(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-19
(45)【発行日】2022-10-27
(54)【発明の名称】酵母におけるポリケチドの生成のための方法及び細胞株
(51)【国際特許分類】
C12N 15/60 20060101AFI20221020BHJP
C12P 7/22 20060101ALI20221020BHJP
C12P 7/40 20060101ALI20221020BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20221020BHJP
C12N 9/88 20060101ALI20221020BHJP
【FI】
C12N15/60
C12P7/22 ZNA
C12P7/40
C12N1/19
C12N9/88
(21)【出願番号】P 2019565596
(86)(22)【出願日】2018-02-19
(86)【国際出願番号】 CA2018050190
(87)【国際公開番号】W WO2018148849
(87)【国際公開日】2018-08-23
【審査請求日】2021-02-19
(32)【優先日】2017-02-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】519298754
【氏名又は名称】ヒヤシンス・バイオロジカルス・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ショハム・ムカジー
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンダー・ジェームズ・キャンベル
(72)【発明者】
【氏名】ザカリー・ダグラス・ウィルトシャー
(72)【発明者】
【氏名】ケヴィン・ジョン・チェン
【審査官】中村 俊之
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2012/0122180(US,A1)
【文献】Zoller, M J, and M Smith,Nucleic Acids Research,Vol. 10, No. 20,1982年,p. 6487-6500
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00- 15/90
C12N 1/00- 7/08
C12P 1/00- 41/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリケチドを生成する方法であって、
キイロタマホコリカビ由来のDiPKSポリケチドシンターゼ酵素をコードする第1のポリヌクレオチドを含む酵母細胞を提供する工程であって、
ポリケチドシンターゼ酵素が、マロニル-CoAから少なくとも1つの種のポリケチドを生成するためのものであり、ポリケチドが、構造I:
【化1】
を有し、構造Iにおいて、R1が、ペンチル基であり、R2が、
Hであり、R3が、
Hである、工程と、
酵母細胞培養物をもたらすために前記酵母細胞を増殖させる工程と
を含み、
DiPKSポリケチドシンターゼ酵素が、少なくとも1つの種のポリケチドのメチル化を防止するために、DiPKSポリケチドシンターゼ酵素のC-Metドメインの活性部位における活性を低減する変異を含み、その結果、水素R2基及び水素R3基を有する少なくとも1つの種のポリケチドを生じ、
DiPKSポリケチドシンターゼは、DiPKS
G1516Rポリケチドシンターゼを含み、
第1のポリヌクレオチドは、配列番号10の塩基523から9966によって定義されるリーディングフレームによってコードされるタンパク
質の一次構造を有するDiPKS
G1516Rポリケチドシンターゼ酵
素のコード配列を含む、方法。
【請求項2】
酵母細胞が、DiPKSの活性を増加させるために、ホスホパンテテイニルトランスフェラーゼ酵素をコードする第2のポリヌクレオチドを
含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ポリケチドシンターゼ酵素は、より長鎖のケチル-CoAを用いずにマロニル-CoAから少なくとも1つの種のポリケチドを合成するための活性部位を
含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
酵母細胞が、利用可能なマロニル-CoAを増加させる遺伝子改変を含む、請求項1か
ら3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
遺伝子改変が、Maf1の発現の増加を
含む、請求
項4に記載の方法。
【請求項6】
遺伝子改変が、アルデヒドデヒドロゲナーゼ及びアセチル-CoAシンターゼの細胞質発現を
含む、請求
項4に記載の方法。
【請求項7】
遺伝子改変が、マロニル-CoAシンターゼの発現の増加を
含む、請求
項4に記載の方法。
【請求項8】
遺伝子改変が、ステロール生合成の活性化因子の発現の増加を
含む、請求
項4に記載の方法。
【請求項9】
酵母細胞培養物から少なくとも1つの種のポリケチドを抽出する工程を更に含む、請求項1か
ら8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
少なくとも1つの種のポリケチドを生成するための酵母細胞であって、
請求項1又は3で規定されるポリケチドシンターゼ酵素をコードする第1のポリヌクレオチ
ドを含む、酵母細胞。
【請求項11】
請求項2で規定される第2のポリヌクレオチド及び/又は請求項4から8のいずれか一項で規定される遺伝子改変を更に含む、請求項10に記載の酵母細胞。
【請求項12】
少なくとも1つの種のポリケチドの生成のために酵母細胞を形質転換する方法であって、
請求項1又は3で規定されるポリケチドシンターゼ酵素をコードする第1のポリヌクレオチドを酵母細胞株へと導入する工程を
含む、方法。
【請求項13】
請求項2で規定される第2のポリヌクレオチド又は請求項4から8のいずれか一項で規定される遺伝子改変を導入する工程を更に含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
配列番号10の塩基523から9966によって定義されるリーディングフレームによってコードされるタンパク
質の一次構造を有する、DiPKS
G1516Rポリケチドシンターゼのコード配列を含むポリヌクレオチド。
【請求項15】
配列番号10の塩基523から9966によって定義されるリーディングフレームによってコードされるタンパク
質の一次構造を有するDiPKS
G1516Rポリケチドシンターゼ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
この出願は、参照によりその全体が本出願に組み込まれる、2017年2月17日に出願された、酵母における植物性カンナビノイドの生成のための方法及び細胞株と題される、米国仮特許出願第62/460,526号の優先権の利益を主張する。
【0002】
本開示は、一般的に、酵母におけるポリケチドの生成に関する。
【背景技術】
【0003】
ポリケチドは、植物における多くの貴重な二次的代謝物に対する前駆体である。例えば、アサ(Cannabis sativa)、他の植物、及び一部の真菌において天然に生成される植物性カンナビノイドは、かなりの商業的価値を有する。105種を超える植物性カンナビノイドが、アサにおいて生合成されるか、又はアサにおいて生合成された植物性カンナビノイドからの熱分解若しくは他の分解により生じることが知られている。アサ植物は、穀物、繊維、及び他の材料の貴重な供給源でもあるが、一方、特に、室内で、植物性カンナビノイドを生成するためにアサを生育させることは、エネルギー及び労力の点で高価である。次に、アサ植物から植物性カンナビノイドを抽出、精製、及び分画化することは、労力及びエネルギー集約的でもある。
【0004】
植物性カンナビノイドは、アサの医学的作用及び向精神性作用に寄与する薬理学的に活性な分子である。アサにおける植物性カンナビノイドの生合成の規模は、他の農業プロジェクトと同様である。他の農業プロジェクトと同様に、アサを生育させることによる植物性カンナビノイドの大規模生成には、様々な投入(例えば、栄養、光、有害生物防除、CO2等)が必要とされる。アサを栽培するために必要とされる投入は、提供されなければならない。更に、許可される場合、アサの栽培は、現在、植物から調製される生成物が商業的使用を目的とする場合、重い規制、税、及び厳しい品質管理の対象であり、費用はますます増加している。植物性カンナビノイドアナログは、構造上、植物性カンナビノイドに類似する薬理学的に活性な分子である。植物性カンナビノイドアナログは、化学的に合成されることが多く、労力集約的であり高価である可能性がある。結果として、ロバスト且つスケーラブルな発酵性生物において植物性カンナビノイド及び植物性カンナビノイドアナログを生成することが経済的となり得る。サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)は、工業的規模の同様の分子を生成するために使用される発酵性生物の一例である。
【0005】
天然に存在する植物性カンナビノイドの生成のためにアサを生育させるのに関わる時間、エネルギー、及び労力によって、他の手段で植物性カンナビノイドを生成するためにトランスジェニック細胞株を生成する動機付けが与えられる。オリベトール酸及びそのアナログを含むポリケチドは、植物性カンナビノイドの貴重な前駆体である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Gietz、R. D.及びSchiestl、R. H.、「High-efficiency yeast transformation using LiAc/SS carrier DNA/PEG method.」 Nat. Protoc. 2、31~34(2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
アサ植物の外側で植物性カンナビノイドを生成するための以前の手法、及び植物性カンナビノイドアナログを生成するための以前の手法のうちの少なくとも1つの不利益を取り除くか又は軽減することが、本開示の目的である。アサにおいて発見された105種の植物性カンナビノイドの多くは、オリベトール酸又はオリベトールから生合成することができる。植物性カンナビノイド及びそれらのアナログは、オリベトール及び他の試薬から化学的に合成することもできる。オリベトール及びオリベトール酸は、さらに、医薬製品又は栄養製品の開発において使用されてもよい。結果として、オリベトール、オリベトール酸又はオリベトール若しくはオリベトール酸のいずれかのアナログの酵母に基づく生産を改良することが望ましい場合がある。同様に、労力集約的合成の必要のない植物性カンナビノイドアナログの生成を可能にする手法が望ましい場合がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明において提供される方法及び細胞株は、キイロタマホコリカビ(Dictyostelium discoideum)のポリケチドシンターゼ(「DiPKS」)の遺伝子を含むように形質転換されたサッカロマイセス・セレビシエを適用し、これを含む。DiPKSは、I型脂肪酸シンターゼ(「FAS」)とポリケチドシンターゼ(「PKS」)の両方からなる融合タンパク質であり、ハイブリッド「FAS-PKS」タンパク質と称される。DiPKSは、マロニル-CoAからのメチル-オリベトールの合成を触媒する。この反応は、マロニル-CoA対メチル-オリベトールの6:1の化学量論比を有する。下流のプレニルトランスフェラーゼ酵素は、オリベトール酸及びGPPからのカンナビゲロール酸(「CBGa」)の合成と同様に、メチル-オリベトール及びゲラニルピロリン酸(「GPP」)からのメチルカンナビゲロール(「meCBG」)の合成を触媒する。ヘキサン酸は、S.セレビシエに対して毒性である。ヘキサノイル-CoAは、アサのオリベトール酸シンターゼ(「OAS」)によるオリベトールの合成のための前駆体である。結果として、OASよりもむしろDiPKSを使用する場合、ヘキサン酸を増殖培地に添加する必要はなく、S.セレビシエ培養物の増殖の増加及びOASを使用する場合のCBGの収率と比較したmeCBGの収率の増大がもたらされ得る。さらに、アサでは、オリベトールは、オリベトール酸シクラーゼ(「OAC」)又は別のポリケチドシクラーゼの存在下でカルボキシル化されてオリベトール酸となり、膜結合性プレニルトランスフェラーゼによってアサにおいて触媒されるオリベトール酸のプレニル化から始まる、CBGa合成代謝経路へと送り込まれる。オリベトール酸よりもむしろオリベトール又はメチル-オリベトールを生成するという選択によって、植物性カンナビノイドの脱炭酸種及び植物性カンナビノイドのメチル化アナログの調製が容易になる場合がある。
【0009】
一部の適用では、meCBG及びmeCBGから合成され得るメチル化された下流の植物性カンナビノイドアナログ(アサにおいてCBGaから合成される下流の植物性カンナビノイドと同様に)は、貴重であり得る。他の場合では、天然に存在する植物性カンナビノイドの脱炭酸形態と構造上同一である植物性カンナビノイドがより望ましい場合がある。天然に存在する植物性カンナビノイドの脱炭酸形態と構造上同一である植物性カンナビノイドの生成のために、DiPKSが、野生型DiPKSに対して改変され、オリベトールのメチル化を低減し、その結果、オリベトールとメチル-オリベトールのいずれか又は両方の合成がもたらされる。
【0010】
オリベトール及びメチルオリベトールの合成は、細胞質におけるマロニル-CoAのレベルを増加させることによって促進されてもよい。S.セレビシエは、ネイティブアセトアルデヒドデヒドロゲナーゼの過剰発現及び変異体アセチル-CoAシンターゼ又はその変異がミトコンドリアのアセトアルデヒド異化を低下させる他の遺伝子の発現を有してもよい。アセトアルデヒドをアセチル-CoA生成へと転換することによってミトコンドリアのアセトアルデヒド異化を低下させることにより、オリベトールを合成するのに利用可能なマロニル-CoAが増加する。Acc1は、ネイティブ酵母マロニルCoAシンターゼである。S.セレビシエは、Acc1の過剰発現又は活性が増加し且つ利用可能なマロニル-CoAが増加したAcc1の改変を有してもよい。S.セレビシエは、Maf1又はtRNA生合成の他の調節因子の改変された発現を含んでもよい。ネイティブMaf1を過剰発現することにより、tRNA生合成に対するイソペンチルピロリン酸(「IPP」)の損失が低減し、それによって、酵母におけるモノテルペン収率が改善されることが示された。IPPは、メバロン酸経路における中間体である。Upc2は、S.セレビシエにおけるステロール生合成の活性化因子であり、Upc2のGlu888Asp変異は、酵母におけるモノテルペン生成を増加させる場合がある。S.セレビシエは、DiPKSの活性を増加させるために補因子担持酵素を含んでもよい。ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)、クルイウェロマイセス・マルキシアヌス(Kluyveromyces marxianus)、クルイウェロマイセス・ラクティス(Kluyveromyces lactis)、ロドスポリジウム・トルロイデス(Rhodosporidium toruloides)、クリプトコッカス・カルバタス(Cryptococcus curvatus)、トリコスポロン・プルランス(Trichosporon pullulan)及びリポマイセス・リポフェラス(Lipomyces lipoferetc)を含む他の種の酵母を適用してもよい。
【0011】
第1の態様では、本明細書において、酵母においてポリケチドを生成するための方法及び細胞株が提供される。この方法は、ポリケチドシンターゼコード配列で形質転換された酵母細胞を適用し、細胞株はこの細胞を含む。ポリケチドシンターゼ酵素は、オリベトール又はメチル-オリベトールの合成を触媒し、キイロタマホコリカビのポリケチドシンターゼ(「DiPKS」)を含んでもよい。野生型DiPKSは、メチル-オリベトールのみを生成する。DiPKSは、オリベトールのみ又はオリベトールとメチル-オリベトールの両方の混合物を生成するように改変することができる。酵母細胞は、DiPKSの活性を増加させるために、ホスホパンテチエニルトランスフェラーゼを含むように改変することができる。酵母細胞は、オリベトール又はメチル-オリベトールを合成するために利用可能なマロニル-CoAを増加させるために、ミトコンドリアのアセトアルデヒド異化を軽減するように改変することができる。
【0012】
さらなる態様では、本明細書において、ポリケチドを生成する方法であって、ポリケチドシンターゼ酵素をコードする第1のポリヌクレオチドを含む酵母細胞を提供する工程と、酵母細胞培養物をもたらすために酵母細胞を増殖させる工程とを含む、方法が提供される。Tポリケチドシンターゼ酵素は、マロニル-CoAから少なくとも1つの種のポリケチドを生成するためのものであり、ポリケチドは、構造I:
【0013】
【0014】
を有する。構造Iにおいて、R1は、ペンチル基である。構造Iにおいて、R2は、H、カルボキシル、又はメチルである。構造Iにおいて、R3は、H、カルボキシル、又はメチルである。
【0015】
一部の実施形態では、ポリケチドシンターゼ酵素は、キイロタマホコリカビ由来のDiPKSポリケチドシンターゼ酵素を含む。一部の実施形態では、第1のポリヌクレオチドは、配列番号13の塩基535から9978によって定義されるリーディングフレームによってコードされるタンパク質と80%から100%の間のアミノ酸残基配列相同性を有する一次構造を有するDiPKSポリケチドシンターゼ酵素に関するコード配列を含む。一部の実施形態では、第1のポリヌクレオチドは、配列番号13の塩基535から9978と80%から100%の間の塩基配列相同性を有する。一部の実施形態では、少なくとも1つの種のポリケチドは、R2においてメチル基を有するポリケチドを含む。一部の実施形態では、DiPKSポリケチドシンターゼ酵素は、少なくとも1つの種のポリケチドのメチル化を軽減するためにC-Metドメインの活性部位に影響を及ぼす変異を含み、その結果、R2がメチルであり、R3がHである第1のポリケチド、及びR2がHであり、R3がHである第2のポリケチドを含む少なくとも1つの種のポリケチドを生じる。一部の実施形態では、DiPKSポリケチドシンターゼは、DiPKSG1516D; G1518Aポリケチドシンターゼを含む。一部の実施形態では、第1のポリヌクレオチドは、配列番号9の塩基523から9966によって定義されるリーディングフレームによってコードされるタンパク質と80%から100%の間のアミノ酸残基配列相同性を有する一次構造を有するDiPKSG1516D; G1518Aポリケチドシンターゼ酵素に関するコード配列を含む。一部の実施形態では、第1のポリヌクレオチドは、配列番号9の塩基523から9966と80%から100%の間の塩基配列相同性を有する。一部の実施形態では、DiPKSポリケチドシンターゼは、DiPKSG1516Rポリケチドシンターゼを含む。一部の実施形態では、第1のポリヌクレオチドは、配列番号10の塩基523から9966によって定義されるリーディングフレームによってコードされるタンパク質と80%から100%の間のアミノ酸残基配列相同性を有する一次構造を有するDiPKSG1516Rポリケチドシンターゼ酵素に関するコード配列を含む。一部の実施形態では、第1のポリヌクレオチドは、配列番号10の塩基523から9966と80%から100%の間の塩基配列相同性を有する。一部の実施形態では、DiPKSポリケチドシンターゼ酵素は、少なくとも1つの種のポリケチドのメチル化を防止するために、DiPKSポリケチドシンターゼ酵素のC-Metドメインの活性部位における活性を低減する変異を含み、その結果、水素R2基及び水素R3基を有する少なくとも1つの種のポリケチドを生じる。一部の実施形態では、酵母細胞は、DiPKSの活性を増加させるために、ホスホパンテテイニルトランスフェラーゼ酵素をコードするホスホパンテテイニルトランスフェラーゼポリヌクレオチドを含む。一部の実施形態では、ホスホパンテテイニルトランスフェラーゼは、A.ニデュランス(A. nidulans)由来のNpgAホスホパンテテイニルトランスフェラーゼ酵素を含む。一部の実施形態では、ホスホパンテテイニルトランスフェラーゼポリヌクレオチドは、配列番号8の塩基1170から2201によって定義されるリーディングフレームによってコードされるタンパク質と80%から100%の間のアミノ酸残基配列相同性を有する一次構造を有するA.ニデュランス由来のNpgAホスホパンテテイニルトランスフェラーゼ酵素に関するコード配列を含む。一部の実施形態では、ホスホパンテテイニルトランスフェラーゼポリヌクレオチドは、配列番号8の塩基1170から2201と80%から100%の間の塩基配列相同性を有する。
【0016】
一部の実施形態では、ポリケチドシンターゼ酵素は、より長鎖のケチル-CoAを用いずにマロニル-CoAから少なくとも1つの種のポリケチドを合成するための活性部位を含む。一部の実施形態では、少なくとも1つの種のポリケチドは、オリベトール、オリベトール酸、メチル-オリベトール、又はメチル-オリベトール酸のうちの少なくとも1つを含む。
【0017】
一部の実施形態では、R2は、Hであり、R3は、Hである。
【0018】
一部の実施形態では、R2は、カルボキシルであり、R3は、Hである。
【0019】
一部の実施形態では、R2は、メチルであり、R3は、Hである。
【0020】
一部の実施形態では、R2は、カルボキシルであり、R3は、メチルである。
【0021】
一部の実施形態では、酵母細胞は、利用可能なマロニル-CoAを増加させる遺伝子改変を含む。一部の実施形態では、遺伝子改変は、Maf1の発現の増加を含む。一部の実施形態では、酵母細胞は、配列番号6の塩基936から2123によって定義されるリーディングフレームによってコードされるタンパク質と80%から100%の間のアミノ酸残基配列相同性を有する一次構造を有するMaf1に関するコード配列を含むMaf1ポリヌクレオチドを含む。一部の実施形態では、Maf1ポリヌクレオチドは、プロモーター配列、ターミネーター配列及び組み込み配列を更に含み、配列番号6と80%から100%の間の塩基配列相同性を有する。一部の実施形態では、遺伝子改変は、アルデヒドデヒドロゲナーゼ及びアセチル-CoAシンターゼの細胞質発現を含む。一部の実施形態では、酵母細胞は、配列番号2の塩基3938から5893によって定義されるリーディングフレームによってコードされるタンパク質と80%から100%の間のアミノ酸残基配列相同性を有する一次構造を有するS.エンテリカ(S. enterica)由来のAcsL641Pに関するコード配列、及び配列番号2の塩基1494から2999によって定義されるリーディングフレームによってコードされるタンパク質と80%から100%の間のアミノ酸残基配列相同性を有する一次構造を有するS.セレビシエ由来のAld6に関するコード配列を含むAcsポリヌクレオチドを含む。一部の実施形態では、Acsポリヌクレオチドは、プロモーター配列、ターミネーター配列及び組み込み配列を更に含み、配列番号2の塩基51から7114と80%から100%の間の塩基配列相同性を有する。一部の実施形態では、遺伝子改変は、発現の増加したマロニル-CoAシンターゼを含む。一部の実施形態では、酵母細胞は、S.セレビシエ由来のAcc1S659A; S1157
に関するコード配列を含むAcc1ポリヌクレオチドを含む。一部の実施形態では、Acc1ポリヌクレオチドは、Acc1S659A; S1157
酵素に関するコード配列を含み、該酵素の一部が、配列番号5の塩基9から1716によって定義されるリーディングフレームによってコードされるタンパク質部分と80%から100%の間のアミノ酸残基配列相同性を有する一次構造を有する。一部の実施形態では、Acc1ポリヌクレオチドは、プロモーター配列、ターミネーター配列及び組み込み配列を更に含み、配列番号5と80%から100%の間の塩基配列相同性を有する。一部の実施形態では、遺伝子改変は、ステロール生合成の活性化因子の発現の増加を含む。一部の実施形態では、酵母細胞は、配列番号7の塩基975から3701によって定義されるリーディングフレームによってコードされるタンパク質と80%から100%の間のアミノ酸残基配列相同性を有する一次構造を有するS.セレビシエ由来のUpc2E888Dに関するコード配列を含むUpc2ポリヌクレオチドを含む。一部の実施形態では、Upc2ポリヌクレオチドは、プロモーター配列、ターミネーター配列及び組み込み配列を更に含み、配列番号7と80%から100%の間の塩基配列相同性を有する。
【0022】
一部の実施形態では、方法は、酵母細胞培養物から少なくとも1つの種のポリケチドを抽出する工程を含む。
【0023】
さらなる態様では、本明細書において、少なくとも1つの種のポリケチドを生成するための酵母細胞が提供される。酵母細胞は、ポリケチドシンターゼ酵素をコードする第1のポリヌクレオチドを含む。
【0024】
一部の実施形態では、本明細書に記載の酵母細胞、第1のポリヌクレオチド、又はホスホパンテテイニルトランスフェラーゼポリヌクレオチドのうちの1つ又は複数についての特徴が、酵母細胞中に含まれる。
【0025】
さらなる態様では、本明細書において、少なくとも1つの種のポリケチドの生成のために酵母細胞を形質転換する方法であって、ポリケチドシンターゼ酵素をコードする第1のポリヌクレオチドを酵母細胞株へと導入する工程を含む、方法が提供される。
【0026】
一部の実施形態では、本明細書に記載の酵母細胞、第1のポリヌクレオチド、又はホスホパンテテイニルトランスフェラーゼポリヌクレオチドのうちの1つ又は複数についての特徴が、酵母細胞へと導入される。
【0027】
さらなる態様では、本明細書において、ポリケチドを生成する方法であって、ポリケチドシンターゼ酵素をコードする第1のポリヌクレオチドを含む酵母細胞を提供する工程と、酵母細胞培養物をもたらすために酵母細胞を増殖させる工程とを含む、方法が提供される。ポリケチドシンターゼ酵素は、マロニル-CoAから、少なくとも1つの種の、構造II:
【0028】
【0029】
を有するポリケチドを生成するためのものである。構造IIにおいて、R1は、1、2、3、4又は5個の炭素を有するアルキル基である。構造IIにおいて、R2は、H、カルボキシル、又はメチルである。構造IIにおいて、R3は、H、カルボキシル、又はメチルである。
【0030】
一部の実施形態では、本明細書に記載の酵母細胞、第1のポリヌクレオチド、又はホスホパンテテイニルトランスフェラーゼポリヌクレオチドのうちの1つ又は複数についての特徴が、この方法に適用される。
【0031】
さらなる態様では、本明細書において、DiPKSG1516D; G1518Aポリケチドシンターゼに関するコード配列を含むポリヌクレオチドが提供される。一部の実施形態では、DiPKSG1516D; G1518Aポリケチドシンターゼ酵素が、配列番号9の塩基523から9966によって定義されるリーディングフレームによってコードされるタンパク質と80%から100%の間のアミノ酸残基配列相同性を有する一次構造を有する、請求項45に記載のポリヌクレオチド。一部の実施形態では、ポリヌクレオチドは、配列番号9の塩基523から9966と80%から100%の間の塩基配列相同性を有する。
【0032】
さらなる態様では、本明細書において、DiPKSG1516Rポリケチドシンターゼに関するコード配列を含むポリヌクレオチドが提供される。一部の実施形態では、DiPKSG1516Rポリケチドシンターゼ酵素は、配列番号10の塩基523から9966によって定義されるリーディングフレームによってコードされるタンパク質と80%から100%の間のアミノ酸残基配列相同性を有する一次構造を有する。一部の実施形態では、ポリヌクレオチドは、配列番号10の塩基523から9966と80%から100%の間の塩基配列相同性を有する。
【0033】
さらなる態様では、本明細書において、配列番号9の塩基523から9966によって定義されるリーディングフレームによってコードされるタンパク質と80%から100%の間のアミノ酸残基配列相同性を有する一次構造を有するDiPKSG1516D; G1518Aポリケチドシンターゼが提供される。
【0034】
さらなる態様では、本明細書において、配列番号10の塩基523から9966によって定義されるリーディングフレームによってコードされるタンパク質と80%から100%の間のアミノ酸残基配列相同性を有する一次構造を有するDiPKSG1516Rポリケチドシンターゼが提供される。
【0035】
本開示の他の態様及び特徴は、添付の図面と併せて、具体的実施形態についての以下の説明を鑑みて、当業者にとって明らかとなるであろう。
【0036】
本開示の実施形態を、ここで、ほんの一例として、添付の図面を参照して説明する。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】アサにおけるオリベトール酸と異なるアルキル鎖長を有する関連化合物との生合成の概略図である。
【
図2】アサにおけるヘキサン酸、マロニル-CoA、及びゲラニルピロリン酸からのCBGaの生合成の概略図である。
【
図3】アサにおけるCBGaからの酸性形態の下流の植物性カンナビノイドの生合成の概略図である。
【
図4】DiPKSによる形質転換酵母細胞におけるオリベトール酸の生合成の概略図である。
【
図5】メチル-オリベトールからの形質転換酵母細胞におけるmeCBG及び下流のメチル化植物性カンナビノイドアナログの生合成の概略図である。
【
図6】メチル-オリベトールからの形質転換酵母細胞におけるmeCBG及び下流のメチル化植物性カンナビノイドアナログの生合成の概略図である。
【
図7】オリベトールのメチル化を低下させるための、C-メチルトランスフェラーゼに対する変異を有するDiPKSにおける機能的ドメインの概略図である。
【
図8】DiPKS
G1516D; G1518Aによる形質転換酵母細胞におけるメチル-オリベトール及びオリベトールの生合成の概略図である。
【
図9】DiPKS
G1516Rによる形質転換酵母細胞におけるオリベトールの生合成の概略図である。
【
図10】DiPKSによるメチル-オリベトールの生成及びDiPKS
G1516D; G1518Aによるメチル-オリベトールとオリベトールの両方の生成を示すグラフである。
【
図11】S.セレビシエの2つの別々の株における、DiPKSによるメチル-オリベトールの生成を示すグラフである。
【
図12】S.セレビシエの2つの別々の株における、DiPKSによるメチル-オリベトールの生成を示すグラフである。
【
図13】S.セレビシエの2つの別々の株における、DiPKSによるメチル-オリベトールの生成、及びDiPKS
G1516Rによるメチル-オリベトールとオリベトールの両方の生成を示すグラフである。
【
図14】S.セレビシエの3つの別々の株における、DiPKS
G1516Rによるオリベトールの生成を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0038】
一般的に、本開示は、アサ植物において天然に生合成されるオリベトール酸に類似するオリベトールを生成するため、及びメチル-オリベトールを生成するための方法及び酵母細胞株を提供する。オリベトール及びメチル-オリベトールは、トランスジェニック酵母において生成され得る。本発明において提供される方法及び細胞株は、アサ植物に存在しない酵素に対する遺伝子の適用を含む。アサのOAS及びOACを使用する手法と比較して、本発明において提供される方法及び細胞株によって、オリベトール酸よりもむしろオリベトール及びメチル-オリベトールが合成されることとなり、脱炭酸植物性カンナビノイドの生合成、メチル化植物性カンナビノイドアナログの生合成、及びサッカロマイセス・セレビシエ及び他の種の酵母にとって毒性であるヘキサン酸を投入しない、植物性カンナビノイドの生合成を含む1つ又は複数の利益をもたらすことができる。
【0039】
修飾語「脱炭酸」は、本明細書で使用される場合、例えば、Δ9-テトラヒドロカンナビノール(「THC」)の2若しくは4位において、又はアサにおけるCBGaの生合成に対する前駆体であるオリベトール酸の4位に対応する、他の植物性カンナビノイド若しくは植物性カンナビノイドアナログにおける同等の位置において、酸性基を欠く植物性カンナビノイド又は植物性カンナビノイドアナログの形態を指す。植物性カンナビノイドの酸性形態は、アサにおいて、オリベトール酸から生合成される。植物性カンナビノイドの酸形態が加熱されると、植物性カンナビノイドの芳香環とカルボキシル基の間の結合が切断される。脱炭酸は、アサにおいて生成されたカルボキシル化植物性カンナビノイドを加熱することに起因し、一般的に、約110℃を超える温度まで燃焼又は加熱する間に急速に起こる。簡単化のため、本明細書で使用される場合、「脱炭酸」は、植物性カンナビノイドが、真の脱炭酸の間に失われた酸性基を含んでいたか、又はカルボキシル基を有さずに生合成された否かにかかわらず、酸性基を欠く植物性カンナビノイドを指す。
【0040】
図1は、アサにおいて起こる、マロニル-CoAとヘキサノイル-CoAのポリケチド縮合産物からのオリベトール酸の生合成を示す。オリベトール酸は、CBGaに対する代謝前駆体である。CBGaは、以下に更に詳細に記載する多数の下流の植物性カンナビノイドに対する前駆体である。ほとんどの種類のアサでは、植物性カンナビノイドの大多数が、オリベトール酸から生合成され、次に、2:1の化学量論比のマロニル-CoAとヘキサノイル-CoAから合成される、ペンチル-カンナビノイドである。プロピル-カンナビノイドが観察される場合もあり、広く使用される三文字略記における「v」という添え字により特定されることが多い(例えば、テトラヒドロカンナビバリンは、通常、「THCv」と称され、カンナビジバリンは、通常、「CBDv」と称される等)。
図1はまた、下流のプロピル-植物性カンナビノイドをもたらすこととなる、マロニル-CoAとn-ブチル-CoAとの縮合からのジバリノール酸の生合成を示す。
【0041】
図1はまた、下流のメチル-植物性カンナビノイドをもたらすこととなる、マロニル-CoAとアセチル-CoAとの縮合からのオルセリン酸の生合成を示す。「メチル-植物性カンナビノイド」という用語は、この文脈において、それらのアルキル側鎖がメチル基であることを意味し、ほとんどの植物性カンナビノイドが、アルキル側鎖にペンチル基を有し、varinnic植物性カンナビノイドが、アルキル側鎖にプロピル基を有する。meCBG及び他のメチル化植物性カンナビノイドアナログが「メチル化」と称される文脈は、「メチル-植物性カンナビノイド」及び
図1における接頭辞としての「メチル」の使用と異なり、それに類似する。同様に、オリベトールは規定の長さの側鎖を有するため(そうでなければ、
図1に示される他の3つのポリケチドのうちの1つであるか、「オリベトール」ではない)、メチル-オリベトールは、環におけるメチル化への言及であり、より短い側鎖に対する言及ではない。
【0042】
図1はまた、下流のブチル-植物性カンナビノイドをもたらすこととなる、マロニル-CoAとバレリル-CoAとの縮合からの2,4-ジオール-6-プロピル安息香酸(2,4-diol-6-propylbenzenoic acid)の生合成を示す。
【0043】
図2は、
図1に示されるオリベトール酸生合成工程を含む、アサにおけるヘキサン酸、マロニル-CoA、及びゲラニルピロリン酸(「GPP」)からのCBGaの生合成を示す。ヘキサン酸は、補酵素Aと共にヘキサノイル-CoAシンターゼによって活性化される(「Hex1」;
図2の反応1)。ポリケチドシンターゼ(オリベトールを合成し、オリベトール酸を合成しないにもかかわらず、オリベトール酸シンターゼ「OAS」とも称される)及びOACは、一緒になって、ヘキサノイルCoA及びマロニル-CoAからのオリベトール酸の生成を触媒する(
図2の反応2)。プレニルトランスフェラーゼは、オリベトール酸をGPPと結び付け、
図2のCBGa工程3をもたらす。
【0044】
図3は、CBGaからの、アサにおける下流の酸形態の植物性カンナビノイドの生合成を示す。CBGaは、THCaシンターゼによって、Δ9-テトラヒドロカンナビノール酸(「THCa」)へと酸化的に環化される。CBGaは、CBDaシンターゼによって、カンナビジオール酸(「CBDa」)へと酸化的に環化される。カンナビクロメン酸(「CBCa」)、カンナビエルソン酸(「CBEa」)、イソ-テトラヒドロカンナビノール酸(「iso-THCa」)、カンナビシクロール酸(「CBLa」)、又はカンナビシトラン酸(「CBTa」)等の他の植物性カンナビノイドも、他のシンターゼ酵素によって、又は得られる植物性カンナビノイド構造に関して酵素活性に影響を及ぼすように植物細胞内の条件を変えることによって、アサにおいて合成される。これらの一般的な植物性カンナビノイドタイプのそれぞれの酸形態を、オリベトール酸がヘキサノイル-CoA及びマロニル-CoAから合成される5位炭素鎖となるアルキル側鎖を示す一般的「R」基を用いて
図3に示す。一部の場合では、カルボキシル基は、
図3に示される位置とR基に対して反対側の環上の位置に、代わりに見出される(例えば、
図3に示される2位よりもむしろTHCの4位等)。
図3に示される植物性カンナビノイドの酸形態の脱炭酸形態は、それぞれ、THC、カンナビジオール(「CBD」)、カンナビクロメン(「CBC」)、カンナビエルソイン(「CBE」)、イソ-テトラヒドロカンナビノール(「iso-THC」)、カンナビシクロール(「CBL」)、又はカンナビシトラン(「CBT」)である。
【0045】
図4は、マロニル-CoAからメチル-オリベトールを生成するための、トランスジェニック酵母における生合成経路を示す。
図4に示されるメチル-オリベトールを生成するための本発明において提供される酵母株は、培地由来のヘキサン酸を必要とすることなく、マロニル-CoAのみからのポリケチドの生成をサポートするDiPKS酵素を含んでもよい。上記のように、DiPKSは、脂肪酸シンターゼに見られるドメイン、メチルトランスフェラーゼドメイン、及びPks IIIドメインに類似する機能的ドメインを含み(
図7を参照のこと)、したがって、FAS-PKS酵素と称される。野生型DiPKS遺伝子をコードするコドン最適化合成配列を含む酵母株の例は、「HB80」及び「HB98」として提供され、そのそれぞれはTable 3(表3)に記載されている。
【0046】
図5及び
図6は、meCBGをもたらす、プレニル基のドナーとしてのGPPとメチル-オリベトールのプレニル化を示す(
図4からの反応1の後の、
図5及び
図6の反応2)。OASよりもむしろDiPKSを適用することによって、ヘキサン酸を添加せずに、植物性カンナビノイド及び植物性カンナビノイドアナログの生成が促進される。ヘキサン酸は、S.セレビシエに対して毒性であるため、CBG又はmeCBGのための生合成経路においてヘキサン酸に対する要求を除去することによって、OAS及びHex1を発現する酵母細胞におけるCBGの収率よりも高いCBG又はmeCBGの収率を得ることができる。
【0047】
図5及び
図6は、それぞれ、THC、CBD、CBC、CBE、iso-THC、CBL、及びCBTのメチル化アナログであり、オリベトール酸又はオリベトールの代わりにメチル-オリベトールが前駆化学物質として提供される場合に調製され得る、メチル-テトラヒドロカンナビノール(「meTHC」)、メチル-カンナビジオール(「meCBD」)、メチル-カンナビクロメン(「meCBC」)、メチル-カンナビエルソイン(「meCBE」)、イソ-メチル-テトラヒドロカンナビノール(「iso-meTHC」)、メチル-カンナビシクロール(「meCBL」)、又はメチル-カンナビシトラン(「meCBT」)に対応する下流のメチル化植物性カンナビノイドアナログを示す。これらのメチル化植物性カンナビノイドアナログのそれぞれの脱炭酸形態を、合成がヘキサノイル-CoA及びマロニル-CoA、又はマロニル-CoAのみに起因する5位炭素鎖となるアルキル側鎖を示す一般的「R」基を用いて
図5及び
図6に示す。
【0048】
meCBD以外にも、
図5及び
図6に示される下流の植物性カンナビノイドアナログのそれぞれの構造の一部は、芳香環に結合した回転が制約された基を含む。結果として、meCBD以外の
図5及び
図6に示される各下流の植物性カンナビノイドアナログは、2つの回転異性体のうちの1つのmeCBGから合成され得る。合成の間のmeCBGの回転異性体によって、得られる環化されたメチル化植物性カンナビノイドアナログのメチル基は、
図5のmeTHC、meCBC、meCBE、iso-meTHC、meCBL、若しくはmeCBTの異性体について示される位置、又は
図6のmeTHC、meCBC、meCBE、iso-meTHC、meCBL、若しくはmeCBTの異性体について示される位置に存在し得る。本明細書におけるmeTHC、meCBC、meCBE、iso-meTHC、meCBL、又はmeCBTへの言及は、
図5及び
図6に示される異性体のいずれか又は両方を含む。
【0049】
DiPKSは、オリベトールを芳香環の4位においてメチル化するC-メチルトランスフェラーゼドメインを含む。結果として、任意の下流のプレニル化はメチル-オリベトールに関するものとなり、アサにおいて合成されることが知られているCBGaではなく、植物性カンナビノイドアナログであるmeCBGを生じる。インプットとしてCBGa又はCBGを使用する場合に植物性カンナビノイドを生成することができる任意の下流の反応は、
図5及び
図6に示すメチル化植物性カンナビノイドアナログの脱炭酸種を対応して生成することになるが、一方、植物性カンナビノイドの非メチル化酸形態がアサにおいて生成されることになる(
図3を参照のこと)。メチル化及びカルボキシル化の炭素は異なる位置に存在し得るため、OAC又は別のポリケチドシクラーゼが含まれる場合、メチル-オリベトールは、OAC又は他のポリケチドシクラーゼによってmeCBGaへと変換されてもよい。例えば、meCBGから合成されるmeTHCは、炭素4においてメチル化されてもよく、2位に存在し得るTHCaのカルボキシ基により、メチル-テトラヒドロカンナビノール酸(「meTHCa」)へとカルボキシル化され得る。或いは、meCBGから合成されるmeTHCは、炭素2においてメチル化されてもよく、この場合、THCaのカルボキシル基は、4位にあってもよい。THCaは、2位、又は4位にカルボキシル基を有するアサにおいて観察される。
【0050】
図7は、β-ケトアシル-シンターゼ(「KS」)、アシルトランスアセチラーゼ(「AT」)、デヒドラターゼ(「DH」)、C-メチルトランスフェラーゼ(「C-Met」)、エノイルレダクターゼ(「ER」)、ケトレダクターゼ(「KR」)、及びアシルキャリアタンパク質(「ACP」)を示すDiPKSの機能的ドメインの概略図である。「タイプIII」のドメインは、3型ポリケチドシンターゼである。KS、AT、DH、ER、KR、及びACP部分は、典型的には、脂肪酸シンターゼと関連する機能をもたらす。C-Metドメインは、炭素4においてオリベトールをメチル化するための触媒活性をもたらす。C-Metドメインは、
図7において線で削除されており、C-Metドメインを不活性化し、メチル化の機能性を軽減するか又は消失させるDiPKSタンパク質に対する改変を模式的に例証する。タイプIIIのドメインは、反復型ポリケチド伸長及びACPからタイプIIIドメインへと導入されたヘキサン酸チオエーテルの環化を触媒する。
【0051】
図8は、マロニル-CoA及びGPPからのmeCBGとCBGの両方の生成のためのトランスジェニック酵母における生合成経路を示す。
図8に示されるCBGとmeCBGの両方を生成するための本発明において提供される酵母株は、プレニルトランスフェラーゼに対する遺伝子及び
図7で模式的に示されるように、C-Metドメインにおいて活性の低下した変異体DiPKSに対する遺伝子を含んでもよい。DiPKSタンパク質のC-Metドメインは、DiPKSのアミノ酸残基1510から1633を含む。C-Metドメインは、3つのモチーフを含む。第1のモチーフは、残基1510から1518を含む。第2のモチーフは、残基1596から1603を含む。第3のモチーフは、残基1623から1633を含む。これら3つのモチーフのうちの1つ又は複数が破壊されると、C-Metドメインにおける活性の低下を生じる場合がある。
【0052】
C-Metドメインにおいて活性の低下した改変DiPKSを発現する酵母株の例は、以下の実施例IIIにおいて「HB80A」として提供される。HB80Aは、野生型DiPKSタンパク質をコードする酵母のコドン最適化遺伝子において改変を含む。HB80Aは、DiPKSタンパク質がC-Metドメインの第1のモチーフにおいて改変されるようなDiPKS遺伝子における改変を含む。DiPKS遺伝子に対するこれらの改変の結果として、DiPKSタンパク質は、Gly1516Asp及びGly1518Alaの置換を有する。HB80Aは、DiPKS
G1516D; G1518Aを含み、結果として、
図8の工程1A及び1Bの両方を触媒し、メチル-オリベトール及びオリベトールの両方を生成する。
【0053】
図8は、マロニル-CoAからのメチル-オリベトール(
図8の反応1A)とマロニル-CoAからのオリベトール(
図8の反応1B)の両方の生成を示す。反応1A及び反応1Bは、それぞれ、DiPKS
G1516D; G1518Aによって触媒される。Gly1516Asp及びGly1518Alaの置換は、C-Metドメインの活性部位におけるものであり、オリベトール環の4位におけるメチル化のDiPKS
G1516D; G1518Aによる触媒を減少させ、インプットマロニル-CoAの一部が、反応1Aよりも反応1Bに従って触媒されるのを可能とする。次いで、無差別なαββαプレニルトランスフェラーゼは、GPPとメチル-オリベトール及びGPPとオリベトールの両方のプレニル化を触媒することができ、結果として、
図2の反応3と同様であるが酸性基を有さずに、meCBG(
図5及び
図6の反応2)とCBGの両方がオリベトールのプレニル化を介して生成される。次いで、他の植物性カンナビノイドを生成するための任意の下流の反応は、CBGの芳香環における4位(又は下流の植物性カンナビノイドにおける対応する位置)において官能基を有さないメチル化植物性カンナビノイドアナログ及びメチル化植物性カンナビノイド種の混合物を対応して生成し、一方、酸形態はアサにおいて生成されることになる。
【0054】
図9は、メチル-オリベトールではなく、マロニル-CoAからのオリベトールのみの生成のためのトランスジェニック酵母における生合成経路を示す。
図9に示されるオリベトールのみを生成するための本発明において提供される酵母株は、
図7で模式的に示されるように、C-Metドメインにおいて活性の低下した変異体DiPKSに対する遺伝子を含んでもよい。
【0055】
C-Metドメインにおいて基本的に活性を有さない改変DiPKSを発現する酵母株の例は、以下の実施例VI及びVIIにおいて「HB135」、「HB137」及び「HB138」として提供される。HB135、HB137及びHB138のそれぞれは、野生型DiPKSタンパク質をコードする酵母のコドン最適化遺伝子において改変を含む。HB135、HB137及びHB138はそれぞれ、DiPKSタンパク質がC-Metドメインの第1のモチーフにおいて改変されるようなDiPKS遺伝子の改変を含む。DiPKS遺伝子に対するこれらの改変の結果として、DiPKSタンパク質は、Gly1516Argの置換を有する。
【0056】
DiPKS
G1516Rは、
図9の反応1を触媒する。Gly1516Argの置換は、C-Metドメインの活性部位におけるものであり、オリベトール環の4位におけるメチル化のDiPKS
G1516Rによる触媒を減少させる。マロニル-CoAのインプットは、
図9の反応1に従って触媒される。次いで、他の植物性カンナビノイドを生成するための任意の下流の反応は、CBGの芳香環における4位、又は下流の植物性カンナビノイドにおける対応する位置において官能基を有さない植物性カンナビノイド種を対応して生成し、一方、酸形態はアサにおいて生成されることになる。
【0057】
生合成前駆体の利用可能性の増加
図4、
図8及び
図9において示される各生合成経路は、それぞれ、メチル-オリベトールのみ、メチル-オリベトールとオリベトールの両方、及びオリベトールのみを生成するために、マロニル-CoAを必要とする。酵母細胞は変異してもよく、他の種に由来する遺伝子が導入されてもよく、遺伝子が上方調節又は下方調節されてもよく、又はそうでなければ、酵母細胞は、マロニル-CoA、又は
図4、
図8又は
図9のいずれかの生合成経路をサポートするために必要とされる他のインプット代謝物の利用可能性を増加させるために、遺伝子改変されてもよい。
【0058】
酵母株は、利用可能なマロニル-CoAを増加させるために改変されてもよい。ミトコンドリアのアセトアルデヒド異化の低下により、エタノール異化からのアセトアルデヒドのアセチル-CoA生成への転換が生じ、次いで、マロニル-CoA及び下流のポリケチド及びテルペノイドの生成が駆動される。S.セレビシエは、残基641におけるロイシンのプロリンへの置換による改変(「AcsL641P」)、及びS.セレビシエ由来のアルデヒドデヒドロゲナーゼ6(「Ald6」)を有するサルモネラ・エンテリカ(Salmonella enterica)由来のアセチル-CoAを発現するように改変することができる。Leu641Pro変異は、Acsの下流調節を除去し、AcsL641P変異体に関して、野生型Acsよりも高い活性をもたらす。まとめると、これら2つの酵素の細胞質発現により、細胞質におけるアセチル-CoAの濃度が増加する。細胞質におけるアセチル-CoAの濃度が高くなるほど、ミトコンドリア異化は低下し、ミトコンドリアピルビン酸デヒドロゲナーゼ(「PDH」)を回避して、PDHバイパスをもたらす。結果として、より多くのアセチル-CoAがマロニル-CoA生成に利用可能となる。配列番号2は、pGREGプラスミドをベースとするプラスミドであり、及びAld6及びSeAcsL641Pに対する遺伝子、プロモーター、ターミネーター、及びクラスター化規則的間隔短鎖回文反復配列(「CRISPR」)を適用する組換えによって、Flagfeldt-部位19におけるS.セレビシエゲノムへの組み込みのための組み込み部位相同配列をコードするDNA配列を含む。以下のTable 2(表2)に示されるように(「PDHバイパス」という用語によって)、基本株「HB82」、「HB100」、「HB106」、及び「HB110」のそれぞれは、TDH3プロモーターの下でAld6をコードする塩基1494から2999に由来する配列番号2の一部、及びTef1Pプロモーターの下でSeAcsL641Pをコードする塩基3948から5893に由来する配列番号2の一部を有する。同様に、HB82、HB100、HB106、又はHB110のいずれかに基づく各改変酵母は、Ald6及びSeAcsL641Pをコードするポリヌクレオチドを含む。
【0059】
細胞質性マロニル-CoAを増加させることに対する別のアプローチは、ネイティブ酵母マロニル-CoAシンターゼであるAcc1を上方調節することである。Acc1遺伝子のプロモーター配列は、PGK1遺伝子に対する構成的酵母プロモーターによって置き替えられた。PGK1遺伝子由来のプロモーターは、Acc1の複数の複製が細胞内に存在することを可能とする。ネイティブAcc1プロモーターは、タンパク質の単一の複製のみが同時に細胞内に存在することを可能とする。マーク付けされたネイティブプロモーター領域は、配列番号3に示されている。改変プロモーター領域は、配列番号4に示されている。
【0060】
Acc1の発現を上方調節することに加えて、S.セレビシエは、Acc1活性及び細胞質性アセチル-CoA濃度を増加させるために、1つ又は複数のAcc1の改変を含んでもよい。Acc1の抑制を取り除き、より高いAcc1発現及びより多いマロニル-CoA生成をもたらす調節配列における2つの変異は、文献において特定された。配列番号5は、S.セレビシエゲノムを相同組換えによってネイティブAcc1遺伝子において改変するために使用され得るポリヌクレオチドである。配列番号5は、Ser659Ala及びSer1157Ala改変を有するAcc1遺伝子に関するコード配列の一部を含む。結果として、この配列により形質転換されたS.セレビシエは、Acc1S659A; S1157
を発現することになる。同様の結果は、例えば、任意の適切な部位に、Tef1プロモーター、Ser659Ala及びSer1157Ala改変を有するAcc1、及びPrm9ターミネーターを有する配列を組み込むことによって達成されてもよい。最終結果は、Tef1、Acc1S659A; S1157
、及びPrm9が、S.セレビシエゲノムへの組み込みを促進するためのゲノムDNA配列に隣接することであろう。これは、Flagfeldtの部位18で試みられたが、構築物のサイズによって、代わりに、上述の配列番号5を用いるアプローチが続いて行われた。
【0061】
S.セレビシエは、Maf1又はtRNA生合成の他の調節因子の改変された発現を含んでもよい。ネイティブMaf1の過剰発現は、tRNA生合成に対するIPPの損失を低減させ、それによって、酵母におけるモノテルペンの収率を改善することが示されている。IPPは、メバロン酸経路における中間体である。配列番号6は、Tef1プロモーターの下でのMaf1ゲノム組み込みのために、Maf1-部位5においてS.セレビシエのゲノムへと組み込まれたポリヌクレオチドである。配列番号6は、Tef1プロモーター、ネイティブMaf1遺伝子、及びPrm9ターミネーターを含む。まとめると、Tef1、Maf1、及びPrm9は、S.セレビシエゲノムへの組み込みを促進するためのゲノムDNA配列によって隣接する。以下のTable 2(表2)に示されるように、基本株HB100、HB106、及びHB110は、Tef1プロモーターの下でMaf1を発現する。同様に、HB100、HB106、又はHB110のいずれかに基づく各改変酵母は、Tef1プロモーターの下でMaf1に関するコード配列を含むポリヌクレオチドを含む。
【0062】
Upc2は、S.セレビシエにおけるステロール生合成の活性化因子である。Upc2のGlu888Asp変異によって、酵母におけるモノテルペン生成が増加する。配列番号7は、Tef1プロモーターの下でUpc2E888Dの発現をもたらすためにゲノムへと組み込まれ得るポリヌクレオチドである。配列番号7は、Tef1プロモーター、Upc2E888D遺伝子、及びPrm9ターミネーターを含む。まとめると、Tef1、Upc2E888D、及びPrm9は、S.セレビシエゲノムへの組み込みを促進するためにゲノムDNA配列に隣接する。
【0063】
上記遺伝子、AcsL641P、Ald6、Maf1、Acc1S659A; S1157
又はUpc2E888Dは、プラスミドから発現されるか又はS.セレビシエのゲノムへと組み込まれてもよい。ゲノムへの組み込みは、CRISPR組換えを含む相同組換え、又は任意の適切なアプローチによるものであってもよい。Acc1のプロモーターは、組換えによって同様に改変されてもよい。配列番号2、配列番号4、配列番号5、配列番号6、又は配列番号7のそれぞれにおけるコード配列及び調節配列は、発現のためのプラスミド(例えば、pYES等)又はS.セレビシエゲノムへの組み込みのための直鎖状ポリヌクレオチドに含まれてもよい。基本株HB82、HB100、HB106、又はHB110のそれぞれは、1つ又は複数の組み込まれた配列番号2、配列番号4、配列番号6、又は配列番号8を含む(以下のTable 2(表2)を参照のこと)。配列番号5、又は配列番号7の組み込みは、同様のアプローチによって適用されてもよい。
【0064】
DiPKS機能の増加
図7に示されるように、DiPKSは、ACPドメインを含む。DiPKSのACPドメインは、補因子としてホスホパンテテイン基を必要とする。NpgAは、アスペルギルス・ニデュランス(Aspergillus nidulans)由来の4'-ホスホパンテチエニルトランスフェラーゼである。S.セレビシエに対してコドン最適化されたNpgAの複製は、S.セレビシエへと導入され、例えば、相同組換えによって、S.セレビシエに形質転換されてもよい。NpgA遺伝子カセットは、Flagfeldtの部位14でサッカロマイセス・セレビシエのゲノムへと組み込まれ、株HB100を作出する。組み込まれたDNAの配列は、配列番号8に示され、Tef1プロモーター、NpgAコード配列及びPrm9ターミネーターを含む。まとめると、Tef1p、NpgA、及びPrm9tは、S.セレビシエゲノムのFlagfeldtの部位14への組み込みを促進するゲノムDNA配列に隣接する。以下のTable 2(表2)に示されるように、基本株HB100、HB106、及びHB110は、この組み込みカセットを含む。或いは、配列番号8の塩基636から2782が、株HB98におけるように、発現プラスミドに含まれてもよい。
【0065】
NpgAの発現によって、DiPKSのACPドメインへとホスホパンテテイン基を負荷するという、より強い触媒作用のためのA.ニデュランスのホスホパンテテイニルトランスフェラーゼがもたらされる。結果として、DiPKSによって触媒される反応(
図4の反応1)は、より早い速度で起こり、メチル-オリベトールをより多量にもたらし得る。
【0066】
DiPKSの改変
DiPKSは、C-Metの活性を低減又は消失させるために改変されてもよい。
【0067】
配列番号9は、DiPKSが、C-metドメインの活性を一緒に破壊するGly1516Asp置換及びGly1518Ala置換を含む酵母に対してコドン最適化されるDIPKSに対する合成配列の改変形態である。S.セレビシエ培養におけるDiPKSG1516D, G1518A発現の結果は、株HB80Aを含む実施例IIに関連して以下に提供される。他の改変は、C-Metの活性部位全体又はC-Metのすべてを破壊するか又は消失させるために、DiPKSへと導入されてもよい。これらの改変DiPKS酵素のそれぞれは、野生型DiPKSについて説明したように、S.セレビシエへと導入されてもよい。
【0068】
配列番号10は、DiPKSが、C-metドメインの活性を破壊するGly1516Arg置換を含む酵母に対してコドン最適化されるDIPKSに対する合成配列の改変形態である。S.セレビシエ培養におけるDiPKSG1516R発現の結果は、株HB135を含む実施例VI及び株HB135、HB137及びHB138を含む実施例VIIに関連して以下に提供される。
【0069】
具体的には、DiPKSG1516D, G1518A及びDiPKSG1516Rに加えて、以下の他の改変が、C-Metの活性部位全体又はC-Metのすべてを破壊するか又は消失させるために、DiPKSへと導入されてもよい:(a)GGGSGGGSGを有するモチーフ1の置換、(b)モチーフ1におけるGly1516Arg 置換及びGGGSGGGSを有するモチーフ2の置換、(c)モチーフ3のちょうど外側にあり、C-Metドメインの活性部位における三次構造を破壊するGlu1634Ala、並びに(d)His1608Gln置換によるC-Metドメインの活性部位の破壊。(a)から(d)のそれぞれについてコドン最適化された配列が、発現プラスミド上で酵母へと導入され、DiPKSG1516D, G1518A及びDiPKSG1516Rの発現に対しても同様に、基本株HB100へと導入された。それぞれの場合に、オリベトールは観察されなかった。GGGSGGGSを有するモチーフ1又はモチーフ2のいずれの置換によっても、同様に、メチル-オリベトールの生成は消失した。DiPKSG1634A変異体を発現する酵母の培養によって、一例のバッチで培養物1l当たり2.67mgのメチル-オリベトールが得られた。DiPKSH1608N変異体を発現する酵母の培養では、一例のバッチで培養物1l当たり3.19mgのメチル-オリベトールが得られた。
【0070】
酵母細胞の形質転換及び増殖
実行された方法の具体例及びこの記載に従って生成された酵母細胞の詳細を以下の実施例IからVIIとして提供する。これら7個の具体例のそれぞれでは、プラスミドの構築、酵母の形質転換、株増殖の定量、及び細胞内代謝物の定量に対して同様のアプローチを適用した。7個の例に共通の特徴、続いて、7個の例のうちの1つ又は複数に関連する結果及び他の詳細を以下に記載する。
【0071】
プラスミドの構築
本発明において提供される方法及び酵母細胞の例を適用及び調製するためにアセンブルしたプラスミドをTable 1(表1)に示す。Table 1(表1)では、発現プラスミドpYES、及びpYES2について、配列番号11及び12は、それぞれ、発現カセットを有さないプラスミド全体を提供する。配列番号8から10、13、及び14の発現カセットは、Table 1(表1)に示されるプラスミドを調製するために含まれ得る。配列番号2は、PDHバイパス遺伝子に対するカセットを含むpGREGプラスミドである。
【0072】
【0073】
S.セレビシエへと導入するためのプラスミドを、Operon Eurofins and Phusion HF polymerase(ThermoFisher F-530S)からのプライマーを用い、Eppendorf Mastercycler ep Gradient 5341を使用して、製造業者の推奨するプロトコールに従って、ポリメラーゼ連鎖反応(「PCR」)によって増幅させた。
【0074】
すべてのプラスミドは、重複するDNA部分とS.セレビシエにおける形質転換支援組換え(transformation assisted recombination)を使用してアセンブルした。プラスミドを、Gietz、R. D.及びSchiestl、R. H.、「High-efficiency yeast transformation using LiAc/SS carrier DNA/PEG method.」 Nat. Protoc. 2、31~34(2007)に記載される酢酸リチウムヒートショック方法を使用してS.セレビシエへと形質転換した。pNPGa、pDiPKSm1、pDiPKSm2、pCRISPR、pDiPKS、及びpPDH プラスミドをウラシル栄養要求株である、酵母株HB25においてアセンブルした。形質転換S.セレビシエ細胞を、寒天ペトリ皿における栄養要求性選択によって選択した。ペトリ皿から回収したコロニーを、250RPMで振盪させながら、30℃で16時間、液体選択培地中で増殖させた。
【0075】
液体選択培地中で増殖させた後、形質転換S.セレビシエ細胞を採取し、プラスミドDNAを抽出した。抽出したプラスミドDNAを大腸菌(Escherichia coli)へと形質転換した。形質転換大腸菌は、アンピシリンを含む寒天ペトリ皿で増殖させることによって選択した。大腸菌を、プラスミドを増幅させるために培養した。大腸菌中で増殖したプラスミドを抽出し、正確な構成を確認するためにサンガーのジデオキシシークエンシングを用いてシークエンシングした。次いで、シークエンスを確認したプラスミドを、S.セレビシエのゲノム改変又は安定した形質転換のために使用した。
【0076】
S.セレビシエのゲノム改変
本明細書に記載のS.セレビシエ株は、プラスミドの安定した形質転換又はゲノム改変によって調製されてもよい。ゲノム改変は、例えば、CRISPRを活用する方法によって、相同性組換えを介して遂行されてもよい。
【0077】
CRISPRを適用する方法を、S.セレビシエゲノムからDNAを欠失させ、異種DNAをS.セレビシエゲノムへと導入するために適用した。Cas9エンドヌクレアーゼをS.セレビシエゲノムの所望の位置へと標的化するためのガイドRNA(「gRNA」)配列は、BenchlingオンラインDNA編集ソフトウェアを用いて設計した。オーバーラップエクステンション(「SOEing」)及びPCRによるDNAスプライシングを適用して、gRNA配列をアセンブルし、機能的gRNAカセットを含むDNA配列を増幅させた。
【0078】
機能的gRNAカセット、Cas9-発現遺伝子カセット、及びpYes2(URA)プラスミドをpCRISPRプラスミドへとアセンブルして、標的化DNA二本鎖切断を容易にするためにS.セレビシエへと形質転換した。生じたDNA切断を、標的DNAの直鎖状断片の付加によって修復した。
【0079】
S.セレビシエの遺伝子改変は、株HB42に基づき、株HB42は、順に、株HB25に基づくウラシル栄養要求株であり、Erg20K197Eタンパク質に対するCDSの組込みを含む。この組込みは、他の目的として、メチル-オリベトール又はオリベトールの生成に直接的に関連しないが、GPPを必要とするCBG又はmeCBGを合成する場合にも有用であり得る。Erg20K197E変異体タンパク質は、細胞内のGPPレベルを増加させる。
【0080】
配列番号2の塩基51から7114を、CRISPRによってHB42株へと組み込み、S.セレビシエのPDHバイパス遺伝子を有するHB82基本株を得た。pPDHプラスミドは、S.セレビシエにおけるアセンブリー後に確認した配列であった。シークエンスを確認したpPDHプラスミドを、大腸菌内で増殖させ、精製して、BciV1制限酵素で消化した。Table 1(表1)におけるように、BciV1による消化によって、Ald6及びSeAcsL641Pに対する遺伝子、プロモーター、ターミネーター、及びCas9によるPDH-部位19におけるS.セレビシエゲノムへの組み込みのための組み込み部位相同配列を含むポリヌクレオチドが得られた。得られた直鎖状PDHバイパスドナーポリヌクレオチドを、配列番号2の塩基51から7114に示されるように、ゲル分離によって精製した。
【0081】
単一のPDHバイパスポリヌクレオチドに関する両方のPDHバイパス遺伝子(Ald6及びAcsL641P)と共に、PDHバイパスドナーポリヌクレオチドを、pCRISPRにより、S.セレビシエへと同時形質転換した。形質転換は、Gietzに記載されている酢酸リチウムヒートショック方法によるものであった。pCRISPRプラスミドはCas9を発現し、gRNA分子によって、S.セレビシエゲノムの選択された位置へと標的化される。この位置において、Cas9タンパク質によって、DNAの二重鎖切断が生じる。PDHバイパスドナーポリヌクレオチドを、CRISPR反応におけるドナーポリヌクレオチドとして使用した。Ald6、AcsL641P、プロモーター、及びターミネーターを含むPDHバイパスドナーポリヌクレオチドを、相同性組換えによって、切断部位である部位19においてゲノムへと組み込み、株HB82を得た。
【0082】
配列番号8に示されるNpgAドナーポリヌクレオチドを調製し、増幅させた。DNA SOEingを使用して、NpgA組み込みのために、3つのポリヌクレオチドから単一のドナーDNA断片を作出した。第1のポリヌクレオチドは、ドナーの特定位置におけるゲノムへの組み込みを可能とするゲノム相同性の5'領域であった。ホスホパンテテイニルトランスフェラーゼポリヌクレオチドは、NpgA遺伝子カセットをコードしていた。NpgA遺伝子カセットは、Tef1プロモーター、NpgAコード配列及びPrm9ターミネーターを含む。第3のポリヌクレオチドは、S.セレビシエゲノムへの標的化組み込みを容易にするゲノム相同性に対する3'領域を含んだ。
【0083】
NpgAドナーポリヌクレオチドを、pCRISPRプラスミドを用いて、株HB82へと同時形質転換した。pCRISPRプラスミドが発現し、エンドヌクレアーゼCas9を、gRNA分子によって、S.セレビシエゲノムのある位置へと標的化した。この位置で、Cas9タンパク質によって、DNAの二重鎖切断が生じ、NpgAドナーポリヌクレオチドを、相同性組換えによって、切断したゲノムへと組み込み、HB100基本株を得た。
【0084】
配列番号6に示されるMaf1ドナーポリヌクレオチドを調製し、増幅させた。DNAのSOEingを使用して、Maf1組み込みのために、3つのポリヌクレオチドから単一のドナーDNA断片を作出した。第1のポリヌクレオチドは、ドナーの特定位置におけるゲノムへの組み込みを可能とするゲノム相同性の5'領域であった。Maf1ポリヌクレオチドは、Maf1遺伝子カセットをコードしていた。Maf1遺伝子カセットは、Tef1プロモーター、Maf1コード配列及びPrm9ターミネーターを含む。第3のポリヌクレオチドは、S.セレビシエゲノムへの標的化組み込みを容易にするゲノム相同性に対する3'領域を含んだ。
【0085】
Maf1ドナーポリヌクレオチドを、pCRISPRプラスミドを用いて、HB100株へと同時形質転換した。pCRISPRプラスミドが発現し、エンドヌクレアーゼCas9を、gRNA分子によって、S.セレビシエゲノムのある位置へと標的化した。この位置で、Cas9タンパク質によって、DNAの二重鎖切断が生じ、Maf1ドナーポリヌクレオチドを、相同性組換えによって、切断したゲノムへと組み込むことができる。Maf1ドナーポリヌクレオチドのHB100株への安定した形質転換により、HB106基本株が得られる。
【0086】
配列番号6に示されるAcc1-PGK1pドナーポリヌクレオチドを調製し、増幅させた。DNAのSOEingを使用して、Acc1-PGK1p組み込みのために、3つのポリヌクレオチドから単一のドナーDNA断片を作出した。第1のポリヌクレオチドは、ドナーの特定位置におけるゲノムへの組み込みを可能とするゲノム相同性の5'領域であった。Acc1ポリヌクレオチドは、PGK1プロモーター領域をコードしていた。第3のポリヌクレオチドは、S.セレビシエゲノムへの標的化組み込みを容易にするゲノム相同性に対する3'領域を含んだ。
【0087】
Acc1-PGK1ドナーポリヌクレオチドを、pCRISPRプラスミドを用いて同時形質転換した。pCRISPRプラスミドが発現し、エンドヌクレアーゼCas9を、gRNA分子によって、S.セレビシエゲノムのある位置へと標的化した。この位置で、Cas9タンパク質によって、DNAの二重鎖切断が生じ、Acc1-PGK1ドナーポリヌクレオチドを、相同性組換えによって、切断したゲノムへと組み込んだ。HB100株へのドナーポリヌクレオチドの安定した形質転換によって、PGK1プロモーターの調節下にあるAcc1を有するHB110基本株が得られる。
【0088】
Table 2(表2)は、S.セレビシエの遺伝子改変によって調製された基本株についてのまとめを提供する。Table 2(表2)に示される各基本株は、ロイシン及びウラシル栄養要求株であり、これらはいずれもプラスミドを含まない。
【0089】
【0090】
株の構築のための安定した形質転換
Gietzによって記載されている酢酸リチウムヒートショック方法を使用して、プラスミドをS.セレビシエへと形質転換した。
【0091】
Table 3(表3)において以下に示すように、トランスジェニックS.セレビシエHB80、HB98、HB102、HB135、HB137及びHB138を発現プラスミドによるHB42の形質転換によって、HB42、HB100、HB106及びHB110基本株から調製し、HB80AをHB80の形質転換によって調製した。HB80、HB98及びHB102はそれぞれ、DiPKSを含み、発現する。HB80Aは、DiPKSG1516D;G1518Aを含み、発現する。HB135、HB137及びHB138はそれぞれ、DiPKSG1516Rを含み、発現する。HB98は、プラスミド由来のDiPKS及びNPGaを含み、発現する。
【0092】
【0093】
酵母の増殖及び栄養摂取条件
酵母培養物を選択培地による終夜の培養で増殖させ、種菌を得た。次いで、得られた種菌を使用して、三連で50mlの培養物を接種し、600nmで0.1の吸光度(「A600」)を有する光学密度とした。
【0094】
酵母を、YNB+2%のラフィノース+2%のガラクトース+1.6g/Lの4DO*を含む培地中で培養した。「4DO*」は、ロイシン及びウラシルを欠く、酵母の合成ドロップアウト培地添加物を指す。「YNB」は、Table 4(表4)の最初の2列側に列挙した化学物質を含む栄養ブロスである。Table 4(表4)の3及び4番目の列に列挙した化学物質は、4DO*添加物に含まれる。
【0095】
【0096】
代謝物の定量
細胞内代謝物を、メタノール抽出を使用して、S.セレビシエ細胞から抽出した。1mLの液体培養物を12,000×gで3分間スピンダウンした。250μLの得られた上清を細胞内代謝物の定量に使用した。得られた細胞ペレットを、200μlの80%メタノール(-40℃)中に懸濁させた。混合物をボルテックスし、氷上で10分間冷やした。氷上で10分間冷やした後、混合物を、4℃にて、15,000×gで14分間スピンダウンした。得られた上清を採取した。更に200μlの80%メタノール(-40℃)を細胞デブリペレットに添加し、混合物を氷上で10分間冷やした。氷上で10分間冷やした後、混合物を、4℃にて、15,000×gで14分間スピンダウンした。得られた200μlの上清を、前もって採取した200μlの上清に添加し、合計400μlの、細胞内代謝物を含む80%メタノールを得た。
【0097】
細胞内代謝物は、高速液体クロマトグラフィー(「HPLC」)及び質量分析(「MS」)方法を使用して定量した。Agilent 1260オートサンプラー及びThermoFinnigan LTQ質量分析計に接続したHPLCシステムを使用した。HPLCシステムは、Zorbax Eclipse C18 2.1μm×5.6mm×100mmのカラムを備えていた。
【0098】
代謝物を、オートサンプラーを使用して、10μlのサンプル中に注入し、1ml/分の流速で使用するHPLCにおいて分離した。HPLC分離プロトコールは、(a)98%の溶媒A及び2%の溶媒Bの0~2分;(b)98%の溶媒Bとなるまでの2~15分;(c)98%の溶媒Bで15~16.5分;(d)98%の溶媒Aとなるまでの16.5~17.5分;及び(e)98%の溶媒Aで最終の2.5分の平衡の合計20分であった。溶媒Aは、MS水中アセトニトリル+0.1%のギ酸であり、溶媒Bは、MS水中0.1%のギ酸であった。
【0099】
HPLCによる分離後、エレクトロスプレーイオン化によってサンプルを質量分析計へと注入し、ポジティブモードで分析した。キャピラリー温度は380℃に保った。チューブレンズ電圧は30Vであり、キャピラリー電圧は0Vであり、スプレー電圧は5kVであった。同様に、HPLC-MS/MS後、オリベトールを、181.2を親イオンとして、111を娘イオンとして分析し、一方、メチル-オリベトールを、193.2を親イオンとして、125を娘イオンとして分析した。
【0100】
様々な濃度の公知の標準物質を注入して、線形標準曲線を作成した。オリベトールの標準物質及びメチル-オリベトールの標準物質は、Sigma Aldrichから購入した。
【0101】
(実施例I)
Table 3(表3)において上述されている酵母株HB80を、YNB+2%のラフィノース+2%のガラクトース+1.6g/Lの4DO*培地中で培養した。ラフィノース及びガラクトースからのメチル-オリベトールの生成を観察し、酵母におけるメチル-オリベトールの直接的生成を実証した。メチル-オリベトールを3.259mg/Lの濃度で生成した。
【0102】
(実施例II)
Table 3(表3)において上述されている酵母株HB80Aを、YNB+2%のラフィノース+2%のガラクトース+1.6g/Lの4DO*培地中で培養した。DiPKSG1516D; G1518Aによって触媒されるラフィノース及びガラクトースからのオリベトールとメチル-オリベトール両方の生成が観察された。このデータは、ヘキサン酸を含まない場合の、酵母におけるオリベトールとメチル-オリベトール両方の直接的生成を実証する。
【0103】
図10は、実施例IからのHB80によって生成されたメチル-オリベトール(「メチル_オリベトール HB80」)、並びにHB80Aによって生成されたオリベトール及びメチル-オリベトール(それぞれ、「メチル_オリベトール HB80A」及び「オリベトール HB80A」)の濃度を示す。培養物のサンプルを72時間目に採取した。HB80Aは、メチル-オリベトールの大半を生成し(培養物1L当たり0.010mgのオリベトールと比較して培養物1L当たり1.4mgのメチル-オリベトール)、組み合わせても、HB80により生成されるメチル-オリベトール(3.26mg/L)より少ないメチル-オリベトールとオリベトールしか生成されない。
【0104】
(実施例III)
Table 3(表3)において上述されている酵母株HB98を、YNB+2%のラフィノース+2%のガラクトース+1.6g/Lの4DO*培地中で培養した。DiPKSによって触媒されるラフィノース及びガラクトースからのメチル-オリベトールの生成が確認された。このデータは、ヘキサン酸を含まない場合にも、実施例Iに記載されているHB80と比較したメチル-オリベトール生成の増加を実証する。
【0105】
図11は、実施例IからのHB80によって生成されたメチル-オリベトール(「メチル_オリベトール HB80」)、及び実施例IIIからのHB98によって生成されたメチル-オリベトール(「メチル_オリベトール HB98」)の濃度を示す。培養物のサンプルを72時間目に採取した。HB80は、培養物1L当たり3.26mgのメチル-オリベトールしか生成しなかったが、HB98は、29.85mg/Lのメチル-オリベトールを生成した。HB98は、HB80のほぼ10倍のメチル-オリベトールを生成した。
【0106】
(実施例IV)
Table 3(表3)において上述されている酵母株HB102を、YNB+2%のラフィノース+2%のガラクトース+1.6g/Lの4DO*培地中で培養した。ラフィノース及びガラクトースからのメチル-オリベトールの生成が観察され、29.85mg/Lのメチル-オリベトールしか生成しなかった株HB98と比較して、酵母において、42.44mg/Lのメチル-オリベトールの増加した生成が実証された。このことは、NpgAの遺伝子組み込みバージョンが機能的であることを実証した。
【0107】
図12は、実施例IIIにおける株HB98からのメチル-オリベトール(「メチル_オリベトール HB98」)の生成と比較した、実施例IVからのHB102によって生成されたメチル-オリベトール(「メチル_オリベトール HB102」)の濃度を示す。
【0108】
(実施例V)
Table 3(表3)において上述されている酵母株HB135を、YNB+2%のラフィノース+2%のガラクトース+1.6g/Lの4DO*培地中で培養した。ラフィノース及びガラクトースからのオリベトールの生成が観察され、いずれのヘキサン酸も用いない、49.24mg/Lの高力価における、メチル-オリベトールの生成なしの、酵母におけるオリベトールの生成を実証する。これは、株HB102によるメチル-オリベトールの生成に匹敵し、DIPKSの変異が、メチル-オリベトールに対してオリベトールの生成に有効であることを実証する。
【0109】
図13は、実施例IVにおける株HB102からのメチル-オリベトール(「メチル_オリベトール HB102」)の生成と比較した、実施例VIからのHB135によって生成されるオリベトール及びメチル-オリベトール(それぞれ、「メチル_オリベトール HB135」及び「オリベトール HB135」)の濃度を示す。
【0110】
(実施例VII)
Table 3(表3)において上述されている酵母株HB137及びHB138を、YNB+2%のラフィノース+2%のガラクトース+1.6g/Lの4DO*培地中で培養した。ラフィノース及びガラクトースからのオリベトールの生成は、両方の株で観察された。株HB137が生成した61.26mg/Lのオリベトール及び株HB138が生成した74.26mg/Lのオリベトールによって、オリベトール力価に関するMaf1組み込み及びAcc1-プロモータースワップのポジティブな効果を実証した。
【0111】
図14は、実施例VIにおけるHB135によって生成されるオリベトールと比較した、実施例VIIからのHB137(「オリベトール HB137」)及びHB138(「オリベトール HB138」)によって生成されるオリベトール)の濃度を示す。
【0112】
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【0113】
配列
以下の配列は、この出願と共に電子的に提出されるが、本発明にも含まれる。
【表5-1】
【表5-2】
【表5-3】
【表5-4】
【表5-5】
【表5-6】
【表5-7】
【表5-8】
【表5-9】
【表5-10】
【表5-11】
【表5-12】
【表5-13】
【表5-14】
【表5-15】
【0114】
【0115】
【表5-17】
【表5-18】
【表5-19】
【表5-20】
【表5-21】
【表5-22】
【表5-23】
【表5-24】
【表5-25】
【表5-26】
【表5-27】
【表5-28】
【表5-29】
【表5-30】
【表5-31】
【表5-32】
【表5-33】
【表5-34】
【表5-35】
【表5-36】
【表5-37】
【表5-38】
【表5-39】
【表5-40】
【表5-41】
【表5-42】
【表5-43】
【表5-44】
【表5-45】
【表5-46】
【表5-47】
【表5-48】
【表5-49】
【表5-50】
【表5-51】
【表5-52】
【表5-53】
【表5-54】
【表5-55】
【0116】
単なる例
先行する記載において、説明を目的として、実施形態の全体的理解をもたらすために多数の詳細が示されている。しかし、これらの具体的詳細が必要とされないことは当業者にとって明らかであろう。
【0117】
上述の実施形態は、単なる例であることを意図する。本明細書に添付された特許請求の範囲によってのみ定義される範囲を逸脱することなく、当業者によって、特定の実施形態に対する変更、修正及びバリエーションが実行され得る。
【配列表】