(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-19
(45)【発行日】2022-10-27
(54)【発明の名称】ワイヤ放電加工装置
(51)【国際特許分類】
B23H 7/10 20060101AFI20221020BHJP
【FI】
B23H7/10 E
(21)【出願番号】P 2021203977
(22)【出願日】2021-12-16
【審査請求日】2022-05-13
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000132725
【氏名又は名称】株式会社ソディック
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】井上 浩利
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2014-0066823(KR,A)
【文献】特開昭62-130129(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23H 7/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤ電極と、上側ガイド装置と、下側ガイド装置とを備えるワイヤ放電加工装置であって、
前記上側ガイド装置及び前記下側ガイド装置は、被加工物を鉛直方向に沿って挟むように前記被加工物の上側及び下側に各々配置されて前記ワイヤ電極を案内し、
前記下側ガイド装置は、通電体と、前記通電体を前記下側ガイド装置内の所定の位置で固定する固定装置とを備え、
前記通電体は、水平1軸方向である第1方向に移動して前記ワイヤ電極に接触することで給電を行い、
前記固定装置は、前記第1方向と直交する他の水平1軸方向である第2方向において前記通電体が前記下側ガイド装置に対して相対移動が不可能な固定状態と、前記第2方向において前記通電体が前記下側ガイド装置に対して相対移動が可能な非固定状態とを切り替え可能に構成され、
且つ前記通電体を前記第1方向に往復移動可能に構成され、
前記下側ガイド装置に対して相対移動可能に構成され、前記非固定状態の前記通電体を押圧して前記第2方向に移動させる押圧装置と、
前記押圧装置を前記下側ガイド装置に対して相対移動させる移動装置と、
を含んでなるワイヤ放電加工装置。
【請求項2】
請求項
1に記載のワイヤ放電加工装置であって、
前記固定装置は、動力シリンダ及び付勢部材を含んでなり、
前記付勢部材は、前記通電体を前記第1方向に付勢するよう配置され、
前記固定状態において、前記動力シリンダは前記付勢部材の付勢力に抗して前記第1方向における前記ワイヤ電極に近づく向きに前記通電体を押し出して固定し、
前記非固定状態において、前記付勢部材は前記第1方向における前記ワイヤ電極から離れる向きに前記通電体を押し出す、ワイヤ放電加工装置。
【請求項3】
請求項
2に記載のワイヤ放電加工装置であって、
前記下側ガイド装置は、ガイドブロックを備え、
前記ガイドブロックは、内部に形成された収容空間に前記通電体を収容し、
前記固定状態において、前記動力シリンダは、前記通電体を押し出して前記収容空間の壁面に当接させて固定する、ワイヤ放電加工装置。
【請求項4】
請求項1~請求項
3の何れか1項に記載のワイヤ放電加工装置であって、
前記押圧装置は、前記移動装置に連結される本体部と、前記本体部から連続して設けられ前記本体部から前記下側ガイド装置内の前記通電体に先端が当接可能に前記第2方向の一方の向きに突出する押圧ピンとを備える、ワイヤ放電加工装置。
【請求項5】
請求項
4に記載のワイヤ放電加工装置であって、
前記押圧ピンは、前記被加工物の放電加工中に前記下側ガイド装置と干渉しない退避位置に移動可能に設けられる、ワイヤ放電加工装置。
【請求項6】
請求項
4又は請求項
5に記載のワイヤ放電加工装置であって、
前記押圧装置は、前記押圧ピンを第1押圧ピンとし、前記本体部を第1本体部として、前記移動装置に連結される第2本体部と、前記第2本体部から連続して設けられ前記第2本体部から前記下側ガイド装置内の前記通電体に先端が当接可能に前記第2方向の他方の向きに突出する第2押圧ピンとをさらに備え、
前記第1押圧ピン及び前記第2押圧ピンは、前記第2方向において前記通電体を挟んで配置される、ワイヤ放電加工装置。
【請求項7】
ワイヤ電極と、上側ガイド装置と、下側ガイド装置とを備えるワイヤ放電加工装置であって、
前記上側ガイド装置及び前記下側ガイド装置は、被加工物を鉛直方向に沿って挟むように前記被加工物の上側及び下側に各々配置されて前記ワイヤ電極を案内し、
前記下側ガイド装置は、通電体と、前記通電体を前記下側ガイド装置内の所定の位置で固定する固定装置とを備え、
前記通電体は、水平1軸方向である第1方向に移動して前記ワイヤ電極に接触することで給電を行い、
前記固定装置は、前記第1方向と直交する他の水平1軸方向である第2方向において前記通電体が前記下側ガイド装置に対して相対移動が不可能な固定状態と、前記第2方向において前記通電体が前記下側ガイド装置に対して相対移動が可能な非固定状態とを切り替え可能に構成され、
前記下側ガイド装置に対して相対移動可能に構成され、前記非固定状態の前記通電体を押圧して前記第2方向に移動させる押圧装置と、
前記押圧装置を前記下側ガイド装置に対して相対移動させる移動装置と、
を含んでなり、
前記押圧装置は、前記移動装置に連結される第1本体部と、前記第1本体部から連続して設けられ前記第1本体部から前記下側ガイド装置内の前記通電体に先端が当接可能に前記第2方向の一方の向きに突出する第1押圧ピンと、前記移動装置に連結される第2本体部と、前記第2本体部から連続して設けられ前記第2本体部から前記下側ガイド装置内の前記通電体に先端が当接可能に前記第2方向の他方の向きに突出する第2押圧ピンとを備え、
前記第1押圧ピン及び前記第2押圧ピンは、前記第2方向において前記通電体を挟んで配置される、ワイヤ放電加工装置。
【請求項8】
請求項7に記載のワイヤ放電加工装置であって、
前記第1押圧ピンは、前記被加工物の放電加工中に前記下側ガイド装置と干渉しない退避位置に移動可能に設けられる、ワイヤ放電加工装置。
【請求項9】
請求項1~請求項
8の何れか1項に記載のワイヤ放電加工装置であって、
前記上側ガイド装置は、通電体と、固定装置とを備え、
前記通電体は、水平1軸方向である第3方向に移動して前記ワイヤ電極に接触することで給電を行い、
前記固定装置は、前記第3方向と直交する他の水平1軸方向である第4方向において前記通電体が前記上側ガイド装置に対して相対移動が不可能な固定状態と、前記第4方向において前記通電体が前記上側ガイド装置に対して相対移動が可能な非固定状態とを切り替え可能に構成され、
前記上側ガイド装置に対して相対移動可能に構成され、当該非固定状態の前記通電体を押圧して前記第4方向に移動させる押圧装置と、
前記押圧装置を前記上側ガイド装置に対して相対移動させる移動装置と、を含んでなるワイヤ放電加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤ放電加工装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ワイヤ放電加工方法とは、工具電極であるワイヤ電極と被加工物との間に形成される加工間隙に間欠的に繰返し放電を発生させて、放電エネルギによって被加工物を所望の形状に切断する加工方法である。一般に、ワイヤ電極は、水平に設置されている被加工物を挟んで設けられる一対のワイヤガイドによって被加工物に対して位置決めされる。加工中は、一対のワイヤガイドによって案内され、所定の走行経路に沿って所定の送出速度で走行しており、加工間隙には常にワイヤ電極の加工に未使用の部位が供給される。それぞれワイヤガイドを含む上側ガイド装置と下側ガイド装置のうちの少なくとも一方に、加工電源の一方の極に電気的に接続された通電体が収容されており、通電体がワイヤ電極に接触することによってワイヤ電極に電流が供給される。
【0003】
通電体は、例えば、タングステンカーバイトのような耐摩耗性を有する導電性の金属材料で形成されているが、走行するワイヤ電極と長時間接触することによって消耗し、ワイヤ電極に十分に電流を供給できなくなる。そのため、通電体は、所定の時間使用した後に新しい通電体と交換される。このとき、通電体の形状によっては、通電体を直ちに交換するのではなく、通電体のワイヤ電極と接触する位置を変更することによって、通電体を可能な限り長く使用するようにすることができる。特許文献1に開示されるワイヤガイド装置においては、内部に形成された支持孔内において通電体を手動でずらすことで、通電体とワイヤ電極との接触状態を変更することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されるようなワイヤガイド装置においては、通電体のワイヤ電極と接触する位置を変更するときに、作業者が専用の工具を使って止めネジを緩めて通電体を固定状態から解放し、通電体を鉛直方向に張架されているワイヤ電極に対して直交する水平1軸方向に所定量スライドさせてから再度固定する作業を行っている。このとき、ガイド装置の周囲には、加工槽壁、加工ヘッド、自動結線装置、ワークスタンドのような周辺部材があって、作業の障害になっている。とりわけ、被加工物の下側に配置される下側ガイド装置内の通電体の位置を変更するときには、作業者の手が下側ガイド装置に届きにくく、また、工具を扱いにくく、作業者の負担がより大きいので、通電体をスライドさせて位置を変更する作業における作業者の負担を軽減し、作業時間を短縮することが望まれている。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、通電体とワイヤ電極との接触状態を機械的に変更することが可能なワイヤ放電加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、ワイヤ電極と、上側ガイド装置と、下側ガイド装置とを備えるワイヤ放電加工装置であって、前記上側ガイド装置及び前記下側ガイド装置は、被加工物を鉛直方向に沿って挟むように前記被加工物の上側及び下側に各々配置されて前記ワイヤ電極を案内し、前記下側ガイド装置は、通電体と、前記通電体を前記下側ガイド装置内の所定の位置で固定する固定装置とを備え、前記通電体は、水平1軸方向である第1方向に移動して前記ワイヤ電極に接触することで給電を行い、前記固定装置は、前記第1方向と直交する他の水平1軸方向である第2方向において前記通電体が前記下側ガイド装置に対して相対移動が不可能な固定状態と、前記第2方向において前記通電体が前記下側ガイド装置に対して相対移動が可能な非固定状態とを切り替え可能に構成され、前記下側ガイド装置に対して相対移動可能に構成され、前記非固定状態の前記通電体を押圧して前記第2方向に移動させる押圧装置と、前記押圧装置を前記下側ガイド装置に対して相対移動させる移動装置と、を含んでなるワイヤ放電加工装置が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係るワイヤ放電加工装置によると、少なくとも、下側ガイド装置において、下側通電体がワイヤ電極に対して接離する方向である水平1軸方向の第1方向に下側通電体を往復移動させることによって下側ガイド装置内の所定の位置で固定する固定装置により、下側通電体が下側ガイド装置に対して相対移動が不可能な固定状態と、相対移動が可能な非固定状態とを切り替え可能である。そして、押圧装置が、非固定状態の下側通電体を押圧して第1方向に直交する他の水平1軸方向の第2方向に移動させる。従って、作業者の手作業によらずに下側通電体を移動させて、下側通電体におけるワイヤ電極と接触する位置を機械的に変更することが可能である。これにより、下側通電体の位置を変更する作業において、作業者の負担が軽減され、作業時間を短縮することができる。
【0009】
以下、本発明の種々の実施形態を例示する。以下に示す実施形態は互いに組み合わせ可能である。
好ましくは、前記固定装置は、前記通電体を前記第1方向に往復移動可能に構成される。
好ましくは、前記通電体移動固定装置は、ピストン動力シリンダ及び付勢部材を備え含んでなり、前記付勢部材は、前記下側通電体を前記第1方向に付勢するよう配置され、前記固定状態において、前記ピストン動力シリンダは前記付勢部材の付勢力に抗して前記第1方向における前記ワイヤ電極に近づく向きに前記下側通電体を押し出して固定し、前記非固定状態において、前記付勢部材は前記第1方向における前記ワイヤ電極から離れる向きに前記下側通電体を押し出す。
好ましくは、前記下側ガイド装置は、ガイドブロックを備え、前記ガイドブロックは、内部に形成された収容空間に前記通電体を収容し、前記固定状態において、前記動力シリンダは、前記通電体を押し出して前記収容空間の壁面に当接させて固定する。
好ましくは、前記押圧装置は、前記移動装置に連結される本体部と、前記本体部から連続して設けられ前記本体部から前記下側ガイド装置内の前記通電体に先端が当接可能に前記第2方向の一方の向きに突出する押圧ピンとを備える。
好ましくは、前記押圧ピンは、前記被加工物の放電加工中に前記下側ガイド装置と干渉しない退避位置に移動可能に設けられる。
好ましくは、前記押圧装置は、前記押圧ピンを第1押圧ピンとし、前記本体部を第1本体部として、前記移動装置に連結される第2本体部と、前記第2本体部から連続して設けられ前記第2本体部から前記下側ガイド装置内の前記通電体に先端が当接可能に前記第2方向の他方の向きに突出する第2押圧ピンとをさらに備え、前記第1押圧ピン及び前記第2押圧ピンは、前記第2方向において前記通電体を挟んで配置される、
好ましくは、前記上側ガイド装置は、通電体と、固定装置とを備え、前記通電体は、水平1軸方向である第3方向に移動して前記ワイヤ電極に接触することで給電を行い、前記固定装置は、前記第3方向と直交する他の水平1軸方向である第4方向において前記通電体が前記上側ガイド装置に対して相対移動が不可能な固定状態と、前記第4方向において前記通電体が前記上側ガイド装置に対して相対移動が可能な非固定状態とを切り替え可能に構成され、前記上側ガイド装置に対して相対移動可能に構成され、前記ワイヤ放電加工装置は、当該非固定状態の前記通電体を押圧して前記第4方向に移動させる押圧装置と、前記押圧装置を前記上側ガイド装置に対して相対移動させる移動装置と、を含んでなる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態に係るワイヤ放電加工装置100を示す模式図である。
【
図2】下側ガイド装置31bの上方から見た斜視図である。
【
図3】下側ガイド装置31bの上方の別の角度から見た斜視図である。
【
図4】下側ガイド装置31bのハウジング4の上方から見た分解斜視図である。
【
図5】下側ガイド装置31bのハウジング4の下方から見た分解斜視図である。
【
図6】下側通電体33bが固定状態にある場合の、
図2におけるA-A断面図である。
【
図7】下側通電体33bが固定状態にある場合の、
図2におけるB-B断面図である。
【
図8】下側通電体33bが非固定状態にある場合の、
図2におけるB-B断面図である。
【
図10】第1押圧ピン82が退避位置にある状態を示す概略図である。
【
図11】制御装置7の構成を示すブロック図である。
【
図12】他の実施形態に係る押圧装置8の構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。以下に示す実施形態中で示した各特徴事項は、互いに組み合わせ可能である。また、各特徴事項について独立して発明が成立する。
【0012】
1.ワイヤ放電加工装置
1.1.全体構成
図1は、本発明の実施形態に係るワイヤ放電加工装置100を示す模式図である。
図1に示すように、本実施形態のワイヤ放電加工装置100は、ワイヤ電極2、上側ガイド装置31a、及び下側ガイド装置31bを備える。上側ガイド装置31a及び下側ガイド装置31bは、被加工物Wを鉛直方向に挟むように上側及び下側に各々配置され、ワイヤ電極2を案内する。ワイヤ電極2は被加工物Wに形成された下穴に挿通され、ワイヤ電極2と被加工物Wとの間に形成される加工間隙10に放電を発生させることにより加工が行われる。
【0013】
ワイヤ放電加工装置100は、ワイヤ供給機構1、自動結線装置17、ワイヤガイド機構3、及びワイヤ回収機構6を、ワイヤ電極2の走行経路に沿ってこの順に備える。また、ワイヤ放電加工装置100は、電源装置91、圧縮空気供給装置92、及び加工液供給装置93を備える。以下の説明において、ワイヤ電極2の走行経路に沿って、相対的にワイヤ供給機構1に近い側を上流とし、ワイヤ回収機構6に近い側を下流とする。また、ワイヤ放電加工装置100のワイヤ電極2の走行経路上にあるガイドローラのような複数の回転体の回転方向について、ワイヤ電極2が上流から下流へ走行する際に回転する方向を正転方向とし、正転方向とは反対の回転方向を逆転方向とする。
【0014】
1.2.ワイヤ供給機構1
ワイヤ供給機構1は、新しいワイヤ電極2を所定の走行経路に沿って連続的に供給するように構成され、リール11、ブレーキ装置13、サーボプーリ14、張力付与装置15、及び断線検出器16を主に備える。リール11に取り付けられたワイヤボビン12が正転方向に回転すると、新規のワイヤ電極2が連続的に引き出される。ブレーキ装置13は、例えば、ヒステリシスモータのようなブレーキモータ、又は電磁クラッチのような電磁ブレーキであり、リール11に逆転方向のトルクを加えてワイヤボビン12の空転を阻止し、ワイヤ電極2の弛みを防止する。
【0015】
サーボプーリ14は、鉛直方向に自由に移動可能に設置され、自重によってワイヤ電極2に対して鉛直方向下向きに一定の荷重を加える。ワイヤ電極2の張力の微小な変動に伴いサーボプーリ14が鉛直方向に移動し、ワイヤ電極2に発生する微小な振動を吸収する。サーボプーリ14を通過後のワイヤ電極2の走行経路には、ワイヤ電極2の破断を検出するための断線検出器16が配置される。
【0016】
張力付与装置15は、ワイヤ回収機構6と協働してワイヤ電極2に対して所定の張力を付与するように構成され、送出ローラ15a、送出モータ15b、張力検出器15c、及びピンチローラ15dを備える。送出ローラ15aは、送出モータ15bによって駆動されて自転する。ワイヤ電極2は、ピンチローラ15dによって送出ローラ15aの外周面に押し付けられることにより、走行のための駆動力を得る。また、ワイヤ電極2はピンチローラ15dを含む複数のローラによって送出ローラ15aの外周面に沿って移動される。張力検出器15cは、例えば歪ゲージであり、ワイヤ電極2の張力を検出するために設けられる。送出モータ15bは、サーボモータであり、張力検出器15cによる張力の検出結果に基づきサーボ制御される。これにより、設定された張力値が小さい場合でもワイヤ電極2の張力が安定し、ワイヤ電極2の弛み及び断線をより確実に防ぐことができる。
【0017】
ワイヤ電極2が上側ガイド装置31a及び下側ガイド装置31bに案内されている状態では、送出ローラ15aと巻取装置64の巻取ローラ64aとの回転速度差を調整することで、ワイヤ電極2に所定の張力を付与することができる。また、ワイヤ電極2を結線する際には、送出ローラ15aを正転方向に定速回転して、ワイヤ電極2の先端を下穴に挿通、通過させてワイヤ回収機構6に捕捉させる。また、ワイヤ電極2の結線をやり直す際には、送出ローラ15aを逆転方向に定速回転して、ワイヤ電極2を所定位置まで引き上げる。
【0018】
1.3.自動結線装置17
自動結線装置17は、ワイヤ供給機構1から送り出されたワイヤ電極2の先端を被加工物Wに形成された下穴に挿通し、上側ガイド装置31a及び下側ガイド装置31bに各々設けられた上側ワイヤガイド32a及び下側ワイヤガイド32bの間にワイヤ電極2を自動的に張架する。自動結線装置17は、ガイドパイプ18及び昇降装置19を備える。ガイドパイプ18は、所定の走行経路から逸脱しないようにワイヤ電極2を上流側から上側ワイヤガイド32aまで案内する。
図1には、ガイドパイプ18が上限位置に配置された状態が示されている。ガイドパイプ18は、上限位置と、ガイドパイプ18の下端が上側ワイヤガイド32aの上面の直上に位置する下限位置との間を昇降装置19によって鉛直方向に移動可能に構成される。昇降装置19は、ワイヤ電極2を焼き鈍す又は切断する際にはガイドパイプ18を上限位置に移動し、ワイヤ電極2の先端を下穴に挿通する際にはガイドパイプ18を下限位置に移動する。
【0019】
また
図1が示す通り、ガイドパイプ18の入り口の直上にはワイヤ振動装置20が設けられている。ワイヤ振動装置は、圧縮空気供給装置92から供給される圧縮空気によりワイヤ電極2に対して走行経路に沿って直接又は間接的に圧力を加える。これにより、ワイヤ電極2が微小に上下動し下穴に通りやすくなる。
【0020】
1.4.ワイヤガイド機構3
図1に示すように、ワイヤガイド機構3は、上側ガイド装置31a及び下側ガイド装置31bを備え、被加工物Wの付近においてワイヤ電極2を所定の走行経路上に位置決めして案内するように構成される。以下の説明では、下側ガイド装置31bの構成を具体例として詳細に説明する。
【0021】
図1に示すように、本実施形態の下側ガイド装置31bは、ハウジング4内に下側ワイヤガイド32b、下側通電体33b、下側通電体33bの下側開閉装置、及び下側通電体33bの下側固定装置等の構成部品が組み込まれて構成される。ワイヤ電極2は、被加工物Wの下側に配置される下側ガイド装置31bを導通され、ワイヤ回収機構6へ案内される。なお、以下の説明において、鉛直方向Z、第1方向D1、及び第2方向D2を
図1に示すように定める。第1方向D1は、水平1軸方向であり、下側通電体33bがワイヤ電極2と接触又は離間する際に移動する方向である。第2方向D2は、第1方向と直交する他の水平1軸方向である。
【0022】
下側開閉装置は、下側通電体33bを第1方向D1に往復移動させることによって、下側通電体33bをワイヤ電極2に対して接触および離間させる手段である。本発明においては、下側通電体33bがワイヤ電極2に対して接触している予め定められた所定の位置を加工位置とし、下側通電体33bが閉の状態にあるという。一方、下側通電体33bがワイヤ電極2に対して接触しないように離間している所定の位置を退避位置とし、下側通電体33bが開の状態にあるという。下側開閉装置は、加工中に下側通電体33bを加工位置に移動してワイヤ電極2と接触させ、例えば、自動結線時、あるいは下側通電体33bの交換時に下側通電体33bを退避位置に移動する。下側固定装置は、下側通電体33bを第1方向D1に往復移動させることによって、下側通電体33bを前記下側ガイド装置内の所定の位置で固定する手段である。下側固定装置は、第2方向D2において下側通電体33bが下側ガイド装置31bに対して相対移動が不可能な固定状態と、第2方向D2において下側通電体が前記下側ガイド装置に対して相対移動が可能な非固定状態とを切り替え可能に構成されている。本実施形態の下側ガイド装置31bにおいては、下側通電体33bを所定の加工位置に移動させて閉じると同時に固定し、下側通電体33bを所定の退避位置に移動させて開くと同時に固定から解放するように、実質的に開閉装置と固定装置が同じ部材で構成されており、いわば、固定装置が開閉装置を兼用している。
【0023】
図2から
図6に示すように、ハウジング4は、ベース41、ガイドブロック42、スライドブロック43、及び噴流ノズル44を備える。なお、視認性の観点から
図2から
図6においては一部省略されているが、ハウジング4の構成部品間には、密閉性を高めるためにOリングやワッシャ等のシール部材が適宜介装される。
【0024】
ベース41は、図示しない下アームの先端に固定される。ベース41は、下アームに下側ガイド装置31bを取り付けて下アームに下側ガイド装置31bを支持させるための部材である。ベース41は、下側ガイド装置31bの本体であるハウジング4の下側に配置され、中心付近にはワイヤ電極2が挿通される電極挿通孔41aが鉛直方向Zに沿って形成される。ベース41の上面にはガイドブロック42を受け入れるための凹部41bが形成される。
【0025】
ガイドブロック42はベース41の上方に配置され、下面から突出する略円筒形状の突出部42eがベース41の凹部41bに嵌入される。ガイドブロック42には、ワイヤ電極を挿通するための電極挿通孔42aが鉛直方向Zに沿って形成される。また、第1方向D1に沿って貫通孔42bが形成され、貫通孔42bにスライドブロック43が挿入される。また、ガイドブロック42の内部には、
図7及び
図8に示すように第2方向D2に沿ってガイドブロック42を貫通するように収容空間42dが形成され、収容空間42dの両端の開口部42d1,42d2の何れかから平板形状の下側通電体33bが挿入されて収容空間42d内に収容される。ガイドブロック42の上部には、下側ワイヤガイド32bが配置される。本実施形態の下側ワイヤガイド32bは、ダイスガイドである。下側ワイヤガイド32bはガイド孔32b1を備え、ワイヤ電極2は、ガイド孔32b1の内面との間に数μmのクリアランスが設けられた状態で下側ワイヤガイド32bに挿通されることで鉛直方向Zに案内される。また、ガイドブロック42の下部には、ワイヤ電極2をガイドブロック42からベース41の電極挿通孔41aに案内するためのダイスガイドである出口ガイド51が配置される。
【0026】
スライドブロック43は、略直方体形状の平板部43aと、平板部43aの対向する一対の端面のうちの一方に設けられた略円柱形状のシャフト43bと、他方の端面に設けられた円筒形状の円筒部43cとを備える。平板部43aには、ワイヤ電極2を挿通するための電極挿通孔43a1が鉛直方向Zに沿って形成され、下側通電体33bを挿通するためのスロット形状の貫通孔43a2が第2方向D2に沿って形成される。第1方向D1における貫通孔43a2の幅は、下側通電体33bが挿通可能となる程度のクリアランスを設けたうえで、第1方向D1における下側通電体33bの厚みと概ね同じに設定されている。また、貫通孔43a2は、ガイドブロック42の収容空間42dと連続するように形成されている。ガイドブロック42の開口部42d1,42d2から挿入された下側通電体33bは、貫通孔43a2に挿通され平板部43aを横断した状態で収容空間42dに収容される。また、貫通孔43a2及び電極挿通孔43a1は、これらの孔が占める空間の一部が重複するように形成されている。これにより、重複空間において、貫通孔43a2に挿通された下側通電体33bが、電極挿通孔43a1に挿通されたワイヤ電極2に接触することが可能である。
【0027】
シャフト43bには付勢部材52が巻装され、付勢部材52の一端はカバー部材53に当接している。スライドブロック43は、付勢部材52により第1方向D1に付勢される。本実施形態の付勢部材52は圧縮バネであり、スライドブロック43は
図6における第1方向D1に沿って、具体的には
図6におけるD1+の向きに付勢される。
【0028】
円筒部43cの端面には開口部43c1が形成され、円筒部43cの内部には、開口部43c1と平板部43aの貫通孔43a2とを接続する挿入孔43c2が形成される。挿入孔43c2にはプランジャボルト54が挿入される。プランジャボルト54の先端のボール54aは、下側通電体33bに当接しており、内部のスプリング54bの比較的小さい付勢力により下側通電体33bを第1方向D1に沿ってD1-の向きに常時押圧する。
【0029】
図6から
図8に示すように、円筒部43cには動力シリンダ55が取り付けられる。動力シリンダ55は、シリンダ55aと、シリンダ55aの内部で摺動可能なピストン55bとを備える。ピストン55bは、中心付近をプランジャボルト54が貫通した状態で、スライドブロック43の円筒部43cに嵌合される。本実施形態における動力シリンダ55は、エアシリンダであり、接続管56を経由して供給される圧縮空気の圧力により、ピストン55bが第1方向D1に往復移動する。なお、シリンダ55a内への異物の混入を防ぐために、シリンダ55aの側面にスクレーパ57を装着してもよい。また、本実施形態においては、ピストン55bの端面に金属製のプレート58が配置されている。ピストン55bがD1+の向きに所定距離移動すると、
図8にプレート58がシリンダ55aに当接し、これによりピストン55bのさらなる移動が規制される。
【0030】
噴流ノズル44は、加工液供給装置93から供給される加圧加工液を加工間隙10に噴射するために設けられる。噴流ノズル44には、ワイヤ電極を挿通するための電極挿通孔44aが形成されている。ベース41、ガイドブロック42、スライドブロック43、及び噴流ノズル44の電極挿通孔41a,42a,43a1,44aは、鉛直方向Zに連続して設けられており、これによりハウジング4内にワイヤ電極2の走行経路が形成される。
【0031】
なお、上側ガイド装置31aは、概ねベース41を除いて下側ガイド装置31bと同様の構成部品を用いて構成することができ、詳細な説明は省略する。特に、上側ガイド装置31aの上側固定装置は、下側ガイド装置31bの下側固定装置と同様に構成することができる。また、ワイヤ放電加工装置100は、上側ガイド装置31a及び下側ガイド装置31bのうちの一方を他方に対して水平方向に相対移動させる、所謂テーパ装置(不図示)を備える。このような相対移動により、ワイヤ電極2を被加工物Wに対して傾斜させて加工を行うことができる。
【0032】
上側ガイド装置31a及び下側ガイド装置31b内に収容された上側通電体33a及び下側通電体33bは、第1方向D1に沿って移動可能であり、D1-の向きに移動してワイヤ電極2に接触することで給電を行い、接触した状態からD1+の向きに移動してワイヤ電極2から離間することで給電が停止される。本実施形態においては、下側ガイド装置31b内の動力シリンダ55及び付勢部材52が下側固定装置を構成し、下側通電体33bを第1方向D1に沿って往復移動させる。
【0033】
電源装置91は、ワイヤ電極2と被加工物Wに給電を行うためのものであり、直流電源、スイッチング素子、及び電流の逆流を防止するためのダイオードを含む放電加工回路(不図示)を備える。通常、上側通電体33a及び下側通電体33bは、電源装置91の直流電源の正極に接続されている。また、直流電源の負極は、被加工物Wに接続されている。上側通電体33a及び下側通電体33bが第1方向D1に移動してワイヤ電極2と接触することにより、電源装置91が上側通電体33a、下側通電体33b、及び被加工物Wを通してワイヤ電極2と被加工物Wとの間の加工間隙10に電圧パルスを繰り返し印加し、放電が発生する。上側通電体33a及び下側通電体33bとワイヤ電極2との接触の程度が大きいほど、接触箇所における接触抵抗が小さくなり給電量が大きくなる。
【0034】
1.5.ワイヤ回収機構6
ワイヤ回収機構6は、加工に供されて消耗したワイヤ電極2を加工間隙10から回収する。ワイヤ回収機構6は、方向転換ローラ61、搬送パイプ62、アスピレータ63、巻取装置64、ワイヤ切断機65、及びバケット66を備える。下側ガイド装置31bを通過したワイヤ電極2は、方向転換ローラ61によって進行方向を水平方向に変えられて、搬送パイプ62に挿入される。搬送パイプ62の中のワイヤ電極2は、アスピレータ63によって吸引され推進力を得る。
【0035】
巻取装置64は、巻取ローラ64a、ピンチローラ64b、及び巻取モータ64cを備える。搬送パイプ62を通過したワイヤ電極2は、巻取装置64の巻取ローラ64aとピンチローラ64bとの間に挟持される。巻取ローラ64aは、定速回転モータである巻取モータ64cによって正転方向に所定の回転速度で回転し、ワイヤ電極2を走行させながらバケット66の直上まで引き込む。引き込まれたワイヤ電極2は、ワイヤ切断機65により適宜細断されバケット66内に収容される。
【0036】
1.6.押圧装置8
ワイヤ放電加工装置100は、押圧装置8を備える。押圧装置8は、下側ガイド装置31bに対して相対移動可能に構成され、下側ガイド装置31b内の下側通電体33bを押圧して第2方向D2に移動するように構成される。本実施形態の押圧装置8は、
図9に示すように、被加工物Wを固定する機構に取り付けて設けられる。ワイヤ放電加工装置100は、地面に水平に設置される基台であるベッド21と、ベッド21上に載置されるテーブル22と、テーブル22上に設けられたワークスタンド23とを備える。ワークスタンド23の上面に被加工物Wが固定される。上側ガイド装置31aおよび下側ガイド装置31bとワークスタンド23とを互いに直交する水平2軸方向に同時に相対移動させることによってワイヤ電極2と被加工物Wとを相対的に移動させ、被加工物Wの上面または下面における加工位置を任意に調整することができる。
【0037】
押圧装置8は、ワークスタンド23に連結される本体部81と、本体部81から連続して設けられ、第2方向D2の一方の向き(
図9のD2+の向き)に突出する第1押圧ピン82とを備える。第1押圧ピン82を下側ガイド装置31bのガイドブロック42の開口部42d1から収容空間42d内に挿入し、下側通電体33bの端面33b1を第1押圧ピン82の先端で押圧することにより、下側通電体33bを第2方向のD2+の向きに移動させることができる。
【0038】
本実施形態のワークスタンド23は相対的に水平2軸方向に移動可能であるため、ワークスタンド23を下側ガイド装置31bに対して水平1軸方向、
図9に示される本実施形態においては、第2方向D2+の方向に相対移動させる手段を移動装置として利用することで、ワークスタンド23に連結して取付固定されている押圧装置8を下側ガイド装置31bに対して第2方向D2+の方向に移動させることが可能である。また、本体部81が、ワークスタンド23に対して第2方向D2に沿ってスライド可能であるように構成されている。上述の下側通電体33bの押圧は、被加工物Wの放電加工が行われていないときに行われる。被加工物Wの放電加工中は、本体部81をワークスタンド23に対してスライドまたは伸縮させ、
図10に示すように、下側ガイド装置31bと干渉しない退避位置に第1押圧ピン82を移動させることが可能である。本体部81をスライドさせる駆動機構は、例えば、リニアモータ機構、ラック・ピニオン機構、流体圧シリンダ、又は電動シリンダを用いることができる。
【0039】
なお、移動装置は、上述の構成に限定されるものではない。例えば、下側ガイド装置31bを水平移動させる移動装置を利用し、下側ガイド装置31bを押圧装置8に対して移動させてもよい。また、例えば、テーブル22の移動に伴うワークスタンド23による押圧装置8の移動と、図示しない下アームが固定されるコラムの移動による下側ガイド装置31bの移動とを組み合わせて、押圧装置8の相対移動を実現してもよい。
【0040】
また、押圧装置8を、下側通電体33bに加え、上側ガイド装置31a内の上側通電体33aを押圧して移動するように構成してもよい。例えば、被加工物Wの上方に追加の押圧ピンを設け、上側ガイド装置31aに対して相対移動させることで、上側ガイド装置31a内に収容された上側通電体33aを当該押圧ピンの先端で押圧して移動させることができる。
【0041】
2.通電体の移動及び固定
次に、通電体の移動及び固定について詳細に説明する。以下の説明では、下側通電体33bの移動及び固定を具体例として詳細に説明する。
【0042】
ガイドブロック42の開口部から挿入され収容空間42dに収容された下側通電体33bは、下側固定装置により、第2方向D2において下側ガイド装置31bに対して相対移動が不可能な固定状態と、第2方向D2において下側ガイド装置31bに対して相対移動が可能な非固定状態とが切り替えられる。本実施形態においては、下側ガイド装置31b内の動力シリンダ55及び付勢部材52が下側固定装置を構成する。
【0043】
図6及び
図7は、固定状態の下側通電体33bを示す。スライドブロック43は、第1方向D1に沿ってD1+の向きに付勢部材52によって付勢されている。これにより、スライドブロック43の貫通孔43a2に挿通された下側通電体33bは、第1方向D1に沿って所定の加工位置から退避位置までワイヤ電極から離れる向きに付勢される。動力シリンダ55に圧縮空気を供給すると、ピストン55bがシリンダ55a内を移動し付勢部材52の付勢力に抗してスライドブロック43を第1方向D1に沿ってD1-の向きに移動させ、これに伴い下側通電体33bは第1方向D1に沿って所定の退避位置からワイヤ電極2に近づく向きに押し出されて所定の加工位置において固定される。本実施形態においては、下側通電体33bを押し出して収容空間42dのワイヤ電極2側の壁面42fに当接させることで、下側通電体33bを下側ガイド装置31bに対して固定することができる。固定状態の下側通電体33bはワイヤ電極2に接触した状態であり、これによりワイヤ電極2に給電が行われる。
【0044】
図8は、非固定状態の下側通電体33bを示す。動力シリンダ55への圧縮空気の供給を停止すると、ピストン55bがスライドブロック43を押し出す力が弱まり、付勢部材52の付勢力によりスライドブロック43がD1+の向きに沿って移動し、下側通電体33bは第1方向D1に沿って所定の加工位置から退避位置までワイヤ電極2から離れる向きに押し出される。本実施形態では、下側通電体33bが押し出されて収容空間42dのワイヤ電極2側の壁面42fから離間することによって固定が解除され、下側通電体33bが収容空間42d内で第2方向D2に沿って移動可能な状態となる。非固定状態の下側通電体33bは、ワイヤ電極2とは非接触の状態である。
【0045】
下側通電体33bを移動させる際には、移動装置としてのワークスタンド23の水平移動により、押圧装置8を下側ガイド装置31bに近づける。そして、第1押圧ピン82をガイドブロック42の開口部42d1から収容空間42d内に挿入し、下側通電体33bの端面33b1を第1押圧ピン82の先端で押圧する。これにより、下側通電体33bが収容空間42d内で第2方向D2に沿ってD2+の向きに移動する。
【0046】
上述の通り、下側通電体33bは、プランジャボルト54により第1方向D1に沿ってD1-の向きに常時押圧されている。プランジャボルト54のスプリング54bの付勢力は、第1押圧ピン82による非固定状態の下側通電体33bの第2方向D2に沿った移動を妨げない程度に小さく設定されている。これにより、非固定状態においても下側通電体33bがスライドブロック43の貫通孔43a2の壁面に押し当てられ、第1押圧ピン82の押圧により第2方向に沿って過剰に移動することを抑制することができる。
【0047】
下側通電体33bの移動量は、第1押圧ピン82の押圧量を増減することで調整することができる。下側通電体33bの移動のピッチ(1回の移動における第2方向D2に沿った移動距離)は、ワイヤ電極2の外径や加工条件によって適宜設定可能であり、例えば、0.3mm以上2mm以下である。
【0048】
下側通電体33bの移動は、放電加工の開始前に、又は放電加工の途中で行うことができる。後者の場合、例えば、ワイヤ電極2を結線し直すために加工を中断した際に行うことが好ましい。放電加工においては、被加工物Wの加工箇所の変更等の目的で、放電加工の途中でワイヤ電極2の切断及び結線が頻回に行われる。このようなワイヤ電極2の切断時に下側通電体33bを移動させれば、下側通電体33bの移動のみを目的として加工を中断させる必要がない。
【0049】
なお、上側通電体33aについても、同様の機構を有する上側移動装置(不図示)を用いて固定状態と非固定状態とを切り替え可能とし、押圧装置8により上側ガイド装置31a内を移動させることができる。
【0050】
押圧装置8を用いることで、下側通電体33bを下側ガイド装置31b内の収容空間42d内において自動で移動させることができる。被加工物Wのサイズが大きく下側ガイド装置31bに作業者の手が届きにくい場合や、被加工物Wを加工液に浸漬して加工するために下側ガイド装置31bが加工液中に配置される場合であっても、被加工物Wの移動や加工液の排出等の加工を長時間中断させる作業を行う必要がない。下側通電体33bとワイヤ電極2との接触状態の変更をより高頻度で行うことが可能となるため、下側通電体33bの使用限界を超えて加工が継続されることで加工精度が低下する事態を回避することができる。
【0051】
また、下側通電体33bの位置変更を自動化することにより、手作業による下側通電体33bの位置決めや固定が不要となり、作業効率の向上が可能となる。また、下側通電体33bの移動のピッチをより細かく設定したり、加工条件に応じて自在に調整することが可能となり、下側通電体33bの寿命の長期化が可能となる。
【0052】
さらに、押圧装置8を下側ガイド装置31bに対して相対移動させるための移動装置として、ワークスタンド23を移動させるテーブル22や、ガイド装置を移動させるための既設の機構を利用することが可能である。押圧装置8を移動させるために新たな駆動機構を設ける必要がなく、設置が容易である。
【0053】
3.制御装置7
次に、ワイヤ放電加工装置100の動作を制御するための制御装置7について説明する。制御装置7は、ワイヤ放電加工装置100の全体の動作及び各構成装置の動作を制御するものである。以下、制御装置7の制御動作のうち、本発明に関係する制御に限定して説明する。
図11に示すように、制御装置7は、入力装置71、数値制御装置72、及び移動制御装置73を備える。
【0054】
なお、制御装置7の各構成要素は、ソフトウェアによって実現してもよく、ハードウェアによって実現してもよい。ソフトウェアによって実現する場合、CPUがコンピュータプログラムを実行することによって各種機能を実現することができる。プログラムは、内蔵の記憶部に格納してもよく、コンピュータ読み取り可能な非一時的な記録媒体に格納してもよい。また、外部の記憶部に格納されたプログラムを読み出し、いわゆるクラウドコンピューティングにより実現してもよい。ハードウェアによって実現する場合、ASIC、FPGA、又はDRPなどの種々の回路によって実現することができる。本実施形態においては、様々な情報やこれを包含する概念を取り扱うが、これらは、0又は1で構成される2進数のビット集合体として信号値の高低によって表され、上述のソフトウェア又はハードウェアの態様によって通信や演算が実行され得るものである。
【0055】
入力装置71は、数値制御装置72における各種処理に必要な情報を作業者が入力するためのものであり、例えば、タッチパネル、キーボード、又はマウスにより構成することができる。入力情報として、上側通電体33a及び下側通電体33bの移動のピッチや、時間間隔等が例示される。入力情報は、数値制御装置72へ出力される。
【0056】
数値制御装置72は、入力情報、及び加工条件に係るデータが記録されたNCプログラムを用いてワイヤ放電加工装置100への動作指令を作成するためのものである。数値制御装置72は、NCプログラムに記録されている加工条件を読み出すことにより、又は入力装置71への入力情報に基づき、所望の放電加工に適する加工条件を設定する。設定された加工条件は、ワイヤ放電加工装置100を構成する各装置及び機構の制御部に対して、動作指令の信号又は動作指令値のデータの形式で出力される。
【0057】
移動制御装置73は、動作指令に従って上側固定装置及び下側固定装置を制御する。下側固定装置については、動力シリンダ55への圧縮空気の供給を制御して、下側通電体33bの固定状態と非固定状態とを切り替える。また、移動制御装置73は、押圧装置8及び移動装置を制御する。例えば、テーブル22、又はガイド装置の移動機構を押圧装置8の移動装置として利用する場合には、これらを作動させて押圧装置8を下側ガイド装置31bに対して相対移動させる。また、押圧装置8に本体部81をスライド移動させるための駆動機構が設けられている場合は、当該駆動機構を制御し、押圧装置8を下側ガイド装置31bに近づける、又は退避位置に移動させる。
【0058】
この他、制御装置7は、ワイヤ放電加工装置100を構成する各装置及び機構の制御部に対して動作指令を出力するとともに、各制御部から各装置及び機構の実際の動作情報のフィードバックを受け取る。
【0059】
4.被加工物Wのワイヤ放電加工方法
次に、本実施形態に係るワイヤ放電加工装置100を用いた被加工物Wのワイヤ放電加工方法について下側通電体33bに係る手順を中心に説明する。
【0060】
まず、作業者が、未使用の下側通電体33bをガイドブロック42の何れかの開口部42d1,42d2から挿入する。作業者は、制御装置7の入力装置71に対して下側通電体33bの移動のピッチや時間間隔等の情報を入力する。続いて、下側通電体33bの位置の初期化が行われる。下側通電体33bを非固定状態とし、押圧装置8を下側ガイド装置31bに対して相対移動させながら第1押圧ピン82で下側通電体33bを押圧することにより、下側通電体33bを第2方向D2に沿って移動させ、収容空間42d内の初期位置に移動させる。
【0061】
動力シリンダ55に圧縮空気を供給し、下側通電体33bを固定状態とし、ワイヤ電極2に接触させる。また、電源装置91は、動作指令に従い作動して、上側通電体33a及び下側通電体33bを通してワイヤ電極2と被加工物Wとの間の加工間隙10に電圧パルスを繰り返し印加する。これにより、加工間隙10に放電が発生し、所望の形状への加工が行われる。
【0062】
所定の加工時間が経過した後、加工箇所の変更等の目的で加工が中断されたタイミングで、下側通電体33bを移動させる。具体的には、動力シリンダ55への圧縮空気の供給を停止して、下側通電体33bを非固定状態にする。ワークスタンド23を水平1軸方向に相対移動させて押圧装置8を下側ガイド装置31bに近づけて、第1押圧ピン82を収容空間42d内に挿入し、下側通電体33bを第1押圧ピン82で押圧して所定のピッチだけ第2方向D2に沿って移動させる。
【0063】
移動完了後、第1押圧ピン82を収容空間42dから抜き出し、退避位置へと移動させる。ワイヤ電極2の結線後、動力シリンダ55に圧縮空気を供給し、下側通電体33bを固定状態とする。下側通電体33bは、未使用部がワイヤ電極2と接触する。この状態で、加工を再開する。
【0064】
下側通電体33bの片面が第2方向D2に沿って予め決められている使用領域が全て使用されるまで、以上の工程が繰り返される。片面を使いきった後は、手作業により下側通電体33bを抜き出し、使用した当該片面とは反対の面がワイヤ電極2に接触するよう下側通電体33bを挿入し直す。下側通電体33bの両面を使いきった後は、未使用の下側通電体33bと交換する。
【0065】
5.その他の実施形態
本発明は、以下の態様でも実施可能である。
上述した実施形態においては、押圧装置8に第2方向D2に沿ったD2+の向きに突出する第1押圧ピン82を設けた。他の態様として、下側通電体33bを第1押圧ピン82とは逆向きに押圧する第2押圧ピン84をさらに設けることも可能である。例えば、
図12に示すように、被加工物Wを固定するワークスタンド23の下側ガイド装置31bを挟んで対向する2本の支持柱を利用して、第1押圧ピン82及び第2押圧ピン84を設置することができる。水平移動可能なワークスタンド23の第1押圧ピン82が取付固定された支持柱に対向する支持柱には第2押圧ピン84の本体部83が連結され、本体部83から連続して第2方向に沿ったD2-の向きに突出するように第2押圧ピン84が設けられている。第1押圧ピン82及び第2押圧ピン84は、第2方向D2において下側通電体33bを挟んで配置される。
【0066】
第2押圧ピン84を下側ガイド装置31bのガイドブロック42の開口部42d2から収容空間42d内に挿入し、下側通電体33bの端面33b2を第2押圧ピン84の先端で押圧することにより、下側通電体33bを第2方向のD2-の向きに移動させることができる。
【0067】
このような構成においては、第2押圧ピン84により第2方向のD2-の向きに下側通電体33bを直接移動させることができるため、移動装置の動きをより単純に制御することが可能となる。
【0068】
また、上述した実施形態においては平板形状の通電体を用いたが、通電体の形状はこれに限定されない。通電体は、収容空間42d内を第2方向D2に沿って移動可能であり、第2方向D2に所定の長さを有する形状であればよい。例えば、丸棒形状や多角柱形状の通電体を用いることもできる。
【0069】
上述した実施形態における下側通電体33bの固定及び移動機構を上側通電体33aに適用する場合、上側通電体33aがワイヤ電極2と接触又は離間する際に移動する水平1軸方向(第3方向)は、下側通電体33bがワイヤ電極2と接触又は離間する際に移動する水平1軸方向である第1方向D1と一致していても、異なっていてもよい。これに伴い、上側通電体33aが上側ガイド装置31aに対して相対移動する水平1軸方向であって、第3方向と直交する水平1軸方向(第4方向)は、下側通電体33bが下側ガイド装置31bに対して相対移動する第2方向D2と一致していても、異なっていてもよい。
【0070】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な設計変更が可能なものである。
【符号の説明】
【0071】
1:ワイヤ供給機構、2:ワイヤ電極、3:ワイヤガイド機構、4:ハウジング、6:ワイヤ回収機構、7:制御装置、8:押圧装置、10:加工間隙、11:リール、12:ワイヤボビン、13:ブレーキ装置、14:サーボプーリ、15:張力付与装置、15a:送出ローラ、15b:送出モータ、15c:張力検出器、15d:ピンチローラ、16:断線検出器、17:自動結線装置、18:ガイドパイプ、19:昇降装置、20:ワイヤ振動装置、21:ベッド、22:テーブル、23:ワークスタンド、31a:上側ガイド装置、31b:下側ガイド装置、32a:上側ワイヤガイド、32b:下側ワイヤガイド、32b1:ガイド孔、33a:上側通電体、33b:下側通電体、33b1:端面、33b2:端面、41:ベース、41a:電極挿通孔、41b:凹部、42:ガイドブロック、42a:電極挿通孔、42b:貫通孔、42d:収容空間、42d1:開口部、42d2:開口部、42e:突出部、42f:壁面、43:スライドブロック、43a:平板部、43a1:電極挿通孔、43a2:貫通孔、43b:シャフト、43c:円筒部、43c1:開口部、43c2:挿入孔、44:噴流ノズル、44a:電極挿通孔、51:出口ガイド、52:付勢部材、53:カバー部材、54:プランジャボルト、54a:ボール、54b:スプリング、55:動力シリンダ、55a:シリンダ、55b:ピストン、56:接続管、57:スクレーパ、58:金属製プレート、61:方向転換ローラ、62:搬送パイプ、63:アスピレータ、64:巻取装置、64a:巻取ローラ、64b:ピンチローラ、64c:巻取モータ、65:ワイヤ切断機、66:バケット、71:入力装置、72:数値制御装置、73:移動制御装置、81:本体部、82:第1押圧ピン、83:本体部、84:第2押圧ピン、91:電源装置、92:圧縮空気供給装置、93:加工液供給装置、100:ワイヤ放電加工装置、W:被加工物
【要約】
【課題】通電体とワイヤ電極との接触状態を機械的に変更することが可能なワイヤ放電加工装置を提供する。
【解決手段】本発明によれば、ワイヤ電極と、ワイヤ電極を案内する上側及び下側ガイド装置とを備えるワイヤ放電加工装置であって、下側ガイド装置は、水平1軸方向である第1方向に移動してワイヤ電極に接触して給電する通電体と、通電体を下側ガイド装置内で固定する固定装置とを備え、固定装置は、第1方向と直交する他の水平1軸方向である第2方向において通電体が下側ガイド装置に対して相対移動が不可能な固定状態と、第2方向において通電体が下側ガイド装置に対して相対移動が可能な非固定状態とを切り替え可能に構成され、下側ガイド装置に対して相対移動可能で非固定状態の通電体を押圧して第2方向に移動させる押圧装置と、押圧装置を下側ガイド装置に対して相対移動させる移動装置と、を含んでなるワイヤ放電加工装置が提供される。
【選択図】
図1