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  • 特許-磁気粘性流体装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-19
(45)【発行日】2022-10-27
(54)【発明の名称】磁気粘性流体装置
(51)【国際特許分類】
   F16D 37/02 20060101AFI20221020BHJP
【FI】
F16D37/02 E
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021148680
(22)【出願日】2021-09-13
(62)【分割の表示】P 2020204547の分割
【原出願日】2020-12-09
(65)【公開番号】P2022091678
(43)【公開日】2022-06-21
【審査請求日】2021-09-13
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000142595
【氏名又は名称】株式会社栗本鐵工所
(74)【代理人】
【識別番号】100149870
【弁理士】
【氏名又は名称】芦北 智晴
(72)【発明者】
【氏名】赤岩 修一
【審査官】西藤 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-202429(JP,A)
【文献】特開2014-181778(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 37/00-37/02
F16D 63/00
F16F 9/53
F16F 15/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性体からなる回転板と、
前記回転板の一方の面の半径方向内側に隙間を介して対向する内側対向面と、前記回転板の一方の面の半径方向外側に隙間を介して対向する外側対向面と、前記内側対向面と外側対向面との間に形成され前記回転板側に開口する環状の開口部とを有する第1ヨークと、
前記回転板を、前記内側対向面および前記外側対向面とともに隙間を介して挟むように配置された対向面を有する第2ヨークと、
前記第1ヨークの前記内側対向面および前記外側対向面と前記回転板の一方の面との隙間、ならびに、前記第2ヨークの前記対向面と前記回転板の他方の面との隙間に介在する磁気粘性流体と、
通電時に前記第1ヨークの前記内側対向面および前記外側対向面が互いに異なる磁極となり、前記第1ヨーク、前記第2ヨーク、前記磁気粘性流体および前記回転板を通過する磁路を形成するコイルと、
を備える磁気粘性流体装置において、
前記回転板の磁性体の透磁率が、前記第1ヨークおよび前記第2ヨークの透磁率よりも大きい、ことを特徴とする磁気粘性流体装置。
【請求項2】
請求項に記載の磁気粘性流体装置において、
前記コイルは、前記回転板の軸線を中心とする同心円状に配設され、
前記第1ヨークは、前記コイルの内側と、前記コイルの外側と、前記コイルの前記回転板と反対側と、前記コイルの前記回転板側の一部を除く部分とを包囲するように形成されている、ことを特徴とする磁気粘性流体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、相対回転可能な2つの部材間に磁気粘性流体が介在し、その磁気粘性流体に付与する磁場の強さを変えることで2つの部材間で伝達されるトルクを変えることができる磁気粘性流体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の磁気粘性流体装置は、例えば、特許文献1の図1図4および特許文献2の図2に開示されている。これらの文献に開示された磁気粘性流体装置は、相対回転可能な2つの部材間に介在する磁気粘性流体に付与する磁場の強さを変えることができる。これらの装置は、回転可能に設けられた円板と、円板に対して隙間を介して対向した対向面を有するヨークと、上記隙間に介在する磁気粘性流体とを備え、この磁気粘性流体に任意の強さの磁場を付与することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-181778号公報
【文献】特開2019-032050号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種の磁気粘性流体装置においては、ヨーク、円板およびこれらの隙間に介在する磁気粘性流体を通過する磁気回路を効率よく形成することが望まれる。すなわち、磁気回路が効率よく形成されると、一定の回転抵抗を発生させるために必要な消費電力を抑制できる。あるいは、同じ消費電力でより大きな回転抵抗を発生させることができる。
【0005】
そこで、本発明は、ヨーク、回転板(円板)およびこれらの隙間に介在する磁気粘性流体を通過する磁気回路を従来よりも効率よく形成することができる磁気粘性流体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1態様に係る磁気粘性流体装置は、磁性体からなる回転板と、前記回転板の少なくとも片方の面に隙間を介して対向する対向面を有するヨークと、前記ヨークの前記対向面と前記回転板との前記隙間に介在する磁気粘性流体と、通電時に前記ヨーク、前記磁気粘性流体および前記回転板を通過する磁路を形成するコイルと、を備えるものを前提とし、前記回転板の磁性体の透磁率が、前記ヨークの透磁率よりも大きい、ことを特徴としている。
【0007】
かかる構成を備える磁気粘性流体装置によれば、前記回転板の磁性体の透磁率が、前記ヨークの透磁率よりも大きいことから、ヨーク、回転板およびこれらの隙間に介在する磁気粘性流体を通過する磁気回路を効率よく形成することができる。
【0008】
本発明の第2態様に係る磁気粘性流体装置は、磁性体からなる回転板と、前記回転板の一方の面の半径方向内側に隙間を介して対向する内側対向面と、前記回転板の一方の面の半径方向外側に隙間を介して対向する外側対向面とを有する第1ヨークと、前記回転板を、前記内側対向面および前記外側対向面とともに隙間を介して挟むように配置された対向面を有する第2ヨークと、前記第1ヨークの前記内側対向面および前記外側対向面と前記回転板の一方の面との隙間、ならびに、前記第2ヨークの前記対向面と前記回転板の他方の面との隙間に介在する磁気粘性流体と、通電時に前記第1ヨークの前記内側対向面および前記外側対向面がそれぞれ磁極となり、前記第1ヨーク、前記第2ヨーク、前記磁気粘性流体および前記回転板を通過する磁路を形成するコイルと、を備えるものを前提とし、前記回転板の磁性体の透磁率が、前記第1ヨークおよび前記第2ヨークの透磁率よりも大きい、ことを特徴としている。
【0009】
かかる構成を備える磁気粘性流体装置によれば、前記回転板の磁性体の透磁率が、前記第1ヨークおよび前記第2ヨークの透磁率よりも大きいことから、ヨーク、回転板およびこれらの隙間に介在する磁気粘性流体を通過する磁気回路を効率よく形成することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る磁気粘性流体装置によれば、ヨーク、回転板およびこれらの隙間に介在する磁気粘性流体を通過する磁気回路を従来よりも効率よく形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施形態に係る磁気粘性流体装置の断面図である。
図2】本実施形態に係る磁気粘性流体装置に含まれる回転板及び回転軸を軸線方向から視た図である。
図3図1のA部拡大図である。
図4】他の実施形態に係る磁気粘性流体装置の断面図である。
図5図4のB部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態に係る磁気粘性流体装置について、図面を参照しつつ説明する。
【0013】
磁気粘性流体装置1は、図1に示すように、回転部2、第1ヨーク3、第2ヨーク4、コイル5、磁気粘性流体6、ケース7等で構成されている。
【0014】
回転部2は、第1ヨーク3および第2ヨーク4に対して軸線N回りに回転可能である。回転部2は、回転板21と回転軸22で構成されている。回転板21は、磁性体を用いて構成されている。回転板21に用いられている磁性体の透磁率は、後述する第1ヨーク3および第2ヨーク4の透磁率と同一、又は第1ヨーク3および第2ヨーク4の透磁率よりも大きい。回転板21には、スリット211が形成されている。このスリット211については更に後述する。回転板21に用いる材質は、特に限定される訳ではないが、電磁軟鉄(SUY系、A系)、電磁鋼板(無方向性電磁鋼板、方向性電磁鋼板)、パーマロイ(PBパーマロイ、PCパーマロイ)、けい素鋼板、アモルファス、冷間圧延鋼板(SPC)などを例示することができる。
【0015】
回転軸22は、回転板21の一方の面21aの中心部に垂直に接続されている。回転軸22は、ベアリング9を介して第1ヨーク3に設けられた軸穴31に支持されている。なお、回転軸22には非磁性体が用いられることが望ましい。
【0016】
第1ヨーク3は、回転板21の一方の面21aの半径方向内側に対して隙間を介して対向する内側対向面32と、回転板21の一方の面21aの半径方向外側に対して隙間を介して対向する外側対向面33とを有する。第1ヨーク3は、内側対向面32を端面とする内径側部35と、外側対向面33を端面とする外径側部36と、内径側部35の回転板21と反対側から外径側部36の回転板21と反対側に亘って形成された背部37とで構成されている。第1ヨーク3の全体は、略有底円筒状に形成され、円筒状のケース7の内側に嵌め込まれ固定されている。なお、本実施形態では、第1ヨーク3は1部材で構成されているが、第1ヨーク3は、複数部材で構成されていてもよい。第1ヨーク3に用いる材質は、特に限定される訳ではないが、一般構造用圧延鋼材(SS400)、機械構造用炭素鋼鋼材(S10C、S20C)などを例示することができる。
【0017】
第2ヨーク4は、回転板21の他方の面21bに対して隙間を介して対向する対向面41を有している。図1に例示する第2ヨーク4は、円板状の部材で構成されている。この第2ヨーク4も円筒状のケース7に嵌め込まれて固定されている。第2ヨーク4の中心部に形成された凹部42と、回転板21の他方の面21bの中心に形成された凹部212とで形成されるスペースに非磁性体からなる球体10が収容されている。なお、本実施形態では、第2ヨーク4は1部材で構成されているが、第2ヨーク4は、複数部材で構成されていてもよい。第2ヨーク4に用いる材質も、特に限定される訳ではないが、一般構造用圧延鋼材(SS400)、機械構造用炭素鋼鋼材(S10C、S20C)などを例示することができる。
【0018】
コイル5は、第1ヨーク3の内径側部35と外径側部36との間に形成されたスペースに、回転部2の軸線Nを中心とする同心円状に配設されている。このコイル5には、給電部11から任意の値の電流が供給される。図1に例示するコイル5は、非磁性体からなるボビン51に巻き付けられた状態で上記スペースに配設されている。
【0019】
磁気粘性流体6は、少なくとも、第1ヨーク3の内側対向面32および外側対向面33と回転板21の一方の面21aとの隙間、ならびに、第2ヨーク4の対向面41と回転板21の他方の面21bとの隙間に介在している。本実施形態では、図1において、灰色に塗り潰した部分に磁気粘性流体が充填されている。この磁気粘性流体6は、磁性粒子を分散媒に分散させてなる液体である。磁性粒子として、例えばナノサイズの金属粒子(金属ナノ粒子)からなるものを使用することができる。磁性粒子は磁化可能な金属材料からなり、金属材料に特に制限はないが軟磁性材料が好ましい。軟磁性材料としては、例えば鉄、コバルト、ニッケル及びパーマロイ等の合金が挙げられる。分散媒は、特に限定されるものではないが、一例として疎水性のシリコーンオイルを挙げることができる。磁気粘性流体における磁性粒子の配合量は、例えば3~40vol%とすることができる。磁気粘性流体にはまた、所望の各種特性を得るために、各種の添加剤を添加することも可能である。
【0020】
回転板21に設けられたスリット211は、第1ヨーク3の内側対向面32と、第1ヨーク3の外側対向面33との間に形成されたスペースに臨む位置に、回転方向に沿って形成され、回転板21を板厚方向に貫通して形成されている。本実施形態では、スリット211は、図2に示すように、軸線方向から視て円弧状に形成されている。図2に示す例では、同じ形状および大きさのスリットが回転軸線Nを中心とした円周に沿って形成されているが、スリット211の個数は図示する4つ以外の個数であってもよい。
【0021】
上記構成を備える磁気粘性流体装置1おいて、コイル5に電流が印加されると、例えば図1において矢印Pが示す方向に沿った磁路が形成され、回転板21の両側において磁場の強さに応じた粘度(ずり応力)が発現する。特に、回転板21の磁性体の透磁率が第1ヨーク3および第2ヨーク4の透磁率と同一、又はそれらのヨーク3,4の透磁率よりも大きいことから、回転板21の磁性体の透磁率が第1ヨーク3および第2ヨーク4の透磁率よりも小さい場合と比較して、磁束の漏れを少なくすることができる。例えば、回転板21を通過することなく、回転板21の外周部より半径方向外側に漏れる磁束を少なくすることができる。図3は、回転板21の外周部およびその周囲の磁束の状態を矢印付き破線を用いて示している。図3(a)は、回転板21の磁性体の透磁率が第1ヨーク3および第2ヨーク4の透磁率よりも小さい場合(以下「従来の場合」ともいう。)を模式的に表現し、図3(b)は、回転板21の磁性体の透磁率が第1ヨーク3および第2ヨーク4の透磁率と同一、又はそれらのヨーク3,4の透磁率よりも大きい場合(以下「発明適用の場合」ともいう。)を模式的に表現している。図3(a)および図3(b)に示すように、「発明適用の場合」は、「従来の場合」と比較して、回転板21の外周部とケース7との間を通過する磁束が少なくなり(つまり、磁束の漏れが少なくなり)、より多くの磁束が回転板21を通過することとなる。その結果、「発明適用の場合」は、「従来の場合」よりも効率の良い磁気回路が形成される。
【0022】
<他の実施形態>
つぎに、他の実施形態に係る磁気粘性流体装置1Aについて説明する。他の実施形態に係る磁気粘性流体装置1Aは、既述した実施形態に係る磁気粘性流体装置1において、第1ヨーク3を図4に示すような形状の第1ヨーク3Aに置き替えたものである。なお、図1に示す磁気粘性流体装置1の構成と同様の構成については、図4において同符号を付して説明を省略する。
【0023】
磁気粘性流体装置1Aにおける第1ヨーク3Aは、コイル5の内側と、コイル5の外側と、コイル5の回転板21と反対側と、コイル5の回転板21側の一部を除く部分とを包囲するように形成されている。図4に示す例では、第1ヨーク3Aは、回転板21側に軸線Nを中心とした環状の開口部38を有する断面略C字型に形成されている。図4に示す例では、第1ヨーク3Aは、3つの部材3A1,3A2,3A3で構成されているが、構成部材の数量は、3つに限定されず、3つ以外の数量であってもよい。なお、この第1ヨーク3Aによれば、図1に示した第1ヨーク3と比べて、内側対向面32および外側対向面33の面積を大きくすることができる。
【0024】
上記構成を備える磁気粘性流体装置1Aおいて、コイル5に電流が印加されると、例えば図4において矢印Pが示す方向に沿った磁路が形成され、回転板21の両側において磁場の強さに応じた粘度(ずり応力)が発現する。特に、回転板21の磁性体の透磁率が第1ヨーク3Aおよび第2ヨーク4の透磁率と同一、又はそれらのヨーク3A,4の透磁率よりも大きいことから、回転板21の磁性体の透磁率が第1ヨーク3Aおよび第2ヨーク4の透磁率よりも小さい場合と比較して、磁束の漏れが少なくなる。例えば、回転板21を通過することなく、回転板21の外周部より半径方向外側に漏れる磁束や、回転板21を通過することなく、第1ヨーク3Aの開口部38に漏れる磁束を少なくすることができる。図5は、第1ヨーク3Aの開口部38およびその周囲の磁束の状態を矢印付き破線を用いて示している。図5(a)は、回転板21の磁性体の透磁率が第1ヨーク3Aおよび第2ヨーク4の透磁率よりも小さい場合(以下「従来の場合」ともいう。)を模式的に表現し、図5(b)は、回転板21の磁性体の透磁率が第1ヨーク3Aおよび第2ヨーク4の透磁率と同一、又はそれらのヨーク3A,4の透磁率よりも大きい場合(以下「発明適用の場合」ともいう。)を模式的に表現している。図5(a)および図5(b)に示すように、「発明適用の場合」は、「従来の場合」と比較して、第1ヨーク3Aの開口部38を通過する磁束が少なくなり(つまり、磁束の漏れが少なくなり)、より多くの磁束が回転板21を通過することとなる。その結果、「発明適用の場合」は、「従来の場合」よりも効率の良い磁気回路が形成される。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明は、例えば、相対回転可能な2つの部材間に磁気粘性流体が介在し、その磁気粘性流体に付与する磁場の強さを変えることで2つの部材間で伝達されるトルクを変えることができる磁気粘性流体装置に適用できる。
【符号の説明】
【0026】
N 軸線
1,1A 磁気粘性流体装置
3,3A 第1ヨーク
4 第2ヨーク
5 コイル
6 磁気粘性流体
21 回転板
21a 一方の面
21b 他方の面
32 内側対向面
33 外側対向面
41 対向面
図1
図2
図3
図4
図5