を補正するために溶接条件を変更する補正部とを備える。
【0010】
本発明の溶接方法は、溶接条件に従って溶接トーチをウィービング動作させるステップと、ウィービング動作中の溶接電流を検出するステップと、検出された溶接電流の変化に基づいて入熱量を補正するために溶接条件を変更するステップとを備える。
【発明の効果】
【0011】
以上説明したように本発明の溶接装置および溶接方法によれば、簡易な方式で精度の高い溶接が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施形態1に基づく溶接装置1を説明する図である。
【
図2】実施形態1に基づく溶接トーチ30のウィービング動作について説明する図である。
【
図4】実施形態1に基づく溶接装置1の溶接条件を変更する補正処理について説明するフロー図である。
【
図5】実施形態1に基づく電流差検出処理を説明するフロー図である。
【
図6】実施形態1に基づく溶接装置1の溶接電流の変化について説明する図である。
【
図7】実施形態1に基づく溶接制御部14の溶接条件補正処理について説明する図である。
【
図8】実施形態1に基づく溶接装置1による溶接の具体例について説明する図である。
【
図9】実施形態2に基づく溶接トーチ30のウィービング動作について説明する図である。
【
図10】実施形態2に基づく溶接装置1の溶接電流の変化について説明する図である。
【
図11】実施形態3に基づく溶接制御部14の溶接条件補正処理について説明する図である。
【
図12】実施形態4に従う溶接装置1のアークセンサ機能について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付し、その説明は繰り返さない。
【0014】
(実施形態1)
<溶接装置の全体構成>
図1は、実施形態1に基づく溶接装置1を説明する図である。
【0015】
図1を参照して、実施形態1に基づく溶接装置1は、工場内の床面などに据え付けられた溶接ロボット20と、溶接電源装置13と、溶接制御装置10と、ワイヤ送給装置40と、溶接電流計測器50とを備えている。ここで、溶接ロボット20は、溶接ワイヤWと部材100との間に発生させたアーク放電による熱を利用して溶接を行うためのアーク溶接ロボットである。溶接ロボット20は、各々が所定の方向に回動する複数の関節を介して連結された連結アーム21と、連結アーム21の先端部に取り付けられた溶接トーチ30と、連結アーム21を動作させて溶接トーチ30を移動させるアクチュエータ22とを備えた多関節型ロボットである。ワイヤ送給装置40は、アーク溶接が行われる際に、所定の速度で溶接ワイヤWを繰り出し、溶接トーチ30の先端部に供給されるように構成されている。
【0016】
溶接制御装置10は、溶接ロボット20および溶接電源装置13の動作制御を行うために設けられている。
【0017】
溶接制御装置10は、複数の機能ブロックを有する。具体的には、溶接制御装置10は、溶接電源制御部11と、溶接制御部14と、記憶部60と、ロボット動作制御部15と、A/D変換部12とを含む。
【0018】
記憶部60は、各種のプログラムおよびデータを記憶する。本例においては、記憶部60は、溶接条件保存部62と、補正量保存部64とを含む。
【0019】
溶接制御部14は、記憶部60に格納されているプログラムに基づいて溶接動作を実行する。溶接制御部14は、溶接条件保存部62に格納されている溶接条件データに基づいて溶接動作を実行するために各部に対する各種指示を出力する。溶接制御部14は、補正量保存部64に格納されている補正量データに基づいて溶接条件を補正する。
【0020】
溶接電源制御部11は、溶接制御部14からの指示に従って溶接電源装置13に対して、入熱を制御するための指令信号を出力する。
【0021】
溶接電源装置13は、溶接制御装置10からの制御指令に基づいて所定の動作を行うように構成されている。
【0022】
溶接電源装置13は、ワイヤ送給装置40から繰り出される溶接ワイヤWの供給速度を制御する機能を有するとともに、給電ケーブルCB(+)およびCB(-)を用いて溶接トーチ30および部材100間に所定の大きさの電力(入熱)を供給する機能を有している。具体的には、溶接電圧印加用の給電ケーブルCB(+)が溶接ロボット20と接続され、給電ケーブルCB(-)が部材200と接続される。溶接電源装置13は、溶接電源制御部11からの指令信号に対応する電流値および電圧値に調整された電力を溶接ロボット20に出力して、溶接ワイヤWと部材100との間にアーク放電を発生させるように構成されている。
【0023】
溶接電流計測器50は、給電ケーブルCB(-)側に設けられ、溶接動作が行われている際の溶接電流を計測する。溶接電流計測器50は、計測結果を溶接制御装置10にフィードバックする。A/D変換部12は、溶接電流計測器50からのアナログ信号をデジタル信号に変換して、溶接制御部14に出力する。
【0024】
溶接電源制御部11は、溶接制御部14からの指示に従って溶接電源装置13に対してワイヤ送給装置40から繰り出される溶接ワイヤWの供給速度を調整するための指令信号を出力する。ワイヤ送給装置40は、溶接電源装置13からの指令信号に従って溶接ワイヤWの供給速度を調整する。
【0025】
アークセンサ制御部16は、アークセンサ機能によりロボット動作制御部15に対して所定の動作を実行するように指示する。
【0026】
ロボット動作制御部15は、溶接制御部14からの指示に従ってアクチュエータ22を制御する。ロボット動作制御部15は、アクチュエータ22に対して溶接トーチ30を位置制御するための連結アーム21および溶接トーチ30を動作させる動作指令を出力する。アクチュエータ22は、溶接制御装置10から送信された動作指令に基づいて連結アーム21および溶接トーチ30を動作させ、溶接トーチ30を所定の位置に動作させる。具体的には、溶接制御装置10は、溶接処理に際して溶接トーチ30をウィービング動作させる。
【0027】
なお、溶接制御部14、溶接トーチ30、溶接電流計測器50およびアクチュエータ22は、本発明の「補正部」、「溶接トーチ」、「検出部」および「駆動部」の一例である。
【0028】
<ウィービング動作>
図2は、実施形態1に基づく溶接トーチ30のウィービング動作について説明する図である。
【0029】
図2(A)には、部材100Aおよび部材100Bの部材間に溶接トーチ30が配置されて部材間を溶接する場合が示されている。溶接トーチ30のウィービング動作は、進行方向に進みながら左右に揺動する動作をいう。進行方向とは、溶接線Lが延びる方向である。
【0030】
本例においては、部材100Aおよび100Bを側面視した場合において、溶接トーチ30がウィービング動作中に左右に揺動する様子が描かれている。本例においては、溶接線Lの延びる方向から視た溶接トーチ30の先端動作が描かれている。
【0031】
図2(B)には、部材100Aおよび100Bを上面視した場合の溶接トーチ30の軌跡が点線で示されている。
【0032】
本例においては、部材100Aおよび100Bの開先の中心から進行方向に進みながら上面視で正弦曲線状に溶接トーチ30が移動する軌跡が示されている。ウィービング動作は、周期的な動作であり、開先の中心から左右に揺動して再び開先の中心に戻るまでを1周期とする。溶接線Lは、正弦曲線の振幅の中央に位置する。
【0033】
<溶接の具体例>
図3は、溶接の具体例について説明する図である。
図3には部材100Aと部材100Bの溶接接合が示されている。
図3(A)、(B)、(C)には、部材の寸法のばらつきなどにより部材100Aと部材100Bの間隔が異なる溶接接合がそれぞれ示されている。
【0034】
図3(A)に示されるように、部材100Aおよび部材100Bの部材間に隙間が無い状況で溶接する場合が示されている。一例として溶接トーチ30から溶接ワイヤWが送給されてアーク放電により部材100Aおよび部材100Bの間の部材間に溶接金属が流れ込み溶接される場合が示されている。本例においては、部材間には隙間が無いため溶け込みは浅い場合が示されている。
【0035】
図3(B)に示されるように、部材100Aおよび部材100Bの部材間に隙間が生じている状況で溶接する場合が示されている。一例として溶接トーチ30から溶接ワイヤWが送給されてアーク放電により部材100Aおよび部材100Bの間の部材間に溶接金属が流れ込み溶接される場合が示されている。本例においては、部材間には隙間があるため溶け込みが深い場合が示されている。したがって、部材間に隙間が無い状況と比較して溶け込みが一定ではなく安定しないという事象が発生する可能性がある。
【0036】
図3(C)に示されるように、部材100Aおよび部材100Bの部材間に大きな隙間が生じている状況で溶接する場合が示されている。一例として溶接トーチ30から溶接ワイヤWが送給されてアーク放電により部材100Aおよび部材100Bの間の部材間に溶接金属が流れ込み溶接される場合が示されている。本例においては、部材間の隙間が大きく溶接金属の溶け落ちが生じている場合が示されている。したがって、部材間の隙間が大きい場合には溶け落ちの事象が発生する可能性がある。
図3は、従来の溶接では、接合部材間の間隔のばらつき及び隙間の有無により、溶け込みにばらつきが生じて接合品質が安定しないことがあることを説明する。
【0037】
実施形態1の溶接装置1は、溶接電流の波形の変化に基づいて溶け込みの程度を推定し、入熱量を補正するために溶接条件を変更する。具体的には、溶け込みが深いあるいは溶け落ちの前兆であると推定した場合には、入熱量を小さくするために溶接条件を変更する。
【0038】
図4は、実施形態1に基づく溶接装置1の溶接条件を変更する補正処理について説明するフロー図である。
【0039】
図4を参照して、溶接装置1は、溶接を開始する(ステップS0)。具体的には、溶接制御部14は、溶接条件保存部62に保存されている溶接条件データに従って溶接処理を実行するために溶接電源制御部11およびロボット動作制御部15に対して指示する。溶接電源制御部11は、溶接制御部14からの指示に従って溶接電源装置13に対して溶接処理における溶接ワイヤWの供給速度および溶接電圧を設定するための指令信号を出力する。溶接電源装置13は、溶接電源制御部11からの指令信号に従ってワイヤ送給装置40に対して溶接ワイヤWの供給速度を規定する指令電流を出力する。また、溶接電源装置13は、設定された溶接電圧を給電ケーブルCB(+)に印加する。ロボット動作制御部15は、溶接制御部14からの指示に従ってアクチュエータ22に対して溶接処理における溶接ロボット20の動作を設定するための指令信号を出力する。アクチュエータ22は、ロボット動作制御部15からの指令信号に従って連結アーム21を動作させ、
図2で説明したウィービング動作を実行する。
【0040】
次に、溶接装置1は、溶接電流を計測する(ステップS2)。具体的には、溶接電流計測器50は、計測した溶接電流をA/D変換部12に出力する。A/D変換部12は、溶接電流計測器50からの溶接電流のアナログ信号をデジタル信号に変換して溶接制御部14に出力する。溶接制御部14は、A/D変換部12からの溶接電流の値を記憶部60に格納する。
【0041】
次に、溶接装置1は、ウィービング動作の1周期が終了したか否かを判断する(ステップS4)。具体的には、溶接制御部14は、アクチュエータ22によるウィービング動作の1周期が終了したかどうかを判断する。
【0042】
次に、溶接装置1は、ウィービング動作の1周期が終了していないと判断した場合には、ステップS2に戻り、上記処理を繰り返す。
【0043】
一方、溶接装置1は、ステップS4において、ウィービング動作の1周期が終了したと判断した場合(ステップS4においてYES)には、電流差検出処理を実行する(ステップS6)。具体的には、溶接制御部14は、ウィービング動作の1周期の期間における溶接電流の最大値と最小値との差を検出する電流差検出処理を実行する。
【0044】
図5は、実施形態1に基づく電流差検出処理を説明するフロー図である。
図5を参照して、溶接装置1は、ウィービング1周期の電流データn点を取得する(ステップS20)。具体的には、溶接制御部14は、記憶部60に格納されているウィービング1周期の電流データn点を取得する。
【0045】
次に、溶接装置1は、電流データn点を降順に並べ替える(ステップS22)。具体的には、溶接制御部14は、算出処理のためにn点のデータの配列を降順に並べ替える。
【0046】
次に、溶接装置1は、電流の最大値(max)を算出する(ステップS24)。具体的には、溶接制御部14は、降順に並べ替えられたn点のデータのうち全体の上位5%のデータの平均値を最大値(max)として算出する。
【0047】
次に、溶接装置1は、電流の最小値(min)を算出する(ステップS26)。具体的には、溶接制御部14は、降順に並べ替えられたn点のデータのうち全体の下位5%のデータの平均値を最小値(min)として算出する。
【0048】
次に、溶接装置1は、電流差を算出する(ステップS28)。溶接制御部14は、算出した最大値と最初値との差分を電流差として算出する。
【0049】
そして、処理を終了する(リターン)。具体的には、溶接装置1は、
図4のステップS8に進む。なお、本例においては、n点のデータのうち全体の上位あるいは下位のデータの5%のデータの平均値を用いて最大値あるいは最小値を算出する方式について説明したがこれに限られず、n点のデータ配列の最大値(max)あるいは最小値(min)をそのまま利用するようにしてもよい。
【0050】
再び
図4を参照して、溶接装置1は、補正量算出処理を実行する(ステップS8)。具体的には、溶接制御部14は、電流差検出処理の検出結果に基づいて補正量保存部64に格納されている補正量データに基づいて補正量を算出する。補正量の算出については後述する。
【0051】
次に、溶接装置1は、溶接条件を変更する補正処理が必要か否かを判断する(ステップS10)。具体的には、溶接制御部14は、算出した補正量が0より小さいか否かを判断する。溶接制御部14は、算出した補正量が0より小さいと判断した場合には、溶け込みが深いあるいは溶け落ちの前兆と推定する。そして、溶接制御部14は、入熱量を小さくするために溶接条件を変更する補正処理が必要であると判断する。
【0052】
次に、ステップS10において、溶接装置1は、補正処理が必要であると判断した場合(ステップS10においてYES)には、溶接条件補正処理を実行する(ステップS12)。具体的には、溶接制御部14は、溶接条件を変更し、変更した溶接条件に基づいて溶接処理を実行するように溶接電源制御部11に指示する。
【0053】
一方、ステップS10において、溶接装置1は、補正処理が必要でないと判断した場合(ステップS10においてNO)には、ステップS12をスキップしてステップS14に進む。
【0054】
次に、溶接装置1は、溶接処理が終了したか否かを判断する(ステップS14)。
ステップS14において、溶接装置1は、溶接が終了していないと判断した場合(ステップS14においてNO)には、ステップS2に戻り、上記処理を繰り返す。
【0055】
一方、ステップS14において、溶接装置1は、溶接が終了したと判断した場合(ステップS14においてYES)には、処理を終了する(エンド)。
【0056】
図6は、実施形態1に基づく溶接装置1の溶接電流の変化について説明する図である。
図6(A)には、部材100Aおよび部材100Bの部材間に隙間が無い状況で溶接する場合が示されている。一例として溶接トーチ30から溶接ワイヤWが送給されてアーク放電により部材100Aおよび部材100Bの間の部材間に溶接金属が流れ込み溶接される場合が示されている。また、溶接トーチ30が部材間の開先の中央と端の位置に移動する場合が示されている。
【0057】
図6(B)には、
図6(A)の場合における溶接電流の変化が示されている。
溶接電流は、溶接トーチ30から部材までの距離である突き出し距離が短いほど大きくなり、突き出し距離が長いほど溶接電流は小さくなる。したがって、ウィービング1周期の間において、溶接トーチ30が部材間の開先の端領域に近づくほど溶接トーチ30と端領域との突き出し距離が短くなり、溶接トーチ30が中央に近づくほど溶接トーチ30と中央領域との突き出し距離が長くなる。それゆえ、
図6(B)に示されるように中央領域において溶接電流が下がり、端領域により溶接電流が大きくなる電流波形となる。
【0058】
図6(C)には、部材100Aおよび部材100Bの部材間に隙間がある状況で溶接する場合が示されている。一例として溶接トーチ30から溶接ワイヤWが送給されてアーク放電により部材100Aおよび部材100Bの間の部材間に溶接金属が流れ込み溶接される場合が示されている。また、溶接トーチ30が部材間の開先の中央と端の位置に移動する場合が示されている。
【0059】
図6(D)には、
図6(C)の場合における溶接電流の変化が示されている。
上記したように、溶接電流は、溶接トーチ30から部材までの距離である突き出し距離が短いほど大きく、突き出し距離が長いほど溶接電流は小さくなる。
【0060】
したがって、ウィービング1周期の間において、溶接トーチ30が部材間の開先の端領域に近づくほど溶接トーチ30と端領域との突き出し距離が短くなり、溶接トーチ30が中央に近づくほど溶接トーチ30と中央領域との距離が長くなる。それゆえ、
図6(D)に示されるように中央領域において溶接電流が下がり、端領域により溶接電流が大きくなる。さらに、本例に示されるように、部材間に隙間がある場合には中央領域の湯面がさらに下がるため距離がさらに長くなり、中央領域において溶接電流の値はさらに下がる。したがって、隙間が無い状況で溶接する場合の最大電流と最小電流との間の電流差(振幅)と、隙間がある状況で溶接する場合の最大電流と最小電流との間の電流差(振幅)は異なる。具体的には、隙間がある状況で溶接する場合の最大電流と最小電流との間の電流差(振幅)の方が隙間が無い状況で溶接する場合の最大電流と最小電流との間の電流差(振幅)よりも大きくなる。溶接電流の波形の変化に基づいて溶け込みの程度を推定することが可能である。
【0061】
溶接装置1は、部材間に隙間が無い溶接電流の波形の振幅を基準値に設定する。当該基準値以上に溶接電流の波形の振幅変化を検出した場合には、溶け込みが深いあるいは、溶け落ちの前兆と判断することが可能である。
【0062】
図7は、実施形態1に基づく溶接制御部14の溶接条件補正処理について説明する図である。
【0063】
図7を参照して、記憶部60の補正量保存部64に格納されている溶接条件の補正テーブルが示されている。一例として、溶接条件としてワイヤ送給装置40に溶接電源装置13が出力する指令電流の補正テーブルである。具体的には、1次関数の補正テーブルを用いて算出した電流差に基づいて補正量を算出する。一例として、補正量は、1次関数(補正量=a×電流差+b)を用いて算出する。
【0064】
溶接制御部14は、溶接条件としてワイヤ送給装置40に出力する基準となる指令電流(指令基準電流)を補正する。具体的には、溶接制御部14は、隙間が無い状況の電流差を基準値として、算出された電流差が大きい場合には、指令電流の補正量を大きくし、算出された電流差が小さいほど指令電流の補正量を小さくする。
【0065】
図8は、実施形態1に基づく溶接装置1による溶接の具体例について説明する図である。
【0066】
図8(A)に示されるように、部材100Aおよび部材100Bの部材間に隙間が無い状況で溶接する場合が示されている。一例として溶接トーチ30から溶接ワイヤWが送給されてアーク放電により部材100Aおよび部材100Bの間の部材間に溶接金属が流れ込み溶接される場合が示されている。本例においては、部材間には隙間が無いため溶け込みが深い場合が示されている。
【0067】
図8(B)に示されるように、部材100Aおよび部材100Bの部材間に隙間が生じている状況で溶接する場合が示されている。一例として溶接トーチ30から溶接ワイヤWが送給されてアーク放電により部材100Aおよび部材100Bの間の部材間に溶接金属が流れ込み溶接される場合が示されている。本例においては、部材間には隙間があるため溶け込みが深い場合が推定され、入熱量を小さくするために溶接条件を変更する。本例においては、溶接電流の波形の振幅変化が部材間に隙間のない場合の振幅変化(所定振幅変化)と異なる場合に、振幅変化の相違量に応じて入熱量を小さくする。本例においては、溶接電流の振幅が部材間に隙間のない場合の振幅よりも大きい場合に、入熱量を小さくする。
【0068】
具体的には、ワイヤ送給装置40に出力する指令電流を補正して、溶接ワイヤWを送給する速度を遅くする。これにより、溶接電流が小さくなるため入熱量を小さくすることが可能である。したがって、部材間に隙間がある状況でも入熱量を小さくして溶け込みを一定にし、安定させることが可能である。
【0069】
図8(C)に示されるように、部材100Aおよび部材100Bの部材間に大きな隙間が生じている状況で溶接する場合が示されている。一例として溶接トーチ30から溶接ワイヤWが送給されてアーク放電により部材100Aおよび部材100Bの間の部材間に溶接金属が流れ込み溶接される場合が示されている。本例においては、部材間の隙間が大きく溶け込みがかなり深い場合が推定され、入熱量をさらに小さくするために溶接条件を変更する。
【0070】
具体的には、ワイヤ送給装置40に出力する指令電流を補正して、溶接ワイヤWを送給する速度を遅くする。これにより、溶接電流が小さくなるため入熱量を小さくすることが可能である。したがって、部材間に隙間がある状況でも入熱量を小さくして溶け込みが深くなることを抑制するとともに溶接金属の溶け落ちを抑制することが可能である。
【0071】
実施形態1に従う溶接装置1は、検出した溶接電流の波形の変化に基づいて溶け込みの程度を推定し、入熱量を補正するための溶接条件を変更する。溶接条件として溶接ワイヤWの送給速度を変更して溶接電流を小さくすることにより入熱量を補正する。これにより、簡易な方式で精度の高い溶接が可能である。
【0072】
(実施形態2)
図9は、実施形態2に基づく溶接トーチ30のウィービング動作について説明する図である。
【0073】
図9を参照して、実施形態2に基づく溶接トーチ30のウィービング動作は、部材間の開先の中心から進行方向に進みながら左右および上下に揺動する。溶接ロボット20は、溶接トーチ30の進行方向に対して直交する第1方向(左右方向)および進行方向および第1方向(左右方向)に対して直交する第2方向(上下方向)にウィービング動作させる。これによりウィービング動作の際に部材の端領域と溶接トーチ30との干渉を抑制することが可能となる。
【0074】
図10は、実施形態2に基づく溶接装置1の溶接電流の変化について説明する図である。
【0075】
図10(A)には、部材100Aおよび部材100Bの部材間に隙間が無い状況で溶接する場合が示されている。一例として溶接トーチ30から溶接ワイヤWが送給されてアーク放電により部材100Aおよび部材100Bの間の部材間に溶接金属が流れ込み溶接される場合が示されている。また、溶接トーチ30が部材間の開先の中央と端の位置に移動する場合が示されている。
【0076】
図10(B)には、
図10(A)の場合における溶接電流の変化が示されている。
溶接電流は、溶接トーチ30から部材までの距離である突き出し距離が短いほど大きくなり、突き出し距離が長いほど溶接電流は小さくなる。
【0077】
実施形態2に従うウィービング動作は、実施形態1に従うウィービング動作と比較して左右の揺動に加えて上下の揺動が加わる。溶接トーチ30が開先の端領域に近づくほど溶接トーチ30と端領域との突き出し距離が長くなり、溶接トーチ30が中央に近づくほど溶接トーチ30と中央領域との突き出し距離が短くなる。それゆえ、
図10(B)に示されるように中央領域において溶接電流が上がり、端領域により溶接電流が小さくなる電流波形となり、電流差が大きい電流波形となる。したがって、実施形態2に従うウィービング動作により電流差の検出が容易になる。
【0078】
図10(C)には、部材100Aおよび部材100Bの部材間に隙間がある状況で溶接する場合が示されている。一例として溶接トーチ30から溶接ワイヤWが送給されてアーク放電により部材100Aおよび部材100Bの間の部材間に溶接金属が流れ込み溶接される場合が示されている。また、溶接トーチ30が開先の中央と端の位置に移動する場合が示されている。
【0079】
図10(D)には、
図10(C)の場合における溶接電流の変化が示されている。
上記したように、溶接電流は、溶接トーチ30から部材までの距離である突き出し距離が短いほど大きく、突き出し距離が長いほど溶接電流は小さくなる。したがって、ウィービング1周期の間において、溶接トーチ30が開先の端領域に近づくほど溶接トーチ30と端領域との突き出し距離が長くなり、溶接トーチ30が中央に近づくほど溶接トーチ30と中央領域との距離が短くなる。それゆえ、
図10(D)に示されるように中央領域において溶接電流が下がり、端領域により溶接電流が大きくなる。さらに、部材間に隙間がある場合には中央領域の湯面がさらに下がるため距離がさらに長くなり、中央領域において溶接電流はさらに下がる。
【0080】
したがって、隙間が無い状況で溶接する場合の最大電流と最小電流との間の電流差(振幅)と、隙間がある状況で溶接する場合の最大電流と最小電流との間の電流差(振幅)は異なる。具体的には、隙間がある状況で溶接する場合の最大電流と最小電流との間の電流差(振幅)の方が隙間が無い状況で溶接する場合の最大電流と最小電流との間の電流差(振幅)よりも小さくなる。溶接電流の波形の変化に基づいて溶け込みの程度を推定することが可能である。
【0081】
溶接装置1は、部材間に隙間が無い溶接電流の波形の振幅を基準値に設定する。当該基準値以上に溶接電流の波形の振幅変化を検出した場合には、溶け込みが深いあるいは、溶け落ちの前兆と判断することが可能である。本例においては、溶接電流の波形の振幅変化が部材間に隙間のない場合の振幅変化(所定振幅変化)と異なる場合に、振幅変化の相違量に応じて入熱量を小さくする。本例においては、溶接電流の振幅が部材間に隙間のない場合の振幅よりも小さい場合に、入熱量を小さくする。
【0082】
溶接装置1は、溶け込みが深いあるいは溶け落ちの前兆と推定される場合には、溶接条件を補正する溶接条件補正処理を実行する。溶接条件補正処理については実施形態1で説明したのと同じ考え方であるのでその詳細な説明については繰り返さない。
【0083】
溶接制御部14は、溶け込みが深いあるいは溶け落ちの前兆と推定される場合には、溶接条件としてワイヤ送給装置40に出力する基準となる指令電流(指令基準電流)を補正する。ワイヤ送給装置40に出力する指令電流を補正して、溶接ワイヤWを送給する速度を遅くする。これにより、溶接電流が小さくなるため入熱量を小さくすることが可能である。したがって、部材間に隙間がある状況でも入熱量を小さくして溶け込みが深くなることを抑制するとともに溶接金属の溶け落ちを抑制することが可能である。
【0084】
実施形態2に従う溶接装置1は、実施形態1で説明したのと同様に検出した溶接電流の波形の変化に基づいて溶け込みの程度を推定し、入熱量を補正するための溶接条件を変更する。これにより、簡易な方式で精度の高い溶接が可能である。
【0085】
(実施形態3)
上記の実施形態1および2においては、入熱量を補正するために溶接条件の変更として溶接電流を小さくする補正について説明した。具体的には、溶接ワイヤWを送給する速度を変更して入熱量を補正する方式について説明したが、溶接電流は、溶接ワイヤWを送給する速度に限られず、溶接トーチ30の先端と部材との間の距離である突き出し距離にも依存する。上記したように、突き出し距離が短くなるほど溶接電流は大きく、突き出し距離が短いほど溶接電流は小さい。したがって、溶接制御部14は、ロボット動作制御部15に指示して、溶接トーチ30と部材との間の溶接条件の基準値として設定されている突き出し距離を変更するようにしてもよい。具体的には、突き出し距離を基準値よりも長く設定することにより溶接トーチ30と部材との距離が長くなるため溶接電流を小さくすることが可能である。
【0086】
入熱量は、下記式で表わされる。
【0087】
【0088】
上式に示されるように入熱量は、溶接電流のみならず、溶接電圧E、溶接トーチ30の送り速度vにも依存する。送り速度vは、溶接トーチ30の進行方向に対する速度である。溶接電圧Eの電圧値を調整することにより入熱量を変更することが可能である。具体的には、溶接電圧Eの電圧値を低く補正することにより入熱量を小さくすることが可能である。溶接制御部14は、溶接電源制御部11に指示して、溶接トーチ30に印加する溶接電圧Eの電圧値を低くするように設定するようにしてもよい。あるいは、溶接制御部14は、溶接トーチ30の送り速度vを調整することにより入熱量を変更することが可能である。溶接条件は、溶接電流、溶接電圧E、溶接トーチ30の送り速度vの少なくともいずれか一つである。
【0089】
図11は、実施形態3に基づく溶接制御部14の溶接条件補正処理について説明する図である。
【0090】
図11を参照して、記憶部60の補正量保存部64に格納されている溶接条件の補正テーブルが示されている。一例として、溶接条件として溶接トーチ30の送り速度の補正テーブルである。具体的には、1次関数の補正テーブルを用いて算出した電流差について、基準値との差に基づいて補正量を算出する。一例として、補正量は、1次関数(補正量=a#×電流差+c)を用いて算出する。
【0091】
溶接制御部14は、溶接条件としてロボット動作制御部15に指示して溶接トーチ30の送り速度vを変更する。具体的には、溶接制御部14は、隙間が無い状況の電流差を基準値として、算出された電流差が小さい場合には、補正量を小さくし、算出された電流差が大きい場合には補正量を大きくする。溶接制御部14は、補正量により溶接トーチ30の送り速度vを速くすることにより入熱量を小さくすることが可能である。したがって、部材間に隙間がある状況でも入熱量を小さくして溶け込みが深くなることを抑制するとともに溶接金属の溶け落ちを抑制する。
【0092】
実施形態3に従う溶接装置1は、検出した溶接電流の波形の変化に基づいて溶け込みの程度を推定し、入熱量を補正するための溶接条件として突き出し距離、溶接電圧Eあるいは溶接トーチ30の送り速度を変更する。これにより、簡易な方式で精度の高い溶接が可能である。
【0093】
(実施形態4)
実施形態4においては、入熱量を変更するためのアークセンサ機能を利用する方式について説明する。
【0094】
図12は、実施形態4に従う溶接装置1のアークセンサ機能について説明する図である。
【0095】
図12(A)には、部材100Aおよび部材100Bの部材間に隙間が無い状況で溶接する場合が示されている。一例として溶接トーチ30から溶接ワイヤWが送給されてアーク放電により部材100Aおよび部材100Bの間の部材間に溶接金属が流れ込み溶接される場合が示されている。また、溶接トーチ30が部材間の開先の中央と端の位置に移動する場合が示されている。本例においては、実施形態2に従うウィービング動作を実行する場合について説明する。
【0096】
図12(B)には、
図12(A)の場合における溶接電流の変化が示されている。
図10(B)で説明したように中央領域において溶接電流が上がり、端領域により溶接電流が小さくなる電流波形となり、電流差が大きい電流波形となる。ここで、アークセンサの目標電流は、溶接電流の平均値に設定されている。
【0097】
アークセンサ機能とは、溶接電流の平均電流をアークセンサの目標電流となるように溶接トーチ30の突き出し距離を調整する機能である。部材のばらつきに起因して突き出し距離が変わる場合にも変更する距離に追従して安定した溶接動作を実行することが可能である。
【0098】
図12(C)には、部材100Aおよび部材100Bの部材間に隙間がある状況で溶接する場合が示されている。
【0099】
図12(D)には、
図12(C)の場合における溶接電流の変化が示されている。
図10(D)で説明したように、部材間に隙間がある場合には中央領域の湯面がさらに下がるため距離がさらに長くなり、中央領域において溶接電流はさらに下がる。これにより、溶接電流の平均電流は下がることになる。したがって、アークセンサ機能により、溶接電流の平均電流をアークセンサの目標電流となるように調整する動作が実行される。
【0100】
図12(E)には、アークセンサ機能が実行された場合の状態が示されている。
図12(F)には、
図12(E)の場合における溶接電流の変化が示されている。
【0101】
溶接電流の平均電流をアークセンサの目標電流となるように調整するために、アークセンサ機能により溶接トーチ30の突き出し距離が変更されている場合が示されている。具体的には、突き出し距離を短くする場合が示されている。突き出し距離を調整することにより、溶接電流の平均電流は、アークセンサの目標電流に調整される。
【0102】
実施形態4に従う溶接装置1は、検出した溶接電流の波形の変化に基づいて溶け込みの程度を推定し、入熱量を補正するために溶接条件を変更する。具体的には、溶け込みが深いあるいは溶け落ちの前兆と推定した場合には、入熱量を小さくするために溶接条件を変更する。
【0103】
具体的には、溶接制御部14は、アークセンサ制御部16に指示してアークセンサの目標電流を変更する。溶接制御部14は、入熱量を小さくするためにアークセンサの目標電流の値を低く設定する。ロボット動作制御部15は、アークセンサ制御部16からの指示に従ってアークセンサ機能により溶接トーチ30の突き出し距離を変更する。具体的には、溶接トーチ30の突き出し距離が長くなるように変更して入熱量を小さくする。したがって、部材間に隙間がある状況でも入熱量を小さくして溶け込みが深くなることを抑制するとともに溶接金属の溶け落ちを抑制することが可能である。
【0104】
実施形態4に従う溶接装置1は、検出した溶接電流の波形の変化に基づいて溶け込みの程度を推定し、入熱量を補正するための溶接条件としてアークセンサの目標電流を変更する。これにより、簡易な方式で精度の高い溶接が可能である。
【0105】
[作用効果]
次に、実施形態の作用効果について説明する。
【0106】
実施形態の溶接装置1には、
図1に示すように、溶接条件に基づいて、溶接ロボット20によりウィービング動作による溶接処理を実行する溶接トーチ30と、ウィービング動作中の溶接電流を検出する溶接電流計測器50と、溶接制御装置10とが設けられる。溶接制御装置10は、溶接電流計測器50によって検出された溶接電流の変化に基づいて入熱量を補正するために溶接条件を変更する溶接制御部14を含む。溶接電流計測器50によって検出された溶接電流の波形の変化に基づいて溶接条件を変更して入熱量を補正することが可能であるため簡易な方式で精度の高い溶接が可能である。
【0107】
溶接制御部14は、溶接電流計測器50によって検出された溶接電流の波形の振幅変化に基づいて入熱量を補正するために溶接条件を変更してもよい。溶接電流の波形の振幅変化に基づいて溶接条件を変更して入熱量を補正することが可能であるため簡易な方式で精度の高い溶接が可能である。
【0108】
溶接制御部14は、溶接電流計測器50によって検出された溶接電流の波形の振幅変化の相違量に基づいて入熱量を小さくするために溶接条件を変更する。溶接電流の波形の振幅が小さくなる場合には、溶接条件を変更して入熱量を小さくするため溶け込みが深くなり過ぎたり溶け落ちが生じることを抑制することが可能である。
【0109】
溶接装置1には、溶接条件の補正量を算出するための補正テーブルを格納する補正量保存部64がさらに設けられる。溶接制御部14は、溶接電流計測器50によって検出された溶接電流の波形の振幅変化量と補正テーブルとに基づいて入熱量を補正するための補正量を算出する。補正テーブルを用いることにより簡易な方式で溶接条件を変更することが可能である。
【0110】
溶接制御部14は、溶接条件として溶接電流または溶接トーチ30に印加される溶接電圧を変更してもよい。溶接条件として溶接電流または溶接電圧を変更することにより入熱量を補正することが可能であり、簡易な方式で精度の高い溶接が可能である。
【0111】
溶接制御部14は、溶接電流を変更するために溶接トーチ30に送給する溶接ワイヤWの送給速度を変更してもよい。溶接ワイヤWの送給速度を変更することにより容易に溶接電流を変更することが可能であるため簡易な方式で溶接条件を変更することが可能である。
【0112】
溶接制御部14は、溶接電源制御部11に指示して溶接ワイヤWの送給速度を規定する指令電流の電流量を変更してもよい。溶接電源制御部11は、溶接電源装置13からワイヤ送給装置40に出力する指令電流を制御する。ワイヤ送給装置40は、溶接電源装置13からの指令電流に従って溶接ワイヤWの送給速度を調整する。当該指令電流の電流量の変更により簡易な方式で溶接条件を変更することが可能である。
【0113】
溶接制御部14は、アークセンサ制御部16に指示して溶接電流計測器50で検出された溶接電流に基づいて部材の開先に対する溶接トーチ30の位置を補正するアークセンサの目標電流を変更してもよい。アークセンサ制御部16は、ロボット動作制御部15に対してアークセンサ機能による溶接トーチ30の突き出し距離を変更する。これにより入熱量を補正することが可能であり、簡易な方式で精度の高い溶接が可能である。
【0114】
溶接制御部14は、ロボット動作制御部15に指示して溶接トーチ30のウィービング動作の進行方向に対する速度を変更してもよい。溶接トーチ30のウィービング動作の送り速度を変更することにより入熱量を補正することが可能であり、簡易な方式で精度の高い溶接が可能である。
【0115】
溶接制御部14は、溶接トーチ30の進行方向に対して直交する左右方向および進行方向および左右方向に対して直交する上下方向にウィービング動作させるアクチュエータ22をさらに設ける。溶接トーチ30は、左右方向および上下方向にウィービング動作するため溶接電流の波形の変化が増加する。当該変化に基づいて入熱量を補正するために溶接条件を変更するため精度の高い溶接が可能である。
【0116】
溶接装置1の溶接方法は、溶接条件に従って溶接トーチ30をウィービング動作させるステップと、ウィービング動作中の溶接電流を検出するステップと、検出された溶接電流の変化に基づいて入熱量を補正するために溶接条件を変更するステップとを備える。検出された溶接電流の波形の変化に基づいて溶接条件を変更して入熱量を補正することが可能であるため簡易な方式で精度の高い溶接が可能である。
【0117】
(その他実施形態)
上記の実施形態においては、多関節型ロボットである溶接ロボット20を用いてアーク溶接する方式について説明したが、溶接ロボット20は、溶接トーチ30をウィービング動作可能な駆動機構を有していればよく、特に多関節ロボットに限定されない。溶接ロボット20は、三軸マニピュレータよりなる直交型ロボットであってもよい。
【0118】
また、上記の実施形態においては、入熱量を補正するために溶接条件として、種々の値を変更する方式について説明したが、複数の値を変更するようにしてもよい。
【0119】
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0120】
1 溶接装置、10 溶接制御装置、11 溶接電源制御部、12 A/D変換部、13 溶接電源装置、14 溶接制御部、15 ロボット動作制御部、16 アークセンサ制御部、20 溶接ロボット、21 連結アーム、22 アクチュエータ、30 溶接トーチ、40 ワイヤ送給装置、50 溶接電流計測器、60 記憶部、62 溶接条件保存部、64 補正量保存部、L 溶接線。