(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-19
(45)【発行日】2022-10-27
(54)【発明の名称】耐電圧熱伝導構造
(51)【国際特許分類】
H05K 7/20 20060101AFI20221020BHJP
H02M 3/28 20060101ALI20221020BHJP
H01L 23/36 20060101ALI20221020BHJP
【FI】
H05K7/20 F
H02M3/28 Y
H01L23/36 D
(21)【出願番号】P 2020553890
(86)(22)【出願日】2019-10-28
(86)【国際出願番号】 JP2019042169
(87)【国際公開番号】W WO2020090735
(87)【国際公開日】2020-05-07
【審査請求日】2021-04-05
(31)【優先権主張番号】P 2018207336
(32)【優先日】2018-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000190116
【氏名又は名称】信越ポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110973
【氏名又は名称】長谷川 洋
(74)【代理人】
【識別番号】110002697
【氏名又は名称】めぶき国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】安藤 均
【審査官】五貫 昭一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/078436(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/148662(WO,A1)
【文献】特開平3-283505(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 7/20
H02M 3/28
H01L 23/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐電圧熱伝導性部材を備える耐電圧熱伝導構造であって、
前記耐電圧熱伝導性部材は、熱発生源と冷却部材との間に配置される部材であって、
第1ゴム部材と、
当該第1ゴム部材より大きな平面積を有する第2ゴム部材と、
を固定して成り、
前記第1ゴム部材は、前記熱発生源からの熱を伝導可能であって前記熱発生源との絶縁性を確保可能な部材であり、
前記第2ゴム部材は、前記熱発生源から前記第1ゴム部材を伝導してきた熱を前記冷却部材に伝導可能で、前記冷却部材との絶縁性を確保可能であって、かつ前記第1ゴム部材よりもゴム硬度の高い部材であり、
前記熱発生源を第1コイルとし、
前記冷却部材を金属製のヒートシンクとし、
前記第1コイルと前記
ヒートシンクとの間に絶縁層を備え、
前記絶縁層に、前記第1コイルに到達する貫通孔を備え、
前記耐電圧熱伝導性部材の前記第1ゴム部材は、前記貫通孔に挿入されて前記第1コイルに接触しており、前記第2ゴム部材は、前記絶縁層と前記
ヒートシンクとの間に配置されている耐電圧熱伝導構造。
【請求項2】
前記第1コイルは、筐体に覆われた状態で、前記ヒートシンクと反対側の前記絶縁層の面に保持されており、
前記筐体は、前記第1コイルが発する熱を外部に放出するための貫通孔を備えていることを特徴とする請求項1に記載の耐電圧熱伝導構造。
【発明の詳細な説明】
【クロスリファレンス】
【0001】
本出願は、2018年11月2日に日本国において出願された特願2018-207336に基づき優先権を主張し、当該出願に記載された内容は、本明細書に援用する。また、本願において引用した特許、特許出願及び文献に記載された内容は、本明細書に援用する。
【技術分野】
【0002】
本発明は、耐電圧熱伝導性部材および耐電圧熱伝導構造に関する。
【背景技術】
【0003】
最近、ガソリンや軽油を燃料とする自動車から、エンジンと電気モータとを動力源とするハイブリッドカーおよび電気モータを動力源とする電気自動車への転換が進んでいる。ハイブリッドカーや電気自動車の場合、電気モータを使用し、600~700Vの高電圧を必要とすると共に、リチウムイオン電池などの二次電池を使用する。一方、ライトやカーナビゲーションなどには、42Vあるいは12Vといった上記高電圧より格段に低い電圧を必要とする。このため、12Vから600~700Vの範囲内での電圧変換システムが必須となっている。
【0004】
電圧変換システムの一翼を担う機器として、DC-DCコンバータが知られている。当該コンバータは、コイルを搭載している。当該コイルは、通電に伴って発熱するため、速やかな放熱(冷却ともいう)を要する。かかる放熱の必要性から、コイルを搭載している筐体若しくは基板の直下にヒートシンクを固定したDC-DCコンバータも開発されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0005】
また、環境負荷の小さな自然エネルギーを利用した発電システムとして、風力発電が注目を浴びてきている。風力発電は、風によって羽根を回転させ、それによって発電機内部の磁石の回転による電磁誘導を利用してコイルに電流を流す発電方式である。この場合に、コイルの熱を速やかに除くことが好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
将来、電気モータの駆動に要する電圧は、より高くなる傾向にある。また、風力発電等に必要なコイルに誘起される起電力もより高くなると考えられている。したがって、コイル等の熱発生源の速やかなる冷却は、今後、益々必要になる。加えて、ヒートシンク等の冷却部材を設けた場合、熱発生源と冷却部材との耐電圧を高める必要もある。この目的から、コイル等の熱発生源に、絶縁性と耐熱性に優れるシリコーングリースを塗る方法も考えられる。しかし、使用に伴い、コイル等の熱発生源からシリコーングリースが流出する可能性があるので好ましくない。
【0008】
また、高硬度で絶縁性の熱伝導シートを、熱発生源と冷却部材との間に介在させる方法も考えられる。しかし、当該シートは、繰り返しの熱収縮によって移動する可能性がある。また、熱発生源と当該シートが密着しないと、熱発生源と当該熱伝導シートとの良好な接触を期待できず、その結果、熱発生源から冷却部材への速やかな放熱を期待できない。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、熱発生源と冷却部材との間に電圧破壊値の高い絶縁性および熱伝導性の高い部材を安定的に配置させて、熱発生源からの速やかなる放熱と高耐電圧性の実現を行わせることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)上記目的を達成するための一実施形態に係る耐電圧熱伝導性部材は、熱発生源と冷却部材との間に配置される部材であって、第1ゴム部材と、当該第1ゴム部材より大きな平面積を有する第2ゴム部材と、を固定して成り、前記第1ゴム部材は、前記熱発生源からの熱を伝導可能であって前記熱発生源との絶縁性を確保可能な部材であり、前記第2ゴム部材は、前記熱発生源から前記第1ゴム部材を伝導してきた熱を前記冷却部材に伝導可能で、前記冷却部材との絶縁性を確保可能であって、かつ前記第1ゴム部材よりもゴム硬度の高い部材である。
(2)別の実施形態に係る耐電圧熱伝導性部材において、好ましくは、前記第1ゴム部材および前記第2ゴム部材は、共にシリコーンゴムである。
(3)上記目的を達成するための一実施形態に係る耐電圧熱伝導構造は、上述のいずれかの耐電圧熱伝導性部材を備える耐電圧熱伝導構造であって、熱発生源を第1コイルとし、前記第1コイルと前記冷却部材との間に絶縁層を備え、前記絶縁層に、前記第1コイルに到達する貫通孔を備え、前記耐電圧熱伝導性部材の前記第1ゴム部材は、前記貫通孔に挿入されて前記第1コイルに接触しており、前記第2ゴム部材は、前記絶縁層と前記冷却部材との間に配置されている。
(4)別の実施形態に係る耐電圧熱伝導構造において、好ましくは、前記冷却部材を金属製のヒートシンクとする。
(5)別の実施形態に係る耐電圧熱伝導構造は、好ましくは、前記第2ゴム部材と前記冷却部材との間に、前記第1コイルからの磁束の作用によって電流を生じる第2コイルを、さらに備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、熱発生源と冷却部材との間に電圧破壊値の高い絶縁性および熱伝導性の高い部材を安定的に配置させて、熱発生源からの速やかなる放熱と高耐電圧性の実現を行わせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係る耐電圧熱伝導性部材の斜視図を示す。
【
図2】
図2は、本発明の実施形態に係る耐電圧熱伝導構造を持つ部材の断面図を示す。
【
図4】
図4は、本発明の別の実施形態に係る耐電圧熱伝導構造を持つ部材の断面図を示す。
【
図5】
図5は、
図4の耐電圧熱伝導構造を持つ部材の組み立て状況の断面図を示す。
【
図6】
図6は、本発明の変形例に係る耐電圧熱伝導性部材の斜視図を示す。
【符号の説明】
【0013】
1,1a・・・耐電圧熱伝導性部材、2・・・第1ゴム部材、3・・・第2ゴム部材、10,20・・・部材、11,21・・・第1コイル(熱発生源の一例)、12,22・・・絶縁層、12a,22a・・・貫通孔、14・・・第2コイル(熱発生源としても良い)、15・・・冷却部材、25・・・ヒートシンク(冷却部材の一例)。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また、実施形態の中で説明されている諸要素及びその組み合わせの全てが本発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0015】
図1は、本発明の実施形態に係る耐電圧熱伝導性部材の斜視図を示す。
【0016】
耐電圧熱伝導性部材1は、熱発生源と冷却部材との間に配置される部材であって、第1ゴム部材2と、第1ゴム部材2より大きな平面積を有する第2ゴム部材3と、を固定して成る。この実施形態では、第1ゴム部材2および第2ゴム部材は、ともに、直方体の形状を有するが、かかる形状に限定されず、円柱形状、三角柱あるいは五角以上の多角柱形状でも良い。第1ゴム部材2の円換算直径は、好ましくは、第2ゴム部材3の円換算直径よりも小さい。円換算直径(円換算径ともいう)は、第1ゴム部材2および第2ゴム部材3の平面を、その形状を問わず同じ面積の円にしたときの直径を意味する。第1ゴム部材2の厚さは、好ましくは、第2ゴム部材3の厚さより大きい。ここで、「厚さ」は、第1ゴム部材2と第2ゴム部材3とを接続している方向の距離をいう。
【0017】
第1ゴム部材2は、熱発生源からの熱を伝導可能であって熱発生源との絶縁性を確保可能な部材である。第2ゴム部材3は、熱発生源から第1ゴム部材2を伝導してきた熱を冷却部材に伝導可能で、冷却部材との絶縁性を確保可能な部材である。第2ゴム部材3は、第1ゴム部材2よりもゴム硬度の高い部材である。第1ゴム部材2は、熱発生源に密着させる必要のある部材である。一方、第2ゴム部材3は、冷却部材、若しくは冷却部材と熱発生源との間に介在する介在部材との間でその距離を保ち、冷却部材若しくは介在部材を保持する必要のある部材である。このため、第1ゴム部材2は、第2ゴム部材3よりもゴム硬度の低い部材としている。
【0018】
第1ゴム部材2の好適な硬度としては、タイプAデュロメーターによる硬度が20~30度、あるいはタイプEデュロメーターによる硬度が20度未満(さらに好ましくは10度未満)である。第2ゴム部材3の好適な硬度としては、タイプAデュロメーターによる硬度が50~90度、あるいはタイプDデュロメーターによる硬度が90度以上である。なお、第1ゴム部材2と第2ゴム部材3の各ゴム硬度の測定には、好ましくは、JIS K 6253-2、あるいはJIS K 6253-3に規定の方法を利用する。
【0019】
第1ゴム部材2および第2ゴム部材3を構成するゴム(ゴム状弾性体と称しても良い)は、互いに異なる種類のゴムであるか、それとも同種のゴムであるかを問わない。このようなゴムとしては、好ましくは、シリコーンゴム、ウレタンゴム、イソプレンゴム、エチレンプロピレンゴム、天然ゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、ニトリルゴム(NBR)あるいはスチレンブタジエンゴム(SBR)等の熱硬化性エラストマー; ウレタン系、エステル系、スチレン系、オレフィン系、ブタジエン系、フッ素系等の熱可塑性エラストマー、あるいはそれらの複合物等を例示できる。ゴム状弾性体は、第1ゴム部材2および第2ゴム部材3を伝わる熱によって溶融あるいは分解等せずにその形態を維持できる程度の耐熱性の高い材料から構成されるのが好ましい。この実施形態では、ゴム状弾性体は、より好ましくは、ウレタン系エラストマー中にシリコーンを含浸したもの、あるいはシリコーンゴムにより構成される。第1ゴム部材2および第2ゴム部材3は、好ましくは、共にシリコーンゴムである。
【0020】
ゴム状弾性体は、好ましくは、その熱伝導性を少しでも高めるために、ゴムの母材中に、酸化アルミニウム(Al2O3)、窒化アルミニウム(AlN)、立方晶窒化ホウ素(cBN)、六方晶窒化ホウ素(hBN)、ダイヤモンドのような熱伝導性に優れる粒子、ウィスカー、繊維等に代表されるフィラーを分散して構成される。
【0021】
第1ゴム部材2および第2ゴム部材3は、熱発生源と冷却部材との間の絶縁性を保持しつつ熱伝導性を高くする部材である。このため、ゴムの母材および必要によって母材中に分散しているフィラーは、電気伝導性の低い材料である。例えば、ゴムの母材およびフィラーの各体積抵抗率は、108オーム・m以上であり、好ましくは108オーム・mより大きくて1019オーム未満であり、入手容易であって好ましい範囲としては109~1016オーム・mである。
【0022】
図2は、本発明の実施形態に係る耐電圧熱伝導構造を持つ部材の断面図を示す。
【0023】
この部材10の耐電圧熱伝導構造は、上述の耐電圧熱伝導性部材1を備える。この耐電圧熱伝導構造は、中央部分から外側に向かって、順に、熱発生源としての第1コイル11、第1コイル11の外側両表面に備える絶縁層12、絶縁層12の両外側に位置する2つの第2コイル14、および第2コイル14より外側に位置する冷却部材15を備える。ここで、絶縁層12は、第1コイル11の外側両表面に備えられているが、当該両表面に接触せずに、別の層を介してあるいは空間を介して、第1コイル11と冷却部材15との間に備えられていても良い。第2コイル14は、第2ゴム部材3と冷却部材15との間にあって、第1コイル11からの磁束の作用によって電流を生じる部材である。第1コイル11および第2コイル14は、1枚のプレートをU字形状にカーブさせた形態でも良く、あるいは複数本のコイル線を第1コイル11および第2コイル14の直径内側から外側に向かって巻いた形態でも良い。冷却部材15は、水等の冷却媒体(冷却剤ともいう)を流す部材の他、多数の凹凸を備えた金属製あるいはセラミックス製のヒートシンクでも良い。
【0024】
第1コイル11の両外面を覆う絶縁層12は、当該両外面から第1コイル11に到達する貫通孔12a(
図3Bを参照)をそれぞれ備える。貫通孔12aは、絶縁層12の一部であって、1または2以上の箇所に形成されていて、貫通方向の一方を第1コイル11に塞がれていることから、絶縁層12の外面から第1コイル11に向かって形成された凹部と称しても良い。各第2コイル14より外側には、磁性プレート13が1つずつ配置されている。磁性プレート13は、平板13aと、平板13aの略中央に立設されている突出部13bと、を備えるフランジ形状のプレートである。第1コイル11および第2コイル14は、磁性プレート13の突出部13bの部分に挿入されている。2つの磁性プレート13は、この実施形態では、それぞれの突出部13bを近接させているが非接触にした状態になるように配置されているが、突出部13b同士を接触させても良い。冷却部材15は、一方の磁性プレート13の外側に固定されているが、両方の磁性プレート13の外側に固定されていても良い。なお、「外側」とは、第1コイル11の中央から磁性プレート13に向かう側をいう。
【0025】
絶縁層12は、第1コイル11と第2コイル14との絶縁を確保するための層である。耐電圧熱伝導性部材1の第1ゴム部材2は、貫通孔12aに挿入されて第1コイル11に接触している。第2ゴム部材3は、絶縁層12と冷却部材15との間、あるいは冷却部材15の無い方向については絶縁層12と磁性プレート13の平板13aとの間に、配置されている。このように、耐電圧熱伝導性部材1は、第1コイル11、絶縁層12および第2コイル14により形成される略断面T字形状の空間内に配置されている。
【0026】
なお、第2コイル14は、1つのみを備えても良い。また、絶縁層12は、第1コイル11と第2コイル14との絶縁を確保可能であれば、第1コイル11の片面、両面のいずれに備えられていても良い。磁性プレート13は、第1コイル11への通電によって生じた磁束を第2コイル14に効率よく導くルートを形成できるならば、その個数および配置場所を問わない。
【0027】
図3Aは、
図2のA部分を抜き出した拡大断面図を示す。
図3Bは、
図2のA部分の組み立て状況の断面図を示す。
【0028】
図3Aに示す構造を得るには、以下のような手順にて各工程を行うのが好ましい。
【0029】
第1コイル11の両面の絶縁層12に形成された2つの貫通孔12aに、第1ゴム部材2を挿入して、第1ゴム部材2を第1コイル11に接触させる。貫通孔12aを塞いだ耐電圧熱伝導性部材1の第2ゴム部材3の上から、第2コイル14、磁性プレート13を配置する。最後に、磁性プレート13の平板13aの上から冷却部材15を配置する。ただし、冷却部材15は、磁性プレート13の平板13aに予め固定しておき、耐電圧熱伝導性部材1の上から、冷却部材15と磁性プレート13とを一体化した部材を配置しても良い。また、耐電圧熱伝導性部材1の上から、冷却部材15と磁性プレート13と第2コイル14とを重ねた状態のものを配置しても良い。
【0030】
耐電圧熱伝導性部材1は、第1コイル11と第2コイル14との間を熱的に接続する部材である。このため、第1コイル11の通電によって発生した熱は、耐電圧熱伝導性部材1を伝わって、第2コイル14、磁性プレート13、さらには一方向については冷却部材15へと速やかに伝わる。貫通孔12aに挿入する第1ゴム部材2は、第2コイル14側の第2ゴム部材3に比べてゴム硬度の低いゴム材料で構成されている。このため、第1コイル11の表面と貫通孔12aの内壁に隙間を生じにくい高熱伝導領域を形成しやすい。また、絶縁層12と第2コイル14との間に、比較的高硬度の第2ゴム部材3を介在させているため、第2コイル14と第1コイル11との間の距離や平行度を一定に保持させた状態での熱伝導を実現できる。また、第2コイル14が第1コイル11より高温になる場合には、第2コイル14の熱が第1コイル11に伝わり、両コイル11,14の温度が均一化される。このような場合に、耐電圧熱伝導性部材1は、両コイル11,14をつなぐ熱流路として機能する。このため、絶縁層12に設けられた貫通孔12a側には低硬度の第1ゴム部材2を、その反対側には高硬度の第2ゴム部材3を配置可能な形態の耐電圧熱伝導性部材1を配置する意義がある。
【0031】
なお、
図2、
図3Aおよび
図3Bの構成は、例えば、変圧機器(DC-DCコンバータなど)に応用できる。その場合、第1コイル11は1次コイルと、第2コイル14は2次コイルと、それぞれ読み替えることができる。
【0032】
図4は、本発明の別の実施形態に係る耐電圧熱伝導構造を持つ部材の断面図を示す。
図5は、
図4の耐電圧熱伝導構造を持つ部材の組み立て状況の断面図を示す。
【0033】
この実施形態に係る耐電圧熱伝導構造を持つ部材20は、上述の耐電圧熱伝導性部材1を備える。耐電圧熱伝導性部材1は、熱発生源としての第1コイル(単に、コイルと称しても良い。)21と、冷却部材25(以後、適宜、その一例として、ヒートシンク25と称する)と、の間に配置される部材である。耐電圧熱伝導性部材1は、第1ゴム部材2と、第1ゴム部材2より大きな平面積を有する第2ゴム部材3と、を固定して成る。第1ゴム部材2は、第1コイル21からの熱を伝導可能であって、第1コイル21との絶縁性を確保可能な部材である。第2ゴム部材3は、第1コイル21から第1ゴム部材2を伝導してきた熱をヒートシンク25に伝導可能で、ヒートシンク25との絶縁性を確保可能であって、かつ第1ゴム部材2よりもゴム硬度の高い部材である。第1ゴム部材2および第2ゴム部材3は、共にシリコーンゴムであるのが好ましい。
【0034】
図4に示す耐電圧熱伝導構造は、第1コイル21と、第1コイル21とヒートシンク25との間に備えられる絶縁層22と、を備える。絶縁層22には、第1コイル21に到達する貫通孔22aが備えられている。耐電圧熱伝導性部材1の第1ゴム部材2は、貫通孔22aに挿入されて、第1コイル21に接触している。第2ゴム部材3は、絶縁層22とヒートシンク25との間に配置されている。ヒートシンク25は、多数の針状部材25aと、それら25aを立設した基板25bと、を備える。ヒートシンク25と、耐電圧熱伝導性部材1の第1ゴム部材2とは、接着層30を介して固定されている。接着層30は、第1コイル21からヒートシンク25への熱伝導の際に、溶融しない耐熱性を備える。なお、接着層30は、必ずしも備えることを要しない。ヒートシンク25と第2ゴム部材3とを直接に固定しても良い。第1コイル21は、好ましくは筐体27に覆われた状態で、ヒートシンク25と反対側の絶縁層22の面に保持されている。筐体27は、第1コイル21が発する熱を外部に放出するための貫通孔27aを備えることができる。変形例として、第1コイル21は、筐体27に覆われるのではなく、絶縁層22のヒートシンク25と反対側に配置される回路基板に、備えられていても良い。
【0035】
この耐電圧熱伝導構造は、
図5に示すように、例えば、以下の手順で構成できる。まず、第1コイル21を備えた絶縁層22に対して、第1コイル21と反対側に位置する貫通孔22aの開口面の方向から、耐電圧熱伝導性部材1の第1ゴム部材2を挿入して、第1ゴム部材2を第1コイル21と貫通孔22aの内壁に接触せしめる。次に、第2ゴム部材3に、接着層30を介して、ヒートシンク25の基板25bを固定する。ただし、ヒートシンク25と耐電圧熱伝導性部材1とを先に固定し、次に、絶縁層22の貫通孔22aに耐電圧熱伝導性部材1の第1ゴム部材2を挿入しても良い。
【0036】
耐電圧熱伝導性部材1は、第1コイル21とヒートシンク25との間を熱的に接続する部材である。このため、第1コイル21の通電によって発生した熱は、耐電圧熱伝導性部材1を伝わって、ヒートシンク25へと速やかに伝達する。貫通孔22aに挿入する第1ゴム部材2は、第2ゴム部材3に比べてゴム硬度の低いゴム材料で構成されている。このため、第1コイル21の表面と貫通孔22aの内壁に隙間を生じにくい高熱伝導領域を形成しやすい。また、絶縁層22とヒートシンク25との間に、比較的高硬度の第2ゴム部材3を介在させている。このため、ヒートシンク25と第1コイル11との間の距離や平行度を一定に保持させた状態での熱伝導を実現できる。
【0037】
以上説明したように、耐電圧熱伝導構造は、第1コイル11,21等の熱発生源からの熱を冷却部材15,25への伝えるために、第1コイル11,21側に接する第1ゴム部材2と、冷却部材15,25側に配置される第2ゴム部材3とを固定した耐電圧熱伝導性部材1を、熱発生源と冷却部材15,25との間に介在させている。熱発生源と冷却部材15,25との間は、確実に絶縁させて耐電圧を確保する必要がある。ここで、耐電圧とは、コイルと冷却部材との間を、耐電圧熱伝導性部材1を挟んで絶縁している場合に、絶縁破壊を起こさずに一定時間耐えられる電圧をいう。耐電圧熱伝導性部材1を第2ゴム部材3と同じ高硬度のゴム材料で構成してしまうと、繰り返しの使用に伴う熱収縮により、絶縁層12,22と冷却部材15,25との間の領域において、貫通孔12a,22aとの密着性が低下して,最初の固定位置から移動してしまう可能性がある。これを防ぐべく、第1ゴム部材2は、ゴム硬度の低いゴム材料にて構成する必要がある。
【0038】
また、第2ゴム部材3は、第1ゴム部材2と同じゴム硬度としても良いが、その場合には、第2ゴム部材3の外面から絶縁層12,22までの距離と、当該外面から熱発生源までの距離との差(=絶縁層12,22の厚さ)が生じる。このため、貫通孔12a,22aの内部とその外周囲との間で、冷却部材15,25からの圧接力に差が生じる。この結果、冷却部材15,25の安定した固定を実現しにくい。特に、冷却部材25と絶縁層22との間に、第2ゴム部材3および必要に応じて備えられる接着層30しか存在しない形態では、冷却部材25を安定して絶縁層22に固定しにくくなる。一方、冷却部材15と絶縁層12との間に、第2コイル14および磁性プレート13の平板13aが介在している場合には、平板13aの厚さが大きければ、冷却部材15を安定して固定できる。しかし、平板13aの厚さが小さい場合には、冷却部材15を安定して固定できなくなる可能性がある。このため、貫通孔12a,22a側に比較的低硬度の第1ゴム部材2を、冷却部材15,25側に第1ゴム部材2より高硬度の第2ゴム部材3を、それぞれ配置可能な耐電圧熱伝導性部材1を備えるのが好ましい。これによって、熱発生源と冷却部材15,25との間に高絶縁性および高熱伝導性の部材(耐電圧熱伝導性部材1)を安定的に配置させて、熱発生源からの速やかなる放熱を行わせることができる。また、本発明によれば、熱発生源と冷却部材との間に高絶縁性および高熱伝導性の部材を理想的な圧接比で接触させるために熱伝導、電気的耐電圧の機能を持つ2種類の熱伝導性シートを安定的に配置させて、熱発生源からの速やかなる放熱を行わせることができる。
【0039】
以上、本発明の好適な実施形態およびその変形例について説明したが、本発明は、上述の形態に限定されず、例えば、以下のように種々変形して実施可能である。
【0040】
図6は、本発明の変形例に係る耐電圧熱伝導性部材の斜視図を示す。
【0041】
この変形例に係る耐電圧熱伝導性部材1aは、複数個の第1ゴム部材2と、それらの第1ゴム部材2を固定した第2ゴム部材3とを備える。複数個の第1ゴム部材2は、直方体のみならず、円柱状のものも含む。このように、耐電圧熱伝導性部材は、複数個であって、異なる形状の第1ゴム部材2を備えることもできる。この場合、耐電圧熱伝導構造は、複数個の第1ゴム部材2と接触する熱発生源を備える。
【0042】
上述の実施形態では、第1ゴム部材2の硬度を第2ゴム部材3の硬度より小さくしているが、第2ゴム部材3の硬度を第1ゴム部材2の硬度と同一としても良い。その場合、第1ゴム部材2および第2ゴム部材3の好適な硬度としては、タイプAデュロメーターによる硬度が20~30度、あるいはタイプEデュロメーターによる硬度が20度未満(さらに好ましくは10度未満)である。
【0043】
また、上述の実施形態では、熱発生源として、第1コイル11,21を例に説明した。しかし、熱発生源は、第2コイル14のような2次コイルでも良い。また、熱発生源は、コイル以外に、CPU、キャパシタ、電池などの他の部品あるいは装置でも良い。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、例えば、変圧機器、電子部品搭載回路基板、バッテリーなどの放熱に利用することができる。