(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-19
(45)【発行日】2022-10-27
(54)【発明の名称】水性ポリマー分散液から形成されたコーティングを施した繊維製品
(51)【国際特許分類】
C04B 28/02 20060101AFI20221020BHJP
C04B 16/06 20060101ALI20221020BHJP
C04B 14/38 20060101ALI20221020BHJP
C04B 14/42 20060101ALI20221020BHJP
C04B 20/10 20060101ALI20221020BHJP
D06M 13/395 20060101ALI20221020BHJP
D06M 15/263 20060101ALI20221020BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B16/06 A
C04B16/06 C
C04B14/38 A
C04B14/42 Z
C04B14/38 C
C04B20/10
D06M13/395
D06M15/263
(21)【出願番号】P 2020525953
(86)(22)【出願日】2018-10-30
(86)【国際出願番号】 EP2018079737
(87)【国際公開番号】W WO2019091832
(87)【国際公開日】2019-05-16
【審査請求日】2021-06-15
(31)【優先権主張番号】102017126447.7
(32)【優先日】2017-11-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】518156705
【氏名又は名称】ツェーハーテー ジャーマニー ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】CHT Germany GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100111707
【氏名又は名称】相川 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】クラウスマン, アモン・エリアス
(72)【発明者】
【氏名】ロッレ, ジャン・ヴァレンティン
(72)【発明者】
【氏名】ヘンケル, ウルリケ
(72)【発明者】
【氏名】ヒース, ミハエル
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-112454(JP,A)
【文献】特表2004-513858(JP,A)
【文献】特開昭61-101444(JP,A)
【文献】特開2013-043816(JP,A)
【文献】欧州特許第00987363(EP,B1)
【文献】特開2007-131966(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 7/00-28/36
D06M 13/395
D06M 15/263
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維製品の総質量に基づいて、5重量%から100重量%の塗布された材料を含むコーティングを有するテキスタイル繊維製品からなる複合材料であって、
少なくとも60℃のガラス転移温度を有するエチレン性の重合可能なモノマーに基づくポリマーの20から100重量%と、
0から80重量%の架橋成分と; 及び
0から20重量%の他の添加剤とを鉱物マトリックス内に含
み、
前記重合可能なモノマーがビニル性の重合可能であり、
前記ポリマーは、モノマー組成物から得られ、前記モノマー組成物は、モノマー組成の総質量に基づき、5%から100%の基本モノマーA、0%から50%の機能性モノマーB、及び0%から30%の架橋モノマーC、をそれぞれ含み、
基本モノマーAは、ビニル芳香族モノマー及びC
1
~C
24
メタクリル酸アルキルの群から選択されることを特徴とする、複合材料。
【請求項2】
前記テキスタイル繊維製品は、10から60重量%の塗布された材料を含むコーティングを備える繊維製品である、請求項1に記載の複合材料。
【請求項3】
機能性モノマーBは、メタクリル酸、C
2
~C
8
メタクリル酸ヒドロキシアルキル、C
2
~C
8
アルキルアミノアルキルメタクリレート、スルホン酸基を有するモノマー、リン酸化モノマー、及びビニルピリジンの群から選択されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の複合材料。
【請求項4】
架橋モノマーCは、少なくとも2つのエチレン性不飽和非共役基、N-メチロール基、及び/又はエポキシ基を含むことを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載の複合材料。
【請求項5】
架橋成分は、モノマーC及び/又は外部架橋剤で機能性モノマーBに対する反応性を有するものを含み
、二官能性、三官能性、及び/又は多官能性のアンブロックド又はブロックドイソシアネート、エポキシシラン、ホルムアルデヒド樹脂、メラミン樹脂、カルボジイミド、及びエポキシ樹脂の群から選択されることを特徴とする、請求項1から4のいずれか1項に記載の複合材料。
【請求項6】
前記テキスタイル繊維製品は、一次元織物構造、二次元織物シート、及び/又は三次元織物立体構造を含むことを特徴とする、請求項1から5のいずれか1項に記載の複合材料。
【請求項7】
前記テキスタイル繊維製品は、炭素繊維と、ガラス繊維と、玄武岩繊維と、アラミド繊維と、ポリエチレン繊維と、及び/又はポリプロピレン繊維と、それらの混合物を含み、を含む、或いは、それらの繊維のみからなることを特徴とする、請求項1から6のいずれか1項に記載の複合材料。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の複合材料
を生成する方法であって、
複合材料はテキスタイル繊維製品からなり、その方法は、テキスタイル繊維製品を生産するプロセスを含み、そのプロセスは、
i)少なくとも60℃のガラス転移温度を有する、エチレン
性又はビニル性の重合可能なモノマーに基づくポリマー、及び、オプションとして、ポリマーを架橋するのに適した材料、を含む水性ポリマー分散液を提供すること;
ii)繊維製品を前記水性ポリマー分散液と接触させること;及び
iii)このようにコーティングされた繊維製品を
、室温又は220℃迄の高温で乾燥すること、
を含む
、方法。
【請求項9】
前記
プロセスは、繊維製品が
、浸漬、ミストスプレー、ディッピング、キャスティング、及び/又はジェットスプレー、
を含む連続的又は不連続的な織物適用方法を適用することにより、水性ポリマー分散液と接触させられることを含むことを特徴とする、請求項8に記載
の方法。
【請求項10】
前記
水性ポリマー分散液は、ポリマー分散液の総質量に基づいて、10重量%から70重量%
の範囲内の固形分含有量を備える水性ポリマー分散液
を含むことを特徴とする、請求項8又は9に記載
の方法。
【請求項11】
前記水性ポリマー分散液
は、乳化重合、懸濁重合、又は分散重合を含む、連続、半連続、又は不連続性重合法
、によって得る
ことを特徴とする、請求項8から10のいずれか1項に記載の
方法。
【請求項12】
前記鉱物マトリックスが、コンクリートマトリックスであることを特徴とする請求項1から
7のいずれか1項に記載の複合材料。
【請求項13】
鉱物材料を補強するための繊維製品の使用であって、前記繊維製品は、繊維製品の総質量に基づいて、5重量%から100重量%の塗布された材料を含むコーティングを有するテキスタイル繊維製品であり、その材料は、
少なくとも60℃のガラス転移温度を有するエチレン性の重合可能なモノマーに基づくポリマーの20から100重量%と、
0から80重量%の架橋成分と; 及び
0から20重量%の他の添加剤とを含
み、
前記テキスタイル繊維製品は、10から60重量%の塗布された材料を含むコーティングを備える繊維製品であり、
前記重合可能なモノマーがビニル性の重合可能であり、
前記ポリマーは、モノマー組成物から得られ、
前記モノマー組成物は、モノマー組成の総質量に基づき、5%から100%の基本モノマーA、0%から50%の機能性モノマーB、及び0%から30%の架橋モノマーC、をそれぞれ含み、
基本モノマーAは、ビニル芳香族モノマー及びC
1
~C
24
メタクリル酸アルキルの群から選択され、
機能性モノマーBは、メタクリル酸、C
2
~C
8
メタクリル酸ヒドロキシアルキル、C
2
~C
8
アルキルアミノアルキルメタクリレート、スルホン酸基を有するモノマー、リン酸化モノマー、及びビニルピリジンの群から選択され、
架橋モノマーCは、少なくとも2つのエチレン性不飽和非共役基、N-メチロール基、及び/又はエポキシ基を含むことを特徴とする、使用。
【請求項14】
前記鉱物材料が、コンクリートコンポーネントであることを特徴とする、請求項13に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも60℃のガラス転移温度を有するエチレン性の重合可能なモノマーに基づくポリマーを含むコーティングを有する紡織繊維製品に関し、そして、少なくとも60℃のガラス転移温度を有するエチレン性の重合可能なモノマー、特にビニル性の重合可能なモノマーに基づく水性ポリマー分散液が提供され、次に繊維製品と接触させ、続いて乾燥させる、水性ポリマー分散液で繊維製品をコーティングするためのコーティング方法(プロセス)に関する。
【0002】
本発明は更に、繊維製品をコーティングするための対応するポリマー分散液の使用、対応するようにコーティングされた繊維製品、鉱物マトリックスを強化するためのそれの使用、及び、対応する繊維複合材料、特に繊維(テキスタイル)-コンクリート複合材料に関する。特に、本発明は、鉱物マトリックスから織物(テキスタイル)補強材への力の最適な散逸を可能にする、連続的な水ベースのプロセスにおける織物(テキスタイル)シートに適用され得るコーティング剤に関する。
【0003】
鉄骨鉄筋コンクリートは、現代の建設業界で不可欠となってきた。それは許容可能な価格で高い堅牢性を提供する。この材料の欠点は、補強鉄筋の腐食への傾向である。1990年代には、鉄骨鉄筋コンクリートの代替として繊維強化コンクリートも確立されてきた。この場合、ほとんどが鉄鋼又はプラスチック繊維がコンクリートに混ぜられている。これらの繊維は、マトリックス内で無配向である。補強構造の形で配向繊維を使用するアプローチは、比較的新しい。ほぼ20年間、この繊維(テキスタイル)強化コンクリート複合材料の基礎研究が行われてきた。
【0004】
繊維(テキスタイル)強化コンクリートにおいて、例えば、ガラス、玄武岩、及び炭素からなる連続繊維(フィラメント)が、2次元又は3次元の織物シート又は立体構造の形で用いられる。原則として、妥当な繊維には、高強度及び高剛性を有するもの、又は、耐アルカリ性ガラス繊維又は炭素繊維のような、鉄鋼の弾性係数に匹敵する弾性係数を有するものを含まれる。工業用布(テクニカルテキスタイル)は、不織布スクリムの形状を使用して、受ける応力(ストレス)に合わせて調整され得る。不織布スクリム内の糸(ヤーン)の間の可変距離は、コンクリートの特定の粒子組成という結果になる。従来のセメントに比べてより小さな最大粒径を有する。従って、細粒コンクリートは、織物補強と組み合わせて用いられる。スクリム内の炭素繊維ストランド間の距離は、構成要素(コンポーネント)の寸法に不可欠である。減少させられた粒子サイズにより、スクリムの浸透が改善され、そして、いくつかの繊維(テキスタイル)コンクリート層の間の持続可能な複合材を実現できる。
【0005】
織物補強材の使用は、複合材料の特性だけでなく処理に関しても、いくつかの興味深い改善の達成を可能にする。最大の利点は、鉄骨鉄筋コンクリートにおいて通常のような腐食保護としての追加のコンクリートカバーの省略である。繊維(テキスタイル)強化コンクリートにおいて、コンクリートの層厚は、コンクリートの特性に加えて、複合材に対する耐負荷性(Belastbarkeit)の最小要件を確保するため、用いられる糸(ヤーン)及び繊維複合材の形状及び強度によってのみ、決定される。このようにして、複合材の総厚さは、鉄骨鉄筋コンクリート構成要素(コンポーネント)の典型的な厚さの約1/4にまで減らすことができ、そして、80%までの材料の節約が報告されている。これにより、同じ持続可能性を維持しながら構成要素(コンポーネント)をより薄くすることができるため、今日まで偏りのない補強システムに対して不可能とされてきた形状及び適用の実現及び軽量化された構造が可能になる。
【0006】
織物補強構造は、もし幾何学的構造として導入されたならば、複合材特性を改善することにおいてより高い効果を有する。建物のメンテナンスの分野における補強構造として、又は、コンクリート構成要素(コンポーネント)の補強要素として、商業的用途が見出されてきた。織物補強構造ための要件は多様であるため、多種多様な異なる繊維のタイプが用いられる。その範囲には、アラミド、ポリエチレン、又はポリプロピレンの有機繊維だけでなく、炭素繊維、ガラス繊維、玄武岩繊維のような無機繊維も含まれる。繊維(テキスタイル)-強化コンクリート構造は、例えば、建物の後の補強及びメンテナンスに対して、或いは、ファサード要素として、今日でも多くの興味深い適用を有している。
【0007】
WO2004/007161A1は、コンクリートの下水管を補強するための繊維(テキスタイル)-強化コンクリート構造の適用を記述する。アスファルト及びコンクリートで作られた路面の補強は、US6,632,309B1から知られてきた。既製のコンクリート部品の調製は、EP2894272A2及びWO2014/106685A1に開示される。
【0008】
織物補強構造を調製するため、通常、サイジングされたフィラメント繊維は、数千のフィラメントのロービング(束、マルチフィラメント糸、DIN 60001、パート2に類推されて)又は糸(ヤーン)に最初に加工され、束ねられる。その後、これらは繊維加工(テキスタイルプロセス)によって処理され、規定された形状を備える補強織物(テキスタイル)になる。処理後、これらの織物(テキスタイル)は高分子材料に浸漬される。この浸漬/コーティングは、おそらくすべての個々のフィラメントを含み、このようにして、繊維又はロービングの内部結合を可能にし、及び、コンクリートへの周辺繊維の結合いわゆる外部結合を可能にする。更に、コーティングは、スクリムの形状の安定化を引き起こし、補強の幾何学的精度を確保する。この処理(プロセス)ステップは、一方では、反応性樹脂での硬化(キュアリング)及び浸漬により、不連続な繊維加工(テキスタイルプロセス)の形において実施され得る。これらの方法(プロセス)において、例えばエポキシ樹脂又は不飽和ポリエステル樹脂が使用される。一方、複合織物(テキスタイル)は、例えばパディングによる連続織物(テキスタイル)コーティング方法(プロセス)において、コーティング剤に浸漬され得る。
【0009】
現在までに、例えば、カルボキシル化スチレン-ブタジエンコポリマー(carboxylierte Styrol-Butadien-Copolymere)(いわゆるX-SBR)がそのような方法(プロセス)において使用されてきた。浸漬後、コーティングされたシートは乾燥及び硬化(キュアリング)ステップを経る。このようにして調製された複合織物(hergestellten Verbundtextilien)は、用いられるコーティング及び織物形状(Textilgeo- metrie)の特性によって、既製の構造部品のための、又は、新規構造におけるシート物として或いはメンテナンスの分野における適用のためのドレープ可能なロール物(drapierbare Rollenware)として使用され得る。対応する複合材料(entsprechenden Verbundwerkstoff)は、これらの織物シートをマトリックス材料に適切に導入することによって得られる。コンクリート又はセメントのような及び/又は鉱物のマトリックス材料がマトリックス材料として使用されるならば、複合材は繊維(テキスタイル)-強化コンクリート構成要素(コンポーネント)又は構造と呼ばれる。
【0010】
コンクリートにおける補強材として使用される織物(テキスタイル)は、コンクリートとの界面を介して、特に引張力の形において外部から作用する負荷を吸収する機能を持っている。複合構造内において、即ち特に個々のロービング内において、そのような引張力は個々のフィラメントに伝達されなければならない。繊維の特性を完全に利用するには、ロービングを適切な材料で浸漬させることによってのみ可能であるが、それにより、浸漬されていないロービングと比較して、大幅により高い引張強度(>40%)が達成可能となる。この複合材料内において、コーティング剤は、コンクリートマトリックスから複合織物内へとの最適な複合結合を確保にする機能を持っている。従って、高分子コーティング材料は、構成要素(コンポーネント)全体の特性の観点から、決定的に重要である。これにより、コンクリート/複合織物(テキスタイル)の界面、及び、複合織物(テキスタイル)内のロービングの個々のフィラメント間、の両方に最適力を導入できる。
【0011】
繊維(テキスタイル)-強化コンクリートのような複合材料の性能は、前述の境界面での力の伝達によって決定される。特に、このことは、これらの特性が、要求される環境の影響下で、コンポーネントの耐用年数を通して確保されなければならないことを意味する。従って、例えば-30℃から+100℃の屋外での使用における温度条件に織物(テキスタイル)は晒され、そして、用途に応じて、コンクリートのアルカリ性細孔溶液に耐えるか、又は、塩分の露出に対しても耐性がなければならない。このことは、選択されるべきコーティング材料に対する高い要件という結果になる。
【0012】
補強分野に対して、ドイツ連邦共和国のドイツ連邦建築技術研究所(Deutschen Instituts fuer Bautechnik in der Bundesrepublik Deutschland)(abZ)による一般的な建築承認は、市販品TUDALIT(登録商標)(Z-31.10-182)のために存在する。それは、メラミン-ホルムアルデヒド樹脂により架橋結合されている、カルボキシル化スチレン-ブタジエンコポリマー(いわゆるX-SBR)の分散に基づく水性コーティング材料を記述する。このようにして得られたシステムは、コンクリート細孔溶液のアルカリ媒体に対して十分な耐性を示し、1700 N/mm2に近い適度なレベルのヤーン引張強度を持っている。更に、バインダーシステムは、連続浸漬及び/又は打設方法(プロセス)によって適用され得、そして、製造されたグリッドは、その特性プロファイルのため、巻かれた製品上に巻き取られ得るが、ある一定の限界内において建設現場で曲げ/再形成により必要な形状に適合させられ得る。しかしながら、このシステムの実用性をかなり制限する反応性メラミン/ホルムアルデヒド架橋剤の使用のために、処理(プロセス)の時間枠(ポットタイム)は非常に狭いと言えるかもしれない。更に、このシステムで達成することができる複合材の強度が、高い定着の長さ必要とすることは不利である。更に、繊維(テキスタイル)-強化コンクリート構成要素(コンポーネント)において測定された複合特性は、非常に温度依存性が高いことがわかった。X-SBRはガラス転移温度が低いため、屋外用途での使用は可能ではなく、それに応じるように、認可は屋内分野及び40℃までの温度に対してのみ認められた。同様のシステムがDE102005048190A1でも使用されている。
【0013】
更に、コンクリート内の織物補強のためのコーティングとしての水性ポリマー分散液の使用は、EP2004712B1に記述されている。ここで、水性ポリクロロプレン分散剤は、繊維強化コンクリートのための無機粒子と組み合わせて使用される。フィルム形成又は乾燥後のポリクロロプレンコーティングの結晶化により、剛性の高い織物(テキスタイル)の製造が達成された。ただし、複合材における機械的特性の本当に関連性の高いアップグレードは、同じコーティングにおける無機粒子を追加することによってのみ達成される。更に、繊維(テキスタイル)-強化コンクリート構成要素(コンポーネント)における使用のためそれらをテストするために、2001年にはARガラス繊維はポリアクリレート分散剤でコーティングされた(M.Schleser の博士論文「セメント結合マトリックスの補強のためのポリマー含浸耐アルカリ性ガラス繊維の使用」、Aachener Berichte Fuegetechnik、06/2008巻、編集:Prof. Dr.Ing. U. Reisgen、2008年11月1日、Shaker Verlag)。しかしながら、明らかに60℃未満のガラス転移温度を有するポリマーのみが用いられたが、より高い適用温度での構成要素(コンポーネント)の特性は試験されなかった。
【0014】
より高い温度範囲での使用のために、硬化性反応性樹脂システム、特にエポキシ樹脂は、補強織物における高分子マトリックス材料として用いられる。そのようなシステムは、例えば、DE102008040919A1及びEP2530217B1において記述される。そこにおいて言及されている複合材料は、セメント結合システムにおいて、ガラス、炭素、玄武岩、又はアラミドのような工業用繊維で作られた補強織物(テキスタイル)からなる。エポキシ樹脂を使用することにより、高剛性及び高強度の補強構造が得られる。炭素繊維の場合に到達できる引張強度は、3500 N/mm2に近い。セメント結合システムにおける結合強度、定着(アンカー)長さ、及びアルカリ鉱物マトリックスに対する耐性は、良好であると記述される。これらのシステムは、100℃までの温度に対する結合特性の保持を確保するが、このことは、屋外分野における適用がここで可能であるとする理由である。しかし、反応性樹脂、特にエポキシ樹脂でコーティングされた補強織物(テキスタイル)は、不連続的にしか製造できず、そして、その剛性のため、ロールの周りに巻き付けたり、既存の形状に掛けたりすることはもはやできない。
【0015】
更に、これらの反応性樹脂、特にエポキシ樹脂は、通常90分未満という短い処理(プロセス)時間を有している。コンクリート構成要素(コンポーネント)の複合特性と複合特性の温度依存性は十分に検討されており、ドイツの研究コミュニティ(Deutschen Forschungsgemeinschaft)(DFG)の特別研究分野528及び532の範囲内で発行されてきた(例えば、Manfred Cur-bach、Regine Ortlepp(編集)SFB 528「構造補強と修理のための繊維補強」、最終報告書-期間短縮版-2008/2-2011/1の期間)。全体として、コンクリート構造物用のための織物補強材を浸漬するための反応性樹脂システムの使用は、最新技術である。プラスチック補強ロービング(kunststoff bewehrte Ro-vings)、例えばエポキシ樹脂に浸漬されて80℃で乾燥された長いガラス繊維(いわゆるプリプレグ)が、補強構造として使用されるとある、EP2666922B1にもまた、このことが記述される。樹脂を浸した繊維材料で作られた軽量コンクリート補強ユニットは、EP0227207B1にも記載されているが、ここで、事実上すべての市販の反応性樹脂システムがエポキシ樹脂システムに加えて使用されている。US4,910,076Aにおいて、2つの異なるアプローチが組み合わされ、そして、反応性樹脂(ポリウレタン又はエポキシド)に浸漬されたファイバーネットワークは、自己架橋SBR分散液でコーティングされる。
【0016】
例えば、エポキシ樹脂のような硬化性反応性樹脂が高分子コーティング材料として使用すると、3500 N/mm2までの炭素繊維の高レベルのヤーン引張強度、及び、アルカリに対する高い安定性を特徴とするグリッドが得られる。更に、繊維(テキスタイル)-コンクリート複合材における複合材特性は、100℃まで熱的に安定している。しかしながら、限られた処理(プロセス)時間のために、これらのシステムでは、浸漬材料の連続的な塗布が可能はないことが欠点である。更に、ドレープできない剛性の高いグリッドしか得られないので、容易に輸送されるロール品から巻取り可能な補強織物(テキスタイル)の調製は可能ではない。更なる欠点は、エポキシ樹脂及びアミンを大規模に処理することによる健康上のリスクである。
【0017】
カルボキシル化スチレン-ブタジエンコポリマーに基づく代替コーティング剤は、原則として連続プロセスで追加的に調製できる、巻き取り可能及びドレープ可能な補強織物(テキスタイル)の調製を可能にするが、得られる補強織物(テキスタイル)は、1700 N/mm2の炭素繊維で低い糸(ヤーン)引張強度を示す。更に、繊維(テキスタイル)-コンクリート複合材における十分な複合材特性を達成するために、長い定着長さが必要であるが、このことは、構造上構成要素(bauteilgestaltung)の設計及び寸法について、基本的に不利である。更に、このコーティングシステムに関し、複合材料特性は、商業的適用、特に野外分野において、本質的な制限である、40℃までしか確保できないことである。
【0018】
従来技術によれば、ポリクロロプレン分散剤に基づくコーティングシステムは、無機粒子との組み合わせでのみ十分に良好な複合材特性という結果となる。耐熱性及び耐アルカリ性に関する特性は、実施例によって実証されていない。
【0019】
従って、記述された先行技術と比較して、本発明の目的は、連続的な水ベースの方法(プロセス)における繊維製品に適用することができるポリマーコーティング剤を提供することであり、及び、鉱物マトリックスから織物補強材への力の最適な導入を可能にすることである。対応するコーティングされた織物補強構造は、セメントのようなマトリックスにおける適用に適するものであり、及びロール上に巻くことができることである(ローラーの直径は20cmから)。特に、本発明によるコーティング剤をしみ込ませた48K炭素繊維ロービングの引張強度は、3000MPaを超える範囲で、-30から+100℃の温度範囲内にあるべきである。更に、繊維(テキスタイル)-コンクリート複合材におけるコーティングされた補強構造の複合材特性は、-30℃から+100℃で維持されるべきであり、セメント様マトリックス又は鉱物結合マトリックスのアルカリ環境に対する十分な耐性があるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【発明を実施するための形態】
【0021】
第1の実施例において、本発明の目的は、繊維製品の総重量に基づいて、5重量%から100重量%の塗布された材料を含むコーティングを有するテキスタイル繊維製品によって達成されるが、ここで、その材料は、少なくとも60℃のガラス転移温度を有するエチレン性の重合可能なモノマーに基づくポリマーの20から100重量%、0から80重量%の架橋成分、及び0から20重量%の他の添加剤を含む。
【0022】
好ましくは、コーティングは、塗布された材料の10から60重量%を含む。
【0023】
好ましくは、重合可能なモノマーは、ビニル性の重合可能である。
【0024】
好ましい実施形態では、ポリマーは、モノマー組成物から得ることができるが、ここで、前記モノマー組成物は、それぞれモノマーの総質量に基づいて、5%から100%の基本モノマーA、0%から50%の機能性モノマーB、及び0%から30%の架橋モノマーCをそれぞれ含み、ここで、特に基本モノマーAは、ビニル芳香族モノマー(vinylaromatischen Monomere)及びC1からC24-メタクリル酸アルキル(C1- bis C24-Alkyl(meth)acrylate)の群から選択され、特に機能性モノマーBは、メタクリル酸((Meth)acrylsaeure)、C2からC8メタクリル酸ヒドロキシアルキル(C2-bis C8-Hydroxyalkyl(meth)acrylate)、C2からC8アルキルアミノアルキルメタクリレート(C2- bis C8-(Alkyl)aminoalkyl(meth)acrylate)、スルホン酸基を有するモノマー(sulfonierten Monomere)、リン酸化モノマー(phosphatierte Monomere)、及びビニルピリジン(Vinylpyridine)の群から選択され、特に架橋モノマーCは、少なくとも2つのエチレン性不飽和非共役基(ethylenisch ungesaettigte nicht konjugierte Gruppen)、N-メチロール基(N-Methylolgruppen)、及び/又はエポキシ基(Epoxygruppen)を含む。
【0025】
好ましくは、架橋成分(Vernetzerbausteine)は、モノマーC及び/又は外部架橋剤(externe Vernetzer)で機能性モノマーB(funktionellen Monomeren B)に対する反応性を有するものを含み、特に、二官能性、三官能性及び/又は多官能性のアンブロックド又はブロックドイソシアネート(di-,tri- und/oder polyfunktionellen ungeblockten oder geblockten Isocyanaten)、エポキシシラン、ホルムアルデヒド樹脂、メラミン樹脂、カルボジイミド、及びエポキシ樹脂の群から選択される。これらの成分(Bausteine)は、コーティングの他の成分(Bestandteilen)と反応して架橋が生じる。
【0026】
本発明による繊維製品は、好ましくは、一次元織物構造、二次元織物シート、及び/又は三次元織物立体構造を含む。
【0027】
好ましくは、本発明による繊維製品は、炭素繊維と、ガラス繊維と、玄武岩繊維と、アラミド繊維と、ポリエチレン繊維と、及び/又はポリプロピレン繊維と、それらの混合物を含み、を含む、或いは、それらのみからなる。
【0028】
代替の実施例において、本発明による目的は、繊維製品を水性ポリマー分散液でコーティングするための、特に、本発明による繊維製品を生産するためのプロセスにより達成され、それは、
i)少なくとも60℃のガラス転移温度を有する、エチレン性特にビニル性の重合可能なモノマーに基づくポリマー、及び、オプションとして、ポリマーを架橋するのに適した材料、を含む水性ポリマー分散液を提供すること;
ii)繊維製品を前記水性ポリマー分散液と接触させること;及び
iii)このようにコーティングされた繊維製品を、特に室温又は220℃迄の高温で乾燥すること、
を含む。
【0029】
これまでの先行技術において、ほとんどがSBR及びポリクロロプレンタイプが、アルカリ性環境において耐性が高いという議論に基づいて、水性ポリマー分散液で繊維製品をコーティングするために用いられてきた。ここで、本発明の範囲内において、驚くべきことに、例えば、(メタ)アクリルモノマー及び/又はスチレン系モノマーに基づく、ポリマーの特定の分散液も、アルカリに対して十分に高い耐性を有することが見出されてきた。驚くべきことに、ビニル性の重合可能なモノマーをベースにした、少なくとも60℃のガラス転移温度を有するポリマーの水性分散液は、オプションとして外部架橋剤と組み合わせて、繊維(テキスタイル)-コンクリート複合材システムにおける使用のための繊維製品のコーティングに良く適しているが、これは上述される特性を有する。
【0030】
好ましくは、用いられる分散液中のポリマーのガラス転移温度は少なくとも70℃である。
【0031】
本発明による方法の好ましい実施例において、一次元織物(テキスタイル)構造、二次元織物(テキスタイル)シート、及び/又は三次元織物(テキスタイル)立体構造が繊維製品として用いられる。
【0032】
適切な一次元織物構造は、例えば、限定されることなく、ヤーン、ロービング、糸、及び/又はロープを含む。適切な実質的に二次元織物シートは、例えば、限定されることなく、不織スクリム、織布、ループ形状編み物(Gewirke)、編み物(Gestricke)、ループ延伸編み物(Geflechte)、ステッチ結合布(Naehgewirke)、不織布及び/又はフェルトを含む。
【0033】
本発明による方法の好ましい実施例において、前記繊維製品は、炭素繊維、ガラス繊維、玄武岩繊維、アラミド繊維、ポリエチレン繊維、及び/又はポリプロピレン繊維を含む。特に、繊維製品は、これらの繊維タイプの1つの繊維、又はそれらの混合物からなる。
【0034】
本発明による、水性ポリマー分散液と繊維製品との前記接触は、先行技術から知られている如何なる方法においても、達成され得る。好ましくは、繊維製品は、先行技術からの連続的又は不連続的な織物(テキスタイル)適用方法を適用することにより、水性ポリマー分散液と接触させられる。特に好ましい適用方法は、浸漬、ミストスプレー、ディッピング、キャスティング、及び/又はジェットスプレーを含むが、本発明はそのような方法に限定される訳ではない。このようにして達成された適用される材料の質量は、繊維製品の総質量に基づいて、5質量%から100質量%であり、好ましくは10重量%から60重量%であり、より好ましくは25重量%から50重量%であり、更により好ましくは30重量%から40重量%である。
【0035】
本発明による方法の好ましい実施例において、前記水性ポリマー分散液の成分の割合は、ポリマー分散液の総質量に基づいて、10重量%から70重量%の、より好ましくは25重量%から60重量%の、更により好ましくは40重量%から50重量%の、固形分含有量を得るように選択される。分散液の固形分は、分散液の固形分に基づき合計で100%になるように、好ましくは20から100重量%のポリマーと、0から80重量%の架橋剤と、及び0から20重量%の他の添加剤と、を含む。
【0036】
記述される主要な成分に加えて、本発明による水性分散液は、オプションとして、建設、繊維(テキスタイル)、及びコーティング産業から知られている助剤及び添加剤を更に含んでもよいが、限られることなく、これらは、レベリング助剤、湿潤剤、消泡剤、脱泡剤、有機及び無機増粘剤、粘着付与樹脂、フィラー、pH調整剤、及び/又は防腐剤を含む。
【0037】
本発明による方法の好ましい実施例において、ビニル性の重合性可能なモノマーに基づく水性ポリマー分散液は、先行技術から知られている適切な連続、半連続、又は不連続性重合法によって提供される。特に好ましいのは、乳化重合、懸濁重合、又は分散重合である。更により好ましくは、ポリマー分散液は、技術的に確立され、何度も記述されてきた乳化重合によって得られる(Hans-Georg Elias、Makromolekuele 第3巻 「Industrielle Polymere und Synthesen」、第6版、Wiley-VCH)。ポリマー分散液は、本発明がそれに限定されることなく、アニオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、及び/又は保護コロイド、及びそれらの混合物のような従来技術において一般に使用される界面活性剤で安定化できる。重合反応の開始のために、限られることなく、過酸化物、アゾ化合物、及び/又はレドックス開始剤システムを含む、如何なる適切なタイプの開始剤を使用することができる。更に、限定されることなく、電解質、pHを調節するための薬剤、及び/又は連鎖調節剤/移動剤を含む、そのようなプロセスにおいて典型的に使用される反応物が、用いられ得る。
【0038】
本発明の好ましい実施例において、水性ポリマー分散液は、モノマー組成物の総質量に基づき、5重量%から100重量%の基本モノマーAと、0重量%から50重量%の機能性モノマーBと、及び0重量%~30重量%の架橋モノマーCと、をそれぞれ含むモノマー組成物の重合によって提供される。
【0039】
適切な基本モノマーAは、スチレン、α-メチルスチレン、又はビニルピリジンのようなビニル芳香族モノマーだけでなく、アクリル酸及びメタクリル酸のC1からC24アルキルエステルを、特に、含む。これらのモノマーは、結果として生成されるポリマーのガラス転移温度が少なくとも60℃になるように、単独で又はそれらの如何なる混合物において用いられ得る。後者は、当業者に知られるように、Fox式(T.G. Fox、Bull. Am. Phys. Soc.1、123(1956))又はPochan式(J.M. Pochan、C.L. Beatty、D.F. Hinman、Macromolecules 11、1156(1977))により用いられるべきモノマーのガラス転移温度から、推定され得る。
【0040】
特に、反応性基を有する以下のモノマーである、メタクリル酸((Meth)acrylsaeure)、メタクリル酸ヒドロキシエチル(Hydroxyethylmethacrylat)のようなC2からC8のメタクリル酸ヒドロキシアルキル(C2-bis C8-Hydroxyalkyl(meth)acrylate)、メタクリル酸ジメチルアミノエチル(Dimethylaminoethylmethacrylat)のようなC2からC8のメタクリル酸塩(C2- bis C8-(Alkyl)aminoalkyl(meth)acrylate)、スチレンスルホン酸ナトリウムのようなスチレンスルホン酸塩、リン酸モノアクリルオキシエチルのようなリン酸化モノマー、及び/又はビニルピリジン、は、単独で又は機能性モノマーBとして混合して用いられ得る。本発明は、述べられた機能性モノマーに限定されない。従来技術からの各適切な機能性モノマーが用いられ得る。適切なモノマーは、結果的に得られるポリマーのガラス転移温度が少なくとも60℃であるものである。
【0041】
少なくとも2つのエチレン性不飽和非共役基、N-メチロール基、及び/又はエポキシ基を含むモノマーは、架橋モノマーCとして好ましく用いられる。適切なモノマーには、ジビニルベンゼン、ジ又はポリ(メタ)アクリレート((Meth)acrylsaeureester)、ジ又はポリアリルエーテル(Polyallylether)、及び、ジオール(Diolen)又はポリオール(Polyolen)のジ又はポリビニルエーテル(Polyvinylether)のような、ジビニル及びポリビニルモノマー、を含む。更に、N-メチロールアクリルアミド(N-Methylolacrylamid)及び/又はグリシジルメタクリレート(Glycidylmethacrylat)のような、外部架橋剤を添加する必要なしに、浸漬プロセス及びコーティングの形成の後に、依然として架橋をもたらすことができるモノマーが用いられてもよい。
【0042】
更に、コーティングされた繊維製品の機械的特性及び結果として得られる繊維(テキスタイル)-コンクリート複合材の複合材特性を改善するために、本発明に従って提供される水性ポリマー分散液に外部架橋剤を加えてもよい。好ましくは、それは、ポリマー分散液中に存在する官能基のそれとマッチする反応性を有する。例えば、限定さることなく、ブロックド(geblockte)及びアンブロックドポリイソシアネート(ungeblockte Polyisocyanate)、カルボジイミド(Carbodiimide)、アジリジン(Aziridine)、エポキシ樹脂、エポキシシラン、ホルムアルデヒド樹脂、尿素樹脂、反応性フェノール樹脂が用いられてもよい。コーティングシステムにおけるそれらの適用は、繊維製品と水性ポリマー分散液との接触の直前に、ポリマー分散液と外部架橋剤とを混合することにより実施される。
【0043】
代替の実施例において、本発明の目的は、本発明によるコーティングプロセスによって得られるコーティングされた繊維製品によって達成される。好ましくは、本発明による繊維製品は、本発明による方法(プロセス)の好ましい実施例の1つによって入手可能である。使用されるプロセス工程の及び試薬の好ましい実施例は、組み合わせられてもよい。
【0044】
本発明によるコーティングされた繊維製品は、コンクリート中で優れた引張強度及び結合強度を有し、そして、特別な利点のためコンクリートの補強材として用いられてもよい。従って、本発明によりコーティングされた炭素繊維は、先行技術に対応するエポキシ樹脂システムのそれと同等のレベルの引張強度及びコンクリートからの引き抜き力を示す(表1のエントリー2、対表3のエントリー1-5を参照)。従って、そのような繊維製品の使用は、それだけではないが、コンクリート及び/又はセメント製品の補強に特に有利である。更に、本発明によりコーティングされた繊維製品は、屋外分野(例えば、ファサードプレート又は他の外部構造)で使用され得、100℃までの温度又は耐候条件に曝される既存のコンクリート構造を補強するために使用され得る。
【0045】
前記水性ポリマー分散液に基づく本発明によるコーティングは、ガラス又は玄武岩繊維のような加水分解的に敏感な繊維状物質に対する使用に対しても非常に興味深い。表3において、エントリー6及び7に示される測定値から、コーティングされたロービングの良好な引張強度が室温及び100℃で達成されることが明らかである。これらは、本発明によらないポリマー分散液でコーティングすることにより達成される値を明らかに上回っている(表2、エントリー6及び7)。製造業者によると、例において使用されるガラス繊維は、いわゆるSiCテストのクラスIIに合格する(「Strength in Concrete」、EN 14649)。これらのテストにおいて、ガラス繊維をコンクリート内に埋め込み、80℃、相対湿度80%で96時間保管される。それに続くテストにおいて、クラスIIを付与するための残留強度は、1000MPaの開始強度に対して少なくとも350MPaでなければならず、即ち、低下は最大で65%であってもよい。このガラス繊維が本発明によってコーティングされるならば(表3、エントリー6を参照)、強度の低下はわずか35%であるため、アルカリに対する安定性の有意な増加が達成される。本発明によってコーティングされた玄武岩繊維(表3、エントリー7)では、減少は60%である。
【0046】
このことは、本発明により提供される水性ポリマー分散液が、驚くべきことに、アルカリに対する良好な耐性を有し、従って、セメント結合マトリックス用の織物(テキスタイル)補強材のコーティングとしての使用に非常に適していることを示す。表3は、室温及び80℃でのコンクリートにおける、本発明によりコーティングされた炭素繊維の引き抜き強度の値を示す(エントリー1~5)。どちらの場合においても、先行技術によるエポキシ被覆(コーティングされた)繊維のレベルにある優れた値が達成される。表3は、アルカリに耐性のあるガラス繊維(ARガラス)に対する対応する値も示している(エントリー6)。これらの値は、例えば、特許EP2004712B1に記載されている値よりも著しく高い。
【0047】
炭素繊維で作られ、本発明によってコーティングされた繊維製品は、12kロービング上で機械の走行方向に沿って直径20cmのローラーの周りに巻き付け可能であることも証明された。
【0048】
別の実施例において、本発明の目的は、本発明による上述の方法(プロセス)において提供されるような水性ポリマー分散液を繊維製品のコーティング剤として使用することにより達成される。用いられる水性ポリマー分散液は、本発明による方法(プロセス)において用いられるポリマー分散液のすべての好ましい特徴を有してもよい。本発明による使用は、記述された利点を備える本発明による繊維製品の生産を可能にする。
【0049】
別の実施例において、本発明の目的は、本発明によってコーティングされた繊維製品と鉱物マトリックス、特にコンクリートマトリックスとを含む複合材料によって達成される。より好ましくは、複合材料は、鉱物マトリックス、特にコンクリートマトリックス内における本発明による繊維製品から作られる。特に、本発明による複合材料は、本発明の上述の利点を備える繊維(テキスタイル)-コンクリート複合材である。特に、複合材料は、一次元織物(テキスタイル)構造、二次元織物(テキスタイル)シート、及び/又は三次元織物(テキスタイル)立体構造の形態における本発明による繊維製品を含む。
【0050】
別の実施例において、本発明の目的は、本発明によるコーティングされた繊維製品の使用によって、特に一次元織物(テキスタイル)構造、二次元織物(テキスタイル)シート、及び/又は三次元織物(テキスタイル)立体構造の形態において、鉱物材料を補強するために、特にコンクリート構成要素(コンポーネント)を補強するために、達成される。本発明による使用は、上述の技術的な利点を備える本発明による複合材料の提供を可能にする。
【0051】
実験例
本発明による方法(プロセス)を使用して、コーティングされた繊維製品及びそれから結果的に得られる対応する繊維(テキスタイル)-コンクリート複合材料は調製された。この目的のために、本発明によるポリマー分散液は、最初に、東邦テナックスからのタイプ3200texの炭素繊維に浸漬することにより塗布され、続いて160℃で乾燥された。本発明により得られた繊維製品から、室温(RT)で、100℃で、及びアルカリにつけての貯蔵後の、引張強さを決定するための試験片が調製された(特徴付け方法/引張試験を参照)。更に、繊維(テキスタイル)-コンクリート複合材料は、本発明によってコーティングされた繊維製品を細粒コンクリート内に埋め込むことにより調製され(試験片は
図1を参照)、そして、引き抜き試験(特徴方法/引き抜き試験を参照)を受けた。
【0052】
同様に、ガラス及び玄武岩繊維を備える実施例並びに本発明によらないポリマー分散液及び先行技術からのポリマーを備える比較例が実施された。
【0053】
以下の測定が実施された。コーティングされたロービングに関して、室温RTで、100℃で、及びアルカリ性媒体(ETAG004)内で保管された後に引張試験、繊維(テキスタイル)-コンクリート複合材に関して、室温RTで及び80℃で引き抜き試験。表1は、先行技術の例についてのこれらの試験の結果を示す。表2は、本発明によって調製されなかった試験片に対して得られた試験値を示す。表3は、本発明によって調製された試験片に対して対応する試験値をまとめる。
【0054】
以下では、用いられる材料と、引張試験及び引き抜き試験実験の実施について、さらに詳しく説明される。
【0055】
用いられた材料
ロービング/ヤーン:
- 東邦テナックスからのタイプ3200texの炭素繊維
- Deutsche Basalt Faser GmbHからのタイプ2400texの玄武岩繊維
- Owens Corningからのタイプ2400texの耐アルカリ性ガラス繊維
【0056】
細粒コンクリート:
遊星式攪拌機に、115gの水及び1kgのポルトランドセメントから作られるPagel TF 10の細粒コンクリートが入れられ、そして、5分間混合された(用いられたコンクリートのテクニカルデータシートによる)。
【0057】
ポリマー分散液:
市販の製品を、ポリマー分散液として用いてもよい。上記の実施例において、モデルポリマーは、古典的な半連続乳化重合プロセスによって調製された。ポリマー分散液はすべて、固形分が47重量%である。本発明に従って60℃以上の高いガラス転移温度を有するポリマーを調製するために、硬質ポリマー、例えばスチレンをもたらすモノマーの割合が高いモノマー組成物が選択された。従って、本発明によらないポリマーは、例えばエチルヘキシルアクリレート(Ethylhexylacrylat)のような軟質コモノマーのより高い比率を含んでいた。特定のガラス転移温度に対する正確な組成は、Fox式を用いて推定され、そして、合成後のDSC測定によって確認された。使用された繊維上にコーティングされた量は、使用されたすべての水性バインダー分散液に対して約30重量%であった。
【0058】
エポキシ樹脂システムの成分は、硬化剤として環状脂肪族アミン(cycloaliphatischem Amin)を備える市販の脂環式エポキシドに基づく。そのシステムは、溶媒及び水を含まなかった。コーティングされた量は、乾燥後の繊維上の固形分の約50重量%であった。
【0059】
架橋剤:
架橋剤1:Covestro社からのブロックドポリイソシアネート(Blockiertes Polyisocyanat)
架橋剤2:Covestro社からの反応性ポリイソシアネート(Reaktives Polyisocyanat)
【0060】
評価法
ヤーンのコーティング
炭素、ガラス、又は玄武岩繊維で作られたヤーンは、仕上げるべきヤーンとして使用されてもよい。ヤーンは、手作業によるプロセスにおいて、コーティング又は浸漬される。コーティング中、10から60重量%のポリマーが繊維に適用(塗布)される。このようにコーティングされたヤーンは、続いて160℃で乾燥させられる。
【0061】
引張試験
DIN EN ISO 527-4及びDIN EN ISO 527-5は、ヨーロッパにおいて、関連する繊維強化材料(FRM)に対する規格である。2つの規格は、FRMの引張試験を記述するだけである。このテストにおいて、ポアソン比ν、引張強度σM、破壊時の伸び率εM、及び弾性率のような特性を決定できるようにするため、繊維強化の制限状態0°及び90°配向における応力/ひずみ挙動が測定される。
【0062】
プラスチック試験において、引張試験は、優先的な意味があり、そして、準静的な又は静的な試験条件下での基礎的実験とみなされる。クロスヘッドは、基準DIN EN ISO 527-4に従って一定速度で動作する。FRMは通常、硬く脆い挙動を示す。従って、引張強度σM及び降伏応力σYは同じである。破壊応力σBは同じ点上にあることができる。DIN EN ISO 527-4のタイプ1Bの試験片は、主に繊維強化熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂のために使用される。使用された試験片は、それによって自身の方向付けを行う。
【0063】
その材料は、室温で、100℃で、及びアルカリ性媒体内での保管後の3つの条件下で試験される。後者の試験に対して、試料は、pH13.7の溶液中で45℃で14日間保管され、そして、事前の乾燥なしに、45℃で試験される。試験溶液(テストソリューション)は、ETAG004に記述されている組成における溶液(ソリューション)によって自身の方向付けを行う。
【0064】
引き抜き試験
Bundesrepublik Deutschland(abZ) No.Z-31.10-182のDeutsches Institut fuer Bautechnikによる一般的な建築承認において、細粒コンクリートに対する繊維(テキスタイル)の結合強度の試験が説明される。この試験において、繊維(テキスタイル)で補強された試験片が、搭載される。力の導入は、試験片の上側及び下側にクランプすることにより実施される。繊維(テキスタイル)補強は、試験片内で荷重方向に向けられる(荷重の方向とは0°)。評価のために、最大機械力F
maxが用いられる。繊維ストランド試験片の特性評価のために、上記の方法と類似の方法が使用される。また、糸(ヤーン)及び繊維(テキスタイル)の間の結合強度を特徴付けるために、他の場所(State-of-the-Art report of RILEM Technical Committee TC 201-TRC; EP2004712B1)でも説明されている。
図1に示されるように、コーティングされたヤーンは、中間のコンクリート厚さ1cm、幅×厚さ=5cm×6cm、のコンクリート内に埋め込まれた。0.5cmのコンクリートのカバーは、abZ No.Z-31.10-182と同様に使用された。コーティングされたヤーンは、コンクリートへの結合領域が試験中常に同じのままであるように確保するために、引き抜き方向にコンクリートを越えて1.5cm突き出るように調製された。試験条件は、abZ No.Z-31.10-182と同様に選択された。テスト速度は、引き抜きが完了するまで、1mm/minから3mmの引き抜き長さ、及び、3mmの引き抜き長さから5mm/minである。試験片は、室温及び80℃で測定される。最大引き抜き力F
maxが評価される。
【0065】
【0066】
【0067】
【表3】
(1)
繊維製品の総質量に基づいて、5重量%から100重量%の塗布された材料を含むコーティングを有するテキスタイル繊維製品であって、
少なくとも60℃のガラス転移温度を有するエチレン性の重合可能なモノマーに基づくポリマーの20から100重量%と、
0から80重量%の架橋成分と; 及び
0から20重量%の他の添加剤と、を含むテキスタイル繊維製品。
(2)
10から60重量%の塗布された材料を含むコーティングを備える、上記(1)に記載の繊維製品。
(3)
前記重合可能なモノマーがビニル性の重合可能であることを特徴とする、上記(1)又は(2)に記載の繊維製品。
(4)
前記ポリマーは、モノマー組成物から得られ、前記モノマー組成物は、モノマー組成の総質量に基づき、5%から100%の基本モノマーA、0%から50%の機能性モノマーB、及び0%から30%の架橋モノマーC、をそれぞれ含み、特に基本モノマーAは、ビニル芳香族モノマー及びC
1
からC
24
メタクリル酸アルキルの群から選択され、特に機能性モノマーBは、メタクリル酸、C
2
からC
8
メタクリル酸ヒドロキシアルキル、C
2
からC
8
アルキルアミノアルキルメタクリレート、スルホン酸基を有するモノマー、リン酸化モノマー、及びビニルピリジンの群から選択され、特に架橋モノマーCは、少なくとも2つのエチレン性不飽和非共役基、N-メチロール基、及び/又はエポキシ基を含むことを特徴とする、上記(1)から(3)のいずれか1つに記載の繊維製品。
(5)
架橋成分は、モノマーC及び/又は外部架橋剤で機能性モノマーBに対する反応性を有するものを含み、特に、二官能性、三官能性、及び/又は多官能性のアンブロックド又はブロックドイソシアネート、エポキシシラン、ホルムアルデヒド樹脂、メラミン樹脂、カルボジイミド、及びエポキシ樹脂の群から選択されることを特徴とする、上記(1)から(4)のいずれか1つに記載の繊維製品。
(6)
一次元織物構造、二次元織物シート、及び/又は三次元織物立体構造を含むことを特徴とする、上記(1)から(5)のいずれか1項に記載の繊維製品。
(7)
炭素繊維と、ガラス繊維と、玄武岩繊維と、アラミド繊維と、ポリエチレン繊維と、及び/又はポリプロピレン繊維と、それらの混合物を含み、を含む、或いは、それらの繊維のみからなることを特徴とする、上記(1)から(6)のいずれか1つに記載の繊維製品。
(8)
i)少なくとも60℃のガラス転移温度を有する、エチレン性特にビニル性の重合可能なモノマーに基づくポリマー、及び、オプションとして、ポリマーを架橋するのに適した材料、を含む水性ポリマー分散液を提供すること;
ii)繊維製品を前記水性ポリマー分散液と接触させること;及び
iii)このようにコーティングされた繊維製品を、特に室温又は220℃迄の高温で乾燥すること、
を含む、上記(1)から(7)のいずれか1つに記載の繊維製品を生産するための方法。
(9)
繊維製品は、先行技術からの連続的又は不連続的な織物適用方法、特に、浸漬、ミストスプレー、ディッピング、キャスティング、及び/又はジェットスプレー、を適用することにより、水性ポリマー分散液と接触させられることを特徴とする、上記(8)に記載の方法。
(10)
ポリマー分散液の総質量に基づいて、10重量%から70重量%の、特に25重量%から60重量%の範囲内の固形分含有量を備える水性ポリマー分散液が用いられることを特徴とする、上記(8)又は(9)に記載の方法。
(11)
前記水性ポリマー分散液は、連続、半連続、又は不連続性重合法、特に、乳化重合、懸濁重合、又は分散重合、によって得られることを特徴とする、上記(8)から(10)のいずれか1つに記載の方法。
(12)
鉱物マトリックス、特にコンクリートマトリックス内に、上記(1)から(7)のいずれか1つに記載の繊維製品を含む複合材料。
(13)
鉱物材料、特にコンクリート構成要素を補強するための、上記(1)から(7)のいずれか1つに記載の繊維製品の使用。