IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ブリヂストンの特許一覧

<>
  • 特許-タイヤ用金属樹脂複合部材及びタイヤ 図1A
  • 特許-タイヤ用金属樹脂複合部材及びタイヤ 図1B
  • 特許-タイヤ用金属樹脂複合部材及びタイヤ 図2
  • 特許-タイヤ用金属樹脂複合部材及びタイヤ 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-19
(45)【発行日】2022-10-27
(54)【発明の名称】タイヤ用金属樹脂複合部材及びタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 5/01 20060101AFI20221020BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20221020BHJP
   B60C 9/20 20060101ALI20221020BHJP
   C08L 67/00 20060101ALI20221020BHJP
   C08L 77/00 20060101ALI20221020BHJP
【FI】
B60C5/01 A
B60C1/00 D
B60C9/20 E
C08L67/00
C08L77/00
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019551054
(86)(22)【出願日】2018-10-17
(86)【国際出願番号】 JP2018038693
(87)【国際公開番号】W WO2019082767
(87)【国際公開日】2019-05-02
【審査請求日】2021-08-27
(31)【優先権主張番号】P 2017206137
(32)【優先日】2017-10-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安西 弘行
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 隆弘
(72)【発明者】
【氏名】中北 行紀
(72)【発明者】
【氏名】山田 拓海
(72)【発明者】
【氏名】筆本 啓之
【審査官】増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-046034(JP,A)
【文献】国際公開第2017/104188(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/047707(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/052706(WO,A1)
【文献】特開2012-046025(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 5/01
B60C 1/00
B60C 9/20
C08L 67/00
C08L 77/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属コードと樹脂層とを備え、前記樹脂層は、ハードセグメントとソフトセグメントとを有する熱可塑性樹脂Aと、前記熱可塑性樹脂Aの前記ハードセグメントと同種の構造単位からなる熱可塑性樹脂Bと、を含む樹脂混合物から形成され、前記樹脂混合物におけるハードセグメントの比率が60質量%以上75質量%未満であり、
前記熱可塑性樹脂Aはポリエステル系熱可塑性エラストマーであり、前記熱可塑性樹脂Bはポリブチレンテレフタレートである、タイヤ用金属樹脂複合部材。
【請求項2】
前記樹脂混合物は海島構造を有する、請求項1に記載のタイヤ用金属樹脂複合部材。
【請求項3】
前記海島構造は熱可塑性樹脂Aを含むマトリックスと、熱可塑性樹脂Bを含むドメインとからなる、請求項2に記載のタイヤ用金属樹脂複合部材。
【請求項4】
ドメイン径が0.1μm~10μmである、請求項2又は請求項3に記載のタイヤ用金属樹脂複合部材。
【請求項5】
前記樹脂混合物の粘弾性測定により得られるTanδ曲線がピークを2つ以上有する、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載のタイヤ用金属樹脂複合部材。
【請求項6】
前記Tanδ曲線は、前記熱可塑性樹脂Aに由来するピークを低温側に、前記熱可塑性樹脂Bに由来するピークを高温側に有し、前記熱可塑性樹脂Aに由来するピークが-10℃以下の温度範囲に存在する、請求項5に記載のタイヤ用金属樹脂複合部材。
【請求項7】
樹脂材料から形成される環状のタイヤ骨格体と、前記タイヤ骨格体の外周部に配置される請求項1~請求項のいずれか1項に記載のタイヤ用金属樹脂複合部材と、を備える、タイヤ。
【請求項8】
前記タイヤ用金属樹脂複合部材は前記タイヤ骨格体の外周部に巻回されて配置される、請求項に記載のタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、タイヤ用金属樹脂複合部材及びタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、軽量化、成形の容易さ、リサイクルのし易さ等の理由から、ゴム等の従来の材料に代えて樹脂材料を用いて形成したタイヤ本体(以下、タイヤ骨格体ともいう)を備えるタイヤの開発が進められている。例えば、特開2012-46030号公報では、樹脂材料としてポリアミド系熱可塑性樹脂を用いて形成したタイヤ骨格体を有するタイヤが提案されている。特開2012-46025号公報では、樹脂材料としてポリエステル系熱可塑性樹脂を用いて形成したタイヤ骨格体を有するタイヤが提案されている。
【0003】
特開2012-46030号公報及び特開2012-46025号公報には、タイヤ骨格体を形成する熱可塑性樹脂と同種の熱可塑性樹脂で被覆された金属コード(補強部材)の被覆部分を熱で溶融させてタイヤ骨格体に接合させることが記載されている。補強部材とタイヤ骨格体に同種の熱可塑性樹脂を用いることで、タイヤ骨格体と補強コードとの良好な接合性を実現している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
タイヤのコーナリングパワー(操舵応答性)の観点からは、補強部材の被覆の剛性をタイヤ骨格体よりも高くすることが有効である。しかしながら、タイヤ骨格体の樹脂材料よりも剛性の高い樹脂材料を補強部材の被覆に用いた場合、耐低温衝撃性が損なわれるおそれがある。
【0005】
従って、良好な耐低温衝撃性を維持しつつタイヤのコーナリングパワーを向上可能なタイヤ用金属樹脂複合部材、及びこのタイヤ用金属樹脂複合部材を備えるタイヤを提供が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
金属コードと樹脂層とを備え、前記樹脂層は、ハードセグメントとソフトセグメントとを有する熱可塑性樹脂Aと、前記熱可塑性樹脂Aの前記ハードセグメントと同種の構造単位からなる熱可塑性樹脂Bと、を含む樹脂混合物から形成され、前記樹脂混合物におけるハードセグメントの比率が60質量%以上75質量%未満である、タイヤ用金属樹脂複合部材。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、良好な耐低温衝撃性を維持しつつタイヤのコーナリングパワーを向上可能なタイヤ用金属樹脂複合部材、及びこのタイヤ用金属樹脂複合部材を備えるタイヤが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1A】本開示の一実施形態に係るタイヤの一部の断面を示す斜視図である。
図1B】リムに装着したビード部の断面図である。
図2】実施形態のタイヤのタイヤケースのクラウン部に補強コードが埋設された状態を示すタイヤ回転軸に沿った断面図である。
図3】コード加熱装置、及びローラ類を用いてタイヤケースのクラウン部に補強コードを埋設する動作を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の具体的な実施形態について詳細に説明するが、本開示は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本開示の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0010】
本明細書において「樹脂」とは、熱可塑性樹脂(熱可塑性エラストマーを含む)及び熱硬化性樹脂を含む概念であり、加硫ゴムは含まない。
本明細書において「熱可塑性樹脂」とは、温度上昇とともに材料が軟化して流動し、冷却すると比較的硬く強度のある状態になるが、ゴム状弾性を有しない高分子化合物を意味する。
本明細書において「熱可塑性エラストマー」とは、ハードセグメント及びソフトセグメントを有する共重合体を意味する。熱可塑性エラストマーとして具体的には、例えば、結晶性で融点の高いハードセグメント、又は高い凝集力のハードセグメントを構成するポリマーと、非晶性でガラス転移温度の低いソフトセグメントを構成するポリマーと、を有する共重合体が挙げられる。また、熱可塑性エラストマーとしては、例えば、温度上昇とともに材料が軟化して流動し、冷却すると比較的硬く強度のある状態になり、かつ、ゴム状弾性を有する高分子化合物が挙げられる。
また本明細書において、「ハードセグメント」とは、相対的にソフトセグメントよりも硬い成分を指し、「ソフトセグメント」とは、相対的にハードセグメントよりも柔らかい成分を指す。なお、ハードセグメントは、塑性変形を防止する架橋ゴムの架橋点の役目を果たす分子拘束成分であることが好ましい。なお、上記ハードセグメントは、例えば、主骨格に芳香族基若しくは脂環式基等の剛直な基を有する構造、又は分子間水素結合若しくはπ-π相互作用による分子間パッキングを可能にする構造等のセグメントが挙げられる。また、ソフトセグメントは、ゴム弾性を示す柔軟性成分であることが好ましい。ソフトセグメントは、例えば、主鎖に長鎖の基(例えば長鎖のアルキレン基等)を有し、分子回転の自由度が高く、伸縮性を有する構造のセグメントが挙げられる。
本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
本明細書において「工程」との語には、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても、その目的が達成されるものであれば、当該工程も本用語に含まれる。
【0011】
<タイヤ用金属樹脂複合部材>
本開示のタイヤ用金属樹脂複合部材(以下、金属樹脂複合部材とも称する)は、金属コードと樹脂層とを備え、前記樹脂層は、ハードセグメントとソフトセグメントとを有する熱可塑性樹脂Aと、前記熱可塑性樹脂Aの前記ハードセグメントと同種の構造単位からなる熱可塑性樹脂Bと、を含む樹脂混合物から形成され、前記樹脂混合物におけるハードセグメントの比率(以下、HS比率とも称する)が60質量%以上75質量%未満である。
【0012】
本発明者らの検討の結果、HS比率が60質量%以上75質量%未満である樹脂混合物から形成される樹脂層を備える金属樹脂複合部材は、これらの条件を満たさない樹脂混合物から形成される樹脂層を備えるタイヤ用金属樹脂複合部材に比べ、良好な耐低温衝撃性を維持しつつ、これを備えるタイヤのコーナリングパワーの向上効果に優れることがわかった。これは、樹脂混合物のHS比率を60mol%以上とすることで樹脂層の剛性が高くなることでコーナリングパワーが向上する一方、樹脂混合物のHS比率を75質量%未満に抑えることで樹脂層の剛性が高くなりすぎず、良好な耐低温衝撃性が維持されるためと考えられる。
【0013】
さらに、本発明者らの検討の結果、熱可塑性樹脂Aに熱可塑性樹脂Bをブレンドすることで全体のHS比率を60質量%以上75質量%未満とした場合は、熱可塑性樹脂A自体のHS比率を変更した場合に比べ、良好な耐低温衝撃性が維持されることがわかった。その理由は必ずしも明らかではないが、樹脂混合物で熱可塑性樹脂Aと熱可塑性樹脂Bとが相溶せずに海島構造を形成するためと推測される。
【0014】
さらに、樹脂混合物のHS比率を60質量%以上とすることで、樹脂混合物で被覆される金属コードの水蒸気に対するバリア性が向上して耐湿熱性が向上する効果や、耐プランジャー性が向上する効果も期待できる。
【0015】
金属樹脂複合部材は、例えば、タイヤ骨格体の外周部(クラウン部)に配置されるものであってもよい。金属樹脂複合部材をタイヤ骨格体の外周部に配置する方法は、特に制限されない。例えば、後述する実施例に記載するような方法でタイヤ骨格体の外周部に金属樹脂複合部材を巻回して配置してもよい。このとき、加熱により金属樹脂複合部材の樹脂層とタイヤ骨格体のクラウン部とを溶融させ、両者の接合性を高めることが好ましい。
【0016】
金属樹脂複合部材は、金属コードと樹脂層のみからなっても、金属コード及び樹脂層以外の部材を備えていてもよい。例えば、金属コードと樹脂層との間に接着層を備えていてもよい。
【0017】
金属樹脂複合部材の断面形状は、特に制限されない。例えば、円形、四角形等が挙げられる。タイヤ骨格体のクラウン部への配置のしやすさからは、四角形であることが好ましい。また、金属樹脂複合部材は1本の金属コードを有するものであっても、複数本(例えば、2本)の金属コードを有するものであってもよい。
【0018】
以下、金属樹脂複合部材の詳細について具体的に説明するが、本開示はこれらに限定されるものではない。
【0019】
[金属コード]
金属コードは特に制限されず、タイヤの補強に一般的に使用可能なものを用いることができる。金属コードとしては、一本の金属コードからなるモノフィラメント(単線)、複数本の金属コードを撚った状態のマルチフィラメント(撚り線)等が挙げられる。金属コードの断面形状、直径等は、特に限定されるものではなく、複合部材の用途等に応じて選択できる。金属コードの材質は特に制限されず、スチール等が挙げられる。
【0020】
金属コードが複数本のコードの撚り線である場合、複数本のコードの数は特に制限されない。例えば、2本~10本の範囲から選択することができ、5本~9本であることが好ましい。
【0021】
タイヤの補強効果と軽量化とを両立する観点からは、金属コードの直径は0.2mm~2mmであることが好ましく、0.8mm~1.6mmであることがより好ましい。
【0022】
金属コードの直径の測定値は、金属コードが1本の金属コードからなる場合は、金属コードの断面の直径(金属コードの断面の輪郭線上で任意に選択される2点間の距離が最大となるときの当該2点間の距離)とする。金属コードが複数の金属コードからなる場合は、金属コードの断面に観察される複数の金属コードの断面が全て含まれる円のうち最も小さい円の直径とする。
【0023】
金属コード自体の引張弾性率(以下、特定しない限り、本明細書で「弾性率」とは引張弾性率を意味する。)は、通常、100000MPa~300000MPa程度であり、120000MPa~270000MPaであることが好ましく、150000MPa~250000MPaであることが更に好ましい。なお、金属コードの引張弾性率は、引張試験機にてZWICK型チャックを用いて応力-歪曲線を描き、その傾きから算出する。
【0024】
金属コード自体の破断伸び(引張破断伸び)は、通常、0.1%~15%程度であり、1%~15%が好ましく、1%~10%が更に好ましい。金属コードの引張破断伸びは、引張試験機にてZWICK型チャックを用いて応力-歪曲線を描き、歪から求めることができる。
【0025】
[樹脂層]
樹脂層は、ハードセグメントとソフトセグメントとを有する熱可塑性樹脂Aと、熱可塑性樹脂Aのハードセグメントと同種の構造単位からなる熱可塑性樹脂Bと、を含み、HS比率が60質量%以上75質量%未満である樹脂混合物から形成される。
【0026】
本明細書において樹脂混合物のHS比率は、樹脂混合物中のハードセグメント(HS)とソフトセグメント(SS)の合計に占めるHSの割合であり、下記式により計算される。ここで「樹脂混合物中のハードセグメント(HS)」は、熱可塑性樹脂Aにおけるハードセグメントと、熱可塑性樹脂Bにおける熱可塑性樹脂Aのハードセグメントと同種の構造単位の合計を意味する。
HS比率(質量%)={HS/(HS+SS)}×100
【0027】
樹脂混合物のHS比率は、例えば、核磁気共鳴(NMR)法により下記のようにして測定することができる。具体的には、NMR分析装置として日本電子製のAL400を用い、HFIP-d(1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロパノール-d)を溶媒として樹脂を20mg/2gで希釈溶解させたものを測定サンプルとし、室温中にてH-NMR測定を行うことで前記HS比率を測定することができる。
【0028】
樹脂混合物のHS比率は、60質量%以上75質量%未満であれば特に制限されないが、例えば、63質量%以上74.5質量%以下であってもよい。
【0029】
樹脂混合物が熱可塑性樹脂Aと熱可塑性樹脂Bとを含むか否かを確認する方法は、特に制限されない。例えば、熱分析、樹脂混合物断面の観察等の手法により行うことができる。
【0030】
良好な耐低温衝撃性を維持する観点からは、樹脂混合物は海島構造を有していることが好ましい。すなわち、熱可塑性樹脂Aと熱可塑性樹脂Bとが相溶せずに樹脂混合物中に存在していることが好ましい。
【0031】
本明細書において樹脂混合物が海島構造を有しているか否かは、島に相当する領域(ドメイン)の大きさによって判断する。具体的には、例えば、樹脂混合物の断面を原子間力顕微鏡(Atomic Force Micrometer、AFM)で観察したときに最大径が0.1μm以上であるドメインが観察される場合は海島構造を有していると判断する。
【0032】
樹脂混合物が有する海島構造は、熱可塑性樹脂Aを含むマトリックスと、熱可塑性樹脂Bを含むドメインとからなることが好ましい。この場合、弾性を有する熱可塑性樹脂A中に剛性の高い熱可塑性樹脂Bが分散した状態となり、良好な耐低温衝撃性が維持される傾向にある。
【0033】
樹脂混合物が有する海島構造は、ドメイン径が0.1μm~10μmであることが好ましく、0.1μm~5μmであることがより好ましく、0.1μm~1μmであることがさらに好ましい。本明細書において、ドメイン径は海島構造中に観察されるドメインの最大径の平均値とする。ドメインの最大径の平均値は、樹脂混合物の断面を原子間力顕微鏡AFMで観察したとき、任意に選択した100個のドメインの最大径の算術平均値とする。
【0034】
良好な耐低温衝撃性を維持する観点からは、樹脂混合物の粘弾性測定により得られるTanδ曲線がピークを2つ以上有することが好ましい。粘弾性測定により得られるTanδ曲線がピークを2つ以上有する場合は、2種以上の樹脂成分が相溶せずに樹脂混合物中に存在している(すなわち、海島構造を形成している)と判断できる。
【0035】
上記Tanδ曲線は、熱可塑性樹脂Aに由来するピークと、熱可塑性樹脂Bに由来するピークとを少なくとも有することが好ましい。粘弾性測定により得られるTanδ曲線が熱可塑性樹脂Aに由来するピークと、熱可塑性樹脂Bに由来するピークとを有する場合は、熱可塑性樹脂Aと熱可塑性樹脂Bとが相溶せずに樹脂混合物中に存在している(すなわち、海島構造を形成している)と判断できる。
【0036】
上記Tanδ曲線は、熱可塑性樹脂Aに由来するピークを低温側に、熱可塑性樹脂Bに由来するピークを高温側に有することが好ましい。
さらに、熱可塑性樹脂Aに由来するピークが-10℃以下の温度範囲に存在することが好ましい。熱可塑性樹脂Aに由来するピークが-10℃以下の温度範囲に存在していると、熱可塑性樹脂Aの剛性が高すぎず、良好な耐低温衝撃性が維持される傾向にある。熱可塑性樹脂Aに由来するピークが存在する温度範囲の下限は特に制限されないが、例えば、-60℃以上であることが好ましい。
熱可塑性樹脂Bに由来するピークが存在する温度範囲は特に制限されないが、例えば、45℃~150℃の温度範囲に存在することが好ましい。
【0037】
本明細書において粘弾性測定によるTanδ曲線は、例えば、幅6mm、長さ38mm、厚さ2mmの試験片に対し、TAインスツルメンツ社製の粘弾性測定装置(ARES-G2)を用いて、-100℃~150℃の範囲で歪0.28%、35Hzの条件にて、測定ギャップ20mmとしてトーション試験モードで実施して得られる。
【0038】
樹脂混合物は、熱可塑性樹脂A及び熱可塑性樹脂B以外の樹脂を含んでもよい。この場合、樹脂全体に占める熱可塑性樹脂Aと熱可塑性樹脂Bの合計の割合が70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがより好ましい。
【0039】
樹脂混合物の融点は、通常100℃~350℃程度であるが、タイヤの耐久性及び生産性の観点から、100℃~250℃程度が好ましく、120℃~250℃がより好ましい。
【0040】
樹脂混合物は、樹脂以外の他の成分を含んでもよい。他の成分としては、各種充填剤(例えば、シリカ、炭酸カルシウム、クレイ等)、老化防止剤、オイル、可塑剤、発色剤、耐候剤等が挙げられる。樹脂混合物が樹脂以外の成分を含む場合、その合計含有率は樹脂混合物全体の10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。
【0041】
金属樹脂複合部材において、樹脂層の厚みは特に制限されない。例えば、樹脂層の最小厚み(厚みが最も小さい部分の厚み)が50μm~600μmであることが好ましい。
【0042】
(熱可塑性樹脂A)
熱可塑性樹脂Aは、分子中にハードセグメントに相当する構造単位とソフトセグメントに相当する構造単位とを有するものであれば特に制限されない。本明細書において、例えば「ポリエステル系熱可塑性エラストマー」とは、ハードセグメントが主鎖にエステル結合を有する構造単位である熱可塑性エラストマーを意味する。その他の熱可塑性エラストマーについても同様である。樹脂混合物に含まれる熱可塑性樹脂Aは、1種のみでも2種以上であってもよい。
【0043】
良好な耐低温衝撃性とコーナリングパワーの向上とを両立する観点からは、熱可塑性樹脂Aはポリエステル系熱可塑性エラストマー(TPC)及びポリアミド系熱可塑性エラストマー(TPA)から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0044】
熱可塑性樹脂Aがポリエステル系熱可塑性エラストマーである場合、熱可塑性樹脂Aの例としては、ハードセグメントがポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンナフタレート(PBN)及びポリエチレンナフタレート(PEN)からなる群より選択される少なくとも1種であるものが挙げられる。この場合のソフトセグメントの種類は特に制限されず、ポリテトラメチレングリコール(PTMG)等の脂肪族ポリエーテル、脂肪族ポリエステルなどが挙げられる。
【0045】
熱可塑性樹脂Aとして使用可能な熱可塑性エラストマーとしては、ポリエステル系熱可塑性エラストマー(TPC)、ポリアミド系熱可塑性エラストマー(TPA)、オレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO等の熱可塑性エラストマーが挙げられる。熱可塑性エラストマーの定義及び分類については、JIS K6418:2007を参照することができる。熱可塑性樹脂Aとして使用可能な熱可塑性エラストマーの具体例を以下に記載する。
【0046】
(1)ポリエステル系熱可塑性エラストマー
ポリエステル系熱可塑性エラストマーとしては、例えば、少なくともポリエステルが結晶性で融点の高いハードセグメントを形成し、他のポリマー(例えば、ポリエステル又はポリエーテル等)が非晶性でガラス転移温度の低いソフトセグメントを形成している材料が挙げられる。
【0047】
ハードセグメントを形成するポリエステルとしては、芳香族ポリエステルが挙げられる。芳香族ポリエステルは、例えば、芳香族ジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体と脂肪族ジオールとから形成することができる。芳香族ポリエステルは、好ましくは、テレフタル酸及び/又はジメチルテレフタレートと、1,4-ブタンジオールとから誘導されるポリブチレンテレフタレートであり、更に、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレン-2,6-ジカルボン酸、ナフタレン-2,7-ジカルボン酸、ジフェニル-4,4’-ジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、5-スルホイソフタル酸、或いは、これらのエステル形成性誘導体等のジカルボン酸成分と、分子量300以下のジオール、例えば、エチレングリコール、トリメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、デカメチレングリコール等の脂肪族ジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメチロール等の脂環式ジオール、キシリレングリコール、ビス(p-ヒドロキシ)ジフェニル、ビス(p-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパン、ビス[4-(2-ヒドロキシ)フェニル]スルホン、1,1-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]シクロヘキサン、4,4’-ジヒドロキシ-p-ターフェニル、4,4’-ジヒドロキシ-p-クオーターフェニル等の芳香族ジオール等から誘導されるポリエステル、或いはこれらのジカルボン酸成分及びジオール成分を2種以上併用した共重合ポリエステルであってもよい。また、3官能以上の多官能カルボン酸成分、多官能オキシ酸成分、多官能ヒドロキシ成分等を5モル%以下の範囲で共重合することも可能である。
ハードセグメントを形成するポリエステルとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート等が挙げられ、ポリブチレンテレフタレートが好ましい。
【0048】
ソフトセグメントを形成するポリマーとしては、例えば、脂肪族ポリエステル、脂肪族ポリエーテル等が挙げられる。
脂肪族ポリエーテルとしては、ポリ(エチレンオキシド)グリコール、ポリ(プロピレンオキシド)グリコール、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリ(ヘキサメチレンオキシド)グリコール、エチレンオキシドとプロピレンオキシドとの共重合体、ポリ(プロピレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加重合体、エチレンオキシドとテトラヒドロフランとの共重合体等が挙げられる。
脂肪族ポリエステルとしては、ポリ(ε-カプロラクトン)、ポリエナントラクトン、ポリカプリロラクトン、ポリブチレンアジペート、ポリエチレンアジペート等が挙げられる。
これらの脂肪族ポリエーテル及び脂肪族ポリエステルの中でも、得られるポリエステルブロック共重合体の弾性特性の観点から、ソフトセグメントを形成するポリマーとしては、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリ(プロピレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加物、ポリ(ε-カプロラクトン)、ポリブチレンアジペート、ポリエチレンアジペート等が好ましい。
【0049】
ソフトセグメントを形成するポリマーの数平均分子量は、強靱性及び低温柔軟性の観点から、300~6000が好ましい。さらに、ハードセグメント(x)とソフトセグメント(y)との質量比(x:y)は、成形性の観点から、99:1~20:80が好ましく、98:2~30:70が更に好ましい。
【0050】
上述のハードセグメントとソフトセグメントとの組合せとしては、例えば、上述で挙げたハードセグメントとソフトセグメントとのそれぞれの組合せを挙げることができる。これらの中でも、上述のハードセグメントとソフトセグメントとの組合せとしては、ハードセグメントがポリブチレンテレフタレートであり、ソフトセグメントが脂肪族ポリエーテルである組み合わせが好ましく、ハードセグメントがポリブチレンテレフタレートであり、ソフトセグメントがポリ(エチレンオキシド)グリコールである組み合わせが更に好ましい。
【0051】
ポリエステル系熱可塑性エラストマーの市販品としては、例えば、東レ・デュポン(株)製の「ハイトレル」シリーズ(例えば、3046、5557、6347、4047、4767等)、東洋紡(株)製の「ペルプレン」シリーズ(例えば、P30B、P40B、P40H、P55B、P70B、P150B、P280B、P450B、P150M、S1001、S2001、S5001、S6001、S9001等)等を用いることができる。
【0052】
ポリエステル系熱可塑性エラストマーは、ハードセグメントを形成するポリマー及びソフトセグメントを形成するポリマーを公知の方法によって共重合することで合成することができる。
【0053】
(2)ポリアミド系熱可塑性エラストマー
ポリアミド系熱可塑性エラストマーとは、結晶性で融点の高いハードセグメントを形成するポリマーと非晶性でガラス転移温度の低いソフトセグメントを形成するポリマーとを有する共重合体からなる熱可塑性樹脂であって、ハードセグメントを形成するポリマーの主鎖にアミド結合(-CONH-)を有するものを意味する。
ポリアミド系熱可塑性エラストマーとしては、例えば、少なくともポリアミドが結晶性で融点の高いハードセグメントを形成し、他のポリマー(例えば、ポリエステル、ポリエーテル等)が非晶性でガラス転移温度の低いソフトセグメントを形成している材料が挙げられる。また、ポリアミド系熱可塑性エラストマーは、ハードセグメント及びソフトセグメントの他に、ジカルボン酸等の鎖長延長剤を用いて形成されてもよい。
ポリアミド系熱可塑性エラストマーとしては、具体的には、JIS K6418:2007に規定されるアミド系熱可塑性エラストマー(TPA)等や、特開2004-346273号公報に記載のポリアミド系エラストマー等を挙げることができる。
【0054】
ポリアミド系熱可塑性エラストマーにおいて、ハードセグメントを形成するポリアミドとしては、例えば、下記一般式(1)又は一般式(2)で表されるモノマーによって生成されるポリアミドを挙げることができる。
【0055】
【化1】


一般式(1)
【0056】
[一般式(1)中、Rは、炭素数2~20の炭化水素の分子鎖(例えば炭素数2~20のアルキレン基)を表す。]
【0057】
【化2】


一般式(2)
【0058】
[一般式(2)中、Rは、炭素数3~20の炭化水素の分子鎖(例えば炭素数3~20のアルキレン基)を表す。]
【0059】
一般式(1)中、Rとしては、炭素数3~18の炭化水素の分子鎖、例えば炭素数3~18のアルキレン基が好ましく、炭素数4~15の炭化水素の分子鎖、例えば炭素数4~15のアルキレン基が更に好ましく、炭素数10~15の炭化水素の分子鎖、例えば炭素数10~15のアルキレン基が特に好ましい。
また、一般式(2)中、Rとしては、炭素数3~18の炭化水素の分子鎖、例えば炭素数3~18のアルキレン基が好ましく、炭素数4~15の炭化水素の分子鎖、例えば炭素数4~15のアルキレン基が更に好ましく、炭素数10~15の炭化水素の分子鎖、例えば炭素数10~15のアルキレン基が特に好ましい。
一般式(1)又は一般式(2)で表されるモノマーとしては、ω-アミノカルボン酸又はラクタムが挙げられる。また、ハードセグメントを形成するポリアミドとしては、これらω-アミノカルボン酸又はラクタムの重縮合体、ジアミンとジカルボン酸との共縮重合体等が挙げられる。
【0060】
ω-アミノカルボン酸としては、6-アミノカプロン酸、7-アミノヘプタン酸、8-アミノオクタン酸、10-アミノカプリン酸、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸等の炭素数5~20の脂肪族ω-アミノカルボン酸等を挙げることができる。また、ラクタムとしては、ラウリルラクタム、ε-カプロラクタム、ウデカンラクタム、ω-エナントラクタム、2-ピロリドン等の炭素数5~20の脂肪族ラクタム等を挙げることができる。
ジアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、3-メチルペンタメチレンジアミン、メタキシレンジアミン等の炭素数2~20の脂肪族ジアミン等のジアミン化合物を挙げることができる。
ジカルボン酸は、HOOC-(R)m-COOH(R:炭素数3~20の炭化水素の分子鎖、m:0又は1)で表すことができ、例えば、シュウ酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸等の炭素数2~20の脂肪族ジカルボン酸を挙げることができる。
ハードセグメントを形成するポリアミドとしては、ラウリルラクタム、ε-カプロラクタム、又はウデカンラクタムを開環重縮合したポリアミドを好ましく用いることができる。
【0061】
ソフトセグメントを形成するポリマーとしては、例えば、ポリエステル、ポリエーテル等が挙げられ、具体的には、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ABA型トリブロックポリエーテル等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。また、ポリエーテルの末端にアンモニア等を反応させることによって得られるポリエーテルジアミン等も用いることができる。
ここで、「ABA型トリブロックポリエーテル」とは、下記一般式(3)に示されるポリエーテルを意味する。
【0062】
【化3】


一般式(3)
【0063】
[一般式(3)中、x及びzは、それぞれ独立に1~20の整数を表す。yは、4~50の整数を表す。]
【0064】
一般式(3)において、x及びzは、それぞれ独立に1~18の整数が好ましく、1~16の整数がより好ましく、1~14の整数が更に好ましく、1~12の整数が特に好ましい。また、一般式(3)において、yは、5~45の整数が好ましく、6~40の整数がより好ましく、7~35の整数が更に好ましく、8~30の整数が特に好ましい。
【0065】
ハードセグメントとソフトセグメントとの組合せとしては、上述で挙げたハードセグメントとソフトセグメントとのそれぞれの組合せを挙げることができる。これらの中でも、ハードセグメントとソフトセグメントとの組合せとしては、ラウリルラクタムの開環重縮合体/ポリエチレングリコールの組合せ、ラウリルラクタムの開環重縮合体/ポリプロピレングリコールの組合せ、ラウリルラクタムの開環重縮合体/ポリテトラメチレンエーテルグリコールの組合せ、又はラウリルラクタムの開環重縮合体/ABA型トリブロックポリエーテルの組合せが好ましく、ラウリルラクタムの開環重縮合体/ABA型トリブロックポリエーテルの組合せがより好ましい。
【0066】
ハードセグメントを形成するポリマー(ポリアミド)の数平均分子量は、溶融成形性の観点から、300~15000が好ましい。また、ソフトセグメントを形成するポリマーの数平均分子量としては、強靱性及び低温柔軟性の観点から、200~6000が好ましい。さらに、ハードセグメント(x)及びソフトセグメント(y)との質量比(x:y)は、成形性の観点から、50:50~90:10が好ましく、50:50~80:20がより好ましい。
【0067】
ポリアミド系熱可塑性エラストマーは、ハードセグメントを形成するポリマー及びソフトセグメントを形成するポリマーを公知の方法によって共重合することで合成することができる。
【0068】
ポリアミド系熱可塑性エラストマーの市販品としては、例えば、宇部興産(株)の「UBESTA XPA」シリーズ(例えば、XPA9063X1、XPA9055X1、XPA9048X2、XPA9048X1、XPA9040X1、XPA9040X2、XPA9044等)、ダイセル・エポニック(株)の「ベスタミド」シリーズ(例えば、E40-S3、E47-S1、E47-S3、E55-S1、E55-S3、EX9200、E50-R2等)等を用いることができる。
【0069】
(3)オレフィン系熱可塑性エラストマー
オレフィン系熱可塑性エラストマーとしては、例えば、少なくともポリオレフィンが結晶性で融点の高いハードセグメントを形成し、他のポリマー(例えば、他のポリオレフィン、ポリビニル化合物等)が非晶性でガラス転移温度の低いソフトセグメントを形成している材料が挙げられる。ハードセグメントを形成するポリオレフィンとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、アイソタクチックポリプロピレン、ポリブテン等が挙げられる。
オレフィン系熱可塑性エラストマーとしては、例えば、オレフィン-α-オレフィンランダム共重合体、オレフィンブロック共重合体等が挙げられ、具体的には、プロピレンブロック共重合体、エチレン-プロピレン共重合体、プロピレン-1-ヘキセン共重合体、プロピレン-4-メチル-1ペンテン共重合体、プロピレン-1-ブテン共重合体、エチレン-1-ヘキセン共重合体、エチレン-4-メチル-ペンテン共重合体、エチレン-1-ブテン共重合体、1-ブテン-1-ヘキセン共重合体、1-ブテン-4-メチル-ペンテン共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸メチル共重合体、エチレン-メタクリル酸エチル共重合体、エチレン-メタクリル酸ブチル共重合体、エチレン-メチルアクリレート共重合体、エチレン-エチルアクリレート共重合体、エチレン-ブチルアクリレート共重合体、プロピレン-メタクリル酸共重合体、プロピレン-メタクリル酸メチル共重合体、プロピレン-メタクリル酸エチル共重合体、プロピレン-メタクリル酸ブチル共重合体、プロピレン-メチルアクリレート共重合体、プロピレン-エチルアクリレート共重合体、プロピレン-ブチルアクリレート共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、プロピレン-酢酸ビニル共重合体等が挙げられる。
【0070】
これらの中でも、オレフィン系熱可塑性エラストマーとしては、プロピレンブロック共重合体、エチレン-プロピレン共重合体、プロピレン-1-ヘキセン共重合体、プロピレン-4-メチル-1ペンテン共重合体、プロピレン-1-ブテン共重合体、エチレン-1-ヘキセン共重合体、エチレン-4-メチル-ペンテン共重合体、エチレン-1-ブテン共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸メチル共重合体、エチレン-メタクリル酸エチル共重合体、エチレン-メタクリル酸ブチル共重合体、エチレン-メチルアクリレート共重合体、エチレン-エチルアクリレート共重合体、エチレン-ブチルアクリレート共重合体、プロピレン-メタクリル酸共重合体、プロピレン-メタクリル酸メチル共重合体、プロピレン-メタクリル酸エチル共重合体、プロピレン-メタクリル酸ブチル共重合体、プロピレン-メチルアクリレート共重合体、プロピレン-エチルアクリレート共重合体、プロピレン-ブチルアクリレート共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、及びプロピレン-酢酸ビニル共重合体から選ばれる少なくとも1種が好ましく、エチレン-プロピレン共重合体、プロピレン-1-ブテン共重合体、エチレン-1-ブテン共重合体、エチレン-メタクリル酸メチル共重合体、エチレン-メチルアクリレート共重合体、エチレン-エチルアクリレート共重合体、及びエチレン-ブチルアクリレート共重合体から選ばれる少なくとも1種が更に好ましい。
また、エチレンとプロピレンといったように2種以上のオレフィン樹脂を組み合わせて用いてもよい。また、オレフィン系熱可塑性エラストマー中のオレフィン樹脂含有率は、50質量%以上100質量%以下が好ましい。
【0071】
オレフィン系熱可塑性エラストマーの数平均分子量は、5000~10000000であることが好ましい。オレフィン系熱可塑性エラストマーの数平均分子量が5000~10000000であると、機械的物性が十分であり、加工性にも優れる。同様の観点から、オレフィン系熱可塑性エラストマーの数平均分子量は、7000~1000000であることがより好ましく、10000~1000000が更に好ましい。これにより、機械的物性及び加工性を更に向上させることができる。また、ソフトセグメントを形成するポリマーの数平均分子量としては、強靱性及び低温柔軟性の観点から、200~6000が好ましい。更に、ハードセグメント(x)及びソフトセグメント(y)との質量比(x:y)は、成形性の観点から、50:50~95:5が好ましく、50:50~90:10がより好ましい。
オレフィン系熱可塑性エラストマーは、公知の方法によって共重合することで合成することができる。
【0072】
オレフィン熱可塑性エラストマーとしては、熱可塑性エラストマーを酸変性してなるものを用いてもよい。
「オレフィン熱可塑性エラストマーを酸変性してなるもの」とは、オレフィン熱可塑性エラストマーに、カルボン酸基、硫酸基、燐酸基等の酸性基を有する不飽和化合物を結合させることをいう。
オレフィン熱可塑性エラストマーに、カルボン酸基、硫酸基、燐酸基等の酸性基を有する不飽和化合物を結合させることとしては、例えば、オレフィン系熱可塑性エラストマーに、酸性基を有する不飽和化合物として、不飽和カルボン酸(一般的には、無水マレイン酸)の不飽和結合部位を結合(例えば、グラフト重合)させることが挙げられる。
酸性基を有する不飽和化合物としては、オレフィン熱可塑性エラストマーの劣化抑制の観点からは、弱酸基であるカルボン酸基を有する不飽和化合物が好ましく、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、マレイン酸等が挙げられる。
【0073】
オレフィン系熱可塑性エラストマーの市販品としては、例えば、三井化学(株)製の「タフマー」シリーズ(例えば、A0550S、A1050S、A4050S、A1070S、A4070S、A35070S、A1085S、A4085S、A7090、A70090、MH7007、MH7010、XM-7070、XM-7080、BL4000、BL2481、BL3110、BL3450、P-0275、P-0375、P-0775、P-0180、P-0280、P-0480、P-0680等)、三井・デュポンポリケミカル(株)製の「ニュクレル」シリーズ(例えば、AN4214C、AN4225C、AN42115C、N0903HC、N0908C、AN42012C、N410、N1050H、N1108C、N1110H、N1207C、N1214、AN4221C、N1525、N1560、N0200H、AN4228C、AN4213C、N035C)等、「エルバロイAC」シリーズ(例えば、1125AC、1209AC、1218AC、1609AC、1820AC、1913AC、2112AC、2116AC、2615AC、2715AC、3117AC、3427AC、3717AC等)、住友化学(株)の「アクリフト」シリーズ、「エバテート」シリーズ等、東ソー(株)製の「ウルトラセン」シリーズ等、プライムポリマー製の「プライムTPO」シリーズ(例えば、E-2900H、F-3900H、E-2900、F-3900、J-5900、E-2910、F-3910、J-5910、E-2710、F-3710、J-5910、E-2740、F-3740、R110MP、R110E、T310E、M142E等)等も用いることができる。
【0074】
(熱可塑性樹脂B)
熱可塑性樹脂Bは、熱可塑性樹脂Aのハードセグメントと同種の構造単位からなるものであれば特に制限されない。本明細書において「熱可塑性樹脂Aのハードセグメントと同種の構造単位」とは、熱可塑性樹脂Aのハードセグメントに相当する構造単位の主鎖を構成する結合様式が同種である構造単位を意味する。例えば、熱可塑性樹脂Aのハードセグメントに相当する構造単位がポリエステルである場合は、熱可塑性樹脂Bはポリエステルとなる。樹脂混合物に含まれる熱可塑性樹脂Aは、1種のみでも2種以上であってもよい。
【0075】
タイヤ骨格体に対する良好な接着性を確保する観点からは、熱可塑性樹脂Aのハードセグメントと熱可塑性樹脂Bの構造は近いほど好ましい。例えば、熱可塑性樹脂Aのハードセグメントがポリブチレンテレフタレートである場合の熱可塑性樹脂Bとしてはポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリエチレンナフタレート等が好ましく、ポリブチレンテレフタレートがより好ましい。
【0076】
本明細書において熱可塑性樹脂Bが「熱可塑性樹脂Aのハードセグメントと同種の構造単位からなる」には、熱可塑性樹脂Aのハードセグメントと同種の構造単位のみからなる場合と、熱可塑性樹脂Bを構成する構造単位の80質量%以上、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上が熱可塑性樹脂Aのハードセグメントと同種の構造単位である場合の両方を意味する。熱可塑性樹脂Aのハードセグメントに相当する構造単位が2種以上である場合は、その中で比率が最も大きい構造単位と同種の構造単位からなるものを熱可塑性樹脂Bとする。
【0077】
熱可塑性樹脂Bとして使用可能な熱可塑性樹脂としては、上述した熱可塑性エラストマーのハードセグメントに相当する構造単位からなるポリエステル系熱可塑性樹脂、ポリアミド系熱可塑性樹脂、オレフィン系熱可塑性樹脂等の熱可塑性樹脂が挙げられる。熱可塑性樹脂Bとして使用可能な熱可塑性樹脂として、ポリエステル系熱可塑性樹脂、ポリアミド系熱可塑性樹脂及びオレフィン系熱可塑性樹脂の具体例を以下に記載する。
【0078】
(1)ポリエステル系熱可塑性樹脂
ポリエステル系熱可塑性樹脂としては、上述したポリエステル系熱可塑性エラストマーのハードセグメントを形成するポリエステルを挙げることができる。具体的には、ポリ乳酸、ポリヒドロキシ-3-ブチル酪酸、ポリヒドロキシ-3-ヘキシル酪酸、ポリ(ε-カプロラクトン)、ポリエナントラクトン、ポリカプリロラクトン、ポリブチレンアジペート、ポリエチレンアジペート等の脂肪族ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート等の芳香族ポリエステルなどを例示することができる。これらの中でも、耐熱性及び加工性の観点から、ポリエステル系熱可塑性樹脂は芳香族ポリエステルが好ましく、ポリブチレンテレフタレートがより好ましい。
【0079】
ポリエステル系熱可塑性樹脂の市販品としては、例えば、ポリプラスチックス(株)製の「ジュラネックス」シリーズ(例えば、201AC、2000、2002等)、三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製の「ノバデュラン」シリーズ(例えば、5010R5、5010R3-2等)、東レ(株)製の「トレコン」シリーズ(例えば、1401X06、1401X31等)等を用いることができる。
【0080】
(2)ポリアミド系熱可塑性樹脂
ポリアミド系熱可塑性樹脂としては、上述したポリアミド系熱可塑性エラストマーのハードセグメントを形成するポリアミドを挙げることができる。具体的には、ε-カプロラクタムを開環重縮合したポリアミド(アミド6)、ウンデカンラクタムを開環重縮合したポリアミド(アミド11)、ラウリルラクタムを開環重縮合したポリアミド(アミド12)、ジアミンと二塩基酸とを重縮合したポリアミド(アミド66)、メタキシレンジアミンを構成単位として有するポリアミド(アミドMX)等を例示することができる。
【0081】
アミド6は、例えば、{CO-(CH-NH}で表すことができる。アミド11は、例えば、{CO-(CH10-NH}で表すことができる。アミド12は、例えば、{CO-(CH11-NH}で表すことができる。アミド66は、例えば、{CO(CHCONH(CHNH}で表すことができる。アミドMXは、例えば、下記構造式(A-1)で表すことができる。ここで、nは繰り返し単位数を表す。
アミド6の市販品としては、例えば、宇部興産(株)製の「UBEナイロン」シリーズ(例えば、1022B、1011FB等)を用いることができる。アミド11の市販品としては、例えば、アルケマ(株)製の「Rilsan B」シリーズを用いることができる。アミド12の市販品としては、例えば、宇部興産(株)製の「UBEナイロン」シリーズ(例えば、3024U、3020U、3014U等)を用いることができる。アミド66の市販品としては、例えば、旭化成(株)製の「レオナ」シリーズ(例えば、1300S、1700S等)を用いることができる。アミドMXの市販品としては、例えば、三菱ガス化学(株)製の「MXナイロン」シリーズ(例えば、S6001、S6021、S6011等)を用いることができる。
【0082】
【化4】

【0083】
ポリアミド系熱可塑性樹脂は、上記の構成単位のみで形成されるホモポリマーであってもよく、上記の構成単位と他のモノマーとのコポリマーであってもよい。コポリマーの場合、各ポリアミド系熱可塑性樹脂における上記構成単位の含有率は、40質量%以上であることが好ましい。
【0084】
(3)オレフィン系熱可塑性樹脂
オレフィン系熱可塑性樹脂としては、上述したオレフィン系熱可塑性エラストマーのハードセグメントを形成するポリオレフィンを挙げることができる。具体的には、ポリエチレン系熱可塑性樹脂、ポリプロピレン系熱可塑性樹脂、ポリブタジエン系熱可塑性樹脂等を例示することができる。これらの中でも、耐熱性及び加工性の点からは、ポリプロピレン系熱可塑性樹脂が好ましい。
ポリプロピレン系熱可塑性樹脂の具体例としては、プロピレンホモ重合体、プロピレン-α-オレフィンランダム共重合体、プロピレン-α-オレフィンブロック共重合体等が挙げられる。α-オレフィンとしては、例えば、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセン等の炭素数3~20程度のα-オレフィン等が挙げられる。
【0085】
[接着層]
金属樹脂複合部材は、金属コードと樹脂層の間に接着層を備えていてもよい。接着層の材質は特に制限されない。例えば、熱可塑性樹脂(熱可塑性樹脂エラストマーを含む)が挙げられる。接着層を形成する熱可塑性樹脂は、1種のみでも2種以上であってもよい。
【0086】
樹脂層との接着性の観点からは、接着層を形成する熱可塑性樹脂は、樹脂層を形成する樹脂混合物に含まれる熱可塑性樹脂Aのハードセグメントと同種の構造単位を有する熱可塑性樹脂であることが好ましい。例えば、熱可塑性樹脂Aがポリエステル系熱可塑性エラストマーである場合は、接着層を形成する熱可塑性樹脂はポリエステル系熱可塑性エラストマー又はポリエステル系熱可塑性樹脂であることが好ましい。
【0087】
金属コードとの接着性の観点からは、接着層を形成する熱可塑性樹脂は官能基で変性されていることが好ましく、酸変性されていることがより好ましい。
【0088】
<タイヤ>
本開示のタイヤは、樹脂材料から形成される環状のタイヤ骨格体と、前記タイヤ骨格体の外周部に配置される上述した金属樹脂複合部材と、を備える。
【0089】
タイヤ骨格体を形成する樹脂材料の種類は、特に制限されない。例えば、上述した熱可塑性樹脂A及び熱可塑性樹脂Bとして例示した樹脂から選択してもよい。
金属樹脂複合部材の樹脂層とタイヤ骨格体との接合性の観点からは、タイヤ骨格体は、前記熱可塑性樹脂Aのハードセグメントと同種の構造単位を有する熱可塑性樹脂Cを含む樹脂材料から形成されることが好ましい。
【0090】
本明細書において「熱可塑性樹脂Aのハードセグメントと同種の構造単位を有する熱可塑性樹脂C」は、熱可塑性樹脂Aのハードセグメントと同種の構造単位のみを有する熱可塑性樹脂であっても、熱可塑性樹脂Aのハードセグメントと同種の構造単位と、これとは異なる構造単位とを有する熱可塑性樹脂であってもよい。樹脂材料に含まれる熱可塑性樹脂Cは、1種のみでも2種以上であってもよい。
【0091】
タイヤの走行性及び耐久性の観点からは、熱可塑性樹脂Cは、熱可塑性樹脂Aのハードセグメントと同種のハードセグメントを有する(すなわち、熱可塑性エラストマーである)ことが好ましい。従って、例えば、熱可塑性樹脂Aがポリエステル系熱可塑性エラストマーである場合は熱可塑性樹脂Cもポリエステル系熱可塑性エラストマーであることが好ましい。
【0092】
金属樹脂複合部材の樹脂層とタイヤ骨格体との接合性の観点からは、熱可塑性樹脂Aと熱可塑性樹脂Cの構造は近いほど好ましい。例えば、熱可塑性樹脂Aのハードセグメントがポリブチレンテレフタレートである場合の熱可塑性樹脂Cとしては、ハードセグメントがポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート等である熱可塑性エラストマーが好ましく、ハードセグメントがポリブチレンテレフタレートである熱可塑性エラストマーがより好ましい。
【0093】
タイヤ骨格体を形成する樹脂材料が熱可塑性樹脂Cを含む場合、樹脂成分全体に占める熱可塑性樹脂Cの割合が70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがより好ましい。
【0094】
タイヤの走行性及び耐久性の観点からは、熱可塑性樹脂Cが熱可塑性樹脂Aと同種のハードセグメントとソフトセグメントとを有し、タイヤ骨格体を形成する樹脂材料のHS比率は、金属樹脂複合部材の樹脂層を形成する樹脂混合物のHS比率よりも小さいことが好ましい。
【0095】
本明細書において樹脂材料のHS比率は、樹脂材料中のハードセグメント(HS)とソフトセグメント(SS)の合計に占めるHSの割合(質量%)であり、下記式により計算される。ここで「樹脂材料中のハードセグメント(HS)」は、熱可塑性樹脂Cにおけるハードセグメントを意味する。樹脂材料のHS比率は、上述した樹脂混合物のHS比率の測定と同様にして測定できる。
HS比率(質量%)={HS/(HS+SS)}×100
【0096】
樹脂材料の融点は特に制限されず、通常は100℃~350℃である。タイヤの耐久性及び生産性の観点からは、それぞれ100℃~250℃から選択されることが好ましく、120℃~250℃から選択されることがより好ましい。
【0097】
金属樹脂複合部材とタイヤ骨格体の接合性の観点からは、金属樹脂複合部材の樹脂層を形成する樹脂混合物と、タイヤ骨格体を形成する樹脂材料の融点の差は6℃以内であることが好ましく、3℃以内であることがより好ましい。
【0098】
本明細書において樹脂混合物の融点は、DSCにより測定される。樹脂混合物が融点を2以上有する場合は、樹脂混合物中の質量割合が最も大きい成分の融点を樹脂混合物の融点とする。後述するタイヤ骨格体を形成する樹脂材料の融点についても同様である。
【0099】
熱可塑性樹脂Cの種類は、「熱可塑性樹脂Aのハードセグメントと同種の構造単位を有する」という条件を満たすものであれば特に制限されない。例えば、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー等の熱可塑性エラストマーが挙げられる。さらに、これらの熱可塑性エラストマーのハードセグメントに相当する構造単位からなるポリエステル系熱可塑性樹脂、ポリアミド系熱可塑性樹脂、オレフィン系熱可塑性樹脂等の熱可塑性樹脂が挙げられる。
【0100】
熱可塑性樹脂Cとして使用可能な熱可塑性エラストマー及び熱可塑性樹脂の具体例としては、熱可塑性樹脂Aとして使用可能な熱可塑性エラストマー及び熱可塑性樹脂Bとして使用可能な熱可塑性樹脂として例示したものが挙げられる。
【0101】
樹脂材料は、樹脂以外の他の成分を含んでもよい。他の成分としては、各種充填剤(例えば、シリカ、炭酸カルシウム、クレイ等)、老化防止剤、オイル、可塑剤、発色剤、耐候剤等が挙げられる。樹脂材料が樹脂以外の成分を含む場合、その合計含有率は樹脂材料全体の10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。
【0102】
樹脂材料のJIS K7113:1995に規定される引張弾性率は、50MPa~1000MPaが好ましく、50MPa~800MPaがより好ましく、50MPa~700MPaが更に好ましい。樹脂材料の引張弾性率が、50MPa~1000MPaであると、タイヤ骨格の形状を保持しつつ、リム組みを効率的に行なうことができる。
【0103】
樹脂材料のJIS K7113(1995)に規定される引張強さは、通常、15MPa~70MPa程度であり、17MPa~60MPaが好ましく、20MPa~55MPaがより好ましい。
【0104】
樹脂材料のJIS K7113(1995)に規定される引張降伏強さは、5MPa以上が好ましく、5MPa~20MPaがより好ましく、5MPa~17MPaが更に好ましい。樹脂材料の引張降伏強さが、5MPa以上であると、走行時等にタイヤにかかる荷重に対する変形に耐えることができる。
【0105】
樹脂材料のJIS K7113(1995)に規定される引張降伏伸びは、10%以上が好ましく、10%~70%がより好ましく、15%~60%が更に好ましい。樹脂材料の引張降伏伸びが10%以上であると、弾性領域が大きく、リム組み性を良好にすることができる。
【0106】
樹脂材料のJIS K7113(1995)に規定される引張破断伸びは、50%以上が好ましく、100%以上がより好ましく、150%以上が更に好ましく、200%以上が最も好ましい。樹脂材料の引張破断伸びが50%以上であると、リム組み性が良好であり、衝突に対して破壊し難くすることができる。
【0107】
樹脂材料のISO 75-2又はASTM D648に規定される荷重たわみ温度(0.45MPa荷重時)は、50℃以上が好ましく、50℃~150℃がより好ましく、50℃~130℃が更に好ましい。樹脂材料の荷重たわみ温度が50℃以上であると、タイヤの製造において加硫を行う場合であってもタイヤ骨格体の変形を抑制するこができる。
【0108】
金属樹脂複合部材が金属コードと樹脂層との間に接着層を有する場合、タイヤ骨格体のマルテンス硬度(d1)、樹脂層のマルテンス硬度(d2)、及び接着層のマルテンス硬度(d3)が、d1≦d2<d3の関係を満たすことが好ましい。樹脂層のマルテンス硬度を、接着層のマルテンス硬度よりも小さく、かつ、タイヤ骨格体のマルテンス硬度よりも大きく又は同等に設定することで、タイヤ骨格体を構成する樹脂材料と金属部材との剛性段差が効果的に緩和される。その結果、タイヤの耐久性を更に向上させることができる。
【0109】
以下、図面を参照して本開示のタイヤの実施形態について説明する。
図1Aは、本実施形態のタイヤ10の一部の断面を示す斜視図である。図1Bは、本実施形態のタイヤ10をリムに装着したときのビード部の断面図である。図1Aに示すように、タイヤ10は、従来一般のゴム製の空気入りタイヤと略同様の断面形状を呈している。図1Aに示すように、タイヤ10は、図1Bに示すリム20のビードシート21およびリムフランジ22に接触する1対のビード部12と、ビード部12からタイヤ径方向外側に延びるサイド部14と、一方のサイド部14のタイヤ径方向外側端と他方のサイド部14のタイヤ径方向外側端とを連結するクラウン部16(外周部)と、からなるタイヤケース17を備えている。
【0110】
タイヤケース17は上述したタイヤ骨格体に相当し、上述した樹脂材料から形成されている。本実施形態においてタイヤケース17は、その全体が上述した樹脂材料で形成されているが、本開示はこの構成に限定されず、従来一般のゴム製の空気入りタイヤと同様に、タイヤケース17の各部位毎(サイド部14、クラウン部16、ビード部12など)に異なる樹脂材料を用いてもよい。また、タイヤケース17の各部位を補強するために、補強材(高分子材料や金属製の繊維、コード、不織布、織布等)を埋設配置してもよい。
【0111】
タイヤケース17は、タイヤケース17の周方向に沿ってトレッド幅を等分した状態の形状であるタイヤケース半体(タイヤ骨格片)を2つ作製し、これらをタイヤの赤道面部分で接合させて形成される。なお、タイヤケース17は、2つの部材を接合して形成するものに限らず、3以上の部材を接合して形成してもよい。
【0112】
タイヤケース半体は、例えば、真空成形、圧空成形、インジェクション成形、メルトキャスティング等の方法で作製できる。このため、従来のようにゴムでタイヤケースを成形する場合に比較して、加硫を行う必要がなく、製造工程を大幅に簡略化でき、成形時間を省略することができる。
【0113】
本実施形態において、図1Bに示すビード部12には、従来一般の空気入りタイヤと同様に、円環状のビードコア18が埋設されている。本実施形態ではビードコア18としてスチールコードを用いるが、有機繊維コード、樹脂層を周囲に有する有機繊維コード、硬質樹脂コード等を用いてもよい。なお、ビード部12の剛性が確保され、リム20との嵌合に問題がなければ、ビードコア18を省略することもできる。
【0114】
本実施形態では、ビード部12のリム20と接触する部分や、少なくともリム20のリムフランジ22と接触する部分には、タイヤケース17を構成する樹脂材料よりもシール性に優れた材料からなる円環状のシール層24が形成されている。シール層24は、タイヤケース17(ビード部12)とビードシート21とが接触する部分にも形成されていてよい。なお、タイヤケース17を構成する樹脂材料のみでリム20との間のシール性が確保できれば、シール層24は省略してもよい。タイヤケース17を構成する樹脂材料よりもシール性に優れた材料としては、タイヤケース17を構成する樹脂材料よりも軟質な材料、例えばゴム、樹脂材料よりも軟質な熱可塑性樹脂及び熱可塑性エラストマーが挙げられる。
【0115】
図1Aに示すように、クラウン部16には、金属樹脂複合部材に相当する補強コード26がタイヤケース17の周方向に巻回されている。補強コード26は、タイヤケース17の軸方向に沿った断面視で、少なくとも一部がクラウン部16に埋設された状態で螺旋状に巻回されており、補強コード層28を形成している。補強コード層28のタイヤ径方向外周側には、タイヤケース17を構成する樹脂材料よりも耐摩耗性に優れた材料、例えばゴムからなるトレッド30が配置されている。
【0116】
本実施形態では、図2に示すように、補強コード26はスチールコード等の金属部材26Aを被覆用樹脂(樹脂混合物)27で被覆した状態(被覆コード部材)である。補強コード26は、クラウン部16との接触部分において、溶接、接着剤による接着等の方法で接合されている。
【0117】
本実施形態では、図2に示すように、補強コード26は、断面形状が略台形状とされている。なお、以下では、補強コード26の上面(タイヤ径方向外側の面)を符号26Uで示し、下面(タイヤ径方向内側の面)を符号26Dで示す。また、本実施形態では、補強コード26の断面形状を略台形状とする構成としているが、本開示はこの構成に限定されず、断面形状が下面26D側(タイヤ径方向内側)から上面26U側(タイヤ径方向外側)へ向かって幅広となる形状を除いた形状であれば、いずれの形状でもよい。
【0118】
図2に示すように、補強コード26は、周方向に間隔をあけて配置されていることから、隣接する補強コード26との間に隙間28Aが形成されている。このため、補強コード層28の外周面は、凹凸を有する形状となり、この補強コード層28が外周部を構成するタイヤケース17の外周面17Sも凹凸を有する形状となっている。
【0119】
タイヤケース17の外周面17S(凹凸含む)には、微細な粗化凹凸96が形成され、その上に接合剤を介して、クッションゴム29が接合されている。クッションゴム29は、補強コード26との接触面において、粗化凹凸96を埋めるように流れ込んでいる。
【0120】
クッションゴム29の上(タイヤ外周面側)には、上述したトレッド30が接合されている。トレッド30には、従来のゴム製の空気入りタイヤと同様に、路面との接地面に複数の溝からなるトレッドパターン(図示省略)が形成されている。
【0121】
本実施形態のタイヤの製造方法は特に制限されない。例えば、下記のタイヤケース成型工程、補強コード部材巻回工程、粗化処理工程、積層工程及び加硫工程をこの順に実施することで製造してもよい。
【0122】
(タイヤケース成形工程)
まず、薄い金属の支持リングに支持されたタイヤケース半体同士を互いに向かい合わせる。次いで、タイヤケース半体の突き当て部分の外周面と接するように接合金型を設置する。接合金型は、タイヤケース半体の接合部(突き当て部分)周辺を所定の圧力で押圧するように構成されている。次いで、タイヤケース半体の接合部周辺を、補強コードの樹脂層とタイヤケースを形成する樹脂材料の融点以上の温度で押圧することで、接合部が溶融し、タイヤケース半体同士が融着して一体となり、タイヤケース17が形成される。
本実施形態では、接合金型を用いてタイヤケース半体の接合部を加熱したが、本開示はこれに限定されず、例えば、別に設けた高周波加熱機等によって接合部を加熱したり、予め熱風、赤外線の照射等によって軟化または溶融させ、接合金型によって加圧してタイヤケース半体を接合させてもよい。
【0123】
(補強コード部材巻回工程)
次に、補強コード26をタイヤケース17に巻回する巻回工程について、図3を用いて説明する。図3は、コード加熱装置、およびローラ類を用いてタイヤケース17のクラウン部に補強コード26を埋設する動作を説明するための説明図である。
図3において、コード供給装置56は、補強コード26を巻き付けたリール58と、リール58のコード搬送方向下流側に配置されたコード加熱装置59と、補強コード26の搬送方向下流側に配置された第1のローラ60と、第1のローラ60をタイヤ外周面に対して接離する方向に移動する第1のシリンダ装置62と、第1のローラ60の補強コード26の搬送方向下流側に配置される第2のローラ64と、第2のローラ64をタイヤ外周面に対して接離する方向に移動する第2のシリンダ装置66と、を備えている。第2のローラ64は、金属製の冷却用ローラとして利用することができる。
本実施形態において、第1のローラ60または第2のローラ64の表面は、溶融または軟化した被覆用樹脂27の付着を抑制するための処理(例えば、フッ素樹脂コーティング)が施されているが、ローラ自体を被覆用樹脂27が付着しにくい材料から形成してもよい。なお、本実施形態では、コード供給装置56は、第1のローラ60または第2のローラ64の2つのローラを有しているが、何れか一方のローラのみを有していてもよい。
【0124】
コード加熱装置59は、熱風を生じさせるヒーター70およびファン72を備えている。また、コード加熱装置59は、内部に熱風が供給される、内部空間を補強コード26が通過する加熱ボックス74と、加熱された補強コード26を排出する排出口76とを備えている。
【0125】
本工程においては、まず、コード加熱装置59のヒーター70の温度を上昇させ、ヒーター70で加熱された周囲の空気をファン72の回転によって生じる風で加熱ボックス74へ送る。次に、リール58から巻き出した補強コード26を、熱風で内部空間が加熱された加熱ボックス74内へ送り加熱する。加熱の温度は、補強コード26の被覆用樹脂27が溶融または軟化した状態となる温度に設定する。
【0126】
加熱された補強コード26は、排出口76を通り、図3の矢印R方向に回転するタイヤケース17のクラウン部16の外周面に一定のテンションをもって螺旋状に巻きつけられる。このとき、クラウン部16の外周面に、補強コード26の下面26Dが接触する。そして、加熱により溶融または軟化した状態の被覆用樹脂27がクラウン部16の外周面上に広がり、クラウン部16の外周面に補強コード26が溶着される。これにより、クラウン部16と補強コード26との接合強度が向上する。
【0127】
本実施形態では、上述のようにしてクラウン部16の外周面に補強コード26を接合したが、他の方法で接合を行ってもよい。例えば、補強コード26の一部又は全体がクラウン部16に埋設されるように接合を行ってもよい。
【0128】
(粗化処理工程)
次に、図示を省略するブラスト装置にて、タイヤケース17の外周面17Sに向け、タイヤケース17側を回転させながら、外周面17Sへ投射材を高速度で射出する。射出された投射材は、外周面17Sに衝突し、この外周面17Sに算術平均粗さRaが0.05mm以上となる微細な粗化凹凸96を形成する。タイヤケース17の外周面17Sに微細な粗化凹凸96が形成されることで、外周面17Sが親水性となり、後述する接合剤の濡れ性が向上する。
【0129】
(積層工程)
次に、粗化処理を行なったタイヤケース17の外周面17Sに、クッションゴム29を接合するための接合剤を塗布する。接合剤は特に制限されず、トリアジンチオール系接着剤、塩化ゴム系接着剤、フェノール系樹脂接着剤、イソシアネート系接着剤、ハロゲン化ゴム系接着剤、ゴム系接着剤等を用いることができるが、クッションゴム29が加硫できる温度(90℃~140℃)で反応するものであることが好ましい。
【0130】
次に、接合剤が塗布された外周面17Sに未加硫状態のクッションゴム29を1周分巻き付け、クッションゴム29の上にゴムセメント組成物等の接合剤を塗布する。次いで、接合剤が塗布されたクッションゴム29の上に加硫済みまたは半加硫状態のトレッドゴム30Aを1周分巻き付けて、生タイヤケースの状態とする。
【0131】
(加硫工程)
次に、生タイヤケースを加硫缶やモールドに収容して加硫する。このとき、粗化処理によってタイヤケース17の外周面17Sに形成された粗化凹凸96に未加硫のクッションゴム29が流れ込む。そして、加硫が完了すると、粗化凹凸96に流れ込んだクッションゴム29により、アンカー効果が発揮されて、タイヤケース17とクッションゴム29との接合強度が向上する。すなわち、クッションゴム29を介してタイヤケース17とトレッド30との接合強度が向上する。
【0132】
そして、タイヤケース17のビード部12に、上述したシール層24を接着剤等を用いて接着すれば、タイヤ10の完成となる。
【0133】
以上、実施形態を挙げて本開示の実施の形態を説明したが、これらの実施形態は一例であり、要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施できる。また、本開示の権利範囲がこれらの実施形態に限定されないことは言うまでもない。なお、本開示に適用可能な実施形態の詳細については、例えば、特開2012-46031号公報の記載を参照することができる。
【0134】
本開示には、以下に示す態様のタイヤ用金属樹脂複合体及びタイヤが含まれる。
<1>金属コードと樹脂層とを備え、前記樹脂層は、ハードセグメントとソフトセグメントとを有する熱可塑性樹脂Aと、前記熱可塑性樹脂Aの前記ハードセグメントと同種の構造単位からなる熱可塑性樹脂Bと、を含む樹脂混合物から形成され、前記樹脂混合物におけるハードセグメントの比率が60質量%以上75質量%未満である、タイヤ用金属樹脂複合部材。
<2>前記樹脂混合物は海島構造を有する、<1>に記載のタイヤ用金属樹脂複合部材。
<3>前記海島構造は熱可塑性樹脂Aを含むマトリックスと、熱可塑性樹脂Bを含むドメインとからなる、<2>に記載のタイヤ用金属樹脂複合部材。
<4>ドメイン径が0.1μm~10μmである、<2>又は<3>に記載のタイヤ用金属樹脂複合部材。
<5>前記樹脂混合物の粘弾性測定により得られるTanδ曲線がピークを2つ以上有する、<1>~<4>のいずれか1項に記載のタイヤ用金属樹脂複合部材。
<6>前記Tanδ曲線は、前記熱可塑性樹脂Aに由来するピークを低温側に、前記熱可塑性樹脂Bに由来するピークを高温側に有し、前記熱可塑性樹脂Aに由来するピークが-10℃以下の温度範囲に存在する、<5>に記載のタイヤ用金属樹脂複合部材。
<7>前記熱可塑性樹脂Aがポリエステル系熱可塑性エラストマー又はポリアミド系熱可塑性エラストマーである、<1>~<6>のいずれか1項に記載のタイヤ用金属樹脂複合部材。
<8>前記ハードセグメントがポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート及びポリエチレンナフタレートからなる群より選択される少なくとも1種である、<1>~<7>のいずれか1項に記載のタイヤ用金属樹脂複合部材。
<9>樹脂材料から形成される環状のタイヤ骨格体と、前記タイヤ骨格体の外周部に配置される<1>~<8>のいずれか1項に記載のタイヤ用金属樹脂複合部材と、を備える、タイヤ。
<10>前記タイヤ用金属樹脂複合部材は前記タイヤ骨格体の外周部に巻回されて配置される、<9>に記載のタイヤ。
【実施例
【0135】
以下、本開示について実施例を用いてより具体的に説明する。ただし、本開示はこれに限定されるものではない。
【0136】
以下に示す方法に従って実施例及び比較例のタイヤを作製し、評価を実施した。結果を表1に示す。
【0137】
(1)タイヤの作製
平均直径が1.15mmのマルチフィラメント(平均直径が0.35mmの5本のモノフィラメント(スチール製、強力:280N、伸度:3%)を撚った撚り線)の外周に、酸変性ポリエステル系熱可塑性エラストマー(三菱化学(株)の「プリマロイAP CQ730」を用いて接着層を形成する。次いで、接着層の上に押出機にて押し出した樹脂混合物により、最小厚みが400μmの樹脂層を形成し、冷却して金属樹脂複合部材を作製する。なお、実施例10のみ、樹脂層の最小厚みを100μmとする。
次いで、作製した金属樹脂複合部材を用いて、上述した実施形態に示すようなタイヤ骨格体の外周部に金属樹脂複合部材が配置された実施例及び比較例のタイヤ(タイヤサイズ:225/40R18)を公知の方法により作製する。
樹脂層は、表1、2に示す配合比(質量部)の樹脂を用いて形成する。表1、2に示す略称の詳細は、下記のとおりである。
【0138】
TPC1…ハードセグメントがPBTであり、ソフトセグメントがPTMGであるポリエステル系熱可塑性エラストマー(東レ・デュポン(株)の「ハイトレル5557」、HS比率:60.4質量%)
TPC2…ハードセグメントがPBTであり、ソフトセグメントがPTMGであるポリエステル系熱可塑性エラストマー(東レ・デュポン(株)の「ハイトレル4767N」、HS比率:47.6質量%)
TPC3…ハードセグメントがPBTであり、ソフトセグメントがPTMGであるポリエステル系熱可塑性エラストマー(東レ・デュポン(株)の「ハイトレル6347」、HS比率:75質量%)
TPC4…ポリエステル系熱可塑性エラストマー(東洋紡(株)の「ペルプレンP150B」)
【0139】
PBT1…PBT樹脂(東レ(株)の「トレコン1401X06」)
PBT2…PBT樹脂(ポリプラスチックス(株)の「ジュラネックス201AC」)
PBT3…PBT樹脂(三菱エンジニアリングプラスチックス(株)の「ノバデュラン5010R3-2」)
【0140】
SBR…エポキシ化熱可塑性エラストマー((株)ダイセルの「エポフレンドAT501」)
SEBS…水添スチレン系熱可塑性エラストマー(旭化成(株)の「タフテックM1913」)
【0141】
(2)HS比率、海島構造の有無、Tanδピークの数
樹脂層の形成に用いた樹脂(又は樹脂混合物)のHS比率を、上述した条件にてNMRによりそれぞれ測定する。さらに、海島構造の有無とドメイン径を、AFM(アジレントテクノロジー社製「SPM5500」)のACモードで樹脂切片を観察して位相像から確認する。さらに、Tanδピークの数を上述した方法により調べる。
【0142】
(3)耐低温衝撃性
耐低温衝撃性は、シャルピー衝撃試験(JIS K 7111-1:2012に準拠)の結果により評価した。具体的には、デジタル衝撃試験機(DG-UB型、(株)東洋精機製作所製)を用いて、衝撃ハンマー2Jの条件で-20℃、-30℃で試験を実施し、下記基準に従って評価する。
-30℃で破断せず…A
-20℃で破断せず、-30℃で破断する…B
-20℃で破断する…C
【0143】
(4)コーナリングパワー
空気圧:230kPa(相対圧)を適用したタイヤを、フラットベルト試験機上に配置して、走行速度80km/h相当にてタイヤを回転させた際のスリップアングル付与時の横力を測定することによりコーナリングパワーを評価する。具体的には、スリップアングルを0°としたときの横力と、スリップアングルを1°としたときの横力の差分をコーナリングパワーとし、比較例1のタイヤを100として指数で表示する。数値が大きい程、コーナリングパワーに優れていると評価できる。105以上をA、103~104をB、102以下をCとして、AおよびBを合格とする。
【0144】
(5)耐湿熱性(防錆性)
金属樹脂複合部材を80℃、90RH%の条件で3週間放置した後、(株)エー・アンド・デイ製の「TENSIRON RTF-1210」を用いて、室温環境(25℃)で引張速度100mm/minで180°剥離試験を行って、樹脂層が剥離したときの剥離力(単位:N)を測定し、下記基準に従って評価する。
樹脂層が剥離したときの剥離力が14N以上…A
樹脂層が剥離したときの剥離力が14N未満…B
【0145】
【表1】
【0146】
【表2】

【0147】
なお、表1、2に示す評価試験の結果において、実施例4~7及び比較例6のデータ、及び全ての実施例及び比較例のコーナリングパワーのデータは予測値であり、これら以外のデータは実際に試験を実施して得たデータである。
表1、2に示すように、樹脂層の形成に用いる樹脂混合物がポリエステル系熱可塑性エラストマー(TPC)とポリエステル系熱可塑性樹脂(PBT)を含み、かつHS比率が60mol以上75質量%未満である実施例は、耐低温衝撃性及びコーナリングパワーのいずれの評価も良好である。
実施例で用いた樹脂組成物の断面をAFMで観察したところ、PBTを含むドメインと、TPCを含むマトリックスとからなる海島構造が形成されている。また、粘弾性測定により得られるTanδ曲線はピークを2つ有し、かつ低温側のピーク(TPCに由来するピーク)が-20℃以下の範囲に存在している。
【0148】
樹脂層がPBTを含まない比較例1、3~10は、コーナリングパワーと耐低温衝撃性の少なくともいずれかの評価が実施例よりも低い。
比較例1、3~10で用いた樹脂組成物の断面をAFMで観察したところ、海島構造は形成されていない。また、粘弾性測定により得られるTanδ曲線はピークを1つのみ有している。
【0149】
樹脂層がTPCとPBTの両方を含むがHS比率が75質量%以上である比較例2は、コーナリングパワーに優れているが耐低温衝撃性の評価が低い。
樹脂層がTPCとPBTの両方を含むがHS比率が60質量%未満である比較例11は、耐低温衝撃性に優れているがコーナリングパワーの評価が低い。
【0150】
日本国特許出願第2017-206137号の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。本明細書に記載された全ての文献、特許出願、および技術規格は、個々の文献、特許出願、および技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。
図1A
図1B
図2
図3