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特許7162094ビームディザリング及びスカイビングのためのレーザ加工システム並びに方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-19
(45)【発行日】2022-10-27
(54)【発明の名称】ビームディザリング及びスカイビングのためのレーザ加工システム並びに方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/36 20140101AFI20221020BHJP
   B23K 26/00 20140101ALI20221020BHJP
   B23K 26/082 20140101ALI20221020BHJP
   B23K 26/067 20060101ALI20221020BHJP
   H01S 3/00 20060101ALI20221020BHJP
   H01S 3/10 20060101ALI20221020BHJP
   G02F 1/29 20060101ALI20221020BHJP
   G02F 1/11 20060101ALN20221020BHJP
【FI】
B23K26/36
B23K26/00 N
B23K26/082
B23K26/067
H01S3/00 B
H01S3/10 Z
G02F1/29
G02F1/11 502
【請求項の数】 7
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021064903
(22)【出願日】2021-04-06
(62)【分割の表示】P 2018232109の分割
【原出願日】2011-10-24
(65)【公開番号】P2021130137
(43)【公開日】2021-09-09
【審査請求日】2021-04-30
(31)【優先権主張番号】61/406,038
(32)【優先日】2010-10-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】593141632
【氏名又は名称】エレクトロ サイエンティフィック インダストリーズ インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100109896
【弁理士】
【氏名又は名称】森 友宏
(72)【発明者】
【氏名】ウンラート,マーク エー
(72)【発明者】
【氏名】バーウィック,アンドリュー
(72)【発明者】
【氏名】ミャーチン,アレクサンダー エー
【審査官】岩見 勤
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/077506(WO,A2)
【文献】特開2010-023100(JP,A)
【文献】特開2008-049383(JP,A)
【文献】特開2003-136270(JP,A)
【文献】特開平04-089188(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/36
B23K 26/00
B23K 26/082
B23K 26/067
H01S 3/00
H01S 3/10
G02F 1/29
G02F 1/11
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
周波数及び振幅により特徴付けられる第1のRF信号に反応して入射レーザ光ビームを回折可能な第1の音響光学偏向器(AOD)と、
周波数及び振幅により特徴付けられる第2のRF信号に反応して前記第1のAODにより回折された入射レーザ光ビームを回折可能な第2のAODと、
コントローラと
を備え、
前記コントローラは、前記第1のRF信号を前記第1のAODに出力させ、前記第2のRF信号を前記第2のAODに出力させることが可能であり、
前記コントローラは、さらに、前記第1のRF信号の周波数及び前記第2のRF信号の周波数に基づいて前記第2のRF信号の振幅を設定可能である、
ビーム位置決めシステム。
【請求項2】
前記コントローラは、さらに、前記第1のRF信号の振幅を一定値に設定可能である、請求項1に記載のビーム位置決めシステム。
【請求項3】
前記ビーム位置決めシステムは、2次元走査フィールド内で前記レーザ光ビームを偏向可能であり、
前記第1のAODは、前記2次元走査フィールドの第1の軸に沿って前記レーザ光ビームを偏向可能であり、
前記第2のAODは、前記2次元走査フィールドの第2の軸に沿って前記レーザ光ビームを偏向可能である、
請求項1に記載のビーム位置決めシステム。
【請求項4】
周波数及び振幅により特徴付けられる第1のRF信号に反応して入射レーザ光ビームを回折可能な第1の音響光学偏向器(AOD)と、周波数及び振幅により特徴付けられる第2のRF信号に反応して前記第1のAODにより回折された入射レーザ光ビームを回折可能な第2のAODとを有するビーム位置決めシステム用のコントローラであって、
プロセッサと、
前記プロセッサにアクセス可能な非一過性コンピュータ読取可能媒体であって、前記プロセッサにより実行された際に、前記第2のRF信号の振幅が前記第1のRF信号の周波数及び前記第2のRF信号の周波数に基づくように前記第1のRF信号及び前記第2のRF信号を出力させる指令を格納した非一過性コンピュータ読取可能媒体と
を備える、
コントローラ。
【請求項5】
前記非一過性コンピュータ読取可能媒体は、前記プロセッサにより実行された際に、前記第1のRF信号の振幅を一定値に設定する命令を格納した、請求項4に記載のコントローラ。
【請求項6】
周波数及び振幅により特徴付けられる第1のRF信号に反応して入射レーザ光ビームを回折可能な第1の音響光学偏向器(AOD)と、周波数及び振幅により特徴付けられる第2のRF信号に反応して前記第1のAODにより回折された入射レーザ光ビームを回折可能な第2のAODとを有するビーム位置決めシステムのコントローラとともに用いられる非一過性コンピュータ読取可能媒体であって、
前記コントローラにより実行された際に、前記第2のRF信号の振幅が前記第1のRF信号の周波数及び前記第2のRF信号の周波数に基づくように前記第1のRF信号及び前記第2のRF信号を出力させる指令を格納した、
非一過性コンピュータ読取可能媒体。
【請求項7】
前記コントローラにより実行された際に、前記第1のRF信号の振幅を一定値に設定する命令を格納する、請求項6に記載の非一過性コンピュータ読取可能媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、誘電材料又は他の材料のレーザ加工に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子部品における微細特徴部をアブレートするために誘電材料及び導電材料のレーザ加工が一般的に用いられている。例えば、半導体ダイからボールグリッドアレイ又は同様のパッケージに信号を送るためにチップ実装基板をレーザ加工してもよい。レーザ加工された特徴部は、信号トレース、接地トレース、及び(パッケージ層の間で信号トレースを接続するための)マイクロビアを含み得る。
【0003】
レーザダイレクトアブレーション(LDA)は、1つの層上に信号トレースと接地トレースとを組み込んでチップパッケージにおける層の数を少なくしつつ信号インピーダンスをしっかりと制御する。そのようなアプローチでは、特徴部の寸法と間隔を小さくしたり(例えば、約10ミクロン(μm)から約25μm)、パッケージごとのトレース長を長くしたり(約5メーター(m)から約10m)しなければならないことがある。チップパッケージを経済的に構成するために、そのような特徴部をアブレートする速度を非常に高速に(例えば、約1メーター/秒(m/s)から約10m/s)してもよい。顧客のスループットの目標を達成するために、パッケージを例えば約0.5秒(s)から約5sで加工してもよい。
【0004】
チップ実装の他の有用な特徴は、深さの変化を制御しつつトレースを交差させることでもあり得る。例えば、接地トレースは、パターンにわたって複数の点で分岐していてもよい。それぞれの分岐交点において、約+/-10%未満の所望の深さの変化としつつトレースをアブレートしてもよい。通常、2つのトレースを1点でアブレートする場合、アブレートするビームの二重露光により約100%の深さの変化が生じる。
【0005】
チップ実装の他の有用な特徴は、パッケージの異なる部分においてトレース幅を可変にしてインピーダンスを制御すること、あるいは層間接続ビアのためのパッドを提供することでもあり得る。トレース幅制御は、主トレースの高速加工に対する害を低減あるいは最小限にしたものでなければならない。
【0006】
また、任意のサイズ及び形状の特徴部を高速で、かつその特徴部の特性を変化させるような時間を削減又は最小限にして加工することも有用であり得る。例えば、特徴部は、種々の直径及び/又は側壁テーパを有するマイクロビア、正方形又は長方形パッド、アライメント基準、及び/又は英数字表記を含んでいる。従来、マイクロビアのような特徴部を加工するためには、可変の直径を有する整形された強度プロファイル(例えばフラットトップビーム)又は純粋なガウス型ビームを提供するように光学系が設計されてきた。これらの光学系は、レーザ加工スポットの特性を変更する際に、かなりの時間遅延(例えば、約10ミリ秒(ms)から約10s)を伴う場合がある。
【0007】
他の問題は、上述した加工パラメータを満たすように機械を構築することに関連する。例えば、取り回しの要件のためにパッケージにわたってトレースの方向を変更することがある。高速でトレースを加工する際に、軌跡の角度の変化により、非常に短いタイムスケールでビーム位置の加速度を高くしなければならない場合がある。レーザ加工は、例えば、高いスループットのために使用される高速動作(例えば、約1m/sから約10m/s)の場合に、ビームポジショナの動的制限を簡単に超えてしまう。
【0008】
そのような加速度及び/又は速度では、この種の加工に使用されるタイムスケール(例えば、約1マイクロ秒(μsec)から約100μsecのオーダー)では反応できない静的(又はゆっくりと変化する)ビーム調整光学部品とともにミラーガルバノメータビームデフレクタ(ここでは「ガルボ」又は「ガルバノミラー」という)と組み合わされる直動ステージのようなビーム位置決め技術に依存する従来のレーザ加工機械においては、成果をあげることが難しい場合がある。
【0009】
実際のアブレーション工程も考慮すべきファクターとなり得る。融解やクラッキング、基板損傷などの熱的な副作用を最小限にしつつ誘電材料をアブレートするためにピークパワーの高いレーザパルスを用いることができる。例えば、約5メガヘルツ(MHz)から約100MHzの繰り返し率で約20ピコ秒(ps)から約50psの範囲のパルス幅を有する超高速レーザは、パルスをかなり重ね合わせることにより、パルススペーシング効果を避けつつ、高いピークパワーで材料を加工することができる。現在、ファイバレーザは、通常、約500キロヘルツ(kHz)を超える繰り返し率でナノ秒領域のパルス幅を提供する。通常、所定の加工条件(アブレーション深さ及び幅)に対して、加工された材料に照射される「線量」(パワー/速度)は一定にする必要がある。しかしながら、低速時には、照射されるパワーが低くなり、熱的効果(例えば、融解や炭化)を誘因せずに材料をアブレートするにはピークパルスパワーが不十分になることがある。
【0010】
ビームポジショナの設計により、ガルボを用いた加工ビームが偏向することがある。ワークピースでの加工ビームの強度プロファイルは、(ガウスビームの単純な集束のための)ガウス形であってもよく、固定された光学ビーム整形器により調整されたビームのために整形された強度プロファイル(例えばフラットトッププロファイル)であってもよい。
【発明の開示】
【0011】
一実施形態においては、レーザビームをディザリングする方法は、ビーム軌跡に沿った加工速度が変化することとは関係なく、ワークピース内に1以上の所望のトレンチ幅を有するトレンチを形成する。前記方法は、ビーム軌跡に沿った、前記ワークピースの表面に対するレーザビーム光路の第1の相対移動を生じさせ、複数のディザ行に沿った前記レーザビーム光路の第2の相対移動を決定する。前記第2の相対移動は、前記ビーム軌跡に対して所定の角度で前記第1の相対移動に重ね合わされる。前記第2の相対移動の決定は、前記複数のディザ行のそれぞれに対して前記所定の角度を維持するために加工速度の変化を補償することを含んでいる。前記方法は、さらに、前記レーザビーム光路の前記第2の相対移動を生じさせ、複数のレーザビームパルスを前記複数のディザ行に沿った複数のスポット位置で前記ワークピースに照射して、前記所定の角度で定義される方向にトレンチを広げる。ある実施形態においては、前記所定の角度は前記ビーム軌跡に対して垂直である。加えて、あるいは他の実施形態においては、前記複数のレーザビームパルスを照射することは一定の速度で照射することを含み、前記方法は、さらに、整数個のディザ行を加工して前記トレンチを完成させるように前記加工速度を選択的に調整する。
【0012】
他の実施形態においては、レーザ加工システムは、ビーム軌跡に沿った、ワークピースの表面に対するレーザビーム光路の第1の相対移動を生じさせる第1の位置決めシステムと、複数のディザ行に沿った前記レーザビーム光路の第2の相対移動を決定する1以上のプロセッサとを備えている。前記第2の相対移動は、前記ビーム軌跡に対して所定の角度で前記第1の相対移動に重ね合わされる。前記第2の相対移動の決定は、前記複数のディザ行のそれぞれに対して前記所定の角度を維持するように前記ビーム軌跡に沿った加工速度の変化を補償することを含んでいる。また、前記システムは、前記レーザビーム光路の前記第2の相対移動を生じさせる第2の位置決めシステムと、複数のレーザビームパルスを前記複数のディザ行に沿った複数のスポット位置で前記ワークピースに照射して、前記所定の角度で定義される方向にトレンチを広げるレーザ源とを備えている。
【0013】
他の実施形態においては、レーザビームをディザリングする方法は、ワークピースにトレンチを生成する。前記方法は、前記トレンチの長さを定義するビーム軌跡に沿った、前記ワークピースの表面に対するレーザビーム光路の第1の相対移動を生じさせ、複数のディザ行に沿った前記レーザビーム光路の前記第2の相対移動を生じさせる。前記第2の相対移動は、前記トレンチを広げるために前記第1の相対移動に重ね合わされる。前記トレンチの幅は可変である。前記方法は、さらに、前記複数のディザ行のそれぞれに含まれるディザ点の数を選択する。当該選択により各ディザ行を加工する時間が短縮され、各ディザ行における前記ディザ点の数はそれぞれのディザ行に対応する前記トレンチの前記幅に基づいたものである。前記方法は、さらに、複数のレーザビームパルスを前記複数のディザ行のそれぞれにおける前記ディザ点に対応する複数のスポット位置で前記ワークピースに照射する。
【0014】
他の実施形態においては、ワークピース上の2次元のスカイブ領域をレーザ加工する方法は、レーザダイレクトアブレーションシステムを用いる。前記方法は、前記スカイブ領域内でレーザスポット位置のグリッドを生成する。前記グリッド内の前記レーザスポット位置間の間隔は、少なくとも部分的にレーザスポットサイズ及び隣接するレーザスポットの所望の重なりに基づいている。前記方法は、さらに、前記グリッドをビーム軌跡に沿ったレーザビーム光路のそれぞれのパスに対応する複数のストリップに分割する。各ストリップは、前記ビーム軌跡に対してディザ方向に沿った複数のディザ行を含む。前記方法は、さらに、前記複数のストリップにわたって連続的に前記ビーム軌跡に沿った前記レーザビーム光路の第1の相対移動を生じさせ、各ディザ行に対して前記ディザ方向に沿った前記レーザビーム光路の第2の相対移動を生じさせ、前記スカイブ領域内の前記レーザスポット位置への前記レーザビーム光路に沿って複数のレーザビームパルスを前記ワークピースに照射する。
【0015】
ある実施形態においては、前記方法は、前記ディザ行のそれぞれに対してデータをフィルタリングして、前記グリッドの隣接するストリップの両側に沿ってレーザスポット強度プロファイルに傾斜を付け、深さの変化が前記スカイブ領域内で制御されるように前記レーザビームの前記パス間に重なりを形成する。前記複数のレーザビームパルスのそれぞれに対する前記レーザスポット強度は、前記フィルタリングされたデータに基づいて選択される。加えて、あるいは他の実施形態においては、前記方法は、前記レーザビーム光路が前記グリッドの第1のストリップから前記グリッドの第2のストリップに移動するときに、前記ディザ方向を反転させる。前記ディザ方向は、前記ビーム軌跡の方向に基づいていてもよい。
【0016】
更なる態様及び利点は、添付図面を参照して以下に述べられる好ましい実施形態の詳細な説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、加工スポットのグリッドを示す模式図であり、これらの加工スポットは、移動ビーム又は固定ラスタパターンをディザリングすることにより生成することができる。
図2図2は、一実施形態における、(スポット径により正規化された)相対グリッド幅とグリッド幅にわたるディザ点の数との関数としての有効幅EffectiveWidthにおける変化をグラフで示すものである。
図3図3は、一実施形態における、異なるグリッド濃度を有する2つの交差する特徴部のグリッドパターンをグラフで示すものである。
図4図4は、一実施形態における、振幅正規化の後に交差する特徴部(非合成)のモデル化フルエンスをグラフで示すものである。
図5図5は、一実施形態における、交差する特徴部の合成フルエンスをグラフで示すものである。
図6図6は、一実施形態における、タブを有する円形パッドに対するラスタグリッド(右側)及びフルエンスプロファイル(左側)をグラフで示すものである。
図7図7は、一実施形態における、幅の変化するトレンチに対するフルエンス正規化の影響をグラフで示すものである。
図8図8は、一実施形態におけるプロセス較正テスト行列の一例を示すものである。
図9図9は、一実施形態における材料テーブルMaterial Tableの一例を示すものである。
図10図10は、一実施形態における、AODに指令を与えるための簡易加工・データフローアーキテクチャを示すブロック図である。
図10A図10Aは、一実施形態における、レーザビームをディザリングするためのAODサブシステム及びガルボサブシステムを含むシステムのブロック図である。
図10B図10Bは、一実施形態におけるビーム整形用システムのブロック図である。
図10C図10Cは、一実施形態における、斜行した加工ビームを供給するシステムのブロック図である。
図11図11は、一実施形態における、FPGA内に実装されたAOD制御データフローを表すブロック図である。
図12図12は、一実施形態における、DSPとFPGAの同期の例を示すタイミングチャートである。
図13図13は、一実施形態における、バンク処理を用いる加工条件を示す模式図である。
図14図14は、一実施形態における、バンクパラメータスケーリングの例をグラフで示すものである。
図15図15は、ディザ動作の例におけるXYビーム位置の例をグラフで示すものである。
図16図16は、図15に示されるディザ動作の例における、Xビーム位置及びYビーム位置と時間の例をグラフで示すものである。
図17図17は、図15及び図16に示されるディザ動作の例のビーム位置及び加工パラメータのテーブルの例を示すものである。
図18図18は、LDAシステムがF/18の100mm走査フィールドレンズを含む実施形態の例における走査フィールド歪みパターンをグラフで示すものである。
図19図19は、実施形態の一例における、X及びY走査フィールド歪み誤差とX及びYフィールド位置をグラフで示すものである。
図20図20は、図19に示される実施形態の例における、X及びY走査フィールド歪み倍率及び回転誤差とX及びYフィールド位置をグラフで示すものである。
図21図21は、図19及び図20に示される例における、ラスタリングされた特徴部の局所的な位置幾何配置補正歪みの例をグラフで示すものである。
図22図22は、一実施形態における3次プロファイリングサブシステムを模式的に示すものである。
図23図23は、一実施形態におけるAOD較正パターンを模式的に示すものである。
図24図24は、ある実施形態におけるAOD較正角をグラフで示すものである。
図25図25は、一実施形態におけるパワー制御用の信号の流れを示すブロック図である。
図26図26は、一実施形態におけるパワー制御曲線の例をグラフで示すものである。
図27図27は、一実施形態におけるch1 AODパワー線形化曲線セットの例をグラフで示すものである。
図28図28は、一実施形態における、ch0 AODに対する曲線の例を示している。
図29図29は、ある実施形態におけるAOD効率曲線の例を示すグラフである。
図30図30は、ある実施形態におけるAOD効率利得の例を示すグラフである。
図31図31は、一実施形態におけるパワー較正データの流れを示すブロック図である。
図32図32は、一実施形態における、速度変化に対する3次フィルタの応答をグラフで示すものである。
図33図33は、一実施形態におけるモンテカルロAOD過渡状態シミュレーションをグラフで示すものである。
図34図34は、一実施形態における、Taod=Tcmd=1μsecであるときの速度制限の例をグラフで示すものである。
図35図35は、一実施形態における、AOD移動範囲と特徴部の幅をグラフで示すものである。
図36図36は、一実施形態における、加工速度に対するレーザパワー制限をグラフで示すものである。
図37図37は、ある実施形態におけるスポット歪みの例をグラフで示すものである。
図38図38は、一実施形態において、公称ビーム軌跡に対して垂直となるように揃えられたディザ行を模式的に示すものである。
図39図39は、一実施形態における傾斜ラスタ加工の例を模式的に示すものである。
図40図40は、ある実施形態における幅広ラインのスカイビングによるピクセル化誤差を模式的に示すものである。
図41図41は、一実施形態における、グリッドストライプに分割されたスカイブ領域を模式的に示すものである。
図42図42は、一実施形態における、スカイブディザ点のフィルタリング未処理グリッドと、スカイブ処理されたディザ点の対応するフィルタリング処理グリッドとをグラフで示すものである。
図43図43は、一実施形態における、図41に示されるストリップに対応する3つの第1のスカイブビームのフルエンス分布をグラフで示すものである。
図44図44は、一実施形態におけるスカイビングの例をグラフで示すものである。
図45図45は、一実施形態における、スカイビング中のビームコマンドをグラフで示すものである。
図46図46は、一実施形態における、材料除去速度とスカイブ行の長さ及び幅を示すプロットである。
図47図47は、一実施形態におけるスカイブ行の幾何配置の側面図を模式的に示すものである。
図48図48は、一実施形態における、ベクトル加工用のAODコマンドの生成を示すブロック図である。
図49図49は、一実施形態における、ラスタ加工用のAODコマンドの生成を示すブロック図である。
図50図50は、一実施形態における、スカイブ加工用のAODコマンドの生成を示すブロック図である。
図51図51は、一実施形態における、ガルボ及びAOD較正データの流れ5100を示すブロック図である。
図52図52は、一実施形態におけるディザ行フルエンス制御をグラフで示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本明細書に含まれる開示では、音響光学偏向器(AOD)をビーム位置決め装置として用いるLDAシステムに対する実施の詳細について述べる。本明細書に開示される例示実施形態はAODを対象としているが、電気光学偏向器(EOD)を用いることもできる。ある実施形態においては、例えばEODが、AODの指向(偏向)機能の一部又は全部を好適に置換するものとなる。
【0019】
ある実施形態においては、加工された特徴部の幾何配置(例えば幅及び深さ)を高いレベルでユーザが特定した後、それを機械制御ソフトウェアにより加工コマンドに変換してもよい。ある実施形態においては、レーザパワー及びディザリング動作の詳細が自動化され、煩わしくて誤りがちな手動の機械セットアップ工程が防止される。例えば、公称寸法で幾何的特徴部を生成する単純な工程をユーザに提供してもよい。特徴部には、目標幅及び深さを有するトレンチあるいは目標径及び深さを有するパッドが含まれ得る。ユーザがこれらの幾何的パラメータを直接入力し、システムがこれに反応して、特徴部を作るのに必要とされる適切な加工パラメータ(例えば、ビーム速度、ディザ幅、レーザパワー)を生成してもよい。あるLDA機器は、(ビームポジショナ及びレーザパワーに対する制約の下でのスループットを最大にするために)任意のビーム速度で動作できるので、加工パラメータを速度に対して自動的に調整してもよい。この自動化により、システムに自動的にスループットを最大化させつつ、操作者の間違いという付随するリスクを伴う、ユーザに低レベルの詳細(例えば、レーザパワー、ディザ幅、ディザ点、速度)を特定させることを避けることができる。
【0020】
ある実施形態は、ディザ点の選択を最適化する。この実施形態は、最小限のディザ点で所望のディザ範囲をカバーするようにディザテーブルを大きさで分けることによりスループットを最大化する。ディザ点の数を最小限にする1つの理由は、各ディザ点が、ある更新時間Tdither(例えば、後述する実施形態の例によれば約1μsの更新速度)を使うからである。1行あたりのディザ点の数をNptsとすると、Tdither×Npts=(1行あたりに使用される時間)となる。このように、ディザ点の数を最小限にすることにより、均一なフルエンス分布及びそれゆえ特徴部の均一なアブレーションを生成するのに有用なディザ行の間の重なりを十分に維持しつつ、システムが可能な限り高速で特徴部を加工することが可能となる。例えば、AODディザリングにより特徴部を形成する場合、ディザスポットは最小限の重なりを維持してフルエンス変化を最小限にする。トレンチを広げるために使用されるディザ点の数がこの重なりに影響し得る。ある実施形態においては、高い加工速度と適切なスポット重なりの両方を提供するために、ディザ点の選択が最適化される。
【0021】
ある実施形態は、幅の広い円弧セグメントの加工のためにフルエンス正規化を行う。そのような実施形態は、円弧セグメントの半径に対する幅の比が比較的大きい場合に、アブレートされる円弧セグメント特徴部の品質(例えば均一なトレンチ深さ)を維持する。これにより、実現可能なものよりも狭い領域に円弧セグメントを取り回す回路レイアウト設計者により多くの自由度が与えられる。例えば、円形の円弧部を形成する広いトレンチを加工するためにディザリングする際に、広いトレンチにわたって照射されるフルエンスは、円弧中心からの半径の関数として変化する。ある実施形態においては、一定の深さを有する円弧セグメントを加工するために、このフルエンスが正規化される。
【0022】
ある実施形態は、AOD及びガルボ位置決めシステムの調整較正を行う。異なる位置決めシステムの高速ステアリングミラー(FSM)調整較正を用い、走査フィールド全体にわたってディザリング動作の正確性を維持するシステムなどの他の位置決めシステムを用いてもよい。AODビーム位置決めサブシステムは、走査レンズ、ガルバノミラー、及びAODサブシステムの実装により走査フィールド歪みを生じる場合がある。例えば、走査レンズは、一般的に、走査フィールド位置とともに変化する局所的な幾何的歪みを有している。走査フィールド位置の関数としての局所補正を施すことにより、ディザリングの精度は、交点において許容できる程度の深さ変化を得るのに有用なレベルに維持される。加えて、あるいは他の実施形態においては、3次ビーム位置決めを適切に実装するために、AODビーム位置決めサブシステムの較正がガルボサブシステムの較正に組み合わされる。以下に述べるように、そのような較正がディザリングモード、ラスタリングモード、及びスカイビングモード中に使用される。これは、3次ビーム位置決めと連係して行われてもよく、3次ビーム位置決めは、AODサブシステムに(ベクトルモード又はスカイブモードにおけるディザリング中に)軌跡の中心線を維持させ、あるいは(ラスタモード中に)ラスタの中心点を維持させる。
【0023】
ある実施形態は、ラスタパターンを重ねる。AODラスタリング動作は、ステージ又はガルボビーム位置決めを用いた場合よりもずっと高速に生じるので、可能なすべての場所において特徴部をラスタリングすることによりスループットを最適化してもよい。しかしながら、AODフィールドのフィールドサイズの制約により1工程でAODラスタ処理可能な特徴部のサイズが制限される。ラスタパターンを重ねることで、重なった領域の交点において適切な深さ制御を維持しつつ、AODフィールドサイズを超えるパターンに対して良質のラスタパターンを生成することができ、スループットを最大化することができる。ある実施形態においては、AOD範囲内でガルボサブシステムからの運動がない状態で2次元特徴部をラスタリングするためにAODサブシステムが使用される。また、別個の(かつ固定された)ガルボ座標において複数の別個のラスタパターンを重ねることにより、AODフィールドよりも大きなパターンをラスタリングしてもよい。このアプローチは、ガルボ軌跡を移動させる一般的な2次元スカイビングよりも効率的で(かつより望ましい)加工方法であることがある。本明細書で使用されるように、2次元(2D)とは、2D領域を(例えばX方向及びY方向に)加工することをいうが、深さ制御を伴う3次元(3D)のレーザ加工を含むものでもある。深さ制御は、例えばZ方向に材料を除去すること又は加工された特徴部の整形を含むものである。
【0024】
ある実施形態は、AOD効率対AOD範囲を最適化する。LDAシステムにおいて特徴部を加工する際に実現できるスループットは、必要とされる加工パラメータが与えられた際の利用可能レーザパワーに比例する。このレーザパワーを最適化することによりスループットが最適化される。(動作AODフィールドにわたってAODパワーの正確な線形化を維持しつつ)必要とされるAOD動作範囲の関数としてのAOD効率を最適化することにより、そのようなパワー最適化が実現される。大きな特徴部に対して必要とされる場合にはAOD範囲を最大化する能力を依然として提供しつつ、比較的小さなAODフィールドを必要とする特徴部を加工する際にはスループットが最大化される。例えば、AODでディザリングをするか、あるいは2次元のラスタパターンを形成する場合、偏向範囲が大きくなるとともに光学効率が低下する。このため、AOD動作を予測可能かつ不変なものとするために、AODからの光学出力パワーを動作範囲にわたって線形化することが好ましい場合がある。ある実施形態においては、ある動作において使用される、小さくしたAOD偏向範囲に対して光学効率を高めるとともに、他の動作に対しては、より大きな範囲(光学効率は低下するが)を利用可能としつつ、線形化パワー制御が行われる。
【0025】
ある実施形態は、3次フィルタリングを用いて速度最適化を行う。3次フィルタリングのアプローチは、制限されたAODビーム変位範囲と組み合わされ、一定の特徴部幅を考慮した最大ビーム速度に制限を課す。この制限(一定のディザ幅及びAOD動作範囲の関数としてのAODパワー制限)を算出することにより、一定の制約条件の下で最適速度を決定することができ、これによりスループットを最適化することができる。保存速度の制限の設定の代替法は、すべての条件下で機能するが、許容できない程度にスループットを低下させる場合がある。AODビーム制御を用いた3次フィルタリングによりガルボビームポジショナに対する帯域幅の要件を減らすことができる。3次フィルタのダイナミクスと偏向範囲の関数としてのAOD光学効率の変化とを組み合わせてトレンチを加工する際の許容可能な加工速度に対して制限を設定することができる。ある実施形態においては、この最適速度を決定する自動システム及び自動処理を使用して加工速度を最高速度にする。ある実施形態は、軌跡に垂直なディザリングを維持する。そのような実施形態においては、加工速度から独立して所望のライン幅が自動的に維持されることが保証されていてもよい。これにより、ビームポジショナ及びパワーの制約の範囲内でスループットを最適化するのに要求されるように速度を任意に変化させつつ、予測可能で繰り返し可能な加工品質が提供される。ビームをディザリングしてワークピース材料に可変幅のトレンチを形成する際に、例えば、ディザリングされたビームは、加工速度にかかわらずトレンチの接線に対して垂直のままである。ある実施形態は、整数個のディザ行を用いる。そのような実施形態は、直線状の加工特徴部を広げるために使用されるディザ点の数にかかわらず、また、選択された加工速度にかかわらず、予測可能な加工結果を提供する。その予測可能な加工結果は、例えば、特徴部の間の交点を作成する際に有用である。整数個のディザ行を完成させることにより、直線状の加工特徴部の端部がうまく画定され、他のトレンチやパッドのような他の特徴部との交点において深さの変化をうまく制御できる。
【0026】
ある実施形態は、ワークピース上で大きな2次元の領域を加工する効率を向上する。これは、その領域をスカイビングし、ディザリングを使って加工スポットを広げることにより行うことができる。このアプローチは、スカイビングされた領域周囲の解像度を良好にし、隣接するスカイビングパスの重なりから生ずる深さの変化を適切に制御する。そのような実施形態は、重なりが制御され、エッジの解像度を高くした効率的なスカイビングを提供する。大きな領域をスカイビングすることは、LDA機械により加工される用途においては一般的である。スループットを最大にするためには、スカイビングされた領域のエッジの解像度を十分に維持しつつ、これらのスカイビングされた特徴部の加工を最適化することが有用である。これらの実施形態により、より広いディザビームを使用して、スカイビングされた領域を加工すると同時に、エッジの解像度を高品質に維持し、スカイビングされた領域内で深さの変化がうまく制御されるように、スカイブパス間の重なりを整形することが可能となる。
【0027】
ここで、図面が参照され、これらの図面において、同様の参照符号は同様の要素を表している。わかりやすくするため、参照符号の最初の数字は、対応する要素が最初に使用された図の番号を示す。以下の説明では、本明細書で開示される実施形態を十分に理解するために非常に多くの具体的な詳細が示される。しかしながら、当業者であれば、これらの実施形態は、1以上の具体的な詳細がなくても、あるいは、他の方法や要素又は材料を使っても実施することができることを理解するであろう。さらに、場合によっては、本発明の態様が不明瞭になるのを避けるために、周知の構造、材料、又は動作の詳細は示されておらず、また説明されない。また、説明される特徴部や構造又は特徴部分は、1以上の実施形態において任意の適切な方法で組み合わせることができる。
【0028】
実施形態は種々の工程を含んでいてもよく、これらの工程は、汎用又は専用コンピュータ(又は他の電子機器)により実行される機械実行可能な指令の形態で具現化され得る。あるいは、これらの工程を実施する特定のロジックを含むハードウェア要素により、あるいはハードウェア、ソフトウェア、及び/又はファームウェアの組み合わせによりこれらの工程を行ってもよい。
【0029】
また、本明細書で述べられた処理を行わせるようにコンピュータ(又は他の電子機器)をプログラミングするのに使用され得る指令を格納した一時的なものではない機械読取可能な媒体を含むコンピュータプログラム製品として実施形態を実現してもよい。機械読取可能な媒体には、ハードドライブ、フロッピーディスク、光ディスク、CD-ROM、DVD-ROM、ROM、RAM、EPROM、EEPROM、磁気又は光カード、固体記憶装置、又は電子的指令の格納に好適な他の種類の媒体/コンピュータ読取可能媒体が含まれ得るが、これらに限られるものではない。
【0030】
I.はじめに
本開示では、LDAシステムにおいて使用されるAOD制御方法について説明する。この制御は、LDAアーキテクチャの性能を拡張し、スカイビングされた大きな領域に対するスループットを向上するとともに、トレンチ加工に対する高速動作をサポートする。
【0031】
LDAシステムの性能は、加工ビームを超高速(>1MHz)で偏向してレーザ加工性能を得るために音響光学偏向器(AOD)を使用するものである。典型的には、AODは、5~20スポット径の範囲にわたってビームを偏向することができる。LDAシステムは、例えば、ベクトルモード、ラスタモード、ベクトルモード、及びスカイブモードで動作することができる。
【0032】
ベクトルモードにおいては、システムは、トレンチをワークピースにおける「線」として加工する。AODビームは、ビーム軌跡に直交する軸における1次元(1D)線に沿ってディザリングし、アブレートされるトレンチを人為的に広げる。
【0033】
ラスタモードにおいては、AODは、加工ビームを偏向し、加工フィールド内で2次元(2D)領域を加工する。これらのラスタ領域の空間及び強度パターンは一般的に任意なものである。例えば、トレンチ間に交点を作成するために、あるいはビアパッドのような特徴部を作成するために、この性能を使用してもよい。
【0034】
スカイブモードにおいては、(AODフィールドサイズを超える)大きな領域が加工され得る。これは、ディザリングにより広げられたラインを用いて行うことができる。しかしながら、湾曲したエッジの過度のピクセル化を避けるため、また、良好な重なり及び良好な交点品質を得るために傾斜したフルエンスプロファイルを提供するために、特別な加工が用いられる。
【0035】
以下のセクションでは、これらのモードについて説明し、LDAシステムの様々な実施形態に対する実施の詳細の要点を述べる。
【0036】
II.AOD加工理論
一実施形態においては、LDAシステムは、AODサブシステムを用いて加工ビームを操作して、様々な寸法の特徴部を作成する。このセクションでは、この加工の背後にある理論について説明した後、システムアーキテクチャを説明する。
【0037】
A.深さ制御のための中心フルエンス正規化
【0038】
材料が除去される体積は、名目上、(一定のレーザパワーレベルに対して)フルエンスに比例し、このため、フルエンスを制御して特徴部の深さを制御することができる。加えて、線量に変えてフルエンスを特定することにより、特徴部の寸法とフルエンスとの間の相互作用をなくすことができる。線量が特定された場合、ディザリング又はラスタリングされた領域において得られたフルエンスが、ディザ点の数及び加工スポットサイズに対する特徴部の寸法に依存し、これは、ディザされたグリッド領域の外側にあるガウス形スポットエネルギー分布の結果である。この相互作用をなくすために、この効果を算出し補償することができる。システムは、自動的にレーザパワーを動的に調整し、速度又はディザ(又はラスタ)グリッド寸法とは独立して、トレンチ又はラスタ領域の中心で特定されたフルエンスを維持する。その結果、加工較正結果に影響を与えることなく、システムの基本ビーム伝達設定(例えば、スポットサイズ、最小ディザ(又はラスタ)スポット重なり)を変更することができる。
【0039】
1.理論フルエンス
【0040】
図1は、加工スポット110のグリッド100を示す模式図であり、加工スポット110は、移動ビームを(例えばベクトルモードで)あるいは固定ラスタパターンを(例えばラスタモードで)ディザリングすることにより生成することができる。加工スポット110はそれぞれ、オン軸(OA)及びクロス軸(CA)上にそれぞれDoa及びDcaのXYスポット分離幅を有している。この例に係るディザリングされたビームに関しては、ビームが(矢印112にて示されるように)Y軸に移動すると、ディザパターンが(例えば、本質的にずっと)繰り返されるものとする。算出領域は、それぞれOA軸及びCA軸におけるNoa個及びNca個によりカバーされる。換言すれば、Ncaは、クロス軸方向における点の数である。
【0041】
i.ラスタフルエンス
【0042】
レーザパワーをP、各点ごとのAOD滞留時間をTaodとすると、平均フルエンス(単位面積AあたりのエネルギーE)は、以下の式によって与えられる。
フルエンスFluence=E/A=P×Taod/(Dca×Doa)
【0043】
この式は、ラスタ加工において有用である。ラスタ加工は、予測可能なグリッド間隔によってうまく説明される。この場合において、「フルエンススケールFluenceScale」は、フルエンスをパワーに変換するように以下のように定義することができる。
フルエンススケールFluenceScale=(Dca×Doa)/Taod
そして、特定されたフルエンスに対するラスタパワー(単位ワット)は以下により求めることができる。
パワーPower=フルエンススケールFluenceScale×フルエンスFluence
【0044】
ii.ベクトルフルエンス
【0045】
ディザビームの場合、速度が可変でありディザ幅が変化するために、グリッド間隔が一定ではない。この場合において、フルエンスの算出は、線量に基づいて説明することができる。
Doa=V×Nca×Taod
幅Width=Dca×(Nca-1)
とすると、
フルエンスFluence=P×Taod/(Dca×V×Nca×Taod)
=(P/V)/(幅Width×Nca/(Nca-1))
=線量Dosage/有効幅EffectiveWidth
である。ここで、(例えば図1に示されるY軸に沿った)ビーム速度=V、線量Dosage=P/V、有効幅EffectiveWidth=幅Width×Nca/(Nca-1)=Dca×Ncaである。
【0046】
これは、(理想的な場合について)一定の領域内のフルエンスを、(ディザリングされた線に対する)線量Dosage及び幅Widthあるいは(ラスタリングされた領域に対する)間隔及び滞留時間という既知の加工パラメータを用いて正規化できることを意味するので、有用な結果である。経時変化するスポット分布によりディザリングされた特徴部と、任意のスポット分布によりラスタリングされた特徴部とを組み合わせて、それぞれのフルエンスレベルを正規化した後に交点を形成することができる。
【0047】
線量Dosageが制御される限りにおいては、ベクトル加工中のディザリングの詳細(ディザ点の数Nd、ディザ間隔、速度)は必要とされないことに留意されたい。LDAシステムのビーム制御のアーキテクチャはディザ間隔及び速度を任意に変化できるかに依存しているので、これは有用である。
【0048】
iii.エッジ効果
【0049】
ディザリングされたパターンの寸法がスポットサイズに対して小さい場合には、上述したフルエンスモデルは理論から逸脱してしまう。そのような小さな寸法の場合は、各スポットにおけるパワーがグリッド100「から漏れ出し」、グリッド領域の中心においてフルエンスが小さくなる。この効果は、グリッド寸法とグリッド内の点の数の両方の関数である。例えば、図2は、一実施形態における、(スポット径Dspotにより正規化された)相対グリッド幅とグリッド幅にわたるディザ点の数との関数としての有効幅EffectiveWidth(Weff)における変化をグラフで示すものである。この有効幅EffectiveWidthにおける偏差は予想し補償できるものである。
【0050】
図2において、正規化されたグリッド幅の0から約1の間で、一番上の曲線は6つのスポットに対応し、次に高い曲線は5つのスポットに対応し、次に高い曲線は4つのスポットに対応し、次に高い曲線は3つのスポットに対応し、最も低い曲線は2つのスポットに対応する。
【0051】
2.フルエンス正規化
【0052】
別々に加工される領域を予測可能な結果に合成できるように、上述した式によりレーザスポットの任意のグリッドのフルエンスを算出する。この「フルエンス正規化」は、幅の変化するトレンチや特徴部の交点を形成するのに有用である。2つの例によりこれを示す。
【0053】
フルエンス正規化の1つ目の例が図3図4図5、及び図6に示されている。図3は、一実施形態における、グリッド濃度の異なる2つの交差する特徴部のグリッドパターンをグラフで示すものである。図3において、2つの特徴部はそれぞれ異なるディザグリッド間隔で交差する。それらの特徴部の一方に対する加工スポットが丸で表され、他方の特徴部に対する加工スポットがプラス記号(+)で表されている。1つの交点について、これらのパターンの一方は例えばトレンチであり、他方は交点ラスタパターンの切断である。スポット振幅を小さくして交差傾斜を生成し、位置決め誤差に対して許容誤差を与えていることに留意されたい。図4は、一実施形態における、振幅正規化の後に交差する特徴部(非合成)のモデル化フルエンスをグラフで示すものである。図4において、各パターンにわたるフルエンスは、各グリッドに対してそのスポット濃度によりスポットエネルギーをスケーリングした後、シミュレーションされたものである。図5は、一実施形態における、交差する特徴部の合成フルエンスをグラフで示すものである。図5において、2つのパターンのフルエンスは合成され比較的滑らかな交差となっている。
【0054】
このアプローチは、そのような規則的な矩形パターンに対してはうまく機能する。トレンチや円形パッド(LDAで一般的な交点)のような、より複雑な交点の場合、パッドパターンは、パッドグリッドを矩形セクションまで延長する「タブ」を含み得る。その後、矩形セクションは上述のように加工され得る。例えば、図6は、一実施形態における、タブ612を有する円形パッド610に対するラスタグリッド(右側)及びフルエンスプロファイル(左側)をグラフで示すものである。図6の例において、タブ612は、約50μmの長さを有しており、交点の移行のために使用することができる。
【0055】
2つ目の例が図7に示されており、図7は、一実施形態における、幅の変化するトレンチに対するフルエンス正規化の影響をグラフで示すものである。図7において、グラフが3列に整理されており、一番上のグラフはディザパターンを示し、真ん中のグラフは対応するフルエンス分布を示し、一番下のグラフは対応する中心フルエンス710,712,714(すなわち、トレンチの幅が変化するときの各トレンチの中央におけるフルエンス)を示すものである。左側の列は補償がない場合を示し、真ん中の列は幅補償を示し、右側の列は非線形補償を示している。この例において、線量がディザグリッド幅によって単にスケーリングされている場合、図2に示される有効幅における非線形性によって、ディザ幅が狭くなるにつれて依然としてフルエンスの変化が生じる。これに対して、図7は、非線形フルエンス補正を適用することにより、幅が変化してもフルエンスを一定にすることができることを示している。図7に示されるように、トレンチ幅が変化するにつれて、補償をしなかった中心フルエンス710と、幅に基づく線形補償を行った中心フルエンス712の両方が変化する。しかしながら、(例えば、フルエンスFluence=P×Taod/(Dca×V×Nca×Taod)という線量Dosageと幅Widthのパラメータに基づく)上述した非線形フルエンス補正を用いた場合、中心フルエンス714は一定のままである(すなわち、曲線714は正規化された値が「1」のままである)。
【0056】
フルエンス線形性補正がディザ(又はラスタ)グリッド幅の関数として適用された後、一定の線量(パワー/速度)を適用して速度に関係なくこのフルエンスを維持することができる。このため、中心フルエンスを一定に維持しつつ、ベクトル加工されたトレンチの幅及び速度を変化させることができる。
【0057】
フルエンス線形性補償を、ラスタリングされた領域に対する(例えばパッドや他の大きな特徴部に対する)2次元に拡張してもよい。しかしながら、この効果は、約1.5×スポット径よりも大きなパッド直径に対しては無視することができる。パッドは典型的にはこの直径の基準を満たすので、ある実施形態においては、パッドがフルエンス補償を必要としない場合もある。
【0058】
3.フルエンスモデリングに対する注意
【0059】
上記分析を理想化する。深さの変化を制御しつつ交点を生成する際のシステムの性能に影響を与え得るいくつかの注意点について言及すべきである。
【0060】
材料は加工閾値を有しているため、アブレートされる材料の量を予測するために必ずしもフルエンスを線形的に合成するわけではない。これは、一定の線量で速度とともにパワーが増大するにつれて加工閾値効果が低減するので、線量一定の加工では均一な結果が得られない場合があることを示唆している。
【0061】
(特に偏向速度が高いときの、AOD偏向からの効果を含む)スポット歪みによりフルエンスフィールドが歪められる。
【0062】
トレンチの端部におけるフルエンス非線形性については述べていないかもしれない。典型的には、トレンチは、他のトレンチ(パッド上のスタブやラスタリングされた交点上の脚部)との交点で終端する。交差する双方のトレンチが交差領域にわたるフルエンスにおいて同一の斜面を有する限り、端部の影響は名目上相殺される。
【0063】
B.ディザ抽出
【0064】
この結果に基づいて、ディザリング及びラスタリングの処理を抽出して、ディザリングの低レベルの詳細(例えばディザ点の数及びそれらのスケーリング)をカプセル化してもよい。これにより、ユーザ(又はプログラマ)がディザ加工又はラスタ加工を特定する方法に影響を与えることなく、システムアーキテクチャ又は構成要素を簡単に変更すること(例えば、新しいAODのデザインや異なる光学的レイアウトなど)が可能となる。ソフトウェアアーキテクチャ、機械較正、及びアプリケーション設定が簡略化される。
【0065】
交点の形成において、交点におけるフルエンス変化(ひいては深さ変化)を避ける配慮が必要である。実施形態の例においては、周りのトレンチの寸法に基づいて、それぞれのタイプの交点に対して生成されたカスタムラスタパターン(例えば、Matlabや他のツールを用いてオフラインで予め算出されたもの)で各交点がカスタマイズされる。このプロセスは製造機械用に合理化することができる。
【0066】
LDAシステムに関しては、ディザリングされた対象物及びラスタリングされた対象物が、スポット密度及び寸法的な範囲により記述される、ディザリングされたスポットのグリッドからなるものと考えることにより双方の目的を満たすことができる。これを行うことにより、ワークピース上のディザリングされた領域又はラスタリングされた領域内のフルエンスを算出することができ、そのように算出されたフルエンスに基づいて交点ラスタパターンを生成することができる。
【0067】
1.ディザマップ
【0068】
交点定義にはディザ幾何配置の詳細が必要とされないので、ベクトル加工中のディザの仕様をスポットグリッド幅及び線量に要約することができる。スポット配置は、(速度ベクトルに沿った)オン軸及びクロス軸のいずれについても、明確な定義を必要としない。むしろ、ディザマップ(Dither Map)は、グリッド幅を低レベルディザパラメータ、例えばディザ点の数Ndやディザ幅の倍率Kwに変換する。差し当たり「形状」の概念(Ks)は無視されていることに留意されたい。
【0069】
本明細書において述べるプロセス較正(Process Calibration)工程は、グリッド幅及びフルエンスのインタフェイスを通じてディザ動作を考えている。ある実施形態におけるNd及びKwの詳細は、プロセス較正(Process Calibration)ステップにおける複雑さを避けるために、ディザマップ(Dither Map)においてカプセル化されている。スポットサイズ又はAOD範囲が変更される場合には、ディザマップ(Dither Map)を変更できることに留意されたい。ある実施形態においては、プロセス較正(Process Calibration)のために同一のディザマップ(Dither Map)がランタイム加工中に使用され、一貫した較正加工結果が確実に得られるようにしている。
【0070】
この加工をサポートするAODディザテーブルがシステム較正中に予めセットされる。ディザマップ(Dither Map)は、プロセス較正(Process Calibration)、プロセスマップ(Process Map)、シーケンサ(Sequencer)などのディザパラメータに対するユーザとのインタフェイスをカプセル化している。ディザマップ(Dither Map)は、以下のステップを用いてディザテーブルをセットアップする。
【0071】
まず、システム較正中にAOD偏向倍率を決定する。
【0072】
次に、システム較正データにおける有効スポット径Deffを1:1の深さ/幅のアスペクト比に対する最小トレンチ寸法に基づいてセットする。このセッティングは、(ピッチを控えめな最大値に設定するために)AODテーブルをセットアップし、フルエンスを線形化するための指針に過ぎない。ある実施形態においては、Deffの値が正確に~10%-20%の範囲内にある必要があり得る。Deffの下限は重なりを確保するために使用することができるが、ディザ点の数が増えてしまうし、最高速度を下げることがある。
【0073】
次に、(例えば、後述するような書換可能ゲートアレイ(FPGA)内において)32個のシーケンシャルディザテーブルを初期化する。ディザテーブルのそれぞれは1から32個の点を含んでおり、各点は0.35×Deffのピッチを有している。ディザテーブルは、10×Deffのディザ範囲までカバーし得る。これにより、重なったパルスが均一なフルエンス分布を生成するのが確保され、Deffの定義において10%の許容誤差が与えられる。
【0074】
C.プロセス較正及びマッピング
【0075】
フルエンス制御の実例を考えると、LDAシステムにおいてプロセスセットアップ工程を修正してもよい。LDAシステムの実施形態の一例においては、加工パラメータは、低レベルディザパラメータ(Kw,Ks)及び線量(パワー/速度)((実際の線量の単位は任意であるが)名目的にはジュール毎メートル(J/m)の単位である)を含んでいる。LDAシステムは、一貫した、較正された単位により、また低レベルの実施の詳細から離れることにより、加工セットアップのためのユーザインタフェイスを簡略化することができる。
【0076】
LDAシステムにおける材料加工は、2つのパラメータ、フルエンス(J/cm2)とディザ又はラスタグリッド寸法(ベクトル加工及びスカイブ加工についての幅、ラスタリングについてのXYラスタ寸法)によって定義され得る。
【0077】
1.プロセス較正
【0078】
フルエンス正規化は、ディザ(又はラスタ)特徴部の中心領域に適用される。特徴部のエッジでのフルエンスは、ガウス形スポットの末尾部に由来しているので、それほど簡単に正規化できない。その結果として、トレンチ幅がディザグリッド幅の非線形関数として変化し、ある実施形態においてはそれが依然として較正される。これは、プロセス較正(Process Calibration)の特徴的な機能である。これと同じ工程が、所定の材料に対する特徴部の深さ対フルエンスを較正するために使用される。
【0079】
図8は、一実施形態におけるプロセス較正テスト行列800の一例を示すものである。較正テスト行列800は、フルエンスレベルとディザグリッド幅の範囲を特定するものである。一組の特徴部(パラメータ行列における各項目に対するもの)が機械上で自動的に加工され、外部計測工具により計測が行われる。特徴部の幅及び深さの結果がプロセス較正ソフトウェアに取り込まれ、プロセス較正ソフトウェアは、任意の寸法の特徴部を加工するために使用される加工パラメータ(フルエンス及びグリッド幅)を自動的に選択するために使用される「プロセステーブル(Process Table)」データベースを構築する。
【0080】
2.プロセスマップ及び材料テーブル
【0081】
ベクトル加工について、トレンチの寸法(幅及び深さ)は、アプリケーション用の材料テーブル(Material Table)にデータを加えるプロセスマップ(Process Map)を介してディザグリッド幅及びフルエンスを決定する。プロセスマップ(Process Map)は、プロセス較正(Process Calibration)テーブルから与えられたデータに基づいてこのマッピングを行う。図9は、一実施形態における材料テーブル(Material Table)900の一例を示すものである。材料テーブル(Material Table)900中の灰色の項目はプロセスマップ(Process Map)により入力され、ユーザによって変えられないものであることに留意されたい。プロセステストを行うため、あるいはプロセスを微調整するために加工パラメータに対する微調整が可能である。
【0082】
アプリケーションがロードされると、アプリケーションに含まれるすべてのベクトル特徴部及びスカイブ特徴部の寸法(トレンチ幅及び深さ)とラスタ特徴部の寸法(パッド径及び深さ)とが材料テーブル(Material Table)900に入力される。
【0083】
必要に応じて材料テーブル(Material Table)900の微調整をユーザが行ってもよい。これは、ある実施形態においては生産工程処理の観点から推奨されないが、プロセステスト及び微調整のためには有用な場合がある。プロセス較正(Process Calibration)テーブルが利用できない場合は、材料テーブル(Material Table)900の項目を手動で入力することができる。
【0084】
プロセスマップ(Process Map)の機能は、プロセス較正(Process Calibration)中に集められた比較的散在している情報に基づいて、必要とされる材料テーブル(Material Table)900の項目を補間することである。
【0085】
III.システムアーキテクチャ
以下のセクションでは、AOD動作を行うシステムアーキテクチャ及び構成要素の実施形態について述べる。
【0086】
A.データフロー及び加工
【0087】
図10は、一実施形態における、AODに指令を与えるための簡易加工・データフローアーキテクチャ(本明細書では「AOD加工アーキテクチャ」1000ともいう)を示すブロック図である。AOD加工アーキテクチャ1000は、システム制御コンピュータ(SCC)1010と、加工クラスタ1012と、AODフロントエンドボード(AFEB)1014と、AODドライバ1016,1018と、AOD1020,1022とを含んでいる。後に詳述するように、SCC1010は、レーザ加工アプリケーションを前処理して個々のプロセスセグメント及び関連する加工パラメータを生成する。SCC1010は、インタフェイス1023を介してセグメントデータを(例えば200kHzのデータ転送速度で)加工クラスタ1012のインタフェイス1024に送信する。加工クラスタ1012は、デジタル信号プロセッサ(DSP)1026と書換可能ゲートアレイ(FPGA)1028とを含んでいる。(例えばDSP1026及び/又はFPGA1028に加えて、あるいはこれらに代えて)他の種類の処理ロジックも利用できることは、当業者であれば本明細書の開示から理解できるであろう。
【0088】
DSP1026は、(例えば1MHzのデータ転送速度で)詳細なビーム軌跡及びディザパラメータを算出する。その後、このデータは、FPGA1028に送られる。後に詳述するように、FPGA1028は、(例えば4MHzのデータ転送速度までの)高速AODコマンドを算出する。高速AODコマンドは、SSP1シリアルリンクを介してAFEB1014に送信される。AFEB1014はAODコマンドをパラレルデータワードに変換し、パラレルデータワードはAODドライバ1016,1018に送られる。そして、AODドライバ1016,1018が、AOD1020,1022を動作させる高周波(RF)ドライブ信号を生成して、AODセルにより(RF信号の周波数を介して)光学ビームの偏向を制御し、(RF信号の振幅を介して)振幅を制御する。以下では、AOD1020,1022及び他の光学要素の動作の例について図10A図10B、及び図10Cを参照して説明する。
【0089】
図10Aは、一実施形態における、レーザビームをディザリングするためのAODサブシステム1042及びガルボサブシステム1044を含むシステム1040のブロック図である。他の種類の位置決めサブシステムを利用可能であることは、当業者であれば本明細書の開示から理解できるであろう。例えば位置決めサブシステムはFSMを利用することができる。このシステム1040は、AODサブシステム1042に加工ビーム1048を供給するためのレーザ源1046を含んでいる。一実施形態では、レーザ源1046は、加工ビーム1048が一連のレーザパルスを有するようにパルスレーザ源を含んでいる。他の実施形態においては、レーザ源1046は、加工ビーム1048がCWレーザビームとなるような連続波(CW)レーザ源を含んでいる。そのような実施形態においては、AODサブシステム1042が、加工ビーム1048を離散(「パルス」)間隔で偏向させることにより、CWレーザビームからレーザパルスを生成する。
【0090】
上述したように、AODサブシステム1042は、加工ビーム1048の1次ビーム1049をAOD偏向角1050で偏向させ、加工ビーム1048の0次ビーム1051をビームダンプ1052に偏向させる。このシステム1040は、1次ビーム1049をガルボサブシステム1044に偏向させるための固定ミラー1054と、レーザビームスポット1058の焦点をワークピース1060上又はワークピース1060内に合わせるための走査レンズ1056とをさらに含んでいてもよい。本明細書では、走査レンズ1056の出力を集束レーザビーム1061と呼ぶことがある。
【0091】
一実施形態においては、AODサブシステム1042が、ガルボサブシステム1044により加工軌跡1062に沿った第2の方向の偏向を提供しつつ、第1の方向(例えばディザ方向)に往復する偏向を提供するために使用される単一のAODを含んでいてもよい。図10Aに示される実施形態においては、AODディザスポットの各行(X軸に沿って示されている)は、加工軌跡1062に対して垂直である。しかしながら、高速化及び汎用性の向上のために、図10Aに示される実施形態におけるAODサブシステム1042は、ワークピース1060の表面に対してX軸及びY軸に沿った2次元偏向を提供する。この例では、Y軸は加工軌跡1062に平行であると言え、X軸は加工軌跡1062に対して垂直であると言える。このため、X軸をディザリング方向と呼ぶことができる。加工軌跡1062は、例えば、このシステム1040が(例えばガルボサブシステム1044の管理下で)トレンチ1064をワークピース1060の表面にスクライブする又は切り込む方向に対応し得る。
【0092】
図示した2次元偏向を提供するために、AODサブシステム1042は、ガルボサブシステム1044がビーム軸を加工軌跡1062に沿って移動させるに伴って、第1の方向の1次ビーム1049を偏向させる第1のAOD1020と、第2の方向の1次ビーム1049を偏向させる第2のAOD1022とを含んでいる。換言すれば、AODサブシステム1042によって提供されるビームスポット位置の移動は、ガルボサブシステム1044によって提供されるビームスポット位置の移動に重ね合わされる。また、図10Aに示されるように、ガルボサブシステム1044は、1次ビーム1049をワークピース1060に対してX軸方向及びY軸方向の双方に偏向するための第1のガルバノミラー1066及び第2のガルバノミラー1067を含んでいてもよい。
【0093】
AOD偏向の方向付けは、ガルボサブシステム1044の偏向軸に揃っていなくてもよい。一般的に、AOD偏向コマンドに対して座標変換を適用して、得られたAOD偏向を所望の座標系に揃えてもよい。また、ガルボサブシステム1044により画定される加工軌跡に対してAODビーム偏向を垂直に維持するために、この座標変換を速度の関数とし、AOD偏向座標系を回転させてもよい。
【0094】
システム1040に含まれるAODサブシステム1042により、いくつかの動作モードが可能となる。一実施形態においては、動作モードは、ワークピース1060でのレーザビームスポット1058を効果的に広げるために加工ビーム1048をディザリングする能力を含んでいる。換言すれば、加工ビーム1048をディザリングすることは、一連の集束レーザビームスポット1068の位置を空間的に決めて、走査レンズ1056により焦点が合わされる単一のレーザビームスポット1058の寸法よりも大きな寸法を有する幾何的特徴部を生成することを含んでいる。説明の便宜上、図10Aは、加工軌跡1062の方向にトレンチ1064が加工される際に、ディザリングされるレーザビームスポット1068をワークピース1060の表面の上方から見たところを示している。このように、例えば、一定の繰り返し率でディザリングされた一連のレーザビームスポット1068は、より低いパルス繰り返し率で加工軌跡1062の方向に順次照射される、より大きな径の一連のレーザビームスポットの効果を有している。
【0095】
ある実施形態においては、AOD1020,1022は、約0.1μsから約10μsまでのオーダーでそれぞれの音場を更新する(新しい音響波形で光学的開口(optical aperture)を満たす)ことができる。例としての更新速度が約1μsであったとすると、ディザリングされたレーザビームスポット1068のいくつかが加工中に重なるように加工ビームの位置をすぐに更新することができる。ディザリングされたレーザビームスポット1068は、加工される特徴部(例えばトレンチ1064)を広げるために、加工軌跡1062に垂直な寸法において(例えばX軸又はディザ方向に沿って)重なっていてもよい。図10Aに示されるように、ディザリングされたレーザビームスポット1068は、加工軌跡1062の方向に重なっていてもよい。ディザリングされたビームを加工軌跡1062に垂直な方向に向け続けるために、ある実施形態によれば、加工軌跡1062の角度が変化するのに従ってディザ軸を絶えず調整してもよい。加えて、加工軌跡速度の関数としての、ディザ点の線上に与えられた角度を補償するようにディザ軸を調整してもよい。
【0096】
ワークピース1060の表面に対してビーム位置をディザリングすることに加えて、あるいは他の実施形態においては、ディザ軸の強度プロファイルを変化させるためにAODサブシステム1042を使用してもよい。加工ビーム1048の強度プロファイルをディザ軸に沿って操作することにより、加工されたトレンチ1064の断面の整形をすることが可能となる。例えば、トレンチ1064を矩形状、U字状、又はV字状の断面を有するように加工してもよい。側壁斜面のような特徴部を整形することは、交点形成のような状況においては有用な場合がある。整形の解像度は基本スポットサイズに基づいていてもよく、整形される強度プロファイルは、ディザパターン(位置及び強度)とスポット強度プロファイル(例えば、ガウス形又は他のプロファイル形状)とのたたみ込みであってもよい。例えば、対象材料を所望の量だけ除去するためにパルスをディザ軸に沿ったある位置で重ねることによって(例えば2以上のパルスを同じ位置に照射してもよい)、及び/又はディザ軸に沿った偏向位置の関数としてレーザパルスのパワー振幅を変調することによって、特徴部を整形してもよい。
【0097】
ディザ軸に沿って特徴部を整形することに加えて、あるいは他の実施形態においては、加工軌跡1062に沿った位置の関数としてパワーを制御して、加工された直線状特徴部の「端点」を同様に整形するためにAODサブシステム1042を使ってもよい。また、加工軌跡1062に沿った位置の関数としてパワーを制御することは、交点形成のような用途においては有用な場合がある。AODサブシステム1042を使うことにより、高い加工速度(例えば約1m/sから約5m/sの範囲)で強度プロファイルの微細な制御(例えば約5μmから約50μmの範囲の特徴部寸法を実現する)が可能となるように、パワー変調を非常に高速で(例えばマイクロ秒のオーダーで)生じさせることが可能となる。
【0098】
また、ガウス形ビームの偏向に加えて、ある実施形態では、例えば、回折光学素子(DOE)をはじめとする従来のビーム整形技術により整形されたビームが偏向される。例えば、図10Bは、一実施形態におけるビーム整形用システム1070のブロック図である。このシステム1070は、図10Aに示された、(第1のAOD1020及び第2のAOD1022を有する)AODサブシステム1042と、0次ビームダンプ1052と、ミラー1054とを含んでいる。このシステム1070は、ビーム整形用回折光学素子(DOE)1072と、光学要素1074(例えば結像光学系やガルバノミラー、走査レンズ)とをさらに含んでいる。説明の便宜上、図10Bの1次ビーム1049は、AOD偏向角1050の範囲にわたって示されている。図10Bに示される実施形態においては、AODサブシステム1042によって偏向された1次ビーム1049は、AODサブシステム1042により与えられるAOD偏向角1050にかかわらず、1次ビーム1049をDOEの開口の中央に維持するための(ビームの転心(pivot point)の像をDOE1072に写す)リレーレンズ1076を介してDOE1072に中継される。そして、DOE1072は、(そのようなビーム整形DOEではよくなされるように)付加的な波面位相歪みを与えることによりビーム強度を整形する。このアプローチは、大きな径の整形ビームが偏向され隣接されて、例えば正方形の強度プロファイルを有する、より均一なディザリングされたフルエンスプロファイルを形成するような状況においては利点がある場合がある。また、このアプローチは、所望の特徴部(例えば、誘電体材料に穿孔されるマイクロビア)を形成するには少数のレーザパルスが適切であるような状況においては利点がある場合がある。この場合において、ガウス形パルスのラスタリングへの適用は、整形された強度プロファイルを適用することに比べて効率的ではない場合がある。整形された強度加工スポット位置の高速制御に対しては、さらに高速のAOD偏向が好ましい場合がある。
【0099】
他の実施形態においては、同様のリレーレンズの配置を用いて、AOD偏向ビームの偏向を走査レンズで調整してもよい。これは、少なくとも2つの理由で好ましい場合がある。1つ目は、ビームの転心を(ビーム側方偏向(beam lateral deflection)をなくす)ガルボ走査ミラーに中継して、(a)ビームクリッピングを避けるためにビームをガルバノミラー及び走査レンズの開放口(clear aperture)内の中央に維持し、(b)そのような変位によりビームがワーク表面で傾くことがあるため、走査レンズの入射瞳の中央からビームが変位することを避けるのが好ましい場合があるからである。2つ目は、意図的にワーク表面でビームを傾けるために、走査レンズにおいて側方ビーム偏向を与えることが好ましい場合があるからである。傾いたビームは、加工された特徴部内で急峻な側壁を生成するガウス形レーザ穿孔の用途(例えばマイクロビア穿孔)においては利点がある場合がある。
【0100】
図10Cは、一実施形態における、斜行した加工ビーム1082を供給するシステム1080のブロック図である。このシステム1080は、図10Aに示された、(第1のAOD1020及び第2のAOD1022を有する)AODサブシステム1042と、0次ビームダンプ1052と、ミラー1054とを含んでいる。このシステム1080は、リレーレンズ1076と光学要素1074(例えば結像光学系やガルバノミラー、走査レンズ)とをさらに含んでいる。説明の便宜上、図10Cの1次ビーム1049は、AOD偏向角1050の範囲にわたって示されている。図10Cに示されるように、走査レンズから(例えば図10Aに示される走査レンズ1056から)リレーレンズ1076の間隔1084を適切に設計することにより、AODサブシステム1042により偏向された1次ビーム1049を横方向に偏向させてワークピース1060の表面で傾斜ビーム1082を生成することができる。ワークピース1060での加工スポットの所定の偏向に対するビーム傾斜量を、(a)AOD1020,1022を使ってワークピース1060で横方向スポット偏向を実質的に生じさせ、リレーレンズ1076の光学系及び走査レンズ(例えば走査レンズ1056)までの間隔1084を変化させることにより制御してもよく、あるいは、(b)ワークピース1060での所望の横方向スポット偏向と無関係に、走査レンズで任意の横方向ビーム偏向が(そしてこれによりワークピース1060での任意のビーム傾斜が)与えられ得るように、ガルボ(例えば図10Aに示されるガルボ1066,1067)及びAOD1020,1022を調整することにより制御してもよい。
【0101】
整形技術のさらなる詳細ついては「AOD制御実施形態の例」という表題のセクションの中で開示する。
【0102】
ビームディザリングは、所望のフルエンスプロファイルを生成するのに非常に有効であり柔軟であり得るが、ディザリングに対する他の(時としてより限定的な)アプローチでは、チャープ波形(chirp waveform)をAOD1020,1022の少なくとも一方に当てることによりレーザビームスポット1058の焦点を変化させる。チャープ波形により、AODの結晶を通過する光学加工ビーム1048の内部で音波の瞬時周波数が線形的に変化する。音波の瞬時周波数の線形変化は、別個のステップにおいてレーザビームスポット1058を変位させるのではなく、短軸の(アナスチグマチックな)焦点限界点(focusing term)を加工ビーム1048に適用する効果を有する。ある実施形態によれば、チャープ波形をAOD1020,1022の双方に当てることにより、レーザビームスポット1058の焦点が対称にずれ、ワークピース1060でのスポットサイズが大きくなる。このアプローチは、例えば、トレンチ1064を広げる際の強度変化を避けるためにワークピース1060でパルスをうまく重ねる程度までパルス繰り返し周波数が高くはないような、繰り返し率の低いレーザの場合には有用な場合がある。また、低いフルエンスを用いた加工ステップ中にレーザビームスポットの焦点をずらすためにもチャープを用いることができる。例えば、レーザ加工(例えば半導体ウェハ上又は半導体ウェハ内に形成された集積回路の間のスクライビング)は、上にある金属層(例えば銅層)を切断する第1の加工ステップと、それに続いて、フルエンスを下げて下にある誘電体層を加工する第2の加工ステップとを含んでいる。一実施形態では、2パスのレーザビームを用いるのではなく、両方の層が単一のパスで加工されるようにチャープを用いてレーザビームスポットの焦点をずらしている。
【0103】
B.ディザアーキテクチャ
【0104】
1.基本ディザ(又はラスタ)テーブルアーキテクチャ
【0105】
図11は、一実施形態における、FPGA1028内に実装されたAOD制御データフローを表すブロック図である。ディザとラスタは同義で用いられることが多いことに留意すべきである。これらはともに同様に実行されるが、ディザは1次元のビーム偏向を意味し、ラスタリングは2次元の偏向を意味する。FPGA1028は、1以上のディザテーブル1110と、整形テーブル1112と、線形化テーブル1114,1115と、待ち時間調整部(latency adjustment)1116とを含んでいる。
【0106】
2組のディザ点がディザテーブル1110にロードされる。ディザテーブル1110は、いつまでもアドレス指定可能なサーキュラバッファとして動作する。多くのディザテーブル1110がFPGA1028内に格納されている。それぞれのディザテーブル1110はアドレスと長さによって特定される。FPGA1028は、特定されたテーブル長を受け入れるように自動的にサーキュラバッファのアドレス指定を調整する。
【0107】
ラスタ動作又はディザ動作中は、ディザテーブルの項目が読み込まれて変換行列により調整され、ディザ(又はラスタ)パターンをスケーリング及び回転させ、2つのAODチャンネルに対する周波数コマンドを得る。
【0108】
変換されたディザコマンドに一対の付加的周波数オフセットが追加され、ディザコマンドが適用される名目上のコマンドベクトルが得られる。
【0109】
1組の線形化テーブル1114,1115は、AOD周波数コマンドに基づいてAOD振幅コマンドを生成する。
【0110】
また、図11に関して以下の定義が与えられる。
【0111】
F0:AOD周波数コマンド、軸0
【0112】
F1:AOD周波数コマンド、軸1
【0113】
Fnom:ゼロ偏向に対する公称AOD周波数コマンド
【0114】
Fd[1..Nd]:上述した「ディザテーブル」1110を有する1組の偏向周波数
【0115】
Nd:偏向周波数点の数(例えばディザ点の数)
【0116】
Kw:ディザ幅の倍率。ディザがない場合(公称加工ビーム)はKw=0。
【0117】
Kp:パワーコマンド倍率
【0118】
Ks:強度整形ファクター
【0119】
Atten:減衰コマンド
【0120】
2.FPGAインタフェイス
【0121】
更新時間Tcmd(例えば1μsec)ごとにデータがDSP1026からFPGA1028に送信される。
【0122】
3.DSP/FPGA同期
【0123】
加工中、DSP1026がFPGA1028に連続的にデータをストリーミングし、FPGA1028はそれらのデータ伝送とAOD制御実行を同期させる。これは、更新時間(Tcmd)の例を1μsecとすると、以下の手順で行うことができる。図12は、このタイミングを示すものである。
【0124】
図12は、一実施形態における、DSPとFPGAの同期の例を示すタイミングチャートである。図12に示されるように、DSP1026は、10組の制御データ1210(これは5μsecのDSPサイクルの2サイクル分に対して十分なものである)をFPGA1028に書き込む。DSP1026は、FPGA1028内の「Synch」レジスタ1212をセットし、データ処理の準備できたことをFPGA1028に通知する。FPGA1028は、破線1218に示されるように、次の5μsecのDSP割込1216でデータ処理1214を開始する。(FPGA1028及びDSP1026は同一の割込を受信する。)それぞれのDSPサイクル中は、DSP1026が新しいデータ1220をFPGA1028にロードする。FPGA1028は、このデータを先入れ先出し(FIFO)の方法により処理する。それぞれのDSPサイクル中は、ガルボコマンドデータが算出されるが、これは次のDSPサイクルにおいてガルボコントローラに適用される。このようにして、ガルボ1066,1067及びAOD1020,1022は、同一のタイミング基準を共有する。DSP1026は、ガルボコマンドデータに対してAODコマンドデータを遅らせてガルボとAOD制御の間で様々な信号処理遅延を生じさせる。この遅延は、(1210で示される)最初のデータ伝送と(1214で示される)データ実行の開始の間の2サイクル遅延に対するFPGA1028による調整を含んでいる。
【0125】
4.バンクパラメータ
【0126】
図11には示されていないパラメータの1つは「バンク」パラメータ(Kb)であり、これはLDAシステムのディザ定義に含まれる場合がある。このパラメータは、ディザリングされたビームの幅にわたって与えられるパワーを変化させて、(バンクのある競技場の湾曲部のような)円弧セグメントの内側のエッジと外側のエッジとの間に速度差を生じさせるために使用される。これは、付加的な倍率をディザ位置の関数としてのディザ振幅に適用することによりなされ、ある実施形態において使用される「形状」パラメータに類似するものである。
【0127】
図13は、一実施形態における、バンク処理を用いる加工条件を示す模式図である。図13は、幅の広い円弧セグメント1310を示している。幅の広い円弧セグメント1310は、比較的小さな平均半径Rを有しており、外側円弧長Roに対する内側円弧長Riの比は1から大きく異なる場合があり、トレンチ幅Wにわたるフルエンス変化を生ずる。
Kb=1/(2×Rb)
【0128】
特徴部の幅Wに対する平均半径Rの比を以下のバンク比として定義する。
Rb=R/W
そして、外側速度と内側速度の比は以下のようになる。
Wo/Vi=(2×Rb+1)/(2×Rb-1)
【0129】
ディザ幅にわたってレーザパワーを調整するために、「バンクパラメータ」Kbは、ディザ位置の関数としてのパワースケーリングの変化を定義する。図14は、一実施形態における、バンクパラメータスケーリングの例をグラフで示すものである。バンクパラメータKbは、-1から+1の間で変化し、以下のように定義することができる。
Kb=(Kstart-Kend)/2
ここで、
Kstart=ディザサイクルの開始時のバンク振幅スケーリング
Kend=ディザサイクルの終了時のバンク振幅スケーリング
である。
【0130】
バンクパラメータは、以下のようにバンク比と関係している。
Kb=1/(2×Rb)
【0131】
Kb=0のとき、ディザ範囲にわたって倍率は1である(影響なし)。両極端(|Kb|=1)では、ディザ範囲の一方がゼロまで縮小し、他方が2倍まで増幅される。典型的な円弧を加工する場合、Kbを中間値(例えば約0.5未満)に設定することができる。
【0132】
ディザ範囲の中央(ディザリングされたビームの中心線)でのバンクスケーリングは影響を受けない。このため、(より遅いビーム速度を補償するために)内側エッジパワーは減衰され、(より速いビーム速度を補償するために)外側エッジパワー(Pouter)は以下のように増幅され、中心線パワー(Pnom)は変わらないままである。
Pouter=Pnom×(1+Kb)
【0133】
ある実施形態におけるLDAの設計基準では、妥当な速度比及びパワースケーリングを維持するために、比R/Wは約2.0よりも大きくなるように制限されなければならない。加工中、増幅されたパワーがチェックされ、最大利用可能パワーを超えていないことが確認される。円弧における速度は、増幅されたパワーが最大利用可能パワーを超えないことを保証するように設定される。3次プロファイリング能力のために、円弧セグメントの端部でこの速度低下がすぐに起きる。
【0134】
5.ディザ動作の例
【0135】
図15図16、及び図17において単純な例によりディザとコマンド更新のタイミングを図示している。図15は、このディザ動作の例におけるXYビーム位置の例をグラフで示すものである。図16は、図15に示されるディザ動作の例における、Xビーム位置及びYビーム位置と時間の例をグラフで示すものである。図17は、図15及び図16に示されるディザ動作の例のビーム位置及び加工パラメータのテーブルの例を示すものである。この例では、Taod=Tcmd=1μsecである。トレンチは、1つのディザテーブル(Nd=5,Td=5μsec)で切り込まれる。切り込みの開始時に線量Dosage(Kd)を変化させる。円弧セグメントの途中でバンクパラメータ(Kb)が修正され、カーブの内側エッジと外側エッジでのフルエンスが正規化される。
【0136】
この例におけるトレンチは、トレンチ幅が大きくなり始める移行セグメント1510を含んでいる。この例において、移行セグメント1510は、13番目と14番目のディザ行を含んでいる。しかしながら、他の実施形態においては、異なる数のディザ行を用いてもよい(例えば、4つ、5つ、あるいは6つ以上のディザ行を移行領域で使用してもよい)。最初に(例えば13番目の行の開始時に)、前のセグメントに合致するように大きなディザテーブル(Nd=7)が圧縮される(Kw<1)。そして、Kwが2つのディザ行にわたってKw=1(全幅)まで増加する。換言すれば、図17に示されるように、13番目のディザ行においてはKw=0.76であり、14番目のディザ行においてはKw=0.87であり、15番目のディザ行においてはKw=1である。
【0137】
また、幅パラメータが変化すると線量Dosage(Kd)が修正される。ディザ間隔が圧縮されると(例えば、新しいディザテーブルの開始が13番目のディザ行で始まると)、線量が減少し、パルスの重なりが大きくなる。換言すれば、Nd=7に対して移行セグメント1510の外側でKd=1.4となる。しかしながら、(ディザテーブルがNd=5から初めてNd=7に変化する)移行セグメント内では、13番目のディザ行でKdが1.06に下がる。そして、15番目のディザ行でさらに1.4に上げられる前に、14番目のディザ行でKdが1.22まで上げられる。
【0138】
この例では、形状は一定のままであるが、一般には、Kd、Kw、Kbと同様の方法で変化してもよい。一実施形態におけるLDAシステムについては形状が無視される。
【0139】
各ディザ行に対して、加工パラメータ(Kw、Kd、Kb、Ks)とディザテーブル選択(Nd)は一定のままにされることに留意されたい。先に述べたように、FPGA1028は、このパラメータ更新タイミングを適用する。DSP1026は、すべての加工パラメータの規則的な更新を行うことができ、適切な場合にFPGA1028が加工パラメータを適用することを可能にする。
【0140】
C.AOD座標系及び較正
【0141】
AODビーム偏向は、最終的なワーク面ビーム位置を得るためにガルボビーム偏向と連係して動作する。3次位置決め中、ディザリング中、及びラスタリング中のAOD偏向及びそのガルボビーム偏向との相互作用の較正は、(例えば交点形成を支持するために)局所的な繰り返し精度を維持し、ディザリング及びラスタリングされた特徴部の寸法を制御するためには有用である。
【0142】
一実施形態においては、AODサブシステム1042及びガルバノミラー1066,1067は、加工ビームが走査レンズ1056に入射する前に加工ビーム角をそれぞれ偏向させる。任意のAODビームの角度偏向がガルボ1066,1067の角度偏向に追加される。したがって、AOD偏向コマンドは、ガルボの「未処理の」コマンド(これらは「ビーム角」座標である)と等価なものであると考えることができる。AOD偏向コマンドを、ガルボ1066,1067の「ビーム角」コマンドに追加される「ビーム角」コマンドと考えてもよい。ある実施形態においては、光学系の一連のレイアウトによりこれら2つの軸の間で回転を生じる場合があり、AOD偏光器1020,1022は特有の倍率を有しているので、これは、AODビーム偏向座標系をスケーリングし回転して(図38により述べられるような)ガルボ座標系のものと合致させた後においてのみ当てはまることことがある。
【0143】
ガルバノミラー1066,1067から仮想AOD偏向の転心をずらすことによる2次的効果がある。AOD1020,1022がビームを偏向させると、横方向ビーム位置がレンズ入射瞳の中でわずかに移動し、小さな付加的な歪みが生じる。ある実施形態においては、サブミクロンと予測されるこの誤差を無視することができる。
【0144】
AOD1020,1022により適用される「増加角」という概念は、システム性能の目標を達成するために必要とされる較正や必要とされるランタイム補正に対して影響を与え、3次プロファイリング、ディザリング、及びラスタリングの動作を考慮したときには有用なものである。
【0145】
1.AOD変換
【0146】
ある実施形態においては、AODサブシステム1042へのコマンド信号は、AOD処理の種類に固有の座標変換を介して得られる。以下の議論では、いくつかの座標系を参照する。「理想的な」座標は、較正されたワーク面の座標である。これらは、XYステージのガラスグリッド較正により定義することができる。本明細書では、「所望の」や「公称」という用語は、「理想的な」の代わりに用いられることがある。「未処理ガルボ(Raw Galvo)」座標は、ガルボサーボループを指令するために用いられる。「未処理AOD(Raw AOD)」座標は、AODチャンネルを指令するために用いられる。
【0147】
本明細書においては、TMframe、TMfield、TMdither、及びTMaodという変換が参照される。TMframeは、未処理ガルボ(Raw Galvo)座標を未処理AOD(Raw AOD)座標に変換する。(公称ガルボ位置あたりで外れている)1組の未処理増加ガルボ座標にTMframeを適用することにより形成されるAODコマンドは、この公称位置あたりの増加ガルボ偏向と光学的に同一であるAODビーム偏向を生成する。このように、TMframeを未処理ガルボ(Raw Galvo)コマンドに適用した後、AODは「仮想ガルボ(virtual galvo)」となる。この変換は、所定の光学的配置に対して固定的であり、ガラスグリッド較正により変化しない。この変換はAOD位置較正ルーチンにより算出される。
【0148】
TMfieldは局所的な走査フィールド歪みの変換である。これは、1組の増加理想(又は所望の)座標(走査フィールド中の何らかの公称位置あたりで外れている)を増加未処理ガルボ座標に変換する。「前方(forward)」(理想(Ideal)を未処理ガルボ(Raw Galvo)に)及び「後方(reverse)」(未処理ガルボ(Raw Galvo)を理想(Ideal)に)の双方が用いられる。この変換は、走査フィールド位置の関数である。この較正は理想座標系を定義しているので、この変換はガラスグリッド較正とともに変化する。TMfieldは、ガルボ較正データから算出し得る。
【0149】
TMditherは、ベクトル加工中にTMaodを算出する際に使用される、SCC1010からDSP1026を通過する1組の変換項である。TMditherは、ベクトル又はスカイブ加工セグメントごとにSCC1010によって算出され、走査フィールド位置及びビーム速度の関数である。
【0150】
TMaodは、FPGA1028内部のディザ/ラスタテーブルに格納された理想AODデータを回転及びスケーリングする変換である。ベクトル加工又はスカイブ加工において、TMaodは、理想ディザベクトルが理想軌跡ベクトルに対して垂直になるように維持する。ラスタ加工においては、TMaodは、交点加工又は一般的なラスタパターン形成のために、2次元のラスタデータを必要に応じてスケーリングして揃える。ベクトル又はスカイブ加工中は、DSPによってこの変換がビーム軌跡速度ベクトル及びTMdither変換に基づいてリアルタイムに算出される。ラスタ加工中は、SCC1010によってTMaod変換が1回算出される。
【0151】
2.走査レンズフィールド歪み
【0152】
走査レンズ1056及びガルバノミラービーム伝達システムに起因するフィールド歪みから、座標系及び較正式についての懸念が生じる。理想的な走査レンズにおいては、入射ビームの角度が偏向されてワーク表面でスポットの変位を生じる。うまく設計されたテレセントリック走査レンズ(「F-θ」レンズ)については、レンズ入射瞳の中央を中心としてビームが回転すると、スポット変位がビーム角に比例することとなり、較正の必要がない。しかしながら、ガルバノミラー1066,1067を入射瞳で一纏めにするという物理的制約によって、理想的な点を中心にビームを正確に回転させることができない。ビーム偏向中には何らかのビーム並進運動が生じる。これにより、図18に示されるような走査フィールド歪みパターンが生じる。
【0153】
図18は、LDAシステムがF/18の100mm走査フィールドレンズを含む実施形態の例における走査フィールド歪みパターンをグラフで示すものである。典型的なレーザ加工システムにおいては、補正項がビームポジショナに適用され、ワーク表面に(名目的に)歪みのないパターンが生じるように、この歪みパターンがマッピングされる。そのような較正変換の出力は、ビームポジショナの「未処理」座標系におけるコマンドであり、ガルボ1066,1067の場合のミラー角コマンドと同等なものである。LDAガルボコントローラサブシステム内では、公称倍率(例えば2×レンズ焦点距離)が適用され、ワーク表面の単位μmにおける未処理コマンドが生じる。FSM位置決めシステムを用いる実施形態においては、走査フィールドレンズの入射瞳に位置するFSMは、ガルボの歪みと比較して比較的小さな補正すべき歪みを有するであろう。
【0154】
システム上で計測される実際のフィールド歪みは、一連の光学系(ガルボブロック+走査レンズ)における幾何的歪みとガルボポジショナ誤差(オフセット、倍率、非線形性)とが組み合わさったものであることに留意されたい。光学系のフィールド歪み項は、ガルボとAOD偏向の双方に共通なものであり、同じ補正項を適用できる。しかしながら、ガルボ1066,1067自体における較正誤差(角度に依存する線形性誤差と倍率(SF)ドリフト)もまた走査フィールド較正条件に含められ、AOD偏向に適用されたときに較正誤差を生成する。しかしながら、このガルボ誤差は小さく、倍率(SF)非線形性誤差及び温度ドリフトは0.1%未満であり、100μmの3次AOD偏向に対してはガルボ偏向とAOD偏向との間の不一致が0.1μm未満となり得る。しかしながら、ガルボ1066,1067における公称倍率の許容量が大きいことがあり(例えば20%)、その場合には後述する較正手順に影響を与える。
【0155】
走査フィールド歪みパターンは、走査フィールド位置の関数として変化する局所的な歪みを生ずる。例えば、図19は、実施形態の一例における、X及びY走査フィールド歪み誤差(err)とX及びYフィールド位置をグラフで示すものである。図20は、図19に示される実施形態の例における、X及びY走査フィールド歪み倍率(SF)及び回転誤差とX及びYフィールド位置をグラフで示すものである。図21は、図19及び図20に示される例における、ラスタリングされた特徴部の局所的な位置幾何配置補正(PGC)歪みの例をグラフで示すものである。XYフィールド位置の関数としてのX誤差及びY誤差の傾きは、局所的な倍率及び回転誤差、例えばPGC歪み関係として取り扱うことができる。これらの誤差が十分に大きい場合、局所的なPGC歪みによりラスタパターン中に許容できない誤差が生じる場合がある。例えば、(-50mm,-50mm)のフィールド位置に位置する200×200μmのラスタパターンを考える。(図20から得られる)局所的なPGC歪みがあると、図21に示されるような歪んだパターンが生じる。大きな回転誤差のためパターンの角部でX誤差は5μmに達し、これは、交点形成において許容できないテーブル深さ変化を生じるのに十分に大きい場合がある。
【0156】
走査フィールド歪みパターンは、少なくとも次の3つの形態でLDAビームポジショナに影響を与える。すべてのモード中、3次プロファイリングが公称ビーム軌跡を生成するようにAOD及びガルボコマンドを定義するときと、ベクトル又はスカイブモード中、AODディザコマンドがスケーリングされ回転されるときと、ラスタモード中、潜在的に大きなラスタ領域が歪む可能性があるときである。
【0157】
3.3次プロファイリング中のAOD較正補正
【0158】
図22は、一実施形態における3次プロファイリングサブシステム2200を模式的に示すものである。3次プロファイリングにおいては、ガルボサブシステム1044とAODサブシステム1042との間でビーム位置決めが分割される。3次プロファイリングは、AODサブシステム1042を(例えばXYステージ及びガルボサブシステム1044に加えて)3次ポジショナとして使うことを意味する。本開示の譲受人に譲渡された米国特許第6,706,999号にはレーザビーム3次ポジショナの例が記載されている。なお、この米国特許は全体として参照により本明細書に組み込まれる。本明細書に開示されるように、AODサブシステム1042を用いた3次プロファイリングは、別個のタイミング境界からAODコマンドが発行されるような場合に、高速で(例えばタイミング分解能を得るために約1μsの更新時間を使用する)ビーム光路をプロファイリングすることを考慮している。3次プロファイリングサブシステム2200は、プロファイリングフィルタ2204と、遅延要素2206と、減算器2208とを含んでいる。
【0159】
図22は、ワークピースに切り込もうとしているトレンチに対応する例示ビームプロファイル2210(本明細書では例示「ビームコマンド」と呼ぶこともある)を示している。この例示ビームプロファイル2210は、ガルボサブシステム1044を使って高速で追跡するのが難しいかもしれない急な変化を含んでいる。走査フィールド較正変換2203を通過した後、例示ビームプロファイル2210は3次フィルタ2205に供給される。3次フィルタ2205は、プロファイリングフィルタ2204と遅延要素2206とを含んでいる。プロファイリングフィルタ2204は、ガルボサブシステム1044により追跡するのが難しいかもしれない高周波数成分を除去する低域フィルタを備えている。位置プロファイル2212により示されているように、プロファイリングフィルタ2204の出力をガルボコマンド(ガルボ制御信号)として用いてもよい。図22は、位置プロファイル2212の一部を拡大したもの2213を示しており、ガルボサブシステム1044により与えられた実際の位置2218に対して、指示された位置2216を示している。AODサブシステム1042は、この指示された位置2216と実際の位置2218との間の差を補正するために使用される。
【0160】
一実施形態においては、プロファイリングフィルタ2204は、無限インパルス応答(IIR)フィルタである。他の実施形態においては、プロファイリングフィルタ2204は、有限インパルス応答(FIR)フィルタである。当然、FIRフィルタは、任意の周波数範囲における信号に対して一定の遅延を有する。しかしながら、他の種類のフィルタも使用できることは、当業者であれば本明細書の開示から理解できるであろう。遅延要素2206は、プロファイリングフィルタ2204により導入された遅延とほぼ同じ量だけ例示ビームプロファイル2210を遅延させる。減算器2208は、遅延要素2206の出力からプロファイリングフィルタ2204の出力を減算し、ガルボコマンドから除去された高周波要素を得る。その後、減算器2208により出力された高周波要素は、AODサブシステム1042を制御するAODコマンド信号として利用することができる。図22は、例示AOD位置コマンドプロファイル2214を示している。図示されていないが、位置コマンドプロファイル2214に差分を用いて対応する速度及び加速度コマンドプロファイルを算出してもよい。
【0161】
例示ビームコマンド2210は、パネル位置合わせ変換の適用後における、「所望の」座標におけるワーク表面上のビームの所望の軌跡である。上述したように、例示ビームプロファイル2210は、(指示されたビーム位置信号として)走査フィールド較正変換2203に与えられる。その軌跡を低周波要素と高周波要素に分けるようにデータがフィルタされ、AODサブシステム1042により高周波低振幅コマンドを追跡することが可能になり、帯域幅が制限された大きな振幅のコマンドをガルボサブシステム1044に通過させる。走査フィールド較正変換2203を適用することにより「未処理ガルボ」座標が生成される。これは3次フィルタ2205によりコマンドが分割される前に起きるので、3次フィルタ2205の出力は、それぞれ同じ未処理ガルボ座標で表されるガルボ要素とAOD要素である。
【0162】
未処理ガルボ座標系においてビームを偏向させるためにAODサブシステム1042が較正される場合には、AOD3次変位に対してそれ以上走査フィールド較正変換は必要とされない。これは、局所AODフィールド歪み補正が不要となることを意味している点で有用である。換言すれば、走査フィールド較正変換2203が適用される際に走査フィールド歪み効果はすでに生じている。
【0163】
このアプローチの他の解釈は、3次プロファイリングフィルタにより未処理ガルボ座標において所望のコマンドからガルボコマンドが遠ざけられることである。AODサブシステム1042は、このガルボビーム角度変位を補うための補償変位を提供するだけである。
【0164】
そして、「未処理ガルボ」座標におけるAODコマンド出力は変換されて(スケーリング及び回転されて)「未処理AOD」偏向コマンドが生成される。この変換を「TMtert」変換という。
【0165】
TMtert変換は、少なくとも2つの理由から、ディザリングを修正するのに使用されるTMaod変換(図11に示される)から分離されたままである。まず、TMtert内部のスケーリングは、AOD及びガルボのSFの両方を補正するものであり、ガルボ運動とは独立したディザリングには適用されないので、ディザリング中にはTMtert内部のスケーリングを使用することができない。次に、軌跡角度とともに変化するTMaodディザ変換(FPGA1028内部で適用される)とは対照的にTMtertにおける回転項は固定されており、速度ベクトル角とは独立している。このように、TMtert変換は、それがFPGA1028に送信される前にAOD軌跡データに適用され、このデータはそれ以上TMaodにより影響を受けない。
【0166】
また、TMtert変換を「未処理ガルボ」座標に適用することにより、AOD誤差補正項を3次AODデータに追加する機会が与えられる。(AOD誤差補正データを生成するようにフィルタされる)ガルボコントローラ誤差は未処理ガルボ座標で表されるので、これは便利である。
【0167】
得られた較正データフローの概要が図51に示されている。
【0168】
上記議論は3次フィルタアルゴリズムに供給されるビーム中心軌跡位置の処理にのみ適用される。ディザリング及びラスタリングに対する較正効果は後述するように若干異なる。
【0169】
4.ラスタパターン形成中のAOD較正補正
【0170】
上述したように、フィールド位置の関数としてのラスタパターンに対する局所較正補正を必要とするほど局所走査フィールドPGC歪みが十分に大きい場合がある。この場合は、(AOD偏向コマンドを予め補償することを意味する)予め補償されたガルボ偏向の代わりにAOD偏向がなされるわけではなく、ラスタパターンの中心点のみのフィールド歪みが補償されるので、上述した3次プロファイリングの場合と異なることに留意されたい。ラスタパターンを加工するために使用されるAOD偏向は補償されない。
【0171】
局所PGC補正は、走査フィールド較正変換から得られ、ラスタ加工中又はラスタ加工前にSCC1010からDSP1026に送信することができる。局所PGC変換は、後の「ベクトル処理の概要」で述べるように、ディザ角及びAOD座標系回転のために他のAOD変換と組み合わされる。
【0172】
5.ディザリング中のAOD較正補正
【0173】
ディザリングの場合、AODフィールドの局所PGC歪みがディザベクトルの幅及び回転に影響を与え得る。ビームがトレンチの幅にわたってディザリングされるので、クロス軸(「回転」)の歪み誤差成分は、(トレンチに沿った)オン軸方向に偏向を生じさせ、幅に対して無視し得る程度の影響を与える(例えばコサイン誤差0.2%未満)。クロス軸におけるPGCスケーリング誤差は、トレンチ幅に直接約2%から約3%の影響を与える。
【0174】
しかしながら、非常に幅の広いトレンチは、大きなラスタパターンの場合と同様に、その端点が回転歪みによりずれることがある。これが幅の広いトレンチに対する交点に影響を与えることがあるので、PGC補正はディザリングに対して適切なものである。歪み項は、加工セグメントごとにSCC1010からDSP1026に送信され、誤差範囲が12.5%、1/1024のスケーリング後の解像度が0.1%であるとすると、これを8ビットで表すことができる。
【0175】
6.AOD較正手順
【0176】
図23は、一実施形態におけるAOD較正パターンを模式的に示すものである。以下の手順によりガルボフレーム2312に対するAODフレーム回転2310及びAOD倍率が較正される。走査フィールド歪みが無視できる走査フィールドの中心近傍でTMtert変換に対する較正がなされる。ガルボフレーム2312の回転は、ディザリング及びラスタリングの両方に対する懸念にはならないことがあることに留意されたい。AODフレーム2310が直交し、ガルボフレーム2312に位置合わせされている限り、ディザリング及びラスタリングの動作はガルボフレーム2312に対するものであるため、ディザリング及びラスタリングは適切に位置合わせがなされる。
【0177】
この手順では、TMtert変換をデフォルト(行列×公称SFを特定する)に設定し、Xステージをその移動範囲の中心に移動する。そして、FPGA1028が4つの十字線ラスタパターン2314とともにロードされる。説明のために、図23は、十字線ラスタパターン2318の1つを拡大(及び回転)したもの2316を示している。それぞれのパターンは、中心十字線2320(ゼロAOD変位)と、AOD軸(+ch0,-ch0,+ch1,-ch1)の1つにおいて変位された十字線2322とを含んでいる。これらの変位は、ワークピース又はガルボ座標系(XY)ではなく、未処理AOD座標系(ch0,1)におけるものであることに留意されたい。この手順では、4つの十字線較正パターン2314のグループ及び/又はそれぞれのパターン2318をシステム設定により変化し得る加工スポットサイズでスケーリングする。加工スポットサイズはシステム設定パラメータである。
【0178】
また、この手順では、走査フィールド中心に中央がくるように配置されたグリッドパターンで4つのパターン2314のそれぞれを切り離す。それぞれのパターンに対して、ガルボがパターンのそれぞれの位置に移動され、ラスタリングの前に(例えば1msの間)固定される。実施形態の一例においては、すべてのパターンは、走査フィールド中心から1mm四方の中に入り得る。この手順では、4つのパターン2314のそれぞれを所定の回数だけ切り離し、Y直動ステージを移動させパターンを変位させる工程を繰り返す。例えば、図23に示されるように、4つのパターン2314は、10回(又は特定の実施形態によっては他の所定の回数だけ)切り離される場合がある。この手順では、データを収集して、変位されたAOD十字線2322を対応するゼロ変位の十字線2320に対して位置付ける。そして、この手順では、(例えば10個の)データセットを平均し、AOD倍率(AODのミクロン当たりのMHz)とガルボ座標系2312に対する回転を算出する。4つの中心十字線(ゼロAOD変位)がガルボ回転に関する情報を与えることに留意されたい。AOD軸の回転はガルボ軸の角度に対して算出されなければならない。また、この手順では、ガルボパターンの回転が約1%未満であることを光学的設定のチェックとして確認することとしてもよい。
【0179】
i.倍率分離及びTMtert形成
【0180】
AOD較正手順では、以下の2つの倍率(SF)を生成する。
MHzPerRawμm:[AOD MHz]/[未処理ガルボ μm],
MHzPerμm:[AOD MHz]/[μm]
【0181】
1つ目のSF(MHzPerRawμm)は、X成分及びY成分とともに、TMtert変換におけるスケーリング項を構成する。上記で説明したように、3次プロファイリングは、3次位置決め中にガルボサブシステム1044と合致するように、未処理ガルボ座標におけるAODコマンドを生成する。このため、このSFは、AOD項及びガルボSF項の組み合わせを表している。
【0182】
2つ目のAODのSF(MHzPerμm)は、(XYワーク面μmの単位により特定される)SCCディザ(又はラスタ)テーブルデータを、そのデータがFPGA1028にダウンロードされる前にAOD単位(MHz)に変換する。
【0183】
AOD較正の結果、MHzPerμmが生成される。MHzPerRawμmを生成するために、ガルボ較正に埋め込まれたガルボ倍率データが適用される。ガルボ較正データのXY倍率からガルボSF項(RawμmPerμm=[未処理ガルボ μm]/[μm])を抽出することができ、フィールド歪みを無視し得る走査フィールドの中心でそれを評価することができる。そして、XY成分のそれぞれに対して以下のようになる。
MHzPerRawμm[X,Y]=MHzPerμm/RawμmPerμm[X,Y]
【0184】
TMtert変換を形成するために、ガルボフレームに対するAODフレームの回転が上記で決定された倍率と組み合わされる。AODフレーム回転は、AOD1020,1022及びマウントにおける機械的公差のために非直交であってもよい。このため、2つの別々の回転項が含まれる。図24は、ある実施形態におけるAOD較正角をグラフで示すものである。AOD座標系(TMframe)の回転変換は以下のように定義することができる。
【数1】
ここで、図24に示されるように、
ThetaAod0=ch0とXガルボ軸とのなす角
ThetaAod1=ch1とYガルボ軸とのなす角
K0=AOD ch0対ワーク面の大きさのスケーリング(μmAOD0/μm)
K1=AOD ch1対ワーク面の大きさのスケーリング(μmAOD1/μm)
である。
【0185】
図24において、角度とスケーリングは、走査フィールドの中心で評価される。TMframeは、AOD座標系をガルボ座標系に合わせることを意図している。TMfield変換は、ガルボ軸の符号フリップ(sign flips)を含む走査フィールド歪み及び公称ガルボアライメントを補正する。混乱を避けるために、ある実施形態においては、AOD軸における符号フリップは、回転角(付加的な180°回転)に起因するものであり、K0/1の倍率に起因するものではない。K0及びK1はMHzPerμm倍率を含んでいない。このスケーリングは、ディザ(又はラスタ)テーブルをロードするときに適用されるか、あるいは(プロファイリングのために)TMtert変換に含められる。むしろ、K0及びK1は、公称MHzPerμm倍率を適用した後に、AOD0とAOD1の間で生じ得るスケーリングの変化を表している。ある実施形態においては、K0及びK1は、1.0に等しいものと期待される。
【0186】
そして、3次プロファイリング中に適用される変換であるTMtertは以下により与えられる。
【数2】
【0187】
ここで、MHzPerRawμm[X,Y]スケーリング項は、規模スケーリングのみを含む必要があり、TMframeの回転項において符号が生じる。
【0188】
TMtertは、ランタイム算出において使用され、3次フィルタから出力されたAODコマンドに適用される。
【数3】
【0189】
TMtertの定義は、倍率補正に続いて回転が行われることを示唆していることに留意されたい。このため、AOD較正データを評価する際に、TMframe変換は、AOD偏向を評価してMHzPerRawμm[X,Y]を算出する前に、AODデータを回転させてガルボフレームと揃うように最初に適用される。
【0190】
D.パワー制御
【0191】
ディザリング中及び速度変化中に一貫したレーザパワーを維持するためにLDAシステムではパワー制御が使用される。パワー制御は、AODパワー減衰の線形化と、ワーク表面パワーに線形化されたAODパワー制御の較正とを含んでいる。
【0192】
1.AODパワー線形化
【0193】
図25は、一実施形態におけるパワー制御用の信号の流れを示すブロック図である。適用されるRF信号周波数及び所望の光学出力パワーの関数としての光学出力パワーを線形化するためのch1 RF信号振幅コマンド2514を生成するために、2つの線形化テーブル2510,2512が使用される。
【0194】
2つのAODセル1020,1022(ch0及びch1)のそれぞれに対して、周波数偏移(ビーム軌跡)コマンド(Fdev0又はFdev1)及び公称中心周波数(Fctr0又はFctr1)にディザ(例えばDither0又はDither1)が加えられ、総合周波数コマンド(RfFreq0又はRfFreq1)が生成される。ch0周波数コマンドRfFreq0はch0線形化テーブル2510にインデックス化され、Pscale0パワースケーリングコマンドが生成される。Pscale0パワースケーリングコマンドは、ch0光学出力パワーを周波数の関数として線形化し続けるために使用される光学出力パワー倍率を表している。線形化テーブル2510は、ch0周波数のみの1次元の関数である。
【0195】
Pscale0に(DSP1026により指令された)システムパワーコマンド倍率Kpが乗算され、総合パワー倍率Pscaleが算出される。このコマンドは、ch1周波数コマンドRfFreq1とともに、2次元のルックアップテーブル2512にインデックス化され、ch1 RF信号振幅コマンドであるRfAmpCmd2514が生成される。ch0に対するRF信号振幅は一定とされることに留意されたい。換言すれば、この実施形態の例におけるすべての出力パワー制御は、ch1のRF信号振幅変調を介してなされる。
【0196】
i.線形化テーブル
【0197】
AOD1020,1022は、AODセルに印加されるRF信号パワーレベルを変化させることにより光学パワーを制御する。図26は、一実施形態におけるパワー制御曲線(正規化された光学出力パワー対正規化されたRF信号パワー)の例をグラフで示すものである。図26は、RF振幅コマンドから得られる光学パワー出力を示していることに留意されたい。
【0198】
ある実施形態においては、図26に示される非線形カーブは、所望の正規化出力パワー(0から1、1は最大出力パワー)をこの出力を達成するために必要とされるAOD RF信号パワーに変換するルックアップテーブルを生成するようにマッピングされる。これは、図26のX軸及びY軸のフリップ(flip)として考えることができる。すなわち、所望の光学パワーを与えると、必要とされるRF振幅コマンドが決定される。
【0199】
得られた線形化曲線が図27に示されている。図27は、一実施形態におけるch1 AODパワー線形化曲線セットの例をグラフで示すものである。図26に示されるパワー制御曲線は、単一のRF信号周波数でのAODの振る舞いを表していることに留意されたい。実際には、この曲線は、AODセル1020,1022に印加されるRF信号周波数とともに変化する。このように、AODサブシステム1042の動作周波数範囲にわたるそれぞれのRF信号周波数に対して非線形マッピングが繰り返される。図27は、線形化カーブの集合を示している。
【0200】
ch1線形化テーブルは、要求された光学出力パワースケーリングを生成するのに必要なRF振幅コマンドを生成する。RF信号振幅出力は、光学出力パワーに影響を与えるが、出力パワーを直接設定するものではない。
【0201】
ch1テーブルとは対照的に、ch0テーブルは、(RF振幅コマンドではなく)Pscale0パワー倍率を生成する。Pscale0は、ch0レスポンスをch0 RF信号周波数の関数として線形化する。ch0 RF信号振幅は一定に保持され、線形化テーブルでは使用されない。図28は、一実施形態における、ch0 AODに対する曲線の例を示している。図28は、ch0光学効率対RF信号周波数における変化を示しており(左側のプロット)、これにより線形化に対する必要なパワースケーリング(右側のプロット)が生じる。
【0202】
図28に示されるように、AOD1020,1022は、周波数の関数としての振幅コマンドを減少させることにより、任意の周波数での出力パワーが効率の最も低い周波数でのパワーに等しくなるように、周波数範囲にわたって線形化される。このため、線形化によりAODサブシステム1042の有効光学効率が低下し、AOD1020,1022の動作周波数範囲がサブシステムの光学効率に影響を与える。
【0203】
ii.ハイパワーモード:効率利得
【0204】
上述したパワー線形化手順により、ch0及びch1において最も悪い場合の光学効率の結果に等しくなるまで光学効率が下げられ、動作RF信号周波数範囲の全体にわたりパワーが完全に線形化されたAODサブシステム1042が提供される。AODサブシステム1042は、このモードでは、パワーが適切に線形化され、RF振幅コマンドの飽和もない状態で控えめに動作する。
【0205】
しかしながら、ch0及びch1 RF信号周波数範囲(すなわち、等価的にはAOD XY偏向範囲)の関数としての実際のAODサブシステム1042の光学効率を算出することにより、かなりの光学効率利得を実現することができる。光学効率が高くなるにつれ低いRF振幅コマンドが必要となるので、これにより、RF振幅コマンドを飽和させることなく、より高いパワーレベルで、全パワー較正範囲よりも狭い範囲でAODサブシステム1042を動作させることが可能となる。あるいは、等価的に、このアプローチにより、大きなラスタフィールド又は非常に幅の広いトレンチを受け入れるために、より典型的でより小さな偏向範囲における通常の動作に影響を与えることなく、通常よりも非常に大きな周波数範囲にわたってAOD1020,1022のパワーを較正することが可能となる。
【0206】
一実施形態においては、(ch0及びch1の両方について)選択された周波数範囲にわたって最低効率を決定し、2つの最も悪い場合の値を乗算することで最も悪い場合の効率を算出し、考えられる周波数範囲のそれぞれについてこれを繰り返すことにより、光学効率利得が算出される。この手順により、一般的な用途及びラスタリング時に好適である、効率利得対周波数範囲に対する控えめな曲線が生成される。ディザリングとAODの過渡状態との間でAOD偏向を分割するようなベクトル処理を考慮するとさらに改良が可能である。ディザリングにより、AOD座標系において角度回転させた線に沿ってAOD偏向を生ずる。ch0偏向器及びch1偏向器において使用される実際のAOD範囲は、(sin関数及びcos関数としての)ディザ角に依存している。いずれの軸も同時に完全な偏向を受けることはない。このように、総合効率は上記のように求めた控えめな概算よりも高くなる場合がある。
【0207】
しかしながら、ディザリング中にAOD過渡変化域(AOD transient excursions)が長じる場合もある。そのようなAOD過渡変化域はビーム軌跡に応じていずれの軸でも生じ得る。
【0208】
図29及び図30は、効率利得の算出結果を示すグラフである。図29は、ある実施形態におけるAOD効率曲線の例を示すグラフである。図30は、ある実施形態におけるAOD効率利得の例を示すグラフである。例えば、図29は2つのAODセル1020,1022(ch0及びch1)の効率を示しており、図30はラスタモード及びベクトルモードについての、完全に線形化された不飽和効率に対する効率利得を示している。
【0209】
2.AODワーク面パワー較正
【0210】
上記線形化手順の完了後、線形化テーブルがFPGA1028のAODコントローラにロードされる。そして、FPGA1028に送られた正規化パワーコマンド(Kp、0から1の範囲)により、指令されたパワー振幅の1次関数であって、AOD1020,1022に適用されたRF周波数コマンドとは独立している場合のある光学パワー出力が得られる。ある実施形態においては、線形化テーブルの量子化及び較正の不確実性により、約1%から約2%の間の残余線形性誤差が生じる。
【0211】
しかしながら、ある実施形態においては、線形化されたパワー出力のスケーリングは任意である。最後のパワー較正工程において、チャックパワーメーター(CPM)によりその結果生じたワーク表面パワーを測定しつつ、正規化レーザパワーコマンドは0から1の間のいくつかの値に設定される。線形適合性(linear fit)が、CPMオフセットと、加工中にDSP1026からFPGA1028に送られる正規化パワーコマンドKpにワーク表面パワー(ワット)を変換する倍率Kpwrとを決定する。
【0212】
図31は、一実施形態におけるパワー較正データの流れ3100を示すブロック図である。図31に示されるパワー制御データの流れ3100は、効率利得により利用可能となるハイパワーモードもサポートしている。これは、分数のKp値を増幅して、1より大きな効率利得の利用を可能にするためにFPGA1028内部に2倍利得を含んでいる。FPGA1028の付加的な倍率KpNormはKpコマンドを正規化し、Kp=0.5は最大不飽和線形化出力パワーを表し、0.5より大きな値は、効率利得により縮小されたAOD範囲内で(飽和することなく)達成し得るより高いパワーを表すこととなる。
【0213】
一実施形態におけるワーク面パワー較正を提供する方法は、AODパワー線形化較正を行うことを含んでいる。このデータから、システムは最小ch1効率であるPscaleCalを決定する。この方法は、さらに、FPGA1028に線形化テーブルをロードし、FPGA1028の倍率KpNormをPscaleCalに設定することを含んでいる。そして、この方法は、DSP1026のパワー倍率Kpwrを0.5に設定し、1に等しいパワーコマンドを発行することを含んでいる。内部FPGA1028のスケーリングを得るために、このコマンドは、パワー線形化較正範囲内の任意のFdev0又はFdev1周波数コマンドに対してch1 Pscale値をわずかPscaleCalに制限する。これにより、飽和することなく全AOD周波数範囲にわたって線形化された出力パワーを確実に取得することができる。Pscale0(ch0線形化テーブルの出力)が1未満のとき、PscaleはPscaleCalよりも小さくなり得るが、これは光学効率の高いch0周波数でのみ生じることに留意されたい。このように、実際の光学出力パワーは、名目上、すべてのFdev0周波数にわたって一定であり続ける。同様の原理がch1線形化出力にも当てはまる。また、この方法は、完全に線形化された不飽和パワーコマンド(先の工程で設定される)によりチャックパワーメーターで測定されたワーク面パワーであるLinPmaxを記録することを含んでいる。そして、DSP1026のパワー倍率Kpwrを0.5/LinPmaxに設定する。これにより、FPGA1028のパワー制御が較正されたワーク面パワーを生じるように、DSP1026のパワーコマンド(ワット)が正規化される。このときパワーコマンド(ワット)は効率利得が1よりも大きいAOD範囲に対してLinPmaxを超えることがある。そのような場合には、Pscale0及び/又はch1線形化テーブル項目は1未満に設定され、得られる振幅コマンドは不飽和のままである。
【0214】
要約すれば、Ch0線形化テーブルと、Ch1線形化テーブルと、KpNormと、Kpwrと、効率利得(Gain)テーブルと、LinPmaxというデータが較正データとして格納され、初期化中にDSP1026及びFPGA1028にロードされ得る。
【0215】
E.加工速度制限
【0216】
トレンチに対して、最大加工セグメント速度は、ディザタイミング(ディザ行間で必要とされるスポットサイズの重なり)、3次フィルタリングによるAODダイナミクス、トレンチを加工するために利用可能なレーザパワー、及びデータ転送速度制限をはじめとするいくつかのファクターにより決まる。
【0217】
1.ディザ速度制限
【0218】
ディザリングによる速度制限は、ディザ行間に使用される重なりから生じる。ある実施形態においては、ディザ行間の最大位置増分は0.35×Deffである(安全域を得るために重なり65%とする)。このように、この重なりを維持するための速度制限は、0.35×Deff/Td=0.35×Deff/(Nd×Taod)である。
【0219】
各ディザ行について線量及び幅パラメータはこの間は一定に維持され、すべての変化は次のディザ行の開始時にのみ有効となる。低レベルFPGA1028制御アルゴリズムがこれを行うので、DSP1026により算出され、FPGA1028に送られたパラメータが直線補間される場合があり、FPGA1028により適切な時期にディザ行のパラメータが更新される。
【0220】
一般に、上述したディザ生成は、ディザ更新が限定ファクターとならないように設計され、システムがレーザパワーの限界点で動作することを可能にしている。
【0221】
2.3次フィルタ制限
【0222】
較正AODフィールドサイズが制限されるとすると、3次フィルタリングの処理は加工速度に制限を課すものである。
【0223】
3次フィルタリング中、加工セグメント間で速度がステップ状に変化すると、AODコマンドに過渡応答が生じる。例えば、図32は、一実施形態における、速度変化に対する3次フィルタの応答をグラフで示すものである。この応答の大きさは速度のステップ状の変化に比例しており、その減衰時間は3次フィルタ帯域幅及び減衰比の関数である。
【0224】
図32は、AOD変化域を最大にする最も悪い場合の速度プロファイル3210を示しており、これは、ある速度変化3210(2×Vmaxに等しい)の後に、大きさは等しいが反対の符号を有する、3次フィルタのオーバーシュート3216のピーク(3kHzの3次フィルタについては速度変化後約0.12msec)に合わせた次の速度変化3214が続くときに起きる。
【0225】
AOD過渡倍率を「Ktrans」と定義すると、加工セグメントの速度変化deltaVに対して以下のようになる。
deltaAod=Ktrans×deltaV
Ktransの値の例としては、4次の3kHzの3次フィルタに対して26.6μm/(m/sec)である。このように、例えば、+2m/secから-2m/secの速度変化をし得る2m/secの加工速度のセグメントに対して、deltaAodの制限=2×(2m/s)×(26.6μm/(m/s))=106.4μmである。
【0226】
図33は、一実施形態におけるモンテカルロAOD過渡状態シミュレーションをグラフで示すものである。タイミングがランダムで速度セグメントの大きさもランダムな(+-Vmaxまで)ランダム速度シーケンス3308の簡単なモンテカルロモデルは、図32に関して上記で述べたシナリオにより(図33に示されるように)AOD変化域3310が限度内に留められていることを確認するものである。したがって、3次フィルタ応答により、与えられたレーザ加工速度に対して最も悪い場合のAOD変化域を確実に予測することができる。
【0227】
3.レーザパワー制限
【0228】
レーザパワーは、加工速度に根本的な制限を課すものである。1次近似に対して、トレンチを加工するために必要な線量(パワー/速度=W/(m/sec)=J/m)は、トレンチ領域に依存している。ディザリングされていないガウス形ビームにより切り込まれたトレンチに対しては、Deff=有効スポットサイズであるような実施形態の例においては、断面積がおよそ0.65×幅Width×Deffとなる。幅がディザリングにより増えると、全面積はD×(0.65×Deff+幅Width-Deff)となる。
【0229】
線量の必要条件に対する例示モデルは以下のものである。
線量Dosage(J/m)=面積Area(μm2)/143+0.3)
【0230】
較正されたLDAシステム上で、プロセスマップ(Process Map)は線量に対する較正値を与える。ここで、
線量Dosage=フルエンスFluence×有効幅EffectiveWidth
である。
【0231】
線量はパワー/速度に等しいので、必要とされる線量が、与えられた利用可能レーザパワーに対する最高速度を決定する。
【0232】
図34は、一実施形態における、Taod=Tcmd=1μsecであるときの速度制限の例をグラフで示すものである。図34は、線量制限に対する曲線の例と、可変数の点(Npt)の制限に対する曲線の例とを含んでいる。ワーク表面のレーザパワーの制限(LDAシステムの例については約8W)は、図34に示されるように、幅の関数としての加工速度を制限する。ある実施形態において、図示された曲線の例は、AOD効率の影響(例えば最大幅で65~70%)や3次プロファイリングにより必要とされる付加的なAOD偏向を含んでいないため、楽観的なものであるかもしれない。それでもなお、レーザにより制限された加工速度の図示された上限は、スループットを制限することを避けるために他の速度制限(ビームポジショナ及びディザリング)が超えてしまう控え目な下限を形成する。図34は、ディザテーブルが最大幅に必要とされる最大数の点(最大Npt制限)を使ったならば、より小さな幅での最高速度が許容できない程度に制限されるであろうということを強調している。
【0233】
実際には、最大ワーク表面のパワーは、(AOD効率曲線により)AOD範囲とともに変化する光学縦列効率(optical train efficiency)の関数である。所望のトレンチ幅によってグリッド幅gridWidth(必要とされるディザ偏向)が決まり、グリッド幅gridWidthによって(AODパワー線形化により)最大パワーレベルが決まる。3次AOD偏向は、付加的なAOD偏向を必要とし、このため最大効率を下げるので、この算出にも含められる。このように、利用可能なレーザパワーはトレンチ幅とともに減少し、図34の曲線に影響を与える。
【0234】
セグメント速度Vsegの関数としての必要AOD範囲は、以下により与えられる。
AODrange=[グリッド幅gridWidth+4×Vseg×Ktrans]×1.10
これは、トレンチに対する必要グリッド幅gridWidth(可変であれば最大グリッド幅gridWidth)による成分と、3次フィルタダイナミクスによる(「Ktrans」倍率を介した)AOD変化域による成分と(セグメント速度Vsegに対して、最大速度変化は2×Vsegであり、pk-pk AOD偏向範囲は2×(2×Vseg)×Ktransであることに留意されたい)、走査フィールド歪み及び速度に依存するディザ角効果を含む10%の安全域による成分とを含んでいる。
【0235】
結果の例が図35に示されており、図35は、一実施形態における、AOD移動範囲と特徴部の幅をグラフで示すものである。図35に示される例は、速度2m/sec、レーザパワー8W、AOD範囲280μmを用いている。また、このモデルは、ラスタ位置への移動の後に静止することなく加工が可能な最大ラスタ径を予測している。これは、例えば、100μm未満の場合があり、多くのパッドには十分な大きさではないが、トレンチ交点には適切な場合がある。大きなラスタ領域に対する代替案は、3次フィルタ応答で定義された時間(一般に0.4~0.5msec)だけラスタ点で静止することである。
【0236】
図35は、AOD効率におけるAOD範囲の効果を含んでいないことに留意されたい。加工速度の算出に対するこの影響を具体化するために、算出されたAOD範囲は効率曲線(図30)と組み合わされてVsegの関数として利用可能レーザパワーを算出する。そして、(速度に依存するAOD範囲に基づいた)利用可能レーザパワーを、(線量に基づいた)必要レーザパワーと比較することにより、加工速度に対するレーザパワー制限を決定することができる。例えば、図36は、一実施形態における、加工速度に対するレーザパワー制限をグラフで示すものである。図36に示される例では、50μmのトレンチが示されており、その中での加工速度は1.65m/secである。
【0237】
i.円弧加工効果
【0238】
幅の広い円弧セグメントの間は、外側のパワーは(1+W/R/2)により増幅され、外側エッジ上のパワーが制限されることを防止するために円弧セグメント内の中心線速度を低くしなければならない場合がある。しかしながら、上記モデルは、公称加工速度が最も悪い場合のAOD移動を許容するように選択されている限り、速度のステップ状の変化(公称速度の2倍未満)が許容できることを示している。このように、AOD移動範囲の制限を気にすることなく幅の広い円弧を加工してもよい。
【0239】
4.データ転送速度制限
【0240】
データ流量制限により、任意の加工セグメントに対する許容可能な加工時間に対する下限が設定される(おそよ7μsec)。加工セグメントの長さが与えられると、これによりセグメント速度の上限が設定される。例えば、21μmのセグメントは、データ転送速度により3m/secの速度制限を受ける。
【0241】
5.加工速度制限の概要
【0242】
一実施形態においては、トレンチに対する加工速度の算出はこれらの工程の後に行われる。以下に述べる工程を異なる順番で行うことも可能であることは、当業者であれば本明細書の開示から理解できるであろう。
【0243】
第1の工程では、プロセスマップ(Process Map)を用いてトレンチ寸法(幅及び深さ)に基づいてフルエンスFluence、グリッド幅gridWidth、及び有効幅EffectiveWidthを決定する。
【0244】
第2の工程では、トレンチに対して線量Dosage=フルエンスFluence×有効幅EffectiveWidthを算出する。このとき、加工速度Vsegの関数としての必要レーザパワーは、Preq=線量Dosage×Vsegである。
【0245】
第3の工程では、Vsegの関数としての必要AOD偏向範囲を算出する。最大較正AOD範囲が与えられたとして、この結果を用いてAOD移動範囲(Vaod)による速度制限を決定する。
【0246】
第4の工程では、効率利得(Efficiency Gain)曲線(「ハイパワーモード」参照)を用いて、AOD範囲の関数としての最大利用可能レーザパワーを算出する。
【0247】
第5の工程では、レーザパワー(Vlaser)による速度制限、すなわち必要レーザパワーが利用可能レーザパワーに等しくなる加工速度を決定する。
【0248】
第6の工程では、ディザの重なり(Vdither)による速度制限を決定する。
【0249】
第7の工程では、最小セグメント時間(Vsegtime)による速度制限を決定する。
【0250】
第8の工程では、加工速度をVaod、Vlaser、Vdither、及びVsegtimeの最小値に設定する。
【0251】
IV.加工モード
一実施形態においては、LDAシステムは3つの異なるモードで材料を加工する。ベクトルモードは、幅及び深さの異なる直線状トレースを加工する。これら幅及び深さはいずれも任意に制御可能である。ラスタモードは、(例えば加工スポットサイズよりも10倍大きな)1つのAOD走査フィールド内で任意の2次元形状を有する小さな特徴部を生成する。スカイブモードは、周囲位置の精度及びスカイブ処理領域内での材料のアブレーション深さの一貫性をうまく制御しつつ、任意の形状を有する大きな領域を加工する。
【0252】
A.ベクトル加工
【0253】
トレンチのベクトル加工は、トレンチ幅を制御するのにAODディザリングに依存している。LDAシステムのある実施形態においては、例えば、ディザパターンがトレンチの始点及び終点で任意の位置で始まり、ディザ角が(主ビーム軌跡に対して)軌跡速度とともに変化するようなディザリングに対する矛盾したアプローチに対して懸念が生ずる場合がある。
【0254】
この懸念に取り組むために、一実施形態では、各加工セグメントに対する整数個の行に対してディザを適用し、均一かつ繰り返し可能で輪郭のはっきりしたセグメント端部を生成する。加工セグメントコマンドは、そのような整数個のディザ行のタイミングをサポートするように調整されている。
【0255】
整数個のディザ行の数は、交点を生成するために使用されるトレース端部の移行領域をサポートしている。40~50μmの移行例では、深さ許容範囲として5~10%を維持しつつ、ビームの位置誤差として2~3μmを許容する。LDAシステムの一実施形態において使用される公称25μmの有効スポットサイズ対しては、この移行長さは、線量移行のディザ行を4~5行使用する。
【0256】
線量は、トレース端部で一貫した幅を維持するために各ディザ行の間は一定とされる。すべての線量制御は、線量が変化する間、形成されるトレンチ幅の変化を予測可能なものとするために、ディザ行ごとに適用してもよい。
【0257】
ある実施形態においては、スポット径の60%よりも多くの量だけ重なるようにディザが適用される。また、連続する行間の重なりを60%よりも多くするのに十分なぐらい早くディザが適用される。幅の広いトレンチについては、多くのディザパルスが必要となり、AOD更新期間に対する制約があるため、これが問題となる場合がある。
【0258】
AOD更新期間は、AOD内の光学ビームを横切る音波の移動時間により制約される。一実施形態において、LDAシステムのAOD1020,1022は、500nsecよりも長い更新時間で動作可能である。更新速度が速いと、音波における過渡現象による、偏向されたスポットにおける歪みが非常に顕著になる。500nsecであってもスポット歪みが問題となる場合がある。スポット径を大きくするとワーク表面のフルエンスが減少し、深さ変化が生じる。一実施形態においては、AOD1020,1022は、AOD内の4.5mmの光学ビームを横切る音波の実際の移動時間である750nsecよりも早い速度で更新される。図37は、ある実施形態におけるスポット歪みの例をグラフで示すものである。図37は、左から右にかけて、440nsec、640nsec、1240nsecの更新期間で偏向された2つのスポットの歪みを比較するものである。
【0259】
LDAシステムの他の実施形態は、もっと速いビーム軌跡速度で動作する。速い速度、スポットの重なり要件、及び制限されたAOD更新速度の組み合わせは、ディザ点の数が特徴部の幅とともに変化することを意味している。他の実施形態においては、1つのディザテーブルが使用され、ディザ点間の距離をスケーリングすることにより特徴部のサイズを変化させる。
【0260】
1.ディザパラメータ算出
【0261】
ある実施形態においては、以下の用語がディザパラメータの算出及び設定を定義する。
【0262】
入力パラメータ:
【0263】
Deff:有効スポットサイズ(μm)。ディザリングされていないトレンチの所望の深さにおける幅。Deffは、所望の深さだけではなく(深さを増やすために必要とされる線量の増加により幅も増加するため)、光学スポット径とともに変化することに留意されたい。
【0264】
BiteSizeRatio:滑らかなフルエンス分布を維持するのに十分な重なりを提供するようなスポットごとの最大偏向。スポット径の何分の1かにより表される。ガウス形のスポットについて、BiteSizeRatioは0.4以下である。
【0265】
Taodmin:最小AOD更新期間(μsec)。LDAシステムの一実施形態についてはおよそ400~700nsecである。
【0266】
Tclock:AODクロック期間(μsec)。Taodがこの期間に量子化される。名目上は0.04μsecである。
【0267】
出力パラメータ:
【0268】
Taod:実際のAOD更新期間(μsec)。
【0269】
Nd:所望のトレンチ幅に必要なディザ点の数。幅及びDeffの関数である。
【0270】
Td:総ディザ期間(μsec)=Nd×Taod。各ディザ行に対して一定に保持される加工パラメータ(幅、深さ、形状、バンク)は、この割合で更新される。
【0271】
Tcmd:公称ビーム位置への更新の間の期間(μsec)。名目上は1μsec。
【0272】
Ncmd:プロセス変数及び/又はディザパラメータ(Nd、Taod)に対する変化の間にあるTcmdコマンド期間の数
【0273】
可変数のディザ点が存在する場合があるので、Tcmdの境界上で行全体を更新するようにAOD更新期間を調整してもよい。加えて、AOD更新期間は20nsecの間隔に量子化される。
【0274】
依存パラメータの算出は所望の特徴部幅から始める。ディザリングされたトレースの幅は以下により概略近似される。
幅Width=Deff+Nd×Deff×BiteSizeRatio
【0275】
所望の幅に対して使用されるディザ点の数は、離散値に切り上げられ、以下により得られる。
Nd≧1+ceil((幅Width-Deff)/(Deff×BiteSizeRatio))
ここで、「ceil」は次の整数に切り上げる天井関数である。
【0276】
切り上げにより、Ndは、通常、必要とされるよりも大きくなることがあり、BiteSizeRatioは、(Kwパラメータを介して)幅を所望値にスケーリングするために小さくされることがある。Ndの値が与えられたとすると、コマンドパラメータは以下により与えられる。
Ncmd=ceil(Nd×Taodmin/Tcmd)
Taod=ceil(Ncmd/Nd×Tcmd/Tclock)×Tclock
【0277】
例えば、Deff=25μm、幅Width=250μm、BiteSizeRatio=0.4、Taod=0.5μsec、Tcmd=1μsecについては、以下のようになる。
Nd=ceil((250-25)/(25×0.4))=23
Ncmd=ceil(23×0.5/1.0)=13
Taod=ceil(13/23×1.0/0.02)×0.02=0.580μsec
一実施形態におけるLDAシステムのAOD1020,1022の最大偏向範囲は、10×Deffと等価である。すべてのAOD範囲が使用されている場合はNd≦24である。
【0278】
上記式はディザパラメータに対する一般的な解を与えるものである。Taodを一定にし、Ncmdに対する離散値を生み出すNdの値を適用するのがより良い場合もある。例えば、Tcmd=1μsecに対しては、Ndが2の累乗であり、Taod=0.5μsecであるか、あるいはNdが4の累乗であり、Taod=0.75μsecであってもよい。次のセクションで述べるように、一実施形態においては、AOD周波数制限、光学スポット品質、及び上記式を組み合わせれば、Taod及びTcmdに対して1μsecの期間を用いるLDAシステムとなる。
【0279】
2.公称周波数
【0280】
公称ビーム光路(すなわちトレンチの中心線)を特定する1対の公称AOD周波数(Fnom0/1)に対する周波数の偏差としてディザが適用される。Fnom0/1は、コマンド更新速度(Tcmd秒ごと)に更新され、このため、一般には、ディザ行ごとに複数回更新される。一実施形態においては、Fnom0/1はディザ行の完了を待たずにすぐに適用され、主ビーム軌跡における正確性が維持される。これは、各ディザ行で一定に保持される加工パラメータ(幅、形状、線量、バンク)の更新と対照的である。
【0281】
しかしながら、ある実施形態においては、Fnom更新は次に利用可能なAOD更新(Taod秒ごと)でのみ効果を生じる。Fnom更新がAOD更新サイクルと同期していない場合には、Fnom更新の有効タイミング不確実性はTaodに等しくなる。加えて、一定に維持されない場合(例えば、上述したようにNdの関数として算出される場合)には、このジッタの大きさが変化する。
【0282】
ランダムなジッタは較正でなくすことができないので、非同期動作により導入される不確実性は加工の正確性を低下させる。例えば、Taod=750nsecに対しては、2m/secで加工されるトレンチでは、付加的な位置決め不確実性が±0.75μmになる。
【0283】
この誤差を避けるために、TcmdをTaodの倍数としてもよい。Tcmd=1μsecでありDSP1のサーボサイクル(5μsec)ごとに更新がFPGA1028に送られるとすると、Taodの未処理値は500又は1000nsecである。他の選択肢としてはTaod=Tcmd=750nsecがあるが、これはサーボサイクルごとに可変数のデータパケットを必要とすることがある。
【0284】
図37に示されるように、AODから偏向されたビームの歪みは約500nsecで限界に近くなる。この歪みを避けるために、ベクトルモード加工は、Tcmd=Taod=1000nsecで動作する。他の実施形態においては、AODの設計によりTaod(例えば250nsec)をより小さな値にしてもよい。このように、アーキテクチャはTcmd及びTaodの変更を許容する。
【0285】
3.ディザ角の補正及び大きさのスケーリング
【0286】
一実施形態においては、AODディザパターンの方向付けは、公称ビーム軌跡に対して直交するように(すなわち垂直になるように)維持されるように調整される。例えば、図38は、一実施形態において、公称ビーム軌跡3812に対して垂直となるように揃えられたディザ行3810を模式的に示すものである。ビーム速度によるスキューイングを生じる処理について、図38において述べられた標準名称を用いて以下に述べる。各レーザスポット位置3814(11個が示されている)は、各レーザスポット位置3814がビーム軌跡3812に対して動く際のレーザビームの速度とは関係なく、ディザ行3810に沿って直線状に並べられている。
【0287】
i.符号変換
【0288】
本明細書で開示された実施形態の例において使われているように、ディザリングされたビームは、ガルボX軸においてディザリングされた後、ディザリングされたビームがビーム軌跡3812に対して垂直であり続けるように正しい方向を向くように回転されたものと定義される。AODサブシステム1042は、走査フィールドの中心においてガルボXY座標系に適合するように較正される。以下の式はディザ回転行列を展開したものである。特に示されない限り、角度に関する慣行は、+Xガルボ軸に沿った方向をゼロとした時計回りの正の方向(CCW)である。
【0289】
ii.AOD回転及び変換成分
【0290】
最後のAODコマンドは以下の式で算出することができる。
AODcmd=TMframe×TMfield×Rdither×Dither
又は
AODcmd=TMaod×Dither
ここで、
AODcmd=それぞれのRFドライバに対するAOD RF周波数コマンド(2要素ベクトル)
TMframe=AOD較正のセクションで定義されたように、AOD XYコマンドをAOD座標系に変換する非直交変換行列
TMfield=ガルボXYフレームにおける局所走査フィールド歪み補正(4要素行列)
Rdither=ビーム軌跡3812に対してディザベクトルを方向付ける回転行列(4要素行列)
Dither=FPGA1028にロードされるディザ(又はラスタ)テーブル
TMaod=上記の構成要素から得られる完全なAODコマンド変換行列(この行列の要素はFPGA1028に送信され、Kw0項、Kw1項を置換する)
である。
【0291】
TMfield補正項(2軸スケーリング及び回転)が適用され、局所走査フィールド歪みが得られる。AOD1020,1022は、走査フィールド較正補正なしで動作しているので、これを用いることができる場合がある。この行列の要素は以下のようなものである。
【数4】
ここで、
SFx=X軸スケーリング(名目上は1.0)
SFy=Y軸スケーリング
Ryx=Y軸のX軸への回転(rad)
Rxy=X軸のY軸への回転
である。
【0292】
iii.Rditherの導出
【0293】
ディザリングされたビームは、(1ディザサイクルにおいて)以下の大きさのオン軸要素及びクロス軸要素を持っている。
DitherCA=幅Width
DitherOA=Vel×Taod×(Nd-1)
【0294】
OAディザ成分は、各ディザ行におけるすべての点のオン軸位置が固定され続けるように(例えばレーザスポット位置3814は、図38に示されるディザ行3810に沿って固定され続ける)、ビーム軌跡3812に対してディザリングされたビームを「逆方向に」移動させることに留意されたい。このように、OAディザ成分は、各ディザ行がビーム軌跡3812に対して垂直になることを維持するように速度ベクトルに基づいている。OAディザ成分とCAディザ成分は合成されて、+Xガルボ軸に対して角θditherをなす「ディザベクトル」を形成する。図38に示されるように、OAディザ成分とCAディザ成分は速度補償角θvelを以下のように定義している。
θvel=atan(DitherOA/DitherCA)
【0295】
ディザベクトルの方向付けは、以下のように、速度補償角θvelに軌跡角θtraj及び90°(すなわち、図38においてビーム軌跡3812とCAディザ成分DitherCAとがなす角90°)の回転を加えたものである。
θdither=θvel+θtraj+π/2
このように、ディザ角θditherは、ガルボXYフレームに対する全ディザベクトル角である。その後、ディザベクトルは、角θaodによりAODフレームに揃えられてもよい。角θaodは光学縦列レイアウトによりガルボXYフレームに対して回転させてもよい。
【0296】
加工中は、較正の後にAOD角(θaod)が一定となる一方で、軌跡角(θtraj)が(ビーム軌跡速度成分Vx及びVyの関数として)リアルタイムで更新される。リアルタイム更新(1μsec更新)について三角関数の算出を最小限にしてもよい。これは、例えば、sin(atan(y/x))=y/sqrt(x2+y2)などの三角恒等式を適用することによって可能である。
【0297】
ディザの向きを算出するためにDSP1026が以下の変数を使用してもよい。
ditherRange=現在のディザテーブルの全範囲(μm)
Kw=所望のディザ幅を生成するためにディザテーブルに適用される倍率(セグメントを次第に減らすためにこれが補間される場合がある)
Nd=現在のディザテーブルにおけるディザ点の数(各セグメントで一定である)
Taod=ディザテーブル更新速度(μsec)
Vx,Vy=未処理ガルボXY座標におけるビーム軌跡3812のX成分及びY成分(m/sec)
Vel=sqrt(Vx2+Vy2)=速度ベクトルの大きさ
【0298】
そして、三角恒等式は、Rdither回転行列に対するsin項及びcos項が以下により算出されることを可能にする。
// スケーリング後の公称クロス軸ディザ幅
ditherCA = ditherRange*Kw(μm);
// ディザ点を揃え続けるために1つのディザ行中に必要なオン軸増分
ditherOA = Vel*Taod*(Nd-1);
// 速度補償による全ディザベクトルの大きさ(OA、CAのベクトル和)
ditherMag = sqrt(ditherOA^2+ditherCA^2);
// ゼロで割ることの問題を避ける。恒等行列に対するデフォルト値
if abs(Vel*ditherMag) <1e-6
cosThetaDither = 1;
sinThetaDither = 0;
else
cosThetaDither = -(Vy*ditherCA + Vx*ditherOA)/(Vel*ditherMag);
sinThetaDither = (Vx*ditherCA - Vy*ditherOA)/(Vel*ditherMag);
end
【0299】
iv.スケーリング及びTMaod算出
【0300】
速度が補正されたディザベクトルにおいて余分な斜辺の長さを得るためにディザベクトルの大きさを調整してもよい。したがって、以下のようになる。
KwCorr=Kw×ditherMag/ditherCA=ditherMag/ditherRange
【0301】
そして、最後の変換行列は以下の行列積により得られる。
【数5】
最初の2項(TMframe、TMfield)をSCC1010において前もって算出し、以下のような「TMdither」変換行列としてもよい。
【数6】
最後の2項(Rdither、KwCorr)を速度ベクトル及び補間されたKwに基づいてリアルタイムで算出してもよい。Rdither及びKwCorrの両方はditherMagの項を含んでおり、積Rdither×KwCorrによりditherMagが相殺され、DSP1026において犠牲の多いsqrt()の算出を避けていることに留意されたい。もし、
cosThetaDitherCorr=-(Vy×ditherCA+Vx×ditherOA)/(Vel×ditherRange)
sinThetaDitherCorr=(Vx×ditherCA-Vy×ditherOA)/(Vel×ditherRange)
あるいは(ditherOA及びditherCAの算出を避けて)、
cosThetaDitherCorr=-(Vy×Kw/Vel+Vx×(Nd-1)×Taod/ditherRange)
sinThetaDitherCorr=(Vx×Kw/Vel-Vy×(Nd-1)×Taod/ditherRange)
と定義すれば、
【数7】
である。
【0302】
そして、TMaodの4つの要素がFPGA1028に送信され、FPGA1028はRF信号周波数更新を以下のように算出する。
【数8】
ここで、DitherX及びDitherYはAODディザテーブル内の項目である。ラスタ算出は同一の処理に従う。上述したように、慣例により、DitherYの項目はベクトルモード又はスカイブモードにおいてゼロである。ディザ項目はディザマップ(Dither Map)フィルDitherXにより生成される。
【0303】
TMframe行列における項は、一定であり、予め算出してDSP1026内に記憶しておくことができる。TMfield行列における項は、ガルボ較正データから抜き出される。TMframe回転が大きい場合がある(大きな回転角に対しては回転が可換とならない)ので、この変換はガルボXYフレームにおいて適用される。
【0304】
v.付加的に較正されるTMaod算出
【0305】
ある実施形態では、軌跡コマンドに対する較正補正の効果を生じるディザリング中にTMaodの算出を行う。上記で提示した導出法において、理想的な(ワーク面)速度を仮定した。しかしながら、ある実施形態においては、走査フィールド歪み補正は、DSP1026に送信される前に軌跡コマンドに適用される。これらの補正はDSP1026により算出されるように軌跡速度を修正する。これにより、ディザベクトル速度角の算出において、数ミクロンの誤差になり得るような小さな誤差が生じる。さらに補正を行うために、局所フィールド歪み補正をTMdither行列に埋め込むことができる。
【0306】
まず、ディザベクトルを回転しスケーリングする変換行列を構成する要素を以下のように再定義する。
【数9】
ここで、クロス軸及びオン軸のディザ角係数は以下のように定義される。
Kca=Kw/VelIdeal
Koa=Taod×(Ndither-1)/ditherRange
【0307】
SCCによりKca及びKoaの両方を加工セグメントパラメータに基づいて理想座標における軌跡速度を用いて算出することができる。
【0308】
この定式化により様々な実施オプションが提供される。一実施形態においては、Kwに対する値が1つの加工セグメントにわたって一定に保持され、単一の一定のTMdither変換がSCC1010からDSP1026に渡される。それぞれ一定のKw値を有する一連の短いセグメントにより徐々に細くなる線を生成することができるので、Kwを一定にすることはある実施形態においては許容できる制約である場合がある。他の実施形態においては、TMditherの要素が、一定のものとKwによってスケーリングされたものという2つの変換を生じるように展開される。そして、DSP1026は、加工セグメント内で以下のようにTMditherを更新することができる。
TMdither=TMdither1+Kw×TMdither2
【0309】
そして、1つの加工セグメントにわたって徐々に小さくなるライン幅を生成するようにKwの値が補間される。これは、DSP1026によってより多くの算出が必要となること、そしてより多くのデータがSCC1010からDSP1026に送られることを示唆している。より短い幅とより正確な幅の移行を行うことができることがトレードオフである。
【0310】
最後のディザコマンドは、FPGA1028によって以下のように生成される。
【数10】
しかしながら、慣例により、DitherX成分のみがFPGAディザテーブルにおいて非ゼロである。このため、ディザリング中にはTMaodの第1列のみが必要とされる。
【数11】
【0311】
前のセクションにおける式に基づいて、この列は以下のように与えられる。
【数12】
しかしながら、DSP1026において利用可能なビーム軌跡データは、理想(Ideal)座標ではなく、未処理ガルボ(Raw Galvo)座標内にある。走査フィールド歪みにより修正されたビーム軌跡速度ベクトルの角度及び大きさはディザベクトルを歪ませる。理想座標におけるディザベクトルを適切に算出するために、ある実施形態においては、ディザベクトルの算出前に、以下のように(TMfieldによって記述される)局所走査フィールド歪みを速度ベクトルから取り除いてもよい。
【数13】
【0312】
この変換により、理想座標においてディザベクトルを算出することが可能となり、そしてディザベクトルを未処理AOD座標に変換することが可能となる。この手順は、TMfield(未処理ガルボ(Raw Galvo)を理想(Ideal)に)、TMfield(理想(Ideal)を未処理ガルボ(Raw Galvo)に)、及びTMframe(未処理ガルボ(Raw Galvo)を未処理AOD(Raw AOD)に)という3つの変換を用いる。そして、TMaodの第1列は以下のように与えられる。
【数14】
【0313】
SCC1010により各セグメントに対してTMdither行列が算出され、VxRaw及びVyRawのリアルタイム値に基づく処理のためにDSP1026に渡される。そして、ディザ変換項がSCC1010上で予め算出されるので、これによりDSP処理が簡単になる。
【0314】
そして、DSPからFPGA1028に送信された完全なTMaod行列は以下のようになる。
【数15】
このTMaodの形態はディザリングに対してのみの特別な場合である。ラスタリングについては、完全なTMaod行列が一般的に使用される。
【0315】
vi.ディザ方向制御
【0316】
例えばスカイビング中に、アブレートされた大きな領域がむらなく加工される場合に(速度軌跡に対する)ディザリングの方向を用いてもよい。経験によれば、デブリアシスト気流(debris assist airflow)に対するレーザ加工の方向が加工結果に大きく影響を与え得る。一般に、「風に向かって」加工することは、デブリプルーム(debris plume)との相互作用を避ける点で好ましい。
【0317】
上記式が与えられた場合に、TMditherの式におけるKcaの符号を単に変えてクロス軸ディザ運動を効果的に反転させることにより、ディザ方向を変更してもよい。これは、スカイブパスの速度軌跡に基づいてSCCレベルで行うことができる。一般に、スカイブパスは、デブリアシスト気流に対するディザ方向の簡単な制御を可能にする1つの角度方向で複数の行が規則的に間隔を空けて配置されていることに留意されたい。
【0318】
4.ディザ行フルエンス制御
【0319】
ある実施形態においては、ディザリング中のフルエンス制御の実施により、ディザ行あたりの線量が一定に維持される。これにより、ラインの幅にわたって線量を一定に維持しつつ、加工セグメントの端部で線量を落とすことが可能になる。これは例えば幅の広いディザリングラインに対して線量が急速に変化する場合には有用である場合がある。
【0320】
図52は、一実施形態におけるディザ行フルエンス制御をグラフで示すものである。一番上のプロット5210は、2つの加工セグメント(破線5214によって分離されたセグメントNとセグメントN+1として示されている)にわたる一連のディザ行5212(6つが示されている)を示している。2番目のプロット5216は、各ディザ行5212に対するオン軸(OA)ディザコマンド5217を示している。3つ目のプロット5218は、各ディザ行5212に対するクロス軸(CA)ディザコマンド5220を示している。OAディザ成分は負の傾きを有しており、主ビーム軌跡が一定の速度で移動する際にディザをワークピースに対して固定させていることに留意されたい。一番下のプロット5222は、理想的なフルエンスコマンド5224と実際のフルエンスコマンド5226とを示している。2番目の加工セグメント(破線5214の左側)においては、フルエンスが下がっている(例えば交点の一方の脚を形成している)ことに留意されたい。連続的なフルエンスの変化が、各ディザ行に対してフルエンスが一定に維持された一連のステップ状フルエンスに変換されている。各ディザ行に対するフルエンスレベルは、ディザ行の中央のフルエンス変化値によって与えられる。
【0321】
ディザ行5212のオン軸位置は、加工セグメントの開始又は終了と揃っておらず、Taod×Vel×(Ndither-1)/2に等しいオフセットを有していることにも留意されたい。。これにより、任意のセグメントを任意の方向で加工できるように加工セグメントの概念を一般化することができる。この小さなオフセットにより生じる加工の結果は、特定のセグメントで速度を低下させディザ行間隔を小さくすることにより緩和することができる。
【0322】
これは、ディザ行ごとにフルエンスを一定にするアプローチについて述べている。加工セグメント内でディザ幅を変更することが許されているのであれば、同様のアプローチを使用することができる。
【0323】
5.TMaod制限
【0324】
ある実施形態においては、TMaod項目の大きさは2未満に制限されている。これは以下の展開式で表される。
|cosThDitherCorr|=(Vy/Vel×ditherCA+Vx/Vel×ditherOA)/ditherRange
又は
|cosThDitherCorr|=sinThVel×ditherCA/ditherRange+cosThVel×ditherOA/ditherRange
【0325】
スポットの重なりを維持するために、ディザテーブルの項目の間隔は~0.35×Deff未満とされる。同様に、セグメント速度が、ディザ行(ditherOA)間の間隔が~0.35×Deff未満となるように制限される。これにより、最も悪いディザの場合(Nd=2)であってもditherOA/ditherRange≦1が保証される。定義上は、ditherCA/ditherRange=Kw≦1である。したがって、|cosThDitherCorr|の最大値は、これらの項のそれぞれが1であるときに生じ、
|cosThDitherCorr|=sinThVel+cosThVel
となって、ThVel=45度のときに最大値が1.414となる。同様の制限が|sinThDitherCorr|にも当てはまる。
【0326】
TMfieldの項は、走査レンズ歪み局所倍率により1よりも少しだけ大きくてもよい(例えばおそらく1.2まで)。非直交性によりTMframeの項が~1.1にまでなることがある。このように、TMaodのすべての項の大きさは2未満である。
【0327】
この制限を保証するために、ディザマップ(Dither Map)は、適切な間隔をおいてディザテーブル点を配置し(ditherRangeが大きくなるにつれNdを増やす)、セグメント速度は|ditherOA|に制約を加えるように制限される。
【0328】
TMaodにおけるスケーリングは1よりも大きいことがあるが、TMaodにおけるスケーリングの項は他のスケーリング効果を補償するので、これはスポットの重なりの変化を示唆するものではないことに留意されたい。例えば、ディザベクトルの斜辺が長くなると(速度補償により、図38参照)、スポットの重なりが小さくなるように見えるが、スポットが実際にワーク表面に照射されるので、速度効果がスポットを揃えて、幾何配置が正常に戻る。同様の議論が局所レンズ歪みスケーリングにも当てはまる(TMfieldの項>1であれば局所レンズスケーリング<1に対する正規化がなされる)。このように、ディザマップ(Dither Map)は、TMaodスケーリング効果に関係なく公称スポット間隔を特定することができる。
【0329】
6.ベクトル加工の概要
【0330】
ある実施形態におけるベクトルモードでの加工は以下のように概説することができる。以下の工程は、1つのアプリケーションの各加工セグメントに対して行われる。(後述する)図48は、ベクトル加工セグメントデータをFPGA1028へのコマンドに変換するこの処理フローを示している。以下の工程の一部を異なる順番で行ってもよいことは、当業者であれば本明細書の開示から理解できるであろう。
【0331】
ステップ1:SCC1010は、以下の規則を用いてアプリケーションを別々の加工セグメントに分割する。円弧には別個のセグメントが必要である。すべてのセグメントは最大セグメント長さ(~1mm、較正について)未満である。すべてのセグメントは12.5μsecよりも長い時間で加工を行う(この特定の例に関して、加工は、セグメント当たり12.5μsecの持続更新速度をサポートしており、これは2m/secで25μmの最小セグメント長さをサポートするであろう。もちろん、他の実施形態では、異なる更新速度が用いられる。)。
【0332】
ステップ2:SCC1010は、プロセスマップ(Process Map)とトレンチ幾何配列(幅、深さ)を用いて、必要とされる加工パラメータ(グリッド幅GridWidth及びフルエンスFluence)を決定する。
【0333】
ステップ3:SCC1010は、DitherMapを用いて必要グリッド幅GridWidthに対応するディザテーブルパラメータ(Nd,Kw)を決定する。Ndは各セグメントに対して一定とされるが、Kwは移行セグメントにわたって補間されてもよいことに留意されたい。
【0334】
ステップ4:SCC1010は、DitherMapを用いてNdに対応するディザテーブルパラメータtableAddress及びtableLengthを決定する。
【0335】
ステップ5:SCC1010は、DitherMapを用いて有効幅EffectiveWidthを算出する。Kwは補間され得るので、有効幅EffectiveWidthもまた移行セグメントにわたって補間され得る。
【0336】
ステップ6:SCC1010は、線量Dosage=フルエンスFluence×有効幅EffectiveWidthを算出する。これは移行セグメントにわたって補間され得る。
【0337】
ステップ7:SCC1010は、(必要であれば)円弧セグメントの半径に基づいてKbを算出する
【0338】
ステップ8:SCC1010は、以下の1以上の制限に基づいて(セグメントにわたって一定に維持される)セグメント速度を決める。a.パワーマップ(Power Map)及び必要線量に基づく、レーザパワーが制限された速度、b.必要グリッド幅GridWidth、AODフィールドサイズ、及び3次フィルタ過渡状態の大きさによるAOD速度制限、c.ディザ行(=Taod×(Nd-1)×Vel)間の最大間隔(これは0.35×Deff未満であり得る)によるAOD速度制限、e.ステップ1において言及された最小セグメント時間の要件を満たすために必要とされる場合には、セグメントにおける速度を下げてもよい。
【0339】
ステップ9:SCC1010は、加工及び位置プロファイルデータをDSP1026に送信する。(この例では形状パラメータKsは使用されない。)SCC1010からDSP1026に送られたデータは、セグメント端点XY座標、円弧セグメントの中心のXY座標及び半径、軌跡サンプルの数(~速度)、ディザtableAddress、ディザtableLength、線量Dosage、Kw、及びKbを含んでいる。
【0340】
ステップ10:DSP1026は、更新期間Tcmdで中心線位置データ(Xc,Yc)を算出し、3次フィルタでそのデータを処理する。
【0341】
ステップ11:DSP1026は、ディザ行ごとに(Nd×Taod秒ごとに)1回、新しいディザパラメータ(Kw)及び加工パラメータ(Kp,Kb)を算出し、(移行セグメントにおいて)必要であれば補間を行う。
【0342】
ステップ12:DSP1026は、軌跡角度及び速度に基づいてTMaod変換成分を算出する。
【0343】
ステップ13:DSP1026は、低レベルコマンドをFPGA1028に送り、AOD動作を制御する。DSP1026及びFPGA1028は異なる更新期間(TdspとTaod)で動作しているため、各DSPサイクルで十分なデータが送信され、これによりFPGA1028が次のTdsp秒(すなわちTdsp/Tcmdデータセットの合計)の間に加工することが可能となる。
【0344】
B.ラスタ加工
【0345】
ラスタ加工は、ベクトル加工でのような1Dテーブルではなく、2DラスタテーブルがAOD制御のために使用される点を除き、ベクトル加工と同様である。
【0346】
一実施形態においては、ラスタ加工は、ベクトル加工とともにインラインで実施され、これにより、ラスタ位置を再検討する無駄な時間が避けられ、ベクトル書き込みと交点加工との間の経過時間が最短にされてレーザビームのふらつき効果(wander effects)が最小限にされる。加えて、大フィールド走査レンズ歪み特性を検討したところ、大きなラスタパターン(例えば幅200μm)は、特にトレンチによる交差がある場合には、PGCスケーリング及び回転補正が適用される場合があることが示された。
【0347】
一実施形態においては、LDAシステムは、ラスタ加工及びベクトル加工用に同一のハードウェアアーキテクチャを用いることにより、ベクトル加工及びラスタ加工を一緒に行う。各加工セグメントに対して一意なディザテーブルが特定されるので、ラスタ動作は、他のテーブルとしてのプロセスフローにシームレスに統合される。
【0348】
一般に、ラスタ加工中は、公称ビーム位置の速度はゼロに設定される。加えて、大きなラスタ領域が加工される(AOD範囲の多くを使用する)場合には、3次フィルタは、追加されたAOD3次偏向を最小限にするために固定され得る。一般に、ある実施形態においては、これは0.25msecのオーダーである。
【0349】
上述したディザ回転の説明で述べたように、スケーリング/回転補正を1組のPGC項として与えてもよい。ラスタ加工については、Rdither行列は、ガルボXY座標系におけるラスタパターンの回転を含んでおり、(軌跡速度に基づいてDSP1026により算出されるのではなくて)ラスタパターンごとにSCC1010により送信される。この回転は、適切な交点を形成するために、周りのトレースに対して交点ラスタパターンを方向付ける場合がある。
【0350】
また、走査フィールド歪みを得るために、SCC1010は、ラスタ較正データ及びガルボ較正データのXY走査フィールド位置に基づいてPGC補正を特定する。ある実施形態においては、これにより、ラスタ領域にわたるX/Y誤差における誤差が5~6%まで補正される。これは、ラスタ加工中の未補正誤差である場合がある。ベクトル加工においては、走査フィールド較正は、セグメント端点に対して明示的に適用され、短距離(~1mm)の端点間の非線形性誤差は小さいことに留意されたい。
【0351】
1.ラスタ加工の概要
【0352】
ラスタモードでの加工は以下のように以下のように概説することができる。以下の工程は、1つのアプリケーションの各加工セグメントに対して行われ得る。(以下に述べる)図49は、ラスタ加工セグメントデータをFPGA1028へのコマンドに変換するこの加工フローの概要を示している。以下の工程の一部を異なる順番で行ってもよいことは、当業者であれば本明細書の開示から理解できるであろう。
【0353】
ステップ1:SCC1010は、ラスタパターンを算出し、アプリケーションの「変換」中に多くの個々のパターンを用いてラスタテーブルを構築する。場合によっては、単一のラスタ「場所(site)」がいくつかの小さなラスタパターン(例えば丸いパッド+様々な角度の「タブ(tabs)」)からなっていてもよい。これらを組み合わせて1つの大きなパターンにすることもでき、あるいは別個に処理することもできる。一部のラスタパターンは、アプリケーションを通して異なる回転角度で何回か使用され得ることに留意されたい。
【0354】
ステップ2:SCC1010は、すべてのラスタパターンに対して、例えばCAD(特定の用途のためのコンピュータ支援設計)座標における回転角度を特定する。
【0355】
ステップ3:SCC1010は、アプリケーションが起動する前に、ラスタテーブルデータをFPGA1028にダウンロードする。
【0356】
ステップ4:SCC1010は、各ラスタ位置に対してTMdither変換を生成する。このPGCは、FPGA1028に送られたTMaod変換に対応する。TMdither変換は、CAD座標におけるラスタ回転と、ワークピース位置合わせ回転と、局所走査フィールド歪みPGCと、ユーザにより選択的に特定される付加的スケーリング調整とを含んでいる。
【0357】
ステップ5:SCC1010は、ラスタの継続期間中は速度をゼロとしたラスタ加工セグメントを形成する。ユーザが(例えば加工制御を改善するために)ラスタの繰り返しを指定した場合には、複数のセグメントが数珠つなぎにされ得る。
【0358】
ステップ6:SCC1010は、3次フィルタの整定を可能にする整定持続時間とともに、前縁及び後縁ゼロ速度セグメントを含むことがあり、大きなラスタパターンに対して余分なAOD変化域を防止している。
【0359】
ステップ7:SCC1010は、特定されたラスタ深さ及びプロセスマップ(Process Map)に基づき所望のフルエンスを算出する。
【0360】
ステップ8:SCC1010は、ラスタスポットのピッチ及びオプションのKwスケーリング調整ファクターに基づいて公称パワーを算出する。
【0361】
ステップ9:SCC1010は、ラスタパラメータをDSP1026に送る。DSP1026は、「線量」をラスタセグメントに対する「パワー」と解釈する場合があり、幾何的スケーリングがKw項ではなくPGC項に組み込まれ、バンク処理が使用されないことに留意されたい。「ラスタモード」識別子は、これを異なるデータ構造としてフラグを付けるために有用である場合がある。SCC1010からDSPに送られたラスタパラメータは、(ゼロ速度に対して同一である)セグメント端点のXY座標と、円弧セグメントの中心のXY座標及び半径(未使用)と、軌跡サンプルの数(~ラスタ時間)と、ラスタtableAddressと、ラスタtableLengthと、(線量に代わる)パワーと、TMdither(フィールド歪みとラスタ角)とを含み得る。
【0362】
ステップ10:DSP1026は、上記ラスタパラメータを処理のためにFPGA1028に送る。ラスタはディザとして見られるので、特別なモードを設定する必要はない。
【0363】
2.傾斜ラスタ加工
【0364】
ある状況においてはラスタ加工の変形例が有用である場合がある。図39は、一実施形態における傾斜ラスタ加工の例を模式的に示すものである。図39において、2つのパッド3910,3912は、近接しており、短いトレース3914によって接続されている。領域全体は単一のラスタパターンに対しては大きすぎ、典型的なパッド-トレース-パッドの加工シーケンスに対してパッド3910,3912を近接させすぎる程度に間隔を空けることとしてもよい。加工領域の形状のためにレーザデューティサイクルは低いが、この領域がスカイビングされ得る。
【0365】
一実施形態における他のアプローチは、2つのラスタ領域3916,3918の間に移行領域3920を形成するように傾斜され重ねられた2つのラスタパターン3916,3918としてこの領域を加工することである。ラスタパターン3916,3918は、SCC1010上で以下のように定義することができる。任意の「小塊(blob)」(すなわち任意の形状及び/又は寸法を有する領域)を、重なりが所望の移行長さ3922(例えば約40~50μm)に等しくなり、各小塊の周りの境界が移行長さ3922を超えるように、重なったいくつかのラスタ領域3916,3918に分解する。均一な振幅を有するスポットグリッドで各領域を満たす。各寸法に沿ってFIRフィルタを適用して(例えばスカイビングフィルタのように)移行領域3920におけるラスタ振幅を小さくする。各ラスタ領域内で小塊領域の外部のデータを削除して、タイル間に傾斜した移行領域を有する小塊領域をより明確に画定する。そして、各ラスタパターンを適切な位置でダウンロード及び実行する。
【0366】
これは、数個のラスタフィールド内に含めることができる小さな小塊に対してはうまく作用する場合があり、(何もない空間はすべて省略して)必要な点のみをラスタリングするだけでよいので、また、AODフィールド間で二、三のガルボの動きがあるだけであるので、図39に示されるような低濃度パターンに対してはスカイビングよりも速い場合がある。
【0367】
その度に新しいスカイブデータを再計算するのとは対照的に、反復パターンを(適切な回転をして)繰り返すことができる。もちろん、「同一パターン」を特定することは困難な場合がある。
【0368】
C.スカイブ加工
【0369】
スカイビングは、(細長いトレンチではなく)大きな領域にわたって材料を除去する工程である。以下に概説されるそのアプローチにより、ディザで幅の広げられたラインが、そのような幅広ラインにより生じ得る「ピクセル化」効果を避けつつ、公称スポットを用いるよりもずっと効率的に材料を除去することが可能となる。例えば、図40は、ある実施形態における幅広ラインのスカイビングによるピクセル化誤差を模式的に示すものである。図40において、加工される小塊の例(左側)は、適切な解像度を得るには十分に細いビームを用いて加工される、丸みのあるエッジを含んでいる。幅広ビームを使って特徴部(右側)を加工することにより、過度のピクセル化及び許容できない程度の解像度の損失が生じる。
【0370】
ある実施形態においては、スカイブビームの側方傾斜及び端部傾斜を整形することは有用である。これらの「移行傾斜(transition slopes)」により、隣接するスカイブパスを適切に重ねて、(例えば均一な深さ制御のために)ワークピース上で均一のフルエンスを生成することができ、ビーム位置誤差に対して許容誤差を与えることができる。加えて、スカイブ領域がトレンチと交差する場合には、(同じく均一性と位置誤差に対する許容誤差を提供するので)スカイビングされたビームの端部が傾斜していることが望ましい。
【0371】
一実施形態においては、線量及び形状を制御しつつ、幅広スカイブビームのそのような整形が行われる。しかしながら、加工中にライン幅が一定に維持される場合には、幅広ラインのピクセル化問題はこのアプローチを難しくする。
【0372】
他の実施形態においては、「ピクセルのグリッド」を処理し、フィルタをそのグリッドに適用して所望の側方傾斜及び端部傾斜を得ることにより幅広ディザパターンを変化させる。
【0373】
図41は、一実施形態における、グリッドストライプ4102,4104,4106に分割されたスカイブ領域4100を模式的に示すものである。3つのストリップ4102,4104,4106のみが示されているが、付加的なストリップを使用してスカイブ領域4100全体を完成させてもよい。汎用又は任意の「小塊」領域が、(例えば60%よりも大きな重なりを要求する)基本スポットサイズに基づいたピクセル4110間の最小間隔を有するピクセル4110のグリッドに変換される。スカイブ対象は、スカイブビーム軌跡と位置が合わせられる(例えば、図41の例では矢印4112によって示されるように第1のストリップ4102に対しては左から右)ことがある細長い1つの軸を有していてもよい。
【0374】
この主ビーム軌跡(「オン軸」)に沿ったグリッド間隔は、速度、ディザ点の更新速度、及びディザ点の数によっては、直交軸(「クロス軸」)において必要とされる間隔よりも小さくてもよい。スポットグリッドは、特に他の特徴部がスカイビングされた領域と交差する場合には、スカイビングされた領域の輪郭が正確に描かれるように設定される。このように、最終的なスポットグリッドの間隔は輪郭寸法に依存している。また、ある実施形態においては、ディザ行の実行時間は固定され量子化される(=Taod×Nd)ので、スカイブ軌跡速度は、整数個のスカイブディザ行がちょうどスカイブ領域を満たすように調整される。
【0375】
そして、グリッドは、別々のパス(図41において4102(ストリップ1)、4104(ストリップ2)、4106(ストリップ3)として示されており、説明の便宜上、破線で分割されているものとして示されている)に分割される。それぞれのパスにおいて、ビームがディザリングされて所望の幅を生成する。通常、これにより、図40に示されるように、許容できないピクセル化誤差が生じ得る。しかしながら、ディザパターンをオン軸位置の関数として調整できるのであれば、そのようなピクセル化を避けることができる。
【0376】
ピクセル化を避けるために、各「ディザ行」が2進パターンにより特定され、グリッドパターンが順次FPGA1028のAODコントローラにロードされる。そして、側方傾斜及び端部傾斜を生成するためにこのパターンがフィルタリングされる。フィルタリングされたグリッドの結果が図42に示されている。図42は、一実施形態における、スカイブディザ点のフィルタリング未処理グリッド(左側)と、スカイブ処理されたディザ点の対応するフィルタリング処理グリッド(右側)とをグラフで示すものである。図43は、一実施形態における、図41に示されるストリップ4102,4104,4106に対応する3つの第1のスカイブビームのフルエンス分布をグラフで示すものである。1つ目のグラフ4310は、第1のストリップ4102に対応するフルエンス分布を示している。2つ目のグラフ4312は、第2のストリップ4104の追加に対応するフルエンス分布を示している。3つ目のグラフは、第3のストリップ4106の追加に対応するフルエンス分布を示している。4つ目のグラフ4316は、ストリップ4102,4104,4106に対応する合成フルエンスのフルエンス分布を示している。
【0377】
ある実施形態においては、ディザ方向(スカイブビーム軌跡に対してクロス軸方向)は、スカイブビーム軌跡の方向に基づいてあるストリップから次のストリップへパスが変わるときに切り替わる。例えば、再び図41を参照すると、第1のストリップ4102に対するスカイブビーム軌跡4112は左から右、第2のストリップ4104に対するスカイブビーム軌跡4114は右から左、第3のストリップ4106に対するスカイブビーム軌跡4116は再び左から右に向かう。スカイブパスごとに主ビーム軌跡が方向を反転するとき、図41は(矢印4118,4120,4122によって示される)各ディザ行に沿ったディザ方向も方向を変えることを示している。第1のパスについてスカイブビーム軌跡4112は左から右に移動するとき、第1のストリップ4102における各ディザ行は第1のディザ方向4118に(例えば下から上へ)加工される。第2のパスについてスカイブビーム軌跡4114は右から左に移動するとき、第2のストリップ4104における各ディザ行は第2のディザ方向4120に(上から下へ)加工される。また、第3のパスについてスカイブビーム軌跡4116は左から右に移動するとき、第3のストリップ4106における各ディザ行は第1のディザ方向4122(下から上へ)加工される。ある実施形態においては、スカイブパスの方向に基づいてディザ方向を切り替えることは、スカイビング加工の制御及び品質に影響を与える(例えばスカイブの深さに影響を与える)。ある実施形態においては、ユーザは、(例えばスカイブパスの方向に基づいて)スカイブ中にディザ方向を反転するか維持するかを選択できる。
【0378】
以下の概要は、一実施形態におけるスカイブの手順を概説するものである。
【0379】
最適化された効率に対してスカイブ行の幅の選択が使用される。以下では、2つのシナリオ例について述べる。
【0380】
1つ目のシナリオは、図44及び図45に示されるように、スカイブ行間での移動後は整定がないものと仮定している。図44は、一実施形態におけるスカイビングの例をグラフで示すものである。図44において、説明の便宜上、複数のスカイブ行4410,4412,4414,4416は互いに分離されている。しかしながら、上述したように、図41及び図43に関して、スカイブ行4410,4412,4414,4416が互いに隣接していてもよい(あるいは互いに部分的に重なっていてもよい)ことは、当業者であれば本明細書の開示から理解できるであろう。図45は、一実施形態における、スカイビング中のビームコマンドをグラフで示すものである。各スカイブ行4410,4412,4414,4416が加工されるとき、(3次フィルタが整定した後)3次AOD位置は中央に位置付けられ、AODサブシステム1042は、行の幅の±半分だけ中央付近をディザリングする。ビームポジショナが各行の処理を完了し、次に移動するとき、(3次プロファイリングにより)行の幅の半分に等しいAODフィールドにおける付加的な偏向を生ずる(AOD偏向は現在の行と次の行とで分割される)。このように、次の行への移動後の最大AOD偏向は、1つの行の幅の合計を使用する。この「非整定」アプローチにおいては、次行への移動後に整定は必要とされないが、各行の長さは、前の行からの移動後3次フィルタが整定可能な程度に長くなるように選択される。選択されたスカイブ幅に応じて、短い行長さが依然として付加的な「整定セグメント」を用いてこの時間を提供してもよい。スカイブ幅が最大AOD範囲未満にうまく設定されていても、パワー(そしてこれにより速度)を偏向範囲全体にわたって最も悪い場合のAOD効率を受け入れるように設定して、このアプローチの効率を下げてもよいことに留意されたい。
【0381】
2つ目のシナリオは、AOD幅の全体を使用可能にするが、スカイブ行の加工が始まる前に3次過渡状態を減衰させるために整定セグメントが常に挿入される。これにより、より広いスカイブ幅を使用することが可能になる。これにより、1行あたりの除去面積が大きくなってスカイビング効率が上がる場合があるが、スカイブ幅を広げることにより得られる効率は、(システムがパワーを偏向の幅の関数として増加させるができると仮定すると)より広い偏向範囲においてより低いAOD効率によって相殺される。
【0382】
これら2つのシナリオから得られるスカイビング効率のモデルが図46に示されており、これは、一実施形態における、材料除去速度(毎秒の面積)対スカイブ行の長さ(skiveLength)及び幅(Line pitch)を示すプロットである。図46におけるプロットは、スカイブ深さが10μm、スポットサイズが25μmであると仮定している。これは、この例で用いられたAODについては、「未整定」シナリオは「整定」シナリオとほとんど同じくらい効率的であるということを示している。これは、効率を上げたり、偏向範囲を広げたりした異なるAOD設計によって、あるいは、スカイブ深さや公称スポットサイズが異なる場合には変化することがある。「未整定」の場合は、行間の移動中の付加的なAOD偏向により、より制限された幅範囲にわたって動作することに留意されたい。この例では、最適なスカイブ行の幅はおよそ50μmである。
【0383】
図47は、一実施形態におけるスカイブ行の幾何配置の側面図を模式的に示すものである。図47は、フィルタリング前のスカイブ行幅4710と、フィルタリング後のディザ幅4712を示している。フィルタリングにより、移行幅4716を有する移行領域内に(例えば、隣接するスカイブ行又は他の特徴部と交差するための)傾斜側壁4714が生成される。傾斜と移行幅4716の程度はフィルタリングに基づいている(例えば、CrossAxisTaps×スポットピッチ)。
【0384】
1.スカイブ加工の概要
【0385】
スカイブモードでの加工は以下のように概説することができる。以下の工程の一部を異なる順番で行ってもよいことは、当業者であれば本明細書の開示から理解できるであろう。(後述する)図50は、ラスタ加工セグメントデータをFPGA1028へのコマンドに変換するこの処理フローの概要を示している。
【0386】
i.前処理ステップ
【0387】
ステップ1:SCC1010はスカイブ領域を認識する。このスカイブ領域は、アプリケーションのファイルにおいて別個の層に置かれ得る。
【0388】
ステップ2:SCC1010は、スカイブ領域を、スポットサイズに基づくクロス軸間隔と、速度及びディザパラメータに基づくオン軸間隔とを有する2進スポットのグリッドに変換する。
【0389】
ステップ3:SCC1010は、スカイブグリッドを1組の行に変換する。
【0390】
a.図46に示されるように、行の幅を最適化してもよい(幅と効率とのトレードオフ)。傾斜したエッジを生成するフィルタリングによりスカイブ幅が大きくなり、このため、幅の最適化の算出にこれを考慮する場合があることに留意されたい。エッジにおける移行は(位置誤差2μmとしたときの深さ誤差5%に対して)幅が約40μmになる場合があり、フィルタリングされていない公称エッジからフィルタリングされたエッジに延長すると、移行長さの1/2に等しくなる。
【0391】
b.(オン軸方向における)スカイブディザ行の間隔は、最大ピッチに対する要件(スポットの重なり>60%)、パワー制約内の加工速度の要件、及び各スカイブセグメント内の整数個のディザ行の要件を満足する。加えて、ディザ行間隔を、所望のオン軸移行長さ及び特定されたオン軸ボックスカーフィルタ(以下を参照)に適合するものとしてもよい。ボックスカーフィルタリングは整数個のディザ行に対して作用するので、ディザ行間隔が移行領域内で整数個の行を提供する場合がある。必要であれば、これを可能とするように、整合する移行長さを有する対応交点と同じくらい長くなるように移行長さを少し大きくしてもよい。
【0392】
ステップ4:SCC1010は、ボックスカー平均(CrossAxisTaps及びOnAxisTaps)の長さを特定し、エッジ及び端部に所望の傾斜を生成する。
【0393】
a.CrossAxisTaps及びOnAxisTapsは奇数である(中心点+それを取り囲む、対になった点)。
【0394】
b.CrossAxisTaps及びOnAxisTapsは、(ディザが制御された)クロス軸間隔及び(Nd×Taod×velにより制御される)オン軸間隔によって異なっていてもよい。移行領域は、交点に対して使用されるものと同じ、例えば(位置誤差2μmに対する深さ誤差5%について)約40μmであってもよい。
【0395】
c.OnAxisTapsは丸められた整数値であるので、端点位置及び移行傾斜幅の要件を満足するために、(速度及び/又はTaodを介した)ディザ行のタイミングを調整する必要がある場合がある。
【0396】
ステップ5:各スカイブ行に対して、SCC1010は、1組のSkiveDataワードを生成する。
【0397】
a.各SkiveDataワードは、ディザ行ごとの1組の振幅点を表しており、未処理点はゼロに設定される。
【0398】
b.SkiveDataワードの長さは、スカイビングに使用されるディザテーブル長さ(32点まで)に等しい。
【0399】
c.SkiveDataワードの端部のそれぞれで、「CrossAxisTaps」個の点をゼロに設定し、図47に示されるようにボックスカーフィルタの幅を得てもよい。
【0400】
d.クロス軸におけるレーザ加工を「CrossAxisTaps」個のディザ点の分だけ(ディザテーブルの端部に向かって)シフトさせる。スカイブディザテーブルはこのシフトを生じる。スカイブディザテーブルは、上述したゼロでパディングされた十分な数の項目を含んでいる。
【0401】
ステップ6:SCC1010は、加工セグメント位置を算出する。各スカイブ行の実際のレーザ加工は「OnAxisTaps」個のディザ行の分だけオン軸に沿ってシフトされる(遅れる)。加工セグメントの幾何配置がこのシフトを生じる。
【0402】
ステップ7:SCC1010は、プロセスマップ(Process Map)とトレンチ幾何配置(幅、深さ)を用いて、必要とされる加工パラメータ(グリッド幅GridWidth及びフルエンスFluence)を決定する。
【0403】
ステップ8:SCC1010は、ディザマップ(Dither Map)を用いて、必要とされるグリッド幅GridWidthに対応するディザテーブルパラメータ(Nd、Kw)を決定する。
【0404】
ステップ9:SCC1010は、ディザマップ(Dither Map)を用いて、Ndに対応するディザテーブルパラメータtableAddress及びtableLengthを決定する。
【0405】
ステップ10:SCC1010は、ディザマップ(Dither Map)を用いて、有効幅EffectiveWidthを算出する。Kwを補間してもよいので、有効幅EffectiveWidthも移行セグメントにわたって補間してもよい。
【0406】
ステップ11:SCC1010は、線量Dosage=フルエンスFluence×有効幅EffectiveWidthを算出する。これは移行セグメントにわたって補間してもよい。
【0407】
ステップ12:SCC1010は、パワーマップ(Power Map)を用いて、必要線量に基づいてセグメントに対して許容される最大速度を決定する。セグメントは、最小セグメント時間要件を満足するために必要であれば速度を低くしてもよい。速度は、任意のセグメントにわたって一定に保持される。
【0408】
ステップ13:SCC1010は以下の式によって線量をスケーリングする。
Kskive=1/(CrossAxisTaps×OnAxisTaps)
【0409】
ステップ14:SCC1010は、スカイブモードに入ることをDSP1026に通知する。DSP1026は、FPGA1028をスカイブモードに設定する。
【0410】
ii.ランタイム処理
【0411】
以下の工程は、スカイブ加工中に各セグメントに対して行われる。
【0412】
ステップ1:SCC1010は、各スカイブ行に対して加工セグメントを生成し、セグメント端点のXY座標、円弧セグメントの中心のXY座標及び半径、軌跡サンプルの数(~速度)、スカイブtableAddress、スカイブtableLength、線量Dosage、Kw、SkiveData、OnAxisTaps、CrossAxisTaps、及びスカイブモード(Skive Mode)通知といったデータをDSP1026に送信する。
【0413】
ステップ2:DSP1026は、ベクトルモードと同様に、SCC1010から流れ出たデータを処理し、そのデータをFPGA1028に送る。
【0414】
ステップ3:FPGA1028は、ディザ行ベクトルを生成し、非ゼロデータ点は特定の線量に設定される。
【0415】
ステップ4:FPGA1028は、ディザ行に対してクロス軸及びオン軸ボックスカー平均フィルタを以下のように実行する。
【0416】
a.クロス軸データ(各ディザ行)が届くと、これにボックスカーフィルタを実行する。各点に対する各ボックスカーフィルタは、その点と±(CrossAxisTaps-1)/2周囲点(ベクトル端部でゼロパッドを有する)の総和である。スケーリングは必要とされない(線量はKskiveによって事前にスケーリングされた)。
【0417】
b.これらのフィルタリングされたディザ行をキューに加える
【0418】
c.このキューからディザ行を処理する。周囲の(OnAxisTaps-1)/2行(必要に応じて最初と最後の行がゼロによりパディングされる)で各行を合計することによりオン軸ボックスカーフィルタリングを適用する。また、Kskiveの事前スケーリングによりスケーリングは必要とされない。
【0419】
ステップ5:角度及び線量のパラメータは(通常のディザリングと同様に)依然として適用されるが、形状やバンクのパラメータは適用されない(ボックスカーフィルタリングが形状パラメータを適用し、スカイビングは直線に制約される。したがってバンクのパラメータは適用されない)ことに留意されたい。
【0420】
ステップ6:同期が調整され、ボックスカーフィルタからの遅延が生じる。
【0421】
図48は、一実施形態における、ベクトル加工用のAODコマンドの生成を示すブロック図である。上述したように、SCC1010は、アプリケーションを、それぞれ対応するセグメントデータ4810を有する別個の加工セグメントに分解する。材料テーブル4812(例えば図9参照)を用いて、SCC1010は、セグメントデータ4810からのトレンチの幾何配置(例えば深さ及び幅)とプロセスマップ4814からのデータとを処理し、グリッド幅GridWidthやフルエンスFluenceのような加工パラメータを決定する。SCC1010は、ディザマップ4816を用いて、グリッド幅GridWidthを処理してディザテーブルパラメータNd及びKwを決定する。ある実施形態においては、各セグメントに対してNdは一定に保持されるが、Kwは移行セグメントにわたって補間されてもよい。そして、SCC1010は、ディザマップ4816を用いて、Ndに対応するディザテーブルパラメータtableAddress及びtableLengthを決定する。また、SCC1010は、ディザマップ(DitherMap)を用いて有効幅EffeciveWidth(Weff)を算出する。Kwは補間され得るので、有効幅EffeciveWidthも移行セグメントにわたって補間されてもよい。図48に示されるように、SCC1010は、線量Dosage=フルエンスFluence×有効幅EffeciveWidthを算出する。線量Dosageも移行セグメントにわたって補間されてもよい。また、ディザマップ4816は、ディザ範囲DitherRangeをDSP1026に供給する
【0422】
SCC1010は、線量Dosageをパワーマップ4818に供給し、(セグメントにわたって一定に保持される)セグメント速度MaxVelを割り当てる。セグメント速度MaxVelは、レーザパワーが制限される速度及び/又は1以上のAOD速度制限に基づくものであってよい。レーザパワーが制限される速度は、パワーマップ4818及び算出された線量Dosageに基づいている。AOD速度制限は、必要とされるグリッド幅GridWidth、AODフィールドサイズ、及び3次フィルタ過渡状態の大きさに基づくものであってもよい。加えて、あるいは他の実施形態においては、AOD速度制限は、ある実施形態によれば0.35×Deff未満であるディザ行間の最大間隔(=Taod×(Nd-1)×Vel)に基づいていてもよい。ある実施形態においては、最小セグメント時間要件を満足するために必要とされる場合には、セグメントにおける速度を下げてもよい。
【0423】
SCC軌跡生成モジュール4820は、セグメントデータ4810からのXYビーム座標と割り当てられたセグメント速度MaxVelを受信する。円弧セグメントに対してバンク処理が使用される場合は、SCC軌跡生成モジュール4820は、円弧セグメントの半径に基づいてバンクパラメータKbを算出する。また、SCC軌跡生成モジュール4820は、セグメント軌跡データ(例えば、セグメント端点のXY座標、円弧セグメントの中心のXY座標及び半径、及び軌跡サンプルの数)を生成する。
【0424】
SCC1010は、セグメントデータ4810を用いて、走査フィールド歪み及び公称ガルボ位置合わせを補正するTMfield変換4822を生成する。また、SCC1010は、AOD座標系の位置をガルボ座標系の位置に合わせるためのTMframe変換4823を生成する。図48に示されるように、SCC1010は、TMfield変換4822とTMframe変換4823とを乗算してTMdither変換行列を決定する。
【0425】
DSP1026内では、DSP軌跡生成モジュール4824が、SCC1010から受信したセグメント軌跡データ、ディザ範囲DitherRange、及びKwを用いて、更新期間Tcmdで中心線の位置データ(Xc,Yc)を算出する。図48には示されていないが、ある実施形態においては、DSP1026は、3次フィルタ(例えば、図22及び図51に示される3次フィルタ2205を参照)を用いてデータを処理する。DSP軌跡生成モジュール4824は、速度、AOD偏向座標、及びディザベクトルスケール/回転を出力する。AOD偏向座標は、TMtert変換4832に供給され、TMtert変換4832は、周波数偏移コマンドFdev0及びFdev1を出力する。
【0426】
DSP1026は、ディザ行ごと(Nd×Taod秒ごと)に1回新しいディザ(Kw)と加工パラメータ(Kp,Kb)を算出する。セグメントが移行セグメントである場合、DSP1026は、補間4826を用いて、新しいディザパラメータKwを算出する。また、移行セグメントに対しても、DSP1026は、補間4828を用いて線量Dosageを決定する。図48に示されるように、DSP1026は、DSP軌跡生成モジュール4824により算出された線量Dosage及び速度を用いて、Kpwrモジュール4830に供給されるワーク表面パワーが決定される。Kpwrモジュール4830は、ワーク表面パワーを正規化パワーコマンドKpに変換する。
【0427】
図48に示されるように、DSP1026は、上述したように、TMdither及びディザベクトルスケール/回転に基づいてTMaod変換成分を算出する。
【0428】
DSP1026は、低レベルコマンドをFPGA1028に送りAOD動作を制御する。
【0429】
図49は、一実施形態における、ラスタ加工用のAODコマンドの生成を示すブロック図である。上述したように、SCC1010は、アプリケーションをそれぞれ対応するセグメントデータ4810を有する別個の加工セグメントに分解する。SCC1010は、アプリケーションの「変換」中に、ラスタパターンを算出し、多数の個々のパターンを有するラスタテーブルを構築する。セグメントデータ4810は、ラスタパターン用のラスタ回転角を含んでいる。各ラスタセグメントは、ゼロ速度を有している。
【0430】
材料テーブル4812を用いて、SCC1010は、セグメントデータ4810からのラスタ幾何配置(例えば、深さ及び幅)とプロセスマップ4814からのデータを処理し、(例えば、グリッド幅GridWidthに対応する)RasterIDやフルエンスFluenceのような加工パラメータを決定する。SCC1010は、ディザマップ4816を用いて、RasterIDを処理し、フルエンススケーリングだけではなくディザテーブルパラメータNd及びKwも決定する。図49に示されるように、ユーザは、選択的にKwを調整してもよい。また、SCC1010は、ディザマップ4816を用いて、Ndに対応するラスタテーブルパラメータtableAddress及びtableLengthを決定する。図49に示されるように、SCC1010は、材料テーブル4812からのフルエンスに、ディザマップ4816により提供されるフルエンススケーリングを乗算することにより所望のフルエンスを算出する。
【0431】
SCC軌跡生成モジュール4820は、セグメントデータ4810からXYビーム座標を受信する。SCC軌跡生成モジュール4820は、セグメント軌跡データを生成し、DSP軌跡生成モジュール4824に供給する。
【0432】
図49に示されるように、SCCは、TMfield変換4822、TMframe変換4823、セグメントデータ4810からのラスタ回転、及びディザマップ4816からのKwを用いてTMdither変換行列を算出する。TMdither変換は、FPGA1028に送られるTMaod変換に対応する。
【0433】
また、図49にも示されるように、DSP1026は、ラスタセグメントに対して線量を「パワー」として解釈する場合がある。Kpwrモジュール4830は、パワーを正規化パワーコマンドKpに変換する。
【0434】
DSP軌跡生成モジュール4824は、AOD偏向座標を出力する。AOD偏向座標はTMtert変換4832に供給され、TMtert変換4832は周波数偏移コマンドFdev0及びFdev1を出力する。
【0435】
図50は、一実施形態における、スカイブ加工用のAODコマンドの生成を示すブロック図である。上述したように、SCC1010は、アプリケーションをそれぞれ対応するセグメントデータ4810を有する別個の加工セグメントに分解する。この実施形態においては、SCC1010は、スカイブ領域を認識する。このスカイブ領域は、アプリケーションのファイルにおいて別個の層に置くことができる。SCC1010は、スカイブ領域を、スポットサイズに基づくクロス軸間隔と、速度及びディザパラメータに基づくオン軸間隔とを有する2進スポットのグリッドに変換する。上述したように、SCC1010は、スカイブグリッドを1組の行に変換する。
【0436】
材料テーブル4812を用いて、SCC1010は、セグメントデータ4810からのトレンチ幾何配置(例えば、深さ及び幅)とプロセスマップ4814からのデータを処理し、グリッド幅GridWidthやフルエンスFluenceのような加工パラメータを決定する。SCC1010は、ディザマップ4816を用いて、グリッド幅GridWidthを処理しディザテーブルパラメータNd及びKwを決定する。ある実施形態においては、各セグメントに対してNdが一定に保持されるが、移行セグメントにわたって補間されてもよい。そして、SCC1010は、ディザマップ4816を用いて、Ndに対応するディザテーブルパラメータtableAddress及びtableLengthを決定する。また、SCC1010は、ディザマップDitherMapを用いて有効幅EffectiveWidth(Weff)を算出する。Kwは補間される場合があるので、有効幅EffectiveWidthも移行セグメントにわたって補間されてもよい。図50に示されるように、SCC1010は、線量Dosage=フルエンスFluence×有効幅EffectiveWidthを算出する。線量Dosageも移行セグメントにわたって補間されてもよい。また、ディザマップ4816はディザ範囲DitherRangeをDSP1026に供給する。
【0437】
SCC1010は、線量Dosageをパワーマップ4818に供給し、そのセグメントに対する最大速度MaxVel(そのセグメントにわたって一定に保持される)を決定する。ある実施形態においては、最小セグメント時間要件を満足するために必要であれば、セグメントにおける速度を下げてもよい。
【0438】
SCC軌跡生成モジュール4820は、セグメントデータ4810からのXYビーム座標と最大速度MaxVelを受信する。SCC軌跡生成モジュール4820は、ボックスカー平均(CrossAxisTaps及びOnAxisTaps)の長さを特定し、エッジ及び端部で所望の傾斜を生成する。このため、設定中は、SCC軌跡生成モジュール4820は、スカイブタップSkiveTapsをFPGA1028に供給する。また、各スカイブ行に対して、SCC軌跡生成モジュール4820は、1組のSkiveDataワードを生成する。SCC軌跡生成モジュール4820は、セグメント軌跡データを生成し、このセグメント軌跡データは、加工セグメント位置を含み得る。各スカイブ行の実際のレーザ加工は、「OnAxisTaps」個のディザ行の分だけオン軸に沿ってシフトされる(遅れる)。加工セグメント幾何配置によりこのシフトが生ずる。
【0439】
上述したように、SCC1010は、Kskive=1/(CrossAxisTaps×OnAxisTaps)により線量をスケーリングする。
【0440】
図50に示されるように、SCC1010は、TMfield変換4822とTMframe変換4823とを乗算し、TMdither変換行列を決定する。
【0441】
DSP1026内では、DSP軌跡生成モジュール4824は、SCC1010から受信したセグメント軌跡データ、ディザ範囲DitherRange、及びKwを用いて、速度、AOD偏向座標、及びディザベクトルスケール/回転を出力する。AOD偏向座標は、TMtert変換4832に供給され、TMtert変換4832は、周波数偏移コマンドFdev0及びFdev1を出力する。
【0442】
図50に示されるように、DSP1026は、DSP軌跡生成モジュール4824により算出された線量Dosage及び速度を用いて、Kpwrモジュール4830に供給されるワーク表面パワーを決定する。Kpwrモジュール4830は、ワーク表面パワーを正規化パワーコマンドKpに変換する。DSP1026は、上述したように、TMdither及びディザベクトルスケール/回転に基づいてTMaod変換成分を算出する。
【0443】
DSP1026は、低レベルコマンドをFPGA1028に送りAOD動作を制御する。FPGA1028は、ディザ行ベクトルを生成し、非ゼロデータ点は特定の線量に設定される。また、FPGA1028は、ディザ行に対してクロス軸及びオン軸ボックスカー平均フィルタを実行する。
【0444】
図51は、一実施形態における、ガルボ及びAOD較正データの流れ5100を示すブロック図である。ガルボ及びAOD較正データフロー5100において、SCC1010は、(例えばワーク表面座標における)XYセグメント座標を含むSCC軌跡詳細5110(図22に示される例示ビームプロファイル2210など)を走査フィールド変換2203に供給する。そして、走査フィールド変換2203は、(例えば未処理ガルボ座標における)補正後のXYセグメント座標をDSP軌跡生成ユニット4824に供給し、DSP軌跡生成ユニット4824は、3次フィルタ2205に送られる(例えば未処理ガルボ座標における)詳細なビーム軌跡及びディザパラメータを算出する。上述したように、3次フィルタ2205は、(例えば未処理ガルボ座標における)未処理XYガルボ制御コマンドをガルボコントローラ5114に供給する。また、3次フィルタ2205は、(未処理ガルボ座標におけるオプションのXYガルボ誤差補正項が加えられることがある)XY AODコマンドをTMtert変換4832に供給する。そして、TMtert変換4832からの出力が(例えばch0 AODコマンド及びch1 AODコマンドとして)FPGA1028に供給され、FPGA1028は、最後のAOD RFコマンドを生成する。
【0445】
また、SCC1010は、回転変換TMframe5118を局所走査フィールド歪み補正TMfield4822に組み合わせてTMdither変換行列を生成する。そして、TMdither変換行列は、ディザ回転/スケール変換5122(例えばRdither及びKwCorr)と組み合わされてAODコマンド変換行列TMaod変換が生成され、これがFPGA1028に供給される。また、SCC1010は、(例えばワーク表面座標における)SCCディザデータ5124を用いて、倍率MHzPerμmを生成し、この倍率MHzPerμmは、ディザ(又はラスタ)テーブル1110にプリロードされたデータとして含まれ得る。FPGA1028は、ディザテーブル1110からのデータをTMoad変換と組み合わせてディザ及びラスタデータを生成し、FPGA1028はこれらをTMtert変換4832からのAODコマンドと組み合わせてAOD RFコマンドを生成する。
【0446】
本発明の根底にある原理から逸脱することなく、上述した実施形態の詳細に対して多くの変更を加えることができることを当業者は理解するであろう。したがって、本発明の範囲は、以下の特許請求の範囲によってのみ決定されるべきである。
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