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  • 特許-ポーラス金属とその通気率制御方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-20
(45)【発行日】2022-10-28
(54)【発明の名称】ポーラス金属とその通気率制御方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 3/24 20060101AFI20221021BHJP
   B22F 3/26 20060101ALI20221021BHJP
   B22F 3/11 20060101ALI20221021BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20221021BHJP
   C22C 1/08 20060101ALI20221021BHJP
【FI】
B22F3/24 H
B22F3/24 C
B22F3/24 F
B22F3/26 H
B22F3/26 Z
B22F3/11 A
B22F1/00 Q
C22C1/08 F
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020084104
(22)【出願日】2020-04-10
(65)【公開番号】P2021167463
(43)【公開日】2021-10-21
【審査請求日】2022-01-15
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】593022021
【氏名又は名称】山形県
(73)【特許権者】
【識別番号】520157093
【氏名又は名称】株式会社カナック
(72)【発明者】
【氏名】大津加 慎教
(72)【発明者】
【氏名】佐竹 康史
(72)【発明者】
【氏名】江端 潔
(72)【発明者】
【氏名】中野 哲
(72)【発明者】
【氏名】松木 和久
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 洋
(72)【発明者】
【氏名】金澤 直一郎
【審査官】池田 安希子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-183390(JP,A)
【文献】特開2011-117066(JP,A)
【文献】特開平1-184206(JP,A)
【文献】特開平11-60227(JP,A)
【文献】特開平3-138304(JP,A)
【文献】特表2006-500235(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 3/24
B22F 3/26
B22F 3/11
B22F 1/00
C22C 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項2】
ポーラス超硬の内部の粒子間の空間アルカリ水溶液からなる開孔処理剤を含浸させて、前記開孔処理剤によって粒子及び粒子表面の酸化被膜を溶解させて外部へ流し出して、それによって粒子間の前記空間の空孔率を高めて、ポーラス超硬の通気率を向上させたことを特徴とするポーラス超硬の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通気率を制御されたポーラス超硬などのポーラス金属と、その通気率の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポーラス金属の一つであるポーラス超硬は、代表的な製造方法として、粒子径が約10~250μm程度の超硬合金粒子を焼結させ、約25~35%程度の空孔率を有する多孔質の超硬合金である。そして、それらのポーラス超硬は、含油軸受等の摺動部品、積層コンデンサ等の吸着工具、その他の通気性を必要とする耐摩耗性部品等の用途に適用される。
【0003】
一般に、ポーラス金属は、銅、鉄などの金属粒子を焼結させて、バインダで結合させたものである。そして、その一つであるポーラス超硬は、炭化タングステン(WC)を材料とする粒子を、コバルト(Co)やニッケル(Ni)などをバインダとして焼結させて結合させたものである。そして、本発明は、ポーラス超硬に最適な技術を例として説明するが、それ以外のポーラス金属においても適用されうる。
【0004】
ポーラス超硬は、既に、複数の企業から製品として製造販売されており、その特性は異なっている。例えば、超硬合金粒子の径は、比較的小さい10μm程度のものや、100~250μmのものもある。粒子間の隙間の大きさが30μm未満のものや、比較的大きい30~35μmのものもある。それゆえに、製品によって通気率も異なっている。
ポーラス超硬そのもののユーザ又はポーラス超硬を利用した各種の製品のユーザは、これらのポーラス超硬が利用される工具や部品に求められる耐摩耗性や通気率などの種々の特性を勘案して、その用途に相応しいポーラス超硬を選択する。
【0005】
製造販売されているポーラス超硬は所定の空孔率や通気率を有しているが、ユーザの所望の用途によっては、ユーザ自身が購入後に空孔率や通気率を更に向上させたい場合もあり、また、製造メーカがユーザの要望に沿う空孔率や通気率に制御して販売する場合も考えられる。
【0006】
また、ユーザがポーラス超硬が使用される工具や部品などの製品を長期間使用すると、炭化タングステン(WC)の粒子の表面が空気中の酸素に触れて酸化して酸化被膜が形成される。酸化被膜が形成されると、その容積がわずかに膨張するので、その分だけ空孔率が小さくなり、通気率が低下する。
【0007】
更に、ポーラス超硬を工具や部品において使用中に、摩耗した炭化タングステンの削りくずによって超硬の粒子間が目詰まりを生じることがある。そのために、ポーラス超硬としての空孔率が小さくなって通気率が低下することがある。
【0008】
このように、通気率が小さくなったポーラス超硬は新しいポーラス超硬に交換することが望ましいが、その費用が大きい問題である。そこで、ポーラス超硬を交換せずに、小さくなった通気率を再び大きくすることが重要になっている。特に、適用する工具や部品に相応しい通気率まで改善する制御が重要である。
具体的には、上述のように、使用中のポーラス超硬である炭化タングステン(WC)の粒子そのものや粒子の表面に形成された酸化被膜を除去するとか、更には、摩耗によって目詰まりを起こした炭化タングステンの削りくずを除去することによって、低下した通気率を改善する必要がある。
【0009】
更には、ポーラス超硬の製造工程を工夫することによって、通気率が低下しにくいポーラス超硬にすることが望まれる。
【先行技術文献】
【0010】
ポーラス超硬の通気率に関する先行技術としては、以下の特許文献がある。
【特許文献】
【0011】
【文献】特表2014-509350
【0012】
特許文献1には、金型用型材のように通気性を必要とする加熱焼結部材が開示される。そして、この部材はある程度の通気性を有するもので、その通気性と強度を保持しつつ、表面粗さを良くするために機械加工を施すことが開示されている。このように、通気性を必要とするポーラス材において、表面粗さを改善することは示されても、部材の内部の粒子間の通気性を更に高める技術や、その部材を既に使用したゆえに粒子表面に形成される酸化被膜などによって通気性が悪くなった場合に通気性を改善するような制御については何ら開示されていない。
本発明者が公知文献を調査した限りにおいて、本発明が解決しようとする後述の課題に対応した公知文献は見当たらなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上述するように、ポーラス超硬の通気率を適切に制御したい場合の例として、以下の場合がある。
(1)工具や部品に使用されるポーラス超硬は、未使用のポーラス超硬であっても、用途によっては、粒子間の空孔率が小さ過ぎて、その結果、通気率が小さすぎる場合がある。
この課題に対しは、ポーラス超硬の製造メーカや購入したユーザが通気率を大きくするための何らかの処理や加工が必要になる。
(2)また、所望の用途に適した通気率のポーラス超硬を使用していた場合に、長期間の使用によって、ポーラス超硬の粒子が空気と触れることになる。ポーラス超硬の炭化タングステン粒子の表面に酸化被膜が形成されて、その酸化被膜が膨張した容積だけ、粒子間の空孔率が小さくなる。その結果として、ポーラス超硬の空孔率及び通気率が低下することになる。
この課題に対しては、ポ-ラス超硬を交換しようとすれば費用がかかるので、交換することなく、使用中のポーラス超硬の通気率を向上させることが望まれる。
(3)更には、ユーザが長期間使用しても、通気率が低下しにくい構造のポーラス超硬であれば望ましい。
この課題に対しては、製造された未使用のポーラス超硬や、使用によって低下した通気率を再び向上させたポーラス超硬が、通気率が低下しにくい構造であるための工程が存在することが必要である。
(4)更には、所望の用途に相応しい処理で通気率を改善することが必要である。即ち、通気率を改善するだけではなく、所望の用途にも相応しい処理であることが望まれる場合がある。例えば、ポーラス超硬が摺動部材に使用される場合には、通気率の改善も重要だが、ポーラス超硬の表面が摺動しやすく、しかも、摩耗による削りかすがポーラス超硬の粒子内に侵入しにくいことも重要である。
この課題に対しては、例えば、ワックスを粒子間に含浸させてワックスが粒子間に残っていれば、ポーラス超硬が摺動部に利用される場合には好適であろう。
【0014】
本発明は、上述の課題のうちのいずれか又は複数の課題を解決して、ポーラス金属の通気率を向上させるための適切な通気率制御方法と、その制御方法によって通気率が改善されたポーラス金属を見出したものである。
【0015】
従って、本発明の第一の目的は、ポーラス金属が使用される製品の所望の用途に相応しい通気率に制御する通気率制御方法及び制御されたポーラス金属を提供することにある。
【0016】
本発明の第二の目的は、使用によって粒子間に形成された酸化被膜によって、あるいは、使用中の摩耗で削りくずが粒子間の目詰まりを発生させたことによって、通気率が低下したポーラス金属の通気率を改善する通気率制御方法及び改善されたポーラス金属を提供することにある。
【0017】
更には、本発明の第三の目的は、長期間の使用によっても、ポーラス金属の通気率が低下しにくい通気率制御方法及び通気率を制御されたポーラス金属を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
以下の説明は、ポーラス金属の代表的な一つであるポーラス超硬を例として説明する。
本発明者は、上記の目的を実現するために、炭化タングステンを材料とするポーラス超硬の粒子間の空孔率を大きくする。そのために、ポーラス超硬の粒子及び粒子の表面に形成される酸化被膜を開孔処理剤で溶かして粒子間を開孔する開孔処理工程を施すことによって空孔率を大きくすることを見出した。
即ち、開孔処理剤によって粒子及び表面の酸化被膜を溶解することが、「本発明の第1の根幹」である。
【0019】
「本発明の第1の根幹」によれば、ポーラス超硬の粒子及びその酸化被膜が溶解して、粒子間の空孔率は大きくなり、ポーラス超硬全体としての通気率は向上する。
【0020】
更に、本発明者は、開孔処理工程に先立って、ポーラス超硬を加熱する加熱工程を加えることによって、効果を高めることができることを見出した。
このように、加熱工程と開孔処理工程の組合せが、「本発明の第2の根幹」である。
この加熱工程は、対象となるポーラス超硬を、開孔処理工程の前に、所定の温度で、所定の時間だけ、加熱することによって実現できる。加熱工程によって、ポーラス超硬の各粒子が加熱され、その後の開孔処理工程において、各粒子やその酸化被膜が溶解する速度を高めることができる効果がある。
【0021】
更に、本発明者は、ポーラス超硬の表面部が繰り返し摺動されることによって削りくずや粒子の脱落(チッピング)が発生することを防止するために、開孔処理工程に先立って、ポーラス超硬の表面部の粒子間に封孔材を含浸させる封孔処理工程を加えることによって、効果よりを高めることができることを見出した。
このように、封孔処理工程と開孔処理工程を組み合わせることが、「本発明の第3の根幹」である。
なお、前述の加熱工程を加える場合には、封孔処理工程は、加熱工程の後で開孔処理工程の前に行う方が望ましい。つまり、加熱工程、封孔処理工程、開孔処理工程の順番に行うのが良い。
【0022】
封孔処理工程において、ポーラス超硬の表面部の粒子間に封孔材を含浸させて、その後の開孔処理工程ではポーラス超硬の表面部の粒子間に封孔材が残っていることによって、表面部には開孔処理剤があまり含浸しないようにする。それによって、表面部では、開孔処理剤によって粒子や粒子表面の酸化被膜が溶解しないので、表面部の粒子間の空孔率が大きくならない。その結果、ポーラス超硬の表面部から、表面加工によってできた削りくずやゴミまたは表面に付着していた削りくずやゴミが内部に入り込むことを防止することができる。
更に、封孔処理剤を残したままにすれば、削りくずなどの侵入を防ぐとともに、封孔処理剤が摺動性を高める効果もある。
以上のように、封孔処理によって、ポーラス超硬の所望の用途にとって好適なものを得ることができる効果がある。
【0023】
このように、「本発明の第3の根幹」である、封孔処理工程と開孔処理工程を組み合わせることによって、本発明の目的である通気率の向上を実現できるとともに、削りくずなどの侵入を防止するとか滑らかな表面を形成することにより、その所望の用途に相応しいポーラス超硬の通気率の制御方法を提供できることを見出した。
【0024】
なお、封孔処理は、ポーラス超硬の表面部に相当する裏表の二つの面のうち、片面にのみ封孔処理を施しても良いし、両面に封孔処理を施しても良い。ポーラス超硬の用途によって決めればよい。
【0025】
上述の「本発明の第2の根幹」である加熱処理工程と、「本発明の第3の根幹」である封孔処理工程の両方を、「本発明の第1の根幹」である開孔処理工程に先立って施せば、加熱処理によって開孔処理がより早く進行すると共に、封孔処理によってポーラス超硬の内部への削りくずの侵入やチッピングを防止できて、所望の用途に相応しいポーラス超硬の通気率制御方法を提供することができる効果がある。
このように、加熱工程と封孔処理工程と開孔処理工程の組合せが、「本発明の第4の根幹」である。
【0026】
更に、上述の加熱工程、封孔処理工程、開孔処理工程のいずれかの工程の前後に、所定の効果を得るために他の工程を追加することが可能である。加えることによって所定の効果を得られる工程としては、ポーラス超硬を酸性溶液に浸漬する酸処理工程と、ポーラス超硬の表面を加工する加工工程と、封孔材を粒子間から除去する脱封孔材処理工程がある。
このように、所定の効果を得るために、更なる工程を追加することが「本発明の第5の根幹」である。
【0027】
「本発明の第5の根幹」として加える工程として、まず、ポーラス超硬を酸性溶液に浸漬する「酸処理工程」がある。この酸処理工程は、コバルトやニッケルなどの、ポーラス超硬の粒子表面に付着するバインダを溶解することを目的として、開孔処理工程に先立って実施する。粒子表面を覆っているバインダが溶解されれば、粒子表面がむき出しになり、その後の開孔処理工程において、開孔処理液が粒子や粒子表面の酸化被膜を溶解しやすくなり、粒子間の空孔率が高くなる。なお、好都合な酸性液としては種々あるが、後述する本願の実施態様においては、塩酸を使用した。
【0028】
また、「本発明の第5の根幹」の一つとして、開孔処理工程の後には、ポーラス超硬の表面を滑らかにするために加工工程を加えることができる。
その加工工程としては、ポーラス超硬の表面に施す機械的加工と電気的加工を、単独又は併用することができる。機械的加工としては、研削加工がある。電気的加工としては、電解加工または放電加工が有り、単独又は併用しても良い。
これらの加工工程については、後述する発明の実施態様の欄において説明する。
なお、加工工程は、封孔処理工程の前に施しても良いし、封孔処理工程と開孔処理工程の間に施しても良い。加工工程の目的は、ポーラス超硬の表面の滑らかさの確保だからである。
【0029】
「本発明の第5の根幹」として、上述のような酸処理工程と加工工程の他に、もう一つの加えることができる工程としては、ポーラス超硬の表面部の粒子間に残っている封孔材を取り除くための脱封孔材処理工程を加えることもできる。具体的には、アルコールで封孔材を溶解して取り除くことが望ましい。
【0030】
本発明者は、上述の「本発明の第1の根幹」による制御方法を利用することによって、所望の用途に相応しい通気率に制御されたポーラス超硬が得られることを見出した。
つまり、本発明の制御方法によって通気率が制御されたポーラス超硬が、「本発明の第6の根幹」である。
【0031】
本発明における各工程での処理や加工について、以下に詳述する。
まず、封孔処理工程について詳述する。
封孔処理工程で使用される封孔材は、室温で固体であり、溶解時にはポーラス超硬への含浸性を有する粘度となる化合物である。しかも、溶剤で溶解して除去されうることが望ましい。このような封孔材としては、「熱可塑性樹脂」が良い。
そして、封孔材としての熱可塑性樹脂の融点の範囲は、一般的なポーラス超硬の加熱処理の上限である500℃以下であることが望ましい。但し、処理を行いやすいためには、封孔材の融点ができるだけ低い方が望ましい。従って、封孔材として望ましいのは、「融点が、500℃以下のできるだけ低く、かつ、加熱処理温度よりも高温である熱可塑性樹脂」と言える。
望ましい封孔材としては、例えば、アミド系ワックスまたはエステル系ワックスなどの「ワックス」が良い。
アミド系ワックスの例としては、オレイン酸アミド(融点:約76℃)、ステアリン酸アミド(融点:約120℃)、エルカ酸アミド(融点:約100℃)がある。
エステル系ワックスとしては、脂肪酸エステル(融点:約65℃)がある。
なお、これらのワックスを溶解させうる溶剤としては、炭素数10以上の混合アルコールが望ましく、イソプロピルアルコール、n-ブタノール、i-ブタノールなどのアルコール類でも良い。
【0032】
次に、開孔処理工程について詳述する。
開孔処理工程で使用される開孔処理剤は、ポーラス金属材料の金属相及びその金属酸化物相を溶解することが可能な水溶液でなければならない。
例えば、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の水酸化物(LiOH,NaOH,KOH,Ca(OH)2)などの水溶液は、アルカリ(塩基)性を示し、ポーラス超硬に使用される炭化タングステン(WC)などの金属酸化物を溶解する。
また、含窒素化合物であるアミン類(メチルアミン、エチルアミン、アニリンなどのモノ置換アミン類、同様のジ置換アミン類、トリ置換アミン類、ピリジンなどの共役アミン類、ポリエチレンポリアミン類)の水溶液もアルカリ(塩基)性を示し、炭化タングステンの酸化物を溶解する。代表的な水溶液の例としては、アンモニア水がある。
これらの物質は、水溶液塩基であり、金属錯体を形成して平衡状態を保つことができるゆえに、ポーラス超硬を溶解することができる。
それらの水溶液塩基の中で、処理後に揮発して残存成分が残りにくい点から、アンモニア水が望ましい。本発明の実施態様においては、アンモニア水を開孔処理剤として使用した。
【0033】
アンモニア水をポーラス超硬に含浸させる方法は、簡便な方法としては、ポーラス超硬をアンモニア水に浸漬するだけでよい。大量のアンモニア水の中にポーラス超硬を完全に沈めてしまう必要は無く、ポーラス超硬の片面だけが浸るだけでも、アンモニア水はその面または側面から粒子間へ含浸していく。
その場合に、ポーラス超硬の表面部の粒子間に封孔材としてのワックスなどを含浸させていなければ、アンモニア水はポーラス超硬の全ての表面からすぐに浸透していく。一方、ポーラス超硬の表面部の粒子間にワックスなどを含浸させていれば、その表面部からはアンモニア水が含浸しにくいが、側面などのワックスなどが存在しない面から浸透していく。
【0034】
次に、加工工程について詳述する。
機械的加工方法としては、研削加工がある。機械的加工によって、表面部の粒子と封孔材としてのワックスなどを機械的に削り取れば、ポーラス超硬の表面をある程度、滑らかにすることができる。研削加工は、砥石を利用して、μ単位の研削を行う。なお、機械的加工ゆえに、表面が極めて滑らかとは言い切れないが、用途によっては、それで十分と言える程度まで滑らかにすることは可能である。
【0035】
次に、電気的加工工程について詳述する。
電気的加工方法の一つは放電加工である。電極材質は、銅-タングステン(CuW)や銀-タングステン(AgW)が望ましい。この放電加工によって、前述の機械的加工によっても滑らかにならなかった表面を更に滑らかにすることができる。
【0036】
別の電気的加工として、電解加工もある。これは、表面を電解処理する。電解加工の前に研削加工や放電加工することによって発生する研削くずやバリ様部などの微細なスラッジが粒子表面に付着したままになることがある。これらのスラッジが加工面の滑らかさを落とす結果となって、ポーラス超硬の用途によっては表面滑らかさが不十分な場合がある。このように、研削加工や放電加工によっても滑らかさが不十分な加工面を電解処理するのが加工処理工程としての電解処理である。電解加工によって、粒子粉による目詰まりを無くすこともできる。
【0037】
最後に、脱封孔材処理工程について説明する。
脱封孔材処理工程における脱封孔材としては、封孔材である熱可塑性樹脂(ワックス類等)を溶解して除去することができる溶液であることが必要である。更に望ましくは、安価で、低粘度、低沸点、単一物質、環境的に廃棄しやすい物質の溶液であることが望ましい。例えば、高級不飽和アルコールや低級アルコールなどのアルコールが望ましい。
【0038】
本発明の目的が、ポーラス金属の通気率を所望の用途に相応しいものに制御することにあるので、通気率の測定方法は重要であり、その測定方法は以下の通りとする。
油回転ポンプ(排気速度50L/min)からのSUS製内径1/4inchの減圧ラインに流量調整バルブ、流量計、圧力計を設け、アクリル製平板の試料台に接続して試料を設置しない状態で1000ml/min流量となるように流量調整バルブで調整した。試料台には10mmの穴をあけた厚さ3mmのクロロプレン製ゴム板を設置した。測定試料をゴム板に密着させた状態で、減圧ラインの圧力計及び流量計の値を読み、JIS R 2115「耐火物の通気率の試験方法」の次の式に従って通気率を算定した。
μ:物質の通気率(m
V:物質を通過した圧力pにおけるガス量(m
t:ガス量(V)が物質を通過するのに要した時間(s)
η:試験温度におけるガスの粘度(Pa・s)
A:ガスが通過する物質の断面積(m
δ:ガスが通過する物質の厚み(m)
P:ガス容量測定時のガスの絶対圧(Pa)
:物質へのガス侵入絶対圧(Pa)
:物質からのガス離脱絶対圧(Pa)
【0039】
前述のような「本発明の第1の根幹」乃至「本発明の第5の根幹」に基づいて、具体的な技術内容を特定したので、以下に、それらの「本発明の根幹」から導き出される具体的な「本発明の特徴」を説明する。
本発明の第1の特徴は、
ポーラス金属の粒子間に開孔処理剤を含浸させて、前記開孔処理剤によって粒子 及び粒子表面の酸化被膜を溶解させて、
ポーラス金属の通気率を向上することを特徴とするポーラス金属の通気率制御方法である。
【0040】
本発明の第1の特徴によって、所望の用途に相応しい通気率に制御されたポーラス金属の通気率制御方法を提供することができる。
【0041】
本発明の第2の特徴は、
ポーラス超硬の粒子間に開孔処理剤を含浸させて、前記開孔処理剤によって粒子 及び粒子表面の酸化被膜を溶解させて、
ポーラス超硬の通気率を向上することを特徴とするポーラス超硬の通気率制御方法である。
【0042】
本発明の第2の特徴によって、所望の用途に相応しい通気率に制御されたポーラス超硬の通気率制御方法を提供することができる。
【0043】
本発明の第3の特徴は、
ポーラス超硬を準備する工程と、
前記ポーラス超硬を酸性液に浸漬する酸処理工程と、
前記ポーラス超硬の粒子間に開孔処理剤を含浸させて、前記開孔処理剤によって 粒子及び粒子表面の酸化被膜を溶解させて粒子間の空孔率を高くする開孔処理工程 を含み、
ポーラス超硬の通気率を向上することを特徴とするポーラス超硬の通気率制御方法である。
【0044】
本発明の第3の特徴によって、ポーラス超硬を、前もって、酸性溶液で酸処理するので、酸性溶液によってポーラス超硬の粒子表面のバインダが溶解し、その後の開孔処理工程の効果が高くなり、粒子間の空孔率が高くなり、結果として、通気率がより改善するという効果がある。
【0045】
本発明の第4の特徴は、
ポーラス超硬を準備する工程と、
前記ポーラス超硬を加熱する加熱工程と、
前記ポーラス超硬の粒子間に開孔処理剤を含浸させて、前記開孔処理剤によって 粒子及び粒子表面の酸化被膜を溶解させて粒子間の空孔率を高くする開孔処理工程 を含み、
ポーラス超硬の通気率を向上することを特徴とするポーラス超硬の通気率制御方法である。
【0046】
本発明の第4の特徴によって、加熱することで開孔処理の速度を速めて、所望の用途に相応しい通気率に制御するポーラス超硬の通気率制御方法を提供することができる。
【0047】
本発明の第5の特徴は、
ポーラス超硬を準備する工程と、
前記ポーラス超硬の粒子間に開孔処理剤を含浸させて、前記開孔処理剤によって 粒子及び粒子表面の酸化被膜を溶解させて粒子間の空孔率を高くする開孔処理工程 と、
開孔処理後の前記ポーラス超硬の表面を加工する加工工程を含み、
ポーラス超硬の通気率を向上することを特徴とするポーラス超硬の通気率制御方法である。
【0048】
本発明の第5の特徴によれば、開孔処理後に表面の加工を行うので、ポーラス超硬の通気率が向上した上に、表面が滑らかになるという効果を有するポーラス超硬の通気率制御方法を提供することができる。
【0049】
本発明の第6の特徴は、
ポーラス超硬を準備する工程と、
前記ポーラス超硬を酸性液に浸漬する酸処理工程と、
前記ポーラス超硬を加熱する加熱工程と、
前記ポーラス超硬の粒子間に開孔処理剤を含浸させて、前記開孔処理剤によって 粒子及び粒子表面の酸化被膜を溶解させて粒子間の空孔率を高くする開孔処理工程 を含み、
ポーラス超硬の通気率を向上することを特徴とするポーラス超硬の通気率制御方法である。
【0050】
本発明の第6の特徴によれば、酸処理と加熱処理を行うので、ポーラス超硬の粒子表面のバインダを溶解するとともに粒子を高温化するので、通気率がより改善するとともに、開孔処理速度が上昇するという効果を得ることができる。
【0051】
本発明の第7の特徴は、
ポーラス超硬を準備する工程と、
前記ポーラス超硬を加熱する加熱工程と、
前記ポーラス超硬の粒子間に開孔処理剤を含浸させて、前記開孔処理剤によって 粒子及び粒子表面の酸化被膜を溶解させて粒子間の空孔率を高くする開孔処理工程 と、
開孔処理後の前記ポーラス超硬の表面を加工する加工工程を含み、
ポーラス超硬の通気率を向上することを特徴とするポーラス超硬の通気率制御方法である。
【0052】
本発明の第7の特徴によって、加熱によって開孔処理を早くするとともに、表面加工によって表面の滑らかさを確保して、所望の用途に相応しい通気率に制御できる通気率制御方法を提供することができる。
【0053】
本発明の第8の特徴は、
ポーラス超硬を準備する工程と、
前記ポーラス超硬を加熱する加熱工程と、
前記ポーラス超硬の表面部に近い粒子間に封孔材を含浸させる封孔処理工程と、
前記ポーラス超硬の粒子間に開孔処理剤を含浸させて、前記開孔処理剤によって 粒子及び粒子表面の酸化被膜を溶解させて粒子間の空孔率を高くする開孔処理工程 と、
開孔処理後の前記ポーラス超硬の表面を加工する加工工程を含み、
ポーラス超硬の通気率を向上することを特徴とするポーラス超硬の通気率制御方法である。
【0054】
本発明の第8の特徴によって、加熱により開孔処理を早くするとともに、表面加工により表面の滑らかさを確保し、所望の用途に相応しい通気率に制御し、更に、封孔処理剤により通気率が低下しにくい通気率制御方法を提供することができる。
【0055】
本発明の9の特徴は、
ポーラス超硬を準備する工程と、
前記ポーラス超硬を加熱する加熱工程と、
前記ポーラス超硬の表面部に近い粒子間に封孔材を含浸させる封孔処理工程と、
前記ポーラス超硬の粒子間に開孔処理剤を含浸させて、前記開孔処理剤によって 粒子及び粒子表面の酸化被膜を溶解させて粒子間の空孔率を高くする開孔処理工程 と、
開孔処理後の前記ポーラス超硬の表面を加工する加工工程と、
前記ポーラス超硬の表面に近い粒子間に含浸している封孔材を取り除く脱封孔材 処理工程を含み、
ポーラス超硬の通気率を向上することを特徴とするポーラス超硬の通気率制御方法である。
【0056】
本発明の第9の特徴によって、第8の特徴に更に脱封孔処理工程を加えるので、通気率は更に向上する通気率制御方法を提供することができる。
【0057】
本発明の第10の特徴は、
ポーラス超硬を準備する工程と、
ポーラス超硬の表面部に近い粒子間に封孔材を含浸させる封孔処理工程と、
前記封孔材が含浸している表面部に近い粒子間よりも内部の粒子間に多く含浸し 、表面部より内部の粒子及び粒子表面の酸化被膜をより多く溶解する開孔処理剤を 含浸させる開孔処理工程を含み、
前記開孔処理工程において粒子及び粒子表面の酸化被膜を開孔処理剤で溶解するこ とによって粒子間の空孔率を高くして
ポーラス超硬の通気率を向上することを特徴とするポーラス超硬の通気率制御方法である。
【0058】
本発明の第10の特徴によって、開孔処理により所望の用途に相応しい通気率に制御できる通気率制御方法を提供することができる。
【0059】
本発明の第11の特徴は、
ポーラス超硬を準備する工程と、
ポーラス超硬の表面部に近い粒子間に封孔材を含浸させる封孔処理工程と、
前記封孔材が含浸している表面部に近い粒子間よりも内部の粒子間に多く含浸し 、表面部より内部の粒子及び粒子表面の酸化被膜をより多く溶解する開孔処理剤を 含浸させる開孔処理工程と、
開孔処理後の前記ポーラス超硬の表面を加工する加工工程を含み、
前記開孔処理工程において粒子及び粒子表面の酸化被膜を開孔処理剤で溶解するこ とによって粒子間の空孔率を高くして
ポーラス超硬の通気率を向上することを特徴とするポーラス超硬の通気率制御方法である。
【0060】
本発明の11の特徴によって、第10の特徴に加えて加工工程を加えるので、第10の特徴の効果の他に、表面が滑らかになるポーラス超硬の通気率制御方法を提供することができる。
【0061】
本発明の第12の特徴は、
ポーラス超硬を準備する工程と、
ポーラス超硬の表面部に近い粒子間に封孔材を含浸させる封孔処理工程と、
前記封孔材が含浸している表面部に近い粒子間よりも内部の粒子間に多く含浸し 、表面部より内部の粒子及び粒子表面の酸化被膜をより多く溶解する開孔処理剤を 含浸させる開孔処理工程と、
前記ポーラス超硬の表面部の粒子間に含浸している封孔材を取り除く脱封孔材処 理工程を含み、
前記開孔処理工程において粒子及び粒子表面の酸化被膜を開孔処理剤で溶解するこ とによって粒子間の空孔率を高くして
ポーラス超硬の通気率を向上することを特徴とするポーラス超硬の通気率制御方法である。
【0062】
本発明の12の特徴によって、第10の特徴に加えて脱封孔処理工程を加えたので、第10の特徴による効果の他に、通気率がより向上するポーラス超硬の通気率制御方法を提供することができる。
【0063】
本発明の第13の特徴は、
ポーラス超硬を準備する工程と、
ポーラス超硬の表面部に近い粒子間に封孔材を含浸させる封孔処理工程と、
前記封孔材が含浸している表面部に近い粒子間よりも内部の粒子間に多く含浸し 、表面部より内部の粒子及び粒子表面の酸化被膜をより多く溶解する開孔処理剤を 含浸させる開孔処理工程と、
開孔処理後の前記ポーラス超硬の表面を加工する加工工程を含み、
前記ポーラス超硬の表面部の粒子間に含浸している封孔材を取り除く脱封孔材処 理工程を含み、
前記開孔処理工程において粒子及び粒子表面の酸化被膜を開孔処理剤で溶解するこ とによって粒子間の空孔率を高くして
ポーラス超硬の通気率を向上することを特徴とするポーラス超硬の通気率制御方法である。
【0064】
本発明の13の特徴によって、開孔処理によって所望の用途に相応しい通気率に制御できるとともに、封孔処理により削りくずなどの侵入防止でき、加工により表面が滑らかなポーラス超硬の通気率制御方法を提供することができる。
【0065】
本発明の第14の特徴は、
ポーラス超硬を準備する工程と、
前記ポーラス超硬を加熱する加熱工程と、
ポーラス超硬の表面部に近い粒子間に封孔材を含浸させる封孔処理工程と、
前記封孔材が含浸している表面部に近い粒子間よりも内部の粒子間に多く含浸し 、表面部より内部の粒子及び粒子表面の酸化被膜をより多く溶解する開孔処理剤を 含浸させる開孔処理工程を含み、
前記開孔処理工程において粒子及び粒子表面の酸化被膜を開孔処理剤で溶解するこ とによって粒子間の空孔率を高くして
ポーラス超硬の通気率を向上することを特徴とするポーラス超硬の通気率制御方法である。
【0066】
本発明の第14の特徴によって、ポーラス超硬を加熱して速度を速めた開孔処理により所望の用途に相応しい通気率に制御できるポーラス超硬の通気率制御方法を提供することができる。
【0067】
本発明の第15の特徴は、
粒子間に開孔処理剤を含浸させて、前記開孔処理剤によって粒子及び粒子表面の 酸化被膜を溶解させて通気率を向上させた
ことを特徴とするポーラス金属
である。
【0068】
本発明の第15の特徴により、所望の用途に相応しい通気率に制御されたポーラス金属を提供することができる。
【0069】
本発明の第16の特徴は、
粒子間に開孔処理剤を含浸させて、前記開孔処理剤によって粒子及び粒子表面の 酸化被膜を溶解させて通気率を向上させた
ことを特徴とするポーラス超硬
である。
【0070】
本発明の第16の特徴により、所望の用途に相応しい通気率に制御されたポーラス超硬を提供することができる。
【0071】
本発明の第17の特徴は、
ポーラス超硬の表面部に近い粒子間には封孔材が存在し、
表面部より内部の粒子間には封孔材が存在しない
ことを特徴とするポーラス金属
である。
【0072】
本発明の第17の特徴によって、所望の用途に相応しい通気率に制御され、通気率が低下しにくいポーラス金属を提供することができる。
【0073】
本発明の第18の特徴は、
ポーラス超硬の表面部に近い粒子間には封孔材が存在し、
表面部より内部の粒子間には封孔材が存在しない
ことを特徴とするポーラス超硬
である。
【0074】
本発明の第18の特徴によって、所望の用途に相応しい通気率に制御され、通気率が低下しにくいポーラス超硬を提供することができる。
【発明の効果】
【0075】
本発明によれば、粒子間に開孔処理剤を含浸させて粒子間の空孔率を高くして、ポーラス金属及びポーラス超硬の通気率を制御する方法と制御されたポーラス金属及びポーラス超硬を提供することができる。
【0076】
本発明によれば、表面部に近い粒子間には封孔剤が残り、表面部より内部の粒子間には封孔剤が残らないので、その後の使用によっても通気率の低下が少ないポーラス金属及びポーラス超硬を提供することができる。
【0077】
本発明によれば、表面部に近い粒子間には封孔剤が残り、表面部より内部の粒子間には封孔剤が残らないので、その後の使用によっても通気率の低下が少なく、しかも、表面が滑らかなポーラス金属及びポーラス超硬を提供することができる。
【0078】
本発明によれば、封孔処理工程と開孔処理工程を組み合わせて、ポーラス超硬の表面部に近い粒子間に封孔剤を含浸させ、表面部より内部の粒子間には酸化被膜を溶解する開孔処理剤を含浸させるので、内部の空孔率を高くして、結果として、ポーラス超硬全体の通気率を改善するように制御するポーラス超硬の通気率制御方法と、所望の用途に相応しい通気率に制御されたポーラス超硬を提供することができる。
【0079】
本発明によれば、開孔処理工程より前に加熱処理工程を有するので、開孔処理工程を早く行うことができるポーラス超硬の通気率の制御方法と、通気率が制御されたポーラス超硬を提供することができる。
【0080】
本発明によれば、開孔処理の後に、ポーラス超硬の表面を機械的加工と電気的加工の単独または両方の加工などの加工工程を有するので、表面が滑らかになるポーラス超硬の通気率の制御方法と、通気率が制御されたポーラス超硬を提供することができる。
【0081】
本発明によれば、封孔処理工程を有し、開孔処理工程の後に脱封孔剤処理工程を有し、表面部の粒子間に存在する封孔材を除去するので、封孔材が残存しない方が望ましい用途に相応しいポーラス超硬の通気率の制御方法と、通気率が制御されたポーラス超硬を提供することができる。
【0082】
本発明によれば、ポーラス超硬の通気率を1.1倍以上1.5倍以下にすることができ、所望の用途に相応しいポーラス超硬の通気率制御方法と、通気率が制御されたポーラス超硬を提供することができる。通気率の改善度合いは、各処理工程を実施するかどうか、各処理工程における各種の条件によって変動するのは当然である。本発明者が各処理工程を組み合わせて実施したところによれば、各工程が通気率制御されたポーラス超硬の特性に悪影響が無く、粒子間の空孔率を改善し、結果として、ポーラス超硬としての通気率が改善される適切な範囲が、上述の1.1倍以上1.5倍以下であった。
【図面の簡単な説明】
【0083】
図1図1は、本発明の一実施形態の各処理工程を示すフロー図である。
図2図2は、本発明の各実施形態の実験結果を示す方である。
【発明を実施するための形態】
【0084】
図1は、本発明による実施形態の処理工程を示すフロー図である。
本発明は、ポーラス超硬における粒子間の空孔率を向上させて、結果として、ポーラス超硬としての通気率を改善するように制御することが目的である。従って、そのために、本発明において、最も重要で新規な処理工程は、開孔処理工程である。
開孔処理工程によって得られる効果をより高いものとするために、開孔処理工程の前後で別の様々な処理工程が施される。そこで、以下、図1に説明する第一の実施形態においては、開孔処理工程に各種の処理工程が加えられた望ましい工程のフローの例を示している。
具体的には、(a)ポーラス超硬を準備する工程、(b)加熱処理工程、(c)封孔処理工程、(d)開孔処理工程、(e)研削加工工程、(f)脱封孔材処理工程の各工程が順番に施されたときのポーラス超硬の粒子やバインダの状態が模式図的に示されている。
【本発明の第一の実施形態】
【0085】
本発明の第一の実施形態は、図1に示す全ての処理工程を含む実施形態である。そして、本発明の効果を確認するために使用したポーラス超硬は、「シルバーロイ社製PO30」である。以下に、工程ごとに実施内容を説明する。図1は、各工程の処理を施した場合のポーラス超硬の粒子やバインダの状態を模式図的に示したものであり、実際の粒子や粒子間の状態をわかり易く示した。
【0086】
まず、「ポーラス超硬の準備工程」について説明する。
図1の(a)が「ポーラス超硬の準備工程」を示す。効果の確認に使用したポーラス超硬1は、「シルバーロイ社製PO30」である。炭化タングステン(WC)の粒子2にニッケル系バインダ3を使用して焼結させて作成された、未使用のポーラス超硬1を準備する。本実施形態では、ポーラス超硬1から30x30x4mmの小片試料を作成した。図示したのは小片試料の一部である。
この状態では、粒子2間は比較的空孔率が高く、粒子2はバインダ3によって、しっかりと結合し合っている。
なお、一旦、所望の用途に使用したポーラス超硬を本発明による通気率の制御を行う場合には、使用されたポーラス超硬を準備することが「ポーラス超硬の準備工程」に該当することは言うまでもない。
【0087】
次に、「加熱処理工程」として、以下の処理を行った。
上述の小片試料を小型電気炉(アズワン製mini-BSI)中に配置し、500℃で1時間加熱を行った。その後、大気中で放冷を行って常温にした。
図1の(b)は、加熱処理を行った直後の状態を模式的に示している。この状態では、各粒子2の表面に酸化被膜4が形成され、酸化被膜4の形成の際に容積が膨張するので、粒子2間の空孔率が高くなっている。また、熱によってバインダ3が一部溶解して粒子2間の結合は緩やかになり、粒子2同士の間隔が狭くなっている。
【0088】
次に、「片面封孔処理工程」として、以下の処理を行った。
封孔処理は、ポーラス超硬1の小片試料を封孔材5に浸漬するにあたり、試料の片面のみを浸漬し、図1(c)に示すように、その片面の表面部(A)の粒子2間のみに卦孔材5が含浸された状態を形成する。図中の表面部(A)の粒子2間に施された破線部が封孔材5の存在を模式的に示している。試料の内部(B)には封孔材5が含浸されていない。このように、片面のみに処理を施すか、両面に施すかは、ポーラス超硬の用途によるものである。
具体的な片面封孔処理工程の内容は次の通りである。封孔材5としては、95℃で融解したオレイン酸アミド(花王製、脂肪酸アマイドO-N)に、上記の試料の30x30mmの面を約1mmの深さで浸漬して30分間保持する。その後、大気中で放冷を行って常温にした。その結果、資料の片面の表面部(A)に約1.5mmの厚さで封孔材5が含浸し、封孔処理された試料を得た。つまり、1mmの深さの封孔材5に、4mmの厚さの試料を浸漬すると、資料の表面部(A)の1.5mmの厚さまで封孔材5が含浸したことになる。
【0089】
次に、「開孔処理工程」として、以下の処理を行った。
本実施形態では、アンモニア水を開孔処理剤として使用する。片面の封孔処理を行った試料を、室温で、磁気攪拌機を備えた5%アンモニア水100mlの容器に8時間浸漬した。その後、蒸留水で洗浄してから、ダストレスワイプで水分を拭き取り、減圧デシケータ中に入れて12時間以上乾燥した。
試料をアンモニア水に浸漬すると、試料の表面部(A)には封孔材としてのオレイン酸アミドが含浸しているのでアンモニア水が含浸せず、試料の内部(B)にのみアンモニア水が含浸する。
そして、アンモニア水が試料の内部(B)の炭化タングステン粒子2とその粒子2の表面の酸化被膜4を溶解して試料の外部に流れ出す。その結果、粒子2間の空孔率は高くなる。図1(d)は、開孔処理を行ったあとに、粒子2間の空間6が大きくなり、空孔率が高くなった状態を示している。
【0090】
次に、研削加工による「加工工程」として、以下の加工を行った。
使用した高精密成型研削盤は、「(株)アマダマシンツール社製、MEISTER-G3」であり、その使用条件は、粘度#230のレジンボンドダイヤモンド砥石で、切込み深さ5μm、砥石回転数(砥石速度)2500/min(1608m/min)、テーブル送り30m/min、クロス送り500mm/min、スパークアウト回数3~4回、総切り込み0.5mmの条件で研削を行った。研削液は、水溶性ソリュ-ションを用いた。
図1(e)に示すように、研削盤の回転する工具7の周囲に取り付けられた砥石8が、ポーラス超硬1の試料の表面を削り、削りくず9が飛ばされ、試料の表面は滑らかになる。
【0091】
最後に、「脱封孔材処理工程」として、以下の処理を行った。
開孔処理を行ったポーラス超硬1の試料を、40℃で磁気攪拌機を備えたイソプロピルアルコールの容器に1時間浸漬する操作を3回繰り返した。
即ち、試料の表面部(A)の粒子2間に含浸していた封孔材5であるオレイン酸アミドを溶解して取り除くための脱封孔材として、それらの封孔材5を溶解することができるイソプロピルアルコールを使用した。その結果、表面部(A)の封孔材5が除去された。
このように、封孔材5を使用して封孔処理を行った場合でも、封孔材5を除去することによって、通気率がより高くなるとともに、ポーラス超硬の所望の用途によっては封孔材5が存在しないことが好まれる場合に好適である。
本発明の第一の実施形態によれば、ポーラス超硬の通気率は、1.49倍に改善された。
【本発明の第二の実施形態】
【0092】
次に、本発明の第二の実施形態を説明する。
上述の本発明の第一の実施形態では、封孔処理は試料の片面のみを封孔材に浸漬させて、片面の表面部だけにオレイン酸アミドが含浸している。
この第二の実施形態では、試料の両面の表面部をオレイン酸アミドに浸漬し、試料の内部にはオレイン酸アミドが含浸していない状況にした。具体的な各工程の処理内容は次の通りである。
「ポーラス超硬の準備工程」、「研削加工工程」及び「脱封孔材処理工程」は、本発明の第一の実施形態と同じである。
「両面封孔処理工程」では、試料を完全に浸漬させたことが異なる。両面に約1.5mmの厚さで封孔処理される。
「開孔処理工程」では、封孔処理後の試料の両端面を約3mm程度切除してからアンモニア水に浸漬したことが異なる。両端面を切除するのは、その切除された両端面からアンモニア水が含浸しやすくするためである。アンモニア水は、試料の裏表の両面からでなく、端面から内部に含浸し、粒子やその酸化被膜を溶解して端面から流出するのに時間を要するが、特に、問題は無い。ポーラス超硬の用途によっては、裏表の両面を封孔処理することが望ましい場合にはこの実施形態の処理工程が望ましい。
なお、開孔処理工程と両面封孔処理工程以外の工程については、適宜、ポーラス超硬の用途や、求めるポーラス超硬の特性を考慮して、それらの工程を施すかどうかを決定すればよい。
本発明の第二の実施形態によれば、ポーラス超硬の通気率は、1.35倍に改善された。
【本発明の第三の実施形態】
【0093】
次に、本発明の第三の実施形態を説明する。
本発明の第三の実施形態は、図1に示す本発明の第一の実施形態のうち、図1(d)の「研削加工」を「放電加工」に置き換えたものである。放電加工の内容としては、一般的な技術で良く、特別の放電加工処理を必要としなくて良い。
放電加工に変更することによって、研削加工に比べて、ポーラス超硬の表面がより滑らかになるという効果が有る。表面が滑らかになることが望ましい用途に好適なポーラス超硬を得ることができる。
なお、開孔処理工程と放電加工工程以外の工程については、適宜、ポーラス超硬の用途や、求めるポーラス超硬の特性を考慮して、それらの工程を施すかどうかを決定すればよい。
本発明の第三の実施形態によれば、ポーラス超硬の通気率は、1.41倍に改善された。
【本発明の第四の実施形態】
【0094】
次に、本発明の第四の実施形態を説明する。
図1に示す前述の本発明の第一の実施形態においては、「封孔処理」を施し、そして、最終的に、「脱封孔処理」も施している。
これに対して、本発明の第四の実施形態においては、「封孔処理」は施すが、「脱封孔処理」は施さないのである。これによって、ポーラス超硬の表面部(A)に含浸したオレイン酸アミドの封孔材が残った状態で終了することになる。これによって、封孔材がポーラス超硬に摩耗くずなどが侵入することを防止する効果や、ポーラス超硬の表面が滑らかさを保つ効果がある。この状態が用途として望ましいポーラス超硬の場合には、この第四の実施形態の発明を実施することが好適である。
なお、開孔処理工程と封孔処理工程以外の工程については、適宜、ポーラス超硬の用途や、求めるポーラス超硬の特性を考慮して、それらの工程を施すかどうかを、適宜、決定すればよい。
本発明の第四の実施形態によれば、ポーラス超硬の通気率は 1.12倍に改善された。
【本発明の第五の実施形態】
【0095】
次に、本発明の第五の実施形態を説明する。
本発明の第四の実施形態においては、「封孔処理」を施すが、「脱封孔処理」を施さない。それに対して、本発明の第五の実施形態では、「封孔処理」も「脱封孔処理」も施さない。
即ち、通気率制御方法としての一連の工程において、「封孔処理」と「脱封孔処理」をいずれも施さないのである。これは、オレイン酸アミドなどの封孔材をポーラス超硬の表面部(A)に含浸させることなく、アンモニア水などの開孔処理剤をポーラス超硬の全ての粒子間に含浸させることによって、充分に、開孔処理の効果が発揮されるとか、封孔処理を施さない方が望ましいと考えられる用途に適したポーラス超硬の通気率制御が行われる場合に好適である。
本発明の第五の実施形態によれば、ポーラス超硬の通気率は、1.57倍に改善された。
【本発明の第六の実施形態】
【0096】
次に、本発明の第六の実施形態を説明する。
本発明の第一の実施態様においては「加熱工程」が含まれるが、本発明の第六の実施態様はこの「加熱工程」を施さない態様である。それ以外の工程は、第一の実施態様と同じである。
加熱工程を施さない場合には、前述のように、開孔処理工程において、その処理速度が若干遅くなる。
なお、開孔処理工程と加熱工程以外の工程については、適宜、ポーラス超硬の用途や、求めるポーラス超硬の特性を考慮して、それらの工程を施すかどうかを、適宜、決定すればよい。
本発明の第六の実施形態によれば、ポーラス超硬の通気率は、1.09倍に改善された。
【本発明の第七の実施形態】
【0097】
次に、発明の第七の実施形態を説明する。
本発明の第一の実施形態では、「封孔処理」を行うが、本発明の第七の実施形態においては、「封孔処理」を施さないで、「ポーラス超硬の準備工程」の次に「酸処理工程」を施し、その後に、「加熱処理」と「開孔処理」を施した。以下に、各工程の内容を詳細に説明する。
まず、「ポーラス超硬の準備工程」においては、30x30x4mmのコバルト系バインダを用いたポーラス超硬の試料を準備する。ここでは、「富士ダイス社製PC20」を使用する。
次に、「酸処理工程」を施す。
この酸処理では、試料を、室温(16℃)で磁気攪拌機を備えた3.5%塩酸200mlの容器に1時間浸漬した。その後、蒸留水で洗浄してから、ダストレスワイプで水分を拭き取り、減圧デシケータ中に入れて12時間以上乾燥させた。
次に、「加熱処理工程」を施す。
加熱処理工程では、試料を小型電気炉(アズワン社製mini-BS1)中に配置して、470℃で1時間加熱し、大気中で放冷して常温に戻した。
最後に、「開孔処理工程」を施す。
開孔処理工程では、試料を、大気温度17℃で磁気攪拌機を備えた2%水酸化ナトリウム水溶液200mlの容器に、30分間浸漬した。その後、蒸留水で洗浄してから、ダストレイワイプで水分を拭き取り、減圧デシケータ中に入れて12時間以上乾燥させた。
この本発明の第七の実施形態によれば、ポーラス超硬の通気率は、1.12倍に改善された。
【本発明の第八の実施形態】
【0098】
次に、本発明の第八の実施形態を説明する。
本発明の第八の実施形態は、ポーラス超硬の試料を40℃で酸処理したこと以外は、本発明の第七の実施形態の内容と同一である。
40℃という高温で酸処理することにより、コバルト系バインダがより容易に溶解することができて、処理速度を上げることができる効果がある。ポーラス超硬の通気率は1.43倍に改善された。
【0099】
図2は、本発明の各実施形態の実験結果をまとめたものである。第一乃至第八の各実施形態が示されている。
【0100】
以上のように、本発明の第1の根幹である開孔処理工程を利用する実施形態として第一実施形態乃至第八実施形態を示したが、本発明の第1の根幹を利用する限りにおいて、所望の効果を得るために、これらの実施形態に含まれる工程を削除するとか新たな別の工程を追加することは、本発明の範囲内であって、本発明を実施することになる。
つまり、本発明は、開孔処理工程以外に、加熱処理工程、酸処理工程、封孔処理工程、脱封孔処理工程、加工工程などを適宜追加することも含むのである。
【0101】
本発明の効果は、開孔処理によって、ポーラス超硬の粒子と酸化被膜を溶解し、粒子間の空孔率を高くし、ポーラス超硬としての通気率を制御することである。上述の他の工程を追加することで、より優れた効果を得るとか、種々の所望の用途に好適なポーラス超硬の通気率に制御することができる。
なお、前述のように、本出願ではポーラス超硬を実施形態において説明したが、炭化タングステン(WC)以外の粒子で、ニッケル系やコバルト系以外のバインダを用いるポーラス金属においても、本発明の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0102】
1‥‥‥ ポーラス超硬
2‥‥‥ ポーラス超硬の粒子
3‥‥‥ ポーラス超硬のバインダ
4‥‥‥ 粒子の表面に形成された酸化被膜
5‥‥‥ 封孔材
6‥‥‥ 粒子間空間
7‥‥‥ 工具
8‥‥‥ 砥石
9‥‥‥ 削りくず
図1
図2