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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-19
(45)【発行日】2022-10-27
(54)【発明の名称】制動力調整装置
(51)【国際特許分類】
   H02K 49/06 20060101AFI20221020BHJP
   F16D 63/00 20060101ALI20221020BHJP
   F16D 65/16 20060101ALI20221020BHJP
   F16D 121/20 20120101ALN20221020BHJP
【FI】
H02K49/06 B
F16D63/00 Z
F16D65/16
F16D121:20
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019007541
(22)【出願日】2019-01-21
(65)【公開番号】P2020120439
(43)【公開日】2020-08-06
【審査請求日】2021-11-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000185248
【氏名又は名称】小倉クラッチ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】三ツ橋 隆史
(72)【発明者】
【氏名】和田 正晴
(72)【発明者】
【氏名】岩脇 秀治
(72)【発明者】
【氏名】堀田 達也
【審査官】中島 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-295675(JP,A)
【文献】特開2010-130865(JP,A)
【文献】特開2018-151159(JP,A)
【文献】特開2002-051528(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 49/00- 51/00
F16D 63/00
F16D 65/16
F16D 121/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
制動の対象となる回転軸と、
前記回転軸と一体に回転するヒステリシス板および前記ヒステリシス板に磁気的に接続された制動部材を有し、前記制動部材が前記回転軸と同一軸線上で回ることにより前記ヒステリシス板に作用するブレーキトルクが変化するヒステリシスブレーキと、
ステッピングモータを動力源として前記制動部材の回転方向の位置を変える駆動装置と、
前記制動部材の回転方向に列をなして所定の間隔で並ぶ複数の位置であって、前記列の一端から他端に向かうにしたがって回転中心からの距離が連続的に変化する位置にそれぞれ設けられた位置検出用の永久磁石と、
前記永久磁石を検出する磁気センサーと、
前記ステッピングモータおよび前記磁気センサーに接続された制御装置とを備え、
前記制御装置は、
前記磁気センサーの検出信号に基づいて前記制動部材の回転方向の現在の位置を検出する位置検出部と、
目標とするブレーキトルクが生じる、前記制動部材の回転方向の目標位置を求める目標設定部と、
前記現在の位置が前記目標位置と一致するように前記駆動装置の動作を制御する動作制御部とを有していることを特徴とする制動力調整装置。
【請求項2】
請求項1記載の制動力調整装置において、
前記目標設定部は、ブレーキトルクを前記制動部材の回転方向の位置に割り付けたマップを有し、
前記目標位置は、前記マップから読み出した、前記目標とするブレーキトルクと対応する前記制動部材の回転方向の位置であることを特徴とする制動力調整装置。
【請求項3】
請求項1記載の制動力調整装置において、
前記目標設定部は、ブレーキトルクに対応する前記制動部材の回転方向の位置が得られる関数を用いて前記目標とするブレーキトルクから前記目標位置を演算によって求める演算部を有していることを特徴とする制動力調整装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか一つに記載の制動力調整装置において、
さらに、前記制動部材を制動する摩擦ブレーキを備え、
前記制動部材は、前記駆動装置によって駆動されることにより前記摩擦ブレーキの制動力に抗して回ることを特徴とする制動力調整装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか一つに記載の制動力調整装置において、
前記制動部材は、前記ヒステリシス板と同一軸線上に位置付けられているとともに、前記ヒステリシス板とは反対側の端部に内歯車を有し、
前記駆動装置は、前記内歯車に噛合して前記内歯車を駆動する歯車を有し、
前記位置検出用の永久磁石と前記磁気センサーは、前記回転軸の軸線方向において前記内歯車と重なる位置に配置されていることを特徴とする制動力調整装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキトルクを発生させる永久磁石の位置を変えてブレーキトルクの大きさを変える制動力調整装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、永久磁石の磁気吸引力で回転部材にブレーキトルクを付与する装置としては、例えば特許文献1に記載された制動力付与装置がある。
この特許文献1に開示された制動力付与装置は、制動対象の回転軸に設けられた円板と、この円板の一方の面と対向する複数の第1の永久磁石と、この円板の他方の面と対向する複数の第2の永久磁石とを備えている。複数の第1および第2の永久磁石は、それぞれ極性が円板の周方向に交互に変わるように円板の周方向に並べられている。
【0003】
特許文献1に示す制動力付与装置においては、第1の永久磁石と第2の永久磁石との間で円板が回転して磁束を横切ることによって、円板にブレーキトルクが作用する。そして、この制動力付与装置においては、第1の永久磁石と第2の永久磁石とのうちいずれか一方を他方に対して回転軸を中心にして回すことによって、円板に作用するブレーキトルクの大きさが変化する。
【0004】
この種の制動力付与装置においては、ブレーキトルクが所望の大きさになるように第1の永久磁石に対する第2の永久磁石の位置を設定した後は、電力を使用することなく一定のブレーキトルクが発生する。このため、この制動力付与装置は、電力を供給し難い回転体や運動部に搭載されることが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第2887338号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された制動力付与装置は、ブレーキトルクの大きさを遠隔操作で調整することができないという問題があった。
【0007】
本発明の目的は、ブレーキトルクの大きさを遠隔操作で調整可能な制動力調整装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的を達成するために、本発明に係る制動力調整装置は、制動の対象となる回転軸と、前記回転軸と一体に回転するヒステリシス板および前記ヒステリシス板に磁気的に接続された制動部材を有し、前記制動部材が前記回転軸と同一軸線上で回ることにより前記ヒステリシス板に作用するブレーキトルクが変化するヒステリシスブレーキと、ステッピングモータを動力源として前記制動部材の回転方向の位置を変える駆動装置と、前記制動部材の回転方向に列をなして所定の間隔で並ぶ複数の位置であって、前記列の一端から他端に向かうにしたがって回転中心からの距離が連続的に変化する位置にそれぞれ設けられた位置検出用の永久磁石と、前記永久磁石を検出する磁気センサーと、前記ステッピングモータおよび前記磁気センサーに接続された制御装置とを備え、前記制御装置は、前記磁気センサーの検出信号に基づいて前記制動部材の回転方向の現在の位置を検出する位置検出部と、目標とするブレーキトルクが生じる、前記制動部材の回転方向の目標位置を求める目標設定部と、前記現在の位置が前記目標位置と一致するように前記駆動装置の動作を制御する動作制御部とを有しているものである。
【0009】
本発明は、前記制動力調整装置において、前記目標設定部は、ブレーキトルクを前記制動部材の回転方向の位置に割り付けたマップを有し、前記目標位置は、前記マップから読み出した、前記目標とするブレーキトルクと対応する前記制動部材の回転方向の位置であってもよい。
【0010】
本発明は、前記制動力調整装置において、前記目標設定部は、ブレーキトルクに対応する前記制動部材の回転方向の位置が得られる関数を用いて前記目標とするブレーキトルクから前記目標位置を演算によって求める演算部を有していてもよい。
【0011】
本発明は、前記制動力調整装置において、さらに、前記制動部材を制動する摩擦ブレーキを備え、前記制動部材は、前記駆動装置によって駆動されることにより前記摩擦ブレーキの制動力に抗して回るものであってもよい。
【0012】
本発明は、前記制動力調整装置において、前記制動部材は、前記ヒステリシス板と同一軸線上に位置付けられているとともに、前記ヒステリシス板とは反対側の端部に内歯車を有し、前記駆動装置は、前記内歯車に噛合して前記内歯車を駆動する歯車を有し、前記位置検出用の永久磁石と前記磁気センサーは、前記回転軸の軸線方向において前記内歯車と重なる位置に配置されていてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明においては、磁気センサーが制動部材の永久磁石を検出することにより現在の制動部材の回転方向の現在の位置を特定することができる。制御装置は、この現在の位置が目標位置と一致するように、駆動装置の動作を制御する。このため、制御装置に目標とするブレーキトルクを入力することによって、ヒステリシスブレーキで生じる実際のブレーキトルクが目標とするブレーキトルクになる。
このため、制動部材の回転方向の位置、すなわちブレーキトルクの大きさを遠隔操作によって変えることができる。
したがって、本発明によれば、ブレーキトルクの大きさを遠隔操作で調整可能な制動力調整装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明に係る制動力調整装置の要部の断面図である。
図2】固定ベースを後側から見た背面図である。
図3】制動部材の断面図である。
図4】可動ベースの前側から見た正面図である。
図5】可動ベースの後側から見た背面図である。
図6】従動部材の後側から見た背面図である。
図7】駆動装置の後側から見た断面図である。
図8】従動部材と駆動装置の斜視図である。
図9】従動部材と駆動装置の一部を拡大して示す斜視図である。
図10】駆動装置の後側から見た背面図である。
図11】駆動装置の前側から見た正面図である。
図12】制御装置の構成を示すブロック図である。
図13】制御装置の変形例の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る制動力調整装置の一実施の形態を図1図13を参照して詳細に説明する。
<制動力調整装置の概略の説明>
図1に示す制動力調整装置1は、ハウジング2と、このハウジング2の一端(図1においては左端)から図1において左方に突出する、制動対象としての回転軸3と、ハウジング2内に収容されたヒステリシスブレーキ4と、ハウジング2の他端部に取付けられたステッピングモータ5などを備えている。この制動力調整装置1は、詳細は後述するが、ヒステリシスブレーキ4によって回転軸3を制動し、回転軸3に付与されるブレーキトルクの大きさをステッピングモータ5によって調整する装置である。以下においては、便宜上、ハウジング2から回転軸3が突出する方向を制動力調整装置1の前方とし、この方向とは反対方向を制動力調整装置1の後方として説明する。
【0016】
ハウジング2は、複数の部材を組み合わせて前後方向を軸線方向とする円柱状に形成されている。ハウジング2を構成する複数の部材とは、前端部に位置する円板状の固定ベース6と、後端部に位置する円板状のモータ取付板7と、これらの固定ベース6とモータ取付板7との間に挟まれた円筒状のケース8である。これらの部材は、ハウジング2の外周部で前後方向に延びる複数の固定用ボルト9によって互いに結合されている。固定用ボルト9は、固定ベース6の外周部の貫通孔6aと、ケース8の貫通孔8aとに通されてモータ取付板7のねじ孔7aに螺着されている。
【0017】
この実施の形態による固定ベース6は、固定用ボルト9とは別の複数のベース固定用ボルト10によってケース8に取付けられている。固定用ボルト10は、固定ベース6の貫通孔6bに通されてケース8のねじ孔8bに螺着されている。
固定ベース6の外周部には、図2に示すように、貫通孔6aと貫通孔6bの他に、この制動力調整装置1を図示していない支持体(図示せず)に取付ける取付用ボルトを通すための複数の貫通孔6cが穿設されている。
【0018】
ケース8の前後方向の中央部には、後側が前側より小径に形成されて環状の段部11が設けられている。この段部11には、前側から円環板状の受圧板12が重ねられている。受圧板12は、ケース8の、段部11より前側の内周面に嵌合し、ケース8から径方向の内側に突出する固定用ねじ13によってケース8に固定されている。
【0019】
<回転軸の説明>
回転軸3は、ハウジング2の固定ベース6を前後方向に貫通し、固定ベース6に二つの前側軸受14を介して回転自在に支持されている。前側軸受14は、固定ベース6の軸心部の貫通孔15に嵌合して固定ベース6に支持されている。
回転軸3の前端部には、図示してはいないが、被制動用の部材が接続されている。被制動用の部材は、例えばリールやボビンなどである。これらのリールやボビンは、テープやケーブル、糸などの長尺材料が巻き付けられており、この長尺材料が引かれて消費されることによって回転する。
この実施の形態による制動力調整装置1は、この被制動用の部材が回転するときにブレーキトルクを付与するとともに、このブレーキトルクを調整して長尺材料の張力を調整する。
【0020】
回転軸3におけるハウジング2内に挿入された後端部には、二つの後側軸受16が取付けられている。これらの後側軸受16は、後述する可動ベース17を回転自在に支持するためのものである。回転軸3における後側軸受16と固定ベース6との間の部位にはハブ18を介してヒステリシス板19が取付けられている。ハブ18は回転軸3に圧入によって固定されている。ヒステリシス板19は、円環状に形成されてハブ18に嵌合し、図示していない取付用ボルトによってハブ18に固定されている。
ヒステリシス板19は、後述するヒステリシスブレーキ4の一部を構成するものである。このヒステリシス板19の前端面21は、固定ベース6の後端面22に所定の間隔をおいて対向している。
【0021】
<固定ベースの説明>
固定ベース6の後端面22には、図2に示すように、複数の第1の永久磁石23がそれぞれ固着されている。これらの第1の永久磁石23は、固定ベース6の周方向(ヒステリシス板19の回転方向)に並ぶ状態で固定ベース6の後端面22に接着剤(図示せず)によって固定されている。これらの第1の永久磁石23の磁極23aは、回転軸3の軸線方向において、第1の永久磁石23の両端部に設けられている。この磁極23aの極性は、固定ベース6の周方向に交互に変えられている。
【0022】
<可動ベースの説明>
可動ベース17は、図3図5に示すように、円板状に形成されており、軸心部に位置する円筒部24と、この円筒部24の前端から径方向の外側に延びる環状の円板部25とを有している。円筒部24の中には、図1に示すように後側軸受16が嵌合する。可動ベース17は、回転軸3との間に後側軸受16が介在することによって、回転軸3に対して前側に移動することができないように回転軸3に支持されている。
【0023】
円板部25の前端面26には、図4に示すように、複数の第2の永久磁石27がそれぞれ固着されている。これらの第2の永久磁石27は、可動ベース17の周方向(ヒステリシス板19の回転方向)に並ぶとともに上述した第1の永久磁石23と対向する状態で可動ベース17の前端面26に接着剤(図示せず)によって固定されている。これらの第2の永久磁石27の磁極27aは、回転軸3の軸線方向において、第2の永久磁石27の両端部に設けられている。この磁極27a極性は、可動ベース17の周方向に交互に変えられている。
【0024】
第2の永久磁石27の磁束と、第1の永久磁石23の磁束は、それぞれヒステリシス板19を含む磁気回路を通る。このため、固定ベース6と可動ベース17は、それぞれヒステリシス板19に磁気的に接続されることになる。これらの第1および第2の永久磁石23,27と、ヒステリシス板19とによって、ヒステリシスブレーキ4が構成されている。このヒステリシスブレーキ4のブレーキトルクは、第1の永久磁石23と第2の永久磁石27とが回転軸3の軸線方向から見て同一の位置であって、これらの第1および第2の永久磁石23,27の互いに対向する磁極23a,27aの極性が一致した状態で最大になる。
【0025】
すなわち、第1の永久磁石23のN(S)極と、第2の永久磁石27のN(S)極とが互いに対向するときにブレーキトルクが最大になる。このブレーキトルクは、上述したようにブレーキトルクが最大になる位置から第2の永久磁石27が第1の永久磁石23に対して可動ベース17の周方向に変位することにより減少する。そして、このブレーキトルクは、第1の永久磁石23と第2の永久磁石27とが回転軸3の軸線方向から見て同一の位置であって、これらの第1および第2の永久磁石23,27の異なる極性の磁極23a,27aどうしが対向する状態で最小になる。
【0026】
円板部25の後端面31には、図5に示すように、3本のガイドピン32が回転軸3の軸線方向に延びる状態で立設されているとともに、6つの円形の穴33が開口している。これらの穴33には圧縮コイルばね34(図1参照)が挿入されている。ガイドピン32は、円板部25の後方近傍に位置する押圧板35(図1参照)を前後方向に移動自在に支持するもので、押圧板35のピン孔35aに移動自在に嵌合している。押圧板35は、円板部25と外径が等しい円環状に形成されており、中空部内に円筒部24が挿入された状態でガイドピン32を介して円板部25に移動自在に支持されている。受圧板12の内周部であって前側には摩擦板36が固着されている。摩擦板36は、押圧板35と対向している。
【0027】
円板部25の穴33に挿入された圧縮コイルばね34は、押圧板35を後方に向けて付勢し、押圧板35を受圧板12の摩擦板36に押し付けている。この圧縮コイルばね34と、押圧板35と、摩擦板36と、受圧板12は、可動ベース17が回転軸3を中心にして回る回転を規制する摩擦ブレーキ37を構成している。
円筒部24の後端部には、図3に示すように、可動ベース17と協働して本発明でいう制動部材41を構成する従動部材42が複数の結合用ボルト43によって結合されている。
【0028】
従動部材42は、図3および図8に示すように、可動ベース17と同一軸線上に位置する円環状の結合部44と、この結合部44の外周部分から後方に突出した突壁部45とによって構成されている。この従動部材42は、磁性材料によって形成されている。
結合部44の後端面46には、図6に示すように、複数の位置検出用の永久磁石47が設けられている。これらの永久磁石47は、それぞれ円柱状に形成されており、中心線C1(図3参照)が回転軸3の軸線C2と平行になるように結合部44に取付けられている。また、これらの永久磁石47の前端部は、図3に示すように、結合部44の円形凹部48に嵌合し、図示していない接着剤によって接着されている。図3の破断位置は、図6中にIII-III線で示した位置である。
【0029】
これらの永久磁石47は、軸線方向の両端部が磁極となるように着磁された市販のもので、同一の極性の磁極が結合部44の後端面46に露出するように結合部44に取付けられている。
これらの永久磁石47が取付けられる位置は、制動部材41の回転方向に列をなして所定の間隔で並ぶ複数の位置であって、列の一端から他端に向かうにしたがって回転中心からの距離が連続的に変化する位置である。ここでいう「連続的に」とは、距離が連続して増大するか、距離が連続して減少するという意味である。このため、これらの永久磁石47は、仮想の渦巻き線Lに沿って配置されている。
【0030】
従動部材42の突壁部45は、制動部材41のヒステリシス板19とは反対側の端部に位置している。この突壁部45の一部の内周部分には、ステッピングモータ5側から動力が伝達されるラック51が設けられている。このラック51には、図7に示すように、後述する減速機構52のピニオン53が噛合している。図7は、この制動力調整装置1を図1においてVII-VII線で示す位置で破断した断面図である。
ラック51は、従動部材42の周方向において所定の長さだけ延びる円弧状に形成されており、図3に示すように、突壁部45の内周面に形成された溝54に嵌合している。
【0031】
このラック51は、可撓性を有するプラスチック材料によって内歯車として形成されて溝54に収容されている。従動部材42の軸線方向におけるラック51の位置決めは、溝54の一対の側壁54a,54bによって行われている。
従動部材42の周方向におけるラック51の位置決めは、図7に示すように、ラック51の長手方向の両端と隣接するように従動部材42に設けられた第1および第2の移動規制部材55,56によって行われている。
【0032】
図7においてラック51の右側の端部と隣接する第1の移動規制部材55は、回転軸3の軸線方向に延びる円柱状のピンによって構成され、溝54を横切るように従動部材42の結合部44に立てて設けられている。第1の移動規制部材55は、従動部材42に穿設された貫通孔57(図6参照)に圧入されており、ラック51が第1の移動規制部材55を越えて従動部材42の周方向に移動することができないように、ラック51の一端と接触している。
【0033】
この実施の形態による第1の移動規制部材55は、ラック51の一端の移動を規制する機能の他に、従動部材42(制動部材41)の回動範囲を制限するためのストッパーピンとしての機能を有している。従動部材42の回動範囲を制限するためには、図7に示すように、従動部材42の周方向において第1の移動規制部材55の両側に位置する2本のストッパエンドピン61,62が用いられる。これらのストッパエンドピン61,62は、回転軸3の軸線方向に延びる円柱状のピンによって形成されている。このストッパエンドピン61,62は、モータ取付板7の貫通孔63,64(図11参照)に圧入され、図8に示すように、モータ取付板7から従動部材42に向けて突出するようにモータ取付板7に立てて設けられている。
【0034】
これらのストッパエンドピン61,62と、第1の移動規制部材55とは、従動部材42の周方向から見て先端部どうしが互いに重なるように構成されている。このため、従動部材42(制動部材41)は、図9に示すように第1の移動規制部材55が一方のストッパエンドピン61と接触する一方の回動端と、第1の移動規制部材55が他方のストッパエンドピン62と接触する他方の回動端との間で回動する。
第1の移動規制部材55が図7に示すように一方のストッパエンドピン61に当接したときは、同じ極性の第1および第2の永久磁石23,27が対向しており、ブレーキトルクは最大になる。一方、第1の移動規制部材55が他方のストッパエンドピン62に当接した場合には、互いに異なる磁極の第1および第2の永久磁石23,27が対向しており、ブレーキトルクは最小になる。
【0035】
図7においてラック51の左側の端部と隣接する第2の移動規制部材56は、図3に示すように、ラック51の端部と接触する円柱状のカラー65と、このカラー65を貫通して従動部材42に螺着された固定用ボルト66とによって構成されている。固定用ボルト66は、カラー65の軸心とは偏心した位置に設けられている。カラー65と固定用ボルト66は、回転軸3の軸線方向(図3においては左右方向)に延びている。
この第2の移動規制部材56においては、固定用ボルト66を緩めた状態でカラー65を固定用ボルト66に対して回すことによって、カラー65の外周面が偏心カムとして機能し、ラック51の端部を押す量が増減する。ラック51は、この第2の移動規制部材56により押圧されることによって、溝54の底部に押し付けられて密着した状態で固定される。
【0036】
<駆動装置の説明>
可動ベース17と従動部材42とからなる制動部材41は、従動部材42に減速機構52を介して接続されたステッピングモータ5を動力源とする駆動装置71(図8参照)によって駆動される。
ステッピングモータ5は、図1および図10に示すように、出力軸72が前後方向に延びてハウジング2内に挿入される状態でモータ取付板7の後端面73に複数の固定用ボルト74によって固定されている。モータ取付板7の後端面73には、ステッピングモータ5の動作を制御する制御装置75が取付けられている。モータ取付板7は、可動ベース17に対してヒステリシス板19とは反対側に位置しており、駆動装置71の構成部品を支持するフレームとして機能している。
【0037】
この実施の形態によるステッピングモータ5は、HB型のステッピングモータで、制御装置75に接続されており、この制御装置75によりオープンループ制御によって制御されて動作する。なお、ステッピングモータ5の種類はHB型に限定されることはなく、適宜変更することができる。
ステッピングモータ5の出力軸72は、モータ取付板7の貫通孔76に通されてハウジング2内に挿入されている。出力軸72には、減速機構52の一部を構成するピニオン歯車77が固定されている。貫通孔76にはステッピングモータ5の前端部の一部が嵌合している。
【0038】
<減速機構の説明>
減速機構52は、いわゆるスター型の遊星歯車減速機構で、出力軸72の回転を減速して従動部材42(制動部材41)に伝える。
減速機構52は、図7および図11に示すように、ステッピングモータ5の出力軸72に固定されたピニオン歯車77と、このピニオン歯車77と噛み合う大歯車78と、この大歯車78と同一軸線上で一体に回転するピニオン53と、このピニオン53と噛み合う従動部材42のラック51などによって構成されている。
【0039】
大歯車78とピニオン53は、支軸79を介してモータ取付板7に回転自在に支持されている。大歯車78の一部は、ケース8との干渉を避けるために、ケース8に形成された凹部80(図7参照)の中に挿入されている。この実施の形態においては、ピニオン53が本発明でう「内歯車を駆動する歯車」に相当する。
この減速機構52によれば、ステッピングモータ5の出力軸72の回転がピニオン歯車77から大歯車78に伝達されることにより減速され、さらに、この回転がピニオン53からラック51に伝達されることにより減速される。
【0040】
モータ取付板7の前端面81には、図8および図11に示すように、上述した2本のストッパエンドピン61,62が立設されているとともに、磁気センサー82が支持用ブロック83を介して取付けられている。
磁気センサー82は、図1に示すように、従動部材42に設けられている位置検出用の複数の永久磁石47の後方近傍に位置付けられており、これらの永久磁石47の磁束を検出し、検出結果を信号としてリード線84を介して制御装置75に送る。
【0041】
永久磁石47は、図6に示すように仮想の渦巻き線Lに沿って配置されており、従動部材42が回転軸3の軸心を中心にして回ることによって、磁気センサー82の近傍であって回転中心からの距離が異なる位置を回転方向に移動して横切る。このため、全ての永久磁石47の磁力が一定であれば、個々の永久磁石47の位置に基づいた磁気センサー82の検出結果により、従動部材42の回転方向の位置を高い精度で検出することができる。
【0042】
磁気センサー82は、図11に示すように、基板82aに磁気感応素子82bを実装した構造のものである。磁気感応素子82bは、半導体磁気抵抗素子や、半導体磁気抵抗素子を含む集積回路である。半導体抵抗素子を単体で使用する場合は、信号電圧が微弱なため、信号電圧を増幅する回路が必要になる場合がある。半導体磁気抵抗素子を含む集積回路は、この増幅回路を組込むことができるため、外部に増幅回路は不要になる。
この実施の形態による位置検出用の永久磁石47と磁気センサー82は、図1に示すように、回転軸3の軸線方向において、ラック51と重なる位置に配置されている。
【0043】
<制御装置の説明>
制御装置75は、図12に示すように、操作スイッチ91、磁気センサー82およびステッピングモータ5などが接続され、位置検出部92と、目標設定部93と、動作制御部94とを備えている。操作スイッチ91は、オペレーター(図示せず)がこの制動力調整装置1のブレーキトルクを増やしたり減らしたりするために操作される。この制御装置75は、例えばマイクロコンピュータによって構成することができる。
【0044】
位置検出部92は、磁気センサー82の検出信号に基づいて制動部材41の回転方向の現在の位置を検出する。現在の位置を検出するためには、例えば、予め実験を行って制動部材41の回転方向の位置と、磁気センサー82の例えば出力電圧との関係を調べ、磁気センサー82の出力電圧から制動部材41の回転方向の位置を特定できるような換算式を求めておく。この換算式に現在の磁気センサー82の出力電圧を代入することにより、現在の位置を演算によって求めることができる。
【0045】
目標設定部93は、目標とするブレーキトルクが生じるような、制動部材41の回転方向の目標位置を求める。ここでいう目標とするブレーキトルクとは、操作スイッチ91を使用してオペレーター(図示せず)が入力したブレーキトルクである。目標とするブレーキトルクが生じる目標位置を求める方法は2通りある。
第1の方法は、マップ95を用いる方法である。このマップ95は、ヒステリシスブレーキ4で生じるブレーキトルクを制動部材41の回転方向の位置に割り付けて形成されている。
【0046】
ヒステリシスブレーキ4で生じるブレーキトルクは、トルク検出器(図示せず)を使用して測定する。このトルク検出器は、入力シャフトと出力シャフトとの間に検出部を有し、入力シャフトと出力シャフトとの間でねじれてトルクが発生することによって、トルクに応じた出力電圧が検出部で発生する機器である。このトルク検出器の入力シャフトに駆動用のモータ(図示せず)を接続するとともに、出力シャフトに回転軸3を接続することによって、ヒステリシスブレーキ4で生じるブレーキトルクをトルク検出器で検出することができる。
マップ95には回転方向の位置と対応する、上記の方法で測定したブレーキトルクが書き込まれている。目標設定部93は、目標とするブレーキトルクが生じる、制動部材41の回転方向の目標位置をマップ95から読み出す。
【0047】
第2の方法は、図13に示すように、目標設定部93の演算部96で演算によって目標とするブレーキが生じる制動部材41の回転方向の目標位置を求める方法である。演算部96は、ブレーキトルクに対応する制動部材41の回転方向の位置が得られる関数を用いて目標とするブレーキトルクから目標位置を演算によって求める。この関数は、予め実験を行って作成することができる。この実験は、制動部材41の回転方向の位置と、その状態で生じるブレーキトルクとを調べて行う。
【0048】
動作制御部94は、現在の制動部材41の回転方向の位置が目標位置と一致するようにステッピングモータ5の動作を制御する。現在の制動部材41の回転方向の位置は、位置検出部92が検出した位置である。目標位置は、目標設定部93がマップ95を使用するか、あるいは演算をして求めた位置である。
【0049】
<制動力調整装置の動作の説明>
このように構成された制動力調整装置1においては、回転軸3が被制動用の部材とともに回転し、ヒステリシス板19が第1および第2の永久磁石23,27に対して回転することによって、ヒステリシス板19にブレーキトルクが付与される。ブレーキトルクの大きさは、可動ベース17の周方向における第1の永久磁石23に対する第2の永久磁石27の位置に依存して増減する。
【0050】
被制動用の部材から引き出されている長尺材料の張力が不足している場合は、ブレーキトルクが増大するようにオペレーターが操作スイッチ91を操作する。操作スイッチ91がこのように操作されることにより、目標とするブレーキトルクが制御装置75に入力され、制御装置75が制御動作を行う。
このとき制御装置75は、現在の制動部材41の回転方向の位置を検出するとともに、目標とするブレーキトルクが生じる制動部材41の回転方向の目標位置をマップ95から読み出すか、あるいは演算を行って求める。そして、制御装置75は、現在の制動部材41の回転方向の位置が目標位置と一致するようにステッピングモータ5を動作させて制動部材41を回す。このとき、制動部材41は、摩擦板36が受圧板12に対して滑ることにより、摩擦ブレーキ37の制動力に抗して回る。
【0051】
このため、操作スイッチ91を操作することによって、ブレーキトルクの大きさを遠隔操作によって変えることができる。
したがって、この実施の形態によれば、ブレーキトルクの大きさを遠隔操作で調整可能な制動力調整装置を提供することができる。
また、位置検出用の複数の永久磁石47は市販のものを使用できるから、制動部材41の回転方向の位置を高い精度で検出する検出機構を安価に実現することができる。このため、この実施の形態によれば、遠隔操作が可能な制動力調整装置を安価に提供することが可能になる。
<実施の形態による効果の説明>
図12に示した制御装置75の目標設定部93は、ブレーキトルクを制動部材41の回転方向の位置に割り付けたマップ95を有している。目標とするブレーキトルクが生じる制動部材41の回転方向の目標位置は、マップ95から読み出して取得することができる。このため、目標位置を速く求めることができるから、ブレーキトルクを変更するときの応答性が高い制動力調整装置を提供することができる。
【0052】
図13に示した制御装置75の目標設定部93は、ブレーキトルクに対応する制動部材41の回転方向の位置が得られる関数を用いて目標とするブレーキトルクから目標位置を演算によって求める演算部96を有している。このため、目標とするブレーキトルクがどのような値であっても、この値に対応する目標位置が算出されるから、目標位置を高い精度で求めることができる。
【0053】
この実施の形態による制動力調整装置は、制動部材41を制動する摩擦ブレーキ37を備えている。制動部材41は、駆動装置71によって駆動されることにより摩擦ブレーキ37の制動力に抗して回る。このため、ステッピングモータ5への通電を絶ったとしても制動部材41が静止した状態を維持する。ヒステリシスブレーキ4の制動部材41には、互いに対向する第1および第2の永久磁石23,27に作用する吸引力や反発力が加えられる。この力は、通常はステッピングモータ5で受けられており、ステッピングモータ5が通電状態であるときは制動部材41がこの力で回ることはない。この実施の形態においては、摩擦ブレーキ37で制動部材41が制動されるから、ステッピングモータ5の電源がOFFになったとしても制動部材41が回ることはない。
したがって、ブレーキトルクを変更するとき以外はステッピングモータ5に通電する必要がないから、電力消費量が少ない制動力調整装置を提供することができる。
【0054】
この実施の形態による制動部材41は、ヒステリシス板19と同一軸線上に位置付けられているとともに、ヒステリシス板19とは反対側の端部にラック51(内歯車)を有している。位置検出用の永久磁石47と磁気センサー82は、図1に示すように、回転軸3の軸線方向において、ラック51と重なる位置に配置されている。このため、内歯車の径方向の内側に生じるデッドスペースを利用して位置検出用の永久磁石47と磁気センサー82とを配置できるから、これらの検出機構を内蔵しているにもかかわらずコンパクトな制動力調整装置が実現される。
【0055】
制動部材41の回転方向の角度を高い精度で検出するためには、ポテンショメータを使用することが考えられる。しかし、ポテンショメータは、ケースや回転支持用シャフトなどの部材を省くことができないために、価格が高くなるとともに、小型化するにも限界がある。この実施の形態によれば、制動部材41に複数の永久磁石47が支持されるとともに、駆動装置71に磁気センサー82が支持されており、ケース8や回転支持用のシャフトなどの部材が不要になるから、低価格と小型化とが両立する制動力調整装置を実現できる。
【符号の説明】
【0056】
1…制動力調整装置、3…回転軸、19…ヒステリシス板、4…ヒステリシスブレーキ、5…ステッピングモータ、37…摩擦ブレーキ、41…制動部材、47…永久磁石、51…ラック(内歯車)、53…ピニオン(内歯車を駆動する歯車)、71…駆動装置、75…制御装置、82…磁気センサー、92…位置検出部、93…目標設定部、94…動作制御部、95…マップ、96…演算部。
図1
図2
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図5
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図7
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図9
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図13