(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-19
(45)【発行日】2022-10-27
(54)【発明の名称】改質触媒及びそれを用いた燃料改質方法
(51)【国際特許分類】
B01J 23/63 20060101AFI20221020BHJP
B01J 23/83 20060101ALI20221020BHJP
C01B 3/40 20060101ALI20221020BHJP
【FI】
B01J23/63 M
B01J23/83 M
C01B3/40
(21)【出願番号】P 2019090748
(22)【出願日】2019-05-13
【審査請求日】2021-06-07
(31)【優先権主張番号】P 2018224035
(32)【優先日】2018-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】弁理士法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西尾 隆宏
(72)【発明者】
【氏名】小澤 宜裕
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸 博邦
(72)【発明者】
【氏名】吉永 勝己
(72)【発明者】
【氏名】日高 重和
(72)【発明者】
【氏名】山崎 清
【審査官】安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-527068(JP,A)
【文献】特表2013-530041(JP,A)
【文献】特開2016-165712(JP,A)
【文献】Applied Catalysis A:General,2008年,vol.337 ,p.1 -9,DOI:10.1016/j.apcata.2007.11.021
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
C01B 3/40
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式:La
xSi
yO
z
〔前記式中、8.0≦x≦11.0、5.5≦y≦6.5、24≦z≦28〕
で表されるアパタイト型ランタンシリケート、
式:La
x-aM
L
aSi
y-bM
S
bO
z
〔前記式中、M
LはLaに対して置換可能な1~3価の陽イオンを表し、M
SはSiに対して置換可能な元素を表し、8.0≦x≦11.0、5.5≦y≦6.5、0≦a<x、0≦b<y、24≦z≦28〕
で表される陽イオン置換アパタイト型ランタンシリケート、
及び
式:Sc
xZr
1-xO
(4-x)/2
〔前記式中、0.01≦x≦0.5〕
で表されるスカンジア安定化ジルコニア
からなる群から選択される少なくとも1種の酸素イオン伝導体からなる担体と、
前記担体に担持された白金族金属とを含有する
ことを特徴とする、炭化水素類からなる燃料を水蒸気により改質するための改質触媒。
【請求項2】
前記M
Sのポーリングの電気陰性度が1.90未満であることを特徴とする請求項1に記載の改質触媒。
【請求項3】
前記M
SがAl、Mg、Ga及びCoからなる群から選択される少なくとも1種の元素であることを特徴とする請求項1又は2に記載の改質触媒。
【請求項4】
前記M
LがCoであることを特徴とする請求項1~3のうちのいずれか一項に記載の改質触媒。
【請求項5】
前記酸素イオン伝導体の600℃における酸素イオン伝導率が1×10
-4S/cm以上であることを特徴とする請求項1~4のうちのいずれか一項に記載の改質触媒。
【請求項6】
前記酸素イオン伝導体の400℃における酸素イオン伝導率が1×10
-5S/cm以上であることを特徴とする請求項1~5のうちのいずれか一項に記載の改質触媒。
【請求項7】
前記白金族金属がRh、Pt、Pd、Ru、Ir、及びこれらの金属の合金からなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1~6のうちのいずれか一項に記載の改質触媒。
【請求項8】
前記白金族金属がRhを50質量%以上含むものであることを特徴とする請求項1~7のうちのいずれか一項に記載の改質触媒。
【請求項9】
水蒸気の存在下で、炭化水素類からなる燃料と請求項1~8のうちのいずれか一項に記載の改質触媒とを接触せしめることを特徴とする燃料改質方法。
【請求項10】
前記炭化水素類が炭化水素及び含酸素炭化水素からなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項9に記載の燃料改質方法。
【請求項11】
前記炭化水素類がエタノール、ガソリン、又はこれらの混合物であることを特徴とする請求項9又は10に記載の燃料改質方法。
【請求項12】
硫黄成分の存在下で、前記炭化水素類と前記改質触媒とを接触せしめることを特徴とする請求項9~11のうちのいずれか一項に記載の燃料改質方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化水素類からなる燃料を水蒸気により改質するための改質触媒及びそれを用いた燃料改質方法に関する。
【背景技術】
【0002】
排気再循環(EGR)システムに熱交換型燃料改質器と燃料供給手段(燃料噴射弁)とを増設し、燃料の一部を燃料改質器に通した後、気筒内で燃焼させる燃料改質エンジンシステムは、通常のEGRシステムに比べて、熱効率が大幅に向上するという利点がある。すなわち、前記燃料改質エンジンシステムにおいては、燃料改質器に配置された改質触媒の作用により、燃料と排ガス中のH2O(水蒸気)とが吸熱反応である水蒸気改質反応によってH2とCOとに変換される。このとき生成したH2とCOのエネルギー量は元の燃料のエネルギー量より増大しているため、これらのH2とCOを燃料に混合して気筒内で燃焼させることによって、通常のEGRシステムに比べて、気筒内の仕事量が増大し、熱効率が大幅に向上する。また、前記燃料改質エンジンシステムにおいては、生成したH2がエンジンの燃焼特性を改善させるため、通常のEGRシステムに比べて、EGR率が高くなり、熱効率が更に向上する。
【0003】
このような燃料改質エンジンシステムや燃料電池システムにおいては、燃料改質器の大きさに制限があるため、活性種として、ロジウム(Rh)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)等の高い活性を有する白金族金属を含有する改質触媒が用いられている。
【0004】
例えば、特開2001-224963号公報(特許文献1)には、式:A’1-xA”xB’1-yB”yO3で表され、前記式中、A’がLa及び/又はCeであり、A”がLa、Ca、Sm、Ce、Sr,Ba及びPrのうちの少なくとも1種であり、B’がCo、Fe、Mn及びGdのうちの少なくとも1種であり、B”がRu及び/又はRhであるペロブスカイト型複合酸化物を含み、燃料改質用触媒として使用可能な触媒組成物が記載されている。
【0005】
特開2008-55252号公報(特許文献2)には、Ruと、Ir及び/又はRhとを、アルミナを主成分とする担体に担持させた水蒸気改質触媒が記載されている。
【0006】
特開2008-149313号公報(特許文献3)には、Pt、Pd、Ir、Rh及びRuのうちの少なくとも1種の活性成分Aと、Mo、V、W、Cr、Re、Co、Ce及びFeのうちの少なくとも1種の金属、その酸化物、その合金又はその混合物である活性成分Bとを含む金属触媒と、この金属触媒が担持された担体とを含有する燃料改質反応用触媒が記載されている。
【0007】
特開2016-165712号公報(特許文献4)には、アルミナ、セリア及びジルコニアと、セリア以外の希土類酸化物とを含有する複合酸化物担体と、この複合酸化物担体に担持された白金族金属とを備えており、前記複合酸化物担体において、アルミニウムの表面組成が担体全体のアルミニウムの組成の1.5倍以上である水蒸気改質触媒が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2001-224963号公報
【文献】特開2008-55252号公報
【文献】特開2008-149313号公報
【文献】特開2016-165712号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載の触媒組成物においては、ペロブスカイト型複合酸化物と硫黄成分とが反応して、前記複合酸化物を形成する陽イオンが新たに硫酸塩を形成することによって、前記複合酸化物が分解したり、H2Oを活性化する能力が低下したりすることから、硫黄被毒によって触媒組成物の活性が著しく低下するという問題があった。
【0010】
特許文献2に記載の水蒸気改質触媒は、低温(400℃~600℃程度)において、活性が低く、C-C結合、C-H結合、C-O結合等を切断することが困難であるため、低温での改質活性が低くなるという問題があった。また、この水蒸気改質触媒は、アルミナを主成分とする担体上の酸点により炭化水素から生成した炭素がIrやRh等の活性点の表面を被覆するコーキングによる活性の低下が起こりやすいという問題もあった。
【0011】
特許文献3に記載の燃料改質反応用触媒においては、低温(400℃~600℃程度)で、活性成分である金属触媒の表面を燃料である炭化水素から析出した炭素が被覆するコーキングが起こるため、低温での改質活性が低くなり、改質反応が阻害されるという問題があった。また、この燃料改質反応用触媒においては、活性成分である金属触媒が硫黄成分により被毒して改質反応が阻害されるという問題があった。
【0012】
特許文献4に記載の水蒸気改質触媒においても、活性成分である白金族金属が硫黄成分により被毒して水蒸気改質反応が阻害されるという問題があった。
【0013】
このため、従来の改質触媒を用いた燃料改質エンジンシステムや燃料電池システムにおいては、低温での改質触媒の活性が低いため、熱効率が必ずしも十分に高いものではなく、また、硫黄成分を含まない燃料のみを使用する必要があった。
【0014】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、低温(400℃~600℃程度)での改質活性が高く、耐硫黄被毒性に優れた改質触媒及びそれを用いた燃料改質方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、アパタイト型ランタンシリケート、陽イオン置換アパタイト型ランタンシリケート、及びスカンジア安定化ジルコニアのうちの少なくとも1種の酸素イオン伝導体からなる担体に白金族金属を担持させることによって、低温での改質活性が高く、耐硫黄被毒性に優れた改質触媒が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
すなわち、本発明の改質触媒は、式:LaxSiyOz
〔前記式中、8.0≦x≦11.0、5.5≦y≦6.5、24≦z≦28〕
で表されるアパタイト型ランタンシリケート、
式:Lax-aML
aSiy-bMS
bOz
〔前記式中、MLはLaに対して置換可能な1~3価の陽イオンを表し、MSはSiに対して置換可能な元素を表し、8.0≦x≦11.0、5.5≦y≦6.5、0≦a<x、0≦b<y、24≦z≦28〕
で表される陽イオン置換アパタイト型ランタンシリケート、及び
式:ScxZr1-xO(4-x)/2
〔前記式中、0.01≦x≦0.5〕
で表されるスカンジア安定化ジルコニア
からなる群から選択される少なくとも1種の酸素イオン伝導体からなる担体と、
前記担体に担持された白金族金属とを含有する
ことを特徴とする、炭化水素類からなる燃料を水蒸気により改質するためのものである。
【0017】
本発明の改質触媒においては、前記MSのポーリングの電気陰性度が1.90未満であることが好ましい。また、前記MSがAl、Mg、Ga及びCoからなる群から選択される少なくとも1種の元素であることが好ましく、前記MLがCoであることが好ましい。
【0018】
また、本発明の改質触媒においては、前記酸素イオン伝導体の600℃における酸素イオン伝導率が1×10-4S/cm以上であることが好ましく、前記酸素イオン伝導体の400℃における酸素イオン伝導率が1×10-5S/cm以上であることが好ましい。
【0019】
さらに、本発明の改質触媒においては、前記白金族金属がRh、Pt、Pd、Ru、Ir、及びこれらの金属の合金からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、前記白金族金属がRhを50質量%以上含むものであることが好ましい。
【0020】
本発明の燃料改質方法は、水蒸気の存在下で、炭化水素類からなる燃料と前記本発明の改質触媒とを接触せしめることを特徴とする方法である。このような燃料改質方法においては、前記炭化水素類が炭化水素及び含酸素炭化水素からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、前記炭化水素類がエタノール、ガソリン、又はこれらの混合物であることが好ましい。
【0021】
また、本発明の燃料改質方法においては、硫黄成分の存在下で、前記炭化水素類と前記改質触媒とを接触せしめることも可能である。
【0022】
なお、本発明の改質触媒が炭化水素類からなる燃料の水蒸気改質反応等において高い改質活性を示す理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、本発明の改質触媒には担体として酸素イオン伝導体が用いられている。この酸素イオン伝導体は、還元雰囲気下においても酸素/酸素イオンの移動性を発現するため、炭化水素類からなる燃料の水蒸気改質反応やドライ改質、部分酸化反応のような常に水素ガスが生成して還元雰囲気となる条件下においても、担体(酸素イオン伝導体)に吸着した酸素や格子間伝導酸素(O2-、O-等)の移動が容易になり、担体(酸素イオン伝導体)表面での酸素/酸素イオンの反応性が向上する。その結果、本発明の改質触媒においては、白金族金属の触媒作用だけでなく、酸素イオン伝導体の表面においても、酸素/酸素イオンのレドックス促進作用により、C-C結合、C-H結合、C-O結合等を切断することが可能となり、高い改質活性が得られると推察される。
【0023】
一方、セリア-ジルコニア複合酸化物等の酸素貯蔵材料は、酸化雰囲気と還元雰囲気との間の変動時のみ、酸素/酸素イオンの移動性を発現するため、炭化水素類からなる燃料の水蒸気改質反応等のような常に還元雰囲気となる条件下では担体(酸素イオン伝導体)に吸着した酸素や格子間伝導酸素(O2-、O-等)が移動しにくく、担体(酸素イオン伝導体)表面での酸素/酸素イオンの反応性は向上しにくい。その結果、セリア-ジルコニア複合酸化物を担体として用いた改質触媒においては、触媒種である白金族金属のみが改質活性を発現するため、本発明の改質触媒に比べて、改質活性が低くなると推察される。
【0024】
また、本発明の改質触媒が低温での改質活性に優れている理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、炭化水素類からなる燃料の水蒸気改質反応やドライ改質、部分酸化反応の低温度域においては、燃料ガス(改質ガス)に含まれる炭化水素類や生成ガスに含まれる一酸化炭素が触媒種である白金族金属の表面に強く吸着する自己被毒現象が起こるため、炭化水素類からなる燃料の水蒸気改質反応等を阻害する。このとき、本発明のように改質触媒の担体として酸素イオン伝導体を使用すると、自己被毒により白金族金属の表面に吸着した炭化水素類や一酸化炭素に対して担体(酸素イオン伝導体)から酸素が供給され、自己被毒現象が緩和される。その結果、低温でも高い改質活性が得られると推察される。
【0025】
一方、改質触媒の担体としてセリア-ジルコニア複合酸化物を用いても、自己被毒により白金族金属の表面に吸着した炭化水素類や一酸化炭素に対して酸素が供給されないため、自己被毒現象は緩和されず、低温での改質活性が低くなると推察される。
【0026】
さらに、本発明の改質触媒が耐硫黄被毒性に優れている理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、炭化水素類からなる燃料の水蒸気改質反応やドライ改質、部分酸化反応において、前記燃料に硫黄成分が含まれると、燃料が触媒上で直接分解して生成した硫黄(S)や反応ガス中で二酸化硫黄(SO
2)を経由して生成した硫黄(S)が、改質触媒1の触媒種である白金族金属2の表面を被覆して(硫黄被覆現象)、炭化水素類からなる燃料の水蒸気改質反応等が阻害される(
図1A)。より具体的には、炭化水素類からなる燃料の水蒸気改質反応等のような常に還元雰囲気となる条件下では、硫黄(S)は硫化物イオン(S
2-)として、触媒種である白金族金属2の表面に付着して炭化水素類と水(水蒸気)との反応を阻害する。特に、硫化物イオン(S
2-)が白金族金属2の担体3との境界付近の表面に付着して炭化水素類と水(水蒸気)との反応を阻害するため、硫化物イオン(S
2-)の付着量が露出した白金族金属2の活性サイト量に比べて少ない場合でも反応阻害が顕著に起こる。
【0027】
本発明の改質触媒においては、担体3として酸素イオン伝導体を用いているため、白金族金属2の担体3との境界付近の表面に付着した硫化物イオン(S
2-)に対して、担体3(酸素イオン伝導体)から酸素イオン(O
2-)が供給される(
図1B)。その結果、硫化物イオン(S
2-)と酸素イオン(O
2-)とが置換され(
図1C)、白金族金属2の表面に露出した酸素(O)を介して炭化水素類と水(水蒸気)との反応が進行する(
図1D)。このように、本発明の改質触媒においては、硫化物イオン(S
2-)が付着した白金族金属2が再生されるため、優れた耐硫黄被毒性が発現すると推察される。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、低温(400℃~600℃程度)での改質活性が高く、耐硫黄被毒性に優れた改質触媒を得ることができる。また、このような改質触媒を用いることによって、燃料を低温(400℃~600℃程度)でも効率よく改質することができ、さらに、硫黄成分を含有する燃料も効率よく改質することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1A】従来の改質触媒において、硫黄被毒により改質反応が阻害された状態を示す模式図である。
【
図1B】本発明の改質触媒において、担体(酸素イオン伝導体)から酸素イオン(O
2-)が供給される状態を示す模式図である。
【
図1C】本発明の改質触媒において、硫化物イオン(S
2-)と酸素イオン(O
2-)とが置換された状態を示す模式図である。
【
図1D】本発明の改質触媒において、改質反応が進行する状態を示す模式図である。
【
図2】実施例1~2において改質触媒の作製時に得られたLa
10Si
6O
27粉末及びLa
10Si
5.7Al
0.3O
27粉末のX線回折パターンを示すグラフである。
【
図3】実施例3~
5及び比較例2~4で得られた改質触媒の硫黄被毒後の改質反応温度と生成水素濃度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0031】
〔改質触媒〕
先ず、本発明の改質触媒について説明する。本発明の改質触媒は、アパタイト型ランタンシリケート、陽イオン置換アパタイト型ランタンシリケート、ガドリニウム添加セリア、及びスカンジア安定化ジルコニアからなる群から選択される少なくとも1種の酸素イオン伝導体からなる担体と、前記担体に担持された白金族金属とを含有し、炭化水素類からなる燃料を水蒸気により改質するためのものである。
【0032】
(アパタイト型ランタンシリケート)
本発明に用いられるアパタイト型ランタンシリケートは、式:LaxSiyOzで表されるものである。このようなアパタイト型ランタンシリケートからなる酸素イオン伝導体は、低温(400℃~600℃程度)でも高い酸素イオン伝導性を有しており、これを担体として用いることによって、低温での改質活性が高く、耐硫黄被毒性に優れた改質触媒を得ることができる。
【0033】
前記式中、xはLaの原子数を表し、8.0≦x≦11.0である。xが前記下限未満になると、ランタンシリケートにアパタイト構造が形成されにくくなるため、高比表面積を保持できない非晶質のランタンシリケートになりやすく、このようなランタンシリケートを担体として用いると、白金族金属を高分散状態で担持することができず、改質触媒の活性と耐熱性が低下する。他方、xが前記上限を超えると、アパタイト構造の安定性が低下するため、La2O3が分離して析出しやすく、このLa2O3に担持された白金族金属が粒成長しやすいため、改質触媒の活性と耐熱性が低下する。また、xの下限としては、格子間伝導酸素(O2-、O-等)が増加し、酸素イオンの移動が起こりやすいという観点から、x≧8.5が好ましく、x≧9.0がより好ましく、x≧9.5が特に好ましい。xの上限としては、アパタイト構造の安定性の観点から、x≦10.5が好ましく、x≦10.0が特に好ましい。
【0034】
前記式中、yはSiの原子数を表し、5.5≦y≦6.5である。yが前記下限未満になると、ランタンシリケートにアパタイト構造が形成されにくくなるため、La2O3が分離して析出しやすく、このLa2O3に担持された白金族金属が粒成長しやすいため、改質触媒の活性と耐熱性が低下する。他方、yが前記上限を超えると、アパタイト構造の安定性が低下するため、高比表面積を保持できない非晶質のランタンシリケートになりやすく、このようなランタンシリケートを担体として用いると、白金族金属を高分散状態で担持することができず、改質触媒の活性と耐熱性が低下する。また、yの下限としては、ランタンシリケートがアパタイト構造を形成しやすいという観点から、y≧5.6が好ましく、x≧5.7がより好ましく、x≧5.8が特に好ましい。yの上限としては、アパタイト構造の安定性の観点から、y≦6.4が好ましく、y≦6.3がより好ましく、y≦6.2が特に好ましく、y≦6.0が最も好ましい。
【0035】
前記式中、zはOの原子数を表し、24≦z≦28である。このzは、基本的には、x及びyの値に連動して決まる値である。
【0036】
このようなアパタイト型ランタンシリケートとして、より具体的には、La10Si6O27、La9.67Si6O26.5、La9.60Si6O26.4、La9.33Si6O26等が挙げられる。
【0037】
本発明に用いられるアパタイト型ランタンシリケートは、例えば、以下のようにして共沈法により調製することができる。すなわち、La源としてのランタンの塩(例えば、硝酸ランタン)とSi源としてのシラン化合物(例えば、アルコキシシラン)とをLaとSiとの原子比が所定の割合(すなわち、アパタイト構造を形成する割合)で含有する水溶液において、アンモニアの存在下で共沈物を生成させ、得られる共沈物を洗浄、乾燥した後、800~1750℃(好ましくは、900~1300℃)で0.1~100時間(好ましくは、1~10時間)焼成することによって所望のアパタイト型ランタンシリケートを得ることができる。
【0038】
(陽イオン置換アパタイト型ランタンシリケート)
本発明に用いられる陽イオン置換アパタイト型ランタンシリケートは、式:Lax-aML
aSiy-bMS
bOzで表されるものであり、前記式中、MLはLaに対して置換可能な1~3価の陽イオンを表し、MSはSiに対して置換可能な元素を表す。アパタイト型ランタンシリケートからなる酸素イオン伝導体は、低温(400℃~600℃程度)でも高い酸素イオン伝導性を有しており、これを担体として用いることによって、低温での改質活性が高く、耐硫黄被毒性に優れた改質触媒を得ることができ、さらに、Laの一部をMLで置換したり、Siの一部をMSで置換したりすることによって、低温での酸素イオン伝導性が更に高くなり、低温での改質活性及び耐硫黄被毒性が更に向上する。
【0039】
MLとしては、ランタンシリケート中のLaの一部と置換して、担体(酸素イオン伝導体)に白金族金属の担持サイトや硫黄成分(例えば、S、S2-、SO、SO2、SO3、SO4
2-等のほか、Sを含むもの)の吸着サイトを形成するという観点から、ポーリングの電気陰性度がLaのポーリングの電気陰性度(1.10)未満のものが好ましく、担体(酸素イオン伝導体)に担持される白金族金属を微細化し、硫黄成分の吸着性を高める観点から、1.05以下のものがより好ましい。また、MLのポーリングの電気陰性度の上限としては、結晶構造の安定性及び置換の容易性の観点から、0.70以上が好ましい。
【0040】
MLとして具体的には、マグネシウム(Mg、ポーリングの電気陰性度:1.31)、カルシウム(Ca、ポーリングの電気陰性度:1.00)、ストロンチウム(Sr、ポーリングの電気陰性度:0.95)、バリウム(Ba、ポーリングの電気陰性度:0.89)等のアルカリ土類金属、コバルト(Co、ポーリングの電気陰性度:1.88)、及びセリウム(Ce、ポーリングの電気陰性度:1.12)、プラセオジム(Pr、ポーリングの電気陰性度:1.13)、ネオジム(Nd、ポーリングの電気陰性度:1.14)、サマリウム(Sm、ポーリングの電気陰性度:1.17)等の希土類金属が挙げられる。これらの金属は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。これらの金属をLaの一部と置換することによって、白金族金属の担持サイトや硫黄成分の吸着サイトが形成される。また、これらの金属の中でも、ポーリングの電気陰性度が小さく、担体(酸素イオン伝導体)に担持される白金族金属が微細化され、硫黄成分の吸着性が向上するという観点から、アルカリ土類金属が好ましく、Ca、Sr及びBaがより好ましい。
【0041】
MSとしては、ランタンシリケート中のSiの一部と置換して、担体(酸素イオン伝導体)に白金族金属の担持サイトや硫黄成分の吸着サイトを形成するという観点から、ポーリングの電気陰性度がSiのポーリングの電気陰性度(1.90)未満のものが好ましく、担体(酸素イオン伝導体)に担持される白金族金属を微細化し、硫黄成分の吸着性を高める観点から、1.85以下のものがより好ましい。また、MSのポーリングの電気陰性度の上限としては、結晶構造の安定性及び置換の容易性の観点から、0.70以上が好ましい。
【0042】
MSとして具体的には、アルミニウム(Al、ポーリングの電気陰性度:1.61)、マグネシウム(Mg、ポーリングの電気陰性度:1.31)、ガリウム(Ga、ポーリングの電気陰性度:1.81)、コバルト(Co、ポーリングの電気陰性度:1.88)が挙げられる。また、La及びMLにより白金族金属の微細化と硫黄成分の吸着性とを確保できれば、MSとしてホウ素(B、ポーリングの電気陰性度:2.04)、ゲルマニウム(Ge、ポーリングの電気陰性度:2.01)も使用することができる。これらの金属は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。これらの金属をSiの一部と置換することによって、白金族金属の担持サイトや硫黄成分の吸着サイトが形成される。また、これらの金属の中でも、イオン半径が近いため、Siと置換しやすく、また、ポーリングの電気陰性度が小さいため、白金族金属の担持サイトや硫黄成分の吸着サイトが形成されやすく、さらに、担体(酸素イオン伝導体)の耐熱性が向上するという観点から、Alが好ましい。
【0043】
前記式中、xはLaの原子数を表し、8.0≦x≦11.0である。xが前記下限未満になると、ランタンシリケートにアパタイト構造が形成されにくくなるため、高比表面積を保持できない非晶質のランタンシリケートになりやすく、このようなランタンシリケートを担体として用いると、白金族金属を高分散状態で担持することができず、改質触媒の活性と耐熱性が低下する。他方、xが前記上限を超えると、アパタイト構造の安定性が低下するため、La2O3が分離して析出しやすく、このLa2O3に担持された白金族金属が粒成長しやすいため、改質触媒の活性と耐熱性が低下する。また、xの下限としては、格子間伝導酸素(O2-、O-等)が増加し、酸素イオンの移動が起こりやすいという観点から、x≧8.5が好ましく、x≧9.0がより好ましく、x≧9.5が特に好ましい。xの上限としては、アパタイト構造の安定性の観点から、x≦10.5が好ましく、x≦10.0が特に好ましい。
【0044】
前記式中、yはSiの原子数を表し、5.5≦y≦6.5である。yが前記下限未満になると、ランタンシリケートにアパタイト構造が形成されにくくなるため、La2O3が分離して析出しやすく、このLa2O3に担持された白金族金属が粒成長しやすいため、改質触媒の活性と耐熱性が低下する。他方、yが前記上限を超えると、アパタイト構造の安定性が低下するため、高比表面積を保持できない非晶質のランタンシリケートになりやすく、このようなランタンシリケートを担体として用いると、白金族金属を高分散状態で担持することができず、改質触媒の活性と耐熱性が低下する。また、yの下限としては、ランタンシリケートがアパタイト構造を形成しやすいという観点から、y≧5.6が好ましく、x≧5.7がより好ましく、x≧5.8が特に好ましい。yの上限としては、アパタイト構造の安定性の観点から、y≦6.4が好ましく、y≦6.3がより好ましく、y≦6.2が特に好ましく、y≦6.0が最も好ましい。
【0045】
前記式中、aはMLの原子数を表し、0≦a<xであり、特に、b=0の場合、0<a<xである。aの下限としては、白金族金属の担持サイトや硫黄成分の吸着サイトが増加し、低温での改質活性及び耐硫黄被毒性が向上するという観点から、a>0が好ましく、a≧0.1がより好ましく、a≧0.2が特に好ましい。
【0046】
前記式中、bはMSの原子数を表し、0≦b<yであり、特に、a=0の場合、0<b<yである。bの下限としては、白金族金属の担持サイトや硫黄成分の吸着サイトが増加したり、酸素イオン伝導性が向上したりすることによって、低温での改質活性及び耐硫黄被毒性が向上するという観点から、b>0が好ましく、b≧0.2がより好ましく、b≧0.3が特に好ましい。
【0047】
前記式中、zはOの原子数を表し、24≦z≦28である。このzは、基本的には、ML及びMSの価数、並びにx、y、a及びbの値に連動して決まる値である。
【0048】
なお、本発明において、前記アパタイト型ランタンシリケート及び前記陽イオン置換アパタイト型ランタンシリケートのアパタイト構造は以下の方法により確認することができる。すなわち、アパタイト型ランタンシリケート及び陽イオン置換アパタイト型ランタンシリケートについて、X線回折測定(線源:Cu-Kα)によりX線回折パターン(XRDパターン)を測定し、得られるXRDパターンにおいて、2θが20.7°~21.2°、21.8°~22.3°、24.0°~25.0°、31.5°~32.1°の範囲にアパタイト構造に特有のピークが存在することによって確認することができる。
【0049】
このような陽イオン置換アパタイト型ランタンシリケートとして、より具体的には、La10Si5.7Al0.3O27、La10Si5.3Co0.7O26.875、La10Si5.7Mg0.3O26.7、La10Si5GaO26.5、La8Ba2Si6O26、La8Sr2Si6O26、La8Ca2Si6O26、La8.67MgSi6O26等が挙げられる。
【0050】
本発明に用いられる陽イオン置換アパタイト型ランタンシリケートは、例えば、以下のようにして共沈法により調製することができる。すなわち、La源としてのランタンの塩(例えば、硝酸ランタン)とSi源としてのシラン化合物(例えば、アルコキシシラン)とML源としてのMLの塩(例えば、MLの硝酸塩)とMS源としてのMSの塩(例えば、MSの硝酸塩)とをLaとSiとMLとMSとの原子比が所定の割合(すなわち、陽イオン置換アパタイト構造を形成する割合)で含有する水溶液において、アンモニアの存在下で共沈物を生成させ、得られる共沈物を洗浄、乾燥した後、800~1750℃(好ましくは、900~1300℃)で0.1~100時間(好ましくは、1~10時間)焼成することによって所望の陽イオン置換アパタイト型ランタンシリケートを得ることができる。
【0051】
(ガドリニウム添加セリア)
本発明に用いられるガドリニウム添加セリアは、式:GdxCe1-xOzで表されるものである。このようなガドリニウム添加セリアからなる酸素イオン伝導体は、低温(400℃~600℃程度)でも高い酸素イオン伝導性を有しており、これを担体として用いることによって、低温での改質活性が高く、耐硫黄被毒性に優れた改質触媒を得ることができる。
【0052】
前記式中、xはGdの原子数を表し、0.01≦x≦0.5である。xが前記下限未満になると、酸素イオン伝導性が低下するため、低温での改質活性及び耐硫黄被毒性が低下する。他方、xが前記上限を超えても、相対的にセリア(CeO2)の量が減少し、酸素イオン伝導性が低下するため、低温での改質活性及び耐硫黄被毒性が低下する。また、xの下限としては、低温での改質活性及び耐硫黄被毒性が向上するという観点から、x≧0.02が好ましく、x≧0.05がより好ましく、x≧0.08が特に好ましい。xの上限としては、相対的にセリア(CeO2)の量が増加するため、酸素イオン伝導性が向上し、低温での改質活性及び耐硫黄被毒性が向上するという観点から、x≦0.4が好ましく、x≦0.3がより好ましく、x≦0.2が特に好ましい。
【0053】
前記式中、zはOの原子数を表し、1.5≦z≦(4-x)/2である。このzは、基本的には、Ceの価数とxの値に連動して決まる値である。
【0054】
このようなガドリニウム添加セリアとして、より具体的には、Gd0.08Ce0.92O1.96、Gd0.1Ce0.9O1.95、Gd0.2Ce0.8O1.9等が挙げられる。
【0055】
本発明に用いられるガドリニウム添加セリアは、例えば、以下のようにして共沈法により調製することができる。すなわち、Gd源としてのガドリニウムの塩(例えば、硝酸ガドリニウム)とCe源としてのセリウムの塩(例えば、硝酸セリウム)とをGdとCeとの原子比が所定の割合で含有する水溶液において、アンモニアの存在下で共沈物を生成させ、得られる共沈物を200~600℃(好ましくは、300~500℃)で0.1~100時間(好ましくは、1~10時間)仮焼した後、600~1200℃(好ましくは、700~1000℃)で0.1~100時間(好ましくは、1~10時間)焼成することによって所望のガドリニウム添加セリアを得ることができる。
【0056】
(スカンジア安定化ジルコニア)
本発明に用いられるスカンジア安定化ジルコニアは、式:ScxZr1-xO(4-x)/2で表されるものである。このようなスカンジア安定化ジルコニアからなる酸素イオン伝導体は、低温(400℃~600℃程度)でも高い酸素イオン伝導性を有しており、これを担体として用いることによって、低温での改質活性が高く、耐硫黄被毒性に優れた改質触媒を得ることができる。
【0057】
前記式中、xはScの原子数を表し、0.01≦x≦0.5である。xが前記下限未満になると、酸素イオン伝導性が低下するため、低温での改質活性及び耐硫黄被毒性が低下する。他方、xが前記上限を超えても、相対的にジルコニア(ZrO2)の量が減少し、酸素イオン伝導性が低下するため、低温での改質活性及び耐硫黄被毒性が低下する。また、xの下限としては、低温での改質活性及び耐硫黄被毒性が向上するという観点から、x≧0.02が好ましく、x≧0.05がより好ましく、x≧0.08が特に好ましい。xの上限としては、相対的にジルコニア(ZrO2)の量が増加するため、酸素イオン伝導性が向上し、低温での改質活性及び耐硫黄被毒性が向上するという観点から、x≦0.4が好ましく、x≦0.3がより好ましく、x≦0.2が特に好ましい。
【0058】
このようなスカンジア安定化ジルコニアとして、より具体的には、Sc0.08Zr0.92O1.96、Sc0.11Zr0.89O1.945、Sc0.2Zr0.8O1.9等が挙げられる。
【0059】
本発明に用いられるスカンジア安定化ジルコニアは、例えば、以下のようにして共沈法により調製することができる。すなわち、Sc源としてのスカンジウムの塩(例えば、硝酸スカンジウム)とZr源としてのジルコニウムの塩(例えば、オキシ硝酸ジルコニウム)とをGdとZrとの原子比が所定の割合で含有する水溶液において、アンモニアの存在下で共沈物を生成させ、得られる共沈物を200~500℃(好ましくは、300~500℃)で0.1~100時間(好ましくは、1~10時間)仮焼した後、400~1200℃(好ましくは、500~800℃)で0.1~100時間(好ましくは、1~10時間)焼成することによって所望のスカンジア安定化ジルコニアを得ることができる。
【0060】
(担体)
本発明に用いられる担体は、前記アパタイト型ランタンシリケート、前記陽イオン置換アパタイト型ランタンシリケート、前記ガドリニウム添加セリア、及び前記スカンジア安定化ジルコニアからなる群から選択される少なくとも1種の酸素イオン伝導体からなるものである。これらの酸素イオン伝導体は、低温(400℃~600℃程度)でも高い酸素イオン伝導性を有しており、これを担体として用いることによって、低温での改質活性が高く、耐硫黄被毒性に優れた改質触媒を得ることができる。
【0061】
この酸素イオン伝導体においては、600℃における酸素イオン伝導率が1×10-4S/cm以上であることが好ましく、1×10-3.5S/cm以上であることがより好ましい。また、400℃における酸素イオン伝導率が1×10-5S/cm以上であることが好ましく、1×10-4.5S/cm以上であることがより好ましい。酸素イオン伝導体の酸素イオン伝導率が前記下限未満になると、低温での改質活性及び耐硫黄被毒性が低下する傾向にある。
【0062】
前記酸素イオン伝導体の比表面積としては、8m2/g以上が好ましく、9m2/g以上がより好ましく、10m2/g以上が特に好ましい。酸素イオン伝導体の比表面積が前記下限未満になると、低温での改質活性や硫黄成分の吸着性が低下する傾向にある。なお、前記比表面積は、窒素吸着等温線に基づいてBET法により求めることができる。
【0063】
(白金族金属)
本発明の改質触媒においては、前記担体に白金族金属が担持されている。この白金族金属は、炭化水素類からなる燃料の改質反応において触媒活性種として作用するものである。なお、本発明において、「担持」とは、前記白金族金属が前記担体の表面に担持されている場合のほか、前記白金族金属が前記担体の内部に含まれている場合も包含する概念である。
【0064】
本発明に用いられる白金族金属としては、ロジウム(Rh)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)、及びこれらの金属の合金が挙げられる。これらの白金族金属は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。このような白金族金属を触媒活性種として用いることによって、高い改質活性を有する改質触媒を得ることができる。これらの白金族金属のうち、更に高い改質活性が得られるという観点から、Rh、Ruが好ましく、アパタイト構造との親和性が高く、C-C結合、C-H結合、C-O結合が切断されやすいという観点から、Rhがより好ましい。また、前記白金族金属には、Rhが50質量%以上含まれていることが好ましく、70質量%以上含まれていることがより好ましく、90質量%以上含まれていることが特に好ましい。
【0065】
前記白金族金属の担持量としては特に制限はないが、前記酸素イオン伝導体からなる担体100質量部に対して、0.1~20質量部が好ましく、0.5~10質量部がより好ましい。白金族金属の担持量が前記下限未満になると、触媒活性種の量が少なく、十分な触媒活性が得られない傾向にあり、他方、前記上限を超えると、白金族金属の粒成長が起こり、触媒活性が向上しない傾向にある。
【0066】
また、前記白金族金属の平均粒子径としては、0.1~50nmが好ましく、0.5~10nmがより好ましい。白金族金属の平均粒子径が前記下限未満になると、酸化されやすく、メタル状態の白金族金属が得られない傾向にあり、他方、前記上限を超えると、活性サイトの量が著しく減少する傾向にある。
【0067】
このような白金族金属は、例えば、以下のようにして含浸法により前記酸素イオン伝導体からなる担体に担持することができる。すなわち、前記白金族金属の塩(例えば、白金族金属の硝酸塩)を所定の濃度で含有する溶液に、前記担体(又は、前記酸素イオン伝導体からなる担体をコージェライト製ハニカムモノリス基材等の各種基材にコートした担体担持基材)を浸漬して所定量の前記白金族金属を含む溶液を前記担体に含浸させ、これを200~800℃(好ましくは、300~600℃)で0.1~100時間(好ましくは、1~10時間)焼成することによって、前記酸素イオン伝導体からなる担体に前記白金族金属を担持させることができる。
【0068】
(改質触媒)
このようにして得られる本発明の改質触媒は、前記アパタイト型ランタンシリケート、前記陽イオン置換アパタイト型ランタンシリケート、前記ガドリニウム添加セリア、及び前記スカンジア安定化ジルコニアからなる群から選択される少なくとも1種の酸素イオン伝導体からなる担体と、この担体に担持された白金族金属とを含有し、炭化水素類からなる燃料を水蒸気により改質するために使用されるものであり、この炭化水素類からなる燃料の水蒸気改質反応において高い改質活性を示す。特に、担体として用いられる前記酸素イオン伝導体が低温(400℃~600℃程度)でも高い酸素イオン伝導性を発現するため、本発明の改質触媒は、低温でも高い改質活性を示す。
【0069】
また、本発明の改質触媒においては、担体として用いられる前記酸素イオン伝導体が酸素イオンを供給することによって硫化物イオンを吸着するため、炭化水素類からなる燃料に硫黄成分が含まれる場合であっても、触媒種である白金族金属は硫化物イオンに被覆されることがなく、失活しにくい。すなわち、本発明の改質触媒は、高い耐硫黄被毒性を有するため、硫黄成分を含有する炭化水素類からなる燃料を改質する場合でも、高い改質活性が維持される。
【0070】
〔燃料改質方法〕
次に、本発明の燃料改質方法について説明する。本発明の燃料改質方法は、水蒸気の存在下で、炭化水素類からなる燃料と前記本発明の改質触媒とを接触させ、前記炭化水素類からなる燃料を水蒸気により改質する方法である。
【0071】
前記炭化水素類としては特に制限はなく、例えば、アルカン類、アルケン類、アルキン類、芳香族化合物等の炭化水素;アルコール類、アルデヒド類等の含酸素炭化水素が挙げられ、具体的には、メタン、エタン、エチレン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン等の直鎖状又は分岐状の飽和脂肪族炭化水素;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、シクロオクタン等の脂環式飽和炭化水素;単環又は多環芳香族炭化水素等のガス状又は液状の炭化水素;メタノール、エタノール等の含酸素炭化水素が挙げられる。
【0072】
このような炭化水素類からなる燃料として具体的には、メタン、エタン、エチレン、プロパン、ブタン等の炭化水素ガス、これらの2種以上の混合ガス、都市ガス、天然ガス、石油ガス、石炭ガス、発生炉ガス、水性ガス、高炉ガス、石油分解ガス等の気体燃料;ガソリン、軽油、灯油、ディーゼル油、メタノール、エタノール等の液体燃料;これら気体燃料及び液体燃料の2種以上の混合燃料(2種以上の気体燃料の混合燃料、2種以上の液体燃料の混合燃料、1種以上の気体燃料と1種以上の液体燃料との混合燃料)が挙げられる。これらの炭化水素類からなる燃料のうち、常温で液体であるため取扱いやすく、安全性が高く、入手しやすいという観点から、本発明の燃料改質方法を、天然ガス、メタノール、エタノール、ガソリン、及びエタノールとガソリンとの混合燃料に対して適用することが好ましく、エタノール、ガソリン、及びエタノールとガソリンとの混合燃料に対して適用することがより好ましい。
【0073】
また、本発明の燃料改質方法は、使用する本発明の改質触媒が耐硫黄被毒性に優れているため、硫黄成分の存在下で実施することができる。すなわち、本発明の燃料改質方法を、硫黄成分を含有する炭化水素類からなる燃料に適用することができる。前記硫黄成分としては、例えば、S、S2-、SO、SO2、SO3、SO4
2-等のほか、Sを含む化合物が挙げられる。
【0074】
さらに、本発明の燃料改質方法は、使用する本発明の改質触媒が低温での改質活性に優れているため、400~600℃の低温でも実施することが可能である。
【実施例】
【0075】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0076】
(実施例1)
LaとSiとの原子比がLa/Si=10/6となる割合で、La源としての硝酸ランタン水和物とSi源としてのテトラエトキシシラン(TEOS)とを溶かしたエタノール水溶液にアンモニア水を入れ、La及びSiを含有する水酸化物を共沈させた。次いで、この水酸化物を水洗し、乾燥させた後、950℃で1時間焼成することにより、La10Si6O27の粉末(BET比表面積:11.4m2/g)を得た。
【0077】
このLa10Si6O27粉末をアルミナゾルバインダー(日産化学株式会社製「AS-200」)と混合し、固形比0.15のスラリー溶液を調製した後、コージェライト製のモノリス基材(容量約10ml)に所定量コートした。その後、コートしたスラリー溶液を十分に乾燥させることにより、La10Si6O27粉末をモノリス基材に担持した。質量測定により、モノリス基材10ml当たりのLa10Si6O27粉末のコート量を求めたところ、2.8g/10mlであった。
【0078】
次に、このLa10Si6O27粉末を担持したモノリス基材に所定量の硝酸ロジウム溶液を含浸させた後、乾燥し、さらに、大気中、500℃で3時間焼成した。これにより、La10Si6O27と前記La10Si6O27に担持されたRhとを有する改質触媒を得た。この改質触媒において、La10Si6O27に対するRhの担持量は2質量%であった。
【0079】
(実施例2)
LaとSiとAlとの原子比がLa/Si/Al=10/5.7/0.3となる割合で、La源としての硝酸ランタン水和物とSi源としてのテトラエトキシシラン(TEOS)とAl源としての硝酸アルミニウム九水和物とを溶かしたエタノール水溶液にアンモニア水を入れ、La、Si及びAlを含有する水酸化物を共沈させた。次いで、この水酸化物を水洗し、乾燥させた後、950℃で1時間焼成することにより、La10Si5.7Al0.3O27の粉末(BET比表面積:11.3m2/g、Alのポーリングの電気陰性度:1.61)を得た。
【0080】
La10Si6O27粉末の代わりに、このLa10Si5.7Al0.3O27粉末を用いた以外は実施例1と同様にして、La10Si5.7Al0.3O27粉末をモノリス基材に担持した。質量測定により、モノリス基材10ml当たりのLa10Si5.7Al0.3O27粉末のコート量を求めたところ、2.8g/10mlであった。
【0081】
次に、La10Si6O27粉末を担持したモノリス基材の代わりに、このLa10Si5.7Al0.3O27粉末を担持したモノリス基材を用いた以外は実施例1と同様にして、La10Si5.7Al0.3O27と前記La10Si5.7Al0.3O27に担持されたRhとを有する改質触媒を得た。この改質触媒において、La10Si5.7Al0.3O27に対するRhの担持量は2質量%であった。
【0082】
(比較例1)
La10Si6O27粉末の代わりに、市販のγアルミナ粉末(住友化学株式会社製「AKP-G15」、BET比表面積:164m2/g)を用いた以外は実施例1と同様にして、γアルミナ粉末をモノリス基材に担持した。質量測定により、モノリス基材10ml当たりのγアルミナ粉末のコート量を求めたところ、2.8g/10mlであった。
【0083】
次に、La10Si6O27粉末を担持したモノリス基材の代わりに、このγアルミナ粉末を担持したモノリス基材を用いた以外は実施例1と同様にして、γアルミナと前記γアルミナに担持されたRhとを有する改質触媒を得た。この改質触媒において、γアルミナに対するRhの担持量は2質量%であった。
【0084】
<Rhの凝集状況の確認>
実施例1~2及び比較例1で得られた各改質触媒について、COガスを用いたパルスインジェクション法によりRh分散度及びRh粒子径を測定した。具体的には、改質触媒に対してCOガスを飽和吸着量に到達するまでパルス導入し、ガスの合計吸着量から改質触媒のRh粒子の表面積を測定した。得られたRh粒子の表面積とRhの質量からRh分散度(%)及びRh粒子径(nm)を算出した。これらの結果を表1に示す。
【0085】
【0086】
表1に示したように、実施例1~2で得られた改質触媒は、比較例1で得られた改質触媒に比べて、Rh分散度が大きく、Rh粒子径が小さかった。この結果から、担体としてγアルミナ粉末を用いた場合(比較例1)には、Rh粒子が凝集したが、担体としてLa10Si6O27粉末を用いた場合(実施例1)又はLa10Si5.7Al0.3O27粉末を用いた場合(実施例2)には、Rh粒子の凝集が抑制されることがわかった。
【0087】
<複合酸化物の結晶構造の確認>
実施例1~2において各改質触媒の作製時に得られたLa
10Si
6O
27粉末及びLa
10Si
5.7Al
0.3O
27粉末について、X線回折測定(線源:Cu-Kα)によりX線回折パターン(XRDパターン)を測定した。その結果を
図2に示す。
図2に示したように、いずれの複合酸化物も、2θが20.7°~21.2°、21.8°~22.3°、24.0°~24.8°の範囲にアパタイト構造に特有のピークが確認された。
【0088】
<プロピレンガスの水蒸気改質>
先ず、モノリス基材に担持された改質触媒を750℃で5時間水素還元した後、大気中、800℃で5時間焼成してエージング処理を行った。次に、この改質触媒が担持されたモノリス基材を排ガス評価装置にセットした。
【0089】
次に、この改質触媒に下記の燃料ガスをガス流量10L/分で流通させながら、触媒入りガス温度を室温から600℃まで20℃/分で昇温させ、各温度における触媒出ガス中のプロピレン濃度を測定し、プロピレン転化率を求めた。表2には、触媒入りガス温度が400℃、500℃及び600℃の場合のプロピレン転化率を示す。
【0090】
次に、触媒入りガス温度が600℃の条件で、下記の燃料ガスに硫黄成分としてSO2を60ppm添加した硫黄含有燃料ガスを前記改質触媒にガス流量10L/分で5分間流通させて前記改質触媒を硫黄被毒させた後、下記の燃料ガスを前記改質触媒にガス流量10L/分で流通させ、触媒出ガス中のプロピレン濃度を測定し、プロピレン転化率を求めた。その結果を表2に示す。
・燃料ガス:C3H6(5.7%C)+H2O(5.3%)+N2(残り)。
・触媒入りガス温度:触媒入口付近の温度を熱電対により測定。
【0091】
【0092】
表2に示したように、比較例1で得られた改質触媒は低温(400℃~600℃程度)でのプロピレン転化率が低いことがわかった。これは、比較例1で得られた改質触媒の低温での改質活性が低く、低温でC-C結合、C-H結合を切断することが困難であったためと考えられる。また、比較例1で得られた改質触媒は硫黄被毒後のプロピレン転化率が極めて低いことがわかった。これは、比較例1で得られた改質触媒の耐硫黄被毒性が極めて低く、この改質触媒中のRhが、還元雰囲気となる改質雰囲気において、硫黄被毒により失活したためと考えられる。
【0093】
これに対し、実施例1~2で得られた改質触媒は、低温(400℃~600℃程度)でのプロピレン転化率が高く、低温での改質活性が高いことがわかった。また、実施例1~2で得られた改質触媒は、比較例1で得られた改質触媒に比べて、硫黄被毒後のプロピレン転化率の低下が抑制され、耐硫黄被毒性に優れていることがわかった。これは、複合酸化物による硫黄成分の吸着効果により、Rhが硫黄被毒により失活しにくいためと考えられる。さらに、担体としてLa10Si5.7Al0.3O27粉末を用いた場合(実施例2)には、La10Si6O27粉末を用いた場合(実施例1)に比べて、低温での改質活性及び耐硫黄被毒性が高くなることがわかった。
【0094】
以上の結果から、担体としてγアルミナの代わりに、La10Si6O27又はLa10Si5.7Al0.3O27を用いることによって、低温での改質活性が向上し、耐硫黄被毒性が高くなることがわかった。また、担体であるLa10Si6O27中のSiの一部をAlで置換することによって、低温での改質活性が向上し、耐硫黄被毒性も向上することがわかった。
【0095】
(実施例3)
LaとSiとの原子比がLa/Si=9.33/6となる割合で、La源としての硝酸ランタン六水和物とSi源としてのテトラエトキシシラン(TEOS)とを溶かしたエタノール水溶液にアンモニア水を入れ、La及びSiを含有する水酸化物を共沈させた。次いで、この水酸化物を水洗し、乾燥させた後、950℃で1時間焼成することにより、La9.33Si6O26の粉末(BET比表面積:11.4m2/g)を得た。
【0096】
このLa9.33Si6O26粉末をアルミナゾルバインダー(日産化学株式会社製「AS-200」)と湿式アトライタを用いて混合し、固形比0.2のスラリー溶液を調製した後、コージェライト製のハニカムモノリス基材(直径23mm×長さ25mm、容量10.4ml、400セル/inch2)に所定量コートした。その後、コートしたスラリー溶液を乾燥させ、さらに、500℃で3時間焼成することにより、La9.33Si6O26粉末をハニカムモノリス基材に担持した。質量測定により、ハニカムモノリス基材1L当たりのLa9.33Si6O26の担持量を求めたところ、240g/Lであった。
【0097】
次に、このLa9.33Si6O26粉末を担持したハニカムモノリス基材に所定量の硝酸ロジウム溶液を含浸させ、選択吸着法によりロジウムを吸着させた後、乾燥し、さらに、大気中、500℃で3時間焼成した。これにより、La9.33Si6O26と前記La9.33Si6O26とに担持されたRhとを有する改質触媒を得た。この改質触媒において、ハニカムモノリス基材1L当たりのRhの担持量は4.8g/Lであった。
【0098】
(実施例4)
LaとSiとCoとの原子比がLa/Si/Co=10/5.3/0.7となる割合で、La源としての硝酸ランタン六水和物とSi源としてのテトラエトキシシラン(TEOS)とCo源としての硝酸コバルト六水和物とを溶かしたエタノール水溶液にアンモニア水を入れ、La、Si及びCoを含有する水酸化物を共沈させた。次いで、この水酸化物を水洗し、乾燥させた後、950℃で1時間焼成することにより、La10Si5.3Co0.7O26.875の粉末(BET比表面積:11.3m2/g、Coのポーリングの電気陰性度:1.88)を得た。
【0099】
La9.33Si6O26粉末の代わりに、このLa10Si5.3Co0.7O26.875粉末を用いた以外は実施例3と同様にして、La10Si5.3Co0.7O26.875粉末をハニカムモノリス基材に担持した。質量測定により、ハニカムモノリス基材1L当たりのLa10Si5.3Co0.7O26.875粉末の担持量を求めたところ、240g/Lであった。
【0100】
次に、La9.33Si6O26粉末を担持したハニカムモノリス基材の代わりに、このLa10Si5.3Co0.7O26.875粉末を担持したハニカムモノリス基材を用いた以外は実施例3と同様にして、La10Si5.3Co0.7O26.875と前記La10Si5.3Co0.7O26.875に担持されたRhとを有する改質触媒を得た。この改質触媒において、ハニカムモノリス基材1L当たりのRhの担持量は4.8g/Lであった。
【0101】
(比較例2)
Gd源としての硝酸ガドリニウム六水和物7.83gとCe源としての硝酸セリウム六水和物66.2gとを500mlのイオン交換水に添加し、プロペラ攪拌機を用いて10分間攪拌して溶解した。得られた水溶液に25%アンモニア水42gを添加した後、10分間攪拌して沈殿物を生成させた。この沈殿物を含有する水溶液を昇温速度100℃/時間で400℃まで昇温した後、400℃で5時間仮焼成し、さらに、800℃で5時間焼成することによって、Gd0.1Ce0.9O1.95の粉末(BET比表面積:20m2/g)を得た。
【0102】
La9.33Si6O26粉末の代わりに、このGd0.1Ce0.9O1.95粉末を用いた以外は実施例3と同様にして、Gd0.1Ce0.9O1.95粉末をハニカムモノリス基材に担持した。質量測定により、ハニカムモノリス基材1L当たりのGd0.1Ce0.9O1.95粉末の担持量を求めたところ、240g/Lであった。
【0103】
次に、La9.33Si6O26粉末を担持したハニカムモノリス基材の代わりに、このGd0.1Ce0.9O1.95粉末を担持したハニカムモノリス基材を用いた以外は実施例3と同様にして、Gd0.1Ce0.9O1.95と前記Gd0.1Ce0.9O1.95に担持されたRhとを有する改質触媒を得た。この改質触媒において、ハニカムモノリス基材1L当たりのRhの担持量は4.8g/Lであった。
【0104】
(実施例5)
Sc源としての硝酸スカンジウム六水和物5.94gとZr源としての硝酸ジルコニウム二水和物41.3gとを500mlのイオン交換水に添加し、プロペラ攪拌機を用いて10分間攪拌して溶解した。得られた水溶液に25%アンモニア水42gを添加した後、10分間攪拌して沈殿物を生成させた。この沈殿物を含有する水溶液を昇温速度100℃/時間で400℃まで昇温した後、400℃で5時間仮焼成し、さらに、600℃で5時間焼成することによって、Sc0.11Zr0.89O1.945の粉末(BET比表面積:30m2/g)を得た。
【0105】
La9.33Si6O26粉末の代わりに、このSc0.11Zr0.89O1.945粉末を用いた以外は実施例3と同様にして、Sc0.11Zr0.89O1.945粉末をハニカムモノリス基材に担持した。質量測定により、ハニカムモノリス基材1L当たりのSc0.11Zr0.89O1.945粉末の担持量を求めたところ、240g/Lであった。
【0106】
次に、La9.33Si6O26粉末を担持したハニカムモノリス基材の代わりに、このSc0.11Zr0.89O1.945粉末を担持したハニカムモノリス基材を用いた以外は実施例3と同様にして、Sc0.11Zr0.89O1.945と前記Sc0.11Zr0.89O1.945に担持されたRhとを有する改質触媒を得た。この改質触媒において、ハニカムモノリス基材1L当たりのRhの担持量は4.8g/Lであった。
【0107】
(比較例3)
硝酸セリウム六水和物185.1g(0.43mol)と硝酸プラセオジム六水和物20.6g(0.47mol)と硝酸アルミニウム九水和物75.1g(0.2mol)とを2000mlのイオン交換水に添加し、プロペラ攪拌機を用いて10分間攪拌して溶解した。得られた水溶液に硝酸ジルコニル二水和物18.1g(0.068mol)を30mlのイオン交換水に溶解した水溶液を添加し、5分間攪拌した。得られた混合水溶液に25%アンモニア水189gを添加した後、10分間攪拌して沈殿物を生成させた。この沈殿物を含有する水溶液を2気圧の加圧下、120℃で2時間加熱して沈殿物を熟成させた。この熟成した沈殿物を含有する水溶液を昇温速度100℃/時間で400℃まで昇温した後、400℃で5時間仮焼成し、さらに、600℃で5時間焼成することによって、セリア-ジルコニア-酸化プラセオジム-アルミナ複合酸化物(Ce0.56Zr0.10Pr0.06O1.44-Al0.28O0.42)粉末(BET比表面積:約100m2/g)を得た。この複合酸化物粉末中の各金属元素の含有量は、CeO2換算で73.4質量%、ZrO2換算で8.3質量%、PrO2換算で8.1質量%、Al2O3換算で10.2質量%であった。また、この複合酸化物粉末においては、CeO2とZrO2とPrO2とが固溶体粒子を形成し、この固溶体粒子をAl2O3が被覆していた。
【0108】
La9.33Si6O26粉末の代わりに、このCe0.56Zr0.10Pr0.06O1.44-Al0.28O0.42粉末を用いた以外は実施例3と同様にして、Ce0.56Zr0.10Pr0.06O1.44-Al0.28O0.42粉末をハニカムモノリス基材に担持した。質量測定により、ハニカムモノリス基材1L当たりのCe0.56Zr0.10Pr0.06O1.44-Al0.28O0.42粉末の担持量を求めたところ、240g/Lであった。
【0109】
次に、La9.33Si6O26粉末を担持したハニカムモノリス基材の代わりに、このCe0.56Zr0.10Pr0.06O1.44-Al0.28O0.42粉末を担持したハニカムモノリス基材を用いた以外は実施例3と同様にして、Ce0.56Zr0.10Pr0.06O1.44-Al0.28O0.42と前記Ce0.56Zr0.10Pr0.06O1.44-Al0.28O0.42に担持されたRhとを有する改質触媒を得た。この改質触媒において、ハニカムモノリス基材1L当たりのRhの担持量は4.8g/Lであった。
【0110】
(比較例4)
La9.33Si6O26粉末の代わりに、市販のγアルミナ粉末(住友化学株式会社製「AKP-G15」、BET比表面積:164m2/g)を用いた以外は実施例3と同様にして、γアルミナ粉末をハニカムモノリス基材に担持した。質量測定により、ハニカムモノリス基材1L当たりのγアルミナ粉末の担持量を求めたところ、240g/Lであった。
【0111】
次に、La9.33Si6O26粉末を担持したハニカムモノリス基材の代わりに、このγアルミナ粉末を担持したハニカムモノリス基材を用いた以外は実施例3と同様にして、γアルミナと前記γアルミナに担持されたRhとを有する改質触媒を得た。この改質触媒において、ハニカムモノリス基材1L当たりのRhの担持量は4.8g/Lであった。
【0112】
<酸素イオン伝導率測定>
実施例3~5及び比較例2~3において各改質触媒の作製時に得られた複合酸化物並びに比較例4で使用したγアルミナの酸素イオン伝導率を測定した。具体的には、先ず、得られた複合酸化物又はγアルミナを1500℃で焼結して直径16mm、厚さ約1mmの焼結体を作製し、この焼結体に直径6mmの白金電極を1400℃で焼付け、測定用試料を作製した。次に、この測定用試料を白金端子で挟持し、白金端子間に0.4Vの電圧を印加した。このときの抵抗値を測定して酸素イオン伝導率を算出した。表3には、各複合酸化物及びγアルミナの各測定温度における酸素イオン伝導率G(S/cm)を対数表示した値LogGを示す。
【0113】
【0114】
表3に示したように、実施例3~5において各改質触媒の作製時に得られた複合酸化物は、600℃における酸素イオン伝導率が1×10-3.1S/cm以上であり、500℃における酸素イオン伝導率が1×10-3.7S/cm以上であり、400℃における酸素イオン伝導率が1×10-4.3S/cm以上であり、高い酸素イオン伝導性を有するもの(酸素イオン伝導体)であることが確認された。一方、比較例3において改質触媒の作製時に得られた複合酸化物及び比較例4で使用したγアルミナは、600℃における酸素イオン伝導率が1×10-4.6S/cm以下であり、500℃における酸素イオン伝導率が1×10-5.3S/cm以下であり、400℃における酸素イオン伝導率が1×10-5.9S/cm以下であり、酸素イオン伝導性が低い酸素イオン伝導性であることがわかった。
【0115】
<プロピレンガスの水蒸気改質>
先ず、ハニカムモノリス基材に担持された改質触媒に、下記の前処理ガスをガス流量10L/分で流通させながら、触媒入りガス温度600℃で10分間加熱した後、下記の前処理ガスを流通させたまま、100℃まで冷却した。
【0116】
次に、この改質触媒に、下記の改質ガスをガス流量10L/分で流通させながら、触媒入りガス温度を100℃から600℃まで20℃/分で昇温させ、600℃で10分間保持した後、触媒入りガス温度を600℃に保持したまま、前記改質触媒に、下記の改質ガスに硫黄成分としてSO2を60ppm添加した硫黄含有改質ガスをガス流量10L/分で15分間流通させて前記改質触媒を硫黄被毒させた。
【0117】
次に、触媒入りガス温度を600℃に保持したまま、前記改質触媒に、下記の前処理ガスをガス流量10L/分で2分間流通させた後、下記のリッチガスとリーンガスとをガス流量10L/分で1秒毎に交互に切替えながら10分間流通させた。
【0118】
次に、触媒入りガス温度を600℃に保持したまま、前記改質触媒に、下記の改質ガスをガス流量10L/分で20分間流通させ、さらに、下記の還元処理ガスをガス流量10L/分で1分間流通させた。その後、下記の還元処理ガスを流通させたまま、100℃まで冷却した。
【0119】
次に、前記改質触媒に、下記の改質ガスをガス流量10L/分で流通させながら、触媒入りガス温度を100℃から600℃まで20℃/分で昇温させ、各触媒入りガス温度における触媒出ガス中の水素濃度(生成水素濃度)を測定した。その結果を
図3に示す。
・前処理ガス:O
2(10%)+N
2(残り)。
・改質ガス:C
3H
6(2.4%)+H
2O(5.3%)+CO
2(10.8%)+N
2(残り)。
・リッチガス:C
3H
6(0.067%)+H
2(1.05%)+CO(3.15%)+O
2(0.8%)+CO
2(8%)+H
2O(5%)+N
2(残り)。
・リーンガス:C
3H
6(0.067%)+H
2(0.25%)+CO(0.75%)+O
2(2.4%)+CO
2(8%)+H
2O(5%)+N
2(残り)。
・還元処理ガス:H
2(6%)+N
2(残り)。
【0120】
図3に示したように、実施例3~
5で得られた改質触媒は、比較例
3~4で得られた改質触媒に比べて、水素生成の開始温度が低く、低温での改質活性に優れていることがわかった。また、実施例3~
5で得られた改質触媒は、比較例
3~4で得られた改質触媒に比べて、低温域(400℃~600℃)全体での生成水素濃度が高く、耐硫黄被毒性に優れていることがわかった。
【0121】
以上の結果から、酸素イオン伝導率が特定の値以上の酸素イオン伝導体を担体として用いた場合(実施例3~5)には、酸素イオン伝導率が小さい酸化物を担体として用いた場合(比較例3~4)に比べて、低温での改質活性が高く、耐硫黄被毒性に優れた改質触媒が得られることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0122】
以上説明したように、本発明によれば、低温(400℃~600℃程度)での改質活性が高く、耐硫黄被毒性に優れた改質触媒を得ることが可能となる。
【0123】
したがって、このような改質触媒を用いる本発明の燃料改質方法は、炭化水素類からなる燃料を低温でも効率よく改質することができるため、高い熱効率を要求される、排気再循環(EGR)システムを備える燃料改質エンジンシステムや燃料電池システム等における燃料改質方法として有用である。
【0124】
また、本発明の燃料改質方法は、硫黄成分を含有する燃料も効率よく改質することができるため、自動車エンジン等の内燃機関から排出される硫黄成分を含む燃料を利用したEGRシステムを備える燃料改質エンジンシステム等における燃料改質方法として有用である。
【符号の説明】
【0125】
1:改質触媒
2:白金族金属(触媒種)
3:担体