(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-19
(45)【発行日】2022-10-27
(54)【発明の名称】軟包装用積層体、軟包装材および軟包装体
(51)【国際特許分類】
B32B 7/12 20060101AFI20221020BHJP
B32B 29/00 20060101ALI20221020BHJP
B32B 27/32 20060101ALI20221020BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20221020BHJP
【FI】
B32B7/12
B32B29/00
B32B27/32 101
B65D65/40 D
(21)【出願番号】P 2021530657
(86)(22)【出願日】2020-07-02
(86)【国際出願番号】 JP2020025990
(87)【国際公開番号】W WO2021006172
(87)【国際公開日】2021-01-14
【審査請求日】2021-12-02
(31)【優先権主張番号】P 2019127838
(32)【優先日】2019-07-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000174862
【氏名又は名称】三井・ダウポリケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】橋本 秀則
【審査官】静野 朋季
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-000835(JP,A)
【文献】特開2001-192018(JP,A)
【文献】特開2008-105302(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B65D 65/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも紙基材層、接着層、バリア層およびシーラント層が上記の順序で積層され、
前記紙基材層を構成する紙の坪量が180g/m
2
以下であり、
前記接着層がエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)を含み、
前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)を構成するエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A1)中の不飽和カルボン酸の含有量をX[質量%]とし、前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)の中和度をY[モル%]としたとき、X×Y/100で表される金属イオン含有量が4.0以上20.0以下である軟包装用積層体。
【請求項2】
請求項1に記載の軟包装用積層体において、
JIS K7210:1999に準拠し、190℃、2160g荷重の条件で測定される、前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)のメルトフローレート(MFR)が0.1g/10分以上10g/10分以下である軟包装用積層体。
【請求項3】
請求項1または2に記載の軟包装用積層体において、
前記接着層の厚さが5μm以上である軟包装用積層体。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の積層フィルムにおいて、
前記接着層が押出コーティング加工層である軟包装用積層体。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の軟包装用積層体において、
前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A1)を構成する不飽和カルボン酸が、アクリル酸およびメタクリル酸から選ばれる少なくとも一種を含む軟包装用積層体。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の軟包装用積層体において、
前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)を構成する金属イオンが、ナトリウムイオンおよび亜鉛イオンから選ばれる少なくとも一種を含む軟包装用積層体。
【請求項7】
請求項1乃至
6のいずれか一項に記載の軟包装用積層体において、
前記バリア層が金属箔を含む軟包装用積層体。
【請求項8】
請求項1乃至
7のいずれか一項に記載の軟包装用積層体において、
前記シーラント層がエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体およびエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーから選ばれる少なくとも一種を含む軟包装用積層体。
【請求項9】
請求項1乃至
8のいずれか一項に記載の積層体により構成された層を少なくとも備える軟包装材。
【請求項10】
請求項
9に記載の軟包装材と、前記軟包装材により包装された物品と、を備える軟包装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟包装用積層体、軟包装材および軟包装体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、食品、医薬品、化粧品、衛生用品、農薬、種子、電子部材、電子機器類等を包装する軟包装材の多くは、プラスチック基材に各種バリア層、シーラント層等を積層することで製造されている。
近年、プラスチックごみによる環境破壊が世界的な問題となっており、環境配慮や省資源化推進の機運の高まりに対応した、環境負荷を低減する包装材に注目が集まっている。その中で、軟包装分野においてもプラスチック基材を、バイオマス材料のひとつである「紙」を利用した構成へ変更することで、プラスチック使用量の削減が達成できると考えられる。
一方で、セルロース由来の紙は隙間が多く、プラスチックに比べて各種物性面、特に耐水性や突刺し強度、ガスバリア性などで劣るため問題となる。
【0003】
紙基材を用いた包装材に関する技術としては、例えば、特許文献1(特開2007-276194号公報)および特許文献2(特開2004-82510号公報)に記載のものが挙げられる。
【0004】
特許文献1には、紙基材の片面に水性インキで印刷層を設け、該印刷層の反対面に、ポリエステル樹脂もしくはポリアミド樹脂に、ポリオレフィン樹脂と相溶化剤をブレンドし、混練押出しフィルム成形されたシーラント層を押出しラミネートしたことを特徴とする積層体が記載されている。
【0005】
特許文献2には、紙層とアルミニウム箔層とシーラント層とからなる包装材料において、紙層とアルミニウム箔層との層間にポリエチレンテレフタレートフィルムによる樹脂層が積層されていることを特徴とする包装材料が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2007-276194号公報
【文献】特開2004-82510号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、従来の紙基材を用いた包装材には、例えば内容物保護の観点から、屈曲に起因する耐ピンホール性に改善の余地があった。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、バイオマス材料である紙基材をベースとした、耐ピンホール性に優れた軟包装材を得ることが可能な軟包装用積層体を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を達成するために鋭意検討を重ねた。その結果、金属イオン含有量が特定の範囲にあるエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーを含む接着層を紙基材層とバリア層の間に形成することによって、耐ピンホール性に優れた軟包装材が得られる積層体が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明によれば、以下に示す軟包装用積層体、軟包装材および軟包装体が提供される。
【0011】
[1]
少なくとも紙基材層、接着層、バリア層およびシーラント層が上記の順序で積層され、
上記接着層がエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)を含み、
上記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)を構成するエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A1)中の不飽和カルボン酸の含有量をX[質量%]とし、上記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)の中和度をY[モル%]としたとき、X×Y/100で表される金属イオン含有量が4.0以上20.0以下である軟包装用積層体。
[2]
上記[1]に記載の軟包装用積層体において、
JIS K7210:1999に準拠し、190℃、2160g荷重の条件で測定される、上記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)のメルトフローレート(MFR)が0.1g/10分以上10g/10分以下である軟包装用積層体。
[3]
上記[1]または[2]に記載の軟包装用積層体において、
上記接着層の厚さが5μm以上である軟包装用積層体。
[4]
上記[1]乃至[3]のいずれか一つに記載の積層フィルムにおいて、
上記接着層が押出コーティング加工層である軟包装用積層体。
[5]
上記[1]乃至[4]のいずれか一つに記載の軟包装用積層体において、
上記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A1)を構成する不飽和カルボン酸が、アクリル酸およびメタクリル酸から選ばれる少なくとも一種を含む軟包装用積層体。
[6]
上記[1]乃至[5]のいずれか一つに記載の軟包装用積層体において、
上記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)を構成する金属イオンが、ナトリウムイオンおよび亜鉛イオンから選ばれる少なくとも一種を含む軟包装用積層体。
[7]
上記[1]乃至[6]のいずれか一つに記載の軟包装用積層体において、
上記紙基材層を構成する紙の坪量が225g/m2以下である軟包装用積層体。
[8]
上記[1]乃至[7]のいずれか一つに記載の軟包装用積層体において、
上記バリア層が金属箔を含む軟包装用積層体。
[9]
上記[1]乃至[8]のいずれか一つに記載の軟包装用積層体において、
上記シーラント層がエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体およびエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーから選ばれる少なくとも一種を含む軟包装用積層体。
[10]
上記[1]乃至[9]のいずれか一つに記載の積層体により構成された層を少なくとも備える軟包装材。
[11]
上記[10]に記載の軟包装材と、上記軟包装材により包装された物品と、を備える軟包装体。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、バイオマス材料である紙基材をベースとした、耐ピンホール性に優れた軟包装材を得ることが可能な軟包装用積層体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。なお、本実施形態において、数値範囲の説明における「a~b」との表記は、特に断らない限り、a以上b以下であることを表す。また、本実施形態において、「(メタ)アクリル」とはアクリル、メタクリルまたはアクリルとメタクリルの両方を意味する。
【0014】
1.軟包装用積層体
本実施形態に係る軟包装用積層体は、少なくとも紙基材層、接着層、バリア層およびシーラント層が上記の順序で積層され、上記接着層がエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)を含み、上記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)を構成するエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A1)中の不飽和カルボン酸の含有量をX[質量%]とし、上記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)の中和度をY[モル%]としたとき、X×Y/100で表される金属イオン含有量が4.0以上20.0以下である。
本実施形態に係る軟包装用積層体は、上記層構成とすることで、耐ピンホール性を良好なものとすることができる。
【0015】
以下、本実施形態に係る軟包装用積層体を構成する各層について説明する。
【0016】
<紙基材層>
紙基材層としては、軟包装への使用を前提として、坪量が225g/m2以下の紙が好ましく、軟包装形態への製袋加工性および突き刺し強度の観点から、坪量が180g/m2以下の紙がより好ましく、坪量が20~80g/m2の紙が特に好ましい。このような紙基材層としては、例えば、上質紙、純白ロール紙、コート紙、片面アート紙、両面アート紙、混抄紙などが好適に使用できるが、これらに制限されない。また、必要に応じて紙基材層の外表面に印刷層を設けることができる。
また、接着強度を高めるために紙基材層に、コロナ処理、プラズマ処理、フレーム処理、オゾン処理等の物理的処理、アンカーコート処理、などの化学的処理がなされてもよい。
また、紙については、軟包装材としての柔軟性と適度な剛性を付与する観点から、ループステフネス法により測定される剛性が、MD方向またはTD方向のいずれかにおいて10mN以上1000mN以下であることが好ましく、10mN以上200mN以下であることがより好ましい。ループステフネス法により測定される剛性は、例えば、東洋精機株式会社製「ループステフネステスタ」を用い、スパン(ループ長さ)100mm、幅25mm、押し込み距離15mm、押し込み速度3.3mm/secの条件で測定することができる。
【0017】
紙基材層の厚さは、例えば、30μm以上、400μm以下である。軟包装材としての柔軟性と適度な剛性を付与する観点から、30μm以上200μm以下が好ましく、30μm以上150μm未満がより好ましく、30μm以上100μm以下が特に好ましい。
【0018】
<接着層>
本実施形態に係る接着層は、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)を含む。
接着層中のエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)の含有量は、接着層の全体を100質量%としたとき、接着性の観点から、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、特に好ましくは95質量%以上である。エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)の含有量の上限は特に限定されないが、例えば、100質量%以下である。
【0019】
エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)において、不飽和カルボン酸含有量(X:質量%)と金属中和度(Y:モル%)を用いてX×Y/100で表される金属イオン含有量は4.0以上20.0以下であるが、耐ピンホール性をさらに向上させる観点から、好ましくは6.0以上であり、成膜性を向上させる観点から、好ましくは18.0以下、より好ましくは15.0以下、さらに好ましくは12.0以下、特に好ましくは10.0以下である。
【0020】
接着層の厚さは、例えば、1μm以上100μm以下であり、好ましくは3μm以上80μm以下、さらに好ましくは5μm以上40μm以下である。
また、接着層の押出コーティング性を良好にする観点からは、接着層の厚さは5μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましい。成膜加工性を良好にする観点からは、接着層の厚さは40μm以下であることが好ましく、30μm以下であることがより好ましく、25μm以下であることがさらに好ましい。
【0021】
エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)のベース樹脂であるエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A1)は、少なくとも、エチレンと、不飽和カルボン酸から選ばれるモノマーとを共重合成分として共重合させた重合体であり、必要に応じて、エチレンおよび不飽和カルボン酸系以外のモノマーが共重合されてもよい。
共重合体においては、ブロック共重合体、ランダム共重合体、グラフト共重合体のいずれであってもよいが、生産性を考慮すると2元ランダム共重合体、3元ランダム共重合体、2元ランダム共重合体のグラフト共重合体あるいは3元ランダム共重合体のグラフト共重合体を使用するのが好ましく、より好ましくは2元ランダム共重合体又は3元ランダム共重合体である。
エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A1)としては、エチレン・不飽和カルボン酸2元共重合体及びエチレン・不飽和カルボン酸アルキルエステル・不飽和カルボン酸3元共重合体からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0022】
不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、イタコン酸、無水イタコン酸、フマル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、マレイン酸モノエステル(マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル等)、無水マレイン酸モノエステル(無水マレイン酸モノメチル、無水マレイン酸モノエチル等)等の炭素数4~8の不飽和カルボン酸又はハーフエステルが挙げられる。
これらの中でも、上記不飽和カルボン酸は、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A1)の生産性等の観点から、アクリル酸およびメタクリル酸から選ばれる少なくとも一種を含むことが好ましい。これらの不飽和カルボン酸は1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A1)は、少なくともエチレンと不飽和カルボン酸とが共重合した共重合体であり、さらに第3の共重合成分が共重合した3元以上の多元共重合体であってもよい。
【0024】
多元共重合体において、エチレン及び該エチレンと共重合可能な(メタ)アクリル酸のほかに、第3の共重合成分として、不飽和カルボン酸エステル(例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソオクチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソブチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル)、ビニルエステル(例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等)、不飽和炭化水素(例えば、プロピレン、ブテン、1,3-ブタジエン、ペンテン、1,3-ペンタジエン、1-ヘキセン等)、ビニル硫酸やビニル硝酸等の酸化物、ハロゲン化合物(例えば、塩化ビニル、フッ化ビニル等)、ビニル基含有1,2級アミン化合物、一酸化炭素、二酸化硫黄等が共重合されていてもよい。
これらの中でも、第3の共重合成分としては、不飽和カルボン酸エステルが好ましく、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(アルキル部位の好ましい炭素数は1~4)がより好ましい。
【0025】
第3の共重合成分に由来の構成単位のエチレン・(メタ)アクリル酸系共重合体中における含有比率は、25質量%以下の範囲が好ましい。
第3の共重合成分に由来の構成単位の含有比率が上記上限値以下であると、生産・混合の点で好ましい。
【0026】
本実施形態に係るエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A1)において、エチレンから導かれる構成単位の含有量は、好ましくは65質量%以上95質量%以下、より好ましくは75質量%以上93質量%以下、さらに好ましくは80質量%以上92質量%以下である。
本実施形態に係るエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A1)において、不飽和カルボン酸から導かれる構成単位の含有量(すなわち、不飽和カルボン酸の含有量X)は、好ましくは5質量%以上35質量%以下、より好ましくは7質量%以上25質量%以下、さらに好ましくは8質量%以上20質量%以下である。
ここで、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A1)中の不飽和カルボン酸の含有量(X)は、例えば、フーリエ変換赤外吸収分光法(FT-IR)により測定することができる。
【0027】
本実施形態に係るエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)を構成する金属イオンとしては、リチウムイオン、カリウムイオン、ナトリウムイオン等のアルカリ金属イオン;カルシウムイオン、マグネシウムイオン、亜鉛イオン、アルミニウムイオン、バリウムイオン等の多価金属イオン等が挙げられる。これらの金属イオンは1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
これらの中でも、ナトリウムイオンおよび亜鉛イオンから選ばれる少なくとも一種を含むことが好ましく、亜鉛イオンを含むことがより好ましい。
【0028】
本実施形態に係るエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)の中和度は特に限定されないが、加工性や成形性をより向上させる観点から、95モル%以下が好ましく、90モル%以下がより好ましく、85モル%以下がさらに好ましく、80モル%以下が特に好ましい。
また、本実施形態に係るエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)の中和度は特に限定されないが、積層体をラミネートする際の加工適性をより向上させる観点から、5モル%以上が好ましく、10モル%以上がより好ましく、15モル%以上がさらに好ましく、20モル%以上が特に好ましい。
ここで、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)の中和度は、例えば、焼却残渣分析法により測定することができる。
【0029】
エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)の製造方法は特に限定されず、公知の方法により製造することができる。また、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)は市販されているものを用いてもよい。
【0030】
本実施形態において、JIS K7210:1999に準拠し、190℃、2160g荷重の条件で測定される、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)のメルトフローレート(MFR)は、0.1g/10分以上10g/10分以下であることが好ましい。MFRが上記範囲内であると、紙基材層と接着層との層間接着性や、後述のバリア層と接着層との層間接着性がより一層良好となる。
後掲の実施例に記載のアイオノマーのMFRは、上記条件で測定された値である。
【0031】
接着層には、本発明の目的を損なわない範囲内において、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)以外の成分を含有させることができる。その他の成分としては特に限定されないが、例えば、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、界面活性剤、着色剤、光安定剤、発泡剤、潤滑剤、結晶核剤、結晶化促進剤、結晶化遅延剤、触媒失活剤、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)以外の熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、無機充填剤、有機充填剤、耐衝撃性改良剤、スリップ剤、架橋剤、架橋助剤、粘着付与剤、シランカップリング剤、加工助剤、離型剤、加水分解防止剤、耐熱安定剤、アンチブロッキング剤、防曇剤、難燃剤、難燃助剤、光拡散剤、抗菌剤、防黴剤、分散剤やその他の樹脂等を挙げることができる。その他の成分は1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
<バリア層>
バリア層は、ガスバリア性や水蒸気バリア性を付与し、更には外気からの臭気をブロックして、後述する、軟包装用積層体を用いて形成される包装体の内容物に臭気が移行しないように設けられた層であり、一軸延伸ないし二軸延伸されたポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリアミドフィルム、ポリオレフィンなどの延伸フィルム、若しくは当該延伸フィルム上に、アルミニウムなどの無機物や酸化アルミニウム、酸化ケイ素などの無機化合物の薄膜を物理蒸着あるいは化学蒸着などの蒸着法により20~100nm程度の厚さに設けた無機化合物蒸着プラスチックフィルム、金属箔(銅箔、アルミニウム箔等)、エチレンビニルアルコール共重合樹脂フィルム、塩化ビニリデンフィルム、ポリビニルアルコールフィルム等が好ましく使用できる。必要に応じて、これらを積層して用いてもよい。これらの中でも、機械的強度やバリア性等に優れていることから、金属箔(銅箔、アルミニウム箔等)が好ましく、アルミニウム箔がより好ましい。
【0033】
バリア層の厚さは、例えば、5μm以上、100μm以下である。
【0034】
バリア層は、接着層と接着(又は積層)される側の表面に、接着層との接着強度を高めるためにコロナ処理、プラズマ処理、火炎処理、オゾン処理等の物理的な処理がなされていてもよい。また、バリア層に公知のアンカーコート処理を施してもよい。
【0035】
<シーラント層>
本実施形態に係る軟包装用積層体は、ヒートシール性を付与するために、シーラント層を備える。
シーラント層は、バリア層における接着層が設けられた面とは反対側の面に設けられる。
シーラント層は、本実施形態に係る軟包装用積層体にヒートシール性を付与するための層であり、例えば、熱可塑性樹脂(C1)を含む。
シーラント層の厚さは、例えば1μm以上300μm以下であり、好ましくは5μm以上200μm以下、より好ましくは10μm以上150μm以下である。
【0036】
本実施形態に係る熱可塑性樹脂(C1)としては、例えば、高密度ポリエチレン、高圧法低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン(LDPE)、線状低密度ポリエチレン(LLDPE)等のポリエチレン、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体またはそのアイオノマー、エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン・α-オレフィン共重合体エラストマー、ポリプロピレン、プロピレン系共重合体(プロピレンとプロピレン以外のα―オレフィンとの共重合体)、ポリブテン、及びその他のオレフィン系(共)重合体、並びにこれらのポリマーブレンド等のポリオレフィン等を挙げることができる。上記α-オレフィンとしては、例えば、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、4-メチル-1-ペンテン等が挙げられる。
これらの中でも、耐ピンホール性に優れる点から、熱可塑性樹脂(C1)としてはエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体およびエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーから選ばれる少なくとも一種を含むことが好ましく、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーを含むことがより好ましい。
【0037】
本実施形態に係るシーラント層中の熱可塑性樹脂(C1)の含有量は、シーラント層の全体を100質量%としたとき、好ましくは50質量%以上100質量%以下、より好ましくは70質量%以上100質量%以下、さらに好ましくは90質量%以上100質量%以下、特に好ましくは95質量%以上100質量%以下である。これにより、バリア層との接着性やヒートシール性等のバランスをより良好にすることができる。
【0038】
本実施形態に係るシーラント層には、本発明の目的を損なわない範囲内において、熱可塑性樹脂(C1)以外の成分を含有させることができる。その他の成分としては特に限定されないが、例えば、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、界面活性剤、着色剤、光安定剤、発泡剤、潤滑剤、結晶核剤、結晶化促進剤、結晶化遅延剤、触媒失活剤、熱可塑性樹脂(C1)以外の熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、無機充填剤、有機充填剤、耐衝撃性改良剤、スリップ剤、架橋剤、架橋助剤、粘着付与剤、シランカップリング剤、加工助剤、離型剤、加水分解防止剤、耐熱安定剤、アンチブロッキング剤、防曇剤、難燃剤、難燃助剤、光拡散剤、抗菌剤、防黴剤、分散剤やその他の樹脂等を挙げることができる。その他の成分は1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0039】
<その他の層>
本実施形態に係る軟包装用積層体は、紙基材層、接着層、バリア層およびシーラント層の4層のみで構成されていてもよいし、軟包装用積層体に様々な機能を付与する観点から、上記4層以外の層(以下、その他の層とも呼ぶ。)を有していてもよい。
その他の層としては、例えば、発砲層、無機物層、ハードコート層、反射防止層、防汚層、アンカーコート層等を挙げることができる。その他の層は1層単独で用いてもよいし、2層以上を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
<用途>
本実施形態に係る軟包装用積層体は、例えば、食品、医薬品、工業用品、日用品、化粧品等を包装するために用いられる包装材として好適に用いることができる。
【0041】
2.軟包装用積層体の製造方法
本実施形態に係る軟包装用積層体の製造方法は、紙基材層上に、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)を含む樹脂組成物を押出コーティングすることにより、紙基材層上に接着層を形成する押出工程を含むことが好ましい。すなわち、本実施形態に係る軟包装用積層体の接着層は押出コーティング法によって形成された押出コーティング加工層であることが好ましい。
押出コーティング法を用いると、他の成膜法等に比べて、成形時の樹脂温度を高めることができ、紙基材層上にエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)を含む樹脂組成物を溶融状態でコーティングすることが可能となる。
すなわち、本実施形態に係る軟包装用積層体の製造方法によれば、紙基材層上に、接着層を精度よく安定的に形成することができる。
【0042】
上記押出工程における成形装置および成形条件としては特に限定されず、従来公知の成形装置および成形条件を採用することができる。成形装置としては、T-ダイ押出機等を用いることができる。また、成形条件としては、公知の押出コーティング方法の成形条件を採用することができる。
【0043】
本実施形態に係る軟包装用積層体の製造方法において、押出工程における押出コーティング温度は、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)の種類や配合によって適宜設定されるため特に限定されないが、製膜性を良好にする観点から、200℃以上であることが好ましく、250℃以上であることがより好ましく、280℃以上であることが特に好ましい。
押出工程における押出コーティング温度の上限は特に限定されないが、例えば、350℃以下である。
【0044】
3.軟包装材
本実施形態に係る軟包装材は、本実施形態に係る軟包装用積層体により構成された層を少なくとも備える。また、本実施形態に係る軟包装材はその一部に本実施形態に係る軟包装用積層体を使用してもよいし、軟包装材の全体に本実施形態に係る軟包装用積層体を使用してもよい。
本実施形態に係る軟包装材の形状は、特に限定されないが、例えば、シート状、フィルム状、袋状等の形状が挙げられる。
袋状の形態は特に限定されないが、例えば、三方袋、四方袋、ピロー袋、ガセット袋、スティック袋等が挙げられる。
本実施形態に係る軟包装材は、例えば、食品、医薬品、工業用品、日用品、化粧品等を包装するために用いられる包装材として好適に用いることができる。
【0045】
4.軟包装体
本実施形態に係る軟包装体は、本実施形態に係る軟包装材と、上記軟包装材により包装された物品と、を備える。本実施形態に係る軟包装材は物品保護機能を有する。
上記物品としては、例えば、食品、医薬品、工業用品、日用品、化粧品等が挙げられる。
【0046】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【実施例】
【0047】
以下、本発明を実施例および比較例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0048】
積層フィルムの作製に用いた材料の詳細は以下の通りである。
【0049】
<紙基材層>
片アート紙(79g/m2、三菱製紙株式会社製)
この紙について、ループステフネス法(東洋精機株式会社製「ループステフネステスタ」を用い、スパン(ループ長さ)100mm、幅25mm、押し込み距離15mm、押し込み速度3.3mm/secにより測定される剛性は114mN(MD方向)であった。
【0050】
<接着層>
(エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A))
IO-1:エチレン・メタクリル酸共重合体のアイオノマー(金属イオン含有量:3.2、金属イオン:亜鉛、MFR:16g/10分)
IO-2:エチレン・メタクリル酸共重合体のアイオノマー(金属イオン含有量:3.5、金属イオン:亜鉛、MFR:5.0g/10分)
IO-3:エチレン・メタクリル酸共重合体のアイオノマー(金属イオン含有量:7.2、金属イオン:亜鉛、MFR:5.5g/10分)
IO-4:エチレン・メタクリル酸共重合体のアイオノマー(金属イオン含有量:7.3、金属イオン:亜鉛、MFR:1.0g/10分)
IO-5:エチレン・メタクリル酸・アクリル酸イソブチル共重合体のアイオノマー(金属イオン含有量:7.0、金属イオン:亜鉛、MFR:1.1g/10分)
IO-6:エチレン・メタクリル酸共重合体のアイオノマー(金属イオン含有量:8.9、金属イオン:亜鉛、MFR:0.9g/10分)
IO-7:エチレン・メタクリル酸共重合体のアイオノマー(金属イオン含有量:3.5、金属イオン:ナトリウム、MFR:2.8g/10分)
IO-8:エチレン・メタクリル酸共重合体のアイオノマー(金属イオン含有量:4.5、金属イオン:ナトリウム、MFR:2.8g/10分)
IO-9:エチレン・メタクリル酸共重合体のアイオノマー(金属イオン含有量:6.3、金属イオン:ナトリウム、MFR:2.2g/10分)
IO-10:エチレン・メタクリル酸共重合体のアイオノマー(金属イオン含有量:8.1、金属イオン:ナトリウム、MFR:0.9g/10分)
なお、IO-1~IO-10はいずれも不飽和カルボン酸から導かれる構成単位の含有量(すなわち、不飽和カルボン酸の含有量X)は、8質量%以上20質量%以下である。
【0051】
(低密度ポリエチレン)
LDPE1(低密度ポリエチレン、MFR:7.2g/10分、密度917kg/m3)
LDPE2(低密度ポリエチレン、MFR:1.6g/10分、密度920kg/m3)
【0052】
(エチレン・メタクリル酸共重合体)
EMAA1:エチレン・メタクリル酸共重合体(エチレン含有量:91質量%、メタクリル酸含有量:9質量%、MFR:8.0g/10分)
【0053】
<バリア層>
Al箔:アルミニウム箔(東洋アルミニウム株式会社製、1N30、厚さ7μm)
【0054】
<シーラント層>
EMAA2:エチレン・メタクリル酸共重合体(エチレン含有量:89質量%、メタクリル酸含有量:11質量%、MFR:8g/10分)
IO-5:エチレン・メタクリル酸・アクリル酸イソブチル共重合体のアイオノマー(金属イオン含有量:7.0、金属イオン:亜鉛、MFR:1.1g/10分)
【0055】
[実施例1~7、比較例1~6]
65mmΦ押出機(L/D=28)を有する押出ラミネーターを使用し、ダイ下温度300℃、エアーギャップ110mm、加工速度80m/分の加工条件で、紙基材層へインラインでコロナ処理を施した後、紙基材層とバリア層の間に、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)、低密度ポリエチレン、またはエチレン・不飽和カルボン酸共重合体を押出コーティングすることにより、紙基材層、接着層およびバリア層がこの順に積層した積層体を得た。
さらに、65mmΦ押出機(L/D=28)を有する押出ラミネーターを使用し、ダイ下温度285℃、エアーギャップ110mm、加工速度80m/分の加工条件で、上記で得られた積層体のAl箔上にシーラント層に用いるエチレン・不飽和カルボン酸共重合体またはエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーを押出コーティングすることにより、表1に示す積層体を得た。但し、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー押出時におけるダイ下温度は、300℃とした。
得られた積層体について以下の評価をそれぞれ行った。得られた結果を表1にそれぞれ示す。
【0056】
<耐ピンホール性評価>
上記で得た積層体を23℃・50%RHの条件下で調湿したのち、東洋精機株式会社製ゲルボフレックステスター(MIL-B-131Cの規格に準拠)を使用し、耐ピンホール性の評価を行った。具体的には、まず、積層体のMD(Machine Direction)方向を長辺としてA4(297mm×210mm)サイズにサンプリングした長方形テストフィルムを、シーラント層を内側にした長さ210mmの円筒状とした。この両端を把持し、ストロークの最初の64mmで角度440度のひねりを加え、その後90mmは直進水平運動である動作の繰り返しからなる往復運動を40回/分の早さで50回行った後のピンホール数を数えた。この測定を2回行い、その平均値で評価した。
【0057】
【0058】
この出願は、2019年7月9日に出願された日本出願特願2019-127838号を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。