(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-19
(45)【発行日】2022-10-27
(54)【発明の名称】アンテナ装置
(51)【国際特許分類】
H01Q 1/22 20060101AFI20221020BHJP
H01Q 1/32 20060101ALI20221020BHJP
【FI】
H01Q1/22 Z
H01Q1/32 Z
(21)【出願番号】P 2020092134
(22)【出願日】2020-05-27
【審査請求日】2021-04-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000165848
【氏名又は名称】原田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002273
【氏名又は名称】特許業務法人インターブレイン
(72)【発明者】
【氏名】工藤 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】小林 龍治
【審査官】佐藤 当秀
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/082447(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 1/00- 3/46
H01Q 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラウンド領域を有するベースプレートと、
前記ベースプレートに設けられるパッチアンテナと、
を備え、
前記パッチアンテナは、
前記ベースプレートに対し、前端側が近接し、後端側に向けて離間するように傾斜配置されたグラウンドエレメントと、
前記グラウンドエレメントとほぼ平行に延在するアンテナエレメントと、
前記アンテナエレメントの前端から延出する給電部と、
前記グラウンドエレメントの前端から延出し、前記グラウンド領域に接続するグラウンド接続部と、
を含
み、
前記給電部が1つ設けられ、その給電部を挟むように2つのグラウンド接続部が配置されていることを特徴とするアンテナ装置。
【請求項2】
前記2つのグラウンド接続部が、前記給電部に対して対称な位置に配置されていることを特徴とする
請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項3】
前記アンテナエレメントおよび前記グラウンドエレメントが、それぞれ角形状の導体板であることを特徴とする
請求項1又は2に記載のアンテナ装置。
【請求項4】
前記グラウンド接続部が前記給電部よりも太いことを特徴とする
請求項1~3のいずれかに記載のアンテナ装置。
【請求項5】
前記グラウンドエレメントは、
前記アンテナエレメントよりも前後方向に長く、
前記アンテナエレメントと平行な第1面と、前記第1面に対して角度なす第2面とを有することを特徴とする
請求項1~4のいずれかに記載のアンテナ装置。
【請求項6】
前記第2面が前記グラウンドエレメントの後端部に設けられていることを特徴とする
請求項5に記載のアンテナ装置。
【請求項7】
前記グラウンドエレメントが、前端側に前記ベースプレートと平行な面を有することを特徴とする
請求項5又は6に記載のアンテナ装置。
【請求項8】
グラウンド領域を有するベースプレートと、
前記ベースプレートに設けられるパッチアンテナと、
を備え、
前記パッチアンテナは、
前記ベースプレートに対し、前端側が近接し、後端側に向けて離間するように傾斜配置されたグラウンドエレメントと、
前記グラウンドエレメントとほぼ平行に延在するアンテナエレメントと、
前記アンテナエレメントの前端から延出する給電部と、
前記グラウンドエレメントの前端から延出し、前記グラウンド領域に接続するグラウンド接続部と、
を含み、
前記ベースプレートが回路基板であり、
前記回路基板に電話用アンテナエレメントが設けられ、
前記アンテナエレメントが前記電話用アンテナエレメントよりも相対的に前方に位置することを特徴とす
るアンテナ装置。
【請求項9】
前記電話用アンテナエレメントは、前記回路基板の上方の所定の高さ位置で後方に延びる第1延在部と、前記第1延在部と連続して前方に延びる第2延在部とを有し、
前記第2延在部の先端が開放された開放部とされ、
前記開放部が前記第1延在部よりも前記アンテナエレメントから離隔していることを特徴とする
請求項8に記載のアンテナ装置。
【請求項10】
グラウンド領域を有する回路基板であるベースプレートと、
前記ベースプレートに設けられる第1パッチアンテナと、
前記回路基板と平行な第2パッチアンテナと、
を備え、
前記第1パッチアンテナは、
前記ベースプレートに対し、前端側が近接し、後端側に向けて離間するように傾斜配置されたグラウンドエレメントと、
前記グラウンドエレメントとほぼ平行に延在するアンテナエレメントと、
前記アンテナエレメントの前端から延出する給電部と、
前記グラウンドエレメントの前端から延出し、前記グラウンド領域に接続するグラウンド接続部と、
を含み、
前記第1パッチアンテナの周波数帯域が、前記第2パッチアンテナの周波数帯域よりも高く、
前記第1パッチアンテナが前記第2パッチアンテナよりも前側に配置されていることを特徴とす
るアンテナ装置。
【請求項11】
前記第1パッチアンテナおよび前記第2パッチアンテナの各給電ラインが接続されるコネクタが、前記給電部の近傍に設けられていることを特徴とする
請求項10に記載のアンテナ装置。
【請求項12】
前記給電部と前記グラウンド接続部との距離は、前記グラウンドエレメントの側端と前記グラウンド接続部との距離よりも小さいことを特徴とする請求項1~11のいずれかに記載のアンテナ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パッチアンテナのアース構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の高性能化やデザイン性の向上に伴い、共通の筐体に複数のアンテナを収容したアンテナ装置が普及している(例えば特許文献1参照)。近年の車両には、位置情報を提供するGPS(Global Positioning System)、ITS(Intelligent Transport Systems)を実現するためのETC(Electronic Toll Collection System)やVICS(Vehicle Information and Communication System)などの各用途に対応したアンテナが標準装備されつつある。それらの複数のアンテナが一つの筐体に収容されている。なお、ETCおよびVICSは登録商標であるが、以下の説明においてはその表記を省略する。
【0003】
特許文献1に記載のアンテナ装置では、共通の筐体にETC用の第1アンテナとGPS用の第2アンテナが収容されている。いずれのアンテナも、いわゆるパッチアンテナからなる。第1アンテナには、車両前方のインフラ(路側機)との通信のために前方への指向性が求められる。一方、第2アンテナには、車両上方のインフラ(衛星)からの電波を受信するために天頂方向を中心とする広範囲の指向性が求められる。このため、筐体に対して第2アンテナを水平に配置し、第1アンテナを水平方向に対して傾斜配置している。
【0004】
このように一つの筐体に複数のアンテナを収容する場合、筐体内の省スペース化を図る必要もある。そこで、外部機器と接続するための共用のコネクタを一つの回路基板に設け、仰角が必要なアンテナのエレメントをこれと分離する構成も提案されている(例えば特許文献2参照)。
【0005】
特許文献2に記載のアンテナ装置では、回路基板に第2アンテナを設け、第1アンテナのエレメントを分離させている。そのエレメントと回路基板とを同軸ケーブルで接続している。同軸ケーブルの内部導体が給電に、外部導体が接地に用いられている。回路基板に設けられたアース配線と、第1アンテナのエレメントに設けられたアース点とがそのグラウンドラインで接続される。さらに、第1アンテナのエレメントに設けられたもう一つのアース点と回路基板のアース配線とを接続する補助アースケーブルが設けられる。これら同軸ケーブルと補助アースケーブルとを回路基板の中心線に対して概ね対称に配置することで、第1アンテナにおける指向性の歪みを緩和している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2011-130115号公報
【文献】特開2015-185908号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、パッチアンテナは放射素子(アンテナエレメント)と地板(グラウンドエレメント)がともに方形等で対称形状となっている場合に良好な指向性が得られる。この点、上記のように第1アンテナのグラウンドラインがケーブルで構成されると、地板部分が不自然な形状で延長された状態となり、その対称性を確保し難い。その結果、アンテナの指向性が左右にアンバランスとなるなど、改善の余地があった。
【0008】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、その目的の1つは、パッチアンテナを含むアンテナ装置において、その指向性を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のある態様は、アンテナ装置である。このアンテナ装置は、グラウンド領域を有するベースプレートと、ベースプレートに設けられるパッチアンテナとを備える。パッチアンテナは、グラウンドエレメント、アンテナエレメント、給電部およびグラウンド接続部を含む。グラウンドエレメントは、ベースプレートに対し、前端側が近接し、後端側に向けて離間するように傾斜配置される。アンテナエレメントは、グラウンドエレメントとほぼ平行に延在する。給電部は、アンテナエレメントの前端から延出する。グラウンド接続部は、グラウンドエレメントの前端から延出し、グラウンド領域に接続する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、パッチアンテナを含むアンテナ装置において、その指向性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態に係るアンテナ装置の分解斜視図である。
【
図3】アンテナ装置の内部構造を表す中央縦断面図である。
【
図4】ETCアンテナおよびその周辺の構造を詳細に表す図である。
【
図6】ETCアンテナの位置による放射パターンへの影響を表す図である。
【
図7】ETCアンテナの位置による放射パターンへの影響を表す図である。
【
図8】TELアンテナの形状による放射パターンへの影響を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施形態およびその変形例について、ほぼ同一の構成要素については同一の符号を付し、その説明を適宜省略する。
【0013】
本実施形態では、パッチアンテナを備える車両用アンテナ装置(以下、単に「アンテナ装置」という)を例示する。このパッチアンテナは、車両前方の路側機と通信するために前方への指向性を要するため、アンテナエレメントが水平面に対して傾斜配置されている。このパッチアンテナの指向性を向上させるために、グラウンドの接続構造が工夫されている。以下、その詳細について説明する。
【0014】
図1は、実施形態に係るアンテナ装置の分解斜視図である。なお、以下の説明では便宜上、アンテナ装置における位置関係について、車両搭載状態を基準に前後、上下、幅方向を表現することがある。
【0015】
アンテナ装置1は、複数のアンテナを含むアンテナユニット10と、アンテナユニット10が取り付けられるベースプレート12と、ベースプレート12との間にアンテナユニット10を収容するカバー14を備える。アンテナユニット10は、回路基板16にETCアンテナ18、GPSアンテナ20およびTELアンテナ22を搭載して構成される。回路基板16は「ベースプレート」として機能する。
【0016】
ETCアンテナ18はETC用のアンテナであり「第1パッチアンテナ」として機能する。GPSアンテナ20はGPS用のアンテナであり「第2パッチアンテナ」として機能する。TELアンテナ22は電話用のアンテナであり、回路基板16に対して左右対称に配設されたメインアンテナ22aおよびサブアンテナ22bを含む。複数のTELアンテナ22を設けることで、LTE(Long Term Evolution)およびMIMO(Multiple Input Multiple Output)に対応できるようにしたものである。回路基板16の前端部下面には、各アンテナの給電ポートを有するコネクタ24が突設されている。
【0017】
ベースプレート12は金属からなり、その前端部に挿通孔26を有する。カバー14は、電波透過性の樹脂(例えばABS、PET、PC等)からなる。コネクタ24を挿通孔26に挿通させつつアンテナユニット10をベースプレート12に取り付け、一対のねじ28により両者を固定する。さらに、アンテナユニット10を上方から覆うようにカバー14をベースプレート12に取り付け、一対のねじ30により両者を固定することでアンテナ装置1が得られる。アンテナ装置1は、図示しない車両のダッシュボード等に取り付けられる(特許文献2等参照)。
【0018】
図2は、アンテナユニット10の構成を表す図である。
図2(A)は上方(斜め前方)からみた斜視図であり、
図2(B)は下方(斜め後方)からみた斜視図である。
図2(A)に示すように、回路基板16はプリント配線基板であり、その前半部の幅が後半部の幅よりも大きい。回路基板16は、中心線Lに対して対称な形状を有する。回路基板16の表面にグラウンド領域17が設けられている。
【0019】
回路基板16の表面側にETCアンテナ18、GPSアンテナ20およびTELアンテナ22が設けられている。ETCアンテナ18およびGPSアンテナ20は、回路基板16の中心線Lに沿って前後に配置されている。ETCアンテナ18の周波数帯域は、GPSアンテナ20周波数帯域よりも高い。本実施形態において、前者は5.8GHz帯、後者は1.5GHz帯である。一対のTELアンテナ22は、ETCアンテナ18を挟んで左右両サイドに配置されている。TELアンテナ22の中心周波数は、例えば800MHz、1.7GHz、2.6GHzなど任意に選択できる。
【0020】
ETCアンテナ18は、アンテナエレメント32およびグラウンドエレメント34を含む。グラウンドエレメント34は、角形状の導体板であり、回路基板16に対し、前端側が近接し、後端側に向けて離間するように傾斜配置されている。アンテナエレメント32は、角形状の導体板であり、放射電極を構成する。アンテナエレメント32は、グラウンドエレメント34の直上にほぼ平行に延在する。
【0021】
ETCアンテナ18は、一点給電型の円偏波パッチアンテナである。このため、アンテナエレメント32の角部が縮退分離素子として切り欠かれている。アンテナエレメント32の前端から下方に向けて給電部36が延出している。給電部36の基端は、アンテナエレメント32の中心線上に位置する。給電部36は、回路基板16に形成された挿通孔38を貫通し、回路基板16の裏面に実装された給電ライン(図示せず)に接続されている。
【0022】
グラウンドエレメント34の前端から下方に向けて一対のグラウンド接続部40が延出している。一対のグラウンド接続部40によりグラウンドエレメント34の前端中央部が二股形状となっている。これらのグラウンド接続部40は、給電部36を挟むように左右に配設され、それぞれ回路基板16のグラウンド領域17に接続されている。なお、アンテナエレメント32は挿通孔38に挿通されているため、グラウンド領域17には接触しない。
【0023】
GPSアンテナ20は、ETCアンテナ18の後方に配設されている。GPSアンテナ20は、誘電体型パッチアンテナであり、誘電体層の表面に放射電極を配置して構成される。その放射電極は、回路基板16と平行に設けられている。放射電極には給電点が設けられる。誘電体層を貫通する挿通孔が設けられ、回路基板16の裏面に設けられた給電ラインと給電点とをつなぐ給電ピンが挿通されている。本実施形態では、GPSアンテナ20として一点給電型の円偏波パッチアンテナを採用するが、二点給電型のパッチアンテナとしてもよい。なお、GPSアンテナ20については公知のパッチアンテナが採用されるため、その詳細な説明は省略する。
【0024】
TELアンテナ22は、導体板を所定形状に打ち抜き、曲げ成形して得られたアンテナエレメント42を有する。アンテナエレメント42は、回路基板16の上方の所定の高さ位置に設けられる。アンテナエレメント42の前端から下方に向けて給電部44が延出し、回路基板16に接続されている。より詳細には、アンテナエレメント42は、回路基板16の上方で後方に延びる第1延在部46と、第1延在部46の先端から折り返すように連続し、前方に延びる第2延在部48を有する。第2延在部48の先端は開放部50とされている。
【0025】
図示のように、アンテナエレメント42は平面視内巻き形状を有し、開放部50が第1延在部46よりも中心線Lから離隔している。すなわち、アンテナエレメント42は、その先端がETCアンテナ18から離隔する形状を有する。また、アンテナエレメント32がアンテナエレメント42よりも相対的に前方に位置する。このような配置構成により、ETCアンテナ18とTELアンテナ22の各放射エリアが互いに干渉し難くされている。詳細については後述する。
【0026】
図2(B)に示すように、回路基板16の裏面には、その幅方向中央を前後にわたって覆うようにシールドケース52が設けられる。回路基板16の裏面におけるシールドケース52の内側には、GPSアンテナ20の増幅回路が設けられている(図示せず)。これらの増幅回路は、LNA(Low Noise Amplifier)であり、各給電ライン(図示せず)の一部を構成する。
【0027】
シールドケース52は金属からなり、増幅回路からの不要な輻射を遮断する。なお、シールドケース52は、各アンテナのアースをとるためのグラウンド領域としても機能する。シールドケース52の底面の数箇所が切り起こされ、ばね性を有する導通片54を形成している。これらによるアース構造の詳細については後述する。
【0028】
回路基板16におけるシールドケース52の左右両サイドには、挿通孔56が設けられている。TELアンテナ22の給電部44が挿通孔56を貫通し、回路基板16の裏面側に露出している。給電部44は、回路基板16の裏面に実装された給電ライン(図示略)に半田付けされている。各アンテナの給電ラインは、回路基板16の裏面にマイクロストリップラインとして設けられ、コネクタ24の各給電ポートに接続されている。
【0029】
図3は、アンテナ装置1の内部構造を表す中央縦断面図であり、
図2に示した中心線Lを含む断面を示す。
回路基板16の前部には、支持台60が設けられている。支持台60がETCアンテナ18を下方から支持する。支持台60は、樹脂等の絶縁体からなり、回路基板16に固定されている。支持台60は傾斜面61を有する。その傾斜面61には、高さが異なる支持部64,66がそれぞれ複数突設されている。支持部64の高さは、支持部66の高さよりも小さい。
【0030】
本実施形態では3つの支持部64を設け、それらによりグラウンドエレメント34を下方から3点支持する。また、3つの支持部66を設け、それらによりアンテナエレメント32を下方から3点支持する。各支持部66は、グラウンドエレメント34を貫通する。
【0031】
このようにアンテナエレメント32およびグラウンドエレメント34を複数の支持部で支持することにより両エレメント間をエアギャップとしてパッチアンテナを構成している。それにより、各エレメントの大きさを確保するとともに誘電体ロスを小さくし、ETCアンテナ18の利得の底上げを図っている。
【0032】
アンテナエレメント32およびグラウンドエレメント34の傾斜角度は、回路基板16に対する傾斜面61の角度に等しく、本実施形態では約23度である。なお、支持部の数や配置は、アンテナの特性を良好に保てるよう任意に選択できる。コネクタ24は、給電部36の近傍に設けられている。
【0033】
回路基板16のグラウンド領域17は、シールドケース52に接続されている。ベースプレート12とカバー14とが締結されることで、複数の導通片54がベースプレート12に当接し、シールドケース52とベースプレート12とが導通する。
【0034】
図4は、ETCアンテナ18およびその周辺の構造を詳細に表す図である。
図4(A)は、アンテナユニット10とベースプレート12との組立体(以下、「アンテナベースユニット13」ともいう)を表す斜視図である。
図4(B)は、ETCアンテナ18およびその周辺を表す正面図である。
図4(C)は、
図4(B)のA-A矢視断面図である。
【0035】
図4(A)に示すように、ベースプレート12は回路基板16よりも相当大きい。このため、アンテナベースユニット13全体としてグラウンド領域を十分に確保できる。
【0036】
図4(B)に示すように、2つのグラウンド接続部40は、給電部36に対して対称な位置に配置されている。本実施形態では、これらのグラウンド接続部40が給電部36の中心線に対して対称な形状を有する。グラウンド接続部40と給電部36が互いに平行に延び、回路基板16に対して垂直に接続する。なお、変形例においては、グラウンド接続部40および給電部36の少なくともいずれかを回路基板16に対して傾斜配置してもよい。
【0037】
グラウンド接続部40は、給電部36よりも太い(断面が大きい)。給電部36とグラウンド接続部40との距離は、グラウンドエレメント34の側端とグラウンド接続部40との距離よりも小さい。すなわち、一対のグラウンド接続部40は、グラウンドエレメント34の中央寄りに設けられ、給電部36の近傍に位置する。言い換えれば、グラウンド接続部40の両サイド(給電部36とは反対側部分)においては、グラウンドエレメント34とグラウンド領域17との間に所定の隙間Δhが形成される。グラウンド接続部40の幅は、その隙間Δhよりも大きい。
【0038】
図4(C)にも示すように、グラウンドエレメント34は、アンテナエレメント32よりも前後方向に長い。グラウンドエレメント34は、長方形状の導体板を長手方向の複数箇所で曲げ成形して得られる。グラウンドエレメント34は、アンテナエレメント32と平行な第1面70と、後端部に設けられた第2面72と、前端部に設けられた第3面74を有する。第2面72は、第1面70の後端に連設され、第1面70に対してやや上向きの角度なす。つまり、第2面72は、第1面70よりも前傾している。第3面74は、第1面70の前端に連設され、回路基板16と平行に延在する。グラウンド接続部40は、その第3面74の前端に連設されている。第2面72および第3面74は、第1面70と比較して前後方向の長さが十分に小さい。第2面72の長さおよび角度を調整することにより、ETCアンテナ18の指向性(電波の放射パターン)を調整できる。
【0039】
次に、ETCアンテナ18の特性を解析した結果について説明する。
図5は、電波の放射パターンを表す図である。
図5(A)は本実施形態のアンテナエレメント32(
図4(B)参照)による放射パターンを示し、
図5(B)は比較例1のアンテナエレメントによる放射パターンを示す。比較例1は、本実施形態においてグラウンド接続部40を省略したものである。各図の上段は放射パターンの指向性(利得)を三次元表示したものであり、下段はその二次元表示である。各図の上方(下段の0度)が車両前方、下方(下段の180度)が車両後方に対応する。
【0040】
本実施形態では、前方斜め上方に向けて左右にバランスの良い放射パターンが得られている(
図5(A))。これに対し、比較例1では、前方斜め上方向にピークが得られていない(
図5(B))。すなわち、本実施形態によれば、回路基板16のグラウンド領域17とグラウンドエレメント34とを接続することで、ETCアンテナ18(パッチアンテナ)の指向性(電波の放射パターン)が良好となることが分かる。
【0041】
図6および
図7は、ETCアンテナの位置による放射パターンへの影響を表す図である。なお、以下の解析では便宜上、GPSアンテナ20を省略している。
図6はTELアンテナを設けた場合を示す。
図6(A)は、ETCアンテナをTELアンテナよりも相対的に前方に配置した場合(本実施形態)を示す。
図6(B)は、ETCアンテナをTELアンテナよりも相対的に後方に配置した場合(比較例2)を示す。
【0042】
一方、
図7はTELアンテナを設けない場合を示す。
図7(A)は、ETCアンテナをTELアンテナよりも相対的に前方に配置した場合(比較例3)を示す。
図7(B)は、ETCアンテナをTELアンテナよりも相対的に後方に配置した場合(比較例4)を示す。各図の上段はアンテナの配置構成を示し、下段はETCアンテナの放射パターンの解析結果を示す。
【0043】
本解析結果によれば、TELアンテナを設ける場合、比較例2においてETCアンテナの放射パターンに変形(劣化)がみられるところ(
図6(B))、本実施形態では良好な放射パターンが得られている(
図6(A))。TELアンテナを設けない場合、ETCアンテナを前方に設けた比較例3と後方に設けた比較例4のいずれも、良好な形状の放射パターンが得られている(
図7(A),(B))。
【0044】
比較例2と比較例4とを対比すると(
図6(B),
図7(B))、比較例4のほうが良好な放射パターンが得られている。このことから、TELアンテナの存在がETCアンテナの放射パターンに影響を及ぼしていることが分かる。ETCアンテナの電波放射方向(いわゆる見通しエリア)にTELアンテナが存在することで放射パターンを劣化させるものと考えられる。
【0045】
この点、本実施形態と比較例3とを対比すると(
図6(A),
図7(A))、本実施形態ではTELアンテナが存在するものの、TELアンテナを有しない比較例3と同程度に良好な放射パターンが得られている。ETCアンテナの電波放射方向(見通しエリア)にTELアンテナが存在しないことで、放射パターンの劣化が防止されているものと考えられる。すなわち、本実施形態によれば、ETCアンテナ18をTELアンテナ22よりも相対的に前方に配置したことで、放射パターンを良好な状態に維持できる。
【0046】
図8は、TELアンテナの形状による放射パターンへの影響を表す図である。
図8(A)は、TELアンテナのアンテナエレメントを内巻き形状とした場合(本実施形態)を示す。
図8(B)は、TELアンテナのアンテナエレメントを外巻き形状とした場合(比較例5)を示す。ここで、「内巻き形状」とは、アンテナエレメントが回路基板の内側寄りに巻き始め、アンテナエレメントの先端(開放部)がETCアンテナから離隔する巻き形状を意味する。一方、「外巻き形状」とは、アンテナエレメントが回路基板の外側寄りに巻き始め、アンテナエレメントの先端(開放部)がETCアンテナに近接する巻き形状を意味する。各図の上段はアンテナの配置構成を示し、下段はETCアンテナの放射パターンを示す。
【0047】
本解析結果によれば、内巻き形状を採用する本実施形態のほうが、外巻き形状を採用する比較例5よりも良好な放射パターンが得られている。比較例5のようにアンテナエレメント23を外巻きとした場合、ETCアンテナ18の電流が結合し易く、強い電流分布となり易い。その結果、不要な放射が発生し放射パターンを劣化させ易くなると考えられる。この点、本実施形態ではアンテナエレメント22を内巻きとしたため、放射パターンを良好に維持できる。
【0048】
すなわち、本実施形態では、ETCアンテナ18をTELアンテナ22よりも相対的に前方に配置することで「見通しエリア」を確保し、さらにTELアンテナ22のアンテナエレメントを内巻きとすることで、両アンテナのそれぞれにおいて電流分布の強い箇所が互いに近づかないようにしている。それにより、各電波について良好な放射パターンを維持している。
【0049】
以上に説明したように、本実施形態では、ETCアンテナ18について、回路基板16にグラウンドエレメント34を傾斜配置し、アンテナエレメント32をグラウンドエレメント34とほぼ平行に延在させ、さらにグラウンドエレメント34をラウンド領域17に接続することで指向性を担保している。アンテナエレメント32およびグラウンドエレメント34のいずれも、それらの前端が回路基板16に近接する。そして特に、アンテナエレメント32の前端から給電部36が延出して回路基板16の給電ラインに接続する。
【0050】
このため、本実施形態によれば、同軸ケーブルにてアンテナエレメントと回路基板とを接続する従来構成と比較して給電部36を短くでき、電波の伝送ロスを抑制できる。このような伝送ロスは一般に、電波の周波数が高くなるほど大きくなることが知られている。この点、本実施形態では回路基板16において、相対的に周波数が高いETCアンテナ18を、相対的に周波数が低いGPSアンテナ20よりも前側に配置し、給電部36をコネクタ24の近傍に配置している。このことが、伝送ロスの抑制により一層寄与している。
【0051】
また、グラウンドエレメント34の前端からグラウンド接続部40が延出して回路基板16のグラウンド領域17に接続する。それによりグラウンド接続部40を短くできるため、グラウンドエレメント34全体として対称性を担保し易い。その結果、良好な指向性を得ることができる。
【0052】
より具体的には、一対のグラウンド接続部40が給電部36を挟むように配置されているため、左右のグラウンドラインの対称性を確保しやすい。特にそれらのグラウンド接続部40を給電部36に対して対称な位置に配置することが、その対称性の確保に寄与している。その結果、上記解析結果からも分かるように、良好な放射パターンが得られる。すなわち、本実施形態によれば、パッチアンテナを含むアンテナ装置1において、その指向性を向上させることができる。
【0053】
また、給電部36がアンテナエレメント32の一部であり、グラウンド接続部40がグラウンドエレメント34の一部であることから、アンテナエレメント32およびグラウンドエレメント34がそれぞれ回路基板16に直接接続されることとなる。このため、本実施形態によれば、同軸ケーブルにてアンテナエレメントと回路基板とを接続する従来構成と比較して部品点数を少なくでき、コスト上のメリットも得られる。
【0054】
さらに、本実施形態では、ETCアンテナ18をTELアンテナ22よりも相対的に前方に配置することで、ETCアンテナ18による電波の放射パターンを良好に維持できる。言い換えれば、ETCアンテナ18の放射パターンがTELアンテナ22の影響を受け難く、その電気的特性を安定に維持し易い。このため、例えばTELアンテナ22について対応周波数を変更するために形状調整をするなどの必要が生じても対処し易いといったメリットもある。
【0055】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はその特定の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術思想の範囲内で種々の変形が可能であることはいうまでもない。
【0056】
上記実施形態では、給電部36をアンテナエレメント32に一体成形する例を示したが、配線にて構成してもよい。また、グラウンド接続部40をグラウンドエレメント34に一体成形する例を示したが、配線にて構成してもよい。アンテナエレメント32およびグラウンドエレメント34のいずれも、その前端が回路基板16の表面に近接するため、配線は短くなる。このような構成を採用しても良好な利得性能を期待できる。
【0057】
上記実施形態では、アンテナ装置1において、ETCアンテナ18とは指向性が異なるGPSアンテナ20およびTELアンテナ22を設ける例を示した。変形例においては、GPSアンテナ20およびTELアンテナ22のいずれか一方又は双方を省略してもよい。あるいは、これらのいずれか一方又は双方に代えて他のアンテナを配置してもよい。これらの双方に加えて他のアンテナを配置してもよい。
【0058】
上記実施形態では、回路基板16の表面にグラウンド領域17が設けられる一方、裏面に給電ラインが設けられ、表裏を貫通する挿通孔38が設けられる構成を例示した。アンテナエレメント32の給電部36が、挿通孔38を貫通して裏面の給電ラインに接続される。変形例においては、回路基板16の表面に給電ラインの少なくとも一部が設けられ、給電部36が接続されてもよい。その場合、挿通孔38は不要となる。その給電ラインの両サイドにグラウンド領域17を形成してもよい。
【0059】
上記実施形態では、アンテナエレメント32およびグラウンドエレメント34がそれらの中心線に対して概ね対称形状であることから、給電部36およびグラウンド接続部40をその中心線に対して対称に配設する例を示した。アンテナエレメント32およびグラウンドエレメント34のいずれかが中心線に対して非対称形状を有する場合、それに対応して給電部36およびグラウンド接続部40の配置を中心線に対して非対称とし、放射パターンのバランスを調整してもよい。
【0060】
上記実施形態では、ベースプレート12を導電体とし、グラウンド領域17と接続してグラウンド領域を構成する(つまりアースプレートとする)例を示した。変形例においては、ベースプレート12をグラウンド領域17とは電気的に接続せず、単なる蓋体として構成してもよい。あるいは逆に、別途蓋体を設け、カバー14との間にアンテナユニット10およびベースプレート12(アースプレート)を収容してもよい。その場合、回路基板16のグラウンド領域17よりもベースプレート12を大きくするのが好ましいが、ベースプレート12の形状および大きさについては適宜選択できる。あるいは、回路基板16を大きくして蓋体としても機能させ、ベースプレート12を省略してもよい。
【0061】
上記実施形態では述べなかったが、グラウンドエレメント34の前端におけるグラウンド接続部40の位置や幅(太さ)によってETCアンテナ18の利得性能を調整することができるため、その位置や幅については適宜設定可能である。
【0062】
上記実施形態では、回路基板16にコネクタ24を配設し、給電ラインを接続する構成を例示した。変形例においては、コネクタに代えてピッグテール等のケーブルを設けてもよい。
【0063】
上記実施形態では、ETCアンテナ18をTELアンテナ22よりも相対的に前方に配置することでETCアンテナ18の見通しエリアを確保する例を示した(
図2等参照)。変形例においては、アンテナエレメント42の高さを調整することで(低くするなどして)、ETCアンテナ18の見通しエリアを確保してもよい。
【0064】
上記実施形態では、ETCアンテナ18の前半部をTELアンテナ22よりも前方に配置したが、ETCアンテナ18の全体をTELアンテナ22より前方に配置してもよい。ETCアンテナ18の少なくとも一部をTELアンテナ22よりも前方に配置することで、ETCアンテナ18の見通しエリアを確保できればよい。
【0065】
上記実施形態では、パッチアンテナ(ETCアンテナ18)を回路基板に設け、グラウンドエレメントを回路基板のグラウンド領域に接続する構成を例示した。変形例においては、金属板や導電性樹脂板等の導体板を「ベースプレート」とし、これにグラウンドエレメントを接続してもよい。すなわち、「グラウンド領域を有するベースプレート」は、回路基板であってもよいし、回路が実装されない導体板であってもよい。なお、「ベースプレート」は、その表面および裏面の一方又は双方に凹凸形状を有するものを含みうることは言うまでもない。
【0066】
上記実施形態では、アンテナエレメントを金属からなるものとしたが、導電樹脂その他の導電性材料からなるものとしてもよい。
【0067】
上記実施形態では、アンテナ装置をダッシュボードに設置するものとして説明したが、車体のその他の位置に設置してもよい。また、船舶その他の移動手段に設置されるアンテナ装置としてもよい。
【0068】
なお、本発明は上記実施形態や変形例に限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化することができる。上記実施形態や変形例に開示されている複数の構成要素を適宜組み合わせることにより種々の発明を形成してもよい。また、上記実施形態や変形例に示される全構成要素からいくつかの構成要素を削除してもよい。
【符号の説明】
【0069】
1 アンテナ装置、10 アンテナユニット、12 ベースプレート、13 アンテナベースユニット、14 カバー、16 回路基板、17 グラウンド領域、18 ETCアンテナ、20 GPSアンテナ、22 TELアンテナ、24 コネクタ、26 挿通孔、28 ねじ、30 ねじ、32 アンテナエレメント、34 グラウンドエレメント、36 給電部、38 挿通孔、40 グラウンド接続部、42 アンテナエレメント、44 給電部、46 第1延在部、48 第2延在部、50 開放部、52 シールドケース、54 導通片、56 挿通孔、60 支持台、70 第1面、72 第2面、74 第3面。