(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-19
(45)【発行日】2022-10-27
(54)【発明の名称】全固体二次電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0585 20100101AFI20221020BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20221020BHJP
H01M 10/0565 20100101ALI20221020BHJP
【FI】
H01M10/0585
H01M10/0562
H01M10/0565
(21)【出願番号】P 2021139489
(22)【出願日】2021-08-30
(62)【分割の表示】P 2018556757の分割
【原出願日】2017-12-15
【審査請求日】2021-08-30
(31)【優先権主張番号】P 2016243870
(32)【優先日】2016-12-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005119
【氏名又は名称】日立造船株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001298
【氏名又は名称】弁理士法人森本国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡本 健児
(72)【発明者】
【氏名】福井 英之
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-124084(JP,A)
【文献】特開2016-192265(JP,A)
【文献】特開2011-96550(JP,A)
【文献】特開昭62-165880(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/058
H01M 10/0562
H01M 10/0565
H01M 10/0585
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
全固体二次電池の製造方法であって、
上記全固体二次電池が、正極集電体および負極集電体と、これら正極集電体および負極集電体の間に配置された粉体積層体とを具備
し、
上記粉体積層体が、正極粉体層および負極粉体層と、当該正極粉体層および負極粉体層の間に配置された固体電解質層と、当該正極粉体層または負極粉体層の外周を覆う硫化水素吸着層および/または水分吸着層とを有し、
上記粉体積層体が、周縁部と、この周縁部に囲われる中央部とからなり、
上記周縁部の厚さが、上記中央部の厚さ以上
である全固体二次電池
の製造方法であって、
上記正極集電体/負極集電体の表面に、開口部が形成された絶縁部材を接着する工程と、
上記正極集電体/負極集電体の表面に接着された絶縁部材の開口部に、正極粉体層/負極粉体層を配置する工程と、
上記絶縁部材の表面に、当該絶縁部材の開口部に配置された正極粉体層/負極粉体層を埋設するように固体電解質層を配置する工程と、
上記固体電解質層の表面に、空間部および当該空間部の外周を覆うように硫化水素吸着層および/または水分吸着層を配置する工程と、
上記硫化水素吸着層および/または水分吸着層に外周が覆われた空間部に、負極粉体層/正極粉体層を配置する工程と、
上記硫化水素吸着層および/または水分吸着層および負極粉体層/正極粉体層の表面に、負極集電体/正極集電体を配置する工程と、
上記正極集電体および負極集電体を、互いに接近させる方向に押圧する工程とを有することを特徴とする全固体二次電池の製造方法。
【請求項2】
全固体二次電池の製造方法であって、
上記全固体二次電池が、正極集電体および負極集電体と、これら正極集電体および負極集電体の間に配置された粉体積層体とを具備
し、
上記粉体積層体が、正極粉体層および負極粉体層と、当該正極粉体層および負極粉体層の間に配置された固体電解質層と、当該正極粉体層または負極粉体層の外周を覆う硫化水素吸着層および/または水分吸着層とを有し、
上記粉体積層体が、周縁部と、この周縁部に囲われる中央部とからなり、
上記周縁部の厚さが、上記中央部の厚さ以上
である全固体二次電池
の製造方法であって、
上記正極集電体/負極集電体の表面に、開口部が形成された絶縁部材を接着する工程と、
上記正極集電体/負極集電体の表面に接着された絶縁部材の開口部に、正極粉体層/負極粉体層を配置する工程と、
上記絶縁部材の表面に、当該絶縁部材の開口部に配置された正極粉体層/負極粉体層を埋設するように固体電解質層を配置する工程と、
上記固体電解質層の表面に、負極粉体層/正極粉体層を配置する工程と、
上記固体電解質層の表面に、配置された負極粉体層/正極粉体層の外周を覆うように硫化水素吸着層および/または水分吸着層を配置する工程と、
上記硫化水素吸着層および/または水分吸着層および負極粉体層/正極粉体層の表面に、負極集電体/正極集電体を配置する工程と、
上記正極集電体および負極集電体を、互いに接近させる方向に押圧する工程とを有することを特徴とする全固体二次電池の製造方法。
【請求項3】
上記周縁部の厚さが、上記中央部の厚さを超えることを特徴とする請求項1
または2に記載の全固体二次電池
の製造方法。
【請求項4】
請求項
1乃至3のいずれか一項に記載の全固体二次電池の製造方法であって、
上記全固体二次電池が、粉体積層体の外周に配置された外周部材を具備するものであり、
正極集電体および負極集電体を互いに接近させる方向に押圧する工程が、当該押圧により、上記粉体積層体と上記外周部材とに等しい圧力を生じさせることを特徴とする全固体二次電池の製造方法。
【請求項5】
請求項
4に記載の全固体二次電池の製造方法であって、
正極集電体および負極集電体を互いに接近させる方向に押圧する工程が、粉体積層体の厚さおよび外周部材の厚さを等しくし、以下の式(1)を満たすことを特徴とする全固体二次電池の製造方法。
(E1/T1-E2/T2)T’=E1-E2・・・(1)
(但し、T1は上記粉体積層体の上記押圧される前の厚さ、E1は上記粉体積層体の弾性係数、T2は上記外周部材の上記押圧される前の厚さ、E2は上記外周部材の弾性係数、T’は上記粉体積層体および上記外周部材の上記押圧により等しくなる厚さ)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体二次電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、全固体二次電池は、正極粉体層および負極粉体層との間に固体電解質層が配置されるとともに、これら正極粉体層および負極粉体層の外面にそれぞれ正極集電体および負極集電体が配置されたものである。
【0003】
このような全固体二次電池において、固体電解質層の外側面が正極粉体層および負極粉体層の外側面よりも外側にあり、固体電解質層の周縁部における固体電解質の含有量を中央部よりも少なくしたものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この特許文献1で提案された全固体二次電池は、生産コストを抑えつつ、正負極間の短絡を抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、全固体二次電池は正極粉体層、負極粉体層および固体電解質層を、それぞれの粉体層を積層化したものであるため、押圧して積層体を形成する際に崩れやすい。特に、上記特許文献1に開示された全固体二次電池の正極粉体層、負極粉体層および固体電解質層は、各層の端部の総厚さに差があり、成形圧力にも差が生じ、積層体の中央部に比べ、端部が圧密化されておらず、強度が弱くなっている。そのため、積層体の押圧時に、端部が割れて短絡しやすい。
【0006】
そこで、本発明は、正負極間の短絡を防止し得る全固体二次電池の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、第1の発明に係る全固体二次電池の製造方法は、上記全固体二次電池が、正極集電体および負極集電体と、これら正極集電体および負極集電体の間に配置された粉体積層体とを具備し、
上記粉体積層体が、正極粉体層および負極粉体層と、当該正極粉体層および負極粉体層の間に配置された固体電解質層と、当該正極粉体層または負極粉体層の外周を覆う硫化水素吸着層および/または水分吸着層とを有し、
上記粉体積層体が、周縁部と、この周縁部に囲われる中央部とからなり、
上記周縁部の厚さが、上記中央部の厚さ以上である全固体二次電池の製造方法であって、
上記正極集電体/負極集電体の表面に、開口部が形成された絶縁部材を接着する工程と、
上記正極集電体/負極集電体の表面に接着された絶縁部材の開口部に、正極粉体層/負極粉体層を配置する工程と、
上記絶縁部材の表面に、当該絶縁部材の開口部に配置された正極粉体層/負極粉体層を埋設するように固体電解質層を配置する工程と、
上記固体電解質層の表面に、空間部および当該空間部の外周を覆うように硫化水素吸着層および/または水分吸着層を配置する工程と、
上記硫化水素吸着層および/または水分吸着層に外周が覆われた空間部に、負極粉体層/正極粉体層を配置する工程と、
上記硫化水素吸着層および/または水分吸着層および負極粉体層/正極粉体層の表面に、負極集電体/正極集電体を配置する工程と、
上記正極集電体および負極集電体を、互いに接近させる方向に押圧する工程とを有する方法である。
【0008】
上記課題を解決するため、第2の発明に係る全固体二次電池の製造方法は、上記全固体二次電池が、正極集電体および負極集電体と、これら正極集電体および負極集電体の間に配置された粉体積層体とを具備し、
上記粉体積層体が、正極粉体層および負極粉体層と、当該正極粉体層および負極粉体層の間に配置された固体電解質層と、当該正極粉体層または負極粉体層の外周を覆う硫化水素吸着層および/または水分吸着層とを有し、
上記粉体積層体が、周縁部と、この周縁部に囲われる中央部とからなり、
上記周縁部の厚さが、上記中央部の厚さ以上である全固体二次電池の製造方法であって、
上記正極集電体/負極集電体の表面に、開口部が形成された絶縁部材を接着する工程と、
上記正極集電体/負極集電体の表面に接着された絶縁部材の開口部に、正極粉体層/負極粉体層を配置する工程と、
上記絶縁部材の表面に、当該絶縁部材の開口部に配置された正極粉体層/負極粉体層を埋設するように固体電解質層を配置する工程と、
上記固体電解質層の表面に、負極粉体層/正極粉体層を配置する工程と、
上記固体電解質層の表面に、配置された負極粉体層/正極粉体層の外周を覆うように硫化水素吸着層および/または水分吸着層を配置する工程と、
上記硫化水素吸着層および/または水分吸着層および負極粉体層/正極粉体層の表面に、負極集電体/正極集電体を配置する工程と、
上記正極集電体および負極集電体を、互いに接近させる方向に押圧する工程とを有する方法である。
【0009】
また、第3の発明に係る全固体二次電池の製造方法は、第1または第2の発明に係る全固体二次電池の製造方法における周縁部の厚さが、上記中央部の厚さを超える方法である。
【0010】
さらに、第4の発明に係る全固体二次電池の製造方法は、第1乃至第3の発明のいずれかに係る全固体二次電池の製造方法であって、
上記全固体二次電池が、粉体積層体の外周に配置された外周部材を具備するものであり、
正極集電体および負極集電体を互いに接近させる方向に押圧する工程が、当該押圧により、上記粉体積層体と上記外周部材とに等しい圧力を生じさせる方法である。
【0011】
加えて、第5の発明に係る全固体二次電池の製造方法は、第4の発明に係る全固体二次電池の製造方法であって、
正極集電体および負極集電体を互いに接近させる方向に押圧する工程が、粉体積層体の厚さおよび外周部材の厚さを等しくし、以下の式(1)を満たす方法である。
(E1/T1-E2/T2)T’=E1-E2・・・(1)
(但し、T1は上記粉体積層体の上記押圧される前の厚さ、E1は上記粉体積層体の弾性係数、T2は上記外周部材の上記押圧される前の厚さ、E2は上記外周部材の弾性係数、T’は上記粉体積層体および上記外周部材の上記押圧により等しくなる厚さ)
【発明の効果】
【0012】
上記全固体二次電池の製造方法によると、正極粉体層および負極粉体層の外周が固体電解質層で覆われるとともに、周縁部の厚さが中央部の厚さ以上であることにより、正負極間の短絡を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施の形態1に係る全固体二次電池の断面図である。
【
図2】本発明の実施の形態2に係る全固体二次電池の断面図である。
【
図3】本発明の実施の形態1に係る全固体二次電池の製造方法を示す断面図であり、正極集電体に絶縁部材を接着する工程を示す。
【
図4】同製造方法を示す断面図であり、正極粉体層を配置する工程を示す。
【
図5】同製造方法を示す断面図であり、固体電解質層を配置する工程を示す。
【
図6】同製造方法を示す断面図であり、負極粉体層を配置する工程を示す。
【
図7】同製造方法を示す断面図であり、負極集電体を配置する工程を示す。
【
図8】同製造方法を示す断面図であり、押圧する工程を示す。
【
図9】本発明の実施の形態2に係る全固体二次電池の製造方法を示す断面図であり、負極集電体を配置する工程を示す。
【
図10】同製造方法を示す断面図であり、押圧する工程を示す。
【
図11】本発明の実施例1に係る全固体二次電池の負極集電体および絶縁部材を除いた斜視図である。
【
図13】本発明の実施例2に係る全固体二次電池の負極集電体および絶縁部材を除いた斜視図である。
【
図15】
図14のA-Aの断面図であり、左側が角部を通る断面を示し、右側が辺部を通る断面を示す。
【
図16】本発明の実施の形態3に係る全固体二次電池の製造方法を示す断面図であり、負極集電体を配置する工程を示す。
【
図17】同製造方法を示す断面図であり、押圧する工程を示す。
【
図18】全固体二次電池が周縁部で中央部より厚い場合の同製造方法を示す断面図であり、押圧する工程を示す。
【
図19】本発明の実施例3に係る全固体二次電池の断面図である。
【
図20】本発明の実施例4に係る全固体二次電池の断面図である。
【
図21】本発明の実施例5に係る全固体二次電池の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態に係る全固体二次電池およびその製造方法について、図面に基づき説明する。
【0015】
まず、上記全固体二次電池の構成について説明する。
【0016】
この全固体二次電池は、
図1および
図2に示すように、正極集電体10および負極集電体30と、これら正極集電体10および負極集電体30の間に配置された粉体積層体40とを具備する。この粉体積層体40は、正極集電体10側に配置された正極粉体層14と、負極集電体30側に配置された負極粉体層34と、正極粉体層14および負極粉体層34の間に配置されるとともに正極粉体層14の外周を覆う固体電解質層24と、負極粉体層34の外周に配置された外周粉体層23とを有する。これら正極粉体層14および正極集電体10と負極粉体層34および負極集電体30とは、
図1および
図2に示す位置関係に限られず、
図1および
図2に示す位置関係を入れ替えたもの、すなわち、符号14および10が負極粉体層および負極集電体で且つ符号34および30が正極粉体層および正極集電体でもよい。このように位置関係を入れ替えたものの場合、固体電解質層24で外周が覆われるのは、
図1および
図2のような正極粉体層14ではなく、負極粉体層となり、一方で、外周粉体層23は、
図1および
図2のような負極粉体層34の外周ではなく、正極粉体層の外周に配置される。また、上記外周粉体層23は、何らかの粉体で構成されていればよく、例えば、固体電解質層24と同一の粉体、または、硫化水素の発生を抑制する粉体(硫化水素を吸着する粉体)などで構成されてもよい。上記外周粉体層23は、固体電解質層24と同一の粉体で構成される場合、固体電解質層の一部(上部)となる。この場合、符号24で示す部分は、固体電解質層の下部および中間部となる。また、上記外周粉体層23は、硫化水素を吸着する粉体で構成される場合に硫化水素吸着層となり、水分を吸着する粉体で構成される場合に水分吸着層となり、硫化水素および水分の両方を吸着する粉体で構成される場合に硫化水素吸着層および水分吸着層となる。この硫化水素吸着層および水分吸着層を構成する粉体は、例えば、ゼオライト、シリカゲルまたは活性炭などの多孔性材料が挙げられる。
【0017】
上記粉体積層体40は、
図1および
図2に示すように、隙間なく粉体で構成され、つまり粉体で密に構成される。なお、上記粉体積層体40の外側面44には、本発明において、上記粉体積層体40とこの外周から食い込んで配置された絶縁部材11(必須の構成ではない)との接触部分を含まない。さらに、上記粉体積層体40は、上記外側面44を含んだ周縁部46と、この周縁部46に囲われる中央部49とからなる。この周縁部46の厚さは上記中央部49の厚さ以上であり、このため、
図1に示すように上記周縁部46の厚さが中央部49の厚さと等しい場合、および、
図2に示すように上記周縁部46の厚さが中央部49の厚さを超える場合がある。
【0018】
以下では、上記周縁部46の厚さが上記中央部49の厚さと等しい場合(
図1参照)を[実施の形態1]として説明し、上記周縁部46の厚さが上記中央部49の厚さを超える場合(
図2参照)を[実施の形態2]として説明する。
[実施の形態1]
【0019】
本発明の実施の形態1に係る全固体二次電池1は、
図1に示すように、正極集電体10および負極集電体30と、正極集電体10および負極集電体30の間に配置された粉体積層体40と、正極集電体10の表面(上面)に接着されて粉体積層体40の外周からその中へ食い込んで配置された絶縁部材11とを具備する。
【0020】
上記粉体積層体40は、絶縁部材11に非接触で正極集電体10側に配置された正極粉体層14と、負極集電体30側に配置された負極粉体層34と、正極粉体層14および負極粉体層34の間に配置されるとともに正極粉体層14の外周を覆う固体電解質層の下部および中間部24と、上記負極粉体層34の外周に配置された固体電解質層の上部23(外周粉体層23の一例である)とからなる。
【0021】
上記粉体積層体40は、製造される工程において上記正極集電体10および負極集電体30が互いに接近する方向で押圧されることにより、隙間なく粉体で構成され、つまり粉体で密に構成される。なお、上記粉体積層体40の外側面44には、上記粉体積層体40と絶縁部材11(必須の構成ではない)との接触部分を含まない。さらに、上記粉体積層体40は、上記外側面44を含んだ周縁部46と、この周縁部46に囲われる中央部49とからなる。上記周縁部46の厚さは、中央部49の厚さと略等しくされる(製作上の誤差を含む)。
【0022】
次に、上記全固体二次電池1の主要構成部材の材料について説明する。
【0023】
正極集電体10および負極集電体30としては、銅(Cu)、マグネシウム(Mg)、ステンレス鋼、チタン(Ti)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、ゲルマニウム(Ge)、インジウム(In)、リチウム(Li)、錫(Sn)、これらの合金等からなる薄板状体並びに箔状体、または各種材料を成膜したものが用いられる。ここで、薄板状体および箔状体は、その厚さが5μm~100μmの範囲内のものである。さらに、正極集電体10および負極集電体30は、粉体から構成される粉体積層体40との密着性向上の観点から、その表面に粗化処理が施されたものであることが好ましい。粗化処理とは、エッチングなどで表面粗さを大きくする処理である。また、絶縁部材11には、PETフィルムなどの高分子材料でできた絶縁シートが用いられる。
【0024】
このようにエッチング処理が施された正極集電体10および負極集電体30を用いることによって、全固体二次電池1を製造する際の押圧で、エッチングによりできた孔部が潰され、正極粉体層14および負極粉体層34の表面に食い付きやすくなり、正極集電体10および負極集電体30と粉体積層体40とが一体化されやすくなる。
【0025】
また、正極粉体層14/負極粉体層34は、電子の授受を行うために粒子間に電子伝導パスを確保する正極活物質/負極活物質とイオン伝導性を有する固体電解質とを所定の割合で混合した混合材からなる層である。このように正極活物質/負極活物質にリチウムイオン伝導性を有する固体電解質を混合することにより、電子伝導性に加えてイオン伝導性を付与し、粒子間にイオン伝導パスを確保することができる。なお、正極粉体層14/負極粉体層34は、正極活物質/負極活物質のみからなる層としてもよい。
【0026】
正極粉体層14に適した正極活物質としては、リチウムイオンの挿入離脱が可能なものであればよく、特に限定されない。例えば、リチウム・ニッケル複合酸化物(LiNixM1-xO2)、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)、リチウム・ニッケル・コバルト・アルミニウム複合酸化物(LiNi0.8Co0.15Al0.05O2、NCA系層状酸化物)、マンガン酸リチウム(スピネル型マンガン酸リチウムLiMn2O4など)、Li過剰の複合酸化物(Li2MnO3-LiMO2)などの酸化物の他、酸化物以外の化合物も挙げられる。酸化物以外の化合物としては、例えば、オリビン系化合物(LiMPO4)、硫黄含有化合物(Li2Sなど)などが挙げられる。なお、上記式中、Mは遷移金属を示す。正極活物質は、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて使用できる。高容量が得られ易い観点からは、Co、NiおよびMnからなる群より選択される少なくとも一種を含むリチウム含有酸化物が好ましい。リチウム含有酸化物は、さらにAlなどの典型金属元素を含んでもよい。
【0027】
また、上記正極活物質は、レート特性の改善の観点から、活物質表面をコーティング材で被覆しても良い。コーティング材としては、具体的には、Li4Ti5O12、LiTaO3、Li4NbO3、LiAlO2、Li2ZrO3、Li2WO4、Li2TiO3、Li2B4O7、Li3PO4、Li2MoO4、LiBO2やアルミナ(Al2O3)、炭素(C)などが挙げられる。
【0028】
一方、負極粉体層34に適した負極活物質としては、負極活物質とリチウムイオン伝導性固体電解質との混合合材、あるいは負極活物質が単独で用いられる。負極活物質としては、リチウムイオンを挿入および脱離することができる限り、特に制限されず、全固体電池で使用される公知の負極活物質が利用できる。負極活物質としては、例えば、リチウムイオンを挿入および脱離可能な炭素質材料の他、リチウムイオンを挿入および脱離可能な金属や半金属の単体、合金、または化合物などが挙げられる。炭素質材料としては、黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛など)、ハードカーボン、非晶質炭素などが例示できる。金属や半金属の単体、合金としては、リチウム金属や合金、Si単体などが挙げられる。化合物としては、例えば、酸化物、硫化物、窒化物、水化物、シリサイド(リチウムシリサイドなど)などが挙げられる。酸化物としては、チタン酸化物、ケイ素酸化物などが挙げられる。負極活物質は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。例えば、ケイ素酸化物と炭素質材料とを併用してもよい。特に、黒鉛粒子と黒鉛粒子を被覆する非晶質炭素とを含む被覆粒子がさらに好ましい。結晶配向性の小さい黒鉛を用いることで、膨張収縮が多方向に平均化されて生じるため、繰り返し充放電を行なった場合の容量低下を低減できる。また、被覆粒子を用いると、粒子の表面全体に渡ってリチウムイオンの挿入および脱離が行なわれ、界面反応を円滑に行うことができる。よって、大気圧下で、拘束治具を用いない場合でも、充放電容量の低下を抑制できる。
【0029】
固体電解質は、有機系のポリマー電解質(有機固体電解質とも言う)、無機系の無機固体電解質などに大別されるが、固体電解質として、いずれを用いても構わない。また、無機固体電解質は、酸化物系の材料および硫化物系の材料に大別されるが、いずれを用いても構わない。さらに、無機固体電解質においては、結晶性または非晶質のもののうちから適宜選択することができる。すなわち、固体電解質は、有機化合物、無機化合物またはこれらの混合物からなる材料から適宜選択することができる。具体的には、固体電解質として用いることのできる材料としては、例えば、リチウムイオン伝導性固体電解質や、イオン伝導性が他の無機化合物よりも高いことが知られている硫化物系無機固体電解質である。固体電解質として用いることのできる材料としては、他に、Li2-SiO2、Li2-SiO2-P2O5などのリチウム含有金属酸化物(金属は一種以上)、LixPyO1-zN2などのリチウム含有金属窒化物、Li2S-P2S5系、Li2S-SiS2系、Li2S-B2S3系、Li2S-GeS2系、Li2S-SiS2-LiI系、Li2S-SiS2-Li3PO4系、Li2S-Ge2S2系、Li2S-GeS2-P2S5系、Li2S-GeS2-ZnS系などのリチウム含有硫化物系ガラス、およびPEO(ポリエチレンオキシド)、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)、リン酸リチウム(Li3PO4)、リチウムチタン酸化物などのリチウム含有遷移金属酸化物が挙げられる。無機固体電解質としては、硫化物(硫化物系無機固体電解質)が好ましい。硫化物としては、例えば、Li2Sと、周期表第13族元素、第14族元素、および第15族元素からなる群より選択された少なくとも一種の元素を含む一種または二種以上の硫化物とを含むものが好ましい。周期表第13~15族元素としては、特に限定されるものではないが、例えば、P、Si、Ge、As、Sb、Al等を挙げることができ、P、Si、Geが好ましく、特にPが好ましい。また、これらの元素(特に、P)とLiとを含む硫化物も好ましい。また、固体電解質層23,24に適した固体電解質は、正極粉体層14および負極粉体層34で用いられる固体電解質と同一または異なるものであってもよい。
【0030】
正極活物質、負極活物質および固体電解質としては、上述した材料に限られず、電池の分野において一般的なものも用いることができる。
【0031】
以下、上記全固体二次電池1の製造方法について
図3~
図8に基づき説明する。
【0032】
まず、
図3に示すように、正極集電体10の表面に、開口部11Aが形成された絶縁部材11を接着する。絶縁部材11の開口部11Aは、粉体積層体40が配置される空間であり、当該粉体積層体40に外周から食い込むとともに当該粉体積層体40が有する正極粉体層14に非接触となる大きさである。
【0033】
その後、
図4に示すように、絶縁部材11の開口部11Aに、正極粉体層14を配置する。この正極粉体層14は、後に厚さ方向に加圧されるので、この加圧による変形を考慮した形状にされる。
【0034】
その後、
図5に示すように、絶縁部材11と、絶縁部材11の開口部11Aに配置された正極粉体層14とに、固体電解質層23,24を配置する。固体電解質層23,24を配置する工程は、2つの工程に分けられる。これら2つの工程は、絶縁部材11の表面(上面)に、当該絶縁部材11の開口部11Aに配置された正極粉体層14を埋設するように固体電解質層の下部および中間部24を配置する工程と、固体電解質層の中間部24の表面(上面)に、空間部23Aおよび当該空間部23Aの外周を覆うように固体電解質層の上部23を配置する工程とからなる。固体電解質層23,24を配置する工程を、このような2つの工程に分けずに、固体電解質層23,24の厚さに差をつけながら当該固体電解質層23,24を配置するという、1つの工程にしてもよい。1つの工程にする具体例としては、静電法での成膜において、成膜された層の厚さに差をつけるために、使用するスクリーンの目開きを周縁部46と中央部49とで異ならせることが挙げられる。
【0035】
その後、
図6に示すように、固体電解質層の上部23に外周が覆われた空間部23Aに、負極粉体層34を配置する。負極粉体層34が配置されることで、粉体積層体40が形成される。また、粉体積層体40は、外側面44を含んだ周縁部46と、この周縁部46に囲われる中央部49とからなる。負極粉体層34の配置には、周縁部46の厚さが中央部49の厚さと略等しくなるようにする(製作上の誤差を含む)。言い換えれば、粉体積層体40は、固体電解質層の上部23の表面と、負極粉体層34の表面とが略面一(製作上の誤差を含む)になる。
【0036】
その後、
図7に示すように、略面一である固体電解質層の上部23および負極粉体層34の表面に、負極集電体30を配置する。
【0037】
最後に、
図8に示すように、正極集電体10および負極集電体30を、互いに接近させる方向に、数百MPa以上の高い圧力で押圧する。この押圧により、粉体積層体40が、薄くなるとともに厚さ方向に直交する方向に広がるが、隙間なく粉体で構成され、つまり粉体で密に構成される。そして、上記押圧により、
図1に示す全固体二次電池1が得られる。
【0038】
このように、上記全固体二次電池1およびその製造方法によると、正極粉体層14および負極粉体層34の外周が固体電解質層23,24で覆われるとともに、周縁部46の厚さが中央部49の厚さと等しいことにより、正負極間の短絡を防止することができる。
【0039】
また、外周粉体層23が固体電解質層の上部23となるので、十分に正極粉体層14および負極粉体層34を電気的に隔離することで正負極間の短絡が防止され、より電池性能を向上させることができる。
[実施の形態2]
【0040】
本発明の実施の形態2に係る全固体二次電池1は、
図2に示すように、周縁部46の厚さが上記中央部49の厚さを超えるものである。
【0041】
以下、上記実施の形態1と異なる部分である粉体積層体40の厚さに着目して説明するとともに、上記実施の形態1と同一の構成については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0042】
本発明の実施の形態2に係る全固体二次電池は、比較的崩れにくい部分である中央部49よりも、比較的崩れやすい部分である周縁部46を厚くすることで崩れにくくしたものである。
【0043】
以下、本発明の実施の形態2に係る全固体二次電池1の製造方法について
図9および
図10に基づき説明する。
【0044】
図9に示すように、本発明の実施の形態2に係る固体電解質層の上部23は、その後に配置される(または既に配置された)負極粉体層34の上面よりも高くなるように配置される。一方で、本発明の実施の形態2に係る負極粉体層34は、既に配置された(またはその後に配置される)固体電解質層の上部23の上面よりも低くなるように配置される。すなわち、周縁部46の厚さが中央部49の厚さを超えるように、固体電解質層の上部23および負極粉体層34が配置される。
【0045】
その後、固体電解質層の上部23および負極粉体層34の表面に、負極集電体30を配置する。
【0046】
最後に、
図10に示すように、正極集電体10および負極集電体30を、互いに接近させる方向に、平坦なプレス面を有する弾性体により、数百MPa以上の高い圧力で押圧する。この押圧により、粉体積層体40が、薄くなるとともに厚さ方向に直交する方向に広がるが、隙間なく粉体で構成され、つまり粉体で密に構成される。ここで、比較的厚い周縁部46と比較的薄い中央部49とが、負極集電体30を介して平坦なプレス面を有する弾性体により押圧される。このため、厚い方の周縁部46が、薄い方の中央部49に比べてより強く押圧されるので、より密に押し固められる。このため、周縁部46は、中央部49よりも厚いことによる崩れにくさだけでなく、中央部49よりも密に押し固められることによる崩れにくさも担保される。結果として周縁部46は、中央部49と同等またはそれ以上に崩れにくくなる。
【0047】
このように、本発明の実施の形態2に係る全固体二次電池1およびその製造方法によると、上記実施の形態1での効果に加えて、崩れやすい部分である周縁部46がより崩れにくくなるので、正負極間の短絡を一層防止することができる。
【0048】
以下、本発明の具体的な実施例1および2と比較例1および2について説明する。以下の実施例(実施例1および2)と比較例(比較例1および2)との違いは、実施例では負極粉体層34の外周を覆う外周粉体層23が固体電解質層の上部23として存在するのに対し、比較例では外周粉体層23が存在しない点である。以下で説明する実施例で、特に明記がないものは、上記実施の形態2で説明したものと同一である。
【実施例1】
【0049】
本実施例1に係る全固体二次電池1は、
図11に示すように、粉体積層体40を平面視で真円形となるようにした。なお、
図11では、粉体積層体40の表面を見やすくするために、負極集電体30および絶縁部材を省略して示す。また、本実施例1に係る全固体二次電池1は、
図12に示すように、2つの絶縁部材11,12を有する。これら2つの絶縁部材11,12は、上記実施の形態2と同じ絶縁部材11である第一絶縁部材11と、この第一絶縁部材11の上に位置する第二絶縁部材12とからなる。第二絶縁部材12は、粉体積層体40の外側面44における固体電解質層の上部23と中間部24との境界辺りに接するように配置される。また、上記全固体二次電池1は、第一絶縁部材11と第二絶縁部材12との間に配置される第一接着層51と、第二絶縁部材12と負極集電体30との間に配置される第二接着層52とを有する。
【0050】
正極集電体10としては、厚さ20μmのエッチドアルミを用いた。一方で、正極粉体層14としては、正極活物質とリチウムイオン伝導性固体電解質とを7:3の重量比で混合したものを用いた。上記正極活物質はLiNi0.8Co0.15Al0.05O2とし、リチウムイオン電導性固体電解質はLi2S(70mol%)-P2S5(30mol%)とした。正極粉体層14を、その粉体材料のコロナ放電による帯電および不活性ガスによる吹き付けで正極集電体10に成膜し、φ50mmおよび押圧された後の厚さが100μmとなるように配置した。
【0051】
固体電解質層24としては、Li2S(70mol%)-P2S5(30mol%)を用いた。固体電解質層の下部および中間部24を、φ54mmおよび押圧された後の厚さが75μmとなるように配置した。その後、固体電解質層の上部23を、φ54~52の部分にのみ(φ52未満は空間部23A)、押圧された後の厚さが150μmとなるように配置した。
【0052】
負極粉体層34としては、負極活物質とリチウムイオン伝導性固体電解質とを6:4の重量比で混合したものを用いた。上記負極活物質はグラファイトとし、リチウムイオン電導性固体電解質はLi2S(70mol%)-P2S5(30mol%)とした。負極粉体層34を、φ52mmおよび押圧された後の厚さが100μmとなるように配置した。一方で、負極集電体30としては、厚さ18μmの粗化処理した銅箔を用いた。
【0053】
なお、第一接着層51および第二接着層52としては、両面接着テープを用いた。
【0054】
このようにして製造された4個の全固体二次電池1に充放電をすると、充放電に成功した全固体二次電池1は3個であった。すなわち、本実施例1に係る全固体二次電池1における充放電の成功率は、75%(4分の3)であった。
[比較例1]
【0055】
上記実施例1に係る全固体二次電池1において、固体電解質層の上部23に相当する部分を有しないのが本比較例1に係る全固体二次電池である。このため、本比較例1に係る全固体二次電池は、負極粉体層の外周が固体電解質層に覆われていない。
【0056】
このようにして製造された4個の全固体二次電池に充放電をすると、充放電に成功した全固体二次電池は0個であった。すなわち、本比較例1に係る全固体二次電池における充放電の成功率は、0%(4分の0)であった。
【実施例2】
【0057】
本実施例2に係る全固体二次電池1は、
図13および
図14に示すように、粉体積層体40を平面視で100mm角の正方形となるようにした。なお、
図13および
図14では、粉体積層体40の表面を見やすくするために、負極集電体30および絶縁部材11,12を省略して示す。本実施例2に係る全固体二次電池1の粉体積層体40が平面視で正方形なので、その周縁部46は、4つの角部47と、隣接する角部47の間に位置する4つの辺部48とからなる。本実施例2に係る全固体二次電池1では、角部47を辺部48および中央部49よりも厚くし、辺部48および中央部49を等しい厚さ(製作上の誤差を含む)にした。また、上記実施例1では押圧された後の厚さが150μmであった固体電解質層の上部23を、本実施例2の角部47では押圧された後の厚さが250μmとなるようにし(
図15左側参照)、本実施例2の辺部48では押圧された後の厚さが100μmとなるようにした(
図15右側参照)。本実施例2に関して、上述した内容以外は、上記実施例1と同一である。
【0058】
このようにして製造された5個の全固体二次電池1に充放電をすると、充放電に成功した全固体二次電池1は3個であった。すなわち、本実施例2に係る全固体二次電池1における充放電の成功率は、60%(5分の3)であった。
[比較例2]
【0059】
上記実施例2に係る全固体二次電池1において、固体電解質層の上部23に相当する部分を有しないのが本比較例2に係る全固体二次電池である。このため、本比較例2に係る全固体二次電池は、負極粉体層の外周が固体電解質層に覆われていない。
【0060】
このようにして製造された5個の全固体二次電池に充放電をすると、充放電に成功した全固体二次電池は1個であった。すなわち、本比較例2に係る全固体二次電池における充放電の成功率は、20%(5分の1)であった。
【0061】
上述した実施例と比較例との充放電の成功率を比較すると明らかなように、上記実施例に係る全固体二次電池1およびその製造方法においても、充放電の成功率を向上させることができ、言い換えれば、正負極間の短絡を防止することができた。
【0062】
上述した実施の形態1および2並びに実施例1および2では、外側面44より外周に配置された部材である絶縁部材11,12、第一接着層51および第二接着層52は、必須の構成ではないとして詳しく説明しなかった。しかしながら、正極集電体10および負極集電体30を、互いに接近させる方向に押圧しても、変形させないことまで考慮する場合、外側面44より外周に配置された部材(以下、外周部材と言う)も重要な構成となる。なぜなら、上記押圧により、粉体積層体40と外周部材とに生じる圧力差によっては、比較的薄くて弱い部材である正極集電体10および負極集電体30が、外側面44での折れ曲がりなどにより変形し得るからである。特に、正極集電体10および負極集電体30が、厚さ30μm以下のアルミニウムまたはエッチドアルミのような薄くて弱い部材であれば、上記変形は顕著となる。
[実施の形態3]
【0063】
以下、正極集電体10および負極集電体30を、互いに接近させる方向に押圧しても、変形させないことまで考慮する場合として、本発明の実施の形態3に係る全固体二次電池1の製造方法について
図16~
図18に基づき説明する。
【0064】
以下、上記実施の形態1および2と異なる部分である外周部材に着目して説明するとともに、上記実施の形態1および2と同一の構成については、同一の符号を付してその説明を省略する。なお、外周部材は、厳密には、正極集電体10および負極集電体30以外の、外側面44より外周に配置された部材であるから、
図16および
図17に示すように、本実施の形態3だと絶縁部材11である。
【0065】
本発明の実施の形態3に係る全固体二次電池1の製造方法では、
図17に示すように、正極集電体10および負極集電体30を互いに接近させる方向に押圧することにより、上記粉体積層体40と外周部材50である絶縁部材11とに等しい圧力(σ1=σ2)を生じさせる。言い換えれば、上記粉体積層体40に生じる圧力σ1と、外周部材50である絶縁部材11に生じる圧力σ2とが等しくなるように、正極集電体10および負極集電体30を互いに接近させる方向に押圧する。
【0066】
このような押圧は、次のような方法により、容易に達成される。具体的には、
図16に示すように、正極集電体10および負極集電体30を互いに接近させる方向に押圧する前において、粉体積層体40が、外側面44より外周に配置された外周部材50である絶縁部材11の厚さを超える厚さにされる。
【0067】
その後、
図17に示すように、正極集電体10および負極集電体30を、互いに接近させる方向に押圧する。この押圧の際に、上記粉体積層体40および外周部材50である絶縁部材11の厚さを等しくし、これにより、上記粉体積層体40と外周部材50である絶縁部材11とに等しい圧力(σ1=σ2)が生ずるようにする。
【0068】
このためには、上記粉体積層体40の上記押圧される前の厚さをT1、上記粉体積層体40の弾性係数をE1、上記外周部材50の上記押圧される前の厚さをT2、上記外周部材50の弾性係数をE2、上記粉体積層体40および上記外周部材50の上記押圧により等しくなる厚さをT’と定義すれば、以下の式(1)を満たす必要がある。
(E1/T1-E2/T2)T’=E1-E2・・・(1)
【0069】
上記式(1)は、材料力学の公式により導出される。すなわち、上記粉体積層体40の弾性係数をE1、上記押圧による粉体積層体40の圧縮率をε1(=σ1/E1)、上記外周部材50の弾性係数をE2、上記押圧による外周部材50の圧縮率をε2(=σ2/E2)と定義すれば、上記押圧の際に、上記粉体積層体40および外周部材50である絶縁部材11の厚さが等しくT’になることから、以下の式(2)が成立する。
T’=(1-ε1)T1=(1―ε2)T2・・・(2)
ここで、上記式(2)に、ε1=σ1/E1,ε2=σ2/E2を代入し、上記粉体積層体40と外周部材50である絶縁部材11とに等しい圧力(σ1=σ2)を生じさせることを考慮することで、上記式(1)が導出される。
【0070】
したがって、上記式(1)を満たすような、上記粉体積層体40および上記外周部材50の材料と、これらの上記押圧される前および押圧された後の厚さとを選定すれば、上記押圧の際に、上記粉体積層体40および外周部材50である絶縁部材11の厚さを等しくT’にするだけで、必然的に上記粉体積層体40と外周部材50である絶縁部材11とに等しい圧力(σ1=σ2)が生ずるようなる。
【0071】
上記押圧は、
図17に示すような周縁部46の厚さが中央部49の厚さと等しい全固体二次電池1に限られず、
図18に示すような周縁部46の厚さが中央部49の厚さを超える全固体二次電池1にも適用される。すなわち、
図18に示すように、このような全固体二次電池1であっても、正極集電体10および負極集電体30を互いに接近させる方向に押圧することにより、上記粉体積層体40と外周部材50である絶縁部材11とに等しい圧力(σ1=σ2)を生じさせる。
【0072】
このような押圧は、次のような方法により、容易に達成される。具体的には、上記押圧の際に、
図18に示すように、上記粉体積層体40の最も厚い部分の厚さが外周部材50である絶縁部材11の厚さと等しくし、これにより、上記粉体積層体40と外周部材50である絶縁部材11とに等しい圧力(σ1=σ2)が生ずるようにする。このためには、上記式(1)を満たす必要がある。但し、T1は上記粉体積層体40の上記押圧される前の最も厚い部分の厚さであり、T’は上記粉体積層体40の最も厚い部分および上記外周部材50の上記押圧により等しくなる厚さである。
【0073】
以下、上記実施の形態3をより具体的にした実施例3~5について
図19~
図21に基づき説明する。これら実施例3~5に係る全固体二次電池1では、上記押圧の際に、上記粉体積層体40の最も厚い部分の厚さが外周部材50の厚さと等しくし、上記式(1)を満たすことで、上記粉体積層体40と外周部材50とに等しい圧力(σ1=σ2)が生ずるようにした。また、これら実施例3~5に係る全固体二次電池1は、いずれも、外周部材50として、第一絶縁部材11、第二絶縁部材12、第一接着層51および第二接着52を有する。以下で説明する実施例で、特に明記がないものは、上記実施の形態3で説明したものと同一である。
【実施例3】
【0074】
本実施例3に係る全固体二次電池1では、
図19に示すように、第一絶縁部材11の厚さが第二絶縁部材12の厚さと等しく、第一接着層51の厚さが第二接着層52の厚さを超える。第一絶縁部材11および第二絶縁部材12の厚さが正極粉体層14の厚さよりも小さく、第一接着層51が固体電解質層の中間部24と上部23との境界の高さに配置される。
【実施例4】
【0075】
本実施例4に係る全固体二次電池1では、
図20に示すように、第一絶縁部材11の厚さが第二絶縁部材12の厚さを超え、第一接着層51の厚さが第二接着層52の厚さを超える。第一絶縁部材11の厚さが、固体電解質層の下部および中間部24の厚さと等しい。第二絶縁部材12の厚さが、正極粉体層14の厚さよりも小さい。
【実施例5】
【0076】
本実施例5に係る全固体二次電池1では、
図21に示すように、上記実施例5に係る第一絶縁部材11および第二絶縁部材12で厚さを入れ替えたものであり、それ以外は上記実施例4と同一である。
【0077】
このように、上記実施の形態3および実施例3~5に係る全固体二次電池1の製造方法によると、上記押圧により、上記粉体積層体40に生じる圧力σ1と、外周部材50に生じる圧力σ2とが等しくなる。このため、正極集電体10および負極集電体30が比較的薄くて弱い部材であっても、上記押圧により変形しないので、正負極間の短絡を抑制することができる。
【0078】
ところで、上記実施の形態および実施例では、外周粉体層23として固体電解質層の上部23について説明したが、硫化水素吸着層および/または水分吸着層であってもよい。外周粉体層23を硫化水素吸着層とすることで、粉体積層体40が破損した際などに発生する危険な硫化水素が吸着されるので、安全性を向上させることができる。一方で、外周粉体層23を水分吸着層とすることで、長期の使用により発生する水分が吸着されるので、長期の使用による電池性能の低下を抑えることができる。したがって、外周粉体層23を硫化水素吸着層および水分吸着層とすることで、安全性を向上させることができるとともに、長期の使用による電池性能の低下を抑えることができる。なお、外周粉体層23を硫化水素吸着層および/または水分吸着層としても、周縁部46の厚さが中央部49の厚さ以上であることにより、正負極間の短絡を防止することができるという効果は担保される。
【0079】
また、上記実施の形態および実施例では、全固体二次電池1の製造方法として、固体電解質層の上部23を配置した後に、負極粉体層34を配置するとして説明したが、負極粉体層34を配置した後に、固体電解質層の上部23を配置してもよい。
【0080】
さらに、上記実施の形態および実施例では、正極粉体層14および正極集電体10と負極粉体層34および負極集電体30とは、図示した通りの位置関係であるとして説明したが、この位置関係を入れ替えたものであってもよい。
【0081】
また、上記実施の形態および実施例では、平面視がそれぞれ真円形および正方形の粉体積層体40を具備する全固体二次電池1について説明したが、この形状に限定されるものではなく、平面視が楕円形、長方形または他の多角形などの粉体積層体40であってもよい。なお、電池性能を向上させる観点からは、崩れやすい部分である角部47を存在させない円形(真円形、楕円形、長円形または卵形など)の粉体積層体40であることが好ましい。
【符号の説明】
【0082】
1 全固体二次電池
10 正極集電体
11 絶縁部材
14 正極粉体層
24 固体電解質層
34 負極粉体層
23 外周粉体層
30 負極集電体
40 粉体積層体
44 外側面
46 周縁部
49 中央部