(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-19
(45)【発行日】2022-10-27
(54)【発明の名称】位相変更ユニット及びバルブタイミング変更装置
(51)【国際特許分類】
F01L 1/352 20060101AFI20221020BHJP
【FI】
F01L1/352
(21)【出願番号】P 2018205170
(22)【出願日】2018-10-31
【審査請求日】2021-07-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000177612
【氏名又は名称】株式会社ミクニ
(74)【代理人】
【識別番号】100106312
【氏名又は名称】山本 敬敏
(72)【発明者】
【氏名】大野 剛資
(72)【発明者】
【氏名】菅野 弘二
(72)【発明者】
【氏名】實方 雄平
(72)【発明者】
【氏名】太田 浩樹
(72)【発明者】
【氏名】稲船 俊紀
【審査官】二之湯 正俊
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-506070(JP,A)
【文献】実開昭63-019083(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2016/0333749(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01L 1/352
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の軸線回りに回転する第1回転体及び第2回転体の相対的な回転位相を変更する位相変更ユニットであって、
外部の駆動軸が連結されて回転駆動力が及ぼされる回転部材と、
前記駆動軸の回転駆動力により前記回転部材が回転することで、前記第1回転体と前記第2回転体との間に相対的な回転を生じさせる相対回転機構と、を備え、
前記回転部材は、前記相対回転機構に作用する金属製の作用部と、前記駆動軸が連結される樹脂製の連結部と、過大負荷が生じた際に前記駆動軸との間の回転力の伝達を断つように機能する樹脂製の脆弱部を含
み、
前記相対回転機構は、前記第1回転体と一体的に回転する第1内歯車と、前記第2回転体と一体的に又は同位相で回転すると共に、前記第1内歯車と異なる歯数を有しかつ前記作用部が作用して前記第1内歯車と部分的に噛合するように弾性変形可能な環状の外歯車を含み、
前記第2回転体と一体的に回転すると共に前記外歯車が部分的に噛合する第2内歯車と、前記第1回転体に接合されるスペーサ部材をさらに備え、
前記第2回転体は、前記相対回転機構及び前記回転部材を収容するハウジングロータを含み、
前記第2内歯車は、前記ハウジングロータと一体的に回転するように取り付けられ、
前記第1内歯車は、前記スペーサ部材を介して前記第1回転体に固定され、
前記スペーサ部材は、前記ハウジングロータに対して相対的な回転範囲が規制されるように形成されている、
ことを特徴とする位相変更ユニット。
【請求項2】
所定の軸線回りに回転する第1回転体及び第2回転体の相対的な回転位相を変更する位相変更ユニットであって、
外部の駆動軸が連結されて回転駆動力が及ぼされる回転部材と、
前記駆動軸の回転駆動力により前記回転部材が回転することで、前記第1回転体と前記第2回転体との間に相対的な回転を生じさせる相対回転機構と、を備え、
前記回転部材は、前記相対回転機構に作用する金属製の作用部と、前記駆動軸が連結される樹脂製の連結部と、過大負荷が生じた際に前記駆動軸との間の回転力の伝達を断つように機能する樹脂製の脆弱部を含み、
前記相対回転機構は、前記第1回転体と一体的に回転する第1内歯車と、前記第2回転体と一体的に又は同位相で回転すると共に、前記第1内歯車と異なる歯数を有しかつ前記作用部が作用して前記第1内歯車と部分的に噛合するように弾性変形可能な環状の外歯車を含み、
前記第2回転体と一体的に回転すると共に前記外歯車が部分的に噛合する第2内歯車をさらに備え、
前記第2回転体は、前記相対回転機構及び前記回転部材を収容するハウジングロータを含み、
前記第2内歯車は、前記ハウジングロータと一体的に回転するように取り付けられ、
前記ハウジングロータは、外周においてスプロケットを有する円筒状の第1ハウジングと、前記第1ハウジングに結合されると共に前記回転部材の連結部を露出させる開口部を有する円板状の第2ハウジングを含む、
ことを特徴とする位相変更ユニット。
【請求項3】
前記回転部材は、前記作用部を含む金属部材と前記連結部及び前記脆弱部を含む樹脂部材とが一体的に結合されている、
ことを特徴とする請求項1
又は2に記載の位相変更ユニット。
【請求項4】
前記回転部材は、前記金属部材と前記樹脂部材とがインサート成形により一体成形された成形品である、
ことを特徴とする請求項
3に記載の位相変更ユニット。
【請求項5】
前記作用部は、前記外歯車に対して楕円変形を生じさせるカム作用を及ぼすカム面を含む、
ことを特徴とする請求項
1又は2に記載の位相変更ユニット。
【請求項6】
前記外歯車には、楕円変形可能なベアリングを介して前記作用部が嵌め込まれている、
ことを特徴とする請求項5に記載の位相変更ユニット。
【請求項7】
前記ベアリングは、前記作用部が嵌め込まれる弾性変形可能な環状の内輪と、前記外歯車の内側に嵌め込まれる弾性変形可能な環状の外輪と、前記内輪と前記外輪の間に介在する複数の転動体を含む、
ことを特徴とする請求項6に記載の位相変更ユニット。
【請求項8】
前記第2回転体の歯数は、前記外歯車の歯数と同一である、
ことを特徴とする請求項
1又は2に記載の位相変更ユニット。
【請求項9】
前記ハウジングロータは、前記第1内歯車を介して前記軸線回りに回転可能に支持されている、
ことを特徴とする請求項
1又は2に記載の位相変更ユニット。
【請求項10】
前記ハウジングロータは、外周においてスプロケットを有する円筒状の第1ハウジングと、前記第1ハウジングに結合されると共に前記回転部材の連結部を露出させる開口部を有する円板状の第2ハウジングを含む、
ことを特徴とする請求項
1に記載の位相変更ユニット。
【請求項11】
カムシャフトとクランクシャフトに連動するハウジングロータとの相対的な回転位相を変更する位相変更ユニットを備え、前記カムシャフトにより駆動される吸気用又は排気用のバルブの開閉時期を進角側又は遅角側に変更するエンジンのバルブタイミング変更装置であって、
前記位相変更ユニットは、請求項1ないし
10いずれか一つに記載の位相変更ユニットであり、
前記位相変更ユニットに含まれる第1回転体は、前記カムシャフトであり、
前記位相変更ユニットに含まれる第2回転体は、前記ハウジングロータである、
ことを特徴とするバルブタイミング変更装置。
【請求項12】
前記位相変更ユニットに含まれる回転部材に回転駆動力を及ぼす電動モータを含む、
ことを特徴とする請求項
11に記載のバルブタイミング変更装置。
【請求項13】
前記位相変更ユニットに含まれる回転部材は、前記カムシャフトの回転速度よりも速い回転速度で前記カムシャフトの回転方向と同一方向に回転駆動力が及ぼされるとき、進角動作を行うように設定されている、
ことを特徴とする請求項
11又は12に記載のバルブタイミング変更装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二つの回転体の回転位相を変更する位相変更ユニットに関し、特に、内燃エンジンの吸気バルブ又は排気バルブの開閉時期(バルブタイミング)を変更する際に適用される位相変更ユニット及びそれを用いたバルブタイミング変更装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のバルブタイミング変更装置としては、クランクシャフトの回転に連動する駆動回転体、カムシャフトと一体的に回転する従動回転体、遊星キャリア、遊星歯車、モータ軸を有する電動モータ、電動モータのモータ軸と遊星キャリアとを連結する可動軸継手機構等を備えたものが知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
ここで、可動軸継手機構は、金属製の二つの継手部材により構成されており、電動モータの回転駆動力を遊星キャリアに伝達する役割をなすと共に、過トルクが生じた際に継手部材に設けた低強度部を破損させる構造となっている。
【0004】
しかしながら、上記の可動軸継手機構及び遊星キャリアの構造では、構造が複雑であり、継手部材に対して低強度部等を設けるための機械加工を必要とし、高コスト化を招く。
また、モータ軸、二つの継手部材、遊星キャリア等が金属製であるため、全体として重量物であり、それ故に慣性モーメントが大きく、電動モータとしては大きい出力トルクが要求される。
さらに、トルク変動等の際に、金属製の部品同士が衝突して衝突音を生じる虞がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の事情に鑑みて成されたものであり、その目的とするところは、上記従来技術の問題点を解消して、構造の簡素化、軽量化、低騒音化、低コスト化等を図りつつ、過負荷が生じた際にも電動モータの破損等を防止できる、位相変更ユニット及びそれを用いたバルブタイミング変更装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の観点に係る位相変更ユニットは、所定の軸線回りに回転する第1回転体及び第2回転体の相対的な回転位相を変更する位相変更ユニットであって、外部の駆動軸が連結されて回転駆動力が及ぼされる回転部材と、駆動軸の回転駆動力により回転部材が回転することで、第1回転体と第2回転体との間に相対的な回転を生じさせる相対回転機構とを備え、回転部材は、相対回転機構に作用する金属製の作用部と、駆動軸が連結される樹脂製の連結部と、過大負荷が生じた際に駆動軸との間の回転力の伝達を断つように機能する樹脂製の脆弱部を含み、相対回転機構は、第1回転体と一体的に回転する第1内歯車と、第2回転体と一体的に又は同位相で回転すると共に第1内歯車と異なる歯数を有しかつ作用部が作用して第1内歯車と部分的に噛合するように弾性変形可能な環状の外歯車を含み、第2回転体と一体的に回転すると共に外歯車が部分的に噛合する第2内歯車と、第1回転体に接合されるスペーサ部材をさらに備え、第2回転体は、相対回転機構及び回転部材を収容するハウジングロータを含み、第2内歯車は、ハウジングロータと一体的に回転するように取り付けられ、第1内歯車は、スペーサ部材を介して第1回転体に固定され、スペーサ部材は、ハウジングロータに対して相対的な回転範囲が規制されるように形成されている、構成となっている。
また、本発明の第2の観点に係る位相変更ユニットは、所定の軸線回りに回転する第1回転体及び第2回転体の相対的な回転位相を変更する位相変更ユニットであって、外部の駆動軸が連結されて回転駆動力が及ぼされる回転部材と、駆動軸の回転駆動力により回転部材が回転することで、第1回転体と第2回転体との間に相対的な回転を生じさせる相対回転機構とを備え、回転部材は、相対回転機構に作用する金属製の作用部と、駆動軸が連結される樹脂製の連結部と、過大負荷が生じた際に駆動軸との間の回転力の伝達を断つように機能する樹脂製の脆弱部を含み、相対回転機構は、第1回転体と一体的に回転する第1内歯車と、第2回転体と一体的に又は同位相で回転すると共に第1内歯車と異なる歯数を有しかつ作用部が作用して第1内歯車と部分的に噛合するように弾性変形可能な環状の外歯車を含み、第2回転体と一体的に回転すると共に外歯車が部分的に噛合する第2内歯車をさらに備え、第2回転体は、相対回転機構及び回転部材を収容するハウジングロータを含み、第2内歯車は、ハウジングロータと一体的に回転するように取り付けられ、ハウジングロータは、外周においてスプロケットを有する円筒状の第1ハウジングと、第1ハウジングに結合されると共に回転部材の連結部を露出させる開口部を有する円板状の第2ハウジングを含む、構成となっている。
【0008】
上記位相変更ユニットにおいて、回転部材は、作用部を含む金属部材と連結部及び脆弱部を含む樹脂部材とが一体的に結合されている、構成を採用してもよい。
【0009】
上記位相変更ユニットにおいて、回転部材は、金属部材と樹脂部材とがインサート成形により一体成形された成形品である、構成を採用してもよい。
【0011】
上記位相変更ユニットにおいて、回転部材の作用部は、外歯車に対して楕円変形を生じさせるカム作用を及ぼすカム面を含む、構成を採用してもよい。
【0012】
上記位相変更ユニットにおいて、外歯車には、楕円変形可能なベアリングを介して回転部材の作用部が嵌め込まれている、構成を採用してもよい。
【0013】
上記位相変更ユニットにおいて、ベアリングは、回転部材の作用部が嵌め込まれる弾性変形可能な環状の内輪と、外歯車の内側に嵌め込まれる弾性変形可能な環状の外輪と、内輪と外輪の間に配置された複数の転動体を含む、構成を採用してもよい。
【0015】
上記位相変更ユニットにおいて、第2回転体の歯数は、外歯車の歯数と同一である、構成を採用してもよい。
【0017】
上記位相変更ユニットにおいて、ハウジングロータは、第1内歯車を介して上記軸線回りに回転可能に支持されている、構成を採用してもよい。
【0019】
上記第1の観点に係る位相変更ユニットにおいて、ハウジングロータは、外周においてスプロケットを有する円筒状の第1ハウジングと、第1ハウジングに結合されると共に回転部材の連結部を露出させる開口部を有する円板状の第2ハウジングを含む、構成を採用してもよい。
【0020】
本発明のバルブタイミング変更装置は、カムシャフトとクランクシャフトに連動するハウジングロータとの相対的な回転位相を変更する位相変更ユニットを備え、カムシャフトにより駆動される吸気用又は排気用のバルブの開閉時期を進角側又は遅角側に変更するエンジンのバルブタイミング変更装置であって、位相変更ユニットは、上記構成をなすいずれかの位相変更ユニットであり、位相変更ユニットにおける第1回転体は、カムシャフトであり、位相変更ユニットにおける第2回転体は、ハウジングロータである、構成となっている。
【0021】
上記バルブタイミング変更装置において、位相変更ユニットに含まれる回転部材に回転駆動力を及ぼす電動モータを含む、構成を採用してもよい。
【0022】
上記バルブタイミング変更装置において、位相変更ユニットに含まれる回転部材は、カムシャフトの回転速度よりも速い回転速度でカムシャフトの回転方向と同一方向に回転駆動力が及ぼされるとき、進角動作を行うように設定されている、構成を採用してもよい。
【発明の効果】
【0023】
上記構成をなす位相変更ユニットによれば、構造の簡素化、軽量化、低騒音化、低コスト化等を達成しつつ、過負荷が生じた際にも電動モータの破損等を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の一実施形態に係る位相変更ユニットを採用したバルブタイミング変更装置を前方斜めから視た外観斜視図である。
【
図2】
図1に示すバルブタイミング変更装置において、電動モータを位相変更ユニとから離して後方斜めから視た分解斜視図である。
【
図3】
図1に示すバルブタイミング変更装置の断面図である。
【
図4】本発明の位相変更ユニットが第1回転体としてのカムシャフトに組み付けられた状態における斜視断面図である。
【
図5】本発明の位相変更ユニットと第1回転体としてのカムシャフトの関係を示すものであり、前方斜めから視た分解斜視図である。
【
図6】本発明の位相変更ユニットと第1回転体としてのカムシャフトの関係を示すものであり、後方斜めから視た分解斜視図である。
【
図7】本発明の位相変更ユニットを前方斜めから視た分解斜視図である。
【
図8】本発明の位相変更ユニットを後方斜めから視た分解斜視図である。
【
図9】本発明の位相変更ユニットに含まれる回転部材、ベアリング、外歯車、電動モータの駆動軸の相互関係を示す斜視図である。
【
図10】本発明の位相変更ユニットに含まれる回転部材、ベアリング、外歯車、電動モータの駆動軸の相互関係を示す断面図である。
【
図11】本発明の位相変更ユニットに含まれる回転部材の樹脂部材と金属部材を分離した状態を示す分解斜視図である。
【
図13】本発明位相変更ユニットに含まれる回転部材の他の実施形態を示す分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態について、添付図面を参照しつつ説明する。
一実施形態に係るバルブタイミング変更装置は、
図1に示すように、カムシャフトCSとスプロケット11aの相対的な回転位相を変更する位相変更ユニットUを備えている。
ここで、カムシャフトCSは、軸線S回りの一方向(
図1中のR方向)に回転する第1回転体として機能するものであり、
図5に示すように、鍔状の嵌合部CS1、ネジ孔CS2、油通路CS3、位置決めピンPの嵌合穴CS4を備えている。
スプロケット11aは、軸線S回りの一方向(R方向)に回転する第2回転体の一部を形成し、チェーンを介してクランクシャフトの回転に連動する。
【0026】
そして、位相変更ユニットUが、電動モータDにより適宜駆動制御されることにより、カムシャフトCSにより駆動される吸気バルブ又は排気バルブの開閉時期(バルブタイミング)が変更されるようになっている。
ここで、電動モータDは、エンジンの一部、例えば、チェーンカバー部材に固定されるものであり、
図2及び
図3に示すように、軸線S回りに回転駆動力を生じる駆動軸D1を備えている。
そして、駆動軸D1の一部をなす連結コマD2が、位相変更ユニットUに含まれる回転部材80の連結部82に連結されて回転駆動力を及ぼすようになっている。
【0027】
位相変更ユニットUは、
図3、
図7、
図8に示すように、第2回転体としてのハウジングロータ10、第1内歯車20、スペーサ部材としてのロータ30、外歯車40、スペーサ部材50、第2内歯車60、ベアリング70、回転部材80を備えている。
ここでは、第1内歯車20及び外歯車40により、回転部材80が回転することで、第1回転体としてカムシャフトCSと第2回転体としてのハウジングロータ10との間に相対的な回転を生じさせる相対回転機構が構成されている。
【0028】
ハウジングロータ10は、軸線S回りに回転自在に支持される第1ハウジング11、第1ハウジング11に対してネジb1により結合される第2ハウジング12を備えている。
【0029】
第1ハウジング11は、金属材料を用いて略円筒状に形成され、スプロケット11a、円筒部11b、内周面11c、油通路11d,11e、進角側ストッパ11f、遅角側ストッパ11g、ネジb1を捩じ込む複数のネジ孔11hを備えている。
【0030】
内周面11cは、第1内歯車20の外周面21aに摺動自在に密接し、軸線S回りに回転自在に支持される。
油通路11dは、内周面11cにおいて軸線Sと平行に伸長する溝として形成されている。そして、油通路11dは、カムシャフトCSの油通路CS3及びロータ30の油通路35を経て第1内歯車20の内部に導かれた潤滑油を、第1内歯車20の外周面21aと内周面11cの摺動領域に導く。
油通路11eは、円筒部11bの前端面において、径方向外向きに伸長する溝として形成されている。そして、油通路11eは、ハウジングロータ10内に導かれた潤滑油を、ハウジングロータ10の外部に導く。
【0031】
進角側ストッパ11fは、ロータ30の進角側当接部36を当接させて、カムシャフトCSを最大進角位置に位置決めする。
遅角側ストッパ11gは、ロータ30の遅角側当接部37を当接させて、カムシャフトCSを最大遅角位置に位置決めする。
【0032】
第2ハウジング12は、金属材料を用いて円板状に形成され、軸線Sを中心とする円形の開口部12a、ネジb1を通す複数の円孔12bを備えている。
開口部12aは、径方向において回転部材80の周りに隙間をおいて、回転部材80の連結部82を露出させるように形成されている。
【0033】
そして、第1ハウジング11に対して、ロータ30を嵌合させた第1内歯車20、スペーサ部材50、第2内歯車60、外歯車40及びベアリング70を嵌合させた回転部材80が組み付けられ後に、第2ハウジング12が第1ハウジング11にネジb1で結合されることにより、軸線S回りに回転する第2回転体としてのハウジングロータ10が形成される。
【0034】
ここで、ハウジングロータ10は、第1内歯車20を介して軸線S回りに回転可能に支持されているため、カムシャフトCSに固定される第1内歯車20を基準として、ハウジングロータ10、外歯車40、第2内歯車60の位置決めを行うことができる。
また、ハウジングロータ10として、第1ハウジング11及び第2ハウジング12を含む構成を採用し、第1ハウジング11に対して、上記種々の部品を収容して第2ハウジング12を結合することにより、位相変更ユニットUを容易に組み付けることができる。
【0035】
第1内歯車20は、金属材料を用いて、
図7及び
図8に示すように、例えば鍛造により有底円筒状に形成され、円筒部21、歯列22、底壁面23、接合面24、嵌合孔25、油通路26,27、内周隅R部28を備えている。
【0036】
円筒部21は、第1ハウジング11の内周面11cと摺動自在に接触するべく、軸線Sを中心とする外周面21aを画定している。
歯列22は、歯数Z1からなり、円筒部21の内周面において、軸線Sを中心とする円環状に配列して形成されている。
【0037】
底壁面23は、軸線Sに垂直な平坦面として形成され、スペーサ部材50が当接して配置されると共に締結ボルトb2の座面として機能する。
接合面24は、ロータ30が接合されるべく、底壁面23と平行な平坦面として形成されている。
嵌合孔25は、軸線Sを中心とする円形状に形成され、ロータ30の筒状嵌合部32が嵌合されるように形成されている。
【0038】
油通路26は、底壁面23において、径方向に伸長する溝として形成されている。そして、油通路26は、ロータ30の油通路35及び筒状嵌合部32の内側を経た潤滑油を、第1内歯車20の内部に導く。
油通路27は、円筒部21の前端面において径方向に伸長する溝として形成されている。そして、油通路27は、第1内歯車20内の潤滑油を、第1ハウジング11の油通路11d,11eに導く。
内周隅R部28は、底壁面23の周縁から円筒部21の内周面に繋がる領域において湾曲して形成された領域であり、軸線S方向において歯列22が存在しない領域である。
【0039】
ロータ30は、金属材料を用いて略平板状に形成され、
図7及び
図8に示すように、貫通孔31、筒状嵌合部32、嵌合凹部33、位置決め孔34、油通路35、進角側当接部36、遅角側当接部37を備えている。
【0040】
貫通孔31は、潤滑油が流れる隙間をおいて締結ボルトb2を通すように、軸線Sを中心とする円形状に形成されている。
筒状嵌合部32は、貫通孔31の一部を画定すると共に、第1内歯車20の嵌合孔25に嵌合され、又、嵌合状態で油通路26を閉塞しないように、軸線Sを中心とする円筒状に形成されている。
嵌合凹部33は、カムシャフトCSの嵌合部CS1を嵌合させるべく、軸線Sを中心とする円形状に形成されている。
【0041】
位置決め孔34は、軸線S回りの角度位置を位置決めするべく、カムシャフトCSの嵌合穴CS4に固定された位置決めピンPが嵌合されるように形成されている。
油通路35は、嵌合凹部33の底壁面において、径方向に伸長して貫通孔31に連通すると共にカムシャフトCSの油通路CS3に連通する溝として形成されている。
そして、油通路35は、カムシャフトCSの油通路CS3から供給される潤滑油を、貫通孔31を経て第1内歯車20内に導く。
【0042】
進角側当接部36は、第1ハウジング11の進角側ストッパ11fに対して離脱可能に当接するように形成されている。
遅角側当接部37は、第1ハウジング11の遅角側ストッパ11gに対して離脱可能に当接するように形成されている。
【0043】
そして、ロータ30は、筒状嵌合部32が嵌合孔25に嵌合されることで、予め第1内歯車20に一体的に組み付けられる。
続いて、第1ハウジング11が第1内歯車20に回転自在に取り付けられた状態で、ロータ30がカムシャフトCSに近づけられ、位置決め孔34に位置決めピンPが嵌合され、嵌合凹部33に嵌合部CS1が嵌合される。これにより、ロータ30がカムシャフトCSに接合される。
その後、締結ボルトb2が、貫通孔31に通されてネジ穴CS2に捩じ込まれることで、第1内歯車20がロータ30を介してカムシャフトCSに固定される。
【0044】
また、ロータ30は、進角側当接部36が進角側ストッパ11fに当接することで最大進角位置に位置付けられ、遅角側当接部37が遅角側ストッパ11gに当接することで最大遅角位置に位置付けられる。
すなわち、カムシャフトCSは、ロータ30を介して、ハウジングロータ10に対する相対的な回転範囲が規制されるようになっている。
これにより、バルブタイミングを変更可能な回転位相の範囲、すなわち、最大遅角位置から最大進角位置までの調整可能な角度範囲を所望の範囲に規制することができる。
【0045】
このように、スペーサ部材としてのロータ30を採用することにより、カムシャフトCSの嵌合部CS1の形状がエンジンの仕様に応じて異なる場合、ロータ30を種々のカムシャフトCSに対応させて設定するだけで、位相変更ユニットUを種々のエンジンのバルブタイミング変更装置に適用することができる。
【0046】
外歯車40は、金属材料を用いて、
図7及び
図8に示すように、弾性変形可能な薄い肉厚の円筒状に形成され、その外周面において歯列41を備えている。
歯列41は、第1内歯車20の歯数Z1と異なる歯数Z2からなり、軸線S方向における略半分の奥側領域が第1内歯車20の歯列22と噛合し、軸線S方向における略半分の前側領域が第2内歯車60の歯列62と噛合する。
ここで、「前側」とは、
図3において軸線S方向の左側であり、「奥側」とは、
図3において軸線S方向の右側である。
【0047】
そして、外歯車40は、ベアリング70を介して回転部材80の作用部84のカム作用を受けることにより楕円状に変形させられて、第1内歯車20と二箇所で部分的に噛合すると共に、第2内歯車60と二箇所で部分的に噛合するようになっている。
【0048】
スペーサ部材50は、金属材料を用いて、
図7及び
図8に示すように、平板をなす円環状に形成されると共に、第1内歯車20の内周隅R部28の軸線S方向における長さ寸法以上の厚さをなすように形成されている。
そして、スペーサ部材50は、第1内歯車20の底壁面23に接触するように組み付けられて、軸線S方向において外歯車40の端面を受けると共に外歯車40が内周隅R部28側に入り込むのを規制する役割をなす。
【0049】
このように、スペーサ部材50を採用することにより、第1内歯車20において追加の切削作業等が不要になり、全体として低コスト化を達成できる。
尚、第1内歯車20において、内周隅R部28が無く、内周隅領域に環状溝が形成される場合又は軸線S方向の全域において歯列23が形成される場合は、スペーサ部材50を廃止してもよい。
【0050】
第2内歯車60は、金属材料を用いて、
図7及び
図8に示すように、例えば鍛造により略円環状に形成され、軸線Sを中心とする円筒部61、歯列62、鍔部63、ネジb1を通す複数の円孔64を備えている。
円筒部61は、第1ハウジング11の内周面11cに嵌め込まれる外径寸法に形成されている。
歯列62は、歯数Z3からなり、円筒部61の内周面において、軸線Sを中心とする円環状に配列して形成されている。
そして、歯列62は、外歯車40の歯列41の軸線S方向における略半分の前側領域と噛合するように配置される。
【0051】
ここで、歯列62の歯数Z3は、外歯車40の歯列41の歯数Z2と同一に設定されている。このように、歯数Z3,Z2を同一(Z3=Z2)とすることにより、第1内歯車20の歯数Z1と外歯車40の歯数Z2だけで、回転位相を変更する際の変速比(例えば、減速比)を容易に設定することができる。
【0052】
鍔部63は、軸線Sに垂直な平板状に形成され、第1ハウジング11と第2ハウジング12の間に挟み込まれて組み付けられる。
すなわち、第2内歯車60は、ネジb1により、ハウジングロータ10と一体的に回転するように固定されて、外歯車40と噛合するようになっている。
【0053】
このように、ハウジングロータ10と一体的に回転するように連結されると共に外歯車40が部分的に噛合する第2内歯車60を採用することにより、外歯車40をハウジングロータ10に直接固定する場合に比べて、外歯車40を環状の簡単な形態に形成でき、外歯車40の製造コストを低減できる。
また、第2内歯車60は、ハウジングロータ10とは別個に形成して、ハウジングロータ0に後付けされるため、第2内歯車60をハウジングロータ10に一体形成する場合に比べて、製造が容易になり、生産性を向上させることができる。
【0054】
ベアリング70は、
図3及び
図10に示すように、環状の内輪71、環状の外輪72、内輪71と外輪72の間に転動自在に配置された複数の転動体73、複数の転動体73を保持するリテーナ74を備えている。
【0055】
内輪71は、金属材料を用いて弾性変形可能な無端ベルト状に形成され、回転部材80の作用部84が嵌め込まれる。
外輪72は、金属材料を用いて弾性変形可能な無端ベルト状に形成され、外歯車40の内側に嵌め込まれる。
複数の転動体73は、金属材料を用いて球体に形成されており、内輪71と外輪72の間に挟み込まれると共に、リテーナ74により軸線S回りに等間隔に保持される。
リテーナ74は、金属材料を用いて弾性変形可能な無端ベルト状に形成され、かつ、複数の転動体73を等間隔で転動自在に保持するように形成されている。
【0056】
そして、ベアリング70の外輪72は、回転部材80の作用部84のカム作用に応じて楕円状に変形するようになっている。
このように、ベアリング70が、楕円変形させられた状態で回転部材80の作用部84と外歯車40の間に介在するため、回転部材80の回転に伴って、外歯車40を円滑に楕円変形させることができる。
【0057】
回転部材80は、
図9、
図11及び
図12に示すように、樹脂材料を用いて形成された樹脂部材A、金属材料を用いて形成された金属部材Bを備えている。
そして、回転部材80は、外部の駆動軸D1の一部をなす連結コマD2が連結されて回転駆動力が及ぼされるものであり、又、回転部材80が回転することで、作用部84がカム作用を及ぼし、第1内歯車20及び第2内歯車60と噛合した状態にある外歯車40が、楕円変形しつつその噛合位置が軸線S回りに連続的に変化するようになっている。
【0058】
樹脂部材Aは、例えば、樹脂を射出成形する金型により形成され、環状部81、連結部82、金属部材Bの環状リブ85が埋設される環状溝83を備えている。
金属部材Bは、例えば、焼結により形成され、作用部84、作用部84の前端面において軸線S方向に突出する環状リブ85を備えている。
【0059】
環状部81は、軸線Sを中心とする円形状に形成されている。
連結部82は、環状部81の内側において軸線Sに垂直な径方向中心に向けて開口するU字状のリブとして形成されている。
そして、連結部82には、駆動軸D1の一部をなす連結コマD2が挿入されて連結されるようになっている。
また、連結部82は、過大負荷が生じた際に駆動軸D1との間の回転力の伝達を断つように機能し、具体的には破断する脆弱部としても機能する。
【0060】
作用部84は、楕円環状に形成され、その外周面が軸線Sに垂直な直線L方向において長軸をもつ楕円形のカム面84aを画定する。
カム面84aは、外歯車40に対して楕円変形を生じさせるカム作用を及ぼす。
環状リブ85は、樹脂部材Aの環状溝83に埋設されるように形成され、樹脂部材Aと金属部材Bとの結合力を高める役割をなす。
【0061】
ここで、作用部84の長軸方向における外径は、円形状をなす環状部81の外径よりも小さく形成されている。したがって、樹脂部材Aと金属部材Bの境界領域において、環状端面81aが画定される。
環状端面81aは、ベアリング70を嵌め込む際に、内輪71を軸線S方向において位置決めする役割をなす。
【0062】
上記樹脂部材Aと金属部材Bとから構成される回転部材80は、以下のようにして形成される。
先ず、金属部材Bが焼結等により予め形成される。
続いて、金属部材Bが樹脂成形の金型内に配置された状態で、金型内に樹脂材料が射出される、インサート成形が行われる。
これにより、樹脂部材Aと金属部材Bが一体的に成形された成形品としての回転部材80が形成される。
【0063】
このように、回転部材80は、樹脂部材Aと金属部材Bとが一体的に結合されたものであり、回転部材80の樹脂製の連結部82に対して、駆動軸D1の一部をなす連結コマD2が連結されて回転駆動力を伝達するため、金属部品同士が衝突する際に生じ得る衝突音等の発生を抑制又は防止できる。
また、位相変更ユニットUにおいて、過大負荷が生じた場合には、回転部材80の樹脂製の脆弱部としての連結部82が駆動軸D1との間の回転力の伝達を断つように機能するため、駆動軸D1を含む電動モータD等の破損を防止できる。
【0064】
また、回転部材80の一部が樹脂部材Aとして形成されているため、回転部材80の機械加工の工数を低減でき、それ故に低コスト化を達成できる。
また、回転部材80を軽量化でき、又、慣性モーメントを低減できるため、電動モータDの省力化を達成できる。
さらに、樹脂部材Aと金属部材Bとがインサート成形により一体成形されているため、結合のためのネジや結合剤等が不要であり、又、種々の駆動軸D1に対応して、連結部の形状を容易に樹脂成形することができる。
【0065】
上記相対回転機構を構成する第1内歯車20及び外歯車40と、第2内歯車60との関係について説明する。
第1内歯車20の歯数Z1と外歯車40の歯数Z2の関係は、相対回転を生じさせるため、第1内歯車20と外歯車40の噛合箇所の個数をN、正の整数をnとするとき、Z2=Z1±n・Nの関係が成立するように設定される。この実施形態においては、N=2であるため、例えば、Z1=162、Z2=160に設定される。
また、第2内歯車60の歯数Z3と外歯車40の歯数Z2の関係は、前述したように相対回転を生じないで同位相で回転するように、同一の値が選定される。この実施形態においては、例えば、Z3=160、Z2=160に設定される。
これによれば、第1内歯車20の歯数Z1と外歯車40の歯数Z2だけで減速比を決定できるため、減速比の設定が容易である。
尚、第2内歯車60の歯数Z3は、外歯車40の歯数Z2と同一ではなく、異なる値でもよい。
【0066】
次に、上記構成をなす位相変更ユニットUの組み付け作業について説明する。
組付け作業に際して、第1ハウジング11、第2ハウジング12、ネジb1、第1内歯車20、ロータ30、外歯車40、スペーサ部材50、第2内歯車60、ベアリング70、回転部材80が準備される。
【0067】
先ず、回転部材80に対して、ベアリング70及び外歯車40が組み付けられる。
続いて、第1内歯車20に対してロータ30が接合されて一体的に組み付けられる。
続いて、第1ハウジング11に対して、第1内歯車20が嵌め込まれ、その外側前方からスペーサ部材50が嵌め込まれる。
【0068】
続いて、外歯車40の歯列41の奥側部分を第1内歯車20の歯列22に噛合させるようにして、回転部材80が嵌め込まれる。
続いて、外歯車40の歯列41の前側部分に歯列62を噛合させるようにして、第2内歯車60が嵌め込まれ、その外側前方から第2ハウジング12が配置される。
【0069】
そして、ネジb1が、円孔12b,64を通して、ネジ穴11hに捩じ込まれることにより、第2内歯車60を挟み込んだ状態で、第2ハウジング12が第1ハウジング11に結合される。
これにより、位相変更ユニットUの組付けが完了する。また、この組付け状態において、ハウジングロータ10の開口部12aを通して、回転部材80の連結部82が露出した状態となる。
尚、組付け作業は、上記の手順に限るものではなく、その他の手順を採用してもよい。
【0070】
上記構成をなす位相変更ユニットUによれば、構造の簡素化、軽量化、低騒音化、低コスト化、組付け作業の容易化等を達成でき、又、過負荷が生じた際にも電動モータDの破損等を防止することができる。
【0071】
次に、上記の位相変更ユニットUがエンジンのバルブタイミング変更装置として適用される場合の動作を説明する。
先ず、位相の変更を行わない、すなわち、バルブタイミングを変更しない場合は、電動モータDは、回転部材80に対して、カムシャフトCSの回転速度と同一の回転速度でカムシャフトCSと同一方向に回転駆動力を及ぼすように駆動制御される。
したがって、第1内歯車20と外歯車40は、互いに噛合った位置でロックされる。
また、外歯車40と第2内歯車60とは、互いに噛合った位置でロックされる。
これにより、カムシャフトCSとハウジングロータ10は、軸線S回りにおいて一方向(
図1中のR方向)に一体的に回転する。
【0072】
一方、位相を変更する、すなわち、バルブタイミングを変更する場合は、電動モータDは、回転部材80に対して、カムシャフトCSの回転速度と異なる回転速度でカムシャフトCSと同一方向に回転駆動力を及ぼすように駆動制御される。
例えば、電動モータDが、回転部材80に対して、カムシャフトCSの回転速度よりも速い回転速度でカムシャフトCSと同一方向に回転駆動力を及ぼすように駆動制御されると、回転部材80が軸線S回りの一方向(
図1中のCW方向)に相対的に回転させられることになり、回転部材80の作用部84は、一方向に回転しつつ外歯車40に対してカム作用を及ぼす。
そして、回転部材80が一方向に一回転すると、外歯車40は、第1内歯車20に対して、歯数差(162-160)分だけ回転差を生じ、他方向に(
図1中のCCW方向)にずれる。
一方、回転部材80が一方向に回転しても、外歯車40の歯数Z2と第2内歯車60の歯数Z3は同一であるため、同位相を保持する。
【0073】
すなわち、回転部材80が一方向(CW方向)に連続して複数回に亘って回転させられることにより、ハウジングロータ10に対してカムシャフトCSの回転位相が進められて、吸気バルブ又は排気バルブの開閉時期が進角側に変更される。
【0074】
一方、電動モータDが、回転部材80に対して、カムシャフトCSの回転速度よりも遅い回転速度でカムシャフトCSと同一方向に回転駆動力を及ぼすように駆動制御されると、回転部材80が軸線S回りの他方向(
図1中のCCW方向)に相対的に回転させられることになり、回転部材80の作用部84は、他方向に回転しつつ外歯車40に対してカム作用を及ぼす。
そして、回転部材80が他方向に一回転すると、外歯車40は、第1内歯車20に対して、歯数差(162-160)分だけ回転差を生じ、一方向に(
図1中のCW方向)にずれる。
一方、回転部材80が他方向に回転しても、外歯車40の歯数Z2と第2内歯車60の歯数Z3は同一であるため、同位相を保持する。
【0075】
すなわち、回転部材80が他方向(CCW方向)に連続して複数回に亘って回転させられることにより、ハウジングロータ10に対してカムシャフトCSの回転位相が遅らせられて、吸気バルブ又は排気バルブの開閉時期が遅角側に変更される。
【0076】
この変更動作に際して、駆動軸D1の連結コマD2は、回転部材80の樹脂製の連結部82に連結されて回転駆動力を伝達するため、金属部品同士が衝突する際に生じ得る衝突音等の発生が抑制又は防止される。
また、位相変更ユニットUにおいて、過大負荷が生じた場合には、回転部材80の樹脂製の脆弱部としての連結部82が破断する。
これにより、位相変更ユニットUと駆動軸D1との間の回転力の伝達が断たれるため、駆動軸D1を含む電動モータDの破損等が防止される。
【0077】
ここでは、回転部材80は、電動モータDにより、カムシャフトCSの回転速度よりも速い回転速度でカムシャフトCSの回転方向(R方向)と同一方向(CW方向)に回転駆動力が及ぼされるとき、進角動作を行うように設定されている。
したがって、位相変更ユニットUが吸気バルブに対応して設けられる場合は、仮に電動モータDが不作動になった場合、回転位相は遅角側に自動的に変更されるため、エンジンの始動性を維持することができる。
【0078】
次に、上記位相変更ユニットUにおける潤滑作用について説明する。
エンジンのオイルパンに貯留された潤滑油は、オイルポンプ等によりカムシャフトCSの油通路CS3に導かれる。
油通路CS3に導かれた潤滑油は、ロータ30の油通路35及び貫通孔31、第1内歯車20の油通路26を経て、第1内歯車20の内部に導かれる。
【0079】
第1内歯車20の内部に導かれた潤滑油は、ベアリング70に供給されると共に、外歯車40と第1内歯車20の噛合領域及び外歯車40と第2内歯車60の噛合領域に供給される。
その後、潤滑油は、第2ハウジング12の開口部12aから位相変更ユニットUの外部に導かれ、チェーンカバー部材の内部を流れて、オイルパンに戻される。
また、開口部12aから流れ出る潤滑油は、回転部材80の連結部82と駆動軸D1の連結コマD2の連結領域の潤滑作用にも寄与するため、連結領域における摩耗や衝突音等が抑制される。
【0080】
一方、第1内歯車20内の潤滑油は、遠心力により、第1内歯車20の油通路27及び第1ハウジング11の油通路11dを経て、第1ハウジング11の内周面11cと第1内歯車20の外周面21aの摺動面に供給される。
その後、潤滑油は、遠心力により、第1ハウジング11の油通路11eを経て、位相変更ユニットUの外部に導かれ、チェーンカバー部材の内部を流れて、オイルパンに戻される。
このように、本発明の位相変更ユニットUによれば、潤滑作用も確実に行われるため、円滑な位相の変更動作を達成でき、摺動領域の摩耗や劣化を抑制できる。
【0081】
図13及び
図14は、本発明の位相変更ユニットに含まれる回転部材の他の実施形態を示すものであり、前述の実施形態と同一の構成については同一の符号を付して説明を省略する。
この実施形態に係る回転部材180は、樹脂材料を用いて形成された樹脂部材A2、金属材料を用いて形成された金属部材B2を備えている。
【0082】
樹脂部材A2は、例えば、樹脂を射出成形する金型により形成され、環状部81、連結部182、脆弱部183を備えている。
金属部材B2は、例えば、焼結により形成され、作用部84、作用部84の端面に開口すると共に軸線S方向に伸長する結合穴185を備えている。
【0083】
連結部182は、環状部81の内側において軸線Sに垂直な径方向中心に向けて開口するU字溝として形成され、U字溝の周りは肉盛りされて機械的強度が高められている。
そして、連結部182には、駆動軸D1の一部をなす連結コマD2が挿入されて連結されるようになっている。
脆弱部183は、環状部81の後端面から軸線S方向に突出するロッド状に形成されて、金属部材B2の結合穴185に配置されている。
そして、脆弱部183は、過大負荷が生じた際に駆動軸D1との間の回転力の伝達を断つように機能する、具体的には端面81aの位置にて破断するように機能する。
ここで、脆弱部183及び結合穴185の個数は、要求される機械的強度に応じて、適宜選定される。
【0084】
上記樹脂部材A2と金属部材B2とから構成される回転部材180は、以下のようにして形成される。
先ず、金属部材B2が焼結等により予め形成される。
続いて、金属部材B2が樹脂成形の金型内に配置された状態で、金型内に樹脂材料が射出される、インサート成形が行わる。
これにより、樹脂部材A2と金属部材B2が一体的に成形された成形品としての回転部材180が形成される。
【0085】
このように、回転部材180は、樹脂部材A2と金属部材B2とが一体的に結合されたものであり、回転部材180の樹脂製の連結部182に対して、駆動軸D1の一部をなす連結コマD2が連結されて回転駆動力を伝達するため、金属部品同士が衝突する際に生じ得る衝突音等の発生を抑制又は防止できる。
また、位相変更ユニットUにおいて、過大負荷が生じた場合には、回転部材180の樹脂製の脆弱部183が駆動軸D1との間の回転力の伝達を断つように機能するため、駆動軸D1を含む電動モータD等の破損を防止できる。
ここでは、脆弱部183が破断しても、金属部材B2の結合穴185内に留まるため、破断片が発生しない。それ故に、位相変更ユニットU内において破断片の噛み込み等を防止できる。
【0086】
また、前述同様に、回転部材180の一部が樹脂部材A2として形成されているため、回転部材180の機械加工の工数を低減でき、それ故に低コスト化を達成できる。
また、回転部材180を軽量化でき、又、慣性モーメントを低減できるため、電動モータDの省力化を達成できる。
さらに、樹脂部材A2と金属部材B2とがインサート成形により一体成形されているため、結合のためのネジや結合剤等が不要であり、又、種々の駆動軸D1に対応して、連結部の形状を容易に樹脂成形することができる。
【0087】
上記実施形態においては、位相変更ユニットUに含まれる回転部材として、樹脂部材A,A2と金属部材B,B2とがインサート成形により一体成形された成形品としての回転部材80,180を示したが、これに限定されるものではない。
例えば、樹脂製の連結部を含む樹脂部材と金属製の作用部を含む金属部材とを別々に形成し、両者を樹脂製のネジで締結して一体的に結合して回転部材を形成し、樹脂製のネジを脆弱部として機能させてもよい。
また、樹脂製の連結部を含む樹脂部材と金属製の作用部を含む金属部材とを別々に形成し、両者を樹脂製の接着剤で一体的に結合して回転部材を形成し、接着剤を樹脂製の脆弱部として機能させてもよい。
さらに、樹脂製の脆弱部としては、回転力の伝達を断つように機能するものであれば、破断しなくても、弾性的に変形して駆動軸D1の空転を許容するものであってもよい。
【0088】
上記実施形態においては、第1回転体と第2回転体との間に相対的な回転を生じさせる相対回転機構として、第1内歯車20及び外歯車40を含む波動歯車機構を示したが、これに限定されるものではなく、相対回転を生じる機構であれば、遊星歯車機構、その他の減速機構等を採用することができる。
【0089】
上記実施形態においては、第2内歯車60を採用して、位相変更の際に外歯車40と同位相で回転させる構造を示したが、これに限定されるものではなく、外歯車として、歯列を有する筒状部と鍔状の取付け部を一体的に備える外歯車を採用し、外歯車が第2回転体と一体的に回転する構成を採用してもよい。
【0090】
上記実施形態においては、第1回転体としてエンジンのカムシャフトCS、第2回転体としてクランクシャフトに連動するスプロケット11aを有するハウジングロータ10を採用した場合を示したが、これに限定されるものではなく、第1回転体としてハウジングロータ及び第2回転体としてカムシャフトCSを適用した構成において、本発明の回転部材を採用してもよい。
【0091】
上記実施形態においては、外歯車40と回転部材80,180の間に、ベアリング70を介在させた構成を示したが、これに限定されるものではなく、回転部材80,180の作用部84が外歯車40にカム作用を及ぼすことができれば、作用部84に外歯車40を直接嵌め込む構成を採用してもよい。
また、ベアリングとして、内輪71、転動体73、外輪72を備えたベアリング70を示したが、これに限定されるものではなく、製造が可能でかつ機械的強度が確保されれば、ベアリングを内輪と転動体により構成し、外輪の代わりに外歯車40を適用する構成を採用してもよい。
【0092】
以上述べたように、本発明の位相変更ユニットは、構造の簡素化、軽量化、低騒音化、低コスト化等を達成でき、過負荷が生じた際にも電動モータの破損等を防止できるため、エンジンにおけるバルブタイミング変更装置の位相変更ユニットとして適用できるのは勿論のこと、その他の減速機、増速機、あるいは変速機等としても適用することができる。
【符号の説明】
【0093】
CS カムシャフト(第1回転体)
S 軸線
D 電動モータ
D1 駆動軸
D2 連結コマ(駆動軸)
U 位相変更ユニット
10 ハウジングロータ(第2回転体)
11 第1ハウジング
11a スプロケット
12 第2ハウジング
12a 開口部
20 第1内歯車(相対回転機構)
Z1 第1内歯車の歯数
30 ロータ(スペーサ部材)
40 外歯車(相対回転機構)
Z2 外歯車の歯数
60 第2内歯車
Z3 第2内歯車の歯数
70 ベアリング
71 内輪
72 外輪
73 転動体
80,180 回転部材
A,A2 樹脂部材
B,B2 金属部材
82 連結部(脆弱部)
84 作用部
84a カム面
182 連結部
183 脆弱部