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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-19
(45)【発行日】2022-10-27
(54)【発明の名称】印刷用ブランケット
(51)【国際特許分類】
   B41N 10/04 20060101AFI20221020BHJP
   B41F 17/22 20060101ALI20221020BHJP
   B41M 1/28 20060101ALI20221020BHJP
   B41M 1/02 20060101ALI20221020BHJP
【FI】
B41N10/04
B41F17/22
B41M1/28
B41M1/02
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020163137
(22)【出願日】2020-09-29
(62)【分割の表示】P 2016210125の分割
【原出願日】2016-10-27
(65)【公開番号】P2021011113
(43)【公開日】2021-02-04
【審査請求日】2020-10-05
(73)【特許権者】
【識別番号】521469760
【氏名又は名称】アルテミラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109911
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義仁
(74)【代理人】
【識別番号】100071168
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 久義
(74)【代理人】
【識別番号】100099885
【弁理士】
【氏名又は名称】高田 健市
(72)【発明者】
【氏名】氏家 秀明
(72)【発明者】
【氏名】勝城 直哉
(72)【発明者】
【氏名】荒川 智弘
(72)【発明者】
【氏名】橋本 信悟
(72)【発明者】
【氏名】戸島 斉
【審査官】小宮山 文男
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-119455(JP,A)
【文献】特開平09-076658(JP,A)
【文献】特表2016-523741(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0183211(US,A1)
【文献】特開平03-061574(JP,A)
【文献】特開2002-292824(JP,A)
【文献】特開2015-080891(JP,A)
【文献】特開2012-176619(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41N 10/04
B41F 17/22
B41M 1/28
B41M 1/02
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷版から転写されたインキを被印刷体に転写することによって、被印刷体に所定の印刷パターンを印刷するようにした印刷用ブランケットであって、
少なくとも一部の領域が他の領域に対し異なる材質によって構成され、
前記一部の領域は、凹凸が形成された凹凸領域を含み、
前記一部の領域は、前記他の領域と比較して高い硬度に形成され
前記凹凸領域は、切削加工によって形成されていることを特徴とする印刷用ブランケット。
【請求項2】
前記他の領域はベタ印刷を行う領域である請求項1に記載の印刷用ブランケット。
【請求項3】
印刷版から転写されたインキを被印刷体に転写することによって、被印刷体に所定の印刷パターンを印刷するようにした印刷用ブランケットであって、
少なくとも一部の領域が他の領域に対し異なる材質によって構成され、
前記一部の領域は、凹凸が形成された凹凸領域を含み、
前記他の領域はベタ印刷を行う領域であり
前記凹凸領域は、切削加工によって形成されていることを特徴とする印刷用ブランケット。
【請求項4】
前記凹凸領域は、レーザー彫刻加工によって形成されている請求項1~3のいずれか1項に記載の印刷用ブランケット。
【請求項5】
印刷版から転写されたインキを被印刷体に転写することによって、被印刷体に所定の印刷パターンを印刷するようにした印刷用ブランケットであって、
少なくとも一部の領域が他の領域に対し異なる材質によって構成され、
前記一部の領域は、凹凸が形成された凹凸領域を含み、
前記一部の領域は、前記他の領域と比較して高い硬度に形成され
前記凹凸領域は、レーザー彫刻加工によって形成されていることを特徴とする印刷用ブランケット。
【請求項6】
前記他の領域はベタ印刷を行う領域である請求項5に記載の印刷用ブランケット。
【請求項7】
印刷版から転写されたインキを被印刷体に転写することによって、被印刷体に所定の印刷パターンを印刷するようにした印刷用ブランケットであって、
少なくとも一部の領域が他の領域に対し異なる材質によって構成され、
前記一部の領域は、凹凸が形成された凹凸領域を含み、
前記他の領域はベタ印刷を行う領域であり、
前記凹凸領域は、レーザー彫刻加工によって形成されていることを特徴とする印刷用ブランケット。
【請求項8】
印刷版と、ブランケットとを備え、前記印刷版上のインキが前記ブランケットに転写されるとともに、前記ブランケットに転写されたインキが被印刷体に転写されることによって、被印刷体に所定の印刷パターンが印刷されるようにした印刷装置であって、
前記ブランケットが、少なくとも一部の領域が他の領域に対し異なる材質によって構成され、前記一部の領域は、凹凸が形成された凹凸領域を含み、前記一部の領域は、前記他の領域と比較して高い硬度に形成される一方、
前記被印刷体は、缶入り飲料の容器に用いられるアルミニウム製またはアルミニウム合金製の缶胴によって構成されていることを特徴とする印刷装置。
【請求項9】
前記他の領域はベタ印刷を行う領域である請求項8に記載の印刷装置。
【請求項10】
印刷版と、ブランケットとを備え、前記印刷版上のインキが前記ブランケットに転写されるとともに、前記ブランケットに転写されたインキが被印刷体に転写されることによって、被印刷体に所定の印刷パターンが印刷されるようにした印刷装置であって、
前記ブランケットが、少なくとも一部の領域が他の領域に対し異なる材質によって構成され、前記一部の領域は、凹凸が形成された凹凸領域を含み、前記他の領域はベタ印刷を行う領域である一方、
前記被印刷体は、缶入り飲料の容器に用いられるアルミニウム製またはアルミニウム合金製の缶胴によって構成されていることを特徴とする印刷装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、印刷版から転写されたインキを被印刷体に転写して印刷するようにした印刷用ブランケットおよびその関連技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ビール、チューハイ等のアルコール飲料や、清涼飲料等の非アルコール系飲料が充填された缶入り飲料の容器は、2ピース缶と、3ピース缶とが主流である。2ピース缶は例えば、アルミニウム製またはアルミニウム合金製の平板をドロー&アイアニング(DI)成形して作製された有底筒状(カップ状)の底付缶胴と、その缶胴の上端開口部に嵌着される缶蓋とによって構成されている。そして2ピース缶の缶入り飲料を製造する際には、缶胴に印刷を施した後、その缶胴に飲料を充填して缶蓋を取り付けるのが通例である。なお本明細書においては、飲料を充填する前の底付の缶胴を「飲料用缶」と称し、缶入り飲料を「飲料缶」と称する場合もある。
【0003】
従来、上記2ピース缶の缶胴に印刷を行う場合主として、ブランケットを用いた周知のブランケット印刷(オフセット印刷)が採用されている。
【0004】
例えば下記特許文献1~3には缶胴にブランケット印刷を行うための印刷装置が開示されている。この印刷装置は、凸版や凹版等の印刷版と、ブランケット(ブランケットシート)とを備え、印刷版の所定位置にインキが供給されて付着するとともに、その印刷版上のインキがブランケットに転写される。さらにインキが転写されたブランケットが缶胴に接触することによって、ブランケット上のインキが被印刷体に転写される。こうして缶胴等の被印刷体に所定の図柄、文字、記号等の印刷パターンが印刷されるようになっている。
【0005】
一般にブランケット印刷においては、使用するインキの種類や、印刷パターンの種類等に応じて、複数種類の印刷版が複数設けられる一方、ブランケットも複数設けられている。そして各ブランケットに、複数種類の印刷版から順次インキが転写されて、各ブランケット毎に所定の印刷パターンが形成されるようになっている。
【0006】
通常のブランケット印刷においては、ブランケットのブランケット面全域が平坦面に形成されて、その平坦面に複数の印刷版から多種類のインキが多様な形態で転写されて印刷パターンが形成されるようになっている。これに対し、特許文献1~3に示す印刷装置のブランケットは、ブランケット面の一部に彫刻が施された彫刻領域(凹凸領域)が設けられ、その凹凸領域内においては、凸部(印刷用凸部)にのみ印刷版からインキが転写されて、その凸部上のインキが被印刷体に転写されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特表2015-526317号公報
【文献】特表2016-511175号公報
【文献】特開2015-227002号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1~3に示す従来の印刷装置においては、ブランケットに凹凸領域(彫刻領域)が含まれるため、その彫刻領域において凹凸を高精度に加工することが困難であり、所望の印刷パターンを確実に印刷できないおそれがあった。また仮にブランケットに対する加工性を優先してブランケットの材質を選択すると場合によっては、インキの転移性や再現性等が低下し、所望の印刷パターンを確実に印刷することができなくなるおそれがある。
【0009】
この発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、所望の印刷パターンを確実に印刷することができる印刷用ブランケットおよびその関連技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明は、以下の手段を備えるものである。
【0011】
[1]印刷版から転写されたインキを被印刷体に転写することによって、被印刷体に所定の印刷パターンを印刷するようにした印刷用ブランケットであって、
少なくとも一部の領域が他の領域に対し異なる材質によって構成されていることを特徴とする印刷用ブランケット。
【0012】
[2]前記一部の領域は、凹凸が形成された凹凸領域を含む前項1に記載の印刷用ブランケット。
【0013】
[3]前記凹凸領域は、切削加工によって形成されている前項2に記載の印刷用ブランケット。
【0014】
[4]前記凹凸領域は、レーザー彫刻加工によって形成されている前項2または3に記載の印刷用ブランケット。
【0015】
[5]前記一部の領域は網点印刷を行う領域であり、前記他の領域と比較して高い硬度に形成されている前項1~4のいずれか1項に記載の印刷用ブランケット。
【0016】
[6]前記他の領域はベタ印刷を行う領域である前項1~5のいずれか1項に記載の印刷用ブランケット。
【0017】
[7]印刷版と、ブランケットとを備え、前記印刷版上のインキが前記ブランケットに転写されるとともに、前記ブランケットに転写されたインキが被印刷体に転写されることによって、被印刷体に所定の印刷パターンが印刷されるようにした印刷装置であって、
前記ブランケットが前項1~6のいずれか1項に記載の印刷用ブランケットによって構成されていることを特徴とする印刷装置。
【0018】
[8]前記被印刷体は、缶入り飲料の容器に用いられるアルミニウム製またはアルミニウム合金製の缶胴によって構成されている前項7に記載の印刷装置。
【0019】
[9]印刷版と、ブランケットとを用いて、被印刷体に所定の印刷パターンを印刷するに際して、前記印刷版上のインキを前記ブランケットに転写するとともに、前記ブランケットに転写されたインキを被印刷体に転写するようにした印刷方法であって、
前記ブランケットとして前項1~6のいずれか1項に記載の印刷用ブランケットを用いるようにしたことを特徴とする印刷方法。
【発明の効果】
【0020】
発明[1]~[6]の印刷用ブランケットによれば、一部の領域をその一部の領域の諸事情に合わせて、他の領域に対して異なる材質により構成しているため、被印刷体に所望の印刷パターンを確実に印刷することができる。例えばブランケットの一部の領域にレーザー彫刻加工等による凹凸領域が含まれる場合、その一部の領域を彫刻適性に優れた材質例えば、レーザー彫刻加工等の切削加工時に、良好な切削精度が得られたり、削りカスの飛散が少なかったり、削りカスの除去が容易である材質によって構成することによって、ブランケット自体の製作を簡単かつ精度良く行うことができる。さらに他の領域を周知のブランケットと同様な材質によって構成することによって、他の領域においても従来通り、所望の印刷パターンを確実に印刷することができる。
【0021】
また本発明の印刷用ブランケットにおいて、一部の領域で網点印刷を行う場合、その一部の領域を高硬度の材質によって構成することによって、太りの発生を抑制できて、再現性が高い高精細の所望の印刷パターンを印刷することができる。さらに他の領域でベタ印刷を行う場合、その他の領域を中硬度または低硬度の材質によって構成することによって、インキの転移性を向上できて、画像のインキ濃度が十分な所望の印刷パターンを印刷することができる。
【0022】
発明[7]の印刷装置によれば、上記本発明の印刷用ブランケットを用いるものであるため、上記と同様の効果を得ることができる。
【0023】
発明[8]の印刷装置によれば、缶入り飲料の容器の缶胴に印刷するようにしているため、所望の印刷パターンが印刷されることにより購買者への訴求性が高い缶入り飲料を製造することができる。
【0024】
発明[9]の印刷方法によれば、上記本発明の印刷用ブランケットを用いるものであるため、上記と同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1図1はこの発明の実施形態である印刷用ブランケットが適用可能な印刷装置の概略構成を説明するためのブロック図である。
図2図2は実施形態のブランケットおよび印刷版を説明するためのブロック図である。
図3図3は実施形態のブランケットの材質を説明するための平面図である。
図4図4は実施形態のブランケットにおける印刷用凸部の印刷時の状態を示す図であって、図(a)は高硬度の材質を用いた場合の図、図(b)は中硬度の材質を用いた場合の図、図(c)は低硬度の材質を用いた場合の図である。
図5図5は実施形態の印刷装置において印圧を説明するためのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図1はこの発明の実施形態である印刷用ブランケットが適用可能な印刷装置の概略構成を説明するためのブロック図である。本実施形態の多柄印刷装置は、缶入り飲料(飲料缶)の容器を構成する2ピース缶におけるアルミニウム製またはアルミニウム合金製の底付缶胴(飲料用缶)Wを被印刷体とし、缶胴Wの外周面に図柄、文字、記号等の所定の印刷パターンを印刷するものである。
【0027】
図1に示すように本実施形態の印刷装置は、ブランケットホイール5と、ブランケットホイール5の外周に沿って設けられた複数の版胴6と、ブランケットホイール5に隣接する缶保持移動機構7とを備えている。
【0028】
版胴6の外周面には、缶胴Wに印刷される図柄等の印刷パターンに応じて形成された印刷版1が設けられている。本実施形態において、印刷版1は凸版によって構成されているが、凹版によって構成しても良い。版胴6は、回転自在に構成されており、図示しないインキ供給手段から版胴6の印刷版1上における画線部にインキが供給されて付着するようになっている。なおインキ供給手段は例えば、印刷銘柄毎に必要な各色のインキが充填される複数のインキ受けや、インキ受けからのインキを印刷版1に供給する複数のインキ転写ロール等によって構成されている。
【0029】
ブランケットホイール5の外周面には、印刷用のブランケット2が複数枚設けられている。各ブランケット2は、版胴6の印刷版1に接触するとともに、缶保持移動機構7に保持された缶胴Wにも接触するように構成されている。
【0030】
缶保持移動機構7は、図示しない缶胴取込手段によって取り込まれた缶胴Wに挿入されて缶胴Wを陰圧状態で回転自在に保持するマンドレル(中子)71と、マンドレル71に保持された缶胴Wを順次ブランケットホイール5側に回転移動させる回転板72とを備えている。なお、缶胴Wは印刷する前に、洗浄・乾燥される。さらに必要に応じて、無色または白色の下地塗装処理(乾燥処理も含む)が施される。
【0031】
この構成の印刷装置においては、インキ供給手段を介して各印刷版1の画線部に必要に応じて各種のインキが適宜供給されて付着するとともに、複数の印刷版1に付着したインキが、回転するブランケットホイール5上の各ブランケット2に、複数の印刷版1のインキが必要な部分に順次転写されていき、反転形状の印刷パターンが形成される。そしてブランケット2に転写された印刷パターンが、マンドレル71に保持された缶胴Wに接触して、ブランケット2に対し缶胴Wが1回転(実際は若干のオーバーラップ部を加えて1回転以上)する間に、ブランケット2上の反転形状の印刷パターンが缶胴Wの外周面に転写される。こうして缶胴Wに、複数の印刷版1のインキが必要な部分に形成された所定の印刷パターンが印刷される。
【0032】
なお、印刷後の缶胴Wに対しては、外周面にクリアー塗料が塗布され、さらに缶胴Wの底壁の接地部が塗装された後、焼付処理される。
【0033】
図2は本実施形態の印刷装置に適用された印刷版1およびブランケット2を説明するためのブロック図である。同図に示すように印刷された缶胴(印刷缶)Wは、その印刷パターンとして、丸(円)や四角等で構成される図柄(図柄パターン)4と、「A」の文字(文字パターン)45と、「B」の文字46とがある。図柄4は、塗り潰された円形の図柄内側部4aと、その図柄内側部4aの外周を取り囲むように配置された正方形の角環状の図柄外側部4bとで構成されている。
【0034】
なお後述するが、図柄4の図柄内側部4aと、図柄外側部4bとは異なる色で印刷される。さらに「A」の文字45と「B」の文字46とは異なる色で印刷されるが、各文字自体は単色で印刷される。また同図において印刷缶Wの「B」の文字はその右側の一部が死角となっている。
【0035】
図3はブランケット2の材質を説明するための平面図である。図2および図3(a)に示すように、ブランケット2は、図3のピッチが狭いハッチングで示す左側半分の領域によって構成される一部の領域(一領域)21と、ピッチが広いハッチングで示す右側半分の領域によって構成される他の領域(他領域)25とを備えている。後に詳述するように一領域21は、他領域25に対し異なる材質によって構成されている。
【0036】
ブランケット2は一般的に、上面層としてのゴム層(ラバー層)と、複数の下地層とを備えた積層体によって構成されている。本実施形態において、材質が異なると言う場合、少なくとも一部の素材が異なる場合も含まれる。例えば一領域21のゴム層の素材(成分)と、他領域25のゴム層の素材とが異なり、それ以外の層の素材が同じであっても、両領域21,25は異なる材質となる。
【0037】
ブランケット2の他領域25は、印刷缶Wの「A」「B]の文字45,46を含む領域に対応しており、この他領域25には印刷版1から「A」「B]の文字の形態でインキが転写されるように構成されている。ここで他領域25に転写されるインキの「B」の形状は、本来ならば左右が反転された形状となるが、本実施形態においては発明の理解を容易にするため、「B」の形状を反転していない通常の形状で示している。なお言うまでもなく、他領域25に転写されるインキの「A」の形状は、線対称の形状であり、缶軸方向に沿って配置されるので、図2に示すようにそのままの形状となる。
【0038】
ブランケット2の一領域21は、印刷缶Wの図柄4を含む領域に対応しており、この一領域25内には、図柄4を印刷するための凹凸領域としての彫刻領域3が設けられている。彫刻領域3には、図柄4の形状に一致するように印刷用凸部3a,3bが設けられている。
【0039】
この印刷用凸部3a,3bは、彫刻領域3内における印刷用凸部3a,3b以外の領域がレーザー彫刻加工によって切削加工(溝付け加工)されることによって凸状に形成されている。つまり印刷用凸部3a,3bは、彫刻領域3内のうち、切削加工を行わない未彫刻部として残存形成された部分である。従って印刷用凸部3a,3bの先端面(上端面)は、平坦な部分(ブランケット面)であり、インキが転写される部分となる。なおブランケット2の一領域21における彫刻領域3以外の領域は平坦な部分(ブランケット面)となっており、上記した他領域25の全域も平坦な部分(ブランケット面)となっている。
【0040】
印刷用凸部3a,3bは、図柄4に対応した形状であり、図柄内側部4aに対応する円形の凸部内側部3aと、図柄外側部4bに対応し、かつ凸部内側部3aの外周を取り囲むように配置された正方形の角環状の凸部外側部3bとによって構成されている。
【0041】
印刷版1は、第1および第2の2種類の印刷版11,12を備えている。なお本実施形態において、第1および第2印刷版11,12を含む印刷版を総称する場合、印刷版1と称している。
【0042】
本実施形態において印刷版11,12はインキを付着する部分が凸状に形成された凸版によって構成されている。第1印刷版11には、缶胴Wの「A」の文字45に対応して、「A」の形状の文字用インキ付着部15が設けられるとともに、ブランケット3の凸部内側部3aに対応して、図柄内側インキ付着部1aが設けられている。第2印刷版12には、缶胴Wの「B」の文字46に対応して、「B」の形状の文字用インキ付着部16が設けられるとともに、ブランケット3の凸部外側部3bに対応して、図柄外側インキ付着部1bが設けられている。
【0043】
ここで本実施形態においては、図柄内側インキ付着部1aは、ブランケット2の凸部外側部3bに接触することなく、凸部内側部3aに接触してインキを転写できる形状に形成されるとともに、図柄外側インキ付着部1bは、ブランケット2の凸部内側部3aに接触することなく、凸部外側部3bに接触してインキを転写できる形状に形成されている。
【0044】
具体的には、図柄内側インキ付着部1aは、ブランケット2の彫刻領域3の中央部に対応して円形に形成されるとともに、図柄外側インキ付着部1bは、図柄内側インキ付着部1aの部分を取り除いたような中央孔付きの正方形状に形成されている。換言すると図柄内側インキ付着部1aの形状と、図柄外側インキ付着部1bの形状とは相補的な関係を有している。
【0045】
なお本実施形態においては、上記インキ供給手段(図示省略)から第1印刷版11と第2印刷版12に異なる色のインキが供給されるようにしている。つまり第1印刷版11において、図柄内側インキ付着部1aと、「A」の形状の文字用インキ付着部15とは同じ色のインキが供給されるとともに、第2印刷版12において、図柄外側インキ付着部1bと、「B」の形状の文字用インキ付着部16とは同じ色のインキが供給される。さらに第1印刷版11の図柄内側インキ付着部1aに供給されるインキと、第2印刷版12の図柄外側インキ付着部1bに供給されるインキとは異なる色に設定される。
【0046】
本実施形態の印刷装置においては、上記構成の印刷版11,12およびブランケット2を備え、以下に説明するように缶胴Wに印刷処理が実施される。
【0047】
まず第1印刷版11のインキ付着部1a,15にインキ供給手段(図示省略)からインキが供給されて付着するとともに、第2印刷版12のインキ付着部1b,16にインキ供給手段(図示省略)から上記のインキとは異なる色のインキが供給されて付着する。
【0048】
続いて第1および第2印刷版11,12に付着したインキがブランケット2の印刷用凸部3a,3bおよび他領域25に順次転写される。その後、インキが転写されたブランケット2が缶胴Wに接触することによって、ブランケット2のインキが缶胴Wの外周面に転写されて、図柄4および文字45,46が印刷されて印刷缶Wが製造される。
【0049】
既述した通り、本実施形態においてはブランケット2における左側の一領域21と右側の他領域25とで材質が異なっている。本実施形態においては、各領域21,25毎にふさわしい材料を適宜選定すれば良い。例えば本実施形態において、ブランケット2における左側の一領域21には、レーザー彫刻加工によって凹凸形成される彫刻領域3が設けられるため、切削加工(彫刻)するのにふさわしい材質とすれば良い。従って本実施形態のブランケット2における一領域21を、彫刻加工時に、加工が容易であるような材質、削りカスが発生し難い材質、発生した削りカスを容易に洗浄等で除去できる材質によって構成するようにしている。また他の領域25は例えば、一般的なブランケットを構成している材質等によって構成すれば良い。
【0050】
一方、インキの転写方式には主として、網点印刷と、ベタ印刷とがあるが、網点印刷は、色調等を連続的に変化させることができ、図柄等の印刷に適しており、ベタ印刷は、インキの盛り量(インキの膜厚)が十分であり、文字や記号等の印刷に適している。このため本実施形態においては、一領域21の彫刻領域3は、図柄4を印刷するものであるから、網点印刷を採用している。また他領域25は、文字45,46を印刷するものであるから、ベタ印刷を採用している。
【0051】
本実施形態においては以下に説明するように、網点印刷を採用する一領域21を高硬度の材質により構成している。ここで本実施形態においては、ブランケット2(一領域21および他領域25)の硬度は、ブランケット2の上面層(ゴム層)単独の硬度ではなく、ブランケット全体の硬度である。
【0052】
図4は実施形態のブランケット2における印刷用凸部3a,3bの印刷時の状態を示す図であって、同図(a)は高硬度の材質を用いた場合の図、同図(b)は中硬度の材質を用いた場合の図、同図(c)は低硬度の材質を用いた場合の図である。なお各図(a)~(c)において、左側は印刷用凸部3a,3bの模式断面図であり、右側は印刷用凸部3a,3bの頂点を円形で示す模式平面図であり、この模式平面図は印刷用凸部3a,3bにおける缶胴Wとの接触面積に相当する。
【0053】
図4(a)に示すようにブランケット2の一領域21に高硬度の材質を用いた場合、印刷時の印圧が加わったとしても、印刷用凸部3a,3bはほとんど変形せず、缶胴Wとの接触面積はほとんど変わらない。
【0054】
ここで印圧とは、図5に示すようにインキ転写時におけるブランケット2と缶胴Wとの接触圧に相当する。従って印圧が同一であっても、ブランケット2の材質が柔らかい場合(低硬度の場合)には、材質が硬い場合(高硬度の場合)に比べて、ブランケット2の缶胴Wによる食い込み量Pは大きくなる。
【0055】
図4(b)に示すようにブランケット2の一領域21に中硬度の材質を用いた場合、印圧が加わると、印刷用凸部3a,3bは圧縮変形(凹み変形)しつつ、缶胴Wとの接触面積が増大する。さらに同図(c)に示すようにブランケット2の一領域21に低高度の材質を用いた場合、印圧が加わると、印刷用凸部3a,3bは大きく圧縮変形(凹み変形)し、缶胴Wとの接触面積も大きく増大する。
【0056】
一方、網点印刷において、ブランケット2から被印刷体(缶胴W)にインキが転写される際に、図4(b)(c)に示すように接触面積が大きく変化すると、転写されるインキの面積も大きくなってしまい、太り(ドットゲイン)が発生する。そうすると理論上の設計値よりも実際に印刷された図柄4の色調が大きく異なってしまい、再現性が低下するという不具合が発生する。本発明において、再現性とは、理論上の設計値と印刷された図柄4の網点との面積比に相当し、印刷された図柄4の網点の面積が理論上の設計値に対し近付く程再現性が高くなる。従って、再現性が最も高い場合には、理論上の設計値と印刷された図柄4の網点とが同じ面積となる。
【0057】
本実施形態においては既述した通り、ブランケット2における図柄等を網点印刷で印刷する領域としての一領域21には、太りが生じ難い高硬度の材質を用いている。このように網点印刷を行う一領域21に高硬度の材質を用いているため、再現性良く所望の理想的な図柄4等の印刷パターンを印刷することができる。
【0058】
なお印刷版1のインキをブランケット2に転写する場合においても、ブランケット2の硬度が低いと、版圧が加わった際に上記と同様に太りが発生するためこの点からも、ブランケット2の網点印刷を行う領域(一領域21)には、太りが生じ難い高硬度の材質を用いるのが好ましい。
【0059】
ただしブランケット2(一領域21)の硬度が高過ぎる場合具体的には、印刷版1の硬度と同等もしくはそれより大きい場合には、版圧で印刷版1が欠損するおそれがあるので、ブランケット2(一領域21)の硬度は印刷版1の硬度よりも低い方が好ましい。
【0060】
ここで版圧とは、印刷版1のインキをブランケット2に転写する際における印刷版1とブランケット2との接触圧に相当するものである。
【0061】
参考までに本実施形態において中硬度とは、一般に使用されるブランケットの硬度に相当し、この中硬度はディロメータAの測定で81°である。従って本実施形態において硬度が81°を超える場合、高硬度であり、81°に満たない場合、低硬度となる。さらに印刷版1の硬度は一般的に、ディロメータAの測定で96°~97°である。従って本実施形態においてはブランケット2の硬度を、印刷版1の硬度「96°」よりも低く設定するのが好ましい。また一般的なブランケットの全体厚さは1.95mm~2.00mmであり、そのうちゴム層(上面層)の厚さは0.26mm~0.30mmである。
【0062】
また本実施形態においては以下に説明するように、ベタ印刷を採用する他領域25を中硬度または低高度の材質により構成している。
【0063】
すなわちブランケット2の他領域25におけるベタ塗りの部分(文字15,16の部分)は、図4(b)(c)に示すように印圧が加わった際にインキが延伸することによって、ブランケット2と被印刷体(版胴W)との密着面積が大きくなるため、インキの転移量が多くなりインキの転移性が向上する。従ってベタ印刷を行う他領域25に中硬度、より好ましくは低硬度の材質を用いることによって、転移性が向上し、インキつぶれの良い(転移ムラの無い)画像のインキ濃度が十分な文字15,16等の所望の印刷パターンを印刷することができる。
【0064】
ここで網点印刷の場合には、インキを転移する面積が小さいため、インキの転移性による悪影響は小さいものの、上記太りによる悪影響は大きくなる。従って網点印刷を行うブランケット領域は既述した通り、高硬度の材質によって構成するのが好ましい。
【0065】
なお印刷版1のインキをブランケット2に転写する場合においても、ブランケット2の硬度を低くしておくと、版圧が加わった際に上記と同様に印刷版1とブランケット2との密着面積が大きくなりインキの転移量が多くなるためこの点からも、ブランケット2のベタ印刷を行う領域(他領域25)には、インキ転移性が良い中硬度または低硬度の材質を用いるのが好ましい。
【0066】
ところで本実施形態の印刷装置においては、以下の条件(1)~(4)を採用することによって、インキの転移量の増大(インキの転移性の向上)を図ることができる。
(1)版圧を大きくする。
(2)印圧を大きくする。
(3)ブランケットの硬度を低くする。
(4)インキの粘度(タック値)を小さくする。
【0067】
本実施形態においては、ブランケット2の材質を選出するに際しては、インキの転移性は必要十分であれば良くさほど重要視せず、つまり上記の条件(1)~(4)をさほど重要視せずに、ブランケット2の製作性等を重要視するのが良い。例えば既述したように所要領域(彫刻領域3)をレーザー彫刻加工等で加工するような場合の材質を選出する際には、彫刻適性や洗浄性を重要視するのが好ましい。
【0068】
なお条件(1)(2)の版圧や印圧は、印刷装置の機械精度や設定条件等によって決定されるものであり、インキの粘度(タック値)は色調と密接に関係するので、容易に変更することは困難である。ここでタック値とは、印刷インキの粘り気のことであり、タック値が大きいと転移が少なくなる。
【0069】
以上のように、本実施形態の印刷用ブランケット2によれば、一部の領域をその領域の諸事情に合わせて他の領域に対し異なる材質により構成しているため、缶胴W等の被印刷体に所望の理想的な印刷パターンを印刷することができる。具体的にはブランケット2における網点印刷を行う一領域21を高硬度の材質によって構成しているため、太りの発生が抑制されて、理論上の設計値(網点設定値)に等しくて再現性が高い高精細の図柄4等の所望の印刷パターンを印刷することができる。さらにベタ印刷を行う他領域25を中硬度または低硬度の材質によって構成しているため、インキの転移性を向上できて、インキつぶれの良い(転移ムラの無い)画像のインキ濃度が十分な文字45,46等の所望の印刷パターンを印刷することができる。
【0070】
さらにブランケット2における彫刻領域3が含まれる一領域21を、レーザー彫刻加工時に、良好な切削精度が得られたり、削りカスの飛散が少なかったり、削りカスの除去が容易である等の彫刻適性に優れた材質によって構成しているため、高精度のブランケット2を簡単かつ効率良く製作することができる。
【0071】
なお上記実施形態においては、図3(a)に示すようにブランケット2の左側半分を一領域(一部の領域)21とし、右側半分を他領域(他の領域)25としているが、それだけに限られず、本発明においては、印刷仕様等の適当な条件に合わせて、ブランケット内における一領域の位置を決定すれば良く、要はブランケットの少なくとも一部に一領域21が設定されていれば良い。例えば図3(b)に示すようにブランケット2の右側半分を一領域21に設定したり、同図(c)(d)に示すようにブランケット2の上側半分または下側半分を一領域21に設定したり、同図(e)(f)に示すようにブランケット2を左右方向(缶周方向)に3分割して、中央または両側を一領域21に設定したり、ブランケットを上下方向(缶軸方向)に3分割して、中央または両側を一領域21に設定するようにしても良い。さらに本発明においては一領域の大きさや形状等も限定されることはなく、一領域の数も限定されるものではない。
【0072】
さらに上記実施形態においては、ブランケット2を一領域および他領域とで2種類の材質によって構成する場合を例に挙げて説明したが、それだけに限られず、本発明においては、ブランケットを3種類以上の材質によって構成するようにしても良い。
【0073】
また上記実施形態においては、2色で印刷する場合を例に挙げて説明したが、色の種類は2色に限られず、本発明においては、3色以上で印刷するようにしても良い。例えば8色のインキを供給できる印刷装置では、8色で印刷することができる。換言すれば、印刷装置のインキ供給能力に応じて、印刷パターンの色の数を変更することができる。
【0074】
また印刷装置に貼り付けるブランケットの種類も1種類に限られず、2種類以上のブランケットを印刷装置に貼り付けるようにしても良い。例えばブランケットが12枚貼り付けられる印刷装置では、12種類のブランケットを用いることができる。
【0075】
また上記実施形態においては、缶胴(飲料用缶)に印刷する場合を例に挙げて説明したが、それだけに限られず、本発明においては飲料用缶以外の被印刷体、例えば平坦な印刷面の印刷体に印刷する場合にも適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
この発明の印刷用ブランケットは例えば、アルコール飲料や非アルコール系飲料が充填された缶入り飲料の容器に印刷するための印刷装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0077】
1,11,12:印刷版
2:ブランケット(印刷用ブランケット)
21:一領域(一部の領域)
25:他領域(他の領域)
3:彫刻領域(凹凸領域)
3a,3b:印刷用凸部
W:缶胴(被印刷体)
図1
図2
図3
図4
図5